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特開2024-131857水素燃焼炉、及び水素燃焼炉の運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131857
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】水素燃焼炉、及び水素燃焼炉の運転方法
(51)【国際特許分類】
   F23N 1/02 20060101AFI20240920BHJP
   F23C 99/00 20060101ALI20240920BHJP
   F23J 15/00 20060101ALI20240920BHJP
   F23L 15/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F23N1/02 K
F23C99/00 311
F23J15/00 Z
F23L15/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042337
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 雅志
(72)【発明者】
【氏名】羽路 智之
(72)【発明者】
【氏名】中林 宏行
【テーマコード(参考)】
3K003
3K023
3K065
3K070
【Fターム(参考)】
3K003AA02
3K003AB03
3K003AB06
3K003AC02
3K003CA03
3K003CA05
3K003CB05
3K003CC01
3K003DA03
3K023QA03
3K023QB10
3K065TA01
3K065TB01
3K065TB07
3K065TB09
3K065TC03
3K065TD01
3K065TD05
3K065TE01
3K065TE06
3K065TH02
3K065TN04
3K065TN09
3K070DA04
(57)【要約】
【課題】NOx排出量の低減が可能な水素燃焼炉を提供する。
【解決手段】バーナ3を有する燃焼炉本体2と、バーナ3に水素を供給する第1経路L1と、バーナ3に酸素を含む支燃性ガスを供給する第2経路L2と、燃焼炉本体2から排ガスを導出する第3経路L3と、水素の供給量を調整する第1制御装置7と、支燃性ガスの供給量を調整する第2制御装置8と、排ガス中の成分を分析するガス分析装置5と、制御装置6とを備え、制御装置6が、ガス分析装置5から得られる分析値から、燃焼炉本体2において水素が不完全燃焼するように、第1制御装置7と第2制御装置8とを制御する、水素燃焼炉1を選択する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナを有する燃焼炉本体と、
前記バーナに水素を供給する第1経路と、
前記バーナに酸素を含む支燃性ガスを供給する第2経路と、
前記燃焼炉本体から排ガスを導出する第3経路と、
前記第1経路に位置し、前記水素の供給量を調整する第1制御装置と、
前記第2経路に位置し、前記支燃性ガスの供給量を調整する第2制御装置と、
前記第3経路に位置し、前記排ガス中の成分を分析するガス分析装置と、
前記第1制御装置、前記第2制御装置、及び前記ガス分析装置との間で電気信号を送受信する制御装置と、を備え、
前記制御装置が、前記ガス分析装置から得られる分析値から、前記燃焼炉本体において前記水素が不完全燃焼するように、前記第1制御装置と前記第2制御装置とを制御する、水素燃焼炉。
【請求項2】
前記第3経路に位置し、前記排ガスから水分を除去する水分除去装置をさらに備える、請求項1に記載の水素燃焼炉。
【請求項3】
前記水分除去装置が、前記ガス分析装置の一次側に位置する、請求項2に記載の水素燃焼炉。
【請求項4】
前記第3経路と接続され、燃料の少なくとも一部として前記排ガスを用いる燃焼装置をさらに備える、請求項1に記載の水素燃焼炉。
【請求項5】
前記燃焼装置が、前記第1経路及び前記第2経路の少なくとも一方又は両方に亘って設けられる熱交換器である、請求項4に記載の水素燃焼炉。
【請求項6】
前記燃焼炉本体が、内側の空間に収容した被加熱物を加熱する加熱炉である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の水素燃焼炉。
【請求項7】
