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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132487
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ポリヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20240920BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240920BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240920BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240920BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240920BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043262
(22)【出願日】2023-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省、戦略的創造研究推進事業 CREST、研究領域「情報担体を活用した集積デバイス・システム」、研究課題名「嗅覚受容体を活用したバイオハイブリッド匂いセンサ」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 紀男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 健太郎
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】センサタンパク質を含む複数のタンパク質のコード配列を含みながらも、センサタンパク質の種類によらずにより安定に化学物質応答活性を発揮させることができるポリヌクレオチドを提供すること。
【解決手段】タンパク質コード配列としてセンサタンパク質のコード配列のみを含む発現カセット1、並びに少なくとも2種のタンパク質コード配列を含む発現カセット2を含む、ポリヌクレオチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質コード配列としてセンサタンパク質のコード配列のみを含む発現カセット1、並びに少なくとも2種のタンパク質コード配列を含む発現カセット2を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記センサタンパク質が嗅覚受容体タンパク質である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記センサタンパク質が昆虫嗅覚受容体タンパク質である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記発現カセット2が、発色又は発光タンパク質のコード配列、薬剤耐性遺伝子のコード配列、及び嗅覚受容体共受容体のコード配列からなる群より選択される少なくとも2種のコード配列を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記発現カセット2が、発色又は発光タンパク質のコード配列、薬剤耐性遺伝子のコード配列、及び嗅覚受容体共受容体のコード配列を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記発現カセット2において、コード配列間に自己切断ペプチドコード配列が配置されている、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
ベクターである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の細胞を含む区画を含む、細胞チップ。
【請求項10】
前記センサタンパク質の種類が互いに異なる2種以上の細胞を含む、請求項9に記載の細胞チップ。
【請求項11】
化学物質検出用である、請求項9に記載の細胞チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヌクレオチド等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの特定の疾患や精神状態等を特徴付ける匂い物質群が同定されており、診断マーカーとしての利用価値が高いことから、これらをターゲットとした様々な匂いセンサの開発が盛んになっている。生物の嗅覚受容体は、多様性、感度、選択性等の面で半導体等の従来の匂いセンサ素子にはない優れた特性を有することから、嗅覚受容体をセンサ素子とした新しい匂いセンサの開発が期待されている。
【0003】
特許文献1では、改変嗅覚受容体を発現する細胞や改変嗅覚受容体を備える脂質二重膜を匂いセンサとして用いることについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2022/024902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
嗅覚受容体等のセンサタンパク質を備える脂質二重膜を人工的に調製する工程を有する匂いセンサは、製造効率が必ずしも十分ではないため、匂いセンサのさらなる製造効率向上が求められている。そこで、センサタンパク質を発現する細胞を利用することに着目した。
【0006】
センサタンパク質を安定的に発現するセンサ細胞を製造する場合、通常、センサタンパク質の他にも、センサタンパク質による化学物質検出に必要なタンパク質(例えば発色又は発光タンパク質、嗅覚受容体共受容体)や、細胞の薬剤スクリーニングに必要な薬剤耐性遺伝子等の他のタンパク質コード配列を細胞のゲノムDNAに組み込むことが必要となる。特許文献1では、これらのタンパク質のコード配列それぞれを別々のベクターに搭載し、細胞に導入している。
【0007】
本発明者は研究を進める中で、次の2点に着目した。ある細胞において複数のタンパク質コード配列をゲノムDNAに組み込む効率をより高めるという観点からは、上記複数のタンパク質コード配列は1つのベクターに搭載されていることが望ましい。また、プロモーター及びターミネーターの数を抑えることによりベクターサイズを小さく抑え、これによりベクターの細胞への導入効率を向上させるという観点からは、1つの発現カセット内に複数のタンパク質コード配列を組み込むことが望ましい。
