(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132798
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール2軸延伸フィルムの製造方法及びポリビニルアルコール2軸延伸フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134282
(22)【出願日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2023041861
(32)【優先日】2023-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 真平
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】牟田 隆敏
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA29
4F071AA81
4F071AF08Y
4F071AF15Y
4F071AF21Y
4F071AG28
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】生分解性、リサイクル等の環境対応に優れた、ガスバリア性を有するポリビニル
アルコールフィルム2軸延伸フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールAと前記ポリビニルア
ルコールA以外のポリビニルアルコールBを、5:95~45:55の質量比率で含む組
成物を成膜しフィルムを得る工程1、得られたフィルムを2軸延伸する工程2、を含む2
軸延伸フィルムの製造方法、および1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコール
Aと前記ポリビニルアルコールA以外のポリビニルアルコールBを、5:95~45:5
5の質量比率で含む2軸延伸フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールAと前記ポリビニルアルコールA
以外のポリビニルアルコールBを、5:95~45:55の質量比率で含む組成物を成膜
しフィルムを得る工程1、得られたフィルムを2軸延伸する工程2、を含む2軸延伸フィ
ルムの製造方法。
【請求項2】
1軸目の延伸倍率が2~4倍、2軸目の延伸倍率が2.5~5倍である、請求項1に記
載の2軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
延伸後に熱処理を行う、請求項1又は請求項2に記載の2軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコールAが、下記一般式1で表される構造単位を含有するポリビニ
ルアルコールである、請求項1又は請求項2に記載の2軸延伸フィルムの製造方法。
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3のアルキル
基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立して水素原
子または炭素数1~3のアルキル基を示す。)
【請求項5】
前記ポリビニルアルコールBのけん化度が90~99.99モル%である、請求項1又
は請求項2に記載の2軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコールBの重合度が500以上2600以下である、請求項1又は
請求項2に記載の2軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項7】
1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールAと前記ポリビニルアルコールA
以外のポリビニルアルコールBを、5:95~45:55の質量比率で含む2軸延伸フィ
ルム。
【請求項8】
23℃、0%RHにおける酸素透過率が0.01cc/(m2・day・atm)~1
cc/(m2・day・atm)である、請求項7に記載の2軸延伸フィルム。
【請求項9】
MD方向、TD方向の引張強度が100MPa~350MPaである、請求項7又は請
求項8に記載の2軸延伸フィルム。
【請求項10】
前記ポリビニルアルコールAが、下記式1で表される構造単位を含有するポリビニルア
ルコールである、請求項7又は請求項8に記載の2軸延伸フィルム。
【化2】
(式中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3のアルキル
基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立して水素原
子または炭素数1~3のアルキル基を示す。)
【請求項11】
前記ポリビニルアルコールBのけん化度が90~99.99モル%である、請求項7又
は請求項8に記載の2軸延伸フィルム。
【請求項12】
前記ポリビニルアルコールBの重合度が2400以下である、請求項7又は請求項8に
記載の2軸延伸フィルム。
【請求項13】
