(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013276
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】前処理工程におけるニッケル酸化鉱石の調合方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/00 20060101AFI20240125BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240125BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C22B1/00 101
C22B23/00 102
C22B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115225
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】土岐 典久
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA08
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA23
4K001AA38
4K001BA02
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA03
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】 サプロライト採掘場において発生するFe品位が既知で且つMg品位が未知のリモナイト鉱を安定的に浸出処理することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 低品位Ni酸化鉱の調合方法であって、サプロライト採掘場において発生する複数ロットの低品位Ni酸化鉱に対して定量分析することで得たFe品位及びMg品位を用いて回帰式を予め求めておく第1工程と、Fe品位が既知で且つMg品位が未知の低品位Ni酸化鉱のロットからサンプルを採取してそのFe品位を該回帰式に代入することによりMg品位を推定する第2工程と、湿式製錬プロセスに用いる原料鉱石の調製に際し、そのMg品位が所定の範囲内に収まるように該Mg品位が推定されたサンプルを採取したロットの低品位Ni酸化鉱を、該推定したMg品位に基づいて定めたブレンド比率で調合する第3工程とを有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サプロライト採掘場において発生するFe品位が既知で且つMg品位が未知の低品位Ni酸化鉱の調合方法であって、
前記サプロライト採掘場において発生する複数ロットの低品位Ni酸化鉱に対して定量分析することで得たFe品位及びMg品位を用いて回帰式を予め求めておく第1工程と、Fe品位が既知で且つMg品位が未知の低品位Ni酸化鉱のロットからサンプルを採取してそのFe品位を前記回帰式に代入することによりMg品位を推定する第2工程と、湿式製錬プロセスに用いる原料鉱石の調製に際し、そのMg品位が所定の範囲内に収まるように前記Mg品位が推定されたサンプルを採取したロットの低品位Ni酸化鉱を、該推定したMg品位に基づいて定めたブレンド比率で調合する第3工程とを有することを特徴とするニッケル酸化鉱石の調合方法。
【請求項2】
前記所定のMg品位が1.0%以上2.0%以下であることを特徴とする、請求項1記載のニッケル酸化鉱石の調合方法。
【請求項3】
前記湿式製錬プロセスが、低品位Ni酸化鉱に水を添加して調製した鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で酸浸出処理を施す高圧酸浸出法による湿式製錬プロセスであることを特徴とする、請求項2に記載のニッケル酸化鉱石の調合方法。
【請求項4】
前記サプロライト採掘場において発生する低品位Ni酸化鉱は、Fe品位が40%以上48%以下、Mg品位が0.5%以上3.0%以下のリモナイト鉱であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のニッケル酸化鉱石の調合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石スラリーの調製が行なわれる前処理工程におけるニッケル酸化鉱石の調合方法に関し、特に、低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石を高温加圧下で酸浸出処理することによりニッケルを回収する湿式製錬プロセスの前処理工程において、原料として用いるニッケル酸化鉱石を調合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル鉱石は硫化鉱と酸化鉱に大別することができ、主として熱帯ないし亜熱帯地域から産出される後者のニッケル酸化鉱石は、サプロライト鉱(saprolite)、リモナイト鉱(limonite)等の鉱石種を含むラテライト鉱(Laterite)と呼ばれている。鉱床において岩石層の上層に位置するサプロライト鉱は岩石の風化により粘土質の鉱石が生成する過程にあり、このサプロライト鉱の上層に腐葉土を主とする土壌と共にリモナイト鉱(褐鉄鉱)が存在している。熱帯地域においては、岩石の風化の過程でシリカ及び塩基が溶脱し、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)等の金属元素がサプロライト鉱中に濃縮している。このサプロライト鉱よりも風化が進んだ状態にあるリモナイト鉱は、サプロライト鉱よりもFe含有量は高いが、Ni含有量及びMg含有量は低くなる。
