(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131457
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】測定力調整機構及びそれを備える測定装置
(51)【国際特許分類】
G01B 5/02 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G01B5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041726
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 愼弥
【テーマコード(参考)】
2F062
【Fターム(参考)】
2F062AA21
2F062AA32
2F062CC26
2F062EE01
2F062EE62
2F062GG46
2F062GG51
2F062HH21
2F062HH32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】測定装置において、小型でありながらばねに余分なトルクを発生させない、外部から調整可能な測定力調整機構を実現する。
【解決手段】測定装置が備える測定力調整機構300は、引張りばね146と、ばねの一端が係止する上側ばね係止具160と、ばねの反対端が係止する下側ばね係止具312とを備える。上側ばね係止具では、ばねが係止する側とは反対端にねじ部160aが形成されており、このねじ部にかみ合うねじが形成され、ねじ形成部とは反対端側が測定装置の外部に露出した袋ナット320を有する。袋ナットの露出した部分に工具が嵌合可能な工具係止部322を設け、袋ナットの側面にシール溝334を形成する。袋ナットが回動しても、自身の軸周りに回転することなく上下動することが可能な回動規制手段160eを上側ばね係止具に形成した。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が封入される測定装置が備える測定力調整機構において、
ばねと、前記ばねの一端が係止する上側ばね係止具と、前記ばねの反対端が係止する下側ばね係止具とを備え、
前記上側ばね係止具の前記ばねが係止する側とは反対端にねじを形成し、
前記ねじにかみ合うねじが形成されたねじ部を有し、前記ねじ部とは反対端側が前記測定装置の外部に露出した袋ナットを設け、
前記袋ナットは、露出部分に工具が係合可能な工具係止部を有し、かつ側面にシール溝を有し、
前記上側ばね係止具に、前記袋ナットが回動しても、自身の軸周りに回転することなく上下動することが可能な回動規制手段を形成したことを特徴とする測定力調整機構。
【請求項2】
前記工具係止部は、前記袋ナットの上部外表面に形成したボルト頭であるかもしくはドライバ溝であることを特徴とする請求項1に記載の測定力調整機構。
【請求項3】
前記上側ばね係止具は、軸方向に上から順に、前記ねじ部、小径部、を有し、前記袋ナットのねじが形成された高さ位置であって、前記上側ばね係止具の前記小径部の軸半径と同じかそれより大きくかつ前記上側ばね係止具の前記ねじ部の外半径よりは短い距離だけ前記袋ナットの軸から半径方向に離れた位置に、軸方向に略直角な方向に延びる、ピンを挿通可能な穴を形成したことを特徴とする請求項2に記載の測定力調整機構。
【請求項4】
前記上側ばね係止具は、軸直角断面が円の一部を切り欠いた切り欠き面を有しており、この切り欠き面は前記回動規制手段を構成することを特徴とする請求項1に記載の測定力調整機構。
【請求項5】
前記下側ばね係止具は、ばね係止部が断面矩形の平板部であり、前記平板部が嵌合する溝が形成された台座を有することを特徴とする請求項1に記載の測定力調整機構。
【請求項6】
一端に測定子が取り付けられたアームと、前記アームに連接するレバーと、前記レバーを液密に収納する密閉ケースと、前記密閉ケース内に配設されたリトラクト機構と、前記リトラクト機構に隣り合い前記密閉ケースに配設された測定力調整機構と、前期密閉ケースに配設され前記リトラクト機構を挟んで前記測定力調整機構とは反対側に配設された作動トランスとを含み、被測定物であるワークに前記測定子を当接させて被測定物を測定する測定装置において、
