(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131946
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】飛来昆虫の除去方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
A01M 29/22 20110101AFI20240920BHJP
A01M 1/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A01M29/22
A01M1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042526
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】523046349
【氏名又は名称】有限会社アスウェル
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 孝博
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貫生
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121BA09
2B121DA34
2B121DA49
2B121EA21
2B121FA15
(57)【要約】
【課題】屋外に面し照明に照らされている板状体の表面に止まった飛来昆虫を、安全かつ効果的に除去する方法を提供する。
【解決手段】屋外に面する板状体の表面に止まった飛来昆虫を除去する方法であって;前記板状体が地面に対して垂直方向に設置されており、前記板状体が照明で照らされていて該照明によって前記飛来昆虫が誘引されており、前記板状体を周波数10~200Hz、振幅0.2~5mmで面方向に振動させることによって、前記飛来昆虫を下に落として除去する、飛来昆虫の除去方法とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外に面する板状体の表面に止まった飛来昆虫を除去する方法であって;
前記板状体が地面に対して垂直方向に設置されており、
前記板状体が照明で照らされていて該照明によって前記飛来昆虫が誘引されており、
前記板状体を周波数10~200Hz、振幅0.2~5mmで面方向に振動させることによって、前記飛来昆虫を下に落として除去する、飛来昆虫の除去方法。
【請求項2】
前記板状体が、屋外に面する窓もしくはドアのサッシに保持された透光板、又は照明を備えた看板装置の情報表示板もしくは透明カバーのいずれかである、請求項1に記載の飛来昆虫の除去方法。
【請求項3】
前記振動により前記板状体に生じる最大加速度が20~150m/s2である、請求項1又は2に記載の飛来昆虫の除去方法。
【請求項4】
前記板状体の下に回収装置を配置して、振動により下に落とされた前記飛来昆虫を回収する、請求項1又は2に記載の飛来昆虫の除去方法。
【請求項5】
透光板がサッシに保持された窓であって;
該窓を開ける直前に、前記透光板が周波数10~200Hz、振幅0.2~5mmで面方向に振動することによって、透光板の屋外側に止まっている飛来昆虫を除去し、該飛来昆虫が屋内に侵入するのを防止する窓。
【請求項6】
前記振動により前記透光板に生じる最大加速度が20~120m/s2である、請求項1に記載の窓。
【請求項7】
前記透光板の上下方向の動きを規制して、前記透光板の側縁に配置した振動発生装置によって、該透光板を水平方向に振動させる、請求項5又は6に記載の窓。
【請求項8】
前記透光板の屋外側の下方に、透光板から落下する飛来昆虫を回収する回収容器を設けた、請求項5又は6に記載の窓。
【請求項9】
前記回収容器が、上側に開口部を有する容器であり、その底部に粘着シートを配置したものである、請求項8に記載の窓。
【請求項10】
情報表示板及びそれを照らす照明を備え、任意に前記情報表示板を覆う透明カバーを備えた看板装置であって;
屋外に面する情報表示板又は透明カバーのいずれかが、周波数10~200Hz、振幅0.2~5mmで面方向に振動することによって、前記情報表示板又は透明カバーに止まっている飛来昆虫を除去する看板装置。
【請求項11】
前記振動により前記情報表示板又は透明カバーに生じる最大加速度が20~120m/s2である、請求項10に記載の看板装置。
