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特開2024-133684セラミックスボール用素材およびそれを用いたセラミックスボールの製造方法並びにセラミックスボール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133684
(43)【公開日】2024-10-02
(54)【発明の名称】セラミックスボール用素材およびそれを用いたセラミックスボールの製造方法並びにセラミックスボール
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/587 20060101AFI20240925BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20240925BHJP
   C04B 35/569 20060101ALI20240925BHJP
   B28B 3/02 20060101ALI20240925BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20240925BHJP
【FI】
C04B35/587
C04B35/111
C04B35/569
B28B3/02 Z
B28B3/02 K
F16C33/32
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024111261
(22)【出願日】2024-07-10
(62)【分割の表示】P 2024512536の分割
【原出願日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2022051453
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船木 開
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英樹
(57)【要約】
【課題】研磨加工時におけるセラミックス材料の損傷を抑制し研磨時間を短縮すること。
【解決手段】実施形態に係るセラミックスボール用素材は、球面部と、球面部の表面の円周に亘って形成された帯状部とを備える。帯状部の外周面に係る粗さ曲線の最大断面高さRtbと、球面部の外周面に係る粗さ最大断面高さRtsとの比であるRtb/Rtsが1.0以上である。球面部の任意の直径が0.5mm以上であることが好適である。また、セラミックスボール用素材は、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ほう素、酸化ジルコニウムのいずれか1種を含むことが好適である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造粒粉を調製する造粒工程と、前記造粒粉から成形体を成形する成形工程と、前記成形体を焼結してセラミックスボール用素材を得る焼結工程と、を備えたセラミックスボール用素材の製造方法であって、
前記焼結工程で得られた前記セラミックスボール用素材が、球面部と、前記球面部の表面の円周に亘って形成された帯状部と、を備え、
前記焼結工程で得られた前記セラミックスボール用素材が、前記帯状部の外周面に係る粗さ曲線の最大断面高さRtbと、前記球面部の外周面に係る粗さ最大断面高さRtsとの比であるRtb/Rtsが1.0超過かつ3.0以下であることを特徴とするセラミックスボール用素材の製造方法。
【請求項2】
前記球面部の任意の直径が0.5mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックスボール用素材の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックスボール用素材が酸化アルミニウム焼結体、窒化ケイ素焼結体、炭化ケイ素焼結体、窒化ほう素焼結体、酸化ジルコニウム焼結体のいずれか1種からなることを特徴とする請求項1に記載のセラミックスボール用素材の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックスボール用素材が窒化ケイ素を85質量%以上含有するセラミックス焼結体からなることを特徴とする請求項1に記載のセラミックスボール用素材の製造方法。
【請求項5】
前記造粒工程は、分級により粒径の範囲が異なる2種類以上の造粒粉を混合し、
前記成形工程は、前記分級後に混合された造粒粉から前記成形体を成形することを特徴とする請求項1に記載のセラミックスボール用素材の製造方法。
