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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131767
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】骨補填材及び骨補填材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/04 20060101AFI20240920BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20240920BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20240920BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20240920BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61L27/04
A61F2/28
A61L27/34
A61L27/54
A61L27/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042224
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】花田 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕史
(72)【発明者】
【氏名】三島 初
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 竜之介
(72)【発明者】
【氏名】北川 全
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081BA12
4C081BA13
4C081BA16
4C081BB06
4C081CA172
4C081CE02
4C081CG08
4C081DA16
4C081DC03
4C097AA01
4C097DD01
4C097DD09
(57)【要約】
【課題】強度を有し、かつ、摘出が不要な骨補填材を提供する。
【解決手段】生体に吸収される金属を含むワイヤーであって、巻かれたワイヤーを備える、骨補填材。巻かれたワイヤーの体積充てん率が5%以上であってもよい。ワイヤーが、らせん状に巻かれていてもよい。ワイヤーが、第1の半径を有するらせん状に巻かれ、さらに、第1の半径より大きい第2の半径を有するらせん状に巻かれていてもよい。巻かれたワイヤーが圧縮されていてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に吸収される金属を含むワイヤーであって、巻かれたワイヤーを備える、骨補填材。
【請求項2】
前記巻かれたワイヤーの体積充てん率が5%以上である、請求項1に記載の骨補填材。
【請求項3】
前記ワイヤーが、らせん状に巻かれている、請求項1に記載の骨補填材。
【請求項4】
前記ワイヤーが、第1の半径を有するらせん状に巻かれ、さらに、前記第1の半径より大きい第2の半径を有するらせん状に巻かれている、請求項1に記載の骨補填材。
【請求項5】
前記巻かれたワイヤーが圧縮されている、請求項1に記載の骨補填材。
【請求項6】
前記ワイヤーが連続している、請求項1に記載の骨補填材。
【請求項7】
前記金属が、マグネシウム、マグネシウム合金、鉄、鉄合金、亜鉛、及び亜鉛合金からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の骨補填材。
【請求項8】
前記ワイヤーを覆う、生分解性ポリマーを含む層をさらに備える、請求項1に記載の骨補填材。
【請求項9】
前記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリL乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、及びそれらの共重合体からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項8に記載の骨補填材。
【請求項10】
前記ワイヤー上に配置された、骨形成剤及び骨吸収抑制剤からなる群から選択される少なくとも一つをさらに備える、請求項1に記載の骨補填材。
