(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132827
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】導電積層体
(51)【国際特許分類】
H05K 1/05 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
H05K1/05 B
H05K1/05 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023179854
(22)【出願日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2023041147
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】棚瀬 智和
【テーマコード(参考)】
5E315
【Fターム(参考)】
5E315AA07
5E315BB02
5E315BB03
5E315BB04
5E315BB07
5E315BB12
5E315BB14
5E315BB15
5E315BB16
5E315CC14
5E315DD15
5E315GG03
(57)【要約】
【課題】部分放電の発生を効果的に抑制することが可能な導電積層体を提供する。
【解決手段】導電積層体は、第1の導電層と、絶縁層と、第2の導電層と、をこの順に備え、次の(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす。(1)25℃~180℃において、前記第1の導電層又は前記第2の導電層の線膨張係数と、前記絶縁層の線膨張係数との差が10ppm/℃以下である。(2)前記第1の導電層及び前記第2の導電層の少なくとも一方と前記絶縁層との間に樹脂層を備え、25℃において前記樹脂層の貯蔵弾性率が前記絶縁層の貯蔵弾性率よりも低い。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電層と、絶縁層と、第2の導電層と、をこの順に備え、下記(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす導電積層体。
(1) 25℃~180℃において、前記第1の導電層又は前記第2の導電層の線膨張係数と、前記絶縁層の線膨張係数との差が10ppm/℃以下である。
(2) 前記第1の導電層及び前記第2の導電層の少なくとも一方と前記絶縁層との間に樹脂層を備え、25℃において前記樹脂層の貯蔵弾性率が前記絶縁層の貯蔵弾性率よりも低い。
【請求項2】
前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記第1の導電層及び前記第2の導電層の少なくとも一方において、前記第1の導電層と前記第2の導電層とが対向する面の全面に前記樹脂層が設けられる、請求項1に記載の導電積層体。
【請求項3】
前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記第1の導電層及び前記第2の導電層の少なくとも一方において、前記第1の導電層と前記第2の導電層とが対向する面の一部に前記樹脂層が設けられる、請求項1に記載の導電積層体。
【請求項4】
前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記樹脂層を形成する樹脂を注入するゲート、及びエアベントの位置に対応する部分の近傍に前記樹脂層が設けられる、請求項3に記載の導電積層体。
【請求項5】
前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記第1の導電層又は前記第2の導電層の剛性が低い部分に前記樹脂層が設けられる、請求項3に記載の導電積層体。
【請求項6】
前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記第1の導電層及び前記第2の導電層の双方において、前記第1の導電層と前記第2の導電層とが対向する面の全面に前記樹脂層が設けられる、請求項1に記載の導電積層体。
【請求項7】
前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記第1の導電層及び前記第2の導電層の双方において、前記絶縁層に接する全ての領域に前記樹脂層が設けられる、請求項1に記載の導電積層体。
【請求項8】
前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記樹脂層の平均厚さが100μm以下である、請求項1に記載の導電積層体。
【請求項9】
前記絶縁層の平均厚さが1mm以下である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の導電積層体。
【請求項10】
前記第1の導電層の周端が前記第2の導電層の周端よりも内側にある領域を有し、前記領域において前記第1の導電層の端面は前記絶縁層で覆われ、前記領域における前記第1の導電層の端面から面方向に外側に延びる前記絶縁層の端部までの距離が0.1mm以上である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の導電積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド電気自動車等においては、従来のエンジンに加えて電気駆動システムが搭載されている。この電気駆動システムでは、バッテリから供給される直流電力をインバータ装置によって交流電力に変換し、モーター等に電力供給している。
