(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013167
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】多糖の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20240124BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240124BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240124BHJP
C07H 3/06 20060101ALI20240124BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C12P19/04
A23L33/10
C12N1/20 A
C07H3/06
C08J5/18 CEP
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115153
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】金子 哲
(72)【発明者】
【氏名】筒井 荘周
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4B065
4C057
4F071
【Fターム(参考)】
4B018MD33
4B018MF14
4B064AF11
4B064CA02
4B064DA10
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BD36
4B065CA22
4B065CA41
4B065CA60
4C057AA02
4C057BB03
4C057BB04
4F071AA08
4F071BC01
(57)【要約】
【課題】ペントースから多糖を製造する新たな微生物およびそれを利用した多糖の製造方法を提供する。
【解決手段】ペントースに、コサコニア・エスピーSO_001(NITE
P-03651)、パピリオトレマ・テレストリスSO_005(NITE
P-03652)、シュードアースロバクター・エスピーSO_006(NITE
P-03653)およびウィリアムシア・エスピーSO_009(NITE
P-03689)からなる群から選ばれる多糖生産性微生物の1種または2種以上を作用させることを特徴とする多糖の製造方法、これにより製造された多糖、この多糖を含有する飲食品、プラスチック、フィルム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペントースに、コサコニア・エスピーSO_001(NITE AP-03651)、パピリオトレマ・テレストリスSO_005(NITE AP-03652)、シュードアースロバクター・エスピーSO_006(NITE AP-03653)およびウィリアムシア・エスピーSO_009(NITE AP-03689)からなる群から選ばれる多糖生産性微生物の1種または2種以上を作用させることを特徴とする多糖の製造方法。
【請求項2】
以下の(a)~(d)の何れかの組成を有することを特徴とする多糖。
(a)D-グルコースが24±0.1~4質量%、D-ガラクトースが37±0.1~4質量%、L-フコースが31±0.1~4質量%、D-グルクロン酸が8±0.1~4質量%
(b)D-キシロースが29±0.1~4質量%、D-マンノースが67±0.1~4質量%、D-グルクロン酸が5±0.1~4質量%
(c)D-グルコースが53±0.1~4質量%、D-ガラクトースが12±0.1~4質量%、L-フコースが11±0.1~4質量%、D-マンノースが20±0.1~4質量%、D-グルクロン酸が3±0.1~4質量%
(d)D-グルコースが42±0.1~4質量%、D-ガラクトースが31±0.1~4質量%、D-マンノースが13±0.1~4質量%、D-グルクロン酸が14±0.1~4質量%
【請求項3】
請求項2記載の多糖を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項4】
請求項2記載の多糖を含有することを特徴とするプラスチック。
【請求項5】
請求項2記載の多糖を含有することを特徴とするフィルム。
【請求項6】
コサコニア・エスピーSO_001(NITE AP-03651)。
【請求項7】
パピリオトレマ・テレストリスSO_005(NITE AP-03652)。
【請求項8】
シュードアースロバクター・エスピーSO_006(NITE AP-03653)。
【請求項9】
ウィリアムシア・エスピーSO_009(NITE AP-03689)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の多糖生産性微生物を利用したペントースからの多糖の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグニンを主な成分として構成されており、それぞれを約三分の一ずつ含むものである。バイオ燃料製造等、既存の手法はセルロースのみの利用を目指したものである上、ヘミセルロースの利用研究は最も遅れている。ヘミセルロースはヘテロ多糖であり構成糖が複数ある上、発酵に適さないペントースが主成分であることに起因している。
【0003】
このようにペントースの利用は進んでいないのが実情であった。
【0004】
また、微生物がキサンタンガム、ジェランガム等の多糖を製造することが知られており、微生物が生産する多糖は幅広く産業に用いられているが、ペントースを原料できるものはクリプトコッカス(Cryptococcus)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、アースロバクター(Arthrobactor)属とシュードモナス(Pseudomonas)属のうちのごく一部の微生物でしか知られていなかった(非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Tanenbaum, B. Scott, P. Fisher, A. Henwood, J. Novak, D. Slomczynski, and J. Nakas: Bioconversion of Pentosans to heteropolysaccharides. in Novel Biodegradable Microbial Polymers, Springer, pp. 473-477 (1990).
【非特許文献2】S.W. Tanenbaum, P.J. Fisher, A. Henwood, J. Novak, B. Scott, and J.P. Nakas: Hemicellulose bioconversion to polyanionic heteropolysaccharides. Appl Biochem Biotechnol 34-35, 135-148 (1992).
