(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024132944
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】被覆粒状肥料
(51)【国際特許分類】
C05G 5/30 20200101AFI20240920BHJP
C05G 5/12 20200101ALI20240920BHJP
【FI】
C05G5/30
C05G5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035016
(22)【出願日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2023041811
(32)【優先日】2023-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 啓人
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061BB15
4H061DD04
4H061DD18
4H061EE35
4H061EE51
4H061FF15
4H061GG27
4H061HH02
4H061LL05
4H061LL26
(57)【要約】
【課題】肥料粒子間のブロッキングを抑えた被覆粒状肥料であって、良好な分解性を有しつつ、肥料成分の溶出期間をより長くすることができる被覆粒状肥料を提供する。
【解決手段】粒状肥料と、当該粒状肥料の表面に設けられたウレタン樹脂を含む被覆層と、を有し、前記ウレタン樹脂は、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との重合物であり、前記ポリイソシアネート成分は、芳香族ポリイソシアネートを含み、前記ポリオール成分は、ポリエステルポリオールを含み、前記ポリエステルポリオールは、下記群(I)より選択される2種の低分子ポリオール及び下記群(II)より選択される1種のジカルボン酸、又は下記群(I)より選択される1種の低分子ポリオール及び下記群(II)より選択される2種のジカルボン酸を構成モノマーとして含む、被覆粒状肥料。
群(I):エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール及びメチルペンタンジオールからなる群。
群(II):アジピン酸及びセバシン酸からなる群。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状肥料と、当該粒状肥料の表面に設けられたウレタン樹脂を含む被覆層と、を有し、
前記ウレタン樹脂は、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との重合物であり、
前記ポリイソシアネート成分は、芳香族ポリイソシアネートを含み、
前記ポリオール成分は、ポリエステルポリオールを含み、
前記ポリエステルポリオールは、下記群(I)より選択される2種の低分子ポリオール及び下記群(II)より選択される1種のジカルボン酸、又は下記群(I)より選択される1種の低分子ポリオール及び下記群(II)より選択される2種のジカルボン酸を構成モノマーとして含む、被覆粒状肥料。
群(I):エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール及びメチルペンタンジオールからなる群。
群(II):アジピン酸及びセバシン酸からなる群。
【請求項2】
前記ポリエステルポリオールの合計含有量は、前記ポリオール成分の全量基準で20質量%以上である、請求項1に記載の被覆粒状肥料。
【請求項3】
前記芳香族ポリイソシアネートは、イソシアネート基を有するベンゼン環を2以上有する化合物を含む、請求項1又は2に記載の被覆粒状肥料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂を含む被覆層を有する被覆粒状肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への配慮から易分解性樹脂への注目が高まっている。良好な分解性を有しつつ、肥料成分の溶出を制御することができる樹脂被膜として、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との重合物であるウレタン樹脂被膜が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-210960号公報