【0003】
インバータ装置は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子を含むスイッチングモジュールと、スイッチング素子を制御するスイッチング制御回路と、バッテリからスイッチング素子に供給される直流電力を平滑化する平滑用コンデンサを備え、さらにスイッチングモジュールと平滑用コンデンサとを電気的に接続する一対の導電層を備える。
【0004】
ハイブリッド電気自動車等のインバータ装置はIGBT等のスイッチング素子により高速のオンオフ制御を行うが、回路基板及び配線のインダクタンスが大きいと、スイッチング素子のオンオフの際にサージ電圧が発生し、スイッチング素子の誤作動、破損等を引き起こすことがあるため、サージ電圧の低減によるスイッチング素子の誤作動及び破損防止が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1では、高誘電体を一対のバスバー間に介在させることにより、スナバ回路となるコンデンサを構成している。このスナバ回路を設けることにより、スイッチング動作時にスイッチング素子に印加されるサージ電圧が吸収され、スイッチング素子の破壊が抑制できるとされている。
また、特許文献2には、一対のバスバー間に高誘電体を介在させるためのコンデンサ一体バスバーの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-319665号公報
【特許文献2】特許第4905254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インダクタンスの低減には、配線となる一対の導電層間の距離(ギャップ)を短くすることが有効である。しかしながら、狭ギャップ化すると導電層間に配置される絶縁層の充填が不均一となりやすく、形成方法及び材質に工夫が必要となる。このような設計変更によって導電層と絶縁層との密着性が低くなり、導電層と絶縁層との間で剥離が発生じやすくなり、高電圧印加の際に、部分放電の原因となる場合がある。部分放電が発生すると、時間の経過とともに絶縁層が徐々に劣化し、最終的に絶縁破壊に至ることがあり、配線の長寿命化及び高耐久化の観点からは、部分放電の発生を防止することが重要である。
【0008】
そこで、本開示は、部分放電の発生を効果的に抑制することが可能な導電積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の導電積層体は以下の形態を含む。
<1> 第1の導電層と、絶縁層と、第2の導電層と、をこの順に備え、下記(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす導電積層体。
(1) 25℃~180℃において、前記第1の導電層又は前記第2の導電層の線膨張係数と、前記絶縁層の線膨張係数との差が10ppm/℃以下である。
(2) 前記第1の導電層及び前記第2の導電層の少なくとも一方と前記絶縁層との間に樹脂層を備え、25℃において前記樹脂層の貯蔵弾性率が前記絶縁層の貯蔵弾性率よりも低い。
<2> 前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記第1の導電層及び前記第2の導電層の少なくとも一方において、前記第1の導電層と前記第2の導電層とが対向する面の全面に前記樹脂層が設けられる、<1>に記載の導電積層体。
<3> 前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記第1の導電層及び前記第2の導電層の少なくとも一方において、前記第1の導電層と前記第2の導電層とが対向する面の一部に前記樹脂層が設けられる、<1>に記載の導電積層体。
<4> 前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記樹脂層を形成する樹脂を注入するゲート、及びエアベントの位置に対応する部分の近傍に前記樹脂層が設けられる、<3>に記載の導電積層体。
<5> 前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記第1の導電層又は前記第2の導電層の剛性が低い部分に前記樹脂層が設けられる、<3>に記載の導電積層体。
<6> 前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記第1の導電層及び前記第2の導電層の双方において、前記第1の導電層と前記第2の導電層とが対向する面の全面に前記樹脂層が設けられる、<1>に記載の導電積層体。
<7> 前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記第1の導電層及び前記第2の導電層の双方において、前記絶縁層に接する全ての領域に前記樹脂層が設けられる、<1>に記載の導電積層体。
<8> 前記導電積層体が前記樹脂層を備え、前記樹脂層の平均厚さが100μm以下である、<1>に記載の導電積層体。
<9> 前記絶縁層の平均厚さが1mm以下である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の導電積層体。
