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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132445
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】抗菌性を有する積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240920BHJP
   C08G 83/00 20060101ALI20240920BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20240920BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 123/00 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240920BHJP
   C09D 123/14 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 151/00 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240920BHJP
   A01P 1/00 20060101ALN20240920BHJP
   A01P 3/00 20060101ALN20240920BHJP
   A01N 55/10 20060101ALN20240920BHJP
   A01N 25/10 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
B32B27/32 E
C08G83/00
C08L23/00
C08L51/06
C09D5/00 D
C09D123/00
C09D5/14
C09D7/63
C09D123/14
C09D4/00
C09D151/00
C09D201/00
A01P1/00
A01P3/00
A01N55/10 100
A01N25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043205
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松田 敬太
(72)【発明者】
【氏名】原口 辰介
(72)【発明者】
【氏名】原田 明
【テーマコード(参考)】
4F100
4H011
4J002
4J031
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AH03
4F100AH03B
4F100AH06
4F100AH06B
4F100AK03
4F100AK03A
4F100AK07
4F100AK07C
4F100AL04
4F100AL04A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ86
4F100JB05
4F100JB05A
4F100JB12
4F100JB12A
4F100JB12B
4F100JL09
4F100JN01
4H011AA02
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB16
4H011BC01
4H011BC19
4H011DA08
4H011DA14
4H011DH02
4J002BB021
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB061
4J002BB071
4J002BB111
4J002BB121
4J002BB141
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4J002BN031
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4J002GG02
4J002GN00
4J002GQ00
4J031AA12
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4J031AC01
4J031AD01
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4J031AE13
4J031AF03
4J031AF05
4J031AF11
4J031AF18
4J031AF23
4J038BA122
4J038CA012
4J038CB091
4J038CE022
4J038CG002
4J038CP011
4J038CP021
4J038DF002
4J038EA012
4J038JC35
4J038KA02
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA09
4J038MA08
4J038MA09
4J038MA10
4J038NA02
4J038PA07
4J038PA19
4J038PB02
4J038PB04
4J038PB07
4J038PB09
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、OPPフィルム等のポリオレフィン基材上に抗菌剤を固定化し、耐水試験等の耐久試験後でも抗菌性が維持可能な積層体を提供することにある。
【解決手段】オレフィン系重合体(A)を含む硬化塗膜層(1)と、カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩を含む抗菌成分を含む硬化塗膜層(2)とを有する積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系重合体(A)を含む硬化塗膜層(1)と、カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩を含む硬化塗膜層(2)と、を有する積層体。
【請求項2】
前記オレフィン系重合体(A)がプロピレン由来の構成単位とプロピレン以外のオレフィン由来の構成単位を有し、前記プロピレン由来の構成単位と前記プロピレン以外のオレフィン由来の構成単位との質量比が60/40~95/5である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記硬化塗膜層(1)が親水性高分子を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記硬化塗膜層(1)が、前記オレフィン系重合体(A)に親水性高分子をグラフトさせたグラフト重合体を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
前記硬化塗膜層(1)が、ラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
前記重合体(B)が、水酸基を有するラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
ポリオレフィン基材上に前記硬化塗膜層(1)と前記硬化塗膜層(2)がこの順に設けられた、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項8】
前記ポリオレフィン基材が二軸延伸ポリプロピレン基材である、請求項7に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは、プラスチックフィルムの中で最も比重が軽く、機械物性や耐熱性、耐水性、さらには透明性に優れることから、軟包装パッケージに最も多く使用されている。しかしながら、ポリプロピレンは分子中に極性基を持たないために低極性であり、塗装や接着、成分の固定化が困難である。
【0003】
近年、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を端にした安全衛生への関心が高まり、抗菌剤や抗コロナウイルス活性を有する物品の開発が行われている。