水素と酸素を含む支燃性ガスとを燃焼させるバーナを有する燃焼炉本体を備える水素燃焼炉の運転方法であって、
前記燃焼炉本体において、前記水素を不完全燃焼させる、水素燃焼炉の運転方法。
【請求項8】
前記燃焼炉本体において、酸素比が0.98以下で不完全燃焼させる、請求項7に記載の水素燃焼炉の運転方法。
【請求項9】
酸素濃度が90体積%以上の前記支燃性ガスを用いる、請求項7又は8に記載の水素燃焼炉の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素燃焼炉、及び水素燃焼炉の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルの要請の実現に向けて、COガス排出量の削減のための技術開発に関心が高まっている。金属やガラスなどの製造過程で用いられる、所謂工業炉では、大量のCOガスを排出しており、その削減は重要な課題と認識されている。
【0003】
従来から、COガス削減技術や省エネ技術の有効な手段として、酸素燃焼が知られている。酸素燃焼とは、酸化剤として酸素または空気に酸素を富化した酸素富化空気を用いる燃焼方法であり、工業炉において広く用いられている。酸素燃焼では、燃焼に寄与しない酸化剤中の窒素量が減るため、火炎温度の上昇や排ガス熱損の削減といったメリットが得られ、結果として熱効率の向上による燃料使用量の削減が可能となる。すなわち、炭化水素燃料の使用量を削減できるため、COガス排出量の削減に大きく寄与する。
【0004】
従来の省エネ技術に加えて、炭化水素燃料の水素エネルギへの転換が期待されている。特許文献1には、工業的な燃焼炉において、燃料として水素ガスを使用する燃焼バーナ(水素バーナ)を用いた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-094740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、燃焼バーナと燃焼炉とを用いる炉内燃焼では、投入したエネルギが、炉内で有効に利用される熱量と、排ガスとして系外へ排出されて損失となる熱量とに分類される。例えば、酸素比1.05、排ガス温度1300℃とした場合、燃料として炭化水素燃料(例えば、メタン)を用いた場合、及び水素を用いた場合のいずれも、酸化剤中の酸素濃度が高いほど排ガス熱損失の割合が小さい(すなわち、炉内で有効に利用される熱量の割合が高く、加熱効率が高いことを意味する)ことが知られている。加熱効率が高いほど、炉を所定温度まで昇温、及び維持するために必要な量が少なくてすむため、燃料として水素を用いる水素バーナの仕様に際して、酸素燃焼を適用することで、燃料コストの削減が期待できる。
【0007】
しかしながら、水素燃焼では、炭化水素燃料に比較して火炎温度が高いため、サーマルNOxを主とするNOx排出量が増加すると一般的に言われている。酸素燃焼でも同様に、火炎温度が高温となることから、特に酸素富化の状態では、NOx排出量が増加することが知られている。したがって、水素燃焼と酸素燃焼とを組合せることで、NOx排出量が更に増加することが懸念される。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、NOx排出量の低減が可能な水素燃焼炉、及び水素燃焼炉の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
[1] バーナを有する燃焼炉本体と、
前記バーナに水素を供給する第1経路と、
前記バーナに酸素を含む支燃性ガスを供給する第2経路と、
前記燃焼炉本体から排ガスを導出する第3経路と、
前記第1経路に位置し、前記水素の供給量を調整する第1制御装置と、
前記第2経路に位置し、前記支燃性ガスの供給量を調整する第2制御装置と、
前記第3経路に位置し、前記排ガス中の成分を分析するガス分析装置と、
前記第1制御装置、前記第2制御装置、及び前記ガス分析装置との間で電気信号を送受信する制御装置と、を備え、
前記制御装置が、前記ガス分析装置から得られる分析値から、前記燃焼炉本体において前記水素が不完全燃焼するように、前記第1制御装置と前記第2制御装置とを制御する、水素燃焼炉。
[2] 前記第3経路に位置し、前記排ガスから水分を除去する水分除去装置をさらに備える、[1]に記載の水素燃焼炉。
[3] 前記水分除去装置が、前記ガス分析装置の一次側に位置する、[1]又は[2]に記載の水素燃焼炉。
