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特開2024-132545両イオン性ポリマー、印刷記録媒体、インクジェット記録媒体、インクジェット用インク、及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132545
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】両イオン性ポリマー、印刷記録媒体、インクジェット記録媒体、インクジェット用インク、及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/38 20060101AFI20240920BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20240920BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20240920BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20240920BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240920BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20240920BHJP
   C08F 220/34 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08F20/38
C09D11/38
B41M5/52 100
B41M5/50 120
B41J2/01 501
C08F220/26
C08F220/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043353
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】吉川 昌
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
4J100
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056FC06
2H186BA11
2H186BB06X
2H186BB55X
2H186DA08
2H186DA09
2H186DA10
2H186DA18
4J039AD21
4J039EA29
4J039GA24
4J100AL01P
4J100AL01Q
4J100AL08P
4J100AL09Q
4J100AM15Q
4J100AM21P
4J100BA32P
4J100BA56P
4J100BA66P
4J100BC65Q
4J100DA01
4J100DA28
4J100DA36
4J100FA03
4J100FA19
4J100GC07
4J100GC25
4J100JA07
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、両イオン性ポリマーを用いることで、インクジェット記録媒体上に印字されたインクを一定温度以上の温水へ浸漬することで溶出することが出来るインクジェット記録媒体を提供することにある。また、本発明の目的は、両イオン性ポリマーを用いることで、印刷後に一定温度以上の温水へ浸漬するだけで印字が印刷媒体から脱離するインクジェット用インクを提供することにある。
【解決手段】両イオン性モノマーA由来の構成単位を1種類以上有する両イオン性ポリマーであって、重量平均分子量が1000000以上10000000以下であり、前記ポリマーの1質量%水溶液の30℃における波長550nmの光の透過率が0%以上5.0%以下であり、前記ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率が40%以上100%以下である、両イオン性ポリマー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両イオン性モノマーA由来の構成単位を1種類以上有する両イオン性ポリマーであって、重量平均分子量が1000000以上10000000以下であり、前記両イオン性ポリマーの1質量%水溶液の30℃における波長550nmの光の透過率が0%以上5.0%以下であり、前記両イオン性ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率が40%以上100%以下である、両イオン性ポリマー。
【請求項2】
前記両イオン性モノマーAが下記式(1)で表される請求項1に記載の両イオン性ポリマー。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であり、Xは-O-又は-NR-であり、Yは-S-又は-N-であり、Zは-SO 又は-PO(ORであり、nは1~8の整数であり、mは1~5の整数であり、R、R、R、R及びRは互いに独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。)
【請求項3】
前記両イオン性モノマーAが下記式(2)で表される請求項1又は2に記載の両イオン性ポリマー。
【化2】
(式(2)中、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であり、Xは-O-又は-NR-であり、nは1~8の整数であり、mは1~5の整数であり、R、R及びRは互いに独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。)
【請求項4】
前記両イオン性モノマーA以外のエチレン性不飽和モノマーB由来の構成単位を更に有する請求項1又は2に記載の両イオン性ポリマー。
【請求項5】
前記エチレン性不飽和モノマーBがヒドロキシ基又は3級アミド結合を有する、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミドのうちの1種以上である請求項4に記載の両イオン性ポリマー。
【請求項6】
両イオン性ポリマーの全質量に対して、前記両イオン性モノマーA由来の構成単位を80~100質量%有する請求項1又は2に記載の両イオン性ポリマー。