【0004】
抗菌性及び抗コロナウイルス活性を有する材料の一つに塩化ジアルキルジメチルアンモニウムが知られている(非特許文献1)。塩化ジアルキルジメチルアンモニウムを基材に固定化できる材料としては、3-(Trihydroxysilyl)propyldimethyloctadecyl ammonium chlorideなどのシラン系第4級アンモニウム塩がある。前記材料の場合は、ヒドロキシシリル基が基材表面に存在するカルボキシ基、ヒドロキシ基等と共有結合を形成し、抗菌・抗コロナウイルス成分の固定化を実現することができる。
【0005】
消費者が直接触れる機会が多い軟包装材料に関して、抗菌活性・抗コロナウイルス活性が求められている。しかしながら、当該材料で広く用いられているポリプロピレンフィルムなどのオレフィンフィルムは、一般に表面に極性基をもたないために抗菌・抗コロナウイルス活性を有する成分を固定化することが困難であった。
【0006】
特許文献1には、シラン系のコーティング剤に対して、ポリアクリル酸を含むプライマーを利用することで、ポリオレフィン基材上にシラン系コーティング剤の固定化が行えることが開示されている。
しかしながら、ポリオレフィン基材としてはゴム成分が導入されたICP(Impact Copolymer)PPであるSM340を使用しており、ゴム成分が入っていないPPや二軸延伸PP(OPP)フィルムなどへの固定が可能かどうかは不明であり、課題が残る。
【0007】
特許文献2には、カルボキシ基を有するプライマーにエトキシシラン系第四級アンモニウム塩を含む抗菌剤を塗布することで、抗菌剤を物品表面に固定化する手法が開示されている。具体的には、ポリプロピレン樹脂成型体への抗菌剤の固定化として、厚さ0.2mmのポリプロピレンフィルムに対して無水マレイン酸変性ポリプロピレン(酸価3.0)をバインダーとすることでエトキシシラン系第四級アンモニウム塩が摩耗試験後にも残存していることが開示されている。しかしながら、ポリプロピレンフィルムを基材とした際の抗菌性能の評価は実施されておらず、抗菌活性を示すのに十分な抗菌剤が残存しているかは不明である。また、特許文献2に記載の方法は、耐水、耐温水試験は行われていない。つまり、抗菌活性の有無及び耐久性が不明であり、課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-160311号公報
【特許文献2】国際公開第2013/047642号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は難密着基材であるポリオレフィン基材、特にOPPフィルムに対して、有機シラン系四級アンモニウム塩を含む抗菌剤が表面に固定化され、耐水試験等の耐久試験後でも抗菌性が維持される積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の[1]~[7]を要旨とする。
[1]オレフィン系重合体(A)を含む硬化塗膜層(1)と、カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩を含む硬化塗膜層(2)と、を有する積層体。
[2]前記オレフィン系重合体(A)がプロピレン由来の構成単位とプロピレン以外のオレフィン由来の構成単位を有し、前記プロピレン由来の構成単位と前記プロピレン以外のオレフィン由来の構成単位との質量比が60/40~95/5である、[1]に記載の積層体。
[3]前記硬化塗膜層(1)が親水性高分子を含む、[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]前記硬化塗膜層(1)が、前記オレフィン系重合体(A)に親水性高分子をグラフトさせたグラフト重合体を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記硬化塗膜層(1)が、ラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]前記重合体(B)が、水酸基を有するラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する、[5]に記載の積層体。
[7]ポリオレフィン基材上に前記硬化塗膜層(1)と前記硬化塗膜層(2)がこの順に設けられた、[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]前記ポリオレフィン基材が二軸延伸ポリプロピレン基材である、[7]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、OPPフィルム等のポリオレフィン基材上に抗菌剤を固定化し、耐水試験等の耐久試験後でも抗菌性が維持可能な積層体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」で表される数値範囲は、その前後の数字を下限及び上限として含む範囲を意味する。また、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタアクリルの総称を意味する。
【0013】
実施形態に係る積層体は、オレフィン系重合体(A)を含む硬化塗膜層(1)と、カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩を含む硬化塗膜層(2)と、を有する積層体である。
【0014】
[硬化塗膜層(1)]
硬化塗膜層(1)は、オレフィン系重合体(A)を含む。硬化塗膜層(1)は、オレフィン系重合体(A)に加えて、親水性高分子、及びラジカル性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)(ただし、オレフィン系重合体(A)を除く。)の少なくとも一方を含んでもよい。
【0015】
(オレフィン系重合体(A))
オレフィン系重合体(A)は、主な構成単位としてオレフィン由来の構成単位を有する重合体である。ただし、「主な構成単位」とは、オレフィン系重合体(A)の全構成単位に対する割合が50モル%以上の構成単位を意味する。
オレフィン系重合体(A)は、オレフィンの単独重合体であってもよく、オレフィン由来の構成単位とオレフィン以外の単量体由来の構成単位を有する共重合体であってもよい。
【0016】
オレフィン系重合体(A)の重量平均分子量は、10000~300000が好ましい。重量平均分子量が前記範囲内であれば、オレフィン系重合体(A)を溶媒あるいは有機溶剤に分散又は溶解した塗料を塗布乾燥する際の取り扱い性が良好となる。前記塗料は、環境負荷の観点から、水系溶媒にオレフィン系重合体(A)が分散した水系樹脂分散体であることが好ましい。
【0017】
前記オレフィン系重合体(A)の好ましい態様としては、下記(1)及び(2)を満たすオレフィン系重合体が挙げられる。
(1)炭素原子数4以下のオレフィン単量体由来の構成単位からなる重合体である。
(2)プロピレン含有率が50モル%以上の重合体である。ポリプロピレン基材への密着性が良好になるため、プロピレン含有率は、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。
【0018】
オレフィン系重合体(A)としては、公知の各種オレフィンの単独重合体及びオレフィン系共重合体を用いることができる。具体的には、特に限定されないが、以下のポリオレフィンを挙げることができる。
エチレン又はプロピレンの単独重合体;エチレン及びプロピレンの共重合体;エチレン及び/又はプロピレンと、その他のモノマー(例えば1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-へプテン、1-オクテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、及びノルボルネン等の炭素原子数4以上のα-オレフィンモノマー)との共重合体;前記その他のモノマーから選択さえる2種類以上から成る共重合体;炭素原子数2以上のα-オレフィンモノマーと、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのコモノマーとの共重合体;炭素原子数2以上のα-オレフィンモノマーと、芳香族ビニルモノマーなどのコモノマーとの共重合体又はその水素添加体;共役ジエンブロック共重合体又はその水素添加物等。
