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特開2024-133016β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133016
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/048 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C07H19/048
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040265
(22)【出願日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2023042342
(32)【優先日】2023-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】杉山 友亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 栄治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 薫平
【テーマコード(参考)】
4C057
【Fターム(参考)】
4C057AA10
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD03
4C057LL05
4C057LL18
4C057LL21
(57)【要約】
【課題】不純物を含有するNMNから、より高純度のNMNを得ることができるβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法を提供すること。
【解決手段】酸性条件下、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液を活性炭に供し、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを活性炭に吸着させる工程(A)、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを吸着させた活性炭を酸性水溶液で洗浄する工程(B)、及び、洗浄後の活性炭からβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを脱着及び溶出させ、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液を回収する工程(C)を含むβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製工程を含む、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)~(C)を含むβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製工程を含む、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法。
工程(A):酸性条件下、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液を活性炭に供し、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを活性炭に吸着させる。
工程(B):β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを吸着させた活性炭を酸性水溶液で洗浄する。
工程(C):洗浄後の活性炭からβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを脱着及び溶出させ、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液を回収する。
【請求項2】
前記工程(A)~(C)を、活性炭を担体とするカラムクロマトグラフィーで実施する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(C)において、水及びエタノールからなる2成分系の水溶液を用いてβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを活性炭から脱着及び溶出させる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記精製工程が更に以下の工程(D)を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
工程(D):前記工程(C)後のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液を濃縮する。
【請求項5】
前記精製工程が更に以下の工程(E)を含む、請求項1に記載の製造方法。
工程(E):前記工程(C)後のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液について水及びエタノールの2成分系で晶析を行う。
【請求項6】
前記精製工程が更に以下の工程(F)を含む、請求項5に記載の製造方法。
工程(F):前記工程(E)で得られた結晶について1回以上再結晶を行う。
【請求項7】
前記精製工程が更に以下の工程(G)を含む、請求項5又は6に記載の製造方法。
工程(G):得られたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの湿結晶を乾燥する。
【請求項8】
前記精製工程が、前記工程(A)の前に、以下の工程(X)~(Z)の少なくとも1つを更に含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
工程(X):β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液中の不溶物を除去する。
工程(Y):β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液に塩酸を添加して酸性化する。
工程(Z):酸性化によってβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液中に生じた不溶物を除去する。
【請求項9】
前記β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液が、リン酸塩、ニコチンアミド、D-リボース、アデニンリボヌクレオチド類及びマグネシウム塩から選ばれる少なくとも2種を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記精製工程に供するβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドが、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(Nampt)を触媒として製造されたものである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記精製工程に供するβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドが、ATPの再生反応と共役させて製造されたものである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記のATPの再生反応が、ポリリン酸キナーゼ(Ppk)の作用によるものである、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液中に、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドに対する割合が10質量%以上のニコチンアミドが含まれている、請求項9に記載の製造方法。
