(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132057
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】フランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/68 20060101AFI20240920BHJP
B01J 27/18 20060101ALI20240920BHJP
B01J 27/232 20060101ALI20240920BHJP
B01J 23/52 20060101ALI20240920BHJP
B01J 23/66 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C07D307/68
B01J27/18 Z
B01J27/232 Z
B01J23/52 Z
B01J23/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042694
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 志成
(72)【発明者】
【氏名】古屋 光教
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA47A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB05A
4G169BB05B
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BB16B
4G169BC02B
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BC33A
4G169BC33B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169CB07
4G169CB25
4G169CB74
4G169CB75
4G169DA04
4G169DA08
4G169EA01Y
4G169FA02
4G169FB14
(57)【要約】
【課題】多量の塩基を必要とせず、一段で高転化率及び高選択率で酸化反応又は酸化エステル化反応を行い、フランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルを製造する方法を提供すること。
【解決手段】塩基と酸素含有ガスの存在下でフランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルを製造する方法であって、前記塩基の含有量が原料1モルに対して、0.18モル当量以下であり、前記酸素含有ガス中の酸素濃度が10体積%以下であることを特徴とするフランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基と酸素含有ガスの存在下でフランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルを製造する方法であって、前記塩基の含有量が原料1モルに対して、0.18モル当量以下であり、前記酸素含有ガス中の酸素濃度が10体積%以下であることを特徴とするフランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
原料がヒドロキシメチルフルフラールである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
触媒を用い、該触媒の活性金属が金である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記触媒が金を含む活性金属を担体に担持した担持触媒である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記担体がヒドロキシアパタイト、チタニア及びセリアからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
溶媒としてアルコールを用いる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料枯渇問題、大気中の二酸化炭素増加という地球規模での環境負荷の問題に対する対策が必要となっている。このような社会的要請から現在の大気圏の地球環境下で植生したバイオマス原料から各種有用化学品を製造するプロセスの開発が着目され、精力的に取り進められている。
バイオマス原料から各種有用化学品を製造するプロセスの利点としては、例えば、植物原料生産が各地に分散して多様化できるため、原料供給が非常に安定していること、また大気圏の地球環境下において、二酸化炭素の吸収および放出の物質収支の較差が比較的均衡することが挙げられる。そのため、化石資源原料には全く期待できない、循環型社会の実現可能性を有しており、産業上の利用価値は極めて大きい。
【0003】
バイオマス原料から有用化学品を誘導する一連の触媒反応の中では、フラン環を有する化合物を経由するプロセスが、その機能性、用途の多様性、環境負荷ならびに経済性の観点から特に重要なプロセスとして提案されている。例えば、本発明の製造対象であるフランジカルボン酸やそのエステルの製造方法として、以下の式(1)に示される反応による方法が提案されている。
