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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131482
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】焼成用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C08F220/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041754
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】米田 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】浦 正敏
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL03Q
4J100AL03R
4J100AL05P
4J100AL09R
4J100AL09S
4J100CA05
4J100CA06
4J100JA46
(57)【要約】
【課題】強度及び靭性に優れるシートが得られる焼成用組成物の提供。
【解決手段】炭素数1~8のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(A)由来の構造単位と、炭素数10~30のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(B)由来の構造単位とを含む共重合体を含有する焼成用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1~8のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(A)由来の構造単位と、炭素数10~30のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(B)由来の構造単位とを含む共重合体を含有する、焼成用組成物。
【請求項2】
前記共重合体は、前記共重合体を構成する全構造単位の総質量に対して、前記炭素数10~30のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(B)由来の構造単位を5~80質量%含む、請求項1に記載の焼成用組成物。
【請求項3】
前記共重合体は、前記共重合体を構成する全構造単位の総質量に対して、メタクリレート由来の構造単位を50~100質量%含む、請求項1に記載の焼成用組成物。
【請求項4】
前記共重合体は、前記炭素数1~8のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(A)由来の構造単位を2種以上含む、請求項1に記載の焼成用組成物。
【請求項5】
シートに成形したときの引張試験における最大応力が5N/mm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の焼成用組成物。
【請求項6】
シートに成形したときの引張試験における破断ひずみが20%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の焼成用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサに代表されるような積層電子部品の製造方法として、内部電極が印刷されたグリーンシートを積層、圧着し焼結する方法が知られている。その中でもグリーンシートは、バインダ、セラミック及び溶剤等を含むスラリーを支持体に塗布し、乾燥することで得られる。
グリーンシートは、焼結されてセラミックス成形体となる。
【0003】
グリーンシートの製造に用いられるバインダとしては、ポリビニルブチラールが汎用的に使用されている。
近年、ポリビニルブチラールに代えて、熱分解性が良好なアクリル樹脂を用いたグリーンシートが提案されている。
例えば特許文献1、2には、グリーンシート用のバインダとして、炭素数1~8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート由来の構造単位を有するアクリル樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-9060号公報
【特許文献2】特開平10-29870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アクリル樹脂はポリビニルブチラールに比べて硬くて脆い。そのため、アクリル樹脂をバインダとして用いたグリーンシート等のシートは強度及び靭性に劣る。
本発明は、強度及び靭性に優れるシートが得られる焼成用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 炭素数1~8のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(A)由来の構造単位と、炭素数10~30のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(B)由来の構造単位とを含む共重合体を含有する、焼成用組成物。
[2] 前記共重合体は、前記共重合体を構成する全構造単位の総質量に対して、前記炭素数10~30のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(B)由来の構造単位を5~80質量%含む、前記[1]の焼成用組成物。
[3] 前記共重合体は、前記共重合体を構成する全構造単位の総質量に対して、メタクリレート由来の構造単位を50~100質量%含む、前記[1]又は[2]の焼成用組成物。
[4] 前記共重合体は、前記炭素数1~8のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(A)由来の構造単位を2種以上含む、前記[1]~[3]のいずれかの焼成用組成物。