【非特許文献3】J.S. Novak, S.W. Tanenbaum, and J.P. Nakas: Heteropolysaccharide Formation by Arthrobacter viscosus Grown on Xylose and Xylose Oligosaccharides. Appl Environ Microbiol 58, 3501-3507 (1992).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、ペントースから多糖を製造する新たな微生物およびそれを利用した多糖の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ペントースを炭素源とした微生物のスクリーニングを行い、それにより得られた微生物がペントースから多糖を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
また、上記で製造された多糖は種々の領域に利用可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明はペントースに、コサコニア・エスピーSO_001(NITE AP-03651)、パピリオトレマ・テレストリスSO_005(NITE AP-03652)、シュードアースロバクター・エスピーSO_006(NITE AP-03653)およびウィリアムシア・エスピーSO_009(NITE AP-03689)からなる群から選ばれる多糖生産性微生物の1種または2種以上を作用させることを特徴とする多糖の製造方法である。
【0010】
また、本発明は以下の(a)~(d)の何れかの組成を有することを特徴とする多糖である。
(a)D-グルコースが24±0.1~4質量%、D-ガラクトースが37±0.1~4質量%、L-フコースが31±0.1~4質量%、D-グルクロン酸 が8±0.1~4質量%
(b)D-キシロースが29±0.1~4質量%、D-マンノースが67±0.1~4質量%、D-グルクロン酸 が5±0.1~4質量%
(c)D-グルコースが53±0.1~4質量%、D-ガラクトースが12±0.1~4質量%、L-フコースが11±0.1~4質量%、D-マンノースが20±0.1~4質量%、D-グルクロン酸 が3±0.1~4質量%
(d)D-グルコースが42±0.1~4質量%、D-ガラクトースが31±0.1~4質量%、D-マンノースが13±0.1~4質量%、D-グルクロン酸 が14±0.1~4質量%
【0011】
更に、本発明は上記多糖を含有することを特徴とする飲食品、プラスチックまたはフィルムである。
【0012】
また更に、本発明は以下の微生物である。
・コサコニア・エスピーSO_001(NITE AP-03651)。
・パピリオトレマ・テレストリスSO_005(NITE AP-03652)。
・シュードアースロバクター・エスピーSO_006(NITE AP-03653)。
・ウィリアムシア・エスピーSO_009(NITE AP-03689)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多糖生産性微生物によりペントースから多糖を製造することができる。この多糖は従来の多糖と同様に飲食品、プラスチック、フィルム等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】単離後の菌体外多糖生産菌を示す写真である(A:SO_001、B:SO_005、C:SO_006、D:SO_009)。
【
図2】調製した多糖試料のFT-IR分析結果を示す図である(A:SO_001由来の多糖、B:SO_005 由来の多糖、C:SO_006由来の多糖、D:SO_009由来の多糖)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の多糖の製造方法は、ペントースに、コサコニア・エスピーSO_001、パピリオトレマ・テレストリスSO_005、シュードアースロバクター・エスピーSO_006およびウィリアムシア・エスピーSO_009からなる群から選ばれる多糖生産性微生物の1種または2種以上を作用させる方法である。これらの多糖生産性微生物は、ペントースに作用させると菌体外に多糖を産生するものである。
【0016】
このような多糖生産性微生物は、ペントースを利用したスクリーニングにより得ることができる。ペントースを利用した微生物のスクリーニングは、土壌もしくは海水サンプルを希釈した後、唯一の炭素源としてペントースを含む寒天培地に接種して培養し、生えてきたコロニーから粘質性の強いものを目視により選抜することによって行うことができる。
【0017】
上記スクリーニングに用いるペントースとしては、例えば、D-キシロース、D-リボース、D-アラビノース、D-リキソース等のアルドペントース、リブロース、キシルロース等のケトペントース等が挙げられ、これらの中でもD-キシロースが好ましい。上記スクリーニングで用いる寒天培地は特に限定されないが、例えば、寒天を1.0~1.5質量%(以下、単に「%」という。)、ペントースを0.5~20%を含有し、pHは6~8である。培養条件は特に限定されないが、例えば、30℃の静置培養である。選抜は目視により行った。
【0018】
このようなスクリーニングを行うことにより得られた多糖生産性微生物の例として以下のものが挙げられる。なお、以下の多糖生産性微生物の分類はバージーズマニュアル(Bergey's Manual)等に従って行い、新菌株かどうかの判断は、形態的性質、生理学的性質、ペントースからの多糖生成等を踏まえて判断された。
【0019】
コサコニア・エスピー(Kosakonia sp.)SO_001(以下、単に「SO_001」ということもある)
