IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 愛知製鋼株式会社の特許一覧

特開2024-132688クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法
<>
  • 特開-クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法 図1
  • 特開-クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法 図2
  • 特開-クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法 図3
  • 特開-クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法 図4
  • 特開-クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法 図5
  • 特開-クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法 図6
  • 特開-クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法 図7
  • 特開-クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法 図8
  • 特開-クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法 図9
  • 特開-クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132688
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】クランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/08 20060101AFI20240920BHJP
   B21K 1/08 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16C3/08
B21K1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043559
(22)【出願日】2023-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】小島 佑太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠哉
(72)【発明者】
【氏名】橋本 哲明
【テーマコード(参考)】
3J033
4E087
【Fターム(参考)】
3J033AA02
3J033AB03
3J033AC01
3J033BA01
3J033CA10
4E087AA06
4E087CA13
4E087EC02
4E087HA32
(57)【要約】
【課題】クランクシャフトの製造に供する原料の投入量を削減することを課題とする。
【解決手段】クランクシャフト1は、メインジャーナル2a~2eと、クランクピン3a~3dと、クランクショルダー4a~4hと、カウンターウエイト5a~5hと、を備える。メインジャーナル2a~2eの軸方向から見て、クランクショルダー4a~4hの幅をショルダー幅Ls、カウンターウエイト5a~5hの外周縁の周方向両端50a、51a間の幅を振分幅Lwとする。メインジャーナル2a~2eの径方向から見て、クランクショルダー4a~4hの厚みをショルダー厚みTsとする。Ls/Tsは7.06以上7.20以下である。Ls/Lwは0.89以上1.17以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受に回転可能に支持されるメインジャーナルと、
前記メインジャーナルに対して偏心して配置されるクランクピンと、
前記メインジャーナルと前記クランクピンとを連結するクランクショルダーと、
前記メインジャーナルを介して前記クランクショルダーに連なるカウンターウエイトと、
を備えるクランクシャフトであって、
前記メインジャーナルの軸方向から見て、前記クランクショルダーの幅をショルダー幅Ls、前記カウンターウエイトの外周縁の周方向両端間の幅を振分幅Lwとして、
前記メインジャーナルの径方向から見て、前記クランクショルダーの厚みをショルダー厚みTsとして、
Ls/Tsは7.06以上7.20以下であり、Ls/Lwは0.89以上1.17以下であることを特徴とするクランクシャフト。
【請求項2】
前記クランクシャフトは、排気量が1800cc以上3000cc以下の4気筒ディーゼルエンジン用であり、
