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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133149
(43)【公開日】2024-10-01
(54)【発明の名称】ガラス繊維強化樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 13/00 20060101AFI20240920BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20240920BHJP
   D06M 13/507 20060101ALI20240920BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240920BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240920BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240920BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C03C13/00
D06M15/564
D06M13/507
C08J5/04 CEZ
C08L101/00
C08K7/14
C08K9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024110896
(22)【出願日】2024-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】貫井 洋佑
(72)【発明者】
【氏名】中村 幸一
(72)【発明者】
【氏名】原島 俊介
(72)【発明者】
【氏名】武藤 史浩
(57)【要約】
【課題】市中廃ガラスを原料とし、かつ製造におけるCO排出量が低減されていながら、引張強さ等の機械的強度が十分に高いガラス繊維強化樹脂成形品の形成に用いることができる、ガラス繊維強化樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
ガラス繊維強化樹脂組成物であって、市中廃ガラスを50質量%超含むガラス原料を溶融及び紡糸したガラス長繊維又はその切断若しくは粉砕物であるガラス繊維素材と、樹脂とを含み、前記ガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントの23℃における引張速度5mm/分での引張強さS(GPa)に対する、前記ガラス長繊維を形成するガラスの液相温度T(℃)の比(T/S)が、361.5~457.0である、ガラス繊維強化樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
市中廃ガラスを50質量%超含むガラス原料を溶融及び紡糸したガラス長繊維又はその切断若しくは粉砕物であるガラス繊維素材と、樹脂とを含み、
前記ガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントの23℃における引張速度5mm/分での引張強さS(GPa)に対する、前記ガラス長繊維を形成するガラスの液相温度T(℃)の比(T/S)が、361.5~457.0である、ガラス繊維強化樹脂組成物。
【請求項2】
前記比(T/S)が、410.2~447.0である、請求項1に記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
前記ガラス原料は、SiOが63.5~66.5質量%であり、Alが1.5~3.5質量%であり、Bが3.0~4.5質量%であり、CaO及びMgOの合計が7.5~10.0質量%であり、BaO及びSrOの合計が3.5~5.5質量%であり、かつNaO及びKOの合計が15.0~17.3質量%であるガラス組成物からなる、請求項1に記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
前記ガラス繊維強化樹脂組成物におけるガラス繊維素材の含有量が、前記ガラス繊維強化樹脂組成物の全量に対して、10.0~50.0質量%である、請求項1に記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【請求項5】
前記ガラス繊維素材に、アミノシラン及びウレタン樹脂が塗布されている、請求項1に記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂の極限粘度が、0.3~1.5dl/gである、請求項1に記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂は、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、及びポリフェニレンサルファイドからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス繊維強化樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化樹脂(GFRP)は、軽量であり、強度や耐久性にも優れ、金属腐食の問題もないことから、自動車、鉄道、船舶等の部品、住宅設備機器、スポーツ用品を始めとして非常に広い分野で使用されている。
【0003】
近年、産業界において、環境負荷の軽減及び持続可能な生産消費形態の確保が強く求められている。これらを実現するための産業界における取組みの一つとして、一度最終製品として販売及び使用がなされた後の製品を回収し、それを原料として再び最終製品を製造するリサイクルが挙げられる。
【0004】
ガラス製品についても、リサイクルが試みられている。例えば、特許文献1には、ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維を含むガラス原料を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、ガラス長繊維とすることを特徴とする、ガラス長繊維の製造方法が記載されている。また、特許文献2には、組成物製造原料中5~100重量%のブラウン管硝子よりなる無機質繊維製造用硝子組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2023/276617号
【特許文献2】特開2003-267753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の製造方法では、ガラス繊維強化樹脂成形品から回収されたガラス繊維を用いる点では環境負荷の軽減が達成される一方で、ガラス繊維の回収において高温(500℃以上)で加熱する工程を含むことが多いため、回収過程において発生するCO量の改善の余地がある。
【0007】
特許文献2には、無機質繊維製造用硝子組成物を用いて、ガラス繊維、グラスウール、ロックウール等を製造することができると記載されているが、開示されているガラス組成、特にブラウン管硝子を5~100重量%を含有するガラス組成では、ガラス繊維強化樹脂に多用されるEガラスからなるガラス繊維に匹敵する繊維強度を得ることが難しい。なお、同文献では、グラスウール(ガラス短繊維)にバインダーを付着させてグラスウール成形品を得た例があるのみで、ガラス長繊維を得てガラス繊維強化樹脂を製造することについては言及されていない。
【0008】
本開示は、市中廃ガラスを原料とし、かつ製造におけるCO排出量が低減されていながら、引張強さ等の機械的強度が十分に高いガラス繊維強化樹脂成形品の形成に用いることができる、ガラス繊維強化樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の[1]~[7]を提供する。
【0010】
[1]市中廃ガラスを50質量%超含むガラス原料を溶融及び紡糸したガラス長繊維又はその切断若しくは粉砕物であるガラス繊維素材と、樹脂とを含み、上記ガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントの23℃における引張速度5mm/分での引張強さS(GPa)に対する、前記ガラス長繊維を形成するガラスの液相温度T(℃)の比(T/S)が、361.5~457.0である、ガラス繊維強化樹脂組成物。
【0011】
このガラス繊維強化樹脂組成物により、市中廃ガラスを原料とし、かつ製造におけるCO排出量が低減されていながら、引張強さ等の機械的強度が十分に高いガラス繊維強化樹脂成形品の形成に用いることができる、ガラス繊維強化樹脂組成物を提供することができる。上記ガラス繊維強化樹脂組成物を用いて形成したガラス繊維強化樹脂成形品においては、ガラス長繊維を形成するガラスのT/Sが上記範囲であることによって、ガラス繊維強化樹脂成形品の機械的強度を高める効率が高くなる。
【0012】
上記ガラス繊維強化樹脂組成物を用いて形成したガラス繊維強化樹脂成形品の引張強さを、Eガラス組成を満たすガラス長繊維を含むガラス繊維強化樹脂組成物を用いて形成したガラス繊維強化樹脂成形品の引張強さで除した値をXとし、上記ガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維素材におけるガラスモノフィラメントの引張強さを、Eガラス組成を満たすガラスモノフィラメントの引張強さで除した値をYとしたときに(引張強さはいずれも23℃において、ガラスモノフィラメントの引張強さについては引張速度5mm/分で測定し、ガラス繊維強化樹脂成形品の引張強さについては引張速度2mm/分で測定)、X/Yをガラス繊維強化樹脂成形品強化効率(以下「強化効率」と略称する場合がある。)と定義すると、ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率が1を超えるようになる。すなわち、Eガラス組成を満たすガラス長繊維を用いて製造したときよりも強化効率が向上する。そして、T/Sが361.5~457.0の範囲内であれば、強化効率が十分に高くなる。
【0013】
T/Sが361.5~457.0の範囲内である上記ガラス繊維強化樹脂組成物は、原料として市中廃ガラスを使用しているにも関わらず、強化効率が十分に高くなるのみならず、その製造におけるCO排出量の低減が実現される。すなわち、上記ガラス繊維強化樹脂組成物は、引張強さ等の機械的強度の強化効率が十分に高く、かつ環境負荷が軽減された方法によって製造することができる。
【0014】
[2]上記比(T/S)が、410.2~447.0である、[1]に記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【0015】
