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特開2024-131880ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法、パターン形成方法、及びケイ素含有樹脂組成物精製品
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  • 特開-ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法、パターン形成方法、及びケイ素含有樹脂組成物精製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131880
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法、パターン形成方法、及びケイ素含有樹脂組成物精製品
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20240920BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20240920BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240920BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20240920BHJP
   G03F 7/11 20060101ALI20240920BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08L83/04
B01D61/14 500
B01D69/00
B01D71/64
G03F7/11 503
G03F7/11 502
C08K5/5415
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042391
(22)【出願日】2023-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】野口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】細谷 守
【テーマコード(参考)】
2H225
4D006
4J002
【Fターム(参考)】
2H225AM85N
2H225AN38N
2H225AP01N
2H225BA01N
2H225EA01N
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA74
4D006JA25C
4D006KA52
4D006KA53
4D006KA55
4D006KA57
4D006KC16
4D006KD28
4D006KD29
4D006KD30
4D006KE16Q
4D006MA03
4D006MA22
4D006MA27
4D006MA31
4D006MB11
4D006MB16
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC28
4D006MC30
4D006MC55
4D006MC58
4D006PA01
4D006PB20
4D006PC01
4J002CP031
4J002CP051
4J002EX036
4J002EX046
4J002GP03
4J002HA01
(57)【要約】
【課題】不純物がより低減され、かつ塗布膜形成の際の欠陥の発生が抑制されたケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法、前記製造方法により製造されたケイ素含有樹脂組成物精製品、前記ケイ素含有樹脂組成物精製品を用いたパターン形成方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ケイ素含有樹脂組成物を、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するフィルターで濾過する工程を含む、ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法である。フィルターは、ポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含有する多孔質膜を備える。ケイ素含有樹脂組成物は、主鎖がシロキサン結合からなるケイ素含有樹脂(A)と、ケイ素含有樹脂(A)以外のシロキサン結合含有かご型化合物と、有機溶剤成分とを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素含有樹脂組成物を、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するフィルターで濾過する工程を含む、ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法であって、
前記フィルターは、ポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含有する多孔質膜を備え、
前記ケイ素含有樹脂組成物は、
主鎖がシロキサン結合からなるケイ素含有樹脂(A)と、
前記ケイ素含有樹脂(A)以外のシロキサン結合含有かご型化合物(C)と、
有機溶剤成分(S)と
を含有する、ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法。
【請求項2】
前記ケイ素含有樹脂(A)は、フェニル基を含む、請求項1に記載のケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質膜の平均孔径は、10~1000nmである、請求項1又は2に記載のケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法。
【請求項4】
前記球状セルの平均球状セル直径は、20~2500nmである、請求項1又は2に記載のケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法。
【請求項5】
前記フィルターが、ポリイミド多孔質膜を備える、請求項1又は2に記載のケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法により、ケイ素含有樹脂組成物精製品を得る工程と、
支持体上に、前記ケイ素含有樹脂組成物精製品を用いてケイ素含有レジスト下層膜を形成し、
前記ケイ素含有レジスト下層膜上に、上層レジスト膜組成物を用いて上層レジスト膜を形成し、
前記上層レジスト膜に上層レジストパターンを形成し、該上層レジストパターンをマスクにして、前記ケイ素含有レジスト下層膜にエッチングでパターンを転写し、
前記パターンが転写されたケイ素含有レジスト下層膜をマスクにして、前記支持体にエッチングでパターンを転写する工程と、
を含む、パターン形成方法。
【請求項7】
主鎖がシロキサン結合からなるケイ素含有樹脂(A)と、
前記ケイ素含有樹脂(A)以外のシロキサン結合含有かご型化合物(C)と、
有機溶剤成分(S)と
を含有する、ケイ素含有樹脂組成物精製品であって、
光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.135μm以上のサイズの被計数体の数が、0.2個/mL未満である、ケイ素含有樹脂組成物精製品。
【請求項8】
支持体上に、請求項7に記載のケイ素含有樹脂組成物精製品を用いてケイ素含有レジスト下層膜を形成し、
前記ケイ素含有レジスト下層膜上に、上層レジスト膜組成物を用いて上層レジスト膜を形成し、
前記上層レジスト膜に上層レジストパターンを形成し、該上層レジストパターンをマスクにして、前記ケイ素含有レジスト下層膜にエッチングでパターンを転写し、
前記パターンが転写されたケイ素含有レジスト下層膜をマスクにして、前記支持体にエッチングでパターンを転写する、パターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法、パターン形成方法、及びケイ素含有樹脂組成物精製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子や液晶表示素子の製造においては、リソグラフィー技術の進歩により急速にパターンの微細化が進んでいる。微細化の手法としては、一般に、露光光源の短波長化(高エネルギー化)が行われている。
レジスト材料には、これらの露光光源に対する感度、微細な寸法のパターンを再現できる解像性等のリソグラフィー特性が求められる。このような要求を満たすレジスト材料として、従来、酸の作用により現像液に対する溶解性が変化する基材成分と、露光により酸を発生する酸発生剤成分と、を含有する化学増幅型レジスト組成物が用いられている。
【0003】
パターンの微細化が進むのに伴い、パターン形成においては、レジスト材料中に存在する不純物の影響が現れやすくなってくる。寸法が数十ナノメートルサイズのパターンを形成する場合、現像後のスカムや、パターン表面への異物の付着等による不具合は、大きな問題となる。
これに対し、レジスト組成物の製造においては、組成物中の不純物を除去するため、フィルターを通過させることによる精製が一般的に行われている。例えば、特許文献1には、ホトレジスト組成物を、ナイロン製のフィルターを通過させる工程と、ポリオレフィン樹脂製又はフッ素樹脂製のフィルターを通過させる工程とを共に有する、ホトレジスト組成物の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-212975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、微細な寸法のパターン形成では、主にレジスト材料の基材成分で形成される樹脂膜が薄膜化している。そして、このようなレジスト材料には、基板加工のマスクとしての機能を果たすため、エッチング耐性を有する材料が求められる。これに対して、通常、ケイ素含有樹脂が基材成分に用いられている。
しかしながら、ケイ素含有樹脂を基材成分としたケイ素含有樹脂組成物を、従来のフィルターを通過させる工程を経て精製した場合、塗布膜中の欠陥(塗布欠陥)が存在することによる、パターン転写の欠陥が発生しやすくなる不具合があり、それによる歩留まりの低下が問題となる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、不純物がより低減され、かつ塗布膜形成の際の欠陥の発生が抑制されたケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法、及び前記製造方法により製造されたケイ素含有樹脂組成物精製品、並びに前記ケイ素含有樹脂組成物精製品を用いたパターン形成方法を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0008】
本発明の第1の態様は、ケイ素含有樹脂組成物を、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するフィルターで濾過する工程を含む、ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法であって、前記フィルターは、ポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含有する多孔質膜を備え、前記ケイ素含有樹脂組成物は、主鎖がシロキサン結合からなるケイ素含有樹脂(A)と、前記ケイ素含有樹脂(A)以外のシロキサン結合含有かご型化合物(C)と、有機溶剤成分(S)とを含有する、ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法である。
【0009】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法により、ケイ素含有樹脂組成物精製品を得る工程と、支持体上に、前記ケイ素含有樹脂組成物精製品を用いてケイ素含有レジスト下層膜を形成し、前記ケイ素含有レジスト下層膜上に、上層レジスト膜組成物を用いて上層レジスト膜を形成し、前記上層レジスト膜に上層レジストパターンを形成し、該上層レジストパターンをマスクにして、前記ケイ素含有レジスト下層膜にエッチングでパターンを転写し、前記パターンが転写されたケイ素含有レジスト下層膜をマスクにして、前記支持体にエッチングでパターンを転写する工程と、を含む、パターン形成方法である。
【0010】
本発明の第3の態様は、主鎖がシロキサン結合からなるケイ素含有樹脂(A)と、前記ケイ素含有樹脂(A)以外のシロキサン結合含有かご型化合物(C)と、有機溶剤成分(S)とを含有する、ケイ素含有樹脂組成物精製品であって、光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.135μm以上のサイズの被計数体の数が、0.2個/mL未満である、ケイ素含有樹脂組成物精製品である。
【0011】
本発明の第4の態様は、支持体上に、前記第3の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品を用いてケイ素含有レジスト下層膜を形成し、前記ケイ素含有レジスト下層膜上に、上層レジスト膜組成物を用いて上層レジスト膜を形成し、前記上層レジスト膜に上層レジストパターンを形成し、該上層レジストパターンをマスクにして、前記ケイ素含有レジスト下層膜にエッチングでパターンを転写し、前記パターンが転写されたケイ素含有レジスト下層膜をマスクにして、前記支持体にエッチングでパターンを転写する、パターン形成方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、不純物がより低減され、かつ塗布膜形成の際の欠陥の発生が抑制されたケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法、及び前記製造方法により製造されたケイ素含有樹脂組成物精製品、並びに前記ケイ素含有樹脂組成物精製品を用いたパターン形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ポリイミド系樹脂多孔質膜を構成する連通孔の一実施形態を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書及び本特許請求の範囲において、「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、化合物等を意味するものと定義する。
「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の1価の飽和炭化水素基を包含するものとする。アルコキシ基中のアルキル基も同様である。
「アルキレン基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の2価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
「ハロゲン化アルキル基」は、アルキル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基であり、該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
「フッ素化アルキル基」又は「フッ素化アルキレン基」は、アルキル基又はアルキレン基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された基をいう。
「構成単位」とは、高分子化合物(樹脂、重合体、共重合体)を構成するモノマー単位(単量体単位)を意味する。
「置換基を有していてもよい」又は「置換基を有してもよい」と記載する場合、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
「露光」は、放射線の照射全般を含む概念とする。
【0015】
「ポリイミド系樹脂」とは、ポリイミドもしくはポリアミドイミドの一方、又は両方を意味する。このポリイミド及びポリアミドイミドは、それぞれ、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有していてもよい。
ポリイミド及びポリアミドイミドの少なくとも一方を含有する多孔質膜を「ポリイミド系樹脂多孔質膜」ということがある。ポリイミドを含有する多孔質膜を「ポリイミド多孔質膜」ということがある。ポリアミドイミドを含有する多孔質膜を「ポリアミドイミド多孔質膜」ということがある。
【0016】
本明細書及び本特許請求の範囲において、化学式で表される構造によっては、不斉炭素が存在し、エナンチオ異性体(enantiomer)やジアステレオ異性体(diastereomer)が存在し得るものがある。その場合は一つの化学式でそれら異性体を代表して表す。それらの異性体は単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
【0017】
(ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法)
本発明の第1の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法は、ケイ素含有樹脂組成物を、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するフィルターで濾過する工程(以下この工程を「工程(i)」ともいう)を含む。
前記フィルターは、ポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含有する多孔質膜を備える。
前記ケイ素含有樹脂組成物は、主鎖がシロキサン結合からなるケイ素含有樹脂(A)と、前記ケイ素含有樹脂(A)以外のシロキサン結合含有かご型化合物(C)と、有機溶剤成分(S)とを含有する。
【0018】
