(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131693
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】エチレン放出抑制剤、及びその利用
(51)【国際特許分類】
A23B 7/16 20060101AFI20240920BHJP
A23B 7/154 20060101ALI20240920BHJP
A01N 3/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A23B7/16
A23B7/154
A01N3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042112
(22)【出願日】2023-03-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)集会名、開催日等 令和4年3月17日 令和4年度園芸学会春季大会 LINC BizとZoomを用いたオンライン (2)集会名、開催日等 令和4年10月1日 令和4年度園芸学会中四国支部大会及びその要旨 (3)集会名、開催日等 令和4年10月8日 令和4年度日本ナス科コンソーシアムシンポジウム及びその要旨 (4)集会名、開催日等 令和5年3月15日 園芸学会令和5年春季大会及びその要旨
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】高木 厚志
(72)【発明者】
【氏名】平 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 大知
【テーマコード(参考)】
4B169
4H011
【Fターム(参考)】
4B169AA04
4B169HA01
4B169HA11
4B169HA13
4B169KB02
4B169KC37
4H011BC08
4H011CA04
4H011CB10
4H011CD01
(57)【要約】
【課題】青果物からのエチレンの放出を抑制する方法を提供すること。
【解決手段】
界面活性剤を主成分とする、青果物からのエチレン放出抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤を主成分とする、青果物からのエチレン放出抑制剤。
【請求項2】
前記界面活性剤が、糖系界面活性剤である、請求項1に記載のエチレン放出抑制剤。
【請求項3】
前記糖系界面活性剤が、糖脂肪酸エステルである、請求項2に記載のエチレン放出抑制剤。
【請求項4】
前記糖脂肪酸エステルが、ショ糖脂肪酸エステルである、請求項3に記載のエチレン放出抑制剤。
【請求項5】
前記糖系界面活性剤の親油基が飽和脂肪酸である、請求項2に記載のエチレン放出抑制剤。
【請求項6】
前記糖系界面活性剤のHLBが5以上である、請求項2に記載のエチレン放出抑制剤。
【請求項7】
界面活性剤を主成分とする被膜で青果物を被覆する、エチレン放出抑制方法。
【請求項8】
前記界面活性剤が、糖系界面活性剤である、請求項7に記載のエチレン放出抑制方法。
【請求項9】
前記糖系界面活性剤が、糖脂肪酸エステルである、請求項8に記載のエチレン放出抑制方法。
【請求項10】
前記糖脂肪酸エステルが、ショ糖脂肪酸エステルである、請求項9に記載のエチレン放出抑制方法。
【請求項11】
前記糖系界面活性剤の親油基が飽和脂肪酸である、請求項8に記載のエチレン放出抑制方法。
【請求項12】
前記糖系界面活性剤のHLBが5以上である、請求項8に記載のエチレン放出抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物のエチレン放出抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や果物、生花などを含む植物の流通においては、収穫後の鮮度を可能な限り維持することで、植物の利用可能期間を長くすることができれば、食品ロスや廃棄物の低減や流通範囲の拡大の観点で望ましい。
植物の鮮度に影響する因子には、温度、湿度、微生物、光、酸素、酵素などが挙げられるが、その他の因子としてよく知られているのが、エチレンである。エチレンは、植物ホルモンの一種で、植物の熟成を促進させる効果がある。
植物から発生したエチレンの濃度が上昇しないように制御する方法としては、フィルムによる遮断、吸着、エチレン阻害剤の施用、触媒による分解などの各種の方法が開発され、実用化されている。
【0003】
特許文献1には、多孔質シリカに白金又は白金含有化合物を担持させてなるエチレン分解剤について記載されている。
一方で、特許文献2には、植物の鮮度維持については、品質保持剤を青果物等の食品に直接塗布し、食品の鮮度を保持する技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-023889号公報
【特許文献2】特表2018-529627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、青果物からエチレンが放出されることは抑制できず、隣接する青果物から発生したエチレンの濃度が低下したとしても、青果物が曝露する可能性は否定できない。
また、特許文献2には、青果物の鮮度を維持することについては質量損失速度を低下することが記載されているものの、エチレンによる熟成で生じる鮮度低下については一切記載されていない。
ところで、エチレンは青果物に対して、熟成を進行させるほか、呼吸活性の促進により青果物に蓄えられた糖分や有機物といった栄養分に影響する成分が水や二酸化炭素へ代謝されて青果物の美味しさが変化することや、クロロフィルの分解による果皮色が変化を促進することが知られている。
そこで、本発明は、青果物からのエチレンの放出を抑制する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 界面活性剤を主成分とする、青果物のエチレン放出抑制剤。
[2] 前記界面活性剤が、糖系界面活性剤である、[1]に記載のエチレン放出抑制剤。
[3] 前記糖系界面活性剤が、糖脂肪酸エステルである、[2]に記載のエチレン放出抑制剤。
[4] 前記糖脂肪酸エステルが、ショ糖脂肪酸エステルである、[3]に記載のエチレン放出抑制剤。
[5] 前記糖系界面活性剤の親油基が飽和脂肪酸である、[2]~[4]のいずれかに記載のエチレン放出抑制剤。
[6] 前記糖系界面活性剤のHLBが5以上である、[2]~[5]のいずれかに記載のエチレン放出抑制剤。
[7] 界面活性剤を主成分とする被膜で青果物を被覆する、エチレン放出抑制方法。
[8] 前記界面活性剤が、糖系界面活性剤である、[7]に記載のエチレン放出抑制方法。
[9] 前記糖系界面活性剤が、糖脂肪酸エステルである、[8]に記載のエチレン放出抑制方法。
[10] 前記糖脂肪酸エステルが、ショ糖脂肪酸エステルである、[9]に記載のエチレン放出抑制方法。
[11] 前記糖系界面活性剤の親油基が飽和脂肪酸である、[8]~[10]のいずれかに記載のエチレン放出抑制方法。
[12] 前記糖系界面活性剤のHLBが5以上である、[8]~[11]のいずれかに記載のエチレン放出抑制方法。
【発明の効果】
【0007】
青果物からのエチレンが放出されることを抑制する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】セイヨウナシのエチレン生成速度を示す図である。
【
図3】セイヨウナシの良品率の変化を示す図である。
【
図6】カキのエチレン生成速度の変化を示す図である。
【
図8】カキのカラーインデックスの変化を示す図である。
【
図10】バナナの重量減少率の変化を示す図である。
【
図11】バナナのエチレン生成速度の変化を示す図である。
【
図13】バナナのカラーインデックスの変化を示す図である。
【
図14】スダチの重量減少率の変化を示す図である。
【
図15】スダチのエチレン生成速度の変化を示す図である。
【
図17】スダチのカラーインデックスの変化を示す図である。
【
図18】処理日を変えた場合のスダチの重量減少率の変化を示す図である。
【
図19】処理日を変えた場合のスダチのエチレン生成速度の変化を示す図である。
【
図20】処理日を変えた場合のスダチの呼吸活性の変化を示す図である。
【
図21】処理日を変えた場合のスダチのカラーインデックスの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、詳細に説明するが、本発明は具体的な実施態様のみに限定されるものではない。
【0010】
<エチレン放出抑制剤>
本発明のエチレン放出抑制剤は、界面活性剤を含む。
本発明のエチレン分解剤は、青果物からのエチレン放出を抑制できるため、植物の鮮度保持剤としても用いることができる。