【0004】
【0005】
具体的な製造方法としては、例えば、グルコースやフルクトース等の単糖類から含水ニオブ酸の存在下にヒドロキシメチルフルフラール(以下「HMF」と記載することがある。)を製造する方法が特許文献1に提案されており、HMFの酸化反応によりフランジカルボン酸(以下「FDCA」と記載することがある。)又はそのエステル(以下、「FDCAエステル」と記載することがある。)を製造する方法については、特許文献2及び3に提案されている。しかし特許文献2及び3に記載されている、HMFからの直接酸化反応によりフランジカルボン酸又はそのエステルを製造する方法においては、HMFがアルデヒド基ならびにヒドロキシル基といった反応性官能基を有するために熱安定性が低く、重合や開環反応等の副反応が併発する。この副反応によるフミン等のオリゴマーならびにポリマーやレブリン酸等の形成により反応収率が低下するばかりでなく、オリゴマーやポリマーが反応器や配管内に付着することにより、反応器の熱伝導効率の低下や配管内閉塞を引き起こし、安定した長期操業が困難になるという課題がある。これらの課題は、特に、高HMF濃度条件下においてフランジカルボン酸やそのエステルを製造する際に顕著となるため、低HMF濃度条件下での製造が強いられ、経済性が求められる工業プロセスにおいては大きな課題となっている。
【0006】
そこで、例えば、非特許文献1には、触媒活性種を中空構造体の内部に閉じ込めヨーク-シェル構造触媒のCo触媒により、下記式(2)に示す反応により、HMFから直接FDCAエステルを合成する方法が提案されている。
【0007】
【0008】
また、非特許文献2には、窒素ドープカーボン(NC)上にCo及びCuを7:3の比率で担持させたCo7Cu3-NC触媒を用いて、下記式(3)に示す反応により、HMFからFDCAエステルを93%の収率で得られることが開示されている。
【0009】
【0010】
さらに、非特許文献3には、窒素ドープカーボンを担体とした酸化Co触媒とRu触媒を用いて、下記式(4)に示す反応により、空気中でHMFからFDCAエステルを定量的に合成し得ることが開示されている。
【0011】
【0012】
また、特許文献4には、二段酸化反応によるFDCAもしくはFDCAエステルの製造方法が開示され、Au触媒を使用し、ホルミル基を保護することで副反応を抑え、下記式(5)に示す反応により、92%の収率でFDCAが得られたことが開示されている。なお、ここでEGはエチレングリコール、1,3-PDは1,3-プロピレングリコールを意味する。
【0013】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009-215172号公報
【特許文献2】特許第5217142号公報
【特許文献3】国際公開2015/155784
【特許文献4】特許第6900801号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Green Chem., 2019年, 21, 1602-1608
【非特許文献2】ChemSus Chem 2020年,13, 4151-4158
【非特許文献3】ACS Sustainable Chem. Eng. 2019年, 7, 12061-12068
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述のように、非特許文献1~3及び特許文献4には、HMFから直接FDCAを得る方法が開示されるが、それぞれ以下の課題がある。
非特許文献1にあっては、雰囲気が純酸素の場合に、転化率100%、FDCA収率84%であるものの、酸素濃度21%の空気では、転化率が69%まで低下する。したがって、反応系に高い酸素濃度の気体を供給する必要がある。
また、非特許文献2では、非特許文献1と同様に純酸素を必要とすること、及び触媒の反応性の低下に伴いカーボンバランスが大きく低下するという問題点がある。
非特許文献3では、雰囲気が空気である必要があり、また0.2モル当量の塩基(例えば、K2CO3)が必要である。さらに、ヒドロキシルメチル基の酸化には、カーボンを担体としたRu触媒が必要である。
【0017】
特許文献4においても、純酸素を必要とする点が問題であり、また、保護反応により酸化工程が長く、塩基使用量が0.2~2モル当量と比較的多い。したがって、プロセスコストが高くなるため、プロセスの適合性の改善が必要であり、酸化工程の簡便化や塩基量の低減が必要となる。
上記問題点に対して、本発明の課題は、多量の塩基を必要とせず、一段で高転化率及び高選択率で酸化反応又は酸化エステル化反応を行い、フランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下を要旨とする。
[1]塩基と酸素含有ガスの存在下でフランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルを製造する方法であって、前記塩基の含有量が原料1モルに対して、0.18モル当量以下であり、前記酸素含有ガス中の酸素濃度が10体積%以下であることを特徴とするフランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルの製造方法[2]原料がヒドロキシメチルフルフラールである、上記[1]に記載の製造方法。
