(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132852
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体を吐出する装置、及び、液体充填方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240920BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240920BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 603
B41J2/14
B41J2/18
B41J2/14 613
B41J2/175 131
B41J2/14 201
B41J2/14 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023207135
(22)【出願日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2023040599
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EC64
2C056KB16
2C057AG30
2C057AG33
2C057AG44
2C057AG46
2C057AG68
2C057AG75
2C057BA13
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】液体吐出ヘッドの個別流路内に生じる気泡による吐出不良を抑制する。
【解決手段】液体を吐出する複数のノズル2と、複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路4と、複数の個別流路ごとにそれぞれ設けられる複数のアクチュエータ5と、ノズル形成壁110と対向する側に位置する複数の個別流路の開口部4aに面する共通流路3とを備え、アクチュエータを駆動して個別流路内の液体をノズルから吐出させる液体吐出ヘッド1であって、共通流路は、隔壁120aによって互いに仕切られた複数の共通流路部3a,3bを有し、複数の個別流路の各開口部は、複数の共通流路部のうちの互いに異なる2以上の共通流路部に面している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルと、
前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路と、
前記複数の個別流路ごとにそれぞれ設けられる複数のアクチュエータと、
前記複数の個別流路のノズル形成壁と対向する側に位置する該複数の個別流路の各開口部に面する共通流路とを備え、
前記アクチュエータを駆動して前記個別流路内の液体を前記ノズルから吐出させる液体吐出ヘッドであって、
前記共通流路は、隔壁によって互いに仕切られた複数の共通流路部を有し、
前記複数の個別流路の各開口部は、前記複数の共通流路部のうちの互いに異なる2以上の共通流路部に面していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記複数の個別流路の各開口部に面する前記2以上の共通流路部が、当該個別流路へ液体を供給する供給用共通流路部であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記複数の個別流路の各開口部に面する前記2以上の共通流路部の一部が、当該個別流路へ液体を供給する供給用共通流路部であり、該2以上の共通流路部の他部が、当該個別流路から液体を排出する排出用共通流路部であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記複数の共通流路部を構成する共通流路基板は、前記複数の個別流路を構成する個別流路基板とは別基板で構成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記共通流路基板は、前記個別流路の前記開口部と前記共通流路部との間を連通させる流体抵抗部を構成する流体抵抗層を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記個別流路の前記開口部と前記共通流路部との間が流体抵抗部を介して連通していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記個別流路の前記開口部と前記2以上の共通流路部のそれぞれとの間を連通させる各流路の断面積が互いに異なっていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項4に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記共通流路基板は、Siウェハ、SUS板又は電鋳板のいずれかによって形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項4に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記共通流路基板の厚みは、0.05[mm]以上2[mm]以下の範囲内であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記複数の共通流路部における前記複数の個別流路の開口部と対向する側には、ダンパ部材が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項10に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記ダンパ部材は、前記複数の共通流路部にまたがって配置されるフィルム状部材で構成され、該フィルム状部材の周縁部が固定されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記個別流路及び前記共通流路部の少なくとも一方は、互いに垂直な2つの平面が連結する箇所が鈍角部又は曲面部であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項13】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記アクチュエータは、前記ノズル形成壁上、前記ノズル形成壁内、又は、前記ノズル形成壁の近傍に配置されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項14】
請求項13に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記アクチュエータは、前記ノズル形成壁を変位させる電気機械変換素子であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項15】
請求項13に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記アクチュエータは、前記個別流路内の液体中にバブルを発生されるヒータ素子であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項16】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項17】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド内に液体を充填する液体充填方法であって、
前記複数の個別流路の各開口部に面する前記2以上の共通流路部の一部から当該個別流路へ液体を流入させるとともに、該2以上の共通流路部の他部から当該個別流路内の液体を流出させて、前記液体吐出ヘッド内に液体を充填することを特徴とする液体充填方法。
【請求項18】
請求項17に記載の液体充填方法において、
前記複数の個別流路の各開口部に面する前記2以上の共通流路部の一部から当該個別流路へ液体を流入させるとともに、該2以上の共通流路部の他部から当該個別流路内の液体を流出させる第一充填工程と、
前記2以上の共通流路部の前記他部から当該個別流路へ液体を流入させるとともに、該2以上の共通流路部の前記一部から当該個別流路内の液体を流出させる第二充填工程とを、互いに切り替えて実施することを特徴とする液体充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体を吐出する装置、及び、液体充填方法に関するものである。
【0002】
従来、液体を吐出する複数のノズルと、複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路と、複数の個別流路ごとにそれぞれ設けられる複数のアクチュエータと、ノズル形成壁と対向する側に位置する複数の個別流路の開口部に面する共通流路とを備え、アクチュエータを駆動して個別流路内の液体を前記ノズルから吐出させる液体吐出ヘッドが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数のノズル及びアクチュエータが形成されたノズルプレート(ノズル形成壁)と、複数のノズルにそれぞれ連通する複数の円筒状の圧力室が形成された基板と、ダンパ部材とを備える液体吐出ヘッドが開示されている。アクチュエータは、ノズルと同軸の円環形状に形成され、各圧力室内の液体を加圧するように駆動する。ダンパ部材は、ノズルプレートが設けられる基板の面とは反対側の面に設けられる弾性部材であり、各圧力室と同じ内径をもつ円筒状の複数のダンパ室がそれぞれ各圧力室と対向して設けられている。共通液室(共通流路)は、ダンパ部材の各ダンパ室を介して各圧力室に連通している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の液体吐出ヘッドでは、吐出不良が発生しやすいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路と、前記複数の個別流路ごとにそれぞれ設けられる複数のアクチュエータと、前記複数の個別流路のノズル形成壁と対向する側に位置する該複数の個別流路の各開口部に面する共通流路とを備え、前記アクチュエータを駆動して前記個別流路内の液体を前記ノズルから吐出させる液体吐出ヘッドであって、前記共通流路は、隔壁によって互いに仕切られた複数の共通流路部を有し、前記複数の個別流路の各開口部は、前記複数の共通流路部のうちの互いに異なる2以上の共通流路部に面していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ノズル形成壁と対向する側に位置する各個別流路の開口部に面するように共通流路が設けられる液体吐出ヘッドにおいて、吐出不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1における液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。
【
図2】(a)は、アクチュエータがノズル板上に配置された例を示す説明図。(b)は、アクチュエータがノズル板内に配置された例を示す説明図。(c)は、アクチュエータがノズル板の近傍に配置された例を示す説明図。
【
図3】実施形態1の液体吐出ヘッドにおける1つの個別流路の周辺構成を示す拡大断面図。
【
図4】(a)~(d)は同液体吐出ヘッドの分解図。
【
図5】同液体吐出ヘッドにおける共通流路基板の共通流路を個別流路側から見たときの説明図。
【
図6】同液体吐出ヘッドにおける共通流路基板を示す説明図。
【
図7】供給用共通流路部及び排出用共通流路部がノズル列方向(図中左右方向)における互いに同じ側の端部付近に配置される共通流路基板の例を示す説明図。
【
図8】変形例1における液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。
【
図9】変形例2における液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。
【
図10】変形例3における液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。
【
図11】(a)~(d)は、同液体吐出ヘッドの分解図。
【
図12】同液体吐出ヘッドにおける共通流路基板を示す説明図。
【
図13】同液体吐出ヘッドにおいて、共通流路基板の連通流路部に上壁部を形成した例を示す説明図。
【
図14】(a)及び(b)は、同上壁部の一例をそれぞれ示す断面図。
【
図15】同液体吐出ヘッドにおいて、ダンパ部材の周縁部だけ共通流路基板の上面部分に接着した例を模式的に示す断面図。
【
図16】(a)~(d)は、変形例4における液体吐出ヘッドの分解図。
【
図17】同液体吐出ヘッドにおける共通流路基板を示す説明図。
【
図18】(a)~(d)は、変形例5における液体吐出ヘッドの分解図。
【
図19】同液体吐出ヘッドにおける共通流路基板を示す説明図。
【
図20】(a)は、液体吐出ヘッドの供給用共通流路部から液体を供給して排出用共通流路部から液体を排出するように液体を循環させる順方向循環の使用例を示す説明図。(b)は、液体吐出ヘッドの排出用共通流路部から液体を供給して供給用共通流路部から液体を排出するように液体を循環させる逆方向循環の使用例を示す説明図。(c)は、液体吐出ヘッドの共通流路部に対して液体供給のみを行い、液体吐出ヘッドから液体を排出しない非循環(片方向供給)での使用例を示す説明図。
【
図21】同順方向循環、同逆方向循環及び非循環(片方向供給)を切り替えて実施することが可能な液体循環装置の一例を示すブロック図。
【