本発明エチレン放出抑制剤を青果物の表面に付与することで、推定ではあるが、酸素バリア性によって、呼吸を抑制することにより、青果物から発生するエチレンの放出を抑制できると考えられる。
【0011】
<エチレン放出抑制の指標>
本発明のエチレン放出抑制剤は、青果物からのエチレン放出を抑制する。
エチレン放出抑制の指標としては、エチレン生成速度の比を用いる。熟成進行抑制の観点で、エチレン生成速度が、エチレン放出抑制剤を利用しない場合と比較して、1/2以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましく、1/25以下であることがさらに好ましく、1/50以下であることが特に好ましく、1/100以下であることが最も好ましい。
【0012】
(エチレン生成速度の測定方法)
青果物を密閉容器に収容し、30分間(0.5h)密閉保持する。
続いて、密閉容器内のガスを、ガラス製ガスタイトシリンジで1mLサンプリングし、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製、GC-2014)に注入し、ガス中のエチレン測定を行なう。
事前に準備した検量線と、得られたエチレンのピーク面積から、ガス中のエチレン濃度を算出し、保存容器内のエチレン濃度とする。
得られたエチレン濃度と、青果物の体積を除いた空間容積中のエチレン量(nL)を算出し、青果物の重量(g)と、前述の保持時間(h)から、エチレン生成速度(nL/g/h)を算出する。
これを3個の青果物に対して行い、算術平均をエチレン生成速度(nL/g/h)とする。
ガスクロマトグラフを用いた測定条件は下記とするが、同等の結果が得られるようであれば、装置の機種は異なっていてもよい。
装置 島津製作所社製 GC-2014
カラム GC-2014 Glass Column 3.1m ×3.2mml.D. Activated Alumina 60/80
キャリアガス N2
入口圧(MPa) ボンベ出口 0.7MPa
カラム流量 20.0mL/min
試料気化室温度 200℃
検出器温度 200℃
カラムオーブン温度 80℃
燃焼ガス(H2)流量 ボンベ出口 0.3MPa
助燃ガス(Air)流量 ボンベ出口 0.3MPa
ガス注入量 1mL(ガラス製ガスタイトシリンジ)
【0013】
<界面活性剤>
界面活性剤は、溶解した溶液の表面張力を下げる界面活性を示し、実用に供される物質である。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤の4種に大別される。
本発明の被膜を形成する組成物に用いられる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤のうちでも、エステル型、エーテル型が生分解性の観点で好ましい。
エステル型の非イオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、糖脂肪酸エステルが、食品添加物として認可されている観点で好ましい。
エーテル型の非イオン性界面活性剤としては、アルキルグリコシドが食品添加物として認可されている観点で好ましい。
これらの中でも、親水性と疎水性を容易に調整できる観点で、グリセリン脂肪酸エステルと糖脂肪酸エステルが好ましく、水溶性が高く、水を主成分とする溶媒に溶解して用いることが可能な点で、糖脂肪酸エステルが好ましい。
以下、糖脂肪酸エステルとアルキルグリコシドを合わせて糖界面活性剤と総称する。
【0014】
(糖系界面活性剤)
糖系界面活性剤は、糖を親水基とする非イオン性界面活性剤であり、例えば、糖と脂肪酸がエステル結合してなる糖脂肪酸エステル、糖と高級アルコールがグリコシド結合してなるアルキルグリコシド等が挙げられ、中でも造膜性の点から糖脂肪酸エステルが好ましい。
【0015】
糖系界面活性剤は、得られる被膜のべたつきを抑え、かつ、水蒸気バリア性及び酸素バリア性を高くできる観点から、結晶性を有することが好ましい。
また、糖系界面活性剤は、得られる被膜のべたつきを抑える観点から、常温(20~25℃)において固体となる成分が60質量%以上含まれることが好ましく、70質量%以上含まれることがより好ましく、80質量%以上含まれることがさらに好ましく、90質量%以上含まれることが特に好ましい。糖系界面活性剤は、常温(20~25℃)において固体となる成分のみで構成されてもよく、したがって、上記比率は、100質量%以下であればよい。
【0016】
糖系界面活性剤のHLBは特に限定されないが、後述する水系溶剤を用いて被膜を形成できる観点から、5以上が好ましく、7以上がより好ましく、9以上がさらに好ましい。HLBの上限は通常20であり、18以下がより好ましい。
【0017】
≪糖脂肪酸エステル≫
糖脂肪酸エステルは、糖と脂肪酸がエステル結合したものである。
【0018】
糖脂肪酸エステルにおける糖は、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、多糖類、糖アルコール及びその他のオリゴ糖のいずれであってもよい。
単糖類としては、リブロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、デオキシリボース等のペントース;プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、フコース、フクロース、ラムノース等のヘキソースが挙げられる。
二糖類としては、スクロース(ショ糖)、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース、セロビオース等が挙げられる。
三糖類としては、ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース等が挙げられる。
四糖類としては、アカルボース、スタキオース等が挙げられる。
多糖類としては、グリコーゲン、デンプン、セルロース、デキストリン、グルカン、フルクタン、キチン等が挙げられる。
糖アルコールとしては、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール、グリセリン等が挙げられ、これら糖アルコールの縮合体であってもよい。
その他のオリゴ糖としては、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、ラクトスクロース等が挙げられる。
【0019】
糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸は、食用油脂であることが好ましい。
糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸の炭素数は特に限定されないが、12以上22以下が好ましく、12以上18以下がより好ましく、14以上18以下がさらに好ましい。炭素数が上記範囲であることによって、得られる被膜のべたつきを抑えられる。
糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸は飽和又は不飽和脂肪酸であってよいが、常温(20~25℃)において固体になりやすく、得られる被膜のべたつきを抑えられる観点から、飽和脂肪酸が好ましい。
より具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられ、中でも炭素数が12以上18以下の飽和脂肪酸である、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましく、炭素数が14以上18以下の飽和脂肪酸である、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸がより好ましい。これら飽和脂肪酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸はすべて同一である必要はなく、糖脂肪酸エステル中の構成脂肪酸の60質量%以上が上記の好適な構成脂肪酸であればよい。この比率は、得られる被膜のべたつきを抑えられる観点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上限に関しては特に限定されないが、100質量%以下であればよい。
なお、糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸組成は、組成物から糖脂肪酸エステルを単離した後、誘導体化してからガスクロマトグラフィーによって測定できる。
【0020】
糖脂肪酸エステルの脂肪酸エステル基数は、親水基である糖の分子構造内にあるエステル結合可能な水酸基の数によってその範囲が変化し、例えば、ショ糖脂肪酸エステルでは1~8個、ソルビタン脂肪酸エステルでは1~4個である。