T/Sが410.2~447.0である上記ガラス繊維強化樹脂組成物は、強化効率がより大きくなる。したがって、市中廃ガラスを原料として使用しているにも関わらず、製造におけるCO排出量の低減も実現しながら、引張強さ等の機械的強度がより十分に高いガラス繊維強化樹脂成形品の製造が可能になる。
【0016】
[3]上記ガラス原料は、SiOが63.5~66.5質量%であり、Alが1.5~3.5質量%であり、Bが3.0~4.5質量%であり、CaO及びMgOの合計が7.5~10.0質量%であり、BaO及びSrOの合計が3.5~5.5質量%であり、かつNaO及びKOの合計が15.0~17.3質量%であるガラス組成物からなる、[1]又は[2]に記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【0017】
市中廃ガラスが上記ガラス組成を満たすことにより、強化効率を更に高めることができるようになり、CO排出量の更なる低減も可能になる。
【0018】
[4]上記ガラス繊維強化樹脂組成物における上記ガラス繊維素材の含有量が、上記ガラス繊維強化樹脂組成物の全量に対して、10.0~50.0質量%である、[1]~[3]のいずれか一つに記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【0019】
ガラス繊維素材の含有量が上述の範囲にあることで、強化効率を更に高めることができる。
【0020】
[5]上記ガラス繊維素材に、アミノシラン及びウレタン樹脂が塗布されている、[1]~[4]のいずれか一つに記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【0021】
ガラス繊維素材に、アミノシラン及びウレタン樹脂が塗布されていることで、強化効率を更に高めることができる。
【0022】
[6]上記樹脂の極限粘度が、0.3~1.5dl/gである、[1]~[5]のいずれか一つに記載のガラス繊維強化樹脂組成物。例えば、[1]~[5]のいずれか一つに記載のガラス繊維強化樹脂組成物において、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒中で30℃において測定される上記樹脂の極限粘度が、0.3~1.5dl/gであり得る。
【0023】
樹脂の極限粘度が、上述の範囲であることで、強化効率を更に高めることができる。
【0024】
[7]上記樹脂は、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、及びポリフェニレンサルファイドからなる群から選択される少なくとも一つである、[1]~[6]のいずれか一つに記載のガラス繊維強化樹脂組成物。
【0025】
上記の群から選択される少なくとも一つの樹脂は、上述したガラス繊維素材と組み合わせたときに強化効率を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本開示によれば、市中廃ガラスを原料とし、かつ製造におけるCO排出量が低減されていながら、引張強さ等の機械的強度が十分に高いガラス繊維強化樹脂組成物を提供することができる。
【0027】
市中廃ガラスを用いてガラス長繊維を得て、このガラス長繊維を用いてガラス繊維強化樹脂を製造した場合、市中廃ガラスが種々のガラス組成を有することから、ガラス繊維強化樹脂の引張強さ等の機械的強度が不十分になることが予想されるが、本発明者らは、T/Sを361.5~457.0に制御することで、市中廃ガラスを用いた場合でも強化効率が高くなるという予想外の結果が得られることを見出した。これを強化効率の点から説明すると以下のとおりである。上述したYの値が1未満の場合、すなわち、市中廃ガラスから得られたガラスモノフィラメントの強度がEガラス組成のガラスモノフィラメントの強度を上回らない場合でも、上述したXの値(ガラス繊維強化樹脂成形品として測定される値)が1付近に維持される結果、X/Yで表される強化効率が大きくなる(X/Yが1を上回る)。X/Yが1を上回るということは、市中廃ガラスを用いたことによりガラス長繊維自体の強度がEガラスを用いたものより低くなったとしても、一旦、樹脂と組み合わせてガラス繊維強化樹脂を形成してしまえば、ガラス長繊維の強度低下が無視できる程度にガラス繊維強化樹脂成形品の強度を高く維持できることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本開示を実施するための形態について説明するが、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
本開示の一実施形態は、ガラス繊維強化樹脂組成物であって、市中廃ガラスを50質量%超含むガラス原料を溶融及び紡糸したガラス長繊維又はその切断若しくは粉砕物であるガラス繊維素材と、樹脂とを含む。
【0030】
本開示において、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)とは、樹脂、及び補強材としてガラス繊維素材を含む混合物を意味する。ガラス繊維強化樹脂は、ガラス繊維を含むことによって樹脂単体よりも機械的強度(例えば引張強さ)が高められている。ガラス繊維強化樹脂は軽量であり、強度や耐久性にも優れ、金属腐食の問題もないことから、自動車、鉄道、船舶等の部品、住宅設備機器、スポーツ用品を始めとして非常に広い分野で使用されている。
【0031】
本開示において、ガラス原料とは、溶融及び紡糸することによってガラス長繊維とすることができる原料であり、ガラス繊維強化樹脂組成物又はガラス繊維強化樹脂成形品に含まれる全てのガラス長繊維の製造に用いられた原料の全体を意味する。このような原料としては、溶融することによってガラスを形成する無機酸化物が含まれる。
【0032】
本開示において、市中廃ガラスとは、市中廃棄物(例えば、全量に対して30質量%以上の形状未限定のガラスを含む廃棄物)から、500℃以上で加熱される工程を含まずに回収されたガラスを意味する。市中廃棄物としては、市中で使用された後に廃棄された廃棄物に加え、製造され製品として完成したものの使用又は市中に流通することなく廃棄された廃棄物も含む。本開示に係る市中廃ガラスには、ガラス又はガラスを用いた製品の製造過程において工場等で発生する廃ガラスは含まれない。本開示に係る市中廃ガラスとしては、例えば、蛍光管を粉砕して回収されるガラスカレット、自動車のフロントガラスを粉砕して回収されるガラスカレット、デジタル機器の画面を粉砕して回収されるガラスカレット及び飲料等の容器として用いられるガラス瓶を粉砕して回収されるガラスカレット等を挙げることができる。このような市中廃ガラスは、SiO、Al及びBを基本組成とし、CaO及びMgOの少なくとも一種、BaO及びSrOの少なくとも1種、並びにNaO及びKOの少なくとも1種を更に含む、ガラス組成物からなるガラスであり得る。
【0033】
本開示に係る市中廃ガラスは、市中廃棄物から、500℃以上で加熱される工程を含まない限りにおいては当業者が通常行う方法によって回収されたガラスであってよく、そのような市中廃ガラスの回収方法としては、例えば、回収された市中廃棄物をガラス原料としてリサイクルできるガラスの部分とそれ以外の部分に分別することによって行ってよく、その分別の過程で市中廃棄物を粉砕してガラスをガラスカレットとして回収してもよく、また必要に応じて市中廃棄物のガラス以外の部分に由来する有機物をベンジルアルコール等の溶剤への溶解等によって除去してもよい。ガラス原料として500℃以上で加熱される工程を含まずに回収されたガラスを用いると、製造においてガラス繊維を500℃以上で加熱した際に発生量が増大する可能性がある二酸化炭素(CO)の発生を低減することができ、ひいては環境負荷を軽減することができる。なお、本開示において、市中廃ガラスを含むガラス原料(例えばガラスカレット)を用意する工程を、「用意工程」と記載することがある。用意工程は、市中廃棄物からガラスを回収することを含む。
【0034】
本開示の一実施形態において、市中廃ガラスは、SiOが63.5~66.5質量%であり、Alが1.5~3.5質量%であり、Bが3.0~4.5質量%であり、CaO及びMgOの合計が7.5~10.0質量%であり、BaO及びSrOの合計が3.5~5.5質量%であり、かつNaO及びKOの合計(RO)が15.0~17.3質量%であるガラス組成物からなる。なお、本開示において、「AがBであるガラス組成物からなる」、「AがBであるガラス組成を満たす」、「AがBであるガラス組成を備える」及び「AがBであるガラス組成を有する」との表現は、Aが、Bを満たす鉱物材料を溶融することによって得られるガラスであることを意味する。
【0035】
本開示の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物は、市中廃ガラスを所定の下限超又は以上含むガラス原料を溶融及び紡糸したガラス長繊維又はその切断若しくは粉砕物であるガラス繊維素材を用いる。ガラス原料における市中廃ガラスの含有量としては少なくとも50質量%超であればよく、一実施形態においては55質量%超、60質量%超、65質量%超、70質量%超、74質量%超、75質量%以上、76質量%超、80質量%超、85質量%超、90質量%超、95質量%超、98質量%超又は99質量%超であってもよく、好ましい一実施形態においては100質量%であってもよい。本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物は、ガラス原料における市中廃ガラスの含有量が上記の条件を満たすことによって、市中廃ガラスをガラス繊維強化樹脂の原料としてリサイクルし、環境負荷を軽減することができる。また、本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物は、ガラス原料における市中廃ガラスの含有量が上記の条件を満たすことによって、ガラス原料におけるガラスの大部分として500℃以上で加熱される工程を含まずに回収されたガラスを用いるため、製造においてガラス繊維を500℃以上で加熱した際に発生量が増大する可能性がある二酸化炭素(CO)の発生を低減することができ、ひいては環境負荷を軽減することができる。最も好ましい一実施形態において、ガラス原料は、市中廃ガラスからなるガラス原料であってもよい。
【0036】
本開示の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物におけるガラス原料に含まれる、市中廃ガラス以外のガラス原料及びその組成は特に限定されず、例えば、ガラス繊維の製造用に設計された、当業者が通常用いるガラス原料を使用することができる。また例えば、ガラス原料として、珪砂、長石、クレー、石灰石、シリカパウダー、ドロマイト、タルク、クレー、アルミナ若しくはソーダ灰又はその混合物等を使用することもできる。このような市中廃ガラス以外のガラス原料が取りうる組成としては、例えば、最も汎用的であるEガラス組成、高強度高弾性率ガラス組成、高弾性率易製造性ガラス組成及び低誘電率低誘電正接ガラス組成等を挙げることができる。