なお、単に「共重合体」という場合は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0019】
前記炭素原子数2以上のα-オレフィンモノマーは、炭素原子数2~4のα-オレフィンモノマーが好ましい。さらに、オレフィン系重合体(A)は、前記ポリオレフィンを塩素化した塩素化ポリオレフィンであってもよい。その場合、塩素化ポリオレフィンの塩素化度は、通常5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上である。また、塩素化度は、通常40質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。
【0020】
オレフィン系重合体(A)の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-ヘキセン共重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化エチレン-プロピレン共重合体、塩素化プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEPS)等が挙げられる。これらの重合体は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0021】
オレフィン系重合体(A)としては、プロピレン単独重合体、又は、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体が好ましく、これらは塩素化されていてもよい。共重合体としては、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、塩素化エチレン-プロピレン共重合体、又は塩素化プロピレン-ブテン共重合体がより好ましい。
また、オレフィン系重合体(A)は、環境負荷の観点から、塩素原子を含まないものであることがさらに好ましく、塩素原子を含まない、プロピレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体が特に好ましい。
【0022】
また、オレフィン系重合体(A)は、その構成単位としてプロピレンを含有するプロピレン系重合体が好ましい。前記プロピレン系重合体中のプロピレン含有率は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。通常、プロピレン含有率が高いほどポリプロピレン基材への密着性が増す傾向にある。
オレフィン系重合体(A)としては、プロピレン由来の構成単位とプロピレン以外のオレフィン由来の構成単位を有し、プロピレン由来の構成単位とプロピレン以外のオレフィン由来の構成単位との質量比が60/40~95/5である共重合体が特に好ましい。
【0023】
オレフィン系重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、GPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて測定し、各々のポリオレフィンの検量線で換算した場合に、5,000~500,000であることが好ましい。下限値のより好ましい値は10,000、さらに好ましくは20,000、特に好ましくは30,000である。上限値のより好ましい値は300,000である。Mwが5,000以上であればべたつき度合いが小さくなり、基材への密着性が増す傾向がある。また、Mwが500,000以下であれば粘度が低下し、水系樹脂分散体の調製が容易になる傾向がある。なお、GPC測定は、オルトジクロロベンゼンなどを溶媒として、市販の装置を用いて従来公知の方法で行われる。
【0024】
オレフィン系重合体(A)の製造方法は、本発明の要件を満たす重合体を製造できる方法であれば特に限定されず、いかなる製造方法であってもよい。製造方法としては、例えばラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合などが挙げられる。これらは、リビング重合的であってもよい。
【0025】
また、配位重合の場合は、例えばチーグラー・ナッタ触媒により重合する方法や、シングルサイト触媒により重合する方法が挙げられる。より好ましい製法としては、シングルサイト触媒による製造方法を挙げることができる。この理由としては、一般にシングルサイト触媒が、配位子のデザインにより分子量分布や立体規則性分布をシャープにすることができる点が挙げられる。シングルサイト触媒としては、C1対称型、C2対称型、C2V対称型、CS対称型などの対称型を有するものが知られている。本発明においては、重合するポリオレフィンの立体規則性に応じて、適切なメタロセン触媒を選択して用いればよい。
【0026】
製造方法は、溶液重合、スラリー重合、バルク重合、気相重合などいずれの形態でもよい。溶液重合やスラリー重合の場合、溶媒としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル類、ケトン類、エーテル類等が挙げられる。これらの中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、及び脂環式炭化水素が好ましく、トルエン、キシレン、ヘプタン、及びシクロヘキサンがより好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0027】
オレフィン系重合体(A)は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
さらにオレフィン系重合体(A)は、反応性基を有してもよい。具体的には、重合時にオレフィンと反応性基を有する不飽和化合物とを共重合した共重合体(Aa)や、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をオレフィン系重合体にグラフト重合したグラフト重合体等(Ab)が挙げられる。
【0028】
前記共重合体(Aa)は、オレフィンと、反応性基を有する不飽和化合物とを共重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物が主鎖に挿入された共重合体である。例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のα-オレフィンと、アクリル酸、無水マレイン酸等のα,β-不飽和カルボン酸又は無水物とを共重合したものが挙げられる。共重合体(Aa)の具体例としては、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。共重合体(Aa)の製造方法としては、オレフィン系重合体(A)に関する前記の製造方法を同様に用いることができる。
【0029】
グラフト重合体(Ab)は、オレフィン系重合体に、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合することにより得られる。前記オレフィン系重合体としては、前記の共重合体(Aa)を使用することができる。また、グラフト重合体(Ab)にさらに反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をグラフト重合してもよい。
【0030】
反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物における反応性基としては、カルボキシ基及びその無水物、アミノ基、エポキシ基、イソシアナト基、スルホニル基、水酸基等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシ基及びその無水物が好ましい。