【請求項7】
両イオン性ポリマーの全質量に対して、前記両イオン性モノマーA以外のエチレン性不飽和モノマーB由来の構成単位を0~20質量%有する請求項1又は2に記載の両イオン性ポリマー。
【請求項8】
インクジェット記録媒体用である請求項1又は2に記載の両イオン性ポリマー。
【請求項9】
支持体上に請求項1に記載の両イオン性ポリマーを含有する組成物からなる組成物層を1つ以上有するインクジェット記録媒体。
【請求項10】
前記組成物層が、インクジェットインク受理性層、及び保護被膜層からなる群から選択される1種以上である請求項9に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項11】
前記組成物層の少なくとも1つが、インクジェットインク受理性層であり、
前記支持体と前記インクジェットインク受理性層との間にバリヤ層を有する、請求項10に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項12】
前記支持体が、セルロースエステル、酢酸セルロース、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ(酢酸ビニル)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリスルホンアミド、シリコーン、ガラス及びステンレスからなる群から選択される1種以上を含む、請求項9~11のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項13】
印刷記録媒体用である請求項1又は2に記載の両イオン性ポリマー。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の両イオン性ポリマーを含有するインクジェット用インク。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の両イオン性ポリマーを含む組成物であって、前記組成物から形成される組成物層を表面に有する支持体を、80℃以上100℃以下の温水に30分間浸漬した際に前記組成物層が前記支持体から溶解する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両イオン性ポリマー、印刷記録媒体、インクジェット記録媒体、インクジェット用インク及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特定構造の両イオン性ポリマーはUCST型相分離(高温で溶解し低温で相分離する挙動)を示すことが知られている。例えば特許文献1ではこの特性を活用し、UCST型相分離を示す高分子化合物を含むインクジェット記録媒体は速い乾燥時間、優れた画像品質、低いグリコール汚れ度、低い色融合、及び優れた耐光堅牢度を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009-500187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には前記のとおり、速い乾燥時間、優れた画像品質、低いグリコール汚れ度、低い色融合、及び優れた耐光堅牢度を示すインクジェット記録媒体を提供出来ると述べられている。しかし特許文献1には、インクジェット記録媒体上に印字されたインクを一定温度以上の温水へ浸漬することで溶出することが出来るインクジェット記録媒体及び印刷記録媒体や、印刷後に一定温度以上の温水へ浸漬するだけで印字が印刷媒体から脱離するインクジェット用インクについては記載されておらず、インクの溶出性や印字の印刷媒体からの脱離性については不明であった。
【0005】
本発明の目的は、一定温度以上の温水へ浸漬することで溶出することが出来る両イオン性ポリマーを提供すること、及びこれを用いることで、インクジェット記録媒体上に印字されたインクを一定温度以上の温水へ浸漬することで溶出することが出来るインクジェット記録媒体や印刷記録媒体を提供することにある。また、本発明の目的は、両イオン性ポリマーを用いることで、印刷後に一定温度以上の温水へ浸漬するだけで印字が印刷媒体から脱離するインクジェット用インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の[1]~[15]を要旨とする。
[1]両イオン性モノマーA由来の構成単位を1種類以上有する両イオン性ポリマーであって、重量平均分子量が1000000以上10000000以下であり、前記両イオン性ポリマーの1質量%水溶液の30℃における波長550nmの光の透過率が0%以上5.0%以下であり、前記両イオン性ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率が40%以上100%以下である、両イオン性ポリマー。
[2]前記両イオン性モノマーAが下記式(1)で表される[1]に記載の両イオン性ポリマー。
【0007】
【化1】
【0008】
(式(1)中、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であり、Xは-O-又は-NR-であり、Yは-S-又は-N-であり、Zは-SO 又は-PO(ORであり、nは1~8の整数であり、mは1~5の整数であり、R、R、R、R及びRは互いに独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。)
[3]前記両イオン性モノマーAが下記式(2)で表される[1]又は[2]に記載の両イオン性ポリマー。
【0009】
【化2】
【0010】
(式(2)中、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であり、Xは-O-又は-NR-であり、nは1~8の整数であり、mは1~5の整数であり、R、R及びRは互いに独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。)
[4]前記両イオン性モノマーA以外のエチレン性不飽和モノマーB由来の構成単位を更に有する[1]~[3]のいずれか一項に記載の両イオン性ポリマー。
