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特開2024-132933ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132933
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/029 20160101AFI20240920BHJP
   C08G 75/0204 20160101ALI20240920BHJP
【FI】
C08G75/029
C08G75/0204
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032828
(22)【出願日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2023039564
(32)【優先日】2023-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】竹中 麻朗
(72)【発明者】
【氏名】深澤 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】檜森 俊男
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA49
4J030BB28
4J030BB29
4J030BB31
4J030BC02
4J030BC08
4J030BC17
4J030BD22
4J030BF01
4J030BF07
4J030BG04
4J030BG26
4J030BG27
(57)【要約】
【課題】ポリアリーレンスルフィド(PAS)オリゴマーを再利用して、高分子量化した線状PAS樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物とスルフィド化剤とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー(b)、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、固液分離して、少なくともPAS樹脂、PASオリゴマー(b)、及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(A)を得る工程(2)、混合物Aを洗浄して少なくともPAS樹脂、PASオリゴマー(b)を含む混合物Bを得る工程(3)、混合物Bに酸性水溶液を接触させる工程(4)及び混合物Bを不活性ガス雰囲気下で加熱処理する工程(5)を有し、かつ、前記工程(2)及び/または(3)において、PASオリゴマー(c)を10質量%以上含む組成物を添加することを特徴とするPAS樹脂の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)、オリゴアリーレンスルフィド(b)、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、
前記粗反応混合物から、固液分離で液相成分を除去して、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(a)、オリゴアリーレンスルフィド(b)、及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(A)を得る工程(2)、
前記混合物(A)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去して少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂(a)、オリゴアリーレンスルフィド(b)を含む混合物(B)を得る工程(3)、
前記混合物(B)に酸性水溶液を接触させる工程(4)、及び
前記混合物(B)を不活性ガス雰囲気下で加熱処理する工程(5)を有し、かつ、
前記工程(2)及び/または(3)において、前記粗反応混合物と、前記混合物(A)との少なくとも1つに、オリゴアリーレンスルフィド(c)を10質量%以上含む組成物(C)を添加すること、
前記オリゴアリーレンスルフィド(c)が鎖状オリゴアリーレンスルフィド及び環状オリゴアリーレンスルフィドを含むものであること、
工程(4)を経たポリアリーレンスルフィド樹脂(a)のアルカリ金属含有量が500ppm以下となること、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)及び/又は(3)におけるオリゴアリーレンスルフィド(c)の添加量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(a)に対して0.1~30質量%の範囲である、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記組成物(C)が、
前記工程(1)と、
前記粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、オリゴアリーレンスルフィド(c)を含む液相成分を得る工程(6)と、
を有する製造方法によって得られたものである、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記オリゴアリーレンスルフィド(c)が、鎖状オリゴアリーレンスルフィドを10~90質量%含むものである、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項5】
工程(1)~(5)を経たポリアリーレンスルフィド樹脂の、300℃で測定した溶融粘度(V6)が10~2000〔Pa・s〕の範囲である、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
(ただし、溶融粘度(V6)は、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の溶融粘度を表す。)
【請求項6】
工程(5)の加熱処理前後における、ポリアリーレンスルフィド樹脂の化学発光強度の減少率が45%以下である、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
(ただし、化学発光強度は、150℃、酸素雰囲気下における測定値である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSという)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASという)樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。なかでも、高分子量PAS樹脂は、靭性等の機械的特性に優れることから近年需要が高まっている。
