(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132056
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】アセタール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 407/04 20060101AFI20240920BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20240920BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07D407/04
B01D61/00
B01D71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042693
(22)【出願日】2023-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、「液相系反応分離プロセスによるフラン誘導体の合成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】古屋 光教
(72)【発明者】
【氏名】青島 敬之
【テーマコード(参考)】
4C063
4D006
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB01
4C063CC82
4C063DD75
4C063EE10
4D006GA02
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA04
4D006MA09
4D006MA23
4D006MA26
4D006MA31
4D006MA40
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC04
4D006MC05
4D006NA45
4D006PA01
4D006PB20
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】簡便な装置を用いて、効率的にアルデヒド基含有化合物からアセタール化合物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】アルデヒド基含有化合物を脱水反応させる工程、及びゼオライト膜を用いて選択的に水を系外へ分離する工程を含む、アセタール化合物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルデヒド基含有化合物を脱水反応させる工程、及びゼオライト膜を用いて選択的に水を系外へ分離する工程を含む、アセタール化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3比が2~40である、請求項1に記載のアセタール化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライト膜がCHA型又はLTA型である、請求項1又は2に記載のアセタール化合物の製造方法。
【請求項4】
前記脱水反応させる工程がジオールを用いてアセタール化する工程である、請求項1又は2に記載のアセタール化合物の製造方法。
【請求項5】
前記ジオールが炭素数2~10である、請求項4に記載のアセタール化合物の製造方法。
【請求項6】
前記アセタール化合物が環状アセタール化合物である、請求項1又は2に記載のアセタール化合物の製造方法。
【請求項7】
前記環状アセタール化合物は、下記(1A)で表される請求項6に記載のアセタール化合物の製造方法。
【化1】
(式(1A)中、R
1は水素原子、-CH
2OH、-CH
2OR
4、又は-CH
2O(C=O)R
4で表される基であり、R
4は炭素数1~6のアルキル基又はアルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。R
2及びR
3は、それぞれ水素原子、炭素数1~6のアルキル基又はアルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセタール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料枯渇問題、大気中の二酸化炭素増加という地球規模での環境負荷の問題に対する対策が必要となっている。このような社会的要請から現在の大気圏の地球環境下で植生したバイオマス原料から各種有用化学品を製造するプロセスの開発が着目され、精力的に取り進められている。
バイオマス原料から各種有用化学品を製造するプロセスの利点としては、例えば、植物原料生産が各地に分散して多様化できるため、原料供給が非常に安定していること、また大気圏の地球環境下において、二酸化炭素の吸収および放出の物質収支の較差が比較的均衡することが挙げられる。そのため、化石資源原料には全く期待できない、循環型社会の実現可能性を有しており、産業上の利用価値は極めて大きい。
【0003】
バイオマス原料から有用化学品を誘導する一連の触媒反応の中では、フラン環を有する化合物を経由するプロセスが、その機能性、用途の多様性、環境負荷ならびに経済性の観点から特に重要なプロセスとして提案されている。例えば、以下の化学式に示すように、原料として安価なグルコースを用いる場合には、グルコースから異性化反応によってフルクトースを生成させ、これを脱水してヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を得る。
【0004】
【0005】
HMFは酸化されて、フランジカルボン酸(FDCA)が得られる。ここで、HMFからFDCAを得る工程において、直接酸化反応を行うと、着色するという問題がある。そこで、以下の化学式に示すように、HMFはジオール成分等を用いてアセタール化し、その後酸化してFDCAを得ることが好ましい。
【0006】
【0007】
ところで、アセトアルデヒドジメチルアセタール、ジエチルアセタール、ジプロピルアセタール、ジブチルアセタールなどのジ低級アルキルアセタール類は、各種の工業原料、特に、有機溶媒や合成香料、合成樹脂及び接着剤などとして使用されるアルキルビニルエーテル、親水性モノマーであるN-ビニルカルボン酸アミドなどの合成中間体等として工業的に有用な化合物であることから、種々の合成方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、アリルアルコールを用いたアセタールの製造法が開示されているが、この反応が平衡反応であるために開示された方法ではその平衡転化率以上の結果は得られない。
また、特許文献2には、炭素数4のアルコールを原料にしたアセタールの製造方法について記載されているが、十分な反応成績を得るには触媒及び脱水剤として多量の塩化カルシウムを必要とする。したがって、反応後触媒除去、反応液の水洗等の工程が必要であり、効率的な製造方法とは言えない。
【0009】
また、特許文献3には、アセトアルデヒド、メタノール及び酸触媒を精留塔の一部に存在させ、アセタール化反応を行いながら精留操作を行い、塔の下部から副生した水を除去し、塔の頂部から生成したアセトアルデヒドジメチルアセタールを含む成分を留出せしめることを特徴とするアセトアルデヒドジメチルアセタールの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3-246247号公報
【特許文献2】特開昭62-116534号公報
【特許文献3】特開平5-306249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、特許文献3では、アセタール化反応を行いながら精留操作を行う手法をとることで、効率的にアセタール化反応を行うことが開示されている。しかしながら、実施例では、25段の精留塔を用いており、装置がおおがかりとなることが懸念される。
そこで、本発明は、簡便な装置を用いて、効率的にアルデヒド基含有化合物からアセタール化合物を製造する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下を要旨とする。