【0008】
ただ、本発明者はさらに研究を進める中で、1つの発現カセット内にセンサタンパク質コード配列と他のタンパク質のコード配列を組み込むと、センサタンパク質コード配列の位置が化学物質応答活性に影響を与えること、当該影響はセンサタンパク質の種類によって異なること、センサタンパク質の種類によっては、その位置次第で、化学物質応答活性を発揮しない場合もあることを見出した。
【0009】
センサを疾患等の判定に用いるという観点からは、互いに異なるセンサタンパク質を発現する複数種の細胞を製造及び利用することが望ましい。この目的のためには、センサタンパク質の種類によらずにより安定に化学物質応答活性を発揮させることが重要である。
【0010】
本開示は、センサタンパク質を含む複数のタンパク質のコード配列を含みながらも、センサタンパク質の種類によらずにより安定に化学物質応答活性を発揮させることができるポリヌクレオチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、タンパク質コード配列としてセンサタンパク質のコード配列のみを含む発現カセット1、並びに少なくとも2種のタンパク質コード配列を含む発現カセット2を含む、ポリヌクレオチド、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本開示の発明を完成させた。即ち、本開示は、下記の態様を包含する。
【0012】
項1. タンパク質コード配列としてセンサタンパク質のコード配列のみを含む発現カセット1、並びに少なくとも2種のタンパク質コード配列を含む発現カセット2を含む、ポリヌクレオチド。
【0013】
項2. 前記センサタンパク質が嗅覚受容体タンパク質である、項1に記載のポリヌクレオチド。
【0014】
項3. 前記センサタンパク質が昆虫嗅覚受容体タンパク質である、項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
【0015】
項4. 前記発現カセット2が、発色又は発光タンパク質のコード配列、薬剤耐性遺伝子のコード配列、及び嗅覚受容体共受容体のコード配列からなる群より選択される少なくとも2種のコード配列を含む、項1~3のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0016】
項5. 前記発現カセット2が、発色又は発光タンパク質のコード配列、薬剤耐性遺伝子のコード配列、及び嗅覚受容体共受容体のコード配列を含む、項1~4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0017】
項6. 前記発現カセット2において、コード配列間に自己切断ペプチドコード配列が配置されている、項1~5のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0018】
項7. ベクターである、項1~6のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
【0019】
項8. 項1~7のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【0020】
項9. 項8に記載の細胞を含む区画を含む、細胞チップ。
【0021】
項10. 前記センサタンパク質の種類が互いに異なる2種以上の細胞を含む、項9に記載の細胞チップ。
【0022】
項11. 化学物質検出用である、項9又は10に記載の細胞チップ。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、センサタンパク質を含む複数のタンパク質のコード配列を含みながらも、センサタンパク質の種類によらずにより安定に化学物質応答活性を発揮させることができるポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含む細胞、当該細胞を含む細胞チップ等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】試験例1で作製した態様Xのベクター及び態様Yのベクターの構成を示す。
図2】試験例1で測定した化学物質応答活性を示す。縦軸は、化学物質の添加前後の蛍光強度の差分を示す。横軸に、使用したベクターの態様を示す。凡例は化学物質の濃度を示す。グラフの上方に細胞が発現する嗅覚受容体を示す。
図3】試験例1で測定した化学物質応答活性を示す。縦軸は、化学物質の添加前後の蛍光強度の差分を示す。横軸に、使用したベクターの態様を示す。凡例は化学物質の濃度を示す。グラフの上方に細胞が発現する嗅覚受容体を示す。
図4】試験例1で測定した化学物質応答活性を示す。縦軸は、化学物質の添加前後の蛍光強度の差分を示す。横軸に、使用したベクターの態様を示す。凡例は化学物質の濃度を示す。グラフの上方に細胞が発現する嗅覚受容体を示す。
図5】試験例2で作製した態様Zのベクターの構成を示す。
図6】試験例2で測定した化学物質応答活性を示す。縦軸は、化学物質の添加前後の蛍光強度の差分を示す。横軸に、化学物質の濃度を示す。グラフの上方に細胞が発現する嗅覚受容体を示す。グラフ下方に使用したベクターの態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0026】
本開示は、その一態様において、タンパク質コード配列としてセンサタンパク質のコード配列のみを含む発現カセット1、並びに少なくとも2種のタンパク質コード配列を含む発現カセット2を含む、ポリヌクレオチド(本明細書において、「本開示のポリヌクレオチド」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0027】
発現カセット1にそのコード配列が含まれるセンサタンパク質は、化学物質の存在を検出可能なタンパク質から選択すればよく、例えば化学物質をリガンドとする受容体タンパク質であることができる。センサタンパク質は、特に好ましくは嗅覚受容体タンパク質である。
【0028】