[3]触媒を用い、該触媒の活性金属の主成分が金である、上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記触媒が金を含む活性金属を担体に担持した担持触媒である、上記[3]に記載の製造方法。
[5]前記担体がヒドロキシアパタイト、チタニア及びセリアからなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記[4]に記載の製造方法。
[6]溶媒としてアルコールを用いる、上記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
多量の塩基を必要とせず、一段で高転化率及び高選択率で酸化反応又は酸化エステル化反応を行い、フランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルを製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の態様に限定されるものではない。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後の数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0021】
[フランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルの製造方法]
本発明のフランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルの製造方法(以下単に「本製造方法」と記載することがある。)は、塩基と酸素含有ガスの存在下でフランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルを製造する方法であって、前記塩基の含有量が原料1モルに対して、0.18モル当量以下であり、前記酸素含有ガス中の酸素濃度が10体積%以下であることを特徴とする。
【0022】
<原料>
本製造方法における原料としては、フランジカルボン酸又はフランジカルボン酸エステルを製造し得るものであれば特に制限はないが、環境等の問題から、バイオマスを原料とすることが好ましい。特に、バイオマス原料から誘導されるヒドロキシメチルフルフラール(HMF)であることが好ましい。
具体的には、バイオマス原料を酸やアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理、物理的処理等の公知の前処理・糖化の工程を経て、バイオマス原料に含まれる多糖類をその構成単位である糖類まで分解(糖化)してオリゴ糖、2糖や単糖を含む糖液を得、その糖液からHMFを得ることができる。
【0023】
バイオマス原料としては、植物の光合成作用で太陽の光エネルギーがデンプンやセルロース、ヘミセルロースなどの形に変換されて蓄えられたものや、植物体を加工してできる製品等が含まれる。バイオマス原料としては、例えば、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、おから、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、タピオカ、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、古紙、製紙残渣、水産物残渣、家畜排泄物、下水汚泥、食品廃棄物等が挙げられる。この中でも木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、おから、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、タピオカ、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、古紙、製紙残渣、食料廃棄物等の植物資源が好ましく、より好ましくは、木材、稲わら、籾殻、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、バガス、芋、古紙、製紙残渣、食料廃棄物であり、最も好ましくはとうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、バガス、カルドン、スイッチグラス、松材、ポプラ材、カエデ材、コーンコブ、コーンストーバー、コーンファイバー、古紙、製紙残渣、食料廃棄物である。
【0024】
上記のバイオマス原料から誘導される糖類としては、通常、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース、サッカロース、澱粉、セルロース、ヘミセルロース等の2糖・オリゴ糖・多糖類、が用いられ、その中でも、反応収率が高い理由から、グルコース、フルクトースが好ましい。一方、より広義の植物資源由来の糖類としてはセルロースやヘミセルロースが好ましい。
【0025】
<反応>
以下、HMFを原料として、下記式(6)に示すように、モノエステル体及びジエステル体を製造する反応を例に詳細に説明する。
【0026】
【0027】
<塩基>
上記式(6)で示される酸化エステル化反応では、塩基(Base)の存在下、酸素含有ガスにより酸化エステル化することで目的とする生成物を得ることができる。
塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基、トリエチルアミン等の有機塩基が挙げられるが、生成物からの除去効率が良いことから、無機塩基が好ましい。具体的には水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムが特に好ましい。
塩基を存在させて酸化エステル化反応を行う際の塩基の使用量は、原料であるフラン含有化合物1モルに対して0.18モル当量以下である。塩基の使用量が0.18モル当量以下であることで、装置腐食の懸念がなく、かつ廃水処理が容易となる。また、コスト的にも有利である。以上の観点から、塩基の使用量は0.15モル当量以下であることがより好ましく、0.12モル当量以下であることがさらに好ましい。
塩基の使用量の下限については、特に制限はないが、目的とする生成物の収率を向上させる点で0.01モル当量以上であることが好ましく、0.05モル当量以上であることがさらに好ましい。
【0028】
<酸素含有ガス>
酸化反応に用いる酸素源としては、反応終了後に分離精製の必要がない酸素ガス或いは空気等の酸素含有ガスを用いる。バッチ方式においては酸素含有ガスを反応器内に閉じ込めて、流通方式においては酸素含有ガスを反応器内に流通させて酸化反応を行うことができ、流通方式により行うことが生産効率の点から好ましい。
本製造方法において、酸素含有ガス中の酸素含有量は10体積%以下であることが重要である。酸素含有量が10体積%以下であることで、反応選択性が向上できるばかりでなく、爆発の危険性を低下させ、反応安全性を確保することができる。以上の観点から、酸素含有量は8体積%以下であることが好ましく、6体積%以下であることがさらに好ましい。
酸素含有ガス中の酸素濃度の下限としては、酸化反応が進行する範囲内で特に制限はないが、通常1体積%以上である。より酸化反応を進行させるとの観点から、3体積%以上が好ましい。
【0029】
酸化反応における反応温度は、25℃以上200℃以下が好ましいが、反応温度の下限は30℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましく、60℃以上が特に好ましい。上限は180℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましく、130℃以下が特に好ましい。反応温度をこの範囲に制御することにより、反応の長時間化、副反応の併発、暴走反応、生成物の着色等を抑制することができる。
【0030】
反応時間は、酸化反応を流通方式で行う場合は特に限定されない。酸化反応をバッチ方式で行う場合は、酸素含有ガスが反応器内にはじめに導入された時間を開始点とし、10分~30時間の範囲が好ましく、30分~28時間の範囲がより好ましく、1時間~25時間の範囲がさらに好ましい。この範囲に制御することにより、副反応の併発や暴走反応を抑制し、また製造コストを低減できる。
【0031】
酸化反応を流通方式で行う場合、酸素含有ガスを反応器に流通させる速度としては、通常、反応器体積×0.01~1000倍/分、好ましくは反応器体積×0.1~100倍/分、より好ましくは反応器体積×0.1~10倍/分、更に好ましくは反応器体積×0.5~10倍/分である。
この範囲に制御することにより、酸素の消費効率および目的物の生産効率が向上し、副反応の併発や暴走反応を抑制し、また製造コストを低減できる。
酸素含有ガスを反応器に流通させる方法としては、酸素含有ガスを反応器の液層に吹き込む方法、又は反応器の気層部分に吹き込む方法等が挙げられるが、好ましくは、反応器の液層に吹き込む方法である。酸素含有ガスは、連続的に流通させても間欠的に流通させてもよいが、好ましくは連続的に流通させる方法である。
また酸素含有ガスは、反応容器内が加圧になる様に供給して酸化反応を行ってもよい。その際の反応圧力は、通常0.1MPa以上、好ましくは0.3MPa以上、より好ましくは0.4MPa以上で、通常15MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下、更に好ましくは3MPa以下、特に好ましくは1MPa以下である。この範囲に制御することにより、高圧反応設備が不要となり、また副反応の併発を抑制することができる。
【0032】
酸化反応における反応溶媒としては、通常水や有機溶媒が使用されるが、水と有機溶媒とを組み合わせたり、複数の有機溶媒を組み合わせて使用してもよい。コスト優位性の観点からは、反応溶媒として単一の溶媒を用いることが好ましい。