水系溶剤を用いて被膜を形成できる観点から、糖系界面活性剤の全量を100質量%としたときに、脂肪酸エステル基数が3個以下である糖脂肪酸エステル(モノエステル、ジエステル又はトリエステル)を50質量%以上含むのが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。上限に関しては特に限定されないが、100質量%以下であればよい。
また、同様の観点から、糖系界面活性剤の全量を100質量%としたときに、脂肪酸エステル基数が6個以上である糖脂肪酸エステル(ヘキサエステル、ヘプタエステル、オクタエステル又はそれ以上)を30質量%以下含むのが好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がより好ましい。脂肪酸エステル基数が6個以上である糖脂肪酸エステルは、含有しなくてもよく、その含有量は0質量%以上であればよい。
【0021】
なお、脂肪酸エステル基数ごとの含有割合は、組成物から糖脂肪酸エステルを単離した後、Residue Monograph prepared by the meeting of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives (JECFA), 84th meeting 2017 “ Sucrose Esters of Fatty Acids”並びにPrepared at the 71st JECFA (2009) and published in FAO JECFA Monographs 7 (2009) “Sucrose Oligoesters Type I”及び“Sucrose Oligoesters Type II” に記載される、METHOD OF ASSAYに従って測定することができる。
【0022】
《モノエステル~トリエステル及びテトラエステル以上の測定》
一定量のテトラヒドロフラン(安定剤含有GPC又は工業用グレード)に試料を溶解させた後、0.5μmのメンブランフィルターで不溶物を取り除いた溶液を測定試料とし、下記条件での高速液体クロマトグラフィーを実施する。組成比は、モノエステル~トリエステルそれぞれのピーク面積及びテトラエステル以上をまとめたピーク面積を個別に算出し、43分までに検出された全てのピークの合計ピーク面積に対する比率を算出する。
ピーク面積は各ピークの開始点(立ち上がり位置)から終了点(立ち下がり位置)までの面積に該当する。
2つ以上のピークが隣接しており、開始点や終了点が不明な場合は、ピークとピークの間のデータが最小となった地点を開始点及び終了点として、面積を算出する。
【0023】
〈測定条件:モノエステル~トリエステル及びテトラエステル以上〉
装置 :HLC-8320GPC 検出器:示差屈折計(東ソー社製)
カラム :TSK-ゲル G1000HXL,G2000HXL,G3000HXL,G4000HXL(東ソー社製)
カラム温度:40℃
検出器温度:40℃
溶離液 :テトラヒドロフラン(安定剤含有GPC又は工業用グレード)
流速 :0.8ml/min
注入量 :80μl
測定時間 :50分(43分までに検出した全てピークをもとに面積比を算出する)
【0024】
《テトラエステル~オクタエステルの測定》
一定量のメタノール(試薬特級)/テトラヒドロフラン(安定剤不含HPLCグレード)=20/80(vоl/vоl)に試料を溶解させた後、0.45μmのメンブランフィルターで不溶物を取り除いた溶液を測定試料とし、下記条件での高速液体クロマトグラフィーを実施する。テトラエステル~オクタエステルの組成比は、テトラエステル~オクタエステルそれぞれのピーク面積を個別に算出し、テトラエステル~オクタエステルの合計ピーク面積に対する比率を算出し、上記《モノエステル~トリエステル及びテトラエステル以上の測定》で求めたテトラエステル以上の面積比率をテトラエステル~オクタエステルの面積比にて案分して算出する。
ピーク面積は各ピークの開始点(立ち上がり位置)から終了点(立ち下がり位置)までの面積に該当する。
2つ以上のピークが隣接しており、開始点や終了点が不明な場合は、ピークとピークの間のデータが最小となった地点を開始点及び終了点として、面積を算出する。
【0025】
〈測定条件:テトラエステル~オクタエステル〉
装置
デガッサー:DGU-20A(島津製作所社製)
ポンプ :LC-20AD(島津製作所社製)
オーブン :CTO-20A(島津製作所社製)
検出器 :RID-20A 示差屈折計(島津製作所社製)
カラム :150mm×4.6mm i.d.;ODS-2(GLサイエンス社製)
カラム温度:40℃
検出器温度:40℃
溶離液 :メタノール(試薬特級)/テトラヒドロフラン(安定剤不含HPLCグレード)=70/30~50/50(vоl/vоl)
流速 :0.8ml/min
注入量 :20μL
測定時間 :16分
【0026】
糖脂肪酸エステルは、食品に使用可能なものであれば特に限定されないが、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グルコースエステル等が挙げられ、中でもショ糖脂肪酸エステルが入手容易性の観点で好ましい。
なお、糖系界面活性剤は1種のみである必要はなく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせる場合、糖系界面活性剤全量を100質量%としたときに、60質量%以上がショ糖脂肪酸エステルであるのが好ましい。この比率は、得られる被膜のべたつきを抑え、かつ、水蒸気バリア性及び酸素バリア性を高くできる観点から、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましい。糖系界面活性剤は、ショ糖脂肪酸エステル単独で使用されてもよく、したがって、上記比率は、100質量%以下であればよい。
【0027】
≪グリセリン脂肪酸エステル≫
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸がエステル結合したものである。
グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸と同様のものが好ましい。
グリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸エステル基数は、1~3個である。水系溶媒への分散性や組成物の粘性とハンドリングの観点で、グリセリン脂肪酸エステルの全量を100質量%としたときに、脂肪酸エステル基数が1個であるグリセリン脂肪酸エステル(トリエステル)を50質量%以上含むのが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。上限に関しては特に限定されないが、100質量%以下であればよい。
脂肪酸の種類と量、割合は、カラムクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、比色分析などで、分析することができる。
【0028】
<青果物>
青果物は、生鮮野菜と果実類の総称である。
青果物としては、例えば、オレンジ、グレープフルーツ、ミカン、スダチ、レモン、カボス、ユズなどの柑橘類果実、リンゴ、サクランボ、モモ、ウメ、カキ、イチジク、イチゴ、キウイフルーツ、ブドウ、ブルーべリー、バナナ、マンゴー、メロン、パパイヤ、レイシ(ライチ)、アンズ、アボカド、カンタループ、グアバ、ネクタリン、ナシ(ニホンナシ、セイヨウナシなど)、プラム等の果物;サツマイモ、タマネギ、ショウガ、サトイモ、ナガイモ等の土物類;ニンジン、ダイコン、ゴボウ、レンコン、タケノコ等の根菜類;
アスパラガス、キャベツ、レタス、ホウレンソウ、ハクサイ、カリフラワー、ブロッコリー等の葉茎菜類;トマト、ナス、カボチャ、ピーマン、キュウリ等の果菜類が挙げられる。
本発明のエチレン放出を抑制する対象の青果物は、柑橘類果実、果物が挙げられる。
【0029】
<エチレン放出抑制剤の使用方法>
本発明のエチレン放出抑制剤は、青果物の表面に付着させて用いる。
本発明のエチレン放出抑制剤を青果物に付着させる前に、溶媒に溶解させて組成物として、当該組成物を青果物に塗布したのち、溶媒を揮発させてエチレン放出抑制剤の被膜を形成させるのが簡便である。
【0030】
塗布方式としては、組成物に青果物を浸漬処理する方法、組成物を青果物に噴霧または刷毛で塗布する方法等を挙げることができる。過剰量塗布された部分の乾燥不良を防ぐため、組成物を青果物に塗布した後、塗布された組成物の一部を除去してもよい。除去方法は特に限定されないが、エアードライヤーを用いた風圧による除去等が挙げられる。
【0031】