[4] 前記第3経路と接続され、燃料の少なくとも一部として前記排ガスを用いる燃焼装置をさらに備える、[1]乃至[3]のいずれかに記載の水素燃焼炉。
[5] 前記燃焼装置が、前記第1経路及び前記第2経路の少なくとも一方又は両方に亘って設けられる熱交換器である、[1]乃至[4]のいずれかに記載の水素燃焼炉。
[6] 前記燃焼炉本体が、内側の空間に収容した被加熱物を加熱する加熱炉である、[1]乃至[5]のいずれかに記載の水素燃焼炉。
[7] 水素と酸素を含む支燃性ガスとを燃焼させるバーナを有する燃焼炉本体を備える水素燃焼炉の運転方法であって、
前記燃焼炉本体において、前記水素を不完全燃焼させる、水素燃焼炉の運転方法。
[8] 前記燃焼炉本体において、酸素比が0.98以下で不完全燃焼させる、[7]に記載の水素燃焼炉の運転方法。
[9] 酸素濃度が90体積%以上の前記支燃性ガスを用いる、[7]又は[8]に記載の水素燃焼炉の運転方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水素燃焼炉、及び水素燃焼炉の運転方法によれば、NOx排出量の低減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に適用可能な水素燃焼炉の構成の一例を示す系統図である。
図2】本実施形態に適用可能な水素燃焼炉の構成の他の例を示す系統図である。
図3】本発明の検証試験の結果を示す図である。
図4】本発明の検証試験の結果を示す図である。
図5】本発明の検証試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した一実施形態である水素燃焼炉、及び水素燃焼炉の運転方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0013】
本明細書における用語の意味及び定義は、以下のとおりである。
「加熱効率」とは、排ガスが炉外へ持ち去る熱量(排ガス熱損)を計算し、投入したエネルギから排ガス熱損を差し引いた値が炉の加熱に利用されるものと仮定して算出した値をいう。
「酸素比」とは、燃料が完全燃焼するのに必要な酸素量に対する、支燃性ガス中に含まれる酸素量の比率をいう。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
【0014】
<水素燃焼炉>
先ず、本発明を適用した一実施形態である水素燃焼炉の構成について、説明する。図1は、本実施形態の水素燃焼炉の構成を示す系統図である。なお、図1中に示す実線の矢印は、ガス(気体)流れの方向を示し、点線の矢印は、電気信号の送信方向を示す。
図1に示すように、本実施形態の水素燃焼炉1は、燃焼炉本体2、バーナ3、水分除去装置4、ガス分析装置5、制御装置6、流量制御弁(第1制御装置)7、流量制御弁(第2制御装置)8、燃焼器(燃焼装置)9、及び経路L1~L6を備えて、概略構成されている。
【0015】
本実施形態の水素燃焼炉1は、燃料である水素と、支燃性ガス中に含まれる酸素とを、バーナ3に供給し、燃焼炉本体2内で燃焼(炉内燃焼)させる際、低酸素比で水素を燃焼(すなわち、不完全燃焼)させることでNOx排出量を低減させるものである。
【0016】
燃焼炉本体2は、内側に空間を有し、バーナ3の火炎を炉内燃焼させることができるものであれば、特に限定されない。燃焼炉本体2としては、内側の空間に収容した被加熱物(図示略)を加熱する加熱炉を用いることができる。具体的な構成としては、従来から公知の構成(例えば、特開2020-148426、特開2021-042102等の特許文献に記載された構成)を適用することができる。
【0017】
本実施形態の水素燃焼炉1を加熱炉として用いる場合、被加熱物としては、例えば、鋼材、溶融した金属やガラスが挙げられる。本実施形態の水素燃焼炉1では、水素ガスを燃料として用いるため、不完全燃焼時の排ガスとしてH、HO、Nが主成分となり、炭化水素燃料を用いた場合に発生する、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、および煤が排出されない。したがって、被加熱物の品質に悪影響を与えるおそれがないために好ましい。
【0018】