【請求項14】
前記β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液中に、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドに対する割合がリン酸イオン(PO 3-)として100質量%以上のリン酸塩が含まれている、請求項9に記載の製造方法。
【請求項15】
前記β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液中に、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドに対する割合がマグネシウムイオン(Mg2+)として20質量%以上のマグネシウム塩が含まれている、請求項9に記載の製造方法。
【請求項16】
前記工程(B)の後、かつ前記工程(C)の前に下記工程(H)を含む、請求項13に記載の製造方法。
工程(H):活性炭を酸と有機溶媒と水の混合液で洗浄する。
【請求項17】
前記精製工程において使用する活性炭が、細孔分布の2~4nm付近に微分細孔容積のピークを持つ、請求項16に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法に関し、より詳しくは、不純物を含有するβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液から、活性炭を用いた簡便な精製手段により該不純物を除去し、高純度のNMNを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(以下、「NMN」ともいう。)は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の合成中間体である。近年、NMNはNADへの変換を通じて長寿遺伝子「サーチュイン」の活性をコントロールすること、NMNをマウスに投与すると抗老化作用が示されることが明らかにされた。さらに、NMNは糖尿病、アルツハイマー病、心不全等の疾患の予防や症状の改善に効果があることも報告されている。このようなNMNには、機能性食品、医薬品、化粧品等の成分としての用途が期待されており、生産性の向上を目指して、効率的な製造方法の研究開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、酵素反応によりNMNを製造し、一般的な手法で回収精製できることが記載されている。具体的な精製方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法(特許文献2~4)、膜濃縮(精密濾過及びナノ濾過)及び逆相高速液体クロマトグラフを組み合わせる方法(特許文献5)、シリカゲルカラムを用いる方法(特許文献6)、合成樹脂を用いる方法(特許文献7)等が知られている。また、NMNはアルコール系溶媒を中心に各種(混合)溶媒系で晶析できることが知られている(特許文献8~10)。
【0004】
特許文献11には、活性炭でNMN中の疎水性の不純物を除去する方法、及び炭素数1~6のアルコールを用いて晶析する方法が記載されている。そのほか、活性炭を使用した精製方法として、特許文献12には、活性炭で不純物を除去した後、膜濾過、イオン交換樹脂処理等を経て、エタノールで晶析する方法が記載されている。
非特許文献1には、弱酸性条件でNMNを活性炭に吸着させ、蒸留水で洗浄後、イソアミルアルコール水溶液で溶出させ、それをさらにイオン交換カラムで精製し、アセトン沈殿物として回収する方法が記載されている。非特許文献2には、pH2の条件でNMNを活性炭に吸着させ、イソアミルアルコール水溶液で溶出させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/065876号
【特許文献2】特公昭41-12737公報
【特許文献3】特公昭43-25495公報
【特許文献4】国際公開第2018/023205号
【特許文献5】国際公開第2016/086860号
【特許文献6】中国特許出願公開第112159445号明細書
【特許文献7】中国特許出願公開第110195089号明細書
【特許文献8】国際公開第2017/059249号
【特許文献9】国際公開第2018/089830号
【特許文献10】国際公開第2022/033589号
【特許文献11】国際公開第2018/047715号
【特許文献12】国際公開第2020-129997号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Archives of Biochemistry and Biophysics Volume 48, Issue 1, January 1954, Pages 189-192
【非特許文献2】Journal of Biological Chemistry Volume 176, Issue 2, 1 November 1948, Pages 665-677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、NMNの単離精製には多種の手段が適用されているが、簡便かつ効果的な単離精製手法を用いた製造は未だ発展途上にある。機能性食品あるいは医薬品の有効成分となり得るNMNは、当然に高純度であることが望ましい。
【0008】
本発明の課題は、不純物を含有するNMNから、より高純度のNMNを得ることができるβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究をした結果、活性炭の吸脱着を利用した精製、もしくは更に晶析精製を一定条件下で組み合わせることにより、NMNの効果的な単離精製が可能なことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]以下の工程(A)~(C)を含むβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製工程を含む、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドの製造方法。
工程(A):酸性条件下、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液を活性炭に供し、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを活性炭に吸着させる。
工程(B):β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを吸着させた活性炭を酸性水溶液で洗浄する。
