(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132876
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】覚醒状態の制御方法、覚醒状態制御システム、情報処理装置、及びウエアラブルデバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 21/00 20060101AFI20240920BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61M21/00 B
A61B5/16 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024006412
(22)【出願日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2023043476
(32)【優先日】2023-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】関根 良浩
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 航治
(72)【発明者】
【氏名】木村 一平
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP05
(57)【要約】
【課題】日々の心身状態の変動に追従した覚醒状態制御技術を提供する。
【解決手段】覚醒状態制御方法は、情報処理装置において、ユーザの生体情報を取得し、前記生体情報から前記ユーザの覚醒状態を示す指標となるバイタル値を計算し、刺激付与下での前記バイタル値の変化の傾向と変化量を計算し、前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて前記ユーザに付与する刺激と刺激付与のタイミングを決定する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置において、
ユーザの生体情報を取得し、
前記生体情報から前記ユーザの覚醒状態を示す指標となるバイタル値を計算し、
刺激付与下での前記バイタル値の変化の傾向と変化量を計算し、
前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、前記ユーザに付与する刺激と刺激付与のタイミングを決定する
覚醒状態制御方法。
【請求項2】
前記情報処理装置において、
決定された前記刺激と前記刺激付与のタイミングと、前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量とを、前記生体情報の取得日時、前記ユーザが行う作業内容、及び前記ユーザの心身状態の少なくとも一つと関連付けて蓄積し学習データを生成する、
請求項1に記載の覚醒状態制御方法。
【請求項3】
前記情報処理装置において、
前記学習データの確立前は、前記情報処理装置にプリインストールされた統計データまたは前記ユーザの指定に基づいて測定時の初回刺激を決定し、
前記初回刺激による前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、前記刺激と前記刺激付与のタイミングを決定する、
請求項2に記載の覚醒状態制御方法。
【請求項4】
前記情報処理装置において、
前記学習データの確立後は、前記学習データを参照して測定時の初回刺激を決定し、
前記初回刺激による前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、前記刺激と、前記刺激付与のタイミングを決定する、
請求項2に記載の覚醒状態制御方法。
【請求項5】
前記情報処理装置において、
前記バイタル値の前記変化の傾向を前記学習データと比較し、前記バイタル値の前記変化の傾向が前記学習データと異なる場合に、前記刺激を変更する、
請求項4に記載の覚醒状態制御方法。
【請求項6】
前記情報処理装置において、
前回付与した前記刺激による前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、次回付与する前記刺激付与のタイミングを設定する、
請求項1に記載の覚醒状態制御方法。
【請求項7】
情報処理装置において、
前記ユーザの作業開始に先立って前記生体情報を取得し、
前記作業開始よりも前の前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、前記作業開始の前、または作業中に、前記ユーザに付与する前記刺激と前記刺激付与のタイミングを決定する、
請求項1に記載の覚醒状態制御方法。
【請求項8】
情報処理装置において、
前記ユーザの作業開始の前または作業中に、前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、刺激付与のオンとオフのタイミングを決定し、前記作業開始の前または前記作業中に前記ユーザの前記覚醒状態を目標レベルに制御する、
請求項1に記載の覚醒状態制御方法。
【請求項9】
ユーザの生体情報を検知するセンサと、
前記生体情報を解析する情報処理装置と、
2以上の異なる刺激を生成するウエアラブルデバイスと、
を備え、
前記情報処理装置は、前記生体情報から前記ユーザの覚醒状態を示す指標となるバイタル値を計算し、刺激付与下での前記バイタル値の変化の傾向と変化量に基づいて前記ユーザに付与する刺激と刺激付与のタイミングを決定して、前記ウエアラブルデバイスを駆動する、
覚醒状態制御システム。
【請求項10】
ユーザの生体情報を取得する生体情報取得部と、
前記生体情報からバイタル値を計算するバイタル値計算部と、
刺激付与下での前記バイタル値の変化の傾向と変化量を計算する変化傾向及び変化量計算部と、
前記バイタル値の前記変化傾向と前記変化量に基づいて前記ユーザに付与する刺激と刺激付与のタイミングを決定する決定部と、
を有する、
情報処理装置。
【請求項11】
前記刺激と前記刺激付与のタイミングと、前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量とを、前記生体情報の取得日時、前記ユーザが行う作業内容、及び前記ユーザの心身状態の少なくとも一つと関連付けて蓄積し学習データを生成するデータ生成・蓄積部、
を有する請求項10に記載の情報処理装置。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の情報処理装置で決定された刺激を生成するウエアラブルデバイスであって、
前記刺激を生成する複数の刺激付与デバイスと、
前記刺激付与デバイスを支持する本体と、を有し、
前記複数の刺激付与デバイスは、前記情報処理装置の指示に基づいて2以上の異なる刺激を付与する
ことを特徴とするウエアラブルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、覚醒状態の制御方法、覚醒状態制御システム、情報処理装置、及びウエアラブルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
心身のリラックス度または覚醒度は、人の健康状態や作業効率に影響する。心身のリラックス度または覚醒度には、自律神経の働きが関係している。覚醒時には交感神経が活発になり、リラックスしているときは副交感神経が活発になる。覚醒レベルが高いと集中力が高まるが、覚醒レベルが高すぎると、過度のストレスでパフォーマンスが低下する。被測定者の心拍から抽出した心拍揺らぎに含まれる所定の周波成分を閾値と比較して被測定者のリラックスの度合いを判定し、反応モデルを参照して被測定者に付与すべき刺激とその強度を選択する技術が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
