(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131351
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ピッチ含有水の処理方法およびピッチ除去効率向上剤
(51)【国際特許分類】
D21C 9/08 20060101AFI20240920BHJP
D21D 5/18 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
D21C9/08
D21D5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041558
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】園田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】和田 敏
(72)【発明者】
【氏名】氏家 章吾
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 康弘
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AG34
4L055AG51
4L055AG86
4L055AG88
4L055AH22
4L055BB04
4L055CB25
4L055EA32
(57)【要約】
【課題】ピッチ含有水に含まれるピッチを、クリーナーによって有効に除去することを可能とし、それによりピッチの除去効率を向上させることが可能な、ピッチ含有水の処理方法およびピッチ除去効率向上剤を提供する。
【解決手段】ピッチ含有水の処理方法は、ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するピッチ含有水の処理方法であって、炭素数が16以上である高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される1種以上のピッチ除去効率向上成分と、非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分と、を含有し、O/W型エマルション構造を有するピッチ除去効率向上剤をピッチ含有水に添加して被処理水を得る工程と、前記被処理水を前記クリーナーで処理する工程とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するピッチ含有水の処理方法であって、
炭素数が16以上である高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される1種以上のピッチ除去効率向上成分と、
非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分と、を含有し、O/W型エマルション構造を有するピッチ除去効率向上剤を、ピッチ含有水に添加して被処理水を得る工程と、
前記被処理水を前記クリーナーで処理する工程と
を含む、ピッチ含有水の処理方法。
【請求項2】
前記ピッチ除去効率向上成分は、炭素数16以上の高級アルコールを含有する、請求項1に記載のピッチ含有水の処理方法。
【請求項3】
ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するピッチ含有水の処理方法であって、
非イオン系界面活性剤として作用しうるポリエーテルを含有し、O/W型エマルション構造を有する成分を、ピッチ除去効率向上成分および親水成分として含有するピッチ除去効率向上剤を、ピッチ含有水に添加して被処理水を得る工程と、
前記被処理水を前記クリーナーで処理する工程と
を含む、ピッチ含有水の処理方法。
【請求項4】
前記ピッチ除去効率向上剤は、脂肪酸エステル、高級ケトンおよび樹脂酸エステルからなる群から選択される1種以上をさらに含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のピッチ含有水の処理方法。
【請求項5】
ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するために用いられるピッチ除去効率向上剤であって、
炭素数16以上の高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される1種以上のピッチ除去効率向上成分と、
非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分と、を含有し、O/W型エマルション構造を有する、ピッチ除去効率向上剤。
【請求項6】
前記ピッチ除去効率向上成分は、炭素数16以上の高級アルコールを含有する、請求項5に記載のピッチ除去効率向上剤。
【請求項7】
ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するために用いられるピッチ除去効率向上剤であって、