【請求項6】
前記成形工程は、前記分級後に混合された造粒紛のプレス成型を行うことにより前記成形体を成形することを特徴とする請求項5に記載のセラミックスボール用素材の製造方法。
【請求項7】
前記成形工程は、ダイスの断面の内側が凹形状であり、前記凹形状の部分の深さが0.01mm以上0.10mm以下である金型プレス成型装置により前記プレス成型を行うことを特徴とする請求項6に記載のセラミックスボール用素材の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のセラミックスボール用素材の製造方法により製造された前記セラミックスボール用素材を定盤加工により研磨加工することを特徴とするセラミックスボールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、セラミックスボール用素材およびセラミックスボールの製造方法並びにセラミックスボールに関する。
【背景技術】
【0002】
種々のセラミックス材料は高硬度、絶縁性、耐摩耗性などの特性を有し、特に純度を高め粒子径を均一化させたファインセラミックスは、コンデンサ、アクチュエータ材料、耐火材など様々な分野に用いられる特性を発現させる。セラミックス材料の特性の中で、耐摩耗性、絶縁性を活かした製品としてボール用途の製品がある。ボール用途の製品には、ベアリング、治具、工具、ゲージ、電磁弁、チェック弁、各種バルブなどがある。このうち、ベアリングボール用途の製品には、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウムなどのセラミックス材料が用いられている。例えば、特開平6-48813号公報(特許文献1)、特許第2764589号公報(特許文献2)において窒化ケイ素材料、特開昭60-18620号公報(特許文献3)において酸化ジルコニウム材料を用いたベアリングボールが開示されている。
【0003】
これらのベアリングボール用材料を製造するプロセスにおいては、成形体を焼結する方法が用いられている。また、その成形体を得るための成型方法は金型を用いたプレス成型が用いられている。プレス成型は、一般的に図1に示されるように、上部パンチ2と、下部パンチ3と、ダイス4とを備え、上部パンチ2と下部パンチ3との間に粉体を挿入し、圧力をかける方法である。プレス成型時に、金型を保護するために上部パンチ2の先端部2aと下部パンチ3の先端部3aの間に隙間を設けてプレス成形しなければならない。このため、プレス成型で得られる成形体には球面部と帯状部が形成される。例えば、特許第4761613号公報(特許文献4)には、球面部と帯状部を有する成形体を焼結して得られた、球面部と帯状部を有するベアリングボール用素材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-48813号公報
【特許文献2】特許第2764589号公報
【特許文献3】特開昭60-18620号公報
【特許文献4】特許第4761613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
焼結工程後の球面部と帯状部を有するセラミックスボール用素材を研磨加工することによりセラミックスボールになる。球面部と帯状部を有するセラミックスボール用素材を素球と呼ぶこともある。例えば、セラミックスボール用素材に対して表面粗さRaが0.1μm以下の鏡面加工で研磨加工が行われる。鏡面加工には定盤加工が用いられている。
【0006】
一般的に、セラミックス材料は耐摩耗性に優れるが、脆性材料であるため強い衝撃が加わった際に欠けが生じ易い。曲面は衝撃を逃がしやすいが、角部は衝撃による欠けが生じやすい。このため、帯状部を有したセラミックスボール用素材に定盤加工を行う場合、帯状部の角部である両肩部が選択的に定盤に接触し欠けが生じる可能性を低減するように抑えた加工を行うため研磨時間が長引くことが原因となっていた。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するものであり、研磨加工時におけるセラミックス材料の損傷を抑制し研磨時間を短縮できるセラミックスボール用素材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係るセラミックスボール用素材は、球面部と、球面部の表面の円周に亘って形成された帯状部とを備える。前記帯状部の外周面に係る粗さ曲線の最大断面高さRtbと、球面部の外周面に係る粗さ最大断面高さRtsとの比であるRtb/Rtsが1.0以上である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一般的な金型プレス成型装置の一例を示す断面図。