<10> 前記第1の導電層の周端が前記第2の導電層の周端よりも内側にある領域を有し、前記領域において前記第1の導電層の端面は前記絶縁層で覆われ、前記領域における前記第1の導電層の端面から面方向に外側に延びる前記絶縁層の端部までの距離が0.1mm以上である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の導電積層体。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、部分放電の発生を効果的に抑制することが可能な導電積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態における導電積層体の一例の断面概略図である。
【
図2】第2の実施形態における導電積層体の一例の断面概略図を示す。
【
図3】第2の実施形態における導電積層体の他の一例の断面概略図である。
【
図4】第2の実施形態における導電積層体の他の一例の断面概略図である。
【
図5】第2の実施形態における導電積層体の他の一例の断面概略図である。
【
図6】導電積層体の一例における所定の端部を含む一部分の概略平面図である。
【
図10】比較例1の絶縁特性の結果を示す図である。
【
図11】耐リフロー試験での温度プロファイルを示す図である。
【
図12】耐リフロー試験後の実施例3の絶縁特性の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実
施形態に限定されない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明表した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0013】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい
また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において図面を参照して実施形態を説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。各図において、同一又は相当箇所については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
本開示において、樹脂を含む材料の貯蔵弾性率、線膨張係数及びガラス転移温度は、次のようにして測定される。
短辺3mm、長辺25mm、厚さ1mmの測定サンプルを作製する。測定サンプルに対し、試験モード:引張モード、測定温度:25℃~300℃、昇温速度:5℃/分、試験周波数:10Hzの条件で動的粘弾性測定を実施し、得られたチャート(縦軸:tanδ、横軸:温度)から25℃での貯蔵粘弾性の値を求める。
また、上記チャートから、tanδが最大となる温度をガラス転移温度として求める。
さらに、上記温度範囲における測定サンプルの長さの変化(線膨張係数)を測定し、ガラス転移温度より低い測定温度範囲における線膨張係数をCTE1とし、ガラス転移温度より高い測定温度範囲における線膨張係数をCTE2とする。
本開示において、金属の線膨張係数は、金属データブック等のデータベースの値を採用できる。
【0015】
本開示において、曲げ強度は、次のようにして測定される。
2mm×5mm×40mmの直方体を測定用サンプルとして作製する。この測定サンプルを用いて、テンシロン万能材料試験機(例えば、インストロン5948、インストロン社)で支点間距離32mm、クロスヘッド速度1mm/minの条件で曲げ試験を行う。測定した結果を用いて、式(A)から曲げ応力-変位カーブを作成し、その最大応力を曲げ強度とする。
【0016】
σ=3FL/2bh2 ・・・ 式(A)
【0017】
σ:曲げ応力(MPa)
F:曲げ荷重(N)
L:支点間距離(mm)
b:試験片幅(mm)
h:試験片厚さ(mm)
【0018】
本開示において、比較トラッキング指数(CTI:Comparative Tracking Index)は次のように求められる。
幅5mm、厚さ2mm、先端角30°の2本の白金電極をサンプル表面に1Nの荷重で4mmの間隔で置き、電極間に電圧を印加する。電圧を印加したまま、電極間に塩化アンモニウム等の電解液を滴下し、トラッキング破壊が発生するまでに電解液が何滴滴下したかを測定する。一つの電圧毎にn=5の試験片で測定を繰り返し、全て50滴以上であれば、印加した電圧を合格とし、25V刻みで電圧を上げて測定を繰り返す。トラッキング破壊が発生しない最大電圧をCTIとして求める。
【0019】
本開示において、体積抵抗率は次のようにして測定される。
一辺の長さが15mmの正四角形の測定サンプルを作製する。測定サンプルの中心に高精度抵抗率計(例えば、ロレスタ-GP、株式会社三菱ケミカルアナリテック)の4探針を押し当てる。得られた表面抵抗率と膜厚とから、体積抵抗率ρ(Ω・cm)を求める。各サンプルあたり5つの測定値の算術平均値を体積抵抗率とする。
【0020】
本開示において、1MHzでの比誘電率は次のようにして測定される。
縦90mm、横0.6mm、厚さ0.8mmの測定サンプルを作製する。この測定サンプルについて、空洞共振器(例えば、株式会社関東電子応用開発)及びネットワーク・アナライザー(例えば、キーサイトテクノロジー社、品名「PNA E8364B」)を用いて、温度25±3℃下、1MHzでの比誘電率を測定する。
【0021】