反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸又はその無水物、イタコン酸又はその無水物、クロトン酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
グラフト重合に用いるラジカル重合性開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤から適宜選択して使用することができ、例えば有機過酸化物、アゾニトリル等を挙げることができる。前記有機過酸化物としては、ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類、クミンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類、ジ(t-ブチル)パーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等のパーオキシエステル類等を挙げられる。前記アゾニトリルとしては、アゾビスブチロニトリル、アゾビスイソプロピルニトリル等が挙げられる。これらの中でも、ベンゾイルパーオキシド及びt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが好ましい。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ラジカル重合開始剤と、グラフト重合体(Ab)のグラフト共重合単位の使用割合は、通常、ラジカル重合開始剤:グラフト共重合単位=1:100~2:1(モル比)の範囲であり、好ましくは1:20~1:1の範囲である。
グラフト重合の反応温度は、通常50℃以上であり、好ましくは80~200℃の範囲である。
グラフト重合の反応時間は通常2~20時間程度である。
【0033】
前記グラフト重合体(Ab)の製造方法は、本発明の要件を満たす重合体を製造できる方法であれば特に制限されず、いかなる製造方法であってもよい。製造方法としては、例えば、溶液中で加熱撹拌して製造する方法、無溶媒で溶融加熱撹拌して製造する方法、押し出し機で加熱混錬して製造する方法等が挙げられる。溶液中で製造する場合の溶媒としては、前記重合体(A)の製造方法において例示した溶媒を同様に用いることができる。
【0034】
前記グラフト重合体(Ab)中の反応性基の含有量は、グラフト重合体(Ab)1g当たり0.01~1mmolの範囲であることが好ましい。より好ましい下限値は、0.05mmol/gであり、さらに好ましくは0.1mmol/gである。より好ましい上限値は、0.5mmol/gであり、さらに好ましくは0.3mmol/gである。反応性基の含有量が0.01mmol/g以上であれば親水性が増すため、水系樹脂分散体としたときに分散粒子径が小さくなる傾向にある。また、反応性基の含有量が1mmol/g以下であれば、ポリプロピレン基材に対する密着性が増す傾向にある。
【0035】
前記グラフト重合体(Ab)中の反応性基が、カルボキシ基及びその無水物、スルホニル基のような酸性基である場合、前記酸性基を塩基性化合物で中和することにより、水系樹脂分散体の機械安定性が良好となる傾向にある。前記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基、トリエチルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2-メチル-2-アミノ-プロパノール、トリエタノールアミン、モルフォリン、ピリジン等の有機塩基等が挙げられる。塩基性化合物による中和率は、水への分散性が得られれば1~100モル%の範囲で特に限定されないが、50モル%以上であることが好ましい。中和率が低いと水への分散性が低下する傾向にある。
【0036】
本発明において、オレフィン系重合体(A)は水系樹脂分散体の形態で用いてもよい。水系樹脂分散体の製造方法は、特に限定されないが、例えばオレフィン系重合体(A)、水、及び水以外の溶媒の混合物を調製した後、前記混合物から前記溶媒を除去することにより分散体とする方法や、オレフィン系重合体(A)を溶融させた後に水を添加して分散体とする方法等が挙げられる。
【0037】
また、オレフィン系重合体(A)の水系樹脂分散体は、オレフィン系重合体(A)に界面活性剤を含有させて分散させる方法、オレフィン系重合体(A)に親水性高分子を、共有結合を介して結合させたグラフト重合体を分散させる方法、前記グラフト重合体(Ab)中の前記反応性基がカルボキシ基又はその無水物、スルホニル基等の酸性基である場合に、前記酸性基を塩基性化合物で中和することにより前記グラフト重合体(Ab)を分散させる方法等がある。貯蔵安定性や耐水性に優れるため、オレフィン系重合体(A)と親水性高分子が共有結合を介して結合していることが特に好ましい。
【0038】
(親水性高分子)
本発明において、「親水性高分子」とは、25℃の水に10質量%の濃度で溶解させたときの不溶分が1質量%以下の高分子を意味する。親水性高分子としては、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されずに用いることができ、合成高分子、半合成高分子、天然高分子のいずれも用いることができ、さらには反応性基を有していてもよい。
【0039】
合成高分子としては、特に限定されないが、例えばポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等が使用できる。天然高分子としては特に限定されないが、例えばコーンスタート小麦デンプン、かんしょデンプン、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、米デンプンなどのデンプン、ふのり、寒天、アルギン酸ソーダなどの海藻、アラビアゴム、トラガントゴム、こんにゃくなどの植物粘質物、にかわ、カゼイン、ゼラチンなどの動物性タンパク、プルラン、デキストリンなどの発酵粘物質等が利用できる。半合成高分子としては、特に限定されないが、例えばカルボキシルデンプン、カチオンデンプン、デキストリンなどのデンプン質、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース、等が使用できる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
なかでも好ましくは、親水性度合いの制御がしやすく、特性も安定している合成高分子である。より好ましくは、ポリ(メタ)アクリル樹脂などのアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、及びポリビニルピロリドン樹脂、ポリエーテル樹脂である。親水性の高いポリエーテル樹脂が最も好ましい。ポリエーテル樹脂は、通常、環状アルキレンオキサイド又は環状アルキレンイミンを開環重合することで得られる。
【0041】
(オレフィン系重合体(A)と親水性高分子のグラフト重合体)
オレフィン系重合体(A)と親水性高分子はグラフト重合体を形成してもよい。このとき、オレフィン系重合体(A)と親水性高分子との結合方法は、特に限定はされないが、例えば、反応性基を有するオレフィン系重合体(A)中で環状アルキレンオキサイドを開環重合する方法、開環重合等により得られたポリエーテルポリオールやポリエーテルアミンなどの反応性基を有する親水性高分子と反応性基を有するオレフィン系重合体(A)とを反応する方法等が挙げられる。
【0042】
ポリエーテルアミンは、ポリエーテル骨格を有する樹脂の片末端又は両末端に、反応性基としての1級アミノ基を有する化合物である。ポリエーテルポリオールはポリエーテル骨格を有する樹脂の両末端に、反応性基としての水酸基を有する化合物である。親水性を示すポリアルキレンオキサイドやポリアルキレンイミンとして、好ましくはポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミンが挙げられる。
【0043】
