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特開2024-133755ポリビニルエステル系重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133755
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ポリビニルエステル系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 18/04 20060101AFI20240926BHJP
   C08F 4/40 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08F18/04
C08F4/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043707
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】兼田 顕治
(72)【発明者】
【氏名】森岡 俊文
(72)【発明者】
【氏名】山岸 大雅
【テーマコード(参考)】
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4J015AA01
4J015CA14
4J015EA05
4J100AG04P
4J100CA01
4J100DA01
4J100DA04
4J100FA03
4J100FA06
4J100FA08
4J100FA18
4J100FA28
4J100GA06
4J100GA10
4J100GB05
4J100GC26
(57)【要約】
【課題】RAFT重合を用いて高分子量のビニルエステル重合体を製造しようとする際に
おいても分子量分布の狭いポリビニルエステル系重合体を得ることができる新たな製造方
法を提供すること。
【解決手段】ビニルエステル単量体を用いて重合するポリビニルエステル系重合体の製造
方法であって、下記一般式(A)で表される化合物の存在下で重合開始剤を用いて、重合
温度が0~55℃で重合することを特徴とするポリビニルエステル系重合体の製造方法。
(上記式(A)中、Rは、炭素数1~5のアルキル基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステル単量体を用いて重合するポリビニルエステル系重合体の製造方法であっ
て、下記一般式(A)で表される化合物の存在下で重合開始剤を用いて、重合温度が0~
55℃で重合することを特徴とするポリビニルエステル系重合体の製造方法。
【化1】
(上記式(A)中、Rは、炭素数1~5のアルキル基である。)
【請求項2】
重合開始剤の10時間半減期温度が50℃以下であることを特徴とする請求項1に記載
のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(A)で表わされる化合物の添加量が、前記ビニルエステル系単量体の添加
量に対して0.0001~1mol%であることを特徴とする請求項1に記載のポリビニ
ルエステル系重合体の製造方法。
【請求項4】
実質的に重合溶媒を含まないバルク重合で行なうことを特徴とする請求項1に記載のポ
リビニルエステル系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記ビニルエステル系単量体が酢酸ビニルであることを特徴とする請求項1に記載のポ
リビニルエステル系重合体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリビニルエステル系重合体の数平均分子量が100,000以上であることを特
徴とする請求項1に記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルエステル系重合体の製造方法に関し、更に詳しくは、ラジカル重
合開始剤の存在下でビニルエステル系単量体を重合するポリビニルエステル系重合体の
製 造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルエステル系重合体は、従来、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」とい
うこともある。)の原料等として広く使用されている。PVAはポリビニルエステル系重
合体をケン化することで得られる結晶性の水溶性高分子材料であり、その優れた水溶性や
皮膜特性(強度、耐油性、造膜性、酸素ガスバリア性等)を利用して、乳化剤、懸濁剤、
界面活性剤、繊維加工剤、各種バインダー、紙加工剤、接着剤、フィルム等に使用されて
いる。
【0003】
ポリビニルエステル系重合体はビニルエステル系単量体を重合することにより得られる
が、その重合方法としては、多様なビニル化合物の重合に適用でき、反応系の取り扱い
が 容易であるラジカル重合が工業的にも広く利用されている。ラジカル重合の反応機構
は、開始反応、生長反応及び停止反応を含み、副反応として連鎖移動反応が起こることが
ある。ラジカル重合では、開始ラジカルが生成すると、それが単量体に次々と反応し、生
長ラジカルが不活性化することにより反応が停止する。生長ラジカルの不活性化は、再結
合停止反応や不均化停止反応、副反応である連鎖移動反応等により起こるため、分子の長
さの揃わない重合体が生成されてしまう。
【0004】
そこで、得られる重合体の分子量を制御する方法として、リビングラジカル重合により
重合体を合成することが行われている。リビングラジカル重合とは、重合過程において開
始反応と生長反応のみからなる重合方法であり、停止反応や連鎖移動反応といった生長
ラジカルを不活性化させる反応を伴わないため、分子の長さの揃った重合体が得られる。
また、重合反応時の急激な温度上昇等が起こりにくく反応制御がしやすくなるため、ポ
リビニルエステル系重合体の分子量が均質となるように容易に製造コントロールできる
リビングラジカル重合として、特定の連鎖移動剤を用いたリビングラジカル重合であるR