図22】(a)~(f)は、同液体循環装置における第1切替バルブ及び第2切替バルブの開閉状態をスイッチ(SW1,SW2)の状態で模式的に示した動作例を示す説明図。
【
図23】(a)は、液体の充填性の良し悪しを評価する簡易実験に用いた比較例1の液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。(b)は、同簡易実験に用いた比較例2の液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。
【
図24】共通流路部の一部の角部に丸みを持たせた構成の一例に係る液体吐出ヘッドの共通流路基板を示す説明図。
【
図25】実施形態2における液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。
【
図26】同液体吐出ヘッドにおける共通流路基板側から個別流路側を見たときの説明図。
【
図27】同液体吐出ヘッドにおける2つの流体抵抗部の流路断面積についての他の例を示す説明図。
【
図28】同液体吐出ヘッドにおける2つの流体抵抗部の個数についての他の例を示す説明図。
【
図30】同印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図。
【
図33】本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、液体を吐出する装置に設けられる液体吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0009】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1におけるノズル板振動方式の液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図である。
本実施形態1における液体吐出ヘッド1は、ノズルを有するノズル板110(ノズル形成壁)に設けられるアクチュエータ5により個別流路4の圧力を変動させることにより個別流路4内の液体をノズル2から吐出するノズル板振動方式の液体吐出ヘッドである。ノズル板振動方式は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッド(圧力室のノズルが連通する壁部(ノズル形成壁)に対向する面を振動させて液体を吐出するもの)に比べて小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があり、アクチュエータの省電力化を図ることができる。
【0010】
なお、本実施形態1では、ノズル板振動方式の液体吐出ヘッド1の例で説明するが、本発明は、ノズル板110(ノズル形成壁)と対向する側に位置する個別流路4の開口部4aに面するように共通流路3が設けられた液体吐出ヘッドであれば、駆動方式などの限定はない。
【0011】
例えば、ノズル板振動方式の液体吐出ヘッドのアクチュエータが、
図2(a)に示すように、ノズル板110(ノズル形成壁)上に配置されていてもよいし、
図2(b)に示すように、ノズル板110内に配置されていてもよいし、
図2(c)に示すように、ノズル板110の近傍(個別流路4内におけるノズル板110の近傍)に配置されていてもよい。また、アクチュエータは、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、ノズル板110(ノズル形成壁)を図中矢印Aで示すように変位させる電気機械変換素子である圧電素子5やバイメタルのような熱機械変換素子であってもよいし、
図2(c)に示すように、個別流路4内の液体中にバブルBを発生させるヒータ素子5'のような駆動手段に代えても良い。
【0012】
図2(a)~(c)に例示したアクチュエータの構成は、いずれも、流路構成が簡易となり、個別流路4からノズル2までの流路構成を1つの部品で製作することが可能である。そのため、小型・高密度・低コストで高精細な液体吐出ヘッドを実現しやすい。
【0013】
本実施形態1の液体吐出ヘッド1は、ノズル板110と、個別流路基板100と、共通流路基板120と、フレーム部140とを備えている。ノズル板110は、薄膜状であり、液体を吐出する複数のノズル2と、ノズル2の周囲に配置される環状のアクチュエータである電気機械変換素子としての圧電素子5とを備えている。個別流路基板100には、複数のノズル2に各々連通する複数の個別流路4が形成されている。各個別流路4の一面にはノズル2(振動膜103)が形成され、当該一面と対向する側に、個別流路4の開口部4aが配置される。共通流路基板120は、複数の個別流路4に連通する共通流路3を有している。
【0014】
図3は、1つの個別流路4の周辺構成を示す拡大断面図である。
個別流路基板100は、SOI(Silicon on Insulator)基板であり、振動膜103が成膜される側に駆動回路101および配線部102を有している。駆動回路101は、トランジスタや抵抗などを含む回路である。配線部102は、圧電素子5の第一電極51に駆動波形を印加するための配線部と、圧電素子5の第二電極53に駆動波形を印加するための配線部と有している。また、配線部102は、振動膜103に開けられた第三コンタクト7cを介して電気接続パッド55に電気的に接続されている。電気接続パッド55には、外部の電源等の電気部品が接続される。
【0015】
ノズル板110は、複数のノズル2が形成され、圧電素子5を覆うノズル形成部(膜)111を有しており、このノズル形成部111のノズル面には、撥液膜112が形成されている。液体の吐出を続けた場合、吐出と同時に発生したミストがノズル面に付着する。このミストがノズル面に多量に付着すると、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けて、所望の着弾位置からずれてしまうおそれがある。ノズル面に撥液膜112を形成することで、ノズル面への液体の付着を抑制することができ、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けるのを抑制することができる。
【0016】
ノズル板110の圧電素子5は、第一電極51(下部電極ともいう。)と、圧電膜52と、第二電極53(上部電極ともいう。)とを有している。圧電素子5は第一絶縁膜8aに覆われている。第一絶縁膜8aは、第一電極51への電気的な接続を行うための孔状の第四コンタクト7dと、第二電極53への電気的な接続を行うための孔状の第五コンタクト7eとが形成されている。
【0017】
また、第一絶縁膜8aには、圧電素子5の第一電極51と個別流路基板100の配線部102とを電気的に連結する第一引出し配線9aと、圧電素子5の第二電極53と個別流路基板100の配線部102とを電気的に連結する第二引出し配線9bとが形成されている。
【0018】
第一引出し配線9aは、第四コンタクト7dを介して第一電極51に電極的に接続され、第一コンタクト7aを介して配線部102に電極的に接続されている。第二引出し配線9bは、第五コンタクト7eを介して第二電極53に電極的に接続され、第二コンタクト7bを介して配線部102に電極的に接続されている。第一引出し配線9aおよび第二引出し配線9bは、第二絶縁膜8bに覆われている。本実施形態1では、第二絶縁膜8bは、圧電素子5も覆っており、樹脂からなるノズル形成部111に侵入した湿気が圧電素子5へ侵入するのを防止して圧電素子5を保護する機能を有している。
【0019】
なお、第一電極51及び第二電極53にそれぞれ引き出し配線部を設けて、振動膜に開けられたコンタクトを介して配線部102に直接、電極的に接続してもよい。また、第二絶縁膜8b上にノズル形成部111との密着性を確保するための密着改善膜を形成してもよい。
【0020】
アクチュエータとして用いられる圧電素子の材料としては、一般には、圧電特性の高さから、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が広く利用されている。しかしながら、本実施形態1の液体吐出ヘッド1のように駆動回路101や配線部102が作成される基板上に圧電素子5の圧電膜を成膜する場合、PZTでは成膜・結晶化温度が600℃以上を要することから、圧電素子5の材料としてPZTを用いると、基板内の駆動回路101や配線部102が高温に耐えられなくなる。そのため、圧電素子5と同じ基板に配線部102や駆動回路101を作成する構成では、圧電材料としては、PZTよりも成膜温度の低い圧電材料が求められる。成膜温度の低い圧電材料はPZTに比べて圧電特性の低い場合が多いが、上述したノズル板振動方式であれば、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッドに比べて小さい力で液体を吐出できることから、PZTよりも圧電特性の低い材料を選択することが可能である。よって、非鉛材料など成膜・結晶化温度は低いがパワーの小さい圧電材料でも良好に液体を吐出することができる。そのため、本実施形態1における圧電素子5としては、窒化アルミニウム(AlN)を含むAlNやScAlNなどの圧電素子を採用することができる。
【0021】
液体吐出ヘッド1内に充填された液体は、ノズル2に入り込み、ノズル内でメニスカスを形成する。圧電素子5の各電極51,53に所定の駆動波形(電圧)を印加することで、圧電膜52が振動し、振動膜103が
図3中上下方向に振動する。振動膜103が振動することで個別流路4内の液体に圧力変化が生じ、ノズル2から液体が吐出される。
【0022】
また、本実施形態1の液体吐出ヘッド1は、ノズル2の内周面、個別流路4の内周面および共通流路3の底面に、液体吐出ヘッド1が吐出する液体に対して親液性を有し、液体の浸食を防ぐ表面層としての保護膜11が形成されている。本実施形態1では、液体吐出ヘッド1が吐出する液体は、アルカリ性であり、個別流路4を形成する個別流路基板100および振動膜103は、シリコン膜、シリコン系絶縁膜、金属酸化膜、又はそれらの積層膜等からなる。これらの材料は、アルカリ性の液体に対して脆弱性を持ち、アルカリ性溶液に溶出し浸食される。これを防ぐために、液体の浸食を防ぐ耐液性の保護膜11を形成することで、個別流路基板100および振動膜103を液体から保護することができる。
【0023】
また、個別流路4およびノズル2はドライエッチングにて形成される。ドライエッチングのガスにフッ素が含まれることで、エッチング後の個別流路4の内壁面およびノズル2の内周面にはフッ素を含む表皮膜が形成され、個別流路4の内壁面およびノズル内周面が撥液性を持ってしまう。個別流路4の内周面が撥液性を有すると、液体の充填時に液体が、個別流路4の内周面に濡れ広がっていかないため、個別流路4が液体で良好に満たされず、個別流路4の角部などに気泡が生じてしまう場合がある。
【0024】
本実施形態1では、個別流路4の内周面やノズル2の内周面に親液性を有する保護膜11を形成するので、個別流路4およびノズル2の内周面に対する液体の濡れ性を向上させることができる。保護膜11は、保護膜11が成膜される個別流路4やノズル2の成膜面(保護膜11の下層面)よりも液体に対する親液性があればよい。液体の溶剤が水性の場合は、親水性の高い保護膜とし、液体の溶剤が油性の場合は、親油性の高い保護膜とすることで親液性の高い保護膜11を形成することができる。
【0025】
このように、個別流路4に充填される液体に対して親液性を有する保護膜11をノズル2および個別流路4の内周面に形成することで、液体の充填時に液体が個別流路4およびノズル2の内周面に濡れ広がやすくなる。その結果、液体の充填性を向上でき、液体の充填の際に加圧や吸引を行わずとも、良好に個別流路4およびノズル2に液体を充填することができる。よって、液体の充填時に振動膜103にクラックが発生するのを抑制することができる。
【0026】
本実施形態1の液体の溶剤は水性であるため、個別流路4およびノズル2の内周面に対し、少なくともフッ素を含まない保護膜11を形成することで、ドライエッチングにより形成されたフッ素を含む表皮膜に比べ親液性を向上することができる。上記に加え、さらに、この膜は様々な液体と直接接するため、耐液性をもつ材料、例えば不働態を形成する金属の酸化物であることが望ましい。さらに親液性を向上する方法として、前記不働態を形成する金属酸化物に二酸化ケイ素(SiO2)を分子レベルで混ぜたものを用いることもできる。保護膜11のSiO2はその表面のOが置換され親水性を有するOH基を持つ。これにより、保護膜11にさらに親水性を付与することができる。上記金属酸化物の金属としては、酸化数への対応性が高いタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)などが挙げられる。特にSiO2と似た価数を持つZrやHf、あるいはその前後の価数を持つTaなどが特に望ましい。
【0027】
また、例えば、保護膜11を、耐液性の膜と親液性の膜の2層構造としてもよい。この場合は、ノズル2および個別流路4の内周面に耐液性の膜を形成した後に、耐液性の膜上に親液性の膜を形成する。
【0028】
振動膜103の材質としては、SiO2やSiN、金属酸化物や樹脂など少なくとも絶縁性を持つ材質であれば良い。しかし、変位を大きくするためにはヤング率が低い材料が望ましく、かつ個別流路基板100との線膨張係数の差を考えるとその差が比較的小さいSiO2(二酸化ケイ素)が、振動膜103の材質として最も望ましい。
【0029】
第一電極層151と第二電極層153は電気抵抗が小さく反応性の低い金属が望ましく、Ir、Moなどの金属が望ましい。圧電層152を構成する圧電材料としては、本実施形態1のように、密度向上のために個別流路基板100に駆動回路101と配線部102を内蔵する場合は、それらを破壊しないために、その成膜温度が450℃以下である圧電材料が望ましい。成膜温度が450℃以下である圧電材料としては、AlNやAlNよりも圧電定数の高いScAlNが挙げられる。
