(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132208
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】切削装置および切削方法
(51)【国際特許分類】
B24B 55/02 20060101AFI20240920BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20240920BHJP
B24D 3/06 20060101ALI20240920BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B24B55/02 D
B24B27/06 M
B24D3/06 A
H01L21/78 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042896
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤星 祐樹
【テーマコード(参考)】
3C047
3C063
3C158
5F063
【Fターム(参考)】
3C047FF06
3C047FF11
3C047FF19
3C047GG01
3C063AA02
3C063AB03
3C063BC02
3C063CC02
3C063EE10
3C063FF18
3C158AA03
3C158AA09
3C158AC04
3C158CA01
3C158CA05
3C158CB10
5F063AA22
5F063DD02
5F063DD03
5F063FF28
(57)【要約】
【課題】焼結タイプの切削ブレードによって切削加工を施す際の生産性を向上させることができる切削装置を提供する。
【解決手段】切削装置は、基板を保持する保持手段と、保持手段に保持された基板62を切削する切削手段6と、保持手段と切削手段6とを相対的に切削送りする切削送り手段とを含む。切削手段6は、砥粒がボンド材によって焼結された環状の切り刃を備えた切削ブレード14と、切削ブレード14を回転可能に支持するスピンドルユニット16と、切削ブレード14に隣接して配設され切削水を供給する第一の切削水供給ノズル38とを備える。第一の切削水供給ノズル38は、切削送り方向下流側に配設されるとともに、切り刃の手前の基板62上面に切削水Wを供給して間接的に切り刃に切削水Wを供給する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を切削する切削装置であって、
該基板を保持する保持手段と、該保持手段に保持された該基板を切削する切削手段と、該保持手段と該切削手段とを相対的に切削送りする切削送り手段と、を含み、
該切削手段は、砥粒がボンド材によって焼結された環状の切り刃を有する切削ブレードと、該切削ブレードを回転可能に支持するスピンドルユニットと、該切削ブレードに隣接して配設され切削水を供給する切削水供給ノズルと、を備え、
該切削水供給ノズルは、切削送り方向下流側に配設されるとともに、該切り刃の手前の該基板上面に切削水を供給して間接的に該切り刃に切削水を供給する切削装置。
【請求項2】
該切り刃の手前とは、25mm以下である請求項1記載の切削装置。
【請求項3】
該切り刃の手前とは、4~8mmである請求項1記載の切削装置。
【請求項4】
該基板はセラミックス基板である請求項1記載の切削装置。
【請求項5】
該切り刃のボンド材は、メタルボンド材である請求項1記載の切削装置。
【請求項6】
基板を切削する切削方法であって、
該基板を保持手段で保持する保持工程と、
該保持手段に保持された該基板の上面を、砥粒がボンド材によって焼結された環状の切り刃を有する切削ブレードを回転可能に備えた切削手段で切削する切削工程と、を含み、
該切削工程において、切削送り方向下流側に切削水供給ノズルを配設するとともに、該切り刃の手前の該基板上面に切削水を供給して間接的に該切り刃に切削水を供給する切削方法。
【請求項7】
該切り刃の手前とは、25mm以下である請求項6記載の切削方法。
【請求項8】
該切り刃の手前とは、4~8mmである請求項6記載の切削方法。
【請求項9】
該基板はセラミックス基板である請求項6記載の切削方法。
【請求項10】