前記クランクショルダーの曲げ剛性[N/mm]をKb、前記クランクショルダーの質量をMs[g]、前記クランクシャフトの回転中心から前記クランクショルダーの重心までの距離をRs[cm]、MsとRsとの積をショルダー側MR値MR(s)[g・cm]として、以下の(式1)が成立する請求項1に記載のクランクシャフト。
MR(s)≦0.0001Kb+2568.1 ・・・(式1)
【請求項3】
軸受に回転可能に支持されるメインジャーナルと、
前記メインジャーナルに対して偏心して配置されるクランクピンと、
前記メインジャーナルと前記クランクピンとを連結するクランクショルダーと、
前記メインジャーナルを介して前記クランクショルダーに連なるカウンターウエイトと、
を備えるクランクシャフトの設計方法であって、
前記クランクショルダーに作用する慣性力をショルダー側慣性力、前記カウンターウエイトに作用する慣性力をウエイト側慣性力、前記ウエイト側慣性力を前記ショルダー側慣性力で除した値をバランス率として、
所望の曲げ剛性、捩り剛性を確保しつつ、前記ショルダー側慣性力が最小となるように、前記クランクショルダーの形状を最適化するショルダー形状最適化工程と、
所望の前記バランス率を確保しつつ、前記ショルダー側慣性力に応じた前記ウエイト側慣性力を設定できるように、前記カウンターウエイトの形状を最適化するウエイト形状最適化工程と、
を有することを特徴とするクランクシャフトの設計方法。
【請求項4】
型鍛造により、素形材から、請求項3に記載のクランクシャフトの設計方法により得られた形状を呈するクランクシャフトを成形するクランクシャフトの鍛造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば車両のエンジンなどに用いられるクランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一体鍛造品のクランクシャフトが開示されている。図10に、同文献記載のクランクシャフト100の平面図を示す。なお、図10は、同文献の図2に対応している。図10に示すように、クランクシャフト100は、クランクジャーナル101と、クランクピン102と、クランクアーム103と、カウンターウエイト104と、を一体的に備えている。カウンターウエイト104は、クランクジャーナル101の軸心101aから離れるほど広がる扇形状を呈している。カウンターウエイト104を構成する肉(素材)は、軸心101aから離間している。このため、同文献記載のクランクシャフト100によると、従来と同質量のクランクシャフトに対して、回転モーメントを増加させることができる。また、従来と同じ回転モーメントのクランクシャフト100を製造する場合に、カウンターウエイト104の質量を小さくすることにより、軽量化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-168652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、型鍛造により円柱状の素形材からクランクシャフトを製造する際の、肉(素材)の流動性について解析した。解析の結果、素形材は、まず図10における上下方向に伸張し、次に左右方向に伸張することが判った。すなわち、型鍛造において、最後に肉が充填されるのは、鍛造型のキャビティのうち、カウンターウエイト104の外周縁の周方向両端104a、104bに対応する部分であることが判った。
【0005】
しかしながら、同文献記載のクランクシャフト100の場合、より少ない質量で、アーム側慣性力(クランクアーム103に作用する慣性力)にバランスがとれたウエイト側慣性力(カウンターウエイト104に作用する慣性力)を得るための設計がされている。その結果、回転モーメントを増加させるために、また軽量化を図るために、カウンターウエイト104が、軸心101aから離れるほど広がる扇形状を呈している。すなわち、周方向両端104a、104b間の幅である振分幅105が大きい。このため、周方向両端104a、104bに肉が行き渡るまでの間に、キャビティからガター(バリ溜まり)に、余剰の肉(バリ)が流出してしまう。よって、原料投入量が多くなってしまう。
【0006】
そこで、本開示のクランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法は、クランクシャフトの製造に供する原料の投入量を、クランクシャフトとして必要な性能(必要となる曲げ剛性、捩り剛性の確保及びクランクショルダー側とカウンターウエイト側の慣性力のバランス調整)を確保しつつ、削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するため、本開示のクランクシャフトは、軸受に回転可能に支持されるメインジャーナルと、前記メインジャーナルに対して偏心して配置されるクランクピンと、前記メインジャーナルと前記クランクピンとを連結するクランクショルダーと、前記メインジャーナルを介して前記クランクショルダーに連なるカウンターウエイトと、を備えるクランクシャフトであって、前記メインジャーナルの軸方向から見て、前記クランクショルダーの幅をショルダー幅Ls、前記カウンターウエイトの外周縁の周方向両端間の幅を振分幅Lwとして、前記メインジャーナルの径方向から見て、前記クランクショルダーの厚みをショルダー厚みTsとして、Ls/Tsは7.06以上7.20以下であり、Ls/Lwは0.89以上1.17以下であることを特徴とする。