【0030】
また、圧電材料としてScAlNを用いることで、次の利点も得ることができる。すなわち、圧電膜52の結晶配向を揃えることで圧電特性を向上することができるが、その配向制御のために振動膜103と第一電極51の間に配向制御層を設ける必要がある。圧電膜52の圧電材料がScAlNのときは、配向制御層としてもScAlNを用いることで、Moからなる第一電極51の格子定数をScAlNに近づけることができる。その結果、圧電膜52の結晶配向が揃い、圧電特性の向上が可能となる。
【0031】
図4は、本実施形態1における液体吐出ヘッド1の分解図であり、
図4(a)はフレーム部140を示し、
図4(b)は共通流路基板120を示し、
図4(c)は個別流路基板100及びノズル板110が一体となった駆動基板を示している。
図5は、本実施形態1における共通流路基板120の共通流路3を個別流路4側から見たときの説明図である。
【0032】
個別流路基板100には、
図4(c)に示すように、ノズル板110に形成されている複数のノズル2に対応するように、複数の個別流路4が二次元方向に配列して形成されている。具体的には、ノズル板110には、図中左右方向に沿って各ノズル2が直線状に配列されてなるノズル列が、図中上下方向に複数(図示の例では8列)並べて配置されている。そのため、個別流路基板100に形成される個別流路4も、
図4に示すように、図中左右方向に沿って配列された列が図中上下方向に複数(図示の例では8列)並べて配置されている。
【0033】
なお、各ノズル列間のノズルは、シングルパスで高密度(例えば600dpi、1000dpi、1200dpiなど)のドット形成が可能なように、ノズル列方向(図中左右方向)の位置が互いにズレるように配列されている。そのため、これに対応して、個別流路4も、
図4(c)に示すように、図中左右方向の位置が列間で互いにズレるように配列されている。
【0034】
また、本実施形態1の個別流路4は、基板面方向に平行な断面の形状が円形状である例で説明されているが、その断面形状は楕円柱状や多角形柱状などの他の形状であってもよい。また、その断面形状は、基板厚み方向にわたって均一な断面である必要はない。
【0035】
個別流路基板100の上面(共通流路3側の面)には、
図5に示すように、各個別流路4の開口部4aが開口しており、共通流路基板120に形成されている共通流路3が各個別流路4の開口部4aに面するように配置される。
【0036】
本実施形態1において、各個別流路4の開口部4aは、共通流路隔壁120aによって互いに仕切られた2つの共通流路部3a,3bに面している。言い換えると、各個別流路4の開口部4aが共通流路隔壁120aによって2つの開口部分に分割されている。そして、本実施形態1においては、個別流路4の開口部4aに面する一方の共通流路部3aが当該個別流路4へ液体を供給する供給用共通流路部となっており、個別流路4の開口部4aに面する他方の共通流路部3bが当該個別流路4から液体を排出する排出用共通流路部となっている。
【0037】
本実施形態1の共通流路基板120に形成される共通流路3は、
図4(b)に示すように、供給用共通流路部3aと排出用共通流路部3bとが、それぞれ櫛歯状をなし、お互いの櫛歯部分が互いに嵌り込むように配置された構成となっている。
【0038】
詳しくは、
図6に示すように、ノズル列間にまたがって互いに隣接する8個のノズルに対応した8個の個別流路4は、共通の共通流路隔壁120aによって仕切られた2つの共通流路部3a,3bに接続されている。この共通流路隔壁120aは、ノズル列方向(図中左右方向)に並んで配置される。共通流路隔壁120aの図中上下方向の各端部は仕切り壁120dによって互いに連結されている。このような構成により、共通流路隔壁120a及び仕切り壁120dによって仕切られた空間のうちの一方が供給用共通流路部3aを構成し、他方が排出用共通流路部3bを構成する。
【0039】
共通流路基板120は、高精度加工部品で構成され、本実施形態1ではSi(シリコン)基板(Siウェハ)をフォトリソグラフィやシリコン深堀り加工(DRIE加工)等の半導体プロセスやMEMSプロセスによって形成される。共通流路基板120に形成される流路(共通流路部3a,3b、流路入口部3c、流路出口部3d)の壁面には、液体に対して溶出耐性のある接液膜(TaOxやHfOx等)が形成される。なお、共通流路基板120は、これに限るものではなく、例えば、高精度な研削加工、高精度なプレス加工、サンドブラスト加工等によってSUS板やガラス基板を加工したものを用いてもよい。また、半導体プロセスと同様なフォトリソグラフィを利用したNi電鋳により製作したものであってもよい。
【0040】
共通流路基板120の上面(個別流路基板100とは反対側の面)には、
図4(a)に示すフレーム部140が設けられている。液体吐出ヘッド1には、外部の液体貯留部に貯留される液体がフレーム部140の液体供給口を介して供給される。この液体供給口から供給された液体は、フレーム部140内の供給液体貯留室31から供給連通路32を通って共通流路基板120の一端側(ノズル列方向一端側、図中左側)に配置された流路入口部3cへ供給される。その後、
図6中矢印C1に示すように、流路入口部3cに供給された液体は、櫛歯状の供給用共通流路部3aを通って個別流路基板100の上面に沿って流れ、個別流路基板100の各個別流路4の開口部4aのうち、供給用共通流路部3aに面する側の開口部分(供給口)から、各個別流路4へと供給される。
【0041】
また、各個別流路4内の液体のうちノズル2から吐出されなかった液体は、各個別流路4の開口部4aのうち、排出用共通流路部3bに面する側の開口部分(排出口)から、排出用共通流路部3bへと排出される。各個別流路4から排出された液体は、排出用共通流路部3bを通って個別流路基板100の上面に沿って流れ、共通流路基板120の他端側(ノズル列方向他端側、図中右側)に配置された流路出口部3dから、フレーム部140内の排出液体貯留室35へと排出される。排出液体貯留室35に排出された液体は、フレーム部140の液体排出口から外部のポンプ等を経由して、外部のインク貯留部に戻される。すなわち、本実施形態1の液体吐出ヘッド1は、液体循環方式の液体吐出ヘッドである。
【0042】
液体循環方式の液体吐出ヘッドによれば、共通流路3内及び個別流路4内の液体を循環させることが可能となる。これにより、共通流路3や個別流路4などの液体吐出ヘッド1内の流路中に存在する気泡を排除したり、沈降しやすい成分をもつ液体を用いる場合に液体吐出ヘッド1内の流路に液体の成分が沈降することを抑制したりすることができる。
【0043】
なお、供給用共通流路部3a及び排出用共通流路部3bに対し、流路入口部3c及び流路出口部3d(供給液体貯留室31及び排出液体貯留室35)をどのように配置するかは適宜設定することができる。本実施形態1では、供給用共通流路部3a及び排出用共通流路部3bがノズル列方向(図中左右方向)における互いに反対側の端部付近に配置される例であるが、例えば、
図7に示すように、供給用共通流路部3a及び排出用共通流路部3bがノズル列方向(図中左右方向)における互いに同じ側の端部付近に配置される例であってもよい。
【0044】
本実施形態1によれば、個別流路4の開口部4aに対し、供給用共通流路部3aから液体を流入させる流れと、排出用共通流路部3bへ液体を流出させる流れとを作り出すことができ、個別流路4内の液体を入れ替えるような流れを作り出すことが可能となる。したがって、個別流路4内の液体の動きを活発なものとすることができ、個別流路4内の気泡を動かして個別流路4内から排出しやすく、吐出不良の発生を抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態1によれば、共通流路基板120に形成される共通流路3が共通流路隔壁120aによって複数(本実施形態1では2つ)の共通流路部3a,3bに分割されている。そのため、複数の共通流路部3a,3bのそれぞれに接続される個別流路4の数は、すべての個別流路4が単一の共通流路に接続されている従来構成よりも少なくなる。したがって、各個別流路4において、同じ共通流路部3a,3bに接続される周囲の個別流路4の数が少なくなり、各個別流路4のノズル2の吐出不良を生じさせるクロストークが抑制される。
【0046】
ここでいうクロストークについて説明すると、ノズル板110の圧電素子5により振動膜103を振動させて個別流路4内の液体に圧力が加えられると、その圧力はノズル2から液体を吐出させる力となるが、その一部は個別流路4の開口部4aから共通流路側へ逃げる。この逃げた圧力は、クロストークを生じさせる圧力波あるいはクロストークを生じさせる慣性流として、共通流路を通じて周囲の個別流路4に伝搬する。すなわち、各個別流路4には、その周囲に存在する個別流路4からの圧力波や慣性流が共通流路3を通じて伝搬し、これにより各個別流路4のノズル2の吐出不良を生じさせるクロストークを引き起こす。本実施形態1のように、同じ共通流路部3a,3bに接続される周囲の個別流路4の数が少なくなることで、各個別流路4に伝搬してくる周囲の個別流路4からの圧力波や慣性流の影響が軽減されるため、クロストークが抑制される。
【0047】
本実施形態1では、同じ共通流路部3a,3bに接続される個別流路4の数は適宜設定することができ、それに応じて、各共通流路部3a,3bの配置や形状などは適宜される。同じ共通流路部3a,3bに接続される個別流路4の数が少ないほど、クロストークを抑制することができる。なお、クロストークの影響は、各部の寸法や材料(詳細な設計)によって、その影響度が大きく異なるため、一意に説明することはできないが、例として、100個以上のノズルを同時駆動したときの液体吐出速度の変動が数十%であった従来の液体吐出ヘッドに対し、本実施形態1のように共通流路を複数に分けた構成により、その液体吐出速度の変動を10~15%程度以下にまで抑えることができたという結果も出ている。
【0048】
〔変形例1〕
次に、本実施形態1における液体吐出ヘッド1の一変形例(以下、本変形例を「変形例1」という。)について説明する。
上述した実施形態1の液体吐出ヘッド1では、個別流路4の各開口部4aに面する2つの共通流路部3a,3bの一方が供給用共通流路部であり、他方が排出用共通流路部である例であった。本変形例1の液体吐出ヘッド1は、個別流路4の各開口部4aに面する2つの共通流路部3a,3bのいずれもが供給用共通流路部である例である。なお、本変形例1の液体吐出ヘッド1の基本構成は上述した実施形態1と同じであるため、重複する説明については適宜省略する。
【0049】
図8は、本変形例1における液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図である。
本変形例1の液体吐出ヘッド1も、上述した実施形態1と同様、共通流路基板120に形成される共通流路3が、
図4(b)に示したように、2つの共通流路部3a,3bとがそれぞれ櫛歯状をなし、お互いの櫛歯部分が互いに嵌り込むように配置された構成となっている。ただし、いずれの共通流路部3a,3bも供給用共通流路部である。
【0050】
すなわち、フレーム部140内の供給液体貯留室31だけでなく排出液体貯留室35も供給液体貯留室として機能し、フレーム部140の液体供給口から供給された液体は、フレーム部140内の2つの液体貯留室31,35からそれぞれの連通路32,34を通って、共通流路基板120の両端(ノズル列方向両端)付近に配置されている流路部3c,3dへ供給される。その後、
図8中矢印C1に示すように、各流路部3c,3dに供給された液体は、櫛歯状の各共通流路部3a,3bを通って個別流路基板100の上面に沿って流れ、個別流路基板100の各個別流路4の開口部4aにおける両方の開口部分(各共通流路部3a,3bにそれぞれ面している開口部分)から、各個別流路4へと供給される。
【0051】
本変形例1において、各個別流路4の開口部4aは、
図8に示すように、共通流路隔壁120aによって互いに仕切られた複数(ここでは2つ)の共通流路部3a,3bに連通し、その両方から各個別流路4へ液体が供給される。各共通流路部3a,3bと個別流路4との間の液体の出入りは、仮に各共通流路部3a,3bが互いに同じ構造をもち、共通流路隔壁120aによって個別流路4の開口部4aが全く等しい開口部分に分割される構成であったとしても、製造誤差や、液体吐出ヘッド内における位置の違いなどにより、各共通流路部3a,3b間で完全に一致することはない。したがって、個別流路4に対する液体の出入りは、各共通流路部3a,3b間で互いに異なるものであり、非対称となる。このような非対称の液体の出入りにより、個別流路4内では、個別流路4の開口部4aの全体が1つの共通流路に連通する従来の構成と比較して、より活発な液体の動きを生じさせることができる。
【0052】
その結果、本変形例1においても、個別流路4の角部に生じる気泡が当該角部から移動しやすく、当該液体吐出ヘッドの液体充填作業時あるいは稼働中において、気泡が個別流路4からノズル2を介して外部へ排出されるなどして、吐出不良の発生が抑制される。
【0053】
〔変形例2〕
次に、本実施形態1における液体吐出ヘッド1の他の変形例(以下、本変形例を「変形例2」という。)について説明する。
上述した実施形態1及び変形例1の液体吐出ヘッド1では、各共通流路部3a,3bが面する個別流路4の開口部分の開口面積又は開口形状が共通流路部3a,3b間で互いに同じものとした例であった。本変形例2の液体吐出ヘッド1は、各共通流路部3a,3bが面する個別流路4の開口部分の開口面積又は開口形状が共通流路部3a,3b間で互いに異なる例である。
【0054】