【請求項11】
前記骨形成剤が、テリパラチドである、請求項10に記載の骨補填材。
【請求項12】
前記骨吸収抑制剤が、ビスホスホネート系化合物である、請求項10に記載の骨補填材。
【請求項13】
生体に吸収される金属を含むワイヤーを用意することと、
前記ワイヤーを巻くことと、
を含む、骨補填材の製造方法。
【請求項14】
前記巻かれたワイヤーの体積充てん率が5%以上である、請求項13に記載の骨補填材の製造方法。
【請求項15】
前記ワイヤーを巻くことにおいて、前記ワイヤーをらせん状に巻く、請求項13に記載の骨補填材の製造方法。
【請求項16】
前記ワイヤーを巻くことにおいて、前記ワイヤーを第1の半径を有するらせん状に巻き、前記第1の半径を有するらせん状に巻かれたワイヤーを、前記第1の半径より大きい第2の半径を有するらせん状にさらに巻く、請求項13に記載の骨補填材の製造方法。
【請求項17】
前記巻かれたワイヤーを圧縮することをさらに含む、請求項13に記載の骨補填材の製造方法。
【請求項18】
前記ワイヤーが連続している、請求項13に記載の骨補填材の製造方法。
【請求項19】
前記金属が、マグネシウム、マグネシウム合金、鉄、鉄合金、亜鉛、及び亜鉛合金からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項13に記載の骨補填材の製造方法。
【請求項20】
生分解性ポリマーを含む層で前記ワイヤーを覆うことをさらに含む、請求項13に記載の骨補填材の製造方法。
【請求項21】
前記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリL乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、及びそれらの共重合体からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項20に記載の骨補填材の製造方法。
【請求項22】
前記ワイヤー上に、骨形成剤及び骨吸収抑制剤からなる群から選択される少なくとも一つを配置することをさらに含む、請求項13に記載の骨補填材の製造方法。
【請求項23】
前記骨形成剤が、テリパラチドである、請求項22に記載の骨補填材の製造方法。
【請求項24】
前記骨吸収抑制剤が、ビスホスホネート系化合物である、請求項22に記載の骨補填材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨補填材及び骨補填材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、骨折、骨関節、及び骨腫瘍の手術が増加している。手術が増加している理由はさまざまであるが、高齢者の骨粗しょう症の増加が理由の一つであり得る。手術においては、セメント、ペースト、及び多孔体等の骨補填材を手術部位に、充てん、配置する(例えば、特許文献1から5参照。)。しかし、強度のある骨補填材の多くは、生体内で骨に置換されず、炎症などの合併症、摘出のための再手術、及びウイルス感染などの不都合を生じ得る。また、生体内で骨に置換される骨補填材の多くは、強度が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5784005号公報
【特許文献2】特許第5275583号公報
【特許文献3】特表2007-513083号公報
【特許文献4】特開2007-289551号公報
【特許文献5】特許第4801316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、強度を有し、かつ、摘出が不要な骨補填材及び骨補填材の製造方法を提供することを課題の少なくとも一部とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様によれば、生体に吸収される金属を含むワイヤーであって、巻かれたワイヤーを備える、骨補填材が提供される。
【0006】
上記の骨補填材において、巻かれたワイヤーの体積充てん率が5%以上であってもよい。
【0007】
上記の骨補填材において、ワイヤーが、らせん状に巻かれていてもよい。
【0008】
上記の骨補填材において、ワイヤーが、第1の半径を有するらせん状に巻かれ、さらに、第1の半径より大きい第2の半径を有するらせん状に巻かれていてもよい。
【0009】