ポリエーテルアミンとしては、ハンツマン社製ジェファーミンMシリーズ、Dシリーズ、EDシリーズ等を使用してもよい。本発明に用いる親水性高分子は、オレフィン系重合体(A)との結合前に、これと反応し得る反応性基を1以上有していることが好ましい。親水性高分子が有する反応性基としては、例えばカルボン酸基、ジカルボン酸無水物基、及びジカルボン酸無水物モノエステル基、水酸基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基等が挙げられ、好ましくは少なくともアミノ基を有する。アミノ基は、カルボン酸基、無水カルボン酸基、グリシジル基、イソシアネート基等の多種の反応性基と反応性が高いので、オレフィン系重合体(A)と結合させることが容易である。アミノ基は1級、2級、3級のいずれでもよいが、より好ましくは1級アミノ基である。
【0044】
親水性高分子が有する反応性基は1以上あればよいが、より好ましくは反応性基を1つのみ有する。親水性高分子が有する反応性基が2つ以上であると、オレフィン系重合体(A)と結合させる際に3次元網目構造となってゲル化してしまう可能性がある。ただし、親水性高分子が反応性基を複数有していても、他より反応性の高い反応性基が1つのみであればよい。例えば複数の水酸基と、それより反応性の高い1つのアミノ基を有する親水性高分子は好ましい例である。なお、前記の「反応性」とは、前記オレフィン系重合体(A)が持つ反応性基との反応性を意味する。
【0045】
(ラジカル重合性単量体由来の構成成分を有する重合体(B))
硬化塗膜層(1)は、さらにラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)を含んでもよい。前記重合体(B)も環境負荷の観点からは水系樹脂分散体であることが好ましい。前記重合体(A)及び重合体(B)はそれぞれの樹脂が別々の粒子として存在していてもよいし、前記重合体(A)及び重合体(B)が同一粒子内に存在していてもよい。水系樹脂分散体の安定性や硬化塗膜層の外観の観点からは後者が好ましい。
【0046】
重合体(B)に用いるラジカル重合性単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸系単量体、スチレンやα-メチルスチレン等の芳香族系単量体、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。これらの中でも、耐候性及び耐溶剤性の点から、(メタ)アクリル酸系単量体及び芳香族系単量体が好ましい。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等;(メタ)アクリル酸ベンジル等の炭素原子数6~12のアリール基又はアラルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリエチレンオキサイドの付加物等;(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パ-フルオロエチルエチル等のフッ素原子を有する炭素原子数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類を挙げることができる。
【0048】
重合体(B)は、水酸基を有するラジカル重合性単量体由来の構成単位を含むことが好ましい。硬化塗膜層(1)が、少なくとも水酸基を有するラジカル重合性単量体由来の構成単位を有する重合体(B)を含むとき、硬化塗膜層(2)をより効果的に固定化できるとともに、特に優れた光学特性を有する積層体を得ることができる。
【0049】
水酸基を有するラジカル重合性単量体としては、例えばアクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸2-ヒドロキシブチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシブチル、アクリル酸ポリプロピレングリコール、メタクリル酸ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0050】
重合体(B)の製造方法は、特に限定されないが、オレフィン系重合体(A)の水系樹脂分散体中で重合体(B)の原料単量体を重合させる方法や、オレフィン系重合体(A)と、重合体(B)の原料単量体を溶解させて、水系樹脂分散体とした後に重合させる方法などが挙げられる。重合体(B)の原料単量体の重合性の観点から、前者が好ましい。
【0051】
水系樹脂分散体に含まれるオレフィン系重合体(A)と重合体(B)の比率(固形分の質量比(A)/(B))は、0.25~4であることが好ましい、この範囲において、前記比率が小さくなるほど、水系樹脂分散体を安定に製造することができ、貯蔵安定性が向上する。また、前記範囲内において、前記比率が大きくなるほど、塗膜とポリオレフィン基材の初期密着性が良好となる。
【0052】
重合体(B)を含む水系樹脂分散体には、貯蔵安定性を向上させる目的で界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、各種アニオン性、カチオン性、ノニオン性の界面活性剤、もしくは高分子界面活性剤を用いることができる。さらに、界面活性剤成分中にエチレン性不飽和結合を持つ、いわゆる反応性界面活性剤も使用することができる。これらの中でも、得られる水系樹脂分散体の貯蔵安定性の観点からは、アニオン性の界面活性剤を用いることが好ましい。アニオン性の界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば反応性界面活性剤であるアデカリアソープSR(商品名、(株)ADEKA製)や、非反応性界面活性剤であるニューコール(登録商標)707SF(商品名、日本乳化剤(株)製)を用いることができる。
【0053】
界面活性剤は、重合体(B)100質量部(固形分)に対して3質量部以下の割合で含有されていることが好ましく、2質量部以下であることがより好ましい。界面活性剤の含有割合を3質量部以下とすることにより、水系樹脂分散体の貯蔵安定性が向上する。また、耐水性を損ないにくく、塗料組成物に用いた場合における安定性を維持することができる。
【0054】
さらに、重合体(B)を含む水系樹脂分散体の製造方法としては、本発明の効果を損なわない限り、一括重合及び/又は滴下重合を用いることができる。ここで、一括重合とは、一度に単量体全量を仕込んで重合する方法である。また、滴下重合とは、単量体を少しずつ滴下して重合する方法である。重合安定性及びポリプロピレン基材に対する密着性の観点から、一括重合が好ましい。一括重合は、例えばオレフィン系重合体(A)の水系樹脂分散体と、オレフィン系重合体(A)の質量の0.25~4倍の重合体(B)の原料であるラジカル重合性単量体とを混合した後に、開始剤によりラジカル重合することにより行うことができる。滴下重合は、例えば、オレフィン系重合体(A)に、ラジカル重合下で重合体(B)の原料であるラジカル重合性単量体を滴下することにより行うことができる。
【0055】
重合反応に用いる開始剤としては、一般的にラジカル重合に使用されるものを使用することができる。具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}2,2’-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類;2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]及びその塩類;2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル]プロパン}及びその塩類;2,2’-アゾビス(2-メチルプロピンアミジン)及びその塩類;2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。これらの開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明では、さらに還元剤を添加して、レドックス系重合反応を行ってもよい。好ましいラジカル重合方法は、水溶性開始剤を用いて重合を行う方法や、開始剤として有機過酸化物を用い、還元剤として硫酸第一鉄やイソアスコルビン酸等を用いたレドックス反応により重合を行う方法である。