図2】実施形態に係るセラミックススボール用素材の一例を示す外観図。
図3】実施形態に係る金型プレス成型装置のダイスの一例を示す外観図。
図4】実施形態に係る冷間静水圧プレスゴム型成型の一例を示す断面図。
図5】実施形態に係る冷間静水圧プレスゴム型成型に敷設された穴形状と成型体の一例を示す断面図。
図6】実施形態に係る冷間静水圧プレスゴム型成型に敷設された穴形状と成型体の一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、セラミックスボール用素材およびそれを用いたセラミックスボールの製造方法並びにセラミックスボールの実施形態について詳細に説明する。
【0011】
実施形態に係るセラミックスボール用素材は、球面部と、球面部の表面の円周に亘って形成された帯状部とを備える。前記帯状部の外周面に係る粗さ曲線の最大断面高さRtbと、球面部の外周面に係る粗さ最大断面高さRtsとの比であるRtb/Rtsが1.0以上である。
【0012】
図2に実施形態に係るセラミックスボール用素材の模式図を示した。図2中、5は実施形態に係るセラミックスボール用素材、6が球面部、7が帯状部、である。また、粗さ曲線の最大断面高さをRtのうち、帯状部7の外周面(最外面)に係る粗さ曲線の最大断面高さをRtbとし、球面部6の外周面(最外面)に係る粗さ曲線の最大断面高さをRtsとする。また、Wは帯状部7の幅である。帯状部7の幅Wのことを単に「幅W」ということもある。なお、図3において、球面部6に対する帯状部7の高さおよび幅の大きさは、説明上の便宜を考慮して図示されている。
【0013】
セラミックスボール用素材5は、球面部6と帯状部7を有している。帯状部7は球面部6表面の円周に亘って形成されている。球面部6表面の円周とは、球面部6表面の複数の円周のいずれか1つであればよい。球面部6表面は、二次曲面であれば良い。そのため、球面部6としては、真球や楕円体が挙げられる。球面部6の円周上に帯状部7が設けられている。帯状部7の幅Wは、例えば、帯状部7の最も大きな幅であるが、複数箇所の平均値であってもよい。
【0014】
球面部6の粗さ曲線の最大断面高さをRts、帯状部7の粗さ曲線の最大断面高さをRtbとしたときに、RtbとRtsの比であるRtb/Rtsが1.0以上の範囲内である。Rts/Rtbが、この範囲内であると表面が粗い分だけ帯状部7が研磨材と優先的に接触することにより研磨加工(例えば、定盤加工)が進む。また、焼結体の帯状部7の密度が球面部6に比較して小さくなるため、帯状部7の研磨加工が容易になり、研磨加工時の研磨時間を短くすることができる。このため、Rtb/Rtsは1.0以上、さらには1.1以上であることが好ましく、さらには1.2以上であることが好ましい。
【0015】
また、Rtb/Rtsが3.0以下の範囲内であることが好ましい。Rtb/Rtsが3.0を超えると、球面部6の粗さ曲線の最大断面高さRtsを制御できても、帯状部7の粗さ曲線の最大断面高さRtbが大きくなる。これにより帯状部7をもつセラミックスボール用素材5の強度が低下することによる欠け不良が発生する、セラミックスボール用素材5の帯状部7の凸部により研磨定盤に損傷を与える、などの可能性があるためである。
【0016】
Rtb/Rtsが1.0未満だと、セラミックスボール用素材5の帯状部7の密度が球面部6に比較して大きくなり、帯状部7の研磨加工が容易でなくなり、セラミックスボール用素材5の研磨加工時の研磨時間が長くなる。さらには、セラミックスボール用素材5の研磨加工時に帯状部が研磨加工の砥石と接触したときに脆性破壊が発生しやすくなる。特に、セラミックスボール用素材5の定盤加工の定盤との接触で脆性破壊が起き易い。
【0017】
ここで、セラミックスボール用素材5の帯状部7の粗さ曲線の最大断面高さをRtbと球面部6の粗さ曲線の最大断面高さRtsとの測定方法について説明する。なお、粗さ曲線の最大断面高さRtについては、JIS B 0601(2013)「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義および表面性状パラメータ」によるものとする。
【0018】
粗さ曲線の最大断面高さRtの測定は表面粗さ測定機を用いるものとする。表面粗さ測定機は、東京精密社製SURFCOM2000を使用し、同装置の評価解析ソフトを用いて行うものとする。測定装置は、これと同等の機能を有するものであればよい。
【0019】
