(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132894
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/183 20060101AFI20240920BHJP
C08G 63/78 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C08G63/183
C08G63/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024022212
(22)【出願日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2023041089
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】倉田 崇
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC02
4J029AD01
4J029AD10
4J029AE01
4J029BA05
4J029CA04
4J029CB06A
4J029EG05
4J029FB03
4J029HA01
4J029HB01
4J029JA091
4J029JA121
4J029JB131
4J029JB171
4J029JF131
4J029JF141
4J029JF321
(57)【要約】 (修正有)
【課題】黄色味が少ない、樹脂の色調が良好なポリブチレンテレフタレートを提供する。
【解決手段】末端ベンズアルデヒド基濃度が0.005~0.15当量/トン、末端メチルフェニル基濃度が0.08~1.5当量/トン、共重合成分として酪酸ユニット0.001~0.220モル%と、コハク酸ユニット0.001~0.220モル%とを含むポリブチレンテレフタレート。ジカルボン酸成分とジオール成分を反応させるポリブチレンテレフタレートの製造方法でジカルボン酸成分として、4-カルボキシベンズアルデヒド含有量が1~200ppm、p-トルイル酸含有量が20~300ppmのテレフタル酸を用い、ジオール成分としてγーブチロラクトン及び/又はその1,4-ブタンジオールとのエステルを合計50~8000ppm含み、コハク酸及び/又はその1,4-ブタンジオールとのエステルを合計5~1000ppm含む1,4-ブタンジオールを用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端ベンズアルデヒド基濃度が0.005~0.15当量/トンで、末端メチルフェニル基濃度が0.08~1.5当量/トンであり、
共重合成分として酪酸ユニット0.001~0.220モル%と、コハク酸ユニット0.001~0.220モル%とを含む、ポリブチレンテレフタレート。
【請求項2】
ジカルボン酸成分とジオール成分とを反応させてポリブチレンテレフタレートを製造する方法において、該ジカルボン酸成分として、4-カルボキシベンズアルデヒド含有量が1~200ppmで、p-トルイル酸含有量が20~300ppmのテレフタル酸を用い、該ジオール成分として、下記式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物の1種又は2種以上を合計で50~8000ppm含み、下記式(4)又は式(5)で表される化合物の1種又は2種を合計で5~1000ppm含む1,4-ブタンジオールを用いることを特徴とするポリブチレンテレフタレートの製造方法。
【化1】
【請求項3】
前記テレフタル酸として、水素添加精製工程を経たテレフタル酸を用い、前記1,4-ブタンジオールとして、コハク酸を水素添加処理することにより得られる1,4-ブタンジオールを用いる、請求項2に記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート(以下「PBT」と略記することがある)に関し、詳しくは、ポリマーの色調が好ましいPBTとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカルボン酸成分の主成分としてテレフタル酸(以下「TPA」と略記することがある)を用い、ジオール成分の主成分として1,4-ブタンジオール(以下「BDO」と略記することがある)を用いたPBTは、優れた機械特性、耐熱性、成形性及びリサイクル性を有し、機械強度も高く耐薬品性にも優れていることから、自動車や電気・電子機器のコネクター、リレー及びスイッチなどの工業用成形品の材料として広く使用されている。更には、フィルム、シート、繊維(フィラメント)などにも広く利用されており、これに伴い、高品質なPBTとその製造方法が求められている。
【0003】
PBTの製造方法は、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(以下「DМT」と略記することがある)を原料とするエステル交換法と、テレフタル酸を原料とする直接重合法とに大別される。