[5]前記エチレン性不飽和モノマーBがヒドロキシ基又は3級アミド結合を有する、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミドのうちの1種以上である[4]に記載の両イオン性ポリマー。
[6]両イオン性ポリマーの全質量に対して、前記両イオン性モノマーA由来の構成単位を80~100質量%有する[1]~[5]のいずれか一項に記載の両イオン性ポリマー。
[7]両イオン性ポリマーの全質量に対して、前記両イオン性モノマーA以外のエチレン性不飽和モノマーB由来の構成単位を0~20質量%有する[1]~[6]のいずれか一項に記載の両イオン性ポリマー。
[8]インクジェット記録媒体用である[1]~[7]のいずれか一項に記載の両イオン性ポリマー。
[9]支持体上に[1]~[8]のいずれか一項に記載の両イオン性ポリマーを含有する組成物からなる組成物層を1つ以上有するインクジェット記録媒体。
[10]前記組成物層が、インクジェットインク受理性層、及び保護被膜層からなる群から選択される1種以上である[9]に記載のインクジェット記録媒体。
[11]前記組成物層の少なくとも1つが、インクジェットインク受理性層であり、
前記支持体と前記インクジェットインク受理性層との間にバリヤ層を有する、[9]又は[10]に記載のインクジェット記録媒体。
[12]前記支持体が、セルロースエステル、酢酸セルロース、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ(酢酸ビニル)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリスルホンアミド、シリコーン、ガラス及びステンレスからなる群から選択される1種以上を含む、[9]~[11]のいずれか一項に記載のインクジェット記録媒体。
[13]印刷記録媒体用である[1]~[8]のいずれか一項に記載の両イオン性ポリマー。
[14][1]~[8]のいずれか一項に記載の両イオン性ポリマーを含有するインクジェット用インク。
[15][1]~[8]のいずれか一項に記載の両イオン性ポリマーを含む組成物であって、前記組成物から形成される組成物層を表面に有する支持体を、80℃以上100℃以下の温水に30分間浸漬した際に前記組成物層が前記支持体から溶解する組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一定温度以上の温水へ浸漬することで溶出することが出来る両イオン性ポリマーを提供することが出来る。本発明の両イオン性ポリマーを用いることで、インクジェット記録媒体上に印字されたインクを一定温度以上の温水へ浸漬することで溶出することが出来るインクジェット記録媒体を提供することが出来る。また、本発明の両イオン性ポリマーを用いることで、印刷後に一定温度以上の温水へ浸漬するだけで印字が印刷媒体から脱離するインクジェット用インクを提供出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」とは、その前後の数字を含むことを意味する。
また、本明細書及び特許請求の範囲において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタアクリルの総称を意味する。
【0013】
≪両イオン性ポリマー≫
本発明の両イオン性ポリマーは、両イオン性モノマーA由来の構成単位を1種類以上有する両イオン性ポリマーであって、重量平均分子量が1000000以上10000000以下であり、前記ポリマーの1質量%水溶液の30℃における波長550nmの光の透過率が0%以上5.0%以下であり、前記ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率が40%以上100%以下である。
前記両イオン性ポリマーが、両イオン性モノマーA由来の構成単位を1種類以上有することで両イオン性ポリマーが温水への溶解性を示す。
【0014】
前記両イオン性ポリマーの重量平均分子量は、1000000以上10000000以下であり、1000000~5000000がより好ましい。
両イオン性ポリマーの重量平均分子量が前記範囲内であれば、両イオン性ポリマーの冷水(30℃の水)への溶解性が低くなり、常温での実用性が向上する。
本明細書において、重量平均分子量は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0015】
前記ポリマーの1質量%水溶液の30℃における波長550nmの光の透過率は、0%以上5.0%以下であり、0%以上4.0%以下が好ましい。
前記ポリマーの1質量%水溶液の30℃における波長550nmの光の透過率が前記範囲内であれば、両イオン性ポリマーの冷水(30℃の水)への溶解性が低くなり、常温での実用性が向上する。
【0016】
前記ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率は、40%以上100%以下であり、45%以上100%以下が好ましい。
前記ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率が前記範囲内であれば、両イオン性ポリマーの温水への溶解速度が速くなる。
本明細書において、光の透過率は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0017】
前記ポリマーの1質量%水溶液の[80℃における波長550nmの光の透過率]-[30℃における波長550nmの光の透過率]で表される透過率の差が、40%以上100%以下が好ましく、45%以上100%以下がより好ましい。
上記透過率の差が前記範囲内であれば、前記ポリマーを含む組成物を用いて支持体上に組成物層を形成した場合に、冷水に対する溶解性と温水に対する溶解性との間に充分な差を設けることができる。これにより、冷水には溶解させず温水には溶解しやすくなるため、組成物層の常温での使用時に冷水に溶解する等の不都合が生じないようにするとともに、温水を用いた簡便な方法で支持体をリサイクルすることができる。
【0018】
(両イオン性モノマーA)
重合により得られるポリマーが温水への溶解性を示す点から、両イオン性モノマーAとしては、下記式(1)で表されるモノマーが好ましい。
【0019】
【化3】
【0020】