[1]アルデヒド基含有化合物を脱水反応させる工程、及びゼオライト膜を用いて選択的に水を系外へ分離する工程を含む、アセタール化合物の製造方法。
[2]前記ゼオライト膜のSiO
2/Al
2O
3比が2~40である、上記[1]に記載のアセタール化合物の製造方法。
[3]前記ゼオライト膜がCHA型又はLTA型である、上記[1]又は[2]に記載のアセタール化合物の製造方法。
[4]前記脱水反応させる工程がジオールを用いてアセタール化する工程である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のアセタール化合物の製造方法。
[5]前記ジオールが炭素数2~10である、上記[4]に記載のアセタール化合物の製造方法。
[6]前記アセタール化合物が環状アセタール化合物である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のアセタール化合物の製造方法。
[7]前記環状アセタール化合物は、下記(1A)で表される上記[6]に記載のアセタール化合物の製造方法。
【化3】
(式(1A)中、R
1は水素原子、-CH
2OH、-CH
2OR
4、又は-CH
2O(C=O)R
4で表される基であり、R
4は炭素数1~6のアルキル基又はアルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。R
2及びR
3は、それぞれ水素原子、炭素数1~6のアルキル基又はアルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便な装置を用いて、効率的にアルデヒド基含有化合物からアセタール化合物を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の態様に限定されるものではない。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後の数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0015】
[アセタール化合物の製造方法]
本発明のアセタール化合物の製造方法(以下単に「本製造方法」と記載することがある。)は、(A)アルデヒド基含有化合物を脱水反応させる工程、及び(B)ゼオライト膜を用いて選択的に水を系外へ分離する工程を含むことが特徴である。
各工程について、以下、詳細に説明する。
【0016】
(A)アルデヒド基含有化合物を脱水反応させる工程
本製造方法における原料は、アルデヒド基含有化合物である。アルデヒド基を含有するものであれば、特に制限はなく、例えば、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等の芳香族アルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、クロトンアルデヒド等の脂肪族アルデヒド、シクロペンチルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、シクロへキセニルアルデヒド等の脂環族アルデヒド、アクロレイン(2-プロペナール)、クロトンアルデヒド、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール等の不飽和基含有アルデヒドなどが挙げられる。
また、本発明では、原料のアルデヒド基含有化合物をバイオマス原料から生成したものが、環境対応の観点から特に好ましい。例えば、最も単純な糖であるグルコースやその異性体であるフルクトースから得られるアルデヒド基含有化合物を用いることが好ましく、アルデヒド基含有化合物としては、ヒドロキシメチルフルフラール等の不飽和基含有アルデヒド等が好適に挙げられる。
【0017】
バイオマス原料としては、植物の光合成作用で太陽の光エネルギーがデンプンやセルロース、ヘミセルロースなどの形に変換されて蓄えられたものや、植物体を加工してできる製品等が含まれる。バイオマス原料としては、例えば、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、おから、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、タピオカ、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、古紙、製紙残渣、水産物残渣、家畜排泄物、下水汚泥、食品廃棄物等が挙げられる。この中でも木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、おから、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、タピオカ、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、古紙、製紙残渣、食料廃棄物等の植物資源が好ましく、より好ましくは、木材、稲わら、籾殻、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、バガス、芋、古紙、製紙残渣、食料廃棄物であり、最も好ましくはとうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、バガス、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、古紙、製紙残渣、食料廃棄物である。
【0018】
上記のバイオマス原料から誘導される糖類としては、通常、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース、サッカロース、澱粉、セルロース、ヘミセルロース等の2糖・オリゴ糖・多糖類、が用いられ、その中でも、反応収率が高い理由から、グルコース、フルクトースが好ましい。
【0019】
<反応>
以下、HMFを原料として、下記式(3)に示すように、ジオールを用いてアセタール化し、アセタール化合物を製造する方法を例として、本発明を詳細に説明する。なお、ジオールを用いてアセタール化する反応は脱水を伴うため、脱水反応と記載する。
【0020】
【0021】
アセタール化反応で用いるジオールとしては、アセタール化が進行するものであれば、特に制限はなく、所望のアセタール化合物が得られるジオールを選択すればよい。ジオールは反応溶媒であって、原料であるアルデヒド基含有化合物を溶解して、反応を促進させる機能をも有する。
ジオールの具体例として、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の炭素数2~10のジオール類が好適に挙げられる。
なお、上記式(3)ではジオールとして、1,3-プロパンジオールを用いた例を示している。
【0022】
<脱水反応>
本製造方法においては、連続的に行うこともできるし、あるいはバッチ方式で(不連続的に)行うこともできる。連続プロセスとして行われる場合には、所望により触媒を含む液体媒体にアルデヒド基含有化合物を連続的に供給し、アセタール化合物を蒸留等の分離法によって連続的に分離(単離)する方法がある。
また、バッチ方式では、反応容器中に、例えばジオール等の反応溶媒とアルデヒド基含有化合物を仕込み、加熱して脱水反応させる。以下、バッチ式を例として、具体的にアルデヒド基含有化合物をアセタール化する脱水反応について、説明する。
【0023】
アルデヒド基含有化合物を脱水反応させる工程における反応温度は、50~100℃の範囲であることが好ましく、55~90℃の範囲であることがさらに好ましい。
反応時間としては、反応温度に応じて変えられるが、好ましくは0.1~20時間であり、より好ましくは0.5~18時間、さらに好ましくは1~15時間である。この範囲に制御することにより、副反応の併発や暴走反応を抑制し、また製造コストを低減できる。
【0024】