移動体に搭乗した搭乗者の心身状態を目標状態に調整するために、心身状態の調整を個々人に合わせてパーソナル化する手法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。この手法では、搭乗者の心身情報の解析と、搭乗者の心身の目標状態の設定と、刺激信号生成の少なくとも一つが、搭乗者ごとに最適化(パーソナル化)される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
刺激に対する反応とその反応が誘発されるまでの応答時間は、個人によって異なるだけでなく、同じ個人であっても日々の健康状態、活動の時間帯、気候、環境などによって変化する。作業を開始する時点までに、または少なくとも作業中には、その作業に必要な心身状態に達していることが望ましいが、同じ個人であっても刺激を付与する最適なタイミングは変化し得る。特許文献1では、心拍揺らぎの高周波成分または心拍間隔と、付与すべき刺激との関係を規定した反応モデルを更新しているが、刺激付与による生体データの変化の傾向または変化量は考慮されていない。特許文献2でも、パーソナル化に際して刺激による生体データの変化の傾向または変化量は考慮されていない。
【0005】
心身状態の変動に追従した覚醒状態制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態において、覚醒状態制御方法は、情報処理装置において、
ユーザの生体情報を取得し、
前記生体情報から前記ユーザの覚醒状態を示す指標となるバイタル値を計算し、
刺激付与下での前記バイタル値の変化の傾向と変化量を計算し、
前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、前記ユーザに付与する刺激と刺激付与のタイミングを決定する。
【発明の効果】
【0007】
日々の心身状態の変動に追従した覚醒状態制御技術が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】個人のバイタル値の変化の傾向と変化量を示す図である。
【
図3】実施形態の覚醒制御システムのブロック図である。
【
図4】実施形態の覚醒制御システムの外観図である。
【
図5】覚醒制御システムで用いられる情報処理装置のハードウェア構成図である。
【
図7】第1実施例の覚醒状態制御のフローチャートである。
【
図8A】
図7の覚醒状態制御によるバイタル値の変化の一例を示す図である。
【
図8B】
図7の覚醒状態制御によるバイタル値の変化の別の例を示す図である。
【
図9A】第2実施例の覚醒状態制御のフローチャートである。
【
図9B】
図9AのステップS29の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】リアルタイム取得データと学習データとの比較の例を示す図である。
【
図11】第3実施形態の覚醒状態制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下で、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、発明の技術思想を具体化するための例示であり、本発明を下記の構成、及び手法に限定するものではない。図面中、同一の構成要素には同一符号を付して、重複する記載を省略する場合がある。図面に示される部材の大きさや位置関係は、発明の理解を容易にするために誇張されている場合がある。
【0010】
実施形態では、刺激により覚醒状態またはリラックス状態の調整する際に、個人差だけではなく、個人の心身状態の日々の変動に追従するように、付与する刺激の種類とその強度に加えて、刺激付与のタイミングを決定する。刺激付与のタイミングには、刺激をオンにするタイミング、オフにするタイミング、刺激継続時間、及び刺激停止時間が含まれる。すなわち、一定時間、一定間隔で一律に刺激を付与するのではなく、所望の時間帯に目標の覚醒状態またはリラックス状態になるように刺激付与のタイミングを制御する。これを実現するために、個人ごとに、刺激によるバイタル値の変化の傾向と変化量(または変化率)を取得し、蓄積された学習データと比較して、その時点で被計測者にとっての最適な刺激付与のタイミングを決定する。
【0011】
「バイタル値」とは、一般的には体温、心拍、呼吸数、血圧などの生命情報の値を意味するが、実施形態では、センサで検知された生体信号を解析して得られる生体パラメータであって、覚醒状態を示す指標となる情報を「バイタル値」に含める。刺激によるバイタル値の変化の傾向と変化量(または変化率)に着目することで、その時点での個人の心身状態に応じた適切な刺激を、適切なタイミングで付与し、所望の覚醒状態またはリラックス状態へと導く。覚醒状態とリラックス状態は表裏の関係にあるため、以下では、覚醒状態とリラックス状態をまとめて「覚醒状態」と呼ぶことがある。また、一定時間当たりの変化量がわかれば変化率が求まるため、変化量と変化率を合わせて「変化量」とする。
【0012】
図1は、刺激に対する反応の個人差を示す。横軸は時間、縦軸はLF/HF値を示す。LF/HF値はバイタル値の一例であり、心拍変動のパワースペクトルに含まれる低周波(LF:Low Frequency)成分と高周波(HF:High Frequency)成分の比を表す。LF成分は、心拍変動のパワースペクトルのうち、0.004~0.150Hzの周波数帯であり、交感神経と副交感神経の両方の活動を反映するとされている。HF成分は、心拍変動のパワースペクトルのうち、0.150~0.400Hzの周波数帯であり、副交感神経の活動を反映するとされている。
【0013】
LF/HF値は、交感神経と副交感神経のどちらが、どの程度優位な状態にあるかを示す。ユーザが覚醒または緊張状態にある場合、交感神経が副交感神経よりも優位な状態となり、LF/HFの値は大きくなる。ユーザがリラックスした状態のときは、副交感神経が交感神経よりも優位な状態にあり、LF/HFの値は小さくなる。
【0014】
図1の(A)で、ユーザAにとって、うなじに涼感を与える刺激はLF/HF値を増大する刺激、すなわち覚醒刺激である。涼感刺激を付与している間のLF/HF値の変化量を見ると、涼感刺激は、ユーザAにとって覚醒を高めるための効果的な刺激である。一方で、ユーザBにとってうなじへの涼感刺激は、
図1の(B)に示すように、LF/HF値を下げる方向の刺激、すなわちリラックス刺激である。ユーザBを覚醒状態に導くには、
図1の(C)のように、高周波電気刺激が望ましい。高周波電気刺激を付与することで、ユーザBのLF/HF値は向上するが、ユーザAに対する涼感刺激と比較して、その変化量が小さい。ユーザごとに、刺激付与下でのバイタル値の変化の傾向と変化量を事前に取得し、学習データとして蓄積することで、ユーザごとに目標の時間帯に目標のバイタル値に達するように、刺激付与のタイミングを最適化できる。
【0015】
図2は、刺激付与下での個人のバイタル値の変化の傾向と変化量を示す。横軸は時刻、縦軸はバイタル値としてのLF/HF値である。12時過ぎの時間帯で、刺激を与えていないときにLF/HF値が低下し、覚醒状態が低下する。この無刺激の区間の平均バイタル値は8.7である。12時40分前後に、涼感刺激をうなじに与えることでバイタル値は上昇し、13時過ぎには、バイタル値は低下する前のレベルに回復する。涼感刺激を継続することで、バイタル値はさらに上昇し、覚醒度が高くなるが、過度の覚醒状態(緊張状態)になる前に涼感刺激を停止する。この刺激区間のバイタル値の平均値は10.2であり、5分当たりの変化率は1.5/5分である。
【0016】
涼感刺激の付与を35分程度継続したあとに、刺激の付与を停止する。これによりバイタル値は一時的に低下するが、それまでの涼感刺激の影響で、バイタル値は上昇する。この刺激オフ区間のバイタル値の平均値は7.8である。その後、低周波の筋電気刺激(EMS:Electrical Muscle Stimulation)をうなじに与える。このユーザにとって、EMS刺激も覚醒方向への刺激であるが、涼感刺激と比較してバイタル値の変化量または変化の割合は小さい。バイタル値の変化をみながら、バイタル値の変化の傾向または変化量が異なる別の刺激を与えることで、ユーザを適切な覚醒状態に維持することができる。