前記測定力調整機構は、引張りばねと、この引張りばねの両端がそれぞれ係止する上側ばね係止具及び下側ばね係止具と、前記上側ばね係止具の上部に位置し、内部にねじが形成された袋ナットとを備え、
前記上側ばね係止具は、前記引張りばねが係止する側とは反対端に前記袋ナットに形成されたねじにかみ合うねじを有し、
前記袋ナットはねじが形成された開放端とは反対端側が、前記測定装置の外部に露出しており、前記袋ナットの露出した部分に工具が係合可能な工具係止部が形成されており、さらに前記袋ナットの側面にシール溝が形成されており、
前記上側ばね係止具は、前記袋ナットが回動しても、前記リトラクト機構の外側面と協働して、自身の軸周りに回転することなく上下動することが可能であることを特徴とする測定装置。
【請求項7】
前記上側ばね係止具は、軸方向に上から順に、ねじ部、小径部、ばね係止部を有し、
前記袋ナットに、軸方向に直角な方向に延びるピンを挿通可能な穴を形成し、前記穴の軸方向位置は前記袋ナット内に形成されたねじ部内であり、前記穴の半径方向位置は、前記上側ばね係止具の小径部の軸半径と同じかそれより大きくかつ前記上側ばね係止具の前記ねじ部の外半径よりは短い距離だけ前記袋ナットの軸心から離れた位置であることを特徴とする請求項6に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに当接させる測定子の測定力を調整する測定力調整機構及びそれを備える測定装置に係り、特に、測定子の当接に空気圧シリンダを利用する場合に好適な測定力調整機構及びそれを備える測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸部材の外径等を電気的に計測および寸法チェックするために、空気圧シリンダを備える寸法測定装置がしばしば用いられる。例えば、機械部品の長さ寸法をチェックするために、ゲージヘッドまたは測定ヘッドを用いることが特許文献1に記載されている。そして、測定ヘッドは、溝と長手方向の幾何学的な軸を規定するケーシングを備えた支持構造材と、アームおよびフィーラを備えた支持構造材に対して移動可能なアームセットと、アームと支持構造材との間に配置され、横断軸を中心にして支持構造材に対してアームの移動を可能にする支点と、アームと支持構造材との間に配置され、検査対象の機械部品の表面に向かってフィーラを付勢するスラスト装置と、アームおよび支持構造材に連結され、支持構造材に対してアームの位置に応じた信号を供給する変換器を有している。これにより、測定ヘッドは高水準の繰り返し精度を保障している。
【0003】
特許文献2には、測定ヘッドのアームを簡単な構造でリトラクトさせるために、測定ヘッドがリトラクト機構として形状記憶合金アクチュエータを備えることが開示されている。形状記憶合金アクチュエータは、形状記憶合金製のコイルばねとバイアスばね等を含み、コイルばねとバイアスばねはロッドの両端部からロッドの中途部に固定されたフランジに向けて挿通されたのち、バイアスばねが収縮された状態でホルダーに保持される。コイルばねに通電されてコイルばねが変態温度以上に加熱されると、コイルばねが変形し、ロッドが押し下げ板を押し下げ、コンタクトがリトラクトされる。
【0004】
さらに特許文献3には、空気圧シリンダ内で結露が発生するのを防止するために、空気圧シリンダが、シリンダと、シリンダ内部を第1室、第2室に区画するピストンとを備える。さらに、ピストンまたはシリンダの内面に、第1室と第2室間を一方向連通する結露手段を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-64694号公報
【特許文献2】特開2001-27503号公報
【特許文献3】特開2020-112212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、空気圧シリンダを用いた寸法測定装置(測定ヘッド)では、測定対象である被測定物の材質や表面処理、大きさ等の性状に応じて、被測定物へ与える測定力を変化させて、高精度な寸法測定を実現している。そのため、測定圧を付加する測定圧調整機構を寸法測定ヘッドに設け、寸法測定ヘッドを実際に被測定物に接触もしくは手近に置きながら、測定圧調整機構を外部から調整できることが望まれている。なお、寸法測定装置であるので計測のしやすさから、被測定物に直接接触する接触子部分を含めた装置全体が小型であることも求められている。市販の測定ヘッドの主要部の各辺は100mmを超え無い大きさに設定されているものがほとんどである。