これらのうちエステル交換法は、反応の副生物として発生するメタノール(沸点65℃)とテトラヒドロフラン(以下「THF」と略記することがある)(沸点66℃)の沸点が近いために、回収後の蒸留分離が困難であるという欠点を有している。
一方、直接重合法は、メタノールの発生もなく、原料原単位もエステル交換法に比べて良好なことから、注目されつつある。しかして、近年、各種用途の成形品として供するため、特に直接重合法を用いたPBTの色調、とりわけ黄色味(b値)を改善する技術が求められている。
【0004】
この色調問題を解決するために、例えば、PBT製造時の重縮合温度を規定する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
直接重合法に用いられるテレフタル酸には、テレフタル酸製造工程中で副生する4-カルボキシベンズアルデヒド(以下「4CBA」と略記することがある)が含まれており、これが直接重合法由来のPBTの色調に影響することが知られている(特許文献2参照)。
特許文献2では、樹脂の黄色味を減少させるために、不純物の少ないテレフタル酸を使用することが検討されているが、テレフタル酸の精製工程が複雑になる上、その効果は限定的であった。
【0006】
一方、BDOについても、例えば不純物である環状アセタール類の含有量を減少させることによりPBTの色調が改良されることが知られている(特許文献3参照)。但し、いずれも色調の改善効果としては不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭51-47096号公報
【特許文献2】特開2006-152252号公報
【特許文献3】特開2015-83657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、樹脂としての色調が好ましく、具体的には黄色味が少ないPBT及びその製造方法の提供に存する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の共重合成分をそれぞれ特定量含むPBTを用いることで、これらの課題を効果的に解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
本発明はこのような知見に基づき完成されたもので、その要旨は次の通りである。
【0010】
[1] 末端ベンズアルデヒド基濃度が0.005~0.15当量/トンで、末端メチルフェニル基濃度が0.08~1.5当量/トンであり、共重合成分として酪酸ユニット0.001~0.220モル%と、コハク酸ユニット0.001~0.220モル%とを含む、ポリブチレンテレフタレート。
【0011】
[2] ジカルボン酸成分とジオール成分とを反応させてポリブチレンテレフタレートを製造する方法において、該ジカルボン酸成分として、4-カルボキシベンズアルデヒド含有量が1~200ppmで、p-トルイル酸含有量が20~300ppmのテレフタル酸を用い、該ジオール成分として、下記式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物の1種又は2種以上を合計で50~8000ppm含み、下記式(4)又は式(5)で表される化合物の1種又は2種を合計で5~1000ppm含む1,4-ブタンジオールを用いることを特徴とするポリブチレンテレフタレートの製造方法。
【0012】
【0013】
[3] 前記テレフタル酸として、水素添加精製工程を経たテレフタル酸を用い、前記1,4-ブタンジオールとして、コハク酸を水素添加処理することにより得られる1,4-ブタンジオールを用いる、[2]に記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のPBTは、樹脂の色調が好ましく、具体的には黄色味が少ないため、本発明のPBT、本発明のPBTを含むコンパウンド及びそれを用いて得られる成形品は、色調が良好で商品価値が高く、各種の用途、例えば電気電子部品、自動車部品、フィルム、シート、フィラメントなどとして好ましく使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
なお、本発明において、ジカルボン酸成分における「主成分」とは、当該成分中に50モル%以上含まれる成分をいう。また、ジオール成分における「主成分」についても同様である。また、後述するNМRのケミカルシフトの単位を除いて「ppm」とは「質量ppm」をさす。
【0016】
[PBT]
<PBTの定義>
本発明において、PBTとは、テレフタル酸成分及び1,4-ブタンジオール(BDO)成分がエステル結合した構造を有し、ジカルボン酸成分の50モル%以上がテレフタル酸成分から成り、ジオール成分の50モル%以上がBDOから成るポリマーを言う。全ジカルボン酸成分中のテレフタル酸成分の割合は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、全ジオール成分中のBDOの割合は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは95モル%以上である。テレフタル酸成分又はBDOが50モル%より少ない場合は、PBTの結晶化速度が低下し、成形性の悪化を招いてしまう。