【特許文献2】特開2011-178579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、上記のようなウレタン樹脂被膜を有する肥料は、ポリオール成分の種類によって、肥料成分の溶出の制御が十分でないことがあった。また、上記のようなウレタン樹脂被膜を有する肥料は、ポリオール成分の種類によって、肥料粒子間のブロッキングが問題となることを見出した。ブロッキングが生じると、品質の劣化や機械での施肥作業への影響が懸念される。更に、肥料粒子間のブロッキングは、樹脂被膜の損傷に繋がり、結果として、肥料成分の溶出の制御が不十分となり得る。したがって、肥料粒子間のブロッキングを抑えた被覆粒状肥料であって、良好な分解性を有しつつ、肥料成分の溶出期間をより長くすることができる被覆粒状肥料が求められる。
【0005】
本発明は、肥料粒子間のブロッキングを抑えた被覆粒状肥料であって、良好な分解性を有しつつ、肥料成分の溶出期間をより長くすることができる被覆粒状肥料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下を含む。
〔1〕 粒状肥料と、当該粒状肥料の表面に設けられたウレタン樹脂を含む被覆層と、を有し、
前記ウレタン樹脂は、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との重合物であり、
前記ポリイソシアネート成分は、芳香族ポリイソシアネートを含み、
前記ポリオール成分は、ポリエステルポリオールを含み、
前記ポリエステルポリオールは、下記群(I)より選択される2種の低分子ポリオール及び下記群(II)より選択される1種のジカルボン酸、又は下記群(I)より選択される1種の低分子ポリオール及び下記群(II)より選択される2種のジカルボン酸を構成モノマーとして含む、被覆粒状肥料。
群(I):エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール及びメチルペンタンジオールからなる群。
群(II):アジピン酸及びセバシン酸からなる群。
〔2〕 前記ポリエステルポリオールの合計含有量は、前記ポリオール成分の全量基準で20質量%以上である、〔1〕に記載の被覆粒状肥料。
〔3〕 前記芳香族ポリイソシアネートは、イソシアネート基を有するベンゼン環を2以上有する化合物を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の被覆粒状肥料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、良好な分解性を有し、肥料粒子間のブロッキングを抑えた被覆粒状肥料であって、より長い肥料成分の溶出期間を有する被覆粒状肥料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の被覆粒状肥料は、粒状肥料と、当該粒状肥料の表面に設けられたウレタン樹脂を含む被覆層と、を有する。本発明の被覆粒状肥料は、被覆層の外側に設けられた保護層をさらに有していてもよい。以下、本発明の被覆粒状肥料の一形態について説明する。
【0009】
<被覆層>
被覆層はウレタン樹脂を含む。被覆層に用いられるウレタン樹脂は、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との重合物である。前記ポリイソシアネート成分は、芳香族ポリイソシアネートを含む。前記ポリオール成分は、ポリエステルポリオールを含む。前記ポリエステルポリオールは、下記群(I)より選択される2種の低分子ポリオール及び下記群(II)より選択される1種のジカルボン酸、又は下記群(I)より選択される1種の低分子ポリオール及び下記群(II)より選択される2種のジカルボン酸を構成モノマーとして含む。
群(I):エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール及びメチルペンタンジオールからなる群。
群(II):アジピン酸及びセバシン酸からなる群。
【0010】
このように、前記群(I)及び群(II)より選択される3種以上の成分を構成モノマーとして含むウレタン樹脂を用いることにより、製造性に優れ、土壌等の自然環境下において分解される分解性を有し、かつ肥料成分の溶出期間をより長くすることができる。ここで、本発明においては、肥料粒子間のブロッキングを抑えた被覆粒状肥料を、製造性に優れた被覆粒状肥料と記すことがある。本発明に係る被覆粒状肥料について、後述する実施例の測定方法により得られる溶出期間は、好ましくは25日以上であり、より好ましくは30日以上である。