工程(C):洗浄後の活性炭からβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを脱着及び溶出させ、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液を回収する。
[2]前記工程(A)~(C)を、活性炭を担体とするカラムクロマトグラフィーで実施する、[1]に記載の製造方法。
[3]前記工程(C)において、水及びエタノールからなる2成分系の水溶液を用いてβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを活性炭から脱着及び溶出させる、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記精製工程が更に以下の工程(D)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
工程(D):前記工程(C)後のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液を濃縮する。
[5]前記精製工程が更に以下の工程(E)を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
工程(E):前記工程(C)後のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド溶液について水及びエタノールの2成分系で晶析を行う。
[6]前記精製工程が更に以下の工程(F)を含む、[5]に記載の製造方法。
工程(F):前記工程(E)で得られた結晶について1回以上再結晶を行う。
[7]前記精製工程が更に以下の工程(G)を含む、[5]又は[6]に記載の製造方法。
工程(G):得られたβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの湿結晶を乾燥する。
[8]前記精製工程が、前記工程(A)の前に、以下の工程(X)~(Z)の少なくとも1つを更に含む、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
工程(X):β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液中の不溶物を除去する。
工程(Y):β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液に塩酸を添加して酸性化する。
工程(Z):酸性化によってβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液中に生じた不溶物を除去する。
[9]前記β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液が、リン酸塩、ニコチンアミド、D-リボース、アデニンリボヌクレオチド類及びマグネシウム塩から選ばれる少なくとも2種を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]前記精製工程に供するβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドが、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(Nampt)を触媒として製造されたものである、[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]前記精製工程に供するβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドが、ATPの再生反応と共役させて製造されたものである、[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]前記のATPの再生反応が、ポリリン酸キナーゼ(Ppk)の作用によるものである、[11]に記載の製造方法。
[13]前記β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液中に、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドに対する割合が10質量%以上のニコチンアミドが含まれている、[9]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]前記β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液中に、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドに対する割合がリン酸イオン(PO 3-)として100質量%以上のリン酸塩が含まれている、[9]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]前記β-ニコチンアミドモノヌクレオチド水溶液中に、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドに対する割合がマグネシウムイオン(Mg2+)として20質量%以上のマグネシウム塩が含まれている、[9]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]工程(B)の後、かつ前記工程(C)の前に下記工程(H)を含む[13]~[15]のいずれかに記載の製造方法。
工程(H):活性炭を酸と有機溶媒と水の混合液で洗浄する。
[17] 前記精製工程において使用する活性炭が、細孔分布の2~4nm付近に微分細孔容積のピークを持つ、[16]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便な精製手段で純度の高いNMNを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】活性炭処理前のNMN水溶液及び活性炭カラムからの溶出液のHPLC分析結果であって、図1(A)はUV(261nm)検出結果であり、図1(B)はRI検出結果である。
図2】実施例1におけるHPLC分析による活性炭カラムからの溶出パターンを洗浄液と溶出液の量に対するUV強度で示した図である。
図3】実施例1で晶析により得られた結晶及び母液のHPLC分析結果を示す図である。
図4】実施例1で再結晶により得られた結晶及び母液のHPLC分析結果を示す図である。
図5】実施例1における精製工程後のNMN結晶のHPLC分析結果であって、図5(A)はUV(261nm)検出結果であり、図5(B)はRI検出結果である。
図6】参考例におけるNMN晶析時の塩酸(NMNクロライドの)含量と母液中のNMN濃度(溶解度)の関係を示す図である。
図7】実施例2におけるHPLC分析による活性炭カラムからの溶出パターンを洗浄液と溶出液の量に対するUV強度で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
【0014】
実施形態に係るβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の製造方法は、以下の工程(A)~(C)を含むNMNの精製工程を含む。