<形態的性質>(表1の培地における性質)
コロニーの色:白濁色
2%キシロース寒天培地上で粘質物を生産する
走査電子顕微鏡での観察:桿菌
グラム陰性
カタラーゼ活性陽性
オキシダーゼ活性陰性
<生育状態>
最適温度:30~55℃
最適pH:5.5~7.5
<生理学的性質>
API50CH、API20NE、APIZYMの結果を参照。
<ペントースに作用させて得られる多糖>
組成:D-グルコースが24%、D-ガラクトースが37%、L-フコースが31%、D-グルクロン酸が8%
分子量:4.5×106Da、3.55×106Daまたは1.29×106Da
粘度:低い
<寄託情報>
コサコニア・エスピーSO_001は、Kosakonia sp. SO_001として2022年5月27日にNITE AP-03651として独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター特許微生物寄託センター(NPMD) (TEL:0438-20-5580、FAX:0438-20-5581、住所:〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託された。
【0020】
パピリオトレマ・テレストリス(Papiliotrema terrestris)SO_005(以下、単に「SO_005」ということもある。)
<形態的性質>(表1の培地における性質)
シロキクラゲ科に属する担子菌酵母
走査電子顕微鏡での観察:酵母細胞は球形のものが多く見られた
クリーム状のバイオフィルムを形成
コロニーの色:白濁色またはクリーム色
2%キシロース寒天培地上で粘質物を生産する
オキシダーゼ活性陽性
<生育状態>
最適温度:30~35℃
最適pH:6.0~9.0
<生理学的性質>
API50CH、API20NE、APIZYMの結果を参照。
<ペントースに作用させて得られる多糖>
組成:D-キシロースが29%、D-マンノースが67%、D-グルクロン酸 が5%
分子量:5.91×106Da
粘度:高い
<寄託情報>
パピリオトレマ・テレストリスSO_005は、Papiliotrema terrestris SO_005として2022年5月27日にNITE AP-03652として上記独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託された。
【0021】
シュードアースロバクター・エスピー(Pseudoarthrobacter sp.)SO_006(以下、単に「SO_006」ということもある)
<形態的性質>(表1の培地における性質)
コロニーの色:白色
2%キシロース寒天培地上で粘質物を生産する
走査電子顕微鏡での観察:桿菌
グラム陽性
カタラーゼ活性陽性
オキシダーゼ活性陰性
<生育状態>
最適温度:30℃
最適pH:6.0~9.0
<生理学的性質>
API50CH、API20NE、APIZYMの結果を参照。
<ペントースに作用させて得られる多糖>
組成:D-グルコースが53%、D-ガラクトースが12%、L-フコースが11%、D-マンノースが20%、D-グルクロン酸 が3%
分子量:4.41×106Da、2.58×106Daまたは1.7×106Da
粘度:高い
<寄託情報>
シュードアースロバクター・エスピーSO_006は、Pseudoarthrobacter sp. SO_006として2022年5月27日にNITE AP-03653として上記独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託された。
【0022】
ウィリアムシア・エスピー(Williamsia sp.)SO_009(以下、単に「SO_009」ということもある)
<形態的性質>(表1の培地における性質)
グラム陽性
走査電子顕微鏡での観察:桿菌
2%キシロース寒天培地上で粘質物を生産する
カタラーゼ活性陽性
オキシダーゼ活性陰性
コロニーの色:橙色
高温での培養は生育に適さない
<生育状態>
最適温度:30℃
最適pH:5.0~6.0
<生理学的性質>
API50CH、API20NE、APIZYMの結果を参照。
<ペントースに作用させて得られる多糖>
組成:D-グルコースが42%、D-ガラクトースが31%、D-マンノースが13%、D-グルクロン酸 が14%
分子量:4.41×106Da
粘度:低い
<寄託情報>
ウィリアムシア・エスピー SO_009は、Williamsia sp. SO_009として2022年7月14日にNITE AP-03689として上記独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託された。
【0023】
本発明の多糖の製造方法において、ペントースに、多糖生産性微生物を作用させる条件は特に限定されないが、例えば、ペントースを1~20%、好ましくは1~5%含む培地に、ペントースを分解可能な量の多糖生産性微生物を、好ましくは多糖生産性微生物の濁度をOD600=1.0に調整した溶液を1mL接種し、培養すればよい。培養は、例えば、25~35℃で、静置培養、 振とう培養等を行えばよい。振とう培養の条件は特に限定されないが、例えば、170rpmである。なお、培地の種類は特に限定されず、例えば、KH2PO4、MgSO4が含まれている培地であれば特に限定されず、その他にペプトン、や酵母エキス等を含有していてもよい。このような培地の具体例としては、表1に記載の組成の培地から糖源を除いたもの等が挙げられる。
【0024】
本発明の多糖の製造方法に用いられるペントースは、植物細胞壁からなる資源であれば特に限定されない。植物細胞壁からなる資源としては、例えば、コーンコブ、バガス、コーンストーバー、麦わら、木材等が挙げられる。また、これらの資源は酸分解等してもよい。
【0025】
