(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132221
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】水素化精製触媒の活性の診断方法及び基油の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/33 20060101AFI20240920BHJP
C10G 45/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01N21/33
C10G45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023042914
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 憲寛
(72)【発明者】
【氏名】大野 高志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正浩
(72)【発明者】
【氏名】菅 真璃奈
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 雄介
【テーマコード(参考)】
2G059
4H129
【Fターム(参考)】
2G059AA03
2G059BB04
2G059EE01
2G059EE12
2G059FF08
2G059HH02
2G059HH03
2G059MM05
4H129AA03
4H129CA08
4H129CA18
4H129DA14
4H129KA05
4H129KB02
4H129NA21
4H129NA33
(57)【要約】
【課題】基油の色相が悪化する前に、水素化精製触媒の活性を簡便に診断することのできる水素化精製触媒の活性の診断方法を提供する。
【解決手段】基油の製造に用いられる水素化精製触媒の活性の診断方法であって、前記水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の基油の紫外可視吸収スペクトルと、前記水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の標準基油の紫外可視吸収スペクトルとの差異に基づいて、前記水素化精製触媒の活性を診断するようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油の製造に用いられる水素化精製触媒の活性の診断方法であって、
前記水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の基油の紫外可視吸収スペクトルと、前記水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の標準基油の紫外可視吸収スペクトルとの差異に基づいて、前記水素化精製触媒の活性を診断する、診断方法。
【請求項2】
前記標準基油及び前記基油の40℃における動粘度が、30mm2/s~500mm2/sである、請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
前記水素化精製触媒が、水素化仕上げ用の水素化精製触媒である、請求項1又は2に記載の診断方法。
【請求項4】
前記基油の紫外可視吸収スペクトルにおける345~375nmに出現する吸収ピーク及び430~440nmに出現する吸収ピークの少なくともいずれかに基づいて、前記水素化精製触媒の活性を診断する、請求項3に記載の診断方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の診断方法を実施する工程を含む、基油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化精製触媒の活性の診断方法及び基油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品として提供される基油には、水素化精製触媒を用いた水素化精製処理を得て製造されるものもある(例えば、特許文献1を参照)。ここで、一般に、触媒の活性は使用に伴い徐々に低下する。このことは、水素化精製触媒においても例外ではない。水素化精製触媒の活性の低下は、基油の品質に影響することから、水素化精製触媒の活性の把握は重要である。
【0003】
水素化精製触媒の活性を把握する方法としては、基油の色相を定期的に監視する方法が広く採用されている。他にも、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーにより分離した多環芳香族の定量分析等により、水素化精製触媒の活性を把握する方法等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、基油の色相が悪化し始めるときには、水素化精製触媒の活性が既に大きく低下しているため、運転条件の調整によるリカバリーは困難であることが多い。そこで、基油の色相が悪化し始める前に、水素化精製触媒の活性を診断する方法を確立することが望ましいと考えられる。ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーを用いた方法は、基油の色相が悪化し始める前に水素化精製触媒の活性を診断し得る点では優れているものの、多環芳香族の分離作業が煩雑であるため、水素化精製触媒の活性を日常的に診断するための方法としては採用し難い。
