(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132280
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ブロック継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/38 20210101AFI20240920BHJP
B22F 5/12 20060101ALI20240920BHJP
B22F 10/366 20210101ALI20240920BHJP
B22F 10/36 20210101ALI20240920BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240920BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20240920BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240920BHJP
F16K 27/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
B22F10/38
B22F5/12
B22F10/366
B22F10/36
B22F10/28
B22F10/25
B33Y10/00
F16K27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043005
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】後藤 崇夫
【テーマコード(参考)】
3H051
4K018
【Fターム(参考)】
3H051BB05
3H051CC01
3H051DD01
3H051EE08
3H051FF15
4K018AA04
4K018AA07
4K018AA33
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA17
4K018BB04
4K018HA03
4K018KA01
(57)【要約】
【課題】 金属質粉からの付加製造によって内部流路を有するブロック継手を製造するに際し、内部流路の壁面の表面粗さを小さくすることができる製造方法を提供すること。
【解決手段】 造形姿勢の複数の候補のうちオーバーハング領域がより少なくなるような造形姿勢を選択して付加製造を行う。好ましくは、オーバーハング領域が、内部流路の壁面の法線の方向と付加製造における重力の方向がなす角度が0度以上、40度以下の領域である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属質粉からの付加製造によってブロック継手を製造する方法であって、
内部流路を有するブロック継手の形状を決定するステップと、
決定されたブロック継手の形状について造形姿勢の複数の候補を決定するステップと、
造形姿勢の複数の候補のそれぞれについて内部流路の壁面に占めるオーバーハング領域の範囲を求めるステップと、
求められたオーバーハング領域の範囲がより少なくなるような一の造形姿勢を選択するステップと、
選択した一の造形姿勢についてブロック継手の3Dデータを作成するステップと、
作成した3Dデータを造形装置に入力するステップと、
造形装置を作動させてブロック継手を造形するステップと
を備えるブロック継手の製造方法。
【請求項2】
前記オーバーハング領域が、内部流路の壁面の法線の方向と付加製造における重力の方向とがなす角度が0度以上、40度以下の領域である
請求項1に記載のブロック継手の製造方法。
【請求項3】
前記オーバーハング領域において内部流路の壁面に照射されるエネルギービームの走査方向が、内部流路の中心線と直交する
請求項1に記載のブロック継手の製造方法。
【請求項4】
前記オーバーハング領域における内部流路の壁面に照射されるエネルギービームの単位面積あたりの熱量が、オーバーハング領域以外の領域における内部流路の壁面に照射されるエネルギービームの単位面積あたりの熱量よりも小さい
請求項1に記載のブロック継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部流路を有する金属製のブロック継手を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製のブロックに内部流路及び配管との接続手段を設けたブロック継手と呼ばれる継手が知られている。ブロック継手は、流体が流れる内部流路を有し、内部流路がブロック継手の表面に開口する位置に他の機器と接続するためのねじやシールなどの接続手段が設けられる。ブロック継手は、例えば、油圧機器における作動油の配管や空圧機器における圧縮空気の配管を接続するマニホールドなどにしばしば用いられる。
【0003】
従来技術に係るブロック継手の内部流路は、基本的に直線状の円筒形状の穴で構成される。これは、内部流路の形成が一般に金属製のブロックにドリル刃などの工具を用いて穴あけ加工を行うことによって行われるためである。ブロック継手の内部で内部流路の流れの向きを変えたり、内部流路の途中で流路を分岐したりする必要がある場合には、ブロックの表面の複数の箇所からドリル刃で穴を切削し、ブロックの内部で複数の穴どうしが接続するようにして穴あけ加工が行われる。
【0004】
特許文献1には、半導体製造装置に用いられるマスフローコントローラ、フィルタ、開閉弁などの機器を互いに接続するのに用いられるブロック継手の発明が記載されている。特許文献1に記載されているブロック継手のあるものは、内部流路がアルファベットのVの字のような形状で連続している。またあるものは、内部流路がアルファベットのLの字のような形状で連続している2つの継手を組み合わせることによって内部流路が全体としてギリシャ文字のΠ(パイ)の字の上下を逆にしたような形状で連続している。これらの2種類のブロック継手は、内部流路の開口部がいずれもブロック継手の上面に位置しているため、ブロック継手の上面に設置された機器を容易に交換することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-118054号公報