図9は、本変形例2における液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図である。
本変形例2の液体吐出ヘッド1は、上述した実施形態1と同様、各個別流路4の開口部4aに面する2つの共通流路部3a,3bのうちの一方が供給用共通流路部3aであり、他方が排出用共通流路部3bである。本変形例2の共通流路基板120は、
図9に示すように、個別流路基板100の各個別流路4の開口部4aを横切るように延びる共通流路隔壁120aが、開口部4aの開口中央からズレた位置を横切るように配置されている。これにより、排出用共通流路部3bに接続される個別流路4の開口部4aの開口部分の開口面積が、供給用共通流路部3aに接続される個別流路4の開口部4aの開口部分の開口面積よりも大きくなっている。
【0055】
本変形例2の構成によれば、個別流路4から排出用共通流路部3bへの液体の流出時の流体抵抗が、供給用共通流路部3aから個別流路4への液体の流入時の流体抵抗よりも小さくなる。この場合、各共通流路部3a,3bが面する個別流路4の開口部分の開口面積又は開口形状が共通流路部3a,3b間で互いに同じである構成よりも、あるいは、供給用共通流路部3aに接続される個別流路4の開口部4aの開口部分の開口面積の方が大きい構成よりも、個別流路4に対する液体の出入りがスムーズなものとなり、個別流路4内での液体の動きを活発なものとすることができる。よって、個別流路4内の気泡を動かして個別流路4内から排出しやすくなり、吐出不良の発生を更に抑制することができる。
【0056】
〔変形例3〕
次に、本実施形態1における液体吐出ヘッド1の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例3」という。)について説明する。
本変形例3の液体吐出ヘッド1は、上述した実施形態1の液体吐出ヘッド1に対し、ダンパ部材を追加したものである。なお、本変形例3の液体吐出ヘッド1の基本構成は上述した実施形態1と同じであるため、重複する説明については適宜省略する。
【0057】
図10は、本変形例3における液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図である。
共通流路基板120の上面(個別流路基板100とは反対側の面)には、ダンパ部材130が設けられている。ダンパ部材130は、柔軟性の高い材料で構成されたフィルム状部材(ダンパフィルム)であり、各共通流路部3a,3bを介して各個別流路4の開口部4a(すなわち、個別流路基板100の上面)と対向する位置に配置される。すなわち、ダンパ部材130は、各共通流路部3a,3bの一壁部(上壁面)を構成するものである。このような構成により、ダンパ部材130は、各共通流路部3a,3b内の液体に伝搬するクロストークの圧力波や慣性流に応じて変形し、共通流路3内に生じるクロストークの圧力波や慣性流を低減することができ、クロストークの抑制効果を発揮する。
【0058】
本変形例3のダンパ部材130は、非透気性(気体を通さない性質)、非透湿性(水分/水分子を通さない性質)を有することが好ましい。これは、共通流路部3a,3bに充填される液体の変質(濃度、粘度等の変化、固形分の固着等)を抑制するためである。非透気性、非透湿性のダンパ部材130は、例えば、薄い金属膜等をコーティングして作製してもよいが、これに限らず、広く市販されている材料を用いて作製するのが好ましい。なお、ここではダンパ機能をダンパフィルムで実現した例で示しているが、これに限定するものではない。
【0059】
図11は、本変形例3における液体吐出ヘッド1の分解図であり、
図11(a)はフレーム部140を示し、
図11(b)はダンパ部材130を示し、
図11(c)は共通流路基板120を示し、
図11(d)は個別流路基板100及びノズル板110が一体となった駆動基板を示している。
本変形例3の液体吐出ヘッド1は、
図11に示すように、ノズル板110、個別流路基板100、共通流路基板120、ダンパ部材130、フレーム部140の順で配置され、構成されている。
【0060】
本変形例3のフレーム部140には、ダンパ部材130の変位又は振動を確保するための空気室131が形成されている。空気室131は大気開放孔を介して外気に開放されている。また、ダンパ部材130は、
図12に示すように、共通流路基板120の上面のうち、フレーム部140の液体貯留室31,35と連通する流路部3c,3dには被さらないように設けられている。これにより、フレーム部140の液体貯留室31,35と流路部3c,3dとの間の液体の流れをダンパ部材130が阻害しないようになっている。
【0061】
ダンパ部材130は、共通流路基板120の上面部分(各流路部3a,3b,3c,3dが形成されていない部分)の一部又は全部に、例えば接着剤132により、接着(貼付)されている。共通流路基板120にダンパ部材130を接着(貼付)する場合、共通流路基板120の各流路部3a,3b,3c,3dの封止性の観点から、少なくともダンパ部材130の周縁部については、その全域を接着することが好ましい。
【0062】
図12に示す構成では、ダンパ部材130の周縁部の一部が、共通流路基板120の共通流路部3a,3bと流路部3c,3dとの連通流路部3e,3eを横切っているように配置される。この箇所では、共通流路基板120の連通流路部3e,3eが開口しているため、ダンパ部材130の周縁部を共通流路基板120の上面部分に接着剤132で接着することができない。そのため、
図12に示す構成では封止性が不十分になりやすい。
【0063】
封止性を向上させる方法としては、例えば、
図13に示すように、共通流路基板120の共通流路部3a,3bと流路部3c,3dとの間を連通させる連通流路部3e,3eに上壁部122を形成する。このような上壁部122を形成することで、ダンパ部材130の周縁部の全域を、共通流路基板120の上面部分(上壁部122を含む。)に接着剤132で接着することができ、十分な封止性を得ることができる。
【0064】
連通流路部3e,3eの上壁部122を形成する方法としては、例えば、Si基板からなる共通流路基板120を半導体プロセスで作製する場合には、
図14(a)に示すように、その半導体プロセスで上壁部122の部分を残すように加工し、Si基板の一部で上壁部122を形成してもよい。また、
図14(b)に示すように、連通流路部3e,3eの部分にSiN膜等の膜を成膜して、その膜を上壁部122としてもよい。なお、上壁部122の厚みを大きくし過ぎると、連通流路部3e,3eの断面積が狭くなり、連通流路部3e,3eの流体抵抗を高めてしまう。したがって、上壁部122の厚みは、要求される上壁部122の剛性と連通流路部3e,3eの流体抵抗とのバランスを考慮して設定される。
【0065】
液体吐出ヘッド1は、インクジェットプリントのヘッドとして使用される場合、複数あるいは全部のノズル2から同時に液体を吐出するように駆動させることが多い。複数のノズル2について同時に駆動する場合、上述したように、各個別流路4内で発生する圧力波あるいは慣性流が各共通流路部3a,3bに伝わる。更には、駆動によってヘッド筐体自体を伝わる振動もある。多数の個別流路4から各共通流路部3a,3bに伝わった圧力波あるいは慣性流(振動ともいう。)は、複雑な合成波となり、それが回折や反射等によって各個別流路4に伝搬する現象をクロストークと呼んでおり、その現象が顕著になると、各ノズル2からの吐出不良を引き起こす。
【0066】
本変形例3におけるダンパ部材130は、各共通流路部3a,3bに伝わった圧力波あるいは慣性流(振動)を減衰させるものであり、その減衰のしやすさは、一般にコンプライアンス(受容量)が大きいと表現される。したがって、ダンパ部材130は、できるだけ動きが拘束されていないことが好ましく、ダンパ部材130の固定間隔(共通流路基板120の上面部分に接着されている箇所間の距離)が大きいほど、コンプライアンスが大きいものとなる。
【0067】
本変形例3のダンパ部材130は、
図10に示すように、ダンパ部材130の周縁部だけでなく、ダンパ部材130の内側部、具体的には、2つの共通流路部3a,3bを仕切る共通流路隔壁120aの上面部分や共通流路隔壁120aの各端部を連結する仕切り壁120dの上面部分も、接着剤132で接着されている。この場合、ダンパ部材130の固定間隔が大きくとれず、コンプライアンスが小さいものとなり、ダンパ機能が不十分となり得る。そのような場合には、
図15に示すように、ダンパ部材130の周縁部だけ、共通流路基板120の上面部分に接着剤132で接着するようにしてもよい。
【0068】
図15の例では、各共通流路部3a,3b内が負圧状態であるとき、ダンパ部材130は、
図15中実線で示すように、ダンパ部材130の内側部も共通流路隔壁120aの上面部分や仕切り壁120dの上面部分に密着した状態になる。したがって、各共通流路部3a,3b間は互いに仕切られた状態が維持される。一般に、ノズル2からの液体の漏れを防止するため、個別流路4内は弱負圧に設定され、これに連通している各共通流路部3a,3b内も弱負圧に設定される。したがって、通常の使用状態では、ダンパ部材130は、共通流路隔壁120aの上面部分や仕切り壁120dの上面部分とも密着状態になっており、各共通流路部3a,3b間は互いに仕切られた状態が維持される。
【0069】
流路内を負圧に維持する方法は、例えば、液体吐出ヘッド1の外部の液体貯留部の液面をノズル2の位置よりも低い位置に配置することで実現することができる。あるいは、例えば、液体吐出ヘッド1の外部の液体貯留部などにスポンジ状の材料が充填されていて、その保持力で負圧を形成することで実現することもできる。なお、液体吐出ヘッド1の液体充填作業時には、いずれかの共通流路部3a,3b(例えば排出用共通流路部3b)側を外部のポンプによって吸引する方式で液体を充填させるようにすれば、ダンパ部材130は、共通流路隔壁120aの上面部分や仕切り壁120dの上面部分とも密着状態が維持され、各共通流路部3a,3b間が互いに仕切られた状態が維持されたまま、液体充填作業を行うことができる。
【0070】
一方で、
図15の例では、駆動により各個別流路4内で発生した圧力波あるいは慣性流が各共通流路部3a,3b内に伝搬したときには、ダンパ部材130は、
図15中破線で示すように、ダンパ部材130の内側部が共通流路隔壁120aの上面部分や仕切り壁120dの上面部分から離れて変位することが可能である。すなわち、ダンパ部材130の固定間隔が大きいため、コンプライアンスが大きく、高いダンパ機能を発揮することができる。
【0071】
なお、本変形例3では、上述した実施形態1と同様に、個別流路4の各開口部4aに面する2つの共通流路部3a,3bの一方が供給用共通流路部であり、他方が排出用共通流路部である例であるが、これに限られない。例えば、上述した変形例1の液体吐出ヘッド1のように、個別流路4の各開口部4aに面する2つの共通流路部3a,3bのいずれもが供給用共通流路部である例においても、本変形例3は適用可能である。
【0072】
〔変形例4〕
次に、本実施形態1における液体吐出ヘッド1の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例4」という。)について説明する。
本変形例4の液体吐出ヘッド1も、上述した変形例3と同様にダンパ部材130を備えた構成であるが、フレーム部140の液体貯留室31,35と共通流路基板120の流路部3c,3dの構成が異なっている点で、上述した変形例3とは異なっている。なお、本変形例4の液体吐出ヘッド1の基本構成は上述した変形例3と同じであるため、重複する説明については適宜省略する。
【0073】
図16は、本変形例4における液体吐出ヘッド1の分解図であり、
図16(a)はフレーム部140を示し、
図16(b)はダンパ部材130を示し、
図16(c)は共通流路基板120を示し、
図16(d)は個別流路基板100及びノズル板110が一体となった駆動基板を示している。
本変形例4の液体吐出ヘッド1も、
図16に示すように、ノズル板110、個別流路基板100、共通流路基板120、ダンパ部材130、フレーム部140の順で配置され、構成されている。
【0074】
本変形例4では、フレーム部140に形成されている液体貯留室31,35の形状が、
図16(a)に示すように、略L字状をなしている。これにより、フレーム部140の液体貯留室31,35は、ノズル列方向(図中左右方向)における共通流路基板120の端部付近に配置されている流路部3c1,3d1だけでなく、ノズル列方向に対して直交する方向(図中上下方向)における共通流路基板120の端部付近で当該端部に沿って延びている流路部3c2,3d2とも、対向する。上述した変形例3では、フレーム部140の液体貯留室31,35は、共通流路基板120の流路部3c1,3d1との間だけ連通する構成であったが、本変形例4では、共通流路基板120の流路部3c1,3d1だけでなく、流路部3c2,3d2とも連通する構成となっている。
【0075】
本変形例4によれば、フレーム部140内の供給液体貯留室31から共通流路基板120の流路入口部3c2へ流れ込む液体も、共通流路基板120の各供給用共通流路部3aに供給される。したがって、フレーム部140内の供給液体貯留室31から各供給用共通流路部3aまで供給される液体の経路長が短くなり、各供給用共通流路部3aを介した各個別流路4への液体供給をよりスムーズに行うことができる。
【0076】
また、本変形例4によれば、共通流路基板120の各排出用共通流路部3bから流路出口部3d2へ流出した液体が、そのまま流路出口部3d2からフレーム部140内の排出液体貯留室35へと排出することができる。したがって、各排出用共通流路部3bからフレーム部140内の排出液体貯留室35まで排出される液体の経路長が短くなり、各排出用共通流路部3bを介した各個別流路4からの液体排出をよりスムーズに行うことができる。