(式(1)中、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であり、Xは-O-又は-NR-であり、Yは-S-又は-N-であり、Zは-SO 又は-PO(ORであり、nは1~8の整数であり、mは1~5の整数であり、R、R、R、R及びRは互いに独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。)
及びZは入手のし易さの点からそれぞれ-N-及び-SO が好ましい。
【0021】
入手が容易手である点から、前記両イオン性モノマーAは、下記式(2)で表されるモノマーであることが好ましい。
【0022】
【化4】
【0023】
(式(2)中、Rは水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であり、Xは-O-又は-NR-であり、nは1~8の整数であり、mは1~5の整数であり、R、R及びRは互いに独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。)
両イオン性モノマーAは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0024】
両イオン性ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率が高くなる点から、前記両イオン性ポリマーは、両イオン性ポリマーの全質量に対して、前記両イオン性モノマーA由来の構成単位を80~100質量%有することが好ましく、90~100質量%有することがより好ましく、95~100質量%有することがさらに好ましい。
【0025】
両イオン性ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率が高くなる点から、前記両イオン性ポリマーは、前記両イオン性モノマーA以外のエチレン性不飽和モノマーB由来の構成単位を更に有することが好ましい。
入手が容易である点から、前記両イオン性ポリマーは、前記エチレン性不飽和モノマーBがヒドロキシ基又は3級アミド結合を有する、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミドのうちの1種以上であることが好ましい。
また、両イオン性モノマーAの重合の際にエチレン性不飽和モノマーBを後述する割合で共重合することが出来る。
【0026】
(エチレン性不飽和モノマーB)
エチレン性不飽和モノマーBは両イオン性モノマーA以外のモノマーである。
エチレン性不飽和モノマーBとしては一般的な(メタ)アクリレート類及びビニルモノマー類を使用出来る。中でも両イオン性モノマーAと共重合する際に溶媒として水を用いることも出来るため、水への溶解性の高いヒドロキシ基又は3級アミド結合を有するエチレン性不飽和モノマーが好ましい。エチレン性不飽和モノマーBの一分子中、ヒドロキシ基及び3級アミド結合の数は、それぞれ1~5個が好ましく、1~3個がより好ましい。
エチレン性不飽和モノマーBとしては、例えば、(メタ)アクリロイルモルフォリン等の(メタ)アクリルアミド;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)メタクリレート、トリメチロールエタンモノ(メタ)メタクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ソルビトールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール変性モノ(メタ)アクリレート、及び1-ヒドロキシ-4-シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;ブタンジオールモノビニルエーテル、ペンタエリスリトールモノビニルエーテル等のビニルモノマー等が挙げられる。
これらの中でも水への溶解性が良好である点から、(メタ)アクリロイルモルフォリン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
これらエチレン性不飽和モノマーBは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0027】
両イオン性ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率が高くなる点から、前記両イオン性ポリマーは、両イオン性ポリマーの全質量に対して、前記両イオン性モノマーA以外のエチレン性不飽和モノマーB由来の構成単位を0~20質量%有することが好ましく、0~15質量%有することがより好ましく、0~10質量%有することがさらに好ましい。
【0028】
本発明の両イオン性ポリマーの重合に際しての両イオン性モノマーAとエチレン性不飽和モノマーBの割合は、両イオン性ポリマーの水分散液の80℃における可視光(波長550nm)透過率が高くなる点から、両イオン性モノマーAとエチレン性不飽和モノマーBの合計質量に対する両イオン性モノマーAの割合は、80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましい。両イオン性モノマーAとエチレン性不飽和モノマーBの合計質量に対する両イオン性モノマーAの割合が、前記範囲内であれば、両イオン性ポリマーの水分散液の80℃における可視光(波長550nm)透過率が高くなる傾向にある。
【0029】
本発明において重量平均分子量とは、サイズ排除クロマトグラフを用いて重合体を分離し、溶出した成分を、光散乱検出器と示差屈折率検出器で検出することで得られる絶対分子量を意味する。各溶出位置(溶出時間又は溶出容量)の絶対分子量は光散乱検出器と示差屈折率検出器を併用して求められる。
【0030】
本発明における重量平均分子量の値は、サイズ排除クロマトグラフと光散乱検出器と示差屈折率検出器を、全て直列に接続して測定した値を意味する。
【0031】
印刷を記録媒体から落とし、記録媒体をリサイクルできるようになる点から、前記両イオン性ポリマーは、インクジェット記録媒体用や印刷記録媒体用であることが好ましい。
【0032】
≪組成物≫
本発明の組成物は、本発明の両イオン性ポリマーを含む。本発明の組成物は、前記両イオン性ポリマーに加えてさらに、水、水と水混和性有機溶媒との混合物等の溶媒、及びインクを含むことが出来る。また、必要に応じて後述の他の成分を含んでいても良い。