【特許文献2】国際公開第2018/200197号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、従来技術に係る金属製のブロック継手が備える内部流路はドリル刃などの工具を用いた直線状の穴あけ加工によって形成される。特許文献1に記載されたV字状又は逆Π字状の内部流路において、直線状の穴の端部どうしが接続する接続点では、流体の流れる方向及び流路の断面の面積が不連続に変化する。このような内部流路を流れる流体は接続点を通過する際に大きな抵抗を受けるため、大流量の流体を流すことができなかったり、乱流が発生して流量を正確に計測できなかったりするという課題がある。
【0007】
そこで、流体抵抗の少ない理想的な曲線状の内部流路を実現するために、ブロック継手を切削加工によらずに金属質粉からの付加製造によって製造することが考えられる。この方法で製造されたブロック継手の内部流路の壁面のうちいわゆるオーバーハング領域に相当する面の表面粗さは、それ以外の面の表面粗さに比べて大きくなる傾向がある。内部流路の壁面は、流体との摩擦抵抗を減らすためにできるだけ平滑な表面に仕上げることが望ましい。しかしながら、内部流路の形状が曲線状である場合には適用可能な研磨の手段が限られているために、そのような内部流路の壁面を平滑に研磨することは容易ではない。
【0008】
内部流路の天井のように、オーバーハング領域の付加製造を行う場合、サポートと呼ばれる支持構造を用いることによって造形物の変形を軽減又は防止できることが知られている(例えば、特許文献2を参照)。サポートは、例えば、金属質粉の溶融凝固、圧密又は結合材の塗布などの手段によって形成することができる。サポートは一定の強度を有するため、サポートよりも上に位置する層を造形する際にその層が重力によって下方に移動することを妨げる。しかしながら、曲線状の内部流路の内側にこのようなサポートを形成した場合、造形が完了した後にサポートを内部流路から分離、除去することは容易ではない。
【0009】
本開示は、曲線状の内部流路を有する金属製のブロック継手に特有の上記の課題に鑑みてなされたものであり、金属質粉からの付加製造によって内部流路を有するブロック継手を製造する場合において、サポートを用いることなく内部流路の表面を平滑にすることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ある実施の形態において、本開示は、金属質粉からの付加製造によってブロック継手を製造する方法であって、内部流路を有するブロック継手の形状を決定するステップと、決定されたブロック継手の形状について造形姿勢の複数の候補を決定するステップと、造形姿勢の複数の候補のそれぞれについて内部流路の壁面に占めるオーバーハング領域の範囲を求めるステップと、求められたオーバーハング領域の範囲がより少なくなるような一の造形姿勢を選択するステップと、選択した一の造形姿勢についてブロック継手の3Dデータを作成するステップと、作成した3Dデータを造形装置に入力するステップと、造形装置を作動させてブロック継手を造形するステップとを備えるブロック継手の製造方法である。
【0011】
本開示に係る製造方法によれば、流体抵抗の少ない理想的な形状の内部流路を有するブロック継手を製造することができる。また、オーバーハング領域に相当する壁面が少なくなるような造形姿勢で付加製造を行うことができるので、内部流路の壁面の表面粗さを小さくすることができ、壁面の仕上げ加工を施す場合でも加工に要する時間及びコストを低減することができる。
【0012】
好ましい実施の形態において、本開示は、上記のブロック継手の製造方法におけるオーバーハング領域が、内部流路の壁面の法線の方向と付加製造における重力の方向とがなす角度が0度以上、40度以下の領域であるブロック継手の製造方法である。この実施の形態においては、オーバーハング領域の範囲を幾何学的に正確に求めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る製造方法によれば、サポートを設けることが困難な内部流路の壁面を従来技術に比べてより平滑にすることができる。これにより、研磨加工の困難な内部流路の壁面を短時間で平滑に仕上げることができ、ブロック継手の製造に要する時間及びコストを削減することが可能となる。また、内部流路の壁面の研磨の手段や方法に制約されることがないので、ブロック継手の設計の自由度が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るブロック継手の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】内部流路の水平な床面の位置における金属質粉の溶融凝固のプロセスを示す模式図である。
【
図3】内部流路の天井の位置における金属質粉の溶融凝固のプロセスを示す模式図である。
【
図4】内部流路の垂直な側壁における金属質粉の溶融凝固のプロセスを示す模式図である。
【
図5】内部流路と重力の方向の関係を示す模式図である。
【
図6】本発明の第2実施形態におけるオーバーハング領域の範囲を示す模式図である。
【
図7】本発明の第2実施形態におけるオーバーハング領域の範囲を別の角度から示す模式図である。
【
図8】本発明の第3実施形態におけるエネルギービームの照射を示す模式図である。
【
図9】本発明の第4の実施形態における金属質粉の溶融凝固のプロセスを示す模式図である。
【
図10】実施例に係るブロック継手の形状を示す図面である。(a)は上面図、(b)は断面図である。
【
図11】実施例に係るブロック継手の造形姿勢を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について、以下図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明は本発明を実施するための形態の例を示したものに過ぎず、本発明を実施するための形態はここに示した例に限定されない。
【0016】
<第1実施形態>
第1実施形態において、本発明は、金属質粉からの付加製造によってブロック継手を製造する方法であって、内部流路を有するブロック継手の形状を決定するステップと、決定されたブロック継手の形状について造形姿勢の複数の候補を決定するステップと、造形姿勢の複数の候補のそれぞれについて内部流路の壁面に占めるオーバーハング領域の範囲を求めるステップと、求められたオーバーハング領域の範囲がより少なくなるような一の造形姿勢を選択するステップと、選択した一の造形姿勢についてブロック継手の3Dデータを作成するステップと、作成した3Dデータを造形装置に入力するステップと、造形装置を作動させてブロック継手を造形するステップとを備えるブロック継手の製造方法の発明である。