上記の骨補填材において、巻かれたワイヤーが圧縮されていてもよい。なお、圧縮とは、巻かれたワイヤーの体積充てん率が増加するように、巻かれたワイヤーを圧力によって変形させることであり得る。
【0010】
上記の骨補填材において、ワイヤーが連続していてもよい。
【0011】
上記の骨補填材において、金属が、マグネシウム、マグネシウム合金、鉄、鉄合金、亜鉛、及び亜鉛合金からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0012】
上記の骨補填材が、ワイヤーを覆う、生分解性ポリマーを含む層をさらに備えていてもよい。
【0013】
上記の骨補填材において、生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリL乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、及びそれらの共重合体からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0014】
上記の骨補填材が、ワイヤー上に配置された、骨形成剤及び骨吸収抑制剤からなる群から選択される少なくとも一つをさらに備えていてもよい。
【0015】
上記の骨補填材において、骨形成剤が、テリパラチドであってもよい。
【0016】
上記の骨補填材において、骨吸収抑制剤が、ビスホスホネート系化合物であってもよい。
【0017】
本発明の態様によれば、生体に吸収される金属を含むワイヤーを用意することと、ワイヤーを巻くことと、を含む、骨補填材の製造方法が提供される。
【0018】
上記の骨補填材の製造方法において、巻かれたワイヤーの体積充てん率が5%以上であってもよい。
【0019】
上記の骨補填材の製造方法において、ワイヤーを巻くことにおいて、ワイヤーをらせん状に巻いてもよい。
【0020】
上記の骨補填材の製造方法において、ワイヤーを巻くことにおいて、ワイヤーを第1の半径を有するらせん状に巻き、第1の半径を有するらせん状に巻かれたワイヤーを、第1の半径より大きい第2の半径を有するらせん状にさらに巻いてもよい。
【0021】
上記の骨補填材の製造方法において、ワイヤーを第1の半径を有するらせん状に巻くことにおいて、ワイヤーを第1の半径を有する棒に巻き付けてもよい。
【0022】
上記の骨補填材の製造方法において、ワイヤーを第2の半径を有するらせん状に巻くことにおいて、断面形状が第2の半径を有する円である穴にワイヤーを回転させながら挿入してもよい。
【0023】
上記の骨補填材の製造方法が、巻かれたワイヤーを圧縮することをさらに含んでいてもよい。なお、圧縮とは、巻かれたワイヤーの体積充てん率が増加するように、巻かれたワイヤーを圧力によって変形させることであり得る。
【0024】
上記の骨補填材の製造方法において、巻かれたワイヤーを圧縮することにおいて、穴に回転させられながら挿入されたワイヤーに対し、穴にパンチを挿入して、ワイヤーを圧縮してもよい。穴の両端からパンチを挿入して、ワイヤーを圧縮してもよい。骨補填材が所望の長手方向の長さを有するよう、両端から穴に挿入された2つのパンチの間隔を設定してもよい。
【0025】
上記の骨補填材の製造方法において、ワイヤーが連続していてもよい。
【0026】
上記の骨補填材の製造方法において、金属が、マグネシウム、マグネシウム合金、鉄、鉄合金、亜鉛、及び亜鉛合金からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0027】
上記の骨補填材の製造方法が、生分解性ポリマーを含む層でワイヤーを覆うことをさらに含んでいてもよい。
【0028】
上記の骨補填材の製造方法において、生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリL乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、及びそれらの共重合体からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0029】
上記の骨補填材の製造方法が、ワイヤー上に、骨形成剤及び骨吸収抑制剤からなる群から選択される少なくとも一つを配置することをさらに含んでいてもよい。
【0030】
上記の骨補填材の製造方法において、骨形成剤が、テリパラチドであってもよい。
【0031】