工程(A):酸性条件下、NMN水溶液を活性炭に供し、NMNを活性炭に吸着させる。
工程(B):NMNを吸着させた活性炭を酸性水溶液で洗浄する。
工程(C):洗浄後の活性炭からNMNを脱着及び溶出させ、NMN溶液を回収する。
【0015】
精製工程は工程(B)の後、かつ前記工程(C)の前に下記工程(H)を含んでもよい、
工程(H):活性炭を酸と有機溶媒と水の混合液で洗浄する。
【0016】
精製工程は、工程(C)の後に、以下の工程(D)~(G)の少なくとも1つを更に含んでいてもよい。
工程(D):前記工程(C)後のNMN溶液を濃縮する。
工程(E):前記工程(C)後のNMN溶液について水及びエタノールの2成分系で晶析を行う。
工程(F):前記工程(E)で得られた結晶について1回以上再結晶を行う。
工程(G):得られたNMNの湿結晶を乾燥する。
【0017】
精製工程は、工程(A)の前に、以下の工程(X)~(Z)の少なくとも1つを更に含んでもよい。
工程(X):NMN水溶液中の不溶物を除去する。
工程(Y):NMN水溶液に塩酸を添加して酸性化する。
工程(Z):酸性化によってNMN水溶液中に生じた不溶物を除去する。
【0018】
<NMNの調製と不純物>
以下、精製工程に供するNMN、及びそれに含まれ得る不純物について説明する。
精製工程に供するNMNは、特に限定されず、天然物から抽出したNMN、化学合成したNMN、生体反応を応用して製造したNMNのいずれであっても構わない。「製造」という目的から見れば、収率良く、不純物が少ないNMNであることが望ましいが、本発明の効果を最大限享受できる点では、不純物を多く含有するNMNを精製工程に供することが好ましい。生体反応を応用すれば、温和な条件、かつ高い選択性でNMNが得られるため、本発明の効果と相俟って更に純度の高いNMNを製造することができる。
【0019】
生体反応を応用して製造したNMNを精製工程に供する場合、NMNの具体例としては、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(Nampt)を触媒として製造されたものが挙げられる。Namptは、ATPの存在下あるいは非存在下において、ホスホリボシルピロリン酸(PRPP)とニコチンアミドからのNMN合成を触媒できる。Namptは一般的にはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)のサルベージ経路に関与することが知られており、哺乳類等の高等生物からバクテリアである原核生物まで広くその存在が知られている。本発明においては、限定されるものではないが、NMNを高効率に製造できる点から、バクテリア由来のNamptを用いることが好ましい。
Namptとしては、野生株のみならず、例えば、遺伝子の転写及び翻訳活性、あるいは酵素活性を改変又は改良した変異体や組換え体を使用することもできる。
【0020】
Namptを用いた反応は選択率良くNMNを製造できるが、転化率に課題がある場合もあり、反応が完結しなければ未反応(過剰)原料や前駆体が残り、不純物となり得る。具体的にはニコチンアミド、ホスホリボシルピロリン酸、さらにはその前駆体であるD-リボース、D-リボース5-リン酸等が不純物して含まれる場合がある。本発明は、これらの不純物が存在してもNMNを効率的に分離することができ、純度の高いNMNを製造することができる。
【0021】
生体反応を応用したNMNの合成には、補酵素(ATP他)及びそれらの活性化物質を必要する場合が多い。反応終了後には、これらの補酵素等は夾雑不純物として精製除去対象となる。具体的には、例えば、アデニンリボヌクレオチド類(AMP、ADP、ATP)、マグネシウム塩が挙げられる。本発明は、これらの不純物が含まれる場合でもNMNを効率的に分離し、純度の高いNMNを製造することができる。
【0022】
より効率良くNMNを合成できる点では、ATPの再生系と共役したシステムでNMNを製造することが好ましい。ATPの再生系と組み合わせることで、高価なATPの使用量を大幅に削減でき、より安価にNMNを製造できる。
ATPの再生系としては、グルコースをエネルギー供給基質とする系、クレアチンリン酸をリン酸基供与体とするクレアチンキナーゼを用いる系、アセチルリン酸を供与体とする酢酸キナーゼを用いる系、ポリリン酸を供与体とするポリリン酸キナーゼを用いる系等が知られている。本発明においては、いずれの再生系との組み合わせでもよく、リン酸供与体の入手及び系の構築の難易度等の実用性の観点から、ポリリン酸キナーゼ(Ppk)を用いる再生系が適している。同再生系では、副生物として多量のリン酸(塩)が生じるが、本発明ではリン酸(塩)とNMNを効率的に分離し、純度の高いNMNを製造することができる。
【0023】
Ppkとしては、特に限定されるものでないが、NMNを効率良く製造できる点から、ポリリン酸キナーゼ2型ファミリーが好ましく、ポリリン酸キナーゼ2型ファミリーのクラス3サブファミリー(Ppk2クラス3)がより好ましい。Ppkとしては、野生株のみならず、例えば、遺伝子の転写及び翻訳活性、あるいは酵素活性を改変又は改良した変異体や組換え体を使用することもできる。
【0024】
本発明において分離除去対象となり得るリン酸(塩)は、特に限定されず、オルトリン酸又はピロリン酸であってもよく、それらが中和されたアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であってもよい。
【0025】
ATP再生反応と共役したNMNの合成反応においては、マグネシウム化合物を使用して反応中のpHを6.5~8.5に維持することが好ましい。これにより、NMNをより効率良く製造できる。
マグネシウム化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0026】
ATP再生反応と共役したNMN合成に、マグネシウム化合物を使用したpH維持を適用すると、多量のマグネシウム塩が生じて不純物となり得る。しかし、本発明では、このような場合でもマグネシウム塩とNMNを効率的に分離し、純度の高いNMNを製造することができる。
不純物となり得るマグネシウム塩としては、特に限定されず、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。また、マグネシウム化合物を用いたNMN合成では多量のリン酸マグネシウムが副生するが、リン酸マグネシウムとNMNも効率的に分離できる。
【0027】
以上、精製工程に供するNMNの合成方法の例、及びそれに依存して含有され得る不純物の例について説明した。一般に、調製したNMN水溶液にはその製造方法特有の不純物が含まれることも多い。
NMNの製法や、各不純物の種類及び含有量は特に制限されないが、本発明では、NMN水溶液中のリン酸塩、ニコチンアミド、D-リボース、アデニンリボヌクレオチド類(AMP、ADP、ATP)、マグネシウム塩等を効果的に除去することが可能である。NMN水溶液に含まれる不純物は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。前述の不純物が2種以上含まれている場合であっても効果的に除去できる。
【0028】
精製工程に供するNMN水溶液に含まれる各不純物の濃度は、特に制限されないが、NMNに対して1000質量ppm~10質量%程度である場合が多い。