【0017】
図1及び2に示したバイタル値の変化の傾向と変化量をユーザごとに蓄積し、解析することで、刺激付与のタイミングを最適化できる。以下で、上記の知見に基づく実施形態の覚醒状態制御システムと覚醒状態制御方法を、詳しく説明する。実施形態では、(1)リアルタイム取得データ、(2)学習データ、及び(3)統計データの3種類のデータを用いて、覚醒状態を制御する。
【0018】
リアルタイム取得データは、刺激による覚醒状態の制御中にリアルタイムに取得されるデータであり、ユーザの作業中、または作業の前後を通して取得されるデータである。リアルタイム取得データには、センサから取得される生体情報、生体情報から算出されるバイタル値、ユーザに与えられる刺激、刺激によるバイタル値の変化の傾向と変化量、を含む。生体情報は、センサ115から出力される生データであり、バイタル値の算出後に一定時間保持された後に破棄されてもよい。リアルタイム取得データは、作業開始時刻などの所定の時刻に先立って事前取得データとして取得されてもよいし、作業中に継続的に取得されてもよい。このリアルタイム取得データを解析して、ユーザの心身状態の日々の変動に追従してユーザに付与する刺激と刺激付与のタイミングを最適化する。
【0019】
学習データは、特定のユーザの覚醒状態の制御と関連して、一定期間、たとえば少なくとも1か月間蓄積されたデータである。学習データは、付与された刺激と刺激の強度、刺激によるバイタル値の変化の傾向と変化量、及び、バイタル値の変化の傾向と変化量に基いて決定された刺激と刺激付与のタイミングを含む。これらの基本情報を「バイタル関連情報」と呼ぶ。バイタル関連情報を、測定の日時、ユーザが行う作業内容、ユーザの心身状態、温度や湿度等の環境情報の少なくとも一つと関連付けて記録し、学習データを生成してもよい。季節または環境要因やユーザ情報を学習データに含めることで、季節ごと、曜日ごとまたは時間帯ごとの個人の癖などが把握される。計測ごとに学習データを更新し解析することで、類似する状況で刺激に対するユーザの反応の傾向に合わせて覚醒状態を制御できる。学習データを参照することで、最も望ましいタイミングで適切な刺激を与えて、目標のバイタル値への収束時間を短縮する。なお、学習データは、ユーザなどによって事前に入力された情報に基づくデータ、又は後述する
図7に示すフローによって得られるデータであっても良い。
【0020】
統計データは、多くの人に共通してみられる一般的な傾向を示すデータであり、「温感刺激を与えると通常はリラックス効果が生まれる」、「電気刺激を与えると通常は緊張効果が生まれる」などである。統計データを覚醒状態刺激システムにプリインストールし、十分な量の学習データが収集されるまでデフォルトデータとして用いてもよい。個人の学習データが確立された後は、統計データを使用しなくてもよい。
【0021】
<覚醒状態制御システム>
図3は、実施形態の覚醒状態制御システム1のブロック図である。覚醒状態制御システム1は、ユーザの生体情報を取得するセンサ115と、生体情報を解析しユーザに付与する刺激を最適化する制御部210と、制御部210によって決定された1以上の刺激をユーザに付与する刺激付与デバイス12と、を有する。制御部210は、情報処理装置200で実現され、付与すべき刺激の種類とその強度、及び刺激付与のタイミングを最適化する。刺激付与のタイミングには、刺激をオンにするタイミングとオフにするタイミングを含む。制御部210は、適切な刺激と刺激付与タイミングに基づいて刺激付与デバイス12の駆動を制御する。刺激付与デバイス12は、好ましくは、ウエアラブルデバイス10の形態で実現される。ウエアラブルデバイス10を装着することで、作業前、作業中、または作業後に適切なタイミングで、ユーザにとって必要な刺激が付与される。
【0022】
ウエアラブルデバイス10、センサ115、及び情報処理装置200は、それぞれ別個のデバイスであってもよいし、センサ115と制御部210の少なくとも一方が、ウエアラブルデバイス10に組み込まれていてもよい。ウエアラブルデバイス10、センサ115、及び情報処理装置200の間の接続は、ケーブル接続であってもよいし、無線接続であってもよい。情報処理装置200として、マイクロプロセッサがウエアラブルデバイス10の内部に組み込まれていてもよいし、ウエアラブルデバイス10とは別個のパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などであってもよい。センサ115はケーブル配線または無線によりウエアラブルデバイス10に接続されていてもよいし、情報処理装置200に接続されていてもよい。
【0023】
図4は、ウエアラブルデバイス10を含む覚醒状態制御システム1Aの外観図である。
図4の構成は、センサ115と情報処理装置200Aが、ウエアラブルデバイス10に組み込まれた構成例である。情報処理装置200Aは、マイクロプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)、その他のロジックデバイスとして、ウエアラブルデバイス10の本体110に組み込まれている。センサ115は、本体110内に組み込まれた情報処理装置200Aに接続されている。
【0024】
ウエアラブルデバイス10と情報処理装置200を別々のデバイスとして構成する場合は、情報処理装置200としてパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などを用いてもよい。ウエアラブルデバイス10と情報処理装置200の間、及びセンサ115と情報処理装置200の間は、無線接続されてもケーブル接続されてもよい。
【0025】
ウエアラブルデバイス10は、ユーザに効率良く刺激を与えることのできる身体箇所に装着される。
図4の覚醒状態制御システム1Aで、ウエアラブルデバイス10は、ユーザの首51に装着される形態に設計されている。
図4の例では、ウエアラブルデバイス10は、ユーザの首の周囲の一部を囲うU字型であるが、C字型であってもよいし、首の全周を囲むO字型であってもよい。首に限らず、肩、腰、上腕、下腕、その他身体の適切な箇所に装着される形状と構成に変更可能である。
【0026】
ウエアラブルデバイス10は、本体110と、本体110に設けられた1以上の刺激付与デバイス12a、12b、及び12cを有する。刺激付与デバイス12a、12b、12c(適宜、「刺激付与デバイス12」と総称する場合がある)は、それぞれ異なる刺激を生成する。刺激付与デバイス12の種類は3種類に限定されず、2種類でもよいし、4種類以上であってもよい。一例として、刺激付与デバイス12aは、本体110の湾曲部101の内側に設けられた第1電極121及び122を有する。第1電極121と122は、ウエアラブルデバイス10がユーザの首に装着されたときに、首の後ろ側、またはうなじに接触するように設けられている。刺激付与デバイス12aは、第1電極121と122を介して、ユーザのうなじに、温熱/涼感刺激、低周波の電気刺激などを付与可能である。第1電極の数は2個に限定されず、本体110の湾曲部101の内面に沿って、3つ以上の第1電極が設けられてもよい。
【0027】
刺激付与デバイス12aが温熱または涼感を生成する場合、情報処理装置200Aの制御部210から出力される制御信号にしたがって、刺激付与デバイス12aの内部に設けられたヒータまたはペルチェ素子が駆動され、第1電極121及び122から温熱または涼感が与えられる。刺激付与デバイス12aが低周波刺激を与える場合、制御信号によって、刺激付与デバイス12aの内部に設けられた発振回路がオンにされ、第1電極121及び122を介して低周波の振動が与えられる。低周波の振動はEMS刺激となる。うなじに与えられる温熱や低周波振動は、一般的には筋肉の緊張を緩和するリラックス刺激になるが、個人差や刺激の強度によっては覚醒刺激にもなり得る。