【請求項12】
請求項5又は6に記載の窓を介して物品を手渡すドライブスルーシステム。
【請求項13】
顧客の自動車を感知するセンサーによって前記振動を開始する、請求項12に記載のドライブスルーシステム。
【請求項14】
前記窓への従業員の接近を感知するセンサーによって前記振動を停止する、請求項12に記載のドライブスルーシステム。
【請求項15】
情報表示板及びそれを照らす照明を備え、任意に前記情報表示板を覆う透明カバーを備えた看板装置をさらに備え、
該看板装置において、屋外に面する情報表示板又は透明カバーのいずれかが、周波数10~200Hz、振幅0.2~5mmで面方向に振動することによって、前記情報表示板又は透明カバーに止まっている飛来昆虫を除去する、請求項12に記載のドライブスルーシステム。
【請求項16】
顧客の自動車がドライブスルーレーンに進入したことを感知する第1のセンサーによって前記看板装置の振動を開始させ、その後該自動車が前記看板装置近傍に到達したことを感知する第2のセンサーによって前記看板装置の振動を停止させる、請求項15に記載のドライブスルーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外に面する板状体の表面に止まった飛来昆虫を除去する方法に関する。また、飛来昆虫が屋内に侵入するのを防止する窓に関する。また、止まっている飛来昆虫を除去する看板装置に関する。さらに、前記窓を介して物品を手渡すドライブスルーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年飲食店などで広く採用されているドライブスルー方式においては、商品の受け渡しのために店舗の窓を開けることが必要であるが、この時に飛来昆虫が店舗内に入ってしまう。特に夜間は、店舗内の明かりをめざして羽を持つ昆虫が飛来してくるので問題であった。また、照明に照らされたメニュー板、屋外看板、ショーウィンドウなどに飛来昆虫が止まった場合には、それを見る者を不快にさせてしまう。飛来昆虫が忌避する薬剤を用いることもできるが、安全衛生上や環境保全上の理由から好ましくない場合があった。また、薬剤の効力が長続きしない、あるいは窓を清掃すると薬剤が落ちて効力が消失するといった問題も生じていた。
【0003】
このような問題に対処するものとして、特許文献1には、ドライブスルーにおける受け渡し部の構造が記載されている。それによれば、壁に設けられた開閉自在な受け渡し窓の外側にエア噴出機を設置し、窓の開閉を検出してエア噴出機を作動させることによって、窓が開いている間はエアカーテンを形成して、外部から虫が侵入するのを防ぐことが記載されている。しかしながら、窓を開ける前から窓ガラスの屋外側に付着していた虫はエアカーテンの内側に位置しており、エアカーテンの気流や窓ガラスの振動によって飛び立って、室内に入り込むことが避けられない。
【0004】
害虫対策において振動を利用する方法については、これまでにいくつかの提案がなされている。例えば、特許文献2には、害虫の特定の行動を誘発または抑制する周波数及び振幅の振動を、当該害虫の生息媒体(植物体、構造物など)に加えて、当該害虫の行動を制御して害虫を防除する方法が記載されている。その実施例では、樹木(鉢植え、小枝など)や木材(丸太、角材、板材)に所定の周波数及び振幅の振動を加えて、カミキリムシやシロアリを防除した例が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、振動動作を行う振動発生装置と、当該振動発生装置と接続された防虫網とを備える微小生物侵入抑制装置が記載されている。これにより、ガラスハウスやビニールハウスなどの農業施設や園芸施設などにおいて、換気をしつつ、農業害虫を含む微小生物の侵入を抑制することができるとされている。その実施例では、防虫網に所定の周波数及び振幅の振動を加えて、コナジラミの侵入を抑制した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-283336号公報
【特許文献2】WO 2011/030783 A1