【0017】
本発明において使用される金属質粉は、金属又は合金でなる粉末である。金属質粉を構成する金属又は合金は、継手を構成するのに適した材料であり、かつ、粉末が容易に入手できる材料であれば、どのような金属又は合金であってもよい。具体的には、例えば、ステンレス鋼、ニッケル基合金、黄銅、青銅などが好ましいが、これらに限られない。
【0018】
金属質粉からの付加製造にはさまざまな方式が知られている。本発明の効果は、付加製造を行う際に金属質粉に作用する重力の方向が造形物の品質に影響を及ぼす方式に適用した場合に最大限に発揮される。そのような方式の代表的なものはパウダーベッド方式である。付加製造のときの重力の方向が影響する他の方式に、造形物の表面に粉末又はワイヤーを供給しながらエネルギービームを照射するデポジション方式がある。
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態に係るブロック継手の製造方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、第1実施形態に係るブロック継手の製造方法は全部で7つのステップで構成される。各ステップについて以下順番に説明する。
【0020】
第1ステップ(S1)は、内部流路を有するブロック継手の形状を決定するステップである。本発明において「ブロック継手」とは、金属又は合金でなるブロック状の本体と、本体の内部に設けられ流体が流れる内部流路とを有する部材をいう。ブロック継手は、他の機器と接続するためのねじやシールなどの接続手段が設けられてもよい。ブロック継手の外周面の形状は、直方体又は立方体であってもよく、断面が台形であってもよい。本発明において、ブロック継手の大きさ及び用途は特に限定されない。ただし、本発明の効果は、一辺の大きさが例えば5cm以下のサイズのブロック継手であって、その大きさ故に内部流路の壁面の研磨加工が困難なブロック継手の製造において最大限に発揮される。
【0021】
ブロック継手が有する内部流路は、本体の内部に設けられる連続する空間で構成される。内部流路は少なくとも一組の入口及び出口を有し、ブロック継手を貫通する。流体は内部流路の入口を通ってブロック継手の内部に侵入し、出口を通ってブロック継手の外部に出る。内部流路は、ブロック継手に接続される複数の機器の間で流体を流す機能を有する。1つのブロック継手が備える内部流路の数は1本であってもよく、2本以上であってもよい。内部流路は、本体の内部で分岐又は合流してもよい。
【0022】
本発明における内部流路の断面の形状や大きさは特に限定されないが、流体の流れをスムーズにするためには形状が円であることが好ましい。また、断面の形状及び大きさが内部流路の全体にわたって同一であることが好ましい。本発明における内部流路の形状は、例えば穴あけ加工を行うドリル刃に合わせて直線状に設計する必要はなく、流体の流れができるだけスムーズになるように曲線を中心とした形状に設計することができる。
【0023】
第1ステップで決定されるブロック継手の形状は、継手として使用することができる完成品の形状ではなく、付加製造によって製造され、仕上加工がなされる前の中間品の状態における形状であることに留意すべきである。実際の製品では、造形後の後工程において、内部流路の壁面を研磨してより平滑にしたり、内部流路の開口部に他の部材を気密に接続するためのシール部材を設置するための溝を設けたり、他の部材を締結するためのネジ穴を設けたりする場合がある。後工程で内部流路の壁面を研磨する場合は、研磨後の寸法が所望の寸法となるように中間品の形状を決定することが好ましい。
【0024】
第2ステップ(S2)は、決定されたブロック継手の形状について造形姿勢の複数の候補を決定するステップである。本発明において「造形姿勢」とは、内部流路を有するブロック継手を付加製造する際に、ブロック継手の形状に対して重力の方向をどの向きに設定するかをいう。本発明において「造形姿勢の複数の候補」とは、ブロック継手のどの向きに重力の方向を設定するかについての複数の選択肢をいう。例えば、直方体の形状を有するブロック継手の場合、互いに直交する辺の長さに沿った3つの方向を造形姿勢の複数の候補とすることができる。造形姿勢の候補は上に例示した3つの方向に限られず、ブロック継手の形状に応じて自由に決定することができる。造形姿勢の候補の数は比較のために少なくとも2以上であればよい。また、選択肢の中に最適な造形姿勢が含まれるように定めることが好ましい。
【0025】
第3ステップ(S3)は、造形姿勢の複数の候補のそれぞれについて内部流路の壁面に占めるオーバーハング領域の範囲を求めるステップである。本発明において「オーバーハング領域(overhang area)」とは、例えば特許文献2で使われている用語であって、内部流路をトンネルに見立てたときにトンネルの天井の位置に相当する領域をいう。オーバーハング領域における壁面は、譬えていえば空中にせり出している庇(ひさし)のように、重力の方向を基準として壁面を下から支える構造物を欠いているので、オーバーハング領域における金属質粉は力学的に不安定である。このため、付加製造によって形成される壁面の表面粗さが大きくなると考えられる。オーバーハング領域における壁面のような表面は「ダウンスキン(downskin)」と呼ばれる場合がある。
【0026】
内部流路のすべての壁面のうちどの部分がオーバーハング領域あるいはダウンスキンに相当するかは、造形姿勢に応じて変化する。第3ステップ(S3)では、第2ステップ(S2)において決定された造形姿勢の候補のそれぞれについて、内部流路の壁面に占めるオーバーハング領域の範囲を個別に求める。
【0027】