【0008】
本構成のクランクシャフトによると、Ls/Lwは0.89以上1.17以下に設定されている。このため、カウンターウエイトの振分幅Lwを小さくすることができる。したがって、クランクシャフトの製造に供する原料の投入量を削減することができる。
【0009】
本構成のクランクシャフトによると、Ls/Tsは7.06以上7.20以下に設定されている。このため、クランクショルダーが従来と同程度の曲げ剛性、捩り剛性を確保することができる。これにより、前記Ls/Lwの最適化との組合せで、原料の投入量をできるだけ減らしつつ、必要な剛性を確保することができる。
【0010】
このように、本構成のクランクシャフトによると、従来と同程度の曲げ剛性、捩り剛性を確保しながら、カウンターウエイトの振分幅を小さくすることができる。すなわち、従来と同程度の機能を確保しながら、クランクシャフトの製造に供する原料の投入量を削減することができる。
【0011】
Ls/Tsを7.06以上かつ7.20以下としたのは、その範囲とすることで、曲げ剛性および捩り剛性の目標値を達成可能となるからである。また、Ls/Lwを0.89以上かつ1.17以下としたのは、その範囲とすることで、後述のバランス率を目標値の範囲とすることが可能となるからである。
【0012】
(2)上記(1)の構成において、前記クランクシャフトは、排気量が1800cc以上3000cc以下の4気筒ディーゼルエンジン用であり、前記クランクショルダーの曲げ剛性[N/mm]をKb、前記クランクショルダーの質量をMs[g]、前記クランクシャフトの回転中心から前記クランクショルダーの重心までの距離をRs[cm]、MsとRsとの積をショルダー側MR値MR(s)[g・cm]として、以下の(式1)が成立する構成とする方がよい。
MR(s)≦0.0001Kb+2568.1 ・・・(式1)
ここで、クランクショルダーに作用する慣性力をショルダー側慣性力Fs、カウンターウエイトに作用する慣性力をウエイト側慣性力Fw、カウンターウエイトの質量をMw[g]、クランクシャフトの回転中心からカウンターウエイトの重心までの距離をRw[cm]、MwとRwとの積をウエイト側MR値MR(w)[g・cm]、クランクシャフトの角速度をω、ウエイト側慣性力Fwとショルダー側慣性力Fsとの比をバランス率Bとして、以下の(式2)~(式4)を定義する。
Fs=Ms×Rs×ω=MR(s)×ω ・・・(式2)
Fw=Mw×Rw×ω=MR(w)×ω ・・・(式3)
B=Fw/Fs=MR(w)/MR(s) ・・・(式4)
本構成によると、式(1)不成立の場合(MR(s)>0.0001Kb+2568.1)と比較して、同等の曲げ剛性Kbを確保したまま、ショルダー側MR値MR(s)、つまりショルダー側慣性力Fsを小さくすることができる。このため、カウンターウエイトの振分幅を小さくすることができる。すなわち、式(1)が成立するようにショルダー側慣性力Fsを小さくすると、(式4)のバランス率Bを一定に保つため、ウエイト側慣性力Fwを小さくする必要がある。(式3)のウエイト側慣性力Fwを小さくするためには、クランクシャフトの回転中心からカウンターウエイトの重心までの距離Rwを小さくすればよい。つまり、カウンターウエイトの重心をクランクシャフトの回転中心に近づければよい。よって、カウンターウエイトの振分幅を小さくすることができる。
【0013】
このように、本構成によると、式(1)不成立の場合と比較して、同等の曲げ剛性Kbを確保したまま、ショルダー側慣性力Fsを小さくすることができ、カウンターウエイトの振分幅を小さくすることができる。
【0014】
(3)本開示のクランクシャフトの設計方法は、軸受に回転可能に支持されるメインジャーナルと、前記メインジャーナルに対して偏心して配置されるクランクピンと、前記メインジャーナルと前記クランクピンとを連結するクランクショルダーと、前記メインジャーナルを介して前記クランクショルダーに連なるカウンターウエイトと、を備えるクランクシャフトの設計方法であって、前記クランクショルダーに作用する慣性力をショルダー側慣性力、前記カウンターウエイトに作用する慣性力をウエイト側慣性力、前記ウエイト側慣性力を前記ショルダー側慣性力で除した値をバランス率として、所望の曲げ剛性、捩り剛性を確保しつつ、前記ショルダー側慣性力が最小となるように、前記クランクショルダーの形状を最適化するショルダー形状最適化工程と、所望の前記バランス率を確保しつつ、前記ショルダー側慣性力に応じた前記ウエイト側慣性力を設定できるように、前記カウンターウエイトの形状を最適化するウエイト形状最適化工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