【0057】
重合反応を行う際には、分子量調整剤として、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。
【0058】
重合反応が完結した後、冷却して水系樹脂分散体を取り出す際には、異物やカレットの混入を防止するため、濾過操作を行うことが好ましい。濾過方法については、公知の方法を使用することができ、例えばナイロンメッシュ、バグフィルター、濾紙、金属メッシュ等を用いることができる。
【0059】
水系樹脂分散体の粒子構造は、一般的なゲル包埋法で作製した超薄切片や、希釈してグリッド上に滴下、乾燥したサンプルをRuO染色し、透過型電子顕微鏡を用いて観察することができる。
【0060】
前記水系樹脂分散体は、さらに各種添加剤を配合して水系塗料組成物とすることが好ましい。添加剤としては、例えば、各種顔料、樹脂ビーズ、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤、増粘剤、濡れ剤、溶剤等の各種添加剤などが挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。
【0061】
また、水系塗料組成物には、前記オレフィン系重合体(A)、親水性高分子及び重合体(B)以外の成分として、他の重合体粒子(例えば、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド樹脂等の他の重合体からなる分散粒子)、水溶性樹脂・粘性制御剤、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、カルボキシ基含有化合物、カルボキシ基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、エポキシ基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物等の硬化剤が混合されていてもよい。
【0062】
[硬化塗膜層(2)]
硬化塗膜層(2)は、カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩を含む。カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩は、抗菌成分である。
【0063】
(カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩)
前記カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩は、抗菌性を発現する長鎖のアルキル基を有するアンモニウム基と、硬化塗膜層(1)の表面と共有結合を形成できるアルコキシシリル基、又はヒドロキシシリル基を有している。有機シラン系四級アンモニウム塩としては、下記一般式(1)で表されるケイ素含有化合物が好ましい。
【0064】
【化1】
【0065】
(式中、Rは炭素原子数12~24の長鎖アルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に炭素原子数1~6のアルキル基を示し、Xはハロゲンイオン又は有機カルボニルオキシイオンを示し、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子あるいは炭素原子数1~6のアルキル基を示す。)
【0066】
式(1)中のRの炭素原子12~24の長鎖アルキル基としては、特に限定されず、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、エイコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等を例示できる。
【0067】
式(1)中のR及びRの炭素原子数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等を例示できる。
【0068】
式(1)で表されるケイ素含有化合物の具体例としては、オクタデシルジメチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジイソプロピル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジエチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジ-n-プロピル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジメチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジエチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジ-n-プロピル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジエチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジ-n-プロピル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジ-n-プロピル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジイソプロピル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジエチル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジ-n-プロピル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジメチル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジエチル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジ-n-プロピル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジエチル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジ-n-プロピル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジ-n-プロピル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド等が挙げられる。これらの中でも、より生体毒性や使用時の環境負荷、廃液の環境負荷の少ないオクタデシルジメチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドやオクタデシルジメチル(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドが好ましい。
【0069】
硬化塗膜層(2)に使用される抗菌剤は、カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩の1種類又は2種類以上であってもよいし、さらに他の抗菌剤と併用することもできる。カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩は、グラム陽性菌、グラム陰性菌に対する抗菌効果及び、インフルエンザウイルス、はしかウイルス、コロナウイルスなどのエンベロープウイルスに対しても抗ウイルス作用を有している(抗菌効果、抗ウイルス効果をまとめて抗菌効果ともいう)。さらに、抗菌効果以外に、静電防止効果や防臭効果も同時に有すると考えられている。
【0070】