【0017】
<ジカルボン酸>
本発明において、テレフタル酸以外のジカルボン酸には特に制限はなく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができる。これらのテレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
<ジオール成分>
本発明においては、BDO以外のジオール成分には特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、ジブチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等を挙げることができる。
これらのBDO以外のジオール成分についても、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
<その他モノマー>
本発明においては、更に、乳酸、グリコール酸、m-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などの1種又は2種以上を共重合成分として使用することができる。
【0020】
<末端ベンズアルデヒド基と末端メチルフェニル基の由来>
本発明のPBTは、末端ベンズアルデヒド基及び末端メチルフェニル基をそれぞれ特定量含有するPBTであることを特徴の一つとする。
本発明のPBTの末端ベンズアルデヒド基は、その製造法から、PBT原料中、特に原料テレフタル酸中の4-カルボキシベンズアルデヒド(以下「4CBA」と略記することがある)由来の末端ベンズアルデヒド基と称することもあるが、後述する測定方法により特定したものであり、4CBA由来に限定されるものではない。同様に、本発明のPBTの末端メチルフェニル基は、その製造法から、PBT原料中、特に原料テレフタル酸中のp-トルイル酸(以下、「p-TA」と略記することがある)由来の末端メチルフェニル基と称することもあるが、後述する測定方法により特定したものであり、p-トルイル酸由来に限定されるものではない。
【0021】
<末端ベンズアルデヒド基濃度>
本発明のPBTは、末端ベンズアルデヒド基濃度が、その下限値として通常0.005当量/トンであり、好ましくは0.015当量/トン、より好ましくは0.025当量/トンで、その上限値としては通常0.15当量/トン、好ましくは0.10当量/トン、より好ましくは0.05当量/トンである。末端ベンズアルデヒド基濃度が上記下限値を下回ると、原料精製コストが増えるだけでなく、PBTの色調が青みを増すため好ましくない。一方、末端ベンズアルデヒド基濃度が上記上限値を上回ると、PBTの色調として黄色味が増すだけでなく、末端封止の効果によりPBTの分子量が低下し、必要な強度が得られない場合がある。
【0022】
<末端メチルフェニル基濃度>
本発明のPBTは、末端メチルフェニル基濃度が、その下限値として通常0.08当量/トンであり、好ましくは0.1当量/トンであり、より好ましくは0.25当量/トンである。また、その上限値としては通常1.5当量/トン、好ましくは1.0当量/トン、より好ましくは0.5当量/トンである。末端メチルフェニル基濃度が上記下限値を下回ると、原料精製コストが増えるだけでなく、PBTの色調が黄色味を増すため好ましくない。一方、末端メチルフェニル基濃度が上記上限値を上回ると、PBTの色調として青味を増すだけでなく、末端封止の効果によりPBTの分子量が低下し、必要な強度が得られない場合がある。
【0023】
<酪酸ユニットとコハク酸ユニット>
本発明のPBTは、酪酸ユニットとコハク酸ユニットがそれぞれ特定量存在するPBTであることを特徴の一つとする。
本発明のPBTの酪酸ユニットは、その製造法から、PBT原料中、特に原料BDO中の下記式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物由来と称することもあるが、後述する測定方法により特定したものであり、原料に含まれる下記式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物由来のみに限定されるものではない。同様に、本発明のPBTのコハク酸ユニットは、その製造法から、PBT原料中、特に原料BDO中の下記式(4)又は式(5)で表される化合物由来と称することもあるが、後述する測定方法により特定したものであり、原料に含まれる下記式(4)又は式(5)で表される化合物由来のみに限定されるものではない。
なお、ここで、「ユニット」とは、当該単量体がPBT製造の反応工程で反応することによりPBTに取り込まれた構成単位を意味する。
【0024】
【0025】
以下において、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と称し、式(2)で表される化合物を「化合物(2)」と称し、式(3)で表される化合物を「化合物(3)」と称す場合がある。