該切り刃のボンド材は、メタルボンド材である請求項6記載の切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を切削する切削装置および基板を切削する切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハは、切削装置によって個々のデバイスチップに分割され、分割された各デバイスチップは携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
セラミックスコンデンサー、次世代車載部品、高周波モジュール、半導体パッケージ用の基板、耐環境性が要求される基板(HTCC、LTCC、AlN、Al2O3、Si3N4を含む)などを個々のチップに分割する際に、ダイヤモンド砥粒をニッケルメッキで固定した電鋳ブレードを切り刃として外周に備えた切削ブレードで切削すると、チップにクラックやチッピングが生じてチップの品質低下を招くことがある。
【0004】
そこで、上述した基板を切削する際には、たとえば銅と錫を含むメタルボンド材でダイヤモンド砥粒を焼結した焼結タイプの切削ブレードが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、焼結タイプの切削ブレードは、電鋳ブレードに比べて強度が低いので、切削送り速度を低速(たとえば10mm/s程度以下)にしないと損傷するおそれがある。このため、焼結タイプの切削ブレードを用いる加工は、生産性が悪いという問題がある。
【0007】
本発明の課題は、焼結タイプの切削ブレードによって切削加工を施す際の生産性を向上させることができる切削装置および切削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記課題を解決する以下の切削装置が提供される。すなわち、
「基板を切削する切削装置であって、
該基板を保持する保持手段と、該保持手段に保持された該基板を切削する切削手段と、該保持手段と該切削手段とを相対的に切削送りする切削送り手段と、を含み、
該切削手段は、砥粒がボンド材によって焼結された環状の切り刃を有する切削ブレードと、該切削ブレードを回転可能に支持するスピンドルユニットと、該切削ブレードに隣接して配設され切削水を供給する切削水供給ノズルと、を備え、
該切削水供給ノズルは、切削送り方向下流側に配設されるとともに、該切り刃の手前の該基板上面に切削水を供給して間接的に該切り刃に切削水を供給する切削装置」が提供される。
【0009】
該切り刃の手前とは、25mm以下でよい。好ましくは、該切り刃の手前とは、4~8mmである。該基板はセラミックス基板であるのが望ましい。該切り刃のボンド材は、メタルボンド材であるのが好適である。
【0010】
また、本発明によれば、上記課題を解決する以下の切削方法が提供される。すなわち、
「基板を切削する切削方法であって、
該基板を保持手段で保持する保持工程と、
該保持手段に保持された該基板の上面を、砥粒がボンド材によって焼結された環状の切り刃を有する切削ブレードを回転可能に備えた切削手段で切削する切削工程と、を含み、
該切削工程において、切削送り方向下流側に切削水供給ノズルを配設するとともに、該切り刃の手前の該基板上面に切削水を供給して間接的に該切り刃に切削水を供給する切削方法」が提供される。
【0011】
該切り刃の手前とは、25mm以下でよい。好ましくは、該切り刃の手前とは、4~8mmである。該基板はセラミックス基板であるのが望ましい。該切り刃のボンド材は、メタルボンド材であるのが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焼結された切り刃に切削水が直接供給されないので、切り刃の横ブレが抑制される。このため、切削送り速度が比較的大きい(たとえば、20mm/s)ときでも、切り刃の損傷が防止されるとともに、チップにクラックやチッピングが発生するのが抑制される。したがって、本発明によれば、焼結タイプの切削ブレードによって切削加工を施す際の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図2に示すブレードカバーを分解した状態を示す斜視図。
【
図4】(a)
