(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131462
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】炭素膜形成方法及び炭素膜形成装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20240920BHJP
H01L 21/314 20060101ALI20240920BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/314 A
H01L21/30 573
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041734
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】濱田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】片桐 勇志
【テーマコード(参考)】
5F004
5F058
5F146
【Fターム(参考)】
5F004AA04
5F004BA09
5F004BB13
5F004BB22
5F004BB23
5F004BB25
5F004BB26
5F004CA06
5F004CA08
5F004DA22
5F004EA03
5F058BF46
5F058BH01
5F146NA12
5F146NA17
(57)【要約】
【課題】エッチング耐性の高い炭素膜を形成する。
【解決手段】スピン塗布法によって炭素膜原料を基板に塗布して基板に炭素含有膜を形成し、該炭素含有膜を加熱焼成して炭素膜を形成し、該炭素膜にヘリウムイオンを照射する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピン塗布法によって炭素膜原料を基板に塗布して前記基板に炭素含有膜を形成し、
該炭素含有膜を加熱焼成して炭素膜を形成し、
該炭素膜にヘリウムイオンを照射する炭素膜形成方法。
【請求項2】
前記加熱焼成における前記基板の温度が500℃未満に維持される、請求項1に記載の炭素膜形成方法。
【請求項3】
前記ヘリウムイオンの照射時の前記基板の温度が60℃以下に維持される、請求項1に記載の炭素膜形成方法。
【請求項4】
前記ヘリウムイオンの照射時の前記基板の温度が20℃以上に維持される、請求項3に記載の炭素膜形成方法。
【請求項5】
前記加熱焼成時の前記基板の温度が300℃以下に維持される、請求項2に記載の炭素膜形成方法。
【請求項6】
前記加熱焼成時の前記基板の温度が110℃以上に維持される、請求項5に記載の炭素膜形成方法。
【請求項7】
前記ヘリウムイオンの照射時に前記基板が載置される電極へ供給されるイオン引き込み用の高周波電力の大きさが500W以上に設定される、請求項1に記載の炭素膜形成方法。
【請求項8】
前記ヘリウムイオンの照射時に前記電極へ供給される前記イオン引き込み用の高周波電力の大きさが3000W以上に設定される、請求項7に記載の炭素膜形成方法。
【請求項9】
前記基板への前記ヘリウムイオンの照射時間は10秒以上である、請求項1に記載の炭素膜形成方法。
【請求項10】
前記基板への前記ヘリウムイオンの照射時間は120秒以下である、請求項9に記載の炭素膜形成方法。
【請求項11】
前記ヘリウムイオンの照射時に前記基板が収容される処理容器の内部の圧力が100mTorr以上に維持される、請求項1に記載の炭素膜形成方法。
【請求項12】
スピン塗布法によって炭素膜原料を基板に塗布して前記基板に炭素含有膜を形成するスピン塗布部と、
該炭素含有膜を加熱焼成して炭素膜を形成する加熱焼成部と、