前記工程(i)により、ケイ素含有樹脂組成物から、塗布膜形成の際の欠陥源(微小ゲル成分、微小ゲル成分と相互作用し得る無機の超微粒子成分、無機イオン成分等)が前記フィルターに吸着されることにより、不純物が低減される。これにより、塗布膜形成の際の欠陥の発生を抑得られるケイ素含有樹脂組成物精製品が得られる。
かかる製造方法によれば、特に、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有し、且つポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂を含有する多孔質膜を備えるフィルターが用いられていることで、ケイ素含有樹脂組成物から、従来では取り除くことが困難であった高極性成分、高分子が充分に除去され、中でも高極性高分子が特異的に除去される。
加えて、工程(i)では、ケイ素含有樹脂組成物から、不純物として金属成分も充分に除去される。この金属成分は、ケイ素含有樹脂組成物を構成する成分中に元来含まれていることもあるが、製造装置等の配管、継ぎ手などのケイ素含有樹脂組成物移送経路から混入することもある。工程(i)では、例えば、製造装置等から混入しやすい鉄、ニッケル、亜鉛、クロム等を効果的に除去することができる。
【0019】
<工程(i)>
工程(i)は、ケイ素含有樹脂組成物を、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するフィルターで濾過する工程である。
【0020】
≪フィルター≫
本工程で用いるフィルターは、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するものである。
例えば、かかるフィルターは、隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜の単体からなるものでもよいし、該多孔質膜とともに他の濾材が用いられたものでもよい。
他の濾材としては、例えば、ナイロン膜、ポリテトラフルオロエチレン膜、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)膜又はこれらを修飾した膜等が挙げられる。
【0021】
かかるフィルターでは、ケイ素含有樹脂組成物の供給液と濾液とが混在せず分離するように、通液する前後の該多孔質膜の領域が好ましくはシーリングされる。このシーリングの方法としては、例えば、該多孔質膜を、光(UV)硬化による接着若しくは熱による接着(アンカー効果による接着(熱溶着等)を含む)若しくは接着剤を用いた接着等により加工する方法、又は、該多孔質膜と他の濾材とを組み込み法等により接着して加工する方法が挙げられる。かかるフィルターとしては、前記のような該多孔質膜を、熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、PFA、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド、ポリアミドイミド等)からなる外側容器に備えたものも挙げられる。
かかるフィルターにおいて、該多孔質膜の形態としては、平面状、又は、該多孔質膜の相対する辺を合わせたパイプ状が挙げられる。パイプ状の該多孔質膜は、供給液と接触する面積が増大する点から、表面がヒダ状であることが好ましい。
【0022】
・「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」について
かかるフィルターが備える、前記「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」は、隣接した球状セル同士が連通した連通孔を有する。
連通孔は、該多孔質膜に多孔質性を付与する個々の孔(セル)により形成している。かかる孔には、孔の内面のほぼ全体が曲面である孔が含まれ、これ以外の形状の孔が含まれていてもよい。
【0023】
本明細書においては、この孔の内面のほぼ全体が曲面である孔を「球状セル」又は「略球状孔」という。球状セル(略球状孔)は、孔の内面が略球状の空間を形成している。球状セルは、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法で用いられる微粒子が略球状である場合に容易に形成される。
「略球状」とは、真球を含む概念であるが、必ずしも真球のみに限定されず、実質的に球状であるものを含む概念である。「実質的に球状である」とは、粒子の長径を短径で除した値で表される、長径/短径によって定義される真球度が1±0.3以内であること、を意味する。ここでの球状セルは、かかる真球度が、好ましくは1±0.1以内であり、より好ましくは1±0.05以内である。
隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜においては、隣接した球状セル同士で連通孔の少なくとも一部が形成される。
【0024】
図1は、多孔質膜を構成する連通孔の一実施形態を模式的に示している。
本実施形態の多孔質膜において、球状セル1a及び球状セル1bは、それぞれの内面のほぼ全体が曲面であり、略球状の空間を形成している。
球状セル1aと球状セル1bとは隣接し、隣り合う球状セル1aと球状セル1bとの重なり部分Qが貫通した連通孔5が形成されている。そして、濾過対象物は、例えば球状セル1aから球状セル1bの方向(矢印方向)に、連通孔5内を通流する。
【0025】
このように、隣接する球状セルが相互に連通した構造を有する多孔質膜においては、複数の孔(球状セル、連通孔)が繋がり、全体として濾過対象物の流路が形成されていることが好ましい。
前記「流路」は、通常、個々の「孔」及び/又は「連通孔」が相互に連通することにより形成されている。個々の孔は、例えば、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法において、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜中に存在する、個々の微粒子、が後工程で除去されることによって形成される。また、連通孔は、後述のポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法において、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜中に存在する、個々の微粒子同士が接していた部分に、該微粒子が後工程で除去されることによって形成される、隣接する孔同士である。
多孔質膜においては、球状セルと、隣接した球状セル同士が連通した連通孔と、が形成され、多孔質の程度が高くされている。また、多孔質膜においては、球状セル又は該連通孔が多孔質膜表面に開口し、一方の表面に開口する連通孔が多孔質膜内部を連通して他方(裏側)の表面に開口し、流体が多孔質膜内部を通過し得る流路が形成されている。そして、多孔質膜によれば、濾過対象物が前記流路を流れることにより、濾過対象物に含まれる異物が濾過前の濾過対象物から取り除かれる。
【0026】
多孔質膜は、内面に曲面を有する球状セルで形成される連通孔が連続してなる流路を内部に有するため、球状セル内面の表面積が大きい。これによって、濾過対象物が、多孔質膜の内部を通過できるのみならず、個々の球状セルの曲面に接触しながら通過する際、球状セル内面との接触頻度が高まるため、濾過対象物に存在する異物が球状セル内面により吸着して、濾過対象物から異物が除去されやすくなっている。
【0027】
多孔質膜は、平均球状セル直径が10~2500nmである球状セルが相互に連通した構造を有するものが好ましい。球状セルの平均球状セル直径は、より好ましくは15~1000nm、さらに好ましくは20~400nmである。
【0028】
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」が内部に有する流路は、前記の球状セル、及び前記球状セル同士の連通孔に加えて、これ以外の形状の孔又はこれを含む連通孔を有していてもよい。
また、球状セルは、その内面に、さらに凹部を有していてもよい。該凹部には、例えば、球状セルの内面に開口する、該球状セルよりも孔径が小さい孔が形成されていてもよい。
【0029】
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」は、樹脂を含有するものが挙げられ、実質的に樹脂のみからなるものであってもよく、多孔質膜全体の、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上が樹脂であるものが挙げられる。
【0030】
該多孔質膜は、ポリイミド系樹脂を含有するものである。ポリイミド系樹脂を含有する多孔質膜は、異物除去性と強度や、ろ過前後のリソグラフィー特性の安定性との点で優れている。
該多孔質膜は、樹脂としてポリイミド及びポリアミドイミドの少なくとも一方を含有するものであり、好ましくはポリイミドを少なくとも含有するものである。該多孔質膜は、樹脂としてポリイミドのみを含有するものでもよく、ポリアミドイミドのみを含有するものでもよいが、ポリイミドのみを含有するものが好ましい。
【0031】
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」としては、多孔質膜全体の95質量%以上がポリイミド及びポリアミドイミドの少なくとも一方であるものが特に好ましい。
以下、樹脂としてポリイミド系樹脂を含有する、隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜(ポリイミド系樹脂多孔質膜)について説明する。
【0032】
・・ポリイミド系樹脂多孔質膜
ポリイミド系樹脂は、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有するものであってもよい。
該ポリイミド系樹脂としては、前記官能基を主鎖末端以外に有するものが好ましい。前記官能基を主鎖末端以外に有する、好ましいものとしては、例えば、ポリアミド酸(ポリアミック酸)が挙げられる。
【0033】
本明細書において、「塩型カルボキシ基」とは、カルボキシ基における水素原子が陽イオン成分に置換した基を意味する。「陽イオン成分」とは、完全にイオン化した状態である陽イオン自体であってもよいし、-COOとイオン結合して事実上電荷のない状態である陽イオン構成要素であってもよいし、これら両者の中間的な状態である部分電荷を有する陽イオン構成要素であってもよい。
「陽イオン成分」がn価の金属MからなるMイオン成分である場合、陽イオン自体としてはMn+と表され、陽イオン構成要素としては「-COOM1/n」における「M1/n」で表される要素である。
【0034】
「陽イオン成分」としては、後述のエッチング液に含有される化合物として挙げられる化合物がイオン解離した場合の陽イオンが挙げられる。代表的には、イオン成分又は有機アルカリイオン成分が挙げられる。例えば、アルカリ金属イオン成分がナトリウムイオン成分の場合、陽イオン自体としてはナトリウムイオン(Na)であり、陽イオン構成要素としては「-COONa」における「Na」で表される要素である。部分電荷を有する陽イオン構成要素としては、Naδ+である。
陽イオン成分としては、特に限定されず、無機成分;NH 、N(CH 等の有機成分が挙げられる。無機成分としては、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属等の金属元素が挙げられる。有機成分としては、例えば、有機アルカリイオン成分が挙げられる。有機アルカリイオン成分としては、NH 、例えばNR (4つのRはいずれも有機基を表し、それぞれ同一でも異なってもよい。)で表される第四級アンモニウムカチオン等が挙げられる。前記Rの有機基としては、アルキル基が好ましく、炭素原子数1~6のアルキル基がより好ましい。第四級アンモニウムカチオンとしては、N(CH 等が挙げられる。
【0035】
塩型カルボキシ基における陽イオン成分の状態は、特に限定されず、通常、ポリイミド系樹脂が存在する環境、例えば水溶液中であるか、有機溶媒中であるか、乾燥しているか等の環境に依存する。陽イオン成分がナトリウムイオン成分である場合、例えば、水溶液中であれば、-COOとNaとに解離している可能性があり、有機溶媒中であるか又は乾燥していれば、-COONaは解離していない可能性が高い。
【0036】
ポリイミド系樹脂は、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有するものであってもよいが、これらの少なくとも1つを有する場合、通常、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基と、-NH-結合と、の両方を有する。ポリイミド系樹脂は、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基に関していえば、カルボキシ基のみを有してもよいし、塩型カルボキシ基のみを有してもよいし、カルボキシ基と塩型カルボキシ基との両方を有してもよい。ポリイミド系樹脂が有するカルボキシ基と塩型カルボキシ基との比率は、同一のポリイミド系樹脂であっても、例えば、ポリイミド系樹脂が存在する環境に応じて変動し得るし、陽イオン成分の濃度にも影響される。
【0037】
ポリイミド系樹脂が有するカルボキシ基と塩型カルボキシ基との合計モル数は、ポリイミドの場合は、通常、-NH-結合と等モルである。
特に、後述のポリイミド多孔質膜の製造方法において、ポリイミドにおけるイミド結合の一部から、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する場合、実質的に同時に-NH-結合も形成される。形成されるカルボキシ基と塩型カルボキシ基との合計モル数は、形成される-NH-結合と等モルである。
ポリアミドイミド多孔質膜の製造方法の場合は、ポリアミドイミドにおけるカルボキシ基と塩型カルボキシ基との合計モル数は、-NH-結合と必ずしも等モルではなく、後述のエッチング(イミド結合の開環)工程におけるケミカルエッチング等の条件次第である。
【0038】
ポリイミド系樹脂は、例えば、下記の一般式(1)~(4)でそれぞれ表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位を有するものが好ましい。
ポリイミドである場合、下記一般式(1)で表される構成単位及び下記一般式(2)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位を有するものが好ましい。
ポリアミドイミドである場合、下記一般式(3)で表される構成単位及び下記一般式(4)で表される構成単位からなる群より選択される少なくとも1種の構成単位を有するものが好ましい。
【0039】
【化1】
【0040】
【化2】
【0041】
前記の式(1)~(3)中、X~Xは、互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、水素原子又は陽イオン成分である。
Arは、アリール基であり、後述のポリアミド酸(ポリアミック酸)を構成する式(5)で表される構成単位、又は芳香族ポリイミドを構成する式(6)で表される構成単位においてそれぞれカルボニル基が結合しているRArで表されるアリール基と同様のものが挙げられる。
~Yは、それぞれ独立に、ジアミン化合物のアミノ基を除いた2価の残基であり、後述のポリアミド酸を構成する式(5)で表される構成単位、又は芳香族ポリイミドを構成する式(6)で表される構成単位においてそれぞれNが結合しているR’Arで表されるアリーレン基と同様のものが挙げられる。
【0042】
ポリイミド系樹脂としては、一般的なポリイミド又はポリアミドイミドが有するイミド結合(-N[-C(=O)])の一部が開環して、ポリイミドの場合は上記の一般式(1)又は一般式(2)で表される各構成単位、ポリアミドイミドの場合は上記の一般式(3)で表される構成単位をそれぞれ有することになったものであってもよい。
【0043】
ポリイミド系樹脂多孔質膜は、イミド結合の一部を開環させることで、カルボキシ基、塩型カルボキシ基、及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を有するポリイミド系樹脂を含有するものでもよい。
【0044】
イミド結合の一部を開環させる場合の不変化率は、以下の手順(1)~(3)により求められる。
手順(1):後述のエッチング(イミド結合の開環)工程を行わないポリイミド系樹脂多孔質膜(但し、該多孔質膜を作製するためのワニスがポリアミド酸を含む場合、未焼成複合膜を焼成する工程において、実質的にイミド化反応が完結しているものとする。)について、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値(X01)を求める。
手順(2):前記の値(X01)を求めた多孔質膜と同一のポリマー(ワニス)を用いて得られたポリイミド系樹脂多孔質膜に対し、後述のエッチング(イミド結合の開環)工程を行った後のポリイミド系樹脂多孔質膜について、フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値で表される値(X02)を求める。
手順(3):下式より不変化率を算出する。
不変化率(%)=(X02)÷(X01)×100
【0045】
ポリイミド系樹脂多孔質膜における不変化率は、60%以上であることが好ましく、70~99.5%であることがより好ましく、80~99%であることがさらに好ましい。
ポリアミドイミドを含有する多孔質膜の場合、-NH-結合を含むため、不変化率は100%であってもよい。
【0046】
ポリイミド多孔質膜である場合、FT-IR装置により測定したイミド結合を表すピークの面積を、同じくFT-IR装置により測定したベンゼンを表すピークの面積で除した値を「イミド化率」とする。