図2に示すスピンドルユニットの分解斜視図、(b)(a)に示すスピンドルユニットの斜視図。
【
図5】
図1に示す切削装置で切削工程を実行している状態を示す模式図。
【
図7】第一の切削水供給ノズルから切削ブレードの切り刃に切削水を直接供給しながら基板を切削している状態を示す模式図(従来例の模式図)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る切削装置および切削方法の好適実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
(切削装置2)
図1を参照して説明すると、切削装置2は、基板を保持する保持手段4と、保持手段4に保持された基板を切削する切削手段6と、保持手段4と切削手段6とを相対的に切削送りする切削送り手段(図示していない。)とを含む。
【0016】
(保持手段4)
保持手段4は、X軸方向に移動自在かつZ軸方向を軸心として回転自在に構成されたチャックテーブル8と、チャックテーブル8の周縁に周方向に間隔をおいて配置された複数のクランプ10とを備える。チャックテーブル8の上端部分には、吸引手段(図示していない。)に接続された多孔質の吸着チャック12が配置されている。保持手段4は、吸引手段で吸着チャック12の上面に吸引力を生成して基板を吸引保持する。なお、図示の吸着チャック12は矩形状であるが、吸着チャックは矩形状に限定されず円形状などの他の形状であってもよい。
【0017】
なお、X軸方向は、
図1に矢印Xで示す方向であり、Z軸方向は、
図1に矢印Zで示す方向であってX軸方向に直交する上下方向である。また、
図1に矢印Yで示すY軸方向は、X軸方向およびZ軸方向に直交する方向である。X軸方向およびY軸方向が規定するXY平面は実質上水平である。
【0018】
(切削手段6)
図2および
図5に示すとおり、切削手段6は、切削ブレード14(
図2および
図5参照)と、切削ブレード14を回転可能に支持するスピンドルユニット16(
図2および
図5参照)と、切削ブレード14に隣接して配設され切削水を供給する切削水供給ノズル18(
図5参照)と、を備える。
【0019】
(切削ブレード14)
図示の切削ブレード14は、砥粒がボンド材によって焼結された環状の切り刃を有する焼結タイプのブレードである。切削ブレード14の砥粒は、ダイヤモンド砥粒が用いられ得る。また、切削ブレード14のボンド材としては、たとえば銅と錫を含むメタルボンド材でよい。
【0020】
(スピンドルユニット16)
図2に示すとおり、スピンドルユニット16は、ハウジング20と、ハウジング20の先端に装着されたブレードカバー22と、Y軸方向を軸心として回転自在にハウジング20に支持されたスピンドル24と、スピンドル24を回転させるスピンドル用モータ(図示していない。)とを有する。
【0021】
図2および
図3を参照することによって理解されるとおり、ブレードカバー22は、ハウジング20の先端に固定された固定カバー22aと、固定カバー22aの先端にネジ26を介して着脱自在に装着された着脱カバー22bと、固定カバー22aの上部にネジ28を介して着脱自在に装着されたブレード検出ブロック22cとを含む。図示していないが、ブレード検出ブロック22cには、協働して切削ブレード14を検出するための発光部材および受光部材が装着されている。
【0022】
図4(a)を参照して説明すると、スピンドル24の先端側外周面には、径方向外側に突出する環状のマウントフランジ30が設けられている。マウントフランジ30よりも更に先端側のスピンドル24の外周面には、雄ねじ32が形成されている。
【0023】
図4(a)および
図4(b)に示すように、スピンドル24の先端部には、まず、切削ブレード14が装着され、次いで、環状の着脱フランジ34が装着される。そして、スピンドル24の雄ねじ32にナット36が嵌め合わされる。これによって、マウントフランジ30と着脱フランジ34とで切削ブレード14がY軸方向両側から挟まれ、スピンドル24の先端に切削ブレード14が固定される。そして、上記スピンドル用モータによりスピンドル24が回転されると、スピンドル24とともに切削ブレード14が回転する。
【0024】
(切削水供給ノズル18)
図3および
図5を参照して説明すると、図示の切削水供給ノズル18は、切削ブレード14の手前に切削水を供給する第一の切削水供給ノズル38(