【0033】
本発明の組成物は、前記ポリマーの1質量%水溶液としたときに、30℃における波長550nmの光の透過率が、0%以上5.0%以下が好ましく、0%以上4.0%以下がより好ましい。
本発明の組成物の30℃における波長550nmの光の透過率が前記範囲内であれば、両イオン性ポリマーの冷水(30℃の水)への溶解性が低くなり、常温での実用性が向上する。
【0034】
本発明の組成物は、前記ポリマーの1質量%水溶液としたときに、80℃における波長550nmの光の透過率が、40%以上100%以下が好ましく、45%以上100%以下がより好ましい。
本発明の組成物の80℃における波長550nmの光の透過率が前記範囲内であれば、両イオン性ポリマーの温水への溶解速度が速くなり、組成物を用いて支持体上に組成物層を形成した場合に簡便な処理で支持体をリサイクルすることができる。
【0035】
本発明の組成物は、前記ポリマーの1質量%水溶液としたときに、[80℃における波長550nmの光の透過率]-[30℃における波長550nmの光の透過率]で表される透過率の差が、40%以上100%以下が好ましく、45%以上100%以下がより好ましい。
上記透過率の差が前記範囲内であれば、組成物を用いて支持体上に組成物層を形成した場合に、冷水に対する溶解性と温水に対する溶解性との間に充分な差を設けることができる。これにより、冷水には溶解させず温水には溶解しやすくなるため、組成物層の常温での使用時に冷水に溶解する等の不都合が生じないようにするとともに、温水を用いた簡便な方法で支持体をリサイクルすることができる。
【0036】
(溶媒)
水混和性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノール等のアルコール類;アセトン、及びメチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、及びプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコール等のアルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム類等が挙げられる。
【0037】
(インク)
インクとしては、着色剤を含むものが挙げられる。前記着色剤としては、顔料、染料が挙げられる。
【0038】
(他の成分)
本発明の組成物には他の成分を添加してもよい。このような他の成分としては、例えば,充填剤、非晶質シリカ、結晶質シリカ、アルミニウム三水和物、カオリン、タルク、チョーク、ベントナイト、ゼオライト、ガラスビ-ズ、炭酸カルシウム、カリウムナトリウムアルミニウムシリケート、珪藻土、アルミニウム及びマグネシウムのシリケート、ならびにそれらの混合物が挙げられる。また、ある種の用途には酸化チタンを使用することも出来る。使用することが出来る有機粒状物としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン、でんぷん、ポリ(メタクリル酸メチル)、及びポリテトラフルオルエチレンが挙げられる。
【0039】
更に本発明の効果を損なわない範囲で、必要性に応じて、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、フィラー等を配合してもよい。
【0040】
組成物の温水への溶解性が良好となる点から、本発明の組成物において、両イオン性ポリマーの含有量は、組成物の総量の0.01~99質量%が好ましく、0.05~95質量%がより好ましく、0.1~90質量%がさらに好ましい。
両性イオンポリマーの分散安定性が良好となる点から、本発明の組成物が溶媒を含む場合、溶媒の含有量は、組成物の総量の1~99質量%が好ましく、5~95質量%がより好ましく、10~90質量%がさらに好ましい。
両性イオンポリマーの分散安定性が良好となる点から、本発明の組成物が溶媒として水を含む場合、水の含有量は、組成物の総量の5~99質量%が好ましく、10~95質量%がより好ましく、20~90質量%がさらに好ましい。
両性イオンポリマーの分散安定性が良好となる点から、本発明の組成物が溶媒として水混和性有機溶媒を含む場合、水混和性有機溶媒の含有量は、組成物の総量の1~99質量%が好ましく、5~95質量%がより好ましく、10~90質量%がさらに好ましい。
両性イオンポリマーの分散安定性が良好となる点から、本発明の組成物がインクを含む場合、インクの含有量は、組成物の総量の0.0001~5質量%が好ましく、0.001~3質量%がより好ましく、0.01~1質量%がさらに好ましい。
両性イオンポリマーの分散安定性が良好となる点から、本発明の組成物がその他の成分を含む場合、その他の成分の合計含有量は、組成物の総量の0.0001~5質量%が好ましく、0.001~3質量%がより好ましく、0.01~1質量%がさらに好ましい。
本発明の組成物において、各成分の含有量の合計は、組成物の総量の100質量%を超えない。
【0041】
≪組成物層≫
本発明の組成物層は、本発明の両イオン性ポリマーを含む組成物から形成される層である。
【0042】
≪インクジェット記録媒体≫
本発明の両イオン性ポリマーはインクジェット記録媒体の任意の層に使用される。インクジェット記録媒体はインクジェット用インクを受ける組成物全体、組成物全体の任意の個々の層又は個々の層の組み合わせ、これらの組成物をインクジェット用インクの印刷物、及びインクジェット用インクを含むものを意味する。また、本発明のインクジェット記録媒体は、1つ又は1つよりも多くのインク受理性層を有することが出来る。本発明の両イオン性ポリマーは、1つ又は1つよりも多くの受理性層において使用することが出来る。
本発明のインクジェット記録媒体は、インク受理性層、保護被膜層、支持体、バリヤ層を有していても良い。
【0043】
≪印刷記録媒体≫
本発明の両イオン性ポリマーは印刷記録媒体の任意の層に使用される。印刷記録媒体は印刷用インクを受ける組成物全体、組成物全体の任意の個々の層又は個々の層の組み合わせ、これらの組成物を印刷用インクの印刷物、及び印刷用インクを含むものを意味する。また、本発明の印刷記録媒体は、1つ又は1つよりも多くのインク受理性層を有することが出来る。本発明の両イオン性ポリマーは、1つ又は1つよりも多くの受理性層において使用することが出来る。