【0037】
Eガラス組成は、52.0~56.0質量%の範囲のSiOと、12.0~16.0質量%の範囲のAlと、合計で20.0~25.0質量%の範囲のMgO及びCaOと、5.0~10.0質量%の範囲のBとを含む組成である。
【0038】
高強度高弾性率ガラス組成は、60.0~70.0質量%の範囲のSiOと、20.0~30.0質量%の範囲のAlと、5.0~15.0質量%の範囲のMgOと、0~1.5質量%の範囲のFeと、合計で0~0.2質量%の範囲のNaO、KO及びLiOとを含む組成である。
【0039】
高弾性率易製造性ガラス組成は、57.0~60.0質量%の範囲のSiOと、17.5~20.0質量%の範囲のAlと、8.5~12.0質量%の範囲のMgOと、10.0~13.0質量%の範囲のCaOと、0.5~1.5質量%の範囲のBとを含み、かつ、合計で98.0質量%以上であるSiO、Al、MgO及びCaOとを含む組成である。
【0040】
低誘電率低誘電正接ガラス組成は、48.0~62.0質量%の範囲のSiOと、17.0~26.0質量%の範囲のBと、9.0~18.0質量%の範囲のAlと、0.1~9.0質量%の範囲のCaOと、0~6.0質量%の範囲のMgOと、合計で0.05~0.5質量%の範囲のNaO、KO及びLiOと、0~5.0質量%の範囲のTiOと、0~6.0質量%の範囲のSrOと、合計で0~3.0質量%の範囲のF及びClと、0~6.0質量%の範囲のPとを含む組成である。
【0041】
本開示の一実施形態において、ガラス原料における市中廃ガラス以外のガラス原料の含有量としては、例えば50質量%未満、45質量%未満、40質量%未満、35質量%未満、30質量%未満、26質量%未満、25質量%以下、24質量%未満、20質量%未満、15質量%未満、10質量%未満、5質量%未満、2質量%未満又は1質量%未満であってよく、好ましい一実施形態においては0質量%であってもよい。すなわち、好ましい一実施形態において、ガラス原料は、市中廃ガラス以外のガラス原料を含有しなくてもよい。
【0042】
本開示の一実施形態において、ガラス原料は、ガラス原料全体として、SiOが61.0~69.0質量%であり、Alが1.0~7.0質量%であり、Bが1.0~5.0質量%であり、CaO及びMgOの合計が7.3~15.0質量%であり、BaO及びSrOの合計が2.8~7.0質量%であり、かつNaO及びKOの合計(RO)が12.0~17.5質量%であるガラス組成からなる。本開示の好ましい一実施形態において、ガラス原料は、ガラス原料全体として、SiOが63.5~66.5質量%であり、Alが1.5~3.5質量%であり、Bが3.0~4.5質量%であり、CaO及びMgOの合計が7.5~10.0質量%であり、BaO及びSrOの合計が3.5~5.5質量%であり、かつNaO及びKOの合計(RO)が15.0~17.3質量%であるガラス組成からなる。なお、ガラス原料と、当該ガラス原料を溶融及び紡糸して得られるガラス長繊維、及び、当該ガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントとは、実質的に同一のガラス組成を備える。
【0043】
本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物は、補強材として、ガラス長繊維又はその切断若しくは粉砕物であるガラス繊維素材を含む。本開示において、ガラス長繊維(ガラス繊維束又はガラスストランドともいう)とは、その製造工程において、少なくとも1000m以上の長さを備える状態となる、ガラス繊維であり、1本のガラスモノフィラメントにより、又は、複数本のガラスモノフィラメントが集束されて構成されたものを意味する。このようなガラス長繊維は、例えば、溶融ガラスをブッシングと呼ばれる白金製ノズルを通して流下させ引き伸ばし,連続的に繊維化する操作(紡糸)及び必要に応じて集束させる操作によって調製される。本開示に係るガラス長繊維は、紡糸を行わずに調製されるガラス繊維であるグラスウール等のガラス短繊維とは明確に区別される。
【0044】
本開示に係るガラス長繊維におけるガラスモノフィラメントの繊維径は、例えば、3.0~100.0μmの範囲にあり、好ましくは、4.0~70.0μmの範囲にあり、より好ましくは、5.0~50.0μmの範囲にあり、さらに好ましくは、6.5~40.0μmの範囲にあり、特に好ましくは、7.0~30.0μmの範囲にあり、最も好ましくは、10.5~16.0μmの範囲にある。
【0045】
本開示に係るガラス繊維素材は、加工されていないガラス長繊維であってよく、ガラス長繊維を適宜に加工した切断又は粉砕物であってもよい。そのようなガラス繊維素材としては、例えばチョップドストランド、ロービング又はカットファイバーであってよい。
【0046】
本開示に係るガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントの本数(集束本数)及びガラス繊維素材の長さは、ガラス繊維素材の形態に応じて適宜に選択することができる。例えば、ガラス繊維素材がチョップドストランドである場合には、それを構成するガラスモノフィラメントの本数(集束本数)が好ましくは1~20000本、より好ましくは50~10000本、さらに好ましくは200~8000本であってよく、このときチョップドストランドは長さが好ましくは1.0~100.0mm、より好ましくは、1.2~51.0mm、さらに好ましくは、1.5~30.0mm、特に好ましくは2.0~15.0mm、最も好ましくは2.3~7.8mmに切断されていてよい。また、ガラス繊維素材がロービングである場合には、それを構成するガラスモノフィラメントの本数(集束本数)が例えば10~30000本であってよく、かつその調製においてはガラス長繊維の切断が行われない。また、ガラス繊維素材がカットファイバーである場合には、それを構成するガラスモノフィラメントの本数(集束本数)が例えば1~20000本であってよく、このときカットファイバーは、ボールミル又はヘンシルミキサー等の公知の方法によって、長さが0.001~0.900mmになるように粉砕されたものであってよい。
【0047】
本開示の一実施形態に係るガラス繊維素材は、集束剤が塗布されていてよい。集束剤は、例えばシランカップリング剤、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含む集束剤であってよく、シランカップリング剤及びウレタン樹脂を含む集束剤であってよく、シランカップリング剤、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂を含む集束剤であってよい。また、本開示の一実施形態に係るガラス繊維素材は、シランカップリング剤及びウレタン樹脂が塗布されていてもよく、例えばアミノシラン及びウレタン樹脂が塗布されていてもよい。
【0048】
シランカップリング剤としては、アミノシラン、クロルシラン、エポキシシラン、メルカプトシラン、ビニルシラン、アクリルシランを挙げることができる。上記シランカップリング剤は、これらの化合物を単独で使用することもでき、又は、2種類以上を併用することもできる。アミノシランとしては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-N’-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。クロルシランとしては、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。エポキシシランとしては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。メルカプトシランとしては、γ-メルカプトトリメトキシシラン等を挙げることができる。ビニルシランとしては、ビニルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。アクリルシランとしては、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0049】
ウレタン樹脂としては、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂を挙げることができる。
【0050】
エポキシ樹脂しては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-クレゾール共縮合ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-フェノール共縮合ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0051】
本開示の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物は、ガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントの23℃における引張速度5mm/分での引張強さS(GPa)に対する、上記ガラス長繊維を形成するガラスの液相温度T(℃)の比(T/S)が、361.5~457.0である。他の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物では、上記T/Sが、375.0~445.0、385.0~435.0、390.0~430.0又は391.7~428.6であってもよい。
【0052】
ガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントにおけるT/Sが上記の範囲内であると、ガラス繊維強化樹脂組成物を用いて成形品とする場合の、モノフィラメントの強度に対する成形品の強度を高める効率が高くなる。ガラス繊維強化樹脂組成物における機械的強度に主に寄与するガラス長繊維の性質としては、ガラス繊維自体の機械的強度と、補強材として用いた場合にガラス繊維強化樹脂成形品の機械的強度を高める効率が挙げられるところ、上記製造方法に従って製造したガラス繊維強化樹脂成形品においては、ガラス長繊維が上記性質を満たすことによって、ガラス繊維強化樹脂成形品の機械的強度を高める効率が高くなる。より具体的には、ガラス繊維強化樹脂成形品に関し、上述した強化効率が1を超えるようになる。すなわち、Eガラスを用いたときよりも強化効率が向上する。
【0053】
また、ガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントにおけるT/Sが上記の範囲内であると、ガラス繊維強化樹脂組成物の製造におけるCO排出量を低減することができる。さらに、本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物では、原料として市中廃ガラスを使用し、かつガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントにおけるT/Sが上記の範囲内であることによって、製造における環境負荷が低減される。