【特許文献3】特開2018-93830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、振動を利用して害虫を除去する様々な方法が提案されているが、照明に照らされた窓や看板の表面に止まった飛来昆虫を振動によって除去する方策は、これまで提案されてこなかった。閉じた窓や看板などは害虫を通過させないので、そもそも害虫を除去するニーズが少なかったためとも考えられる。しかしながら、窓の開閉時の害虫の侵入や、外観上の問題から害虫を除去したいというニーズはあり、これに対して振動を用いて効果的に応える方策がこれまで提案されてこなかった。
【0008】
本発明は、そのようなニーズに応えるものであり、屋外に面し照明に照らされている板状体の表面に止まった飛来昆虫を、安全かつ効果的に除去する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、屋外に面する板状体の表面に止まった飛来昆虫を除去する方法であって;
前記板状体が地面に対して垂直方向に設置されており、
前記板状体が照明で照らされていて該照明によって前記飛来昆虫が誘引されており、
前記板状体を周波数10~200Hz、振幅0.2~5mmで面方向に振動させることによって、前記飛来昆虫を下に落として除去する、飛来昆虫の除去方法を提供することによって解決される。
【0010】
このとき、前記板状体が、屋外に面する窓もしくはドアのサッシに保持された透光板、又は照明を備えた看板装置の情報表示板もしくは透明カバーのいずれかであることが好適な実施態様である。また、前記振動により前記板状体に生じる最大加速度が20~150m/s2であることも好ましい。さらにこのとき、前記板状体の下に回収装置を配置して、振動により下に落とされた前記飛来昆虫を回収することも好ましい。
【0011】
また上記課題は、透光板がサッシに保持された窓であって;
該窓を開ける直前に、前記透光板が周波数10~200Hz、振幅0.2~5mmで面方向に振動することによって、透光板の屋外側に止まっている飛来昆虫を除去し、該飛来昆虫が屋内に侵入するのを防止する窓を提供することによっても解決される。
【0012】
このとき、前記振動により前記透光板に生じる最大加速度が20~120m/s2であることが好ましい。また、前記透光板の上下方向の動きを規制して、前記透光板の側縁に配置した振動発生装置によって、該透光板を水平方向に振動させることも好ましい。さらに、前記透光板の屋外側の下方に、透光板から落下する飛来昆虫を回収する回収容器を設けることも好ましく、その回収容器が、上側に開口部を有する容器であり、その底部に粘着シートを配置したものであることがより好ましい。
【0013】
また上記課題は、情報表示板及びそれを照らす照明を備え、任意に前記情報表示板を覆う透明カバーを備えた看板装置であって;
屋外に面する情報表示板又は透明カバーのいずれかが、周波数10~200Hz、振幅0.2~5mmで面方向に振動することによって、前記情報表示板又は透明カバーに止まっている飛来昆虫を除去する看板装置を提供することによっても解決される。このとき、前記振動により前記情報表示板又は透明カバーに生じる最大加速度が20~120m/s2であることが好ましい。
【0014】
本発明の好適な実施態様は、前記窓を介して物品を手渡すドライブスルーシステムである。このとき、顧客の自動車を感知するセンサーによって前記振動を開始することが好ましい。また、前記窓への従業員の接近を感知するセンサーによって前記振動を停止することも好ましい。
【0015】
前記ドライブスルーシステムにおいて、
情報表示板及びそれを照らす照明を備え、任意に前記情報表示板を覆う透明カバーを備えた看板装置をさらに備え、
該看板装置において、屋外に面する情報表示板又は透明カバーのいずれかが、周波数10~200Hz、振幅0.2~5mmで面方向に振動することによって、前記情報表示板又は透明カバーに止まっている飛来昆虫を除去することが好ましい。
【0016】
このとき、顧客の自動車がドライブスルーレーンに進入したことを感知する第1のセンサーによって前記看板装置の振動を開始させ、その後該自動車が前記看板装置近傍に到達したことを感知する第2のセンサーによって前記看板装置の振動を停止させることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の飛来昆虫の除去方法によれば、屋外に面し照明に照らされている板状体の表面に止まった飛来昆虫を、安全かつ効果的に除去することができる。本発明の窓は、屋外側に止まっている飛来昆虫を除去し、当該飛来昆虫が屋内に侵入するのを安全かつ効果的に防止することができる。本発明の看板装置は、屋外に面する情報表示板又は透明カバーに止まっている飛来昆虫を安全かつ効果的に除去することができる。また、本発明のドライブスルーシステムによれば、窓を介して物品を手渡す際に、飛来昆虫が屋内に侵入するのを安全かつ効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】
