(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131534
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフィーカラムの充填方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/56 20060101AFI20240920BHJP
G01N 30/60 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N30/56 A
G01N30/60 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041862
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安藤 信吾
(72)【発明者】
【氏名】砥綿 正人
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、使用開始時に充填剤がカラムに均一に充填されており、且つ、
使用中に充填剤が収縮してカラム内に空隙を生じることがなく、長期の使用期間に亘って
分離性能が低下することがない、液体クロマトグラフィーカラムの充填方法を提供するこ
とにある。
【解決手段】下記工程(1)~(3)を有する、液体クロマトグラフィーカラムの充填方
法;工程(1):充填剤と、該充填剤との親和性が良好であり、該充填剤より密度が小さ
い充填溶媒1とを混合して、充填剤スラリーを調製する工程、工程(2):該充填剤スラ
リーをカラムに投入して充填層を形成する工程、工程(3):該充填層中の充填溶媒1を
、該充填剤が収縮する充填溶媒2に置換しながら加圧して、該カラムに該充填剤を充填す
る工程。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)~(3)を有する、液体クロマトグラフィーカラムの充填方法;
工程(1):充填剤と、該充填剤との親和性が良好であり、該充填剤より密度が小さい充
填溶媒1とを混合して、充填剤スラリーを調製する工程、
工程(2):該充填剤スラリーをカラムに投入して充填層を形成する工程、
工程(3):該充填層中の充填溶媒1を、該充填剤が収縮する充填溶媒2に置換しながら
加圧して、該カラムに該充填剤を充填する工程。
【請求項2】
前記充填剤がポリマー系充填剤である、請求項1に記載の充填方法。
【請求項3】
前記充填溶媒1が有機溶媒である、請求項1又は2に記載の充填方法。
【請求項4】
前記充填溶媒2が、水、又は、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒である、請求項1又は
2に記載の充填方法。
【請求項5】
パッカーを用いた湿式充填法である、請求項1又は2に記載の充填方法。
【請求項6】
前記カラムの軸方向に上下動する可動栓を備えた可動栓カラムを用いた湿式充填法であ
る、請求項1又は2に記載の充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィーカラムを充填する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィーはカラムの固定相と移動相に対する分離対象物の親和性の差を
利用して、混合物から目的物質を分離する方法であり、分析から工業用まで幅広い分野で
利用されている。
液体クロマトグラフィーで良好な分離性能を得るためには、カラムに充填剤を均一に充
填する必要がある。カラムの充填が不均一な場合、目標とする成分の分離が不十分であっ
たり、分離の再現が得られなかったりする問題が生じる。
【0003】
液体クロマトグラフィーカラムに充填剤を均一に充填する方法として、特許文献1では
、多孔性の可動栓を備えた可動栓カラムを用い、可動栓から流体を供給してカラム内の充
填剤スラリーを攪拌しながら、充填剤を充填する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で提案されている充填方法では、使用開始時に充填剤がカラムに均一に充填
されているものの、液体クロマトグラフィーカラムの使用中に充填剤が収縮してカラム内
部に空隙を生じてしまい、分離性能が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、充填剤を収縮させる充填
溶媒を用い、充填剤を加圧してカラムに充填することで、上記課題を解決し得ることを見
出し、本発明に至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