嗅覚受容体タンパク質は、7回膜貫通構造を有する膜タンパク質であり、生物の匂いセンサとして働く。嗅覚受容体タンパク質のアミノ末端(以下、「N末端」という場合もある。)からカルボキシル末端(以下、「C末端」という場合もある。)に向かって順に、N末端領域(NT)、第1膜貫通ドメイン(TM1)、第1細胞外ループ(EC1)、第2膜貫通ドメイン(TM2)、第1細胞内ループ(IC1)、第3膜貫通ドメイン(TM3)、第2細胞外ループ(EC2)、第4膜貫通ドメイン(TM4)、第2細胞内ループ(IC2)、第5膜貫通ドメイン(TM5)、第3細胞外ループ(EC3)、第6膜貫通ドメイン(TM6)、第3細胞内ループ(IC3)、第7膜貫通ドメイン(TM7)、及びC末端領域(CT)が連結されて構成される。本開示において、各領域は、TMpred(K. Hofmann, W. Stoffel, TMbase - a database of membrane spanning proteins segments, Biol. Chem. Hoppe-Seyler, 374 (1993), p. 166、https://embnet.vital-it.ch/software/TMPRED_form.html)を用いた構造予測(条件はデフォルト)により決定される。
【0029】
嗅覚受容体タンパク質は、化学物質の検出に適しているという観点から、昆虫嗅覚受容体タンパク質が特に好ましい。昆虫嗅覚受容体タンパク質の由来昆虫としては、好ましくはカ科、ショウジョウバエ科等の双翅目昆虫;カイコガ科等の鱗翅目昆虫;ミツバチ科等の膜翅目昆虫;バッタ科等の直翅目昆虫;トコジラミ科等の半翅目昆虫等が挙げられ、さらに好ましくはカ科、ショウジョウバエ科等の双翅目昆虫;バッタ科等の直翅目昆虫;トコジラミ科等の半翅目昆虫が挙げられる。カ科の昆虫としては、例えば、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)、ネッタイイエカ(Culex quinquefasciatus)等が挙げられる。ショウジョウバエ科の昆虫としては、例えば、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、ウスグロショウジョウバエ(Drosophila pseudoobscura)、クロショウジョウバエ(Drosophila virillis)等が挙げられる。カイコガ科の昆虫としては、例えば、カイコガ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、イチジクカサン(Trilocha varians)等が挙げられる。ミツバチ科の昆虫としては、例えば、セイヨウミツバチ(Apis mellifera)、ヒメミツバチ(Apis florea)、オオミツバチ(Apis dorsata)、セイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)等が挙げられる。バッタ科の昆虫としては、例えば、トノサマバッタ(Locusta migratoria)等が挙げられ、トコジラミ科の昆虫としては、例えば、トコジラミ(Cimex lectularius)等が挙げられる。
【0030】
野生型の昆虫嗅覚受容体タンパク質として、具体的には、例えば、AaOR1、AaOR2、AaOR4、AaOR5、AaOR6、AaOR7、AaOR8、AaOR9、AaOR10a、AaOR15、AaOR22、AaOR24、AaOR25、AaOR26、AaOR27、AaOR28、AaOR30、AaOR34、AaOR36、AaOR38、AaOR41a、AaOR41b、AaOR42、AaOR43、AaOR44、AaOR47、AaOR49、AaOR50、AaOR52、AaOR54、AaOR58、AaOR59、AaOR60、AaOR61、AaOR64、AaOR65、AaOR66、AaOR67a、AaOR69a、AaOR70、AaOR71、AaOR72a、AaOR73、AaOR74、AaOR75、AaOR77、AaOR78、AaOR79、AaOR81、AaOR83b、AaOR84、AaOR85、AaOR86、AaOR87、AaOR91、AaOR95、AaOR97、AaOR96、AaOR99、AaOR100、AaOR102、AaOR103、AaOR104a、AaOR105、AaOR107、AaOR108、AaOR109、AaOR110、AaOR112、AaOR114、AaOR116、AaOR117、AaOR118、AaOR122、AaOR125、AaOR128、AgOR1、AgOR2、AgOR3、AgOR4、AgOR5、AgOR6、AgOR7、AgOR8、AgOR9、AgOR10、AgOR11a、AgOR12a、AgOR12b、AgOR13、AgOR14、AgOR15、AgOR16a、AgOR17、AgOR18、AgOR20、AgOR21、AgOR23、AgOR25、AgOR26、AgOR27、AgOR28、AgOR30、AgOR34、AgOR36、AgOR37、AgOR38、AgOR39a、AgOR40、AgOR42、AgOR44、AgOR45、AgOR46、AgOR47、AgOR49、AgOR50、AgOR54、AgOR56a、AgOR57、AgOR60、AgOR61、AgOR62、AgOR63、AgOR64、AgOR65、AgOR69、AgOR70、AgOR71、AgOR72、AgOR74、AgOR75、AgOR76a、AmOR1、AmOR3、AmOR9、AmOR10、AmOR13、AmOR41、AmOR51、AmOR52、AmOR55、AmOR71、AmOR73、AmOR78、AmOR85、AmOR89、AmOR90、AmOR114、AmOR115、AmOR118、AmOR120、AmOR121、AmOR161、BmOR1、BmOR2、BmOR3、BmOR4、BmOR5、BmOR8、BmOR9、BmOR10、BmOR13、BmOR17、BmOR18、BmOR23、BmOR24、BmOR25、BmOR35、BmOR36、BmOR42、BmOR45、BmOR49、BmOR51、BmOR52、BmOR55、BmOR56、BmOR61、DmOR1a、DmOR9a、DmOR19a、DmOR22a、DmOR22b、DmOR22c、DmOR24a、DmOR30a、DmOR33a、DmOR33b、DmOR33c、DmOR35a、DmOR42b、DmOR43a、DmOR45a、DmOR45b、DmOR47a、DmOR49b、DmOR59b、DmOR65b、DmOR65c、DmOR67b、DmOR67c、DmOR69a、DmOR71a、DmOR74a、DmOR82a、DmOR83a、DmOR83b、DmOR83c、DmOR85a、DmOR85c、DmOR85e、DmOR85f、DmOR88a、DmOR92a、DmOR94a、DmOR94b、DmOR98b等が挙げられる。