図5参照)と、切削ブレード14の両面に向かって切削水を供給する第二・第三の切削水供給ノズル40a、40b(第二の切削水供給ノズル40aについては
図3参照)とを有する。
【0025】
(第一の切削水供給ノズル38)
第一の切削水供給ノズル38は、切削ブレード14よりも切削送り方向下流側に配設されている。
【0026】
ここで、上記切削送り方向について説明する。本実施形態の切削装置2においては、切削加工の際に、基板を保持したチャックテーブル8が切削送り手段によって
図5に矢印X1で示す方向に移動する。一方、切削手段6自体はX軸方向には移動しないものの、基板を保持したチャックテーブル8から見ると、
図5に矢印X2で示す方向に切削手段6が相対的に移動することになる。そして、切削送り方向とは、チャックテーブル8に保持された基板に対する切削ブレード14の移動方向である。すなわち、図示の実施形態における切削送り方向は、
図5において左から右に向かうX2方向である。
【0027】
したがって、第一の切削水供給ノズル38に関し、「切削ブレード14よりも切削送り方向下流側に配設されている」とは、「
図5において切削ブレード14の右側に配設されている」ことを意味する。
【0028】
第一の切削水供給ノズル38は、ブレードカバー22の固定カバー22aの右側下端部に装着されており、下方に向かって切削送り方向上流側に傾斜して(斜め下方に)延びている。また、第一の切削水供給ノズル38のY軸方向位置は、切削ブレード14のY軸方向位置に整合している。
【0029】
固定カバー22aの上面には、第一の切削水供給ポート42が設けられている。第一の切削水供給ポート42は、固定カバー22a内の流路(図示していない。)を介して第一の切削水供給ノズル38に連通している。図示していないが、第一の切削水供給ポート42は、ホースなどの管路部材を介して切削水供給手段に接続されている。
【0030】
そして、切削水供給手段から第一の切削水供給ノズル38に供給された切削水Wは、
図5に示すとおり、切削ブレード14の切り刃の手前(切削ブレード14よりも切削送り方向下流側)の基板上面に供給され、切削ブレード14の切り刃に間接的に供給される。
【0031】
すなわち、第一の切削水供給ノズル38から噴射された切削水Wは、切削ブレード14の切り刃に直接かかることはなく、基板上面にかかった後に切削ブレード14の切り刃に供給される。
【0032】
切削水Wが供給される基板62上面の上記「切削ブレード14の切り刃の手前」については、たとえば、加工点P1からの切削送り方向(X2方向)の距離Lが25mm以下となる位置(点P2)に設定され得る。特に、上記「切削ブレード14の切り刃の手前」として、距離Lが4~8mmの範囲となる位置に設定されるのが好ましい(4mm≦L≦8mm)。
【0033】
加工点P1は、切削ブレード14が基板62に対して切削加工を施している点である。点P2は、第一の切削水供給ノズル38の中心線と基板62との交点であり、噴射された切削水Wの中心である。尚、第一の切削水供給ノズル38の噴射口の内径はφ1.5mmである。
【0034】
なお、第一の切削水供給ノズル38は、ブレードカバー22の固定カバー22aに角度調整自在に取り付けられており、第一の切削水供給ノズル38の取り付け角度を調整することによって、上記距離Lを変更できるようになっている。
【0035】
(第二・第三の切削水供給ノズル40a、40b)
図3に示すように、第二・第三の切削水供給ノズル40a、40bは、Y軸方向において切削ブレード14を挟んで対向する位置に設けられている。
【0036】
第二の切削水供給ノズル40aは、切削ブレード14よりも
図3においてY軸方向奥側に配置されている。第二の切削水供給ノズル40aは、
図3において固定カバー22aの左側下端から下方に突出した後、切削送り方向下流側に向かって延びている。第二の切削水供給ノズル40aの切削ブレード14に対向する面には、X軸方向に間隔をおいて複数の噴射孔(図示していない。)が形成されている。
【0037】
一方、第三の切削水供給ノズル40bは、切削ブレード14よりも
図3においてY軸方向手前側に配置されている。第三の切削水供給ノズル40bは、