【0007】
上記特許文献1に記載の寸法検査用ヘッドには、測定力を調整する装置としてスラスト装置が設けられている。スラスト装置は、検査対象の機械部品の表面に接触子を押し付けるために、上下に配置された第1、第2のフッキング要素とそれら要素間に配設されたばねを備える。ばねの両端は、フッキング要素に形成された貫通穴に保持されている。下側に配置されたフッキング要素は、ばね下端を上端部で保持する袋ねじ(ガイドネック)と、この袋ねじに螺合する雄ねじが形成された調整ねじを有する。なお袋ねじは、第2のフッキング要素の軸方向の回転を阻止するための正方形の断面を有している。ケーシングの外部から調整ねじのヘッドを回転させると、第2のフッキング要素が上下動し、ばねのバイアスが変化してアームに加える測定力が変化する。
【0008】
この特許文献1に記載の検査用ヘッドでは、ばねの回転を阻止することや、検査用ヘッド内部に充満されるシリコンオイル等の液体が検査用ヘッドから外部に漏れるのを防止するシール、外部からのばね力の調整を可能にすることまで考慮されているので、実用性が高いが、それらをすべて満たすために構造が複雑になるとともに、ばねに許容される空間が少なくなり対応できるばね力が制限を受ける。また、シール部とばね力調整位置が近接せざるを得ず、必ずしも小型化することが容易ではない。
【0009】
また特許文献2に記載の測定ヘッドでは、アーム16にL字状の突出部を形成し、スプリングを介してヘッド本体に突出部を支持している。スプリングの付勢力によって突出部が上方に引っ張られ、測定用アームを介して接触子が十字ばねを支点として測定方向に移動する。その結果、スプリングの付勢力によって接触子に測定用圧力が付与される。
この公報に記載の測定ヘッドでは、ねじに測定圧調整用のスプリングの端部を引っ掛ける構造であるので、ばね力を調整するためにねじを回動させると、スプリングもねじとともに回動する。スプリングが回動するとスプリングのレバーへの取り付け端側では捩じれトルクが発生する。そして、レバーの揺動方向とレバーに引っ掛けられるスプリング端部のフックの向きが一致するまで回動すると、フックの応力の増大により長期の使用ではスプリングの破損に至る虞があるし、破損しなくても、接触子に過大な測定用圧力が付与される虞がある。
【0010】
特許文献3には、ケース内であって軸の保持台よりも反測定子側に引張りバネを配設し、引張りバネの一端側をケースの内側に突出した支軸に係止し、引張りバネの他端側を軸の長手方向中間部に設けた係止具に係止している。これにより、引張りバネはその位置で軸を引き寄せるように作用し、軸は揺動軸を中心に揺動し、次いでアーム234を下方に押し付ける。これにより、計測力が付加される。この引っ張りばねは、特許文献2に記載のものと同様の構成であるから、引っ張りばねの調整のために係止具を調整すると、係止具とともに引っ張りばねが回動し、引っ張りばねに余分なねじれトルクが発生する。
本発明は上記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、小型でありながらばねに余分なトルクを発生させない、外部から調整可能な測定力調整機構を実現することにある。本発明の他の目的は測定ヘッド内部に充填されるシリコンオイル等の緩衝液の外部への漏れを阻止しながら、小型で簡素な構成の外部から調整可能な測定力調整機構を実現することにある。そしてこれら目的の少なくともいずれかを達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の特徴は、以下のとおりである。
[1] 液体が封入される測定装置が備える測定力調整機構において、ばねと、上記ばねの一端が係止する上側ばね係止具と、上記ばねの反対端が係止する下側ばね係止具とを備え、上記上側ばね係止具の上記ばねが係止する側とは反対端にねじを形成し、上記ねじにかみ合うねじが形成されたねじ部を有し、上記ねじ部とは反対端側が上記測定装置の外部に露出した袋ナットを設け、上記袋ナットは、露出部分に工具が係合可能な工具係止部を有し、かつ側面にシール溝を有し、上記上側ばね係止具に、上記袋ナットが回動しても、自身の軸周りに回転することなく上下動することが可能な回動規制手段を形成したことを特徴とする測定力調整機構。