非イオン系界面活性剤として作用しうるポリエーテルを含有し、O/W型エマルション構造を有する成分を、ピッチ除去効率向上成分および親水成分として含有する、ピッチ除去効率向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ含有水の処理方法およびピッチ除去効率向上剤に関し、特に、ピッチ含有水中のピッチを含む異物を除去するクリーナーの分別効率を向上する、ピッチ含有水の処理方法およびピッチ除去効率向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙は、パルプ原料を水に分散させた原料スラリーを抄紙する抄紙工程を経ることによって行われる。この抄紙工程では、パルプなどの微細繊維および填料を含む水が、抄紙機などから多量に排出される。ここで排出されたパルプ含有水は、水資源の有効活用を促進する観点から、水回収工程などによって回収された後で再使用されており、抄紙工程内で循環して使用される。
【0003】
このように、パルプ含有水を繰り返し循環して使用する場合、パルプ含有水には、製紙工程で発生したピッチが多く含まれるようになる。特に、古紙や低品質のパルプにはピッチの原因となる成分が多く含まれているため、古紙や低品質のパルプを原料として用いる調成工程や、それ以降の抄紙工程では、パルプ含有水にピッチが多く含まれやすい。
【0004】
一般に、ピッチとしては、パルプ由来の樹脂成分や、再生古紙中の合成粘着物質、製紙工程で使用される添加薬剤に由来する有機物を主体とする疎水性の粘着性物質が挙げられる。ピッチは、水中でコロイドとして分散して存在しているが、大きなせん断力の変化や、pH変化、水温変化、薬剤の添加などによってコロイド状態が破壊されることで水中に析出し、微細なピッチ同士で、あるいは炭酸カルシウムなどの填料や微細繊維などとの間で、凝集物を形成しやすい。また、ピッチは疎水性が高いため、ワイヤーやフェルトなどの抄紙用具に付着する傾向がある。その結果、ピッチは、製品へのピッチ由来の凝集物の混入や、搾水不良、断紙などを引き起こす場合がある。このため、ピッチに起因して、製品の品質および歩留まりの低下や、操業を停止して抄紙用具などを洗浄することによる生産性の低下などの問題が発生する。このような、ピッチによる製品品質および生産効率が低下する障害は、ピッチ障害と呼ばれている。
【0005】
このため、製紙工程におけるピッチを抑制できるような薬剤が種々検討されており、例えば合成ポリマー、無機凝集剤などがピッチ抑制剤として用いられている。ピッチ抑制剤には、凝集物を形成させないように、ピッチの粘着性を低下させる効果や、ピッチ同士を分散させる効果、マイナスに荷電しているピッチを荷電中和によりパルプ繊維に定着させる効果などが期待されているが、ピッチを系外に排出する効果を有するものは知られていない。
【0006】
ここで、異物を系外に排出させる抄紙工程内の装置としては、クリーナーが用いられている。クリーナーは、被処理水(パルプ含有水)中の、パルプ繊維と、パルプ繊維よりも見かけ比重の大きい異物とを、遠心力を利用して分離することによって異物を除去する装置であり、一般的には金属や砂などの異物を除去するのに用いられる装置である。しかしながら、パルプ含有水中に含まれるピッチは、パルプ繊維との見かけ比重の差が小さいため、ピッチをクリーナーによって積極的に除去することは、現状では行なわれていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、パルプ含有水を繰り返し循環して使用するため、製品の品質および歩留まりの低下抑制の観点から、パルプ含有水に含まれるピッチを除去することが必要であり、特に、ピッチを効率よく系外に排出することができる処理方法を開発することが望ましい。
【0008】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、ピッチ含有水に含まれるピッチを、クリーナーによって有効に除去することを可能とし、それによりピッチの除去効率を向上させることが可能な、ピッチ含有水の処理方法およびピッチ除去効率向上剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、炭素数が16以上である高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される1種以上のピッチ除去効率向上成分と、非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分と、を含有し、O/W型エマルション構造を有するピッチ除去効率向上剤をピッチ含有水に添加して被処理水を得るとともに、この被処理水をクリーナーで処理することで、ピッチをクリーナーによって有効に除去することが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0010】
(1)ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するピッチ含有水の処理方法であって、炭素数が16以上である高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される1種以上のピッチ除去効率向上成分と、非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分と、を含有し、O/W型エマルション構造を有するピッチ除去効率向上剤をピッチ含有水に添加して被処理水を得る工程と、前記被処理水を前記クリーナーで処理する工程とを含む、ピッチ含有水の処理方法。
【0011】