【0054】
本開示に係るガラスモノフィラメントの23℃における引張速度5mm/分での引張強さS(GPa)は、当業者が通常行う方法に従って測定されたガラスモノフィラメントの最大荷重値の実測値を、繊維断面積で除すことによって算出できる値である。すなわち、ガラスモノフィラメントの最大荷重値をW(N)、繊維断面積をA(mm)とすると、S=(W/A)/1000である。
【0055】
ガラスモノフィラメントの引張強さSの算出に用いる最大荷重値Wの実測値としては、当業者が通常行う方法として、例えば引張試験機で測定した最大荷重値であってよい。より具体的な一例としては、接触や摩擦による劣化のない状態のガラスモノフィラメントを、中央に穴の開いた支持体(例えば台紙)に、穴に対して正面視でガラスモノフィラメントが穴を通過するように固定(接着)し、そのガラスモノフィラメントの通過領域中の一か所を引張試験機のつかみ具で担持した後、23℃の温度条件において、クロスヘッド速度5mm/分で引張試験を行うことによって得られた、破断時の最大荷重値であってよい。
【0056】
ガラスモノフィラメントの引張強さSの算出に用いる繊維断面積Sとしては、当業者が通常行う方法として、例えば走査型電子顕微鏡を用いた観察によって測定した繊維径から算出された繊維断面積であってよい。また、繊維断面積は、例えば上述した引張試験機における測定に供したそれぞれのガラスモノフィラメントについての測定値であってよく、また例えば上述した引張試験機における測定に供するガラスモノフィラメントと同様に調製されたガラスモノフィラメントについての繊維径の測定値の平均値(数平均値、数平均繊維径)から算出された繊維断面積であってよい。
【0057】
上記比(T/S)の算出に用いる液相温度T(℃)としては、例えばガラスモノフィラメントにおけるガラス組成に基づいて予測された推定値であってもよく、また液相温度Tの実測値であってもよいが、測定の簡便性の観点から、好ましい一実施形態においては、ガラスモノフィラメントにおけるガラス組成に基づいて予測された推定値であってもよい。
【0058】
液相温度Tの予測のために用いる、ガラスモノフィラメントにおけるガラス組成の測定は、当業者が通常行う方法によって行うことができ、例えば、軽元素であるLiについてはICP発光分光分析装置を用いて測定を行うことができ、その他の元素は波長分散型蛍光X線分析装置を用いて測定を行うことができる。より具体的な測定方法としては、初めにガラス繊維を白金ルツボに入れ、電気炉中で、1550℃の温度に6時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得る。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出してガラスカレットを作製した後、粉砕し粉末化してガラス粉末とする。軽元素であるLiについては得られたガラス粉末を酸で加熱分解した後、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析する。その他の元素はガラス粉末をプレス機で円盤状に成形した後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析する。これらの定量分析結果を酸化物換算して各成分の含有量及び全量を計算し、これらの数値からガラス組成の各成分の含有率を求めることができる。
【0059】
ガラス組成に基づく液相温度Tの予測は、当業者が通常用いるソフトウェアを用いて行うことができ、例えば、INTERGLAD Ver.8を用いて予測可能である。
【0060】
液相温度Tの実測値としては、当業者が通常行う方法として、例えば温度傾斜炉又は示差走査熱量計(DSC)等を用いて測定することができる。
【0061】
上記比(T/S)を上記範囲内とすることは、当業者であれば、ガラスモノフィラメントのガラス組成を適宜に調整することによって行うことができ、かつガラスモノフィラメントのガラス組成を適宜に調整することは、例えばガラスモノフィラメントの調製に用いるガラス原料におけるガラス組成を適宜に調整することによって行うことができる。より具体的には、上述のとおり、ガラス組成に基づく液相温度Tは、当業者が通常用いるソフトウェアを用いて予測することができるため、まず、そのようなソフトウェアを用いて、液相温度Tが、上記比(T/S)を上記範囲内とするに適した値となるガラス組成を複数推測する。その後、実際にそのようなガラス組成を満たすガラスモノフィラメントを調製して引張強さSを測定し、上記比(T/S)が上記範囲内となるガラス組成を選択する。あるいは、上記比(T/S)が上記範囲内となるガラス組成が見出されなかった場合には、候補の中で上記比(T/S)が上記範囲に近い値となったガラス組成について、再度液相温度Tを予測可能なソフトウェアを使用して液相温度Tの顕著な変動を伴わないことを確認しながら、ガラス組成と引張強さの関係性についての公知の知見に基づいて引張強さSが増強又は減弱されるガラス組成を探索することによって、上記比(T/S)が上記範囲内となるガラス組成を見出すことができる。なお、ガラスモノフィラメントの引張強さについても、当業者が通常用いるソフトウェア、例えば、INTERGLAD Ver.8を用いて予測可能であり、前述のガラス組成探索プロセスにおいて、ガラスモノフィラメントの引張強さの測定に代えて、ガラスモノフィラメントの引張強さの予測を用いてもよい。
【0062】
本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物の製造においては、上記比(T/S)を上記範囲内とするために、ガラス原料におけるガラス組成を適宜に調整することは、例えば、ガラス原料に含まれる市中廃ガラス及びそれ以外のガラス原料の種類並びにそれらのガラス原料の含有割合を適宜に調整することによって行うことができる。
【0063】
本開示の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物の製造において、上記比(T/S)を361.5~457.0とすることは、例えば、ガラス原料のガラス組成を、SiOが61.0~69.0質量%であり、Alが1.0~7.0質量%であり、Bが1.0~5.0質量%であり、CaO及びMgOの合計が7.3~15.0質量%であり、BaO及びSrOの合計が2.8~7.0質量%であり、かつNaO及びKOの合計(RO)が10.5~17.5質量%であるように調整することによって行うことができる。このようなガラス組成は、例えば所定の割合を越える市中廃ガラスと、Eガラス組成を満たすガラス原料とからなるガラス原料によって達成される。
【0064】
本開示の好ましい一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物は、上記比(T/S)が、410.2~447.0である。他の好ましい一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物は、上記比(T/S)が415.0~440.0、420.0~435.0又は425.0~430.0であってもよい。上記比(T/S)が上記の範囲内であると、ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率がより大きくなるため、Eガラスを用いたときよりも強化効率がさらに向上する。また、ガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントにおける上記比(T/S)が上記の範囲内であると、ガラス繊維強化樹脂組成物の製造におけるCO排出量をさらに低減することができる。さらに、本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物では、原料として市中廃ガラスを使用し、かつガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントにおける上記比(T/S)が上記の範囲内であることによって、製造における環境負荷がより低減される。
【0065】
本開示の好ましい一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物の製造において、上記比(T/S)を410.2~447.0とすることは、例えば、ガラス原料のガラス組成を、SiOが63.5~66.5質量%であり、Alが1.5~3.5質量%であり、Bが3.0~4.5質量%であり、CaO及びMgOの合計が7.5~10.0質量%であり、BaO及びSrOの合計が3.5~5.5質量%であり、かつNaO及びKOの合計(RO)が15.0~17.3質量%であるように調整することによって行うことができる。このようなガラス組成は、例えば市中廃ガラスからなるガラス原料によって達成される。
【0066】
本開示の一実施形態において、ガラス長繊維を構成するガラスモノフィラメントの23℃における引張速度5mm/分での引張強さSは、例えば、1.5~5.5GPaの範囲にあり、好ましくは、1.7~3.4GPaの範囲にあり、より好ましくは、1.9~3.0GPaの範囲にあり、さらに好ましくは、2.0~2.9GPaの範囲にあり、特に好ましくは、2,1~2.8GPaの範囲にある。
【0067】
本開示の一実施形態において、ガラス長繊維を形成するガラスの液相温度Tは、例えば、750~1500℃の範囲にあり、好ましくは、800~1200℃の範囲にあり、より好ましくは、850~1050℃の範囲にあり、さらに好ましくは、880~1000℃の範囲にあり、特に好ましくは、900~990℃の範囲にある。
【0068】
以上で説明したような上記比(T/S)を満たすガラスモノフィラメントによって構成されるガラス長繊維は、市中廃ガラスを50質量%超含むガラス原料の溶融物を得る工程(溶融工程)及び溶融工程で得た溶融物を紡糸する工程(紡糸工程)によって調製することができる。また、そのガラス長繊維又はその切断若しくは粉砕物であるガラス繊維素材は、紡糸工程で得たガラス長繊維を必要に応じて切断してチョップドストランドとすること又は粉砕してカットファイバーとすることによって得ることができる。
【0069】
溶融工程では、市中廃ガラスを50質量%超含むガラス原料の溶融物を得る。ガラス原料が市中廃ガラスからなる場合、その溶融物は、市中廃ガラスを溶融させることによって得ることができる。ガラス原料が市中廃ガラス及びそれ以外のガラスからなる場合、その溶融物は、市中廃ガラス及びそれ以外のガラスの混合物を溶融することによって得ることができ、また市中廃ガラスを溶融して得た液体と、それ以外のガラスを溶融して得た液体とを混合することによっても得ることができる。また、一実施形態においては、市中廃ガラス及びそれ以外のガラスの混合物を例えば1400℃~1550℃で溶融した後に一度冷却すること(用意工程)によって得られたガラスカレットを、再度溶融することによっても行うことができる。