図3において着脱カバー22bの左側下端から下方に突出した後、切削送り方向下流側に向かって延びている。第三の切削水供給ノズル40bの切削ブレード14に対向する面には、X軸方向に間隔をおいて複数の噴射孔(図示していない)が形成されている。
【0038】
図2および
図3に示すように、固定カバー22aの上面には、第二の切削水供給ポート44aが設けられている。第二の切削水供給ポート44aは、固定カバー22a内の流路(図示していない。)を介して第二の切削水供給ノズル40aに連通している。図示していないが、第二の切削水供給ポート44aは、ホースなどの管路部材を介して切削水供給手段に接続されている。
【0039】
着脱カバー22bの上面には、第三の切削水供給ポート44bが設けられている。第三の切削水供給ポート44bは、着脱カバー22b内の流路(図示していない。)を介して第三の切削水供給ノズル40bに連通している。図示していないが、第三の切削水供給ポート44bは、ホースなどの管路部材を介して切削水供給手段に接続されている。
【0040】
そして、切削水供給手段から第二・第三の切削水供給ノズル40a、40bに供給された切削水は、第二・第三の切削水供給ノズル40a、40bのそれぞれの噴射孔から、切削ブレード14の両面(加工点P1よりも上方の位置)に向かって供給される。これによって、切削ブレード14とともに、スピンドル24のマウントフランジ30、着脱フランジ34等も冷却される。
【0041】
(切削送り手段)
図示していないが、切削送り手段は、保持手段4をX軸方向に移動させるX軸送り手段と、切削手段6をY軸方向に移動させるY軸送り手段と、切削手段6をZ軸方向に移動させるZ軸送り手段とを備える。
【0042】
(X軸送り手段)
X軸送り手段は、保持手段4に連結されX軸方向に延びるボールねじと、このボールねじを回転させるモータとを有する。そして、X軸送り手段は、ボールねじによりモータの回転運動を直線運動に変換して保持手段4に伝達し、切削手段6に対して保持手段4をX軸方向に移動させる。
【0043】
(Y軸送り手段)
Y軸送り手段は、切削手段6のハウジング20に連結されY軸方向に延びるボールねじと、このボールねじを回転させるモータとを有する。Y軸送り手段は、ボールねじによりモータの回転運動を直線運動に変換して切削手段6に伝達し、保持手段4に対して切削手段6をY軸方向に移動させる。
【0044】
(Z軸送り手段)
Z軸送り手段は、切削手段6のハウジング20に連結されZ軸方向に延びるボールねじと、このボールねじを回転させるモータとを有する。Z軸送り手段は、ボールねじによりモータの回転運動を直線運動に変換して切削手段6に伝達し、保持手段4に対して切削手段6をZ軸方向に移動させる。
【0045】
図1に示すとおり、切削装置2は、さらに、基板を複数枚収容したカセット46が置かれる昇降自在なカセット台48と、カセット46から加工前の基板を引き出し仮置きテーブル50まで搬出するとともに仮置きテーブル50に位置づけられた加工済みの基板をカセット46に搬入する搬出入手段52と、カセット46から仮置きテーブル50に搬出された加工前の基板をチャックテーブル8に搬送する第一の搬送手段54と、チャックテーブル8に保持された基板を撮像する撮像手段56と、加工済みの基板を洗浄する洗浄手段58と、加工済みの基板をチャックテーブル8から洗浄手段58に搬送する第二の搬送手段60と、を含む。
【0046】
(基板62)
図6には、上述の切削装置2によって切削加工が施される基板62が示されている。基板62は、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)などの適宜のセラミックスから形成され得る。図示の基板62は、たとえば100mm×100mm程度の矩形状であるが、切削装置2によって切削加工が施される基板は、矩形状に限定されず、円形状などの他の形状であってもよい。また、基板62の厚みは、たとえば500μm程度である。
【0047】
図6に示す基板62は、ダイシングテープ64を介して環状フレーム66に支持されている。すなわち、基板62がダイシングテープ64に貼り付けられ、ダイシングテープ64の周縁が環状フレーム66に固定されている。
【0048】
次に、上述した切削装置2を用いて、基板62を切削する切削方法について説明する。
【0049】