【0006】
そこで、本発明は、基油の色相が悪化する前に、水素化精製触媒の活性を簡便に診断することのできる水素化精製触媒の活性の診断方法及び当該診断方法を利用した基油の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、下記[1]~[2]が提供される。
[1]基油の製造に用いられる水素化精製触媒の活性の診断方法であって、
前記水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の基油の紫外可視吸収スペクトルと、前記水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の標準基油の紫外可視吸収スペクトルとの差異に基づいて、前記水素化精製触媒の活性を診断する、診断方法。
[2]上記[1]に記載の診断方法を実施する工程を含む、基油の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基油の色相が悪化する前に、水素化精製触媒の活性を簡便に診断することのできる水素化精製触媒の活性の診断方法及び当該診断方法を利用した基油の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】水素化精製触媒使用開始直後の基油のスペクトルと、水素化精製触媒使用開始から一定期間が経過した後の基油のスペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載された数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0011】
[水素化精製触媒の活性の診断方法]
本実施形態の水素化精製触媒の活性の診断方法は、基油の製造に用いられる水素化精製触媒の活性の診断方法であって、水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の基油の紫外可視吸収スペクトルと、水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の標準基油の紫外可視吸収スペクトルとの差異に基づいて、水素化精製触媒の活性を診断する。
本明細書において、セイボルト色は、JIS K2580:2003に準拠して測定される値を意味する。
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の基油(つまり、色相が悪化していない基油)が、水素化精製触媒の使用に伴って、紫外可視吸収スペクトルに変化が生じることを見出した。本発明者らは、この現象を利用することによって、水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の基油であっても、紫外可視吸収スペクトルに基づいて、水素化精製触媒の活性を診断できることを見出し、さらに種々検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0013】
以下、本実施形態の診断方法について、詳細に説明する。
【0014】
<基油>
本実施形態の診断方法においては、水素化精製触媒を用いた水素化精製処理を経て製造される基油を利用して、水素化精製触媒の活性を診断する。
当該基油としては、例えば、水素化精製触媒を用いた水素化精製処理を経て製造される鉱油系基油が挙げられ、好ましくは米国石油協会(API)基油カテゴリーで、グループII又はグループIIIに分類される鉱油系基油である。
【0015】
また、基油は、水素化仕上げ処理を経て製造される鉱油系基油であることが好ましい。水素化仕上げ処理とは、基油の色相改善を主目的として行われる処理である。
また、基油は、水素化仕上げ処理の前段において、水素化改質処理が行われるものであってもよい。水素化改質処理とは、水素化分解により基油の粘度指数を向上させることを主目的として行われる処理である。
【0016】
<基油の製造態様>
以下、基油の製造態様の一例について説明する。
【0017】
(1-1)原料油Aの調製
原料油Aとしては、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油、及びナフテン基系原油から選択される1種以上の原油を常圧蒸留して灯油や軽油等の燃料油留分を取り出し、蒸留塔底部に残存している常圧残油を、減圧蒸留して得られる減圧蒸留油、又は減圧蒸留油及び減圧残油の双方を含むもの等が挙げられる。
ここで、減圧残油は、溶剤脱れき処理を施して溶剤脱れき油とした後、減圧蒸留油と混合して、原料油Aとして用いることが好ましい。すなわち、原料油Aは、減圧蒸留油と溶剤脱れき油との混合油であることが好ましい。