本開示のクランクシャフトの設計方法によると、まず、ショルダー形状最適化工程において、所望の曲げ剛性、捩り剛性を確保し、かつショルダー側慣性力が最小となるように、クランクショルダーの形状を最適化する。次に、ウエイト形状最適化工程において、所望のバランス率を確保しつつ、ショルダー側慣性力に応じたウエイト側慣性力を設定できるように、カウンターウエイトの形状を最適化する。
【0016】
所望のバランス率を確保しつつ、ショルダー側慣性力に応じて、ウエイト側慣性力を小さくするためには、前述のとおり、カウンターウエイトの重心位置をクランクシャフトの回転中心に近づければよい。よって、カウンターウエイトの振分幅を小さくすることができる。
【0017】
また、図10に示す従来のクランクシャフト100の場合、回転モーメントの増加、クランクシャフト100の軽量化を目的に、カウンターウエイト104を扇形状に設計している。これに対して、本開示のクランクシャフトの設計方法の場合、ショルダー形状最適化工程において最小化されたショルダー側慣性力と釣り合うように、ウエイト形状最適化工程において、ウエイト側慣性力を設定している。すなわち、本開示のクランクシャフトの設計方法は、慣性力の最小化を目的としている。このように、本開示のクランクシャフトの設計方法は、従来のクランクシャフトの設計方法に対して、目的(着想)が全く相違している。本開示のクランクシャフトの設計方法によると、慣性力(ショルダー側慣性力、ウエイト側慣性力)を小さくすることができる。
【0018】
(4)本開示のクランクシャフトの鍛造方法は、型鍛造により、素形材から、前記(3)に記載のクランクシャフトの設計方法により得られた形状を呈するクランクシャフトを成形することを特徴とする。本開示のクランクシャフトの鍛造方法によると、所望の曲げ剛性、捩り剛性を有し、ショルダー側慣性力が小さいクランクショルダーと、ウエイト側慣性力が小さく、振分幅の小さいカウンターウエイトと、を備えるクランクシャフトを製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示のクランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法によると、クランクショルダーの曲げ剛性、捩り剛性を確保しつつ、カウンターウエイトの振分幅を小さくすることができる。このため、クランクシャフトの製造に供する原料の投入量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本開示の一実施形態のクランクシャフトの側面図である。
図2図2は、図1のII-II方向断面図である。
図3図3は、図1のIII-III方向断面図である。
図4図4は、図1の枠IV内の拡大図である。
図5図5は、同クランクシャフトの設計方法のフローチャートである。
図6図6は、曲げ剛性の解析方法の模式図である。
図7図7は、捩り剛性の解析方法の模式図である。
図8図8(A)~図8(C)は、同クランクシャフトの鍛造方法の模式図(その1)~(その3)である。
図9図9は、クランクシャフトの曲げ剛性とショルダー側MR値との関係を示すグラフである。
図10図10は、従来のクランクシャフトの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示のクランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法の実施の形態について説明する。
【0022】
<クランクシャフトの構成>
まず、本開示の一実施形態のクランクシャフトの構成について説明する。クランクシャフトは、一体鍛造品である。クランクシャフトは、自動車の排気量1800cc以上3000cc以下の4気筒ディーゼルエンジン用である。図1に、本実施形態のクランクシャフトの側面図(右側面図)を示す。
【0023】
図1に示すように、クランクシャフト1は、5つのメインジャーナル2a~2eと、4つのクランクピン3a~3dと、8つのクランクショルダー4a~4hと、8つのカウンターウエイト5a~5hと、フランジ6と、を備えている。
【0024】
クランクシャフト1の前端(補機駆動端)には、クランクプーリー(図略)が取り付けられている。クランクシャフト1の後端のフランジ6には、フライホイール(図略)が取り付けられている。
【0025】