図示の実施形態では、まず、搬出入手段52によってカセット46から仮置きテーブル50に加工前の基板62を搬出する。次いで、仮置きテーブル50から、受け渡し位置(
図1に示す位置)に位置づけられている保持手段4のチャックテーブル8に、第一の搬送手段54によって基板62を搬送し、チャックテーブル8の上面に基板62を置く。
【0050】
(保持工程)
次いで、基板62を保持手段4で保持する保持工程を実施する。保持工程においては、吸引手段を作動して、吸着チャック12の上面に吸引力を生成することにより、吸着チャック12の上面で基板62を吸引保持する。また、複数のクランプ10によって環状フレーム66を固定する。
【0051】
(切削工程)
保持工程を実施した後、保持手段4に保持された基板62の上面を、砥粒がボンド材によって焼結された環状の切り刃を有する切削ブレード14を回転可能に備えた切削手段6で切削する切削工程を実施する。
【0052】
切削工程においては、まず、X軸送り手段によって撮像手段56の直下に基板62を位置づけ、撮像手段56によって基板62を撮像する。次いで、撮像手段56で撮像した画像に基づいてチャックテーブル8を回転させることにより、基板62の向きを調整し、切削加工を施すべき所定領域をX軸方向に整合させる。
【0053】
基板62の向きを調整した後、X軸送り手段によってチャックテーブル8を切削手段6の下方に移動させる。次いで、
図5に矢印R1で示す方向に切削ブレード14を回転させる。次いで、Z軸送り手段により切削手段6を下降させて、切削ブレード14の刃先を基板62の上面から下面に至るまで切り込ませるとともに、第一・第二・第三の切削水供給ノズル38、40a、40bから切削水を供給しつつ、X軸送り手段によってチャックテーブル8をX1方向に移動させる。これによって、基板62に所要の切削加工を施すことができる。
【0054】
図5を参照して、切削水の供給について詳述する。第一の切削水供給ノズル38からは、切削ブレード14の切り刃の手前(切削ブレード14よりも切削送り方向下流側)の基板62上面に切削水Wを供給して、切削ブレード14の切り刃に間接的に切削水Wを供給する。
【0055】
すなわち、第一の切削水供給ノズル38から噴射する切削水Wが、切削ブレード14の切り刃に直接かからず、基板62上面にかかった後に切削ブレード14の切り刃に供給されるようにする。
【0056】
切削水Wが供給される基板62上面の上記「切削ブレード14の切り刃の手前」については、たとえば、加工点P1からの切削送り方向(X2方向)の距離Lが25mm以下となる位置(点P2)に設定することができる。特に、上記「切削ブレード14の切り刃の手前」として、距離Lが4~8mmの範囲となる位置に設定するのが好ましい(4mm≦L≦8mm)。
【0057】
切削送り方向下流側に噴射する切削水Wが切削ブレード14に直接かかると、切削ブレード14の横ブレが発生し、加工品質が悪化するとともに、切削ブレード14が損傷するおそれがある。一方、上記距離Lが25mmよりも大きいと、第一の切削水供給ノズル38からの切削水Wが加工点P1に十分に供給されず、加工品質が悪化するとともに、加工熱に起因して切削ブレード14が損傷するおそれがある。
【0058】
したがって、上記距離Lが25mm以下となるように(より好ましくは、4mm≦L≦8mmとなるように)設定して、第一の切削水供給ノズル38から切削水Wを供給するのがよい。これによって、切削ブレード14の切り刃の横ブレを抑制しつつ、加工点P1に十分な量の切削水Wを供給することができる。
【0059】
また、第二・第三の切削水供給ノズル40a、40bからは、加工点P1よりも上方の切削ブレード14の両面に向かって切削水を供給して、切削ブレード14とともに、スピンドル24のマウントフランジ30、着脱フランジ34等を冷却する。なお、第二・第三の切削水供給ノズル40a、40bからは、それぞれ同一圧力で同一量の切削水を供給することにより、切削ブレード14の横ブレの発生を防止可能である。
【0060】