同様に、式(4)で表される化合物を「化合物(4)」と称し、式(5)で表される化合物を「化合物(5)」と称す場合がある。
【0026】
<酪酸ユニット量>
本発明のPBTは、酪酸ユニットの含有量が、その下限値として通常0.001モル%、好ましくは0.007モル%、より好ましくは0.018モル%であり、その上限値として通常0.220モル%、好ましくは0.110モル%、より好ましくは0.044モル%である。酪酸ユニットの含有量が上記下限値を下回ると、原料精製コストが増えるだけでなく、PBTの色調が黄色味を増すため好ましくない。一方、酪酸ユニットの含有量が上記上限値を上回ると、樹脂の弾性率が低下し、コンパウンド用途として不適となる場合がある。
【0027】
<コハク酸ユニット量>
本発明のPBTは、コハク酸ユニットの含有量が、その下限値として通常0.001モル%、好ましくは0.007モル%、より好ましくは0.018モル%であり、その上限値として通常0.220モル%、好ましくは0.110モル%、より好ましくは0.044モル%である。コハク酸ユニットの含有量が上記下限値を下回ると、原料精製コストが増えるだけでなく、PBTの色調が黄色味を増すため好ましくない。一方、コハク酸ユニットの含有量が上記上限値を上回ると、PBTの弾性率が低下し、コンパウンド用途として不適となる場合がある。
【0028】
<末端カルボキシル基濃度>
本発明のPBTの末端カルボキシル基濃度は、通常0.1~50当量/トン、好ましくは1~40当量/トン、より好ましくは5~30当量/トン、更に好ましくは7~25当量/トンであり、特に好ましくは10~19当量/トンである。末端カルボキシル基濃度が高すぎる場合は耐加水分解性が悪化することがある。この値を0.1当量/トン未満とするためには、例えば極めて少量の製造規模とするなど、経済的に不利な条件を採用せざるを得ず現実的ではない。
【0029】
[PBTの製造方法]
本発明のPBTは、特定の成分を特定量含有していることを必須とする以外は、製造法については特に限定されず、生産形式は連続式であってもバッチ式であってもよい。
本発明のPBTは常法によって製造できるが、例えば、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、PBTを主成分とするジオール成分とを、所定割合で攪拌下に混合して原料スラリーとする工程、次いで、該原料スラリーを常圧又は減圧下で加熱して、エステル化反応させPBT低重合体(オリゴマー)とする工程、次いで、得られたオリゴマーを漸次減圧するとともに、加熱して、溶融重縮合反応させてPBTを得る溶融重縮合工程を経て製造される。
【0030】
<特定成分の例について>
以下では、便宜的に末端ベンズアルデヒド基の由来として4CBA、末端メチルフェニル基の由来としてp-トルイル酸を例とし、かつこれらの添加量についてテレフタル酸に対する含有量で表記するものとする。同様に、酪酸ユニットの由来として前記式(1)、式(2)又は式(3)で表される酪酸誘導体、コハク酸ユニットの由来として前記式(4)又は式(5)で表されるコハク酸およびコハク酸誘導体を例とし、かつこれらの添加量についてはBDОに対する含有量として表記するものとする。
【0031】
<テレフタル酸の製法例>
本発明のPBTに用いる原料テレフタル酸の製造法は特に限定しない。
原料テレフタル酸としては、常法によってパラキシレンをマンガンまたはコバルト触媒共存下で酸化させて得られたテレフタル酸を用いても良いし、当該テレフタル酸の不純物を水素添加精製して得られる、いわゆる高純度テレフタル酸を用いても良いが、高純度テレフタル酸を用いる方が特定成分量を調整できるため好ましい。
【0032】
<BDOの製法例>
本発明のPBTに用いる原料BDOの製造法は特に限定しない。
BDOの製造法としては、一般的に用いられるレッペ法、アリルアルコール法、ブタジエン法、コハク酸を水素添加する方法が挙げられる。更に、これらの中間体またはBDO自体を発酵法により製造してもよい。
原料BDOとしては、直接発酵法または発酵法により得られたコハク酸を水素添加する方法により得られたBDOを用いることが好ましく、更には発酵法で得られたコハク酸を水素添加する方法により得られたBDOを用いることがより好ましい。なお、いずれのBDO製造法においても各工程で必要に応じて蒸留精製や水素添加精製を行うことが好ましい。
【0033】
<TPA中の4-CBA含有量>
本発明における原料テレフタル酸中の4CBA含有量は、その下限値として通常1ppm、好ましくは6ppmであり、その上限値としては通常1000ppm、好ましくは350ppm、より好ましくは200ppm、更に好ましくは50ppmである。4CBA含有量が上記下限値を下回ると、原料精製コストが増えるだけでなく、得られるPBTの色調が青みを増すため好ましくない。一方、4CBA含有量が上記上限値を上回ると、得られるPBTの黄色みが悪化するため好ましくない。
【0034】
<TPA中のp-トルイル酸含有量>