【0003】
非特許文献1には、上記のニッケル酸化鉱石は140百万トン程度存在していることが知られており、そのうちニッケル品位2%以上のサプロライト鉱が約30%を占めており、残りの70%を占めるニッケル品位1%程度のリモナイト鉱は、その処理が限られていたと記載されている。また、非特許文献2には、フェロニッケル向けサプロライト鉱を生産しているニッケル鉱山において、リモナイト鉱に代表される低ニッケル品位のニッケル酸化鉱は、経済的な製錬方法がないか資源化が技術的に不可能であるため放置されており、かかる低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石の活用が重要であると記載されている。
【0004】
上記のリモナイト鉱やサプロライト鉱を含むニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する製錬プロセスは乾式法と湿式法に大別することができる。例えば特許文献1には、原料鉱石を熔錬炉に装入してニッケルマットを製造する乾式製錬プロセス、原料鉱石をロータリーキルンあるいは移動炉床炉に装入してステンレス鋼の原料となるフェロニッケルを製造する乾式製錬プロセス、原料鉱石のスラリーをオートクレーブを用いて高圧酸浸出処理することで生成した浸出液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトを混合硫化物(ミックスサルファイド)として回収する高圧酸浸出法(HPAL:High Pressure Acid Leaching)による湿式製錬プロセスについて記載されている。
【0005】
上記の製錬プロセスのうち、リモナイト鉱に代表される低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石からのニッケル回収には、高圧酸浸出法による湿式製錬プロセスが適しており、例えば特許文献2には、浸出工程、固液分離工程、中和工程、及び硫化工程で主に構成される高圧酸浸出法が示されている。この高圧酸浸出法では、浸出工程の前工程の前処理工程において、原料に用いるニッケル酸化鉱石を水と共に湿式篩に供給して篩別することで、所定の粒度を有する鉱石を含んだ鉱石スラリーを篩下側に回収している。この前処理工程では、原料のニッケル酸化鉱石の調製の際に次工程の浸出工程における酸浸出処理時に添加する硫酸の添加量、該酸浸出処理により生成される浸出液のニッケル濃度や不純物濃度が所望の条件を満たすように、複数種類のニッケル酸化鉱石をブレンドすることがある。
【0006】
例えば特許文献3には、高圧酸浸出処理時の酸素消費量をコントロールするため、鉱石スラリー中のニッケル酸化鉱石のMg+Alの品位が1.5~4.5%程度となるようにブレンドする技術が開示されている。また、特許文献4には、高いニッケル浸出率を維持しながら硫酸の添加量を低減するため、浸出工程で生成される浸出スラリー中の遊離硫酸濃度が所定の濃度となるように、鉱石スラリー中のニッケル酸化鉱石のMg/Ni比に応じて硫酸の添加量を調整する技術が開示されている。
【0007】
ところで、上記の湿式篩の篩下側に回収される鉱石スラリーの固形分濃度は一般に10~20質量%と低いため、そのままオートクレーブに装入して酸浸出処理すると、生成される浸出液のニッケル濃度が低くなりすぎることが問題になることがあった。この浸出液のニッケル濃度の低下を補うためには、単位時間当たりの鉱石スラリーのオートクレーブへの装入量を増やすことが考えられるが、この場合は、オートクレーブにおける酸浸出処理の効率が低下するので、ニッケルの回収率が低下してしまう。
【0008】
上記の問題を防ぐため、上記の湿式篩の篩下側に回収した鉱石スラリーを浸出工程で酸浸出処理する前に、シックナーに導入して沈降分離により該鉱石スラリーを濃縮することが行なわれている。これにより、鉱石スラリーの固形分濃度を高めてから酸浸出処理を行なうことができるので、単位時間当たり所望のニッケル量を回収することが可能になる。なお、上記の鉱石スラリーの固形分濃度とは、鉱石スラリー100質量部に含まれる固形分(すなわち鉱石)の質量部であり、スラリー濃度と称することがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】低品位ニッケル酸化鉱からのニッケル,コバルトの回収に関する技術開発及び商業化、土田 直行、Journal of MMIJ、2008年124巻9号、549-553、発行日:2008/09/25、公開日:2011/02/15(DOI https://doi.org/10.2473/journalofmmij.124.549)