脱水反応に際して、触媒は特に必要ないが、所望により、触媒を用いてもよい。触媒としては、通常無機のプロトン酸であり、有機溶媒に溶解しないで二相を形成し、かつ強い酸性質を有するものが好ましい。その種類は特に問わないが、好ましくは硫酸、スルホン酸、リン酸、フルオロ硫酸、イソポリ酸、ヘテロポリ酸、酸性イオン交換樹脂、及び多価カチオンイオン交換モンモリロナイト粘土触媒から選択される1種以上を含み、より好ましくは、硫酸、酸性イオン交換樹脂、イソポリ酸、及びヘテロポリ酸から選択される1種以上を含み、特に好ましくは酸性イオン交換樹脂を含む。
【0025】
本製造方法においては、あらゆるアセタール化合物の製造に適用が可能である。目的とするアセタール化合物に応じて、反応溶媒であるジオールを選択すればよい。したがって、種々の用途に応用される環状アセタールにも、本製造方法は有効であり、例えば、下記(1A)で表されるアセタール化合物の製造にも有効である。当該環状アセタール化合物の製造では、原料としてHMF、若しくはHMF誘導体を用い、反応溶媒として、以下の式(1B)で表されるジオールを用いることで製造することができる。
【0026】
【0027】
(式(1A)中、R1は水素原子、-CH2OH、-CH2OR4、又は-CH2O(C=O)R4で表される基であり、R4は炭素数1~6のアルキル基又はアルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。R2及びR3は、それぞれ水素原子、炭素数1~6のアルキル基又はアルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。)
【0028】
【0029】
(式(1B)中、R2及びR3は、それぞれ水素原子、炭素数1~6のアルキル基又はアルキル置換基を有していてもよい炭素数6~12のアリール基を表す。)
【0030】
本発明の特徴は、上記脱水反応によって生じた水をゼオライト分離膜によって除去する点にある。水の除去によって、平衡反応であるアルデヒド基含有化合物のアセタール化反応の平衡を右にずらして、アセタール化合物の収率を上げる点にある。
【0031】
(B)ゼオライト膜を用いて選択的に水を系外へ分離する工程
本工程は、(A)の脱水反応工程により生成した水を、ゼオライト膜を用いて系外へ分離する工程である。
【0032】
<ゼオライト膜>
ゼオライト膜としては、水を効果的に透過分離し得る膜であれば、特に限定はされないが、膜の強度、水の透過能等を考慮すると、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であることが好ましい。
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、該多孔質支持体の平均厚さが0.1mm以上7mm以下であり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(1)により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が40以下であるか、又は下記式(2)により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が7以下であることが好ましい。
【0033】
(1)(D5-D95)/D50
(式中、D5、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。)
(2)(logD5-logD95)/logD50
(式中、D5、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。logは常用対数を表す。)
【0034】
<多孔質支持体>
本発明のゼオライト膜複合体に使用される支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、無機の多孔質よりなる支持体(無機多孔質支持体)であれば如何なるものであってもよい。例えば、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体(セラミックス支持体)、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
【0035】
これら多孔質支持体の中で、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したもの(セラミックス支持体)を含む無機多孔質支持体が好ましい。この無機多孔質支持体を用いれば、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果がある。
具体的には、例えば、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)が挙げられる。それらの中で、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体が好ましいものとして挙げられる。これらの支持体を用いれば、部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなる。
【0036】
多孔質支持体の形状は、気体混合物や液体混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状のもの、または円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。
本発明において、多孔質支持体の表面などにゼオライトを膜状に結晶化させる。支持体の表面は、支持体の形状に応じて、どの表面であってもよく、複数の面であっても良い。例えば、円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
【0037】
支持体の平均厚さ(肉厚)は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。支持体はゼオライト膜に機械的強度を与える目的で使用しているが、支持体の平均厚さが薄すぎるとゼオライト膜複合体が十分な強度を持たずゼオライト膜複合体が衝撃や振動等に弱くなることがある。支持体の平均厚さが厚すぎると透過した物質の拡散が悪くなり透過流束が低くなることがある。
【0038】
支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持体の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、下限以上であると、透過物の拡散を阻害することがなく、上限以下であると支持体の強度が十分である。
【0039】
さらに、本発明で用いる支持体は、水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、前記式(1)により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が40以下、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、特に好ましくは10以下である。また下限は特に制限されないが、通常0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上である。
また、前記式(2)により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が7以下、好ましくは6.5以下、より好ましくは6以下、特に好ましくは5.5以下である。また下限は特に制限されないが、通常0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上である。
【0040】
式(1)および式(2)の値は、細孔分布を表す指標である。この値が小さくなるほど、支持体の細孔分布は均一となる。細孔分布が均一であれば、気体が支持体内で拡散していく際に抵抗が小さくなるため、支持体内での拡散速度の分布も小さくなり、拡散速度が大きくなって、透過流束が向上する。支持体の細孔分布が大きいと様々な形状の流路が存在するため流体の拡散に不利となり透過流束が小さくなる。
なお、水銀圧入法による細孔分布測定は以下に記載の通りである。
(水銀圧入法による細孔分布測定)