上記手順(2)で求められる値(X02)についてのイミド化率は、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは1.2~2であり、さらに好ましくは1.3~1.6であり、特に好ましくは1.30~1.55であり、最も好ましくは1.35以上1.5未満である。また、上記手順(1)で求められる値(X01)についてのイミド化率は、好ましくは1.5以上である。
かかるイミド化率は、相対的に数字が大きいほど、イミド結合の数が多い、即ち、上述の開環したイミド結合が少ないことを表す。
【0047】
・・ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法
ポリイミド系樹脂多孔質膜は、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドにおけるイミド結合の一部から、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する工程(以下「エッチング工程」という。)を含む方法により製造することができる。
エッチング工程において、イミド結合の一部から、カルボキシ基及び/又は塩型カルボキシ基を形成する場合、実質的に同時に、理論上これらの基と等モルの-NH-結合も形成される。
【0048】
ポリイミド系樹脂多孔質膜が含有する樹脂が実質的にポリアミドイミドからなる場合、該多孔質膜は、エッチング工程を施さなくても既に-NH-結合を有しており、濾過対象物中の異物に対して良好な吸着力を示す。かかる場合、濾過対象物の流速を遅くする必要も特にない点で、エッチング工程は必ずしも必要ではないが、本発明の目的をより効果的に達成する点から、エッチング工程を設けることが好ましい。
【0049】
ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドを主成分とする成形膜(以下「ポリイミド系樹脂成形膜」と略称することがある。)を作製した後、エッチング工程を行うことが好ましい。
エッチング工程を施す対象である、ポリイミド系樹脂成形膜は、多孔質であってもよいし非多孔質であってもよい。
また、ポリイミド系樹脂成形膜の形態は、特に限定されないが、得られるポリイミド系樹脂多孔質膜における多孔質の程度を高めることができる点で、膜等の薄い形状であることが好ましく、多孔質であり、かつ、膜等の薄い形状であることがより好ましい。
【0050】
ポリイミド系樹脂成形膜は、上述のように、エッチング工程を施す際に非多孔質であってもよいが、その場合、エッチング工程の後に多孔質化することが好ましい。
ポリイミド系樹脂成形膜をエッチング工程の前又は後で多孔質化する方法としては、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドと、微粒子と、の複合膜(以下「ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜」という。)から該微粒子を取り除いて多孔質化する[微粒子の除去]工程を含む方法が好ましい。
【0051】
ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法としては、下記の製造方法(a)又は製造方法(b)が挙げられる。
製造方法(a):[微粒子の除去]工程の前に、ポリイミド及び/又はポリアミドイミドと微粒子との複合膜にエッチング工程を施す方法
製造方法(b):[微粒子の除去]工程の後に、該工程により多孔質化したポリイミド系樹脂成形膜にエッチング工程を施す方法
これらの中でも、得られるポリイミド系樹脂多孔質膜における多孔質の程度をより高めることができる点から、後者の製造方法(b)が好ましい。
【0052】
以下に、ポリイミド系樹脂多孔質膜の製造方法の一例について説明する。
【0053】
[ワニスの調製]
予め微粒子を有機溶剤に分散させた微粒子分散液と、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドとを任意の比率で混合する、又は、前記微粒子分散液中でテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを重合してポリアミド酸とするか、もしくは、さらに該ポリアミド酸をイミド化してポリイミドとすることで、ワニスが調製される。
ワニスの粘度は、300~2000cP(0.3~2Pa・s)が好ましく、400~1800cP(0.4~1.8Pa・s)がより好ましい。ワニスの粘度が前記範囲内であれば、より均一に成膜をすることが可能である。
ワニスの粘度は、温度条件25℃で、E型回転粘度計により測定できる。
【0054】
上記ワニスには、焼成(焼成が任意の場合は乾燥)してポリイミド系樹脂-微粒子複合膜とした際に、微粒子/ポリイミド系樹脂の比率が好ましくは1~4(質量比)、より好ましくは1.1~3.5(質量比)となるように、樹脂微粒子と、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、が混合される。
また、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜とした際に、微粒子/ポリイミド系樹脂の体積比率が好ましくは1.1~5となるように、より好ましくは1.1~4.5となるように、微粒子と、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、が混合される。
前記の質量比又は体積比が、前記範囲の好ましい下限値以上であれば、多孔質膜として適切な密度の孔を容易に得ることができ、前記範囲の好ましい上限値以下であれば、粘度の増加や、膜中のひび割れ等の問題を生じにくく、安定的に成膜できる。
尚、本明細書において、体積比は、25℃における値を示す。
【0055】
・・・微粒子
微粒子の材料には、ワニスに用いられる有機溶剤に不溶で、成膜後選択的に除去可能なものであれば特に限定されることなく使用できる。
微粒子の材料としては、例えば、無機材料としてシリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al)、炭酸カルシウム等の金属酸化物などが挙げられる。有機材料としては、例えば、高分子量オレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリスチレン、アクリル系樹脂(メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエチレン等の有機高分子が挙げられる。
これらの中でも、多孔質膜に、内面に曲面を有する微小な孔が形成されやすいことから、無機材料としては、コロイダルシリカ等のシリカが好ましい。有機材料としては、PMMA等のアクリル系樹脂が好ましい。
【0056】
樹脂微粒子としては、例えば、通常の線状ポリマーや公知の解重合性ポリマーから、目的に応じて特に限定されることなく選択できる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断されるポリマーである。解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。何れのポリマーも、加熱時に、単量体、低分子量体、又はCOまでに分解することで、ポリイミド系樹脂膜から除去可能である。
【0057】
解重合性ポリマーの中でも、孔形成時の取り扱い上の点から、熱分解温度の低いメタクリル酸メチル若しくはメタクリル酸イソブチルの単独(ポリメチルメタクリレート若しくはポリイソブチルメタクリレート)又はこれを主成分とする共重合ポリマーが好ましい。
【0058】
樹脂微粒子の分解温度は、200~320℃が好ましく、230~260℃がより好ましい。分解温度が200℃以上であれば、ワニスに高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、ポリイミド系樹脂の焼成条件の選択の幅がより広くなる。分解温度が320℃以下であれば、ポリイミド系樹脂に熱的なダメージを与えることなく、樹脂微粒子のみを容易に消失させることができる。
【0059】
微粒子は、形成される多孔質膜における孔の内面に曲面を有しやすい点で、真球率が高いものが好ましい。使用する微粒子の粒径(平均直径)は、例えば、15~1000nmが好ましく、20~400nmがより好ましい。
微粒子の平均直径が前記範囲内であると、微粒子を取り除いて得られるポリイミド系樹脂多孔質膜に濾過対象物を通過させる際、該多孔質膜における孔の内面に濾過対象物を万遍なく接触させることができ、濾過対象物に含まれる異物の吸着を効率良く行うことができる。
【0060】
微粒子の粒径分布指数(d25/d75)は、好ましくは1~6、より好ましくは1.6~5、さらに好ましくは2~4である。
粒径分布指数を、前記範囲の好ましい下限値以上とすることで、多孔質膜内部に微粒子を効率的に充填させることができるため、流路を形成しやすく、流速が向上する。また、サイズの異なる孔が形成されやすくなり、異なる対流が生じて異物の吸着率がより向上する。
尚、d25及びd75は、粒度分布の累積度数がそれぞれ25%、75%の粒子径の値であり、本明細書においてはd25が粒径の大きい方となる。
【0061】
また、後述の[未焼成複合膜の成膜]において、未焼成複合膜を2層状として形成する場合、第1のワニスに用いる微粒子(B1)と、第2のワニスに用いる微粒子(B2)とは、互いに同じものを用いてもよいし異なったものを用いてもよい。基材に接する側の孔をより稠密にするには、微粒子(B1)は、微粒子(B2)よりも粒径分布指数が小さいか、又は同じであることが好ましい。あるいは、微粒子(B1)は、微粒子(B2)よりも真球率が小さいか、又は同じであることが好ましい。また、微粒子(B1)は、微粒子(B2)よりも微粒子の粒径(平均直径)が小さいことが好ましく、特に、微粒子(B1)が100~1000nm(より好ましくは100~600nm)、微粒子(B2)が500~2000nm(より好ましくは700~2000nm)のものをそれぞれ用いることが好ましい。微粒子(B1)に微粒子(B2)より小さい粒径のものを用いることで、得られるポリイミド系樹脂多孔質膜表面の孔の開口割合を高く、その径を均一にすることができ、かつ、ポリイミド系樹脂多孔質膜全体を、微粒子(B1)単独とした場合よりも多孔質膜の強度を高めることができる。
【0062】
本実施形態では、ワニスに、微粒子を均一に分散することを目的として、上記微粒子とともにさらに分散剤を添加してもよい。分散剤をさらに添加することにより、ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、微粒子と、をいっそう均一に混合でき、さらには、未焼成複合膜中に微粒子を均一に分布させることができる。その結果、最終的に得られるポリイミド系樹脂多孔質膜の表面に稠密な開口を設け、かつ、ポリイミド系樹脂多孔質膜の透気度が向上するように、該多孔質膜の表裏面を連通させる連通孔を効率良く形成することが可能となる。
【0063】
前記の分散剤は、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる。前記の分散剤としては、例えば、やし脂肪酸塩、ヒマシ硫酸化油塩、ラウリルサルフェート塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェート塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート塩、イソプロピルホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート塩、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルホスフェート塩等のアニオン界面活性剤;オレイルアミン酢酸塩、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ヤシアルキルジメチルアミンオキシド、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、アミドベタイン型活性剤、アラニン型活性剤、ラウリルイミノジプロピオン酸等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリスチリルフェニルエーテルその他のポリオキシアルキレン一級アルキルエーテル又はポリオキシアルキレン二級アルキルエーテル系のノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリン酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミドその他のポリオキシアルキレン系のノニオン界面活性剤;オクチルステアレート、トリメチロールプロパントリデカノエート等の脂肪酸アルキルエステル;ポリオキシアルキレンブチルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、トリメチロールプロパントリス(ポリオキシアルキレン)エーテル等のポリエーテルポリオールが挙げられる。上記の分散剤は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0064】
・・・ポリアミド酸
本実施形態に用い得るポリアミド酸としては、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合して得られるものが挙げられる。
【0065】
・・・・テトラカルボン酸二無水物
テトラカルボン酸二無水物は、従来よりポリアミド酸の合成原料として用いられているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。
テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であってもよいし、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよい。
【0066】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2,6,6-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-へキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス無水フタル酸フルオレン、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0067】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0068】
上記の中では、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。その中でも、価格、入手容易性等の点から、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。
テトラカルボン酸二無水物は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0069】
・・・・ジアミン
ジアミンは、従来よりポリアミド酸の合成原料として用いられているジアミンから適宜選択することができる。このジアミンは、芳香族ジアミンであってもよいし、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。ジアミンは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0070】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2~10個程度が結合したジアミノ化合物が挙げられる。芳香族ジアミンとして、具体的には、フェニレンジアミン又はその誘導体、ジアミノビフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノジフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノナフタレン又はその誘導体、アミノフェニルアミノインダン又はその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物又はその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物又はその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体が挙げられる。
【0071】
フェニレンジアミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミンが好ましい。フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2,4-ジアミノトルエン、2,4-トリフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0072】
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものである。ジアミノビフェニル化合物としては、例えば、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等が挙げられる。
【0073】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。他の基としては、エーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン基又はその誘導体基、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等が挙げられる。アルキレン基は、好ましくは炭素原子数が1~6程度であり、その誘導体基は、アルキレン基の水素原子の1つ以上がハロゲン原子等で置換されたものである。
【0074】