上記のようにしてペントースに、多糖生産性微生物を作用させた後は、菌体と菌体外多糖を分離精製して多糖を回収することが好ましい。精製の手段としては、例えば、遠心分離等が挙げられる。遠心分離の条件は特に限定されないが、例えば、6,000~15,000×g、15~45分、4~24℃、好ましくは15,000×g、45分、4℃である。
【0026】
この多糖は、そのまま使用することもできるが、必要に応じて、更に精製することが好ましい。精製の手段は、特に限定されないが、例えば、上記手順で得られた菌体外多糖を更に透析チューブを用いて透析を行い、その後、再度遠心分離を行えばよい。透析チューブは、6,000~14,000Daのカットオフ、好ましくは14,000Daカットオフのものである。透析時間は特に限定されないが、例えば、1~3日間、好ましくは3日間である。また、この多糖は上記操作後、凍結乾燥をしてもよい。この凍結乾燥は常法で行うことができる。
【0027】
このようにして得られる多糖は、例えば、以下の組成を有する。
SO_001から得られる多糖
D-グルコースが24±0.1~4質量%、好ましくは24±2質量%、D-ガラクトースが37±0.1~4質量%、好ましくは37±2質量%、L-フコースが31±0.1~4質量%、好ましくは31±2質量%、D-グルクロン酸が8±0.1~4質量%、好ましくは8±2質量%
SO_005から得られる多糖
D-キシロースが29±0.1~4質量%、好ましくは29±2質量%、D-マンノースが67±0.1~4質量%、好ましくは67±2質量%、D-グルクロン酸が5±0.1~4質量%、好ましくは5±2質量%
SO_006から得られる多糖
D-グルコースが53±0.1~4質量%、好ましくは53±2質量%、D-ガラクトースが12±0.1~4質量%、好ましくは12±2質量%、L-フコースが11±0.1~4質量%、好ましくは11±2質量%、D-マンノースが20±0.1~4質量%、好ましくはD-マンノースが20±2質量%、D-グルクロン酸が3±0.1~4質量%、好ましくは3±2質量%
SO_009から得られる多糖
D-グルコースが42±0.1~4質量%、好ましくは42±2質量%、D-ガラクトースが31±0.1~4質量%、好ましくは31±2質量%、D-マンノースが13±0.1~4質量%、好ましくは13±2質量%、D-グルクロン酸が14±0.1~4質量%、好ましくは14±2質量%
【0028】
このようにして得られる多糖は、従来の多糖と同様に、例えば、飲食品、医薬品、プラスチック、フィルム、フラクチャリング、化粧品、製品加工(半導体、金属加工など)等に使用することができる。これらの中でも、プラスチック、フィルム、飲食品に使用することが好ましい。
【実施例0029】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
実 施 例 1
多糖生産性微生物の入手:
<スクリーニング>
沖縄県本島各地の42か所の海辺、美ら海水族館から土壌または溶液サンプルを採集した。菌体外に粘質性の物質を生産する微生物のスクリーニングは、採取サンプル1g、液体サンプルの場合は1mLを滅菌した水道水9mLに懸濁し、1000倍に希釈した後、100μLを表1に示した組成の寒天培地に播種して生えてきたコロニーから粘質性の強いものを目視により選抜することによって行った。シングルコロニーを滅菌水に懸濁、適宜希釈して寒天培地に播種する操作を2度行い、目視による観察において変化のなかったものを単離菌として、以降の実験に使用した。
【0031】
【0032】
<菌体外多糖の精製>
表1に記載した組成の培地から寒天(Agar)を抜いた組成の培地を3mLずつファルコンチューブに分注し、30℃、170rpm、72時間、振とう培養を行った。なお、培地の調製は、炭素源とその他の成分を別々の容器に溶解、別々にオートクレーブ(120℃、15min)を行い、冷却後、クリーンベンチ内で無菌的に混合することにより行った。得られた培養液をOD600=1.0になるように滅菌水で希釈し、あらかじめ培地100mLを分注した滅菌済みの500mLバッフル付き三角フラスコに各菌の懸濁液を1mLずつ接種し、30℃、170rpm、72時間振とう培養を行った。その後、得られた培養液を遠心分離(15,000×g、45min、4℃)し、培養上清を回収した。培養上清を100℃、1時間加熱を行い再度遠心分離(15,000×g、45min、4℃)し、培養上清を回収し、14,000Daカットオフの透析チューブを用い3日間透析を行った。その後、再度遠心分離(15,000×g、45min、4℃)し、培養上清を回収し凍結乾燥した後、その後の解析へ供した。
【0033】
<分析方法>
【0034】
電子顕微鏡観察は、電子顕微鏡を用いて行った。
【0035】
遺伝子解析は、常法に従って、16S DNA、Blast、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)のMiFuP Safetyで行った。
【0036】
糖の資化性等の生理学的性質は、API50CH、API20NE、APIZYM(何れもBiomerieux, Lyon, France製)を用いて行った。なお、API50CHは糖代謝判定用、API20NEは菌種判定用、APIZYMは細菌酵素検出用である。
【0037】