製造プロセス特有の不純物を多量に含むケースとしては、例えば、NMNに対して10質量%以上のニコチンアミドが含まれているNMN水溶液、NMNに対してリン酸イオン(PO 3-)として100質量%以上のリン酸塩が含まれているNMN水溶液、NMNに対してマグネシウムイオン(Mg2+)として20質量%以上のマグネシウム塩が含まれているNMN水溶液が挙げられる。これら不純物の含有量の上限は、実質的にNMNの精製が可能な範囲であればよく、例えば10000質量%(=NMNに対して100倍)であり得る。
なお、NMNあるいは不純物の含有量は、公知な方法により、測定することができる。例えば、後述する実施例に記載のHPLCを用いる方法で測定することができる。
【0029】
<精製工程>
以下、本発明の精製工程における各工程について詳細に説明する。
【0030】
(工程(A))
工程(A)は、酸性条件下、NMN水溶液を活性炭に供し、NMNを活性炭に吸着させる工程である。
「酸性条件」とは、活性炭にNMNを接触させる際の水溶液のpHが酸性であることを意味し、具体的にはpH=4以下を示し、好ましくはpH=3以下、より好ましくはpH=1~3である。pHをこの範囲とすることにより、NMNの分解等が抑えられ、溶解度も適切であるとともに、NMNを活性炭に効率的に吸着させることができる。
NMN水溶液の酸性化に用いる酸としては、特に限定されず、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸が挙げられる。なかでも、効果的に酸性化できる点、また残存した場合、NaOHで中和することで、人体への悪影響が小さいNaClに変換することができることから、塩酸が好ましい。
【0031】
工程(A)に用いる活性炭は、NMNを吸着できるものであればよく、例えば、石炭や木質材料(オガ屑、ヤシ殻、木材チップ等)を原料に薬品賦活あるいはガス賦活法で製造された活性炭を使用することができる。
活性炭の形状は、粉末状、粒状(破砕及び造粒)、シート状、繊維状等のいずれでも構わない。使用する活性炭はあらかじめ、精製工程に供するNMN水溶液と同程度の酸性の水溶液で洗浄、平衡化しておくことが望ましい。
【0032】
吸着の方法としては、回分式、半回分式、連続式、流動床式、固定床式のいずれの方法でも行うことができる。例えば、活性炭を、不純物を含んだNMN水溶液に添加して撹拌することで接触させる方法、あるいは活性炭を筒状のカラムに充填し、不純物を含んだNMN水溶液を該カラムに通液して連続的に接触させる方法等により、NMNを活性炭に吸着させることができる。効率的な操作及び精製が可能な点では、工程(A)から工程(C)まで、活性炭を担体とするカラムクロマトグラフィーで実施することが好ましい。
【0033】
NMN水溶液と活性炭の接触時間は、NMN水溶液のNMN濃度及び不純物濃度を勘案して設定すればよく、通常1分以上、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。前記接触時間の上限については、特に限定されず、例えば2時間もあれば十分である。接触時間は、例えば5分から1時間程度の範囲で適宜決めることができる。
【0034】
活性炭の使用量は、吸着させようとするNMNの容量、使用する活性炭の表面積、孔の大きさ等の吸脱着性能に応じて設定することができ、例えば、NMNに対する質量比で10~200倍の範囲で適宜決めることができる。
【0035】
(工程(B))
工程(B)は、NMNを吸着した活性炭を酸性水溶液で洗浄する工程である。
NMN水溶液との接触後の活性炭においては、活性炭粒の空隙等に残留した溶液が存在する。その部分を酸性水溶液で洗浄することにより、活性炭表面に付着したNMN水溶液の残液を除去する。また、酸性水溶液によって充分に洗浄することにより、未吸着あるいは吸着親和性の弱い化合物(リン酸塩、マグネシウム塩、D-リボース等)を除去することができる。
【0036】
工程(B)では、洗浄液として酸性水溶液を用いる。
酸性水溶液に用いる酸としては、特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸が挙げられる。
酸性水溶液としては、例えば、好ましくは工程(A)で活性炭に接触させるNMN水溶液と同程度のpHの水溶液、あるいは0.0001~0.2Nの塩酸等が挙げられる。
工程(B)における酸性水溶液の使用量は、特に限定されないが、例えば、使用する活性炭の体積比で2~20倍量とすることができる。
【0037】
(工程(C))
工程(C)は、洗浄後の活性炭からNMNを脱着及び溶出させ、NMN溶液を回収する工程である。
活性炭からのNMNの脱着は、活性炭に溶出液を接触させることにより行うことができる。例えば、一回あるいは複数回に分けて、活性炭に対して体積比で1~30倍量の溶出液を活性炭に接触させる。
【0038】
溶出液としては、極性を有する有機溶媒の水溶液を用いることができ、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の炭素数1~3のアルコール水溶液が好ましく、人体への悪影響が小さいという観点から、エタノール及び水からなる2成分系の水溶液がより好ましい。より具体的には、濃度1~70質量%のエタノール水溶液が更に好ましく、濃度3~50質量%のエタノール水溶液が特に好ましい。
溶出液に用いる有機溶媒は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0039】
溶出液としてアルコール水溶液を用いて複数回の脱着操作を行う場合は、各回の溶出液のアルコール含量を変化させてもよい。例えば、溶出液のアルコール含量を段階的に増加させることにより、活性炭からNMNを段階的に溶出させることができる。
【0040】
溶出液と活性炭の接触時間は、溶出液の組成及びNMN中の不純物組成を勘案して設定すればよく、通常5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上である。前記接触時間の上限については、特に限定されず、例えば5時間もあれば十分である。接触時間は、例えば10分から3時間程度の範囲で適宜決めることができる。
【0041】
工程(A)~(C)の処理時の温度は、特に制限されないが、通常2~40℃であり、より好ましくは5~30℃である。
【0042】
工程(A)~(C)の処理(以下、まとめて「活性炭処理」ともいう。)は、バッチ式で行ってもよいが、活性炭を筒状のカラムに充填した活性炭カラムの形で実施する方法もある。活性炭カラムに連続的に通液して接触させる方法は、その後の活性炭との分離が容易な点や、活性炭の使用量を少なくできる点から好ましい。
【0043】
カラムに充填される活性炭の種類は、特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、破砕状態のものである。また、カラムに活性炭を充填する方法は、特に限定されず、例えば、活性炭に水を添加してスラリーとしたものをカラムに充填し、静置する方法を例示できる。
使用するカラムの材質は、特に限定されるものではなく、例えば金属製、ガラス製、樹脂製等のカラムを用いることができる。カラムの直径や高さも特に限定されるものではなく、カラム分離の特性を考慮して最適化されたサイズ、あるいは任意のサイズのカラムを用いることができる。活性炭へのNMNの吸着、洗浄、及びNMNの溶出は、前述の各溶液をカラムに通液することで効率良く実施できる。