多孔質支持体、およびゼオライト膜複合体の細孔分布は、マイクロメリテックス社製のオートポアIV 9520型を用いて、減圧下(50μmHg以下)で10分間減圧処理を施した後、0.53psia(細孔径404μm相当)から60000psia(細孔径0.0036μm相当)までの水銀圧入法圧入曲線を測定することにより求めることができる。
【0041】
さらに、均一な細孔分布を持つ支持体を用いた場合、支持体に、後述する種結晶を担持して、ゼオライト膜複合体を合成する場合に、種結晶がより均一に担持されやすく、そのためより欠陥の少ないゼオライト膜が支持体上に形成されやすい傾向があり有利である。また、必要な種結晶の量も少量で済む傾向がある点で有利である。
上記のとおり、本発明において、支持体の細孔分布としては、(D5-D95)/D50が40以下であるが、D50は、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。D50が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になることがあり、支持体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなることがある。
【0042】
また、D5は、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは20μm以下、もっとも好ましくは10μm以下である。D5が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になることがあり、支持体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなることがある。
【0043】
また、D95は、通常0.005μm以上、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。D95が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になることがあり、支持体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなることがある。
【0044】
多孔質支持体は、その細孔分布を、前記式(1)で表される細孔分布の指標の値が40以下、又は前記式(2)で表される細孔分布の指標の値が7以下となるようにすることが好ましい。
指標(1)または指標(2)が上記の値を満たす支持体を得る手段は特に限定されるものではないが、例えば支持体の製造条件を調整することにより、細孔分布の狭い支持体を製造する方法や、支持体の表面層を研磨などの方法によって除去する方法などが挙げられる。
【0045】
支持体の製造条件の調整方法としては、従来公知の方法を適宜用いることができ、例えば支持体を構成する原料粒子の大きさのばらつきを小さくするといった方法や、焼成温度、焼成時の昇温速度等の焼成条件を最適化するといった方法、また支持体の製造時に焼結助剤を使用する場合には、焼結助剤の種類や量の最適化等の方法が挙げられる。
支持体の表面層を研磨などの方法によって除去する場合には、セラミックス支持体表面の緻密な層を研磨等により除去することにより、支持体の細孔径の分布を小さくできる。分離膜等に用いられる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の多孔性支持体は、通常、セラミックス支持体である。セラミックス支持体は、押出成形によって成型した後、焼成することにより製造される。そのため、表面の気孔率が内部より小さく、すなわち表面が内部より緻密になる傾向がある。したがって、無機セラミックスの表面の緻密な層を研磨等により除去することにより、支持体の細孔径の分布を小さくすることができる。
【0046】
表面の研磨などにより支持体表面の緻密な層を除去する場合、緻密な層が除去される限りにおいて除去する支持体の重量等は特に限定されないが、除去の程度を表す指標として表面粗度を用いることができ、通常表面粗度(Ra)を1.2以下とすればよい。表面粗度(Ra)は、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.0以下である。下限は特に限定されないが、通常0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上である。
【0047】
表面粗度(Ra)を小さくし過ぎると、支持体上にゼオライト膜を形成する工程において、ゼオライト種結晶の支持体上への付着が不十分となることがある。
支持体表面の研磨方法はとくに限定されないが、例えば、紙やすりや、布やすり、研磨ペーストなどを用いて研磨する方法が挙げられる。紙やすりや布やすりで研磨する方法としては、これらのやすりを人力あるいは機械によって支持体に押し付けながら支持体ないしは押さえつけている箇所を移動させることで行う。
紙やすりや布やすりの砥粒の材質は特に限定されないが炭化ケイ素(SiC)が好ましい。
【0048】
紙やすりや布やすりの目の粗さは、通常は#200以上#20000以下、好ましくは#500以上#10000以下である。一種類の目の粗さのやすりを用いてもかまわないし、研磨の進行に伴い徐々に目の粗さを細かくしていっても差し支えない。目の粗さが粗すぎると支持体の表面を砥粒によってかえって傷つけて凹凸を大きくしてしまう危険がある。目の粗さが細かすぎると紙やすりや布やすりから砥粒がすぐにはがれてしまい、研磨のために大量の紙やすりや布やすりが必要となり経済的でない。
また、紙やすりや布やすりを用いる研磨方法としては、やすりおよび支持体を水でぬらしながら研磨する湿式研磨でも、乾いた状態で研磨する乾式研磨でもかまわない。紙やすりや布やすりを用いる以外の研磨方法としては、旋盤によって支持体の表面を切削する方法も用いることができる。
いずれの研磨方法を用いた場合も、膜複合体の作製以前に研磨した支持体を洗浄して乾燥させることが望ましい。洗浄の方法としては流水による洗浄、超音波洗浄機による洗浄が挙げられる。洗浄をしないと研磨によって生じた微粉が多孔質支持体の細孔に詰まり、透過流束を低下させる一因となることがある。
【0049】
表面粗度(Ra)を1.2以下とする研磨以外の方法としては、酸によって支持体の表面を溶かす方法やアルカリによって支持体の表面を溶かす方法などが挙げられる。
なお、表面粗度(Ra)の測定法としては、特に限定されるものではないが、表面粗さ計を用いた測定法のような接触型の測定方法や、レーザー顕微鏡を用いた測定法のような非接触型の測定方法があり、通常、表面粗さ計を用いた測定法が用いられる。
【0050】
<ゼオライト膜複合体>
本発明においては、前記多孔質支持体上にゼオライト膜を形成させ、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体とする。
本発明において、膜を構成するゼオライトとしては、具体的にはケイ酸塩とリン酸塩が挙げられる。ケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が、リン酸塩としては、アルミニウムと燐からなるアルミノリン酸塩(ALPO-5などのALPOと称されるもの)、ケイ素とアルミニウムと燐からなるシリコアルミノリン酸塩(SAPO-34などのSAPOと称されるもの)、Feなどの元素を含むFAPO-5などのMeAPOと称されるメタロアルミノリン酸塩、等が挙げられる。これらの中で、アルミノケイ酸塩、シリコアルミノリン酸塩が好ましく、アルミノケイ酸塩がより好ましい。
【0051】
ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じ含んでいてもよい。また、本発明におけるゼオライト膜は、一部アモルファス成分などを含んでいてもよいが、好ましくは実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。
【0052】
ゼオライト膜の厚さは特に制限されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下したり、膜強度が低下する傾向がある。
【0053】
ゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それゆえ、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合が特に好ましい。ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなるためである。
【0054】
ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比(以下、「SAR」と記載することがある。)は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上、特に好ましくは6以上である。一方、上限としては、好ましくは40以下、より好ましくは35以下、さらに好ましくは30以下、特に好ましくは25以下である。SiO2/Al2O3モル比が2以上であると、適度な親水性を示し、脱水能力が担保されるとともに、十分な耐水性が得られ、良好な膜耐久性が得られる。一方、SiO2/Al2O3モル比が40以下であると疎水性が強すぎることがなく、良好な脱水能力を確保できる。
なお、本発明におけるSiO2/Al2O3モル比は、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により得られた数値である。数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常はX線の加速電圧を10kVで測定する。
【0055】
ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、好ましくは酸素6~10員環構造を有するゼオライトを含むもの、より好ましくは酸素6~8員環構造を有するゼオライトを含むものである。ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0056】
酸素6~10員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AEL、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、LTA、DAC、DDR、DOH、EAB、EPI、ESV、EUO、FAR、FRA、FER、GIS、GIU、GOO、HEU、IMF、ITE、ITH、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MFS、MON、MSO、MTF、MTN、MTT、MWW、NAT、NES、NON、PAU、PHI、RHO、RRO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STF、STI、STT、TER、TOL、TON、TSC、TUN、UFI、VNI、VSV、WEI、YUGなどが挙げられる。
【0057】
酸素6~8員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、CHA、LTA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、STI、TOL、UFIなどが挙げられる。
酸素n員環構造はゼオライトの細孔のサイズを決定するものであり、6員環よりも小さいゼオライトではH2O分子のKinetic半径よりも細孔径が小さくなるため透過流束が小さくなり実用的でない場合がある。また、酸素10員環構造よりも大きい場合は細孔径が大きくなり、サイズの小さな有機物では分離性能が低下することがあり、用途が限定的になる場合がある。
【0058】
H2O分子など小さい分子を他の分子と分離する場合には細孔のサイズが大きいとその細孔サイズより小さく、かつH2O分子よりも大きい分子を分離することが困難になるため酸素6~8員環構造を有するゼオライトが特に望ましい。
また、ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å3)は特に制限されないが、通常17以下、好ましくは16以下、より好ましくは15.5以下、特に好ましくは、15以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
【0059】
フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Å3あたりの酸素以外の骨格を構成する元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。したがってフレームワーク密度が小さいほど1000Å3あたりの空間が広いことを意味するため、フレームワーク密度が小さいほどゼオライト中の物質の拡散速度が速く、ゼオライト膜にした場合に透過流束が大きくなる。したがってフレームワーク密度が小さいことが望ましい。
一方でフレームワーク密度が小さすぎるとゼオライトの骨格構造が脆弱となり、結晶構造が壊れやすくなるため通常10以上であることが望ましい。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition2001 ELSEVIERに示されている。
【0060】
本発明において、好ましいゼオライトの構造は、AEI、AFG、CHA、LTA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、STI、TOL、UFIであり、より好ましい構造は、8員環構造を有し、かつ2次元または3次元構造を有するAEI、CHA、LTA、ERI、KFI、LEV、PAU、RHO、RTH、UFIであり、さらに好ましい構造は、CHA、LTA、LEVであり、最も好ましい構造はCHA型、LTA型である。前記のゼオライトは、構造的に安定性が高く、またゼオライト中の物質の拡散速度が速いと考えられるため、当該支持体と組み合わせることで透過流束を大きくすることが可能となる点で、好ましい。
【0061】
ここで、CHA型のゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
【0062】
CHA型ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å3)は14.5である。また、SiO2/Al2O3モル比は上記と同様である。
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、前記式(2)により算出される、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の細孔分布を表す指標が7以下であることが好ましい。
【0063】
上記の式(2)で表されるゼオライト膜複合体の細孔分布を表す指標は、支持体の細孔分布を表す指標と同様、7以下であることが好ましく、より好ましくは6.5以下、さらに好ましくは6以下、特に好ましくは5.5以下である。また下限は特に制限されないが、通常0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上である。
式(2)の値は、前記支持体の細孔分布を表す指標と同じであり、この値が小さくなるほど、ゼオライト膜複合体の細孔分布は均一となる。細孔分布が均一であることの効果は、支持体における上記効果と同じである。ゼオライト膜複合体の細孔分布が大きい場合、様々な形状の流路が存在するため流体の拡散に不利となり透過流束が小さくなる。
【0064】
なお、本発明のゼオライト膜複合体における、D5、D50およびD95の値は、前記支持体におけるD5、D50およびD95の値と同様である。
また、本発明のゼオライト膜複合体の細孔分布を表す指標として、上記式(2)で求められる指標を用いる。式(2)で求められる指標の方が、細孔分布の状態をより正確に表現しているためである。
【0065】