ジアミノジフェニル化合物としては、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルケトン、3,4’-ジアミノジフェニルケトン、2,2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(p-アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-1-ペンテン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)-2-ぺンテン、イミノジアニリン、4-メチル-2,4-ビス(p-アミノフェニル)ペンタン、ビス(p-アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニル尿素、4,4’-ジアミノジフェニルアミド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0075】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基がそれぞれ他の基を介して結合したものである。他の基としては、ジアミノジフェニル化合物における他の基と同様のものが挙げられる。
ジアミノトリフェニル化合物としては、1,3-ビス(m-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。
【0076】
ジアミノナフタレンとしては、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等が挙げられる。
【0077】
アミノフェニルアミノインダンとしては、5又は6-アミノ-1-(p-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン等が挙げられる。
【0078】
ジアミノテトラフェニル化合物としては、4,4’-ビス(p-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’-ビス[p-(m-アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0079】
カルド型フルオレンジアミン誘導体としては、9,9-ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0080】
脂肪族ジアミンは、例えば、炭素原子数が2~15程度のものが好ましく、具体的には、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0081】
尚、ジアミンにおいては、水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基で置換された化合物であってもよい。
【0082】
上記の中でも、ジアミンとしては、フェニレンジアミン、フェニレンジアミン誘導体、ジアミノジフェニル化合物が好ましい。その中でも、価格、入手容易性等の点から、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルが特に好ましい。
【0083】
ポリアミド酸の製造方法には、特に制限はなく、例えば、有機溶剤中で任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させる方法等の、公知の手法が用いられる。
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、有機溶剤中で行われる。ここで用いられる有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンをそれぞれ溶解することができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0084】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いられる有機溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類等のフェノール系溶剤が挙げられる。
【0085】
これらの中でも、ここでの有機溶剤としては、生成するポリアミド酸の溶解性の点から、含窒素極性溶剤を用いることが好ましい。
また、成膜性等の観点から、ラクトン系極性溶剤を含む混合溶剤を用いることが好ましい。この場合、有機溶剤全体(100質量%)に対して、ラクトン系極性溶剤の含有量は、1~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
ここでの有機溶剤には、含窒素極性溶剤及びラクトン系極性溶剤からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、含窒素極性溶剤とラクトン系極性溶剤との混合溶剤を用いることがより好ましい。
有機溶剤の使用量は、特に制限はないが、反応後の反応液中の、生成するポリアミド酸の含有量が5~50質量%となる程度が好ましい。
【0086】
テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの各使用量は、特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミン0.50~1.50モルを用いることが好ましく、0.60~1.30モルを用いることがより好ましく、0.70~1.20モルを用いることが特に好ましい。
【0087】
反応(重合)温度は、一般的には-10~120℃、好ましくは5~30℃である。
反応(重合)時間は、使用する原料組成により異なるが、通常は3~24(時間)である。
また、このような条件下で得られるポリアミド酸溶液の固有粘度は、好ましくは1000~100000cP(センチポアズ)(1~100Pa・s)、より好ましくは5000~70000cP(5~70Pa・s)の範囲である。
ポリアミド酸溶液の固有粘度は、温度条件25℃で、E型回転粘度計により測定できる。
【0088】
・・・ポリイミド
本実施形態に用い得るポリイミドは、ワニスに使用する有機溶剤に溶解可能であれば、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。
ポリイミドは、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基、又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0089】
ワニスに使用する有機溶剤に可溶なポリイミドとするため、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用が有効である。
このモノマーとしては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2-メチル-1,4-フェニレンジアミン、o-トリジン、m-トリジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2,3,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0090】
また、かかる有機溶剤への溶解性を向上する、官能基を有するモノマーを使用することも有効である。このような官能基を有するモノマーとしては、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2-トリフルオロメチル-1,4-フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンが挙げられる。
さらに、かかる官能基を有するモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の説明の中で例示したモノマーを併用することもできる。
【0091】
ポリイミドの製造方法としては、特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を、化学イミド化又は加熱イミド化させて有機溶剤に溶解させる方法等の、公知の手法が挙げられる。
【0092】
本実施形態に用い得るポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等が挙げられ、中でも、芳香族ポリイミドが好ましい。
芳香族ポリイミドとしては、下記一般式(5)で表される構成単位を有するポリアミド酸を、熱又は化学的に閉環反応させて得られるもの、又は、下記一般式(6)で表される構成単位を有するポリイミドを、溶媒に溶解して得られるものでよい。
式中、RArはアリール基、R’Arはアリーレン基を示す。
【0093】
【化3】
【0094】
前記の式中、RArは、4n+2個のπ電子をもつ環状共役系であれば特に限定されず、単環式でも多環式でもよい。芳香環の炭素原子数は、5~30であることが好ましく、5~20がより好ましく、6~15がさらに好ましく、6~12が特に好ましい。芳香環として具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環;前記芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環等が挙げられる。芳香族複素環におけるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。芳香族複素環として具体的には、ピリジン環、チオフェン環等が挙げられる。中でも、RArは、芳香族炭化水素環が好ましく、ベンゼン、ナフタレンがより好ましく、ベンゼンが特に好ましい。
前記の式中、R’Arは、前記のRArにおける芳香環から水素原子2つを除いた基が挙げられる。中でも、R’Arは、芳香族炭化水素環から水素原子2つを除いた基が好ましく、ベンゼン又はナフタレンから水素原子2つを除いた基がより好ましく、ベンゼンから水素原子2つを除いたフェニレン基が特に好ましい。
Arにおけるアリール基、R’Arにおけるアリーレン基は、それぞれ、置換基を有していてもよい。
【0095】
・・・ポリアミドイミド
本実施形態に用い得るポリアミドイミドは、ワニスに使用する有機溶剤に溶解可能であれば、その構造や分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。
ポリアミドイミドは、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基、又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0096】
かかるポリアミドイミドには、任意の無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応により得られるものや、任意の無水トリメリット酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるものを、特に限定されることなく使用できる。
【0097】
上記任意の無水トリメリット酸の反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0098】
上記任意のジイソシアネートとしては、例えば、メタフェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、o-トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-オキシビス(フェニルイソシアネート)、4,4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2’-ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジエチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0099】
上記任意のジアミンとしては、上記ポリアミド酸の説明の中で例示したジアミンと同様のものが挙げられる。
【0100】
・・・有機溶剤
ワニスの調製に用い得る有機溶剤としては、ポリアミド酸及び/又はポリイミド系樹脂を溶解することができ、微粒子を溶解しないものであれば、特に限定されず、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いられる有機溶剤と同様のものが挙げられる。
有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0101】
ワニス中、有機溶剤の含有量は、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~85質量%とされる。ワニスにおける固形分濃度は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは15~40質量%とされる。
【0102】
また、後述の[未焼成複合膜の成膜]において、未焼成複合膜を2層状として形成する場合、第1のワニスにおけるポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミド(A1)と微粒子(B1)との体積比を、19:81~45:55とすることが好ましい。微粒子(B1)が占める体積割合が全体を100とした場合に、55以上であれば、粒子が均一に分散し、また、81以下であれば、粒子同士が凝集することなく分散しやすくなる。これにより、ポリイミド系樹脂成形膜の基材側面側に孔を均一に形成できるようになる。
また、第2のワニスにおけるポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミド(A2)と微粒子(B2)との体積比を、20:80~50:50とすることが好ましい。微粒子(B2)が占める体積割合が全体を100とした場合に、50以上であれば、粒子単体が均一に分散しやすく、また、80以下であれば、粒子同士が凝集することなく、また、表面にひび割れ等が生じにくくなる。これにより、応力、破断伸度等の機械的特性の良好なポリイミド系樹脂多孔質膜が形成されやすくなる。
【0103】
上記の体積比について、第2のワニスは、上記第1のワニスよりも、微粒子含有比率の低いものであることが好ましい。上記条件を満たすことにより、微粒子がポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミド中に高度に充填されていても、未焼成複合膜、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜、及びポリイミド系樹脂多孔質膜の強度や柔軟性が確保される。また、微粒子含有比率の低い層を設けることで、製造コストの低減が図れる。
【0104】
ワニスを調製する際、上記した成分のほかに、帯電防止、難燃性付与、低温焼成化、離型性、塗布性等を目的として、帯電防止剤、難燃剤、化学イミド化剤、縮合剤、離型剤、表面調整剤等の公知の成分を必要に応じて配合することができる。
【0105】
[未焼成複合膜の成膜]
ポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドと、微粒子と、を含有する未焼成複合膜の成膜は、例えば、基材上に上記ワニスを塗布し、常圧又は真空下で0~120℃(好ましくは0~100℃)、より好ましくは常圧下で60~95℃(さらに好ましくは65~90℃)の条件により乾燥して行われる。塗布膜厚は、例えば、好ましくは1~500μm、より好ましくは5~50μmである。
【0106】
尚、基材上には、必要に応じて離型層を設けてもよい。また、未焼成複合膜の成膜において、後述の[未焼成複合膜の焼成]の前に、水を含む溶剤への浸漬工程、乾燥工程、プレス工程をそれぞれ任意の工程として設けてもよい。
【0107】
上記離型層は、基材上に離型剤を塗布して乾燥あるいは焼き付けを行うことによって作製できる。ここで使用される離型剤は、アルキルリン酸アンモニウム塩系離型剤、フッ素系離型剤又はシリコーン系離型剤等の、公知の離型剤が特に制限なく使用可能である。
乾燥後の未焼成複合膜を基材から剥離する際、未焼成複合膜の剥離面にわずかながら離型剤が残存する。この残存した離型剤は、ポリイミド系樹脂多孔質膜表面の濡れ性や不純物混入に影響し得るため、これを取り除いておくことが好ましい。
そこで、上記基材から剥離した未焼成複合膜を、有機溶剤等を用いて洗浄することが好ましい。洗浄の方法としては、洗浄液に未焼成複合膜を浸漬した後に取り出す方法、シャワー洗浄する方法等の、公知の方法が挙げられる。
洗浄後の未焼成複合膜を乾燥するため、例えば、洗浄後の未焼成複合膜は、室温で風乾される、又は、恒温槽中で適切な設定温度まで加温される。その際、例えば、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定して、変形を防ぐ方法を採ることもできる。
【0108】
一方、未焼成複合膜の成膜において、離型層を設けず基材をそのまま使用する場合は、上記離型層形成の工程や、未焼成複合膜の洗浄工程を省くことができる。
【0109】
また、未焼成複合膜を2層状で成膜する場合、まず、ガラス基板等の基材上にそのまま、上記第1のワニスを塗布し、常圧又は真空下で0~120℃(好ましくは0~90℃)、より好ましくは常圧で10~100℃(さらに好ましくは10~90℃)の条件により乾燥して、膜厚1~5μmの第1未焼成複合膜の形成を行う。
続いて、第1未焼成複合膜上に、上記第2のワニスを塗布し、同様にして、0~80℃(好ましくは0~50℃)、より好ましくは常圧で10~80℃(更に好ましくは10~30℃)の条件により乾燥して、膜厚5~50μmの第2未焼成複合膜の形成を行うことで、2層状の未焼成複合膜を成膜できる。
【0110】
[未焼成複合膜の焼成]
上記[未焼成複合膜の成膜]の後、未焼成複合膜に対し、加熱処理(焼成)を施すことにより、ポリイミド系樹脂と微粒子とからなる複合膜(ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜)が形成される。