第3ステップにおいて内部流路の壁面に占めるオーバーハング領域の範囲を求める方法は、次の第4ステップで造形姿勢ごとのオーバーハング領域の大小を判定できる程度の精度を有するものであれば、どのような方法を用いてもよい。例えば、ある方法では、内部流路の壁面に基づいてオーバーハング領域の範囲を求める。この方法においては、内部流路の壁面のうちオーバーハング領域あるいはダウンスキンに相当する部分を壁面上の限られた領域として特定し、そうでない領域と区分する。また、他の方法では、内部流路の中心線に基づいてオーバーハング領域の範囲を求める。この方法においては、内部流路の中心線に垂直な面と壁面とが交わる線上のいずれかの箇所にオーバーハング領域あるいはダウンスキンが存在するような中心線の部分をオーバーハング領域の範囲として特定し、そうでない領域と区分する。
【0028】
第4ステップ(S4)は、求められたオーバーハング領域の範囲がより少なくなるような一の造形姿勢を選択するステップである。第4ステップでは、第3ステップで求めたオーバーハング領域の範囲に基づいて、造形姿勢の複数の候補の中からオーバーハング領域の範囲がより少なくなる一の造形姿勢を選択する。造形姿勢の選択に際しては、例えば、内部流路の壁面の全面積に対するオーバーハング領域の面積の割合が少なくなるような一の造形姿勢を選択することができる。あるいは、例えば、内部流路の中心線の全長さに対するオーバーハング領域が存在する範囲の中心線の長さの割合が少なくなるような一の造形姿勢を選択することができる。
【0029】
第4ステップにおいて選択される造形姿勢は、複数の候補の中でオーバーハング領域が最も少ない造形姿勢であってもよく、複数の候補の中でオーバーハング領域が最大のものより少なくなるような造形姿勢であってもよい。上記のいずれの造形姿勢を選択しても、複数の候補の中でオーバーハング領域が最大となる造形姿勢を選択した場合よりもオーバーハング領域が少なくなるので、表面粗さが大きい内部流路の形成を回避又は抑制することができる。後述する実施例において、具体的な形状を有するブロック継手における造形姿勢をどのように選択すればよいかについて比較検討した例が示されるだろう。
【0030】
第5ステップ(S5)は、選択した一の造形姿勢についてブロック継手の3Dデータを作成するステップである。本発明において「3Dデータ」とは、ブロック継手の三次元形状のデータに基づいて作成されるデータであって、付加製造される一層ごとに造形装置の動作を制御するためのデータをいう。例えば、パウダーベッド方式の造形装置においては、粉末層にレーザなどのエネルギービームを照射する際の出力の大きさ、照射する位置、走査の速度、走査の間隔、走査の方向、走査の繰り返し回数などの諸条件を3Dデータとして設定し、保存する。
【0031】
エネルギービームを照射するように設定された位置において、金属質粉が溶融凝固してブロック継手の本体となる。エネルギービームを照射しないように設定された位置において、金属質粉が溶融凝固せずにそのまま残り、造形後に金属質粉を除去することによってその位置がブロック継手の内部流路となる。重力の方向に対する本体の形状及び内部流路の形状の相互の位置関係は3Dデータによって特定され、これにより内部流路におけるオーバーハング領域の範囲が定まる。
【0032】
パウダーベッド方式の造形装置においては、フィーダによって形成される粉末層の厚さや粉末層を掻き取る方向なども3Dデータに含まれる。粉末層の厚さは、例えば、粉末の平均粒径と同等の厚さに設定される。粉末層の厚さは、粉末の平均粒径よりも厚く設定されてもよい。
【0033】
第6ステップ(S6)は、作成した3Dデータを造形装置に入力するステップである。3Dデータは、造形装置とは別の独立したシステムで作成され、メディアを使ったコピー又はデータ通信などの手段によって造形装置のシステムに入力される。あるいは、造形装置のシステム自体が造形ツールパスデータを作成する機能を有していてもよい。上述のとおり、本発明ではパウダーベッド方式による造形装置又はデポジション方式による造形装置を使用することが好ましい。
【0034】
第7ステップ(S7)は最終のステップであり、造形装置を作動させてブロック継手を造形するステップである。例えば、パウダーベッド方式による造形装置においては、ベースプレートの上にフィーダによって金属質粉を薄く均一に供給して粉末層を形成するプロセスと、3Dデータによって定められた粉末層上の位置にエネルギービームを照射して金属質粉を溶融凝固するプロセスとを交互に繰り返すことによって、ブロック継手を下から順に一層ずつ造形する。
【0035】
次に、第1実施形態に係るブロック継手の製造方法によって製造されるブロック継手の造形組成と内部流路の壁面の表面粗さの関係について、第7ステップにおける金属質粉の溶融凝固のプロセスを示す模式図を使ってさらに詳しく説明する。
図2は、内部流路の水平な床面の位置における金属質粉の溶融凝固のプロセスを示す模式図である。記号Bが付された白抜きの太い矢印は、金属質粉に照射されるエネルギービームを表す。
図2では、粉末層のうちn-1層とその直上のn層がエネルギービームBの照射を受け、金属質粉が既に溶融凝固している。溶融凝固した金属質粉は黒く彩色された楕円で表される。溶融凝固は、同一の粉末層で隣接する金属質粉の間だけでなく、n-1層の金属質粉とn層の金属質粉の間でも起こる。n-1層及びn層では金属質粉が溶融凝固によって一体化し、高密度で強固な金属材料を形成している。
【0036】
図2は、n層の直上に形成されたn+1層の粉末層にエネルギービームBが照射される状態を表す。いまだ溶融凝固していない金属質粉は薄い灰色に彩色された円で表される。エネルギービームBは図の左から右に向かって走査され、エネルギービームBよりも左側にある金属質粉は溶融凝固している。
【0037】
エネルギービームBによって供給される熱はその一部が金属質粉の溶融に消費され、残りはn層及びn-1層に熱伝導され下方に向かって拡散する。エネルギービームBによる単位面積あたりの出力は3Dデータによって適切な値に制御される。このため、エネルギービームBが照射されたn+1層の金属質粉は、過剰に加熱されてn層に向かって溶け落ちたり周囲に飛散したりすることがない。その結果、水平な床面では、
図2の点線で示されるような平滑な壁面が形成される。
【0038】
図3は、内部流路の天井の位置、すなわちオーバーハング領域あるいはダウンスキン、における金属質粉の溶融凝固のプロセスを示す模式図である。
図3に示すn-1層及びn層の金属質粉にはエネルギービームBが照射されないか又は照射されたとしてもエネルギービームBの出力が低いため、金属質粉が溶融凝固せずに粉末のまま残っている。