【0011】
ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを重合反応させることにより、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との重合物を得ることができる。
【0012】
ポリイソシアネート成分は、芳香族ポリイソシアネートを含む。芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略称することがある)、トルエンジイソシアネート(以下、TDIと略称することがある)、キシリレンジイソシアネート(以下、XDIと略称することがある)、トリジンイソシアネート(以下、TODIと略称することがある)、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート(以下、TMXDIと略称することがある)、ナフタレンジイソシアネート(以下、NDIと略称することがある)及びイソホロンジイソシアネートを挙げることができ、必要に応じてこれらの混合物を用いることができる。この中でも、ベンゼン環やナフタレン環を有する芳香族ポリイソシアネートが好ましく、一層優れた徐放性能が得られる観点からは、イソシアネート基を有するベンゼン環を2以上有する芳香族ポリイソシアネートが好ましい。このような芳香族ポリイソシアネートにおいて、各ベンゼン環に直接結合しているイソシアネート基の数は1つであってよく、2つ以上であってもよい。このような芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、MDI、TDIまたはこれらから誘導されるオリゴマー体(ポリメリックMDI、ポリメリックTDI等)が好適に用いられる。
【0013】
ポリイソシアネート成分に占める芳香族ポリイソシアネートの割合は、一層優れた徐放性能が得られる観点からは、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、100質量%であることが更に好ましい。また、ウレタン樹脂中のポリイソシアネート成分の割合は、10~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。
【0014】
ポリオール成分は、ポリエステルポリオールを含む。ポリエステルポリオールを含むことにより、ウレタン樹脂に分解性を付与できる。ポリオール成分におけるポリエステルポリオールの合計含有量は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上である。本発明において、ポリエステルポリオールは、前記群(I)より選択される2種の低分子ポリオール及び前記群(II)より選択される1種のジカルボン酸、又は前記群(I)より選択される1種の低分子ポリオール及び前記群(II)より選択される2種のジカルボン酸を構成モノマーとして含む。このような構成モノマーから構成されるポリエステルポリオールを含有することにより、製造性に優れ、かつ肥料成分の溶出期間をより長くすることができる。
【0015】
ポリエステルポリオールは、その構成モノマーについて、低分子ポリオールの合計重量と、ジカルボン酸の合計重量の重量比は限定されることはなく、例えば0.3~1.7:1、好ましくは0.4~1.5:1である。
【0016】
ポリエステルポリオールは、その構成モノマーについて、低分子ポリオールを2種含む場合、1種目の低分子ポリオールの重量と、2種目の低分子ポリオールの重量と、ジカルボン酸の合計重量との重量比は限定されることはなく、例えば0.1~1:0.1~1:1、好ましくは0.1~0.85:0.1~0.85:1である。また、その構成モノマーについて、ジカルボン酸を2種含む場合、低分子ポリオールの合計重量と、1種目のジカルボン酸の重量と、2種目のジカルボン酸の重量との重量比は限定されることはなく、例えば1:0.2~2:0.2~2、好ましくは1:0.2~1.7:0.2~1.7である。
【0017】