【0070】
溶融工程におけるガラス原料の溶融は、例えば、ガラス原料(ガラスバッチ)を溶融炉に供給し、ガラスが溶融する高温条件(例えば1000℃~1200℃)で加熱することによって行うことができる。
【0071】
紡糸工程では、溶融工程で得られた溶融物(溶融ガラス)を紡糸して、ガラス長繊維を得る。その方法は当業者が通常行う方法であれば特に限定されず、例えば溶融炉内の溶融ガラスを所定の温度に制御された、白金ブッシングの1~30000個の範囲の個数のノズルチップから引き出して、急冷することで、ガラスモノフィラメントを形成する。
【0072】
紡糸工程においては、ガラスモノフィラメントに対して、集束剤又はバインダーを塗布してよい。これによって、複数のガラスモノフィラメントが集束したガラス長繊維を得ることができる。ガラスモノフィラメントに対する集束剤又はバインダーの塗布は、例えばノズルチップと巻き取り装置の間にアプリケーターを設け、該アプリケーターから集束剤又はバインダーを供給することによって行うことができる。これによって、巻き取り装置に回収されたガラス長繊維には、集束剤又はバインダーが塗布されているため、巻き取り装置のチューブ上に、複数のガラスモノフィラメントが集束した繊維を含むガラス長繊維が得られる。なお、ノズルチップを、非円形形状を有し、溶融ガラスを急冷する突起部や切欠部を有するものとし、温度条件を制御することにより、扁平な断面形状を備えるガラスフィラメントから構成される、ガラス長繊維を得ることができる。
【0073】
紡糸工程において、ガラスモノフィラメントに対して、集束剤又はバインダーを塗布する場合、その量としては、ガラス原料100質量部に対して、例えば0.1質量部~5.0質量部、0.3質量部~3.0質量部又は0.5質量部~1.0質量部であってよい。
【0074】
本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物における樹脂としては、当業者が通常用いるものを用いることができる。このような樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を挙げることができるが、樹脂自体のリサイクル性の観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン/無水マレイン酸樹脂、スチレン/マレイミド樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、塩素化ポリエチレン/アクリロニトリル/スチレン(ACS)樹脂、アクリロニトリル/エチレン/スチレン(AES)樹脂、アクリロニトリル/スチレン/アクリル酸メチル(ASA)樹脂、スチレン/アクリロニトリル(SAN)樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリカーボネート、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリアリールエーテルケトン、液晶ポリマー(LCP)、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミノビスマレイミド(PABM)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン/酢酸ビニル(EVA)樹脂、アイオノマー(IO)樹脂、ポリブタジエン、スチレン/ブタジエン樹脂、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、オレフィン/ビニルアルコール樹脂、環状オレフィン樹脂、セルロース樹脂、ポリ乳酸等を挙げることができる。なお、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0075】
上記ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン等を挙げることができる。
【0076】
上記ポリプロピレンとしては、アイソタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0077】
上記ポリスチレンとしては、アタクチック構造を有するアタクチックポリスチレンである汎用ポリスチレン(GPPS)、GPPSにゴム成分を加えた耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、シンジオタクチック構造を有するシンジオタクチックポリスチレン等を挙げることができる。
【0078】
上記(メタ)アクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、脂肪酸ビニルエステルのうち一種を単独重合した重合体、又は二種以上を共重合した重合体等を挙げることができる。
【0079】
上記ポリ塩化ビニルとしては、従来公知の乳化重合法、懸濁重合法、マイクロ懸濁重合法、塊状重合法等の方法により重合される塩化ビニル単独重合体、又は、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体、又は、重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト重合したグラフト共重合体等を挙げることができる。
【0080】
上記ポリアミドとしては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ポリアミド56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ポリアミド510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリキシレンアジパミド(ポリアミドXD6)、ポリキシレンセバカミド(ポリアミドXD10)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリテトラメチレンイソフタルアミド(ポリアミド4I)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)等の成分のうち1種、もしくは2種以上の複数成分を組み合わせた共重合体やこれらの混合物等を挙げることができる。
【0081】
上記ポリアセタールとしては、オキシメチレン単位を主たる繰り返し単位とする単独重合体、および、主としてオキシメチレン単位からなり、主鎖中に2~8個の隣接する炭素原子を有するオキシアルキレン単位を含有する共重合体等を挙げることができる。
【0082】
上記ポリエチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸又はその誘導体と、エチレングリコールを重縮合することにより得られる重合体等を挙げることができる。
【0083】
上記ポリブチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸又はその誘導体と、1,4-ブタンジオールを重縮合することにより得られる重合体等を挙げることができる。
【0084】
上記ポリトリメチレンテレフタレートとしては、テレフタル酸又はその誘導体と、1,3-プロパンジオールを重縮合することにより得られる重合体等を挙げることができる。
【0085】
上記ポリカーボネートとしては、ジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを溶融状態で反応させるエステル交換法により得られる重合体、又は、ジヒドロキシアリール化合物とホスゲンとを反応するホスゲン法により得られる重合体を挙げることができる。
【0086】
上記ポリアリーレンサルファイドとしては、直鎖型ポリフェニレンサルファイド、重合の後に硬化反応を行うことで高分子量化した架橋型ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイドサルフォン、ポリフェニレンサルファイドエーテル、ポリフェニレンサルファイドケトン等を挙げることができる。
【0087】
上記変性ポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとポリスチレンとのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとスチレン/ブタジエン共重合体とのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとスチレン/無水マレイン酸共重合体とのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとポリアミドとのポリマーアロイ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルとスチレン/ブタジエン/アクリロニトリル共重合体とのポリマーアロイ等を挙げることができる。
【0088】
上記ポリアリールエーテルケトンとしては、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)等を挙げることができる。
【0089】
上記液晶ポリマー(LCP)としては、サーモトロピック液晶ポリエステルである芳香族ヒドロキシカルボニル単位、芳香族ジヒドロキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、脂肪族ジヒドロキシ単位、脂肪族ジカルボニル単位等から選ばれる1種以上の構造単位からなる(共)重合体等を挙げることができる。
【0090】
上記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、フッ化エチレンテトラフルオロエチレン樹脂(ETFE)、ポリビニルフロライド(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン樹脂(ECTFE)等を挙げることができる。
【0091】
上記アイオノマー(IO)樹脂としては、オレフィン又はスチレンと不飽和カルボン酸との共重合体であって、カルボキシル基の一部を金属イオンで中和してなる重合体等を挙げることができる。
【0092】
上記オレフィン/ビニルアルコール樹脂としては、エチレン/ビニルアルコール共重合体、プロピレン/ビニルアルコール共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体ケン化物、プロピレン/酢酸ビニル共重合体ケン化物等を挙げることができる。
【0093】
上記環状オレフィン樹脂としては、シクロヘキセン等の単環体、テトラシクロペンタジエン等の多環体、環状オレフィンモノマーの重合体等を挙げることができる。