【0077】
このように、本変形例4によれば、各共通流路部3a,3b内の液体の流れをスムーズにすることができるので、これに伴って、個別流路4内の液体の動きも活発化でき、個別流路4内の気泡を動かして個別流路4内から排出しやすく、吐出不良の発生を抑制することができる。特に、本変形例4によれば、液体吐出ヘッドの液体充填作業時における液体の流れがスムーズとなり、液体充填性の向上が図られる。
【0078】
また、本変形例4のダンパ部材130は、上述した液体の流れを阻害しないように、
図17に示すように、共通流路基板120の上面のうち、フレーム部140の液体貯留室31,35と連通する流路部3c1,3d1,3c2,3d2には被さらないように設けられている。このとき、ダンパ部材130は、封止性の観点から、少なくともダンパ部材130の周縁部についてはその全域を接着することが好ましい。
【0079】
そこで、本変形例4では、
図17に示すように、共通流路基板120の各共通流路部3a,3bと流路部3c2,3d2との連通流路部3f,3fの箇所に上壁部122を形成している。このような上壁部122を形成することで、ダンパ部材130の周縁部の全域を、共通流路基板120の上面部分(上壁部122を含む。)に接着剤132で接着することができ、十分な封止性を得ることができる。
【0080】
なお、上壁部122の厚みを大きくし過ぎると、連通流路部3f,3fの断面積が狭くなり、連通流路部3f,3fの流体抵抗を高めてしまう。したがって、上壁部122の厚みは、要求される上壁部122の剛性と連通流路部3f,3fの流体抵抗とのバランスを考慮して設定される。
【0081】
また、本変形例4も、前記変形例3と同様に、個別流路4の各開口部4aに面する2つの共通流路部3a,3bの一方が供給用共通流路部であり、他方が排出用共通流路部である例であるが、これに限られない。例えば、上述した変形例1の液体吐出ヘッド1のように、個別流路4の各開口部4aに面する2つの共通流路部3a,3bのいずれもが供給用共通流路部である例においても、本変形例4は適用可能である。
【0082】
〔変形例5〕
次に、本実施形態1における液体吐出ヘッド1の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例5」という。)について説明する。
本変形例5の液体吐出ヘッド1も、上述した変形例3及び変形例4と同様にダンパ部材130を備えた構成であるが、フレーム部140の液体貯留室31,35と共通流路基板120の流路部の構成が異なっている点で、上述した変形例3及び変形例4とは異なっている。なお、本変形例5の液体吐出ヘッド1の基本構成は上述した変形例3及び変形例4と同じであるため、重複する説明については適宜省略する。
【0083】
図18は、本変形例5における液体吐出ヘッド1の分解図であり、
図18(a)はフレーム部140を示し、
図18(b)はダンパ部材130を示し、
図18(c)は共通流路基板120を示し、
図18(d)は個別流路基板100及びノズル板110が一体となった駆動基板を示している。
本変形例5の液体吐出ヘッド1も、
図18に示すように、ノズル板110、個別流路基板100、共通流路基板120、ダンパ部材130、フレーム部140の順で配置され、構成されている。
【0084】
本変形例5においては、フレーム部140に形成されている液体貯留室31,35と連通する共通流路基板120の流路部3c,3dが、ノズル列方向(図中左右方向)における共通流路基板120の端部付近ではなく、ノズル列方向に対して直交する方向(図中上下方向)における共通流路基板120の端部付近に配置された構成となっている。そのため、フレーム部140の液体貯留室31,35は、共通流路基板120に形成された流路部3c,3dと対向するように、ノズル列方向に対して直交する方向(図中上下方向)における端部付近に形成されている。
【0085】
本変形例5において、共通流路基板120の各供給用共通流路部3aは、共通流路基板120の流路入口部3cに対し、当該流路入口部3cの長手方向(ノズル列方向、図中左右方向)の互いに異なる箇所でそれぞれ接続されている。本変形例5では、フレーム部140の供給液体貯留室31内の液体が、共通流路基板120の流路入口部3cの長手方向全域にわたってほぼ一様に流れ込むことになる。そのため、いずれの供給用共通流路部3aにも、フレーム部140の供給液体貯留室31内の液体が最短の経路で供給される。その結果、各供給用共通流路部3aを介した各個別流路4への液体供給をよりスムーズに行うことができる。
【0086】
また、本変形例5において、共通流路基板120の各排出用共通流路部3bは、共通流路基板120の流路出口部3dに対し、当該流路出口部3dの長手方向(ノズル列方向、図中左右方向)の互いに異なる箇所でそれぞれ接続されている。本変形例5では、フレーム部140の排出液体貯留室35に対し、共通流路基板120の流路出口部3dの長手方向全域にわたってほぼ一様に液体を流出させることができる。そのため、いずれの排出用共通流路部3bも、フレーム部140の排出液体貯留室35内への液体の排出経路が最短となり、各排出用共通流路部3bを介した各個別流路4からの液体排出をよりスムーズに行うことができる。
【0087】
このように、本変形例5によれば、各共通流路部3a,3b内の液体の流れをスムーズにすることができるので、これに伴って、個別流路4内の液体の動きも活発化でき、個別流路4内の気泡を動かして個別流路4内から排出しやすく、吐出不良の発生を抑制することができる。特に、本変形例4によれば、液体吐出ヘッドの液体充填作業時における液体の流れがスムーズとなり、液体充填性の向上が図られる。
【0088】
特に、本変形例5によれば、上述した変形例3及び変形例4のように、共通流路基板120の両端(ノズル列方向両端)付近に流路部3c,3d,3c1,3d1を配置する必要が無い。そのため、ノズル列方向におけるヘッドの小型化が可能となる。
【0089】
また、本変形例5のダンパ部材130も、上述した液体の流れを阻害しないように、
図19に示すように、共通流路基板120の上面のうち、フレーム部140の液体貯留室31,35と連通する流路部3c,3dには被さらないように設けられている。このとき、ダンパ部材130は、封止性の観点から、少なくともダンパ部材130の周縁部についてはその全域を接着することが好ましい。
【0090】
そこで、本変形例5でも、
図19に示すように、上述した変形例4と同様、共通流路基板120の各共通流路部3a,3bと流路部3c,3dとの連通流路部3f,3fの箇所に上壁部122を形成している。このような上壁部122を形成することで、ダンパ部材130の周縁部の全域を、共通流路基板120の上面部分(上壁部122を含む。)に接着剤132で接着することができ、十分な封止性を得ることができる。
【0091】
なお、上壁部122の厚みを大きくし過ぎると、連通流路部3f,3fの断面積が狭くなり、連通流路部3f,3fの流体抵抗を高めてしまう。したがって、上壁部122の厚みは、要求される上壁部122の剛性と連通流路部3f,3fの流体抵抗とのバランスを考慮して設定される。
【0092】
また、本変形例5も、前記変形例3や前記変形例4と同様に、個別流路4の各開口部4aに面する2つの共通流路部3a,3bの一方が供給用共通流路部であり、他方が排出用共通流路部である例であるが、これに限られない。例えば、上述した変形例1の液体吐出ヘッド1のように、個別流路4の各開口部4aに面する2つの共通流路部3a,3bのいずれもが供給用共通流路部である例においても、本変形例5は適用可能である。
【0093】
次に、本実施形態1(上述した変形例を含む。以下同じ。)における液体吐出ヘッド1に液体を充填する液体充填方法について、説明する。
図20(a)は、液体吐出ヘッド1の供給用共通流路部3aから液体を供給して排出用共通流路部3bから液体を排出するように液体を循環させる順方向循環で使用する例である。
図20(b)は、液体吐出ヘッド1の排出用共通流路部3bから液体を供給して供給用共通流路部3aから液体を排出するように液体を循環させる逆方向循環で使用する例である。
図20(c)は、液体吐出ヘッド1の共通流路部3a,3bに対して液体供給のみを行い、液体吐出ヘッド1から液体を排出しない非循環(片方向供給)での使用例である。
【0094】
本例の液体循環装置200は、液体吐出ヘッド1から吐出する液体を貯留する液体貯留手段であるメインタンク201と、図中の循環経路で接続されたメインサブタンク231と、メインタンク201からメインサブタンク231に液体を送液するメイン送液ポンプ204とを備えている。
【0095】
液体循環装置200における循環経路には、第1サブタンク211と、第1送液手段である第1送液ポンプ202と、第2サブタンク221と、第2送液手段である第2送液ポンプ203と、異物除去フィルタ271と、脱気装置272(送液や吐出を阻害する気泡発生の原因となる溶存気体を脱気する装置)と、第1マニホールド241と、第2マニホールド251とを備えている。
【0096】
1つ又は複数の液体吐出ヘッド1が、第1加減圧ダンパ261、第2加減圧ダンパ262を介して、それぞれ第1マニホールド241、第2マニホールド251に連結される。また、第1マニホールド241と第2マニホールド251には、それぞれの圧力を検知する検知手段としての第1圧力センサ242、第2圧力センサ252が設けられている。
【0097】
メインタンク201に貯留された液体は、メインサブタンク231内の液面を検知する液面検知手段の検知結果に基づいてメイン送液ポンプ204によってメインサブタンク231に送液される。第1送液ポンプ202は、メインサブタンク231につながる共通液体経路と第1サブタンク211とを通じる液体経路に配置され、液体吐出ヘッド1側である第1サブタンク211に向けて液体を送液する。 これにより、第1サブタンク211から液体が加圧されて第1マニホールド241(
図20(a)の順方向循環の場合)、あるいは第2マニホールド251(
図20(b)の逆方向循環の場合)に送られる。
【0098】
第2送液ポンプ203は、メインサブタンク231につながる共通液体経路と第2サブタンク221とを通じる液体経路に配置され、第2サブタンク221から液体を回収する方向に液体を送液する。これにより、減圧された第2サブタンク221に第2マニホールド251(
図20(a)の順方向循環の場合)、あるいは第1マニホールド241(
図20(b)の逆方向循環の場合)から液体が回収(排出)される。
【0099】
ここで、
図20(a)の順方向循環の場合、第1サブタンク211は、第1圧力センサ242の圧力検知情報を元に第1送液ポンプ202によって目標圧力に加圧される。 第1送液ポンプ202は、第1圧力センサ242で検知した圧力値が設定閾値より低くなったときにメインサブタンク231から第1サブタンク211へ送液する。また、第2サブタンク221は、第2圧力センサ252の圧力検知情報を元に第2送液ポンプ203によって目標圧力に減圧されている。第2送液ポンプ203は、第2圧力センサ252で検知した圧力値が設定閾値より高くなったときに第2サブタンク221からメインサブタンク231に送液する。
【0100】
また、
図20(b)の逆方向循環の場合、第1サブタンク211は、第2圧力センサ252の圧力検知情報を元に第1送液ポンプ202によって目標圧力に加圧される。第1送液ポンプ202は、第2圧力センサ252で検知した圧力値が設定閾値より低くなったときにメインサブタンク231から第1サブタンク211へ送液する。また、第2サブタンク221は、第1圧力センサ242の圧力検知情報を元に第2送液ポンプ203によって目標圧力に減圧されている。第2送液ポンプ203は、第1圧力センサ242で検知した圧力値が設定閾値より高くなったときに第2サブタンク221からメインサブタンク231に送液する。
【0101】
以上のように、第1送液ポンプ202による送液によって第1サブタンク211が加圧され、第2送液ポンプ203による送液によって第2サブタンク221が減圧されることで、第2サブタンク221と第1サブタンク211との間には圧力差が与えられ、この圧力差によって、第1マニホールドと第2マニホールドとの間の液体吐出ヘッド1に液体が循環される。
【0102】
圧力差によって第1サブタンク211から第2サブタンク221に液体が流れると、第1サブタンク211の圧力が低下し、上流側(加圧側)の圧力センサ(
図20(a)の順方向循環の場合は第1圧力センサ242、
図20(b)の逆方向循環の場合は第2圧力センサ252)がその圧力低下を検知し、第1送液ポンプ202が動作して液体をメインサブタンク231から補充して加圧する。
【0103】
また、同様に、圧力差によって第1サブタンク211から第2サブタンク221に液体が流れると、第2サブタンク221の圧力が上昇(負圧が弱まる)し、下流側(減圧側)の圧力センサ(
図20(a)の順方向循環の場合は第2圧力センサ252、
図20(b)の逆方向循環の場合は第1圧力センサ242)がその圧力上昇を検知し、第2送液ポンプ203が動作して、液体をメインサブタンク231に排出して減圧する。
【0104】
ここで、液体吐出ヘッド1によって液体が吐出などで消費されていない状態では、メインサブタンク231の液体量は大きく変化しない。これに対し、液体吐出ヘッド1によって液体が吐出されるなどして消費されている状態では、メインサブタンク231の液体量が減少するので、液体量の減少を液面センサなどで検出し、メインタンク201からメイン送液ポンプ204によってメインサブタンク231に液体が補充供給される。
【0105】
図21は、
図20を用いて説明した順方向循環(