[2] 上記工具係止部は、上記袋ナットの上部外表面に形成したボルト頭であるかもしくはドライバ溝であることを特徴とする[1]に記載の測定力調整機構。
[3] 上記上側ばね係止具は、軸方向に上から順に、上記ねじ部、小径部、を有し、上記袋ナットのねじが形成された高さ位置であって、上記上側ばね係止具の上記小径部の軸半径と同じかそれより大きくかつ上記上側ばね係止具の上記ねじ部の外半径よりは短い距離だけ上記袋ナットの軸から半径方向に離れた位置に、軸方向に略直角な方向に延びる、ピンを挿通可能な穴を形成したことを特徴とする[2]に記載の測定力調整機構。
[4] 上記上側ばね係止具は、軸直角断面が円の一部を切り欠いた切り欠き面を有しており、この切り欠き面は上記回動規制手段を構成することを特徴とする[1]に記載の測定力調整機構。
[5] 上記下側ばね係止具は、ばね係止部が断面矩形の平板部であり、上記平板部が嵌合する溝が形成された台座を有することを特徴とする[1]に記載の測定力調整機構。
[6] 一端に測定子が取り付けられたアームと、上記アームに連接するレバーと、上記レバーを液密に収納する密閉ケースと、上記密閉ケース内に配設されたリトラクト機構と、上記リトラクト機構に隣り合い上記密閉ケースに配設された測定力調整機構と、前期密閉ケースに配設され上記リトラクト機構を挟んで上記測定力調整機構とは反対側に配設された作動トランスとを含み、被測定物であるワークに上記測定子を当接させて被測定物を測定する測定装置において、上記測定力調整機構は、引張りばねと、この引張りばねの両端がそれぞれ係止する上側ばね係止具及び下側ばね係止具と、上記上側ばね係止具の上部に位置し、内部にねじが形成された袋ナットとを備え、上記上側ばね係止具は、上記引張りばねが係止する側とは反対端に上記袋ナットに形成されたねじにかみ合うねじを有し、上記袋ナットはねじが形成された開放端とは反対端側が、上記測定装置の外部に露出しており、上記袋ナットの露出した部分に工具が係合可能な工具係止部が形成されており、さらに上記袋ナットの側面にシール溝が形成されており、上記上側ばね係止具は、上記袋ナットが回動しても、上記リトラクト機構の外側面と協働して、自身の軸周りに回転することなく上下動することが可能であることを特徴とする測定装置。
[7] 上記上側ばね係止具は、軸方向に上から順に、ねじ部、小径部、ばね係止部を有し、上記袋ナットに、軸方向に直角な方向に延びるピンを挿通可能な穴を形成し、上記穴の軸方向位置は上記袋ナット内に形成されたねじ部内であり、上記穴の半径方向位置は、上記上側ばね係止具の小径部の軸半径と同じかそれより大きくかつ上記上側ばね係止具の上記ねじ部の外半径よりは短い距離だけ上記袋ナットの軸心から離れた位置であることを特徴とする[6]に記載の測定装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、引張ばねの一端が係止する上側係止具に周り止め機能と袋ナットにかみ合うねじを構成し、このねじにかみ合う袋ナットの外周面をシールしかつ袋ナットの上面を外部に露出する構造としたので、小型でありながらばねに余分なトルクを発生させない。また、測定ヘッド内部に充填されるシリコンオイル等の緩衝液の外部への漏れを阻止しながら、小型で簡素な構成の外部から調整可能な測定力調整機構が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る測定力調整機構を備えた測定装置の使用例を示す図である。
【
図3】
図2に示した測定装置が備える測定力調整機構の縦断面図及び、測定力調整機構のA-A視図、B-B視図、C-C視図、D矢視図、E-E視図である。
【
図4】
図2に示した測定力調整機構が備えるばね周りの斜視図である。
【
図5】
図2に示した測定装置が備える袋ナットの縦断面図(同図(a))、および上側ばね係止具の正面図(同図(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の実施例を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る測定装置60を用いてワークWであるコミテータの外径の振れを測定する様子を示す模式斜視図である。測定装置60による測定では、汎用測定ヘッド(測定子250)と、制御処理装置20や図示しない空気源等が用いられる。測定前または測定後に測定子250をワークWから引き離すためにリトラクト機構が、測定装置60に設けられている。また、ワークWへ適切な測定力を付与するために、測定力調整機構300(