用いる有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロピラン、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、ブチルエーテル、ペンチルエーテル、ヘキシルエーテル、オクチルエーテル、ノニルエーテル、デシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数4~20のエーテル類;2-ブタノン(メチルエチルケトン)、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、シクロヘキサノン、4-メチル-2-ペンタノン(メチルイソブチルケトン)、2-ヘプタノン、5-メチル-2-ヘキサノン、2,4-ジメチルペンタノン、5-ノナノン、4-デカノン、5-デカノン、2-ウンデカノン、4-ウンデカノン、3-ドデカノン、2-トリデカノン、2-テトラデカノン、4-テトラデカノン、2-ペンタデカノン、3-ペンタデカノン、7-ペンタデカノン、2-ヘキサデカノン、3-ヘキサデカノン、4-ヘキサデカノン、6-ヘキサデカノン、2-ヘプタデカノン、4-ヘプタデカノン、9-ヘプタデカノン、3-オクタデカノン、アセトフェノン等の炭素数4~20のケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、3-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデシルアルコール、1-ラウリルアルコール、1-トリデシルアルコール、1-テトラデカノール、1-ペンタデシルアルコール、1-ヘキサデカノール、シス-9-ヘキサデセン-1-オール、1-ヘプタデカノール、1-オクタデカノール、16-メチルヘプタデセン-1-オール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール等の炭素数1~20のモノアルコール類;エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール等の炭素数1~6のジオール類;フェノール、メチルフェノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール等の炭素数6~12のフェノール類;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、イソドデカンなどの炭素数3~12の飽和脂肪族炭化水素化合物;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、1-メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、ヘキサクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;その他、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルモルホリン、N-メチル-2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、テトラメチルウレア、ジメチルスルホキシド、スルホラン、イソソルビド、イソソルビドジメチルエーテル、プロピレンカーボネート、ならびにこれらの混合物等が挙げられる。その他、例えば、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムブロミド等のピロリジニウム塩;1-ブチル-1-メチルピペリジニウムトリフラート等のピペリジニウム塩;1-ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート等のピリジニウム塩;1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド等のイミダゾリウム塩;テトラブチルアンモニウムクロリド等のアンモニウム塩;テトラブチルホスホニウムブロミド等のホスホニウム塩;トリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等のスルホニウム塩、等のイオン性液体を用いてもよい。
【0033】
これらの中では、前記有機溶媒が、アルコール、エーテル、ケトン、ジオール、エステル、ラクトン、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素および飽和脂肪族炭化水素よりなる群の少なくとも1つから選ばれることが好ましく、アルコール、エーテル、ケトン、ジオール、芳香族炭化水素および飽和脂肪族炭化水素よりなる群の少なくとも1つから選ばれることがより好ましく、中でもアルコールが特に好ましく、前記有機溶媒は少なくともアルコールを含むことが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、各種ブタノール等の炭素数1~4のアルコールが、反応性及び経済性の観点から好ましい。
なお、アルコールは後述するエステル化にも寄与する。
【0034】
水との混合溶媒を使用する際の水の含有量は、通常、体積比として、上限は50体積%、好ましくは10体積%以下、より好ましくは5体積%以下である。一方、下限には特に制限はなく、例えば0.001体積%以上、好ましくは0.01体積%以上、さらに好ましくは0.1体積%以上である。
【0035】
反応器に導入するHMF等のフラン含有化合物の反応溶媒中の濃度は、通常、下限は1質量%、好ましくは5質量%、より好ましくは10質量%であり、上限は通常60質量%、好ましくは50質量%である。この範囲に制御することにより、過大な反応容器を用いる必要がなく、高い生産効率で、短時間に反応を進行させることができる。
【0036】