バーナ3は、火炎の噴射口が燃焼炉本体2の内側の空間と連通するように、燃焼炉本体2に接続されている。バーナ3は、燃料である水素と、支燃性ガス中に含まれる酸素とを燃焼炉本体2内で燃焼(炉内燃焼)させるものであれば、特に限定されない。具体的な構成としては、従来から公知の構成(例えば、特開平09-243028、特開2013-079753、特開2021-124212等の特許文献に記載された構成)を適用することができる。
【0019】
経路(第1経路)L1は、図示略の水素ガス供給源とバーナ3との間に位置する。経路L1は、水素ガス供給源からバーナ3に、燃料として水素ガス(H)を供給するガス供給ラインである。経路L1には、流量制御弁(第1制御装置)7が設けられている。
【0020】
経路(第2経路)L2は、図示略の支燃性ガス供給源とバーナ3との間に位置する。経路L2は、支燃性ガス供給源からバーナ3に、支燃性ガスを供給するガス供給ラインである。経路L2には、流量制御弁(第2制御装置)8が設けられている。
【0021】
流量制御弁7及び流量制御弁8は、制御装置6からの制御信号により、あるいは手動によって、ガス供給ラインを流れるガスの供給量をそれぞれ調整する制御装置である。流量制御弁7及び流量制御弁8としては、例えば、コントロールバルブ、マスフローコントローラ、手動ニードルバルブが挙げられる。
【0022】
支燃性ガスは、酸素を含むガス(酸化剤)であり、酸素ガス(O)、空気に酸素を富化した酸素富化空気、又は空気を用いることができる。支燃性ガス(酸化剤)中の酸素濃度としては、21体積%以上が好ましく、40体積%以上がより好ましく、90体積%以上がさらに好ましい。支燃性ガス中の酸素濃度が高いほど、支燃性ガス中の窒素濃度が低くなるため、水素燃焼炉1において不完全燃焼させた際にNOx排出量を低減できる。また、支燃性ガス中の酸素濃度が90体積%以上であると、排ガス中の水素濃度が高くなるため、排ガス中に含まれる未反応の水素ガスを燃料として有効に利用できる。
【0023】
経路(第3経路)L3は、燃焼炉本体2と燃焼器9との間に位置する。経路L3は、燃焼炉本体2から導出された排ガス中の水素ガスを、燃料の一部として燃焼器9に供給するガス供給ラインである。経路L3には、水分除去装置4とガス分析装置5とが一次側からこの順に設けられている。
【0024】
水分除去装置4は、経路L3において、ガス分析装置5の一次側に位置する。水分除去装置4は、経路L3を流通する排ガス中から水分(HO)を除去する。また、水分除去装置4には、経路L4が接続されており、排ガス中から除去された水分を系外に排出する。水分除去装置4は、混合ガス中から水分を除去できるものであれば、特に限定されない。水分除去装置4としては、例えば、ミストセパレータ、水洗バブラ、チラーが挙げられる。
【0025】
ガス分析装置5は、経路L3において、水分除去装置4の二次側に位置する。ガス分析装置5は、燃焼炉本体2から経路L3に導出され、水分除去装置4により水分が除去された排ガス中の成分を分析する分析計を有する装置である。ガス分析装置5は、燃焼炉本体2において不完全燃焼されていることが確認できる1以上の分析計を有する。すなわち、ガス分析装置5は、排ガス中に水素が含まれているかどうかを確認するための水素分析計、及び、排ガス中に酸素が含まれていないかどうかを確認するための酸素分析計のうち少なくとも一方を有する。また、ガス分析装置5は、経路L3に導出される排ガス中の成分のうち、窒素、NOx、及び水分を検出可能な1以上の分析計を有していてもよい。
【0026】
燃焼器(燃焼装置)9は、燃料の少なくとも一部として、燃焼炉本体2から導出される排ガス中に含まれる未反応の水素ガスを用いる燃焼装置である。燃焼器9は、排ガス中に含まれる水素ガスを燃料として用いることが可能なものであれば、特に限定されない。燃焼器9としては、例えば、ボイラ、他の燃焼炉が挙げられる。また、燃焼器9としては、燃焼炉本体2から導出される排ガス中に含まれるNOxが増加しないものがより好ましい。
【0027】
燃焼器9には、経路L3、経路L5、及び経路L6が接続されている。経路L5は、燃焼器9に燃料や支燃性ガスを供給するガス供給ラインである。また、経路L6は、燃焼器9から導出される排ガスを系外に排出するガス排出ラインである。
【0028】
制御装置6は、流量制御弁(第1制御装置)7、流量制御弁(第2制御装置)8、及びガス分析装置5との間で、有線又は無線によって電気信号を送受信する。制御装置6は、ガス分析装置5から得られるガス分析の分析値から、燃焼炉本体2において水素が不完全燃焼するように、流量制御弁7と流量制御弁8とを制御する機能を有する。