粗さ曲線の最大断面高さRtの測定距離、つまり、評価長さUはセラミックスボール用素材5の直径の10~25%とし、球面部6および帯状部7の評価長さUは同じとする。また、測定条件として、測定カットオフ波長が0.08mm、カットオフ種別がガウシアン、傾斜補正が最小二乗直線補正、λsカットオフ比が300とする。なお、測定回数は3回とし、測定値は3回の平均値とする。
【0020】
帯状部7の外周面に係る粗さ曲線の最大断面高さRtbの測定エリアは、曲線7Cのうち任意の位置で、評価長さUに対応する長さをもつ。他方、球面部6の外周面に係る粗さ曲線の最大断面高さRtsの測定エリアは、曲線6C上で曲線7Cから最も離れた位置(中心位置、曲線7Cから90°の位置)6Dを中心とする位置で、評価長さUに対応する長さをもつ。これにより、セラミックスボール用素材5が真球や楕円体であっても、どの位置、どの方向から測定しても同様な値が得られるためである。欠陥などの存在により球面部6の中心位置6D(または、中心位置6D´)で測定できない場合は、曲線7Cから中心位置6Dまでの距離の半分の距離にある位置(45°の位置)6Eから中心位置6Dまでの球冠外面で測定することも可能である。
【0021】
また、帯状部7が形成する外周面の円周方向に延び当該外周面の中心をとおる曲線7Cと、帯状部7の深さ方向の直線とで形成される断面において断面曲線を取得する。そして、その断面曲線から長い波長の形状(うねり曲線)を取り除き、評価長さUにおける輪郭曲線の山高さの最大値と谷深さの最大値との和を求めることで、帯状部7の外周面に係る粗さ曲線の最大断面高さRtbを取得する。また、球面部6の外周面であって中心位置6D,6D´をとおる曲線6Cと、球面部6の深さ方向の直線とで形成される断面において断面曲線を取得する。そして、その断面曲線から長い波長の形状(うねり曲線)を取り除き、評価長さUにおける輪郭曲線の山高さの最大値と谷深さの最大値との和を求めることで、球面部6の外周面に係る粗さ曲線の最大断面高さRtsを取得する。なお、帯状部7の外周面の幅方向における一端部の10%および他端部の10%は欠けなどの欠陥が発生しやすく測定値に影響を与えるため測定箇所から除外することが好適である。また、粗さ曲線の最大断面高さRtの評価長さUは、外周面における曲線6C,7Cの全体である必要はなく、曲線6C,7Cの一部分(例えば、1mm~20mm程度)であってもよい。
【0022】
セラミックスボール用素材5は、球面部6の任意の直径が0.5mm以上であることが好ましい。球面部6の任意の直径が0.5mm未満であると、帯状部7を形成するための粉末プレス金型の制御が難しくなる。このため、球面部6の直径は1mm以上が好ましい。さらには2mm以上であることが好ましい。
【0023】
セラミックスボール用素材5は、酸化アルミニウム(Al)、窒化ケイ素(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ほう素(BN)、酸化ジルコニウム(ZrO)のいずれか1種を85質量%以上含有することが好ましい。セラミックスボール用素材5は、セラミックス焼結体からなっている。酸化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ほう素、酸化ジルコニウムのいずれか1種を85質量%以上含有するということは、セラミックス焼結体中の含有量であり、85質量%以上含有することによりセラミックスの物性値を満足することができ、セラミックスボールに必要な物性値を発揮することができる。言い換えると、セラミックス焼結体は、上記以外の物質を15質量%以下含有していてもよい。なお、セラミックスボール用素材5は窒化ケイ素を85質量%以上含有するものであることが好ましい。
【0024】
例えば、ベアリングボールとして、酸化アルミニウム焼結体、窒化ケイ素焼結体、炭化ケイ素焼結体、窒化ほう素焼結体、酸化ジルコニウム焼結体、アルジル焼結体が使われている。なお、アルジル焼結体とは、酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムを混合した焼結体である。この中で窒化ケイ素焼結体からなるベアリングボールは最も耐摩耗性に優れている。例として、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、アルジルはビッカース硬度が1200~1700程度であるが、破壊靭性値が3~6MPa・m1/2程度と低い。対して窒化ケイ素焼結体は、ビッカース硬度が1400~1800、破壊靭性値が5~10MPa・m1/2と高い。窒化ケイ素焼結体は、高い靭性値とビッカース硬度を両立しており、その点から耐摩耗性に優れる。窒化ケイ素焼結体は、β型窒化ケイ素結晶粒子が主体となった組織である。β型窒化ケイ素結晶粒子は長細い形状を有しており、長細い結晶粒子が複雑に絡み合うことにより高い靭性値を達成している。窒化ケイ素焼結体は高い機械的強度のために研磨効率が非常に悪いという面もある。しかしながら、前述のように、帯状部7の粗さ曲線の最大断面高さを大きくさせることにより、窒化ケイ素焼結体のように強度の高いセラミックス焼結体からなるセラミックスボール用素材5であっても研磨効率を向上させることができる。