本発明における原料テレフタル酸中のp-トルイル酸含有量は、その下限値として通常20ppm、好ましくは80ppm、より好ましくは100ppmであり、その上限値としては通常300ppm、好ましくは200ppm、より好ましくは150ppmである。p-トルイル酸含有量が上記下限値を下回ると、原料精製コストが増えるだけでなく、得られるPBTの色調が黄色味を増すため好ましくない。一方、p-トルイル酸含有量が上記上限値を上回ると、得られるPBTの青みが増加したり、末端封止の効果によりPBTの分子量が低下し、必要な強度が得られない場合がある。
【0035】
<BDO中の式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物の含有量>
本発明におけるPBT中に酪酸ユニットを導入するため、一例として下記式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物の1種又は2種以上を含むBDOを用いることができる。
【0036】
【0037】
本発明における原料BDO中の上記式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物の1種又は2種以上の含有量の合計(以下、「化合物(1)~(3)の合計含有量」と称す場合がある。)は、その下限値として通常50ppm、好ましくは500ppm、より好ましくは1500ppmであり、その上限値としては通常8000ppm、好ましくは5000ppm、より好ましくは2500ppmである。化合物(1)~(3)の合計含有量が上記下限値を下回ると、得られるPBTの色調が黄色味を増すため好ましくない。一方、化合物(1)~(3)の合計含有量が上記上限値を上回ると、得られるPBTの弾性率が低下し、コンパウンド用途として不適となる場合がある。
【0038】
<BDO中の式(4)、式(5)で表される化合物の含有量>
本発明におけるPBT中にコハク酸ユニットを導入するため、一例として下記式(4)又は式(5)で表される化合物の1種又は2種を含むBDOを用いることができる。
【0039】
【0040】
本発明における原料BDO中の式(4)又は式(5)で表される化合物の1種又は2種の含有量の合計(以下、「化合物(4)~(5)の合計含有量」と称す場合がある。)は、その下限値として通常5ppm、好ましくは50ppm、より好ましくは150ppmであり、その上限値としては通常1000ppm、好ましくは600ppm、より好ましくは300ppmである。化合物(4)~(5)の合計含有量が上記下限値を下回ると、得られるPBTの色調が黄色味を増すため好ましくない。一方、化合物(4)~(5)の合計含有量が上記上限値を上回ると、得られるPBTの弾性率が低下し、コンパウンド用途として不適となる場合がある。
【0041】
[PBTの製造方法の具体例]
上述のように本発明のPBTの製造方法は限定されないが、一例として以下のエステル化反応工程と重縮合反応工程を経て製造する方法が挙げられる。
【0042】
<エステル化反応工程>
まず原料テレフタル酸とBDOをエステル化し、オリゴマーとする工程の例としては、単一のエステル化反応槽、又は複数のエステル化反応槽を直列に接続した多段反応装置を用いて、該反応で生成する水と余剰のジオール成分を系外に除去しながら、エステル化反応率(原料ジカルボン酸成分の全カルボキシル基のうちジオール成分と反応してエステル化したものの割合)が、通常90%以上に達するまで、触媒を用いて又は用いずに、常圧又は減圧下、エステル化反応を行って、オリゴマーを得る方法が挙げられる。
通常、エステル化反応の温度は210~230℃程度、圧力は10~133kPa程度、反応時間に該当する反応槽滞留時間は1~4時間程度である。
【0043】
<重縮合反応工程>
重縮合反応工程の例としては、単一の溶融重縮合槽、又は複数の溶融重縮合槽を直列に接続し、例えば、第1段目が攪拌翼を備えた完全混合型の反応器、第2段及び第3段目が攪拌翼を備えた横型プラグフロー型の反応器からなる多段反応装置を用いて、触媒の存在下、減圧下で加温しながら生成するジオールを系外に留出させる方法が挙げられる。
【0044】
通常、重縮合反応の温度は210~280℃、好ましくは220~250℃程度、圧力は27kPa以下、好ましくは13kPa以下の減圧状態で行う。反応槽は単独でも多段でもよいが、着色や劣化を抑え、ビニル基などの末端基の増加を抑制するため、少なくとも1つの反応槽において、通常1.3kPa以下、好ましくは0.3kPa以下の高真空下で行うのがよい。
【0045】
重縮合反応で得られたPBTは、通常、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状又はシート状で抜き出した後、水冷しながら又は水冷後、カッターで切断してペレット状又はチップ状などの粒状体(例えば長さ3~10mm程度)とする。あるいは、重縮合反応槽から配管を経て所定の温度に調整された冷水中に溶融樹脂を放出するとともにカッターで切断することで球状体(直径2~10mm程度)とする。