【0029】
制御装置6は、上述した機能を有するものであれば、特に限定されない。制御装置6としては、中央演算処理装置(CPU)と、メモリと、ハードディスクドライブとを備える構成としてもよい。なお、制御装置6は、流量制御弁7、流量制御弁8、及びガス分析装置5とは独立して(別体として)設けてもよいし、流量制御弁7、流量制御弁8、及びガス分析装置5のいずれかに付属する形態として設けてもよい。
【0030】
<水素燃焼炉の運転方法>
次に、本発明の一実施形態である水素燃焼炉の運転方法を説明する。
本実施形態の水素燃焼炉の運転方法は、水素と酸素を含む支燃性ガスとを燃焼させるバーナ3を有する燃焼炉本体2を備える水素燃焼炉1の運転方法である。
以下、本発明の一実施形態である水素燃焼炉の運転方法として、上述した水素燃焼炉1に、支燃性ガスとして酸素富化空気を用いた場合を一例として、具体的に説明する。
【0031】
先ず、図1に示す水素燃焼炉1において、経路L1から水素ガス(H)を、経路L2から支燃性ガスとして酸素富化空気(N、O)を、それぞれバーナ3に供給し、燃焼炉本体2内にて炉内燃焼させる。本実施形態では、燃焼炉本体2において、水素を不完全燃焼させる。
燃焼炉本体2から経路L3には、未反応の水素ガス(H)、窒素ガス(N)、水(HO)、及びNOxを含む混合ガスが排ガスとして導出される。
【0032】
次に、経路L3に導出された排ガスは、水分除去装置4において水が除去される。ここで、水分除去装置4の二次側の経路L3には、水素ガス(H)、窒素ガス(N)、及びNOxを含む混合ガスが流通する。
【0033】
次に、ガス分析装置5にて、経路L3に流通する混合ガス中のガス成分を分析する。具体的には、ガス分析装置5では、燃焼炉本体2において水素が不完全燃焼していること、すなわち、混合ガス中に水素ガスが含まれていること、混合ガス中に酸素ガスが含まれていないこと、を確認する。
【0034】
なお、ガス分析装置5における分析結果は、電気信号を介して制御装置6に送信される。そして、混合ガス中に水素ガスが含まれていない場合、制御装置6は流量制御弁(第1制御装置)7に対して、開度を大きくする制御信号を送信する。これにより、経路L1を介してバーナ3へ供給される水素ガスが増加する。
【0035】
一方、混合ガス中に酸素ガスが含まれている場合、制御装置6は流量制御弁(第2制御装置)8に対して、開度を小さくする制御信号を送信する。これにより、経路L2を介してバーナ3へ供給される支燃性ガスが減少する。
【0036】
ここで、本実施形態の水素燃焼炉の運転方法では、制御装置6により、燃焼炉本体2において、酸素比は1未満となるように制御する。酸素比の上限値を1未満とすることで、不完全燃焼の状態が得られるため、排ガス中のNOx排出量を抑制することができる。
なお、酸素比の上限値は、0.98以下とすることが好ましく、0.97以下とすることがより好ましい。酸素比を0.98以下とすることで、更なるNOx排出量の削減効果が得られる。
また、酸素比の下限値は、0.90以上とすることが好ましく、0.95以上とすることがより好ましい。酸素比を0.90以上とすることで、加熱効率の低下を抑えつつ、NOx排出量を効果的に削減できる。
【0037】
次に、ガス分析装置5によってガス成分を分析した後、経路L3を流通する混合ガスを燃焼器9に導入する。
燃焼器9では、燃焼炉本体2での不完全燃焼により、混合ガス中に含まれる水素を燃料の一部として用いる。これにより、本実施形態の水素燃焼炉1の運転方法によれば、燃焼器9を含む水素燃焼炉1全体として、加熱効率の低下を抑制できる。
【0038】
なお、燃焼器9において、経路L5を介して通常の燃料、及び支燃性ガスを供給して燃焼している場合、既存の燃料に対して微量の水素量を供給するのであれば、燃焼条件は大きく変わらないため、NOx排出量は低いまま維持され、経路L6より排出される。
本実施形態の水素燃焼炉1の運転方法によれば、NOx排出量を増加させることなく、燃焼炉本体2から導出される排気ガスを再利用することができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の水素燃焼炉1、及びその運転方法によれば、バーナ3の燃料として水素ガスを用い、燃焼炉本体2内で炉内燃焼させる際、低酸素比で水素を燃焼(すなわち、不完全燃焼)させるため、燃焼炉本体2から導出される排ガス中のNOx排出量を低減できる。