本製造方法において酸化エステル化のために、反応系にアルコールを共存させることが好ましい。ここで共存させるアルコールとしては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、3-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデシルアルコール、1-ラウリルアルコール、1-トリデシルアルコール、1-テトラデカノール、1-ペンタデシルアルコール、1-ヘキサデカノール、シス-9-ヘキサデセン-1-オール、1-ヘプタデカノール、1-オクタデカノール、16-メチルヘプタデセン-1-オール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール等の炭素数1~20の脂肪族モノアルコールやエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の炭素数2~8の脂肪族ジオールであってもよい。
なお、上述の通り、アルコールは反応溶媒としての役割を兼ねることができる。
【0037】
<触媒>
HMFの酸化エステル化または酸化は、触媒の存在下に行うことが好ましく、酸化エステル化触媒および酸化触媒としては、酸化能を有する金属或いは金属化合物であれば限定されないが、例えば白金、パラジウム、ニッケル、鉄、ルテニウム、コバルト等の周期表第8~10族金属及びその化合物、銅、銀、金等の周期表第11族金属及びその化合物、亜鉛等の周期表第12族金属及びその化合物、インジウム等の周期表第13族金属及びその化合物、錫、鉛等の周期表第14族金属及びその化合物、マンガン、レニウム等の周期表第7族金属及びその化合物、クロム、モリブデンなどの周期表第6族金属及びその化合物、ニオブ、タンタル等の周期表第5族金属及びその化合物、ジルコニウム等の周期表第4族金属及びその化合物、スカンジウムなどの周期表第3族金属及びその化合物、マグネシウム、カルシウム等の周期表第2族金属及びその化合物、セシウム等の周期表第1族金属及びその化合物、ならびにこれらの金属の混合物(合金を含む)などが挙げられる。特に周期表第6~12族の金属及びその化合物ならびにこれらの混合物(合金を含む)が好ましく、更に周期表第7~11族の金属及びその化合物がより好ましく、その中でも白金、パラジウム、レニウム、マグネシウム、銅、銀、金、亜鉛、マンガン、コバルト及びその化合物が好ましく、白金、パラジウム、レニウム、銅、銀、金、コバルト、マンガン及びその化合物などが好適に用いられる。特に、本製造方法においては、活性金属として金が最も好適である。化合物としてはこれら金属の酸化物、アルコキシ化合物、アルキル化合物、有機酸塩等が挙げられるが、好ましくは金属元素及び金属の酸化物である。
【0038】
また、これら金属触媒は各種担体に担持した金属担持触媒として用いられるのが好ましい。担体としては、炭素、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ニオビア、セリア、酸化タングステン、シリコン-カーバイド、ボロン-カーバイド、チタン-カーバイド、珪藻土、層状ケイ酸塩等の天然鉱物等が挙げられる。この中でも炭素、チタニア、セリアが触媒の調製のしやすさ及び活性の点で好ましい。
また、ヒドロキシアパタイト(以下「HAP」と記載することがある。)も担体として好適であり、本製造方法においては、HAPに担持した金触媒が好適に用いられる。骨や歯の主成分であるハイドロキシアパタイト(HAP;Ca10(PO4)6(OH)2)は、イオン交換能、吸着能、非化学量論性などの特徴を持つ機能性無機物質であり、HAPを用いた触媒設計では、1)触媒活性金属種を単核で固定化できる、2)金属種はHAP表面に強固に固定化され反応溶液中への溶出がなく、触媒活性種として効率良く機能する、3)中性担体であるため、担体由来の副反応がない、等の特徴を有する。HAPを用いた触媒反応を示す文献としては例えば、以下に記載のものがある。
1) J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 7145.
2) Chem. Commun. 2001, 461.
3) New. J. Chem. 2002, 26, 1536.
4) J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 11460.
5) J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 11572.
6) Tetrahedron Lett. 2003, 44, 4981.
7) Tetrahedron Lett. 2003, 44, 620
これらの触媒は単独でも2種以上を同時に用いても、後から追加して用いてもよい。
【0039】
金属担持触媒としては、金/ヒドロキシアパタイト、金/炭素、金/チタニア、金/ジルコニア、金/セリア、白金/炭素、白金/チタニア、白金/セリア、パラジウム/炭素、パラジウム/シリカ、パラジウム/アルミナ、レニウム/炭素、レニウム/シリカ、レニウム/アルミナ、コバルト/炭素、コバルト/チタニア、コバルト/セリアが好ましく、金/炭素、金/チタニア、金/ジルコニア、金/セリア、白金/炭素、パラジウム/炭素、パラジウム/シリカ、レニウム/炭素、レニウム/シリカ、コバルト/炭素、コバルト/チタニア、コバルト/セリアがより好ましく、中でも金/HAP、金/チタニア、金/ジルコニア、金/セリア、コバルト/炭素が、反応活性が高く、使用後の金属の回収が容易であるという点で特に好ましい。