【0044】
活性炭カラムへの通液速度は、空間速度(SV)として、好ましくは0.01~30Hr-1、より好ましくは0.02~10Hr-1、さらに好ましくは0.03~3Hr-1である。活性炭からNMNを脱着させるに際しては、アイソクラティック溶出、前述の段階的溶出、クラジェント溶出、及びそれらを組み合わせる方法のいずれを採用してもよい。
【0045】
活性炭は、処理ごとに破棄してもよいし、吸脱着能力が残っている間は再度利用してもよい。例えばカラムに充填して使用する場合は、不純物の除去効果が得られる限り、連続して使用することもできる。使用済活性炭に対して再生処理を行うことにより、活性炭を繰り返し再使用することもできる。使用済活性炭を再生する方法としては、活性炭をアルカリ水溶液、酸水溶液あるいは溶剤並びにそれらの混合液等で処理し、水洗する方法、又は、高温下、不活性ガス又は水蒸気で処理する方法等が挙げられる。
【0046】
工程(A)~(C)において、活性炭カラムを使用する場合には、NMNの溶出後に特段分離除去操作を行うことなく、カラムから流出したNMN溶液(NMN画分)をそのまま次の工程に使用することもできる。
工程(A)~(C)においてカラムを使用しない場合、活性炭と各溶液(NMN水溶液、洗浄液及び溶出液)との分離方法は、特に限定されず、例えば、遠心分離、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過が挙げられる。
【0047】
工程(H)では、工程(A)でNMNと共に活性炭に吸着した不純物の一部を溶出させる。例えば、NMNに対して10質量%以上のニコチンアミドが含まれているNMN水溶液を工程(A)~(C)に供する場合、工程(H)を追加することでより効果的にニコチンアミドを除去できる。その結果、吸脱着処理後の活性炭の吸脱着能力が維持されやすくなることで、複数回再利用ができる。また、酸性条件下では有機溶媒共存下でもNMNが活性炭から脱着されづらくなることから、工程(H)によってニコチンアミドとNMNの分離がより効果的に行われる。
【0048】
工程(H)では、洗浄液として、酸と有機溶媒と水の混合液を用いる。
用いる酸としては、特に限定されず、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸が挙げられる。混合液に使用する酸は1種でもよく、2種以上でもよい。
混合液中の酸の濃度としては、好ましくは工程(B)における酸と同程度であり、例えば0.0001~0.2Nの塩酸を含む混合液とすることができる。
【0049】
有機溶媒としては極性を有する有機溶媒を用いることができ、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の炭素数1~3のアルコールが好ましく、人体への悪影響が小さいという観点から、エタノールが特に好ましい。
混合液中のエタノールの濃度としては1~30質量%が好ましく、3~20質量%が特に好ましい。
混合液に使用する有機溶媒は1種でもよく、2種以上でもよい。
【0050】
工程(H)における混合液の使用量は、特に限定されないが、例えば、使用する活性炭の体積比で2~20倍量とすることができる。
工程(H)を追加する場合に使用する活性炭としては、細孔分布の2~4nm付近に微分細孔容積のピークを持つ活性炭が好ましく、具体的には木質材料(オガ屑、ヤシ殻、木材チップ等)を原料に薬品賦活で製造された活性炭が挙げられる。
【0051】
(工程(D))
工程(D)は、工程(C)で回収したNMN溶液を濃縮する工程である。
例えば単蒸留、薄膜蒸留、精密蒸留等の蒸留により、NMN溶液からアルコール及び水を留去し、活性炭処理前のNMNより純度の向上したNMNの濃縮物を得る。留出液は回収して再利用できる。必要に応じて、溶媒をほぼ完全に留去させ、乾固物となるまで濃縮すること、又は、一部のみを留去してNMN濃縮溶液とすることもできる。
【0052】
濃縮は、NMNの安定性等を考慮して、減圧下、なるべく熱をかけずに短時間で実施することが好ましい。具体的には濃縮時の内温が60℃以下、より好ましくは5~50℃になるように、真空度及び留出速度を適宜設定することが好ましい。真空度は、内温が前述の条件になるように任意に調整すればよい。
工程(D)後の濃縮溶液のNMN濃度は、5~90質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0053】
(工程(E))
工程(E)は、工程(C)後のNMN溶液について水及びエタノールの2成分系で晶析を行う工程である。活性炭処理後のNMNは、使用目的によっては十分な純度を有しているが、晶析により、更に純度を高めることができる。
【0054】
晶析方法は、特に限定されず、冷却(晶析)法、溶媒の除去による濃縮(晶析)法、貧溶媒添加法のいずれであってもよい。
使用する溶媒にも特段の制限はないが、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の炭素数1~3のアルコール水溶液が好ましく、人体への悪影響が小さいことから、エタノール及び水からなる2成分系の水溶液がより好ましい。
【0055】
水はNMNに対して良溶媒として利用でき、炭素数1~3のアルコールは貧溶媒として作用する。両者を組み合わせることによって任意の溶解性の溶媒が調製可能であり、それを用いた任意の方法で晶析が可能である。
晶析方法としては、貧溶媒添加法が好ましく、水を主成分とする溶媒にNMNを溶解させ、貧溶媒としてエタノールを加える方法がより好ましい。より具体的には、例えば、5~50質量%のNMN及び0~10質量%のエタノールを含む水溶液に、終濃度が50~80質量%になるようにエタノールを加え、静置又は撹拌等を行う方法が挙げられる。
また、晶析方法として、水を主成分とする溶媒にNMNを溶解させ、貧溶媒に対して添加する逆添加晶析も用いることができる。より具体的には、例えば、エタノールの終濃度が50~90質量%になるように、NMN及び0~10質量%のエタノールを含む水溶液を加え、静置又は撹拌等を行う方法が挙げられる。
【0056】
晶析に用いる溶媒(例えば、貧溶媒等)は、工程(D)のNMN濃縮溶液に加えてもよいし、工程(C)で回収したNMN溶液に、必要に応じて部分濃縮あるいは溶媒置換等の処理をしてから加えてもよい。すなわち、工程(C)で回収したNMN溶液に対して工程(D)を行わずに工程(E)を行ってもよく、工程(D)後のNMN濃縮溶液に対して工程(E)を行ってもよい。
【0057】
晶析の際には種晶を加えてもよい。
晶析の温度は、特に限定されず、晶析に用いる溶媒へのNMNあるいは不純物の溶解度等の情報、目標とする析出量と結晶の品質(化学純度、含量)に応じて設定すればよく、例えば0~60℃の範囲で実施することができる。冷却(晶析)法を採用する場合は、晶析時にこの範囲で連続的あるいは段階的に温度を下げながら行うこともできる。
晶析の時間は、結晶の成長速度等を考慮して適宜決定すればよく、通常10分~2日、好ましくは30分~24時間、さらに好ましくは1時間~12時間である。析出した結晶をさらに熟成させることもできる。
【0058】