上記の骨補填材の製造方法において、骨吸収抑制剤が、ビスホスホネート系化合物であってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、強度を有し、かつ、摘出が不要な骨補填材及び骨補填材の製造方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施形態及び実施例に係る体積充てん率ρが10%の骨補填材の図である。
図2】実施形態及び実施例に係る体積充てん率ρが30%の骨補填材の図である。
図3】実施形態及び実施例に係る体積充てん率ρが40%の骨補填材の写真である。
図4】実施例に係る骨補填材の材料のワイヤーの大きさ、及び当該ワイヤーで作製された骨補填材の充てん率を示す表である。
図5】実施例に係る第1の半径を有するらせん状に巻かれたワイヤーの写真である。
図6】実施例に係る第2の半径を有するらせん状に巻かれているワイヤーの写真である。
図7】実施例に係る骨補填材、金型、及びパンチの写真である。
図8】実施例に係る骨補填材を製造する際のパンチのストロークと圧縮加重の関係を示すグラフである。
図9】実施例に係る骨補填材の圧縮応力を示す表である。
図10】実施例に係る圧縮応力と骨密度の関係を示す表である。
図11】実施例に係る兎に埋植された骨補填材を示す写真である。
図12】実施例に係る兎に埋植された骨補填材(ρ10%)と周囲の組織の蛍光X線分析画像である。
図13】実施例に係る兎に埋植された骨補填材(ρ30%)と周囲の組織の蛍光X線分析画像である。
図14】実施例に係る兎に埋植された骨補填材におけるマグネシウムと分解生成物の体積率を示す表である。
図15】実施例に係る兎に埋植された骨補填材を示す写真である。
図16】実施例に係る兎に埋植された骨補填材と周囲の組織のマクロフォーカスX線CT画像である。
図17】実施例に係る兎に形成された骨孔部位のマクロフォーカスX線CT画像である。
図18】実施例に係る兎に形成された骨孔部位における骨量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」ということがある)について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための方法等を例示するものであって、これらの例示に限定されるものではない。
【0035】
実施形態に係る骨補填材は、図1から図3に示すように、生体に吸収される金属を含むワイヤーであって、巻かれたワイヤーを備える。ワイヤーは、生体に吸収される金属からなっていてもよい。実施形態に係る骨補填材は、例えば、骨折及び腫瘍により生じた骨欠損部の充てん及び補修のために使用され得る。
【0036】
生体に吸収される金属の例としては、マグネシウム、マグネシウム合金、鉄、鉄合金、亜鉛、及び亜鉛合金が挙げられる。マグネシウム合金は、マグネシウムを主成分とすれば、特に限定されない。マグネシウム合金は、例えば、96.5重量%のマグネシウム、2.5重量%のネオジウム、及び1.0重量%のイットリウムからなる。生体に吸収される金属は、好ましくは、マグネシウム及びマグネシウム合金である。マグネシウムは強度を有する金属でありながら、生体に必要なミネラルであり、かつ、生体内で分解、吸収され、概ね1年以内に生体内でリン酸カルシウムに置換され得る。
【0037】
ワイヤーの直径の下限は、特に限定されないが、例えば、0.05mm以上、0.1mm以上、0.2mm以上、あるいは0.3mm以上である。ワイヤーの直径の上限は、特に限定されないが、例えば、1mm以下、0.8mm以下、あるいは0.6mm以下である。ワイヤーの直径は、骨補填材の所望の強度に応じて、適宜設定され得る。実施形態に係る骨補填材において、例えば、1本のワイヤーが連続している。
【0038】
巻かれたワイヤーの体積充てん率の下限は、特に限定されないが、例えば、5%以上、7.5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、あるいは30%以上である。なお、体積充てん率(%)とは、空間に占めるワイヤーの体積の比(m3/m3×100)である。ワイヤーの体積充てん率が5%以上であることにより、骨補填材の強度が、実際の骨の強度に近くなる。巻かれたワイヤーの体積充てん率の上限は、特に限定されないが、例えば95%以下、90%以下、あるいは80%以下である。ワイヤーの体積充てん率は、骨補填材の所望の強度に応じて、適宜設定され得る。