本発明の印刷記録媒体は、インク受理性層、保護被膜層、支持体、バリヤ層を有していても良い。
本発明の印刷記録媒体はグラビア印刷やフレキソ印刷、オフセット印刷への印刷記録媒体として用いることができる。
【0044】
(インク受理性層)
本発明におけるインク受理性層とは、インクを受ける層又は画像形成層を意味する。
【0045】
(保護被膜層)
本発明における保護被膜層は、先に概略したような特定の特性を提供するのに用いることが出来るインクジェット記録媒体及び印刷記録媒体のトップコーティング層又はオーバーコート層を意味する。保護被膜層は、通常、インク受理性層と比較して薄くても良い。保護被膜層は、通常、最外層に存在し、インクの浸透を許容することが出来、後続の積層工程でも適用することが出来る。
【0046】
(支持体)
本発明における支持体はインクジェット記録媒体のベース基材を意味する。前記支持体としては、天然に産する物質又は合成物質が挙げられ、例えば、セルロースエステル、酢酸セルロース、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ(酢酸ビニル)、ポリプロピレン、カーボネート、ポリメタクリル酸、ならびにメチルエステル及びエチルエステル、ナイロンのようなポリアミド、ポリ(エチレンテレフタレート)のようなポリエステル、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリスルホンアミド、シリコーン、ガラス及びステンレスが挙げられる。また、支持体それ自体はインクジェットインク受理性層であっても良い。この場合には、両イオン性ポリマーは、支持体の上に直接コーティングして使用することも出来る。
【0047】
(バリヤ層)
本発明におけるバリヤ層は支持体とインク受理性層との間で使用される。バリヤ層は、例えば、ポリオレフィンやアルミニウム箔のような金属箔であっても良い。
【0048】
(塗付方法)
本発明の両イオン性ポリマーをインクジェット記録媒体として支持体に塗付する際には、任意の公知の方法を使用することが出来る。公知の方法としては、例えば、マイヤーバー塗布、リバースロール塗布、ローラー塗布、ワイヤバー塗布、浸漬塗布、エアナイフ塗布、スライド塗布、カーテン塗布、ナイフ塗布、フレキソ塗布、巻ワイヤ塗布、スロット塗布、スライドホッパー塗布及びグラビア塗布が挙げられる。
【0049】
本発明の両イオン性ポリマー又はそのコポリマーは、例えば、インクジェット記録媒体で使用される広範囲の様々なポリマー又はオリゴマー、中性、陰イオン性及び陽イオン性ポリビニルアルコール、ならびにゼラチンと混合して使用することが出来る。
【0050】
インクジェット記録媒体で使用されそしてインク受理性層で一般的に使用されるポリマーとしては、ゼラチン、でんぷん、スチレンブタジエンゴムラテックス、ニトリルブタジエンゴムラテックス、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール/酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びポリ(N-ビニルピロリドン)が挙げられる。
【0051】
また、本発明の両イオン性ポリマーは、インクジェット用インクの成分として使用することも出来る。
【0052】
インクジェット印刷のためのインクは周知である。これらのインクは、液体ビヒクルと、その中に溶解又は懸濁された染料又は顔料とを含む。使用される液体ビヒクルは、水、又は水と水混和性有機溶媒との混合物を含む。また、インクは、記録媒体に配合しようとする添加剤又は他の成分のためのビヒクルであってもよい。
【0053】
≪両イオン性ポリマーの製造方法≫
本発明の両イオン性ポリマーは両イオン性モノマーAを1種類以上含有するモノマーを重合することで得られる。
本発明での両イオン性ポリマーの重合方法は特に限定されず、例えば溶液重合、乳化重合、懸濁重合等が挙げられ、公知の方法で重合を行うことが出来る。重合反応は、ラジカルが生起する条件のもとで行われるものであれば特に限定されない。
【0054】
溶液重合を行なう場合には、使用する溶媒は両イオン性モノマーAの溶解性の観点から、水を用いることが好ましい。水への溶解性が低いエチレン性不飽和モノマーBを共重合させる場合、メタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒を水と混合して用いても良い。
【0055】
ラジカルを生起させる方法は特に限定されず、例えば、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法を用いてもよく、通常のラジカル重合で用いられるラジカル開始剤を使用する方法を用いてもよい。重合反応の反応温度も特に限定されず、例えば、通常は15~150℃程度である。ラジカル開始剤を使用する場合、ラジカル開始剤としては、例えば、ビス(フルオロアシル)パーオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)パーオキシド類、ジアルキルパーオキシジカーボネート類、ジアシルパーオキシド類、パーオキシエステル類、アゾ化合物類、過硫酸塩類が挙げられるが、両イオン性モノマーAが溶解する溶媒が水を主成分とすることから、水への溶解性や分散性、安定性の高いものが好ましい。
【0056】
≪組成物の製造方法≫
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、各成分を通常の撹拌機で攪拌して製造する方法を挙げることが出来る。
【0057】
≪組成物層の製造方法≫
本発明の組成物層の製造方法は特に限定されず、任意の公知の方法を使用することが出来る。公知の方法としては、例えば、マイヤーバー塗布、リバースロール塗布、ローラー塗布、ワイヤバー塗布、浸漬塗布、エアナイフ塗布、スライド塗布、カーテン塗布、ナイフ塗布、フレキソ塗布、巻ワイヤ塗布、スロット塗布、スライドホッパー塗布及びグラビア塗布等により、本発明の組成物を支持体に塗布し、乾燥させて、組成物層を製造する方法を挙げることが出来る。
【0058】
≪使用方法≫