具体的には、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体における細孔の大部分は、通常用いる多孔質支持体に由来する細孔である。そのため多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の細孔分布は、用いる多孔質支持体の細孔分布と概ね同等であり、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体と、用いる多孔質支持体の、式(2)で表される細孔分布を表す指標は、概ね近い値となる。支持体の細孔の一部はゼオライト膜作製時にゼオライトの結晶によって埋められるため、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の細孔径は、支持体の細孔径よりも若干小さくなる傾向があり、細孔分布についても分布形状を維持したまま細孔径が小さい側にシフトする場合がある。多孔質支持体上にゼオライト膜を作製することによって生じることがある細孔径のシフトは、ゼオライト合成時のロットのばらつきによって変化する場合があるので多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の細孔分布を把握する場合にはより正確に細孔分布を表す、式(2)で表される指標を使う。実際に各種分離プロセスにゼオライト膜複合体を用いる際にはその膜複合体の状態をより正確に表す指標である式(2)で表される細孔分布の指標に基づいて適用の好適、不適を判断することが望ましい。
【0066】
本発明において、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折のパターンにおいて、2θ=17.9°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の0.5倍以上の大きさであることが好ましい。
ここで、ピークの強度とは、測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比A」ということがある。)でいえば、通常0.5以上、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
【0067】
また、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折のパターンにおいて、2θ=9.6°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の4倍以上の大きさであることが好ましい。
(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比B」ということがある。)でいえば、通常4以上、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、特に好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
【0068】
ここでいう、X線回折パターンとはゼオライトが主として付着している側の表面にCuKαを線源とするX線を照射して、走査軸をθ/2θとして得るものである。測定するサンプルの形状としては、膜複合体のゼオライトが主として付着している側の表面にX線が照射できるような形状なら何でもよく、膜複合体の特徴をよく表すものとして、作製した膜複合体そのままのもの、あるいは装置によって制約される適切な大きさに切断したものが好ましい。
【0069】
このように、ピーク強度比A、Bのいずれかが、上記した特定の範囲の値であるということは、ゼオライト結晶が配向して成長し、分離性能の高い緻密な膜が形成されていることを示すものである。
CHA型ゼオライト結晶が配向して成長している緻密なゼオライト膜は、次に述べる通り、ゼオライト膜を水熱合成により形成する際に、例えば、特定の有機テンプレートを用い、水性反応混合物中にK+イオンを共存させることにより達成することができる。
【0070】
<ゼオライト膜複合体の製造方法>
本発明において、ゼオライト膜の製造方法は、ゼオライトを含む膜が形成可能な方法であれば特に制限されず、例えば、(1)多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法、(2)多孔質支持体にゼオライトを無機バインダー、あるいは有機バインダーなどで固着させる方法、(3)ゼオライトを分散させたポリマーを固着させる方法、(4)ゼオライトのスラリーを多孔質支持体に含浸させ、場合によっては吸引させることによりゼオライトを多孔質支持体に固着させる方法などの何れの方法も用いることができる。
【0071】
これらの中で、多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法が特に好ましい。結晶化の方法に特に制限はないが、多孔質支持体を、ゼオライト製造に用いる水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)中に入れて、直接水熱合成することで支持体の表面などにゼオライトを結晶化させる方法が好ましい。
具体的には、例えば、組成を調整して均一化した水性反応混合物を、多孔質支持体を内部に緩やかに固定した、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱すればよい。
【0072】
水性反応混合物としては、Si元素源、Al元素源、必要に応じて有機テンプレート、および水を含み、さらに必要に応じてアルカリ源を含むものが好ましい。
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等を用いることができる。
【0073】
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を用いることができるが、有機テンプレートを用いて合成したものが好ましい。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性が向上する。
【0074】
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成し得るものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
ゼオライトがCHA型の場合、有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
【0075】
具体的には、例えば、1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、3-キナクリジナールから誘導されるカチオン、3-exo-アミノノルボルネンから誘導されるカチオン等の脂環式アミンから誘導されるカチオンが挙げられる。これらの中で、1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオンがより好ましい。
1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを有機テンプレートとしたとき、緻密な膜を形成し得るCHA型ゼオライトが結晶化する。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
【0076】
1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのうち、N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンがさらに好ましい。N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンの3つのアルキル基は、通常、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で最も好ましい化合物は、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンである。
【0077】
このようなカチオンは、CHA型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl-、Br-、I-などのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられる。