脂質の解析は、既報(生物工学基礎講座 バイオよもやま話 脂肪酸分析は意外と簡単、生物工学会誌 / 日本生物工学会 編 90 (2), 89-92, 2012)に従って脂質を抽出し、既報(「脂肪酸メチルエステル分析に使用するカラムの選択 アプリケーション」、Frank David, Pat Sandra, Allen K. Vickers(アジレント・テクノロジー株式会社のホームページ(https://www.chem-agilent.com/appnote/applinote.php?pubno=5989-3760JAJP)より入手))に従ってGC-MSで測定した。具体的には、凍結乾燥した菌体を1mLのヘキサンに溶解し100μLの1MKOH/メタノール溶液を加え2分間攪拌、その後遠心分離を行い、上層(ヘキサン層)を回収し、GC-2010(SHIMADZU, Kyoto, Japan)、カラムはDB-Wax(Agilent Technologies, Santa Clara, CA)を用いて測定を行なった。
【0038】
最適pHは表1の培地を塩酸、水酸化ナトリウムを用いてpHを調整し培地2mLに、菌体の濁度をOD600=1.0に調整した微生物を2μL接種し30℃で培養、数時間おきに濁度を測定することにより判定した。また、最適温度は表1の培地2mLに、菌体の濁度をOD600=1.0に調整した微生物を2μL接種後25、30、35℃でそれぞれ培養し、数時間おきに濁度を測定することにより判定した。
【0039】
フーリエ変換赤外分光法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)は、KBr錠剤法により測定した。乾燥させた試料をKBrの粉末と混合し、FT/IR-6100 spectrophotometer(JASCO, Tokyo, Japan)を使用し、4000cm-1から400cm-1のスペクトルを得た。
【0040】
構成糖分析は、ねじ口試験管(φ15mm×105mm)に多糖試料を1mg測り取り、2M TFAを250μL加え、ふたを閉め、121℃、1時間加水分解を行った後、室温に戻るまで放冷した。その後、イソプロパノール300μL加え、気流を吹き付けることにより乾燥させた。この作業を3回繰り返した試料を少量の水に溶解し、分解物をCarbo Pac PA-20(Dionex Co. Ltd., Sunnyvale, CA)もしくはCarbo Pac PA-1(Dionex Co. Ltd., Sunnyvale, CA)とパルスドアンペロメトリー検出器を備えた陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC-PAD)によって検出を行った。
【0041】
分子量の測定は、1mg/mLに溶解した多糖試料をゲル濾過樹脂Sephacryl S-500(Cytiva, Tokyo, Japan)に供することにより行った。高速液体クロマトグラフィーシステム(LC-2000Plus series,JASCO,Tokyo,Japan)を用い、溶媒には水を使用し、室温、流量0.4mL/分で分析した。検出はIR検出器(FP-2025Plus、JASCO,Tokyo,Japan)を使用した。分子量スタンダードとしてプルランスタンダード(Sigma-aldrich, St. Louis, U.S.A)(分子量800,000, 200,000, 50,000)を使用した。
【0042】
<結果>
スクリーニングを行なった結果、D-キシロースを炭素源とし、粘質物を生産する15株を得た。そこから16S DNAの解析を行い、類似の菌を除いて4株の単離に成功した(
図1)。これら4株を表1に記載の培地で培養した後、電子顕微鏡で観察した。
【0043】
SO_001、SO_006、SO_009は桿菌であるが、形体は異なった。SO_001では長い糸状の多糖と思われる物質が観察されたが、SO_009では糸状の物質はあまり観察されず、粘着物が菌にまとわり付いている様が観察された。SO_006は両者とも異なり蚕の繭のような形状をしていた。またSO_001に比べて細い糸状の物質が観察された。SO_005はいずれとも異なり、球状の形状で、細い糸状の物質に覆われていた。
【0044】
これら4株のゲノムDNAを調製し、ゲノム遺伝子配列を解析し、各菌のDe novo assembleの最長contigより任意の3kbの配列を抽出してBLAST解析し、相同性の高いゲノム配列をダウンロードしてマッピングを行ったところ、SO_001は最大のマッピングレートはKosakona radicincitans GXGLに対して94.0、SO_005は該当なし、SO_006はPseudarthrobacter chlorophenolicus A6 に対して54.2、SO_009はGordonia bronchialis strain FDAARGOS_676に対して15.5となった。SO_006、SO_009は既知の菌とは似ていない新規なものであると判断された。SO_005は該当がなかったため、De novo assembleの最大depthコンティグでblastし、相同性の高いゲノム配列をダウンロードしてマッピングをやり直したところ、Papiliotrema terrestris 28S rDNAとidenty 99.77%であった。16S DNA配列の相同性は、SO_001はKosakonia oryzae Ola51と98.9%, SO_006はArthrobactor enciensis NIO-1008と97.7%、SO_009はWilliamsia marianensis DSM44944と98.8%となった。これらの結果からSO_001はKosaconia sp.,SO_005はPapilliotrema terrestris、SO_006はPseudoarthrobacter sp.、SO_009はWilliamsia sp.と判断した。NITEのMiFuP Safetyを用いて解析したところ、これらの微生物には有害性に関わる遺伝子領域が含まれていないことが判明した。
【0045】
各菌株の糖の資化性等の生理学的性質を解析した結果を示す。API50CHの結果を表2に、API20NEの結果を表3に、APIZYMの結果を表4に示した。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