図20(a))、逆方向循環(
図20(b))、及び、非循環(片方向供給)(
図20(c))を、切り替えて実施することが可能な液体循環装置200の一例を示すブロック図である。
【0106】
図21に示す液体循環装置200には、第1サブタンク211及び第2サブタンク221と、第1マニホールド241及び第2マニホールド251との間に、第1切替バルブ281A,281B及び第2切替バルブ282A,282Bが配置されている。
【0107】
図22(a)~(f)は、第1切替バルブ281A,281B及び第2切替バルブ282A,282Bの開閉状態をスイッチ(SW1,SW2)の状態で模式的に示した動作例を示すものである。
図22(a)に示す状態は、順方向循環(Aルート)での動作時の状態を示すものである。この場合、第1切替バルブ281Aを開状態とするとともに第1切替バルブ281Bを閉状態とし、かつ、第2切替バルブ282Aを開状態とするとともに第2切替バルブ282Bを閉状態とする。
図22(e)に示す状態は、逆方向循環(Bルート)での動作時の状態を示すものである。この場合、第1切替バルブ281Aを閉状態とするとともに第1切替バルブ281Bを開状態とし、かつ、第2切替バルブ282Aを閉状態とするとともに第2切替バルブ282Bを開状態とする。
図22(c)は、順方向循環(Aルート)と逆方向循環(Bルート)との切り替え途中の状態を示すものである。この場合、第1切替バルブ281A,281B及び第2切替バルブ282A,282Bのいずれも閉状態とする。
【0108】
順方向循環(Aルート)と逆方向循環(Bルート)とを繰り返し切り替えて実施する場合、簡単には、
図22(a)→
図22(c)→
図22(e)→
図22(c)→
図22(a)→
図22(c)→・・・の順で、第1切替バルブ281A,281B及び第2切替バルブ282A,282Bの状態を切り替えればよい。但し、第1サブタンク211と第2サブタンク221の差圧状態(差圧の大きさ)やバルブ動作の時間差により、液体吐出ヘッド1内が瞬時的に正圧となると、場合によっては液漏れ(液だれ)を起こすおそれがある。
【0109】
そのため、
図22(b)に示す状態や
図22(d)に示す状態を設けてもよい。すなわち、
図22(b)の状態は、第1切替バルブ281A,281Bはいずれも閉状態とするとともに、第2切替バルブ282Aを開状態とし、第2切替バルブ282Bを閉状態とする状態である。また、
図22(d)の状態は、第1切替バルブ281A,281Bはいずれも閉状態とするとともに、第2切替バルブ282Aを閉状態とし、第2切替バルブ282Bを開状態とする状態である。
【0110】
そして、順方向循環(Aルート)と逆方向循環(Bルート)とを繰り返し切り替えて実施する場合、
図22(b)及び(d)の状態を介するようにして、例えば、
図22(a)→
図22(b)→
図22(c)→
図22(d)→
図22(e)→
図22(d)→
図22(c)→
図22(b)→
図22(a)→
図22(b)→・・・の順で、第1切替バルブ281A,281B及び第2切替バルブ282A,282Bの状態を切り替える。これによれば、液体吐出ヘッド1内が瞬時的に正圧となることを抑制することができ、液漏れ(液だれ)を起こすことを防止することができる。
【0111】
図22(f)に示す状態は、非循環(方方向供給)での動作時の状態を示すものである。この場合、第1切替バルブ281A,281Bはいずれも開状態とするとともに、第2切替バルブ282A,282Bはいずれも閉状態とする。この場合、第1マニホールド241及び第2マニホールド251への送液は、第1サブタンク211、第1送液ポンプ202のみを用いておこなわれ、第2サブタンク221及び第2送液ポンプ203は流路より切り離されて動作に寄与しない。第2送液ポンプ203の送液方向を逆にする流路と切替バルブを追加で設置することにより、第2サブタンク221及び第2送液ポンプ203を積極的に使用する方式も可能であるが、ここでは説明を省略する。
【0112】
また、本例の場合、第1サブタンク211は、第1圧力センサ242及び第2圧力センサの両方の圧力検知情報を元に第1送液ポンプ202によって目標圧力に加圧されるのであるが、それぞれの圧力センサの圧力値の設定閾値は適宜適切な値に設定されるものであり、順方向循環の場合の閾値と通常は異なる場合が多い。
【0113】
上述した液体循環機構(液体供給装置)200を用いることによって、本実施形態1の液体吐出ヘッド1に対して共通流路部3a,3bを順方向で液体循環させたり、逆方向で液体循環させたり、あるいは、循環させずに供給のみとしたりすることができる。本実施形態1の液体吐出ヘッド1は、初期の液体充填作業時には、順方向だけで液体循環する方法でも十分な充填性が得られる。ただし、増粘した液体、異物、排出の難しい気泡(角部や異物に溜まった気泡など)が流路中に生じるのをより効果的に抑制する上では、順方向と逆方向との間で液体の循環方向を切り替えながら液体充填を実施するのが好ましい。また、順方向と逆方向との間で液体の循環方向を切り替える方法は、サブタンク中の液体(例えば粘度が上昇した場合等)を効率的に排出する場合にも有効である。
【0114】
一方で、液体吐出温度の管理の視点(ワンパスプリンタ等で複数の液体吐出ヘッドを使う場合、液体を昇温あるいは降温して利用する場合等)や、生産性の視点(液体吐出量や液体輸送量が大きい場合、低温下でノズルリフィル速度が不十分な場合等)から、液体吐出の駆動時には、液体を循環させずに、非循環(液体供給のみ)とするのが好ましいい場合もある。本実施形態1によれば、初期の液体充填作業時には、順方向と逆方向との間で液体の循環方向を切り替えながら液体充填を実施し、液体吐出の駆動時には、液体を循環させずに非循環(液体供給のみ)とするということが可能となる。
【0115】
なお、液体の充填性の良し悪しは、流路各部の形状や寸法、流路壁面の状態(荒れや凹凸、壁面表面の材質や性質:親水性/撥水性等)、液体の種類、温度や湿度、流路内の静圧状態等により大きな影響を受けるため、一意に説明することはできない。しかしながら、Si(シリコン)基板にDRIE加工を施して製作した個別流路基板100を用いて、液体の充填性に関する簡易実験を行い、液体の充填性の良し悪し(成功率)を所定のノズル2から液体吐出が出来たか/否かで判断した結果を紹介する。
【0116】
この簡易実験では、
図23(a)に示す比較例1と、
図23(b)に示す比較例2と、本実施形態1とを比較した。比較例1及び比較例2は、いずれも、共通流路基板120'に形成される共通流路3が1つだけで、すべての個別流路4に単一の共通流路3に接続されている構成である。ただし、比較例1は、共通流路3に対してフレーム部140内の供給液体貯留室31からの液体供給のみを行う非循環の例である。一方、比較例2は、共通流路3に対し、フレーム部140内の供給液体貯留室31からの液体供給と、フレーム部140内の排出液体貯留室35への液体排出とを行う液体循環方式である。
【0117】
前記簡易実験の結果、比較例1では、初期充填成功率は20~60%程度、比較例2では、初期充填成功率は70~90%程度であった。これに対し、本実施形態1では、初期充填成功率は98%以上(加工不良ノズルの結果も含む。)という結果が得られた。なお、
図24に示すように共通流路部3a,3bの一部の角部3a1,3b1に丸みを持たせた構成するなど、個別流路4及び共通流路部3a,3bの少なくとも一方において、流路の角部や流路端部などの互いに垂直な2つの平面が連結する箇所については、極力丸みを持たせる曲面部あるいは鈍角部とした構成とし、直角部又は鋭角部を持たない構成を実現すると、気泡排出性に効果があることも確認された。
【0118】
〔実施形態2〕
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドの他の実施形態(以下「実施形態2」という。)について説明する。
本実施形態2における液体吐出ヘッド1は、各個別流路4の開口部4aと、共通流路隔壁120aによって互いに仕切られた2つの共通流路部3a,3bとの間に流体抵抗部38a,38bが設けられた構成となっている。この構成以外については、上述した実施形態1(上述した各変形例を含む。以下同様。)と実質的に同様である。したがって、以下の説明では、上述した実施形態1との重複説明は省略し、上述した実施形態1とは異なる説明を行うものとする。
【0119】
上述した実施形態1において、上述のとおり、共通流路基板120に形成される共通流路3が複数の共通流路部3a,3bに分割されていることで、各個別流路4において、同じ共通流路部3a,3bに接続される周囲の個別流路4の数が少なくなり、各個別流路4のノズル2の吐出不良を生じさせるクロストークが抑制される。ただし、各共通流路部3a,3bに連通する個別流路4の各開口部4aの寸法(開口面積)が大きいほど、クロストークを生じさせる圧力波あるいはクロストークを生じさせる慣性流が個別流路4の開口部4aから各共通流路部3a,3bへと逃げやすい。そのため、個別流路4の各開口部4aの寸法(開口面積)が大きいと、クロストークを十分に抑制できないおそれがある。
【0120】
上述した実施形態1においても、例えば、共通流路部3a,3bを分割する共通流路隔壁120aの厚み寸法を大きくし、共通流路隔壁120aが個別流路4の開口部4aを塞ぐ面積を大きくすることで、各共通流路部3a,3bと連通する開口部4aの開口部分の寸法(開口面積)を小さくすることができる。これによれば、開口部4aの流路抵抗を大きくして、個別流路4の開口部4aから各共通流路部3a,3bへ伝わる圧力波あるいは慣性流を抑制することができる。その結果、各共通流路部3a,3b内で生じる合成振動(各個別流路4からの圧力波あるいは慣性流による合成振動)が小さくなり、その合成振動が各個別流路4に戻って伝わることにより生じるクロストーク(音響クロストーク、流体クロストーク)を十分に抑制することが可能である。
【0121】
しかしながら、共通流路隔壁120aの厚み寸法を大きくすると、その分だけ各共通流路部3a,3bの流路断面積が狭くなることから、各共通流路部3a,3bの流路抵抗が増大し、各共通流路部3a,3bにおける液体の流れを悪化させてしまう。
【0122】
そこで、本実施形態2では、各共通流路部3a,3bにおける液体の流れを悪化させることなく、各共通流路部3a,3bと連通する開口部4aの開口部分に流体抵抗の機能を持たせて、クロストークを十分に抑制する効果を得るものである。
【0123】
図25は、本実施形態2における液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図である。
本実施形態2の液体吐出ヘッド1も、ノズル板110と、個別流路基板100と、共通流路基板120と、フレーム部140とを備えている。ただし、本実施形態2の共通流路基板120には、上述した実施形態1の共通流路基板120と同じ共通流路基板本体121の個別流路基板側に、個別流路4の開口部4aと共通流路部3a,3bとの間を連通させる流体抵抗部38a,38bを構成する流体抵抗層123が設けられている。
【0124】
本実施形態2によれば、複数の共通流路部3a,3bを構成する共通流路基板本体121とは別に、流体抵抗部38a,38bを構成する流体抵抗層123が設けられる。これにより、共通流路部3a,3bを分割する共通流路隔壁120aの厚み寸法を変更することなく、流体抵抗層123の流体抵抗部38a,38bの寸法を変更することで、各共通流路部3a,3bと連通する開口部4aの開口部分の流体抵抗を調整、設定することができる。よって、各共通流路部3a,3bにおける液体の流れを悪化させることなく、適切な流体抵抗を設定することができ、クロストークを十分に抑制する効果を得ることができる。
【0125】
図26は、同液体吐出ヘッドにおける共通流路基板側から個別流路側を見たときの説明図である。
本実施形態2においては、個別流路4の開口部4aに面する一方の共通流路部3aが当該個別流路4へ液体を供給する供給用共通流路部となっており、個別流路4の開口部4aに面する他方の共通流路部3bが当該個別流路4から液体を排出する排出用共通流路部となっている。このような構成において、共通流路部3aに対応する流体抵抗部38aの流路断面積は、個別流路4の開口部4aの全面積の1/2程度以下であるのが好ましい。また、共通流路部3bに対応する流体抵抗部38bの流路断面積は、共通流路部3aに対応する流体抵抗部38aの流路断面積よりも大きいことが好ましい。具体的な寸法は、個別流路4の開口部4aの全面積、その他の流路寸法などによって変わってくるため、適宜設定される。一例として、流体抵抗部38a,38bの開口寸法は、直径40[μm]以上60[μm]以下の円形に相当する開口寸法とすることができる。
【0126】
なお、本実施形態2における流体抵抗部38a,38bの構成は、これに限られない。例えば、
図27に示すように、共通流路部3bに対応する流体抵抗部38bの流路断面積が、共通流路部3aに対応する流体抵抗部38aの流路断面積よりも小さい構成であってもよい。
【0127】
また、個々の個別流路4の各開口部4aと連通する流体抵抗部38a,38bの個数も適宜設定することができる。例えば、
図28に示すように、個々の個別流路4の各開口部4aに対し、2つの流体抵抗部38aと3つの流体抵抗部38bとを連通させた構成とすることもできる。
図28の場合、一例として、個々の流体抵抗部38a,38bの開口寸法は、直径20[μm]程度の円形に相当する開口寸法とすることができる。また、流体抵抗部38a,38bの開口形状(穴形状)は、丸穴、矩形孔など、どのような形状であってもよい。
【0128】