図2参照)も測定装置60は有している。
測定力調整機構300で調整された測定力と、リトラクト機構のバネ力とで、測定台30に載置されたワークWに測定子250を適切な測定力で当接させて、コミテータ軸の振れを測定する。得られた結果は、作動トランス180の出力として制御処理装置20が処理する。
【0015】
測定装置60の詳細を、
図2に縦断面図で示す。測定装置60は、ほぼ直方体のケース部材190内に、リトラクト機構100と作動トランス180を収容している。ケース部材190は、リトラクト機構保持部材194を介してリトラクト機構100を収容する空間、および作動トランス180を収容する空間が内部に形成されたケース部材本体190fと、作動トランス180を収容する側に配置される側面部材190aと、ケース部材本体190fの上面をほぼ覆う蓋部材190dと、ケース部材本体190fの下面をシール部材190cを介して覆う底板190bを有する。測定装置60のケース部材190の内部には、測定子250をワークWに当接させる際に生じる衝撃を緩衝するために、シリコンオイル等の液体が封入されている。そのため、ケース部材190は、リトラクト機構保持部材194等とともに、全体として密閉(液密)容器を構成する。
【0016】
測定子250にアーム234を介して接続されるレバー軸132が、ケース部材190から横方向に(
図2では、ケース部材190の右側面部から右側に)延在している。ケース部材190とレバー軸132の間には、レバー軸132の味噌すり運動を可能にするベローズ220が配設されており、ベローズ220の両端部にはそれぞれ係止部222、224が形成されている。ケース部材190内には、揺動軸140がレバー軸132に実質的に直角方向に配置されており、揺動軸140はレバー軸132の長手方向中間部に配設された保持台142に設けた貫通穴に嵌合している。従ってレバー軸132は、揺動軸140周りに揺動可能である。
【0017】
ケース部材190の一側面(
図2では右側面)は開口形状であり、開口部に上述したベローズ220の一端側が係止部222により気密に保持されている。ベローズ220の他端側は、レバー軸132の端部132bに係止部224により気密に接続されている。レバー軸132のベローズ220取付け側端部132bは、連結具232を介してアーム234に位置調整可能に接続されている。
【0018】
レバー軸132に接続する側とは反対側であってアーム234の先端部には、測定子250を保持する測定子ホルダ236が取付けられている。測定子ホルダ236に係止する留めネジ238を調整することにより、測定子250の先端部にある接触子240は、
図2では上下方向に、位置調整可能になる。
図1に示したような軸振れ測定の場合には、接触子240を下方に押し付けて、ワークWを回転させながら測定する。
接触子240を下方に押し付ける測定力調整機構300が、ケース部材190内のほぼ中央部に配設されている。詳細を後述するように、測定力調整機構300は、上側に配置する袋ナット320と、袋ナット320に螺合する上側ばね係止具 と、引っ張りばね146と、下側ばね係止具312を主要構成要素としている。
【0019】
袋ナット320を締める方向に回転させると、袋ナット320に螺合する上側ばね係止具160が上方に持ち上げられ、上側ばね係止具160に一端が係止する引っ張りばね146が伸長されレバー軸132を持ち上げる。レバー軸132は、揺動軸140周りに回動し、レバー軸132に連接されたアーム234を下方に押し出す。このアーム234を下方に押し出す力が、測定子250の位置で接触子240の測定力に変換される。
測定力調整機構300に隣り合って、リトラクト機構100が配設されている。リトラクト機構100は、下端部に穴が形成された空洞形状のシリンダ110と、シリンダ110内に上下動可能に配設され、シリンダ110の下端部の穴から軸が延在するピストン114と、ピストン114の軸に巻回されるコイルばね122とを備える。
【0020】
ピストン114の上面に図示しない空気源から高圧空気を選択的に導くことにより、ピストン114はコイルばね122のばね力に抗して上下方向に移動することが可能になる。そして、ピストン114が下方に移動してその軸がレバー軸132に当接すると、レバー軸132は揺動軸140周りに回動または揺動する。これにより、レバー軸132に連接されたアーム234の先端に取り付けられた測定子250は上方に回動し、測定子250のリトラクトが実行される。