【0046】
<重縮合触媒>
ジオール成分とジカルボン酸成分とのエステル化反応で得られたオリゴマーを重縮合する際には、通常、触媒としてチタン化合物と、好ましくは更に周期表2A族金属化合物が使用される。
これらの触媒成分は、エステル化反応に使用して、そのまま重縮合反応を行ってもよいし、エステル化反応では使用せずに、又は、チタン触媒のみを使用し、残りの触媒成分は重縮合段階で追加してもよい。更には、エステル化反応で、最終的に使用する触媒量の一部を使用し、重縮合反応の進行と共に適宜追加することもできる。何れにしても、本発明においては、最終的に得られるPBT中に、必然的にチタン及び好ましくは周期表2A族金属が含有されるが、その量については後述する。
【0047】
(チタン化合物例)
触媒として用いるチタン化合物の具体例としては、酸化チタン、四塩化チタン等の無機チタン化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの中ではテトラアルキルチタネートが好ましく、その中ではテトラブチルチタネートが好ましい。
【0048】
(チタン触媒量)
本発明のPBTにおけるチタン触媒の含有量は、チタン原子としてPBTに対する質量比で5~100ppmであることが好ましい。この量は10ppm以上がより好ましく、20ppm以上が更に好ましく、25ppm以上が最も好ましい。またこの量は90ppm以下がより好ましく、80ppm以下が更に好ましく、60ppm以下が特に好ましく、50ppm以下がとりわけ好ましく、40ppm以下が最も好ましい。
チタンの含有量が多過ぎる場合は、色調、耐加水分解性、溶液ヘイズの悪化、得られる成形品においてフィッシュアイの増加が発生する。チタンの含有量が少な過ぎる場合は重合性が悪化する。
【0049】
(2A族金属化合物例)
触媒として用いる周期表2A族金属化合物の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの各種化合物が挙げられるが、取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が好ましく、特に、触媒効果に優れるマグネシウム化合物が好ましい。マグネシウム化合物の具体例としては、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等が挙げられる。カルシウム化合物の具体例としては、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等が挙げられる。これらの周期表2A族金属化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの中では酢酸マグネシウムが好ましい。
【0050】
(2A族金属触媒量)
本発明のPBTにおける周期表2A族金属触媒の含有量は、特に制限されないが、周期表2A族金属原子としてPBTに対する質量比で3~150ppmであることが好ましい。この量は5ppm以上がより好ましく、10ppm以上が更に好ましい。またこの量は50ppm以下がより好ましく、40ppm以下が更に好ましく、30ppm以下が特に好ましく、15ppm以下が最も好ましい。周期表2A族金属の含有量が多過ぎる場合は、色調、耐加水分解性などが悪化し、少な過ぎる場合は重合性が悪化する。
周期表2A族金属の酢酸塩を使用する場合、酢酸源が反応系に入るので、PBT中の周期表2A族金属量として、15ppm以下が好ましい。
【0051】
(M/Ti比)
本発明のPBTに含まれるチタン原子と周期表2A族金属原子のモル比(周期表2A族金属/チタン)は、通常0.01~100、好ましくは0.1~10、より好ましくは0.3~3、更に好ましくは0.3~1.5である。
【0052】
(Ti分析法)
PBT中のチタン原子などの金属含有量は、湿式灰化などの方法でポリマー中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、ICP発光等の方法を使用して測定することができる。
【0053】
(その他の触媒)
本発明のPBTの製造に際しては、前記のチタン化合物や周期表2A族金属化合物とは別に、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、コバルト化合物、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、それらのエステルや金属塩などの燐化合物、水酸化ナトリウム、安息香酸ナトリウム等の反応助剤を使用してもよい。
【0054】
[PBTの固有粘度]
本発明のPBTをコンパウンド、射出成形に使用する場合、PBTの固有粘度は通常0.6~1.3dL/gであることが好ましい。固有粘度が0.6dL/g未満の場合は成形品の機械的強度が不十分となり、1.3dL/gを超える場合は溶融粘度が高くなり、流動性が悪化して、成形性が悪化する傾向にある。本発明のPBTの固有粘度は、より好ましくは0.65~1.26dL/g、更に好ましくは0.7~1.2dL/gである。