該炭素膜にヘリウムイオンを照射するイオン照射部と、を備える炭素膜形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素膜形成方法及び炭素膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、半導体装置では、極端紫外線を用いて露光されるフォトレジスト膜の下地層として、SOC(Spin on Carbon)膜が用いられる。例えば、特許文献1の技術では、まず、シリコン酸化膜上にSOCを塗布した後にベーク処理を行ってSOCからなる有機膜(以下、「SOC膜」という)を形成し、さらに、SOC膜上にSOG(Spin on Glass)を塗布した後にベーク処理を行ってSOG膜を形成する。次に、SOG膜上にレジストを塗布し、リソグラフィ処理によってホールパターンを形成し、その後、レジストをマスクとしてRIE(Reactive Ion Etching)を行い、ホールパターンをSOG膜に転写する。さらに、ホールパターンが転写されたSOG膜をマスクにRIEを行い、ホールパターンをSOC膜に転写する。そして、ホールパターンが転写されたSOC膜をハードマスクとしてRIEを行い、ホールパターンをシリコン酸化膜に転写する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る技術は、エッチング耐性の高い炭素膜を形成する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る技術の一態様は、炭素膜形成方法であって、スピン塗布法によって炭素膜原料を基板に塗布して前記基板に炭素含有膜を形成し、該炭素含有膜を加熱焼成して炭素膜を形成し、該炭素膜にヘリウムイオンを照射する。
【発明の効果】
【0006】
本開示に係る技術によれば、エッチング耐性の高い炭素膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示に係る技術の一実施の形態としての炭素膜形成方法を実行する炭素膜形成装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1におけるプラズマ処理装置の構成を概略的に示す断面図である。
【
図3】SOC膜へのイオン照射時のバイアス電力を変更したときのSOC膜の各特性を示すグラフである。
【
図4】SOC膜へのイオン照射時の処理容器の内部の圧力を変更したときのSOC膜のRIEによるエッチレートを示すグラフである。
【
図5】SOC膜へのイオン照射時のウエハの温度を変更したときのSOC膜のRIEによるエッチレートを示すグラフである。
【
図6】SOC膜へのイオン照射時間を変更したときのSOC膜のRIEによるエッチレートを示すグラフである。
【
図7】炭素含有膜の焼成温度を変更したときのSOC膜のRIEによるエッチレートを示すグラフである。
【
図8】本開示に係る技術の一実施の形態としての炭素膜形成方法を示すフローチャートである。
【
図9】本開示に係る技術の一実施の形態としての炭素膜形成方法によって形成されたSOC膜とアモルファスカーボン膜のエッチレートを比較した結果を示す図である。
【
図10】本開示に係る技術の一実施の形態としての炭素膜形成方法で形成したSOC膜と従来のSOC膜の各特性の相対比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
RIEにおいてハードマスクとして用いられるSOC膜は、エッチング耐性がさほど高くなく、シリコン酸化膜のエッチング中にハードマスクが削られてホールパターンが大きくなることがある。この場合、シリコン酸化膜に転写されたホールパターンの開口部が広がってしまう。
【0009】
そこで、スピンコーティングによって形成されたSOCを比較的高温(例えば、500℃以上)で加熱焼成することにより、SOC膜を緻密化させてエッチング耐性を向上させている。
【0010】
ところで、半導体装置の構造の複雑化に伴い、昨今の半導体装置の製造工程では、従来よりも低温での処理が求められ、例えば、SOC膜の加熱焼成は500℃未満で実施する必要が生じている。しかしながら、SOC膜の加熱焼成を500℃未満で実施した場合、SOC膜を十分に緻密化することが困難であり、エッチング耐性が高いSOC膜を形成するのが困難である。
【0011】
これに対して、本開示に係る技術は、加熱焼成を施したSOC膜へヘリウムイオンを照射して、SOC膜を十分に緻密化し、エッチング耐性が高いSOC膜を形成する。
【0012】
以下、図面を参照して本開示に係る技術の一実施の形態を説明する。
図1は、本実施の形態としての炭素膜形成方法を実行する炭素膜形成装置の構成を示す図である。
【0013】