(2)前記ピッチ除去効率向上成分は、炭素数16以上の高級アルコールを含有する、上記(1)に記載のピッチ含有水の処理方法。
【0012】
(3) ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するピッチ含有水の処理方法であって、非イオン系界面活性剤として作用しうるポリエーテルを含有し、O/W型エマルション構造を有する成分を、ピッチ除去効率向上成分および親水成分として含有するピッチ除去効率向上剤を、ピッチ含有水に添加して被処理水を得る工程と、前記被処理水を前記クリーナーで処理する工程とを含む、ピッチ含有水の処理方法。
【0013】
(4)前記ピッチ除去効率向上剤は、脂肪酸エステル、高級ケトンおよび樹脂酸エステルからなる群から選択される1種以上をさらに含有する、上記(1)から(3)のいずれか1項に記載のピッチ含有水の処理方法。
【0014】
(5)ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するために用いられるピッチ除去効率向上剤であって、炭素数16以上の高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される1種以上のピッチ除去効率向上成分と、非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分と、を含有し、O/W型エマルション構造を有する、ピッチ除去効率向上剤。
【0015】
(6)前記ピッチ除去効率向上成分は、炭素数16以上の高級アルコールを含有する、上記(5)に記載のピッチ除去効率向上剤。
【0016】
(7)ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するために用いられるピッチ除去効率向上剤であって、非イオン系界面活性剤として作用しうるポリエーテルを含有し、O/W型エマルション構造を有する成分を、ピッチ除去効率向上成分および親水成分として含有する、ピッチ除去効率向上剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ピッチ含有水に含まれるピッチを、クリーナーによって有効に除去することを可能とし、それによりピッチの除去効率を向上させることが可能な、ピッチ含有水の処理方法およびピッチ除去効率向上剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、クリーナーを模擬した簡易装置を試作し、この簡易装置を用いて、本発明のピッチ含有水の処理方法で被処理水を処理したときの状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
<ピッチ含有水の処理方法>
本発明に従うピッチ含有水の処理方法は、ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するピッチ含有水の処理方法である。ここで、この処理方法は、炭素数が16以上である高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される1種以上のピッチ除去効率向上成分と、非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分と、を含有し、O/W型エマルション構造を有するピッチ除去効率向上剤をピッチ含有水に添加して被処理水を得る工程と、被処理水をクリーナーで処理する工程とを含む。
【0021】
本発明のピッチ含有水の処理方法では、このようなピッチ除去効率向上成分と、非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分を含有するとともに、O/W型エマルション構造を有するピッチ除去効率向上剤をピッチ含有水に添加することにより、ピッチに吸着していた微細な気泡が取り除かれることで、ピッチの見かけ比重を大きくすることができる。その結果、ピッチを金属や砂などの異物とともに、クリーナーによって効率よく系外に排出することが可能になる。
【0022】
(ピッチ除去効率向上剤)
本発明の製造方法に用いられるピッチ除去効率向上剤は、炭素数が16以上である高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される1種以上のピッチ除去効率向上成分と、非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分と、を含有し、O/W型エマルション構造を有する。これにより、ピッチ含有水に含まれるピッチなどのSS(浮遊物質)成分から微細気泡が脱離するとともに、ピッチ含有水に含まれる気泡が合一されるため、微細気泡の吸着によってピッチの見かけ比重が、実際の比重よりも小さくなることが防止できる。その結果、本来存在するピッチとパルプ繊維との比重差を明確にすることができる。
【0023】
ピッチ除去効率向上剤に含まれるピッチ除去効率向上成分としては、炭素数が16以上である高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される1種以上を挙げることができる。ここで、高級アルコールは、炭素数が16以上24以下の範囲にあるものを含むことが好ましい。また、炭素数が16以上である高級アルコールに加え、炭素数が16未満のアルコールを含んでもよく、含まなくてもよい。また、炭化水素成分は、常温(例えば0℃以上40℃以下の温度範囲)で液体または固体の状態になる炭化水素によって構成されることが好ましく、また、炭素数が16以上の炭化水素を含むことが好ましい。