【0003】
従来の高分子量PAS樹脂の製造方法としては、例えば、線状PAS樹脂を気相酸化性雰囲気下で融点以下の温度に加熱して処理することで、酸化架橋させて得る方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、このようにして得られる架橋型の高分子量PAS樹脂は、高分子鎖の分岐構造に起因して粘度のせん断速度依存性が比較的大きい傾向にあることから、紡糸や製膜等の成形を行う際の加工性に課題があった。また、一般的に再結晶化温度が低く結晶化に時間がかかる傾向にあることから、溶融成形時のサイクルタイムの増加等にもつながっていた。
【0004】
一方、PAS樹脂の製造工程で副生されるオリゴアリーレンスルフィド(以下、PASオリゴマーという)は、一般的にPAS樹脂の結晶化速度を小さくしたり、発生ガス量を増加させたりするため、PAS重合における精製工程で除去されているが、それによる原単位ロスが課題であった。これまでにPASオリゴマーの活用方法としては、例えば、酸化性雰囲気下で反応させて架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、このようにPASオリゴマーを反応原料として用いるためには、重合阻害反応を抑制するために、PASオリゴマー以外の副生物を除去する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-84132号公報
【特許文献2】特開2012-116918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、PASオリゴマーを再利用して、高分子量化した線状PAS樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは種々の検討を行った結果、PAS樹脂の製造工程において、重合反応後の混合物にPASオリゴマーを含む組成物を添加し、酸性水溶液を接触させて洗浄後に不活性ガス雰囲気下で加熱処理することで、PAS樹脂を直鎖構造を維持したまま高分子量化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂(a)、PASオリゴマー(b)、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、
前記粗反応混合物から、固液分離で液相成分を除去して、少なくともPAS樹脂(a)、PASオリゴマー(b)、及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(A)を得る工程(2)、
前記混合物(A)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去して少なくともPAS樹脂(a)、PASオリゴマー(b)を含む混合物(B)を得る工程(3)、
前記混合物(B)に酸性水溶液を接触させる工程(4)、及び
前記混合物(B)を不活性ガス雰囲気下で加熱処理する工程(5)を有し、かつ、
前記工程(2)及び/または(3)において、前記粗反応混合物と、前記混合物(A)との少なくとも1つに、PASオリゴマー(c)を10質量%以上含む組成物(C)を添加すること、
前記PASオリゴマー(c)が鎖状PASオリゴマー及び環状PASオリゴマーを含むものであること、
工程(4)を経たPAS樹脂(a)のアルカリ金属含有量が500ppm以下となること、を特徴とするPAS樹脂の製造方法に関する。
【0009】
なお、本発明において、繰り返し単位2~50(2量体~50量体の混合物)を有する高分子化合物を「オリゴマー」と称することがある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、PASオリゴマーを再利用して、高分子量化した線状PAS樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0012】
<PAS樹脂の製造方法>
本実施形態に係るPAS樹脂の製造方法は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂(a)、PASオリゴマー(b)、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)、前記粗反応混合物から、固液分離で液相成分を除去して、少なくともPAS樹脂(a)、PASオリゴマー(b)、及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(A)を得る工程(2)、前記混合物(A)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去して少なくともPAS樹脂(a)、PASオリゴマー(b)を含む混合物(B)を得る工程(3)、前記混合物(B)に酸性水溶液を接触させる工程(4)、及び前記混合物(B)を不活性ガス雰囲気下で加熱処理する工程(5)を有し、かつ、
前記工程(2)及び/または(3)において、前記粗反応混合物と、前記混合物(A)との少なくとも1つに、PASオリゴマー(c)を10質量%以上含む組成物(C)を添加すること、
前記PASオリゴマー(c)が鎖状PASオリゴマー及び環状PASオリゴマーを含むものであること、
工程(4)を経たPAS樹脂(a)のアルカリ金属含有量が500ppm以下となること、を特徴とする。以下詳述する。
【0013】
・工程(1)
工程(1)は、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂(a)、PASオリゴマー(b)、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程である。
【0014】
ここで、本実施形態においてポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジクロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、m-ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。
【0015】
また、本実施形態においては、アルカリ金属硫化物又はアルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物(以下、スルフィド化剤ということがある)を原料として用いる。