図1において、炭素膜形成装置10は、塗布現像装置11と、プラズマ処理装置12とを備える。塗布現像装置11はスピン塗布部と加熱焼成部(いずれも不図示)を有する。スピン塗布部は、ウエハ(基板)にスピンコート(スピン塗布法)によってSOC膜原料を塗布してウエハの表面、具体的には、ウエハのシリコン酸化膜上に炭素含有膜を形成する。加熱焼成部は、炭素含有膜が形成されたウエハを枚葉、又は複数枚同時に加熱して炭素含有膜に焼成処理を施し、炭素含有膜からSOC膜(炭素膜)を形成する。加熱焼成部におけるウエハの加熱方法としては、例えば、ウエハを載置するステージに内蔵されたヒータによって加熱する方法、ウエハに赤外線を照射して加熱する方やウエハに熱風を吹き付けて加熱する方法が挙げられる。また、プラズマ処理装置12(イオン照射部)は、加熱焼成によってSOC膜が形成されたウエハへヘリウムイオンを照射する。
【0014】
図2は、
図1におけるプラズマ処理装置12の構成を概略的に示す断面図である。
図2において、プラズマ処理装置12は、ウエハWを収容する処理容器13を備える。処理容器13の内部にはウエハWを載置する載置台14が配置され、載置台14は処理容器13の底部から柱部15によって支持される。載置台14と処理容器13の側壁の間には、多数の通気口16aが形成されたバッフル板16が配置される。また、処理容器13では、載置台14と処理容器13の天井部の間に処理空間Uが形成される。処理空間Uでは、後述するように、ヘリウムガスからプラズマが生成される。
【0015】
載置台14の上部には静電チャック17が設けられ、載置台14に載置されたウエハWは、静電チャック17の静電力によって載置台14に吸着保持される。また、載置台14の内部には、載置されたウエハWの温度を制御するために、ヒータ18やチラー(不図示)等の温調機構が設けられる。載置台14の上面には、載置されたウエハWを囲むように環状のフォーカスリング19が配置される。また、処理容器13の側壁には、ウエハWを処理空間Uへ搬入出するための搬入出口20及び搬入出口20を開閉するゲートバルブ21が設けられる。
【0016】
処理容器13の天井部にはガス供給管22を介して処理ガス供給装置23が接続される。処理ガス供給装置23は処理ガスとして処理空間Uにヘリウムガスの単ガスを供給する。また、載置台14には、第1の高周波電源24と第2の高周波電源25が接続される。これにより、載置台14は下部電極として機能する。第1の高周波電源24は、例えば、100MHzのプラズマ生成用の高周波電力を載置台14に供給し、第2の高周波電源25は、例えば、400kHz~13MHzのイオン引き込み用の高周波電力(以下、「バイアス電力」という)を載置台14に供給する。
【0017】
プラズマ生成用の高周波電力は処理空間Uに電界を生じさせ、該電界は処理空間Uに供給されたヘリウムガスを励起してプラズマを生じさせる。また、プラズマ中のヘリウムイオンは、バイアス電力によって載置台14に生じたバイアス電位によって載置台14へ向けて引き込まれるが、このとき、載置台14に載置されたウエハWに衝突する。これにより、ウエハWに形成されたSOC膜へヘリウムイオンが照射される。
【0018】
さらに、処理容器13の底部には排気管26を介してターボ分子ポンプやドライポンプ等の排気装置27が接続される。SOC膜へのヘリウムイオンの照射を実行する際、排気装置27は、処理空間Uを大気圧よりも低い予め定められた圧力に維持する。
【0019】
また、プラズマ処理装置12には制御部28が設けられる。制御部28は、少なくともCPUとメモリを有するコンピュータからなり、メモリには所定の成膜処理や後述する堆積物の堆積判定を実行するためのレシピ(プログラム)が記録される。
【0020】
ところで、上述したように、炭素含有膜の加熱焼成を500℃未満で実施してSOC膜を形成する場合、SOC膜を十分に緻密化することが困難であるため、何らかの方法でSOC膜をさらに緻密化する必要がある。
【0021】
SOC膜の緻密化方法には、幾つかの手法が考えられるが、本願の出願人(以下、「本出願人」という)は、昨今の半導体装置の製造工程において低温の処理が求められていることを考慮し、イオン照射によってSOC膜を緻密化することを検討した。そして、イオン照射に用いるイオンの生成源として、種々の処理ガスを試した結果、軽くて小さい元素のガスがSOC膜における改質深さ(緻密化深さ)確保や膜収縮量減少の観点から有利であることを見出した。そこで、本開示に係る技術で用いる処理ガスとしてヘリウムガスを用いることとした。