【0094】
上記ポリ乳酸としては、L体の単独重合体であるポリL-乳酸、D体の単独重合体であるポリD-乳酸、又はその混合物であるステレオコンプレックス型ポリ乳酸等を挙げることができる。
【0095】
上記セルロース樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等を挙げることができる。
【0096】
上記熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ(EP)樹脂、メラミン(MF)樹脂、フェノール樹脂(PF)、ウレタン樹脂(PU)、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、ポリイミド(PI)、ユリア(UF)樹脂、シリコーン(SI)樹脂、フラン(FR)樹脂、ベンゾグアナミン(BR)樹脂、アルキド樹脂、キシレン樹脂、ビスマレイドトリアジン(BT)樹脂、ジアリルフタレート樹脂(PDAP)等を挙げることができる。
【0097】
本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物における樹脂の極限粘度は、例えば、0.3dl/g以上、0.5dl/g以上、又は0.6dl/g以上であってよく、1.5dl/g以下、1.3dl/g以下又は1.0dl/g以下であってもよく、これらの数値は自由に組みあわせることができ、具体的な一例としては0.3~1.5dl/g又は0.5~1.3dl/gであってよく、好ましくは0.6~1.0dl/gであってよい。
【0098】
ガラス繊維強化樹脂組成物における樹脂の極限粘度(固有粘度)としては、当業者が通常行う方法として、例えば溶液粘度計で測定した粘度を元に算出した値であってよい。また、ガラス繊維強化樹脂組成物における樹脂の極限粘度は、例えばフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒中で30℃において測定した極限粘度であってよい。
【0099】
本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物における樹脂は、好ましくは、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、及びポリフェニレンサルファイドからなる群から選択される少なくとも一つであってよく、より好ましくはポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、又はポリフェニレンサルファイドであってもよく、具体的な一例としてはポリブチレンテレフタレートであってよい。
【0100】
本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物におけるガラス繊維素材(補強材)の含有量としては、ガラス繊維強化樹脂組成物の全量を基準として例えば10.0質量%以上、15.0質量%以上、20.0質量%以上又は25.0質量%以上であってよく、50.0質量%以下、45.0質量%以下、40.0質量%以下又は35.0質量%以下であってもよく、これらの数値は自由に組み合わせることができ、具体的な一例としては10.0質量%~50.0質量%であってよく、好ましくは20.0質量%~40.0質量%であってもよい。
【0101】
本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物における樹脂とガラス繊維素材(補強材)の含有量比としては、質量基準で、例えば9.0:1.0~5.0:5.0、8.5:1.5~5.5:4.5、8.0:2.0~6.0:4.0又は7.5:2.5~6.5:3.5であってよい。
【0102】
本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物は、以上で説明したガラス繊維素材と樹脂とを混合すること(混合工程)によって得ることができる。混合工程における混合方法は、ガラス繊維素材と樹脂とを混合可能な方法であれば特に限定されず、当業者が通常行う方法によって行うことができ、例えば混錬であってよく、混錬は例えば二軸混錬機を用いて行ってよい。
【0103】
本開示に係るガラス繊維強化樹脂組成物は、ガラス繊維素材及び樹脂に加えて、さらに各種添加剤を含んでもよい。各種添加剤としては、難燃剤、着色剤、離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、核剤、可塑剤、充填剤、改質剤等を挙げることができる。これらの添加剤は、例えば混合工程においてガラス繊維素材及び樹脂と混合することによって、ガラス繊維強化樹脂組成物に含有させてよい。
【0104】
難燃剤としてはリン系難燃剤である非ハロゲンリン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステル、非ハロゲン縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩、赤燐、臭素系難燃剤であるTBA(テトラブロモビスフェノールA)、DBDPO(デカブロモジフェニルエーテル)、OCTA(オクタブロモジフェニルオキサイド)、TBP(トリブロモフェノール)、無機系難燃剤である水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、酸化スズ、水酸化スズ、酸化モリブデン、五酸化アンチモン、水酸化マグネシウム等を挙げることができる。
【0105】
着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、カーボンブラック等を挙げることができる。
【0106】
離型剤としてはステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸タルク、金属石鹸、ポリエチレンワックス、エチレンビスステアリンアミド、EDA(エチレンジアミン)、EBA(エチレンビスステアリン酸アミド)、ステアリン酸リチウム、高級脂肪酸金属塩等を挙げることができる。
【0107】
酸化防止剤としてはフェノール系抗酸化剤、アミン系抗酸化剤、硫黄系抗酸化剤、リン系抗酸化剤等を挙げることができる。
【0108】
紫外線吸収剤としては、サリシレート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアドール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケルキレート系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0109】
帯電防止剤としてはアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性界面活性剤等を挙げることができる。
【0110】
核剤としてはタルク、ジベンジリデンソルビトール、β晶核剤等を挙げることができる。
【0111】
可塑剤としてはフタル酸系可塑剤(DOP(ジオクチルフタレート)、DBP(ジブチルフタレート)、DHP(ジヘプチルフタレート)、DIDP(ジイソデシルフタレート)、DINP(ジイソノニルフタレート))、脂肪酸系可塑剤、リン酸系可塑剤(TCP(トリクレジルホスフェート)、TMP(トリメチルホスフェート)、TEP(トリエチルホスフェート)等)、アジピン酸系可塑剤(DOA(ジオクチルアジペート)、DINA(ジイソノニルアジペート)、DIDA(ジイソデシルアジペート))、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤等を挙げることができる。
【0112】
充填剤としては、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0113】
改質剤としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体、アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-アクリル-ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル-ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル-シリコーンIPNゴム)共重合体、天然ゴム等を挙げることができる。
【0114】
本開示の他の一実施形態は、本開示の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物の製造方法であってよく、この製造方法は、混合工程を含む。また、該製造方法は、紡糸工程及び混合工程をこの順で含んでよく、溶融工程、紡糸工程及び混合工程をこの順で含んでもよく、用意工程、溶融工程、紡糸工程及び混合工程をこの順で含んでもよい。
【0115】
本開示の他の一実施形態は、本開示の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物の成形物からなるガラス繊維強化樹脂成形品(ガラス繊維強化樹脂組成物から形成された、ガラス繊維強化樹脂成形品)である。すなわち、本開示の他の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂成形品は、本開示の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物を成形すること(成形工程)によって得られる。本開示のさらに他の一実施形態は、本開示の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂組成物を成形することを含む、ガラス繊維強化樹脂成形品の製造方法であってよい。
【0116】
成形工程における成形方法は特に限定されず、例えばガラス繊維強化樹脂を射出圧縮成形法、二色成形法、中空成形法、発泡成形法(超臨界流体発泡成形法含む)、インサート成形法、インモールドコーティング成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法、スタンピング成形法、インフュージョン法、ハンドレイアップ法、スプレイアップ法、レジントランスファーモールディング法、シートモールディングコンパウンド法、バルクモールディングコンパウンド法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法等の公知の成形方法によって行うことができる。成形工程の具体的な一例としては、ガラス繊維強化樹脂のペレットを用いて射出成形を行うことにより、ガラス繊維強化樹脂成形品を得ることができる。
【0117】