【0039】
巻かれたワイヤーの体積充てん率ρ(%)と、巻かれたワイヤーの空隙率a(%)とは、以下の関係を有する。
a=100-ρ
【0040】
ワイヤーは、表面に凹凸が生じるように巻かれている。また、ワイヤーは、内部に空隙が生じるように巻かれている。例えば、ワイヤーは、規則的な空隙が生じるように巻かれている。骨補填材が生体内に配置されると、巻かれたワイヤーの表面の凹部内や空隙内に骨が成長し、骨補填材と骨とが一体化する。
【0041】
ワイヤーは、例えば、らせん状に巻かれている。らせん状に巻かれたワイヤーは、長手方向において、ピッチが狭まるように、圧縮されていてもよい。ワイヤーは、例えば、第1の半径を有するらせん状に巻かれ、さらに、第1の半径より大きい第2の半径を有するらせん状に巻かれていてもよい。1の半径を有するらせん状に巻かれ、さらに、第2の半径を有するらせん状に巻かれたワイヤーは、長手方向において、ピッチが狭まるように、圧縮されていてもよい。圧縮により、巻かれたワイヤーの体積充てん率が増加する。
【0042】
実施形態に係る骨補填材は、ワイヤーを覆う、生分解性ポリマーを含む層をさらに含んでいてもよい。生分解性ポリマーを含む層は、生分解性ポリマーからなっていてもよい。生分解性ポリマーの例としては、ポリ乳酸、ポリL乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、及びそれらの共重合体が挙げられる。
【0043】
実施形態に係る骨補填材は、ワイヤー上に配置された、骨の形成を促進する骨形成剤をさらに備えていてもよい。骨形成剤は、骨同化剤又は骨成長剤とも呼ばれる。骨補填材が生分解性ポリマーを含む層を備える場合、骨形成剤は、生分解性ポリマーを含む層内に配置されていてもよいし、生分解性ポリマーを含む層上に配置されていてもよい。骨形成剤の例としては、副甲状腺ホルモンの少なくとも一部、副甲状腺ホルモンの少なくとも一部の塩、活性型ビタミンD3、活性型ビタミンD3の誘導体、ビタミンK2、及びビタミンK2の誘導体が挙げられる。
【0044】
副甲状腺ホルモンの少なくとも一部の例としては、テリパラチドが挙げられる。副甲状腺ホルモンの少なくとも一部の塩の例としては、テリパラチド酢酸塩が挙げられる。活性型ビタミンD3の例としては、ワンアルファ、及びカルシトリオールが挙げられる。活性型ビタミンD3の誘導体の例としては、エディロールが挙げられる。
【0045】
実施形態に係る骨補填材は、ワイヤー上に配置された、骨吸収を抑制する骨吸収抑制剤をさらに備えていてもよい。骨補填材が生分解性ポリマーを含む層を備える場合、骨吸収抑制剤は、生分解性ポリマーを含む層内に配置されていてもよいし、生分解性ポリマーを含む層上に配置されていてもよい。骨吸収抑制剤の例としては、ビスホスホネート系化合物、甲状腺ホルモンの少なくとも一部、甲状腺ホルモンの少なくとも一部の塩、抗RANKL抗体、女性ホルモン、及び選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)が挙げられる。
【0046】
ビスホスホネート系化合物の例としては、アレンドロン酸、アレンドロン酸ナトリウム水和物、イバンドロン酸、イバンドロン酸ナトリウム水和物、ゾレドロン酸、及びゾレドロン酸水和物が挙げられる。甲状腺ホルモンの少なくとも一部の例としては、甲状腺ホルモンの少なくとも一部が挙げられる。抗RANKL抗体の例としては、デノスマブが挙げられる。女性ホルモンの例としては、エストロゲンが挙げられる。SERMの例としては、ラロキシフェン、塩酸ラロキシフェン、バゼドキシフェン、及びバゼドキシフェン酢酸塩が挙げられる。
【0047】
(実施例1:骨補填材の作製)
マグネシウム合金(組成:Mg96.5重量%、Nd2.5重量%、Y1.0重量%)からなるインゴットを切削し、円柱状の押出し用ビレット(外径70mm×長さ140mm)に作製した。このビレットを温度400℃、押出し比20の条件で熱間押出し成形し、外径12mmの棒材を作製した。さらに、この押出し棒材を切削し、円柱状の押出し用ビレット(外径10mm×長さ25mm)を作製した。さらに、この押出し用ビレットを温度450℃、押出し比28の条件で熱間押出し成形し、マグネシウム合金線材(外径1.9mm×長さ300mmから400mm)を作製した。
【0048】