【0031】
本明細書において、ORは嗅覚受容体(Odorant receptor)を示し、DmはDrosophila melanogaster由来であることを示し、BmはBombyx mori由来であることを示し、AgはAnopheles gambiae由来であることを示し、AaはAedes aegypti由来であることを示す。これらを含む各種嗅覚受容体タンパク質のアミノ酸配列及びコード配列は公知であるか、公知の配列に基づいた配列同一性検索により容易に同定することができる。
【0032】
センサタンパク質は、化学物質応答活性が著しく低減しない限りにおいて、野生型アミノ酸配列に対するアミノ酸変異を含むことができる。「著しく低減しない」とは、例えば、アミノ酸変異を含むセンサタンパク質の化学物質応答活性が、野生型のセンサタンパク質の化学物質応答活性100%に対して、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、よりさらに好ましくは90%以上である、ことを意味する。
【0033】
アミノ酸変異は、例えばアミノ酸の置換、挿入、付加、又は欠失であり、好ましくは置換であり、特に好ましくは保存的置換である。
【0034】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;トレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0035】
センサタンパク質は、野生型アミノ酸配列、野生型アミノ酸配列に対して例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むことができる。
【0036】
本明細書において、アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。塩基配列の同一性も上記と同様である。
【0037】
センサタンパク質には、化学物質応答活性が著しく損なわれない限りにおいて、他のアミノ酸配列、例えばタンパク質タグ、蛍光タンパク質、発光タンパク質、シグナル配列等のタンパク質又はペプチドが付加されてもよい(すなわち、融合タンパク質の形態であってもよい)。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。
【0038】
本明細書において、化学物質応答活性とは、センサタンパク質が化学物質を認識し、そのセンサタンパク質単独が又は他のタンパク質と共役してシグナル伝達活性(例えば、イオンチャネル活性)を示す性質をいう。嗅覚受容体の場合であれば、嗅覚受容体が化学物質を認識し、その嗅覚受容体と嗅覚受容体共受容体とが形成した嗅覚受容体複合体が活性化されてイオンチャネル活性を示す性質をいう。センサタンパク質の化学物質応答活性は、化学物質と接触したセンサタンパク質のシグナル伝達活性を指標として(例えばシグナル分子の量を定量・評価して)測定することができる。嗅覚受容体の場合であれば、嗅覚受容体の化学物質応答活性は、化学物質と接触した嗅覚受容体と嗅覚受容体共受容体とが形成する嗅覚受容体複合体のイオンチャネル活性を指標として測定することができる。例えば、(a)嗅覚受容体、(b)嗅覚受容体共受容体、及び(c)嗅覚受容体複合体が応答した場合に細胞内に流入するイオン(カルシウムイオン等)により発色又は発光するタンパク質を発現する細胞と、化学物質とを接触させ、当該細胞の発光量を測定する。測定された発光量が多い程、嗅覚受容体の化学物質の応答活性が高いと判定する。具体的には特許文献1に記載の方法に従って測定することができる。
【0039】
センサタンパク質のコード配列は、センサタンパク質をコードする塩基配列である限り、特に制限されない。
【0040】
発現カセット1は、タンパク質コード配列としてセンサタンパク質のコード配列のみを含む、換言すれば、センサタンパク質のコード配列以外のタンパク質コード配列を含まない。これにより、センサタンパク質の種類によらずにより安定に化学物質応答活性を発揮させることができる。また、より高い化学物質応答活性を発揮することも可能である。
【0041】
発現カセット1は、細胞内でセンサタンパク質を発現可能なポリヌクレオチドである限り特に制限されない。発現カセット1は、1つのプロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたセンサタンパク質のコード配列を含む。
【0042】
発現カセット1のプロモーターとしては、特に制限されず、適宜選択することができる。プロモーターとしては、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、昆虫由来遺伝子のプロモーター等が挙げられる。
【0043】
中でも、発現カセット1のプロモーターとして特に適している(中でも、後述のヒトリガ科の昆虫細胞、好ましくはクワゴマダラヒトリ細胞における発現に特に適している)という観点から、PUbプロモーターが好ましい。
【0044】
PUbプロモーターは、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)由来polyubiquitin-c遺伝子(NCBI Gene ID:5579172)又はそのオルソログ遺伝子のプロモーターであり、この限りにおいて特に制限されない。オルソログ遺伝子は、好ましくは昆虫のオルソログ遺伝子である、より好ましくはネッタイシマカと同科(カ科:Culicidae)の昆虫のオルソログ遺伝子であり、さらに好ましくはネッタイシマカと同属(ヤブカ属:Aedes)の昆虫のオルソログ遺伝子である。
【0045】
PUbプロモーターは、通常、転写開始点、その上流(5’側)の配列、及び必要に応じてその下流(3’側)の配列を含む。PUbプロモーターとしては、上記遺伝子の転写開始点の塩基を+1、その下流(3´側)が正の値、その上流(5´側)が0又は負の値とした場合、例えば-10000~+500、好ましくは-5000~+200、より好ましくは-2000~+150のDNA領域内の、転写開始点を含む任意のDNA領域が挙げられる。なお、転写開始点が複数存在する場合は、最も転写量の多い転写開始点を選択することができる。PUbプロモーターの長さ(塩基対数:bp)は、例えば500~10000 bp、好ましくは800~7000 bp、より好ましくは1000~5000 bp、さらに好ましくは1200~3000 bp、よりさらに好ましくは1200~2000 bpの範囲の長さが挙げられる。
【0046】