溶剤脱れき処理に用いる溶剤としては、例えば、炭素数3~6の鎖状飽和炭化水素が挙げられ、具体的には、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン等が挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
(1-2)原料油Bの調製
原料油Bとしては、重質油水素化分解残渣油、又は重質油水素化分解残渣油及びワックスの混合油が挙げられる。
重質油水素化分解残渣油は、燃料油の製造工程において、減圧蒸留装置から得られた重質燃料油を含む油を水素化分解し、ナフサ-灯軽油を製造する際に得られるボトム留分である。
また、ワックスは、ボトム留分を溶剤脱蝋処理することで分離されるスラックワックスである。溶剤脱蝋処理としては、後述する処理法が挙げられる。
【0019】
(2)精製処理
原料油A及び原料油Bは、少なくとも水素化仕上げ処理を経て、製品としての鉱油系基油が製造される。
詳細には、原料油Aは、好ましくは、水素化改質処理が行われた後、溶剤脱蝋処理及び水素化異性化脱蝋処理の少なくともいずれかの処理が行われ、次いで水素化仕上げ処理が行われる。そして、必要に応じて後述する後処理が行われ、製品としての鉱油系基油が製造される。なお、水素化異性化脱蝋処理は、水素化仕上げ処理の後に行われてもよい。したがって、原料油Aは、例えば、水素化改質処理、溶剤脱蝋処理、水素化仕上げ処理、水素化異性化脱蝋処理がこの順で行われてもよい。
原料油Bが重質油水素化分解残渣油及びワックスの混合油である場合、好ましくは、水素化異性化脱蝋処理が行われた後、水素化仕上げ処理が行われる。そして、必要に応じて後述する後処理が行われ、製品としての鉱油系基油が製造される。
原料油Bが重質油水素化分解残渣油である場合、好ましくは、溶剤脱蝋処理が行われた後、水素化仕上げ処理が行われる。そして、必要に応じて後述する後処理が行われ、製品としての鉱油系基油が製造される。
【0020】
(水素化改質処理)
水素化改質処理は、水素化分解により精製油の粘度指数を向上させることを主目的として行われる水素化精製処理である。
水素化改質処理は、水素化改質処理用の水素化精製触媒の存在下、水素分圧、反応温度、液時空間速度、及び水素ガスの供給割合(中でも、反応温度、液時空間速度、及び水素ガスの供給割合)等を適宜調整して行われる。
【0021】
(溶剤脱蝋処理)
溶剤脱蝋処理は、原料油中に含まれるワックス分を除去することを目的として行われる精製処理である。
溶剤脱蝋処理は、各種条件を適宜調整して行われる。
【0022】
溶剤脱蝋処理に用いる溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6の脂肪族ケトン;プロパン、ブタン等の炭素数3~6の脂肪族炭化水素;トルエン等が挙げられる。
溶剤脱蝋処理における冷却温度としては、例えば、好ましくは-40~0℃である。
なお、冷却して析出したワックス(スラックワックス)は、ろ過して液体分(溶剤及び処理油)と分離する。そして、当該液体分から溶剤を除去して、溶剤脱蝋油が得られる。
【0023】
(水素化異性化脱蝋処理)
水素化異性化脱蝋処理は、原料油中に含まれる直鎖パラフィンをイソパラフィンに異性化することを主目的として行われる水素化精製処理である。なお、水素化異性化脱蝋処理により、硫黄分や窒素分等の不純物の除去等を行うこともできる。
ここで、原料油Aを用いる場合、水素化異性化脱蝋処理は、原料油Aから溶剤脱蝋処理により分離されたワックス(スラックワックス)に対して行い、当該ワックス由来の水素化異性化脱蝋油と溶剤脱蝋油とを混合してもよい。あるいは、水素化異性化脱蝋油のみを後述する水素化仕上げ処理に供するようにしてもよい。また、水素化異性化脱蝋処理は、後述する水素化仕上げ処理後に行うようにしてもよい。
水素化異性化脱蝋処理は、水素化異性化脱蝋処理用の水素化精製触媒の存在下、水素分圧、反応温度、液時空間速度、及び水素ガスの供給割合(中でも、反応温度、液時空間速度、及び水素ガスの供給割合)等を適宜調整して行われる。
【0024】
(水素化仕上げ処理)
水素化仕上げ処理は、精製油の色相改善を主目的として行われる水素化精製処理である。なお、水素化仕上げ処理により、原料油中に含まれる芳香族分の飽和化、並びに、硫黄分及び窒素分等の不純物の除去等を行うこともできる。
水素化仕上げ処理は、水素化仕上げ処理用の水素化精製触媒の存在下、水素分圧、反応温度、液時空間速度、及び水素ガスの供給割合(中でも、反応温度、液時空間速度、及び水素ガスの供給割合)等を適宜調整して行われる。
【0025】
(後処理)
上記精製処理の終了後、得られた精製油に対して減圧蒸留を施し、所望の動粘度となるように留分を回収して、基油を得ることができる。
なお、減圧蒸留の諸条件(圧力、温度、及び時間等)は、得られる基油の動粘度が所望の範囲となるように、適宜調整される。
【0026】
(基油の動粘度)
基油の動粘度(40℃における動粘度)としては、好ましくは30mm2/s~500mm2/s、より好ましくは35mm2/s~470mm2/s、更に好ましくは38mm2/s~450mm2/sである。