また、本実施形態2における流体抵抗層123は、複数の共通流路部3a,3bを構成する共通流路基板本体121の上に容易に形成することが可能であり、一部品の共通流路基板120として形成することができる。これにより、大きな製造工数アップやコストアップもなく、効果的な対応ができる。
【0129】
具体的には、例えば、Siウェハに対して半導体プロセスとMEMSプロセスの加工を施して、共通流路基板本体121と流体抵抗層123とを備える共通流路基板120の一体形成品を作製することができる。また、例えば、共通流路基板本体121と流体抵抗層123とをそれぞれSUS板等により作成したものを高精度プレス加工によって貼り合わせることで、共通流路基板本体121と流体抵抗層123とを備える共通流路基板120の一体形成品を作製することもできる。また、半導体プロセスとMEMSプロセスと同様なフォトリソグラフィを利用して、電鋳板を用いた高精度電鋳技術により、共通流路基板本体121と流体抵抗層123とを備える共通流路基板120の一体形成品を作製することもできる。
【0130】
本実施形態2によれば、上述した実施形態1と比較すると、個別流路4群の少数グループ化(クロストーク低減の効果、循環性の改善)と、個々の個別流路4への循環構成の設置、個々の個別流路4への流体抵抗の設置(各個別流路4から各共通流路部3a,3bへの不要な圧力伝搬を抑制)とを、一体化した高密度な流路部品によって実現できる。そのため、高密度のノズル配置(チャネル配置、個別液室配置)を維持したまま、部品数低減、製造容易化が図られ、小型高密度化、低コスト化が図られる。
【0131】
本実施形態2における共通流路基板120の形状や各種寸法は、共通流路基板120や駆動基板(アクチュエータ基板)である個別流路基板100及びノズル板110などの各部の流路長や流路抵抗、各種隔壁の幅(厚み)や筐体の剛性など、複数のパラメータで決定されるものであり、更には個別流路4の密度(ノズル密度)や各種寸法、ノズル板110の厚さや大きさ(径や面積)や剛性、ノズル寸法(径や長さ)、アクチュエータの発生力(電圧、駆力)、使用する液体の諸特性(粘土や表面張力等)、駆動方法(駆動波形、電圧等)等にも依存する。
【0132】
本実施形態2の共通流路基板120は、上述したように、Siウェハ、SUS板、電鋳板等から製作可能であるが、精度、再現性、駆動基板(個別流路基板100及びノズル板110)との接合性(熱膨張係数ができるだけ等しい方が良い)、コストといった視点から、駆動基板100,110と同じSiウェハを用いることが好ましい。Siウェハを用いる場合は、Siウェハの厚みや製造方法(特にウェハ研磨、DRIE加工:深堀エッチング加工、ハンドリング容易性等)による制限を受けるため、基板の厚みはおよそ50[μm]以上2[mm]以下の範囲内、流体抵抗層123の厚みはおよそ0.1[μm]以上1[mm]以下の範囲内が好ましく、したがって、共通流路基板120の厚みは50[μm]以上2[mm]以下の範囲内であるのが好ましい。
【0133】
各種パラメータの影響を考慮すると、基板の厚みは200[μm]以上1[mm]以下の範囲内、流体抵抗層123の厚みはおよそ0.1[μm]以上400[μm]以下の範囲内が好ましく、したがって、共通流路基板120の厚みは200[μm]以上1[mm]以下の範囲内であるのが更に好ましい。更には、基板の厚みは400[μm]以上800[μm]以下の範囲内、流体抵抗層123の厚みはおよそ10[μm]以上200[μm]以下の範囲内が好ましく、したがって、共通流路基板120の厚みは400[μm]以上600[μm]以下の範囲内であるのが好ましい。
【0134】
流体抵抗部38a,38b(穴)の個数、大きさ、形状は、クロストークの抑制とリフィル供給速度(液体吐出後、次の吐出までに液体が共通流路部3aから個別流路4内へ充填(リフィル)される速度)のトレードオフの関係を加味して、適宜決定される。特に、リフィル供給速度が遅いほど、高い駆動周波数を実現することが難しくなる。
【0135】
また、供給用共通流路部である共通流路部3aは、そこに連なる複数のチャネル(ノズル2、個別流路4)に所望の量(吐出液体量×駆動周波数)の液体を供給する必要がある。また、排出用共通流路部である共通流路部3bは、液体を回収する必要がある。そのため、これらの共通流路部3a,3bには、十分な流路コンダクタンス(十分に小さな流路抵抗)が必要となる。流路コンダクタンス(流路抵抗)は、概ね、その流路断面積とその流路長とで決定される。
【0136】
流路断面積は、共通流路部3a,3bの幅(上面図から見た幅)と高さ(基板厚さ)との積である。流路幅は、ノズル配置(チャネル配置、個別流路配置)によって、その大きさが制限される。したがって、十分な流路コンダクタンスを確保するためには、共通流路部3a,3bの高さ(厚さ)を十分高くする(厚くする)必要がある。しかしながら、一方で加工性の観点からすると、基板が厚すぎると加工が困難になることから、共通流路部3a,3bの高さ(厚さ)にも制限が入る。本実施形態2の共通流路基板120の厚みは、これらを加味して決定される。上述のように、流路幅や流路厚には、レイアウト上や加工上の制限が入るが、十分な流路コンダクタンスを確保できない場合には、例えば、排出用共通流路部である共通流路部3bに上部から液体を供給することも有効である。
【0137】
また、共通流路部3a,3bの流路コンダクタンスが十分大きく取れない場合、供給用共通流路部である共通流路部3aの方が排出用共通流路部である共通流路部3bよりも液体流量が大きいため、共通流路部3aの流路幅を共通流路部3bの流路幅よりも大きくするのがよい。一方で、十分な流路コンダクタンスが取れる場合には、これに限るものではなく、同じ幅であっても良いし、排出性を改善するために、排出用共通流路部である共通流路部3bの流路幅の方を大きくしてもよい。
【0138】
そのほか、本実施形態2については、上述した実施形態1と同様であり、例えば、上述した変形例1のように、個別流路4の各開口部4aに面する2つの共通流路部3a,3bのいずれもが供給用共通流路部である構成であってもよいし、その他の変形例などの構成であってもよい。
【0139】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について、
図29及び
図30を参照して説明する。
図29は、本実施形態における液体を吐出する装置としての画像形成装置であるインクジェット記録装置である印刷装置の概略説明図である。
図30は、本実施形態の印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【0140】
この液体を吐出する装置である印刷装置500は、連続体510を搬入する搬入手段501と、搬入手段501から搬入された連続体510を印刷手段505に案内搬送する案内搬送手段503とを備えている。また、印刷装置500は、連続体510に対して液体を吐出して画像を形成する印刷を行う印刷手段505と、連続体510を乾燥する乾燥手段507と、連続体510を搬出する搬出手段509なども備えている。
【0141】
連続体510は搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509の各ローラによって案内、搬送されて、搬出手段509の巻取りローラ591にて巻き取られる。この連続体510は、印刷手段505において、搬送ガイド部材559上をヘッドユニット550に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液体によって画像が印刷される。
【0142】
本実施形態の印刷装置500では、ヘッドユニット550に、上述した本実施形態に係る2つのヘッドモジュール100A,100Bを共通ベース部材552に備えている。
【0143】
そして、ヘッドモジュール100A,100Bの搬送方向と直交する方向における液体吐出ヘッド1の並び方向をヘッド配列方向とするとき、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1A1,1A2で同じ色の液体を吐出する。同様に、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1B1、1B2を組とし、ヘッドモジュール100Bのヘッド列1C1、1C2を組とし、ヘッド列1D1、1D2を組として、それぞれ所要の色の液体を吐出する。
【0144】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置としての印刷装置の他の例について、
図31及び
図32を参照して説明する。
図31は、本例の印刷装置の要部平面説明図である。
図32は、本例の印刷装置の要部側面説明図である。
【0145】
本例の印刷装置500は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0146】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド1及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ヘッド1は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド1は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。液体吐出ヘッド1は、液体循環装置と接続されて、所要の色の液体が循環供給される。
【0147】
この印刷装置500は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド1に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0148】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド1の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド1のノズル面をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。また、主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0149】
このように構成した印刷装置500においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0150】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について、
図33を参照して説明する。
図33は、本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図である。
【0151】
この液体吐出ユニット440は、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド1で構成されている。
【0152】
なお、この液体吐出ユニット440の例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420を更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0153】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について、
図34を参照して説明する。
図34は、本例の液体吐出ユニットの正面説明図である。
【0154】
この液体吐出ユニット440は、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド1と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0155】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド1と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0156】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・S以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどである。これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0157】
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、液体循環装置の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0158】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0159】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0160】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0161】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0162】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0163】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0164】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものとする。
【0165】
なお、ここでは、「液体吐出ユニット」について、液体吐出ヘッドとの組み合わせで説明しているが、「液体吐出ユニット」には上述した液体吐出ヘッドを含むヘッドモジュールやヘッドユニットと上述したような機能部品、機構が一体化したものも含まれる。