PUbプロモーターは、プロモーター活性が著しく低下しない(例えば野生型と比べて、例えば70%、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上のプロモーター活性を有する)限りにおいて、塩基配列の変異(例えば、置換、欠失、挿入、付加等)を有していてもよい。この場合、変異を有するプロモーターの塩基配列は、野生型プロモーターの対応塩基配列と、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する。変異の部位は、例えば公知の発現制御エレメント(例えば基本転写因子結合領域、各種アクチベーター結合領域等)以外の部位であることが望ましい。なお、発現制御エレメントのコンセンサス配列は既に公知であり、各種データベース上で容易に探索することができる。
【0047】
PUbプロモーターは、特に好ましくは、配列番号11に示される塩基配列a、又は塩基配列aと、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列bを含む、塩基配列である。
【0048】
発現カセット1は、好ましくは、センサタンパク質のコード配列の下流にターミネーター配列を含む。ターミネーター配列としては特に制限されず、各種遺伝子由来のターミネーターを使用することができる。ターミネーターとしては、好ましくはSV40 polyA配列が挙げられる。SV40 polyA配列は、特に好ましくは、配列番号10に示される塩基配列c、又は塩基配列cと、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列dを含む、塩基配列である。
【0049】
発現カセット1において、センサタンパク質の種類によらずにより安定に化学物質応答活性を発揮させる観点から、プロモーターとセンサタンパク質のコード配列との間はより短いことが好ましい。プロモーターとセンサタンパク質のコード配列との間の塩基長は、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下、よりさらに好ましくは20以下、とりわけ好ましくは10以下である。発現カセット1において、ターミネーターが含まれる場合も、同様である。
【0050】
センサタンパク質のコード配列の両側には、制限酵素認識配列が配置されていることが好ましい。これにより、センサタンパク質のコード配列を容易に他のセンサタンパク質のコード配列に置き換えることが可能であり、センサタンパク質の種類によらずにより安定に化学物質応答活性を発揮させるプラットフォームとしての価値がより高くなる。
【0051】
発現カセット2にそのコード配列が含まれる少なくとも2種のタンパク質(以下、「他のタンパク質」と示すこともある。)は、ある細胞において化学物質検出に必要なタンパク質や薬剤耐性遺伝子産物である限り、特に制限されない。好ましい態様において、発現カセット2は、発色又は発光タンパク質のコード配列、薬剤耐性遺伝子のコード配列、及び嗅覚受容体共受容体のコード配列からなる群より選択される少なくとも2種のコード配列を含む。特に好ましい態様において、発現カセット2は、発色又は発光タンパク質のコード配列、薬剤耐性遺伝子のコード配列、及び嗅覚受容体共受容体のコード配列を含む。化学物質応答活性の観点から、発現カセット2は、5´側から、発色又は発光タンパク質のコード配列、薬剤耐性遺伝子のコード配列、及び嗅覚受容体共受容体のコード配列をこの順に有する。
【0052】
発色又は発光タンパク質は、センサタンパク質(特に、嗅覚受容体タンパク質)が応答した場合に細胞内に流入するイオン(カルシウムイオン等)により発色又は発光するタンパク質であり、その限りにおいて特に制限されない。このようなタンパク質としては、イクオリン、Yellow Cameleon(YC)、GCaMP等が挙げられる。
【0053】
薬剤耐性遺伝子としては、細胞(好ましくは昆虫細胞)の薬剤選別に使用できる薬剤に対する耐性遺伝子を選択すればよく、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
【0054】
嗅覚受容体共受容体(特に好ましくは、昆虫の嗅覚受容体)は、嗅覚受容体と同様に7回膜貫通構造を有する膜タンパク質であるものの、それ自身は匂い物質を認識せず、嗅覚受容体とヘテロ複合体を形成して機能する。嗅覚受容体と嗅覚受容体共受容体とから構成されるヘテロ複合体である嗅覚受容体複合体は、匂い物質で活性化されるイオンチャンネル活性が備わっており、活性化されるとナトリウムイオン(Na+)、カルシウムイオン(Ca2+)等の陽イオンを細胞内に流入させる。
【0055】
他のタンパク質には、化学物質応答活性が著しく損なわれない限りにおいて、他のアミノ酸配列、例えばタンパク質タグ、蛍光タンパク質、発光タンパク質、シグナル配列等のタンパク質又はペプチドが付加されてもよい(すなわち、融合タンパク質の形態であってもよい)。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。
【0056】
他のタンパク質のコード配列は、他のタンパク質をコードする塩基配列である限り、特に制限されない。
【0057】
発現カセット2が含むタンパク質コード配列の数は、例えば2~5、好ましくは2~4、より好ましくは3~4、特に好ましくは3である。
【0058】
発現カセット2における複数のタンパク質コード配列間には、1つのプロモーターであってもそれぞれのタンパク質が融合形態ではなく発現するための他の配列が配置される。他の配列としては、例えば自己切断ペプチドコード配列、IRES配列等が挙げられるが、発現効率、化学物質応答活性等の観点から、特に好ましくは自己切断ペプチドコード配列が挙げられる。
【0059】