また、基油の粘度指数としては、好ましくは75以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは85以上である。また、通常150以下である。
本明細書において、基油の動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出される値を意味する。
【0027】
(3)水素化精製触媒
水素化改質用の水素化精製触媒、水素化異性化脱蝋用の水素化精製触媒、及び水素化仕上げ用の水素化精製触媒としては、例えば、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、及びコバルト(Co)から選択される2種以上の金属材料を含む触媒;白金(Pt)及びパラジウム(Pd)等の貴金属等が挙げられる。
ここで、水素化改質用の水素化精製触媒としては、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、及びコバルト(Co)から選択される2種以上の金属材料を含む触媒であることが好ましく、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、及びコバルト(Co)から選択される1種以上の金属材料とタングステン(W)とを含む触媒であることがより好ましい。
水素化異性化脱蝋用の水素化精製触媒としては、貴金属系の触媒が好ましい。
水素化仕上げ用の水素化精製触媒としては、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、及びコバルト(Co)から選択される2種以上の金属材料を含む触媒であることが好ましく、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、及びコバルト(Co)から選択される1種以上の金属材料とモリブデン(Mo)とを含む触媒であることがより好ましい。
なお、触媒は、担体に担持させて使用してもよい。担体としては、シリカ及びアルミナの複合材料、アルミナ等の非晶質担体、並びにゼオライト等の結晶質担体等が挙げられる。
【0028】
ここで、本実施形態の診断方法において、診断対象となる水素化精製触媒は、好ましくは水素化仕上げ用の水素化精製触媒である。水素化仕上げ処理は、既述のように精製油の色相改善を主目的とする水素化精製処理である。水素化仕上げ用の水素化精製触媒の活性が低下すると、基油の色相が悪化し、セイボルト色が+28未満となる。基油の色相がこのレベルまで悪化すると、水素化精製触媒の活性が既に大きく低下しているため、運転条件の調整による水素化精製触媒の活性のリカバリーは困難であることが多い。本実施形態の診断方法では、基油の色相がこのレベルまで悪化する前に、水素化仕上げ用の水素化精製触媒の活性の低下を早期に把握することができる。したがって、運転条件の調整により水素化精製触媒の活性をリカバリーしやすい。換言すれば、水素化仕上げ用の水素化精製触媒の活性の低下を早期に把握し、運転条件の調整により、基油生産への負の影響を抑えることができる。また、例えば賦活運転等を行うことで、水素化仕上げ用の水素化精製触媒の活性を回復させ、水素化仕上げ用の水素化精製触媒の使用期間を長期化することもできる。
【0029】
<診断の態様>
本実施形態の診断方法では、水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の基油の紫外可視吸収スペクトルと、水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の標準基油の紫外可視吸収スペクトルとの差異に基づいて、水素化精製触媒の活性を診断する。
ここで、標準基油は診断用リファレンスであり、水素化精製触媒の活性を診断するための診断用試料である基油との比較のために用いられる。
標準基油としては、診断用試料である基油よりも前に製造された基油が用いられ、好ましくは活性の低下が生じていないか又は活性の低下の程度が低い水素化精製触媒(例えば使用開始から一定期間以内(好ましくは使用開始直後)における水素化精製触媒)を用いて製造された基油が用いられる。
そして、診断用リファレンスの紫外可視吸収スペクトルと、診断用試料である基油の紫外可視吸収スペクトルとを比較し、紫外可視吸収スペクトルの差異に基づいて、水素化精製触媒の活性を診断する。これにより、診断用リファレンスである標準基油を製造した際の水素化精製触媒の活性に対し、診断用試料である基油を製造した際の水素化精製触媒の活性の状況(活性が低下しているか又は活性が維持されているか)を診断することができる。また、例えば賦活運転等により水素化精製触媒の活性を回復させた場合に、水素化精製触媒の活性の向上を診断することもできる。