本発明のエチレン抑制剤を無溶媒で果実様野菜等に塗布する場合は、流動性を示す温度(例えば、糖系界面活性剤の融点~融点+30℃)までエチレン抑制剤を加熱した後、カーテンコート又はスプレーコート等で果実様野菜等に塗布する方法が好ましい。無溶媒で塗布する場合には、界面活性剤のみからなるものを食品に塗布してもよいが、界面活性剤に、溶媒以外の他の成分(不揮発成分など)を適宜混合したものを塗布してもよい。
なお、塗布方法に関しては「コーティング方式」槇書店 原崎勇次著1979年発行に記載例がある。
【0032】
被膜形成処理の効率を高める観点からは、本発明のエチレン抑制剤を、青果物の全面に塗布することが好ましい。
【0033】
塗布後の乾燥方法としては、静置乾燥、通風乾燥又は加熱乾燥が挙げられるが、青果物の鮮度を保持する観点から、室温(20~25℃)で静置して乾燥する方法、又は室温で風乾する方法が好ましい。
【0034】
本発明のエチレン放出抑制剤を付着させた青果物の貯蔵、輸送方法としては、従来用いられている包装貯蔵、貯蔵環境ガス制御貯蔵等のいずれの貯蔵方法でもよい。
貯蔵及び輸送温度は、青果物の種類によって異なるが、鮮度維持の観点で、20℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましい。青果物の組織の細胞内氷結晶が生成して組織が死に至る当該を防ぐ観点で、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましい。
【0035】
<組成物>
本発明のエチレン放出抑制剤を含む組成物は、溶媒を含んでいてよく、エチレン放出抑制効果が損なわない範囲で、任意の成分を含んでいてよい。
【0036】
<溶媒>
本発明の組成物は、青果物への塗布効率の観点から、水系溶媒を含むことが好ましい。被覆剤組成物を構成する水系溶媒は、水、または1以上の水溶性有機溶媒と水の混合溶媒である。水溶性有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコールが挙げられる。食品に塗布できる観点から、水を溶媒とする水性組成物とすることが好ましいが、安定性及び塗布性の観点から、溶媒として、水に加えて、上記したアルコール等の有機溶媒を含有してもよい。
水系溶媒中の有機溶媒の含有量は、食品である青果物に塗布する観点で、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下がよりさらに好ましい。塗布液の安定性および塗布性の観点で、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。
菌の繁殖防止の観点で、エタノールを含むことが好ましい。
【0037】
<不揮発成分濃度>
本発明の組成物が溶媒を含む場合、組成物に含まれる不揮発成分の濃度は、被膜形成厚み及びエチレン放出抑制の効果の観点で、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい0.5質量%以上が特に好ましく、1質量%以上が最も好ましい。塗布液のハンドリング及び安定性の観点で、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。前記範囲内であることで、界面活性剤を溶媒に適切に溶解させつつ、好適な膜厚を有する被膜を形成しやすくなる。
【0038】
<界面活性剤の含有量>
被覆剤組成物における界面活性剤の含有量は、得られる被膜の水蒸気バリア性及び酸素バリア性を高くできる観点から、被覆剤組成物中の不揮発成分のうち、100質量%を上限として、60質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましい。
【0039】
<組成物のpH>
本発明の組成物のpHは、食品に安全に適用できる観点から、4以上10以下が好ましく、4以上8以下がより好ましい。
【0040】
<被膜>
本発明のエチレン放出抑制剤を含む被膜は、青果物の少なくとも一部に被膜を形成し、被覆する。
本発明に係る被膜は、前述のエチレン抑制効果を発揮する被膜であれば、特に限定されないが、さらに、水蒸気バリア性及び/または酸素バリア性を有する被膜であることが好ましい。水蒸気バリア性と酸素バリア性の両方の特性を有する被膜であることがより好ましい。果実用野菜等に適用することから、食用に供する際の安全性を考慮し、可食性であることが好ましい。これらの性能を発揮する材料としては、界面活性剤が挙げられる。被膜中のこれらの材料の含有量は、100質量%を上限として、60質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましい。
なお、該被膜は溶剤のない無溶剤塗布で形成されてもよいし、溶剤を含む組成物により形成されてもよい。本発明では、特に糖系界面活性剤と水系溶剤を含む被覆剤組成物により、形成される被膜を有することが好ましい。このような被覆剤組成物により形成される被膜を有することで、上述の呼吸及び水分の蒸散が抑制され、果実様野菜等の鮮度が保持される。
【0041】
<水蒸気バリア性>
本発明の被膜は、30℃、80%RHにおける1μmあたりの水蒸気透過率が0.1~20cc/(m2・day・atm)であるのが好ましく、0.5~17cc/(m2・day・atm)であるのがより好ましく、1~15cc/(m2・day・atm)であるのがさらに好ましい。水蒸気透過率が上記範囲内であると、食品からの蒸散を抑制でき、鮮度保持が可能となる。
なお、水蒸気透過率(WVTR)はJIS K7129-5に基づき水蒸気透過率測定装置 DELTAPERMを用いた差圧法にて測定できる。より具体的には、30℃、80%RHの条件下において、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に被膜した際の水蒸気透過率の測定値を、下記式によって1μmあたりの透過率に換算した値である。
【0042】
【0043】
<酸素バリア性>
本発明の被膜は、25℃、50%RHにおける1μmあたりの酸素透過率が0.1~100cc/(m2・day・atm)であるのが好ましく、0.5~90cc/(m22・day・atm)がより好ましく、1~50cc/(m2・day・atm)がさらに好ましい。
酸素透過率が上記範囲内であると、果実様野菜又は果実の呼吸による老化を抑制でき、より鮮度保持が可能となる。
なお、酸素透過率(OTR)はJIS K7126-2に基づき酸素透過率測定装置 OX-TRAN 2/21(MOCON社製)を用いた等圧法にて測定できる。より具体的には、25℃、50%RHの条件下において、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に被膜した際の酸素透過率の測定値を、下記式によって1μmあたりの透過率に換算した値である。
【0044】
【0045】
<可食性>
本発明の被膜は、可食性を有していることが好ましい。可食性とは、食用に供することができることを意味する。安全性の観点から、食品添加物として認可されている化合物について、用量を満たすように用いることで、可食性を有するようにすることが好ましい。
【0046】
<平均膜厚>
本発明の被膜の平均膜厚は、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.5μm以上5μm以下がより好ましい。平均膜厚が0.1μm以上であることによって、水蒸気バリア性及び酸素バリア性が良好となる。一方、平均膜厚が10μm以下であることによって、食品の食感を保った状態で被膜を形成できる。
本発明においては、食品全体において被膜の厚みが均一でなくてもよい。
なお、被膜の平均膜厚は、被膜付き食品を予め凍結乾燥させた後、被膜を剥離して断面を電子顕微鏡又は金属顕微鏡等で観察し、無作為に10点以上を選択して厚みを測定した平均値から求めることができる。
【0047】
<被膜付き青果物>
本発明の被膜付き青果物は、少なくとも当該被膜に、本発明のエチレン抑制剤を含む。被膜と青果物については、前述の通りである。
【実施例0048】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
<セイヨウナシの評価>
青果物として、セイヨウナシ(ラ・フランス)を用いて評価を行った。
【0050】
[エチレン生成速度の測定方法]
3個の青果物を863mLのアズワン社製プラスチック密閉容器に収容し、室温で30分間(0.5h)密閉保持した。
続いて、密閉容器内のガスを、ガラス製ガスタイトシリンジで1mLサンプリングし、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製、GC-2014)に注入し、ガス中のエチレン測定を行なった。