AFT (Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer)重合も知られていた(
特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-24966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示のRAFT重合では、高分子量のポリビニルエステル
系重合体を製造しようとする際の分子量分布制御について、まだ改善の余地が残るもので
あった。
ここで、一般にRAFT重合で高分子量の重合体を得ようとする場合、単量体に対する
RAFT剤の添加量を少なくする必要があるが、ビニルエステル単量体のRAFT重合で
は連鎖移動反応によって分子量の小さいポリマーの発生や頭頭結合に由来して発生する一
級炭素とRAFT剤が結合して実質的にRAFT剤として機能しない末端の生成、重合体
の末端からのRAFT剤の脱離などの副反応が避けられないものであった。このため、R
AFT剤の添加量の少ない条件、すなわち高分子量の重合体を得ようとする条件では上記
副反応の影響を無視できなくなり、分子量分布が広くなってしまうと考えられた。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景下において、RAFT重合を用いて高分子量のビニ
ルエステル重合体を製造しようとする際においても分子量分布の狭いポリビニルエステル
系重合体を得ることができる新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに本発明者等は、RAFT重合時の重合温度に着目し通常よりも低温で重合反応
を行なうことにより、高分子量のビニルエステル重合体を製造しようとする場合であって
も分子量分布の狭いポリビニルエステル系重合体を得ることができることを見出し、本発
明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、以下の[1]~[6]を、その要旨とする。
[1]ビニルエステル単量体を用いて重合するポリビニルエステル系重合体の製造方法で
あって、下記一般式(A)で表される化合物の存在下で重合開始剤を用いて、重合温度が
0~55℃で重合することを特徴とするポリビニルエステル系重合体の製造方法。
【化1】
(上記式(A)中、Rは、炭素数1~5のアルキル基である。)
[2] 重合開始剤の10時間半減期温度が50℃以下であることを特徴とする[1]に
記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
[3] 前記一般式(A)で表わされる化合物の添加量が、前記ビニルエステル系単量体
の添加量に対して0.0001~1mol%であることを特徴とする[1]または[2]
に記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
[4] 実質的に重合溶媒を含まないバルク重合で行なうことを特徴とする[1]~[3
]いずれかに記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
[5] 前記ビニルエステル系単量体が酢酸ビニルであることを特徴とする[1]~[4
]いずれかに記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法。
[6] 前記ポリビニルエステル系重合体の数平均分子量が100,000以上であるこ
とを特徴とする[1]~[5]いずれかに記載のポリビニルエステル系重合体の製造方法
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、高分子量でかつ分子量分布の狭いポリビニルエステル系重
合体を製造することができる。
また、本発明の製造方法は重合時に安定して反応させることができるので 、反応制御
がしやすく、ポリビニルエステル系重合体を安定的に製造することができる。
そして、得られたポリビニルエステル重合体をけん化することで、分子量分布の狭い高
分子量のポリビニルアルコールが得られ、かかる分子量分布の狭い高分子量ポリビニルア
ルコールは水溶液の低粘度化による塗工安定性の改善や光学フィルムに加工した際の光学
性能の向上が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施形態の一例を示すものであり
、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
また、本明細書において、(メタ)アリルとはアリル又はメタリル、(メタ)アクリル
とはアクリル又はメタクリル、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレー
トをそれぞれ意味する。
【0012】
本発明のポリビニルエステル系重合体の製造方法は、下記一般式(A)で表わされる特
定の連鎖移動剤(RAFT剤)の存在下で重合開始剤を用い、重合温度が0~55℃でビ
ニルエステル系単量体を重合するリビングラジカル重合(RAFT(Reversible Additio
n-Fragmentation Chain Transfer)重合)である。
【0013】
【化2】
【0014】
(上記式(A)中、Rは、炭素数1~5のアルキル基である。)
【0015】
本発明の製造方法で用いられるビニルエステル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル
、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸
ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビ
ニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノク
ロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン
酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等が挙げられる。これ