そして、切削ブレード14をY軸方向に所要間隔だけ、Y軸送り手段によって移動させながら切削加工を繰り返し、切削加工を施すべき所定領域のすべてに切削加工を施す。また、チャックテーブル8を90度回転させた上で、切削ブレード14のY軸方向への移動と切削加工とを繰り返し、先に切削加工を施した所定領域と直交する所定領域のすべてに沿って切削加工を施す。これによって、基板62を矩形状のチップに分割することができる。なお、基板62は、ダイシングテープ64を介して環状フレーム66に支持されているため、チップに分割された後も基板62の形態が保持される。
【0061】
(加工条件)
このような切削工程は、たとえば、以下の加工条件で実施することができる。
切削送り速度 :15mm/s
切削ブレードの回転数 :45000rpm~60000rpm
切り込み深さ :550μm
切削水の供給量・圧力
第一の切削水供給ノズル:1.0±0.1L/min、0.4MPa
第二の切削水供給ノズル:1.0±0.1L/min、0.4MPa
第三の切削水供給ノズル:1.0±0.1L/min、0.4MPa
切削ブレード :焼結タイプ・メタルボンド材・ダイヤモンド砥粒
厚み :0.15mm
直径(外径) :φ58mm
基板の材料 :LTCC
基板のサイズ :100mm×100mm
基板の厚み :500μm(テープに対し50μm切込み)
分割後のチップサイズ :3mm×3mm
【0062】
(従来例)
本発明者は、本発明とは異なる従来例として、
図7に示すように、第一の切削水供給ノズル38から切削ブレード14の切り刃に切削水を直接供給しながら基板を切削する実験を行った。この従来例においては、下記の加工条件のように、切削送り速度を上記加工条件における切削速度よりも小さくし、かつ、切削ブレード14の回転数を上記加工条件における切削ブレード14の回転数よりも小さくしなければ、切削ブレード14の切り刃の損傷を防止することができず、また、チップにクラックやチッピングが発生するのを抑制することができなかった。
【0063】
(従来例の加工条件)
切削送り速度 :10mm/s
切削ブレードの回転数 :30000rpm
切り込み深さ :550μm
切削水の供給量・圧力
第一の切削水供給ノズル:1.0±0.1L/min、0.4MPa
第二の切削水供給ノズル:1.0±0.1L/min、0.4MPa
第三の切削水供給ノズル:1.0±0.1L/min、0.4MPa
切削ブレード :焼結タイプ・メタルボンド材・ダイヤモンド砥粒
厚み :0.15mm
直径(外径) :φ58mm
基板の材料 :LTCC
基板のサイズ :100mm×100mm
基板の厚み :500μm(テープに対し50μm切込み)
分割後のチップサイズ :3mm×3mm
【0064】
切削工程を実施した後は、X軸送り手段によってチャックテーブル8を受け渡し位置に移動させる。次いで、第二の搬送手段60によってチャックテーブル8から洗浄手段58に加工済みの基板62を搬送し、洗浄手段58で基板62を洗浄する。基板62を洗浄したら、第一の搬送手段54によって洗浄手段58から仮置きテーブル50に基板62を搬送する。そして、搬出入手段52によって仮置きテーブル50からカセット46に基板62を搬入する。
【0065】
以上のとおりであり、図示の実施形態においては、切削送り方向下流側に配設されている第一の切削水供給ノズル38から、焼結タイプの切削ブレード14の切り刃に切削水が直接供給されないので、切り刃の横ブレが抑制される。このため、切削送り速度が比較的大きい(たとえば、20mm/s)ときでも、切り刃の損傷が防止されるとともに、チップにクラックやチッピングが発生するのが抑制され得る。
【0066】
さらに、図示の実施形態の上記加工条件と従来例の上記加工条件とを比較することによって理解されるとおり、図示の実施形態によれば、切削ブレード14の回転数を高めることも可能である。切削ブレードの回転数に関し、図示の実施形態においては、60000rpmまで高めることができるのに対し、従来例においては、上限が30000rpmであった。
【0067】
したがって、図示の実施形態によれば、焼結タイプの切削ブレード14によって切削加工を施す際の生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0068】
2:切削装置
4:保持手段
6:切削手段
14:切削ブレード
16:スピンドルユニット
18:切削水供給ノズル
38:第一の切削水供給ノズル
40a:第二の切削水供給ノズル
40b:第二の切削水供給ノズル
62:基板
W:切削水