本開示によれば、市中廃ガラスを原料として用いて、かつ製造におけるCOの排出が抑制された、引張強さ等の機械的強度が十分に高いガラス繊維強化樹脂成形品の形成に用いることができるガラス繊維強化樹脂組成物を提供することができる。本開示によれば、市中廃ガラスを原料として用いて、かつ製造におけるCOの排出が抑制された、ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率が十分に高いガラス繊維強化樹脂成形品の形成に用いることができるガラス繊維強化樹脂組成物を提供することができる。本開示によれば、市中廃ガラスを原料として用いて、かつ製造におけるCOの排出が抑制された、ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率が十分に高いことによって引張強さ等の機械的強度が十分に高い、ガラス繊維強化樹脂成形品の形成に用いることができるガラス繊維強化樹脂組成物を提供することができる。
【0118】
本開示において、COの排出が抑制されているとは、「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.2.5)」に記載されている「産業連関表ベースの排出原単位」における、No.32、列コード62909に示されている「その他の非金属鉱物」に関する物量ベースの排出原単位に相当する数値が、0.050t-COeq/ton以下又は0.025t-COeq/ton以下であることであってよい。
【0119】
本開示において、ガラス繊維強化樹脂成形品の機械的強度が十分に高いとは、試験温度23℃の条件で行った日本産業規格(JIS)K7161-1、2:2014に準拠した静的引張試験におけるガラス繊維強化樹脂成形品の引張強さが、90MPa以上、100MPa以上、110MPa以上、115MPa以上、116MPa以上、117MPa以上、118MPa以上、119MPa以上又は120MPa以上であることであってよい。本開示の一実施形態に係るガラス繊維強化樹脂成形品の機械的強度が十分に高いとは、機械的強度の測定値が、ガラス繊維素材として、Eガラス組成を備えるガラスモノフィラメントによって構成されたガラス長繊維又はその切断若しくは粉砕物であるガラス繊維素材を含むことを除いては全く同様に調製されたガラス繊維強化樹脂成形品における測定値の、0.65倍以上、0.75倍以上、0.80倍以上、0.85倍以上、0.90倍以上、0.91倍以上、0.92倍以上又は0.95倍以上であることであってよい。
【0120】
本開示において、ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率が十分に高いとは、ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率が1.00超、1.10以上、1.20以上、1.25以上、1.27以上、1.30以上、1.35以上又は1.38以上であることであってよい。なお、ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率とは、評価対象のガラス繊維強化樹脂組成物を用いて形成したガラス繊維強化樹脂成形品の引張強さを、Eガラス組成を満たすガラス長繊維を含むガラス繊維強化樹脂組成物を用いて形成したガラス繊維強化樹脂成形品の引張強さで除した値をXとし、評価対象のガラス繊維強化樹脂組成物に含まれるガラス繊維素材におけるガラスモノフィラメントの引張強さを、Eガラス組成を満たすガラスモノフィラメントの引張強さで除した値をYとしたときの(引張強さはいずれも23℃において、ガラスモノフィラメントの引張強さについては引張速度5mm/分で測定し、ガラス繊維強化樹脂成形品の引張強さについては引張速度2mm/分で測定)、X/Yで表される値として定義される。すなわち、ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率が大きいほど、Eガラスをガラス原料として用いたガラス繊維強化樹脂成形品と比較して、ガラスモノフィラメントの機械的強度に対するガラス繊維強化樹脂成形品の機械的強度を高める効率が高い。
【実施例0121】
以下、実施例を用いて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
なお、以降の実施例におけるガラス組成の測定は、以下のように行った。初めにガラス繊維又は再生ガラスカレットを白金ルツボに入れ、電気炉中で、1200~1650℃の範囲の、ガラス繊維又は再生ガラスカレットが溶け残りなく溶融ガラスとなり、かつ、溶融ガラスを含む白金ルツボを開口面に水平な方向から上方に60°傾けた際に溶融ガラスが白金ルツボから流れ出ることが可能となる温度に6時間保持して撹拌を加えながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得た。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出してガラスカレットを作製した後、粉砕し粉末化してガラス粉末とした。軽元素であるLiについて、得られたガラス粉末を酸で加熱分解した後、ICP発光分光分析装置を用いて定量分析した。その他の元素はガラス粉末をプレス機で円盤状に成形した後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて定量分析した。これらの定量分析結果を酸化物換算して各成分の含有量及び全量を計算し、これらの数値からガラス組成の各成分の含有率を求めた。
【0123】
また、以降の実施例において用いたポリブチレンテレフタレート樹脂の極限粘度は、次のように測定及び算出した。フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒中に、ポリブチレンテレフタレート樹脂のペレットを、濃度が1.00g/dLとなるように110℃で1時間攪拌して溶解させた。その後、30℃まで冷却した。全自動溶液粘度計にて、30℃で試料溶液の落下秒数、溶媒のみの落下秒数をそれぞれ測定し、以下の式により極限粘度を算出した。
極限粘度=((1+4KHηsp)0.5-1)/(2KHC)
ここで、ηsp=η/η0-1であり、ηは試料溶液の落下秒数、η0は溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。単位は、dL/gで示した。
全自動溶液粘度計は、柴山科学社製のものを用いた。
【0124】
<実施例1>
市中廃棄物として回収されたガラス瓶を洗浄及び粉砕して、ガラス成分全量に対して、65.0質量%のSiOと、2.0質量%のAlと、4.0質量%のBとを含み、CaO及びMgOの合計含有率が8.0質量%であり、BaO及びSrOの合計含有率が4.0質量%であり、NaO及びKO合計含有率(RO)が17.0質量%であるガラス組成を備え、粒径が10~50mmである再生ガラスカレットを得た(用意工程)。
【0125】
底部に200個のノズルチップを備える白金製容器に、用意工程で得た再生ガラスカレットを投入し、該白金製容器を1000℃~1300℃に加熱して、該ガラスカレットを溶融して溶融ガラスを得た(溶融工程)。次に、白金製容器のノズルチップから溶融ガラスを引き出して巻き取り装置に巻き付けた。巻き取り装置を回転させて、1000rpmの回転数で溶融ガラスを巻き取ることにより紡糸を行い、また、ノズルチップと巻き取り装置の間に設けられたアプリケーターを用いて、アミノシラン及びウレタン樹脂含む集束剤を、モノフィラメントに対して0.8質量%の割合でモノフィラメントに付与することで、モノフィラメントの集束本数が200本、数平均繊維径15μmのガラス長繊維を作成した(紡糸工程)。得られたガラス長繊維のガラス組成を測定したところ、そのガラス組成は、用意工程で得た再生ガラスカレットの備えるガラス組成と実質的に同一であった。
【0126】
紡糸工程で得られたガラス長繊維を3mmに切断し、チョップドストランドを得た後、得られたチョップドストランドと、極限粘度0.83dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とを、スクリュー回転数を100rpmとして、二軸混練機(芝浦機械株式会社製、商品名:TEM-26SS)にて混練し、ガラス含有率が30.0質量%の樹脂ペレット(ガラス繊維強化樹脂のペレット)を作製した(混合工程)。
【0127】
混合工程で得たガラス繊維強化樹脂のペレットを射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、商品名:NEX80)により金型温度140℃、射出温度260℃にて射出成形を行い、JIS K 7161-1:2014に準拠したダンベル試験片である、ガラス繊維強化樹脂成形品を作成した(成形工程)。
【0128】
<実施例2>
実施例1の用意工程において用意した再生ガラスカレット75質量部と、Eガラス組成を備える鉱物材料(ガラス繊維の製造用に設計された、各鉱物の含有成分に基づき、設計ガラス組成として、ガラス成分全量に対して、54.0質量%のSiOと、14.0質量%Alと、6.0質量%のBとを含み、CaO及びMgOの合計含有率が24.0質量%であり、BaO及びSrOの合計含有率が0.0質量%であり、ROが1.0質量%であり、その他成分を1,0質量%含むガラス組成を備える鉱物材料)25質量部とを混合してガラス原料を得た。得られたガラス原料を白金ルツボに入れ、該白金ルツボを1400~1550℃の範囲の温度で、電気炉中に4時間保持し、ガラス原料に攪拌を加えながら溶融することにより、均質な溶融ガラスを得た。得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却して塊状のガラスカレットを得た(用意工程)。
【0129】
底部に200個のノズルチップを備える白金製容器に、用意工程で得たガラスカレットを投入し、該白金製容器を1000℃~1300℃に加熱して、該ガラスカレットを溶融して溶融ガラスを得た(溶融工程)。次に、白金製容器のノズルチップから溶融ガラスを引き出して、巻き取り装置に巻き付けた。巻き取り装置を回転させて、1000rpmの回転数で溶融ガラスを巻き取ることにより紡糸を行い、また、ノズルチップと巻き取り装置の間に設けられたアプリケーターを用いて、シランカップリング剤及びフィルムフォーマーを含む集束剤をモノフィラメントに付与することで、モノフィラメントの集束本数が200本、数平均繊維径15μmのガラス長繊維を作成した(紡糸工程)。得られたガラス長繊維のガラス組成を測定したところ、そのガラス組成は、ガラス成分全量に対して、62.2質量%のSiOと、5.0質量%Alと、4.5質量%のBとを含み、CaO及びMgOの合計含有率が12.0質量%であり、BaO及びSrOの合計含有率が3.0質量%であり、ROが13.0質量%であり、その他成分を0.3質量%含むガラス組成を備えていた。
【0130】