5つのメインジャーナル2a~2eは、前後方向(軸方向)に一列に並んでいる。メインジャーナル2a~2eは、軸受(図略)により、自身の軸周りに回転可能に支持されている。軸受(図略)は、シリンダーブロック(図略)に取り付けられている。
【0026】
4つのクランクピン3a~3dは、5つのメインジャーナル2a~2eに対して、上下方向(メインジャーナル2a~2eの回転軸(中心軸)Aを基準とする径方向)に偏心して配置されている。前後方向両端の2つのクランクピン3a、3dとその間の2つのクランクピン3b、3cとは、互いに180°ずれて配置されている。
【0027】
クランクピン3a~3dには、コンロッド(図略)を介してピストン(図略)が取り付けられている。クランクピン3a~3dには、ピストン、コンロッドを介して、燃焼室(図略)から、燃焼荷重(燃焼圧力)が加わる。
【0028】
8つのクランクショルダー4a~4hは、各々、メインジャーナル2a~2eとクランクピン3a~3dとを径方向に連結している。8つのカウンターウエイト5a~5hは、メインジャーナル2a~2eの回転軸Aを挟んで、クランクショルダー4a~4hの径方向反対側に配置されている。
【0029】
図2に、図1のII-II方向断面図を示す。図3に、図1のIII-III方向断面図を示す。図4に、図1の枠IV内の拡大図を示す。なお、クランクシャフト1に穿設されている潤滑油用の油孔は省略して示す。
【0030】
図2図3に示すように、前後方向(回転軸Aの軸方向。メインジャーナル2a~2eの軸方向)から見て、クランクショルダー4aの左右方向(回転軸Aに直交する方向(軸直方向)であって、クランクピン3aとメインジャーナル2aとが並ぶ方向(上下方向)に直交する方向)幅をショルダー幅Ls、カウンターウエイト5aの外周縁の周方向一端50a、周方向他端51a(以下、適宜、周方向両端50a、51aと総称する。)間の左右方向幅を振分幅Lwとする。図4に示すように、左右方向(メインジャーナル2a~2eの径方向。図2に示す回転軸Aを中心とする円の径方向)から見て、クランクショルダー4aの前後方向厚み(詳しくは、メインジャーナル2a側の面取部に連なる平面部40aと、クランクピン3a側の面取部に連なる平面部41aと、の間の距離)をショルダー厚みTsとする。Ls/Tsは7.06以上7.20以下に設定されている。並びに、Ls/Lwは0.89以上1.17以下に設定されている。
【0031】
<クランクシャフトの設計方法>
次に、本実施形態のクランクシャフトの設計方法について説明する。図5に、本実施形態のクランクシャフトの設計方法のフローチャートを示す。当該設計方法は、図1に示す直径方向に連なるクランクショルダー4a~4h、カウンターウエイト5a~5hの8組(すなわち、「クランクショルダー4aとカウンターウエイト5a」、「クランクショルダー4bとカウンターウエイト5b」、・・・「クランクショルダー4gとカウンターウエイト5g」、「クランクショルダー4hとカウンターウエイト5h」の8組)のうち、少なくとも一組に対して実行される。以下、代表して、「クランクショルダー4aとカウンターウエイト5a」を設計する場合について説明する。
【0032】
前出の(式2)~(式4)を再掲する。
Fs=Ms×Rs×ω=MR(s)×ω ・・・(式2)
Fw=Mw×Rw×ω=MR(w)×ω ・・・(式3)
B=Fw/Fs=MR(w)/MR(s) ・・・(式4)
図5に示すように、本実施形態のクランクシャフトの設計方法は、ショルダー形状最適化工程(ステップS1~ステップS4)と、ウエイト形状最適化工程(ステップS5~ステップS8)と、を有する。
【0033】
(ショルダー形状最適化工程)
ショルダー形状最適化工程においては、形状最適化ソフトを用いて、所望の曲げ剛性、捩り剛性を確保しつつ、ショルダー側慣性力が最小となるように、クランクショルダー4aの形状を最適化する。具体的には、まず、バランス率の目標値B1、曲げ剛性の目標値Kb1、捩り剛性の目標値Kt1を設定する(ステップS1)。次に、(式2)に示すショルダー側慣性力Fsが最小となるように、クランクショルダー4aのモデルを作成する(ステップS2)。
【0034】
続いて、モデルの曲げ剛性Kb、捩り剛性Ktを解析する(ステップS3)。図6に、曲げ剛性の解析方法の模式図を示す。なお、図6に示す部分は、図1図4の枠IV内に対応している。曲げ剛性Kbの解析においては、メインジャーナル2a、2bの前後方向中心の径方向(上下左右方向)断面2aF、2bFを、各々、上下左右方向に動かないように拘束する。並びに、クランクピン3aの前後方向中心の上端3aPを、前後左右方向に動かないように拘束する。この状態で、クランク角0°位置(ピストンの上死点に対応)のクランクピン3aに対して、上側(ピストン側)から荷重F1を加える。そして、クランクショルダー4a、4bの曲げ剛性Kbを解析する。
【0035】