【0028】
刺激付与デバイス12bは、本体110の湾曲部101の両側に延びるアーム130に取り付けられており、アーム130から本体110の幅方向に突出する第2電極123及び124を有する。第2電極123と124は、ウエアラブルデバイス10がユーザの首に装着されたときに、ユーザの耳またはえらの下側で頸動脈周辺の皮膚表面に接触する。刺激付与デバイス12bは、第2電極123と124を介してユーザ5の頸動脈に、高周波の電気刺激を与える。高周波の振動は、一般的には血流を良くするリラックス刺激になるが、個人差や刺激の強度によっては覚醒刺激になり得る。
【0029】
刺激付与デバイス12cは、本体110の湾曲部101の両側に延びるアーム130の内側に設けられており、互いに対向する第3電極125及び126を有する。第3電極125と126は、ウエアラブルデバイス10がユーザの首に装着されたときに、ユーザ5の首筋に沿って頸動脈周辺の皮膚表面に接触する。刺激付与デバイス12cは、第3電極125と126を介してユーザ5の頸動脈に、涼感刺激または温熱刺激を与える。刺激付与デバイス12cが涼感または温熱刺激を与える場合、刺激付与デバイス12cの内部に設けられたペルチェ素子を駆動する電圧のオンオフと、印加電圧の極性が制御される。頸動脈への適度の涼感と加温は、一般には覚醒レベルを高める方向に作用するが、血管が過度に拡がっているときは、涼感刺激によりリラックス状態に移行する場合もある。
【0030】
ウエアラブルデバイス10にセンサ115を組み込む場合は、ウエアラブルデバイス10の内側で、ユーザの耳の下側の頸動脈に接触する位置にセンサ115を設けてもよい。センサ115をウエアラブルデバイス10と別デバイスとする場合は、センサ115と情報処理装置20Aを無線接続またはケーブル接続して、センサ115をユーザの耳たぶや手首に装着する構成にしてもよい。
【0031】
図5は、情報処理装置200のハードウェア構成図である。情報処理装置200は、プロセッサ201、主メモリ202、補助メモリ203、入出力インタフェース(図中で「I/F」と表記)204、及び通信インタフェース205を有し、これらは、システムバス206を介して相互に接続されている。
【0032】
プロセッサ201は、各種の演算処理を含む制御処理を実行し、制御部210の機能を実現する。プロセッサ201が実行する制御処理の中には、生体情報の取得、バイタル値の計算と解析、学習データの生成、刺激の選択、刺激付与タイミングの決定が含まれる。バイタル値の解析には、生体情報からバイタル値の計算、バイタル値の変化の傾向と変化量の計算、計算結果と学習データとの比較、バイタル値の目標値の設定などが含まれる。
【0033】
主メモリ202は、プロセッサ201の動作に用いられるプログラムを記憶するリードオンリーメモリ(ROM)と、プロセッサ201のワークエリアとして使用されるランダムアクセスメモリ(RAM)を含む。補助メモリ203は、ソリッドステートドライブ(SSD)などの記憶装置を含み、各種プログラムとプログラムの起動に必要なパラメータ情報の他に、覚醒状態の制御に必要な情報やパラメータ、統計データ等を保存する。補助メモリ203は情報処理装置200に外付けで設けられていてもよい。
【0034】
入出力インタフェース204は、表示装置、タッチパネル、スピーカ、イヤフォン、マイク、キーボード等の入出力デバイスを情報処理装置200に接続する。また、外付けの記憶装置や周辺機器との間のデータの入出力を行う。通信インタフェース205は、公衆通信網、LAN、近距離通信規格等を介して、情報処理装置200と外部装置との間の通信を可能にする。情報処理装置200とセンサ115やウエアラブルデバイス10との間の通信は、近距離無線通信規格により行われてもよい。
【0035】
<制御部の機能構成>
図6は、制御部210の機能ブロック図である。制御部210は、プロセッサ201と主メモリ202、及び、必要に応じて補助メモリ203によって実現される。制御部210は、生体情報取得部211、データ生成・蓄積部212、ユーザ情報入力部213、解析部215、刺激種別決定部216、及び刺激付与タイミング決定部217を有する。
【0036】
生体情報取得部211は、ウエアラブルデバイス10を装着するユーザの生体情報を取得する。生体情報は、上述したようにユーザが装着したセンサ115から取得される。生体情報には、心拍、脈拍、呼吸数、発汗レベル、まばたき回数等が含まれる。実施形態では、生体情報の一例として心拍数を用いる。
【0037】
データ生成・蓄積部212は、上述した3種類のデータうち、リアルタイム取得データと、学習データを蓄積する。リアルタイム取得データは、刺激付与による覚醒状態の制御中に取得されるデータと、覚醒状態が制御される時間帯(たとえば作業時間帯)に先立ってセンサ115で取得され解析された事前データとを含む。学習データは、リアルタイム取得データの解析結果を一定期間蓄積して生成され、計測日時ごとのユーザの体調や作業内容、作業開始時刻などを示すユーザ情報が含まれていてもよい。
【0038】
ユーザ情報入力部213は、ユーザがセンサ115とウエアラブルデバイス10を装着する際に、その時点でのユーザの心身状態に関する情報や、作業情報を入力する。情報処理装置200がスマートフォンやタブレット端末のときは、ユーザがアプリケーション画面を開いて、心身状態と作業情報を入力してもよい。情報処理装置200がウエアラブルデバイス10に組み込まれたマイクロプロセッサのときは、外付けの入力デバイスで、心身状態や作業種別を選択する構成にしてもよい。ユーザ情報入力部213は、入力されたユーザ情報を取り込む。
【0039】
刺激種別決定部216は、ユーザに付与する刺激の種類とその強度を決定する。ユーザがウエアラブルデバイス10をオンにしたときに、刺激種別決定部216は、データ生成・蓄積部212に蓄積された学習データを参照して、ユーザに付与する最初の刺激の種類とその強度を選択してもよい。その後の計測中は、刺激種別決定部216は、バイタル値であるLF/HFの変化の傾向と変化量に応じて、初回刺激をそのまま維持する、同じ刺激を維持するが強度を変更する、刺激付与を停止する、あるいは別の刺激の種類とその強度を選択する。
【0040】
刺激付与タイミング決定部217は、刺激種別決定部216で決定された刺激をユーザに付与するタイミングを決定する。刺激付与タイミング決定部217は、データ生成・蓄積部212に蓄積された学習データを参照して、ウエアラブルデバイス10の対応する刺激付与デバイス12を駆動するタイミングと、その刺激付与デバイス12をオフにするタイミングを決定する。
【0041】
解析部215は、バイタル値計算部2151、変化傾向及び変化量計算部(以下、「変化傾向/変化量計算部」と呼ぶ)2152、比較部2153、及び目標設定部2154を含む。バイタル値計算部2151は、センサ115で検知される生体情報から、覚醒状態の指標となるバイタル値を計算する。センサ115で心拍数または脈拍を測定する場合、心拍変動のパワースペクトルに含まれる低周波(LF:Low Frequency)成分と高周波(HF:High Frequency)成分の比率(LF/HF)をバイタル値として計算する。
【0042】
変化傾向/変化量計算部2152は、バイタル値の計算結果から、刺激によるバイタル値の変化の傾向と変化量を計算する。同じユーザであっても、日々の体調によっては、うなじへの涼感刺激が覚醒方向への刺激になる場合も、リラックス刺激になる場合もある。ユーザの体調によっては、刺激に対する反応時間が速い場合も、遅い場合もある。刺激によるバイタル値の変化の傾向と変化量(変化率)をリアルタイムで計算することで、作業開始時までに、あるいは少なくとも作業中に、目標とする覚醒状態に調整することができる。ここで、「変化の傾向」あるいは「変化傾向」は、たとえば特定の刺激の付与によりバイタル値が増大する傾向、あるいは減少する傾向である。