ポリエステルポリオールは、例えば、低分子ポリオールとジカルボン酸とを縮重合させることにより得られる縮合系ポリエステルポリオールが挙げられる。上記のような構成モノマーを含むポリオール成分として、前記群(I)より選択される1種の低分子ポリオールと、前記群(II)より選択される1種のジカルボン酸を縮重合させることにより得られる縮合系ポリエステルポリオール(以下、「ポリエステルポリオール(A)」とも称する)を2種含有してもよく、前記群(I)より選択される2種の低分子ポリオール及び前記群(II)より選択される1種のジカルボン酸、又は前記群(I)より選択される1種の低分子ポリオール及び前記群(II)より選択される2種のジカルボン酸を縮重合させることにより得られる縮合系ポリエステルポリオール(以下、「ポリエステルポリオール(B)」とも称する)を1種含有してもよく、1種以上のポリエステルポリオール(A)と1種以上のポリエステルポリオール(B)を含有してもよい。本明細書において、「ポリエステルポリオール」という場合は、ポリエステルポリオール(A)とポリエステルポリオール(B)の一方に限定されないことを意味する。本発明の被覆層のウレタン樹脂は、ポリオール成分として、ポリエステルポリオール(A)を含む形態が好ましい。
【0018】
ポリエステルポリオール(A)の具体例としては、
「エチレングリコール/アジピン酸」の縮合体(東ソー(株)製の「ニッポラン4002」(平均分子量1000)、「ニッポラン4040」(平均分子量2000)等);
「ブタンジオール/アジピン酸」の縮合体(昭和電工マテリアルズ(株)製の「テスラック2464」(平均分子量1000)、東ソー(株)製の「ニッポラン4009」(平均分子量1000)、「ニッポラン4010」(平均分子量2000)等);
「ヘキサンジオール/アジピン酸」の縮合体(東ソー(株)製の「ニッポラン164」(平均分子量1000)、「ニッポラン4073」(平均分子量2000)、豊国製油(株)製の「HS2H-201AP」(平均分子量2000)等);
「メチルペンタンジオール/アジピン酸」の縮合体((株)クラレ製の「P-510」(平均分子量500)、「P-1010」(平均分子量1000)、「P-2010」(平均分子量2000)、「P-4010」(平均分子量4000)、「P-6010」(平均分子量6000)、「F-510」(3官能、平均分子量500)、「F-1010」(3官能、平均分子量1000)、「F-2010」(3官能、平均分子量2000)、「F-3010」(3官能、平均分子量3000)、昭和電工マテリアズ(株)製の「テスラック2462」(平均分子量2000)等);
「ヘキサンジオール/セバシン酸」の縮合体(伊藤製油(株)製の「URIC SE-2606」(平均分子量2600)等)、が挙げられる。
【0019】
ポリオール成分に含まれるポリエステルポリオールは、平均分子量200~6000のポリエステルポリオールであることが好ましく、平均分子量300~4000のポリエステルポリオールであることがより好ましく、平均分子量400~3000のポリエステルポリオールであることが更に好ましい。なお、本発明において複数種の化合物を含む混合物における平均分子量は、数平均分子量を意味する。ポリマーにおける数平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、末端基定量法等の一般的な方法によって求めることが出来る。
【0020】
本実施形態の被覆粒状肥料は、ポリオール成分として、更に、ヒマシ油を含有することが好ましい。
ヒマシ油とはリシノレイン酸のトリグリセリドを主成分とする脂肪酸エステルであり、本明細書においては、ヒマシ油はリシノレイン酸の一部又は全部が12-ヒドロキシステアリン酸に置き換わった脂肪酸エステルも包含する。ポリオール成分としてヒマシ油を含む場合、ポリオール成分中のヒマシ油の含有量は、好ましくは10~70質量%であり、15~45質量%であってもよく、15~42質量%であってもよく、15~40質量%であってもよく、15~35質量%であってもよい。
【0021】
ポリオール成分は、上記したポリエステルポリオール以外のポリエステルポリオール、ポリメチレングリコール、ポリエーテルポリオール、ポリアクリル酸ポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、並びに天然ポリオール及びその変性物等を含んでいてもよい。これらのポリオール成分が有する水酸基の数は、2個以上であれば限定されることはなく、例えば3個であってもよい。
【0022】
ポリカプロラクトンポリオールは、例えば、低分子ポリオールとε-カプロラクトンを会館重合させることにより得ることができる。ポリカプロラクトンポリオールは、1分子中に1-オキソヘキサ-1,6-ジイルオキシ構造を1以上有するポリオールである。ポリカプロラクトンポリオールとしては、(株)ダイセル製の「Placcel 205」、「Placcel 208」、「Placcel 212」、「Placcel 220」、「Placcel 303」、「Placcel 305」、「Placcel 308」、「Placcel 309」、「Placcel 312」、「Placcel 320」等が例示される。