本開示において、5%熱分解温度は次のようにして測定される。
一辺2mm四方、厚さ1mmのサイズの測定サンプルを作製する。熱重量天秤(例えば、TG-DTA6300、(株)日立ハイテク)を用いて、測定サンプルの重量減少を測定する。加熱により質量が5%減少したときの温度を測定する。
【0022】
本開示において、絶縁破壊電圧は次のようにして測定される。
直径が50mm、厚み1mmの円盤型の測定サンプルを作製する。測定サンプルについて、絶縁破壊試験機(例えば、ヤマヨ試験器製YST-243-100RHO)を用いて、昇圧速度500V/s、室温(25℃)、フロリナート(住友3M製、FC-40)中にて測定し、絶縁破壊を生じた電圧(絶縁破壊電圧)を求める。測定点は20点とする。絶縁破壊電圧を測定サンプルの厚さで除して求める。
【0023】
本開示において、厚さはマイクロメーター等を用いて測定することができる。本開示において、層の厚さを直接測定可能な場合には、マイクロメーターを用いて測定する。一方、1つの層の厚さ又は複数の層の総厚みを測定する場合には、電子顕微鏡を用いて、測定対象の断面を観察することで測定してもよい。
本開示において、長さ(距離)は、マイクロメーターを用いて測定する。
【0024】
[導電積層体]
本開示の導電積層体は、第1の導電層と、絶縁層と、第2の導電層と、をこの順に備え、下記(1)及び(2)の少なくとも一方を満たす。
(1) 25℃~180℃において、前記第1の導電層又は前記第2の導電層の線膨張係数と、前記絶縁層の線膨張係数との差が10ppm/℃以下である。
(2) 前記第1の導電層及び前記第2の導電層の少なくとも一方と前記絶縁層との間に樹脂層を備え、25℃において前記樹脂層の貯蔵弾性率が前記絶縁層の貯蔵弾性率よりも低い。
【0025】
(1)を満たす第1の実施形態の導電積層体において、第1の導電層及び第2の導電層
の少なくとも一方と絶縁層との間に樹脂層を備えてもよく、この場合、樹脂層の貯蔵弾性率が絶縁層の貯蔵弾性率よりも低いことが好ましい。
【0026】
第1の実施形態の導電積層体では、25℃~180℃において、第1の導電層又は第2の導電層の線膨張係数と、絶縁層の線膨張係数との差(以下「差D」ともいう)が10ppm/℃以下であることから、第1の導電層及び第2の導電層の通電及び停止、並びに環境温度の上昇及び下降の繰り返しにより、導電積層体の温度の上昇及び降下が繰り返されても、第1の導電層及び第2の導電層の膨張及び収縮に絶縁層が追従できる。結果、第1の導電層又は第2の導電層と絶縁層と間での剥離の発生が抑制され、部分放電の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0027】
また、絶縁層をトランスファー成形で作製する場合、絶縁層を形成する樹脂を加熱して溶融し、第1の導電層と第2の導電層との隙間に注入された後に樹脂が硬化するため、第1の導電層、第2の導電層、及び絶縁層は、樹脂の溶融温度である175℃~180℃程度にまで加熱される。次いで、導電積層体の取り出しのために室温まで冷却され、この冷却の際に第1の導電層及び第2の導電層と絶縁層とが剥離しやすい。さらに、樹脂硬化を完全に進行させるために175℃~180℃程度でアフタキュアする際の温度上昇、及び温度下降の際にも、第1の導電層及び第2の導電層と絶縁層とが剥離しやすい。
しかしながら、第1の実施形態の導電積層体は、トランスファー成形の際の加熱及び冷却による第1の導電層及び第2の導電層の膨張及び収縮に絶縁層が追従できる。結果、絶縁層をトランスファー成形で作製した場合でも、第1の導電層又は第2の導電層と絶縁層との剥離が抑制され、部分放電の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0028】
(2)を満たす第2の実施形態の導電積層体では、第1の導電層及び第2の導電層の少なくとも一方と絶縁層との間に樹脂層を備え、25℃において樹脂層の貯蔵弾性率が絶縁層の貯蔵弾性率よりも低いことにより、変形応力が発生した際に樹脂層によってその変形応力が緩和され、第1の導電層又は第2の導電層と絶縁層との剥離が抑制される。結果、部分放電の発生を効果的に抑制することが可能となる。
また、絶縁層がボイドを含んでいても、絶縁層と第1の導電層又は第2の導電層との間に樹脂層を介在させることで、第1の導電層から前記第2の導電層までを貫通する空隙(ボイド)が存在しなくなる。これによりボイドに起因する短絡が抑えられる。
【0029】
第2の実施形態の導電積層体は、絶縁層をトランスファー成形で作製した場合でも、加熱及び冷却に伴う変形応力が樹脂層で緩和されるため、第1の導電層又は第2の導電層と絶縁層との剥離が抑制され、部分放電の発生を効果的に抑制することが可能となる。
【0030】
図1に、第1の実施形態における導電積層体の一例の断面概略図を示す。
第1の導電層10と第2の導電層12とが対向して設けられ、第1の導電層10と第2の導電層12との間隙に絶縁層20が設けられている。
図1では、絶縁層20は無機フィラー22を含有しているが、絶縁層20は無機フィラー22を含有しなくてもよい。
【0031】
第1の実施形態の導電積層体は、25℃~180℃において、第1の導電層10又は第2の導電層12の線膨張係数と、絶縁層20の線膨張係数との差Dが10ppm/℃以下であり、5ppm/℃以下であることが好ましく、2ppm/℃以下であることがより好ましい。