API50CHとAPI20NEで糖代謝の結果が異なるが、プロトコールが異なっているためだと考えられる。API20NEは菌種判定用、API50CHは糖代謝を調べるキットであるため、糖代謝についてはAPI50CHの結果の信頼度が高いと考えられる。
【0050】
SO_001は30-35℃、pH5.5-7.5、SO_005は30-35℃、pH6.0-9.0、SO_006は30℃、pH6.0-9.0、SO_009は30℃、pH5.0-6.0の範囲でよく生育した。API50CHキットの結果では糖代謝が調べられているがSO_001以外はかなりの項目で[-]となった。この結果からSO_001以外は菌の増殖スピードが若干遅いと考えられた。SO_001以外の菌はキシロースの資化性は[-]という結果になっている点からもこの説は支持される。SO_009は、全てが[-]であった。グルコースも[-]であり、キシロースとグルコースの代謝スピードがあまり変わらない可能性が示唆された。
【0051】
各菌株の脂質の解析結果を表5に示す。
【0052】
【0053】
SO_001では、C16:0を最も多く含み、ついでC17:1を多く含んでいた。他にはC12:0、C14:0、C15:0、C18:0、C18:3 n3などが検出された。SO_005では、C18:1 c+tとC18:0が多く含まれていた。他にはC16:0、C8:0が検出された。SO_006にはC15:0、C17:0が多く含まれ、他にはC14:1、C15:1、C16:0などが検出された。SO_009にはC16:0、C18:1 c+tが多く含まれ、他にはC14:1、C17:0、C18:0が検出された。各菌株の脂質の解析の結果について、類縁菌の脂質組成と比較したところ、各菌株の細胞内脂肪酸の近縁種のそれぞれの特徴を捉えていると思われる。類縁菌(同属の微生物)の脂質組成としては、文献に記載のものを用いた(SO_001:Enterobacter xiangfangensis sp. nov., isolated from Chinese traditional sourdough, and reclassification of Enterobacter sacchari Zhu et al. 2013 as Kosakonia sacchari comb. nov Chun Tao Gu, Chun Yan Li , Li Jie Yang , Gui Cheng Huo Kosakonia Janet Jan-Roblero, Juan Antonio Cruz-Maya,Claudia Guerrero Barajas、SO_005:Isolation of a new Papiliotrema laurentii strain that displays capacity to achieve high lipid content from xylose, Nivea Moreira Vieira, Raquel Cristina Vieira Dos Santos, Vanessa Kely de Castro Germano, Rafaela Zandonade Ventorim, Eduardo Luis Menezes de Almeida, Fernando Augusto da Silveira , Jose Ivo Ribeiro Junior, Wendel Batista da Silveira、SO_006:Pseudarthrobacter psychrotolerans sp. nov., a cold-adapted bacterium isolated from Antarctic soil, Yoonjae Shin, Byoung-Hee Lee , Ki-Eun Lee , Woojun Park、SO_009:Williamsia aurantiacus sp. nov. a novel actinobacterium producer of antimicrobial compounds isolated from the marine sponge, Claudia Beatriz Afonso de Menezes, Rafael Sanches Afonso, Wallace Rafael de Souza, Marcia Maria Parma, Itamar Soares de Melo, Fernando Lucas Satoru Fugita, Luiz Alberto Beraldo Moraes, Tiago Domingues Zucchi, Fabiana Fantinatti-Garboggini)。
【0054】
各菌株の生産する粘質物の解析を行った。まず、調製した試料に多糖が含まれているか調べるためにFT-IR分析を行った。基本的に似た形になった。いずれも糖類に特徴的なピーク(水酸基に該当する3500-3200cm
-1、カルボキシル基に相当する1600-1725cm
-1、COに相当する1150-1000cm
-1)を検出した。得られた試料に多糖が含まれていることを確認した(
図2)。
【0055】
また、多糖試料を加水分解し、HPAEC-PADにて構成糖分析を行った結果を表6に示す。
(表中、「D-Glc」はD-グルコースを、「D-Gal」はD-ガラクトースを、「D-Xyl」はD-キシロースを、「D-Fuc」はL-フコースを、「D-Man」はD-マンノースを、「D-GlcA」はD-グルクロン酸を、それぞれ示す。)
【0056】
【0057】