【非特許文献2】ニッケルの資源と需給の現状と湿式製錬法の今後の展望、尾崎 佳智,岡部 徹,香川 豊、Journal of MMIJ、2014年130巻、4号、93-103、発行日:2014/04/01、公開日:2015/04/01(DOI https://doi.org/10.2473/journalofmmij.130.93)
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2018-127693号公報
【特許文献2】特開2005-350766号公報
【特許文献3】特開2014-037632号公報
【特許文献4】特開2019-035113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の製錬プロセスの原料に用いるリモナイト鉱に代表される低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石(以降、低品位Ni酸化鉱とも称する)には、アルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)が含まれており、これらは上記の高温高圧下での酸浸出処理の際に不純物として挙動する。特に、Mgは硫酸によって浸出されるため、ニッケル酸化鉱石中のMg品位が高くなると過剰に硫酸を添加する必要が生じ、後工程の中和工程において中和剤の添加量が増加する。
【0012】
また、高温高圧下での酸浸出処理では、ニッケル等の有価金属の浸出率を高めるため、化学量論量に比べて過剰の硫酸を添加して浸出反応に関与しない余剰の硫酸を遊離酸として酸浸出処理後の浸出液に残存させるが、ニッケル酸化鉱石中のMg品位が高くなると、この遊離酸の濃度低下による浸出率の低下を招く。従って、原料に用いるニッケル酸化鉱石のアルミニウム品位やマグネシウム品位が変動すると、浸出工程以降の運転が不安定になり、湿式製錬プロセス全体としての処理能力が低下することがあった。
【0013】
ところで、サプロライト採掘場では、主として土壌上部に位置するリモナイト鉱に代表される低品位Ni酸化鉱は、一般的に乾式製錬向けの原料にはほとんど利用されてこなかったため、Ni品位及びFe品位については分析を行っているものの、Mg品位は分析を行なうことなく採掘場の周辺に積み上げられていた。高圧酸浸出法(HPAL)による湿式製錬では、このように採掘場の周辺に積み上げられている低品位Ni酸化鉱を活用できるので採掘費をかけることなく安価に原料を入手することができる。
【0014】
しかしながら、前述したようにマグネシウムは湿式製錬プロセスに悪影響を及ぼしうるので前処理工程で原料のMg品位を調整するのが望ましく、その際、サプロライト採掘場の周辺に積み上げられている低品位Ni酸化鉱のMg品位を把握しておく必要があるが、そのためだけに改めて前処理工程の段階で原料のMg品位を分析するのは手間と時間がかかり、コスト高の要因になっていた。
【0015】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、サプロライト採掘場において発生するFe品位が既知で且つMg品位が未知のリモナイト鉱に代表される低品位Ni酸化鉱を、高温高圧下で硫酸により浸出処理を行なう湿式製錬プロセスの原料として簡易且つ安価に用いることが可能なニッケル酸化鉱石の調合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鉱石スラリーの調製を行なう前処理工程におけるニッケル酸化鉱石の調合方法について鋭意研究を行った結果、サプロライト採掘場の周辺に積み上げられている低品位Ni酸化鉱はロットごとにFe品位やMg品位にばらつきがあるが、これらFe品位とMg品位とは強い相関関係を有しているという知見を得た。かかる知見に基づき更に研究をすすめたところ、上記の相関関係を利用して鉱石原料を調合することで、上記低品位Ni酸化鉱を簡易且つ安価に湿式製錬プロセスの原料として使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明のニッケル酸化鉱石の調合方法は、サプロライト採掘場において発生するFe品位が既知で且つMg品位が未知の低品位Ni酸化鉱の調合方法であって、前記サプロライト採掘場において発生する複数ロットの低品位Ni酸化鉱に対して定量分析することで得たFe品位及びMg品位を用いて回帰式を予め求めておく第1工程と、Fe品位が既知で且つMg品位が未知の低品位Ni酸化鉱のロットからサンプルを採取してそのFe品位を前記回帰式に代入することによりMg品位を推定する第2工程と、湿式製錬プロセスに用いる原料鉱石の調製に際し、そのMg品位が所定の範囲内に収まるように前記Mg品位が推定されたサンプルを採取したロットの低品位Ni酸化鉱を、該推定したMg品位に基づいて定めたブレンド比率で調合する第3工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、サプロライト採掘場において発生するFe品位が既知で且つMg品位が未知の低品位Ni酸化鉱を、高温高圧下で硫酸により浸出処理を行なう湿式製錬プロセスの原料として簡易且つ安価に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るニッケル酸化鉱石の調合方法が好適に適用されるニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスのブロックフロー図である。