[1] 下記工程(1)~(3)を有する、液体クロマトグラフィーカラムの充填方法;
工程(1):充填剤と、該充填剤との親和性が良好であり、該充填剤より密度が小さい充
填溶媒1とを混合して、充填剤スラリーを調製する工程、
工程(2):該充填剤スラリーをカラムに投入して充填層を形成する工程、
工程(3):該充填層中の充填溶媒1を、該充填剤が収縮する充填溶媒2に置換しながら
加圧して、該カラムに該充填剤を充填する工程。
[2] 前記充填剤がポリマー系充填剤である、[1]に記載の充填方法。
[3] 前記充填溶媒1が有機溶媒である、[1]又は[2]に記載の充填方法。
[4] 前記充填溶媒2が、水、又は、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒である、[1]
~[3]のいずれかに記載の充填方法。
[5] パッカーを用いた湿式充填法である、[1]~[4]のいずれかに記載の充填方
法。
[6] 前記カラムの軸方向に上下動する可動栓を備えた可動栓カラムを用いた湿式充填
法である、[1]~[5]のいずれかに記載の充填方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の充填方法によれば、使用開始時に充填剤がカラムに均一に充填されており、且
つ、使用中に充填剤が収縮してカラム内に空隙を生じることがないため、長期の使用期間
に亘って分離性能が低下することがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】可動栓カラムを用いた場合の本発明の充填方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。以下の実施の形態は
、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定する
ことは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施すること
が可能である。また、使用する図面は実施の形態の一例を説明するためのものであり、実
際の大きさを表すものではない。
【0011】
本発明は、工程(1)~(3)を有する、液体クロマトグラフィーカラムの充填方法で
ある。
工程(1)で充填剤のスラリーを調製して、充填剤をカラムに充填することから、本発
明の充填方法は、湿式充填法である。
【0012】
<工程(1)>
本発明の工程(1)は、充填剤と、該充填剤との親和性が良好であり、該充填剤より密
度が小さい充填溶媒1とを混合して、充填剤スラリーを調製する工程である。
【0013】
<充填剤>
本発明で用いる充填剤は、特に限定されるものではなく、イオン交換樹脂や合成吸着剤
として用いられる充填剤であればよい。
充填剤には、シリカ系等の無機系充填剤、スチレン系、アクリル系等のポリマー系充填
剤が挙げられる。
無機系充填剤の場合、用いる溶媒(溶離液)による体積変化が生じにくく、充填剤の収
縮による分離性能の低下が起こらない。
ポリマー系充填剤の場合、用いる溶媒(溶離液)によって体積変化が生じることから、
充填剤の収縮による分離性能の低下が起こり得る。
このことから、ポリマー系充填剤であれば、本発明の効果が顕著となる。
【0014】
ポリマー系充填剤は、その組成及び表面処理によって、親水性の充填剤と疎水性の充填
剤に分類できる。
親水性の充填剤の場合、後述する充填剤スラリーを調製する際に、水等の溶媒を用いる
ことができる。この場合、充填剤の体積変化は生じにくい。
疎水性の充填剤の場合、充填剤スラリーを調製する際に、水等の溶媒を用いると、充填
剤が分離してしまい、スラリーとはならない。また、充填剤の密度が溶媒よりも小さい場
合には、充填剤が浮上してしまい、スラリーとはならない。
このため、疎水性の充填剤のスラリーを調製する際には、疎水性の高い有機溶媒を用い
ることが必要となる。しかし、疎水性の高い有機溶媒を用いた場合には、充填剤が膨潤す
る傾向にあり、体積変化が生じる。
このことから、疎水性の充填剤であれば、本発明の効果が顕著となる。
【0015】
充填剤としては、本発明の効果が顕著となることから、ポリマー系充填剤が好ましく、
疎水性のポリマー系充填剤がより好ましい。
充填剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これ以降は、充填剤が、疎水性のポリマー系充填剤である場合について説明する。
【0016】
<充填溶媒1>
本発明で用いる充填溶媒1は、前記充填剤との親和性が良好であり、且つ、前記充填剤
より密度が小さい溶媒である。