【0043】
比較部2153は、データ生成・蓄積部212を参照して、リアルタイムで取得されたバイタル値の変化の傾向または変化量を、学習データと比較する。リアルタイムで計算されるバイタル値の変化の傾向または変化量が、学習データのバイタル値の変化の傾向または変化量と一致していれば、適切な刺激が付与されている。比較部2153で得られた比較結果は、刺激種別決定部216と刺激付与タイミング決定部217に通知される。刺激種別決定部216と刺激付与タイミング決定部217は、比較結果に応じて、必要であれば付与する刺激の種別と強度、または刺激付与のタイミングを変更する。
【0044】
目標設定部2154は、データ生成・蓄積部212の学習データと、変化傾向/変化量計算部2152で計算されるリアルタイムのバイタル値の変化と、ユーザ情報入力部213で得られるユーザの作業内容に基づいて、目標の覚醒レベルを設定する。目標の覚醒レベルは、ユーザが特定の作業を行う際に目標とする覚醒または緊張状態の度合いを表す。目標の覚醒レベルとして、呼吸数、発汗レベル、心拍数、まばたき回数等のバイタル値を用いることができるが、この例ではLP/HPの目標の値または範囲を設定する。目標の覚醒レベルは、ユーザの現在の心身状態に基づき設定されてもよい。また、目標の覚醒レベルは、ユーザ等から入力された情報に基づいて設定されても良い。
【0045】
ユーザは、作業開始に先立ってウエアラブルデバイス10をオンにして、作業前に事前測定を行ってもよい。この場合、制御部210は、センサ115から得られる生体情報を解析し、ウエアラブルデバイス10の刺激付与デバイス12を制御して、作業開始までにユーザを所望の覚醒状態に導く。個体差だけではなく、日々の心身状態の変化に追従して刺激付与のタイミングを制御し、所望の覚醒状態へと確実に導くことができる。
【0046】
十分な量(たとえば1か月以上)の学習データが蓄積されるまでは、主メモリ202または補助メモリ203に保存された統計データを用いてもよい。この場合、ウエアラブルデバイス10の装着後に最初に付与される刺激として、一般的に覚醒またはリラックスに有効であるとみなされている刺激がデフォルトで選択されてもよい。最初に付与する刺激の選択に統計データが用いられた後は、リアルタイム取得データから算出されるバイタル値の変化の傾向と変化量に基づいて、刺激の種別と強度、及び刺激付与のタイミングが制御される。初回刺激と同じ刺激状態を維持する、同じ刺激を維持して強度を変える、別の刺激を選択する、刺激付与をいったんオフにする、刺激を再度オンにする、等の制御が実行される。バイタル値の変化の傾向と変化量は、選択された刺激、及び刺激付与のタイミングとともに記録され蓄積される。
【0047】
以下で、具体的な場面に応じた制御フローを説明する。覚醒状態制御のための刺激付与には、次の2つの場面が考えられる。
(場面1)ユーザに付与する1番目の刺激、すなわちLF/HFを目標値に近づけるために与える最初の刺激として、好適な刺激を決定する場面。たとえば、ユーザがウエアラブルデバイス10を装着し使用する際の初期刺激の選択に適用される。
(場面2)初期刺激の後にユーザに付与する別の刺激として、好適な刺激を決定する場面である。1番目の刺激を付与した後に、LF/HFを目標値に近づけるために付与する2番目以降の刺激を選択する。この制御は、たとえば、ユーザの覚醒状態を適正な状態に維持するときに適用される。
【0048】
以下で説明する第1実施例と第2実施例の制御フローは、主として上記の場面1に対応し、第3実施例の制御フローは、主として上記の場面2に対応する。
【0049】
<第1実施例>
図7は、制御部210、すなわちプロセッサ201で実行される第1実施例の覚醒状態制御のフローチャートである。第1実施例は、学習データが蓄積される前の制御を示す。
図7の制御フローは、ユーザに付与する最初の刺激を決定する場面1に適用される。所定のアプリケーションが起動されると、制御部210はセンサオンを検知し(S1)、センサ115を制御して生体情報を取得してバイタル値を計測する(S2)。この例では、バイタル値としてLF/HF値を計算する。制御部210は、センサオンの検知と同時に、またはセンサオンと前後して、ユーザ情報を取得する(S3)。ユーザ情報には、作業種別、作業開始時刻、ユーザの現在の心身状態などが含まれる。
【0050】
制御部210は、ユーザ情報に応じて覚醒刺激を付与するのか、リラックス刺激を付与するかを判断する(S4)。十分な学習データが蓄積される前は、制御部210は、情報処理装置200にプリインストールされた統計データを参照して、覚醒刺激かリラックス刺激かを判断する。作業種別は、ユーザの思考が関与する知的作業の程度を表し、たとえば、単純作業、通常作業、複雑な作業などにより表される。単純作業の場合は、眠気をさそわないように覚醒刺激が選択され得る。複雑な知的作業の場合は、過度のストレスがかからないように、弱い覚醒刺激が選択され得る。通常作業のときは、リラックス刺激が選択されてもよい。また、作業種別が、集中力を有する複雑な知的作業である場合でも、ステップS3で取得したユーザの心身状態が、例えば統計データと比較して過度な覚醒状態にあるときは、リラックス刺激が選択されても良い。
【0051】
制御部210は、ウエアラブルデバイス10の刺激付与デバイス12を制御して、第1の刺激を付与し(S5)、刺激付与後のLF/HFを計測する(S6)。刺激の強度はデフォルトで中程度に設定されていてもよい。制御部210は、刺激によるLF/HFの変化傾向と変化量を算出し、記録する(S7)。その後、一定時間刺激をオフにし、オフ時間を記録する(S8)。「一定時間」は、刺激の履歴による影響が消えるまでの時間である。「一定時間」は、刺激をオフにしている間のLF/HFを計測した結果、又は選択された刺激の種類と強度から計算した結果から得ることができる。
【0052】
刺激オフの後に、第2の刺激を付与する(S9)。第2の刺激は、第1の刺激と同じ種類の刺激であってもよいし、異なる種類の刺激であってもよい。ステップS6で算出したLF/HFの変化傾向と変化量が、作業種別に通常必要とされる覚醒状態に近づく方向の変化である場合は、第1の刺激と同じ刺激付与デバイス12を用いた同一刺激であるが、強度を弱くした刺激であってもよい。あるいは、第1の刺激と同じ種類(たとえば覚醒刺激)であるが、刺激に対する反応がより緩やかな別の刺激付与デバイス12を用いた刺激であってもよい。
【0053】
ステップS6で算出したLF/HFの変化傾向と変化量が、作業種別に通常必要とされる覚醒状態に近づかない場合は、第1の刺激と同じ種類(たとえば覚醒刺激)であるが刺激に対する反応のより速い別の刺激付与デバイス12を用いた刺激であってもよい。LF/HFの変化傾向が目標の覚醒状態から離れる場合は、逆方向の刺激(たとえばリラックス刺激)に切り替えてもよい。制御部210は、センサ115を制御して第2の刺激の付与後のLF/HFを計測し(S10)、第2の刺激によるLF/HF値の変化傾向と変化量を算出し、記録する(S11)。その後、一定時間刺激をオフにし、オフ時間を記録する(S12)。
【0054】
制御部210は、第1の刺激によるLF/HFの変化傾向と変化量、及び第2の刺激によるLF/HFの変化傾向と変化量に基づき、最初の刺激としてユーザに付与する刺激の種類を選定し(S13)、刺激付与のタイミングを計算する(S14)。ステップS1~S12が、作業開始前の事前診断である場合は、S14で、刺激付与のタイミングとともに目標の覚醒状態レベルを設定し、作業開始時間までに、目標の覚醒状態に達するように作業前の刺激付与タイミングを計算する。ステップS1~S12が作業中の制御である場合は、統計データに基づいて設定された目標の覚醒状態レベルに達するように、作業中の刺激付与のタイミングを計算し記録する。上述のように、刺激付与のタイミングには、刺激をオンにするタイミングとオフにするタイミングが含まれる。すなわち、刺激持続時間と刺激の間隔がバイタル値の変化に合わせて決定される。なお、制御部210によって制御可能な刺激の種類が3種類以上である場合は、第3の刺激等に対してもステップS5~ステップ8を実施して、3種類以上の刺激の中から初期刺激として適切な刺激を選択しても良い。