ここで、紫外可視吸収スペクトルの差異とは、(1)診断用リファレンスの紫外可視吸収スペクトルには存在しないピークが診断用試料の紫外可視吸収スペクトルに出現すること;(2)診断用リファレンスと診断用試料の双方の紫外可視吸収スペクトルに検出されるピークについて、診断用試料の紫外可視吸収スペクトルにおける当該ピークの吸光度が増加すること;(3)診断用リファレンスと診断用試料の双方の紫外可視吸収スペクトルに検出されるピークについて、診断用試料の紫外可視吸収スペクトルにおける当該ピークの吸光度が減少すること;(4)診断用リファレンスと診断用試料の双方の紫外可視吸収スペクトルに検出されるピークについて、診断用試料の紫外可視吸収スペクトルにおける形状の変化;(5)長波長側のベースラインの変動;等が挙げられる。
【0030】
ここで、
図1に、2つの基油の紫外可視吸収スペクトルを示す。
図1中、スペクトルA1は、水素化精製触媒の活性の低下が生じていない、水素化精製触媒使用開始直後の基油のスペクトルである。スペクトルA2は、水素化精製触媒使用開始から一定期間が経過した後の基油のスペクトルである。なお、2つの基油はいずれもセイボルト色が+30である。
2つのスペクトルを比較すると、スペクトルA2において、スペクトルA1では確認できないピークが多数存在し、中でも430~440nmに存在するピークは、コロネンダイマーに帰属されるピークであるものと推定される。
基油の色相の悪化の直接的な原因は多環芳香族であることが公知であるが、当該多環芳香族の多くは、基油の製造の最終工程おけるストリッピング装置及び/又は蒸留装置において前駆体から成長し、生成しているものと考えられる。水素化精製触媒使用開始から一定期間が経過すると、当該前駆体が多くなり、紫外可視吸収スペクトルにおいて検出され得るものと推定される。
つまり、水素化精製触媒使用開始から一定期間が経過したときに見られる紫外可視吸収スペクトルの変化は、基油の色相悪化の予兆を示し、水素化精製触媒の活性の低下を示す指標となり得る。
【0031】
ここで、上記(1)の診断に際し、水素化精製触媒の活性の判断は、ピークの吸光度の大きさに基づいて判断してもよい。
例えば、
図1に示すように、430~440nmに存在するピークの頂点とピークの裾の吸光度の差(ΔAbs)を算出し、この値が一定値を超えたときに(すなわち、閾値を設けて、当該閾値を超えたときに)水素化精製触媒の活性が低下していると判断するようにしてもよい(以下、この方法を「第1の方法」ともいう)。
なお、ピークの吸光度の大きさの算出法は、上記第1の方法には限定されず、ピークの吸光度の大きさを定量的に判断し得る各種方法を採用し得る。例えば、ピークが存在せず吸光度が一定値を示す長波長側(例えば500nmよりも長波長領域)の吸光度とピークの頂点における吸光度の差を用いてもよい(以下、この方法を「第2の方法」ともいう)。あるいは、水素化精製触媒の使用期間に伴う大きさの変動が見られない固有ピークの吸光度と水素化精製触媒の使用期間に伴う大きさの変動が見られるピークの吸光度の差又は比を用いてもよい(以下、この方法を「第3の方法」ともいう)。
【0032】
上記(2)及び(3)の場合にも、上記第1の方法~第3の方法を採用し、診断用リファレンスと比較して、ピークの吸光度の大きさが一定以上増加又は減少したことを判断基準として、水素化精製触媒の活性を診断するようにしてもよい。
【0033】
上記(4)としては、着目しているピークに二以上の成分が混在しているケースが挙げられる。例えば、着目しているピークが、第1の成分に由来するピーク(第1成分ピーク)と第2の成分に由来するピーク(第2成分ピーク)とが一部重なって合成ピークとなっており、水素化精製触媒の使用期間に伴う第1成分ピークと第2成分ピークの大きさの変動の仕方が異なる場合、水素化精製触媒の使用期間に伴って、合成ピークの形状が変動する。したがって、例えば、当該合成ピークのスペクトル幅を算出し、診断用リファレンスにおける当該合成ピークのスペクトル幅と比較することで、水素化精製触媒の活性を診断することが可能となる。
【0034】
上記(5)としては、短波長側に存在するピークの吸光度が水素化精製触媒の使用期間に伴い増加し、その影響が長波長領域まで及び、長波長領域のベースラインの吸光度の値が増加すること等が挙げられる。例えば、診断用リファレンスにおいては、一定波長以上の長波長領域にはピークが検出されずベースラインとなるが、水素化精製触媒の使用に伴い短波長側に存在するピークの吸光度が増加すると、その影響が長波長側のベースライン領域にまで及ぶことがある。上記(5)では、このようなベースラインの吸光度の変動に基づいて、水素化精製触媒の活性を診断することが可能となる。
【0035】
[基油の製造方法]
本実施形態の基油の製造方法は、本実施形態の診断方法を実施する工程を含む。
したがって、例えば、本実施形態の診断方法を実施する工程の後、診断結果に応じて水素化精製触媒を用いた反応塔の運転条件を調整することで、セイボルト色が+28以上である基油を長期に亘り製造することが可能となる。
【0036】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様では、下記[1]~[5]が提供される。
[1]基油の製造に用いられる水素化精製触媒の活性の診断方法であって、