【0166】
「液体を吐出する装置」には、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、ヘッドモジュール、ヘッドユニットなどを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0167】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0168】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0169】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0170】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0171】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0172】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0173】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置がる。また、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などもある。
【0174】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0175】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
[第1態様]
第1態様は、液体(例えばインク)を吐出する複数のノズル2と、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路4と、前記複数の個別流路ごとにそれぞれ設けられる複数のアクチュエータ(例えば圧電素子5、ヒータ素子5')と、前記複数の個別流路のノズル形成壁(例えばノズル板110)と対向する側に位置する該複数の個別流路の各開口部4aに面する共通流路3とを備え、前記アクチュエータを駆動して前記個別流路内の液体を前記ノズルから吐出させる液体吐出ヘッド1であって、前記共通流路は、隔壁(例えば共通流路隔壁120a)によって互いに仕切られた複数の共通流路部3a,3bを有し、前記複数の個別流路の各開口部は、前記複数の共通流路部のうちの互いに異なる2以上の共通流路部に面していることを特徴とするものである。
複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路に対し、ノズル形成壁と対向する側に位置する各個別流路の開口部に面するように共通流路が設けられる従来の液体吐出ヘッドにおいては、初期時に液体吐出ヘッド内へ液体を充填する際に、個別流路内、特に個別流路の角部(個別流路のノズル形成壁と側壁との連結箇所)に気泡が残ってしまうことがある。個別流路内に気泡が生じると、アクチュエータの駆動によって個別流路内の液体をノズルから適切に吐出できず、液体の吐出不良が発生し得る。
従来の液体吐出ヘッドでは、各個別流路の開口部全体に対して1つの共通流路が面している構成であったため、個別流路の開口部全体に対して液体がほぼ一様に出入りすることになる。そのため、個別流路内での液体の動きが少なく、例えば、当該液体吐出ヘッドへの液体充填作業時に、個別流路の開口部から液体を個別流路内へ供給して個別流路内に液体を充填する際、個別流路の角部等に気泡が生じやすい。また、当該液体吐出ヘッドの稼働中も個別流路内の液体の動きが少ないため、個別流路の角部等の気泡は当該角部に滞留し続ける結果、吐出不良を引き起こす。
本態様においては、複数の個別流路の各開口部に対し、隔壁によって互いに仕切られた複数の共通流路部のうちの互いに異なる2以上の共通流路部が面している。これによれば、個別流路の開口部に対して液体を出入させる箇所が2以上になることから、個別流路の開口部に対する液体の出入り(流れ)が当該2以上の箇所で非対称となりやすい。よって、個別流路の開口部全体が1つの共通流路に面していて個別流路の開口部全体に対して液体がほぼ一様に出入りする従来の構成と比較して、個別流路内の液体の動きを生じさせやすい。その結果、個別流路の角部の気泡が個別流路の角部から移動しやすくなり、当該液体吐出ヘッドの液体充填作業時あるいは稼働中において、気泡が個別流路から排出され、吐出不良の発生が抑制される。
【0176】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記複数の個別流路の各開口部に面する前記2以上の共通流路部が、当該個別流路へ液体を供給する供給用共通流路部であることを特徴とするものである。
これによれば、液体の消費量(吐出量)が多い場合でも、各個別流路への安定した液体供給を実現することができる。
【0177】
[第3態様]
第3態様は、第1態様において、前記複数の個別流路の各開口部に面する前記2以上の共通流路部の一部が、当該個別流路へ液体を供給する供給用共通流路部であり、該2以上の共通流路部の他部が、当該個別流路から液体を排出する排出用共通流路部であることを特徴とするものである。
これによれば、個別流路の開口部に対し、供給用共通流路部から液体を流入させる流れと、排出用共通流路部へ液体を流出させる流れとを作り出すことができ、個別流路内の液体の入れ替えが可能となる。したがって、個別流路内の液体の動きをより活発なものとすることができ、個別流路内の気泡を動かして個別流路内から排出しやすく、吐出不良の発生を更に抑制することができる。
【0178】
[第4態様]
第4態様は、第1乃至第3態様のいずれかにおいて、前記複数の共通流路部を構成する共通流路基板120は、前記複数の個別流路を構成する個別流路基板100とは別基板で構成されていることを特徴とするものである。
これによれば、共通流路基板及び個別流路基板をそれぞれ高精度に加工して作製することができる。
【0179】
[第5態様]
第5態様は、第4態様において、前記共通流路基板120は、前記個別流路の前記開口部と前記共通流路部との間を連通させる流体抵抗部38a,38bを構成する流体抵抗層123を有することを特徴とするものである。
本態様によれば、複数の共通流路部を構成する共通流路基板の基板本体とは別に、流体抵抗部を構成する流体抵抗層が設けられる。これにより、共通流路部を分割する共通流路隔壁の厚み寸法を変更することなく、流体抵抗層の流体抵抗部の寸法を変更することで、各共通流路部と連通する個別流路の開口部の開口部分の流体抵抗を調整、設定することができる。したがって、各共通流路部における液体の流れを悪化させることなく、適切な流体抵抗を設定することができ、クロストークを十分に抑制する効果を得ることができる。
【0180】
[第6態様]
第6態様は、第1乃至第3態様のいずれかにおいて、前記個別流路の前記開口部と前記共通流路部との間が流体抵抗部を介して連通していることを特徴とするものである。
本態様によれば、各共通流路部と連通する個別流路の開口部の開口部分の流体抵抗を調整、設定して、クロストークを十分に抑制する効果を得ることができる。
【0181】
[第7態様]
第7態様は、第1乃至第6態様のいずれかにおいて、前記個別流路の前記開口部と前記2以上の共通流路部のそれぞれとの間を連通させる各流路の断面積が互いに異なっていることを特徴とするものである。
これによれば、個別流路の開口部と2以上の共通流路部のそれぞれとの間を連通させる各流路の断面積が互いに同じである構成よりも、各流路間で個別流路に対する液体の出入りの違いが生じ、個別流路内での液体の動きを活発なものとなる。
特に、排出用共通流路部に対応する流路断面積を、供給用共通流路部に対応する流路断面積よりも大きくすることで、個別流路に対する液体の出入りをスムーズなものとすることができる。
【0182】
[第8態様]
第8態様は、第4又は第5態様において、前記共通流路基板は、Siウェハ、SUS板又は電鋳板のいずれかによって形成されていることを特徴とするものである。
これによれば、高精度加工可能が可能となり、高精度な共通流路基板を作製することができる。
【0183】
[第9態様]
第9態様は、第4、第5又は第8態様において、前記共通流路基板の厚みは、0.05[mm]以上2[mm]以下の範囲内であることを特徴とするものである。
これによれば、共通流路基板に必要な剛性を確保しつつ、適切な流路断面積を確保して液体の適正な流れを維持することができる。
【0184】
[第10態様]
第10態様は、第1乃至第9態様のいずれかにおいて、前記複数の共通流路部における前記複数の個別流路の開口部と対向する側には、ダンパ部材130が設けられていることを特徴とするものである。
これによれば、複数ノズルの同時駆動時に発生するクロストークをダンパ部材の機能により低減することができる。
【0185】
[第11態様]
第11態様は、第10態様において、前記ダンパ部材は、前記複数の共通流路部にまたがって配置されるフィルム状部材で構成され、該フィルム状部材の周縁部が固定されていることを特徴とするものである。
これによれば、コンプライアンスを大きくして、ダンパ部材のダンパ機能を増大させることができる。
【0186】
[第12態様]
第12態様は、第1乃至第11態様のいずれかにおいて、前記個別流路及び前記共通流路部の少なくとも一方は、互いに垂直な2つの平面が連結する箇所が鈍角部又は曲面部であることを特徴とするものである。
これによれば、流路中の気泡だまり発生、停滞を抑制することができる。
【0187】
[第13態様]
第13態様は、第1乃至第12態様のいずれかにおいて、前記アクチュエータは、前記ノズル形成壁上、前記ノズル形成壁内、又は、前記ノズル形成壁の近傍に配置されていることを特徴とするものである。
これによれば、ノズル形成壁と対向する側に位置する複数の個別流路の開口部に共通流路を面するという構成を容易に実現することができる。
【0188】
[第14態様]
第14態様は、第13態様において、前記アクチュエータは、前記ノズル形成壁を変位させる電気機械変換素子(例えば圧電素子5)であることを特徴とするものである。
これによれば、いわゆるノズル板振動方式の液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0189】
[第15態様]
第15態様は、第13態様において、前記アクチュエータは、前記個別流路内の液体中にバブルを発生されるヒータ素子5'であることを特徴とするものである。
これによれば、個別流路4内の液体中にバブルを発生させることにより液体を吐出する方式の液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0190】
[第16態様]
第16態様は、液体を吐出する装置であって、第1乃至第15態様のいずれかの液体吐出ヘッドを備えることを特徴とするものである。
これによれば、個別流路内に生じる気泡による吐出不良が抑制された液体を吐出する装置を提供することができる。
【0191】
[第17態様]
第17態様は、第1乃至第15態様のいずれかの液体吐出ヘッド内に液体を充填する液体充填方法であって、前記複数の個別流路の各開口部に面する前記2以上の共通流路部の一部から当該個別流路へ液体を流入させるとともに、該2以上の共通流路部の他部から当該個別流路内の液体を流出させて、前記液体吐出ヘッド内に液体を充填することを特徴とするものである。
これによれば、液体吐出ヘッド内の流路中に気泡等を生じさせることなく、液体吐出ヘッドに液体を適正に充填することができる。
【0192】
[第18態様]
第18態様は、第17態様において、前記複数の個別流路の各開口部に面する前記2以上の共通流路部の一部から当該個別流路へ液体を流入させるとともに、該2以上の共通流路部の他部から当該個別流路内の液体を流出させる第一充填工程(例えば順方向循環)と、前記2以上の共通流路部の前記他部から当該個別流路へ液体を流入させるとともに、該2以上の共通流路部の前記一部から当該個別流路内の液体を流出させる第二充填工程(例えば逆方向循環)とを、互いに切り替えて実施することを特徴とするものである。
これによれば、更に高い充填性をもって液体吐出ヘッドに液体を充填することができる。
【符号の説明】
【0193】
1 :液体吐出ヘッド
2 :ノズル
3 :共通流路
3a :供給用共通流路部
3b :排出用共通流路部
3c,3c1,3c2:流路入口部
3d,3d1,3d2:流路出口部
3e,3f:連通流路部
4 :個別流路
4a :開口部
5 :圧電素子
5' :ヒータ素子
31 :供給液体貯留室
35 :排出液体貯留室
38a,38b:流体抵抗部
100 :個別流路基板
103 :振動膜
110 :ノズル板
120 :共通流路基板
120a :共通流路隔壁
120d :仕切り壁
121 :共通流路基板本体
122 :上壁部
123 :流体抵抗層
130 :ダンパ部材
131 :空気室
132 :接着剤
140 :フレーム部
200 :液体循環装置
201 :メインタンク
202 :第1送液ポンプ
203 :第2送液ポンプ
204 :メイン送液ポンプ
211 :第1サブタンク
221 :第2サブタンク
231 :メインサブタンク
241 :第1マニホールド
242 :第1圧力センサ
251 :第2マニホールド
252 :第2圧力センサ
261 :第1加減圧ダンパ
262 :第2加減圧ダンパ
271 :異物除去フィルタ
272 :脱気装置
281A,281B:第1切替バルブ
282A,282B:第2切替バルブ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0194】