図3は、n層の直上に形成されたオーバーハング領域に該当するn+1層の粉末層に左から右に向かってエネルギービームBが走査されながら照射される状態を表す。エネルギービームBが照射されたn+1層の左側の粉末層では隣接する金属質粉どうしが互いに溶融凝固している。
【0039】
溶融凝固していない金属質粉でなるn-1層及びn層の熱伝導率は、
図2に示す溶融凝固した部分の熱伝導率に比べて低い。また、粉末層の上下方向の熱伝導率は、金属質粉どうしの接触状態によって大きく変化する。例えば、n+1層とn層の金属質粉が密に接触している箇所では熱が十分に伝わるので、n層の金属質粉は
図3の黒く彩色された楕円で表されるように、溶融してn+1層と溶融凝固する。熱の伝導がそこまで大きくない箇所では、n層の金属質粉は
図3のやや黒く彩色された円に近い楕円で表されるように、溶融凝固するには至らないまでも粉末状態のままn+1層との間で焼結ネックを形成する。熱があまり伝わらない箇所では、n層の金属質粉は
図3の灰色に彩色された円で表されるように粉末のまま残り、n+1層と溶融凝固も焼結もしない。残った粉末は、第7ステップが完了した後に除去される。このように、オーバーハング領域ではエネルギービームBが照射されるn+1層の直下における金属質粉の結合状態が不均一になるため、
図3の点線で示される内部流路の壁面の表面粗さが大きくなると考えられる。
【0040】
図4は、内部流路の垂直な側壁の位置における金属質粉の溶融凝固のプロセスを示す模式図である。
図4の点線よりも左側は金属質粉がエネルギービームBの照射によって溶融凝固して内部流路の壁面となる部分である。点線よりも右側はエネルギービームBが照射されず、あるいはエネルギービームBの出力が低いために金属質粉が溶融凝固せず、付加製造後に除去されて内部流路の空洞部となる部分である。内部流路の壁面となる部分が溶融凝固するとき、それよりも左側には既に溶融凝固した金属が形成されているので熱伝導性に優れている。このため、余分な熱は図の左側に伝わり拡散されるので、点線よりも右側の金属質粉が左側の溶融凝固した金属と結合することはない。その結果、内部流路の壁面の表面粗さは、
図4の点線で示すように平滑となる。
【0041】
以上に説明した第1ステップから第7ステップまでを実行することによって、ブロック継手の内部流路の壁面のうち
図3に示すようなオーバーハング領域がより少なくなり、
図2及び
図4に示すような非オーバーハング領域の範囲がより多くなるので、従来技術に比べて内部流路の壁面の表面粗さを小さくすることができる。
【0042】
本発明によれば、内部流路から分離、除去することが容易ではないサポートを設けることなく、内部流路を有するブロック継手を製造することが可能である。しかしながら、本発明においてサポートの使用は妨げられない。すなわち、オーバーハング領域における内部流路の壁面の表面粗さをより小さくする目的で、内部流路の一部にサポートを補助的に設けることは、本発明において許容される。この場合において、補助的なサポートを内部流路の入口又は出口33にできるだけ近い位置に設けることは、付加製造が完了してからサポートを比較的容易に分離、除去することができるので好ましい。
【0043】
上述のとおり、上記の付加製造によって造形されたブロック継手について、後工程として内部流路の壁面を研磨加工してより平滑にしたり、内部流路の開口部に他の部材を気密に接続するためのシール部材を設置するための溝を設けたり、他の部材を締結するためのネジ穴を設けたりすることができる。内部流路の壁面の研磨加工には、例えば砥粒を含む流体を流す方法や、電解研磨などの公知の方法を採用することができる。
【0044】
ブロック継手の表面に近い部分については工具を直接作用させて研磨する方法を併用することができる。ここでいう「工具」とは、例えば、モータで回転する軸の周りに研磨用のバフを固定したものであって、外径が内部流路の内径よりも小さく、内部流路に挿入して回転させることによって壁面の研磨加工を行うことができるものなどをいう。
【0045】
<第2実施形態>
第2実施形態において、本発明は、第1実施形態におけるオーバーハング領域が、内部流路の壁面の法線の方向と付加製造における重力の方向とがなす角度が0度以上、40度以下の領域であるブロック継手の製造方法の発明である。第2実施形態によれば、第1実施形態のステップ3(S3)においてオーバーハング領域の範囲を幾何学的に正確に求めることができる。
【0046】
第2実施形態において「内部流路の壁面の法線の方向」とは、内部流路の壁面のある微小区域に着目したときのその微小区域の法線の方向をいう。
図5は、内部流路と重力の方向の関係を示す模式図である。
図5に示される内部流路3は、曲線状の内部流路の壁面を外から見たときの形状を表す。斜線で示される部分は、内部流路3の壁面の一部である微小区域31を表す。微小区域31の大きさは、実質的に平面とみなすことができる程度に小さい。記号Nが付された矢印は微小区域31の法線の方向を表す。法線の方向は常に内部流路3の壁面の位置から内部流路3の中心に向かう方向である。内部流路3の断面の形状は円形又は楕円形に限定されず、多角形であってもよい。そのような場合、微小区域31はその多角形の頂点にあたる内部流路3の稜線を避けて設定する。
【0047】
図5に示される記号gが付された矢印は、付加製造における重力の方向を表す。より正確に言えば、記号gが付された矢印は、金属質粉からの付加製造によって内部流路3の壁面の微小区域31に該当する箇所を造形しているまさにその瞬間において微小区域31に作用する重力の方向を表す。記号θは、Nとgとがなす角度を表す。角度θは、微小区域31のなす面と付加製造における水平面とがなす二面角に等しい。角度θは、「オーバーハング角」とよばれる場合がある。角度θの値は、例えば内部流路3の天井の位置では0度、垂直な側壁の位置では90度、水平な床面の位置では180度となる。角度θが180度を超えることはない。
【0048】
図6は、本発明の第2実施形態におけるオーバーハング領域の範囲を示す模式図である。
図6は、内部流路3の中心線に垂直な断面を表しており、円の円周は内部流路3の壁面を表す。記号gが付された矢印は重力の方向を表す。