ワニスにポリアミド酸を含む場合、本工程の[未焼成複合膜の焼成]で、イミド化を完結させることが好ましい。
【0111】
加熱処理の温度(焼成温度)は、未焼成複合膜に含有されるポリアミド酸又はポリイミド若しくはポリアミドイミドの構造や縮合剤の有無によっても異なるが、120~400℃が好ましく、より好ましくは150~375℃である。
【0112】
焼成を行うには、必ずしも前工程での乾燥と明確に操作を分ける必要はない。例えば、375℃で焼成を行う場合、室温から375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法や、室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各刻みで20分間保持)し、最終的に375℃で20分間保持させる等の段階的な乾燥-熱イミド化法を用いることもできる。その際、未焼成複合膜の端部をSUS製の型枠等に固定して変形を防ぐ方法を採ってもよい。
【0113】
加熱処理(焼成)後のポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の厚さは、例えば、1μm以上が好ましく、5~500μmがより好ましく、8~100μmであることがさらに好ましい。
ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜の厚さは、マイクロメーターを用い、複数の箇所の厚さを測定し、これらを平均することで求めることができる。
【0114】
尚、本工程は任意の工程である。特にワニスにポリイミド又はポリアミドイミドが用いられる場合、本工程は行われなくてもよい。
【0115】
[微粒子の除去]
上記[未焼成複合膜の焼成]の後、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜から、微粒子を除去することにより、ポリイミド系樹脂多孔質膜が製造される。
例えば、微粒子としてシリカを採用した場合、ポリイミド系樹脂-微粒子複合膜を、低濃度のフッ化水素(HF)水に接触させることによって、シリカが溶解除去され、多孔質膜が得られる。また、微粒子が樹脂微粒子の場合、樹脂微粒子の熱分解温度以上で、かつ、ポリイミド系樹脂の熱分解温度未満の温度に加熱することによって、樹脂微粒子が分解除去され、多孔質膜が得られる。
【0116】
[エッチング(イミド結合の開環)]
エッチング工程は、ケミカルエッチング法若しくは物理的除去方法、又は、これらを組み合わせた方法により行うことができる。
【0117】
・ケミカルエッチング法について
ケミカルエッチング法には、従来公知の方法を用いることができる。
ケミカルエッチング法としては、特に限定されず、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等のエッチング液による処理が挙げられる。中でも、無機アルカリ溶液による処理が好ましい。
無機アルカリ溶液としては、例えば、ヒドラジンヒドラートとエチレンジアミンとを含むヒドラジン溶液;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液;アンモニア溶液;水酸化アルカリとヒドラジンと1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンとを主成分とするエッチング液等が挙げられる。
有機アルカリ溶液としては、エチルアミン、n-プロピルアミン等の第一級アミン類;ジエチルアミン、ジ-n-ブチルアミン等の第二級アミン類;トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三級アミン類;ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩;ピロール、ピヘリジン等の環状アミン類等の、アルカリ性のエッチング液が挙げられる。エッチング液におけるアルカリ濃度は、例えば0.01~20質量%である。
【0118】
上記の各エッチング液の溶媒には、純水、アルコール類を適宜選択でき、また、界面活性剤を適量添加したものを使用することもできる。
【0119】
・物理的除去方法について
物理的除去方法には、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング法を用いることができる。
【0120】
上記したケミカルエッチング法又は物理的除去方法は、上記[微粒子の除去]の前に適用することも、上記[微粒子の除去]の後に適用することもできる。
中でも、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の連通孔がより形成されやすく、異物の除去性が高められることから、上記[微粒子の除去]の後に適用することが好ましい。
【0121】
エッチング工程でケミカルエッチング法を行う場合、余剰のエッチング液を除去するため、本工程の後にポリイミド系樹脂多孔質膜の洗浄工程を設けてもよい。
ケミカルエッチング後の洗浄は、水洗単独でもよいが、酸洗浄と水洗とを組み合わせることが好ましい。
【0122】
また、エッチング工程の後、ポリイミド系樹脂多孔質膜表面の有機溶媒への濡れ性向上、及び、残存有機物除去のため、ポリイミド系樹脂多孔質膜に対し、加熱処理(再焼成)を行ってもよい。この加熱条件は、上記[未焼成複合膜の焼成]における条件と同様である。
【0123】
例えば上述した製造方法によって製造されるポリイミド系樹脂多孔質膜は、球状セルと、隣接した球状セル同士が連通した連通孔と、が形成され、好ましくは、一方の外部表面に開口する連通孔が、多孔質膜の内部を連通し、他方(裏側)の外部表面にまで開口して、流体が多孔質膜を通過し得る流路が確保されるような連通孔を有する。
【0124】
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」のガーレー透気度は、例えば、該多孔質膜を通過する濾過対象物の流速をある程度高く維持しつつ、異物除去を効率良く行う点から、30秒以上が好ましい。該多孔質膜のガーレー透気度は、より好ましくは30~1000秒であり、さらに好ましくは30~600秒であり、特に好ましくは30~500秒であり、最も好ましくは30~300秒である。ガーレー透気度が、前記範囲の好ましい上限値以下であれば、多孔質の程度(連通孔の存在比など)が充分に高いため、異物除去の効果がより得られやすくなる。
該多孔質膜のガーレー透気度は、JIS P 8117に準じて測定できる。
【0125】
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」は、平均孔径が1~1000nmである連通孔を含むものが好ましく、より好ましくは3~300nm、さらに好ましくは5~100nm、特に好ましくは10~40nmである。
かかる連通孔の孔径とは、連通孔の直径をいう。尚、1つの連通孔は、前述の製造方法によって、通常2つの隣接する粒子から形成されるため、該直径には、例えば、連通孔を構成する2つの孔が隣り合う方向を長手方向とすると、該長手方向に垂直な方向を直径としている場合が含まれる。前述のエッチング(イミド結合の開環)工程を設けない場合、連通孔の孔径が小さくなる傾向にある。
該多孔質膜における連通孔の平均孔径(多孔質膜の平均孔径ともいう)は、パームポロメーター(例えばPMI社製)を用いて、ハーフドライ法(ASTM E1294-89)に従い、試液としてパーフルオロポリエステル(商品名Galwick、界面張力値:15.9dyne/cm)を用い、測定温度25℃、測定圧力0~400psiの範囲で測定した値である。
【0126】
また、「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」の球状セルの平均孔径は、20~2500nmが好ましく、より好ましくは30~1000nm、さらに好ましくは50~250nmである。
【0127】
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」は、上述のように、好ましくは数百ナノメートル単位の平均孔径を有する孔を含有する多孔質膜である。このため、例えばナノメートル単位の微小物質をも、多孔質膜における孔及び/又は連通孔に吸着もしくは捕捉することができる。
【0128】
かかる連通孔の孔径は、「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」に多孔質性を付与する個々の孔の孔径の分布がブロードな方が、隣接する孔同士で形成される連通孔の孔径が小さくなる傾向にある。
連通孔の孔径を小さくする観点では、「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」の空隙率は、例えば、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55~90質量%、さらに好ましくは60~80質量%、特に好ましくは60~70質量%程度である。空隙率が、前記範囲の好ましい下限値以上であれば、異物除去の効果がより得られやすくなる。前記範囲の好ましい上限値以下であれば、多孔質膜の強度がより高められる。
該多孔質膜の空隙率は、該多孔質膜を製造する際に用いられる樹脂等と微粒子との合計質量に対する、微粒子の質量の割合を算出することにより求められる。
【0129】
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」は、応力、破断伸度等の機械的特性に優れる。
フィルターが備える「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」の応力は、例えば、10MPa以上が好ましく、より好ましくは15MPa以上、さらに好ましくは15~60MPaである。
該多孔質膜の応力は、サイズ4mm×30mmの試料を作製し、試験機を用いて5mm/minの測定条件で測定した値とされる。
【0130】
また、「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」の破断伸度は、例えば、10%GL以上が好ましく、より好ましくは15%GL以上である。かかる破断伸度の上限は、例えば、60%GL以下が好ましく、より好ましくは55%GL以下である。ポリイミド系樹脂多孔質膜の空隙率を下げると、破断伸度が高くなる傾向がある。
該多孔質膜の破断伸度は、サイズ4mm×30mmの試料を作製し、試験機を用いて5mm/minの測定条件で測定した値とされる。
【0131】
「隣接した球状セル同士が連通した多孔質膜」の熱分解温度は、200℃以上が好ましく、320℃以上がより好ましく、350℃以上がさらに好ましい。
該多孔質膜の熱分解温度は、空気雰囲気下、10℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温することで測定できる。
【0132】
本実施形態におけるフィルターは、図1に示すような隣り合う球状セル1aと球状セル1bとが連通した連通孔5が形成された多孔質膜を備えたものに限定されず、連通孔5に加えてこれ以外の形態のセル又は連通孔が形成された多孔質膜を備えるものでもよい。
これ以外の形態のセル(以下これを「他のセル」という。)としては、形状もしくは孔径が異なるセルが挙げられ、例えば楕円状セル、多面体状セル、孔径の異なる球状セル等が挙げられる。前記の「これ以外の形態の連通孔」としては、例えば、球状セルと他のセルとが連通した連通孔が挙げられる。
他のセルの形状又は孔径は、除去対象とされる不純物の種類に応じて適宜決定すればよい。球状セルと他のセルとが連通した連通孔は、上述の微粒子の材料選択、微粒子の形状制御などによって形成できる。
隣接した球状セル同士が連通した連通孔に加えてこれ以外の形態のセル又は連通孔が形成された多孔質膜を備えたフィルターによれば、濾過対象物から、種々の異物をより効率的に除去できる。
【0133】
また、本実施形態におけるフィルターは、半導体製造プロセスにおける各種薬液の供給ライン又はPOU(point of use)で、これまで設置されていた微粒子状不純物除去のためのフィルターカートリッジ等に置き換えて、又はこれと組み合わせて用いることができる。このため、従来と全く同一の装置及び操作で、濾過対象物(リソグラフィー用薬液)から、種々の異物を効率良く除去でき、高純度のケイ素含有樹脂組成物精製品を調製できる。
【0134】
≪ケイ素含有樹脂組成物の濾過≫
隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有するフィルターによるケイ素含有樹脂組成物の濾過は、差圧なしの状態で行ってもよいし(即ち、ケイ素含有樹脂組成物をフィルターに重力のみで通過させてもよいし)、差圧を設けた状態で行ってもよい。中でも、後者が好ましく、ケイ素含有樹脂組成物をフィルターに差圧によって通過させる操作を行うことが好ましい。
【0135】
「差圧を設けた状態」とは、フィルターが備えるポリイミド系樹脂多孔質膜の一方の側と他方の側との間に圧力差があること、をいう。
例えば、ポリイミド系樹脂多孔質膜の片方の側(ケイ素含有樹脂組成物供給側)に圧力を加える加圧(陽圧)、ポリイミド系樹脂多孔質膜の片方の側(濾液側)を負圧にする減圧(陰圧)等が挙げられる。本実施形態における濾過工程では、前者の加圧が好ましい。
【0136】
加圧は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を通過させる前のケイ素含有樹脂組成物(以下「供給液」ということがある。)が存在する、ポリイミド系樹脂多孔質膜の供給液側に圧力を加えるものである。
例えば、供給液の循環若しくは送流で生じる流液圧を利用すること、又はガスの陽圧を利用することにより、供給液側に圧力を加えることが好ましい。
流液圧は、例えばポンプ(送液ポンプ、循環ポンプ等)の積極的な流液圧付加方法により発生させることができる。ポンプとしては、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプ、定量ポンプ、ケミカルポンプ、プランジャーポンプ、べローズポンプ、ギアポンプ、真空ポンプ、エアーポンプ、液体ポンプ等が挙げられる。
ポンプによる供給液の循環若しくは送液を行う場合、通常、ポンプは、供給液槽(又は循環槽)とポリイミド系樹脂多孔質膜との間に配置される。
【0137】
流液圧としては、例えば、供給液をポリイミド系樹脂多孔質膜に重力のみで通過させる際に、該供給液によりポリイミド系樹脂多孔質膜に加えられる圧力であってもよいが、上記の積極的な流液圧付加方法により加えられる圧力であることが好ましい。
加圧に用いられるガスとしては、供給液に対して不活性又は非反応性のガスが好ましく、具体的には、窒素、又はヘリウム、アルゴン等の希ガス等が挙げられる。
供給液側に圧力を加える方法としては、ガスの陽圧を利用することが好ましい。その際、ポリイミド系樹脂多孔質膜を通過した濾液側は、減圧せず大気圧でよい。
【0138】
また、加圧は、流液圧とガスの陽圧との両方を利用するものであってもよい。また、差圧は、加圧と減圧とを組み合わせてもよく、例えば、流液圧と減圧との両方を利用するもの、ガスの陽圧と減圧との両方を利用するもの、又は、流液圧及びガスの陽圧と減圧とを利用するものであってもよい。差圧を設ける方法を組み合せる場合、製造の簡便化等の点で、流液圧とガスの陽圧との組合せ、流液圧と減圧との組合せが好ましい。
本実施形態においては、ポリイミド系樹脂多孔質膜を用いることから、差圧を設ける方法として、例えば、ガスによる陽圧等の1つの方法であっても、異物除去性能に優れる。
【0139】
減圧は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を通過した濾液側を減圧するものであり、例えば、ポンプによる減圧であってもよいが、真空にまで減圧することが好ましい。
【0140】
ケイ素含有樹脂組成物をフィルターに通過させる操作を、差圧を設けた状態で行う場合、その圧力差は、使用するポリイミド系樹脂多孔質膜の膜厚、空隙率若しくは平均孔径、又は所望の精製度、流量、流速、又は供給液の濃度若しくは粘度等を勘案して適宜設定される。例えば、いわゆるクロスフロー方式(ポリイミド系樹脂多孔質膜に対して平行に供給液を流す)の場合の圧力差は、例えば0.3MPa以下が好ましい。
いわゆるデッドエンド方式(ポリイミド系樹脂多孔質膜に対して交差するように供給液を流す)の場合の圧力差は、例えば1MPa以下が好ましく、0.3MPa以下がより好ましい。それぞれの圧力差の下限値は、0.01MPa以上が好ましく、0.05MPa以上がより好ましい。
【0141】
工程(i)において、ケイ素含有樹脂組成物を、上述したポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターに通過させる操作は、ケイ素含有樹脂組成物(供給液)の流速を高く維持した状態で行うことができる。
この場合の流速としては、特に限定されないが、例えば、室温(20℃)において0.08MPaで加圧した場合の純水の流速が、好ましくは1mL/分以上、より好ましくは3mL/分以上、さらに好ましくは5mL/分以上、特に好ましくは10mL/分以上である。流速の上限値は、特に限定されず、例えば、50mL/分以下とされる。
本実施形態においては、上述したポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターが用いられるため、このように流速を高く維持しながら濾過を行うことができ、ケイ素含有樹脂組成物に含まれる異物の除去率を高められる。
【0142】
また、工程(i)において、ケイ素含有樹脂組成物をフィルターに通過させる操作は、ケイ素含有樹脂組成物の温度を、0~30℃に設定して行うことが好ましく、5~25℃に設定して行うことがより好ましい。
【0143】
また、工程(i)では、ケイ素含有樹脂組成物を、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターに複数回通過させても(複数回循環ろ過を行っても)よいし、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターを少なくとも含む、複数のフィルターに通過させてもよい。