[5] シートに成形したときの引張試験における最大応力が5N/mm以上である、前記[1]~[4]のいずれかの焼成用組成物。
[6] シートに成形したときの引張試験における破断ひずみが20%以上である、前記[1]~[5]のいずれかの焼成用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、強度及び靭性に優れるシートが得られる焼成用組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に発明の好ましい実施の形態を上げて本発明をさらに詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
なお、本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの総称である。「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の総称である。「(メタ)アクリロニトリル」は、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルの総称である。
また、以下の明細書において、「シート」とは、本発明の焼成用組成物より形成されるシートである。
【0009】
[焼成用組成物]
以下、本発明の焼成用組成物の一実施形態について説明する。
本実施形態の焼成用組成物は、以下に示す共重合体(X)を含有する。
焼成用組成物は、共重合体(X)のみからなるものであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて、共重合体(X)以外の成分(以下、「任意成分」ともいう。)をさらに含有していてもよい。
【0010】
<共重合体(X)>
共重合体(X)は、炭素数1~8のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(A)由来の構造単位(以下、「構造単位(a)」ともいう。)と、炭素数10~30のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(B)由来の構造単位(以下、「構造単位(b)」ともいう。)とを含む共重合体である。
共重合体(X)は、構造単位(a)及び構造単位(b)に加えて、炭素数1~8のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(A)及び炭素数10~30のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(B)以外の単量体(C)由来の構造単位(c)をさらに含んでいてもよい。
【0011】
(炭素数1~8のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(A))
炭素数1~8のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(A)(以下、「単量体(A)」ともいう。)としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、i-ペンチル(メタ)アクリレート、n-へキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐状の炭化水素骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリルアクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、メチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレートがより好ましい。
単量体(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。特に、硬度と柔軟性のバランスを容易に調整できる観点から、単量体(A)を2種以上併用することが好ましい。すなわち、共重合体(X)は構造単位(a)を2種以上含むことが好ましい。
【0012】
(炭素数10~30のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(B))
炭素数10~30のアルキルを有するアルキル(メタ)アクリレート(B)(以下、「単量体(B)」ともいう。)としては、例えばノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐状の炭化水素骨格を有するアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが好ましく、ステアリルメタクリレートのように直鎖状のアルキル鎖を有するメタクリレートがより好ましい。
単量体(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
(単量体(C))
単量体(C)は、単量体(A)及び単量体(B)と共重合可能であれば特に制限されないが、例えば(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸等のカルボキシル基を有する単量体;(メタ)アクリロニトリル;スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体などが挙げられる。
単量体(C)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
(割合)
共重合体(X)における構造単位(a)の割合は、共重合体(X)を構成する全構造単位の総質量に対して、20~95質量%が好ましく、25~95質量%がより好ましく、37~93質量%がさらに好ましく、50~90質量%が特に好ましく、70~90質量%が最も好ましい。構造単位(a)の割合が前記下限値以上であれば、シートの強度がより高まる。構造単位(a)の割合が前記上限値以下であれば、シートの靭性がより高まる。