前記カチオン系有機シラン四級アンモニウム塩は、水やアルコール、有機溶剤に溶解して塗布しやすい粘度に調整してもよい。また、溶剤以外にも、本発明の効果を損なわない限り、さらに各種添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、各種顔料、樹脂ビーズ、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤、増粘剤、濡れ剤、溶剤等の各種添加剤などが挙げられ、これらのうちの1種以上を使用してもよい。また、反応を促進するために酸や塩基、金属アルコキシド、金属キレート等の触媒を併用してもよい。
【0071】
[積層体]
本発明の積層体は、前記の硬化塗膜層(1)と硬化塗膜層(2)とを有する。硬化塗膜層(2)を固定化するためには、硬化塗膜層(1)と硬化塗膜層(2)は順次積層され、抗菌性を発現するために硬化塗膜層(2)は最表面に位置することが好ましい。
【0072】
硬化塗膜層(1)はポリオレフィン樹脂を含む基材上に塗布されることが好ましい。ポリオレフィン樹脂は一般に難密着素材であるが、硬化塗膜層(1)があることで、ポリオレフィン樹脂を含む基材上に硬化塗膜層(2)を固定化することができる。
基材に含まれるポリオレフィン樹脂の具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、シクロオレフィンポリマー等が挙げられる。本発明は、特にポリプロピレンを含む基材に対して好適である。
基材の形状としては、フィルムやシート状であっても射出成形した成形体あるいは繊維基材であってもよい。本発明における硬化塗膜層(1)はポリプロピレンに対して密着性が強く、透明性が高いことから、二軸延伸ポリプロピレン基材が好ましく、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムに特に好適である。
【0073】
前記ポリオレフィン樹脂を含む基材は、上塗り層の濡れ性や密着性を向上させる等の目的のため、その表面をコロナ処理、プラズマ処理、フレイム処理等で改質してもよい。
【0074】
前記硬化塗膜層(1)及び硬化塗膜層(2)を形成する方法としては、従来公知の塗装方法を利用できる。具体例としては、グラビア及びマイクログラビア方式、スロットダイ方式、ナイフコーティング、ギャップコーティング、カーテンコーティング、あるいはスプレー塗装、刷毛塗り塗装、浸漬塗装、ロール塗装等が挙げられる。また、水系樹脂分散体と抗菌成分を積層させる工程は、順次塗布乾燥して積層させてもよいし、多層スロットダイやマルチレイヤカーテンコータ等を用いて同時に塗布、積層してもよい。
【0075】
硬化塗膜層(1)の膜厚は、0.1~30μmが好ましく、0.1~20μmがより好ましく、1~15μmがさらに好ましい。硬化塗膜層(1)の膜厚が0.1μm以上であれば、膜厚のバラつきが小さくなり、硬化塗膜層(2)の固定化が容易になる。硬化塗膜層(1)の膜厚が30μm以下であれば、より短時間で乾燥できるため経済的に有利になる。
硬化塗膜層(1)を形成する際の乾燥温度は、60℃以上が好ましい。60℃以上であれば乾燥を短時間で行える。上限は特にないが、基材の耐熱温度を超えない範囲で乾燥することが好ましい。
【0076】
硬化塗膜層(2)の膜厚は、0.01~1μmが好ましい。塗工、乾燥過程で前記抗菌成分は加水分解、脱水縮合し、塗膜が収縮するが、膜厚が0.01μm以上であれば均一な硬化塗膜層(2)の形成が容易である。一方、硬化塗膜層(2)の膜厚が1μm以下であれば、経済的に有利である。
硬化塗膜層(2)を形成する際の乾燥温度は、60℃以上が好ましい。60℃以上であれば、乾燥を短時間で行える。抗菌成分の加水分解反応及び脱水縮合反応を促進するためには90℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。上限は特にないが、基材の耐熱温度や抗菌成分の分解温度を超えない範囲で乾燥することが好ましい。
【0077】
本発明により得られる積層体は、軟包装材、エアコン、冷蔵庫、洗濯機等の家電、便器、キッチンシンクや浴室用備品、自動車内装等に用いることができる。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明する。なお、実施例中の「部」は「質量部」を表す。また、評価は以下に示す方法で行った。
【0079】
[物性測定方法及び評価方法]
(1)オレフィン系重合体(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)の測定方法
オレフィン系重合体(A)の試料5mgを10mLのバイアル瓶に採取し、安定剤としてジブチルヒドロキシトルエン250質量ppmを含有するテトラヒドロフランを5g添加し、50℃で完全に溶解させた。室温に冷却後、孔径0.45μmのフィルターでろ過し、ポリマー濃度0.1質量%の試料溶液を調製した。次に、カラムとしてTSKgel GMHXL-L(30cm×2本)にガードカラムTSKguardcolumnHXL-Hを装着した東ソー(株)社製GPC HLC-8020を使用してGPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液のインジェクション量:50μL、カラム温度:40℃、溶媒:テトラヒドロフラン、流量1.0mL/minで測定した。
標準試料として市販の単分散のポリスチレン標準試料を測定し、標準試料の保持時間と分子量から検量線を作成してオレフィン系重合体(A)の重量平均分子量[Mw]及び分子量分布[Mw/Mn]を算出した。
【0080】
(2)オレフィン系重合体(A)の融点(Tm)の測定方法
セイコーインスツル(株)社製の示差走査熱量計(DSC 220C)を使用して測定した。オレフィン系重合体(A)の試料5±1mgをアルミニウム製のパンに入れてアルミニウム製の蓋をし、空のアルミニウム製のパンをリファレンスとして検出器にのせた。200℃まで100℃/分の速度で昇温した。200℃で5分間保持した後、10℃/分の速度で冷却し、-10℃まで0.5秒間隔で熱量を検出した。-10℃で1分保持した後、10℃/分の速度で200℃まで昇温させ、0.5秒間隔で熱量を検出した。
各試料とも冷却過程において発熱ピークが1つ、最後の昇温過程において吸熱ピークが1つ観測された。最後の昇温過程におけるピークのピークトップ時の温度をオレフィン系重合体(A)の融点(℃)とした。
【0081】
(3)水系樹脂分散体の平均粒子径(d)の測定方法
水系樹脂分散体を脱イオン水で1質量%に希釈し、濃厚系粒径アナライザー(FPAR-1000、大塚電子(株)製)を用いて、キュムラント法で平均粒子径(nm)を求めた。
【0082】
(4)光学特性評価
分光ヘーズメーター(SH 7000、日本電色工業(株)製)を用いて、実施例1~3及び比較例1、2に記載の積層体の全光線透過率(Tt)とヘーズ(Haze)を測定した。結果を表1に記載した。
【0083】
(5)BPB呈色反応
ブロモフェノールブルー(BPB)の四級アンモニウムカチオンへの呈色反応によって、耐久試験後における抗菌成分の残存の有無を確認した。実施例及び比較例で作製した積層体(加工試料)から複数個の5cm角の試験片を切り出した。それら試験片の一部に対し、それぞれ以下に示す耐水試験を施した。
(耐水試験)
耐水処理区分1:常温水に16時間浸漬する
耐水処理区分2:50℃±5℃の温水に16時間浸漬する
【0084】
耐水試験を行っていない試験片と耐水試験(耐水処理区分1又は2)を行った試験片を、容器内にテープで固定し、1質量%に調整したBPB水溶液中に20分浸漬した。なお、ブロモフェノールブルーは、富士フィルム和光純薬(株)製の試薬特急グレードを使用した。呈色反応後、試験片は大量の脱イオン水で3度洗浄し、乾燥した。耐水試験前後の呈色の度合いを目視で確認し、以下に示す基準で評価した。
(評価基準)
++:耐久試験前後のサンプル間で呈色がほとんど変化しない
+:耐久試験後のサンプルでは、耐久試験前より呈色が薄い
-:耐久試験後のサンプルでほとんど呈色がない
【0085】
(6)抗菌性評価