【0144】
また、供給液をポリイミド系樹脂多孔質膜に通過させる前に、ポリイミド系樹脂多孔質膜の洗浄、供給液に対する濡れ性向上、又は、ポリイミド系樹脂多孔質膜と供給液との表面エネルギー調整のために、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールもしくはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン、水、供給液に含まれる溶媒又はそれらの混合物等の溶液を、ポリイミド系樹脂多孔質膜に接触させて通液してもよい。
上記溶液とポリイミド系樹脂多孔質膜とを接触させるには、上記溶液にポリイミド系樹脂多孔質膜を含浸させてもよいし浸漬させてもよい。上記溶液をポリイミド系樹脂多孔質膜と接触させることによって、例えば、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の孔に溶液を浸透させることができる。上記溶液とポリイミド系樹脂多孔質膜との接触は、上述した差圧を設けた状態で行ってもよく、特に、ポリイミド系樹脂多孔質膜の内部の孔にも溶液を浸透させる場合は加圧下で行うことが好ましい。
【0145】
<他の工程>
本実施形態にかかる製造方法は、前記工程(i)に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルター以外の他のフィルターで濾過する工程が挙げられる。前記ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルター以外のフィルターは、特に限定されないが、例えば、ナイロン膜、ポリエチレン膜、ポリプロピレン膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)膜、及びこれらを修飾した膜等の熱可塑性樹脂の多孔質膜を備えるフィルター等が挙げられる。中でも、異物の除去性能に優れることから、他のフィルターとしては、ポリエチレン樹脂を含有する多孔質膜を備えるフィルターを用いることが好ましい。
【0146】
工程(ii)について:
本実施形態にかかる製造方法は、前記工程(i)に加えて、ポリエチレン樹脂を含有する多孔質膜を備えるフィルターで濾過する工程(ii)を、さらに含むことが好ましい。
ポリエチレン樹脂を含有する多孔質膜(以下「ポリエチレン樹脂多孔質膜」ともいう)は、ポリエチレン樹脂のみからなるものであってもよく、ポリエチレン樹脂と他の樹脂とを含むものであってもよいが、ポリエチレン樹脂のみからなるものが好ましい。
ポリエチレン樹脂多孔質膜は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。ポリエチレン樹脂多孔質膜は、耐衝撃性、耐摩耗性、及び耐薬品に優れることから、超高分子量ポリエチレン(UPE)の多孔質膜を用いることが好ましい。
かかるポリエチレン樹脂多孔質膜の平均孔径は、特に限定されないが、微細な異物を除去する観点から、0.1~100nmが好ましく、0.3~50nmがより好ましく、0.5~10nmがさらに好ましい。
【0147】
かかるポリエチレン樹脂多孔質膜を備えるフィルターとしては、ポリエチレン樹脂多孔質膜を、熱可塑性樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、PFA、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド、ポリアミドイミド等)からなる外側容器に備えたものも挙げられる。
【0148】
工程(ii)は、前記工程(i)の後に行うことが好ましく、この場合、ポリエチレン樹脂多孔質膜の平均孔径は、前記ポリイミド系多孔質膜の連通孔の平均孔径よりも小さいことが好ましい。
本実施形態の製造方法においては、前記工程(i)の後に工程(ii)を行うことを繰り返し行ってもよい。この場合、ケイ素含有樹脂組成物(供給液)を常時循環しながら、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターと、ポリエチレン樹脂多孔質膜を備えるフィルターと、に通過させる。前記のような循環型の濾過を行う場合、該循環経路において、両フィルターは、ケイ素含有樹脂組成物がポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターを通過した後にポリエチレン樹脂多孔質膜を備えるフィルターを通過するように配置されることが好ましい。
【0149】
工程(ii)を行う場合、前記工程(i)において記載したのと同様に、供給液をポリエチレン樹脂多孔質膜に通過させる前に、ポリエチレン樹脂多孔質膜の洗浄、供給液に対する濡れ性向上、又は、ポリエチレン樹脂多孔質膜と供給液との表面エネルギー調整のために、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールもしくはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン、水、供給液に含まれる溶媒又はそれらの混合物等の溶液を、ポリエチレン樹脂多孔質膜に接触させて通液してもよい。
【0150】
<ケイ素含有樹脂組成物>
濾過対象物であるケイ素含有樹脂組成物は、主鎖がシロキサン結合からなるケイ素含有樹脂(A)(以下「(A)成分」ともいう)と、前記(A)成分以外のシロキサン結合含有かご型化合物(C)(以下「(C)成分」ともいう)と、有機溶剤成分(S)(以下「(S)成分」ともいう)とを含有する。
前記ケイ素含有樹脂組成物は、(A)成分、(C)成分及び(S)成分に加え、必要に応じて、その他の任意成分を含有してもよい。前記ケイ素含有樹脂組成物は、例えば、半導体素子等の製造プロセスで利用されるレジスト下層膜形成用組成物として好適なものである。
【0151】
≪主鎖がシロキサン結合からなるケイ素含有樹脂(A)≫
本実施形態のケイ素含有樹脂組成物で用いられるケイ素含有樹脂は、主鎖がシロキサン結合(Si-O-Si結合)からなるものであり、側鎖のみにシロキサン結合があるものは含まない。
かかる(A)成分としては、ケイ素を含有する樹脂であればよく、ポリシロキサンが好ましい。ポリシロキサンは、シロキサン結合を有するポリマーである限り特に限定されないが、下記一般式(A0)で表される加水分解性シラン化合物を含む化合物の加水分解縮合物であることが好ましい。
ポリシロキサンの合成に用いられる加水分解性シラン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0152】
(R”)Si(Z)4-a ・・・(A0)
【0153】
式(A0)中、R”は、水素原子、フッ素原子、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~20のアリール基又はシアノ基である。
前記アルキル基が有する水素原子の一部又は全部は、エポキシアルキルオキシ基、エポキシ基、酸無水物基又はシアノ基で置換されていてもよい。
前記アリール基が有する水素原子の一部又は全部は、ヒドロキシ基で置換されていてもよい。
Zは、ハロゲン原子又は-OR’である。R’は、1価の有機基である。
aは、Siに結合するR”の個数を意味する。4-aは、Siに結合するZの個数を意味する。aは、0~3の整数である。R”及びZがそれぞれ複数の場合、複数のR”及びZは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0154】
前記式(A0)中、R”における、炭素原子数1~5のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、イソアミル基等の分岐状のアルキル基等が挙げられる。これらのうち、直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
R”におけるアルケニル基としては、例えばアルケン化合物から水素原子を1つ除いた基等が挙げられ、エテニル基、1-プロペン-1-イル基、1-プロペン-2-イル基、1-プロペン-3-イル基、1-ブテン-1-イル基、1-ブテン-2-イル基、1-ブテン-3-イル基、1-ブテン-4-イル基、2-ブテン-1-イル基、2-ブテン-2-イル基、1-ペンテン-5-イル基、2-ペンテン-1-イル基、2-ペンテン-2-イル基、1-ヘキセン-6-イル基、2-ヘキセン-1-イル基、2-ヘキセン-2-イル基等が挙げられる。
R”におけるアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基、フルオロフェニル基等が挙げられる。これらのうち、フェニル基、メチルフェニル基が好ましい。なお、ここでのアリール基は、アラルキル基を含む概念である。
【0155】
上記エポキシアルキルオキシ基における「エポキシ基」には、オキシラニル基及びオキセタニル基が含まれ、上記アルキル基を置換してもよいエポキシアルキルオキシ基としては、例えばグリシジルオキシ基、オキセタニルメチルオキシ基等が挙げられる。
【0156】
上記アルキル基を置換してもよいエポキシ基としては、オキシラニル基及びオキセタニル基等が挙げられる。
上記アルキル基を置換してもよい酸無水物基としては、例えば無水コハク酸基、無水マレイン酸基、無水グルタル酸基等が挙げられる。
【0157】
上記グリシジルオキシ基で置換されたアルキル基としては、例えば2-グリシジルオキシエチル基、3-グリシジルオキシプロピル基、4-グリシジルオキシブチル基等が挙げられる。これらのうち、3-グリシジルオキシプロピル基がより好ましい。
上記オキセタニルメチルオキシ基で置換されたアルキル基としては、例えば3-エチル-3-オキセタニルメチルオキシプロピル基、3-メチル-3-オキセタニルメチルオキシプロピル基、3-エチル-2-オキセタニルメチルオキシプロピル基、2-オキセタニルメチルオキシエチル基等が挙げられる。これらのうち、3-エチル-3-オキセタニルメチルオキシプロピル基が好ましい。
【0158】
上記酸無水物基で置換されたアルキル基としては、例えば2-無水コハク酸基置換エチル基、3-無水コハク酸基置換プロピル基、4-無水コハク酸基置換ブチル基等が挙げられる。これらのうち、3-無水コハク酸基置換プロピル基がより好ましい。
上記シアノ基で置換されたアルキル基としては、例えば2-シアノエチル基、3-シアノプロピル基、4-シアノブチル基等が挙げられる。
【0159】
上記ヒドロキシ基で置換されたアリール基としては、例えば4-ヒドロキシフェニル基、4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル基、4-ヒドロキシナフチル基等が挙げられる。これらのうち、4-ヒドロキシフェニル基がより好ましい。
【0160】
R”としては、炭素原子数1~5のアルキル基、又は炭素原子数6~20のアリール基が好ましい。
あるいは、R”としては、炭素原子数6~20のアリール基が好ましく、フェニル基を含むことがより好ましく、すなわち、ケイ素含有樹脂(A)は、フェニル基を含むものが好ましい。
【0161】
前記式(A0)中、Zにおけるハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0162】
R’における1価の有機基としては、例えばアルキル基、アルキルカルボニル基等が挙げられる。ここでのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。ここでのアルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基が好ましい。R’としては、アルキル基が好ましい。
【0163】
前記式(A0)中、aとしては、0~2の整数が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0164】
上記の一般式(A0)で表される加水分解性シラン化合物の具体例としては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、4-メチルフェニルトリメトキシシラン、4-エチルフェニルトリメトキシシラン、4-ヒドロキシフェニルトリメトキシシラン、3-メチルフェニルトリメトキシシラン、3-エチルフェニルトリメトキシシラン、3-ヒドロキシフェニルトリメトキシシラン、2-メチルフェニルトリメトキシシラン、2-エチルフェニルトリメトキシシラン、2-ヒドロキシフェニルトリメトキシシラン、2,4,6-トリメチルフェニルトリメトキシシラン等の芳香環含有トリアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ-n-プロポキシシラン、メチルトリ-iso-プロポキシシラン、メチルトリ-n-ブトキシシラン、メチルトリ-sec-ブトキシシラン、メチルトリ-t-ブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、メチルトリス(ジメチルシロキシ)シラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、メチルシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ-n-プロポキシシラン、エチルトリ-iso-プロポキシシラン、エチルトリ-n-ブトキシシラン、エチルトリ-sec-ブトキシシラン、エチルトリ-t-ブトキシシラン、エチルトリフェノキシシラン、エチルビストリス(トリメチルシロキシ)シラン、エチルジクロロシラン、エチルトリアセトキシシラン、エチルトリクロロシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリ-n-プロポキシシラン、n-プロピルトリ-iso-プロポキシシラン、n-プロピルトリ-n-ブトキシシラン、n-プロピルトリ-sec-ブトキシシラン、n-プロピルトリ-t-ブトキシシラン、n-プロピルトリフェノキシシラン、n-プロピルトリアセトキシシラン、n-プロピルトリクロロシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリ-n-プロポキシシラン、iso-プロピルトリ-iso-プロポキシシラン、iso-プロピルトリ-n-ブトキシシラン、iso-プロピルトリ-sec-ブトキシシラン、iso-プロピルトリ-t-ブトキシシラン、iso-プロピルトリフェノキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、n-ブチルトリ-n-プロポキシシラン、n-ブチルトリ-iso-プロポキシシラン、n-ブチルトリ-n-ブトキシシラン、n-ブチルトリ-sec-ブトキシシラン、n-ブチルトリ-t-ブトキシシラン、n-ブチルトリフェノキシシラン、n-ブチルトリクロロシラン、2-メチルプロピルトリメトキシシラン、2-メチルプロピルトリエトキシシラン、2-メチルプロピルトリ-n-プロポキシシラン、2-メチルプロピルトリ-iso-プロポキシシラン、2-メチルプロピルトリ-n-ブトキシシラン、2-メチルプロピルトリ-sec-ブトキシシラン、2-メチルプロピルトリ-t-ブトキシシラン、2-メチルプロピルトリフェノキシシラン、1-メチルプロピルトリメトキシシラン、1-メチルプロピルトリエトキシシラン、1-メチルプロピルトリ-n-プロポキシシラン、1-メチルプロピルトリ-iso-プロポキシシラン、1-メチルプロピルトリ-n-ブトキシシラン、1-メチルプロピルトリ-sec-ブトキシシラン、1-メチルプロピルトリ-t-ブトキシシラン、1-メチルプロピルトリフェノキシシラン、t-ブチルトリメトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、t-ブチルトリ-n-プロポキシシラン、t-ブチルトリ-iso-プロポキシシラン、t-ブチルトリ-n-ブトキシシラン、t-ブチルトリ-sec-ブトキシシラン、t-ブチルトリ-t-ブトキシシラン、t-ブチルトリフェノキシシラン、t-ブチルトリクロロシラン、t-ブチルジクロロシラン等のアルキルトリアルコキシシラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ-n-プロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリ-n-ブトキシシラン、ビニルトリ-sec-ブトキシシラン、ビニルトリ-t-ブトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリ-n-プロポキシシラン、アリルトリイソプロポキシシラン、アリルトリ-n-ブトキシシラン、アリルトリ-sec-ブトキシシラン、アリルトリ-t-ブトキシシラン、アリルトリフェノキシシラン等のアルケニルトリアルコキシシラン類;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトラ-iso-プロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシラン、テトラ-sec-ブトキシシラン、テトラ-t-ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;テトラフェノキシシラン等のテトラアリールシラン類;オキセタニルトリメトキシシラン、オキシラニルトリメトキシシラン、オキシラニルメチルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シラン類;3-(トリメトキシシリル)プロピル無水コハク酸、2-(トリメトキシシリル)エチル無水コハク酸、3-(トリメトキシシリル)プロピル無水マレイン酸、2-(トリメトキシシリル)エチル無水グルタル酸等の酸無水物基含有シラン類;テトラクロロシラン等のテトラハロシラン類等が挙げられる。
【0165】