SO_001はD-グルコースが24%、D-ガラクトースが37%、L-フコースが31%、D-グルクロン酸が8%であった。Kosakonia sp. CCTCC M2018092 のフコースリッチな多糖は質量数 (3.65 × 105 Da) であり(S. Li, H. Xia, A. Xie, Z. Wang, K. Ling, Q. Zhang, and X. Zou: Structure of a fucose-rich polysaccharide derived from EPS produced by Kosakonia sp. CCTCC M2018092 and its application in antibacterial film. Int J Biol Macromol 159, 295-303 (2020).)、SO_001と比べると10倍ほど小さかった。フコースリッチな多糖の酸による部分分解物の構成糖の比はL-フコース、D-グルコース、D-ガラクトース、D-グルクロン酸、ピルビン酸が2.03:1.00:1.18:0.64:0.67であり、→3)-β-D-Glcp-(1→4)-α-L-Fuc-(1→4)-α-L-Fucp-(1→からなる主鎖の還元末端側のFucの3位に4位か6位が ピルビン酸で修飾されたD-Galp-(1→3)-α-D-GlcpA-(1→3)-α-D-Galp-(1→という構造の側鎖が結合したものを基本骨格とする繰り返し構造であることが示唆されている(S. Li, H. Xia, A. Xie, Z. Wang, K. Ling, Q. Zhang, and X. Zou: Structure of a fucose-rich polysaccharide derived from EPS produced by Kosakonia sp. CCTCC M2018092 and its application in antibacterial film. Int J Biol Macromol 159, 295-303 (2020).)。
【0058】
SO_005はD-キシロースが29%、D-マンノースが67%、D-グルクロン酸 が5%であった。そのためglucuronoxylomannanであると考えられる。Papiliotrema flavescens が生産する多糖の酸加水分解の構造決定がなされているが、α-1,3-結合したマンノースの主鎖にβ-1,2結合でグルクロン酸かキシロースの側鎖が結合した構造であり、キシロース側鎖の先にはβ-1,2-結合のキシロース、α-1,2-結合のマンノース、α-1,2-マンノシルβ-1,2-キシロースなどが結合していることが示されている(S.W. Oluwa: Structure and Foaming Properties of Viscous Exopolysaccharides from a Wild Grape-Associated Basidiomycetous Yeast. J Microbiol Biotechnol 30, 1739-1749 (2020).)。Tremella由来の菌体外多糖も同様の構造が示されている(S. De Baets and E. Vandamme: Extracellular Tremella polysaccharides: structure, properties and applications. Biotechnology Letters 23, 1361-1366 (2001).)。
【0059】
SO_006はD-グルコースが53%、D-ガラクトースが12%、L-フコースが11%、D-マンノースが20%、D-グルクロン酸が3%であった。Arthrobacter viscosusはキシロースやキシロオリゴ糖を炭素源としてヘテロ多糖を生産した報告がある。炭素源によって分子量600kDa~1500kDaと幅があるが、SO_006の多糖は同じか数倍大きい。この多糖はグルコース30%弱、ガラクトース30%程度、マンニュロン酸20%弱から構成されており、アセチル化されている。SO_006はマンニュロン酸を含まずL-フコースが11%、D-マンノースが20%、D-グルクロン酸が3%含まれることから異なる構造をしていることが予想される。
【0060】
SO_009はD-グルコースが42%、D-ガラクトースが31%、D-マンノースが13%、D-グルクロン酸が14%であった。Williamsiaの多糖の研究はなく、詳細は不明である。
【0061】
また、プルランを標準としてSephacryl S-500 HR を用いたゲル濾過法を用い各菌株の生産する菌体外多糖の推定質量数を求めた結果、Kosakonia sp. SO_001の生産する多糖では4.5×106Da、3.55×106Da、1.29×106Da、Papiliotrema terrestris SO_005の生産する多糖は、5.91×106Da、Pseudoarthrobacter sp. SO_006の生産する多糖は、4.41×106Da、2.58×106Da、1.7×106Da、Williamsia sp. SO_009の生産する多糖は、4.41×106Daと算出され、4株共に高分子の菌体外多糖を生産することが明らかとなった。
【0062】
<他の菌との比較>