得られたマグネシウム合金線材を引抜きダイスに挿入し、常温、減面率30%以下の条件で引抜き加工し、引き抜かれた合金を400℃で30分、焼きなまし処理した。この引抜き加工、及び焼きなまし処理の工程を、直径が0.3mm、0.4mm、及び0.5mmのマグネシウム合金ワイヤーが得られるまで繰返した。なお、目的とする直径に引抜かれたワイヤーには、焼きなまし処理をしなかった。
【0049】
得られたマグネシウム合金ワイヤーを、図4に示す所定の長さに切断し、直径1mmの心材に2mmから3mmピッチでらせん状に巻付けた。図5に示すように、らせん状に巻かれたワイヤー内から心材を取り除いた後、半径0.5mmのらせん状のワイヤーを、図6に示す断面形状が直径5mmの円である穴が設けられた成形金型の穴にらせん状に充填し、成形金型の内部で、半径0.5mmのらせん状に巻かれたワイヤーを、さらに半径2.5mmのらせん状に巻いた。
【0050】
図7に示すように、金型の穴の両端から直径5mmの第1及び第2のパンチを挿入し、らせん状に巻かれたワイヤーを、長手方向の長さが10mmになるまで圧縮し、実施例に係る骨補填材を得た。図4に示すように、らせん状に巻かれ圧縮される前のワイヤーの径及び長さに応じて、らせん状に巻かれ圧縮された後のワイヤーの体積充てん率ρを調整することが可能であった。図1は、直径0.4mm、長さ156mmのワイヤーを用いて作製した、体積充てん率が10%の骨補填材の例を示す。図2は、直径0.4mm、長さ469mmのワイヤーを用いて作製した、体積充てん率が30%の骨補填材の例を示す。作製された骨補填材は、生体組織が侵入しやすい、規則的な空隙構造を有していた。
【0051】
(実施例2:機械的強度の測定)
実施例1において、金型内でワイヤーを圧縮した際の圧縮強度を測定した。ワイヤーの直径が0.3mmである場合、図8に示すように、体積充てん率ρが高くなるほど、圧縮強度は二次曲線的に増加する傾向にあった。ワイヤーの直径及び体積充てん率に対する、圧縮応力を図9に示す。ワイヤーの直径及び体積充てん率に応じて、作製される骨補填材の圧縮応力を調整することが可能であった。例えば、直径が0.4mmのワイヤーを体積充てん率が30%になるよう圧縮すると、圧縮応力は8MPaであった。圧縮応力(MPa)と骨密度(pcf)との一般的な対応関係を図10に示す。8MPaの圧縮応力は、約20pcfの密度に対応する。なお、健常者の海綿骨の密度は、15pcfである。
【0052】
(実施例3:骨補填材の生体吸収性・骨置換性)
実施例1で作製した、長さが156mm及び469mmである、0.4mmの直径のマグネシウム合金ワイヤーからなり、当該ワイヤーを体積充てん率が10%と30%になるよう、コイル状に2段階巻き、圧縮した骨補填材を用意した。用意した骨補填材をアセトンで1分間洗浄し、350℃で30分、焼きなまし処理した。その後、骨補填材を、希酸により、常温で30秒間、化成処理し、さらに、水、アセトンの順で、1分ずつ、超音波洗浄した。
【0053】
次に、クラス100,000のクリーンブース内で、用意した骨補填材を100%エタノール液に1分間浸漬して滅菌し、風乾した。また、複数の日本白色家兎(12週齢)の両大腿骨遠位部のそれぞれに、直径5.3mmの骨孔をドリルで形成した。その後、図11に示すように、第1及び第2の群の日本白色家兎の骨孔に、体積充てん率が10%骨補填材と体積充てん率が30%骨補填材をそれぞれ埋植した。各群のn数は12であった。埋植してから3週目にそれぞれの群の半数から骨補填材と周囲の組織を採取し、埋植してから6週目にそれぞれの群の残りの半数から骨補填材と周囲の組織を採取した。採取した骨補填材と周囲の組織は、10%ホルマリンにて固定した後、速やかにメタクリル酸メチル(MMA)樹脂で包埋し、検体とした。
【0054】
マグネシウムは、生体内の体液と反応しながら分解・吸収され、骨に近い分解生成物(アモルファス状リン酸カルシウム)を形成することが知られている。そこで、検体を切断し、切断面を#1000エメリー紙とアルミナ砥粒で研磨し、蛍光X線分析により、研磨された切断面における元素をマッピングした。その結果、図12及び図13に示すように、体積充てん率が10%骨補填材を含む検体と体積充てん率が30%骨補填材を含む検体のいずれにおいても、埋植期間が3週、6週と経過するとともに、濃いグレーで示されるマグネシウムの領域が減少し、白で示される分解生成物の領域が増加していた。
【0055】