紡糸工程で得られたガラス長繊維を用いて、実施例1と同様に混合工程を行い、ガラス繊維強化樹脂のペレットを得た。また、得られたガラス繊維強化樹脂のペレットを用いて、実施例1と同様に成形工程を行い、ガラス繊維強化樹脂成形品を作成した。
【0131】
<比較例1>
用意工程におけるガラス原料として、Eガラス組成を備える鉱物材料(ガラス繊維の製造用に設計された、各鉱物の含有成分に基づき、設計ガラス組成として、ガラス成分全量に対して、54.0質量%のSiOと、14.0質量%Alと、6.0質量%のBとを含み、CaO及びMgOの合計含有率が24.0質量%であり、BaO及びSrOの合計含有率が0.0質量%であり、ROが1.0質量%であり、その他成分を1,0質量%含むガラス組成を備える鉱物材料)を用い、溶融工程における加熱温度を1150~1450℃とした以外は、実施例2と同様に用意工程、溶融工程及び紡糸工程を行い、ガラス長繊維を得た。得られたガラス長繊維のガラス組成を測定したところ、そのガラス組成は、用意工程で用いたガラス繊維の製造用に設計された鉱物材料の備えるガラス組成と実質的に同一であった。
【0132】
紡糸工程で得られたガラス長繊維を用いて、実施例1と同様に混合工程を行い、ガラス繊維強化樹脂のペレットを得た。また、得られたガラス繊維強化樹脂のペレットを用いて、実施例1と同様に成形工程を行い、ガラス繊維強化樹脂成形品を作成した。
【0133】
<比較例2>
ガラス繊維の製造用に設計された、各鉱物の含有成分に基づき、設計ガラス組成として、ガラス繊維全量に対して、65.0質量%のSiOと、25.0質量%Alとを含み、CaO及びMgOの合計含有率が10.0質量%であり、BaO及びSrOの合計含有率が0.0質量%であるガラス組成を備える鉱物材料をガラス原料として用い、用意工程における加熱温度を1550~1650℃とし、溶融工程における加熱温度を1500~1650℃とした以外は、実施例2と同様に用意工程、溶融工程及び紡糸工程を行い、ガラス長繊維を得た。得られたガラス長繊維のガラス組成を測定したところ、そのガラス組成は、用意工程で用いたガラス繊維の製造用に設計された鉱物材料の備えるガラス組成と実質的に同一であった。
【0134】
紡糸工程で得られたガラス長繊維を用いて、実施例1と同様に混合工程を行い、ガラス繊維強化樹脂のペレットを得た。また、得られたガラス繊維強化樹脂のペレットを用いて、実施例1と同様に成形工程を行い、ガラス繊維強化樹脂成形品を作成した。
【0135】
<比較例3>
ガラス繊維の製造用に設計された、各鉱物の含有成分に基づき、設計ガラス組成として、ガラス繊維全量に対して、54.0質量%のSiOと、12.0質量%Alと、23.0質量%のBとを含み、CaO及びMgOの合計含有率が8.0質量%であり、BaO及びSrOの合計含有率が0.0質量%であり、その他成分を3.0質量%含むガラス組成を備える鉱物材料をガラス原料として用い、用意工程における加熱温度を1450~1600℃とし、溶融工程における加熱温度を1250~1550℃とした以外は、実施例2と同様に用意工程、溶融工程及び紡糸工程を行い、ガラス長繊維を得た。得られたガラス長繊維のガラス組成を測定したところ、そのガラス組成は、用意工程で用いたガラス繊維の製造用に設計された鉱物材料の備えるガラス組成と実質的に同一であった。
【0136】
紡糸工程で得られたガラス長繊維を用いて、実施例1と同様に混合工程を行い、ガラス繊維強化樹脂のペレットを得た。また、得られたガラス繊維強化樹脂のペレットを用いて、実施例1と同様に成形工程を行い、ガラス繊維強化樹脂成形品を作成した。
【0137】
<比較例4>
実施例1の用意工程で得た再生ガラスカレットを溶融し、遠心法繊維化装置によって溶融ガラスを多数の孔から流出させ、数平均繊維径8μmのガラス短繊維(グラスウール)を作成した。得られたグラスウールのガラス組成を測定したところ、そのガラス組成は、実施例1の用意工程で得た再生ガラスカレットの備えるガラス組成と実質的に同一であった。スプレーを用いてシランカップリング剤及びウレタン樹脂を含む集束剤を、グラスウールの質量に対して0.8質量%の割合でグラスウールに付与した。
【0138】
集束剤を付与されたグラスウールを圧縮して固めたものと、極限粘度0.83dl/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とを、スクリュー回転数を100rpmとして、二軸混練機(芝浦機械株式会社製、商品名:TEM-26SS)にて混練し、ガラス含有率が30.0質量%の樹脂ペレット(ガラス繊維強化樹脂のペレット)を作製した。ガラス繊維強化樹脂のペレットを用いて、実施例1と同様に成形工程を行い、ガラス繊維強化樹脂成形品を作成した。
【0139】
<ガラス長繊維のモノフィラメント引張強さの測定>
実施例1~3及び比較例1~3における紡糸工程の後に、ノズルチップと巻き取り装置との間から、モノフィラメントを1本ずつ採取した。また、比較例4で調製したグラスウールから、モノフィラメントを1本ずつ採取した。このようにして得られたモノフィラメントから、接触や摩擦による劣化のない状態のものを選別して、それぞれの実施例及び比較例ごとに、少なくとも30本のモノフィラメントを測定用サンプルとして選別した。
【0140】
まず、実施例1~3及び比較例1~4のそれぞれの測定用サンプルの少なくとも各10本について、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテク製、商品名:S-3400N)で観察して繊維径を測定した。得られた測定値のうち、最大から数えて2つの測定値及び最小から数えて2つの測定値を除外した、残りの測定値の数平均値を平均繊維径とし、断面形状を円形として、繊維断面積を算出した。
【0141】
次いで、中央に長辺25mm、短辺10mmの長方形の穴の開いた所定の台紙に対して、実施例1~3及び比較例1~4のそれぞれの測定サンプルを、繊維長が穴内において25mmとなるように、接着して試験片とした。23℃の温度条件において、得られた試験片を引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、商品名:シングルコラム型引張試験機STB-1225S)のつかみ具にセットし、台紙の端部を切除した後、クロスヘッド速度5mm/分で引張試験を行い、破断時の最大荷重値を測定した。なお、測定中に糸抜けや糸折れが生じた試験片は除外した。
【0142】
このように得られた最大荷重値を繊維断面積で除すことによって、23℃における引張速度5mm/分でのモノフィラメント引張強さS[GPa]を算出した。得られた有効な算出値のうち、最大から数えて2つの測定値及び最小から数えて2つの測定値を除外した、残りの算出値の相加平均値を、モノフィラメント引張強さの測定値とした。結果を表1に示す。
【0143】
<ガラス繊維強化樹脂成形品引張強さの測定>
実施例1~3及び比較例1~4で得られたガラス繊維強化樹脂成形品について、試験温度23℃の条件で、精密万能試験機(株式会社島津製作所製、商品名:精密万能試験機AG-50kNXplus)を用いて、日本産業規格(JIS)K7161-1、2:2014に準拠した静的引張試験を行い、ガラス繊維強化樹脂成形品引張強さ[MPa]を測定した。結果を表1に示す。
【0144】
<ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率の算出>
以上で得られたモノフィラメント引張強さ及びガラス繊維強化樹脂成形品引張強さに基づいて、実施例1~3及び比較例1~4のそれぞれ(算出対象)におけるガラス繊維強化樹脂成形品強化効率を算出した。具体的には、算出対象のガラス繊維強化樹脂成形品引張強さを、比較例1のガラス繊維強化樹脂成形品引張強さで除した値であるX、及び算出対象のモノフィラメント引張強さを、比較例1のモノフィラメント引張強さで除した値であるYをそれぞれ算出し、XをYで除した値(X/Y)として算出対象のガラス繊維強化樹脂成形品強化効率を算出した。
【0145】
<液相温度の測定>
まず、溶融固化後のガラス組成が、表1に示された実施例1~2、比較例1~4のガラス長繊維のガラス組成又はグラスウールのガラス組成と同一になるように、ガラス原料を混合し、ガラスバッチを得た。次に、得られたガラスバッチを白金ルツボに入れ、この白金ルツボを、1200~1650℃の範囲の、各実施例又は比較例のガラスバッチが溶け残りなく溶融ガラスとなり、かつ、溶融ガラスを含む白金ルツボを開口面に水平な方向から上方に60°傾けた際に溶融ガラスが白金ルツボから流れ出ることが可能となる温度条件で、電気炉中に4時間保持し、ガラスバッチを撹拌しながら溶融させることにより、均質な溶融ガラスを得た。次に、得られた溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却して塊状のガラスカレットを得た。次いで、得られたガラスカレットを粉砕し、粒径0.5~1.5mmのガラス粒子を得た。次いで、得られたガラス粒子40gを180mm×20mm×15mmの白金製ボートに入れ、800~1500℃の温度勾配を設けた管状電気炉で8時間以上加熱した後、該管状電気炉から取り出し、偏光顕微鏡で観察して、ガラス由来の結晶(失透)が析出し始めた位置を特定した。次いで、管状電気炉内の温度を、B熱電対を用いて実測し、前記結晶が析出し始めた位置の温度を求めて液相温度とした。結果を表1に示す。
【0146】
<CO排出削減率>
「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.2.5)」に記載されている「産業連関表ベースの排出原単位」におけるNo.32、列コード62909「その他の非金属鉱物」に関する物量ベースの排出原単位に相当する数値が、0~0.025 t-COeq/tonの範囲に該当するものを「A」、0.026~0.050 t-COeq/tonの範囲に該当するものを「B」、0.051 t-COeq/ton以上に該当するものを「C」と評価した。結果を表1に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
表1に示した結果によれば、T/Sが361.5~457.0である実施例1及び2に係るガラス繊維強化樹脂成形品は、ガラス原料として市中廃ガラスを50質量%超用いているにも関わらず、ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率が高く、それによってガラス繊維強化樹脂成形品強度も十分に高く、かつそのような成形品を製造におけるCO排出量を低減しながら製造することができた。さらに、表1に示した結果によれば、T/Sが410.2~447.0である実施例1にガラス繊維強化樹脂成形品は、ガラス原料として市中廃ガラスを50質量%超用いているにも関わらず、ガラス繊維強化樹脂成形品強化効率が顕著に高く、それによってガラス繊維強化樹脂成形品強度も十分に高く、かつそのような成形品を製造におけるCO排出量を顕著に低減しながら製造することができた。