【0015】
共重合体(X)における構造単位(b)の割合は、共重合体(X)を構成する全構造単位の総質量に対して、5~80質量%が好ましく、5~75質量%がより好ましく、7~63質量%がさらに好ましく、10~50質量%が特に好ましく、10~30質量%が最も好ましい。構造単位(a)の割合が前記下限値以上であれば、シートの靭性がより高まる。構造単位(a)の割合が前記上限値以下であれば、シートの強度がより高まる。
【0016】
共重合体(X)における構造単位(c)の割合は、共重合体(X)を構成する全構造単位の総質量に対して、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0017】
共重合体(X)は、熱分解性を良好にする観点から、メタクリレート由来の構造単位(以下、「構造単位(m)」ともいう。)を含むことが好ましい。
共重合体(X)における構造単位(m)の割合は、共重合体(X)を構成する全構造単位の総質量に対して、50~100質量%が好ましく、65~100質量%がより好ましく、80~99.9質量%がさらに好ましく、95~99.5質量%が特に好ましい。構造単位(m)の割合が前記下限値以上であれば、熱分解性がより良好となる。構造単位(m)の割合が前記上限値以下であれば、柔軟性を幅広く設計できる。
【0018】
(物性)
共重合体(X)のガラス転移温度(Tg)は、5~100℃が好ましく、20~80℃がより好ましく、45~70℃がさらに好ましい。共重合体(X)のガラス転移温度が前記下限値以上であれば、シート等の成型物の変形が抑制される。共重合体(X)のガラス転移温度が前記上限値以下であれば、シート等の成型物を熱圧着により積層する際の密着性が良好となる。
共重合体(X)のガラス転移温度は、共重合体(X)を構成する各単量体のホモポリマーのガラス転移温度及び質量分率から、下記式(1)で表されるFoxの計算式によって算出される値である。
1/(273+Tg)=Σ(Wi/(273+Tgi)) ・・・(1)
(式(1)中、Wiは単量体iの質量分率を示し、Tgiは単量体iのホモポリマーのガラス転移温度(℃)を示す。)
なお、単量体iのホモポリマーのガラス転移温度は、ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook,J.Brandrup,Interscience,1989〕に記載されている値を用いることができる。前記「ポリマーハンドブック」にホモポリマーのガラス転移温度が記載されていない単量体を用いた場合のTgは、JIS K 7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」に記載の方法で測定した実測値を用いる。
【0019】
共重合体(X)の重量平均分子量(Mw)は、50,000~400,000が好ましく、150,000~380,000がより好ましく、200,000~350,000がさらに好ましい。共重合体(X)の重量平均分子量が前記下限値以上であれば、シートの靭性がより高まる。共重合体(X)の重量平均分子量が前記上限値以下であれば、焼成用組成物や後述するスラリーの取り扱い性が良好となる。
共重合体(X)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。詳しい測定条件は後述する実施例に記載のとおりである。
【0020】
(共重合体(X)の製造方法)
共重合体(X)は、単量体(A)及び単量体(B)と、必要に応じて単量体(C)とを含む単量体混合物を重合開始剤の存在下、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等の通常知られる重合方法によって重合することで得られる。これらの中でも、分子量調整が容易であることに加え、様々な官能基を含有する単量体を使用すること可能な観点から溶液重合が好ましい。
【0021】
重合開始剤としては、例えば有機過酸化物、アゾ化合物等の通常のラジカル重合開始剤が挙げられる。
有機過酸化物としては特に制限されないが、例えばt-ブチルパーオキシピバレート、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどが挙げられる。
アゾ化合物としては特に制限されないが、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)などが挙げられる。
重合開始剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の添加量は特に制限されないが、重合率向上と分子量調整の観点から、量体混合物100質量部に対して0.1~5質量部が好ましい。
【0022】
単量体混合物を重合する際には、連鎖移動剤を用いてもよい。
連鎖移動剤としては、例えばメルカプタン類、αメチルスチレンダイマー、テルペノイド類などが挙げられる。これらの中でもメルカプタン類が好ましい。
連鎖移動剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤の添加量は特に制限されないが、共重合体(X)の分子量を調整しやすい観点から、単量体混合物100質量部に対して0.1~1質量部が好ましい。
【0023】
単量体混合物を溶液重合する際に使用する溶剤(反応溶媒)としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤などが挙げられる。
溶剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
単量体混合物を乳化重合する際に使用する乳化剤としては、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等のアニオン性乳化剤;ポリオキシエチレン基を有するアニオン性乳化剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のノニオン性乳化剤;分子中に重合性二重結合を有する反応性乳化剤などが挙げられる。