また、検体をマイクロフォーカスX線CTで分析し、検体におけるマグネシウムの体積率を測定した。図14に示すように、体積充てん率が10%骨補填材を含む検体と体積充てん率が30%骨補填材を含む検体のいずれにおいても、埋植期間が3週、6週と経過するとともに、マグネシウムの体積は減少し、分解生成物の体積が増加していた。なお、マイクロフォーカスX線CT画像におけるマグネシウムの領域と分解生成物の領域の境界は、検体の同じ部分を撮影した蛍光X線分析画像により決定した。
【0056】
実施例3の結果は、実施例に係る骨補填材が、時間の経過とともに生体内で分解、吸収され、骨の成分に類似する分解生成物に置換されていくことを示している。
【0057】
(実施例4:骨補填材のコーティング)
実施例1と同様の方法により、充てん率が10%の骨補填材を作製した。さらに、クラス100,000のクリーンブース内で、12gのクロロホルムに0.3gのポリL乳酸(PLLA)を添加し、骨形成剤及び骨吸収抑制剤を添加しなかった溶液を調製し、当該溶液に骨補填材の第1の群を10秒間浸漬させ、ゆっくり引き上げた後、溶液を風乾し、骨補填材を骨形成剤及び骨吸収抑制剤と混合されていないポリL乳酸でコーティングした。
【0058】
また、12gのクロロホルムに0.3gのポリL乳酸と1mgのテリパラチド(テリパラチド酢酸塩)を添加した溶液を調製し、当該溶液に骨補填材の第2の群を10秒間浸漬させ、ゆっくり引き上げた後、溶液を風乾し、骨補填材をテリパラチドと混合されたポリL乳酸でコーティングした。コーティング層には、5μgから7μgのテリパラチドが含まれていた。
【0059】
また、12gのクロロホルムに0.3gのポリL乳酸と5.6mgのアレンドロネート(アレンドロン酸ナトリウム水和物)を添加した溶液を調製し、当該溶液に骨補填材の第3の群を10秒間浸漬させ、ゆっくり引き上げた後、溶液を風乾し、骨補填材をアレンドロネートと混合されたポリL乳酸でコーティングした。コーティング層には、29μgから45μgのアレンドロネートが含まれていた。
【0060】
次に、クラス100,000のクリーンブース内で、用意した骨補填材を100%エタノール液に20秒間浸漬して滅菌し、風乾した。また、複数の日本白色家兎(12週齢)の両大腿骨遠位部のそれぞれに、直径5.4mmの骨孔をドリルで形成した。その後、図15に示すように、第1から第4の群の日本白色家兎の骨孔に、コーティングしていない骨補填材、ポリL乳酸のみでコーティングした骨補填材、ポリL乳酸及びテリパラチドでコーティングした骨補填材、並びにポリL乳酸及びアレンドロネートでコーティングした骨補填材をそれぞれ埋植した。また、第5の群の日本白色家兎の骨孔には、骨補填材を埋植しなかった。各群のn数は3であった。埋植してから6週目にそれぞれの群から骨補填材と周囲の組織を採取した。採取した骨補填材と周囲の組織は、10%ホルマリンにて固定した後、速やかにMMA樹脂で包埋し、検体とした。
【0061】
マイクロフォーカスX線CTにより検体の断面を観察した。図16に、埋植して6週目に採取した検体をマクロフォーカスX線CTで撮影した画像を示す。骨補填材を埋植しなかったコントロール群においては、皮質骨が骨孔に陥没していた。骨補填材を埋植した全ての群においては、皮質骨が骨孔に陥没しておらず、皮質骨が修復されていた。また、コーティングしていない骨補填材を埋植した群と比較して、コーティングした骨補填材を埋植した群のほうが、皮質骨の修復が明確に進んでいた。
【0062】
骨修復効果を定量的に評価するために、図17に例示する枠内における骨孔部位の骨面積量(mm2)を測定した。骨孔部位の骨面積量は、骨修復度を表す。図18に示すように、骨補填材を埋植した検体は、いずれも、骨補填材を埋植しなかった検体より、骨修復度が高かった。また、コーティングしていない骨補填材よりも、ポリL乳酸のみでコーティングした骨補填材のほうが、骨修復度が高かった。ポリL乳酸のみでコーティングした骨補填材よりも、ポリL乳酸及びテリパラチドでコーティングした骨補填材のほうが、骨修復度が高かった。ポリL乳酸及びテリパラチドでコーティングした骨補填材よりも、ポリL乳酸及びアレンドロネートでコーティングした骨補填材のほうが、骨修復度が高かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
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図16
図17
図18