【
図2】本発明の実施例において、サプロライト採掘場で発生したリモナイト鉱に対してロットごとに採取したサンプルを定量分析することで得たFe品位及びMg品位をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
先ず、本発明の実施形態に係るニッケル酸化鉱石の調合方法が好適に適用される高圧酸浸出法による湿式製錬プロセスの一具体例について
図1を参照しながら説明する。この
図1に示す湿式製錬法は、原料のニッケル酸化鉱石に対して解砕や湿式の篩分け等の前処理を行なう前処理工程S1と、前処理工程S1で調製した鉱石スラリーに対して硫酸を添加して例えば温度220~280℃程度、圧力3~6MPaG程度の高温高圧下で酸浸出処理を施すことでニッケル及びコバルトを浸出させる浸出工程S2と、浸出工程S2により生成した浸出スラリーを連続する複数のシックナーに導入し、向流で流れる洗浄液で洗浄しながら浸出残渣を分離除去することで粗硫酸ニッケル水溶液からなる浸出液を得る固液分離工程S3と、該浸出液に中和剤を添加して該浸出液に含まれる不純物元素を中和澱物として分離除去して中和終液を得る中和工程S4と、該中和終液に硫化水素等の硫化剤を添加し、亜鉛を硫化亜鉛として沈殿除去して脱亜鉛終液を得る脱亜鉛工程S5と、該脱亜鉛終液に脱亜鉛工程S5よりも高圧の条件下で硫化水素等の硫化剤を添加してニッケル及びコバルトを混合硫化物の形態で回収する硫化工程S6と、該混合硫化物の回収時に排出されるニッケル貧液及び上記固液分離工程S3で排出される浸出残渣に消石灰等の中和剤を添加して無害化処理を行なう無害化工程S7とから一般的に構成される。
【0021】
上記のような高圧酸浸出法による湿式製錬プロセスの原料に用いる低品位Ni酸化鉱には、Ni品位1.5~3.0質量%程度のサプロライト鉱に比べて低ニッケル品位で安価なリモナイト鉱が主に用いられる。サプロライト採掘場で発生するリモナイト鉱は主成分がFeであり、Ni以外ではCo、Mg、Cr、Mn、Al、及びSiを含んでいる。一般的には、リモナイト鉱は主成分のFe品位が40質量%以上48質量%以下であり、Ni品位が0.8質量%以上1.5質量%以下であり、Mg品位が0.5質量%以上3.0質量%以下であり、それ以外の元素は、Siを除いて0.1質量%以上2.5質量%以下の範囲内にある。
【0022】
サプロライト採掘場で発生するリモナイト鉱に代表される低品位Ni酸化鉱はロットごとに組成がばらつくため、湿式製錬プロセスの原料としてそのまま用いると該プロセスの運転が不安定になることがあった。特に、ニッケル酸化鉱石に水を添加して調製した鉱石スラリーを硫酸と共にオートクレーブに装入して高温高圧の条件下で行なわれる酸浸出処理では、MgはNiと同様に硫酸に浸出されるので、該鉱石スラリーに含まれるニッケル酸化鉱石のMg品位は、所定の範囲内に抑えるのが好ましい。そこで、前処理工程S1において複数ロットの原料鉱石をブレンド(調合)してMg品位を所定の範囲内に収めることが行なわれている。しかしながら、サプロライト採掘場で採掘される鉱石は、乾式製錬プロセスの原料としての使用の可否かを判断するため、Ni品位及びFe品位についてはロットごとに分析が行なわれるものの、Mg品位については通常は分析が行なわれないので未知であることが多い。
【0023】
そこで、本発明の実施形態に係るニッケル酸化鉱石の調合方法においては、上記の湿式製錬プロセスの前処理工程S1において、サプロライト採掘場の周辺に使用されずに積み上げられている主としてリモナイト鉱からなる低品位Ni酸化鉱に対して、複数ロットから採取したサンプルのFe品位及びMg品位を分析してそれらの相関関係を予め求めておき、湿式製錬プロセスの原料鉱石としてFe品位が既知で且つMg品位が未知の上記低品位Ni酸化鉱を用いるときは、そのFe品位を該相関関係に照合することでMg品位を推定し、この推定したMg品位に基づいてそのロットの低品位Ni酸化鉱を調合することで、湿式製錬の対象となる原料鉱石のMg品位を制御している。
【0024】
より具体的に説明すると、先ず、第1工程において、サプロライト採掘場において採掘された、乾式製錬プロセスに使用されることなく該採掘場の周辺に積み上げられている複数ロットのリモナイト鉱に代表される低品位Ni酸化鉱に対してFe品位及びMg品位の定量分析を行なう。そして、該定量分析により得たロット各のFe品位及びMg品位に対して回帰分析を行なうことで、これらFe品位とMg品位との相関関係を表わす回帰式を求める。上記の回帰分析は、独立変数(説明変数)xの指定値に対応する従属変数(被説明変数)yの予測値を求める回帰式を定める統計的解析法であり、εを残差項として表わした数式モデルy=f(x)+εにおいて、残差項εの平方和が最小になるように該回帰式のパラメータを定める。