【0021】
レバー軸132の反測定子側132aの端部近傍では、レバー軸132に垂直に変位軸182が取付けられており、変位軸182を取り囲むようにコイル184が巻回されて作動トランス180を構成している。作動トランス180の信号は端子処理部186に入力され信号処理されたのち、制御処理装置20に導かれる(
図1参照)。
【0022】
以上は、一般的な一軸の空気圧シリンダであるシリンダ110を用いた測定装置60の概要であるが、以下に本発明の特徴的な構成である測定力調整機構300の詳細を、
図3~
図5を用いて説明する。
図3(a)は、
図2に示した測定装置60が備える測定力調整機構300の縦断面図であり、
図3(b)~
図3(f)は、
図3(a)における、それぞれA-A矢視断面図、B-B矢視断面図、C-C矢視断面図、D視図、E-E矢視断面図である。
図4は、測定力調整機構300が備える上側ばね係止具160に引張りばね146の上側係合部146aが係止した状態を示す斜視図である。なお、引張りばね146は、上側係合部146aに続いて、引張りばね部146b、下側係合部146cを有する。
また、
図5(a)は測定力調整機構300が備える袋ナット320の縦断面図、
図5(b)は上側ばね係止具160の正面図である。
【0023】
測定力調整機構300において、最上部(露出部分、上部外表面)に位置する袋ナット320は上端部が測定装置60の外部に露出しており、
図5(a)に示すように、おおよそ円柱状である。上端部近傍は、六角ボルトの頭部と同様の六角形状になっている(
図3(b)参照)。この六角形状の工具係止部322に工具のスパナを係合することで、袋ナット320は測定装置60の外部からの回動が可能になる。六角形状の工具係止部322の下側は、その他の部分より大径のストッパ部332に形成されており、測定力調整機構300を測定装置60に組み込んだ際のストッパ部332となっている。すなわち、袋ナット320は、測定装置60に組み込んだ際に、ストッパ部332の下端面が、リトラクト機構保持部材194の上面及びケース部材本体190fの段付き部上面に当接することで、下方への移動が制限される。
【0024】
ストッパ部332の下方は、円筒状であり、その外面にはOリング等のシール部材が装着されるシール溝334が形成されている。上述したとおり、測定装置60の内部には液体が充満されているので、その液体が外部に漏れるのを防止するためOリング等でシールする。袋ナット320の下面中央部から上方に向けて、ねじ穴338が形成されている。ねじ穴338には、上側ばね係止具160の雄ねじであるねじ部160aがかみ合う。袋ナット320のねじ穴338が形成されている部分であって上下方向中間の高さの位置に、ねじ穴338に接近して軸直角方向に延びるピン穴336が形成されている。
【0025】
上側ばね係止具160は、
図5(b)の正面図に示すように、上下方向に順にねじ部160a、小径部160b、ばね係止部160fを有する。最上部のねじ部160aには袋ナット320のねじ穴338にねじ込み可能なねじが形成されている。ねじ部160aの外径は、φd1である。小径部160bは、ねじ部160aの真下に形成されており、ねじ部160aの外径φd1より小径のφd2に外径が形成されている。
【0026】
最下段のばね係止部160fは、引張りばね146の上端部を係止するばね係合用穴148が中央部に形成された部分である。ばね係合用穴148は、上側ばね係止具160の軸方向に直角な方向に貫通している。ここで、ばね係止部160fでは、引っ張りばね146の上端部を係止するとともに、上側ばね係止具160全体が袋ナット320の回動とともに軸周りに回転して、ばね係合用穴148に係止した引張りばね146にねじれトルクが加わるのを防止するまたは引張りばね146が軸回りに回転するのを防止することも求められており、回り止めとして機能させる必要がある。
【0027】
本実施例では、ばね係止部160fの形状を以下のように定めている。ねじ部160aの外径φd1より大径のφd3の外径を持つ円柱において、側面を少なくとも1か所切り落としまたは切り欠いて切り欠き面160c、160eを形成し、断面をおむすび形状にする(