【0022】
また、本出願人は、ヘリウムガスを用いたイオン照射により、SOC膜をさらに緻密化してエッチング耐性の高いSOC膜を形成するための条件を見出すべく、イオン照射時の諸条件について実験を通じて検討した。
【0023】
まず、本出願人は、イオン照射時のバイアス電力の好適な大きさを見出す検討を行った。具体的には、まず、比較的低温の加熱焼成(ウエハの温度が、例えば、500℃未満となる加熱焼成)によって形成されたSOC膜を有する複数のテストピースとしてのウエハを準備した。そして、プラズマ処理装置12において、各ウエハのSOC膜へ異なる大きさのバイアス電力によってヘリウムイオンの照射を行った。その後、ヘリウムイオンが照射された各ウエハへシリコン酸化膜をエッチングする条件でRIEを施し、SOC膜のエッチレートを計測した。この場合、SOC膜のエッチレートが低いほど、SOC膜のエッチング耐性が向上したと考えられる。
【0024】
図3は、SOC膜へのイオン照射時のバイアス電力を変更したときのSOC膜の各特性を示すグラフであり、
図3(A)はイオン照射時による改質深さと膜収縮量を示し、
図3(B)はRIEによるエッチレートを示す。なお、イオン照射時のバイアス電力以外の諸条件は、処理容器13の内部の圧力が30mTorrであり、プラズマ生成用の高周波電力の大きさが500Wであり、処理空間Uへ供給されるヘリウムガスの流量が180sccmであった。また、ウエハの温度が20℃であり、イオン照射時間が10秒であった。
【0025】
まず、
図3(A)に示すように、バイアス電力を大きくすると、SOC膜の改質深さが大きくなった(図中の「●」参照)。これにより、バイアス電力を大きくするとヘリウムイオンの引き込み力が高まってヘリウムイオンがSOC膜の奥まで進入し、改質層を厚くすることが分かった。一方、バイアス電力を大きくしても、膜収縮量はほぼ変わらなかった(図中の「○」参照)。これにより、SOC膜のヘリウムイオンによるエッチング量はある程度進行したら、飽和することが分かった。
【0026】
さらに、
図3(B)に示すように、バイアス電力を大きくすると、SOC膜のエッチレートが低下した。これにより、バイアス電力を大きくするほど、SOC膜の緻密化が進み、エッチング耐性が向上することが分かった。また、バイアス電力の大きさが500WのSOC膜のエッチレートでも、500℃以上で加熱焼成を行い、且つイオン照射を行っていない従来のSOC膜のエッチレートよりも低い。したがって、イオン照射時のバイアス電力を500W以上とすれば、従来のSOC膜よりもエッチング耐性が向上することが分かった。
【0027】
特に、イオン照射時のバイアス電力を3000W以上とすれば、より一段とエッチレートが低下することが確認された一方、バイアス電力を上げてヘリウムイオンをSOC膜へ強く引き込んでも、ヘリウムイオンの質量は非常に小さいため、SOC膜が削られにくい。したがって、イオン照射時のバイアス電力を3000W以上とするのがより好ましいことが分かった。
【0028】
次に、本出願人は、イオン照射時の処理容器13の内部の好適な圧力を見出す検討を行った。具体的には、まず、比較的低温の加熱焼成によって形成されたSOC膜を有する複数のテストピースとしてのウエハを準備し、プラズマ処理装置12において、処理容器13の内部の圧力を変更してヘリウムイオンの照射を行った。その後、ヘリウムイオンが照射された各ウエハへシリコン酸化膜をエッチングする条件でRIEを施し、SOC膜のエッチレートを計測した。
【0029】
図4は、SOC膜へのイオン照射時の処理容器13の内部の圧力を変更したときのSOC膜のRIEによるエッチレートを示すグラフである。なお、イオン照射時の処理容器13の内部の圧力以外の諸条件は、プラズマ生成用の高周波電力の大きさが500Wであり、バイアス電力の大きさが3000Wであり、ウエハの温度が20℃であり、イオン照射時間が10秒であった。また、処理容器13の内部の圧力として、30mTorr、100mTorr、300mTorrが設定されたが、それぞれの圧力における処理空間Uへのヘリウムガスの供給流量は、180sccm、360sccm、900sccmであった。
【0030】