【0023】
ウレタン樹脂中のポリエステルポリオール及びその他に含有してもよいポリオール成分の合計含有量は、50~90質量%が好ましく、60~85質量%がより好ましい。
【0024】
ウレタン樹脂の原料として用いられるポリイソシアネート成分が、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートである場合、原料において、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との合計量に対して、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートは通常10~49質量%の範囲が好ましい。
【0025】
ウレタン樹脂の原料において、ポリオール成分における水酸基のモル数と、ポリイソシアネート成分におけるイソシアネート基のモル数との比率は、好ましくは1:0.9~1:1.3であり、より好ましくは1:1~1:1.2である。
【0026】
<粒状肥料>
粒状肥料は、肥料成分を含有する。粒状肥料は、肥料成分そのものが単独で造粒されたものであってもよく、また、肥料成分を担体に保持させた粒状物であってもよい。
【0027】
かかる肥料成分としては、例えば、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、石灰窒素、ホルムアルデヒド加工尿素(UF)、アセトアルデヒド加工尿素(CDU)、イソブチルアルデヒド加工尿素(IBDU)及びグアニール尿素(GU)等の窒素質肥料成分;過リン酸石灰、重過リン酸石灰、熔成リン、腐植酸リン、焼成リン、重焼リン、苦土過リン酸、ポリリン酸アンモニウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸カルシウム、苦土リン酸、硫リン安、リン硝安カリウム及び塩リン安等のリン酸質肥料成分;塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸カリソーダ、硫酸カリ苦土、重炭酸カリウム及びリン酸カリウム等のカリウム質肥料成分;珪酸カルシウム等の珪酸質肥料成分;硫酸マグネシウム及び塩化マグネシウム等のマグネシウム質肥料成分;生石灰、消石灰及び炭酸カルシウム等のカルシウム質肥料成分;硫酸マンガン、硫酸苦土マンガン及び鉱さいマンガン等のマンガン質肥料成分;ホウ酸及びホウ酸塩等のホウ素質肥料成分;並びに、鉄鋼スラグ等の含鉄肥料成分が挙げられ、これらの肥料成分は1種を単独で用いてもよく、また2種以上の肥料成分を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
肥料成分を保持させるために用いられる担体としては、例えば、カオリナイト等のカオリン鉱物、モンモリロナイト、スメクタイト、タルク、蝋石、シリカ、含水珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ゼオライト及び酸性白土等の鉱物質担体;セルロース、籾殻、澱粉及び大豆粉等の植物質担体;乳糖、蔗糖、デキストリン、食塩及びトリポリリン酸ナトリウム等の水溶性担体;アジピン酸ジデシル、綿実油及びパーム油等の液体担体等が挙げられ、これらの担体は、肥料成分を保持した粒状物ができる形態であれば、単独で用いられてもよく、また2種以上の担体を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本実施形態に用いられる肥料成分を含有する粒状肥料は、通常の粒状物の造粒方法により肥料成分そのものを単独造粒するか、肥料成分と担体とを混合して造粒することにより得られる。かかる造粒方法としては例えば、押出造粒法、流動層式造粒法、転動造粒法、圧縮造粒法、パン造粒法、被覆造粒法及び吸着造粒法が挙げられる。
【0030】
本実施形態に用いられる肥料成分を含有する粒状肥料の粒径(D50)は特に限定されるものではないが、通常は0.1~15.0mmの範囲である。これらは篩いを用いることにより、前記範囲内で任意の粒径を選択することができる。また該粒状肥料の形状は球状、角状、円柱状いずれでもかまわないが、球状に近いものが好ましい。なお、本明細書において、粒状肥料の粒径は、投影面積円相当最大径の個数基準のメディアン径(D50)を意味し、投影面積円相当最大径は顕微鏡法で測定される値とする。