【0055】
図8Aは、
図7の覚醒状態制御によるバイタル値の変化の一例を示す。横軸はそれぞれの刺激付与が開始されてからの時間の経過を表し、縦軸はバイタル値(この例ではLF/HFの値)を示す。刺激1と刺激2は、主としてLF/HFを下げる方向に働く刺激である。刺激に対する慣れを回避する観点から、刺激付与を無制限に継続するよりも、一定時間継続した後に、いったんオフにしてから、再度付与するほうが望ましいことがある。ひとつの刺激を継続する最大時間をTMAXとすると、TMAXの期間に刺激を与えたあと、いったん刺激をオフにし、1サンプリング間隔後に、刺激を再度オンにする。刺激1と刺激2では、LF/HFの変化の傾向は同じであるが、刺激1の方が変化量は大きい。
【0056】
刺激1を付与する場合、次のTMAXが経過する前にLF/HFは目標値に達する。刺激1の初回の付与(初期刺激)から、LF/HF値が目標範囲の中央値に達するまでの時間はH1'である。刺激2は、次のTMAXが経過する時点で、LF/HFの目標範囲の近傍にさしかかるところである。次のTMAXが経過した後に、1サンプリング間隔をあけて刺激1と刺激2を再度オンにする。刺激2のオンによりLF/HFは減少して、3回目のTMAXの途中で、目標範囲の中央値に到達する。刺激2の初回の付与(初期刺激)からLF/HFが目標範囲の中央値に達するまでの時間は、H2'である。刺激1を用いる場合、この3回目のTMAXの期間中、LF/HFは目標範囲内に維持される。
【0057】
図8Aに示すバイタル値の変化の傾向と変化量を作業開始前に事前に取得しておくことで、作業開始時刻から逆算して、刺激付与のタイミングを計算できる。刺激1を用いる場合、作業開始時刻からTMAX+4×サンプリング間隔前に刺激1を付与することで、作業開始時には目標の覚醒状態になる。刺激2を用いる場合、2×TMAX+5×サンプリング間隔前に刺激2を付与することで、作業開始時には目標の覚醒状態になる。作業開始時間に先立って事前測定をしない場合でも、作業中に刺激付与によるバイタル値の変化の傾向と変化量を計算し記録することで、刺激制御の方向の妥当性を確認して作業中には目標の覚醒状態に導くとともに、学習データとして蓄積できる。
【0058】
図8Bは、
図7の覚醒状態制御によるバイタル値の変化の別の例を示す。
図8Bでは刺激を間欠付与する。刺激付与時間TONを、所定の間隔をおいて設ける。所定の間隔で刺激をオフにしても、直前の刺激の履歴が残っているため、前回の刺激付与時間TONでのLF/HF値がそれほど低下せずに維持される。刺激を間欠的に与えることで、刺激に対する慣れを抑制し、かつ消費電力を低減することができる。この制御は、作業開始前に行うのが効果的である。作業時間が長い場合は、作業中に
図8Bの制御を行ってもよい。この場合も、刺激に対する慣れと消費電力を抑制できる。
【0059】
<第2実施例>
図9Aは、制御部210、すなわちプロセッサ201で実行される第2実施例の覚醒状態制御のフローチャートである。第2実施例は、学習データの蓄積後の制御を示す。
図9Aの制御フローも、ユーザに付与する最初の刺激を決定する場面1に適用される。所定のアプリケーションが起動されると、制御部210はセンサオンを検知し(S21)、センサ115を制御して生体情報を取得してバイタル値を計測する(S22)。この例では、バイタル値としてLF/HF値を計算する。制御部210は、センサオンの検知と同時に、またはセンサオンと前後して、ユーザ情報を取得する(S23)。ユーザ情報には、作業種別、作業開始時刻、ユーザの現在の心身状態などが含まれる。
【0060】
制御部210は、ステップS23で取得したユーザ情報と学習データを参照してバイタル値の目標値または目標範囲を設定する。そして、S22で取得したバイタル値と、S23で設定した目標値または目標範囲を比較して、覚醒刺激を付与するのか、リラックス刺激を付与するかを判断する(S24)。学習データには、刺激に対するユーザの反応の傾向、季節、曜日、時間帯等に応じたユーザの身体状態の変化などが反映されている。制御部210は、学習データに基づいてユーザに付与すべき刺激の種類を選択し(S25)、ウエアラブルデバイス10の刺激付与デバイス12を駆動して、選択した刺激を付与する(S26)。この刺激の付与は、持続的な刺激付与である必要はなく、間欠的な刺激の付与であってもよい。刺激が付与される時間と、刺激オフの間隔は学習データから設定されてもよい。
【0061】
制御部210は、センサ115を制御して刺激付与後のLF/HFを計測し(S27)、刺激によるLF/HFの変化傾向と変化量を算出し、記録する(S28)。刺激後のLF/HFの変化傾向と変化量を学習データと比較し、変化傾向と変化量が学習データと一致しているかどうかを判断する(S29)。学習データと、取得した変化傾向及び変化量が一致している場合は(S29でYES)、S31に飛んで、目標値または刺激付与タイミングを調整し、S25で選択された刺激を初期刺激として用いる。なお、ステップS29で学習データと変化量を比較する際は、例えば、取得した変化量が、学習データを基準とする所定の値の範囲内にあるか否かを判断する。また、ステップS29では、学習データと変化量の比較を行わず、学習データと変化傾向が一致しているか否かを判断する設定としてもよい。
【0062】
算出したLF/HFの変化傾向が学習データと一致しない場合は(S29でNO)、別の種類の刺激を選択し、ユーザに付与する(S30)。学習データからのかい離の程度に応じて、別の刺激としてS24で判断された刺激と逆方向の刺激を選択してもよいし、S24で判断された刺激と同じ方向の刺激であるがバイタル値の変化量が異なる別の刺激を選択してもよい。なお、刺激の履歴の影響を低減する観点から、
図7のステップS8と同様に、S25で選択された刺激をいったんオフにして、一定時間刺激オフの時間を設けてから、別の種類の刺激を選択することが好ましい。制御部210は、別の種類の刺激を選択した後に、ステップS26に戻って、選択した刺激をユーザに付与し、刺激付与後のLF/HFを計測し(S27)、S26からS29を繰り返す。適切にループを実行できない、あるいはループから脱出できない等の場合は、エラーを通知して(S108)、処理を終了する。
【0063】
図9Bは、
図9AのステップS29の処理の一例を示すフローチャートである。制御部210は、刺激後のLF/HFの変化傾向が学習データと一致するか否かを判断する(S101)。この判断は、S25で選択した刺激の種類が適切か否か、あるいは刺激の種類を変える必要があるか否かを判断する一つの手法である。刺激後のLF/HFの変化傾向が学習データと一致しているときは(S101でYES)、刺激の種類は現在のユーザに適合しているので、S102に進み、刺激後のLF/HFの変化量が学習データよりも大きいか小さいかを判断する。刺激後のLF/HFの変化量が学習データよりも小さいときは、現在のユーザにとって与えられた刺激の強さが不十分である可能性があるので、刺激の強度を上げて(S103)、ステップS31へ飛ぶ。刺激後のLF/HFの変化量が学習データよりも大きいときは、刺激の度合いが強すぎる可能性があるので、刺激の強度を下げて(S104)、ステップS31へ飛ぶ。刺激の強度の上げ幅と下げ幅は、あらかじめ設定された所定の間隔でもよいし、制御部210が刺激後のLF/HFの変化傾向と学習データとの差分に応じて調整した値でもよい。
【0064】
刺激後のLF/HFの変化傾向が学習データと一致しない場合は(S101でNO)、選択した刺激の種類自体が現在のユーザにとって適合していないことを示す。制御部210は、ステップS25で選択された刺激以外の別の刺激を選択する。たとえば、刺激Aは選択済みか否かを判断し(S105)、初期刺激としてまだ選択されていない場合は(S105でNO)、刺激の種類を刺激Aに変更して(S107)、