らは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも
、価格や入手の容易さの観点から、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0016】
本発明で製造されるポリビニルエステル系重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で
、ビニルエステル系単量体と共重合可能な他の単量体が共重合されたものでもよい。他の
単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ド
デセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、
マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩、そのモノ又は
ジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;アクリ
ルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メ
タアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;アルキルビニルエーテル
類;N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド;アリルトリメチルア
ンモニウムクロライド;ジメチルアリルビニルケトン;N-ビニルピロリドン;塩化ビニ
ル;塩化ビニリデン;ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレ
ン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル;ポリオキ
シエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリ
オキシアルキレン(メタ)アクリレート;ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、
ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリ
ルアミド;ポリオキシエチレン[1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピ
ル]エステル;ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテ
ル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル;ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオ
キシプロピレンアリルアミン等のポリオキシアルキレンアリルアミン;ポリオキシエチレ
ンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレンビニルア
ミン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール
等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類あるいはそのアシル化物等の誘導体を挙げること
ができる。
【0017】
また、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-
アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテ
ン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペン
テン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-
ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-
1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル、
2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ
-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパ
ン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、ビニルエ
チレンカーボネート、2,2-ジメチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン等のジオー
ルを有する化合物などが挙げられる。
【0018】
上記一般式(A)で表わされる化合物は、ラジカル重合を制御するための化合物であり
、生長ポリマー鎖の末端に反応してポリマーの生長を停止させると同時に新たな重合開始
ラジカルを発生させる、所謂、連鎖移動剤(RAFT剤)である。
リビングラジカル重合の重合機構を、ビニルエステル系単量体として酢酸ビニルを用い
たポリ酢酸ビニルの製造を例に、下記スキームIにより説明する。重合途中の重合物がラ
ジカルとなって付加されたジチオカルボニル化合物1(休止種)に対して、ポリ酢酸ビニ
ルのラジカルY・が付加し、中間体ラジカル2が生成する。さらに、中間体ラジカル2か
ら別のポリ酢酸ビニルのラジカルY’・が脱離することにより、新たな休止種(ジチオカ
ルボニル化合物1’)と別のポリ酢酸ビニルのラジカルY’・が生成する。このように付
加及び脱離を繰り返すことで重合が進行する。なお、下記スキームI中、XはOR(Rは
、炭素数1~5のアルキル基)である。
【0019】
【化3】
【0020】
一般式(A)中、Rは、炭素数1~5のアルキル基である。炭素数1~5のアルキル基
としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、
イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
【0021】
一般式(A)で表わされる化合物は、製造のし易さという観点から、Rが炭素数1~4
のアルキル基である化合物が好ましく、Rが炭素数2~4のアルキル基である化合物がよ
り好ましく、具体的にはイソプロピル基、エチル基が好ましく、特に好ましくはイソプロ
ピル基である。式(A)で表わされる化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を
組み合わせて用いてもよい。
【0022】
一般式(A)で表わされる化合物の具体例としては、例えば、S-1-isobuto
xyethyl O-isopropyl xanthate(Rがイソプロピル基であ
る化合物)、S-1-isobutoxyethyl O-ethyl xanthat
e(Rがエチル基である化合物)等が挙げられる。
【0023】
本発明のポリビニルエステル系重合体の製造方法は、重合開始剤の存在下で行う。重合
開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、
2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-(4-メト
キシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-(2-メチルプロピオ
ンアミジン)ジヒドロクロライド等のアゾ化合物類、t-ブチルパーオキシネオデカノエ
ート、t-ブチルパーオキシピバレート等のアルキルパーエステル類、ビス-(4-t-
ブチルシクロヘキシル)パーオキシ-ジ-カーボネート、ジ-シクロヘキシルパーオキシ
-ジ-カーボネート、ビス(2-エチルヘキシル)パーオキシ-ジ-カーボネート、ジ-
sec-ブチルパーオキシ-ジ-カーボネート、ジ-イソプロピルパーオキシ-ジ-カー
ボネート等のパーオキシ-ジ-カーボネート類、アセチルパーオキシド、ジアセチルパー
オキシド、ジ-ラウロイルパーオキシド、ジ-デカノイルパーオキシド、ジ-オクタノイ
ルパーオキシド、ジ-プロピルパーオキシド、ジ-ベンゾイルパーオキシド等のパーオキ
シド類等の、公知の重合開始剤が挙げられる。これら重合開始剤は、1種を単独で用いて
もよく、2種以上を同時に用いてもよい。
これらの中でも10時間半減期温度の低い重合開始剤を用いることが好ましく、具体的
には、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、ビス
(2-エチルヘキシル)パーオキシ-ジ-カーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシ
-ジ-カーボネート、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,
2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)が好ましく、10
時間半減期温度が低く誘発分解を起こしにくい点で特に好ましくは2,2’-アゾビス(
4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)である。
また、重合開始剤の10時間半減期温度は50℃以下が好ましい。10時間半減期温度
が高いとフリーの重合末端ラジカルが少なくなりすぎるため、重合が進行しなくなる場合
がある。重合開始剤の10時間半減期温度は40℃以下であることがより好ましい。
【0024】
重合反応液には、本発明の効果を損なわない範囲においてその他の成分を添加すること
ができる。他の添加剤としては、例えば、着色剤、染料、消泡剤、防腐剤、防黴剤、酸化
防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤等が挙げられ、また、ステアリン酸アミド等の飽和脂
肪族アミド、オレイン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミ
ド等のビス脂肪酸アミド、低分子量ポリオレフィン等の公知の滑剤、離型剤、エチレング
リコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の多価アルコール、特には脂肪族多価アルコ
ール等の公知の可塑剤、酢酸、リン酸等の酸類およびそのアルカリ金属、アルカリ土類金
属等の金属塩、また、金属酸化物および水酸化物等の金属化合物、ホウ酸またはその金属
塩等のホウ素化合物など、公知の熱安定剤を含有させてもよい。
【0025】
次に、本発明のポリビニルエステル系重合体の具体的な製造方法について説明する。
本発明の製造方法では、反応器に、ビニルエステル系単量体、一般式(A)で表わされ
る化合物及び重合開始剤を添加し、重合反応を開始させる。各原料は一度に添加してもよ
いし、任意の順番で添加してもよい。
【0026】
ここで、本発明の製造方法における重合反応においては、重合溶媒を用いてもよいし、
重合溶媒を用いずにバルク重合をおこなってもよいが、分子量および分子量分布の制御の
点で実質的に重合溶媒を用いずにバルク重合を行なうことが好ましい。
なお、上記実質的に重合溶媒を含まないとは、重合溶媒の含有量が、通常1質量%以下
、好ましくは0.1質量%以下であることを意味する。
【0027】
本発明の製造方法における重合反応は、ビニルエステル系単量体に対して不活性な不活
性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン等
が挙げられる。
【0028】
一般式(A)で表わされる化合物の添加量は、ビニルエステル系単量体の初期仕込み量
に対して0.0001~1mol%であることが好ましい。式(A)で表わされる化合物
が多すぎると、フリーの重合末端ラジカルが少なくなりすぎるため、重合が進行しなくな
る場合があり、また少なすぎると重合制御が行われず、分子量の均質なポリビニルエステ
ル系重合体が得られ難い。式(A)で表わされる化合物の添加量は、0.0005~0.