請求項7又は請求項8に記載の2軸延伸フィルムを含む食品包装フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性、リサイクル等の環境対応に優れた、ガスバリア性を有するポリビ
ニルアルコールフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サーキュラーエコノミーが求められる情勢の中、材料のリサイクル・リデュース
技術の充実が求められている。また、サーキュラーエコノミーの観点では、マテリアルリ
サイクルや有機リサイクルのために材料のモノマテリアル化や生分解性の付与が重要な要
素となっている。
例えば特許文献1には、1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールを含む組
成物及び、その積層フィルムを用いたガスバリア性包装材、リサイクル性フィルムが記載
されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の方法では、強度、ガスバリア性等が十分ではなかった。本発明は
、生分解性、リサイクル等の環境対応に優れた、ガスバリア性を有するポリビニルアルコ
ールフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
<1>1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールAと前記ポリビニルアルコ
ールA以外のポリビニルアルコールBを、5:95~45:55の質量比率で含む組成物
を成膜しフィルムを得る工程1、得られたフィルムを2軸延伸する工程2、を含む2軸延
伸フィルムの製造方法。
【0006】
<2>1軸目の延伸倍率が2~4倍、2軸目の延伸倍率が2.5~5倍である、<1>
に記載の2軸延伸フィルムの製造方法。
<3>延伸後に熱処理を行う、<1>又は<2>に記載の2軸延伸フィルムの製造方法
。
<4>前記ポリビニルアルコールAが、下記一般式1で表される構造単位を含有するポ
リビニルアルコールである、<1>~<3>のいずれかに記載の2軸延伸フィルムの製造
方法。
【0007】
【0008】
(式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3のアルキル
基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R4、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原
子または炭素数1~3のアルキル基を示す。)
【0009】
<5>前記ポリビニルアルコールBのけん化度が90~99.99モル%である、<1
>~<4>のいずれかに記載の2軸延伸フィルムの製造方法。
<6>前記ポリビニルアルコールBの重合度が500以上2600以下である、<1>
~<5>のいずれかに記載の2軸延伸フィルムの製造方法。
<7>1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールAと前記ポリビニルアルコ
ールA以外のポリビニルアルコールBを、5:95~45:55の質量比率で含む2軸延
伸フィルム。
【0010】
<8>23℃、0%RHにおける酸素透過率が0.01cc/(m2・day・atm
)~1cc/(m2・day・atm)である、<7>に記載の2軸延伸フィルム。
<9>MD方向、TD方向の引張強度が100MPa~350MPaである、<7>又
は<8>に記載の2軸延伸フィルム。
<10>前記ポリビニルアルコールAが、下記式1で表される構造単位を含有するポリ
ビニルアルコールである、<7>~<9>のいずれかに記載の2軸延伸フィルム。
【0011】
【0012】
(式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3のアルキル
基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R4、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原
子または炭素数1~3のアルキル基を示す。)
【0013】
<11>前記ポリビニルアルコールBのけん化度が90~99.99モル%である、<
7>~<10>のいずれかに記載の2軸延伸フィルム。
【0014】
<12>前記ポリビニルアルコールBの重合度が2400以下である、<7>~<11
>のいずれかに記載の2軸延伸フィルム。
<13><7>~<12>のいずれかに記載の2軸延伸フィルムを含む食品包装フィル
ム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生分解性、リサイクル等の環境対応に優れた、ガスバリア性を有する
ポリビニルアルコールフィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<工程1>
本発明では、1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールAと前記ポリビニル
アルコールA以外のポリビニルアルコールBを、5:95~45:55の質量比率で含む
組成物を製膜しフィルムを得る。
前記ポリビニルアルコールAの比率が5より少ないと、延伸性が不十分で2軸延伸が困
難となる。また、45より多いとフィルムのガラス転移温度が低くなり弾性率が下がるた