図9AのステップS30へ戻る。ここで、刺激Aは、温度、振動、音、光等の刺激の種類を指す。刺激Aが初期刺激としてすでに選択されている場合は(S105でYES)、刺激Aとは異なる種類の刺激Bが選択済みか否かを判断する(S106)。刺激Bがまだ選択されていない場合は(S106でNO)、刺激の種類を刺激Bに変更して(S107)、
図9AのステップS30へ戻る。刺激Bも選択済みの場合は(S106でYES)、適切な刺激を選択できなかったとして、エラー通知を生成して(S108)、処理を終了する。
図9A及び
図9Bの制御により、その時点でのユーザの体調に応じた初期刺激を適切に選択することができる。なお、代替の刺激の種類はAとBの2種類に限定されず、刺激付与デバイス12で付与可能な刺激の種類に応じて、ステップS105とS108の間にS105及びS106と同様のステップが追加される。
【0065】
図10は、リアルタイム取得データと学習データの比較の例を示す。リアルタイム取得データには、作業開始に先立って取得される事前取得データが含まれていてもよい。
図10の(A)で、実線のリアルタイム取得データは、刺激付与の下で時間とともに、着目するバイタル値であるLF/HFが低減し、学習データのバイタル値の変化の傾向と同じである。リアルタイム取得データの変化量の方が学習データよりも小さい(変化が緩やか)であるが、この程度の相違は、ユーザの日々の心身状態の変動により許容される範囲内である。
【0066】
一方、
図10の(B)で、刺激付与の直後は、リアルタイム取得データの変化の傾向は学習データと一致し、LF/HFが減少しているが、その後、LF/HF値が上昇し、学習データの変化と逆の傾向を示す。これは、リラックス刺激を必要とする現在のユーザにとって、選択されている刺激が逆の刺激であるか、または刺激の種類としては適切であるが刺激の強度が不十分の可能性がある。この場合、別の刺激を付与してLF/HFの変化傾向と変化量を計算して、ユーザに最初に与える刺激として、より適切な刺激を選択するのが望ましい。
【0067】
図9A及び
図9Bの制御フローも、作業開始に先立つ事前制御として行われてもよいし、作業中の覚醒状態制御として行われてもよい。事前制御として行う場合は、付与する刺激と目標値を適切に設定して、作業開始時刻までにユーザを所望の覚醒状態に導くことができる。作業中の制御として行う場合も、少なくとも作業期間内にユーザを所望の覚醒状態に導くことができる。
【0068】
第1実施例、第2実施例ともに、作業中に、または作業に先立って、刺激を付与した後のバイタル値の変化の傾向と変化量を算出することで、日々変化するユーザの心身状態に追従して、最初に付与する刺激の種類とその強度、及び刺激付与のタイミングを調整できる。第1実施例と第2実施例の覚醒状態制御を作業前の事前制御として用いる場合は、その日のユーザの心身状態に応じて最適な初期の刺激を選択して、作業開始時間までに所望の覚醒状態に制御することができる。学習データが蓄積された後は、リアルタイム取得データを学習データと比較することで、ユーザの季節ごと、曜日ごと、時間帯ごとの癖に合わせた制御が可能になり、所望の覚醒状態への収束が速くなる。バイタル値の変化の傾向と変化量をみることで、刺激付与のタイミングを最適化し、フレキシブルな刺激付与が可能になる。
【0069】
<第3実施例>
図11は、制御部210、すなわちプロセッサ201で実行される第3実施例の覚醒状態制御のフローチャートである。第3実施例は、ユーザに付与する2番目以降の好適な刺激を決定する場面2に対応する。
図11のフローは、学習データの蓄積後の制御を示す。制御部210は、
図7(第1実施例)または
図9A及び9B(第2実施例)の制御フローで決定された第1の刺激をユーザに付与し(S41)、刺激後のLF/HFを計測する(S42)。第1の刺激の付与後のLF/HFの変化傾向と変化量を算出し、記録する(S43)。
【0070】
制御部210は、算出したLF/HFの変化傾向と変化量、及び目標値(または目標範囲)とに基づいて、刺激の種類と付与時間を調整し(S44)、ステップS44で選択された刺激を、調整された時間だけ付与する(S45)。制御部210は、第2の刺激付与後のLF/HFを計測し(S46)、第2の刺激付与後のLF/HFの変化傾向と変化量を算出し、記録する(S47)。
【0071】
制御部210は、ステップS44からS47の繰り返し処理のループを終了するか否かを判断し(S48)、処理を繰り返す場合は(S48でNO)、ステップS44からS48を繰り返す。制御部210は、調整された刺激が所定時間付与される間、LF/HFの変化傾向と変化量を算出し、記録する。繰り返し処理終了の判断は、ユーザにより入力される終了信号の検出により行われてもよいし、事前に取得したユーザ情報(作業終了時刻など)に基づいて、情報処理装置200の内部タイマーを参照して自動判断されてもよい。ステップS44で調整される刺激は、直前に付与された刺激と同じ強度、及び同じ種類のものであってもよく、刺激ゼロ(刺激オフ)としてもよい。また、直前の刺激と同じ時間だけ刺激が付与されてもよい。繰り返し処理が終了すると(S48でYES)、刺激をオフにして(S49)、処理を終了する。第3実施例の覚醒状態制御により、所望の時間、たとえば、ユーザの作業の間、ユーザの覚醒状態を適切な状態に保つことができる。
【0072】
第1実施例から第3実施例の覚醒状態制御方法をコンピュータプログラムで実現する場合、覚醒状態制御プログラムが情報処理装置200にインストールされる。覚醒状態制御プログラムの基本的な手順として、プロセッサ201に、
(a)ユーザの生体情報を取得する手順と、
(b)取得した生体情報からユーザの覚醒状態を示す指標となるバイタル値を計算する手順と、
(c)刺激付与下でのバイタル値の変化の傾向と変化量を計算する手順と、
(b)バイタル値の変化の傾向と変化量に基づいて、ユーザに付与する刺激と刺激付与のタイミングを決定する手順と、
を実行させる。
【0073】
上記で、特定の実施例に基づいて覚醒状態制御を説明したが、本発明の技術思想の範囲内で多様な変形例が可能である。例えば、バイタル値の変化の傾向と変化量からユーザに付与する刺激を決定する場合に、下記の表1に示す情報を用いてもよい。
【0074】
【0075】
バイタル値の変化量が第1閾値を超えるときに変化量を「大」と判断して、覚醒方向のときは、ユーザにとって過度の覚醒を緩和させる第1の刺激を選択する。リラックス方向への変化量が「大」のときは、過度のリラックスを抑制する第4の刺激を選択する。バイタル値の変化量が、第2閾値以上、第1閾値以下のときに変化量を「中」と判断し、変化の方向に応じて、第2の刺激または第5の刺激を選択する。変化量が「中」のときに、目標値とのかい離、または作業開始までの時間に応じて、刺激の程度を弱める、あるいは強める等の制御がなされてもよい。バイタル値の変化量が第2閾値よりも小さいときに、変化量を「小」と判断して、このユーザにとって覚醒またはリラックスを促進する第3の刺激または第6の刺激を選択してもよい。
【0076】
表1の制御は、学習データの構築の有無にかかわらず初期刺激の選択に適用でき、
図7のステップS7、S11や、
図9AのS28に適用できる。また、2番目以降の刺激を選択する場合にも適用可能であり、
図11のS47に適用できる。表1の情報はあらかじめ情報処理装置200の主メモリ202または補助メモリ203に保存され、学習により更新されてもよい。表1の判断に用いる第1閾値と第2閾値を、学習データとユーザ情報の少なくとも一方に基づいて更新してもよい。すなわち、制御部210は、第1~第3の刺激付与によるLF/HF値の変化の計算結果から、これらの刺激がユーザにとって覚醒状態に導く刺激であること、及び、各刺激のLF/HF値の変化量の大きさを記録する。同様に、制御部210は、第4~第6の刺激付与によるLF/HF値の変化の計算結果から、これらの刺激がユーザにとってリラックス状態に導く刺激であること、及び各刺激のLF/HF値の変化量の大きさを記録する。これらの情報を、日時、ユーザの体調、作業種別等に対応づけて記録することで学習データを蓄積してもよい。