【0016】
本実施形態において、前記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0017】
また、前記アルカリ金属水硫化物としては、硫化水素リチウム、硫化水素ナトリウム、硫化水素ルビジウム、硫化水素セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0018】
また、前記アルカリ金属水硫化物はアルカリ金属水酸化物と伴に用いる。当該アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0019】
本実施形態に係るPAS樹脂の製造方法は、原料として含水スルフィド化剤を用いることもでき、その場合、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する工程を経て、PAS樹脂の重合反応に供することが好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の仕込み量が少ない場合、例えば、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1モル未満の場合、ポリハロ芳香族化合物の存在下で、含水スルフィド化剤と、非プロトン性極性溶媒とを、脱水させることが好ましい。
【0020】
含水スルフィド化剤の脱水工程は、少なくとも非プロトン性極性溶媒と、含水スルフィド化剤として含水アルカリ金属硫化物又は含水アルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を、蒸留装置が設けられた反応容器に仕込み、水が共沸により除去される温度、具体的には、300℃以下の範囲、好ましくは80~220℃の範囲、より好ましくは100~200℃の範囲にまで加熱して、蒸留により水を系外に排出することにより行う。脱水工程では、重合反応を行う系内の水分量が、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、5モル以下、より好ましくは、0.01~2.0モルの範囲となるまで脱水することが好ましい。
【0021】
また、本実施形態において有機極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0022】
PAS重合工程におけるPAS樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。または、PAS樹脂の重合反応は、これらの非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200~330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1~20MPaの範囲、好ましくは0.1~2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル~5.0モルの範囲、好ましくは0.8~1.3モルの範囲、さらに好ましくは0.9~1.1モルの範囲となるよう調製する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0~6.0モルの範囲、好ましくは2.5~4.5モルの範囲となるよう調整する。なお、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、さらにポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における「5)」の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.05~0.3モル、より好ましくは0.01~0.02モル以下の範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0023】
上記した有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の分岐剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するPAS樹脂の製造方法、が挙げられる。
【0024】
このように、有機極性溶媒中で、ジハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを重合反応させることにより、生成物として、PAS樹脂が得られるが、それ以外に、環状や鎖状のPASオリゴマーも副生される。反応後に含まれる物質としては、その他に、例えば、アルカリ金属含有無機塩、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物、末端SH基含有化合物などの副生成物や未反応原料、水が含まれていても良い。
【0025】
・工程(2)
工程(2)は、前記粗反応混合物から、固液分離で液相成分を除去して、少なくともPAS樹脂(a)、PASオリゴマー(b)、及びアルカリ金属ハロゲン化物を含む混合物(A)を得る工程である。
【0026】
該固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類があり、本工程ではどちらも用いることができる。フラッシュ法は、粗反応混合物中の溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒を留去及び回収すると同時にPAS樹脂を含む固形物を粉粒状にして回収する方法である。フラッシュ法の好ましい態様としては、重合工程で得られた高温高圧(通常240℃以上、0.3MPa以上)の重合反応物を常圧中の窒素又は水蒸気などの雰囲気にノズルから噴出させる方法が挙げられる。フラッシュ法では、高温高圧状態から常圧状態に重合反応物をフラッシュしたときの溶媒の気化熱を利用して効率よく溶媒回収することができるが、フラッシュさせるときの内温が高いほど溶媒回収の効率が向上し生産性も良好となる。そのためフラッシュさせるときの重合系内の温度及び圧力を通常240℃以上、好ましくは250~280℃の温度範囲かつ0.3MPa以上、好ましくは0.4~5.0MPaの圧力範囲とする。この状態から、減圧下ないし常圧中にフラッシュさせるときの雰囲気温度は通常150~250℃の範囲であり、粗反応混合物からの溶媒回収が不足する場合は、フラッシュ後に150~250℃の雰囲気下で加熱を継続しても良い。
【0027】