事前に準備した、検量線と、得られたエチレンのピーク面積から、ガス中のエチレン濃度を算出し、保存容器内のエチレン濃度とした。
得られたエチレン濃度と、青果物の体積を除いた空間容積中のエチレン量(nL)を算出し、青果物の重量(g)と、前述の保持時間(h)から、エチレン生成速度(nL/g/h)を算出した。
これを3個の青果物に対して行い、算術平均をエチレン生成速度(nL/g/h)とした。
なお、青果物の体積は263mLとし、青果物の体積を除いた空間容積は600mLとした。また、同じ3個の青果物について、継続してデータを取得した。
ガスクロマトグラフを用いた測定条件は下記とした。
カラム GC-2014 Glass Column 3.1m ×3.2mml.D. Activated Alumina 60/80
キャリアガス N2
入口圧(MPa) ボンベ出口 0.7MPa
カラム流量 20.0mL/min
試料気化室温度 200℃
検出器温度 200℃
カラムオーブン温度 80℃
燃焼ガス(H2)流量 ボンベ出口 0.3MPa
助燃ガス(Air)流量 ボンベ出口 0.3MPa
ガス注入量 1mL(ガラス製ガスタイトシリンジ)
【0051】
[硬度測定]
計3個の青果物を用い、それぞれの青果物から、果径が最大となる円周上を6等分し、果皮を剥き、18個のカット青果物を用意した。
続いて、硬度計(A&D社製、フォーステースターMCT-2150)で、貫入プランジャ(直径8mm)を、速度1mm/sで、カット青果物に押込み、貫入深さ7.95mmとしたときの最大荷重を青果物の硬度とした。これを、18個のカット青果物の全てに対して1回ずつ実施し、最大荷重の算術平均を硬度(N)とした。
【0052】
[良品率]
良品率は、計33個の青果物を継続して用い、1個ずつ外観の変化の有無を目視観察し、凹み・変色の視点で、下記式(1)により、良品率を判定した。
良品率(%)=(良品の個数/全個数)×100 (1)
良品の判断指標:
凹み:深さ4~5mmの凹みがないものが良品
変色:変色部分が目視で2割に達しないものが良品
【0053】
使用した材料は以下の通りである。
S-1670:ショ糖ステアリン酸エステル、三菱ケミカル社製「リョートー(登録商標)シュガーエステル S-1670」、HLB:16、モノ~トリエステル含量:97質量%以上、テトラエステル~オクタエステル含量:3質量%未満
S-570:ショ糖ステアリン酸エステル、三菱ケミカル社製「リョートー(登録商標)シュガーエステル S-570」、HLB:5、モノ~トリエステル含量:86質量%以上
【0054】
[実施例1]
エタノール及び水からなる水系溶媒に、S-1670を73℃で30分間分散させた後に25℃まで冷却した液と、エタノール及び水からなる水系溶媒にS-570を73℃で30分間分散させた後に25℃まで冷却した液とを、重量比で9:1になるように25℃で5時間混合し、エチレン放出抑制剤を含む組成物を作製した。組成物の組成は、重量比で以下の通りである。
S-1670/S-570/エタノール/水=4.5/0.5/5/90
青果物として西洋梨(ラ・フランス)を用い、該西洋梨60個を上記組成物に浸漬し、室温で乾燥することで、エチレン放出抑制剤の被膜を青果物上に形成した。
その後、2℃で10日間予冷し、続いて暗所で15℃で貯蔵して追熟しながら、上記方法により、エチレン生成速度測定、硬度測定、良品率の評価を行った。測定時以外は、暗所で15℃で貯蔵した。エチレン生成速度の結果を表1、及び
図1に、硬度測定の結果を表2、及び
図2に、良品率の評価結果を表3及び
図3に示す。
なお、予冷を終了した日を追熟0日とする。
【0055】
[比較例1]
青果物上に被膜を形成しなかった以外は、実施例1と同様に西洋梨を予冷、貯蔵したのち、上記方法により、エチレン生成速度測定、硬度測定、良品率の評価を行った。エチレン生成速度の結果を表1、及び
図1に、硬度測定の結果を表2、及び
図2に、良品率の評価結果を表3及び
図3に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
<カキ(平核無)の評価>
青果物として、カキ(平核無)を用いた。カキ(平核無)の果実を20℃の恒温室で11日目まで静置し、一定間隔ごとに、果肉硬度、重量減少率、エチレン生成速度および呼吸活性を測定した。
【0060】
(果肉硬度)
3個の果実を用いて3か所の果肉硬度を3mm径の円柱プランジャーを備えた果実硬度計を用いて測定した。測定にあたっては、Hiwasa, K., Kinugasa, Y., Amano, S., Nakano, R., Inaba, A., Kubo, Y., 2003. Ethylene is required for both the initiation and progress of softening in pear (Pyrus communis L.) fruit. J. Exp. Bot. 54, 771-779.を参考にした。
【0061】
(重量減少率)
各測定日における、初日からの重量差分を、初日重量で割り返し、算術平均値をパーセンテージで表記した。測定にはそれぞれ5個のカキ果実を供試した。
【0062】
(エチレン生成速度と呼吸活性)
カキ(平核無)の果実を、440mLのリブ付き密閉容器に20℃で1時間静置した後、容器内のガスを1mL採取し、200℃設定の水素炎イオン化検出器、80℃設定の活性アルミナカラムを備えたガスクロマトグラフィー ((株)島津製作所社製、Model GC4 CMPF)を用いてエチレン生成速度を測定した。測定にあたっては、Mitalo, O.W., Tosa, Y., Tokiwa, S., Kondo, Y., Azimi, A., Hojo, Y., Matsuura, T., Mori, I.C., Nakano, R., Akagi, T. et al., 2019. ‘Passe Crassane’ pear fruit (Pyrus communis L.) ripening: Revisiting the role of low temperature via integrated physiological and transcriptome analysis. Postharvest Biol. Technol. 158, 110949.を参考にした。
同様に、熱伝導検出器、Porapak Qカラム(Agilent)を備えたガスクロマトグラフ((株)島津製作所社製、Model GC4 CMPF)を用いて二酸化炭素排出量を測定することで、呼吸活性を評価した。測定にはそれぞれ5個のカキ果実を供試した。
【0063】
(カラーインデックス)
色彩色差計(CR-200b、コニカミノルタ社製)を用いて、果実赤道付近のL,a,b値を測定した。カラーインデックスは1000a・L-1・b-1を用いて算出した。測定にはそれぞれ5個のカキ果実を供試した。
カラーインデックスの測定は、Jimenez-Cuesta, M, Cuquerella, J., Martinez-Javega, J. M., 1981. Determination of a color index for citrus fruit degreening. Proc. Int. Soc. Citriculture, 2, 750-753.を参考にした。カラーインデックスの算出は、Rios, G, Naranjo, M. A., Rodrigo, M. J., Alos, E., Zacarias, L., Cercos, M., Talon, M., 2010. Identification of a GCC transcription factor responding to fruit colour change events in citrus through the transcriptomic analyses of two mutants. BMC Plant Biol, 10, 276.を参考にした。
【0064】
[実施例2]
イオン交換水にシュガーエステルS-1170(三菱ケミカル(株)社製)を5%(w/v)水溶液になるよう投入し、撹拌しながら70℃で加熱溶解後、冷却し、エチレン放出抑制剤を含む組成物を得た。カキ(平核無)の果実を室温のエチレン放出抑制剤を含む組成物に30秒間浸漬した後、室温にて1時間自然乾燥させて、エチレン放出抑制剤を含む被膜を形成した果実を得た。得られた果実について、前述の方法で、果肉硬度、重量減少率、エチレン生成速度、呼吸活性、及びカラーインデックスを測定した。結果を
図4~8に示す。
図4、5、6、7、8の誤差線は、ぞれぞれ、標準誤差(n=3)、標準誤差(n=5)、標準誤差(n=5)、標準誤差(n=10)、標準誤差(n=5)を示す。
【0065】
[比較例2]