その他の有機テンプレートとしては、N,N,N-トリアルキルベンジルアンモニウムカチオンも用いることができる。この場合もアルキル基は、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で、最も好ましい化合物は、N,N,N-トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。また、このカチオンが伴うアニオンは上記と同様である。
【0078】
水性反応混合物に用いるアルカリ源としては、有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)2などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。
アルカリの種類は特に限定されず、通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Na、Kが好ましく、Kがより好ましい。
また、アルカリは2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとKを併用するのが好ましい。
【0079】
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO2/Al2O3モル比として表わす。
SiO2/Al2O3比は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上である。また、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは100以下である。
【0080】
SiO2/Al2O3比がこの範囲にあるときゼオライト膜が緻密に生成し、更に生成したゼオライトが強い親水性を示し、有機物を含有する混合物中から親水性の化合物、特に水を選択的に透過することができる。また耐酸性に強く脱Alしにくいゼオライト膜が得られる。
特に、SiO2/Al2O3比がこの範囲にあるとき、緻密な膜を形成し得るCHA型ゼオライトを結晶化させることができる。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
【0081】
水性反応混合物中のシリカ源と有機テンプレートの比は、SiO2に対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO2モル比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。
このモル比が上記範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得ることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性に強くAlが脱離しにくい。また、この条件において、特に緻密で耐酸性のCHA型ゼオライトを形成させることができる。
【0082】
Si元素源とアルカリ源の比は、M(2/n)O/SiO2(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
CHA型ゼオライト膜を形成する場合、アルカリ金属の中でKを含む場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましい。その場合のKと、Kを含むすべてのアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とのモル比は通常0.01以上1以下、好ましくは0.1以上1以下、さらに好ましくは0.3以上1以下である。
【0083】
Si元素源と水の比は、SiO2に対する水のモル比(H2O/SiO2モル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得る。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが細かい結晶が生成して緻密な膜ができやすい傾向にある。
【0084】
一般的に、粉末のCHA型ゼオライトを合成する際の水の量は、H2O/SiO2モル比で、15~50程度である。H2O/SiO2モル比が高い(50以上1000以下)、すなわち水が多い条件にすることにより、支持体上にCHA型ゼオライトが緻密な膜状に結晶化した分離性能の高いゼオライト膜複合体を得ることができる。
さらに、水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在させる必要は無いが、種結晶を加えることで、支持体上にゼオライトの結晶化を促進できる。種結晶を加える方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができる。ゼオライト膜複合体を製造する場合は、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
【0085】
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。CHA型ゼオライト膜を形成する場合は、CHA型ゼオライトの種結晶を用いることが好ましい。
種結晶の粒子径は小さいほうが望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。粒径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、通常20μm以下、好ましくは、15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0086】
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて表面に種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良く膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
【0087】
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0088】
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体表面に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。分散液中の種結晶の量が多すぎると、ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0089】
支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させ、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。
支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、基材1m2あたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下である。
【0090】
種結晶の量が下限未満の場合には、結晶ができにくくなり、膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
【0091】
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
ゼオライト膜を形成させる際の温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0092】
加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難しくなることがある。
反応時間が長すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0093】
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥又はテンプレートを使用した場合にテンプレートを焼成することを意味する。