図3(d)参照)。その際、φd2の外径部を少なくとも周方向の一部に残しておくか、ねじ部160aの半径(=φd1/2)より大きい半径長さの部分を周方向の一部に形成する。
【0028】
切り欠き面160cを複数作成した場合は、そのうちの1面は、測定力調整機構300に隣り合って配設されるリトラクト機構保持部材194の側面に対面する。ここで、リトラクト機構保持部材194と上側ばね係止具160の軸心との距離は以下のように設定されている。ばね係止部160fにおける軸心から切り欠き面160c、160eまでの距離λ1(
図5(b)参照)とほぼ等しく、厳密にはばね係止部160fが上下に移動できる隙間だけλより大きく設定される。すなわち、切り欠き面160eをリトラクト機構保持部材194の側面に対向させながら、上側ばね係止具160を上下動させることができるための隙間分だけ大きい。
【0029】
袋ナット320を回動して上側ばね係止具160を上下動させるときに、袋ナット320とともに上側ばね係止具160が回動しても、リトラクト機構保持部材194の側面に対向する切り欠き面160eが斜めに対向してリトラクト機構保持部材194の側面に当接する。当接により、袋ナット320は回動できても、上側ばね係止具160はそれ以上の回動が規制される。これにより、上側ばね係止具160は回動しないで上下動するので、ばね係止部160fは、リトラクト機構保持部材194と協働して上側ばね係止具160の回り止め(回動規制)手段を構成する。
【0030】
なお、上側ばね係止具160のばね係止部160fでは、ばね係合用穴148の周りを一部切り落として平坦面160dを形成している。平坦面160dは、引張りばね146の上端部をばね係合用穴148に挿通するのを容易にするために、設けられる(
図3(d)参照)。
【0031】
図3(c)に示すように、袋ナット320のピン穴336には、ピン326を挿通可能である。ピン326は、上下方向に関して上側ばね係止具160の小径部160bに位置する。ピン穴336の位置は、小径部160bの軸半径と同じか、それよりも大きく、かつ、ねじ部160aの外半径よりは短い距離だけ、袋ナット320の軸から半径方向に離れた位置とされる。このピン穴336に軸方向に略直角な方向に延びるピンを挿通すると、これが、上側ばね係止具160が下方に過度に沈みこむことを防止する、ストッパとして作用する。言い換えれば、ピン326は、小径部160bの上下動を妨げないよう、小径部160bと接触するか、又は、接触しないよう構成され、一方で、下側ストッパ面342、上側ばねストッパ面344とは接触するように、すなわち、少なくともねじ部160aをピン326を超えて下側に通さないような位置・大きさに調整される。
【0032】
袋ナット320の回動に伴い上側ばね係止具160が上下動する際に、ピン326の位置に小径部160bがある間は上下方向ともに移動可能である。しかし、ねじ部160aの下端面がピン326の位置まで下降すると、ピン326とねじ部160aの下側ストッパ面342が干渉して、上側ばね係止具160はそれ以上下方に沈むことができない。
【0033】
一方、袋ナット320の回動により上側ばね係止具160が持ち上げられた場合、ばね係止部160fの上端面である上側ばねストッパ面344が袋ナット320の下端面に当接するまでは、上側ばね係止具160は上昇可能である。しかし、上側ばねストッパ面344が袋ナット320の下端面に当接すると、上側ばね係止具160はそれ以上上昇することができない。すなわち、袋ナット320の下端面とばね係止部160fの上端面は、上側ばね係止具160の上昇を阻止するストッパを構成する。
【0034】
引張りばね146は一般的なコイルばねであり、一方の端部は上側ばね係止具160に形成したばね係合用穴148に、他方の端部は下側ばね係止具312に形成したばね係止用穴134に係止する。下側ばね係止具312は、レバー軸132の反測定子側132aに形成した段付き穴132cに嵌合する台座314に引張りばね146のばね力で固定される。
【0035】
つまり、下側ばね係止具312の上部は断面矩形の平板状(断面矩形の平板部)であり、係合部312aとして形成されている。一方、円形の台座314の中央部には、下側ばね係止具312の係合部312aの断面形状に応じた矩形の溝が形成されている。下側ばね係止具312の係合部312aを矩形の溝に係合して、係合部312aを上方に突出させる(