図1のA-A’断面を上から観察した概略断面図である。
【
図4】
図1のB-B’断面を右から観察した概略断面図である。
【
図6】ドライブスルー方式における本発明の応用システムを示した図である。
【
図8】実施例において、周波数と飛来昆虫除去率の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、屋外に面する板状体の表面に止まった飛来昆虫を、振動の作用によって除去する方法に関する。飛来昆虫は、羽を有していて飛ぶことのできる昆虫であり、照明などに誘引されて飛んできて、当該板状体の表面に止まる。これまで、飛来昆虫に振動を加えた場合、飛べるのであるから板状体の表面から飛び去るだろうと考えられていた。そのため、一度除去したところで、再び照明に誘引されて板状体に止まってしまうだろうと考えられていた。しかしながら本願の発明者は、後に記載する実施例で説明されているように、地面に対して垂直方向に設置された板状体に特定の振動を加えることによって、その表面に止まった飛来昆虫を当該板状体から下に落として除去できることを見出した。振動を加えられた板状体の表面の飛来昆虫の大半は、直ちに飛び立つのではなく、板状体の表面にしがみつき、我慢ができなくなったところで下に落ちてしまうのである。ハエ、蚊、蛾のように、止まっているところに近づくと速やかに飛んで逃げてしまうような昆虫であっても、振動を加えられた場合には飛ぶのではなくしがみつき、最終的には下に落ちてしまう。このように振動のある状況下においては、昆虫が飛び立つ前に体勢を整えたり飛翔の準備をしたりすることが容易にできないものと考えられる。これにより、板状体を振動させることが単なる一時しのぎではなく、効果的な昆虫除去方法になり得ることが見出された。以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
本発明によって除去される飛来昆虫は、羽を有していて飛ぶことのできる昆虫であればよく、特に限定されない。このような昆虫の多くは光のある方向に近づこうとする走光性を有していて、照明によって誘引されるので、夜間の窓や看板への付着が問題になりやすい。飛来昆虫としては、蚊、ハエ、蛾、羽蟻などが例示される。近年では、照明のLED化が進み、紫外線領域の波長の光が照明装置から発せられることは少なくなってきているが、多くの昆虫は、紫外線ほどではないものの可視光に対する走光性を有している。
【0021】
本発明の除去方法において、除去の対象となる飛来昆虫が止まるのは、屋外に面する板状体の表面である。このような板状体は、窓、ドア、看板装置などに装着されていて、それを振動させることによって飛来昆虫を下に落とすことができる。板状体の材料は特に限定されず、ガラスや樹脂などを用いることができる。ガラスは、硬度や耐久性に優れているが、比重が大きいので、広い面積の場合などには振動させにくい場合がある。一方、アクリル樹脂やポリカーボネートなどの樹脂は、ガラスに比べて軽量であるけれども硬度や耐久性が低下する。寸法や用途、要求性能などを考慮して選択される。窓やバックライト方式の看板などの場合、板状体が透光性を有することが好ましく、透明であることがより好ましい。板状体の厚さは特に限定されないが、通常0.5~20mmである。板状体が薄すぎる場合には、面方向に振動させることが困難になる。板状体の厚さは、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましい。一方、板状体の厚さが厚すぎる場合には、それを振動させるために大掛かりな振動発生装置が必要になり、好ましくない場合がある。板状体の厚さは、10mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましい。板状体の面積も特に限定されないが、面積が広すぎると、それを振動させるために大掛かりな振動発生装置が必要になってしまう。板状体の面積は、通常0.01~10m2である。
【0022】