カキ(平核無)の果実に、エチレン放出抑制剤を含む被膜を形成しなかったほかは、実施例2と同様に、各測定を行った。結果を
図4~8に示す。
【0066】
[比較例3]
1-MCP処理を行ったほかは、比較例2と同様に、各測定を行った。1-MCP処理は、カキ(平核無)の果実を、密閉できるプラスチック容器に入れ、2ppmの1-MCP(アグロフレッシュジャパン社製)に25°C下で一夜曝露処理することで行った。
【0067】
[比較例4]
プラスチック包装処理を行ったほかは、比較例2と同様に、各測定を行った。プラスチック包装は、カキ(平核無)果実を厚み40μmのポリエチレン袋にいれ、密閉にならないよう上部は封をせずに軽く折りたたむだけとした。結果を
図4~8に示す。
【0068】
<バナナ(グランドナイン)の評価>
青果物として、フィリピン産のバナナ(グランドナイン)を用いた。バナナ果実は20℃の恒温室で14日目まで静置し、一定間隔ごとに、果肉硬度、重量減少率、エチレン生成速度、および呼吸活性を測定した。青果物としてバナナ(グランドナイン)を用い、各測定に3果実を供試したこと以外は、カキ(平核無)の測定と同様に各測定を行った。
【0069】
[実施例3]
カキ(平核無)と同様の方法で、5%(w/v)のエチレン放出抑制剤を含む組成物を用いて、バナナ(グランドナイン)の果実にコーティング処理をして、エチレン放出抑制剤を含む被膜を形成した果実を得た。得られた果実について、前述の方法で、果肉硬度、重量減少率、エチレン生成速度、呼吸活性、及びカラーインデックスを測定した。結果を
図9~13に示す。
図9~13の誤差線は、ぞれぞれ、標準誤差(n=3)、標準誤差(n=3)、標準誤差(n=3)、標準誤差(n=3)、標準誤差(n=6)を示す。
【0070】
[比較例5]
バナナ(グランドナイン)の果実に、エチレン放出抑制剤を含む被膜を形成しなかったほかは、実施例3と同様に、各測定を行った。結果を
図9~13に示す。
【0071】
[比較例6]
1-MCP処理を行ったほかは、比較例5と同様に、各測定を行った。1-MCP処理は、カキ(平核無)の1-MCP処理と同様に行った。結果を
図9~13に示す。
【0072】
<スダチの評価>
青果物として、スダチを用いた。スダチ果実は15℃の恒温室で21日目まで静置し、一定間隔ごとに、重量減少率、エチレン生成速度、呼吸活性、及びカラーインデックスを測定した。青果物としてスダチを用い、各測定に5果実を供試し、エチレン生成速度の測定で、スダチ果実を205mLのリブ付き密閉容器に20℃で1時間静置した後,容器内のガスを1mL採取したこと以外は、カキ(平核無)の測定と同様に各測定を行った。
【0073】
[実施例4]
シュガーエステルS-1670(三菱ケミカル(株))を用い、濃度を1%(w/v)としたほかは、実施例2と同様にして、エチレン放出抑制剤を含む組成物を得た。スダチ果実を室温のコーティング液に30秒間浸漬した後、室温にて1時間自然乾燥させて、エチレン放出抑制剤を含む被膜を形成した果実を得た。得られた果実について、前述の方法で、重量減少率、エチレン生成速度および呼吸活性を測定した。結果を
図14~17に示す。各図中の誤差線は、いずれも、標準誤差(n=5)を示す。
【0074】
[実施例5]
シュガーエステルS-1670(三菱ケミカル(株))の濃度を3%(w/v)としたほかは、実施例4と同様に、重量減少率、エチレン生成速度および呼吸活性を測定した。結果を
図14~17に示す。
【0075】
[実施例6]
シュガーエステルS-1670(三菱ケミカル(株))の濃度を5%(w/v)としたほかは、実施例4と同様に、重量減少率、エチレン生成速度および呼吸活性を測定した。結果を
図14~17に示す。
【0076】
[比較例7]
スダチの果実に、エチレン放出抑制剤を含む被膜を形成しなかったほかは、実施例4と同様に、重量減少率、エチレン生成速度および呼吸活性を測定した。結果を
図14~17に示す。
【0077】
[実施例7]
収穫後、1日目にエチレン放出抑制剤を含む被膜を形成したほかは、実施例6と同様に、重量減少率、エチレン生成速度および呼吸活性を測定した。結果を
図18~21に示す。
【0078】
[実施例8]
収穫後、2日目にエチレン放出抑制剤を含む被膜を形成したほかは、実施例6と同様に、重量減少率、エチレン生成速度および呼吸活性を測定した。結果を
図18~21に示す。
【0079】
[実施例9]
収穫後、3日目にエチレン放出抑制剤を含む被膜を形成したほかは、実施例6と同様に、重量減少率、エチレン生成速度および呼吸活性を測定した。結果を
図18~21に示す。
【0080】
[比較例8]
試験のタイミングを実施例7~9と合わせたほかは、比較例7と同様に、重量減少率、エチレン生成速度および呼吸活性を測定した。結果を
図18~21に示す。
【0081】
図1から、実施例1と比較例1を比較すると、実施例1では、全期間に亘ってエチレン生成速度が低いことが分かる。
図2から、実施例1と比較例1を比較すると、本発明のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有することで、青果物の軟化を抑制できたことが分かる。
図3から、実施例1と比較例1を比較すると、本発明のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有することで、青果物の外観が悪化する時間を遅延させる効果があることがわかる。
【0082】
図4から、比較例2の無処理の青果物は、貯蔵3日目までは硬度を維持したが、7日目で急激に低下したことがわかる。また、実施例2の青果物と、比較例4の青果物は、7日目までは硬度を維持し、その後貯蔵14日目で急激な低下を示した。一方、比較例3の青果物は、貯蔵期間14日目まで硬度を維持した。すなわち、本発明のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有することで、当該被膜を有しない青果物と比較して、青果物の硬度の低下を遅延させる効果があることがわかる。
【0083】
図5から、実施例2、比較例2~4の青果物のいずれも、貯蔵期間が進むにつれて、重量減少率は直線的に上昇したが、その傾きは異なることがわかった。比較例2の無処理の青果物が最も重量減少率が大きく、比較例3の1-MCP処理果実はそれよりわずかに重量減少が低く、約20%の減少抑制となった。一方、実施例2のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有する青果物は、比較例2の青果物に対し、約40%の重量減少抑制を示した。プラスチック包装に包んだ比較例4のカキ果実は、最も重量減少が少なく、約80%の重量減少抑制を示した。
実施例2の青果物は、比較例2の無処理の青果物よりも、40%の重量減少抑制を示しており、本発明のエチレン放出抑制剤を含む被膜は、水蒸気ガスバリア性を有していることが示唆される。この結果により、カキ果実の水分ストレスによるエチレン生成誘導に対しても抑制効果をもたらすものであると考えられる。水分蒸散は、エチレン生成誘導だけでなく萎れや果皮の張り減少といった商業的価値の低下に関わることから、このような対策技術は重要になってくる。
【0084】
図6から、実施例2、比較例2~4の青果物のいずれも、貯蔵3日目までは0.1nL・g
-1・h
-1以下の極めて低いエチレン生成速度を維持していたが、比較例2の無処理の青果物は、7日目で12.8nL・g
-1・h
-1となる急激なエチレン生成速度の増加を示すことがわかった。実施例2、比較例3、4の青果物は、7日目で約2.0nL・g
-1・h
-1の緩やかな上昇を見せた。貯蔵14日目では比較例4のプラスチック包装に包んだ青果物が、最も低い1.8nL・g
-1・h
-1を示し、続いて比較例3の1-MCP処理果実が3.4nL・g
-1・h
-1、実施例1のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有する青果物が、5.1nL・g
-1・h
-1を示し、実施例1、比較例3、4の青果物は、比較例2の無処理の青果物が貯蔵7日目で示した最も高い値、よりも低い値で推移した。
【0085】
図7から、比較例2の無処理の青果物は、貯蔵7日目で二酸化炭素排出量が急上昇し、126μL・g
-1・h
-1の高い値を示した。貯蔵3日目で、比較例2の無処理の青果物、比較例3の1-MCP処理青果物、比較例4のプラスチック包装の果実は、15μL・g
-1・h
-1の値を示した。
【0086】
図6及び
図7から、実施例2の青果物は、酸素ガスの透過を緩やかにし、エチレン生合成の最終ステップでの酸化反応を抑制することで、を減らす効果があったと推察される。特に、貯蔵3日目で、実施例2の青果物は、比較例2~4の青果物と比較して、二酸化炭素排出量が低く、果実内部の酸素濃度が下がっていたことが示唆される.