自己切断ペプチドとは、ペプチド配列自体の中の2つのアミノ酸残基の間に生じる切断活性を伴うペプチド配列を意味する。自己切断ペプチドとしては、例えば2Aペプチド又は2A様ペプチドが例示される。例えば2Aペプチド又は2A様ペプチドでは、切断はこれらのペプチド上のグリシン残基とプロリン残基との間で生じる。これは翻訳の間に、グリシン残基とプロリン残基との間の正常なペプチド結合の形成が行われない「リボソームスキップ機構」によって生じ、下流の翻訳には影響することはない。リボソームスキップ機構は当分野において知られており、そして1分子のメッセンジャーRNA(mRNA)によりコードされる複数のタンパク質の発現のために使用される。本発明で使用する自己切断ペプチドは、ウイルスの2Aペプチド又はそれと同等の機能を有する2A様ペプチドから得ることが可能である。例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、Porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)及びThosea asigna virus(TaV)由来の2Aペプチド(T2A)から成る群から選択することができる。例えば、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するT2A、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するP2Aを使用することができる。2Aペプチドは、エキスパート オピニオン オン バイオロジカル セラピー、第5巻、627-638頁、2005年に総説されている。本開示の一態様において、自己切断ペプチドは、配列番号4又は6で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号4又は6で示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個(例えば2~3個、好ましくは2個)のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入(好ましくは保存的置換)されたアミノ酸配列からなり、且つ自己切断活性が著しく損なわれていない(例えば、活性が、野生型に対して50、70、90、95、又は99%以上の)ペプチドである。また、発現効率、化学物質応答活性等の観点から、自己切断ペプチドは、複数(例えば2~4個、好ましくは2~3個、特に好ましくは2個)の上記自己切断ペプチドをタンデムに連結してなるものであることが好ましい。
【0060】
発現カセット2において、自己切断ペプチドコード配列が含まれる場合、自己切断ペプチドコード配列とその両側のタンパク質コード配列との間はより短いことが好ましい。自己切断ペプチドコード配列とその両側のタンパク質コード配列との間の塩基長は、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下、よりさらに好ましくは20以下、とりわけ好ましくは10以下、特に好ましくは0である。
【0061】
発現カセット2は、細胞内で複数の他のタンパク質が融合形態ではなく発現可能なポリヌクレオチドである限り特に制限されない。発現カセット2は、1つのプロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された他のタンパク質のコード配列を含む。
【0062】
発現カセット2のプロモーターとしては、特に制限されず、適宜選択することができる。プロモーターとしては、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、昆虫由来遺伝子のプロモーター等が挙げられる。
【0063】
中でも、発現カセット2のプロモーターとして特に適している(中でも、後述のヒトリガ科の昆虫細胞、好ましくはクワゴマダラヒトリ細胞における発現に特に適している)という観点から、121プロモーターが好ましい。
【0064】
121プロモーターは、ネムリユスリカ(Polypedilum vanderplanki)由来g7775遺伝子(Int J Mol Sci. 2021 May 28;22(11):5798. doi: 10.3390/ijms22115798. PMID: 34071490; PMCID: PMC8197945.)又はそのオルソログ遺伝子のプロモーターであり、この限りにおいて特に制限されない。オルソログ遺伝子は、好ましくは昆虫のオルソログ遺伝子である、より好ましくはネムリユスリカと同科(ユスリカ科:Chironomidae)の昆虫のオルソログ遺伝子であり、さらに好ましくはネムリユスリカと同属(ハモンユスリカ属:Polypedilum)の昆虫のオルソログ遺伝子である。
【0065】
121プロモーターは、通常、転写開始点、その上流(5’側)の配列、及び必要に応じてその下流(3’側)の配列を含む。121プロモーターとしては、上記遺伝子の転写開始点の塩基を+1、その下流(3´側)が正の値、その上流(5´側)が0又は負の値とした場合、例えば-10000~+500、好ましくは-5000~+200、より好ましくは-2000~+150のDNA領域内の、転写開始点を含む任意のDNA領域が挙げられる。なお、転写開始点が複数存在する場合は、最も転写量の多い転写開始点を選択することができる。121プロモーターの長さ(塩基対数:bp)は、例えば500~10000 bp、好ましくは800~7000 bp、より好ましくは1000~5000 bp、さらに好ましくは1200~3000 bp、よりさらに好ましくは1200~2000 bpの範囲の長さが挙げられる。
【0066】
121プロモーターは、プロモーター活性が著しく低下しない(例えば野生型と比べて、例えば70%、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上のプロモーター活性を有する)限りにおいて、塩基配列の変異(例えば、置換、欠失、挿入、付加等)を有していてもよい。この場合、変異を有するプロモーターの塩基配列は、野生型プロモーターの対応塩基配列と、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する。変異の部位は、例えば公知の発現制御エレメント(例えば基本転写因子結合領域、各種アクチベーター結合領域等)以外の部位であることが望ましい。なお、発現制御エレメントのコンセンサス配列は既に公知であり、各種データベース上で容易に探索することができる。
【0067】
121プロモーターは、特に好ましくは、配列番号1に示される塩基配列e、又は塩基配列eと、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列fを含む、塩基配列である。
【0068】
発現カセット2は、好ましくは、センサタンパク質のコード配列の下流にターミネーター配列を含む。ターミネーター配列については発現カセット1と同様である。
【0069】