前記水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の基油の紫外可視吸収スペクトルと、前記水素化精製触媒を用いて製造されるセイボルト色が+28以上の標準基油の紫外可視吸収スペクトルとの差異に基づいて、前記水素化精製触媒の活性を診断する、診断方法。
[2]前記標準基油及び前記基油の40℃における動粘度が、30mm2/s~500mm2/sである、上記[1]に記載の診断方法。
[3]前記水素化精製触媒が、水素化仕上げ用の水素化精製触媒である、上記[1]又は[2]に記載の診断方法。
[4]前記基油の紫外可視吸収スペクトルにおける345~375nmに出現する吸収ピーク及び430~440nmに出現する吸収ピークの少なくともいずれかに基づいて、前記水素化精製触媒の活性を診断する、上記[3]に記載の診断方法。
[5]上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の診断方法を実施する工程を含む、基油の製造方法。
【実施例0037】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、本実施例において、基油の40℃動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出した。
また、セイボルト色は、JIS K2580:2003に準拠して測定した。
【0038】
[実施例A]
以下に説明する方法により、鉱油系基油を製造した。
減圧蒸留油および溶剤脱れき油を原料油とし、ニッケル・タングステン-アルミナ系触媒(担体であるアルミナにニッケル酸化物及びタングステン酸化物が担持した触媒)を用いて、反応温度360~410℃、水素分圧20MPa、水素と原料油との供給量比900Nm3/kL、LHSV0.9hr-1の条件下で水素化改質処理を施し、水素化改質油を得た。
次いで、水素化改質油を、貴金属(白金)系触媒を用いて、反応温度330℃、水素分圧4MPa、水素と水素化改質油の供給量比420Nm3/kL、LHSV1.1hr-1の条件下で水素化異性化脱蝋を施し、水素化異性化脱蝋油を得た。
次いで、水素化異性化脱蝋油を、ニッケル・モリブデン-アルミナ系触媒(担体であるアルミナにニッケル酸化物及びモリブデン酸化物が担持した触媒)を用い、反応温度310℃,水素分圧20MPa、水素と脱蝋油の供給量比1,000Nm3/kL、LHSV0.4hr-1の条件下で水素化仕上げ処理を施した。その後、減圧蒸留により目的留分を回収し、鉱油系基油を得た。
上記条件で、1日に500kL(キロリットル)の鉱油系基油の製造を継続した。
そして、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から30日後、200日後、400日後、及び600日後に製造された基油について、紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV-2700)を用い、紫外可視吸収スペクトルを測定した。
【0039】
結果を
図2に示す。
なお、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から30日後、200日後、400日後、及び600日後の基油は、いずれもセイボルト色が+30であった。
また、鉱油系基油の40℃動粘度は、いずれも80mm
2/s~100mm
2/sであった。鉱油系基油の粘度指数は、いずれも100~120であった。
【0040】
図2に示す結果から、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から30日後に製造された鉱油系基油は、430~440nmにおいて吸収ピークは出現しなかった。水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から30日後は、水素化仕上げ用の水素化精製触媒の活性が全く低下していないため、このような結果が得られたものと考えられる。
次に、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から200日後、400日後、及び600日後に製造された鉱油系基油は、430~440nmにおいてピークが出現し、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始からの日数が増えるほど、当該ピークの強度は大きくなる傾向がみられた。
これらの結果から、セイボルト色が+30である基油であっても、紫外吸収スペクトルを確認することで、水素化仕上げ用の水素化精製触媒の活性の低下を把握し、診断できることが明らかとなった。
【0041】
[実施例B]
以下に説明する方法により、鉱油系基油を製造した。
重質油水素化分解残渣油及びワックスを原料油(上記原料油Bの混合油に該当)とした。
重質油水素化分解残渣油を得る際の重質燃料油の水素化分解条件は、鉄ゼオライト系触媒下、反応温度390℃、圧力15MPa、H2/oil=400Nm3/kL,LHSV2.2hr-1とした。
まず、原料油に対し、貴金属(白金)系触媒を用いて、反応温度330℃、水素分圧4MPa、水素と水素化改質油の供給量比420Nm3/kL、LHSV1.1hr-1の条件下で水素化異性化脱蝋を施し、水素化異性化脱蝋油を得た。