なお、絶縁層20のガラス転移温度が180℃よりも低い場合には、差Dは、25℃~180℃における第1の導電層10又は第2の導電層12の線膨張係数と、絶縁層20の線膨張係数CTE2との差となる。
また、絶縁層20のガラス転移温度が180℃以上の場合には、差Dは、25℃~180℃における第1の導電層10又は第2の導電層12の線膨張係数と、絶縁層20の線膨
張係数CTE1との差となる。
【0032】
絶縁層20の線膨張係数CTE1は、0ppm/℃~30ppm/℃であることが好ましく、10ppm/℃~25ppm/℃であることがより好ましい。
【0033】
トランスファー成形する場合に第1の導電層10及び第2の導電層12と絶縁層との間での剥離の発生を抑える観点から、絶縁層20の線膨張係数CTE2は、30ppm/℃~60ppm/℃であることが好ましい。
【0034】
第1の導電層10及び第2の導電層12の線膨張係数は、25℃~180℃において、各々独立に、0ppm/℃~30ppm/℃であることが好ましく、10ppm/℃~25ppm/℃であることがより好ましい。
【0035】
本開示の第1の導電積層体では部分放電の発生が抑制されることから、第1の導電層10と第2の導電層12との対向する間隔を短くすることが可能であり、導電積層体のコンパクト化を図りつつインダクタンスの低減を図ることができる。
【0036】
図2に、第2の実施形態における導電積層体の一例の断面概略図を示す。
図2では、第1の導電層10と第2の導電層12とが対向して設けられ、第1の導電層10と絶縁層20との間に樹脂層30を備える。
図2では、絶縁層20は無機フィラー22を含有しているが、絶縁層20は無機フィラー22を含有しなくてもよい。第2の実施形態を示す以降の図面も同様に、絶縁層20は無機フィラー22を含有しているが、絶縁層20は無機フィラー22を含有しなくてもよい。
図2では、第1の導電層10における第2の導電層12に対向する面の全面に樹脂層30が設けられているが、第2の導電層12における第1の導電層10に対向する面の全面に樹脂層30が設けられてもよい。
【0037】
第2の実施形態の導電積層体において、25℃において樹脂層30の貯蔵弾性率は、絶縁層20の貯蔵弾性率よりも低く、剥離の発生をより抑制する観点から、絶縁層20の貯蔵弾性率よりも1GPa以上低いことが好ましく、5GPa以上低いことがより好ましく、10GPa以上低いことがさらに好ましい。
【0038】
25℃における樹脂層30の貯蔵弾性率は、例えば、1GPa~5GPaであることが好ましく、1GPa以下であってもよく、5GPa以上であってもよい。
25℃における絶縁層20の貯蔵弾性率は、例えば、5GPa~15GPaであることが好ましく、5GPa以下であってもよく、15GPa以上であってもよい。
【0039】
樹脂層30の平均厚さは、接着強度の観点から、0.01μm~100μmであることが好ましく、1μm~20μmであることがより好ましい。
【0040】
樹脂層30の線膨張係数CTE1は、50ppm/℃~100ppm/℃であることが好ましく、50ppm/℃以下であってもよく、100ppm/℃以上であってもよい。
【0041】
樹脂層30のガラス転移温度は、製造時の許容温度を広げる観点から、絶縁層20のガラス転移温度よりも高いことが好ましい。樹脂層30のガラス転移温度は、例えば、180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、220℃以上であることがさらに好ましい。また、鉛フリーはんだ接合、焼結金属接合で必要な高温での耐リフロー性を高める観点からは、樹脂層30のガラス転移温度は、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、320℃以上であることがさらに好ましい。
なお、樹脂層30のガラス転移温度は、180℃以下であってもよい。
【0042】
製造時の許容温度を広げる観点から、樹脂層30のガラス転移温度と、絶縁層20のガ
ラス転移温度との差は、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましい。なお、樹脂層30のガラス転移温度と、絶縁層20のガラス転移温度との差は、5℃以下であってもよい。
【0043】
樹脂層30の5%熱分解温度は、耐熱性の観点から、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることがさらに好ましい。なお、樹脂層30の5%熱分解温度は、300℃以下であってもよい。
【0044】
樹脂層30の絶縁破壊電圧は、50kV/mm~500kV/mmであることが好ましく、200kV/mm~400kV/mmであることがより好ましい。
【0045】
樹脂層30の材質としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0046】
第2の実施形態の導電積層体では、第1の実施形態における好適な態様を適宜適用してもよい。
【0047】
図3は、第2の実施形態における導電積層体の他の一例の断面概略図である。
図3では、樹脂層30は、第1の導電層10における第2の導電層12に対向する面の一部に設けられているが、第2の導電層12における第1の導電層10に対向する面の一部に設けられてもよい。
【0048】
第1の導電層10又は第2の導電層12の一部に樹脂層30が設けられる場合、樹脂層30の配置位置は特に限定されない。