図7に、捩り剛性の解析方法の模式図を示す。なお、図7に示す部分は、図1図4の枠IV内に対応している。捩り剛性Ktの解析においては、メインジャーナル2bの後端の径方向断面2bF’を、上下前後左右に動かないように拘束する。この状態で、メインジャーナル2aの前端外周面のクランク角0°位置、180°位置に偶力F2(右向きの荷重)、-F2(左向きの荷重)を加える。そして、クランクショルダー4a、4bの捩り剛性Ktを解析する。
【0036】
それから、解析から得られた曲げ剛性Kb、捩り剛性Ktが目標値Kb1、Kt1以上か否かを判別する(ステップS4)。Kb≧Kb1以上かつKt≧Kt1が成立する場合(ステップS4)、ウエイト形状最適化工程に移行する(ステップS5)。一方、Kb≧Kb1以上かつKt≧Kt1が不成立の場合は、成立するまでステップS2~ステップS4を繰り返す。
【0037】
図2図3に示すクランクショルダー4aの除肉部C、加肉部D(説明の便宜上、ハッチングを施す)は、ショルダー形状最適化工程において設定されたものである。すなわち、除肉部Cは、クランクショルダー4aの前後方向両面に配置されている。従来のクランクシャフトに対して、除肉部Cにおいては肉(素材)が削減されている。除肉部Cは、クランクショルダー4aの重心を回転軸Aに近づけるために、つまりショルダー側慣性力Fsを小さくするために、設定されている。
【0038】
一方、加肉部Dは、クランクショルダー4aの左右方向(周方向)両外縁に配置されている。従来のクランクシャフトに対して、加肉部Dにおいては肉が追加されている。加肉部Dは、クランクショルダー4aの曲げ剛性Kb、捩り剛性Ktを向上させるために、設定されている。
【0039】
(ウエイト形状最適化工程)
ウエイト形状最適化工程においては、まず、カウンターウエイト5aのモデルを作成する(図5に示すステップS5)。続いて、前出の(式3)により、ウエイト側慣性力Fwを算出する。また、当該ウエイト側慣性力Fwと、すでにショルダー形状最適化工程において最小化済みのショルダー側慣性力Fsと、を前出の(式4)に代入し、バランス率Bを算出する(ステップS6)。それから、算出されたバランス率Bが目標値B1と一致しているか否かを判別する(ステップS7)。B=B1が成立する場合、設計が完了する(ステップS8)。すなわち、ステップS1で設定された目標値を充足する「クランクショルダー4aとカウンターウエイト5a」の設計が完了する。一方、B=B1が不成立の場合は、成立するまでステップS5~ステップS7を繰り返す。
【0040】
<クランクシャフトの鍛造方法>
次に、本実施形態のクランクシャフトの鍛造方法について説明する。図8(A)に、本実施形態の鍛造方法の模式図(その1)を示す。図8(B)に、本実施形態の鍛造方法の模式図(その2)を示す。図8(C)に、本実施形態の鍛造方法の模式図(その3)を示す。なお、図8(A)~図8(C)に示すクランクシャフトは、図1のVIII-VIII方向断面(クランクショルダー4a、カウンターウエイト5aの断面)に相当する。また、図8(A)~図8(C)に示す方位は、図1図4図6図7に対応しているが、実際には第一型91が上型(可動型)、第二型92が下型(固定型)である。すなわち、図中の左右方向は、実際の上下方向に対応している。
【0041】
図8(A)~図8(C)に示すように、鍛造型9は、第一型91と第二型92とを備えている。第一型91と第二型92とは左右方向に対向している。第一型91の右面(第二型92向きの面)には型面910が凹設されている。第二型92の左面(第一型91向きの面)には型面920が凹設されている。図8(C)に示すように、型面910と型面920とが合体すると、キャビティ93が区画される。キャビティ93は、クランクシャフト1と型対称の形状を呈している。キャビティ93には、フラッシュランド(バリ道)930を介して、ガター(バリ溜まり)931が連なっている。
【0042】
クランクシャフト1の製造時においては、まず、図8(A)に示すように、予備成形済みの前後方向に延在する円柱状の素形材90を、第一型91と第二型92との間に配置する。次に、矢印Y1で示すように、第一型91を第二型92に近接させる。図8(B)に示すように、素形材90の肉(素材)は、型面910、920(なお、図8(B)に示す部分以外に、図1に示すメインジャーナル2a~2e、クランクピン3a~3d、クランクショルダー4b~4h、カウンターウエイト5b~5h、フランジ6に対応する部分がある)に当接し、矢印Y2で示すように、上下方向に伸張する。素形材90の肉は、型面910、920の下端に到達した後、図8(C)に矢印Y3で示すように、左右方向に伸張する。このようにして、キャビティ93に、図1に示すクランクシャフト1が一体的に形成される。キャビティ93において、素形材90の肉が最後に充填されるのは、周方向一端930a、周方向他端931a(以下、適宜、周方向両端930a、931aと総称する。)である。周方向一端930aはカウンターウエイト5aの周方向一端50aに、周方向他端931aはカウンターウエイト5aの周方向他端51aに、各々対応している。キャビティ93の周方向両端930a、931aに肉が行き渡るまでの間、余剰の肉が、フラッシュランド930を介して、キャビティ93からガター931に流出する。すなわち、バリ900が形成される。周方向両端930a、931a間の幅つまり図2図3に示す振分幅Lwが小さい方が、バリ900の量が少なくなる。このため、原料投入量を削減することができる。