一方、クウェンチ法は、粗反応混合物を除冷して粒子状のPAS樹脂を回収する方法であり、一般的に、粗反応混合物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS樹脂を晶析させた後に、濾別等により固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を顆粒として回収する方法である。冷却時間には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~5℃/分が好ましい範囲である。また、徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、PAS樹脂の顆粒状物が晶析するまでは0.1℃/分~1℃/分の範囲とし、その後は1℃/分以上の速度で冷却する方法なども好ましい。最終的には70℃以上、好ましくは100℃以上かつ、200℃以下まで冷却し、その後、固液分離することでPAS樹脂を含む固形分を回収することが好ましい。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離する事ができる。
【0028】
・工程(3)
工程(3)は、前記混合物(A)を洗浄し、アルカリ金属ハロゲン化物を除去して少なくともPAS樹脂(a)、PASオリゴマー(b)を含む混合物(B)を得る工程である。
【0029】
本工程において、前記混合物(A)は、水洗により洗浄される。水洗後、固液分離する方法としては、例えば、スラリーに水を加えて撹拌した後にろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、又は前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。
【0030】
前記水洗の際、前記混合物(A)に加える水の量は最終的に得られるPAS樹脂の理論収量に対して2倍~20倍の範囲にあることが好ましく洗浄効率の点から好ましく、上記の量の水を1~10回、好ましくは1~4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗は、窒素ないし空気雰囲気下、水温20℃~300℃の範囲で行うことが好ましく、洗浄効率が良好となる点から、なかでも、50℃~100℃の範囲で行うことがより好ましく、さらに70℃~90℃の範囲で行うことが最も好ましい。前記水洗は、一回又は複数回繰り返し行うことができる。複数回繰り返し水洗浄する場合、前記雰囲気・温度条件は同一でも異なっていても良い。
【0031】
本工程においては、撹拌機を有する水洗槽及び固液分離するための遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された混合機能を有す容器内で行うこともできる。本発明において、水洗は連続的に行っても良いし、バッチ式に行ってもいずれでも良い。
【0032】
・工程(4)
工程(4)は、前記混合物(B)に酸性水溶液を接触させる工程である。
【0033】
本工程で酸性水溶液を接触させることで、前記混合物(B)に含まれるPAS樹脂(a)のアルカリ金属含有量を低減させることができる。PAS樹脂(a)のアルカリ金属含有量を低減させると、後続の工程(5)で加熱処理する際に、ラジカルの発生が抑制される。これにより、PAS樹脂(a)の末端における分子鎖伸長作用が優先的に発現して、直鎖構造を維持したまま高分子化できる。酸性水溶液に含まれる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸等が挙げられ、これらの中でも酢酸、シュウ酸等が好ましい。また、酸性水溶液に含まれる酸は1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0034】
本工程において接触させる酸性水溶液の量は、本工程を経たPAS樹脂(a)のアルカリ金属含有量が500ppm以下となるように、前記混合物(B)に含まれるPAS樹脂(a)等の量にあわせて調整することが好ましい。例えば、酸性水溶液を添加した際の混合物(B)の23℃で測定したpHが好ましくは6以下、より好ましくは5以下になるように、酸性水溶液の量を調整することで、PAS樹脂(a)のアルカリ金属含有量が500ppm以下とすることができる。なお、本開示におけるPAS樹脂のアルカリ金属含有量は、実施例に記載の方法で、原子吸光光度計を用いて測定した際のナトリウム原子の濃度(質量基準)を言うものとする。
【0035】
本工程において酸性水溶液を接触させる際の温度としては特に限定されないが、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上から、好ましくは90℃以下、より好ましくは70℃以下の範囲である。
【0036】
酸性水溶液を添加した混合物(B)は、濾別して得られた固相成分をそのまま混合物(B)として次の工程に用いることもできるし、さらに水などの溶媒が蒸発する温度に加熱して、乾燥処理を行ってから、混合物(B)として次の工程に用いても良い。乾燥は、真空下で行っても良いし、空気中や窒素などの不活性雰囲気下で行っても良い。
【0037】
・工程(5)
工程(5)は、前記混合物(B)を不活性ガス雰囲気下で加熱処理する工程である。
【0038】
本工程において、不活性ガスは、希ガス類元素又は窒素などに代表される化学反応を起こし難い安定した気体をいい、例えば、窒素、ヘリウム又はアルゴンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、不活性ガスは、2種以上の不活性ガスを混合した混合不活性ガスであってもよい。なお、本明細書における「不活性ガス雰囲気」とは、不活性ガスを含む混合気体雰囲気であって、当該混合気体全体の体積(100体積%)に対して、不活性ガスが99体積%以上を占める雰囲気をいう。ガス濃度の測定方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、所定の容器又はガス吸引ポンプなどを使用して、各種センサ、ガスクロマトグラフィー、ガス検知管等の検出計にて行うことができる。
【0039】
加熱手段は特に限定されず、公知公用の装置や方法を用いることができる。例えば、前記混合物(B)を処理容器へ投入し、不活性ガス下で加熱処理を行う方法が挙げられる。加熱条件は、加熱処理に要する時間と、加熱処理後のPAS樹脂の溶融時の熱安定性が良好となる観点から、180℃以上から、PAS樹脂の融点より20℃低い温度範囲であることが好ましい。ただし、ここでの融点とは、示差走査熱量計を用いてJIS K 7121に準拠して測定したものをさす。