これらのうち、テトラメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、4-メチルフェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシランが好ましい。
【0166】
ポリシロキサンの合成には、上記一般式(A0)で表される加水分解性シラン化合物以外にも、例えばジシラン類、ポリカルボシラン類、トリメトキシシラン類等の他のシラン化合物を用いてもよい。
【0167】
上記一般式(A0)で表される加水分解性シラン化合物を含む化合物、及び必要に応じて用いる他のシラン化合物を、加水分解縮合する方法としては、公知の加水分解縮合の方法を用いることができる。
【0168】
本実施形態のケイ素含有樹脂組成物において、(A)成分としては、上述した一般式(A0)で表される加水分解性シラン化合物を含む化合物の加水分解縮合物以外の、ケイ素を含有する樹脂を単独で、又は前記加水分解縮合物と組み合わせて用いてもよい。
前記加水分解縮合物以外の、ケイ素を含有する樹脂としては、例えば、シルセスキオキサン樹脂が挙げられる。
【0169】
(A)成分としては、一般式(A0)で表される加水分解性シラン化合物を含む化合物の加水分解縮合物を用いることが好ましく、本発明の効果がより得られやすいことから、一般式:R”-Si(OR’)で表される加水分解性シラン化合物の縮合物を用いることがより好ましく、R”の一部又は全部がフェニル基である前記加水分解性シラン化合物の縮合物を含んでいることが特に好ましい。
【0170】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算基準)は、特に限定されるものではなく、例えば200以上であり、200~50000が好ましく、300~30000がより好ましい。
(A)成分のMwが、前記の好ましい範囲の上限値以下であることによって、有機溶剤に対する溶解性がより向上する。一方、前記の好ましい範囲の下限値以上であることによって、形成されるレジストパターンの支持体との密着性、エッチング選択性が高められやすい。
【0171】
本実施形態のケイ素含有樹脂組成物中、(A)成分の含有量は、形成しようとする塗布膜厚等に応じて調整すればよい。
ケイ素含有樹脂組成物中の(A)成分の割合は、当該ケイ素含有樹脂組成物の総質量に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.1~20質量%がより好ましく、0.5~15質量%がさらに好ましい。該割合が0.5質量%以上であると、支持体への塗布性や、形成されるレジストパターンの支持体との密着性、エッチング選択性がより高められる。
【0172】
≪シロキサン結合含有かご型化合物(C)≫
本実施形態におけるシロキサン結合含有かご型化合物((C)成分)は、多面体構造のシロキサンであり、各頂点に有機官能基を持つ物質である。
(C)成分としては、特に限定されず、いわゆる完全かご型化合物でもよいし、不完全かご型化合物でもよい。
【0173】
完全かご型化合物としては、例えば、下記の一般式(c1-1)で表される化合物、一般式(c1-2)で表される化合物が挙げられる。
不完全かご型化合物としては、例えば、下記の一般式(c2-1)で表される化合物、一般式(c2-2)で表される化合物が挙げられる。
【0174】
【化4】
【0175】
上記の一般式中のRは、有機基である。Rにおける有機基としては、ラクトン含有環式基、エステル結合を含む炭化水素基、エポキシ基含有基などの反応性基;アルキル基が挙げられる。
なお、上記一般式で表されるようなかご型化合物は、従来のケイ素含有化合物を製造する際に極微量生成されることが知られている。ケイ素含有樹脂のモノマーである化合物の反応性の違いや、縮合による生成物の安定性などの影響により、完全かご型化合物又は不完全かご型化合物になり得る。
【0176】
(C)成分の分子量は、特に限定されるものではなく、例えば200以上であり、250~2000が好ましく、300~1500がより好ましく、400~1000がさらに好ましい。
【0177】
本実施形態におけるケイ素含有樹脂組成物において、(C)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上で用いてもよい。
塗布膜の欠陥が相対的に発生しにくい観点からは、完全かご型化合物が好ましく、一般式(c1-1)で表される化合物、又は一般式(c1-2)で表される化合物がより好ましい。
一方、本発明の有用性の観点からは、(C)成分の中で、不完全かご型化合物が好ましく、一般式(c2-1)で表される化合物、又は一般式(c2-2)で表される化合物がより好ましい。
【0178】
本実施形態のケイ素含有樹脂組成物中、(C)成分の含有量は、(A)成分10質量部に対して、0質量部超え1質量部以下であることが好ましく、0.0001質量部以上0.5質量部以下がより好ましく、0.0005質量部以上0.5質量部以下がさらに好ましく、0.001質量部以上0.5質量部以下が特に好ましい。
本実施形態のケイ素含有樹脂組成物においては、(A)成分と共に、シロキサン結合含有かご型化合物((C)成分)を含有することで、塗布膜形成の際の欠陥の発生が抑制されやすくなる。そして、(C)成分の含有量が、前記の好ましい範囲内であると、本発明の効果が安定に得られやすくなる。
【0179】
≪有機溶剤成分(S)≫
本実施形態のケイ素含有樹脂組成物は、レジスト材料を有機溶剤成分(以下「(S)成分」という)に溶解させて製造することができる。
(S)成分としては、使用する各成分を溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよく、従来、化学増幅型レジスト組成物の溶剤として公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
(S)成分としては、例えば、水;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-ヘプタノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類または前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体[これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテルが好ましい];ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ペンチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。
本実施形態におけるケイ素含有樹脂組成物において、(S)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。例えば、(S)成分は、水と有機溶剤との混合溶剤でもよい。
【0180】
ケイ素含有樹脂組成物中の、(S)成分の含有量は、当該ケイ素含有樹脂組成物の全質量(100質量%)に対して、例えば70質量%以上であり、支持体への塗布性の点から、80質量%以上でもよいし、90質量%以上でもよい。
【0181】
≪その他成分≫
濾過対象物であるケイ素含有樹脂組成物は、上述した(A)成分、(C)成分及び(S)成分に加え、その他成分をさらに含有してもよい。その他成分には、従来、ケイ素含有樹脂を基材成分としたケイ素含有下層膜形成用組成物、に配合されている公知の成分を用いることができる。このようなその他成分としては、例えば、光酸発生剤、架橋剤、熱架橋促進剤、有機酸、エーテル化合物、界面活性剤等が挙げられる。
【0182】
光酸発生剤について:
ケイ素含有樹脂組成物は、さらに、露光により酸を発生する光酸発生剤を含有してもよい。このような光酸発生剤としては、ヨードニウム塩やスルホニウム塩などのオニウム塩系酸発生剤、オキシムスルホネート系酸発生剤;ビスアルキル又はビスアリールスルホニルジアゾメタン類、ポリ(ビススルホニル)ジアゾメタン類などのジアゾメタン系酸発生剤;ニトロベンジルスルホネート系酸発生剤、イミノスルホネート系酸発生剤、ジスルホン系酸発生剤など多種のものが挙げられる。光酸発生剤として、具体的には、特開2009-126940号公報の段落0160から段落0179に開示されている材料が挙げられる。
【0183】
架橋剤について:
ケイ素含有樹脂組成物は、さらに、架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては、メラミン系架橋剤、尿素系架橋剤、アルキレン尿素系架橋剤、グリコールウリル系架橋剤、フェノール系架橋剤、エポキシ系架橋剤が挙げられる。
なお、以下でいう「低級」とは、炭素原子数が1~5であるものを意味する。
【0184】
メラミン系架橋剤としては、メラミンとホルムアルデヒドとを反応させて、アミノ基の水素原子をヒドロキシメチル基で置換した化合物、メラミンとホルムアルデヒドと低級アルコールとを反応させて、アミノ基の水素原子を低級アルコキシメチル基で置換した化合物等が挙げられる。具体的には、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサプロポキシメチルメラミン、ヘキサブトキシブチルメラミン等が挙げられ、なかでもヘキサメトキシメチルメラミンが好ましい。
【0185】
尿素系架橋剤としては、尿素とホルムアルデヒドとを反応させて、アミノ基の水素原子をヒドロキシメチル基で置換した化合物、尿素とホルムアルデヒドと低級アルコールとを反応させて、アミノ基の水素原子を低級アルコキシメチル基で置換した化合物等が挙げられる。具体的には、ビスメトキシメチル尿素、ビスエトキシメチル尿素、ビスプロポキシメチル尿素、ビスブトキシメチル尿素等が挙げられ、なかでもビスメトキシメチル尿素が好ましい。
【0186】
アルキレン尿素系架橋剤は、アルキレン尿素とホルマリンとを縮合反応させることにより、また、この生成物を低級アルコールと反応させることにより得ることができる。
アルキレン尿素系架橋剤の具体例としては、例えば、モノ及び/又はジヒドロキシメチル化エチレン尿素、モノ及び/又はジメトキシメチル化エチレン尿素、モノ及び/又はジエトキシメチル化エチレン尿素、モノ及び/又はジプロポキシメチル化エチレン尿素、モノ及び/又はジブトキシメチル化エチレン尿素等のエチレン尿素系架橋剤;モノ及び/又はジヒドロキシメチル化プロピレン尿素、モノ及び/又はジメトキシメチル化プロピレン尿素、モノ及び/又はジエトキシメチル化プロピレン尿素、モノ及び/又はジプロポキシメチル化プロピレン尿素、モノ及び/又はジブトキシメチル化プロピレン尿素等のプロピレン尿素系架橋剤;1,3-ジ(メトキシメチル)4,5-ジヒドロキシ-2-イミダゾリジノン、1,3-ジ(メトキシメチル)-4,5-ジメトキシ-2-イミダゾリジノンなどを挙げられる。
【0187】
グリコールウリル系架橋剤としては、N位がヒドロキシアルキル基および炭素原子数1~4のアルコキシアルキル基の一方又は両方で置換されたグリコールウリル誘導体が挙げられる。かかるグリコールウリル誘導体は、グリコールウリルとホルマリンとを縮合反応させることにより、また、この生成物を低級アルコールと反応させることにより得ることができる。
グリコールウリル系架橋剤の具体例としては、例えばモノ,ジ,トリ及び/又はテトラヒドロキシメチル化グリコールウリル;モノ,ジ,トリ及び/又はテトラメトキシメチル化グリコールウリル;モノ,ジ,トリ及び/又はテトラエトキシメチル化グリコールウリル;モノ,ジ,トリ及び/又はテトラプロポキシメチル化グリコールウリル;モノ,ジ,トリ及び/又はテトラブトキシメチル化グリコールウリルなどが挙げられる。
【0188】
フェノール系架橋剤としては、同一分子内に、複数のフェノール核構造を有する化合物であれば特に限定されず、任意に選択して用いることができる。複数のフェノール核構造を有することにより、架橋反応性が向上する。
フェノール核構造の数は、好ましくは2~5つであり、より好ましくは2~4つであり、さらに好ましくは2つ又は3つである。
【0189】
エポキシ系架橋剤としては、エポキシ基を有するものであれば特に限定されず、任意に選択して用いることができる。その中でも、エポキシ基を2つ以上有するものが好ましい。エポキシ基を2つ以上有することにより、架橋反応性が向上する。
エポキシ基の数は、2つ以上であることが好ましく、より好ましくは2~4つであり、最も好ましくは2つである。
エポキシ系架橋剤として好適なものを以下に示す。
【0190】
【化5】
【0191】
熱架橋促進剤について:
ケイ素含有樹脂組成物は、さらに、熱架橋促進剤を含有してもよい。熱架橋促進剤として、具体的には、特開2007-302873号公報に開示されている材料が挙げられる。
【0192】
有機酸について:
ケイ素含有樹脂組成物は、組成物の安定性を向上させるため、さらに、有機酸を含有してもよい。このような有機酸としては、炭素原子数が1~30の1価又は2価以上の有機酸が挙げられ、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、トリフルオロ酢酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、シュウ酸、マロン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、プロピルマロン酸、ブチルマロン酸、ジメチルマロン酸、ジエチルマロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、クエン酸等を例示することができる。これらの中でも、シュウ酸、マレイン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸等が好ましい。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0193】
エーテル化合物について:
ケイ素含有樹脂組成物は、組成物の安定剤として、さらに、エーテル化合物を含有してもよい。このようなエーテル化合物としては、環状エーテルを置換基として有する1価又は2価以上のアルコールが挙げられ、具体的には、特開2009-126940号公報の段落0181から段落0184に開示されている材料が挙げられる。これらの中でも、クラウンエーテル誘導体、橋頭位が酸素原子であるビシクロ環を置換基として有する化合物が好適に挙げられる。
【0194】
界面活性剤について:
ケイ素含有樹脂組成物は、必要に応じて界面活性剤を含有してもよい。このような界面活性剤としては、非イオン性のものが好ましく、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール、フッ素化アルキルエステル、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、含フッ素オルガノシロキサン系化合物が挙げられる。具体的には、特開2009-126940号公報の段落0185に開示されている材料が挙げられる。
【0195】
濾過対象物であるケイ素含有樹脂組成物には、さらに所望により混和性のある添加剤、例えば、塗布膜の性能を改良するための付加的樹脂、溶解抑制剤、可塑剤、安定剤、着色剤、ハレーション防止剤、染料などを適宜、添加含有させることができる。
【0196】
以上説明した、本態様のケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法においては、上述の工程(i)で、濾過対象物(ケイ素含有樹脂組成物)が、隣接した球状セル同士が連通した多孔質構造を有し、且つポリイミド及びポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂骨格を含有する多孔質膜(ポリイミド多孔質膜等)を備えるフィルターにより濾過される。これによって、濾過対象物から、有機物、金属不純物などの異物がこれまで以上に除去される。かかる異物の除去効果が得られる理由は定かではないが、ポリイミド多孔質膜等を備えるフィルターにおける、吸着効果とふるい効果との二つの不純物除去機能を持つ効果、及びフィルター構造によるフィルターの表面と不純物との接触確率が高い効果、が組み合わさることにより奏する、と考えられる。
そのため、本態様の製造方法によれば、不純物がより低減され、かつ塗布膜形成の際の欠陥の発生が抑制されたケイ素含有樹脂組成物精製品を製造することができる。
【0197】
本態様におけるフィルターは、図1に示すような隣り合う球状セル1aと球状セル1bとが連通した連通孔5が形成された多孔質膜を備えたものに限定されず、球状セル1a、1bが連通した連通孔5に加えてこれ以外の形態のセル又は連通孔が形成された多孔質膜を備えるものでもよい。
これ以外の形態のセル(以下これを「他のセル」という。)としては、形状もしくは孔径が異なるセルが挙げられ、例えば楕円状セル、多面体状セル、孔径の異なる球状セル等が挙げられる。前記の「これ以外の形態の連通孔」としては、例えば、球状セルと他のセルとが連通した連通孔が挙げられる。
他のセルの形状又は孔径は、除去対象とされる不純物の種類に応じて適宜決定すればよい。球状セルと他のセルとが連通した連通孔は、上述の微粒子の材料を選択したり、微粒子の形状を制御したりすることによって形成できる。
隣接した球状セル同士が連通した連通孔に加えてこれ以外の形態のセル又は連通孔が形成された多孔質膜を備えたフィルターによれば、濾過対象物から、種々の異物をより効率的に除去できる。
【0198】
また、濾過工程で用いられる、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターは、半導体製造プロセスにおけるケイ素含有樹脂組成物の供給ライン又はPOU(point of use)で、これまで設置されていた微粒子状不純物除去のためのフィルターカートリッジ等に置き換えて、又はこれと組み合わせて用いることができる。このため、従来と全く同一の装置及び操作で、濾過対象物から、種々の異物を効率良く除去でき、高純度のケイ素含有樹脂組成物精製品を製造できる。