1mol%であることがより好ましく、0.001~0.01mol%がさらに好ましい
【0029】
重合開始剤の添加量は、ビニルエステル系単量体の初期仕込み量に対して0.0000
1~0.2mol%であることが好ましい。重合開始剤が多すぎると重合制御が困難とな
る場合があり、また少なすぎると生産性に問題が生じる場合がある。重合開始剤の添加量
は、ビニルエステル系単量体の初期仕込み量に対して0.00005~0.01mol%
であることがより好ましく、0.0001~0.001mol%がさらに好ましい。
【0030】
本発明の製造方法における重合温度は、0~55℃であることが本発明の効果を発揮す
るためには必要である。かかる反応液の温度としては5~50℃であることが好ましく、
更に好ましくは15~45℃、特に好ましくは20~35℃である。
反応液の温度が高すぎると、分子量の制御が困難になったり、重合制御が困難になった
りする場合があり、また低すぎると重合速度が遅くなるので生産性に問題が生じる場合が
ある。
なお、本明細書における重合温度とはモノマーがポリマーに転化していく期間における
反応液の温度であり、より具体的には重合開始剤を添加して重合反応が開始された時点か
ら重合停止剤を添加して重合反応を停止させた時点、もしくは反応液の温度を急激に低下
させるなどして重合反応を実質的に停止させた時点までの温度を指す。
【0031】
反応時間は、目的とする分子量の重合体が得られるよう適宜設定すればよいが、生産性
を考慮して0.1~48時間の範囲で行うことが好ましく、0.3~36時間がより好ま
しく、0.5~24時間がさらに好ましい。反応時間が長すぎると、生産性に問題が生じ
る場合があり、また短すぎると分子量が整わず、分子量の均質なポリビニルエステル系重
合体が得られない場合がある。
【0032】
本発明において、目的とする重合率となった時点で重合停止剤を添加することにより停
止反応を行う。
【0033】
重合停止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、
パラベンゾキノン等のキノン化合物類、o-ジニトロベンゼン、m-ジニトロベンゼン、
p-ジニトロベンゼン等のニトロベンゼン化合物類等が挙げられる。これらは1種を単独
で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、着色や毒性の
観点から、ハイドロキノンモノメチルエーテルを用いることが好ましい。
【0034】
重合停止剤の添加量は、重合を停止し得る量を用いればよく特に限定されないが、ビニ
ルエステル系単量体の初期仕込み量に対して0.001~10000ppmであることが
好ましい。重合停止剤が少なすぎるとポリマー末端のラジカルを十分に捕捉できず、重合
停止が十分になされないので、分子量分布が広くなってしまう場合があり、また多すぎる
と得られたポリビニルエステル系重合体を用いて作製したPVAが着色しやすくなる場合
がある。重合停止剤の添加量は、ビニルエステル系単量体の初期仕込み量に対して0.1
~5000ppmであることがより好ましく、1~1000ppmがさらに好ましい。
【0035】
停止工程において、反応液の温度は、重合停止剤がポリマー末端のラジカルを捕捉でき
る温度とすればよく、0~100℃の範囲が好ましく、3~60℃がより好ましく、5~
50℃がさらに好ましい。反応液の温度が高すぎると停止反応の一方で重合も進んでしま
うので分子量分布が広くなってしまう場合があり、また低すぎると重合溶液中の粘度が上
がってしまい重合停止剤が重合溶液中に均一に混ざり難くなる。
【0036】
停止工程における反応時間は、生産性を考慮して0.01~24時間の範囲で行うこと
が好ましく、0.03~6時間がより好ましく、0.05~2時間がさらに好ましい。
【0037】
停止工程の後、ポリビニルエステル系重合体を含有する溶液を、加熱、真空乾燥等する
ことにより、溶媒及び未反応のモノマーを留去して、ポリビニルエステル系重合体を得る
【0038】
本発明のポリビニルエステル系重合体の数平均分子量(Mn)は、100,000~1
000,000であることが好ましい。数平均分子量(Mn)が前記範囲であると、ポリ
ビニルエステル系重合体をPVAの製造に用いた場合に安定的に製造できる。ポリビニル
エステル系重合体の数平均分子量(Mn)が高すぎると溶液の粘度が高くなりすぎて取り