【0025】
次に、セラミックスボール用素材5の製造方法について説明する。実施形態に係るセラミックスボール用素材5は上記構成を満たしていれば、特にその製造方法は限定されるものではないが、効率よく製造するための方法として次の製造方法が挙げられる。セラミックスボール用素材5の製造方法について、窒化ケイ素焼結体の場合を例に挙げて説明する。
【0026】
まず、原料となる窒化ケイ素に適当量の焼結助剤、添加剤、溶媒およびバインダーなどを加え混合、解砕し、スプレードライヤーにて造粒を行う。この工程により、原料粉末の造粒粉を調製する。また、窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末の合計を100質量%としたとき、窒化ケイ素粉末を85質量%以上にすることが好ましい。また、添加物は可塑剤である。溶媒は、水または有機溶媒である。有機溶媒としてはアルコール、ケトン、ベンゼンなどがある。また、バインダーは有機物である。バインダーの添加量は、窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末の合計を100質量部としたとき、3~20質量部の範囲内とする。
【0027】
次に、得られた造粒粉の平均粒径を小さくする。造粒粉の平均粒径が大きいとプレス金型に造粒粉を充填したときに造粒粉間に空間が得られるため造粒粉は潰れやすくなる。これとは逆に平均粒径を小さくすると造粒粉間に空間が少なくなるため潰れにくくなる。このため造粒粉の平均粒径を小さくすることによりパンチからの圧力が小さくなるプレス中央部でつぶれにくくなる。しかしながら、単に造粒粉の平均粒径を小さくした場合は、プレス金型内部への造粒粉の流れ性が低下し、生産性に影響を与える可能性がある。このため、造粒粉の流れ性を損なうことなく平均粒径を小さくする必要がある。
【0028】
スプレードライヤーで通常得られる造粒粉は概ね正規分布であり平均値の付近に集積するような分布を示している。このため、分級により粒径を変えた2種類の造粒粉を混合することにより流れ性の低下を減らしながら平均粒径を小さくした造粒粉を得ることができる。例えば、金型プレス成型に使用される造粒粉の平均粒径は50~150μmであるが、平均粒径120μmの造粒粉であれば分級により平均粒径を小さくすることが可能である。造粒粉を分割して60メッシュ(目開き量:約250μm)の篩により分級して60メッシュより小さい造粒粉を得る。また、分割した残りの造粒粉を、100メッシュ(目開き量:約150μm)により分級して100メッシュよりも小さい造粒粉を得る。60メッシュより小さい造粒粉と100メッシュよりも小さい分級した造粒粉を一定割合で混合することにより、造粒粉の平均粒径を120μmから90μmにすることが可能である。これにより、後述する工程で帯状部7の粗さ曲線の最大断面高さRtbを大きくし易くなる。
【0029】
次に、調整した造粒粉を使ってプレス成型を行う。プレス成型は、図1に示す金型プレス成型装置の上部パンチ2、下部パンチ3、ダイス4を用いた成型方法が挙げられる。造粒粉末を充填して上部パンチ2と下部パンチ3に垂直方向に圧力を加えることによりパンチの内側の球面形状がセラミックスボール用素材5の球面部6となる。また、上部パンチ先端部2a、下部パンチ先端部3a、およびダイス4の内側の平面形状がセラミックスボール用素材5の帯状部7となる。ダイス4の断面の内側は直線であるが、図3に示すように僅かに凹形状にすることが好ましい。凹部分の深さをHとするとHの大きさは0.01mm以上0.10mm以下であることが好ましい。この凹部分により、成形体13の帯状部7に圧力がかかるのを防ぎ、焼結工程後のセラミックスボール用素材5の帯状部7の焼結密度を低くすることができ、帯状部の粗さ曲線の最大断面高さRtbが大きくなる。Hの深さが0.01未満であると、圧力がかかるのを防ぐ効果が小さい。また0.10mmより深いと圧力がかかるのを防ぐ効果は大きくなるが、金型にかかる負荷が大きくなり金型の寿命が短くなる可能性がある。
【0030】