例えば、樹脂層30を形成する樹脂を注入するゲート、及びエアベントの位置に対応する部分の近傍に樹脂層30を設けてもよい。ゲート及びエアベントの近傍は、第1の導電層10又は第2の導電層12と絶縁層20とが剥離しやすいため、ここに樹脂層30を設けることで剥離を効果的に抑制できる。導電積層体においてゲート、及びエアベントの位置に対応する部分には、絶縁層の外側に絶縁層の成分で構成される薄膜、突起等が形成されている場合があり、これによりこれらの位置を確認することも可能である。
また、樹脂層30は、第1の導電層10又は第2の導電層12の剛性が低い部分に設けてもよい。例えば、第1の導電層10又は第2の導電層12の厚さが部分的に薄くなっている箇所は剛性が低く、このような箇所は変形して応力が掛かりやすく、第1の導電層10又は第2の導電層12と絶縁層20とが剥離しやすい。そこで、第1の導電層10又は第2の導電層12の剛性が低い部分に樹脂層30を設けることで剥離を効果的に抑制できる。
【0049】
図4は、第2の実施形態における導電積層体の他の一例の断面概略図である。
図4では、第1の導電層10及び第2の導電層12の双方において、第1の導電層10と第2の導電層12とが対向する面の全面に樹脂層30が設けられている。
【0050】
図5は、第2の実施形態における導電積層体の他の一例の断面概略図である。
図5では、第1の導電層10及び第2の導電層12の双方において、絶縁層20に接する全ての領域に樹脂層30が設けられている。
【0051】
以降では、第1の実施形態の導電積層体及び第2の実施形態の導電積層体の双方に適用し得る事項を説明する。
【0052】
第1の導電層10及び第2の導電層12は、金属板であってもよい。金属板の材質としては、銅、表面をニッケルメッキした銅、アルミニウム、銅に鉄、マグネシウム等を微量
含む銅合金、アルミニウムにマグネシウム、ケイ素等を微量含むアルミニウム合金などが挙げられるが、特に限定されない。金属板は平板であり、部分的に屈曲部を有していてもよい。所定の端部における金属板の端部は、厚み方向において傾斜していてもよい。
【0053】
第1の導電層10及び第2の導電層12は一対のバスバーであってもよい。第1の導電層はPバスバーであってもNバスバーであってもよく、その対となる第2の導電層は第1の導電層とは逆のNバスバーであってもPバスバーであってもよい。その場合、第1の導電層と第2の導電層の電流は逆方向に流れる為に磁界が打ち消し合い、インダクタンスが低減する。
【0054】
第1の導電層10及び第2の導電層12の厚さは、各々独立に、0.1mm~10mmであることが好ましく、0.3mm~5mmであることがより好ましく、0.7mm~2mmであることがさらに好ましい。
【0055】
絶縁層20のガラス転移温度は、剥離防止と耐熱性の観点から、120℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましい。絶縁層20のガラス転移温度の上限値は特に制限はなく、120℃以下であってもよい。
【0056】
絶縁層20の曲げ強度は、耐熱性の観点から、80MPa~170MPaであることが好ましく、90MPa~130Paであることがより好ましい。
【0057】
絶縁層20の比較トラッキング指数(CTI)は、400V以上であることが好ましく、600V以上であることがより好ましい。
【0058】
絶縁層20の体積抵抗率は、室温(25℃)にて、1×1015Ω・cm以上であることが好ましく、1×1016Ω・cm以上であることがより好ましく、4×1016Ω・cm以上であることがさらに好ましい。なお、絶縁層20の体積抵抗率は、1×1015Ω・cm以下であってもよい。
【0059】
絶縁層20の1MHzでの比誘電率は、3.0~4.0であることが好ましいが、特に制限はない。
【0060】
絶縁層20は絶縁性を有すればいずれでもよく、樹脂を含むことが好ましい。樹脂は熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。耐熱性を高める観点からは熱硬化性樹脂であることが好ましい。樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂等が挙げられる。樹脂としては、線膨張係数が第1の導電層10及び第2の導電層12の線膨張係数になるべく近くなるように選定することが好ましい。
【0061】
絶縁層20は、無機フィラー、織布又は不織布等を含んでもよい。絶縁層20が無機フィラー、織布又は不織布等を含むことで強度が上昇する。織布及び不織布は、無機材料で構成されていても有機材料で構成されていてもよい。絶縁層20が無機フィラー、無機の織布又は無機の不織布を含む場合、絶縁層20の線膨張係数を第1の導電層10及び第2の導電層12の線膨張係数に近づけることが可能となる。
【0062】
無機フィラーはいずれであってもよく、シリカフィラー、アルミナフィラー等が挙げられる。織布又は不織布としてはガラス繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維等を含む不織布が挙げられる。これらは各種樹脂を含浸させた
プリプレグとして用いることもできる。
【0063】
絶縁層20が無機フィラーを含有する場合、絶縁層20中の無機フィラーの占める割合は、50体積%~80体積%が好ましいが、特に制限はない。
【0064】