【0040】
加熱時間は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、オリゴマー消費量が20質量%以上となるように調整することが、分子量伸長とウエイトロス低減の観点から好ましい。
【0041】
本工程において、不活性ガス雰囲気下で加熱処理することにより、PAS樹脂の分岐構造の形成を抑制し、直鎖構造を維持したまま高分子量化することができる。このような効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のメカニズムによるものと推測される。すなわち、不活性ガス雰囲気かつ高温環境において、PASオリゴマー(b)及びPASオリゴマー(c)に含まれる環状PASオリゴマーは、開環してPAS樹脂の末端における分子鎖伸長作用を発現する。また、PASオリゴマー(c)に含まれる鎖状PASオリゴマーは、構造中に有するカルボン酸が、PAS樹脂が末端に有するアルカリ金属に作用して、ラジカルの発生を抑制することで、分岐構造の形成を抑制する。この環状構造と直鎖構造のそれぞれのPASオリゴマーの相乗効果によって、PAS樹脂は直鎖構造を維持したまま高分子化すると考えられる。なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、他の理由により本発明の効果が奏される場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0042】
また、本工程において、加熱処理前後におけるポリアリーレンスルフィド樹脂の化学発光(ケミルミネッセンス)強度の減少率が、45%以下の範囲であることが好ましく、30%以下の範囲であることがより好ましく、15%以下の範囲であることがさらに好ましい。ただし、本開示における化学発光強度は、実施例に記載の方法で150℃における酸素雰囲気下での測定により得られた値である。
【0043】
PAS樹脂は微弱な化学発光を示し、それはPAS分子中の活性基(例えば末端SH基など)に由来すると推定される。これよりよって、PAS樹脂の化学発光強度を測定することで、PAS分子中の活性基の含有量を概算することができる。例えば、酸化性ガス雰囲気下で加熱処理を行う場合、まず加熱によってPAS活性基がはラジカルに変化し、当該ラジカルが化学反応によって他のPAS分子へ取り込まれて分岐構造を形成することでラジカルは消失する。し、すなわち、加熱処理後のPAS樹脂中の活性基は減少するため、当該活性基に由来する化学発光強度は減少する。一方、不活性ガス雰囲気下で熱処理を行う場合、、加熱による活性基の変化が生じないため分岐構造は形成されず、直鎖構造を維持したままPAS樹脂の高分子量化が進行する。当該該活性基の状態は変化しないためはPAS分子内に残留し、加熱処理後もPAS樹脂中の活性基に由来する化学発光強度は維持される。上記メカニズムによって、熱処理前後で樹脂の化学発光強度の変化が小さいと、直鎖構造を維持した高分子量化が優先的に進行していること考えられる。なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、他の理由により化学発光強度が本発明の効果に寄与する場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0044】
<オリゴアリーレンスルフィド(c)を10質量%以上含む組成物(C)>
また、本実施形態に係るPAS樹脂の製造方法は、前記工程(2)及び/又は(3)において、前記粗反応混合物及び前記混合物(A)の少なくとも1つに、PASオリゴマー(c)を10質量%以上含む組成物(C)を添加することを特徴とする。また、前記PASオリゴマー(c)が鎖状PASオリゴマー及び環状PASオリゴマーを含むものであることを特徴とする。
【0045】
前記組成物(C)を前記工程(2)で添加する際は、固液分離する前の粗反応混合物及び/又は固液分離後に得られる混合物(A)に添加することができる。前記組成物(C)を前記工程(3)で添加する際は、洗浄前や洗浄中の混合物(A)に添加することができる。その際の組成物(C)の添加量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、添加する対象物に含まれるPAS樹脂(a)の含有量(理論収量)に対して前記組成物(C)に含まれるPASオリゴマー(c)が0.1~30質量%となるように調整することが好ましく、0.5~25質量%となることがより好ましい。かかる範囲において、工程(4)の加熱処理による分子量伸長が効率よく行える。
【0046】
本実施形態において、PASオリゴマー(c)における鎖状PASオリゴマーと環状PASオリゴマーの含有量は特に限定されないが、鎖状PASオリゴマーが10~90質量%含有されていることが好ましく、20~70質量%含有されていることがより好ましい。かかる範囲において、後続の熱処理工程における反応速度や分子鎖伸長作用に優れる。
【0047】
なお、前記組成物(C)におけるPASオリゴマー(c)の含有量及びPASオリゴマー(c)における鎖状PASオリゴマーと環状PASオリゴマーの含有量は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0048】
本実施形態で用いる鎖状PASオリゴマーのカルボン酸含有量は特に限定されないが、加熱処理工程におけるラジカル抑制効果の観点から、50μmol/g以上が好ましく、500μmol/g以下が好ましく、200μmol/g以下がより好ましい。なお、本開示における鎖状PASオリゴマーのカルボン酸含有量は、フーリエ変換赤外分光装置(以下「FT-IR装置」と略記する。)を用いて以下の方法で測定した値である。すなわち、鎖状PASオリゴマーを分取して280℃で加熱プレスしたのち、急冷することによって非晶性を示すフィルムを試験片として作成し、FT-IR装置で測定した。赤外吸収スペクトルのうち630.6cm-1の吸収に対する1705cm-1の吸収の相対強度を求め、p-クロロフェニル酢酸を試料として作成した検量線を用いて測定サンプル中のカルボン酸含有量を求めた。カルボン酸の含有量は鎖状PASオリゴマー1g中のモル数で示され、その単位はμmol/gで表される。
【0049】