め、フィルムの製膜工程においてフィルム同士のブロッキングやロールへの巻き付きが起
こる。また、延伸時に破断が生じてしまう。
前記ポリビニルアルコールAは、下記式1で表される構造単位を含有するポリビニルア
ルコールが好ましい。
【0017】
【0018】
式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3のアルキル
基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R4、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原
子または炭素数1~3のアルキル基を示す。
【0019】
前記Xは熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合が最も好ましいが
、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては
、アルキレン、アルケニレン、フェニレン、ナフチレンなどの炭化水素(これらの炭化水
素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、-O-、-(C
H2O)m-、-(OCH2)m-、-(CH2O)mCH2-、-CO-、-COCO
-、-CO(CH2)mCO-、-CO(C6H4)CO-、-S-、-CS-、-SO
-、-SO2-、-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-
、-NRNR-、-HPO4-、-Si(OR)2-、-OSi(OR)2-、-OSi
(OR)2O-、-Ti(OR)2-、-OTi(OR)2-、-OTi(OR)2O-
、-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-、等(Rは各々独立し
て任意の置換基であり、水素原子、またはアルキル基が好ましく、またmは自然数である
)を挙げることができる。
【0020】
中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレ
ン基、あるいは-CH2OCH2-が好ましい。
また、式1で表される1,2-ジオール構造単位中のR1~R3及びR4~R6がすべ
て水素原子であり、Xが単結合であるものが最も好ましく、下記式2で表される構造単位
を有するポリビニルアルコールがより好ましい。
【0021】
【0022】
また、前記ポリビニルアルコールA中の1,2-ジオール構造単位の含有量は、1~1
5モル%が好ましく、2~10モル%がより好ましく、3~9モル%がさらに好ましい。
含有量が低すぎると、延伸工程において破断を引き起こしやすく、高すぎると金属との
密着により、溶融成形時の流れ性やロールからの剥がれ性が低下しやすい。
前記ポリビニルアルコールAは公知の方法で製造でき、特に限定されないが、(i)ビ
ニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する
方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共
重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般
式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用
いられる。
【0023】
前記ポリビニルアルコールBは、1,2-ジオール構造を有していないポリビニルアル
コールである。
ビニルポリマー側鎖の大半をヒドロキシ基が占有しているため、分子鎖間に高い水素結
合が作用されるため、分子鎖同士の相互作用が大きく、分子の運動性の抑制あるいはフィ
ルム中の自由体積の低下により、酸素をはじめとする気体の透過性を下げ、高いバリア性
を発現できる。また、PVAは生分解性を示し、土壌中に存在するPVA分解菌によって
分解が可能である。
【0024】
前記ポリビニルアルコールBのけん化度は90~99.99モル%が好ましく、95~
99.99モル%がより好ましく、98~99.9モル%がさらに好ましい。
前記ポリビニルアルコールBのけん化度はガスバリア性の点から95モル%以上が好ま
しく、98モル%以上がより好ましい。また成形性の点から99.99モル%以下が好ま
しく、99.9モル%以下がより好ましい。なお、前記けん化度はJIS K 6726
に準拠して測定することができる。
【0025】
前記ポリビニルアルコールBの平均重合度は、好ましくは500以上2600以下であ
りさらに好ましくは1000以上2000以下である。平均重合度が高すぎると、溶融粘
度や水への溶解性が低下し、押出が困難となる傾向があり、低すぎると、フィルムがもろ
くなる傾向がある。なお、前記平均重合度はJIS K 6726に準拠して測定するこ
とができる。
【0026】
前記ポリビニルアルコールは特に限定されず公知の方法で製造できる。すなわち、ビニ
ルエステル系化合物を重合して得られたビニルエステル系重合体をけん化して得られるも
のである。
前記ビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビ
ニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサ
ティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が単独または併用で用い
られるが、実用上は酢酸ビニルが好適である。
【0027】
本発明の組成物は、前記ポリビニルアルコールAと前記ポリビニルアルコールB以外の
ポリマー、添加剤等のその他成分を含んでいてもよい。前記組成物中のその他成分の含有
量は、5質量%以下が好ましい。
その他成分としては、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑
剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、
架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、
酸素吸収剤等の公知の添加剤が挙げられる。なお、これら2種以上用いてもよい。
【0028】
前記組成物は公知の方法で成膜しフィルムとすることができる。例えば、2軸押出機で
混練し口金を用いて押出製膜する方法、溶媒キャスト法等が挙げられる。
押出製膜において押出温度は前記組成物の粘度の観点で100℃程度、混練時に未溶融
物が発生しないために水を45重量%以上含んでいることが好ましく、フィルムとしての
強度を有するために55重量%以下含んでいることが好ましい。
【0029】
2軸押出機のL/Dは、未溶融物のない混練のために25以上が好ましく、40以上が
さらに好ましい。また、水の過剰な蒸発を抑えるために100以下が好ましく、80以下
がさらに好ましい。
溶媒キャスト法において、溶液濃度は表面のみの乾燥を抑えるために2質量%以上が好
ましく、4質量%以上がさらに好ましい。また、表面の濃度ムラや厚みムラを抑えるため
に10質量%以下が好ましく、7質量%以下がさらに好ましい。
【0030】
なお本工程1で得られたフィルムは、フィルムの二軸延伸性の点で水を10重量%以上
含んでいることが好ましく、バリア性、強度、延伸性の点で40重量以下%含んでいるこ
とが好ましい。
前記フィルムに含まれる水の含有量は配合、予熱温度、ロール速度、厚みなどで調整で
きる。また、前記フィルムに含まれる水の含有量は乾燥重量法や赤外分光法などで確認で
きる。
【0031】
<工程2>
前記工程1で得られたフィルムは2軸延伸を行う。
2軸延伸は同時2軸延伸や逐次2軸延伸等の公知の方法で行えばよいが、成形加工性、
配向異方性の点で同時2軸延伸が好ましい。
逐次2軸延伸の方法で2軸延伸を行う場合、一軸目の延伸倍率が2~4倍、二軸目の延
伸倍率が2.5~5倍であることが好ましい。
【0032】
本願発明では、1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールAと前記ポリビニ
ルアルコールA以外のポリビニルアルコールBを、5:95~45:55の質量比率で含
むことにより、2軸延伸が可能となる。
また、得られたフィルムは延伸後に熱処理を行うことが、高湿雰囲気下での物性維持や
バリア性の点で好ましい。熱処理は延伸後のフィルムをオーブンで加熱する方法や、延伸
の後工程で行う方法等の公知の方法で行えばよく、150℃以上200℃以下の条件が好
ましい。150℃よりも低いとバリア性、強度が不十分なりやすく、200℃よりも高い
と熱分解が起き、強度の低下や着色など発生しやすくなる。
【0033】
<2軸延伸フィルム>
本発明の2軸延伸フィルムは、1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールA
と前記ポリビニルアルコールA以外のポリビニルアルコールBを、5:95~45:55
の質量比率で含む。
前記ポリビニルアルコールAの比率が5より少ないと、延伸性が不十分で2軸延伸が困
難となる。また、45より多いとフィルムのガラス転移温度が低くなり弾性率が下がるた
め、フィルムの製膜工程においてフィルム同士のブロッキングやロールへの巻き付きが起
こる。また、延伸時に破断が生じてしまう。
前記ポリビニルアルコールAは、下記式1で表される構造単位を含有するポリビニルア
ルコールが好ましい。
【0034】
【0035】
式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3のアルキル
基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R4、R5及びR6はそれぞれ独立して水素原
子または炭素数1~3のアルキル基を示す。
【0036】
前記Xは熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合が最も好ましいが
、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては
、アルキレン、アルケニレン、フェニレン、ナフチレンなどの炭化水素(これらの炭化水
素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、-O-、-(C
H2O)m-、-(OCH2)m-、-(CH2O)mCH2-、-CO-、-COCO
-、-CO(CH2)mCO-、-CO(C6H4)CO-、-S-、-CS-、-SO