図4に示すように、処理容器13の内部の圧力を高くすると、SOC膜のエッチレートが低下した。これにより、処理容器13の内部の圧力を高くするほど、SOC膜の緻密化が進み、エッチング耐性が向上することが分かった。また、処理容器13の内部の圧力が30mTorrのSOC膜のエッチレートでも、上述した従来のSOC膜のエッチレートよりも低い。したがって、イオン照射時の処理容器13の内部の圧力を30mTorr以上とすれば、従来のSOC膜よりもエッチング耐性が向上することが分かった。但し、処理容器13の内部の圧力が100mTorr以上となれば、より一層SOC膜のエッチレートが低下することから、イオン照射時の処理容器13の内部の圧力を100mTorr以上とするのがより好ましいことが分かった。
【0031】
次に、本出願人は、イオン照射時の好適なウエハの温度を見出す検討を行った。具体的には、まず、比較的低温の加熱焼成によって形成されたSOC膜を有する複数のテストピースとしてのウエハを準備し、プラズマ処理装置12において、ウエハの温度を変更してヘリウムイオンの照射を行った。その後、ヘリウムイオンが照射された各ウエハへシリコン酸化膜をエッチングする条件でRIEを施し、SOC膜のエッチレートを計測した。
【0032】
図5は、SOC膜へのイオン照射時のウエハの温度を変更したときのSOC膜のRIEによるエッチレートを示すグラフである。なお、イオン照射時のウエハの温度以外の諸条件は、処理容器13の内部の圧力が300mTorrであり、プラズマ生成用の高周波電力の大きさが0Wであり、バイアス電力の大きさが3000Wであった。また、処理空間Uへ供給されるヘリウムガスの流量が900sccmであり、イオン照射時間が10秒であった。
【0033】
図5に示すように、ウエハの温度が60℃以下であれば、ヘリウムイオンを照射したSOC膜のエッチレートが上述した従来のSOC膜のエッチレートよりも大きく低下する。したがって、イオン照射時のウエハの温度を60℃以下とすれば、SOC膜の緻密化が進み、従来のSOC膜よりもエッチング耐性が向上することが分かった。特に、昨今の半導体装置の製造工程における低温処理の要求を考慮すると、ウエハの温度を20℃とするのがより好ましいと考えられた。
【0034】
次に、本出願人は、好適なイオン照射時間を見出す検討を行った。具体的には、まず、比較的低温の加熱焼成によって形成されたSOC膜を有する複数のテストピースとしてのウエハを準備し、プラズマ処理装置12において、イオン照射時間を変更してヘリウムイオンの照射を行った。その後、ヘリウムイオンが照射された各ウエハへシリコン酸化膜をエッチングする条件でRIEを施し、SOC膜のエッチレートを計測した。
【0035】
図6は、SOC膜へのイオン照射時間を変更したときのSOC膜のRIEによるエッチレートを示すグラフである。なお、イオン照射時間以外の諸条件は、処理容器13の内部の圧力が300mTorrであり、プラズマ生成用の高周波電力の大きさが0Wであり、バイアス電力の大きさが3000Wであり、ウエハの温度が20℃であった。また、処理空間Uへ供給されるヘリウムガスの流量が900sccmであった。
【0036】
図6に示すように、イオン照射時間が120秒以下であれば、ヘリウムイオンを照射したSOC膜のエッチレートが上述した従来のSOC膜のエッチレートよりも大きく低下する。したがって、イオン照射時間を120秒以下とすれば、SOC膜の緻密化が進み、従来のSOC膜よりもエッチング耐性が向上することが分かった。一方、イオン照射時間が短すぎるとSOC膜の緻密化が十分に進まず、エッチング耐性もさほど向上しないと考えられたことから、イオン照射時間は、エッチング耐性の向上が確認された10秒以上とするのが好ましいと考えられた。
【0037】
次に、本出願人は、好適な炭素含有膜の加熱焼成におけるウエハの温度(以下、「焼成温度」という)を見出す検討を行った。具体的には、まず、焼成温度を変更した加熱焼成によって形成されたSOC膜を有する複数のテストピースとしてのウエハを準備し、プラズマ処理装置12において、ヘリウムイオンの照射を行った。その後、ヘリウムイオンが照射された各ウエハへシリコン酸化膜をエッチングする条件でRIEを施し、SOC膜のエッチレートを計測した。
【0038】
図7は、炭素含有膜の焼成温度を変更したときのSOC膜のRIEによるエッチレートを示すグラフである。なお、各テストピースにおけるRIEのエッチング条件は同じであった。
【0039】