発現カセット2において、プロモーターと最もプロモーター側のタンパク質コード配列との間はより短いことが好ましい。プロモーターと当該タンパク質コード配列との間の塩基長は、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下、よりさらに好ましくは20以下、とりわけ好ましくは10以下、特に好ましくは0である。
【0070】
発現カセット2において、ターミネーターが含まれる場合、ターミネーターと最もターミネーター側のタンパク質コード配列との間はより短いことが好ましい。ターミネーターと当該タンパク質コード配列との間の塩基長は、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下、よりさらに好ましくは20以下、とりわけ好ましくは10以下、特に好ましくは0である。
【0071】
本明細書において、ポリヌクレオチドには、次に例示するように、生物が内在するDNA、RNA等の典型的なポリヌクレオチド以外にも、公知の化学修飾が施されてなるポリヌクレオチド、人工ポリヌクレオチド等も包含される。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、核酸塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、用いられ得る。
【0072】
本開示のポリヌクレオチドは、必要に応じて、発現カセット1及び発現カセット2以外の他のエレメント(例えば、制限酵素認識配列、マルチクローニングサイト(MCS)、複製起点、エンハンサー配列、インスレーター配列等)を含むことができる。
【0073】
本開示のポリヌクレオチドは、1分子である。すなわち、発現カセット1を含むポリヌクレオチド分子と、発現カセット2を含む別のポリヌクレオチド分子との組合せは、2分子であり、本開示のポリヌクレオチドには該当しない。
【0074】
本開示のポリヌクレオチドは、1本鎖又は2本鎖であることができ、また線状又は環状であることができる。
【0075】
本開示のポリヌクレオチドは、そのまま細胞への導入に使用することができるという観点、そのままセンサ細胞の製造に使用できるという観点から、ベクター(発現ベクター)であることが好ましい。また、安定発現細胞の製造のために、トランスポゾンベクターであることが好ましい。ベクターの種類は特に制限されず、公知のベクターを採用することができる。
【0076】
本開示は、その一態様において、本開示のポリヌクレオチドを含む、細胞(本明細書において、「本開示の細胞」と示すこともある。)、に関する。
【0077】
細胞は、特に制限されない。細胞は、化学物質の検出に適しているという観点から、昆虫細胞、哺乳類動物細胞等の動物細胞が好ましく、昆虫細胞が特に好ましい。昆虫細胞の中でも、特にヒトリガ科(Arctiidae)の昆虫由来細胞が好ましい。
【0078】
ヒトリガ科の昆虫由来細胞は、ヒトリガ科の昆虫由来細胞の生体構成細胞の初代培養細胞、又は株化細胞であり、その限りにおいて特に制限されない。
【0079】
ヒトリガ科としては、例えばヒトリガ亜科(Arctiinae)、コケガ亜科(Lithosiinae)、カノコガ亜科(Syntominae)等が挙げられるが、これらの中でも好ましくはヒトリガ亜科が挙げられる。ヒトリガ亜科としては、好ましくはSpilosoma(クワゴマダラヒトリ属)、Spilarctia、Rhagonisの属が挙げられ、特に好ましくはクワゴマダラヒトリ属が挙げられる。クワゴマダラヒトリ属としては、特に制限されないが、特に好ましくはクワゴマダラヒトリ(Spilosoma imparilis)が挙げられる。
【0080】
ヒトリガ科の昆虫由来細胞は、公知の生物バンクから入手することもできるし、公知の方法に従って又は準じてヒトリガ科の昆虫の生体から採取・培養して得ること、必要に応じて株化して得ることができる。
【0081】
クワゴマダラヒトリ由来細胞としては、例えば農業生物資源ジーンバンクのFFPRI-SpIm-2AM-SF細胞(MAFF番号:275052)、FFPRI-SpIm-2AM-IPL411細胞(MAFF番号:275053)等が挙げられる。
【0082】
本開示の細胞において、本開示のポリヌクレオチドは、好ましくはゲノムDNA(特に好ましくは染色体ゲノムDNA)に組み込まれている。これにより、安定にセンサタンパク質を発現することができ、化学物質検出に適したものとなる。この場合、本開示のポリヌクレオチドは、ゲノムDNA内の、1つの連続領域であることができ
本開示の細胞において、本開示のポリヌクレオチドは、別の態様において、ゲノムDNAに組み込まれない状態であることができる。
【0083】
本開示の細胞は、化学物質センサへの利用に適しているという観点から、細胞チップに含まれた形態であることが好ましい。このため、本開示は、その一態様において、本開示の細胞を含む区画を含む、細胞チップ(本明細書において、「本開示の細胞チップ」と示すこともある。)、に関する。
【0084】
本開示の細胞チップの区画は、細胞と、ハイドロゲルとを含むことが好ましい。これにより、細胞の乾燥を防ぐことができる。
【0085】
区画の形態は、細胞を保持できる態様である限り特に制限されない。細胞の保持性、製造効率、又は化学物質検出性の観点から、区画は、ウェル状であることが好ましい。
【0086】
区画の材質は、細胞を保持できるものである限り特に制限されない。材質は、例えば樹脂、金属等であることができる。
【0087】
区画は、検出感度の観点から、通常、複数個の細胞を含む。区画における面積(cm2)当たりの細胞数(個)は、例えば1×103~1×109個/cm2である。
【0088】
1区画の底面積は、検出感度の観点、又は製造効率の観点から、好ましくは0.5~100mm2、より好ましくは1~30mm2、さらに好ましくは1.5~10mm2である。
【0089】
細胞チップが含む区画の数は、検出感度の観点、又は製造効率の観点から、好ましくは10~2000個、より好ましくは30~1000個、さらに好ましくは50~500個である。
【0090】
本開示の細胞は、多様なセンサタンパク質を用いて、化学物質を検出することに適している。このため、本開示の細胞チップは、センサタンパク質の種類が互いに異なる2種以上(より好ましくは3種以上、さらに好ましくは4種以上、よりさらに好ましくは5種以上、10種以上、15種以上、又は20種以上)の細胞を含むことが好ましい。
【0091】
本開示の細胞及び本開示の細胞チップは、化学物質(特に匂い物質)の検出に用いることができる。化学物質は、例えば体液(例えば、尿、血液、唾液)、空気(例えば、室内の空気、包装内の空気)、水(例えば、河川水、海水、水道水、上水、下水)