図6において内部流路3の中心軸は重力の方向gに対して直交する。内部流路3の壁面のうちハッチングを施した部分はオーバーハング領域32の範囲を表す。オーバーハング領域32の範囲は、内部流路3の天井に相当する一定の領域を占める。内部流路3の中心とオーバーハング領域32にある任意の点とを結ぶ半径と重力の方向gとのなす角度は40度以下である。オーバーハング領域32を画定する角度θの最大値を45度ではなく40度とした理由は、角度θが45度の位置は天井と側壁の境界に相当し、天井と側壁のいずれに属するのか不明だからである。
【0049】
図7は、オーバーハング領域を別の角度から示す模式図である。
図7は内部流路3の中心線を含む断面を表す。4分の1円の円周は内部流路3の壁面を表す。一点鎖線は内部流路3の中心線36を表す。内部流路3の中心線36は半径が一定の円上にある。記号gが付された矢印は重力の方向を表す。内部流路3の壁面のうちハッチングを施した部分はオーバーハング領域32の範囲を表す。オーバーハング領域32の範囲は、内部流路3の天井に相当する一定の領域を占める。内部流路3の中心線36が描く4分の1円の中心とオーバーハング領域32にある任意の点とを結ぶ半径と重力の方向gのなす角度は40度以下である。なお、
図7に示すオーバーハング領域32の範囲は内部流路3の壁面のうち天井の側に限られる。中心線を挟んで天井の側と反対側にある床面の側はオーバーハング領域32の範囲に含まれない。
【0050】
内部流路3と重力の方向の位置関係が
図6又は
図7に示すような単純な位置関係と異なる位置関係にある場合には、その位置関係における角度θが0度以上、40度以下である壁面の領域を本発明の第2実施形態におけるオーバーハング領域として特定する。
【0051】
内部流路の壁面のうち角度θがゼロに近い領域であるほど、その領域の表面粗さは大きくなる。オーバーハング領域を、角度θがゼロに近く、したがって表面粗さが特に大きい領域に限定することによって、表面粗さが特に大きい領域が発生することを防止できる。例えば、角度θが0度以上、40度以下である壁面の領域を本発明におけるオーバーハング領域と定義する代わりに、角度θが0度以上、35度以下である壁面のより狭い領域をオーバーハング領域と定義して本発明を実施することができる。オーバーハング領域をさらに狭い範囲に限定したい場合には、角度θが0度以上、30度以下である壁面のさらに狭い領域をオーバーハング領域と定義して本発明を実施することができる。
【0052】
<第3実施形態>
第3実施形態において、本発明は、第1実施形態におけるオーバーハング領域において内部流路の壁面に照射されるエネルギービームの走査方向が、内部流路の中心線と直交するブロック継手の製造方法の発明である。第3実施形態によれば、エネルギービームの照射によってオーバーハング領域の金属質粉が溶融凝固する際にアーチを形成しやすい。このため、オーバーハング領域における金属質粉が重力によって崩れにくくなり、ダウンスキンの表面粗さがより小さくなる。
【0053】
図8は、本発明の第3実施形態におけるエネルギービームの照射を示す模式図である。階段状の構造物は、粉末床の形成と溶融凝固によって積み重ねられた層を示す。太い矢印は重力の方向gを示す。トンネル状の穴は内部流路3であり、その天井の位置にせり出した部分はオーバーハング領域32である。
図8において、内部流路3の中心線36をはさんで図示された構造物に対して反対側に位置する構造物及び中心線36よりも下に位置する構造物は、いずれも描画が省略されている。
【0054】
図8に示す多数の両矢印は、最上層の粉末床に照射されるエネルギービームの走査方向を表す。記号Tが付された走査方向は、内部流路3の中心線36と直交する。記号Lが付された走査方向は、内部流路3の中心線36と平行である。第3実施形態では、内部流路3の中心線36と直交する走査方向Tに沿ってエネルギービームの照射位置を移動させる。このような場合、エネルギービームの照射位置は、オーバーハング領域でない領域とオーバーハング領域32とをまたがるようにして連続的に移動する。
【0055】
オーバーハング領域でない領域では、
図2に示すように熱が下層に熱伝導しやすいので、溶融池は瞬時に溶融凝固する。オーバーハング領域32では、
図3に示すように熱が下層に熱伝導しにくいので、溶融凝固が遅れる。しかし、走査方向Tに沿ってエネルギービームの照射位置が連続的に移動させた場合、オーバーハング領域でない領域がすばやく溶融凝固して強固なアーチを形成し、それに支えられながらオーバーハング領域32も溶融凝固するので、ダウンスキンの表面粗さが
図3に示すように大きくならない。
【0056】
一方、内部流路3の中心線36と平行な走査方向Lに沿ってエネルギービームの照射位置を移動させる場合、エネルギービームの照射位置は、オーバーハング領域でない領域とオーバーハング領域32とをまたがって移動することがない。オーバーハング領域32に照射されるエネルギービームは、最初から最後までオーバーハング領域32に照射される。また、オーバーハング領域でない領域に照射されるエネルギービームの照射位置と、オーバーハング領域32に照射されるエネルギービームの照射位置とは連続しておらず、少なくとも走査ピッチの幅だけ離れている。
【0057】
そうすると、オーバーハング領域32に走査方向Lに沿ってエネルギービームが照射される間は
図3に示すような熱が下層に熱伝導しにくい状態が続き、しかも隣接する位置にはオーバーハング領域でない領域がないので支えるものがない。このため、ダウンスキンの表面粗さは
図3に示すように大きくなると考えられる。
【0058】
第3の実施形態に係る製造方法を実施するには、第1実施形態における第5ステップ(S5)において作成する3Dデータにおいて、オーバーハング領域におけるエネルギービームの走査方向が内部流路の中心線と直交するように設定する。これにより、第4ステップ(S4)で選択した造形姿勢において残ったオーバーハング領域における表面粗さをより小さくすることができる。
【0059】
<第4実施形態>
第4実施形態において、本発明は、第1実施形態において、オーバーハング領域における内部流路の壁面に照射されるエネルギービームの単位面積あたりの熱量が、オーバーハング領域以外の領域における内部流路の壁面に照射されるエネルギービームの単位面積あたりの熱量よりも小さい。金属質粉が溶融凝固した造形物の上に形成された粉末層にエネルギービームが照射された場合、粉末層の金属質粉が溶融して溶融池が形成され、余剰の熱は熱伝導率の高い下層の造形物に伝導される。
【0060】