次いで、水素化異性化脱蝋油を、ニッケル・モリブデン-アルミナ系触媒(担体であるアルミナにニッケル酸化物及びモリブデン酸化物が担持した触媒)を用い、反応温度310℃,水素分圧20MPa、水素と脱蝋油の供給量比1,000Nm3/kL,LHSV0.4hr-1の条件下で水素化仕上げ処理を施した。その後、減圧蒸留により目的留分を回収し、鉱油系基油を得た。
上記条件で、1日に500kLの鉱油系基油の製造を継続した。
そして、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から200日後及び300日後に製造された基油について、紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV-2700)を用い、紫外可視吸収スペクトルを測定した。
【0042】
結果を
図3に示す。
なお、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から200日後及び300日後の基油は、いずれもセイボルト色が+30であった。
また、鉱油系基油の40℃動粘度は、いずれも30mm
2/s~70mm
2/sであった。鉱油系基油の粘度指数は、いずれも110~140であった。
【0043】
図3に示す結果から、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から200日後に製造された鉱油系基油は、345~375nmにおいて非常になだらかなピークしか見られなかった。水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から200日後は、水素化仕上げ用の水素化精製触媒の活性の低下の度合いが小さく、このような結果が得られたものと考えられる。
次に、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から300日後に製造された鉱油系基油は、345~375nmにおいて、ショルダー形状ではあるものの、200日後に製造された鉱油系基油よりも明らかに顕著な吸収ピークが見られた。
これらの結果から、セイボルト色が+30である基油であっても、紫外吸収スペクトルを確認することで、水素化仕上げ用の水素化精製触媒の活性の低下を把握し、診断できることが明らかとなった。
【0044】
[実施例C]
以下に説明する方法により、鉱油系基油を製造した。
重質油水素化分解残渣油を原料油(上記原料油Bの重質油水素化分解残渣油に該当)とした。
重質油水素化分解残渣油を得る際の重質燃料油の水素化分解条件は、鉄ゼオライト系触媒下、反応温度390℃、圧力15MPa、H2/oil=400Nm3/kL,LHSV2.2hr-1とした。
まず、原料油に対し、トルエンとメチルエチルケトンを混合し、-20℃以下に冷却した。析出したワックス分を除去、その後トルエンとメチルエチルケトンを除去し、溶剤脱蝋油を得た。
次いで、溶剤脱蝋油を、ニッケル・モリブデン-アルミナ系触媒(担体であるアルミナにニッケル酸化物及びモリブデン酸化物が担持した触媒)を用い、反応温度310℃,水素分圧20MPa、水素と脱蝋油の供給量比1,000Nm3/kL,LHSV0.4hr-1の条件下で水素化仕上げ処理を施した。その後、減圧蒸留により目的留分を回収し、鉱油系基油を得た。
上記条件で、1日に500kLの鉱油系基油の製造を継続した。
そして、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から200日後及び300日後に製造された基油について、紫外可視分光光度計(島津製作所製、UV-2700)を用い、紫外可視吸収スペクトルを測定した。
【0045】
結果を
図4に示す。
なお、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から200日後及び300日後の基油は、いずれもセイボルト色が+30であった。
また、鉱油系基油の40℃動粘度は、いずれも30mm
2/s~70mm
2/sであった。鉱油系基油の粘度指数は、いずれも110~140であった。
【0046】
図4に示す結果から、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から200日後に製造された鉱油系基油と300日後に製造された鉱油系基油のいずれも、345~375nmにおいてショルダー形状のピークが確認されたが、その大きさは300日後に製造された鉱油系基油の方がわずかに大きかった。以上のことから、水素化仕上げ用の水素化触媒の使用開始から200日後に製造された鉱油系基油よりも、300日後に製造された鉱油系基油の方が、水素化仕上げ用の水素化精製触媒の活性の低下の度合いが大きく、このような結果が得られたものと考えられる。
これらの結果から、セイボルト色が+30である基油であっても、紫外吸収スペクトルを確認することで、水素化仕上げ用の水素化精製触媒の活性の低下を把握し、診断できることが明らかとなった。