【0025】
上記の回帰式には、採用する数式モデルによって直線回帰式、曲線回帰式、多項式回帰式などを挙げることができ、Mg品位をy軸、Fe品位をx軸とするグラフにプロットしたときの相関関係に応じて上記の回帰式の中からいずれかを選択してもよいが、f(x)=αx+βの1次式で表される直線回帰式を採用するのが簡便であるのでより好ましい。なお、上記の低品位Ni酸化鉱の定量分析には、ICP発光分光分析法を用いることができる。また、定量分析を行なう低品位Ni酸化鉱のロット数は、統計学的に有意な結果が得られるように、100ロット程度からサンプルを採取することが好ましい。
【0026】
次に、第2工程において、サプロライト採掘場において発生したFe品位が既知で且つMg品位が未知の低品位Ni酸化鉱のロットからサンプルを採取し、その既知のFe品位を上記の回帰分析で求めた回帰式のxに代入する。これにより求まる回帰式のyの値から、上記サンプルを採取した低品位Ni酸化鉱のロットのMg品位を推定することができる。
【0027】
次に、第3工程において、複数ロットのニッケル酸化鉱石を調合して湿式製錬プロセスの原料として用いるニッケル酸化鉱石の調製を行なう際、そのMg品位が所望の範囲内に収まるように、上記の第2工程で推定したMg品位に基づいて定めたブレンド比率で、該Mg品位が推定されたサンプルを採取したロットの低品位Ni酸化鉱を調合する。
【0028】
すなわち、リモナイト鉱に代表される低品位Ni酸化鉱は、ロットごとに高圧酸浸出処理時における酸消費量や酸化還元電位(ORP)等が異なりうるため、前処理工程で調製する鉱石スラリーに含まれるニッケル酸化鉱石はMg品位が1.0%以上2.0%以下であるのが好ましく、この条件を満たすように複数ロットの低品位Ni酸化鉱の調合を行なう。その際、湿式製錬プロセスの原料に用いるために調合されたニッケル酸化鉱石は、Ni品位が1.0~1.5%程度、Mg品位とAl品位との合計が1.5~4.5%程度、Si品位が3.0~8.0%程度、C品位が0.12~0.20%程度であるのがより好ましく、これによりシックナーでのシックニング挙動等の運転条件を改善することができる。次に、実施例を挙げて本発明のニッケル酸化鉱石の調合方法についてより具体的に説明するが本発明は下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例0029】
先ず、第1工程において、サプロライト採掘場の周辺に積み上げられているNi品位及びFe品位が既知で且つMg品位が未知の低品位Ni酸化鉱からランダムに約100ロットを選択してサンプルを採取し、それらの各々に対してICP発光分光分析法によりFe品位及びMg品位を定量分析した。得られた分析値を、Mg品位がy軸、Fe品位がx軸のグラフにプロットした結果を
図2に示す。また、上記の分析値を最小二乗法により直線回帰分析することで、下記式1に示す直線回帰式、すなわちFe品位とMg品位の検量線を求めた。
[式1]
y=-0.19・x+9.9
【0030】
次に、第2工程において、サプロライト採掘場において発生したFe品位が既知で且つMg品位が未知のロットA~Dの4種類のリモナイト鉱のFe品位を上記式1の直線回帰式に代入してそれらのMg品位を推定した。最後に、第3工程において、原料鉱石のMg品位を1.0%以上2.0%以下の範囲内に収めることで該原料鉱石を高温高圧下で酸浸出処理する際に不安定にならないようにすべく、試料1の原料鉱石では上記のロットA~Dの中からロットA(Fe品位42.0%)及びロットB(Fe品位46.6%)を選択し、試料2の原料鉱石では上記のロットA~Dの中からロットA(Fe品位42.0%)、ロットC(Fe品位44.1%)及びロットD(Fe品位47.2%)を選択し、それぞれ第2工程で推定したMg品位に基づいてブレンド比率を定めた。
【0031】
このようにしてブレンドした試料1及び2の原料鉱石の各々において、推定したMg品位及びブレンド比率に基づいて算出したMg品位(推定値)の精度を検証するため、これら試料1及び2の原料鉱石のMg品位をICP発光分光分析法で分析した。その結果、試料1の原料鉱石では、Mg品位の推定値1.46%に対して分析値1.48%となり、ほぼ一致した。また、試料2の原料鉱石では、Mg品位の推定値1.43%に対して分析値1.40%となり、ほぼ一致した。上記の結果を下記表1に示す。
【0032】
【0033】
上記表1の結果から、サプロライト採掘場より発生するFe品位が既知で且つMg品位が未知のリモナイト鉱石を湿式製錬プロセスの原料鉱石に使用する際、Fe品位のみを指標として正確にMg品位を推定して原料鉱石の調合に反映できることが分かる。すなわち、本発明に沿ってニッケル酸化鉱石を調合することで、ロットごとにMg品位を分析する従来の作業が不要になる。