Kosakonia種の菌体外多糖生産する株は、Kosakonia cowanii LT-1株(Development of sugarcane resource for efficient fermentation of exopolysaccharide by using a novel strain of Kosakonia cowanii LT-1)、Kosakonia sp. CCTCC M2018092株(Structure of a fucose-rich polysaccharide derived from EPS produced by Kosakonia sp. CCTCC M2018092 and its application in antibacterial film)の2株の報告があり、Kosakonia cowanii LT-1株の生産する多糖は、D-グルコース、D-ガラクトース、D-グルコサミン、D-フコースで構成され、Kosakonia sp. CCTCC M2018092株の生産する多糖は、D-フコース、D-グルコース、D-ガラクトース、D-グルクロン酸およびピルビン酸で構成されていることが報告されている。また、Kosakonia種の近縁種であるEnterobacter A47株は、D-フコース、D-グルコース、D-ガラクトース、D-グルクロン酸を含むa value-added fucose-rich extracellular polysaccharideを生産することが知られている(Extraction of the Bacterial Extracellular Polysaccharide FucoPol by Membrane-Based Methods: Efficiency and Impact on Biopolymer Properties)。いずれの株も、D-フコース、D-グルコース、D-ガラクトースを含んでおり、Kosakonia sp. SO_001の生産する多糖もその特徴に当てはまる。しかし、炭素源をD-キシロースとした報告は見つからなかった。これらの結果から、SO_001は、既知のKosakonia属の株と異なる新種のコサコニア・エスピーであると判断される。
【0063】
Papiliotrema 種の菌体外多糖を生産する株には、Papiliotrema flavescensが知られている(Structure and Foaming Properties of Viscous Exopolysaccharides from a Wild Grape-Associated Basidiomycetous Yeast Papiliotrema flavescens Formerly Known as Cryptococcus flavescens)。Papiliotrema flavescensの生産する多糖は、D-マンノース、D-グルコース、D-キシロースおよびD-グルクロン酸で構成されており、Papiliotrema terrestris SO_005の生産する多糖とは構成糖が異なっていた。また、炭素源をD-キシロースとした際の菌体外多糖生産に関する報告はなかった。これらの結果から、SO_005は、新種のパピリオトレマ・テレストリスであると思われる。
【0064】
Pseudoarthrobacterの菌体外多糖生産に関する報告は見つからなかったが、近縁種であるArthrobacterでは、菌体外多糖生産に関する報告が見つかった。Arthrobacter sp. CE-17株では、D-グルコース、D-マンノース、D-ガラクトース、L-ラムノース、D-グルクロン酸、ピルビン酸を含むSimusanを生産することが知られている(Structure of simusan, a new acidic exopolysaccharide from Arthrobacter sp)。また、Arthrobacter sp. B4株では、D-ガラクトース、D-グルコース、D-マンノース、D-グルクロン酸で構成され(Characterization and flocculation mechanism of an alkali-activated polysaccharide flocculant from Arthrobacter sp. B4)、Arthrobacter ps-5株では、スクロースまたはグルコースを炭素源としたときに、D-グルコースとD-ガラクトース、少量の酸性糖を含んだ菌体外多糖を生産したと報告がある(Effects of carbohydrate sources on biosorption properties of the novel exopolysaccharides produced by Arthrobacter ps-5)。これらの株の生産する多糖と Pseudoarthrobacter sp. SO_006の生産する多糖は構成糖が異なっていた。また、炭素源をキシロースとした際の菌体外多糖生産に関する報告はなかった。これらの結果から、SO_006は、既知のPseudoarthrobacter属の株と異なる新種のシュードアースロバクター・エスピーであると判断される。
【0065】
Williamsia の菌体外多糖生産に関する報告は見つからなかった。また、炭素源をD-キシロースとした際の菌体外多糖生産に関する報告もなかった。これらの結果から、SO_009は、新種のウィリアムシア・エスピーと判断される。
【0066】
以上の通り、本発明の実施例で用いられた、ペントースから多糖を菌体外に製造できるコサコニア・エスピーSO_001、パピリオトレマ・テレストリスSO_005、シュードアースロバクター・エスピーSO_006、ウィリアムシア・エスピーSO_009およびこれらをペントースに作用させて製造される多糖については今まで報告のないものであった。
SO_001は30-35℃、pH5.5-7.5、SO_005は30-35℃、pH6.0-9.0、SO_006は30℃、pH6.0-9.0、SO_009は30℃、pH5.0-6.0の範囲でよく生育した。PI50CHキットの結果では糖代謝が調べられているがSO_001以外はかなりの項目で[-]となった。この結果からSO_001以外は菌の増殖スピードが若干遅いと考えられた。SO_001以外の菌はキシロースの資化性は[-]という結果になっている点からもこの説は支持される。SO_009は、全てが[-]であった。グルコースも[-]であり、キシロースとグルコースの代謝スピードがあまり変わらない可能性が示唆された。