疎水性のポリマー系充填剤との親和性が良好であることから、充填溶媒1は、疎水性の
高い溶媒である。
疎水性のポリマー系充填剤の密度は、1.0~1.2g/mLであることから、充填溶
媒1の密度は、1.0g/mL未満である。
【0017】
このような充填溶媒1として、有機溶媒が挙げられる。
有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール、2-プロパノ
ール、テトラヒドロフランが挙げられる。
これらの中では、粘度が低く充填時の圧力が高くなりすぎないということから、アセト
ニトリルが好ましい。
充填溶媒1は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
<充填剤スラリーの調製>
充填剤スラリーは、充填剤と充填溶媒1とを混合して調製する。
混合の際には、充填剤と充填溶媒1を公知の方法で計量して配合すればよく、また、攪
拌装置等、公知の方法で混合すればよい。
混合は、バッチ式であっても、連続式であってもよい。
【0019】
<工程(2)>
本発明の工程(2)は、充填剤スラリーをカラムに投入して充填層を形成する工程であ
る。
工程(1)で調製した充填剤スラリーをカラムに投入する際には、
図1で示したように
カラムの上方にパッカーを配置してもよいし、パッカーを配置せず、カラムに直接投入し
てもよい。パッカーを配置した方が、充填剤スラリーの投入が容易となり、好ましい。
充填剤スラリーの投入には、公知の方法を用いればよい。
投入は、バッチ式であっても、ポンプ等を用いた連続式であってもよい。
【0020】
充填剤スラリーをカラムに投入した後は、充填剤がカラム内に均一に充填されるよう、
また、充填層が密になるよう、
図1に示したように、ポンプを用いて充填溶媒1を供給し
てもよい。また、
図2に示したように可動栓を用いてもよい。
【0021】
<工程(3)>
本発明の工程(3)は、充填層中の充填溶媒1を、充填剤が収縮する充填溶媒2に置換
しながら加圧して、該カラムに該充填剤を充填する工程である。
工程(2)で形成した充填層は、充填溶媒1を含んだ状態であり、充填剤は充填溶媒1
によって膨潤した状態である。
図3に示した従来の充填方法は、工程(2)の段階でカラムへの充填を完了するもので
ある。充填剤が膨潤した状態で充填を完了することから、分離操作で使用する溶離液の変
更等によって充填剤が収縮し、カラム内に空隙を生じる可能性があった。
【0022】
<充填溶媒2>
本発明で用いる充填溶媒2は、前記充填剤が収縮する溶媒である。
充填剤は充填溶媒1によって膨潤した状態にあるので、充填溶媒2は、この充填剤の膨
潤状態を解消する溶媒であればよい。
【0023】
充填剤の膨潤状態を解消することから、充填溶媒2は、有機溶媒以外の溶媒である。
このような充填溶媒2として、水、又は、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒が挙げられ
る。
水溶性有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、メタノール、エタノール、2-プ
ロパノール、テトラヒドロフランが挙げられる。
これらの中では、充填剤との親和性が高く、さらに水との混合が容易との理由で、アセ
トニトリルが好ましい。
水溶性有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
水と水溶性有機溶媒との混合比率は、10/90~100/0である。ここで100/
0とは、水を単独で用いる場合を示している。
【0025】
<溶媒の置換、加圧>
充填溶媒1から充填溶媒2への置換は、
図1に示したように、ポンプを用いて充填層に
充填溶媒2を供給する方法が挙げられる。
溶媒の置換によって充填剤が収縮するため、充填層には空隙が生じ得る。それを抑制す
るため、充填層の加圧が必要となる。
図1では、ポンプを用いて加圧を実施している。
このようにして、カラムに充填剤を充填している。
【0026】
また、
図2に示したように可動栓を用いて、溶媒の置換をしつつ、加圧を実施してもよ
い。
このようにして、カラムに充填剤を充填してもよい。
【0027】
<作用機序>
本発明は、カラム充填時に、分離操作で使用する溶離液よりも充填剤が収縮する充填溶
媒を用いることにより、分離操作時の充填剤の収縮による、カラム内の空隙の発生を防止
することができ、結果として良好な分離性能を維持することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 カラム
2 パッカー
3 スラリー
4 充填溶媒1
5 充填溶媒2
6 ポンプ
7 可動栓