晶析前のNMNが良溶媒に溶解した水溶液に不溶物が存在する場合は、晶析操作に入る前に遠心分離又は濾過により不溶物を除去することが好ましい。
NMNの結晶は、例えば固液分離によって回収することができる。固液分離の方法としては、例えば、遠心濾過、加圧濾過、吸引濾過等が挙げられる。結晶への母液の付着を少なくする観点から、遠心濾過が好ましい。
【0059】
晶析で得られたNMNは、NMNの晶析における貧溶媒で洗浄することもできる。好ましくは晶析に用いた溶媒組成と同組成の溶媒で洗浄する。これにより、結晶に付着した母液を洗い流し、より高純度のNMNを得ることができる。
【0060】
工程(A)及び工程(B)の影響で晶析前のNMN水溶液には酸性成分が混入する場合がある。酸性成分の混入の程度によっては、両性物質であるNMNは、下記式1に示すように、例えばNMNクロライド等の、本来の解離状態(分子内塩)と異なる状態になることが予想される。
【0061】
【化1】
【0062】
後述の参考例に示すように、過剰な酸成分が存在すると母液へのNMNの溶解度が上昇し、母液中のNMN及びNMNクロライドの合計量が増え、安定した晶析の妨げになる場合がある。貧溶媒の量によって晶析収率等の調整は可能であるが、本発明の効果を十分に発揮させるには、混入した酸成分を中和することが好ましい。すなわち、工程(E)は、NMNがNMNクロライド等になった状態で実施しても構わないが、分子内塩の状態で実施することが好ましい。
【0063】
中和に用いる塩基としては、特に制限はないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
【0064】
(工程(F))
工程(F)は、工程(E)で得られた結晶について1回以上再結晶を行う工程である。
工程(E)で得られたNMNの結晶を溶解させ、再び晶析を行うことにより、不純物をより低減させたNMNを得ることができる。再結晶における晶析操作は、前述の工程(E)と同様に行うことができ、水とエタノールの2成分系で実施することが好ましい。
【0065】
工程(E)及び工程(F)の晶析において生じる母液に含まれるNMNは廃棄してもよいが、回収することもできる。例えば固液分離後の母液を工程(D)と同様に濃縮し、その濃縮物を工程(A)あるいは後述の工程(X)~(Z)のいずれかに供してNMNを回収してもよい。工程(F)の母液については、貧溶媒であるエタノールを加え、もう一度結晶を析出(二次晶析)させ、その結晶(二次晶)を回収してもよい。また、母液のNMN濃度が低い場合には、濃縮して工程(E)の晶析に供することもできる。母液からNMNを回収することにより、極力ロスを抑えて収率良くNMNを製造することができる。
【0066】
(工程(G))
工程(G)は、工程(E)もしくは工程(F)で得られたNMNの湿結晶を乾燥する工程である。
乾燥方法としては、特に制限されず、減圧(真空)乾燥、通風乾燥、流動層乾燥等が挙げられる。なかでも、熱分解や溶融を避けて60℃以下で減圧乾燥することが好ましい。
乾燥時間としては、用いる装置の特性によって支配される部分が大きいが、通常1~48時間、好ましくは2~24時間である。
【0067】
(工程(X))
工程(X)は、工程(A)に供する前のNMN水溶液中の不溶物を除去する工程である。前述のようなNMNの合成反応では、反応の進行に伴って不溶物が生じることがある。このような不溶物が存在する場合は、工程(A)~(C)に先立ってそれを除くことが好ましい。
除去方法としては、特に制限はないが、例えば遠心分離、濾過が挙げられる。不溶物が存在しない場合は、工程(X)を実施せずに工程(Y)を実施することができる。
【0068】
工程(Y)は、NMN水溶液に塩酸を添加して酸性化する工程である。
活性炭処理は酸性条件下で実施することが好ましいため、活性炭処理に供するNMN水溶液が酸性でない場合は、工程(A)の前に工程(Y)を行うことが好ましい。
工程(Y)の酸性化に用いる酸は、特に限定されず、例えば2~12Nの塩酸を使用できる。活性炭処理に供するNMN水溶液が既に酸性である場合は、工程(Y)を行わなくてもよい。
【0069】
(工程(Z))
工程(Z)は、工程(Y)の酸性化によってNMN水溶液に生じた不溶物を除去する工程である。除去方法としては、特に制限はないが、例えば遠心分離、濾過が挙げられる。
工程(Y)を実施した場合には、酸性化によってNMN水溶液に不溶物が生じることがある。例えば生体触媒によりNMN合成した場合は、触媒あるいは生体由来成分等が酸性条件で変性したり、不溶な塩を形成したりすることがある。このような場合には、工程(Z)を実施することが好ましい。
【0070】
工程(X)~(Z)を実施することは、生体由来成分の一部を簡便に除去できる点で好ましい。本発明においては、活性炭処理に供するNMN水溶液中に生体由来成分(核酸、脂質、タンパク質、残存生菌)等が含まれていても構わないが、それら成分を除去あるいは不活性化したNMN水溶液の方が、活性炭処理の効率が向上し、また活性炭への負荷低減が期待される。
【0071】
工程(X)及び工程(Z)において、濾過操作を行う場合、必要に応じて、濾過助剤を使用することができる。濾過助剤は、プリコート法、ボディフィード法、あるいはそれらの併用においても用いられる。
濾過助剤としては、例えば、珪藻土とパーライト、セルロース、酸性白土、ベントナイト、粉末活性炭等を使用できる。
【0072】
以上説明したように、本発明では、精製工程において、工程(A)~(C)の活性炭の吸脱着を利用した精製を実施することにより、不純物を効果的に取り除き、純度の高いNMNの製造することができる。
また、本発明における精製工程は、条件を選べば、水以外に使用する溶媒は人体への悪影響が比較的小さく、易分解性であるエタノールのみに限定することができる。このため、溶剤タンク、回収リサイクル等の設備あるいは操作が簡便となり、さらに排水処理の観点からも優れた製造プロセスとなり得る。
【実施例0073】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0074】
[実施例1]
精製工程に供するNMN水溶液として、生体反応を応用したNMN合成の反応終了液を用いた。組成は以下のとおりである。
(反応終了液の組成)
・NMN:1.0質量%
・ニコチンアミド:NMNに対する割合が33質量%
・リン酸塩:NMNに対する割合がリン酸(PO 3-)として234質量%
・マグネシウム塩:NMNに対する割合がマグネシウム(Mg2+)として35質量%
【0075】
前記反応終了液(NMN水溶液)を0.45μmフィルターで濾過し、前記反応終了液中の不溶物を除去した(工程(X))。次いで、濾液153gに6N塩酸(富士フィルム和光純薬)を10.06g添加してpH1.5とし(工程(Y))、酸性化に伴って生じた白濁を0.45μmフィルターで除去した(工程(Z))。
富士フィルム和光純薬社製の活性炭(粉末)約45gを0.06N塩酸約400mLに一晩懸濁した後、200mL容の加圧濾過器(アドバンテック東洋社製、型番KST-47)に詰め、活性炭カラムを作製した。前記活性炭カラムは、0.03N塩酸で洗浄し、平衡化した後に使用した。
工程(Z)後の濾液159gを前記活性炭カラムに供し、NMNを活性炭に吸着させた(工程(A))。NMNを吸着させた後、0.03N塩酸1473gでカラム内の活性炭を洗浄した(工程(B))。続いて、20質量%(W/W)エタノール水溶液750gでNMNを溶出させた(工程(C))。洗浄液及び溶出液は50g程度ずつフラクション分けして回収した。