図7に示すように、焼成温度が110℃以上であって、300℃以下であれば、ヘリウムイオンを照射したSOC膜のエッチレートが従来のSOC膜のエッチレートよりも大きく低下する。したがって、焼成温度を110℃から300℃の間のいずれかの温度とすれば、イオン照射前にもSOC膜の緻密化がある程度進み、その後のイオン照射の結果、さらにSOC膜の緻密化が進んで従来のSOC膜よりもエッチング耐性が向上することが分かった。
【0040】
なお、
図7中の焼成温度が110℃の従来のSOC膜のエッチレートは、110℃の加熱焼成が施されたものの、ヘリウムイオンが照射されていないSOC膜のエッチレートを示す。
図7中の焼成温度が300℃の従来のSOC膜のエッチレートは、300℃の加熱焼成が施されたものの、ヘリウムイオンが照射されていないSOC膜のエッチレートを示す。
【0041】
また、焼成温度の検討においては、焼成温度が110℃のSOC膜と焼成温度が300℃のSOC膜のエッチレートのみが確認されたが、焼成温度を高くすれば、よりSOC膜の緻密化が進み、エッチング耐性がより向上すると考えられる。そこで、焼成温度は、昨今の半導体装置の製造工程における低温処理の要求を考慮して従来よりも低い500℃未満とするものの、500℃に近い値に設定するのが好ましいと考えられた。
【0042】
以上の検討の結果から、本開示に係る技術としての炭素膜形成方法は、加熱焼成やヘリウムイオンの照射において、下記条件を満たすものとする。
【0043】
・イオン照射時の処理ガスはヘリウムガスの単ガス
・イオン照射時のバイアス電力は500W以上
・イオン照射時の処理容器13の内部の圧力は100mTorr以上
・イオン照射時のウエハの温度は60℃以下且つ20℃以上
・イオン照射時間は10秒以上且つ120秒以下
・加熱焼成時の焼成温度は110℃以上且つ300℃以下
図8は、本実施の形態に係る炭素膜形成方法を示すフローチャートである。
【0044】
まず、塗布現像装置11において、ウエハWへスピンコートによってSOC膜原料を塗布してウエハWのシリコン酸化膜上に炭素含有膜を形成する(ステップS81)。その後、同じ塗布現像装置11において、炭素含有膜が形成されたウエハWを加熱し、炭素含有膜を加熱焼成してSOC膜を形成する(ステップS82)。加熱焼成時の焼成温度は110℃以上且つ300℃以下のいずれかに設定される。
【0045】
次いで、ウエハWを塗布現像装置11から搬出し、さらに、プラズマ処理装置12の処理容器13の内部へ搬入して載置台14に載置する。その後、排気装置27によって処理容器13の内部を100mTorr以上且つ300mTorrのいずれかの圧力まで減圧し、処理ガス供給装置23から処理容器13の処理空間Uにヘリウムガスの単ガスを供給する。さらに、プラズマ生成用の高周波電力によってヘリウムガスを励起して処理空間Uにおいてプラズマを生じさせる。また、第2の高周波電源25から500W以上のバイアス電力を載置台14に供給し、プラズマ中のイオンを載置台14へ引き込むことにより、ウエハWに形成されたSOC膜へヘリウムイオンを照射する(ステップS83)。このとき、イオン照射時間は10秒以上且つ120秒以下のいずれかに設定する。その後、処理容器13からウエハWを搬出し、本処理を終了する。
【0046】
図9は、本実施の形態に係る炭素膜形成方法によって形成されたSOC膜とアモルファスカーボン膜(以下、「ACL膜」という)のエッチレートを比較した結果を示す図である。なお、ACL膜は、特定の樹脂の硬化成形体を焼成炭素化して形成されるため、非常に緻密な構造を有し、スピンコート及び加熱焼成によって形成される従来のSOC膜よりもエッチング耐性が高いことが知られている。特に、ACL膜は、ロジック半導体装置の製造工程において、極端紫外線を用いて露光されるフォトレジスト膜の下地層として用いられることが検討されている。
【0047】
図9において、従来例は、500℃以上で炭素含有膜の加熱焼成を行い、且つSOC膜にイオン照射を行っていないSOC膜のエッチレートを示す。実施例1は、イオン照射時のバイアス電力を2000Wとし、それ以外のイオン照射時の諸条件や加熱焼成時の焼成温度は上述した本開示に係る技術としての炭素膜形成方法の条件の範囲内で形成されたSOC膜のエッチレートを示す。実施例2は、イオン照射時のバイアス電力を3000Wとし、それ以外のイオン照射時の諸条件や加熱焼成時の焼成温度は上述した本開示に係る技術としての炭素膜形成方法の条件の範囲内で形成されたSOC膜のエッチレートを示す。比較例1は、焼成温度が480℃のACL膜のエッチレートを示す。比較例2は、焼成温度が630℃のACL膜のエッチレートを示す。比較例3は、焼成温度が150℃のACL膜のエッチレートを示す。