【0077】
バイタル値の変化に基づいて刺激付与のタイミングを制御する場合、下記の表2に示す情報を用いてもよい。
【0078】
【0079】
リアルタイムで計算されるユーザのバイタル値と、目標のLF/HF値との差が、第3閾値を超えるときに差分を「大」と判断し、第4閾値よりも小さいときに差分を「小」と判断し、第4閾値以上、第3閾値以下のときに差分を「中」と判断してもよい。目標のバイタル値との差分に応じて、各刺激の付与時間を制御する。たとえば、バイタル値のリアルタイム計測値が目標値から離れているときに、第1の刺激、第2の刺激、第3の刺激のそれぞれの付与時間を長く設定する。刺激付与時間を長くすることで、確実に目標のLF/HFに近づける。バイタル値のリアルタイム計測値と目標値との差が「中」、または「小」のときに、刺激の種類、またはユーザに対する刺激の効果の程度に応じて、刺激付与時間を中程度に設定、または短縮する。ユーザのバイタル値を目標値に近づける際に選択する刺激は、必ずしも変化量が最も大きくなる刺激でなくてもよい。ユーザが目標値を超えて過度の覚醒状態にならないように、覚醒効果が中程度の刺激を選択してもよい。第3閾値と第4閾値を、学習データとユーザ情報の少なくとも一方に基づいて更新または調整してもよい。
【0080】
センサ115が取得する生体情報は、心拍データに限定されない。脈拍、呼吸数、発汗状態、まばたき回数等、ユーザの緊張またはリラックス状態を判別できる別の生体データを検知してもよい。呼吸数、まばたき回数等は生体情報をそのまま覚醒状態を表すバイタル値として用いてもよい。発汗状態は発汗量をバイタル値としてもよい。十分な学習データが蓄積される前は、プリインストールされた統計データを用いるかわりに、ユーザが指定した刺激を測定開始時の初回刺激として用いてもよい。温度刺激と電気刺激の他に、アロマ、音、光による刺激を付与してもよい。制御部210は、リアルタイム取得データと学習データに基づいて、継続的に刺激を付与するか、間欠的に刺激を付与するかを決定してもよい。ユーザによっては間欠的な刺激付与が効果的な場合もあるからである。間欠的な刺激付与の場合、刺激付与区間でバイタル値の変化量の大きい刺激を選択して、短時間で目標のバイタル値に導くように制御してもよい。
【0081】
上記の実施例に対して以下の態様をとり得る。
(項1)
情報処理装置において、
ユーザの生体情報を取得し、
前記生体情報から前記ユーザの覚醒状態を示す指標となるバイタル値を計算し、
刺激付与下での前記バイタル値の変化の傾向と変化量を計算し、
前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、前記ユーザに付与する刺激と刺激付与のタイミングを決定する
覚醒状態制御方法。
(項2)
前記情報処理装置において、
決定された前記刺激と前記刺激付与のタイミングと、前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量とを、前記生体情報の取得日時、前記ユーザが行う作業内容、及び前記ユーザの心身状態の少なくとも一つと関連付けて蓄積し学習データを生成する、
項1に記載の覚醒状態制御方法。
(項3)
前記情報処理装置において、
前記学習データの確立前は、前記情報処理装置にプリインストールされた統計データまたは前記ユーザの指定に基づいて測定時の初回刺激を決定し、
前記初回刺激による前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、前記刺激と前記刺激付与のタイミングを決定する、
項2に記載の覚醒状態制御方法。
(項4)
前記情報処理装置において、
前記学習データの確立後は、前記学習データを参照して測定時の初回刺激を決定し、
前記初回刺激による前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、前記刺激と、前記刺激付与のタイミングを決定する、
項2に記載の覚醒状態制御方法。
(項5)
前記情報処理装置において、
前記バイタル値の前記変化の傾向を前記学習データと比較し、前記バイタル値の前記変化の傾向が前記学習データと異なる場合に、前記刺激を変更する、
項4に記載の覚醒状態制御方法。
(項6)
前記情報処理装置において、
前回付与した前記刺激による前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、次回付与する前記刺激付与のタイミングを設定する、
項1から5のいずれかに記載の覚醒状態制御方法。
(項7)
情報処理装置において、
前記ユーザの作業開始に先立って前記生体情報を取得し、
前記作業開始よりも前の前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、前記作業開始の前、または作業中に、前記ユーザに付与する前記刺激と前記刺激付与のタイミングを決定する、
項1から6のいずれかに記載の覚醒状態制御方法。
(項8)
情報処理装置において、
前記ユーザの作業開始の前または作業中に、前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量に基づいて、刺激付与のオンとオフのタイミングを決定し、前記作業開始の前または前記作業中に前記ユーザの前記覚醒状態を目標レベルに制御する、
項1から7のいずれかに記載の覚醒状態制御方法。
(項9)
ユーザの生体情報を検知するセンサと、
前記生体情報を解析する情報処理装置と、
2以上の異なる刺激を生成するウエアラブルデバイスと、
を備え、
前記情報処理装置は、前記生体情報から前記ユーザの覚醒状態を示す指標となるバイタル値を計算し、刺激付与下での前記バイタル値の変化の傾向と変化量に基づいて前記ユーザに付与する刺激と刺激付与のタイミングを決定して、前記ウエアラブルデバイスを駆動する、
覚醒状態制御システム。
(項10)
ユーザの生体情報を取得する生体情報取得部と、
前記生体情報からバイタル値を計算するバイタル値計算部と、
刺激付与下での前記バイタル値の変化の傾向と変化量を計算する変化傾向及び変化量計算部と、
前記バイタル値の前記変化傾向と前記変化量に基づいて前記ユーザに付与する刺激と刺激付与のタイミングを決定する決定部と、
を有する、
情報処理装置。
(項11)
前記刺激と前記刺激付与のタイミングと、前記バイタル値の前記変化の傾向と前記変化量とを、前記生体情報の取得日時、前記ユーザが行う作業内容、及び前記ユーザの心身状態の少なくとも一つと関連付けて蓄積し学習データを生成するデータ生成・蓄積部、
を有する項10に記載の情報処理装置。
(項12)
項10又は11に記載の情報処理装置で決定された刺激を生成するウエアラブルデバイスであって、
前記刺激を生成する複数の刺激付与デバイスと、
前記刺激付与デバイスを支持する本体と、を有し、
前記複数の刺激付与デバイスは、前記情報処理装置の指示に基づいて2以上の異なる刺激を付与する
ことを特徴とするウエアラブルデバイス。
【符号の説明】
【0082】
1、1A 覚醒状態制御システム
10 ウエアラブルデバイス
12、12a、12b、12c 刺激付与デバイス
110 本体
115 センサ
200 情報処理装置
201 プロセッサ
202 主メモリ
203 補助メモリ
204 入出力インタフェース
205 通信インタフェース
210 制御部
211 生体情報取得部
212 データ生成・蓄積部
213 ユーザ情報入力部
215 解析部
216 刺激種別決定部
217 刺激付与タイミング決定部
2151 バイタル値計算部
2152 変化傾向/変化量計算部
2153 比較部
2154 目標設定部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】
【特許文献1】特開2021-7648号公報
【特許文献2】特開2007-130454号公報