一方、オーバーハング領域よりも下に位置する粉末層では金属質粉が溶融凝固していないため、造形物に比べて熱伝導率が低い。そのような粉末層の上に形成されたオーバーハング領域の粉末層にエネルギービームが照射された場合、粉末層の金属質粉が溶融して溶融池が形成されると、余剰の熱によって下層の粉末層の一部も溶融する。このため、オーバーハング領域における内部流路の壁面は表面粗さが大きくなると考えられる。
【0061】
第4実施形態によれば、オーバーハング領域における内部流路の壁面に照射されるエネルギービームの単位面積あたりの熱量が通常よりも小さいので、余剰の熱によって下層の粉末層の一部が溶融凝固することが軽減又は防止される。このため、オーバーハング領域における内部流路の壁面の表面粗さを小さくすることができる。エネルギービームはレーザであってもよく、あるいは電子ビームであってもよい。
【0062】
図9は、第4実施形態におけるオーバーハング領域の付加製造を示す模式図である。
図3に示す第1実施形態に比べて、
図9に示す第4実施形態においては、n+1層の粉末層に照射するエネルギービームBの出力を小さくしている。このため、エネルギービームBによって供給される熱はn+1層の金属質粉の溶融によってほぼ消費され、n+1層の金属質粉が溶融凝固した部分とn層の金属質粉との間で溶融凝固や焼結が起こらない。その結果、点線で表される内部流路の壁面の表面粗さをより小さくすることができる。
【実施例0063】
<実施例1>
長さ35mm、高さ20mm、幅10mmの直方体のブロックの内部に内径4mmの内部流路を有するブロック継手の形状を決定した。
図10(a)は、ブロック継手1の上面図である。ブロック継手1は、直方体のブロックでなる本体2を有し、上面に内部流路の入口及び出口33を有する。内部流路の入口及び出口33はいずれもブロック継手1の表面のうち長さ35mm、幅10mmの辺で囲まれた一の面上に存在する。
図10(b)は、同じブロック継手1を内部流路3の中心線36の位置で切断した断面図である。内部流路3の中心線は、半径が13mmの半円部34及び半円部34の両端から続く長さ3mmの直線部35とからなる。内部流路3の中心線36に垂直な断面の形状は内部流路の全体にわたって中心線36の位置を中心とする直径4mmの円である。
【0064】
金属質粉としてアルゴンガスアトマイズ法で作製されたヘガネス社製のオーステナイト系ステンレス鋼粉末を用意した。粉末の粒径は15μm以上、45μm以下、ホールフローメータで測定された粉末50gの流出時間は17s、嵩密度は4.0g/cm
3、タップ密度は4.9g/cm
3であった。次に、付加製造装置(EOS社製、M290)の粉末フィーダに金属質粉を装填し、ベースプレートの水平面の上で、金属質粉を厚さ40μmで均一に供給して粉末床を形成するステップと、粉末床の表面にレーザビームを照射して所望の位置における粉末床を溶融凝固するステップとを交互に繰り返して、
図10に示す形状を有する実施例1に係るブロック継手を付加製造した。レーザビームの出力は160W、レーザビームの焦点径は100μm、走査ピッチは0.06mm、走査速度は1.2m/sとし、走査の方向は1往復ごとに60度ずつ回転させた。上記の条件において粉末に照射されるレーザビームのエネルギー密度は56J/mm
3であった。
【0065】
図11は、付加製造におけるブロック継手の造形姿勢を示す模式図である。記号gが添えられた矢印は重力の方向を示している。付加製造が進む方向は重力の方向gと逆向きの方向である。ベースプレート4の上に付加製造された3つのブロック継手のうち最も左側の記号1が付されたブロック継手は、本発明の実施例1に係るブロック継手1である。
図11に示すように、実施例1においては、ブロック継手1の高さ20mm、幅10mmの辺で囲まれた面がベースプレート2の水平面と平行になるようにし、ブロック継手1の長さ35mmの方向に粉末床を重ねるようにして付加製造を行った。この造形姿勢において、内部流路の中心線36の接線の方向は直線部35では水平方向、半円部34では垂直方向であった。
【0066】
次に、付加製造された実施例1に係るブロック継手1をベースプレート4から分離した後、内部流路の中心線36の位置で切断し、得られた2個の切断片のうち任意の一方の切断片について露出した内部流路の2箇所の直線部35(直線部aと直線部b)及び半円部34における壁面の表面粗さについて接触式表面粗さ測定器(東京精密製、SURFCOM 480B)を用いて測定した。表面粗さを測定した位置はいずれも内部流路の壁面のうち中心線36から最も遠い谷の位置であった。これらの位置における角度θは90度であり、造形姿勢は
図4に示す造形姿勢と同じであった。触針を走査する方向はいずれの位置においても内部流路の中心線と平行な方向とした。測定長さは2.0mm、触針の走査速度は0.3mm/sであった。表面粗さの測定は、日本工業規格B 0601:1994に定める方法により行った。得られた測定結果のうち算術平均粗さR
a及び最大高さR
yを表1の「実施例1」の欄に示す。
【0067】
【0068】
表1によれば、実施例1における内部流路の壁面の算術平均粗さRaの値は7.0μmから9.0μmの範囲であった。また、最大高さRyの値は44.7μmから49.2μmの範囲であった。
【0069】
<実施例2>
付加製造の際の重力の方向gに対するブロック継手の方向を、
図11に示す3つのブロック継手のうち中央の記号1′が付されたブロック継手のように設定したほかは実施例1と同じ条件で付加製造を行い、実施例1に係るブロック継手と同じ形状を有する実施例2に係るブロック継手1′を得た。
図11に示すように、実施例2においては、ブロック継手1´の長さ35mm、幅10mmの辺で囲まれた入口又は出口33を有する面がベースプレート2の表面と平行になるようにし、ブロック継手1′の高さ20mmの方向に粉末床を重ねるようにして付加製造を行った。この造形姿勢において、内部流路の中心線36の接線の方向は直線部35では垂直方向、半円部34の中央付近では水平方向であった。得られた実施例2に係るブロック継手1′について内部流路の表面粗さを実施例1と同じ方法で測定した結果を表1の「実施例2」の欄に示す。
【0070】