乳化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
乳化剤の添加量は特に制限されないが、熱分解性と重合の安定性の観点から、単量体混合物100質量部に対して0.5~3質量部が好ましい。
【0025】
なお、共重合体(X)を溶液重合により製造する場合、共重合体(X)は溶剤(反応溶媒)に溶解した状態、すなわちポリマー溶液の状態で得られる。このポリマー溶液を焼成用組成物として用いてもよい。この場合、焼成用組成物は、共重合体(X)と、任意成分として溶剤とを含有する。
また、ポリマー溶液にフィラーを添加し、必要に応じて溶剤でさらに希釈して、スラリーとして用いてもよい。希釈する際に用いる溶剤としては、共重合体(X)の製造に用いた反応溶媒が挙げられる。
【0026】
<含有量>
共重合体(X)の含有量は、焼成用組成物の総質量に対して20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。共重合体(X)の含有量が前記下限値以上であれば、シートの乾燥性が良好となる。
共重合体(X)の含有量は、焼成用組成物の総質量に対して55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、46質量%以下がさらに好ましい。共重合体(X)の含有量が前記上限値以下であれば、シートに成形しやすい。
共重合体(X)の含有量の前記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、共重合体(X)の含有量は、焼成用組成物の総質量に対して20~55質量%が好ましく、25~50質量%がより好ましく、30~46質量%がさらに好ましい。
【0027】
<物性>
焼成用組成物は、シートに成形したときの引張試験における最大応力が5N/mm以上であることが好ましく、より好ましくは10N/mm以上であり、さらに好ましくは20N/mm以上である。最大応力が前記下限値以上であれば、十分な強度を発現できる。
シートの強度の観点では、最大応力は大きいほど好ましく、最大応力の上限値については特に制限されないが、通常は100N・mm以下である。
【0028】
焼成用組成物は、シートに成形したときの引張試験における破断ひずみが20%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは100%以上である。最大応力が前記下限値以上であれば、十分な靭性を発現できる。
シートの靭性の観点では、破断ひずみは大きいほど好ましく、破断ひずみの上限値については特に制限されないが、通常は500%以下である。
【0029】
なお、シートの最大応力及び破断ひずみは、引張試験により測定したものである。引張試験は、JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995)に準拠し方法により、オートグラフを用い、初期のチャック間距離50mm、引張速度200mm/min、温度23℃の条件で行う。詳しい測定条件は後述する実施例に記載のとおりである。
【0030】
<作用効果>
以上説明した本実施形態の焼成用組成物は、構造単位(a)に加えて、構造単位(b)を含む共重合体(X)を含有する。構造単位(b)の由来となる単量体(B)は、結晶性が発現される長鎖アルキル基(具体的には炭素数10~30のアルキル基)を有するアルキル(メタ)アクリレートである。この単量体(B)由来の構造単位(b)を共重合体(X)が含むことで、焼成用組成物をシート化した際の硬さ及び脆さを改善できる。よって、本実施形態の焼成用組成物を用いれば、強度及び靭性に優れるシートが得られる。
【0031】
本実施形態の焼成用組成物は、フィラーを結着させるバインダとして用いることができる。特に、半導体製造に用いられるグリーンシート用のバインダとして好適である。例えば本実施形態の焼成用組成物と、フィラーと、必要に応じて溶剤とを混合してスラリーとした後に、シート状に成形することで、後述する本発明のグリーンシートが得られる。
【0032】
[スラリー]
以下、スラリーの一実施形態について説明する。
本実施形態のスラリーは、上述した本発明の焼成用組成物と、フィラーとを含有する。
本発明の焼成用組成物が溶剤を含有しない場合、スラリーは、焼成用組成物及びフィラーに加えて、溶剤をさらに含有する。
【0033】
本実施形態のスラリーは、半導体製造時のグリーンシートを製造するためのスラリーとして好適である。
【0034】
[グリーンシート]
以下、グリーンシートの一実施形態について説明する。
本実施形態のグリーンシート(「セラミックグリーンシート」ともいう。)は、上述した本発明の焼成用組成物に含まれる共重合体(X)と、フィラーとを含有する。
【0035】
本実施形態のグリーンシートは、上述した本発明の焼成用組成物を含有するので、強度及び靭性に優れ、半導体製造に用いられる電子部材として有用である。
【実施例0036】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はそれぞれ特に記載のない限り「質量部」及び「質量%」を示す。
【0037】
[測定・評価]
<ガラス転移温度(Tg)>
共重合体(X)のガラス転移温度は、下記式(1)で表されるFoxの計算式によって算出した。
1/(273+Tg)=Σ(Wi/(273+Tgi)) ・・・(1)
(式(1)中、Wiは単量体iの質量分率を示し、Tgiは単量体iのホモポリマーのガラス転移温度(℃)を示す。)
【0038】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
共重合体(X)の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーショングロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いてポリスチレン換算した値として算出した。GPCの測定条件は以下の通りである。