板状体は、地面に対して垂直方向に設置されている。これにより、振動を加えられた板状体の表面に止まった飛来昆虫を、板状体の真下近傍の比較的狭い範囲に落とすことができ、昆虫の回収が容易となる。なおここで、地面に対して垂直方向というのは大体垂直ということであり、例えば垂直からプラスマイナス20°程度、より好適にはプラスマイナス10°程度の傾きは許容される。
【0023】
本発明では、板状体を面方向に振動させる。すなわち、板状体の表面と振動方向が平行になるようにする。これにより、板状体が面と垂直方向に振動する成分がないので、騒音の発生を抑制できるし、サッシ等への装着も容易である。
【0024】
本発明の板状体の好適な実施態様の一つは、屋外に面する窓もしくはドアのサッシに保持された透光板である。窓やドアに装着される透光板を通って建物の中の照明が漏れるために、昆虫が集まって止まりやすく、本発明の除去方法を採用する意義が大きい。当該透光板は、光を通しさえすればよいが、好適には透明板である。また、本発明の板状体の他の好適な実施態様は、照明を備えた看板装置における情報表示板もしくは透明カバーである。このときの照明はフロントライトであってもバックライトであっても構わない。情報表示板が屋外に面しているのであれば、情報表示板を振動させればよいし、それを透明カバーが覆っているのであれば当該透明カバーを振動させればよい。
【0025】
板状体を振動させる際の周波数は10~200Hzである。周波数が低すぎる場合には、飛来昆虫を落としにくくなる。周波数は、好適には20Hz以上であり、より好適には30Hz以上である。一方、周波数が高すぎる場合には、振動装置が大掛かりになるし、板状体を支える枠が振動を吸収しにくくなる。周波数は、好適には100Hz以下であり、より好適には60Hz以下である。
【0026】
板状体を振動させる際の振幅は0.2~5mmである。振幅が短すぎる場合には、飛来昆虫を落としにくくなる。振幅は、好適には0.5mm以上であり、より好適には1mm以上であり、さらに好適には1.5mm以上である。一方、振幅が長すぎる場合には、板状体を支える枠が振動を吸収しにくくなる。振幅は、好適には4mm以下であり、より好適には3mm以下であり、さらに好適には2.5mm以下である。
【0027】
板状体を振動させる際の最大加速度は20~150m/s2であることが好ましい。最大加速度が小さすぎる場合には、飛来昆虫を落としにくくなる。最大加速度は、より好適には25m/s2以上であり、より好適には30m/s2以上である。一方、最大加速度が大きすぎる場合には、板状体を支える枠が振動を吸収しにくくなるし、エネルギー消費も大きくなる。最大加速度は、好適には120m/s2以下であり、より好適には100m/s2以下である。なお、ここでの最大加速度は、振動運動をしている板状体において、1周期ごとに生じる最大加速度の平均値のことをいう。
【0028】
前述のように、本発明の除去方法によれば、板状体に上記振動を加えることによって、その表面に止まった飛来昆虫を下に落とすことができる。したがって、当該板状体の下に回収装置を配置して、振動により下に落とされた前記飛来昆虫を効率的に回収することができる。
【0029】
本発明の具体的な実施態様を、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の窓1の例の正面図である。また、
図1の内部構造の模式図を
図2に示す。さらに、
図1のA-A’断面を上から観察した概略断面図を
図3として、
図1のB-B’断面を右から観察した概略断面図を
図4として、それぞれ示す。
図3の上側、
図4の左側が、それぞれ屋外である。以下、この窓1を例として本発明を説明するが、その説明は窓に限定されるものではなく、看板その他の用途においても適用されるものである。
【0030】
図1の窓1は引き違い窓であり、ドライブスルーでの商品の手渡しが行われることを想定しているものである。サッシ枠2の中に2枚のサッシ3a、3bがはめ込まれていて、主にサッシ3aを開閉して商品が引き渡される。サッシ3a、3bのガラス板4a、4bの周囲は、それぞれ被覆ゴム5a、5bで覆われていて、ガラス板4a、4bの振動を吸収して密閉を保つことができる。ガラス板4bに隣接して加振ユニット6bが設けられていて、ガラス板4bに振動を加える。またガラス板4bの裏側にはガラス板4aに隣接して加振ユニット(図示せず)が設けられている。また、サッシ3a、3bの下方に、振動により下に落とされた飛来昆虫を回収する回収装置7a、7bが設けられている。