【0094】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。加熱処理の温度はテンプレートの焼成を目的とする場合通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。
【0095】
加熱時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥、またはテンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
【0096】
焼成温度は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。焼成温度が低すぎると有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離濃縮の際の透過流束が減少する可能性がある。焼成温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。
【0097】
焼成時間は、昇温速度や降温速度により変動するが、有機テンプレートが十分に取り除かれる時間であれば特に限定されず、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上である。
上限は特に限定されず、例えば、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内、最も好ましくは24時間以内である。焼成は空気雰囲気で行えばよいが、酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0098】
焼成の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0099】
ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換してもよい。イオン交換は、テンプレートを用いて合成した場合は、通常、テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na+、K+、Li+などのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、Fe、Cu、Znなどの遷移金属のイオンなどが挙げられる。これらの中で、プロトン、Na+、K+、Li+などのアルカリ金属イオンが好ましい。
【0100】
イオン交換は、焼成後(テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、NH4NO3、NaNO3などアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。さらに、必要に応じて200℃~500℃で焼成してもよい。
かくして得られる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体(加熱処理後のゼオライト膜複合体)の空気透過量[L/(m2・h)]は、通常1400L/(m2・h)以下、好ましくは1000L/(m2・h)以下、より好ましくは700L/(m2・h)以下、より好ましくは600L/(m2・h)以下、さらに好ましくは500L/(m2・h)以下、特に好ましくは300L/(m2・h)以下、もっとも好ましくは200L/(m2・h)以下である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0.01L/(m2・h)以上、好ましくは0.1L/(m2・h)以上、より好ましくは1L/(m2・h)以上である。
【0101】
ここで、空気透過量とは、実施例で詳述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m2・h)]である。
本発明のゼオライト膜複合体は、上記のとおり優れた特性をもつものであり、本発明の分離方法における膜分離手段として好適に用いることができる。
【0102】
反応器に導入するHMFの反応溶媒中の濃度は、通常、下限は1質量%、好ましくは5質量%、より好ましくは10質量%、更に好ましくは20質量%、特に好ましくは30質量%であり、上限は通常60質量%、好ましくは50質量%である。この範囲に制御することにより、過大な反応容器を用いる必要がなく、高い生産効率で、短時間に反応を進行させることができる。
【0103】
<反応容器>
本製造方法における反応方式は、バッチ方式および流通方式などで実施できる。なお、反応器や流路などの接液材質は、ガラス製、ステンレス(SUS)製、鉄製、その他金属製など、反応器の素材に特に限定されないが、腐食耐性を有し、エネルギー伝達効率が高いガラス製あるいはステンレス(SUS)製のものが好ましく用いられる。また、工業的な製造装置コストという観点からステンレス(SUS)製のものを用いるのが好ましい。
【0104】
本発明によれば、ゼオライト分離膜によって、副生水を除去でき、加水分解による逆反応が抑制できるため、原料であるアルデヒド基含有化合物の転化率を向上させることができる。また、副生水の存在による逆反応が抑えられることで、反応後期の速度低下を抑制することができる。さらに、副生水の除去によって、基質(原料)であるHMFの分解が抑制され、また副生水によって助長される縮合フミン化が抑制されるために、高温時での反応選択性が改善される。
【実施例0105】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下における各種物性等の測定方法は次の通りである。
【0106】
実施例1
ガラス製の反応容器に、反応溶媒である1,3-プロピレンジオール(1,3-POD)1000gを入れ、該溶媒に原料であるヒドロキシメチルフルフラール(HMF)100gを溶解させた(HMF濃度10質量%)。次いで、前記反応容器にゼオライト分離膜をセットした。ゼオライト分離膜としては、市販のゼオライト分離膜(三菱ケミカル社製「ZEBREX」(登録商標)、CHA型ゼオライト)を用い、反応温度60℃で12時間反応させた。なお、ゼオライト分離膜としては、円筒状のものを用い、分離膜内の真空度を12Paとした。
評価は残存するHMFの量(質量%)により行った。結果を表1に示す。
【0107】
実施例2
反応温度を80℃とし、反応時間を6時間としたこと以外、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0108】
実施例3
ゼオライト分離膜に使用するCHA型ゼオライトとして、SARが20のものを用いたこと以外は実施例2と同様にして反応を行った。評価結果を表1に示す。
【0109】
実施例4
ゼオライト分離膜に使用するCHA型ゼオライトとして、SARが20のものを用いたこと以外は実施例2と同様にして反応を行った。評価結果を表1に示す。
【0110】
実施例5
ゼオライト分離膜に使用するゼオライトとしてDDR型ゼオライトを用いたこと以外は実施例2と同様にして反応を行った。評価結果を表1に示す。
【0111】
実施例6
ゼオライト分離膜に使用するゼオライトとしてLTA型ゼオライトを用いたこと以外は実施例2と同様にして反応を行った。評価結果を表1に示す。
【0112】
比較例1
実施例1において、ゼオライト分離膜を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。評価結果を表1に示す。
【0113】
比較例2
実施例2において、ゼオライト分離膜を使用しなかったこと以外は、実施例2と同様にして反応を行った。評価結果を表1に示す。
【0114】
【0115】
実施例1と比較例1の評価結果の比較から、実施例1ではHMFの転化率及び残存HMF量が大幅に改善された。ゼオライト分離膜によって、副生水を除去でき、加水分解による逆反応が抑制できたためと考えられる。
本発明によれば、簡便な装置を用いて、効率的にアルデヒド基含有化合物からアセタール化合物を製造することができる。したがって、有用な成分であるアセタール化合物の工業生産が可能であり、工業的価値は高い。