図3(a)、
図3(e)参照)ことで、ばね係合用穴148に係止した引張ばねが台座314を上方に持ち上げる。台座314は、レバー軸132の段付き穴132cで上昇を阻止されるので、下側ばね係止具312は台座314に固定される。
【0036】
なお、袋ナット320を回動しても、上述したとおり、回り止めにより上側ばね係止具160が回動しないので、下側ばね係止具312も回動しない。これにより、上側ばね係止具160と下側ばね係止具312間に配設される引張ばね146にねじれトルクが加わるのを防止できる。下側ばね係止具312の下部には、工具であるレンチが係合可能なレンチ係止部312bが、本実施例では四角形状に形成されている。レンチ係止部312bの下部には、フランジ312cが形成されており(
図3(f)参照)、レンチの逸脱を防止する。このレンチ係止部312bは、引張ばね146の向きを調整する際に使用する。
【0037】
以上説明したように、本実施例に記載の測定装置では、(1)小型であること、(2)外部から測定力を調整可能であること、(3)引張りばねにねじれトルクを加えないこと、(4)測定装置内に充填したシリコンオイル等の液体が外部に漏れるのを防止することが求められている。そのため、本実施例では、引張りばねの一端が係止する上側ばね係止具に回り止めを構成し、下側ばね係止具の位置及び向きを固定している。また、上側ばね係止具の端部に雄ねじ部を形成し、この雄ねじにかみ合うメスねじを有する袋ナット構造を採用し、袋ナットの外周面をシールするようにしている。これにより、引張ばねに余分なねじれトルクが発生するのを防止できる。さらに、ばねの向きが変化してレバーの揺動力を増出させることを防止できる。さらにまた、簡単な構成でシールおよびばね力を変化させることができるので、測定装置に配設する測定力調整機構を小型化でき、測定装置の小型化に寄与できる。また、構造が簡素であり、主要港製品である引張ばねは伸縮方向に変形するだけなので余分なねじりトルクが加わらず、測定装置の信頼性を向上できる。
【0038】
上記実施例では、測定装置の外部に露出する部分を、袋ナットとしているが、外部に露出する部分をボルトとし、上側ばね係止具に袋ナットを形成しても同様に引張ばねにねじれトルクが加わらない構造とすることができる。ただし、袋ナットを外部に露出する構造のほうが、より小型化しやすい。また、上側ばね係止具のばね係止部の形状は、本実施例に記載のものに限らず、断面四角形、五角形、六角形や、円中の一面を切り欠いた形状でもよいことは言うまでもない。また、ドライバ溝であってもよい。いずれにしろ、隣り合うリトラクト機構保持部材に当接して回転が止められる構造であればよい。
【0039】
なお、不測の袋ナットの回動が生じないように、袋ナットに近接して取り外し可能な蓋部材190dを設けることが望ましい。これにより、袋ナットの上面のボルト頭部にレンチが係合するのを防止できる。
【符号の説明】
【0040】
20…制御処理装置、30…測定台、60…(寸法)測定装置、100…リトラクト機構、110…シリンダ、114…ピストン、122…コイルばね、130…揺動手段、132…レバー軸、132a…反測定子側、132b…(側)端部、134…ばね係止用穴、140…揺動軸、142…保持台、146…引張りバネ、146a…上側係合部、146b…(引っ張り)ばね部、146c…下側係合部、148…ばね係合用穴、160…上側ばね係止具、160a…(雄)ねじ部、160b…小径部、160c…切り欠き面、160d…平坦面、160e…切り欠き面、160f…ばね係止部、180…作動トランス、182…変位軸、184…コイル、186…端子処理部、190…ケース部材、190a…側面部材、190b…底板、190c…シール部材、190d…蓋部材、190f…ケース部材本体、194…リトラクト機構保持部材、220…ベローズ、222、224…係止部、232…連結具、234…アーム、236…測定子ホルダ、238…留めネジ、240…接触子、250…測定子、300…測定力調整機構、312…下側ばね係止具、312a…係合部、312b…レンチ係止部、312c…フランジ、314…台座、320…袋ナット、322…工具係止部、324…シール部材(Oリング)、326…ピン、332…ストッパ部、334…シール溝、336…ピン穴、338…(上側ばね係止具ねじ用)ねじ穴、342…下側ストッパ面、344…上側ばねストッパ面、W…ワーク