【0031】
図1の窓のサッシ3bの被覆ゴム5bを取り払って、振動発生のための内部構造を説明したのが
図2である。サッシ3bの上下辺の内周にガイドレール8bが設けられるとともに、ガラス板4bの上下辺の外周にガイドレール9bが設けられて、ガイドレール8bとガイドレール9bの間に複数の車輪10bが配置されている。また、シャフト11bを介してガラス板4bの側縁と偏心モータ12bが接続されている。偏心モータ12bはコントローラユニット13bに接続されていて、コントローラユニット13b内には、モータコントローラとAC/DCコンバータが内蔵されている。また、シャフト11b、偏心モータ12b、コントローラユニット13bは加振ユニット6b内に収容されている。そして、コントローラユニット13bは、店内のAC100V電源14bに接続されている。
【0032】
偏心モータ12bの回転にしたがってガラス板4bが面方向かつ水平方向に振動する。偏心モータ12bの偏心量にしたがってガラス板4bの振動の振幅が定まり、偏心モータ12bの回転数にしたがってガラス板4bの振動の周波数が定まる。ガラス板4bを振動させる振動発生装置は、本発明で特定する周波数及び振幅を実現できるものであれば特に限定されず、偏心モータ12以外にも、リニアモータ、ピエゾアクチュエータ、超音波モータなどを採用することもできる。
【0033】
偏心モータ12bからの加振によって水平方向に振動するガラス板4bの上下辺の外周にはガイドレール9bが固定され、サッシ3bの上下辺の内周にはガイドレール8bが固定されている。ガイドレール8b,9bに設けられた溝に入り込む形で、ベアリングが内蔵された複数の車輪10bが配置されて、ガラス板4bの上下方向の動きを規制しながら水平方向に移動できる。ガラス板4bの振動は、緩衝材15bで吸収される。緩衝材15bの材料は、振動を吸収できて隙間を生じないものであればよく、スポンジやエラストマーなどを用いることができる。
【0034】
図1のA-A’断面を上から観察した概略断面図が
図3であり、
図3中の上側が屋外側であり、下側が店内側である。商品の手渡しのために用いられるサッシ3aのみが開閉され、サッシ3bは常時閉じている。シャフト11a,11bを介して、偏心モータ12a,12bとガラス板4a,4bが連結されている。ガラス板4a,4bの固定方法としては、金属製の治具で挟み込んで固定してもよいし、接着剤を用いて接着してもよい。加振ユニット6aとAC100V電源(図示せず)とは、サッシ3aが閉じたときに電気的に接続される。
【0035】
また、
図1のB-B’断面を右から観察した概略断面図が
図4であり、
図4中の左側が屋外側であり、右側が店内側である。屋外側のサッシ枠2の外側に振動により下に落とされた飛来昆虫を回収する回収容器7aが固定されている。回収容器7aの上側に開口部16aがあり、ここから回収容器7a内に落下昆虫が入り、回収容器7aの底に敷かれた粘着シート17aによって捕捉される。回収容器7aの両端には、外向きの気流を起こすファン18aが配置され、開口部16aから回収容器7a内への気流を形成し、落下した昆虫が効率よく回収容器7a内に吸い込まれるようにしている。ファン18aを装備する場合には、開口部16aを通過する気流の速度を上げるために、開口部16aの幅を小さくすることが好ましい。一方、ファン18aを装備しない場合には、回収容器7aの上面全体を開口部16aとすることが好ましい。捕捉効率を上昇させるために、粘着シートに多数の孔を開けて、粘着シートの裏側の空間から排気して、粘着シートを通過する気流を形成してもよい。
【0036】
本発明の他の実施態様として好適なものは、看板装置であり、
図5にその一例を示す。
図5は看板装置20の水平断面図を示す。外枠21の中に、後ろから順に、バックライト22、情報表示板23、透明カバー24が配置されていて、情報が印刷された半透明の情報表示板23の後ろからバックライト22で照らすことによって、夜間でも情報を視認することができる。屋外に面する前面が透明カバー24で覆われていて、この表面に飛来昆虫が止まる。バックライト22と情報表示板23は、静止した内枠25で固定されている。外枠21の内側に加振ユニット6が配置され、加振ユニット6内の偏心モータ(図示せず)と透明カバー24とが、シャフト11を介して連結されている。偏心モータが回転することにより、透明カバー24が振動する。加振ユニットの反対側には、透明カバー24の振動を吸収するための緩衝材15が設けられている。また、透明カバー24の周囲は被覆ゴム5で覆われている。