本発明の組成物層の使用方法は特に限定されず、例えば、本発明の組成物層を表面に有する支持体を、80℃以上100℃以下の温水に30分間浸漬した際に前記組成物層のみが溶解し、前記組成物層を支持体の上から除去することに用いられる。これにより、支持体をリサイクルすることができる。リサイクルした再生支持体を、前記組成物層の製造方法における支持体として再利用してもよい。
【0059】
≪用途≫
インクジェット記録媒体に温水への溶解性を付与できる点から、本発明のインクジェット記録媒体は、前記両イオン性ポリマーを含有するコーティング層(保護被膜層)を有することが好ましい。
インクジェット記録媒体を温水に浸漬することにより印刷を脱落させることができるようになる点から、本発明のインクジェット記録媒体は、支持体上にインクジェットインク受理性層及び保護被膜層のうちの1種以上を有し、前記インクジェットインク受理性層及び保護被膜層のうちの1種以上が、前記両イオン性ポリマーを含むことが好ましい。
インクジェットインク受理性層が前記支持体に浸透して温水への溶解性が低下することを防げる点から、本発明のインクジェット記録媒体は、支持体とインクジェットインク受理性層との間にバリヤ層を有することが好ましい。
汎用的な材料である点から、本発明のインクジェット記録媒体及び印刷記録媒体は、前記支持体が、セルロースエステル、酢酸セルロース、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ(酢酸ビニル)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリスルホンアミド、シリコーン、ガラス及びステンレスのうちの1種以上を含むことが好ましい。
本発明のインクジェット記録媒体及び印刷記録媒体の製造方法としては、任意の公知の方法を使用することが出来る。公知の方法としては、例えば、マイヤーバー塗布、リバースロール塗布、ローラー塗布、ワイヤバー塗布、浸漬塗布、エアナイフ塗布、スライド塗布、カーテン塗布、ナイフ塗布、フレキソ塗布、巻ワイヤ塗布、スロット塗布、スライドホッパー塗布及びグラビア塗布して製造する方法を挙げることが出来る。
インクに温水への溶解性を付与できる点から、本発明のインクジェット用インクは、前記両イオン性ポリマーを含有することが好ましい。
本発明のインクジェット用インクの製造方法としては、例えば、本発明の組成物に前記のビヒクル、染料及び顔料を通常の撹拌機で攪拌して製造する方法を挙げることが出来る。
支持体をリサイクルできる点から、本発明の組成物は、前記両イオン性ポリマーを含む組成物層を表面に有する支持体を、80℃以上100℃以下の温水に30分間浸漬した際に組成物層が支持体から溶解することが好ましい。
【0060】
<本発明が効果を奏する理由>
本発明が効果を奏する理由は、以下のように推察される。本発明では、UCST型相分離を示す両イオン性ポリマーを使用しているため、臨界点以上の水にポリマー塗膜を浸けるとポリマー塗膜が溶解し、塗膜上に印字したインクを塗装ことが出来る。臨界点は両イオン性ポリマーの分子量や組成に依存し、分子量が小さいと臨界点も低くなるため、一般的な生活環境では水に溶解せずに使用することを考慮すると30℃の水に溶解しない程度の分子量を持ったポリマーであることが好ましい。よって、本発明の両イオン性ポリマーは、特定の範囲内の重量平均分子量を有することにより、30℃の水に溶解しにくく、且つ80℃の温水に溶解しやすい。
【実施例0061】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書中に表示される種々の測定値の測定方法及び評価は次のようにして行った。
【0062】
(1)重量平均分子量Mw
重量平均分子量Mwは光散乱検出器、示差屈折率検出器を備えたサイズ排除クロマトグラフ(GPC)(Viscotek社(製)、GPCmax-TDA302)を使用し、以下条件にて測定した。
ガードカラム:Shodex OHpak SB-G 6B (6.0mmI.D. x 50mm)。
カラム:Shodex OHpak SB-806M HQ (8.0mmI.D. x 300mm)。
移動相:0.1M 硝酸ナトリウム水溶液。
カラム及び検出器温度:40℃。
流速:0.5mL/分。
サンプル濃度:1mg/mL(移動相)。
注入量100μL。
重量平均分子量Mwの測定は、サンプル20mgを20mLメスフラスコに量り取り、移動相を8分目まで加えて一晩以上静置してサンプルを溶解した。目視でサンプルの溶解を確認し、移動相を加えて標線までメスアップした。孔径0.45μmの水系ディスクフィルターでろ過し、バイアル瓶に入れて測定に供した。
また、装置校正用としてポリエチレンオキシド標準(Viscotek、分子量24,000)のバイアルにホールピペットで移動相10mLを加え一晩以上室温で静置溶解した。
【0063】
(2)塗膜の基材密着性
評価サンプルは以下のように作製した。撹拌子を備えたガラス瓶に、後述する実施例・比較例に基づいて作製したポリマー1g、イオン交換水9gを加え、80℃に加熱しながら10分間攪拌した。テクノビジョン(株)製の紫外線オゾン洗浄装置UV-208で30分間の紫外線/オゾン処理をしたスライドガラス(76mm×26mm)に対し、調製した溶液をバーコートした(ウェット膜厚150μm)。バーコートしたスライドガラスは60℃のホットプレート上で30分乾燥させ、評価用サンプルとした。室温まで冷まし評価用サンプルを調製した。基材への密着性はJIS K 5600によるクロスカット法に準拠してより評価した、塗膜の剥がれが見られない場合は「〇」、塗膜の剥がれが見られた場合は「×」とした。
【0064】
(3)ポリマー水溶液の可視光透過率
ポリマー水溶液の可視光透過率はセル温度調節器を備えた(株)島津製作所製UV-3100PCを用いて測定した。測定用のサンプルは、撹拌子を備えたガラス瓶に、後述する実施例・比較例に基づいて作製したポリマー1g、イオン交換水9gを加え、80℃に加熱しながら10分間攪拌後、室温まで冷却し評価用サンプルを調製した。蓋つき石英セルにサンプルを0.7mL加え、(株)島津製作所製UV-3100PCにセルを取り付けた。温度制御用のチラーを所定の測定温度(30℃又は80℃)に設定し、サンプルの可視光透過率の変動が±5%に収まる範囲に落ち着くまで待ち、その後セルを一度取り出して振り混ぜ、再度装置に取り付けてから測定を行った。得られた可視光透過率の内、波長550nmにおける値を読み取った。