【0199】
(パターン形成方法)
本発明の第2の態様にかかるパターン形成方法は、下記の工程(x)と工程(y)とを含む。
工程(x):前記第1の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法により、ケイ素含有樹脂組成物精製品を得る工程
工程(y):支持体上に、前記ケイ素含有樹脂組成物精製品を用いてケイ素含有レジスト下層膜を形成し、前記ケイ素含有レジスト下層膜上に、上層レジスト膜組成物を用いて上層レジスト膜を形成し、前記上層レジスト膜に上層レジストパターンを形成し、該上層レジストパターンをマスクにして、前記ケイ素含有レジスト下層膜にエッチングでパターンを転写し、前記パターンが転写されたケイ素含有レジスト下層膜をマスクにして、前記支持体にエッチングでパターンを転写する工程
本態様のパターン形成方法は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0200】
工程(x)では、上述の<工程(i)>を行うことにより、ケイ素含有樹脂組成物精製品を得る。
【0201】
工程(y)について:
支持体には、半導体基板;半導体基板上に被加工層として金属膜、金属炭化膜、金属酸化膜、金属窒化膜、金属酸化炭化膜又は金属酸化窒化膜のいずれかが成膜されたもの等を用いることができる。
【0202】
半導体基板としては、シリコン基板が一般的に用いられるが、特に限定されず、Si、アモルファスシリコン(α-Si)、p-Si、SiO、SiN、SiON、W、TiN、Al等が用いられてもよい。
また、支持体を構成する金属としては、ケイ素、チタン、タングステン、ハフニウム、ジルコニウム、クロム、ゲルマニウム、銅、アルミニウム、インジウム、ガリウム、ヒ素、パラジウム、鉄、タンタル、イリジウム又はモリブデンのいずれか、あるいはこれらの合金を用いることができる。このような金属を含む被加工層としては、例えば、Si、SiO、SiN、SiON、SiOC、p-Si、α-Si、TiN、WSi、BPSG、SOG、Cr、CrO、CrON、MoSi、W、W-Si、Al、Cu、Al-Si及び種々の低誘電膜並びにそのエッチングストッパー膜が用いられ、通常、50~10000nm、特に100~5000nmの厚さに形成し得る。
【0203】
本態様のパターン形成方法では、支持体上に、有機下層膜、又は有機ハードマスクを形成することができる。このうち、有機下層膜は、有機下層膜形成用材料を用いて形成することができる。有機ハードマスクは、炭素を主成分とする有機ハードマスク形成用材料から、CVD法を用いて形成することができる。
このような有機下層膜及び有機ハードマスクとしては、特に限定されないが、上層レジスト膜が露光によりパターン形成を行う場合は、十分な反射防止膜機能を発現するものが好ましい。
【0204】
本態様のパターン形成方法において、ケイ素含有レジスト下層膜は、ケイ素含有樹脂組成物精製品から、スピンコート法等で支持体上に作製することが可能である。
スピンコート法で形成する場合、スピンコート後、溶剤を蒸発させ、上層レジスト膜とのミキシング防止を目的として、架橋反応を促進させるためにベークをすることが好ましい。ベーク温度は50~500℃の範囲内が好ましく、ベーク時間は10~300秒の
範囲内が好ましい。
【0205】
また、本態様のパターン形成方法では、上層レジスト膜にパターンを形成する方法として、波長が300nm以下の光、又はEUV光を用いたリソグラフィー法;電子線直接描画法、誘導自己組織化法(DSA法)、ナノインプリンティングリソグラフィー法のいずれかの方法を好適に用いることができる。
【0206】
上層レジスト膜組成物としては、上層レジスト膜にパターンを形成する方法に応じて適宜選択することができる。例えば、300nm以下の光又はEUV光を用いたリソグラフィーを行う場合、上層レジスト膜組成物としては、化学増幅型のフォトレジスト膜材料を用いることができる。このようなフォトレジスト膜材料としては、フォトレジスト膜を形成して露光を行った後、アルカリ現像液を用いて露光部を溶解除去することによりポジ型パターンを形成するものや、有機溶剤を含有する現像液を用いて未露光部を溶解除去することによりネガ型パターンを形成するものを例示できる。
【0207】
上述した本態様のパターン形成方法によれば、前記第1の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法により得たケイ素含有樹脂組成物精製品が用いられているため、支持体への塗布膜形成の際の欠陥数が低減されて、パターン転写の欠陥の発生を抑制することができる。これにより、被加工体を無欠陥、高精度で加工することができ、歩留まりを向上させることができる。
【0208】
また、上述した本態様のパターン形成方法によれば、前記第1の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法により得たケイ素含有樹脂組成物精製品が用いられているため、工程(y)において、塗布欠陥が少なく、パターン密着性やエッチング選択性に優れたケイ素含有レジスト下層膜を形成することができる。
【0209】
(ケイ素含有樹脂組成物精製品)
本発明の第3の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品は、主鎖がシロキサン結合からなるケイ素含有樹脂(A)と、前記ケイ素含有樹脂(A)以外のシロキサン結合含有かご型化合物(C)と、有機溶剤成分(S)とを含有する。
該ケイ素含有樹脂組成物精製品は、光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.135μm以上のサイズの被計数体の数が、0.2個/mL未満であることを特徴とする。
光散乱式液中粒子計数器としては、例えば、リオン株式会社製のKS-41等を用いることができる。
【0210】
本態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品は、上述した第1の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法により得ることができる。前記第1の態様にかかる製造方法により得たケイ素含有樹脂組成物精製品は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターを通過して濾過が施されていることで、異物が除去されたものである。したがって、本態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品では、光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.135μm以上のサイズの被計数体の数が、0.2個/mL未満となり、異物の数が非常に少ないケイ素含有樹脂組成物精製品を実現できる。
本態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品において、光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.135μm以上のサイズの被計数体の数は、0.15個/mL以下が好ましく、0.1個/mL以下がより好ましい。
本態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品は、このように異物の数が非常に少ないことにより、塗布膜形成の際の欠陥の発生が抑制される。
かかるケイ素含有樹脂組成物精製品は、パターン形成において、塗布欠陥が少なく、パターン密着性やエッチング選択性に優れたケイ素含有レジスト下層膜を形成することができ、下層膜形成用の材料として有用である。
【0211】
本態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品は、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Au、及びPbからなる群より選択される金属成分の含有量が1.1ppb未満であることが好ましく、1ppb以下であることが好ましく、0.9ppb以下であることがより好ましく、0.85ppb以下であることがさらに好ましい。
【0212】
本態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品は、上述した第1の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法により得ることができる。前記第1の態様にかかる製造方法により得たケイ素含有樹脂組成物精製品は、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターを通過して濾過が施されていることで、金属不純物が除去されたものである。したがって、本態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品では、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Au、及びPbからなる群より選択される金属成分の含有量が1.1ppb未満となり、金属不純物が非常に少ないケイ素含有樹脂組成物精製品を実現できる。
【0213】
ケイ素含有樹脂組成物に配合される種々の成分には、微量の金属イオン不純物等の金属成分が含まれる。この金属成分は、配合成分中に元来含まれていることもあるが、製造装置等の配管、継ぎ手などの薬液移送経路から混入することもある。上記第1の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法では、これらの金属成分を効果的に除去することができる。
本態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品において、金属成分の含有量は、1ppb以下であることが好ましく、0.9ppb以下であることがより好ましく、0.85ppb以下であることがさらに好ましい。
本態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品は、このように金属成分の含有量が非常に少ないことにより、塗布膜形成の際の欠陥の発生が抑制される。
【0214】
前記金属成分の含有量は、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Au、及びPbの合計の含有量である。ケイ素含有樹脂組成物精製品における前記金属成分の含有量は、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS 8900、アジレント社製)を用いて測定することができる。
【0215】
好ましい態様において、ケイ素含有樹脂組成物精製品は、光散乱式液中粒子計数器によって計数される、0.135μm以上のサイズ の被計数体の数が、0.2個/mL未満であり、且つLi、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sn、Ba、W、Au、及びPbからなる群より選択される金属成分の含有量が1.1ppb未満である。
【0216】
第3の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品は、上述の第1の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品の製造方法で用いるケイ素含有樹脂組成物と、同様の組成を有することが好ましい。
【0217】
第3の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品は、一例として、以下の工程(a)~(c)を有する製造方法によって製造できる。
工程(a):ケイ素含有樹脂((A)成分)が有機溶剤成分(S)に溶解した樹脂溶液を、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターにより濾過して、ケイ素含有樹脂溶液精製品を得る工程
工程(b):該ケイ素含有樹脂溶液精製品と、上述したその他成分と、を混合してケイ素含有樹脂組成物を得る工程
工程(c):該ケイ素含有樹脂組成物を、ポリイミド系樹脂多孔質膜を備えるフィルターにより濾過する工程
【0218】
(パターン形成方法)
本発明の第4の態様にかかるパターン形成方法は、支持体上に、前記第3の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品を用いてケイ素含有レジスト下層膜を形成し、前記ケイ素含有レジスト下層膜上に、上層レジスト膜組成物を用いて上層レジスト膜を形成し、前記上層レジスト膜に上層レジストパターンを形成し、該上層レジストパターンをマスクにして、前記ケイ素含有レジスト下層膜にエッチングでパターンを転写し、前記パターンが転写されたケイ素含有レジスト下層膜をマスクにして、前記支持体にエッチングでパターンを転写する、パターン形成方法である。
本態様にかかるパターン形成方法は、上述の第2の態様にかかるパターン形成方法と同様に行うことができる。本態様にかかるパターン形成方法によれば、前記第3の態様にかかるケイ素含有樹脂組成物精製品が用いられているため、塗布欠陥が少なく、パターン密着性やエッチング選択性に優れたケイ素含有レジスト下層膜を形成することができる。
【実施例0219】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0220】
<ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造>
(実施例1~2、比較例1~4)
表1に示す各成分を混合して均一化することにより、濾過対象物であるケイ素含有樹脂組成物(1)~(3)をそれぞれ調製した。
次いで、ケイ素含有樹脂組成物(1)~(3)を、各フィルターで濾過してケイ素含有樹脂組成物精製品を得た。濾過条件は、いずれの例においても、濾過圧0.01MPa、濾過温度23℃とした。
【0221】
【表1】
【0222】
表1中、各略号はそれぞれ以下の意味を有する。[ ]内の数値は、各成分の配合量(質量部;固形分換算)である。
(A)-1:R”-Si(OR’)の縮合物、すなわち、フェニルトリメトキシシラン(R”=Phenyl、R’=Me)とテトラメトキシシラン(R”=MeO、R’=Me)との縮合物
(C)-1:下記化学式(c2-11)で表されるシロキサン結合含有かご型化合物
(S)-1:プロピレングリコールモノエチルエーテル/水=90/10(質量比)の混合溶剤
【0223】
【化6】
【0224】
≪使用したフィルター≫
各例の、ケイ素含有樹脂組成物精製品の製造で使用したフィルターを表2に示す。
フィルター(F-01)における多孔質膜は、特開2017-68262号公報に記載の製法に準じて作製したものを使用した。
なお、フィルター(F-01)について、多孔質膜における連通孔の平均孔径を、パームポロメーター(PMI社製)を用いて、ハーフドライ法(ASTM E1294-89)に従い、試液としてパーフルオロポリエステル(商品名Galwick、界面張力値:15.9dyne/cm)を用い、測定温度25℃、測定圧力0~400psiの範囲で測定し、表2に示した。
【0225】
【表2】
【0226】
(実施例1)
濾過対象物であるケイ素含有樹脂組成物(1)を、フィルター(F-01)で濾過してケイ素含有樹脂組成物精製品を得た。
【0227】
(実施例2)
濾過対象物であるケイ素含有樹脂組成物(2)を、フィルター(F-01)で濾過してケイ素含有樹脂組成物精製品を得た。
【0228】
(比較例1)
濾過対象物であるケイ素含有樹脂組成物(3)を、フィルター(F-01)で濾過してケイ素含有樹脂組成物精製品を得た。
【0229】
(比較例2)
濾過対象物であるケイ素含有樹脂組成物(1)を、フィルター(F-10)で濾過してケイ素含有樹脂組成物精製品を得た。
【0230】
(比較例3)
濾過対象物であるケイ素含有樹脂組成物(2)を、フィルター(F-10)で濾過してケイ素含有樹脂組成物精製品を得た。
【0231】
(比較例4)
濾過対象物であるケイ素含有樹脂組成物(3)を、フィルター(F-10)で濾過してケイ素含有樹脂組成物精製品を得た。
【0232】
[パーティクル量の評価]
各例で製造されたケイ素含有樹脂組成物精製品について、動的光散乱法に基づいて、光散乱式液中粒子計数器[リオン株式会社製、型番:KS-41、光源:半導体レーザ励起固体レーザ(波長830nm、定格出力0.2W)、流量:10mL/分]を用いて、0.135μm以上のサイズの被計数体の計数を行った。計数は3回行い、その平均値を計測値とした。
なお、上記光散乱式液中粒子計数器は、PSL(Polystyrene Latex)標準粒子液で校正を行った後に用いた。この結果を「パーティクル量(個/mL)」として表3に示す。
【0233】
[コーティングディフェクトの評価]
シリコンウェーハ上に、各例で製造されたケイ素含有樹脂組成物精製品をそれぞれ、スピンナーを用いて1500rpmで回転塗布し、ホットプレート上で、温度240℃で60秒間の加熱処理を行うことにより、膜厚35nmの塗布膜を作製した。
この塗布膜の表面欠陥(塗布欠陥)を、KLA-Tencor社製パターンなしウェハ欠陥検査装置Surfscan SP5を用いて、大きさ50nm以上の塗布欠陥数を測定した。この結果を「コーティングディフェクト(個/679cm)」として表3に示した。
【0234】
【表3】
【0235】
表3に示す結果から、実施例で得られたケイ素含有樹脂組成物精製品は、比較例で得られたケイ素含有樹脂組成物精製品と比較して、パーティクル量およびコーティングディフェクト(欠陥数)がいずれも低減されていること、が確認された。
【0236】
実施例1と実施例2との対比から、実施例2で得られたケイ素含有樹脂組成物精製品の方が、実施例1で得られたケイ素含有樹脂組成物精製品に比べて、コーティングディフェクト(欠陥数)が少ない結果であった。
【符号の説明】
【0237】
1a 球状セル、1b 球状セル、5 連通孔
図1