抗菌積層体の抗菌性評価はJIS Z 2801:2012(フィルム密着法)に基づいて、以下の手順で行った。試験菌株には大腸菌(E.Coli NBRC 3972)を使用した。前記「(5)BPB呈色反応」と同様に、実施例及び比較例で作製した積層体(加工試料)から複数の試験片を作製し、それら試験片の一部に対し、それぞれ以下に示す耐水試験又は耐光試験を施した。
(耐水試験)
耐水処理区分1:常温水に16時間浸漬する
耐水処理区分2:50℃±5℃の温水に16時間浸漬する
(耐光試験)
耐光処理区分1:キセノンアーク灯10時間
【0086】
試験を行っていない試験片(未処理)と、各試験を行った試験片をそれぞれ別々のシャーレ内に入れ、各シャーレ内の試験片(5cm×5cm)に試験菌液0.4mLを滴下し、フィルム(4cm×4cm)をかぶせ、シャーレに蓋をした。各シャーレを35℃、90%RH以上で24時間培養させた。培養後、SCDLP培地10mLを加えて、フィルムと試験片に付着した試験菌を洗い出した。洗い出し液中の菌数を寒天平板培養法により測定した。
無加工試料(OPPフィルム)から作製した試験片についても同様の操作を行って菌数を測定し、未処理の試験片、耐水試験(耐水処理区分1又は2)後の試験片、耐光試験後の試験片について、それぞれ下記の式に従って抗菌活性値を算出した。
抗菌活性値=logN-logN
ただし、前記式中の記号は以下の意味を示す。
:無加工試料1cm当たりの培養後生菌数
:加工試料1cm当たりの培養後生菌数
抗菌性評価はn=3で実施し、その平均値を抗菌活性値とした。また、抗菌活性値が2.0以上の場合に、抗菌性有と評価した。
【0087】
[製造例1:オレフィン系重合体(A)(酸変性ポリオレフィン樹脂)の製造]
メタロセン触媒によって重合されたプロピレン-ブテン共重合体である「タフマー(登録商標)XM-7070」(三井化学社製、融点75℃、プロピレン含有量74mol%、重量平均分子量[Mw]25万、分子量分布[Mw/Mn]2.2)200kgと無水マレイン酸5kgをスーパーミキサーでドライブレンドした。その後、2軸押出機(日本精鉱社製「TEX54αII」)を用い、プロピレン-ブテン共重合体100部に対して1部となるようにt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製「パーブチルI」)を液添ポンプで途中フィードしながら、ニーディング部のシリンダー温度200℃、スクリュー回転数125rpm、吐出量80kg/時間の条件下で混錬し、ペレット状の無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体を得た。得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含有量(グラフト率)は1質量%であった。また重量平均分子量(ポリスチレン換算)[Mw]は16万、数平均分子量[Mn]は8万であった。
【0088】
[製造例2:オレフィン系重合体(A)に親水性高分子をグラフトさせたグラフト重合体の製造]
還流冷却管、温度計、撹拌機を備えたガラスフラスコ中で、プロピレン-ブテン共重合体「タフマー(登録商標)XM-7070」40g、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体60gをトルエン66.6gで溶解し、容器内を窒素ガスで置換した。フラスコ内を90℃にし、無水マレイン酸を1.5g加え、110℃まで昇温した。t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製「パーブチルI」)を0.75g投入し、7時間反応させ、さらに無水マレイン酸変性した。その後、トルエンを71.4g添加した。
フラスコ内温を70℃とし、2-プロパノール130gにメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン「ジェファーミンM-2005:ハンツマン社製」を20g溶解させた溶液を1時間かけてフラスコ内に滴下し、さらに1.5時間反応させた。その後、2-プロパノール70gにメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン「ジェファーミンM-1000:ハンツマン社製」10gを溶解させ、それを1時間かけて滴下した。その後、さらに1時間反応させた。ジメチルエタノールアミン1.5gを脱イオン水62g、2-プロパノール45gに溶解し、フラスコ内に滴下し、70度で30分撹拌した。
得られた反応液の温度を50℃に保ち、加熱、撹拌し、脱イオン水を滴下しながら、系内の真空度を下げてトルエンと2-プロパノールを減圧除去した。留出液が500gとなった段階で減圧を止め、乳白色の水系樹脂分散体を得た。得られた水系樹脂分散体(固形分濃度30質量%)の平均粒子径は90nmであった。
【0089】
[製造例3:オレフィン系重合体(A)及び重合体(B)を含む水系樹脂分散体の製造]
撹拌機、還流冷却管及び温度制御装置を備えたフラスコに、製造例2で得られた水系樹脂分散体を222.2部、脱イオン水を118.8部、界面活性剤としてニューコール707SF(商品名、日本乳化剤(株):固形分30質量%)を3.3部仕込み、窒素を40mL/minで流し、55℃に昇温した。
脱イオン水40部にニューコール707SFを6.7部加え、さらにラジカル重合性単量体として、アクリル酸-2-エチルヘキシル(三菱ケミカル(株)製)38部、メタクリル酸イソブチル52部(三菱ケミカル(株)製)、アクリル酸-4-ヒドロキシブチル(三菱ケミカル(株)製)10部を加えた後、ホモミクサーMARKIIにより2000rpm程度で撹拌し、ラジカル重合性単量体を乳化した。
乳化したラジカル重合性単量体をフラスコに投入して55℃に昇温した後、撹拌しながら1時間保持した。さらに、開始剤としてパーブチル(登録商標)H69(商品名、日油(株)製、固形分69質量%)0.1部、還元剤として硫酸第一鉄0.0002部、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)0.00027部、イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物0.08部、脱イオン水1部を30分間かけて滴下し、重合を開始した。
滴下終了後に70℃に昇温し、パーブチルH69を0.1部、脱イオン水を2部、イソアスコルビン酸ナトリウム一水和物を0.04部、脱イオン水を2部添加し、60分間熟成した。熟成後、加熱を停止し、室温まで冷却した。得られた水系樹脂分散体(固形分濃度30質量%)の平均粒子径は90nmであった。
【0090】
[実施例1]
製造例2で得た水系樹脂分散体をOPPフィルム(パイレンP2108、東洋紡(株))上に#22のバーコーターで塗布し、100℃に設定した熱風乾燥機中で5分間乾燥した。このとき、乾燥膜厚は10μmであった。抗菌成分として、Biosafe HE4005 Antimicrobial(3-(Trihydroxysilyl)propyldimethyloctadecylammoniumchloride:5質量%水溶液、Gelest,Inc.)をイソプロパノール(IPA)で1質量%に希釈したものを、製造例2の水系樹脂分散体を塗布した塗膜上に#9バーコーターで塗布し、130℃に設定した熱風乾燥機中で5分間乾燥し、積層体を得た。
【0091】
[実施例2]
抗菌成分を塗布する際に、#22バーコーターを使用する以外は、実施例1と同様の操作を行い、積層体を得た。
【0092】
[実施例3]
製造例2の代わりに製造例3で得た水系樹脂分散体をOPPフィルム上に塗布した以外は、実施例2と同様の操作を行い、積層体を得た。
【0093】
[比較例1]
OPPフィルム上に直接抗菌成分を塗布した以外は実施例1と同様の操作を行い、積層体を得た。
【0094】
[比較例2]
OPPフィルム上に直接抗菌成分を塗布した以外は実施例2と同様の操作を行い、積層体を得た。
【0095】
【表1】
【0096】
硬化塗膜層(1)及び硬化塗膜層(2)を積層した実施例1~3の積層体は、硬化塗膜層(1)を有さない比較例1及び比較例2の積層体に比べ、抗菌活性に優れ、耐水試験や耐光試験後も抗菌性が維持されていた。