-、-SO2-、-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-
、-NRNR-、-HPO4-、-Si(OR)2-、-OSi(OR)2-、-OSi
(OR)2O-、-Ti(OR)2-、-OTi(OR)2-、-OTi(OR)2O-
、-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-、等(Rは各々独立し
て任意の置換基であり、水素原子、またはアルキル基が好ましく、またmは自然数である
)を挙げることができる。
【0037】
中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレ
ン基、あるいは-CH2OCH2-が好ましい。
また、式1で表される1,2-ジオール構造単位中のR1~R3及びR4~R6がすべ
て水素原子であり、Xが単結合であるものが最も好ましく、下記式2で表される構造単位
を有するポリビニルアルコールがより好ましい。
【0038】
【0039】
また、前記ポリビニルアルコールA中の1,2-ジオール構造単位の含有量は、1~1
5モル%が好ましく、2~10モル%がより好ましく、3~9モル%がさらに好ましい。
含有量が低すぎると、延伸工程において破断を引き起こしやすく、高すぎると金属との
密着により、溶融成形時の流れ性やロールからの剥がれ性が低下しやすい。
前記ポリビニルアルコールAは公知の方法で製造でき、特に限定されないが、(i)ビ
ニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する
方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共
重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般
式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用
いられる。
【0040】
前記ポリビニルアルコールBは、1,2-ジオール構造を有していないポリビニルアル
コールである。ビニルポリマー側鎖の大半をヒドロキシ基が占有しているため、分子鎖間
に高い水素結合が作用されるため、分子鎖同士の相互作用が大きく、分子の運動性の抑制
あるいはフィルム中の自由体積の低下により、酸素をはじめとする気体の透過性を下げ、
高いバリア性を発現できる。また、PVAは生分解性を示し、土壌中に存在するPVA分
解菌によって分解が可能である。
【0041】
前記ポリビニルアルコールBのけん化度は90~99.99モル%が好ましく、95~
99.99モル%がより好ましく、98~99.9モル%がさらに好ましい。
前記ポリビニルアルコールBのけん化度はガスバリア性の点から95モル%以上が好ま
しく、98モル%以上がより好ましい。また成形性の点から99.99モル%以下が好ま
しく、99.9モル%以下がより好ましい。なお、前記けん化度はJIS K 6726
に準拠して測定することができる。
【0042】
前記ポリビニルアルコールBの平均重合度は、好ましくは500以上2600以下であ
りさらに好ましくは1000以上2000以下である。
平均重合度が高すぎると、溶融粘度や水への溶解性が低下し、押出が困難となる傾向が
あり、低すぎると、フィルムがもろくなる傾向がある。なお、前記平均重合度はJIS
K 6726に準拠して測定することができる。
【0043】
前記ポリビニルアルコールは特に限定されず公知の方法で製造できる。すなわち、ビニ
ルエステル系化合物を重合して得られたビニルエステル系重合体をけん化して得られるも
のである。
前記ビニルエステル系化合物としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビ
ニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサ
ティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が単独または併用で用い
られるが、実用上は酢酸ビニルが好適である。
【0044】
本発明の2軸延伸フィルムは、前記ポリビニルアルコールAと前記ポリビニルアルコー
ルB以外のポリマー、添加剤等のその他成分を含んでいてもよい。前記組成物中のその他
成分の含有量は、5質量%以下が好ましい。
その他成分としては、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑
剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、
架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、
酸素吸収剤等の公知の添加剤が挙げられる。なお、これら2種以上用いてもよい。
【0045】
また、本発明の2軸延伸フィルムのMD方向の引張強度は100MPa以上、350M
Pa以下が好ましく、150MPa以上、300MPa以下がさらに好ましい。製品とし
て高荷重に耐えうる強度が必要である点より100MPa以上が好ましく、ある程度の伸
びが必要である点より350MPa以下が好ましい。
TD方向の引張強度は、100MPa以上、350MPa以下が好ましく、150MP
a以上、300MPa以下がさらに好ましい。製品として高荷重に耐えうる強度が必要で