絶縁層20の平均厚さHは、第1の導電層10及び第2の導電層12の厚さよりも薄いことが好ましい。平均厚さHを抑えることで、第1の導電層10及び第2の導電層12で逆方向の電流が流れた際に、磁界の打ち消し効果により配線インダクタンスを低減させる効果が得られる。また、全体としての厚さを抑えてコンパクト化を図ることもできる。
絶縁層20の平均厚さHは、1.5mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましく、0.3mm以下であることがさらに好ましい。また、絶縁層20の平均厚さHは、0.1mm以上であることが好ましい。
【0065】
図1~
図5では、第1の導電層10は、第2の導電層12よりも短く、第1の導電層10の端面が絶縁層20で覆われているが、第2の実施形態の導電積層体は、このような端部を有するものに限定されない。
【0066】
図1~
図5では、第1の導電層10は、第2の導電層12よりも短く、第1の導電層10の端面が絶縁層20で覆われている。このような端部を有する導電積層体の一例について、当該端部を含む部分的な概略平面図を
図6に示す。
【0067】
図6に示されるように、第1の導電層10側から見た平面図において、第1の導電層10の周端が第2の導電層12の周端よりも内側にある領域を有し、この領域において第1の導電層10の端面は絶縁層20で覆われ、部分的に第1の導電層10と絶縁層20とが開口している。この開口部は、第2の導電層12と平滑用コンデンサ等の給電素子、IGBT等のスイッチング素子との間でワイヤボンディング、リボンボンディング等の超音波接合、スポット溶接、レーザー溶接、TIG溶接、はんだ接合、焼結金属接合等の金属接続を行うことが可能な領域(「配線接続領域」ともいう)となる。配線接続領域を設けることで、第1の導電層10と第2の導電層12とは同じ面側から(
図6の場合には第1の導電層10側の上面から)配線接続することが可能となる。
図1~5は、
図6のA-A断面図に相当する。
【0068】
開口部では第1の導電層10の端部は絶縁層20で覆われているため、第1の導電層10側から見た
図6の平面図では、下層の絶縁層20が縁取り状に見えている。
部分放電が多く発生する第1の導電層10の端面を絶縁層20で覆うことにより、部分放電の発生が効果的に抑制される。
【0069】
図1~
図5では、第1の導電層10の端部が開口部を有しつつ絶縁層20で被覆され、第2の導電層12がその開口部から配線接続可能な形態を示しているが、第1の導電層10と第2の導電層12とを入れ替えた構成であってもよい。
また、配線接続領域における第2の導電層12の端部から絶縁層の端部までの間隔S及び幅Tは、ワイヤボンディング、リボンボンディング等の数により設計可能であるため、特に限定されない。
【0070】
また、
図1~
図5では、所定の端部を図示しているが、他の端部においても同様の構成を有していてもよい。あるいは、他の端部では、第1の導電層10と第2の導電層12とが入れ替えた構成であってもよい。つまり、所定の端部では第1の導電層10の端部が開口部を有しているため、第1の導電層10及び第2の導電層12がともに第1の導電層10側の面(
図6では上面側)から配線接続され、他の端部では第2の導電層12の端部が開口部を有して第2の導電層10側の面(
図6では下面側)から第1の導電層10及び第2の導電層12がともに配線接続されてもよい。
【0071】
第1の導電層10が第2の導電層12よりも短く、第1の導電層10の端面が絶縁層20で覆われる場合、第1の導電層10の端面から面方向に外側に延びる絶縁層20の端部までの距離Aは、0.1mm以上であることが好ましい。また、コンパクト化の観点からは距離Aはなるべく短いことが好ましく、例えば、10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることがさらに好ましく、3mm以下であることが特に好ましく、1.5mm以下であることが極めて好ましく、1mm以下であることが最も好ましい。
【0072】
所定の端部における絶縁層20の端部は、厚み方向において傾斜していてもよく、傾斜していなくてもよい。絶縁層20の端部が厚み方向において5°~10°傾斜していると、絶縁層をトランスファー成形等により作製した場合、導電積層体を金型から分離し易くなる。
【0073】
本開示の導電積層体は、層間での剥離の発生が抑制されることから、面積が大きな導電積層体にも好適に適用できる。例えば、厚み方向から見たときの面積において、第1の導電層と絶縁層と第2の導電層とが積層している領域の総面積は、3200mm2以上とすることも可能である。本開示の導電積層体は、上記の総面積が3200mm2未満であってもよい。
【0074】
<バスバーの製造方法>
バスバーの製造方法は特に制限されず、圧縮成形、トランスファー成形等の方法が挙げられる。トランスファー成形では、第1の導電層10及び第2の導電層12を構成する2枚の金属板の間に樹脂を注入する。圧縮成形では樹脂板を予め準備し、第1の導電層10及び第2の導電層12を構成する2枚の金属板の間に樹脂板を配置し、加熱圧着する。
【0075】
第2の実施形態の導電積層体をトランスファー成形により作製する場合には、予め、第1の導電層10及び第2の導電層12となる2枚の金属板のそれぞれに樹脂層30を形成し、それぞれの樹脂層30が対向するように金属板を配置し、この間隙に樹脂材料を注入し絶縁層20を形成する。
【0076】