【0024】
高級アルコールの具体例としては、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、リグノセリルアルコール、高級ジオール、酸化ワックスなどが挙げられる。また、炭化水素成分の具体例としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、オレフィン、流動パラフィンなどが挙げられる。また、ポリエーテルとしては、非イオン系界面活性剤として作用しうるものと、非イオン系界面活性剤として作用しないもののいずれも用いることができ、ポリエーテルの具体例としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルや、ポリオキシエチレンアルキルエステルなどが挙げられる。また、ポリオルガノシロキサンの具体例としては、ジメチルポリシロキサンや変性ジメチルポリシロキサンなどが挙げられる。
【0025】
ピッチ除去効率向上剤は、ピッチ除去効率向上成分として列挙した化合物のほかに、脂肪酸エステル、高級ケトンおよび樹脂酸エステルからなる群から選択される1種以上を、さらに含有してもよい。これにより、ピッチ除去効率向上成分による作用である、浮遊物質成分から微細気泡を脱離し、かつピッチ含有水に含まれる気泡を合一する作用を、より高めることができる。ここで、脂肪酸エステルの具体例としては、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、ステアリン酸ステアリル、動植物油脂およびその硬化油などが挙げられる。また、高級ケトンの具体例としては、ジステアリルケトンなどが挙げられる。また、樹脂酸エステルの具体例としては、アビエチン酸メチル、アビエチン酸エチルなどが挙げられる。なお、ピッチ除去効率向上剤は、ピッチ除去効率向上成分として列挙した化合物のほかに、脂肪酸エステル、高級ケトンおよび樹脂酸エステルをいずれも含有しなくてもよい。
【0026】
このような高級アルコール、炭化水素成分、脂肪酸エステル、高級ケトン、樹脂酸エステル、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンとしては、それぞれ市販品を用いることができる。例えば、炭素数が16以上である高級アルコールのうち、高級ジオールとして、NAFOL20+A(サソールジャパン株式会社製)、SPEZIOL C18(BASF社製)などを用いることができる。また、炭素数が16以上である高級アルコールのうち、酸化ワックスとしては、NPS-8070(日本精蝋株式会社製)などを用いることができる。また、炭化水素成分としては、135パラフィン(日本精蝋株式会社製)などを用いることができる。また、脂肪酸エステルとしては、各社から入手可能な、メチルエステルや、キャノーラ油、ひまわり油、オリーブ油などの油脂を用いることができる。また、高級ケトンとしては、カオーワックスT-1(花王株式会社製)などを用いることができる。また、樹脂酸エステルとして、ロジンエステルなどを用いることができる。また、ポリエーテルとしては、クリレス653や、クリレス644、クリレス685(いずれも栗田工業株式会社製)などを用いることができる。また、ポリオルガノシロキサンとしては、クリレスS-115(栗田工業株式会社製)などのほか、表面疎水化処理シリカの微粒子と混合したシリコーンコンパウンドを用いてもよく、その一例として、KS-537(信越化学工業株式会社製)、PULPSIL270C(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)、DOWSIL ACP3073(ダウ・東レ株式会社製)などを用いることができる。これらのピッチ除去効率向上成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ピッチ除去効率向上成分は、サイズ度の低下や、印刷用インクのハジキなどによって、紙製品の品質に悪影響を与えない成分であることが好ましい。より具体的に、クリーナーでのピッチ除去効果をより高める観点では、ピッチ除去効率向上成分として、高級アルコールや炭化水素、脂肪酸エステル、ポリオルガノシロキサンを含むことが好ましく、その中でも炭素数が16以上の高級アルコールを含むことがより好ましい。また、紙のサイズ度に影響を与えない観点でも、ピッチ除去効率向上成分として、高級アルコールや炭化水素、脂肪酸エステル、ポリオルガノシロキサンを含むことが好ましい。他方で、紙の印刷特性や紙送り特性を高める観点では、ピッチ除去効率向上成分として、高級アルコールや炭化水素、脂肪酸エステル、ポリエーテルを含むことが好ましい。
【0028】