ある点より100MPa以上が好ましく、ある程度の伸びが必要である点より350MP
a以下が好ましい。
【0046】
本発明の2軸延伸フィルムの23℃、0%RHにおける酸素透過率は、食品包装フィル
ムなどバリアフィルムとして用いる場合、1cc/(m2・day・atm)以下が好ま
しく、0.5cc/(m2・day・atm)以下がより好ましい。酸素透過率は、ガス
バリアの観点からは、可能な限り低いものが好ましいが、フィルムの十分な二軸延伸性を
担保するために、0.01cc/(m2・day・atm)以上が好ましく、0.1cc
/(m2・day・atm)以上がより好ましい。
【0047】
本発明の2軸延伸フィルムは、1,2-ジオール構造を有するポリビニルアルコールA
と前記ポリビニルアルコールA以外のポリビニルアルコールBを、5:95~45:55
の質量比率で含む組成物を、公知の方法で製膜しフィルムとしたものを、2軸延伸するこ
とで得られる。
製膜方法は、例えば、2軸押出機で混練し口金を用いて押出製膜する方法、溶媒キャス
ト法が挙げられる。
2軸延伸は同時2軸延伸や逐次2軸延伸等の公知の方法で行えばよいが、成形加工性、
配向異方性の点で同時2軸延伸が好ましい。
【0048】
<用途>
本発明の2軸延伸フィルムは、食品包装フィルムや各種包装フィルムに使用できる。フ
ードロスの削減に向けて香気保持性や酸素バリア性の高いフィルムは、風味劣化の抑制や
食品賞味期限の延長に効果がある。また、モノマテリアルにて高バリア性、生分解性を示
すことから、リサイクルやサーキュラーエコノミーの観点からも各種包装材料への応用が
期待できる。
【実施例0049】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明の評価は以下の方法
によって行った。
【0050】
<引張強度、引張伸度>
延伸したフィルムを長さ80mm、幅15mmの大きさに切り出し、JISK7127
に準拠し、島津万能試験機オートグラフAG-Xplus((株)島津製作所製)を用い
て、引張速度100mm/minで、雰囲気温度23℃におけるフィルムの一軸目延伸方
向ならびに二軸目延伸方向の引張強度、引張伸度を測定し、3回の測定値の平均値を算出
した。
【0051】
<酸素透過率>
JIS K7126-2:2006に基づき、モダンコントロール社製のOXY-TR
AN100型酸素透過率測定装置を用いて、23℃、0%RHの雰囲気下において二軸
延伸フィルムの酸素透過度を測定した。
【0052】
(実施例1)
けん化度99.7モル%、重合度1200、1,2-ジオール構造として1,2-ブタ
ンジオールを6モル%含有したポリビニルアルコール(OKS-1009、三菱ケミカル
(株)製)(ポリビニルアルコールA)と、けん化度99.5モル%、重合度1200の
完全けん化ポリビニルアルコール(ゴーセノールNM-11Q、三菱ケミカル(株)製)
(ポリビニルアルコールB)を質量比にて10:90の割合で混合し、50重量%の水を
加えながら二軸押出機にて下記条件で溶融混練し、250mm幅の単層口金よりフィルム
を得た。フィルム厚はおよそ200μmであった。
【0053】
二軸押出機
・直径(D):15mm
・L/D:60
・スクリュー回転数:200rpm
・メッシュ:90/90mesh
・押出温度:100℃
得られたフィルムを、70℃にてMD方向に3倍ロール延伸、次いで80℃にてTD方
向に3倍テンター内延伸した。得られた二軸延伸フィルムを180℃で5分間熱処理した
。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0054】
(実施例2)
実施例1において、MD方向の延伸倍率が2倍である以外は実施例1と同様にして、フ
ィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0055】
(実施例3)
実施例1において、AとBの混合比率が20:80である以外は実施例1と同様にして
、フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、ポリビニルアルコールBのみを用いた以外は実施例1と同様にして
、2軸延伸を行った。2段目の延伸時に破断が起きやすく、連続してフィルムが得られな
かった。
【0057】
(比較例2)
けん化度99.7モル%、重合度1200、1,2-ジオール構造として1,2-ブタ
ンジオールを6モル%含有したポリビニルアルコール(OKS-1009、三菱ケミカル
(株)製)(ポリビニルアルコールA)と、けん化度99.5モル%、重合度1200の
完全けん化ポリビニルアルコール(ゴーセノールNM-11Q、三菱ケミカル(株)製)
(ポリビニルアルコールB)を質量比にて50:50の割合で混合し水溶液を調製した。
【0058】
ポリエチレンテレフタレートフィルムを基膜とし、シリコンラバーにて10cm角、に
隔てて、隔てた10cm四方の枠に調製した水溶液を30g注ぎ込んだ。その後、3から
4日間室温にて静置することで水を均一に蒸発させフィルムを作製した。
四軸固定の延伸装置を用いて、自立フィルムに対して70℃にて30秒間静置したのち
、10mm/sの速度で一軸目2倍、二軸目3倍の逐次2軸延伸を行った。
1段目の延伸時に破断が起こり、フィルムが得られなかった。
【0059】