【0031】
<保護層>
本実施形態の被覆粒状肥料は、被覆層の外側に設けられた保護層をさらに有していてもよい。保護層を有することにより、散布時の機械強度が改善され、かつ肥料成分の溶出期間をより長くすることができる。保護層は、抗菌剤や植物硬化油を含むことができる。抗菌剤としては例えば25℃における水溶解度が1000ppm以下である抗菌剤が挙げられ、具体的には例えば、3-ヨード-2-プロパルギルブチルカルバミン酸、2,3,3-トリヨードアリルアルコール、1-ブロム-3-エトキシカルボニルオキシ-1,2-ジヨード-1-プロペン、ジヨードメチル-p-トリルスルホン及び4-クロルフェノキシ-(3-ヨードプロパギル)オキシメタン等の有機ヨウ素化合物、並びに、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン化合物が挙げられる。
【0032】
植物硬化油とは、不飽和脂肪酸成分を含む植物性油脂に水素を添加して不飽和結合を飽和させて得られる油脂であり、具体的には例えば、硬化ナタネ油、硬化パーム核油、硬化ピーナツ油、硬化ヒマシ油、硬化ホホバ油、硬化綿実油、硬化ヤシ油及び硬化大豆油が挙げられる。
【0033】
保護層は、粒状肥料の表面に被覆層が設けられた被覆粒状肥料に対して、抗菌剤と植物硬化油とを別々に被覆することによって形成できる。また抗菌剤と植物硬化油を予め混合し、該混合物を用いて、粒状肥料の表面に被覆層が設けられた粒状物を被覆することにより形成することが、抗菌剤と植物硬化油との均一分散性や、製造効率の点から好ましく、前記した粒状肥料を流動状態又は転動状態により被覆層を形成した後、該流動状態又は該転動状態を維持したまま、次いで、抗菌剤と植物硬化油と被覆させることが好ましく、抗菌剤と植物硬化油とは混合して、溶液または均一な分散液の状態で同時に被覆させることがより好ましい。
【0034】
保護層における抗菌剤と植物硬化油との含有割合は質量比で、通常0.5:99.5~10:90であり、好ましくは1:99~5:95である。本実施形態の被覆粒状肥料全量に対する保護層の含有量は、通常0.1~10質量%、好ましくは2~10質量%である。本実施形態の被覆粒状肥料における、被覆層と、保護層に含有される抗菌剤との質量比は、通常99.95:0.05~95:5であり、好ましくは99.9:0.1~99:1である。
【0035】
保護層は、さらに固結防止材や浮上防止材のようなその他の成分を含むことができる。固結防止材や浮上防止材は、抗菌剤や植物硬化油を含む保護層の外側に添加してもよい。固結防止材としては、具体的には例えば、クレーが挙げられる。浮上防止材としては、具体的には例えば、直鎖ベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0036】
<製造方法>
本実施形態において、粒状肥料の表面にウレタン樹脂を含む被覆層を設けるためには、従来公知の何れの方法を用いてもよく、例えば、ポリイソシアネート成分とポリオール成分、そして必要により触媒とを混合して未硬化ウレタン樹脂を作製し、これを流動状態又は転動状態にある粒状肥料に添加すればよい。
【0037】
ここで使用する触媒としては、例えば、酢酸カリ、酢酸カルシウム、スタナスオクトエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジクロライド、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチオチン酸、オクチル酸第一チン、ジ-n-オクチルチンジラウレート、イソプロピルチタネート、ビスマス2-エチルヘキサノエート、ホスフィン、Znネオデカノエート等の有機金属、トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン、N,N-ジメチルジドデシルアミン、N-ドデシルモルホリン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N-エチルモルホリン、ジメチルエタノールアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、テトラブチルチタネート、オキシイソプロピルバナデート、n-プロピルジルコネート、2,4,6‐トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジアザビシクロノネン(DBN)等のアミン触媒が挙げられる。