【0040】
また、本実施形態の水素燃焼炉1、及びその運転方法によれば、燃焼炉本体2での水素ガスの不完全燃焼により、混合ガス中に含まれる水素を燃焼器9の燃料の一部として用いるため、燃焼器9を含む水素燃焼炉1全体として、加熱効率の低下を抑制できる。
【0041】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。上述した水素燃焼炉1、及びその運転方法によれば、燃焼装置として燃焼器9を用いる構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、燃焼装置として、燃焼器9に替えて熱交換器29(下記実施形態を参照)を用いる構成としてもよい。
【0042】
図2は、本実施形態に適用可能な水素燃焼炉の構成の他の例を示す系統図である。
図2に示すように、他の実施形態の水素燃焼炉21は、燃焼装置として、燃焼器9に替えて熱交換器29を用いるとともに、経路L5及び経路L6に替えて経路L25及び経路L26を用いる点で、上述した水素燃焼炉1と構成が異なっている。したがって、水素燃焼炉21では、水素燃焼炉1の同じ構成については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0043】
熱交換器(燃焼装置)29は、経路L1及び経路L2に亘って設けられており、燃料の少なくとも一部として、燃焼炉本体2から導出される排ガス中に含まれる未反応の水素ガスを用いる。
【0044】
熱交換器29には、経路L3、経路L25、及び経路L26が接続されている。経路L25は、熱交換器29に支燃性ガス(図中では、酸素ガス(O)を例示)を供給するガス供給ラインである。また、経路L26は、熱交換器29から導出される排ガスを系外に排出するガス排出ラインである。
【0045】
また、水素燃焼炉21の運転方法では、ガス分析装置5によってガス成分を分析した後、経路L3を流通する混合ガスを熱交換器29に導入する。
熱交換器29では、燃焼炉本体2での不完全燃焼により、混合ガス中に含まれる水素を燃料として用いる。これにより、熱交換器29によって水素ガスを燃焼した熱によって、経路L1を流れる水素ガス、及び経路L2を流れる支燃性ガスをそれぞれ加熱(予熱)できる。
【0046】
以上説明したように、水素燃焼炉21及びその運転方法によれば、熱交換器29の効率の分だけ熱回収が可能となる。そして、熱交換器29の温度を1000℃以下などに制御すれば、排ガス中のNOx排出量を増加させることなく、かつ熱交換器29を含む水素燃焼炉21全体として、加熱効率の向上できる。
【0047】
なお、上述した水素燃焼炉21では、熱交換器29が経路L1及び経路L2に亘って設けられた構成を一例として説明したが、これに限定されない。熱交換器29は、経路L1及び経路L2の少なくとも一方に亘って設けられる構成であってもよい。
【実施例0048】
以下、本発明の効果を検証試験によって説明する。なお、本発明は、以下の検証試験の内容によって限定されるものではない。
【0049】
<検証試験1>
検証試験1では、図1に示す水素燃焼炉1を用い、バーナ3の燃料として水素ガスを用いる場合、すなわち、水素燃焼時において、酸素比とNOx排出濃度との関係性を検証した。
[シミュレーション条件]
(1)シミュレーションソフト(計算ソフト):Chemikin Pro:Ansys社製
(2)燃料ガス:水素
(3)支燃性ガス:酸素、または酸素富化空気
(4)反応モデル:GRI Mech 3.0 http://www.me.berkeley.edu/gri_mech
【0050】
図3は、水素燃焼時の酸素比とNOx排出濃度との関係性を示す図であり、(A)支燃性ガス中の酸素濃度が90体積%の場合、(B)支燃性ガス中の酸素濃度が40体積%の場合、(c)支燃性ガス中の酸素濃度が21体積%の場合をそれぞれ示す。
図3(A)~(C)において、横軸はいずれも酸素比(Oxygen ratio[-])を示し、縦軸はいずれもNOx排出濃度(NOx[ppm-wet])を示す。また、図3(A)~(C)において、いずれも燃焼炉本体2内の炉内温度が、1300℃、1400℃、1500℃、1600℃の場合について、確認した。
なお、NOx排出濃度は、燃焼炉本体2から導出される水蒸気(HO)を含む排ガス中のNOx濃度である。
【0051】