前記組成物(C)の製造方法は特に限定されないが、例えば前記工程(1)と同様の工程及び下記工程(6)を有する製造方法によって製造することができる。すなわち、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、又は、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させて、少なくとも、PAS樹脂、PASオリゴマー(c)、アルカリ金属ハロゲン化物及び有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得る工程(1)及び下記工程(6)を有する製造方法によって製造することができる。
【0050】
・工程(6)
工程(6)は、前記粗反応混合物から、固液分離により固相成分を除去して、少なくとも、PASオリゴマー(c)を含む液相成分を得る工程である。本工程における固液分離はクウェンチ法が、晶析時にポリマー粒子中に前記副生成物や未反応原料等の不純物を取り込みにくく、PASオリゴマーをより多く液相成分に回収できるため好ましい。
【0051】
このようにして得られた液相成分は、PASオリゴマー(c)や有機極性溶媒の他に、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物、末端SH基含有化合物などの副生成物や未反応原料、水が含まれていても良い。当該液相成分は、そのまま組成物(C)として用いることもできるが、さらに、精製することもできる。その場合には、液相成分に対して公知の精製操作を行うことによって、他の副生成物を除去して、PASオリゴマー(c)の濃度を高くすることができる。
【0052】
前記組成物(C)を前記工程(2)で添加することによって、後続の工程(3)で組成物(C)に含まれるPASオリゴマー(c)以外の成分を効率的に除去することができる。よって、組成物(C)を予め精製してPASオリゴマー(c)を抽出する工程が必要がなく、製造コトを低減することができる、PASオリゴマーの再利用率を向上させることができる。
【0053】
本実施形態に係る製造方法により得られたPAS樹脂は、Mw/Mtopが、0.82~1.18の範囲であり、好ましくは0.85~1.15の範囲である。なお、本開示において、Mwはゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される重量平均分子量のことを示し、Mtopは同測定により得られるクロマトグラムの検出強度が最大となる点の平均分子量(ピーク分子量)を示す。Mw/Mtopは、測定対象の分子量の分布の指標であり、一般的に値が1に近いほど分子量の分布が狭いことを示し、大きいほど分子量の分布が広いことを示す。また、分岐構造を有する高分子が多いほど、Mw/Mtopは大きくなる傾向にある。なお、本開示におけるMw及びMtopの値は、実施例に記載の方法で測定した値であるが、Mw、Mw/Mtopの値に実質的な影響を及ぼさない範囲で、測定条件を変更することは可能である。
【0054】
また、本実施形態に係る製造方法により得られたPAS樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が5~5,000〔Pa・s〕の範囲であり、より好ましくは10~2,000〔Pa・s〕の範囲である。ただし、300℃で測定した溶融粘度(V6)とは、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の溶融粘度を表す。
【0055】
また、上記の製造方法により得られたPAS樹脂は、1gあたりの化学発光強度が1000~1000万カウント/秒の範囲であることが好ましく、1万~500万カウント/秒の範囲であることがより好ましく、1万~100万カウント/秒の範囲であることがさらに好ましい。なお、当該化学発光強度は実施例に記載の方法で測定した値である。
【0056】
<組成物・用途等>
本実施形態に係る製造方法により得られたPAS樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填材などの添加剤を含有せしめることができる。充填剤としては、本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の無機充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0057】
本実施形態に係る製造方法により得られたPAS樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用することもできる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0058】
さらに、本実施形態に係る製造方法で得られたPAS樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形等の各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れる。このため、例えば、コネクタ・プリント基板・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品等として幅広く利用可能である。
【実施例0059】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。なお、以下、特に断りが無い場合「%」や「部」は質量基準とする。
【0060】
<製造例1:PASオリゴマー(c)を10質量%以上含む組成物の製造と評価>
圧力計、温度計、コンデンサを連結した撹拌翼付き1Lオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3重量%Na2S)129.42gと、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)300.0gを仕込んだ。窒素気流下で攪拌しながら209℃まで昇温して、水30.96gを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(以下、DCBと略す)147.90g、及びNMP120.0gを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進めた。反応中の最高圧力は、0.85MPaであった。反応後に冷却し、温度170℃の時点でシュウ酸・2水和物1.89g(0.015モル)をNMP4.42gに含む溶液を加圧注入し、30分間撹拌後、冷却した。得られた反応スラリー全量を120℃でろ過し、NMP320gを加えケーキ洗浄ろ過した。得られたNMPろ液量は536gであった。
【0061】