【0038】
粒状肥料を流動状態又は転動状態とする装置としては、加温された空気が下方から送風される噴流塔装置、加温装置が付設された回転パンまたはドラム装置等の公知の装置が使用可能である。未硬化ウレタン樹脂の添加方法としては、各成分を混合した後にすばやく添加するか、各成分を別々に添加する方法のいずれでもよい。その後、粒状肥料の流動状態又は転動状態を維持して、ポリイソシアネート成分におけるイソシアネート基とポリオール成分における水酸基との反応を進行させ、粒状肥料の表面の未硬化ウレタン樹脂を重合させて粒状肥料の表面をウレタン樹脂の被覆層で被覆する。このときの反応温度としては通常0~200℃の範囲であり、好ましくは50~150℃の範囲である。この一回の操作にて形成される被膜の厚みが通常0.1~20μmとなるように、添加する未硬化ウレタン樹脂の添加量を調整するのが好ましい。被覆層の厚みが更に必要である場合は、上記の操作を繰り返すことにより、ウレタン樹脂の被覆層の厚みを増加させればよい。
【0039】
また、60~130℃の範囲に加熱溶融した抗菌剤と植物硬化油の混合物を添加して、加熱条件下で転動状態を維持することにより、保護層を形成することができる。
【0040】
更に、固結防止材と浮上防止材を添加して、加熱条件下で転動状態を維持することにより、保護層の外側に固結防止材と浮上防止材を粉衣することができる。
【0041】
本実施形態の被覆粒状肥料において、被覆層の厚さは1~600μmの範囲が好ましく、より好ましくは8~400μmの範囲である。また、被覆粒状肥料全量に対する被覆層の含有量は、通常1~50質量%、好ましくは3~20質量%である。本実施形態の被覆状肥料において、被覆状肥料全量に対する粒状肥料の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上である。
【0042】
本実施形態の被覆粒状肥料の粒径(D50)は特に限定されるものではないが、通常は0.1~15mmであり、好ましくは2~5mmであり、より好ましくは2~4mmである。なお、本明細書において、被覆粒状肥料の粒径は、投影面積円相当最大径の個数基準のメディアン径(D50)を意味し、投影面積円相当最大径は顕微鏡法で測定される値とする。
【0043】
<分析方法>
本実施形態に用いられるポリオール成分のモノマーである低分子ポリオールとジカルボン酸は、例えばウレタン樹脂を含む被覆層を熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフィー―質量分析)で分析することにより、その構造を特定することができる。具体的な分析方法として、例えば、「熱分解(Py)-GC/MSによる熱可塑性ポリウレタンの識別」(https://www.frontier-lab.com/assets/file/technical-note/PYA1-118.pdf)に記載の方法を用いて分析することができる。
【実施例0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではない。例中、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0045】
実施例1~8、比較例1~6の被覆粒状肥料を下記の手順で製造した。被覆粒状肥料の被膜層形成に用いられるウレタン樹脂については、下記に示すポリイソシアネート成分とポリオール成分とを表1に示す割合で用いた。
【0046】
[ポリイソシアネート成分]
MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(「Sumidur44S」、住化コベストロウレタン(株)製)
[ポリオール成分]
PEP1:「エチレングリコール/アジピン酸」の縮合体(「ニッポラン4002」、東ソー(株)製、平均分子量1000)
PEP2:「メチルペンタンジオール/アジピン酸」の縮合体(「P-510」、クラレ(株)製、平均分子量500)
PEP3:「ブタンジオール/アジピン酸」の縮合体(「ニッポラン4009」、東ソー(株)製、平均分子量1000)
PEP4:「ヘキサンジオール/アジピン酸」の縮合体(「ニッポラン164」、東ソー(株)製、平均分子量1000)
PEP5:「ヘキサンジオール/セバシン酸」の縮合体(「URIC SE-2606」、伊藤製油(株)製、平均分子量2600)
PEPA:直鎖ポリカプロラクトン(「Placcel 212」、ダイセル化学工業社製)