プレス成型したときの上部パンチ2の先端部2aと下部パンチ3の先端部3aの形状および粉末の充填量を調整することにより、焼結工程後のセラミックスボール用素材5の帯状部7の幅Wや高さを調整することができる。同様に、成形体13における、球面部14方向の直径および帯状部15方向の直径の調整を行うことができる。プレス成型により得られた成形体13は、球面部14と帯状部15を有する。なお、成形体13の球面部14と帯状部15(図5および図6に図示)は、前述のセラミックスボール用素材5の球面部6と帯状部7(図2に図示)にそれぞれ対応する。
【0031】
また、プレス成型後の成形体に等方圧成型を行うことが好ましい。等方圧成型を行うことにより、成形体中の造粒粉に均一に圧縮を掛けることができる。これにより、成形体中でつぶれ残った造粒粉を低減することができる。つぶれ残った造粒粉を低減することにより、焼結工程での収縮割合を制御することができる。
【0032】
等方圧成型の一例としてゴム型を用いた等方圧成型方法を説明する。図4に円盤状のゴム型8の一例を示した。図4中、9は上部ゴム型、10は下部ゴム型、11は球面部空間、12は帯状部空間、13は成形体、14は成形体の球面部、15は成形体の帯状部である。また、図5は上部ゴム型9および下部ゴム型10内の球面部空間11内に成形体13を配置した一例を示した断面図である。
【0033】
上部ゴム型9および下部ゴム型10は成形体13の最大直径よりも1%以上35%以下程度大きな半球状の穴を両面に敷設している。その穴に成形体13を設置してゴム型を重ねることで、成形体13をゴム型に囲まれた球面部空間11に密閉する。そのゴム型に、成形時の圧力よりも高い静水圧を掛けるものとする。また、ゴム型はショア硬さHsが30以上50以下のものを用いることが好ましい。ゴム型の硬度をこの範囲内にすることにより、成形体13表面とゴム型を均一に接触できる変形能を具備することができる。これにより、成形体13に対して均一に圧縮をかけることができる。この工程により造粒粉のつぶれ残りを低減することができる。
【0034】
また、図6に示したように帯状部空間12を設けた上部ゴム型9と下部ゴム型10で、帯状部空間12に成形体13の帯状部15を設置して等方圧成型を行うことが好ましい。球面部空間11における上部ゴム型9と成形体13との距離L1、帯状部空間12における上部ゴム型9もしくは下部ゴム型10と成形体13との距離L2とする。このとき、L1は成形体13と上部ゴム型9との距離L11と、下部ゴム型10との距離L12との合計(L11+L12)である。また、L2は成形体13と下部ゴム型10の帯状部空間12の側面との距離L21と距離L22との合計(L21+L22)である。このとき、L1<L2であると、成形体13の帯状部15に圧力がかかるのを防ぎ、帯状部15の焼結密度を低くすることができ、焼結工程後のセラミックスボール用素材5の粗さ曲線の最大断面高さRtbが大きくなる。なお、帯状部空間12は、帯状部15が収納できるのであれば上部ゴム型9と下部ゴム型10のどちらか一方だけに形成してもよい。
【0035】
また、従来は成形体13とゴム型との距離はL1≧L2であった。これは、上部ゴム型9と下部ゴム型10が重なってできる球面部空間11の設計が真球形状(L1=L2)であるためである。さらに、使用するに従って上下ゴム型の間の隙間に粉末などが付着してL1>L2になりやすかったためである。図6に示したような帯状部空間12を設けた形状であれば、L1<L2となり、成形体13の球面部14に対して帯状部15への荷重は緩和されるため、焼結工程後のセラミックスボール用素材5の帯状部7の粗さ曲線の最大断面高さRtbは球面部6の粗さ曲線の最大断面高さRtsよりも大きくなり、Rtb/Rtsが1.0以上となる。
【0036】
次に、成形体13を脱脂する脱脂工程を行う。脱脂工程は、バインダーなどの有機成分の分解温度以上で加熱し、有機成分を飛ばす工程である。脱脂工程は、窒素雰囲気、大気雰囲気中で行ってもよい。脱脂工程により脱脂体を得ることができる。
【0037】
次に、脱脂体を焼結する焼結工程を行う。焼結工程は、1600℃以上2000℃以下が好ましい。また、焼結工程は窒素雰囲気中で行うことが好ましい。また、焼結時の圧力は大気圧以上300MPa以下の範囲内で行うことが好ましい。なお、大気圧は0.10133MPa(=1atm)である。また、焼結工程により得られた焼結体に対し、HIP(熱間静水圧プレス)処理を行ってもよいものとする。この工程により、セラミックスボール用素材5を得ることができる。また、セラミックスボール用素材5は、理論密度98%以上のセラミックス焼結体とする。
【0038】