また、第2の実施形態の導電積層体を圧縮成形により作製する場合には、予め、第1の導電層10及び第2の導電層12となる2枚の金属板の少なくとも一方に樹脂層30を形成し、また、絶縁層となる樹脂板を準備する。そして、樹脂板の両面に金属板の樹脂層30が接するように金属板を配置する。この状態で金属板の外側から加圧し、且つ加熱して樹脂板の両表面を溶融させる。
【実施例0077】
以下、本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
実施例1及び比較例1は
図1に示すように樹脂層を設けない構成とし、実施例2は
図5に示すように第1の導電層10及び第2の導電層12の双方において、絶縁層20に接する全ての領域に樹脂層30を設ける構成とした。また、実施例3は
図4に示すように第1の導電層10の第2の導電層12に対向する面、及び第2の導電層12の絶縁層20に接する全ての領域に、樹脂層30を設ける構成とした。
実施例1~3及び比較例1では、第1の導電層及び第2の導電層として厚さ1mmの銅板(線膨張係数:16ppm/℃)を用い、2枚の銅板の間隔を0.2mmとした。実施例1~3及び比較例1では、厚み方向から見たときの面積として、第1の導電層10と絶縁層20と第2の導電層12とが積層されている領域の総面積を、3200mm
2とした。
【0079】
絶縁層は、実施例1及び実施例3では表1の物性値を有する封止材、実施例2では表2の物性値を有する封止材を用い、比較例では表3の物性値を有する封止材を用いた。実施例1~3、比較例1共にトランスファー成形により成型温度180℃で導電積層体を作製した。いずれの封止材も無機フィラーを含有する。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
実施例2では、樹脂層として表4の物性値を有する樹脂を用いた。樹脂層は、トランスファー成形前に、予め銅板上に上記樹脂を溶解した塗布液を塗布し、窒素雰囲気下、210℃、1時間で加熱、乾燥することにより、
図5に示すように、銅板において絶縁層20に接する全ての領域に平均厚み10μmの樹脂層を形成した。
【0084】
【0085】
実施例3では、樹脂層として表5の物性値を有する樹脂を用いた。樹脂層は、トランスファー成形前に、予め銅板上に上記樹脂を溶解した塗布液を塗布し、80℃で1時間乾燥した後、窒素雰囲気下、210℃、1時間で加熱、乾燥することにより、
図4に示す領域に平均厚み10μmの樹脂層を形成した。
【0086】
【0087】
導電積層体にサージ電圧に相当する高電圧を印加した場合の絶縁特性を評価した。具体的には、第1の導電層及び第2の導電層に交流電圧(60Hz)を最大4kV印加し、放電電荷を計測した。絶縁特性について、実施例1の結果を
図7に、実施例2の結果を
図8に、実施例3の結果を
図9に、比較例1の結果を
図10に示す。
2pC(ピコクーロン)以下の放電電荷はバックグランドノイズの影響のため、部分放電が起こっていないと判断した。
【0088】
実施例1~3では、それぞれ
図7~
図9に示されるように、部分放電が発生しなかった。一方、比較例1では、
図10に示されるように、2.5kV~3.0kVで放電電荷が10pC以上に増加し、部分放電が発生した。
また、上記絶縁特性を測定後、各サンプルの第1の導電層と絶縁層の界面、第2の導電層と絶縁層の界面の剥離状態を超音波探傷試験により観察した結果、実施例1~3では剥離が見られなかったのに対し、比較例1では剥離が見られた。
【0089】
実施例1では、25℃~180℃において、封止材の線膨張係数が17ppm/℃であり銅板の線膨張係数との差は1ppm/℃であるため、180℃で成型した後の冷却過程
において変形応力が小さいため、剥離が抑制され、部分放電が発生しないと考えられる。
それに対して比較例1では、180℃で成型した後の冷却過程において、180℃から封止材のガラス転移温度である120℃までは、封止材の線膨張係数は40ppm/℃である。この温度範囲では、銅板と封止材の線膨張係数の差が24ppm/℃と大きいために変形応力が大きくなり、銅板と封止材の間で剥離が発生し、部分放電が増加したと考えられる。
【0090】
また、実施例2では、180℃成型後の冷却過程において、180℃から封止材のガラス転移温度である118℃までは、封止材の線膨張係数は42ppm/℃である。この温度範囲では、銅板と封止材の線膨張係数の差が26ppm/℃と大きいが、銅板と封止材の間に弾性率が2.6GPaと低く、厚みが10μmの樹脂層が存在することにより変形応力が緩和されるため、剥離及び部分放電が発生しないと考えられる。
【0091】
実施例3は、実施例1と同様に、25℃~180℃において、封止材の線膨張係数が17ppm/℃であり銅板の線膨張係数との差は1ppm/℃であり、且つ、銅板と封止材の間に弾性率が3.3GPaと低く、厚みが10μmの樹脂層が存在することにより変形応力が小さくなるため、剥離及び部分放電が発生しないと考えられる。
【0092】
実施例3の導電積層体に対しては、さらに耐リフロー試験を行った。卓上のはんだリフロー装置(日精株式会社製、型番:RSS-210-S)を用い、窒素ガス雰囲気で、導電積層体を
図11の温度プロファイルで加熱した後に絶縁特性を評価し、加熱前後に絶縁特性が変化するか調べた。
図12に加熱後の絶縁特性の結果を示す。
図12に示されるように、部分放電は発生しなかった。実施例3の導電積層体は、ガラス転移温度が340℃と高い樹脂層が存在するために260℃のリフロー工程においても変形応力が緩和され、剥離及び部分放電が発生しないと考えられる。