図3(A)~(C)に示すように、横軸の酸素比が1未満の時に不完全燃焼の状態となるが、不完全燃焼時には、いずれもNOxの排出濃度は劇的に減少し、0に漸近することが確認できた。
【0052】
したがって、NOxの排出濃度の低減の観点から、支燃性ガス中の酸素濃度によらず、いずれも酸素比の上限値は0.98以下が好ましく、0.97以下がより好ましいことが確認できた。
【0053】
<検証試験2>
検証試験2では、図1に示す水素燃焼炉1を用い、バーナ3の燃料として水素ガスを用いた水素燃焼時において、酸素比と加熱効率との関係性を検証した。
【0054】
図4は、水素燃焼時の酸素比と加熱効率との関係性を示す図であり、(A)支燃性ガス中の酸素濃度が90体積%の場合、(B)支燃性ガス中の酸素濃度が40体積%の場合、(c)支燃性ガス中の酸素濃度が21体積%の場合をそれぞれ示す。
図4(A)~(C)において、横軸はいずれも酸素比(Oxygen ratio[-])を示し、縦軸はいずれも加熱効率(Heat Efficiency[%])を示す。また、図4(A)~(C)において、いずれも燃焼炉本体2内の炉内温度が、1300℃、1400℃、1500℃、1600℃の場合について、確認した。
なお、加熱効率は、排ガスが炉外へ持ち去る熱量(排ガス熱損)を計算し、投入したエネルギから排ガス熱損を差し引いた値が炉の加熱に利用されるものと仮定して算出した値とした。
【0055】
図4(A)~(C)に示すように、支燃性ガス中の酸素濃度によらず、いずれも酸素比が1のときに加熱効率は極大となり、酸素比が1からの差が大きいほどに加熱効率が低下することが確認できた。
通常、バーナの燃焼では不完全燃焼を起こさないように酸素比が1以上となるように、バーナへの酸素の供給は過剰となるように運用されることが一般的であるが、不完全燃焼となるように酸素比を大きく下げた場合には、酸素比が1以上の領域と比較して明らかに加熱効率が低いことが確認できた。
【0056】
したがって、加熱効率の維持の観点から、支燃性ガス中の酸素濃度によらず、いずれも酸素比の下限値は0.95以上とすることが好ましいことを確認できた。
【0057】
<検証試験3>
検証試験3では、図1に示す水素燃焼炉1を用い、バーナ3の燃料として水素ガスを用いた水素燃焼時において、酸素比と排ガス中に含まれる水素濃度との関係性を検証した。
【0058】
図5は、水素燃焼時の酸素比と排ガス中に含まれる水素濃度との関係性を示す図であり、(A)支燃性ガス中の酸素濃度が90体積%の場合、(B)支燃性ガス中の酸素濃度が40体積%の場合、(c)支燃性ガス中の酸素濃度が21体積%の場合をそれぞれ示す。
図5(A)~(C)において、横軸はいずれも酸素比(Oxygen ratio[-])を示し、縦軸はいずれも水素濃度(H2[vol% dry])を示す。また、図5(A)~(C)において、いずれも燃焼炉本体2内の炉内温度が、1300℃、1400℃、1500℃、1600℃の場合について、確認した。
なお、水素濃度は、燃焼炉本体2から導出される水蒸気(HO)を水分除去装置4によって除去したドライガス中の水素濃度である。
【0059】
図5(A)~(C)に示すように、横軸の酸素比が1未満であり、酸素比の値が小さいほど、未燃のまま排出される水素が増加するため、排ガス中の水素濃度も増加することを確認できた。
【0060】
したがって、排ガス中の水素の再利用の観点から、支燃性ガス中の酸素濃度によらず、いずれも酸素比の値が小さいほど、排ガス中の水素濃度が高くなり、燃焼させることが容易となるため、他の燃焼装置における燃料としての再利用が可能であることが示唆された。
【0061】
図5(A)~(C)に示すように、酸素比が1未満であり、支燃性ガス中の酸素濃度が高いほど、未燃のまま排出される水素が増加するため、排ガス中の水素濃度も増加することを確認できた。
【0062】
したがって、排ガス中の水素の再利用の観点から、支燃性ガス中の酸素濃度が高いほど、酸素比が1未満における排ガス中の水素濃度が高くなり、燃焼させることが容易となるため、他の燃焼装置における燃料としての再利用が可能であることが示唆された。
【符号の説明】
【0063】
1,21 水素燃焼炉
2 燃焼炉本体
3 バーナ
4 水分除去装置
5 ガス分析装置
6 制御装置
7 流量制御弁(第1制御装置)
8 流量制御弁(第2制御装置)
9 燃焼器(燃焼装置)
29 熱交換器(燃焼装置)
L1 経路(第1経路)
L2 経路(第2経路)
L3 経路(第3経路)
図1
図2
図3
図4
図5