【0087】
図8に示すように、比較例2の無処理の青果物は緑色を示した外観が僅かに黄色味を帯びていき、貯蔵14日目で腐敗が生じた。カラーインデックスも、貯蔵期間とともに上昇した。比較例4のプラスチック包装に包んだ青果物は、貯蔵14日目で黒味を帯びた外観となり、カラーインデックスは他の処理区より上昇が大きかった。実施例2の青果物と比較例3の1-MCP処理青果物は、貯蔵7日目まではカラーインデックスの上昇が低かったが、実施例2の青果物は14日目で褐色外観になり、カラーインデックスも大きく上昇した。比較例3の1-MCP処理青果物は貯蔵14日目まで外観の変化は他処理区より小さかった。
【0088】
以上より、本発明のエチレン放出抑制剤を含む被膜は、1-MCPでは達成できない水分蒸散抑制、ポリ袋では対処できない呼吸抑制の両方を担える期待があることが示唆された。
【0089】
図9から、比較例5の無処理の青果物は、貯蔵6日目までは硬度を維持していたが、貯蔵14日目で急激に低下が生じた(貯蔵10日の硬度データなし)ことがわかった。実施例3のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有する青果物と、比較例6の1-MCP処理青果物は、貯蔵14日目まで貯蔵初日の硬度を維持し、軟化が見られなかった。
【0090】
図10から、実施例3、比較例5、6のいずれの青果物も、貯蔵日数に従い直線的に重量減少率が増加したが、処理内容で増加率に差があることがわかった。比較例5の無処理の青果物、比較例6の1-MCP処理青果物は、ほぼ同じ重量減少率の増加推移を示した。一方、実施例3のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有する青果物は、同じ重量減少率の推移を示した。
【0091】
図11から、比較例5の無処理の青果物は、貯蔵6日目からわずかにエチレン生成速度が増加し、貯蔵14日目で1.6nL・g
-1・h
-1の急激な増加を示していた。比較例6の1-MCP処理青果物は、貯蔵10日目でわずかにエチレン生成速度が増加し、0.09nL・g
-1・h
-1のピーク値を示したが、貯蔵期間で比較例5の無処理の青果物よりエチレン生成速度は低かった。実施例3のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有する青果物は、さらに低いエチレン生成速度を貯蔵期間通じて維持した。
【0092】
図12から、比較例5の無処理の青果物は、呼吸量の増加傾向を示し、貯蔵14日目で貯蔵期間中最も高い125μL・g
-1・h
-1を示していた。比較例6の1-MCP処理青果物と、実施例3のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有する青果物は僅かに上昇があったものの、貯蔵期間を通して低い値を維持した。
【0093】
図13に示すように、比較例5の無処理の青果物は、貯蔵日数に従い、徐々にカラーインデックス値が増加し、緑色した果皮色が徐々に黄色に変化した。貯蔵14日目では全体の果皮色が黄色を示した。比較例6の1-MCP処理果実も徐々にカラーインデックス値が増加し、貯蔵14日目では全体に黄色を認識できるまでになったが、比較例5の無処理の青果物と比較すると、果皮色の変化は少なかった。実施例3のエチレン放出抑制剤を含む被膜を形成した青果物は、比較例5の無処理の青果物に対してカラーインデックス値の上昇がかなり小さく、外観でも貯蔵14日目までほとんど緑色を維持した。
【0094】
バナナ果実はカキ果実と同様にクライマクテリック型果実に属し、収穫後に急激なエチレン生成速度の増加、呼吸量の増加を伴い、果皮色の変化、果肉軟化を特徴とする熟成進行が生じる。上記のように、実施例3のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有する青果物(バナナ(グランドナイン))は、カキ(平核無)を用いた場合と同様に、熟成挙動の開始と進行を遅延することができた。その効果は比較例6の1-MCP処理青果物と同等レベルであった。さらに、重量減少の観点では比較例6の1-MCP処理青果物を用いた結果から、1-MCP処理には重量減少を抑制する効果がなく、比較例5の無処理の青果物と同等レベルであることがわかった。
一方、実施例3のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有する青果物(バナナ(グランドナイン))では、熟成進行が抑制されているだけでなく、重量減少も半分程度に抑制されていたことから、蒸散を防止し、水分の保持にも寄与していることが示唆された。重量減少には寄与しない1-MCPと比較すると、本発明のエチレン放出抑制剤を含む被膜は、青果物の品質保持に対しより効果的な一面が確認できたと言える。
【0095】
図14から、実施例4~6、比較例7の青果物ともに、貯蔵日数に従い重量減少率が増加したが、処理内容で増加率に差があった。比較例7の無処理の果実に対して、実施例4~6のエチレン放出抑制剤を含む被膜を形成した果実は重量減少が抑制されており、組成物中のエチレン放出抑制剤の濃度が高い方が、その効果は高かった。
【0096】
図15から、比較例7の無処理の青果物は、貯蔵7日目でエチレン生成速度の上昇が確認され、貯蔵10日目で0.26nL・g
-1・h
-1のピークを示し、その後緩やかに減少した。エチレン放出抑制剤の濃度が1%の組成物で処理した実施例4の青果物は、エチレン生成速度の増加を示さず、貯蔵初日からエチレン生成速度が徐々に下がる結果であった。エチレン放出抑制剤の濃度が3%と5%の組成物で処理した実施例5と6の青果物は、貯蔵3日目より低い値を維持し、特に実施例6の5%処理果実では貯蔵期間中0.04nL・g
-1・h
-1以下を維持した。
【0097】
図16より、比較例7の無処理の青果物は、貯蔵4日目では低かった二酸化炭素排出量が、貯蔵7日目で急上昇し、貯蔵10日目で67μL・g
-1・h
-1のピークを示しその後緩やかに減少した。エチレン放出抑制剤を含む被膜を有する実施例4~6の青果物は、貯蔵期間中でいずれも貯蔵初日よりも低い二酸化炭素排出量を示した。その中において、エチレン放出抑制剤の濃度が1%の組成物で処理した実施例4の青果物は、貯蔵7日目に45μL・g
-1・h
-1の小さなピーク値を示し、エチレン放出抑制剤の濃度が3%と5%の組成物で処理した実施例5と6の青果物は、貯蔵14日目にそれぞれ37、31μL・g
-1・h
-1の緩やかなピークを示したが,全体的には低い値を維持し続けた。