ピッチ除去効率向上剤に含まれるピッチ除去効率向上成分の含有量は、特に限定されないが、例えば、ピッチ除去効率向上剤の質量を100質量%としたとき、10質量%以上にすることができる。ここで、ピッチ除去効率向上成分のうち一部または全部が親水成分によって構成される場合(すなわち、ピッチ除去効率向上成分および親水成分の両方を兼ねる場合)、ピッチ除去効率向上成分の含有量は100質量%としてもよい。他方で、ピッチ除去効率向上剤が親水成分として非イオン系界面活性剤を含む場合、ピッチ除去効率向上成分の含有量は、10質量%以上90質量%以下の範囲としてもよいが、特に後述するO/W型エマルション構造を形成する観点では、10質量%以上50質量%以下の範囲とすることが好ましい。特に、ピッチ除去効率向上成分として高級アルコールを含有する場合、ピッチ除去効率向上剤に含まれる高級アルコールの含有量は、30質量%以上90質量%以下の範囲にすることができる。また、ピッチ除去効率向上成分として炭化水素成分を含有する場合、炭化水素成分の含有量は、5質量%以上50質量%以下の範囲にすることができる。また、ピッチ除去効率向上成分としてポリオルガノシロキサンまたはポリエーテルを含有する場合、ポリオルガノシロキサンおよびポリエーテルのうち一方または両方の含有量は、5質量%以上30質量%以下の範囲にすることができる。また、ピッチ除去効率向上剤は、ピッチ除去効率向上成分として、脂肪酸エステル、高級ケトンおよび樹脂酸エステルからなる群から選択される1種以上をさらに含有することもでき、このうち、脂肪酸エステルの含有量は、0質量%以上30質量%以下の範囲にすることができる。また、高級ケトンおよび樹脂酸エステルのうち一方または両方の含有量は、0質量%以上20質量%以下の範囲にすることができる。
【0029】
ピッチ除去効率向上剤に含まれる、非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分としては、例えばHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値が16以上18以下の範囲の成分を用いることが好ましい。他方で、非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分としては、HLB値が16未満の非イオン系界面活性剤や、消泡剤などを用いてもよい。
【0030】
非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分の一例としては、一般式CH3(CH2)l-CH(O(AO)nH)-(CH2)mCH3で表される2級アルコールのAO付加重合体や、一般式RO-(AO)n-Hで表されるアルキルエーテル(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)や、一般式RCOO-(AO)n-Hで表されるアルキルエステル、一般式RCOO-(AO)n-CORで表されるジエステル、一般式RCOO-(AO)n-Rで表されるエステルエーテルおよび多価アルコール脂肪酸エステルなどを挙げることができる(ここで、AOは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドを表し、Rは、C11~C18の直鎖状のアルキル基、より好ましくはC11またはC16~C18の直鎖状のアルキル基、さらに好ましくはC16~C18の直鎖状のアルキル基を表し、(l+m)は、8以上15以下の範囲、より好ましくは9以上11以下の範囲、nの平均値は20以上50以下の範囲である)。より具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。その中でも、親水成分として、ポリエーテルの構造を有する化合物、すなわち-(AO)n-を含むことが好ましい。このような非イオン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば青木油脂工業株式会社製のBLAUNON EH-11、BLAUNON EH-30、花王株式会社製のエマルゲン123P、エマルゲン130K、エマルゲン147、エマルゲン150、株式会社日本触媒製のソフタノール200、ソフタノール300、ソフタノール400などを用いることができる。これらの非イオン系界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ピッチ除去効率向上剤は、ピッチ除去効率向上成分および親水成分の混合物に限定されず、ピッチ除去効率向上成分および親水成分の両方を兼ねる成分を少なくとも含有するものであってもよい。ここで、ピッチ除去効率向上成分および親水成分の両方を兼ねる成分としては、非イオン系界面活性剤として作用しうるポリエーテルを含有する、O/W型エマルション構造を有する成分を挙げることができる。
【0032】
このピッチ除去効率向上剤は、ピッチ除去効率向上成分を含む油相を分散質とし、水相を分散媒とするO/W型エマルション構造を有する。なお、このピッチ除去効率向上剤は、少なくとも油相が加熱により溶融されたときにO/W型エマルション構造を取っていればよく、温度が低いときは油相が固体粒子となって水相に分散していてもよい。
【0033】
O/W型エマルション構造における水の量は、ピッチ除去効率向上成分に合わせて適宜設定することができる。例えば、ピッチ除去効率向上剤に含まれる水の量を、ピッチ除去効率向上剤の質量を100質量%としたとき、定流量ポンプでの薬注を考慮した場合、40質量%以上であることが好ましい。他方で、ピッチ除去効率向上剤に含まれる水の量の上限は、特に限定されないが、例えば95質量%以下に設定してもよい。このようなO/W型エマルション構造を形成する手段としては、ピッチ除去効率向上成分、非イオン系界面活性剤および水を加熱溶融しながら混合して乳化させる手段が挙げられる。