【0040】
上記の酸化エステル化触媒または酸化触媒の使用量は原料に対する金属換算量として0.002質量ppm以上100000質量ppm以下であることが好ましい。酸化エステル化触媒または酸化触媒の使用量の下限は原料に対する金属換算量として0.02質量ppmであることがさらに好ましい。一方、上限は原料に対する金属換算量で50000質量ppmであることがさらに好ましい。上記触媒の使用量が0.002質量ppmより少ないと反応時間がかかり過ぎて非効率的となる場合があり、100000質量ppmより多いと触媒にかかるコストが高くなり不経済であると共に、後処理の負荷が大きくなり、さらには生成物が着色しやすくなる場合がある等の点で不利である。
【0041】
本製造方法で最も好適な貴金属担持触媒について、担持方法には特に制限はないが、金属をできる限り高分散状態で担体に担持できる製法が好ましい。例えば、担体を溶媒中にスラリーとして分散させ、該スラリーに、可溶性の貴金属の塩、錯化合物、または有機金属錯体を溶液として添加し接触させ、吸着、イオン交換、または配位子交換等で担体の表面に結合、担持させる方法が挙げられる。
なお、本製造方法に用いる担持触媒は、反応終了後回収され、焼成等により再生され、再使用されることが好ましい。
【0042】
<反応容器>
本製造方法における反応方式は、バッチ方式および流通方式などで実施できる。なお、反応器や流路などの接液材質は、ガラス製、ステンレス(SUS)製、鉄製、その他金属製など、反応器の素材に特に限定されないが、腐食耐性を有し、エネルギー伝達効率が高いガラス製あるいはステンレス(SUS)製のものが好ましく用いられる。また、工業的な製造装置コストという観点からステンレス(SUS)製のものを用いるのが好ましい。
【実施例0043】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下における各種物性等の測定方法は次の通りである。
【0044】
実施例1
(1)触媒の調製
担体であるヒドロキシアパタイトを溶媒中にスラリーとして分散させ、該スラリーに、可溶性の金の塩である塩化金酸を溶液として添加し、接触させ、担体の表面に吸着させることで、Au/HAP触媒を調製した。
(2)フランジカルボン酸エステルの合成
上記で調製した触媒を用いて、以下の式(7)に示す反応により、HMFからフランジカルボン酸メチルエステル(FDCAMe)を合成した。
反応雰囲気として、供給気体は5体積%の酸素と95体積%の窒素からなる混合ガスを用い、HMF1モルに対して1.39モルの酸素を供給した。触媒として金属換算量50000質量ppmを用い、塩基としてHMF1モルに対して0.1モル当量の炭酸ナトリウムを用い、エステル化剤としてメタノールを使用した。反応温度を100℃、反応時間を12時間として、下記式(7)に示される反応をバッチ方式で行った。
生成物としてはモノエステル体(FDCAMMe)とジエステル体(FDCADMe)が得られた。ガスクロマトグラフ法により、HMFの転化率、FDCAMMe及びFDCADMeの収率を求めた。結果を表1に示す。
【0045】
【0046】
実施例2及び3
実施例1において、酸素含有ガスの酸素供給量をHMF1モルに対して、それぞれ2.08モル及び2.77モルに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0047】
実施例4及び5
実施例1において、触媒の担体として、表1に示すように、HAPに代えて、チタニア(TiO2)又はセリア(CeO2)を用い、酸素含有ガスの酸素供給量をHMF1モルに対して5.55モルとしたこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。なお、反応時間は24時間とした。結果を表1に示す。
【0048】
比較例1
実施例4において、酸素含有ガスとして空気(酸素含有量;21体積%)を用い酸素供給量をHMF1モルに対して6.05モルとしたこと以外は、実施例4と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0049】
比較例2
実施例4において、酸素含有ガスとして、酸素ガス(酸素含有量;100体積%)を用い酸素供給量をHMF1モルに対して7.57モルとしたこと以外は、実施例4と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
実施例及び比較例の結果から、酸素含有ガス中の酸素濃度が低いことによって(実施例1~5)、生成物(モノエステル体及びジエステル体)の収率が向上することがわかる。また、本発明によれば、塩基の含有量が0.1モル当量であっても、HMFの転化率が高く、フランジカルボン酸エステルを高い収率で得ることができる。
一方、酸素含有ガス中の酸素濃度が高い比較例1及び2では、HMFの転化率が十分ではなく、フランジカルボン酸エステルの収率も低い結果となった。
本発明によれば、フラン含有化合物から高い収率でフランジカルボン酸エステルを得ることができる。HMFはバイオマス原料から得られるため、化石資源原料では達成が困難である循環型社会の実現可能性を有しており、産業上の利用価値は極めて大きい。
また、本発明によれば、塩基の使用量を削減することができることから、装置腐食の懸念がなく、かつ廃水処理が容易となり、生産性にも優れる。