NMPろ液536gを1Lナスフラスコに仕込み、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧下150℃でNMPを蒸留により除去し、PPSオリゴマーを含む組成物18.35gを得た。PPSオリゴマーを含む組成物に水を添加し、水スラリー化したあと、固液分離と、水での洗浄を3回繰り返し、その後乾燥して粉体を得た。得られた粉体を5.0000g分取し、クロロホルム75mLを加えて、62℃に加熱しながら1時間還流した。還流操作後の残渣を鎖状PPSオリゴマーとして、また、得られたクロロホルム抽出液を室温まで徐冷した際に含まれる固形物を環状PPSオリゴマーとして、重量を測定した。鎖状PPSオリゴマー含有量は1.85g、環状PPSオリゴマー含有量は3.15gであった。得られた値から、PPSオリゴマーを含む組成物におけるPPSオリゴマー含有量、鎖状PPSオリゴマー含有量及び環状PPSオリゴマー含有量を算出したところ、組成物におけるPPSオリゴマー含有量は27.8質量%であり、鎖状PPSオリゴマー含有量は37質量%、環状PPSオリゴマー含有量は63質量%であった。鎖状PPSオリゴマーにおけるカルボン酸含有量は160μmol/gだった。
【0062】
<実施例1~4、比較例1~5>
【0063】
<実施例1>
・工程(1)
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き1LオートクレーブにDCB244.02g(1.66モル)、NMP26.96g(0.16モル)、47.23質量%NaSH水溶液201.78g(NaSHとして1.70モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液135.74g(NaOHとして1.67モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水200.59gを留出させた後、釜を密閉した。脱水時に共沸により留出したDCBはデカンターで分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は無水硫化ナトリウム組成物がDCB中に分散した状態であった。上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP340.92g(3.40モル)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したDCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、DCBは釜へ戻した。留出水量は1.32gであった。内温200℃から230℃まで3時間かけて昇温し、3時間撹拌した後、250℃まで昇温し1時間撹拌した。
【0064】
・工程(2)
反応終了後、製造例1で得られた組成物を、組成物に含まれるPPSオリゴマーがPPS樹脂に対して4質量%に相当するように26.4g仕込み、オートクレーブの底弁を開いて撹拌翼付き2L真空撹拌乾燥機にフラッシュさせてNMPを抜き取り、室温まで冷却した。固形分濃度が55%の粗PPS混合物を得た。
【0065】
・工程(3)
得られた粗PPS混合物に対して、70℃のイオン交換水を用いて3度洗浄(攪拌とろ過)を行った。
【0066】
・工程(4)
工程(3)を経たPPS混合物全量にイオン交換水600gを加えた後、pHが2となるまで0.1mol/L塩酸水溶液を加えて30分間攪拌した。その後ろ過して、得られたケーキにイオン交換水1Lを加えて洗浄した。再度ろ過してから固相成分を120℃で4時間乾燥し、溶融粘度(V6)130Pa・s、収量191.3gのPPS樹脂を得た。
【0067】
・工程(5)
上記PPS樹脂50gを不活性ガス雰囲気下240℃のイナートガスオーブンで15時間熱処理を行った。処理後に得られたPPS樹脂の性状を表1に示す。
【0068】
<実施例2>
・工程(1)
圧力計、温度計、コンデンサーを連結した撹拌翼付き2Lオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.3重量%Na2S)220.01gと、NMP510.0gを仕込んだ。窒素気流下で攪拌しながら209℃まで昇温して、水52.63gを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、DCB251.43g、及びNMP204.0gを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進めた。反応中の最高圧力は、0.85MPaであった。反応後に冷却し、温度170℃の時点でシュウ酸・2水和物3.22g(0.026モル)をNMP7.51gに含む溶液を加圧注入し、30分間撹拌後、冷却した。得られた反応スラリー全量を120℃でろ過し、NMP180gを加えケーキ洗浄ろ過した。
【0069】
・工程(2)
製造例1で得られた組成物を、組成物に含まれるPPSオリゴマーがPPS樹脂に対して4質量%に相当するように26.4g仕込み、撹拌翼付き2L真空撹拌乾燥機でNMPを抜き取り、室温まで冷却し、粗PPS混合物を得た。
【0070】
・工程(3)
得られた粗PPS混合物に対して、70℃のイオン交換水を用いて3度洗浄(攪拌とろ過)を行った。
【0071】
・工程(4)
工程(3)を経たPPS混合物全量にイオン交換水600gを加えた後、pHが2となるまで0.1mol/L塩酸水溶液を加えて30分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキにイオン交換水1Lを加えケーキ洗浄を行った。120℃で4時間乾燥し、溶融粘度(V6)130Pa・s、収量191.3gのPPS樹脂を得た。
【0072】
・工程(5)
上記PPS樹脂50gを不活性ガス雰囲気下240℃のイナートガスオーブンで15時間熱処理を行った。処理後に得られたPPS樹脂の性状を表1に示す。
【0073】
<実施例3>
実施例2の工程(2)を下記のように実施した以外は実施例1と同様に実施した。すなわち、反応終了後、製造例1で得られた組成物を、組成物に含まれるPPSオリゴマーがPPS樹脂に対して4質量%に相当するように26.4gを仕込み、その後、得られた粗PPS混合物に対して、70℃のイオン交換水を用いて3度洗浄(攪拌とろ過)を行った。処理後に得られたPPS樹脂の性状を表1に示す。
【0074】
<実施例4>
工程(3)において製造例1で得られた組成物に含まれるPPSオリゴマーがPPS樹脂に対して4質量%に相当する26.4gを仕込んだ以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPS樹脂の性状を表1に示す。
【0075】
<実施例5>