等の試料中の化学物質であることができる。この場合、例えば本開示の細胞と試料とを接触させること、或いは本開示の細胞チップの区画に、試料を添加することにより、試料中の化学物質が細胞に到達し、細胞のセンサタンパク質に接触することができる。例えば細胞内に流入するイオンを検出する(例えばイオンにより発色又は発光するタンパク質により検出する)ことにより、化学物質を検出することができる。
【実施例0092】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0093】
試験例1.化学物質応答活性評価試験1(比較例)
センサタンパク質として嗅覚受容体タンパク質を採用し、嗅覚受容体タンパク質コード配列、嗅覚受容体共受容体コード配列、カルシウムセンサー発光タンパク質コード配列、及びピューロマイシン耐性遺伝子コード配列を含むベクターを設計した。プロモーター及びターミネーターの数を抑えることによりベクターサイズを小さく抑え、これによりベクターの細胞への導入効率を向上させるために、1つの発現カセット内に複数のタンパク質コード配列を組み込み、コード配列間に自己切断ペプチドである2Aペプチドのコード配列を配置した。具体的には、図1の態様X及び態様Yの通りにベクターを設計した。
【0094】
図1中の各ボックスが示すエレメントは以下のとおりである。図1中、ボックス間のバーはスペーサー配列を示す。
【0095】
<5´ITR>
5´側逆向き反復配列
<121>
121プロモーター(ネムリユスリカ(Polypedilum vanderplanki)由来g7775遺伝子(Int J Mol Sci. 2021 May 28;22(11):5798. doi: 10.3390/ijms22115798. PMID: 34071490; PMCID: PMC8197945.)プロモーター、塩基配列:配列番号1)
<GcaMP7s>
カルシウムセンサー発光タンパク質(アミノ酸配列:配列番号2)コード配列(塩基配列:配列番号3)
<2A>
自己切断ペプチドであるP2A(アミノ酸配列:配列番号4)のコード配列(塩基配列:配列番号5)と同じく自己切断ペプチドであるT2A(アミノ酸配列:配列番号6)のコード配列(塩基配列:配列番号7)をタンデムに連結した配列
<PuroR>
ピューロマイシン耐性遺伝子(アミノ酸配列:配列番号8)のコード配列(塩基配列:配列番号9)
<SV40>
SV40 polyA配列(塩基配列:配列番号10)
<PUb>
PUbプロモーター(ネッタイシマカ(Aedes aegypti)由来polyubiquitin-c遺伝子(NCBI Gene ID:5579172)プロモーター、塩基配列:配列番号11)
<OR>
以下のいずれかの嗅覚受容体タンパク質のコード配列:
AaOR47(アミノ酸配列:配列番号12、コード配列の塩基配列:配列番号13)
ORA
ORB
<Orco>
嗅覚受容体共受容体(アミノ酸配列:配列番号14)のコード配列(塩基配列:配列番号15)
<3´ITR>
3´側逆向き反復配列
態様Xのベクター及び態様Yのベクターそれぞれを、クワゴマダラヒトリ(Spilosoma imparilis)由来細胞(SpIm細胞)に導入し、72時間後に、化学物質応答活性評価試験を行った。当該試験の方法は次のとおりである。ベクター導入細胞を96-well plate CORNING3909に1x10^5/200μL/wellで播種し、27℃インキュベーター(CO2供給なし)内で静置した。培地は、Sf-900III SFM培地を使用した。細胞のカウントは、細胞懸濁液をトリパンブルーで染色後、countessII FL Automated Cell Counter (Thermo Fisher)を使用し計測した。播種から24時間後に、96-well plateから培養液を除去し、0.1%BSA HBSS (-)(フェノールレッド不含)80 mLに交換した。当該液交換の操作の5分後にFlexStation3にて蛍光強度(GCaMP)を測定した。具体的には、各濃度(0、0.01、0.1、1、10、100μM)に調整した化学物質(嗅覚受容体が応答する物質)を各ウェルに添加し、添加前後の蛍光強度の変化をマイクロプレートリーダー(FlexStation3、Molecular Devices)を用いて定量した。
【0096】
結果を図2~4に示す。図2~4の通り、1つの発現カセット内にセンサタンパク質コード配列と他のタンパク質のコード配列を組み込むと、センサタンパク質コード配列の位置が化学物質応答活性に影響を与えること、当該影響はセンサタンパク質の種類によって異なることが分かった。センサタンパク質の種類によっては、その位置次第で、化学物質応答活性を示さない場合もあるところ(図4の態様X)、1つの発現カセット内にセンサタンパク質コード配列と他のタンパク質のコード配列を組み込む態様は、複数種のセンタタンパク質を利用するプラットフォームとして適さないことが分かった。
【0097】
試験例2.化学物質応答活性評価試験2(実施例)
試験例1の結果を受けて、センサタンパク質コード配列を他のタンパク質のコード配列と連結しないこととした。また、試験例1と同様に、プロモーター及びターミネーターの数を抑えることによりベクターサイズを小さく抑え、これによりベクターの細胞への導入効率を向上させるために、他の発現カセットには複数のコード配列を配置することとした。具体的には、図5の態様Zの通りにベクターを設計した。
【0098】
図5中の各ボックスが示すエレメントは、試験例1と同様である。
【0099】
態様Xのベクター、態様Yのベクター、又は態様Zのベクター(いずれもトランスポゾンベクター)をSpIm細胞に導入し、ピューロマイシンでセレクションを行い、外来DNAが染色体ゲノムDNAに組み込まれてなる安定発現細胞を作製した。当該細胞を用いて、試験例1と同様にして化学物質応答活性評価試験を行った。
【0100】
結果の一部を図6に示す。センサタンパク質コード配列は他のタンパク質のコード配列を連結しないことにより、1つの発現カセット内にセンサタンパク質コード配列と他のタンパク質のコード配列を組み込む場合にその配置位置によって生じる化学物質応答活性への影響(場合によっては失活することもある)を排除することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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