【0043】
<作用効果>
次に、本実施形態のクランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法の作用効果について説明する。本実施形態のクランクシャフト1によると、図2に示すLs/Lwは、0.89以上1.17以下に設定されている。このため、カウンターウエイト5aの振分幅Lwを小さくすることができる。したがって、クランクシャフト1の製造に供する原料の投入量を削減することができる。また、図2図3に示すLs/Tsは7.06以上7.20以下に設定されている。このため、クランクショルダー4aが従来と同程度の曲げ剛性、捩り剛性を確保することができる。
【0044】
このように、本実施形態のクランクシャフト1によると、従来と同程度の曲げ剛性、捩り剛性を確保しながら、カウンターウエイト5aの振分幅Lwを小さくすることができる。すなわち、従来と同程度の機能を確保しながら、クランクシャフト1の製造に供する原料の投入量を削減することができる。
【0045】
前出の(式1)~(式4)を再掲する。
MR(s)≦0.0001Kb+2568.1 ・・・(式1)
Fs=Ms×Rs×ω=MR(s)×ω ・・・(式2)
Fw=Mw×Rw×ω=MR(w)×ω ・・・(式3)
B=Fw/Fs=MR(w)/MR(s) ・・・(式4)
後述するように、本実施形態のクランクシャフト1によると、(式1)が成立する。このため、式(1)不成立の場合と比較して、同等の曲げ剛性Kbを確保したまま、ショルダー側MR値MR(s)、つまりショルダー側慣性力Fsを小さくすることができる。したがって、カウンターウエイト5aの振分幅Lwを小さくすることができる。すなわち、式(1)が成立するようにショルダー側慣性力Fsを小さくすると、(式4)のバランス率Bを一定に保つため、ウエイト側慣性力Fwを小さくする必要がある。(式3)のウエイト側慣性力Fwを小さくするためには、図2図3に示すように、回転軸A(クランクシャフト1の回転中心)からカウンターウエイト5aの重心Gwまでの距離Rwを小さくすればよい。すなわち、重心Gwを回転軸Aに近づければよい。よって、カウンターウエイト5aの振分幅Lwを小さくすることができる。
【0046】
このように、本実施形態のクランクシャフト1によると、式(1)不成立の場合と比較して、同等の曲げ剛性Kbを確保したまま、ショルダー側慣性力Fsを小さくすることができ、カウンターウエイト5aの振分幅Lwを小さくすることができる。
【0047】
本実施形態のクランクシャフト1の設計方法によると、まず、ショルダー形状最適化工程(図5のステップS1~ステップS4)において、所望の曲げ剛性Kb、捩り剛性Ktを確保し、かつショルダー側慣性力Fsが最小となるように、クランクショルダー4aの形状を最適化する。次に、ウエイト形状最適化工程(図5のステップS5~ステップS8)において、所望のバランス率(バランス率の目標値)B1を確保しつつ、ショルダー側慣性力Fsに応じたウエイト側慣性力Fwを設定できるように、カウンターウエイト5aの形状を最適化する。
【0048】
所望のバランス率B1を確保するためには、つまりショルダー側慣性力Fsに応じて、ウエイト側慣性力Fwを小さくするためには、前述のとおり、カウンターウエイト5aの重心位置Gwを回転軸Aに近づければよい。よって、カウンターウエイト5aの振分幅Lwを小さくすることができる。
【0049】
また、図10に示す従来のクランクシャフト100の場合、回転モーメントの増加、クランクシャフト100の軽量化を目的に、カウンターウエイト104を扇形状に設計している。これに対して、本実施形態のクランクシャフト1の設計方法の場合、ショルダー形状最適化工程(図5のステップS1~ステップS4)において最小化されたショルダー側慣性力Fsと釣り合うように(所望のバランス率B1を確保できるように)、ウエイト形状最適化工程(図5のステップS5~ステップS8)において、ウエイト側慣性力Fwを設定している。すなわち、本実施形態のクランクシャフト1の設計方法は、慣性力の最小化を目的としている。このように、本実施形態のクランクシャフト1の設計方法は、従来のクランクシャフトの設計方法に対して、目的(着想)が全く相違している。本実施形態のクランクシャフト1の設計方法によると、慣性力(ショルダー側慣性力Fs、ウエイト側慣性力Fw)を小さくすることができる。