【0034】
ピッチ除去効率向上剤は、ピッチ除去効率向上成分や非イオン系界面活性剤、水の他に、任意成分を含んでもよく、含まなくてもよい。ここで、任意成分としては、例えば、安定剤、増粘剤、防腐剤、スライムコントロール剤、分散剤、凍結防止剤などを挙げることができる。
【0035】
(ピッチ除去効率向上剤のピッチ含有水への添加工程)
このピッチ除去効率向上剤を、ピッチ含有水に添加することで、クリーナーでの処理に供される被処理水を得る。
【0036】
ここで、得られる被処理水の体積を基準とした、ピッチ除去効率向上剤の添加濃度は、特に限定されないが、例えば1mg/L以上50mg/L以下の範囲にすることができ、紙製品の欠点発生頻度に応じて増減することができる。
【0037】
ピッチ除去効率向上剤を添加するピッチ含有水は、クリーナーの被処理水供給部に保持されているピッチ含有水であることが好ましい。ピッチ含有水の一例として、パルプスラリーが挙げられる。特に、多段階のクリーナーによってピッチなどの不純物を除去する場合には、最もピッチ除去効率が高いクリーナーの被処理水供給部に保持されているピッチ含有水に添加することが好ましいが、各段階のクリーナーの被処理水供給部に保持されているピッチ含有水に添加してもよい。
【0038】
(被処理水の処理工程)
ピッチ除去効率向上剤をピッチ含有水に添加して得られる被処理水は、クリーナーで処理を行なう。これにより、ピッチ含有水に含まれるピッチなどの異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去することができる。
【0039】
ここで、クリーナーとしては、例えば
図1に示すような構成の装置を用いることができる。より具体的には、被処理水供給調整弁31が設けられた被処理水供給路3を経て、下部が縮径された円錐型のシリンダ6の内壁面に沿って被処理水Wを供給することで、シリンダ6内で渦流を形成して被処理水Wに遠心力を与え、パルプ繊維をシリンダ6の内部で上昇させて、シリンダ6の上端にあるアクセプトバルブ61より吐出して、第1排出路7からパルプ繊維を含む水W1を排出するとともに、ピッチなどの異物を沈降させてシリンダ6の下端にあるリジェクトバルブ62より吐出して、第2排出路8から異物を含む水W2を排出する構成のクリーナー10を用いることができる。このとき、被処理水供給路3へは、被処理水供給部1にある水中ポンプ2を用いて被処理水Wを供給することができるが、被処理水供給路3からシリンダ6に供給する水量を調整するため、流量調整弁41が設けられた流量調整路4を用いて、被処理水Wの一部を被処理水供給部1に戻してもよい。
【0040】
<ピッチ除去効率向上剤>
本発明に従うピッチ含有水のピッチ除去効率向上剤は、ピッチ含有水中の異物を、クリーナーの遠心力を利用して除去するために用いられるピッチ除去効率向上剤である。ここで、このピッチ除去効率向上剤は、炭素数16以上の高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンからなる群から選択される1種以上のピッチ除去効率向上成分と、非イオン系界面活性剤として作用しうる親水成分と、を含有し、O/W型エマルション構造を有する。ここで、ピッチ除去効率向上剤を構成するピッチ除去効率向上成分および非イオン系界面活性剤、ならびに、ピッチ除去効率向上剤のO/W型エマルション構造については、上述のとおりである。
【0041】
このようなピッチ除去効率向上剤によることで、ピッチに吸着していた微細な気泡が取り除かれることで、ピッチの見かけ比重を、パルプ繊維に相対して大きくすることができるため、ピッチを金属や砂などの異物とともに、クリーナーによって効率よく系外に排出することができる。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
(ピッチ除去効率向上剤の作製)
ピッチ除去効率向上成分としてNAFOL20+A(サソールジャパン株式会社製)を用い、非イオン系界面活性剤としてソフタノール200(株式会社日本触媒製)を用いた。ここで、NAFOL20+Aは、炭素数が16~18の高級アルコール(CAS.No.68603-17-8)を45質量%~55質量%、1-オクタデカノール(炭素数が18の高級アルコール)を15質量%~22質量%、1-エイコサノール(炭素数が20の高級アルコール)を0~6質量%、1-ドコサノール(炭素数が22の高級アルコール)を15質量%~22質量%、炭素数が18~22の高級アルコール(CAS.No.1160164-88-4)を5質量%~20質量%、炭素数が12~22の高級アルコール(CAS.No.1476777-83-9)を0~20質量%含有する。そのため、高級アルコールとして用いられるNAFOL20+Aには、炭素数が16以上の、分子量の大きいアルコールである高級アルコールが、80質量%以上90質量%以下の範囲で含まれる。また、ソフタノール200は、非イオン系界面活性剤(HLB値:16.3)であり、より具体的には、直鎖アルキル(炭素数12~14)の2級アルコールにエチレンオキシド(EO)を付加重合した、一般式CH3(CH2)l-CH(O(EO)nH)-(CH2)mCH3で表される非イオン界面活性剤によって構成される(ここで、EOは、エチレンオキシドを表し、(l+m)は9以上11以下の範囲、nは20である)。そのため、非イオン系界面活性剤として用いられるソフタノール200における非イオン系界面活性剤の含有量は、100質量%である。