【0055】
また、本発明のPBTペレットをフィルム、シート又はフィラメントの押出し用途に使用する場合、PBTの固有粘度は、通常1.00~1.60dL/g、好ましくは1.03~1.50dL/g、更に好ましくは1.05~1.55dL/g、特に好ましくは1.10~1.50dL/g、とりわけ好ましくは1.15~1.35dL/gである。固有粘度が1.00dL/g未満の場合は、押出成形性が悪化し、樹脂のドローダウンや成形損を招き、フィルム等の押出成形品の機械的強度が不十分となったり、溶融粘度が低くなり、流動性が高すぎて、押出成形性が悪化する。一方、固有粘度が1.60dL/gを超える場合は溶融粘度が高くなり、流動性が悪化して、押出成形性が悪化する傾向にある。
【0056】
[コンパウンド]
本発明のPBTは、PBT製造段階又はPBTを製造したのち必要に応じ各種の添加剤ないしは配合材を加えてコンパウンド製品とすることができる。
【実施例0057】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の諸例で採用した物性及び評価項目の測定方法は次の通りである。
【0058】
(1)固有粘度(IV)
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度1.0g/dLのポリマー溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式より求めた。
IV=((1+4KHηsp)0.5-1)/(2KH・C)
(但し、ηsp=η0-1であり、ηはポリマー溶液の落下秒数、η0は溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dL)、KHはハギンスの定数であり、0.33を採用した。)
【0059】
(2)末端ベンズアルデヒド基濃度、末端メチルフェニル基濃度
微量のテトラメチルシランを含む重クロロホルム/重ヘキサフルオロイソプロパノール/重ピリジン(21/9/1体積比)混合溶媒でPBTを溶解し、AVANCE NEO分光計(Bruker社製)を用いて1H NMRスペクトルを測定した。化学シフトの基準は、テトラメチルシランのシグナルを0.00ppmとした。得られたスペクトルにおいて、テレフタル酸ユニットのフェニル基のプロトン(δ:8.11ppm)のシグナルの積分値を基準として、各官能基のそれぞれに対して後掲の表1に帰属されたプロトンのシグナルの積分値を用いて、PBT1トン中に含まれる各官能基の当量を求めた。
なお、表1中の各構造式中の「×」は濃度を計算した際に基準としたプロトンを示す。
【0060】
(3)酪酸ユニット含有量、コハク酸ユニット含有量
微量のテトラメチルシランを含む重クロロホルム/重ヘキサフルオロイソプロパノール/重ピリジン(21/9/1体積比)混合溶媒でPBTを溶解し、AVANCE NEO分光計(Bruker社製)を用いて1H NMRスペクトルを測定した。化学シフトの基準は、テトラメチルシランのシグナルを0.00ppmとした。得られたスペクトルにおいて、テレフタル酸ユニットのフェニル基のプロトン(δ:8.11ppm)のシグナルの積分値を基準として、各官能基のそれぞれに対して後掲の表1に帰属されたプロトンのシグナルの積分値を用いて、各ユニットのモル数/テレフタル酸ユニットのモル数の比率R(-)を求め、続いて、以下の式により各ユニットの含有量を求めた。
各ユニットの含有量 = R×100
【0061】
(4)末端カルボキシル基濃度
ベンジルアルコール25mLにPBT又はオリゴマー0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定して求めた。
【0062】
(5)色調
日本電色(株)製色差計「Z-300A型」を使用し、L、a、b表色系で評価した。b値が低いほど黄色味が少なく好ましい。但し、b値が-2.2よりも低くなると黄色みは少ないものの、青みが増して色調が好ましくない。
【0063】
(6)テレフタル酸中の4-カルボキシベンズアルデヒド含有量、p-トルイル酸含有量
試料を2N-アンモニア水溶液に溶解させ、超純水にて所定濃度に希釈後、ODSカラムを装着した高速液体クロマトグラフィーで測定した。
【0064】
(7)BDO中の式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物の含有量、式(4)又は式(5)で表される化合物の含有量
前記式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物および前記式(4)又は式(5)で表される化合物を添加したBDOを試料とし、微量のテトラメチルシランを含む重クロロホルム溶媒に試料を溶解し、AVANCE NEO分光計(Bruker社製)を用いて1H NMRスペクトルを測定し、BDOの含有量(積分値)に対する式(1)、式(2)又は式(3)で表される化合物および式(4)又は式(5)で表される化合物の含有量(積分値)を求めた。化学シフトの基準は、テトラメチルシランのシグナルを0.00ppmとした。得られたスペクトルにおいて、BDOのヒドロキシ基のα位炭素に結合したプロトン(δ:1.49ppm)のシグナルの積分値を基準とし、各官能基のそれぞれに対して下記表1に帰属されたプロトンのシグナルの積分値を用いて、BDOの単位重量中に含まれる各官能基の重量を求めた。