【0065】
(4)ポリマー塗膜の全光線透過率
ポリマー塗膜の全光線透過率はJIS K 7136に準拠して、日本電色工業(株)製のヘーズメーター、商品名「NDH2000」を用いて測定した。
【0066】
(5)ポリマー塗膜上インクの脱落性
ポリマー塗膜上インクの脱落性は以下のように評価した。スライドガラス(76mm×26mm)の全光線透過率を測定後、前記の(2)塗膜の基材密着性と同様にして評価用サンプルを作製し全光線透過率を測定した。その後、ポリマー塗膜に油性黒色ペンで25mm角の黒塗り正方形を描き、黒塗り部分の全光線透過率を測定した。このスライドガラスを60℃の温水に浸漬し、湯浴はマグネチックスターラーで攪拌した。1時間後にスライドガラスを取り出し、油性黒色ペンで黒塗り正方形を描いた黒塗り部分の全光線透過率を測定した。湯浴浸漬後の全光線透過率がスライドガラスの全光線透過率に対して90%以上となっている場合は「〇」、90%未満の場合は「×」とした。
【0067】
(6)総合評価
以下の3つの条件を全て満たした場合は「〇」、いずれかひとつでも満たしていない場合は「×」とした。
(i)ポリマーの1質量%水溶液の30℃における波長550nmの光の透過率が0%以上5.0%以下を満たすため、両イオン性ポリマーの溶解性が低くて良好。
(ii)ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率が40%以上100%以下を満たすため、両イオン性ポリマーの溶解速度が速くて良好。
(iii)インクの脱落性評価が「〇」。
【0068】
実施例、比較例で用いた原料の略号は以下の通りである。
DMAPS:3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホン酸(東京化成工業(株)製)。
HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(東京化成工業(株)製)。
ACMO:アクリロイルモルフォリン(KJケミカルズ(株)製)。
APS:過硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬(株)製)。
【0069】
(実施例1)
DMAPS 7.5g、及びイオン交換水 50.7gを100mL三口フラスコに測り取り、撹拌子を入れてマグネチックスターラーで攪拌することでDMAPSを溶解させた。乾燥窒素を150mL/分で30分間バブリングした後、APS 0.037gをそのフラスコに加え、APSが溶けるまで攪拌した。その後、60℃の水浴にフラスコを浸け、6時間攪拌した。その後、得られた反応液を1Lのメタノールに再沈殿し、析出した白色粘性固体を濾別した。得られた白色粘性固体を風乾した後、80℃で乾燥して両イオン性ポリマーを得た。得られた両イオン性ポリマーについて各種評価を行った。結果を表1に記載した。
【0070】
(実施例2)
実施例1において、HEMAを0.2g更に加えた以外は実施例1と同様の操作により、両イオン性ポリマーを得て、各種評価を行った。評価結果を表1に記載した。
【0071】
(実施例3)
実施例1において、HEMAを0.4g更に加えた以外は実施例1と同様の操作により、両イオン性ポリマーを得て、各種評価を行った。評価結果を表1に記載した。
【0072】
(実施例4)
実施例1において、ACMO 0.2gを更に加えた以外は実施例1と同様の操作により、両イオン性ポリマーを得て、各種評価を行った。評価結果を表1に記載した。
【0073】
(実施例5)
実施例1において、ACMOを0.4g更に加えた以外は実施例1と同様の操作により、両イオン性ポリマーを得て、各種評価を行った。評価結果を表1に記載した。
【0074】
(比較例1)
実施例1において、DMAPS 7.5gの代わりにHEMA 10gを使用し、イオン交換水の使用量が153.7g、APSの使用量が0.105gとなったこと、及び再沈殿でのメタノール量が3Lとなったこと以外は実施例1と同様の操作により、ポリマーを得てし、各種評価を行った。評価結果を表2に記載した。
【0075】
(比較例2)
実施例1において、DMAPS 7.5gの代わりにACMO 10gを使用し、イオン交換水の使用量が147.7g、APSの使用量が0.101gとなったこと、及び再沈殿でのメタノール量が3Lとなったこと以外は実施例1と同様の操作により、ポリマーを得て、各種評価を行った。評価結果を表2に記載した。
【0076】
(比較例3)
実施例1において、DMAPS7.5gの代わりにDMAPS1.1g、アクリルアミド4.2g、メトキシPEG350メタクリレート1.8gを使用し、イオン交換水の使用量が50.1g、APSの使用量が0.042gとなったこと、及び再沈殿でのメタノール量が3Lとなったこと以外は実施例1と同様の操作により、両イオン性ポリマーを得て、各種評価を行った。評価結果を表2に記載した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1より、本発明で規定した成分からなる両イオン性ポリマーを使用した実施例1~5は、すべての評価で優れていた。これに対して、本発明で規定する要素を満足していないものは、基材の密着性や両イオン性ポリマーの30℃の水への溶解性が高くて悪い又は80℃の水への溶解速度が遅く、両イオン性ポリマー塗膜上のインクの浸水剥離性(比較例)の評価に劣ることが確認出来る(比較例1~3)。
【0080】
表2より、比較例1は、ポリマーの1質量%水溶液の80℃における波長550nmの光の透過率が低くなるポリマーを使用したため、ポリマーが温水に不溶となり塗膜を作製出来ず、ポリマー塗膜上インクの脱落性を評価できなかった。比較例2及び比較例3は、ポリマーの1質量%水溶液の30℃における波長550nmの光の透過率が高くなるポリマーを使用したため、両イオン性ポリマーの30℃の水への溶解性が高くて悪く、総合評価が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明で規定した両イオン性ポリマーによれば、両イオン性ポリマーが塗布された基材に対して、塗付した両イオン性ポリマー上に印字した油性のインク類を温水に浸漬することで取り除くことが出来る。これは基材を脱墨してリサイクル出来ることを意味し、産業上極めて重要である。