【0044】
ピッチ除去効率向上成分を構成するNAFOL20+Aと、非イオン系界面活性剤であるソフタノール200を加圧式乳化装置に投入し、130℃でNAFOL20+Aに含まれる高級アルコールを加熱溶融させた後、攪拌しながら加圧状態で130℃の温水を加え、乳化分散させて、O/W型エマルション構造を有するピッチ除去効率向上剤を作製した。得られるピッチ除去効率向上剤は、高級アルコールの含有率が16質量%以上18質量%以下の範囲であり、非イオン系界面活性剤の含有率が1質量%、水の含有率が79質量%であった。
【0045】
このピッチ除去効率向上剤を、パルプ濃度が約1重量%のパルプスラリーによって構成されるピッチ含有水に添加することで、クリーナーでの処理に供される被処理水を得た。ここで、得られる被処理水の体積を基準とした、ピッチ除去効率向上剤の添加濃度は、20mg/Lとした。
【0046】
ピッチ除去効率向上剤を添加した被処理水を、
図1に記載される装置を基に構成した実験装置の被処理水供給部1に供給して、ピッチ含有水の処理を行なった。ここで、被処理水供給路3を流通する被処理水Wの流量は48.29L/minであり、シリンダ6を経て第1排出路7から排出される水W1の流量を2.75L/minに調整し、シリンダ6を経て第2排出路8から排出される水W2の流量を0.54L/minに調整した。また、被処理水Wのうち、シリンダ6に供給される被処理水以外の残部(48.29-2.75-0.54=45.00L/min)については、流量調整路4を通じて被処理水供給部1に戻した。
【0047】
さらに、この実験装置では、被処理水の使用量を抑える観点から、第1排出路7から排出される水W1と、第2排出路8から排出される水W2の両方を、運転開始から2分間は被処理水供給部1に戻すように構成した。その後、運転開始から2分間が経過してから、流量調整路4を流れる被処理水Wと、第1排出路7から排出される水W1と、第2排出路8から排出される水W2のそれぞれを、50mlずつポリビンに採取した。
【0048】
このようにして採取された、被処理水Wと、第1排出路7から排出される水W1と、第2排出路8から排出される水W2のそれぞれを分析試料として、特許第6222173号公報に記載される蛍光染色法を用いて、これらの分析試料のピッチ総面積(μm2)を測定した。
【0049】
より具体的には、分析試料2mlに、疎水性蛍光染料(エキシトン社製Fluorol 555)の0.1質量%エタノール溶液を、染料濃度が0.01mg/Lとなるように添加し、ボルテックスミキサーを用いて撹拌した。染色した分析試料10μLを200μL用マイクロピペットで速やかに採取し、蛍光顕微鏡を用いて下記条件にて観察し、CCDカメラで撮影した。
・顕微鏡:蛍光ミラーユニット:オリンパス株式会社製U-FBW
・蛍光源:ハロゲンランプ:オリンパス株式会社製U-HG LGPS)
・CCDカメラ:オリンパス株式会社製DP73-SET-A
・接眼レンズ:10倍
・対物レンズ:10倍
・シャッタースピード:1秒
・視野絞り、開口絞り:共に開放
・ハロゲンランプ強度:3
・画像サイズ:1200×1600ピクセル
【0050】
得られた画像データを画像解析計測ソフトウェア(三谷商事株式会社製WinROOF)にて画像解析した。解析処理は、下記(1)~(4)の順に行った。
(1)カラー画像をグレースケール画像へ変換する変換処理
(2)黒を0、白を100とした場合の前記グレースケール画像の明度が20以下の領域を黒色、20を超える領域を白色に2値化する2値化処理
(3)前記2値化処理後の画像の白色領域のうち、アスペクト比が0.2以下の粒子分の領域を除去する除去処理
(4)前記除去処理後の画像の白色領域の各粒子の面積を計測し、各面積分画の粒度分布を求める統計処理
【0051】
被処理水Wと、第1排出路7から排出される水W1と、第2排出路8から排出される水W2のそれぞれについて、染色した分析試料の採取からピッチ総面積の測定までを5回行なってピッチ総面積の平均値を算出し、得られる平均値を分析試料のピッチ総面積(μm2)とした。算出された分析試料のピッチ総面積(μm2)を、表1に示す。
【0052】
[実施例2]
ピッチ除去効率向上成分として炭化水素成分である135パラフィン(日本精蝋株式会社製)を用い、非イオン系界面活性剤としてソフタノール200(株式会社日本触媒製)を用いた。ここで、135パラフィンは、融点が約58℃(135°F)のパラフィンワックスからなる。
【0053】
ピッチ除去効率向上成分である135パラフィンと、非イオン系界面活性剤であるソフタノール200を加圧式乳化装置に投入し、130℃で135パラフィンを構成している炭化水素成分を加熱溶融させた後、攪拌しながら加圧状態で130℃の温水を加え、乳化分散させて、O/W型エマルション構造を有するピッチ除去効率向上剤を作製した。得られるピッチ除去効率向上剤は、炭化水素成分の含有率が20質量%、非イオン系界面活性剤の含有率が1質量%、水の含有率が79質量%であった。
【0054】