【0037】
図5の例ではバックライト22を有していたが、照明がフロントライトであっても構わない。その場合、情報表示板23が光を通さなくても構わない。また、光源は、LEDでも蛍光灯でもその他の光源であっても構わない。光源を直接情報表示板23の後ろに配置してもよいし、光源を端部に設けて、導光体や反射鏡で全体に広げてもよい。透明カバー24は任意であり、情報表示板23が直接屋外に面していてもよい。情報表示板23がドライブスルーのメニュー板である場合などには、情報表示板23を頻繁に取り換えるので、耐久性に優れた透明カバー24を設けることが好ましい。透明カバー24を用いずに情報表示板23が屋外に面する場合、情報処理板23を振動させる。
【0038】
本発明の好適な実施態様の一つが、ドライブスルー方式における飛来昆虫の除去方法である。その具体的な応用システムについて
図6に示す。
図6は、左から時系列に並べているので、以下、順次説明する。
【0039】
まず、車両感知センサーAによって、顧客の自動車がドライブスルーレーンに進入したことを感知する。これによって、受け渡し窓とメニュー看板の両方の振動を開始する。これにより、受け渡し窓及びメニュー看板に止まっている飛来昆虫の数が減少する。引き続き、車両感知センサーBによって、顧客の自動車がメニュー看板近傍に到着したことを感知する。これによって、メニュー看板の振動を停止して、止まっている飛来昆虫の数が減少したメニュー看板を顧客が見る。このとき、受け渡し窓の振動は継続して、さらに飛来昆虫の数を減少させるとともに新たに止まる昆虫がないようにする。引き続き、人感センサーCによって、従業員が受け渡し窓に接近したことを感知する。これによって、受け渡し窓の振動を停止し、その後速やかに商品を受け渡して窓を閉める。以上のようなシステムによって、ドライブスルー方式で商品を受け渡す際に、メニュー板の飛来昆虫を減少させるとともに、受け渡し窓の飛来昆虫も減少させて、顧客に不快な思いをさせることを防ぐことができる。また、屋内に飛来昆虫が侵入することを防ぐこともできる。
【実施例0040】
以下、本発明に関する実験結果を説明する。
図7に示す試験装置30を用いて、振動によって飛来昆虫を除去する試験を行った。
【0041】
まず、試験装置30を説明する。縦100mm、横198mm、厚さ5.4mmのアクリル板からなる振動板31の裏面に光拡散のための乳白シートを貼って、その後ろに照明32を配置した。電源及びコントローラを含むコントローラユニット13が接続されたDCモータ33(CHANCS MOTOR製DCモータ「775DCモータ」)を準備した。DCモータ33の回転軸に曲げたネジ34を取り付けて、当該ネジ34をリンク35とシャフト11を介して振動板31に連結した。これによって、DCモータ33の回転運動を往復運動に変換して、振動板31に往復振動を加えた。振幅は、ネジ34の曲げ具合によって調節した。周波数は、回転計36(株式会社小野測器製回転計「HT-4200」)によってDCモータ33の回転数を計測することによって求めた。また、振動板31の加速度をレーザードップラー振動計を用いて測定した。
【0042】
試験場所は広島県内の山中であり、夜間、気温25.1℃、湿度79.0%RHという気候条件であった。照明32を点灯することによって、周囲の飛翔昆虫を誘引して、振動板31に飛来して止まったことを確認した。振動板31上の昆虫数をカウントしてから、所定の振幅及び周波数の振動を加え、5秒経過後に振動板31上に残っている昆虫数を目視でカウントした。この測定を各振動条件において複数回行って平均値を得た。振幅1.0mmのときには29.9~46.0Hz、振幅2.0mmのときには12.6~52.0Hz、振幅3.0mmのときには22.3~35.8Hzの振動をそれぞれ加えた。このとき、飛来昆虫の約8割が再度飛び立つのではなく、下に落ちたことが確認された。
【0043】
実験結果を
図8のグラフに示す。横軸に周波数(Hz)を、縦軸に昆虫の除去率(%)をとって、振幅1mm、2mm、3mmの実験結果をプロットした。各測定点における加速度(m/s
2)を適宜グラフ中に書き込んだ。その結果から分かるように、振幅がより大きい場合には、より低い周波数で昆虫を落とすことができた。また、加速度と除去率には一定の相関関係が認められた。