表1によれば、実施例2における内部流路の壁面の算術平均粗さRaの値は6.6μmから8.1μmの範囲であった。また、最大高さRyの値は42.6μmから60.0μmの範囲であった。実施例2において表面粗さを測定した壁面は、実施例1と同様にいずれも内部流路の垂直な側壁、すなわち角度θが90度の壁面、に相当する。このため、表面粗さの値のばらつき及び値の大きさは実施例1と大差がなかったと考えられる。なお、実施例2の半円部34において表面粗さを測定できなかった位置の表面粗さについては後述する。
【0071】
<比較例>
積層造形の際の重力の方向に対するブロック継手の方向を
図11に示す3つのブロック継手のうち最も右側の記号1″が付されたブロック継手のように設定したほかは実施例1及び実施例2と同じ条件で積層造形を行い、実施例1に係るブロック継手1及び実施例2に係るブロック継手1′と同じ形状を有する比較例に係るブロック継手1″を得た。
図11に示すように、比較例においては、ブロック継手1″の長さ35mm、高さ20mmの辺で囲まれた面がベースプレート2の表面と平行になるようにし、ブロック継手1″の幅10mmの方向に粉末床を重ねるようにして付加製造を行った。この造形姿勢において、内部流路の中心線36の接線の方向は半円部34、直線部35ともに水平方向であった。得られた比較例のブロック継手1″を内部流路の中心線36の位置で切断し、得られた2個の切断片のうち上半分の切断片について内部流路の表面粗さを実施例1と同じ方法で測定した結果を表1の「比較例上半分」の欄に示す。
【0072】
表1によれば、比較例上半分における内部流路の壁面の算術平均粗さR
aの値は26.1μmから43.1μmの範囲、最大高さR
yの値は120.5μmから248.2μmの範囲であり、実施例1及び実施例2に比べて大きな値を示した。また、この壁面の色は他の位置に比べて黒い色をしていた。比較例上半分において表面粗さを測定した位置はいずれも内部流路の壁面のうちオーバーハング領域に該当する。この壁面は、
図3で示したように、天井の位置、すなわち角度θが0度の壁面の位置、に相当する。しかも、このような天井の位置は、比較例に係るブロック継手1″の内部流路の全長にわたって存在する。この壁面よりも下の層、すなわち
図3の点線よりも下の層、は内部流路の空洞となる位置であり、金属質粉に照射されるレーザのエネルギー密度が低く調整される。このため、金属質粉は溶融せずに粉体のまま存在している。内部流路の天井の位置に相当する壁面を造形する際はレーザのエネルギー密度が高く調整される。このため、金属質粉は溶融凝固する。この際に、粉体のまま残っていた下層の金属質粉が部分的に溶融凝固したために、表面粗さが大きくなったと考えられる。
【0073】
次に、比較例において得られた2個の切断片のうち下半分の切断片について内部流路の表面粗さを実施例1と同じ方法で測定した結果を表1の「比較例下半分」の欄に示す。表1によれば、比較例下半分における内部流路の壁面の算術平均粗さR
aの値は3.9μmから8.8μmの範囲、最大高さR
yの値は20.1μmから51.0μmの範囲であり、測定結果の中で最も低い値を示した。また、この壁面の色は他の位置に比べて明るい光沢色をしていた。比較例下半分において表面粗さを測定した位置は、いずれも内部流路の壁面のうち
図2で示した角度θが180度の水平な床面に相当する。この壁面においては溶融凝固によって金属質粉が溶融し、溶融した金属が重力によって下層のすき間に浸透する。また、この壁面よりも上の層は内部流路の空洞となる位置であり、金属質粉に照射されるレーザのエネルギー密度が低く調整される。このため、光沢のある平滑な壁面が形成されたと考えられる。
【0074】
<測定結果の解析>
上に述べた表面粗さの測定結果から、次のような事実が明らかとなった。まず、付加製造によって形成された内部流路のうち水平な床面に相当する壁面(比較例下半分)及び垂直な側壁に相当する壁面(実施例1及び実施例2)では、算術平均粗さRaが10μm未満であった。この表面粗さは、ドリル刃による穴あけ加工によって形成された表面の粗さに相当する。一方、内部流路のうち天井に相当する壁面(比較例上半分)、すなわちオーバーハング領域あるいはダウンスキン、では、算術平均粗さRaが25μmを超え、最大で40μmを越えていた。この表面粗さは「荒仕上げ」と呼ばれるレベルに相当し、構造物のうちあまり重要でない面に適用される粗さである。
【0075】
ブロック継手の内部流路の表面粗さは小さければ小さいほど流体抵抗が小さくなり、壁面からの金属質粉の離脱による異物混入のリスクも低減する。また、付加製造の後に内部流路の壁面に仕上げ加工を施す場合にも、加工前の表面粗さが小さいほど加工に要する時間及びコストを低減することができる。したがって、付加製造の際にオーバーハング領域ができるだけ少なくなるように造形姿勢を設定することが好ましい。
【0076】
上記の事実に基づいて実施例1、実施例2及び比較例に係るブロック継手の内部流路の表面粗さについて、測定できなかった位置も含めて考察すると、次のようなことが言える。まず、造形姿勢の選択肢のうち比較例を選択した場合、内部流路の中心線36は常に水平面内にあり、オーバーハング領域、すなわち天井の位置、が内部流路の全長にわたって存在し、その位置では壁面の表面粗さが粗くなる。
図6に示すように、内部流路の壁面の一部に表面粗さが粗い部分があると、他の床面や側壁の位置の表面粗さが仮に平滑であったとしても、内部流路の断面全体で見ると流体のスムーズな流れが妨げられる。したがって、比較例の造形姿勢は好ましくない。
【0077】
次に、造形姿勢として実施例2を選択した場合、表1によれば測定できた位置において表面粗さは実施例1と同等である。実施例2で測定できなかった内部流路の半円部の天井に相当する壁面の表面粗さは、比較例上半分と同じように大きくなっていたと考えられる。しかし、オーバーハング領域の範囲が半円部の一部に限定されている点で、実施例2の造形姿勢は比較例の造形姿勢よりも好ましい。
【0078】
最後に、造形姿勢の選択肢のうち実施例1を選択した場合、内部流路の半円部34は垂直な側壁に相当するので、この部分の壁面の表面粗さは算術平均粗さRaで10μm未満である。一方、2つの直線部35においては内部流路の中心線36の向きが水平面内にあるので、部分的に天井の位置に相当する壁面が存在する。しかし、天井が存在する範囲は実施例2及び比較例に比べて狭く、しかもこれらの位置は入口又は出口に近い。これらの位置は、半円部と異なり例えば入口又は出口から工具を挿入して仕上げ加工を比較的容易に行うことができる。したがって、造形姿勢の選択肢のうち実施例1がベストの選択である。