【0076】
活性炭処理前のNMN水溶液と活性炭カラムからの溶出液の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析結果を図1に示す。なお、HPLC分析条件は以下のとおりである。
(HPLC分析条件)
・カラム:Inertsil ODS-3 4.6mm×25cm
・移動層:0.2%HPO
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・検出:UV(261nm)検出及びRI検出
【0077】
図1に示すように、活性炭処理(精製)前後で、ニコチンアミド、リン酸塩及びマグネシウム塩等が効率的に除去されたことが分かる。
洗浄液及び溶出液の各フラクションをHPLCで分析し、NMNとニコチンアミドの相対量を測定した。その結果(溶出パターン)を図2に示す。図2から、活性炭カラムへのNMN等の吸脱着の様子が分かる。
【0078】
溶出されたNMN画分(図2中「⇔」部分)を回収し、エバポレーターで4.30gまで濃縮(バス温40℃、~14torr)した(工程(D))。得られた濃縮物に、貧溶媒として99.5質量%エタノール(富士フィルム和光純薬社製、特級)1.51gを加え、5℃で静置した。次いで、エタノール4.52gを加え、数時間の間隔をあけて更にエタノール1.54gを加えて放置した。その後、桐山ロートを使用して、析出した結晶を回収した(工程(E))。結晶を少量のエタノールで洗浄(リンス)し、未乾燥状態のNMN結晶を1.68g得た。得られたNMN結晶及び母液のHPLC分析結果を図3に示す。
図3に示すように、晶析によってニコチンアミドが母液側に効果的に移行していることを確認できた。
【0079】
得られたNMN結晶に、NMNが25質量%前後になるように水4.60gを加え、加熱溶解させた。貧溶媒として99.5質量%エタノール(富士フィルム和光純薬社製、特級)2.44gを加え、5℃で一晩放置した。次いで、エタノールの2.28g、2.26g及び2.23gを順次加え(最終的なエタノール合計量は9.21g)、翌日まで5℃で放置した。桐山ロートを使用して、析出した結晶を回収した(工程(F))。結晶を少量のエタノールで洗浄(リンス)し、未乾燥状態のNMNの結晶を1.38g得た。得られた湿結晶を常温、真空ポンプ減圧下、質量変化がなくなるまで乾燥し、乾燥状態の結晶を1.31g得た(工程(G))。
【0080】
再結晶で得られたNMNの結晶及び母液のHPLC分析結果を図4に示す。図4に示すように、再結晶によって更にニコチンアミドが母液側に除かれ、純度の向上したNMNが回収されたことを確認できた。
また、これらの精製工程を経て得られたNMNについて、不純物に注目した分析を行うために、サンプル注入量を増やしてHPLC分析した結果を図5に示す。図5に示すように、工程(A)~(C)を含む精製工程により、多くの不純物が効果的に除かれたことを確認できた。
【0081】
[参考例]
NMN(分子内塩)及びNMNクロライドの晶析時における挙動の相違について調べた。
NMN0.50gに表1に示す量の1N塩酸及び水を加え、25質量%のNMNを含有する塩酸水溶液を4種類調製した。なお、1N塩酸の比重(文献値1.02)は1とした。
各溶液について、99.5質量%エタノール(富士フィルム和光純薬特級)1.0gを加え、5℃で静置し、結晶を析出させた。間隔をあけてエタノール1.0gを2回添加し、合計3.0gのエタノール加えた状態で晶析を行った。晶析後の上澄みを0.22μmのフィルターで濾過し、その濾液を晶析母液としてNMN含量をHPLCで分析した。結果を図6に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
図6に示すように、塩酸を加えてNMNクロライドの量が増加すると、母液中のNMN(又はNMNクロライド)の含量が上昇し、晶析収率に影響を与えることが分かる。
【0084】
[実施例2]
精製工程に供するNMN水溶液として、生体反応を応用したNMN合成の反応終了液を用いた。組成は以下のとおりである。
(反応終了液の組成)
・NMN:1.4質量%
・ニコチンアミド:NMNに対する割合が27質量%
【0085】
前記反応終了液(NMN水溶液)を0.45μmフィルターで濾過し、前記反応終了液中の不溶物を除去した(工程(X))。次いで、濾液19321gに6N塩酸(富士フィルム和光純薬)を500g添加してpH1.5とし(工程(Y))、酸性化に伴って生じた白濁を0.45μmフィルターで除去した(工程(Z))。
大阪ガスケミカル社製の活性炭(KL)約62gを蒸留水約1Lに一晩懸濁した後、400mL容のガラスカラム(柴田科学社製、型番A62580-GC-03)に詰め、活性炭カラムを作製した。前記活性炭カラムは、0.03N塩酸で洗浄し、平衡化した後に使用した。
工程(Z)後の濾液234.5gを前記活性炭カラムに供し、NMNを活性炭に吸着させた(工程(A))。NMNを吸着させた後、0.03N塩酸1800.0gでカラム内の活性炭を洗浄した(工程(B))。続いて、10質量%(W/W)エタノール及び0.1質量%(W/W)塩酸を含有する水溶液1350.0gでさらに活性炭を洗浄した(工程(H))。続いて、40質量%(W/W)エタノール水溶液1200gでNMNを溶出させた(工程(C))。洗浄液及び溶出液は150g程度ずつフラクション分けして回収した。
【0086】
洗浄液及び溶出液の各フラクションをHPLCで分析し、NMNとニコチンアミドの相対量を測定した。その結果(溶出パターン)を図7に示す。図7から、活性炭カラムへのNMN等の吸脱着の様子が分かる。なお、HPLC分析条件は以下のとおりである。
(HPLC分析条件)
・カラム:Inertsil ODS-3 4.6mm×15cm
・移動層:50mMリン酸緩衝液(pH7.0)
・流速:3.0mL/min
・カラム温度:40℃
・検出:UV(260nm)検出
【0087】
続いて前記平衡化、工程A、工程B、工程H、工程Cを連続して9回実施したが、いずれも図7と同様の吸脱着の挙動を示した。
【0088】
溶出されたNMN画分(図7中「⇔」部分)を回収し、計10回分の吸脱着で約6000gの脱着液を得た。この脱着液をエバポレーターで198.5gまで濃縮(バス温40℃、10kPa)した(工程(D))。濃縮液のNMN濃度をHPLC分析で作成した検量線を用いて測定したところ、15%であった(NMNの標品としてCombi-blocks社製のNMNを用いて)。貧溶媒として95vol%エタノール(宝酒造社製、食品グレード)333.5gを500mlセパラブルフラスコに加え、撹拌しながら上記濃縮液1.94gを加え、2時間の間隔をあけて更に濃縮液2.04gを加え、その後、1時間おきに約2.0gずつ計95gの濃縮液を加えた。ブフナーロートを使用して、析出した結晶を回収した(工程(E))。結晶を少量のエタノールで洗浄(リンス)し、未乾燥状態のNMN結晶を23.3g得た。得られた湿結晶を常温、真空ポンプ減圧下、質量変化がなくなるまで乾燥し、乾燥状態の結晶を13.51g得た(工程(G))。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7