【0048】
図9に示すように、実施例1や実施例2のエッチレートは、従来例のエッチレートよりも低く、特に、実施例2のエッチレートは従来例のエッチレートから65%も低下しているため、著しくエッチング耐性が向上していることが確認された。また、実施例1や実施例2のエッチレートは、比較例1~3のエッチレートとほぼ同等か、寧ろ、低いことが確認された。すなわち、本開示に係る技術としての炭素膜形成方法で形成したSOC膜は、ACL膜と同等以上のエッチング耐性を有することが確認された。
【0049】
また、本出願人は、本開示に係る技術としての炭素膜形成方法で形成したSOC膜の特性や組成を確認した。
図10は、本実施の形態に係る炭素膜形成方法で形成したSOC膜と従来のSOC膜の各特性の相対比を示す図である。
図10では、従来のSOC膜の各特性の値に対する本実施の形態に係る炭素膜形成方法で形成したSOC膜の各特性の値の相対比が示される。
【0050】
図10に示すように、本開示に係る技術としての炭素膜形成方法で形成したイオン照射済みのSOC膜は、波長 663nmにおける複素屈折率であるn(633)値、密度、並びに硬さの何れも従来のSOC膜よりかなり高い値を示した。これにより、本開示に係る技術としての炭素膜形成方法で形成したイオン照射済みのSOC膜(以下、単に「イオン照射済SOC膜」という)は、従来のSOC膜よりも大幅に緻密化が進んでいることが確認された。
【0051】
また、従来のSOC膜とイオン照射済SOC膜の分光分析を行ったところ、従来のSOC膜の強度分布とイオン照射済SOC膜の強度分布は形態が大きく異なっていることが確認された。すなわち、本開示に係る技術としての炭素膜形成方法により、SOC膜の緻密化が進むだけでなく、膜そのものが変質していることが確認された。特に、イオン照射済SOC膜の強度分布の形態は、高強度且つ高密度で知られているダイヤモンドライクカーボン膜の強度分布の形態と似通っていることが確認された。
【0052】
本実施の形態によれば、炭素含有膜に500℃未満の比較的低温で加熱焼成を施してSOC膜を形成した後、該SOC膜へヘリウムイオンを照射することにより、当該SOC膜の緻密化を進める。これにより、エッチング耐性の高いSOC膜を形成することができる。
【0053】
以上、本開示の好ましい実施の形態について説明したが、本開示は上述した実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0054】
例えば、本開示に係る技術としての炭素膜形成方法を実行する炭素膜形成装置10は、塗布現像装置11とプラズマ処理装置12の2つの装置によって構成されているが、塗布現像装置11がプラズマ処理装置12の各構成要素を備えていてもよい。この場合、スピンコートによる炭素含有膜の形成、炭素含有膜の加熱焼成、並びに、SOC膜へのヘリウムイオン照射を同一の装置で行うことができ、ウエハWの搬送距離を短縮できるため、スループットを向上することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 炭素膜形成装置
11 塗布現像装置
12 プラズマ処理装置
W ウエハ
【手続補正書】
【提出日】2024-02-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0050
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0050】
図10に示すように、本開示に係る技術としての炭素膜形成方法で形成したイオン照射済みのSOC膜は、波長6
33nmにおける複素屈折率であるn(633)値、密度、並びに硬さの何れも従来のSOC膜よりかなり高い値を示した。これにより、本開示に係る技術としての炭素膜形成方法で形成したイオン照射済みのSOC膜(以下、単に「イオン照射済SOC膜」という)は、従来のSOC膜よりも大幅に緻密化が進んでいることが確認された。