ヒマシ油:ヒマシ油(工業用一号ヒマシ油、豊国製油(株)製)
【0047】
[実施例1]
ポリエステルポリオール成分であるPEP1(21.9部)とPEP2(27.3部)とを70℃にて加熱溶融し、70℃に加温したヒマシ油(23.0部)と混合し、ポリオール混合物を得た。粒状尿素[大粒尿素、粒径(D50)約3mm](1000部)を回転槽に仕込み、転動状態にして、該粒状尿素を熱風により約70℃まで加熱した後、流動パラフィン[(株)MORESCO製、商品名:モレスコホワイトP-350P](10部)を添加し、5分間転動状態を継続した。次に、70℃に加温した前述のポリオール混合物と70℃に加温したMDI(27.8部)を素早く攪拌混合した未硬化ウレタンを添加し、8分間以上、加熱条件下で転動状態を維持した。更に、未硬化ウレタン樹脂の添加、及び加熱条件下での転動状態の維持を繰り返して、添加した未硬化ウレタン樹脂の総量が100部になるまで行った。その後、室温付近まで冷却し、被覆粒状肥料を得た。
【0048】
[実施例2~8、比較例1~6]
ポリエステルポリオール成分として表1及び表2に記載の成分を表1及び表2に記載の質量部で用いた点、及びMDIとヒマシ油を表1及び表2に記載の質量部で用いた点以外は、実施例1と同様の方法により被覆粒状肥料を得た。ここで、各成分の質量部は、全ての実施例と比較例の間で、ポリエステルポリオール成分の水酸基のモル数と、ポリイソシアネート成分のイソシアネート基のモル数とが1:1~1:1.2となるよう設定した。
【0049】
[ウレタン樹脂の分解性の測定]
<ウレタン樹脂のフィルムの準備>
実施例1,2について、以下の要領にて、ウレタン樹脂からなるフィルムを作製した。
表1に記載のポリオールを約50℃で均一に混合した後、MDIを添加し、すばやく混合し、厚さ約200μmにセットしたアプリケーターを用いて、シート状に延展した。延展した樹脂は、70℃で3時間静置して硬化させ、実施例1,2のウレタン樹脂からなるフィルムを得た。
【0050】
<分解性の測定>
上記フィルムを20mm×20mm程度の小片に切り出した。かかる小片の重量を精秤した(このときの重量を「a1」とする)。その後、兵庫県内の畑地から採取した土壌(含水比20%の埴壌土)に埋没し、28℃の条件で保存した。なお、保存中、土壌に対して適宜水分を補給し、一定に保った。1ヶ月後、フィルムを回収し、水洗し、乾燥させた後、フィルムの重量を精秤した(このときの重量を「a2」とする)。その後、重量減少率を測定した。重量減少率A[%]は、以下の式により求めた。測定された重量減少率Aを表1に示す。
A={(a1-a2)/a1}×100
【0051】
重量減少率Aが大きいほど、良好な分解性を有することを意味する。重量減少率Aは、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上である。重量減少率Aは、通常60%以下であり、分解による溶出制御性能の低下を防ぐため、好ましくは50%以下である。
[評価]
<製造性>
製造性の指標として、肥料粒子同士のブロッキングの程度を評価した。製造性が悪い場合、ウレタン樹脂の硬化時に、複数の粒子が凝集した状態で硬化してしまうブロッキングと呼ばれる現象が生じる。他方、製造性が良い場合、ブロッキングは起こらず、一粒ずつばらばらの状態(単粒)の被覆粒状肥料を得ることができる。
製造性のスコアとしては、最も製造性の良い場合をA、悪い場合をDとして、各々以下の通りに定義した。実施例1~8および比較例1~6で得られる粒状被覆肥料について、下記の基準にしたがい製造性を評価した。評価結果を表1及び表2に示す。本発明において、評価がA又はBであれば、製造性が良好と評価できる。
A:粒状被覆肥料中、ほぼすべてが単粒で得られた。
B:粒状被覆肥料中、半分以上は単粒であった。
C:粒状被覆肥料中、単粒は半分未満であった。
D:粒状被覆肥料中、ほぼすべての粒がブロッキングしており、単粒はほぼ見られなかった。
【0052】
<溶出期間の測定>
サンプル瓶に、実施例1~8、比較例1、2の被覆粒状肥料2.5g(60~80粒)を入れて、ここに水100mlを加え、25℃で静置した。7日ごとに、サンプル瓶中の水0.6mlを取り、尿素濃度を測定した。測定した尿素濃度に基づき供試した被覆粒状肥料からの尿素の溶出率を計算した。溶出率が80%を超えている場合には、そのデータが得られたサンプルのインキュベート日数の一の位を四捨五入した日数を溶出期間とした。測定された溶出期間を表1及び表2に示す。
【0053】
【0054】