このピッチ除去効率向上剤を、実施例1と同様に、ピッチ含有水に添加することで、クリーナーでの処理に供される被処理水を得た。そして、実施例1と同様に、被処理水を実験装置の被処理水供給部1に供給してピッチ含有水の処理を行ない、採取された被処理水Wと、第1排出路7から排出される水W1と、第2排出路8から排出される水W2のそれぞれについて、分析試料のピッチ総面積(μm2)を算出した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
ピッチ除去効率向上成分を含むピッチ除去効率向上剤としてクリレスS-115(栗田工業株式会社製)をそのまま用いた。ここで、クリレスS-115は、ポリオルガノシロキサンを含むエマルジョンからなる消泡剤であり、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびソルビタン脂肪酸エステルが、合計で6質量%含まれる。非イオン性界面活性剤のうち、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのHLB値は5以上15以下の範囲にあり、ソルビタン脂肪酸エステルのHLB値は2以上9以下の範囲にある。また、クリレスS-115には、ポリオルガノシロキサンの含有率が10質量%以上20質量%以下の範囲で含まれ、非イオン系界面活性剤の含有率が6質量%、水の含有率が72質量%以上83質量%以下の範囲であり、O/W型エマルション構造を有する。
【0056】
クリレスS-115を、実施例1と同様に、ピッチ含有水に添加することで、クリーナーでの処理に供される被処理水を得た。そして、実施例1と同様に、被処理水を実験装置の被処理水供給部1に供給してピッチ含有水の処理を行ない、採取された被処理水Wと、第1排出路7から排出される水W1と、第2排出路8から排出される水W2のそれぞれについて、分析試料のピッチ総面積(μm2)を算出した。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例4]
ピッチ除去効率向上成分を含むピッチ除去効率向上剤として、ポリエーテルからなるクリレス653(栗田工業株式会社製)をそのまま用いた。ここで、クリレス653は、ポリエーテルであり一般式RO-(AO)n-H(ここで、AOはアルキレンオキシドを表し、Rはアルキル基を表し、nは20以上40以下の範囲である。)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなり、非イオン系界面活性剤としても作用しうる。そのため、実施例4では、ポリエーテルであるクリレス653を、ピッチ除去効率向上成分および親水成分の両方として用いた。なお、クリレス653のHLB値は、3以上5以下の範囲にある。
【0058】
クリレス653を、実施例1と同様に、ピッチ含有水に添加することで、クリーナーでの処理に供される被処理水を得た。そして、実施例1と同様に、被処理水を実験装置の被処理水供給部1に供給してピッチ含有水の処理を行ない、採取された被処理水Wと、第1排出路7から排出される水W1と、第2排出路8から排出される水W2のそれぞれについて、分析試料のピッチ総面積(μm2)を算出した。結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
表1の結果から、本発明のピッチ除去効率向上剤を添加しない比較例1のピッチ含有水の処理方法では、第1排出路から排出される水W1におけるピッチ総面積が36μm2とであるのに対し、本発明のピッチ除去効率向上剤を添加した実施例1~4のピッチ含有水の処理方法は、いずれも第1排出路から排出される水W1におけるピッチ総面積が33μm2以下であり、クリーナーによるピッチ除去効率が向上しているのが分かる。
【0061】
特に、炭素数が16以上である高級アルコールを含むピッチ除去効率向上剤を添加した実施例1のピッチ含有水の処理方法は、第1排出路から排出される水W1におけるピッチ総面積が21μm2と最も小さく、クリーナーでのピッチ除去効果が顕著であった。
【0062】
表2に、ピッチ除去効率向上成分として、炭素数が16以上である高級アルコール、炭化水素成分、ポリエーテルおよびポリオルガノシロキサンのそれぞれを用いた場合における、クリーナーでのピッチ除去後に得られる白水の脱気性と、この白水から得られる紙のサイズ度、印刷特性、紙送り特性の評価についてまとめたものを示す。表2に記載されている「A」、「B」、「C」、「D」の評価は、当該特性に特に優れているものを「A」と評価し、当該特性に優れているものを「B」と評価し、当該特性が良好なものを「C」と評価し、当該特性が低いものを「D」と評価した。すなわち、表2に記載されている評価は、当該特性が高い順に並べると「A」、「B」、「C」、「D」の順になる。
【0063】
【0064】
表2の結果から、クリーナーでのピッチ除去効果をより高める観点では、ピッチ除去効率向上成分として、高級アルコールや炭化水素成分、ポリオルガノシロキサンを含むことが好ましく、その中でも炭素数が16以上の高級アルコールを含むことがより好ましいことがわかる。また、紙のサイズ度に影響を与えない観点でも、ピッチ除去効率向上成分として、高級アルコールや炭化水素成分、ポリオルガノシロキサンを含むことが好ましいことがわかる。さらに、紙の印刷特性や紙送り特性を高める観点では、ピッチ除去効率向上成分として、高級アルコールや炭化水素成分、ポリエーテルを含むことが好ましいことがわかる。このように、ピッチ除去効率向上成分については、用途や要求性能に応じて、適正なピッチ除去効率向上成分を選択すればよい。