扱いが困難になる場合や、溶解速度が低下する場合があり、また低すぎると粒子形成が困
難となる場合がある。数平均分子量(Mn)は、150,000~900,000である
ことがより好ましく、180,000~800,000がさらに好ましい。
なお、本発明において、ポリビニルエステル系重合体の数平均分子量(Mn)および重
量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、
ポリスチレンを標準として求めることができる。
【0039】
本発明の製造方法によって得られるポリビニルエステル系重合体の分子量分布(分散度
、Mw/Mn)は、1~2であることが好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は数平均分
子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表わされる値であり、分子量分布(
Mw/Mn)が前記範囲であると、ポリビニルエステル系重合体の分子量の広がりが狭く
、低分子量の重合体の発生が少ないといえる。本発明の製造方法によれば、このように分
子量分布の狭いポリビニルエステル系重合体を安定して製造することができる。分子量分
布(Mw/Mn)は、1超過1.8以下であることがより好ましく、1超過1.5以下が
さらに好ましい。
【0040】
本発明の製造方法によって得られたポリビニルエステル系重合体は、これをケン化する
ことによりポリビニルアルコール(PVA)を得ることができる。
得られたポリビニルエステル系重合体のケン化は、従来より行われている公知のケン化
方法を採用することができる。すなわち、ポリビニルエステル系重合体をアルコール又は
水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことがで
きる。
前記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウム
メチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアル
カリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
通常、無水アルコール系溶媒下、アルカリ触媒を用いたエステル交換反応が反応速度の
点や脂肪酸塩等の不純物を低減できるなどの点で好適に用いられる。
【0041】
ケン化反応の反応温度は、通常20~60℃である。反応温度が低すぎると、反応速度
が小さくなり反応効率が低下する傾向があり、高すぎると反応溶媒の沸点以上となる場合
があり、製造面における安全性が低下する傾向がある。なお、耐圧性の高い塔式連続ケン
化塔などを用いて高圧下でケン化する場合には、より高温、例えば、80~150℃でケ
ン化することが可能であり、少量のケン化触媒でも短時間、高ケン化度のものを得ること
が可能である。
【0042】
なお、本発明で得られるポリビニルエステル系重合体は、溶媒や未反応モノマーを除去
することなく停止工程の後にそのままケン化工程を行い、PVAを得てもよい。
【0043】
本発明の製造方法により得られるポリビニルエステル系重合体は分子量分布が狭いので
、当該ポリビニルエステル系重合体を用いて得られるPVAの結晶性が高まり、その成形
品はガスバリア性に優れる。また、低分子量の含有割合が小さいので、成形品としてフィ
ルムを作製した際にもフィルムに不純物が混入するのを抑制し、品質の高いフィルムを形
成することができる。
【実施例0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの
実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において「部」及び
「%」は、特に断りのない限り質量を基準とする。
【0045】
<重合率の測定>
アルミカップにサンプルを約1~2g量り取り、140℃の乾燥機にて30分間乾燥し
た後、アルミカップに残ったサンプル量から、樹脂分を算出した。
【0046】
<数平均分子量、重量平均分子量、分散度(分子量分布)の測定>
ポリビニルエステル系重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測
定は、株式会社島津製作所製の高速液体クロマトグラフ「Prominence」(商品