【0050】
本実施形態のクランクシャフト1の鍛造方法によると、上述の設計方法により設計されたクランクシャフト1を製造することができる。すなわち、所望の曲げ剛性Kb、捩り剛性Ktを有し、ショルダー側慣性力Fsが小さいクランクショルダー4aと、ウエイト側慣性力Fwが小さく、振分幅Lwの小さいカウンターウエイト5aと、を備えるクランクシャフト1を製造することができる。
【0051】
<その他>
以上、本開示のクランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0052】
本開示のクランクシャフトおよびその設計方法と鍛造方法は、クランクシャフト1の全てのクランクショルダー4a~4h、カウンターウエイト5a~5hについて実施可能である。具体的には、「クランクショルダー4aとカウンターウエイト5a」、「クランクショルダー4bとカウンターウエイト5b」、「クランクショルダー4cとカウンターウエイト5c」、「クランクショルダー4dとカウンターウエイト5d」、「クランクショルダー4eとカウンターウエイト5e」、「クランクショルダー4fとカウンターウエイト5f」、「クランクショルダー4gとカウンターウエイト5g」、「クランクショルダー4hとカウンターウエイト5h」から選ばれる、少なくとも一組に対して、実施可能である。
【0053】
クランクシャフト1が用いられるエンジンの気筒の配置(すなわち、メインジャーナル2a~2eに対するクランクピン3a~3dの配置)は特に限定しない。直列、V型、水平対向などであってもよい。また気筒数も特に限定しない。2気筒、3気筒、4気筒、5気筒、6気筒、8気筒、10気筒、12気筒などであってもよい。車両に対するクランクシャフト1の回転軸Aの延在方向は特に限定しない。すなわち、エンジンは縦置きでも横置きでもよい。また、エンジンの燃料は、ガソリン、軽油などであってもよい。エンジンと電池(二次電池、燃料電池など)とを併用してもよい。エンジンの駆動対象物は、自動車、バイクなどでもよい。
【実施例0054】
以下、本開示のクランクシャフトの設計方法により設計したクランクシャフトの解析結果を示す。図9に、クランクシャフトの曲げ剛性とショルダー側MR値との関係をグラフで示す。なお、図9の実施例1、2は、図1に示すクランクシャフト1の「クランクショルダー4aとカウンターウエイト5a」に関する解析結果である。また、図9の比較例1、2は、従来のクランクシャフトの「図1に示すクランクショルダー4aとカウンターウエイト5aに対応する部分」に関する解析結果である。曲げ剛性Kbは、図6に示す解析方法により解析した。ショルダー側MR値MR(s)は、前出の(式2)に示すように、クランクショルダー4aの質量Msと、回転軸Aからクランクショルダー4aの重心までの距離Rsと、の積である。
【0055】
図9に実線(実施例1と実施例2とを通る直線)、点線(比較例1と比較例2とを通る直線)で示すように、実施例、比較例共に、曲げ剛性Kbと、ショルダー側MR値MR(s)と、は比例している。ただし、実施例は、比較例を下回っている。すなわち、曲げ剛性Kbが同値の場合、比較例よりも実施例の方が、ショルダー側MR値MR(s)が小さくなっている。また、ショルダー側MR値MR(s)が同値の場合、比較例よりも実施例の方が、曲げ剛性Kbが大きくなっている。
【0056】
実施例は、以下の式で表される。
MR(s)=0.0001Kb+2568.1
よって、図9にハッチングで示すように、以下に再掲する(式1)の関係が成立する場合、曲げ剛性Kbが同値であれば、比較例1、比較例2よりもショルダー側MR値MR(s)つまりショルダー側慣性力を小さくすることができる。また、ショルダー側MR値MR(s)が同値であれば、比較例1、比較例2よりも曲げ剛性Kbを大きくすることができる。
MR(s)≦0.0001Kb+2568.1 ・・・(式1)
【符号の説明】
【0057】
1:クランクシャフト、2a~2e:メインジャーナル、2aF:径方向断面、2bF:径方向断面、2bF’:径方向断面、3a~3d:クランクピン、4a~4h:クランクショルダー、40a:平面部、41a:平面部、5a~5h:カウンターウエイト、50a:周方向一端、51a:周方向他端、6:フランジ、9:鍛造型、90:素形材、900:バリ、91:第一型、910:型面、92:第二型、920:型面、93:キャビティ、930:フラッシュランド、931:ガター、930a:周方向一端、931a:周方向他端、A:中心軸、Ls:ショルダー幅、Lw:振分幅、Ts:ショルダー厚み、B1:バランス率の目標値、Kb1:曲げ剛性の目標値、Kt1:捩り剛性の目標値、B:バランス率、C:除肉部、D:加肉部、Kb:曲げ剛性、Kt:捩り剛性、F1:荷重、F2:偶力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10