工程(2)において製造例1で得られた組成物に含まれるPPSオリゴマーがPPS樹脂に対して20質量%に相当する132.6gを仕込んだ以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPS樹脂の性状を表1に示す。
【0076】
<実施例6>
工程(4)においてpHを4とした以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPS樹脂の性状を表1に示す。
【0077】
<比較例1>
工程(4)において製造例1で得られた組成物に含まれるPPSオリゴマーがPPS樹脂に対して4質量%に相当する26.4gを仕込んだ以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPS樹脂の性状を表2に示す。
【0078】
<比較例2>
工程(2)において製造例1で得られた組成物に含まれる鎖状オリゴマー7.4gをPPS樹脂に対して仕込んだ以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPS樹脂の性状を表2に示す。
【0079】
<比較例3>
工程(2)において製造例1で得られた組成物に含まれる環状オリゴマー7.4gをPPS樹脂に対して仕込んだ以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPS樹脂の性状を表2に示す。
【0080】
<比較例4>
工程(2)において製造例1で得られた組成物に含まれるPPSオリゴマーがPPS樹脂に対して40質量%に相当する264gを仕込んだ以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPS樹脂の性状を表2に示す。
【0081】
<比較例5>
工程(4)を実施しなかった以外は実施例1と同様に実施した。得られたPPS樹脂の性状を表2に示す。
【0082】
<比較例6>
酸素を含む気体の雰囲気下で工程(5)を実施した以外は、実施例1と同様に実施した。得られたPPS樹脂の性状を表2に示す。
【0083】
<評価>
【0084】
(1)Mtop及びMw/Mtopの測定
各実施例及び比較例で得られたPPS樹脂の重量平均分子量(Mw)及びピーク分子量(Mtop)を、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、下記の測定条件により測定し、Mw/Mtopを算出した。結果を表1及び2に示す。なお、6種類の単分散ポリスチレンを校正に用いた。
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(株式会社センシュー科学製「SSC-7000」)
カラム:UT-805L(昭和電工株式会社製)
カラム温度:210℃
溶媒:1-クロロナフタレン
測定方法:UV検出器(360nm)
【0085】
(2)ウェイトロスの測定
各実施例及び比較例で得られたPPS樹脂の粉体試料を精密天秤にて4.0000gアルミ製シャーレに秤量した。150℃に設定された乾燥機内に試料を1時間静置した後、シャーレを取出して、室温まで放冷してから秤量した。次いで、同シャーレを、370℃に設定された乾燥機内に1時間静置した後、シャーレを取出して、室温まで放冷してから秤量した。次式より各試料のウェイトロスを算出した。結果を表1及び2に示す。
{(150℃加熱後の秤量値)-(370℃加熱後の秤量値)}÷(150℃加熱後の秤量値)×100
【0086】
(3)再結晶化温度(Tc)の測定
各実施例及び比較例で得られたPPS樹脂に係る再結晶化温度は、示差走査熱量分析装置(Perkin Elmer社製「DSC8500」)を用い、40℃から350℃に昇温して3分間保持後、20℃/minで120℃まで降温した際の樹脂の結晶化に由来する発熱ピークのピークトップの温度で評価した。結果を表1及び2に示す。
【0087】
(4)樹脂のアルカリ金属含有量の測定
PPSを白金るつぼに秤取り、そこに濃硫酸(原子吸光グレード)を浸る程度に加えて、マイルストーンゼネラル株式会社製マイクロ波灰化装置で完全に灰化させた。そこに1%塩酸と及び純水を添加して灰分を溶解させ、その溶液を原子吸光光度計を用いてナトリウム量を分析し、得られた値からPPS中のナトリウム量を定量した。なお、純水は導電度18.2MΩ・cmのものを使用した。結果を末端Na量として、表1及び2に示す。
【0088】
(5)化学発光強度の測定
各実施例及び比較例における工程(4)で、加熱処理前後のPPS樹脂の化学発光強度を測定した。測定は、東北電子産業社製「ケミルミネッセンスアナライザーCLA-FS5」を用いた。具体的には、装置試料室に、PPS樹脂(試料0.10g)を入れ、まず予備加熱として窒素流通下、室内温度を150℃へ昇温し、150℃5分間維持したあと、75℃へ降温した。続いて温度を75℃5分間維持、室内のガスを窒素から酸素へ切り換え、再び150℃へ昇温し、150℃を5分間維持した。その時サンプルが示した化学発光強度をサンプル重量(g)で割って1gあたりの化学発光強度を値を得た。当該値を用いて、下式により加熱処理による化学発光強度の減少率を算出した。結果を表1及び2に示す。
・CL;工程(1)~(3)を経たPPS樹脂1gあたりの化学発光強度
・CL;工程(1)~(4)を経たPPS樹脂1gあたりの化学発光強度
・(化学発光強度の減少率、%)=(CL-CL)÷CL×100
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
表1及び2において、実施例1及び4と比較例1を対比すると、実施例のPPS樹脂は工程(2)または工程(3)においてPPSオリゴマー組成物を添加することで、オリゴマー添加によるMtopの増加効果が十分奏され、またオリゴマーが消費されるため樹脂のウェイトロスが小さくなることが示された。さらに、結晶化温度も大きくなった。
また、実施例1と比較例2及び3を対比すると、比較例のように添加するPPSオリゴマーの構造が鎖状又は環状のどちらか一方のみである場合、Mtopの増加効果に乏しく、また、ウエイトロスが大きいことが示された。
また、実施例1と比較例5を対比すると、酸性水溶液との接触工程がない比較例の樹脂は末端Na量が大きくなり、得られる樹脂はMtopが小さく、また、Mw/Mtopが広いことから架橋構造を有する樹脂となることが示唆された。
また、実施例1と比較例6を対比すると、工程(5)で不活性ガス雰囲気下で加熱処理した実施例の樹脂がより大きいMtopと小さいMw/Mtopを有し、かつ、ウエイトロスも小さいことが示された。