セラミックスボール用素材5を研磨加工することによりセラミックスボールを製造することができる。球の研磨加工としては、代表的なものとして定盤加工が挙げられる。例えば、セラミックスボール用素材5を、上下に平行に設けられた定盤間に挿入する。研磨定盤の運動により、セラミックスボール用素材5を真球状に定盤加工することが挙げられる。ベアリングボールの表面粗さはASTMF2094に定められている。ベアリングボールは、用途に応じてASTMF2094に準じたグレードが採用される。そのグレードに準じた表面粗さRaに研磨される。グレードが上がると表面粗さRaが0.01μm以下の鏡面加工が施されるものもある。なお、ASTMとはASTM Internationalの発行する標準規格である。ASTM Internationalの旧名称は米国試験材料協会(American Society for Testing and Materials :ASTM)である。
【0039】
実施形態に係るセラミックスボール用素材5は帯状部7の粗さ曲線の最大断面高さRtbが球面部6よりも大きいため、優先的に研磨が開始する。また、帯状部7の焼結密度は球面部6よりも小さいために定盤加工が優先的に進む。そのため、研磨定盤などの砥石への帯状部7の接触を意識することなく定盤加工することができる。これにより、研磨工程でのセラミックスボール用素材5が破損することを抑制することができる。また、研磨定盤の耐久性も向上させることができる。また、研磨速度を上げて研磨時間を短縮させた場合にも損傷抑制効果を維持しつつ研磨加工性(研磨加工効率)を向上させることができる。
【0040】
(実施例1~9、比較例1~6)
原料となるセラミックス粉末に焼結助剤、添加剤、溶剤およびバインダーなどを加え混合、解砕し、スプレードライヤーにて造粒を行った。実施例1~7、比較例1~4のセラミックスは窒化ケイ素焼結体である。実施例8および比較例5のセラミックスは酸化アルミニウム焼結体である。実施例9および比較例6のセラミックスは炭化ケイ素焼結体である。窒化ケイ素焼結体は窒化ケイ素を85質量%以上含有したものである。酸化アルミニウム焼結体は酸化アルミニウムを85質量%以上含有したものである。また、炭ケイ素焼結体は炭化ケイ素を85質量%以上含有したものである。それぞれ主成分と焼結助剤の合計を100質量部としたとき、バインダーの添加量を3~20質量部の範囲内とした。
【0041】
次に、造粒粉を2分割して60メッシュの篩により分級した。また、分割した残りの造粒粉を100メッシュの篩により分級した。60メッシュにより分級した造粒粉と60メッシュに100メッシュより分級した造粒粉を混合した造粒粉を得た。
【0042】
次に、得られた造粒粉を用いてプレス成型を行った。プレス成型は、図1に示す金型プレス成型装置の上下の金型を使った金型成形である。プレス金型は、同一のセラミックスボール直径の金型は同一のクリアランスとし、ダイス4中央部に凹部がないストレート形状のものと、凹部があるものを使用した。金型成形後に、等方圧成型を行った。等方圧成型はショア硬さHs30以上50以下の円盤状ゴム型を用いた。また、ゴム型8は、球面部空間11における上部ゴム型9とセラミックスボール用素材5との距離L1、帯状部空間12における上部ゴム型9もしくは下部ゴム型10と成形体13との距離L2を等しくした球形状のゴム型(L1=L2)を用意した。また、帯状部空間12を設けたゴム型(L1<L2)を用意した。このとき、帯状部空間12を設けたゴム型の距離L1および距離L2の比であるL1/L2は1.05とした。また、プレス成型他はゴム型の円筒方向に対し、成形体13の帯状部15が垂直になるように配置した。また、帯状部空間12があるゴム型では帯状部15を帯状部空間に配置したものとした。この状態で等方圧成型工程は、成形時の圧力よりも高い静水圧を掛けた。
【0043】
次に、脱脂工程を経た後、焼結工程を行った。焼結工程は、1600~2000℃、窒素雰囲気中、大気圧で行った。その後、1600~2000℃、窒素雰囲気中、圧力200MPaでHIP処理を行った。
【0044】
この工程により、実施例に係るセラミックスボール用素材5を作製した。また、比較例においては100メッシュ造粒粉を混合せず(混合率0%)60メッシュ混合粉だけを使用した。また、比較例においてダイス4には図3に示す凹部を設けなかった。さらに、比較例において帯状部空間12があるゴム型は使用しなかった。