(GPC測定条件)
・装置:東ソー株式会社製の製品名「HLC-8220GPC」。
・カラム:東ソー株式会社製の製品名「TSKgel G5000HXL(7.8mmφ×300mm)」と製品名「GMHXL-L(7.8mmφ×300mm)」を直列に連結したもの。
・溶離液:テトラヒドロフラン。
・試料濃度:0.4質量%。
・測定温度:40℃。
・注入量:100μL。
・流量:1.0mL/分。
・検出器:RI(装置内蔵)、UV(東ソー株式会社製の製品名「UV-8220」)。
【0039】
<引張試験>
シートについて、JIS K 7127:1999(ISO 527-3:1995)に準拠し方法により、オートグラフ(株式会社島津製作所製、製品名「AGX-10kNVD」)を用い、初期のチャック間距離50mm、引張速度200mm/min、シート膜厚100μm±50μm、温度23℃の条件で引張試験を行った。そのときの応力歪み曲線において最も高い応力を最大応力とした。また、得られた応力-ひずみ曲線(SSカーブ)から、曲線下の面積を計算し、破断ひずみを求めた。さらに、最大応力及び破断ひずみの測定結果に基づき、以下の評価基準にて評価した。
【0040】
(最大応力の評価基準)
◎:最大応力が20N/mm以上である。
〇:最大応力が5N/mm以上、20N/mm未満である。
×:最大応力が5N/mm未満である、又は、最大応力を測定できない。
【0041】
(破断ひずみの評価基準)
◎:破断ひずみが100%以上である。
〇:破断ひずみが20%以上、100%未満である。
×:破断ひずみが20%未満である、又は、最大応力を測定できない。
【0042】
[実施例1]
<共重合体(X1)の製造>
温度計、温度調整機、撹拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備えた反応容器にトルエン75部とイソプロピルアルコール5部と、メチルメタクリレート37.5部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.5部と、ステアリルメタクリレート62部と、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.05部を反応容器内に添加した。重合装置内を十分に窒素置換し、45分で80℃に、30分で90℃に昇温した。1時間熟成後そこに、トルエン40部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.2部の混合物を150分かけて滴下した。滴下終了後、トルエン5部を急速滴下し、その後45分間熟成した。その後さらトルエン15部と、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)1.5部の混合物を60分かけて滴下し、90分間熟成した。冷却後イソプロピルアルコール60部を添加し、アクリル系重合体である共重合体(X1)を含むポリマー溶液を得た。ポリマー溶液の総質量に対する共重合体(X1)の含有量は、33%であった。
得られた共重合体(X1)のガラス転移温度及び重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。なお、共重合体(X1)の重量平均分子量を測定する際には、ポリマー溶液から溶剤を除去し、乾燥させたものを測定に用いた。
【0043】
<シートの製造>
先に得られたポリマー溶液を、アプリケーターを使用してPP(ポリプロピレン)板上に塗布し、その塗膜を90℃で30分間乾燥し、その後、PP板から剥離して、厚さ100μm±50μmのシートを得た。具体的には、厚さ61μmのシートを得た。
得られたシートについて、最大応力及び破断ひずみを測定した。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2~4、比較例1]
表1に示す配合組成の単量体混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして共重合体(X2)~(X5)を製造し、ガラス転移温度及び重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。
また、得られた共重合体(X2)~(X5)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシートを製造し、最大応力及び破断ひずみを測定した。結果を表1に示す。
なお、実施例2では厚さ100μmのシートを作製し、実施例3では厚さ111μmのシートを作製し、実施例4では厚さ115μmのシートを作製した。
【0045】
【表1】
【0046】
表1中の各略号はそれぞれ以下のものを意味する。
・MMA:メチルメタクリレート(ホモポリマーのTg:105℃)。
・nBMA:n-ブチルメタクリレート(ホモポリマーのTg:20℃)。
・iBMA:i-ブチルメタクリレート(ホモポリマーのTg:48℃)。
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(ホモポリマーのTg:55℃)。
・HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート(ホモポリマーのTg:-20℃)。
・SMA:ステアリルメタクリレート(ホモポリマーのTg:38℃)。
・AMBN:2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)。
・パーブチルO:t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート。
【0047】
表1から明らかなように、各実施例で得られたシートは、強度が高く、靭性にも優れていた。
一方、単量体(B)を用いていない比較例1で得られたシートは、シート形成ができなかったため、最大応力及び破断ひずみを測定できなかった。