【0098】
図17に示すように、比較例7の無処理の青果物は、貯蔵7日目で黄色への変化が認められ、14日目で果皮色が完全に黄色を示す外観となり、カラーインデックス値も貯蔵期間に応じて増加が認められた。それに対し、エチレン放出抑制剤を含む被膜を有する実施例4~6の青果物は、全体として比較例7の無処理の青果物よりも変色の進行が遅く、カラーインデックス値の上昇も低かった。その変化の速さは、コーティング液濃度が高くなるにつれて遅くなり、最も変化が遅い実施例6のエチレン放出抑制剤の濃度が5%の組成物で処理した実施例6の果実で黄色への変化開始が認められたのは貯蔵17日目であり、比較例7の無処理の青果物と比較して10日遅かった。
【0099】
以上より、エチレン放出抑制剤を施用することで、スダチの果実の果皮色の変化を遅らせ,商業的品質の維持には寄与することが示された。エチレン放出抑制剤を含む組成物中の、エチレン放出抑制剤の濃度の影響については、組成物中のエチレン放出抑制剤の濃度が高いと、果皮色の変化と重量減少に対し、より抑制効果が強まった。組成物中のエチレン放出抑制剤の濃度を上げることにより、果皮表面に形成される、エチレン放出抑制剤を含む被膜の厚みが厚くなり、その結果、酸素や水蒸気の透過がより抑制されたためと考える。
【0100】
図18に示すように、実施例7~9、比較例8とも、貯蔵日数に従い重量減少率が増加したが、処理内容で増加率に差があった。無処理の比較例8の青果物に対し、エチレン発生抑制剤を含む組成物で処理した実施例7~9の青果物は、重量減少が抑制されていた。その中でも、収穫後1日目に処理した実施例7の青果物は、最も抑制に対し効果があり、収穫後2、3日目に処理した実施例8、9の青果物は、ほぼ同じ重量減少の推移を示した。
【0101】
図19に示すように、無処理の比較例8の青果物は、貯蔵4日目で既にエチレン生成速度の上昇が確認され、4日目までにエチレン生成速度の上昇が生じていた可能性が示唆された。エチレン生成速度は、貯蔵7日目で0.38nL・g
-1・h
-1のピークを示し、その後緩やかに減少した。収穫後1日目に処理した実施例7の青果物は、貯蔵期間中に僅かに緩やかな増加を示し、貯蔵18日目で0.13nL・g
-1・h
-1のピークを示したが全体的に低い値を維持した。収穫後2、3日目に処理した、実施例8、9の青果物は、ほぼ同じ推移を示し、貯蔵14日目に約0.19nL・g
-1・h
-1のピークを示し、その後緩やかに減少した。全体のエチレン生成は、無処理の比較例8の青果物より低い値を示したが、収穫後1日目に処理した実施例7の青果物よりは高い値となった。
【0102】
図20に示すように、二酸化炭素排出量の推移は、エチレン生成速度の推移と類似していた。無処理の比較例8の青果物は、貯蔵4日目で既に二酸化炭素排出量の上昇が確認され、4日目までに二酸化炭素排出量の上昇が生じていた可能性が示唆される。二酸化炭素排出量は、貯蔵7日目で74μL・g
-1・h
-1のピークを示し、その後緩やかに減少した。収穫後1日目で処理した実施例7の青果物は、貯蔵期間中約50μL・g
-1・h
-1以下の低い値を維持した。収穫後2、3日目に処理した実施例8,9の果実は、ほぼ同じ推移を示し、貯蔵14日目に約55μL・g
-1・h
-1の緩やかなピークを示し、その後緩やかに減少した。実施例7~9の、エチレン放出抑制剤を含む被膜を有する実施例7~9の青果物の全体の二酸化炭素排出量は、無処理の比較例8の青果物より低い値を示した。
【0103】
図21に示すように、無処理の比較例8の青果物は、貯蔵7日目で果皮色の黄色化進行が認められ、11日目で果皮色が完全に黄色を示す外観となり、カラーインデックス値も増加して貯蔵11日目を境に上昇が緩やかになった。それに対し、エチレン放出抑制剤を含む被膜を形成した実施例7~9の青果物は全体として無処理の比較例8の青果物よりも変色の進行が遅く、カラーインデックス値の上昇も低かった。しかしながら、収穫後2日目に処理を行った実施例8の果実は、11日目から果皮色が黄変し14日目で強い黄色味を示した。カラーインデックスでもその傾向が出ており、コントロール果実に対して三日遅れの変色挙動を示した。収穫後3日目に処理した実施例9の果実も、外観に少し緑色が残ったものの、収穫後2日目に処理した実施例8の果実と同様の傾向であった。一方で、収穫後1日目に処理した実施例7の果実は、他処理区と比較して明らかに果皮色に緑色を維持する傾向が強かった。カラーインデックスでも無処理の比較例8の青果物と比較して、明らかに上昇は遅かった。
【0104】
収穫後から、エチレン放出抑制剤を含む被膜を形成する処理を行うまでの期間については、収穫から短い期間での処理がより有効に働くことがわかった。エチレン生成速度の測定においては、貯蔵4日目で無処理の比較例8の青果物のエチレン生成速度が急激な増加を示していたことから、それまでの期間でエチレン生成が開始されていた可能性が高く、収穫後2、3日目で処理した実施例8,9の果実は、既にエチレンの影響を受けている可能性がある。エチレン生成後にコート処理したと推測される、収穫後2,3日目に処理を行った実施例8、9の果実は、エチレン生成速度の上昇が生じているが、そのピークは無処理の比較例8の青果物に比べて遅れており、また、ピーク値の高さも低くなっている。それに連動して、二酸化炭素排出量のピークも遅れて最大値も無処理果実より低くなっている。一方で、エチレン生成前にコート処理したことが予想される、実施例7の収穫後1日目に処理を行った青果物は、急激なエチレン生成速度の上昇は生じておらず、また、二酸化炭素排出量も低い値を維持していた。このことから、エチレン放出抑制剤の効果は、果実から内生エチレンが生じる前後で大きく異なり、エチレン生成前であれば、エチレン放出抑制剤は、より有効にエチレンに誘導される生理活性の開始と進行を防ぐことができる。一方で、既にエチレン生成が開始されていても、エチレン放出抑制剤によって、エチレン由来の生理活性の進行は遅延できることが示唆された。そのため、収穫後すぐにエチレンが生成するような青果物、または、収穫前の樹上で既にエチレンを生成するような比較的棚持ち性が低い青果物に対しても、エディブルコーティングは品質維持に対し一定の効果が期待できると考える。
【0105】
これらの結果より、本発明のエチレン放出抑制剤を含む被膜を有する青果物は、エチレンの放出が抑制されていることが示せた。また、エチレンの放出が抑制されたことにより、青果物の硬度を高く保つことができること、外観が良好である期間が長いことから、食品の流通において、出荷調整することができると言える。