実施例および比較例の製造条件を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例1~4、8~9および比較例1、5、6は、研磨加工後に3/8インチ(9.525mm)となるセラミックスボールのためのセラミックスボール用素材5である。また、実施例5、比較例2は7/8インチ(22.225mm)のセラミックスボールのためのセラミックスボール用素材5である。実施例6および比較例3は1-3/16インチ(30.165mm)のセラミックスボールのためのセラミックスボール用素材5である。実施例7および比較例4は、1-7/8インチ(47.625mm)のセラミックスボールのためのセラミックスボール用素材である。実施例1~9のセラミックスボール用素材5と、比較例1~6のセラミックスボール用素材とは、いずれもベアリングボールとして使用できるものである。
【0047】
実施例に係るセラミックスボール用素材5の粗さ曲線の最大断面高さRtおよび比較例に係るセラミックスボール用素材の粗さ曲線の最大断面高さRtをそれぞれ、評価長さUにおいて測定した。それぞれの測定方法は前述した通りである。粗さ曲線の最大断面高さRtは、前述のとおり、評価長さUにおける輪郭曲線の山高さの最大値と谷深さの最大値との和である。また、実施例に係るセラミックスボール用素材5及び比較例に係るセラミックスボール用素材においてそれぞれ、Rtb/Rtsを算出した。実施例および比較例における粗さ曲線の最大断面高さRtb,Rtsと、比Rtb/Rtsと、評価長さUとは、表2に示すとおりである。
【0048】
また、比較例1~6はセラミックスボール用素材の帯状部の粗さ曲線の最大断面高さRtbと球面部の粗さ最大断面高さRtsの比であるRtb/Rtsが1.0未満であり範囲外のものである。
【0049】
実施例のセラミックスボール用素材5および比較例のセラミックスボール用素材を用いて、研磨加工精度(例えば、帯取り加工良品率)および損傷抑制効果(例えば、素材欠け不良率)について評価した。評価は、ボール加工研磨機を使用して各セラミックスボール用素材を研磨加工するための研磨条件を固定して帯状部の加工状態を調べた。研磨加工条件は、上側定盤は無加圧(加圧無し)、下側定盤は回転、ダイヤモンドにグリセリンをルブリカントとして使用した研磨剤を供給して24時間研磨加工した。なお、同一サイズのセラミックスボールは、上側定盤とのギャップ距離、下側回転の回転数、セラミックスボール用素材の投入数量、研磨剤の供給量は同一の条件とした。研磨加工後に100個をサンプリングし目視にて帯状部を外観検査して、帯形状が確認できないものを良品として帯取り加工良品率(%)として示した。
【0050】
また、上記研磨加工後に、実施例のセラミックスボール用素材5および比較例のセラミックスボール用素材が欠けている状態の不良の発生する割合を調べた。不良発生率は前述のサンプリングした100個について光学顕微鏡にて全面を外観検査し、欠けの発生した割合を素材欠け不良率(%)として示した。その結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
比較例1~6に係るセラミックスボール用素材では比較的低速の研磨速度では帯取り加工良品率および素材欠け不良率の向上はある程度得られるが、比較的高速の研磨速度では、表2に示すように、帯取り加工良品率および素材欠け不良率は好ましくない。他方、表2から分かる通り、実施例1~9に係るセラミックスボール用素材5では、比較的高速の研磨速度であっても、比較例1~6に係るセラミックスボール用素材と比較して帯取り加工良品率および素材欠け不良率が向上し、研磨加工精度および損傷抑制効果の向上が得られた。つまり、実施例1~9に係るセラミックスボール用素材5では、研磨加工精度および損傷抑制効果を向上させつつ、帯状部7の研磨加工性も向上したと言える。言い換えれば、実施例1~9に係るセラミックスボール用素材5によれば、研磨加工時間を短縮できることが分かる。
【0053】
なお、セラミックスボール用素材5が窒化ほう素焼結体および酸化ジルコニウム焼結体である場合については実施例として例示していない。しかしながら、セラミックスボール用素材5が少なくとも比Rtb/Rtsの条件を満たせば、酸化アルミニウム焼結体、窒化ケイ素焼結体、および炭化ケイ素焼結体の場合と同様に、比較例と比較して研磨加工性および損傷抑制に優れていると考えられる。
【0054】
以上説明したように、セラミックスボール用素材5によれば、研磨加工時におけるセラミックス材料の研磨加工性を向上し損傷を抑制することができる。
【0055】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態はその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6