なお、表1中の各構造式中の「×」は濃度を計算した際に基準としたプロトンを示す。
【0065】
【0066】
[原料テレフタル酸]
以下の実施例及び比較例でPBTの製造原料として使用したテレフタル酸(TPA)は、酢酸溶媒中でコバルト及びマンガンを含む触媒の存在下、p-キシレンの酸化を行い、更に水素添加により精製を行う工程を経て製造したものであるが、この過程で、4-カルボキシベンズアルデヒド、p-トルイル酸がそれぞれ一定量含まれ得る。これらの含有量は製造条件によって異なるが、以下の実施例及び比較例においては後掲の表1の数値となるよう、これらのテレフタル酸を単独で又はブレンドして用いた。なお、ブレンドに用いたテレフタル酸は、水素添加反応未実施のテレフタル酸も含まれる。
【0067】
[原料1,4-ブタンジオール]
以下の実施例及び比較例でPBTの製造原料として使用した1,4-ブタンジオール(BDO)は、発酵法により得られたコハク酸を水素添加処理し、蒸留精製したBDOをその一つとして用いているが、その製造工程において、化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、および化合物(4)、化合物(5)がそれぞれ一定量含まれ得る。一方で、ナフサを原料としたブタジエンをアセトキシ化後に加水分解して得られるBDOには化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)、および化合物(5)は検出されなかった。このようにこれらの含有量は製造方法や製造条件によっても異なるが、以下の実施例及び比較例においては後掲の表2の数値となるように両者のBDOをブレンドして用いた。
【0068】
[PBTの製造法]
以下の実施例及び比較例では、スクリュー型攪拌機および、精留塔を付帯したエステル化反応槽とダブルヘリカル型攪拌機を付帯した重縮合反応槽からなる設備を用いた2缶式製造法について記載した。
【0069】
[実施例1]
予め150℃に設定したエステル化反応槽に、表2に示す4-カルボキシベンズアルデヒド、p-トルイル酸含有量のテレフタル酸:75.44質量部と、表2に示す化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)、化合物(5)の含有量となるBDO:122.77質量部を混合したスラリーを仕込んだ。続いてテトラブトキシチタンの6質量%BDO溶液を、得られるPBTに対してチタン原子として38ppmとなる量仕込み、槽内温度を150℃から210℃まで90分かけて昇温し、更に210℃で60分保持した。この間、精留塔にて副生する水を取り除きながら、エステル化反応を進めた。留出した副生水が41質量部となったところで、エステル化反応を終了した。なお、表2のエステル化反応時間は、槽内温度を昇温開始した時点をゼロとし、留出水が21質量部に到達した時点までの時間とした。
【0070】
続いて、エステル化反応槽の下部から配管により接続された予め210℃に設定した重縮合反応槽へ得られたオリゴマーを全量移送し、酢酸マグネシウムの10質量%BDO溶液を、得られるPBTに対してマグネシウム原子として12ppmとなる量仕込んだ。攪拌しながら槽内温度を210℃から240℃に45分かけて昇温するとともに、90分かけて常圧から0.5Torrまで徐々に減圧した。その後、240℃、0.5Torrを維持し、所定のトルクに達した時点で攪拌機を停止して復圧後、重縮合反応槽の下部から樹脂をダイスヘッドを通してストランド状に抜出し、水流式スライダーで冷却後、回転式カッターにてPBTペレット(長径約3mm、短径約2mm、長さ約4mm)にカッティングした。なお、表2に記載の重縮合時間は槽内温度を昇温した時点をゼロとして所定トルクに到達した時点までの時間を表す。
得られたPBTについて、前述の(1)~(5)の評価を行って、結果を表2に示した。
【0071】
[実施例2~4、比較例1~6]
原料テレフタル酸として、表2に示す4-カルボキシベンズアルデヒド、p-トルイル酸含有量のテレフタル酸を用い、原料BDOとして、表2に示す化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)、化合物(5)の含有量であるBDOを用い、表2に示すエステル化反応時間及び重縮合反応時間としたこと以外は、実施例1と同様にしてPBTペレットを製造した。
得られたPBTについて、前述の(1)~(5)の評価を行って、結果を表2に示した。
【0072】
【0073】
表2に示されるように、本発明の要件を満たす、実施例1~4のPBTは、好ましい色調(b値)を有する。
これに対して、本発明の要件を満たさない比較例1~6のPBTは、色調(b値)が好ましくない。