名)を用い、カラムとしてShodex KF-806L(8.0mmID×300mm
)×3本、検出器としてRI(Shodex RI-501)を用いた。ポリビニルエス
テル系重合体をテトラヒドロフランに溶解して、重合体濃度0.25質量%の重合体試料
液を得て、テトラヒドロフランを展開溶剤として流速を1.0ml/min、カラム温度
を35℃の条件にて、測定した。標準物質としての単分散分子量のポリスチレンを使用し
た検量線を作成し、ポリビニルエステル系重合体のポリスチレン換算の数平均分子量(M
n)、重量平均分子量(Mw)を測定した。
得られた数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の値から、分散度(Mw/M
n)を算出した。
【0047】
<RAFT剤>
本願実施例で使用したRAFT剤、S-1-isobutoxyethyl O-is
opropyl xanthate(以下、iPrBEXと記載する。式(A)中のR=
イソプロピル基)は公知方法に従い以下の合成例通り合成した。
<合成例1>「S-1-isobutoxyethyl O-isopropyl xa
n thate(iPrBEX)の製造」
1.0M HCl・EtO(塩化水素・ジエチルエーテル)100mL(0.1mo
l in EtO)を0℃に冷やした200mLナスフラスコに入れた。イソブチルビ
ニルエーテル(IBVE)13mL(0.1mol)を撹拌しながらHCl・EtOの
入ったフラスコに滴下し、約1時間、0℃下でそのまま撹拌し続けIBVE-HCl付加
体を得た。不用なHClはガスとして放出して精製した。キサントゲン酸イソプロピルカ
リウム11.6g(0.067mol)を0℃に冷やしたナスフラスコに入れ、上記で合
成したIBVE-HCl付加体溶液76mL(0.076mol)を加えた。そこから2
4時間、0℃~室温下でスターラーを用いて撹拌した。その後、ガラスロートを用いてろ
過し、ろ液を分液ロートに移し、0.2M NaHCOで3回、純水で2回洗浄した。
これを乾燥させた三角フラスコに移し、無水硫酸ナトリウムで一晩予備乾燥した。無水硫
酸ナトリウムを取り除き、乾燥させたナスフラスコにデカンテーションした。溶媒を留去
した後、乾燥窒素下、CaH上で減圧蒸留(b.p.78℃/0.6kPa)を2回行
い、精製した。黄色液体として下記式(1)で表わされるS-1-isobutoxye
thyl O-isopropyl xanthateを得、合成収率は51%であった
【0048】
<重合開始剤>
重合開始剤として以下のものを用意した。
・2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル):10時間半
減期温度30℃
・2,2’-アゾビスイソブチロニトリル:10時間半減期温度65℃
【0049】
<実施例1>
撹拌機、温度計、還流冷却管、試料投入口を備えた反応器に酢酸ビニル200質量部、
iPrBEX0.0384質量部(酢酸ビニルに対して0.00699mol%)を添加
し、30分間窒素バブリングをしながら反応器内を窒素で置換した。その後、反応器を水
浴に浸漬して反応器内温(重合温度)が40℃となるように加熱と撹拌を開始した。反応
器内液温度が40℃になったところで、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メト
キシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.005質量部(酢酸ビニルに対して0.
000698mol%)添加し、重合を開始した。3時間重合させたのちに加熱を停止し
て重合停止剤としてm-ジニトロベンゼンを0.002質量部とメタノール100質量部
を添加して重合を停止した。このとき重合率は19%であった。
得られた重合反応液を真空乾燥させることにより未反応のモノマーを除去して、ポリ酢
酸ビニルを得た。得られたポリ酢酸ビニルの数平均分子量(Mn)は182,000、重
量平均分子量(Mw)は265,000、分散度(Mw/Mn)は1.46であった。
【0050】
<実施例2>
重合温度を30℃、重合時間を6時間とした以外は実施例1と同様に重合を実施し、重
合停止時の重合率は14%であった。得られたポリ酢酸ビニルの数平均分子量(Mn)は
152,000、重量平均分子量(Mw)は200,000、分子量分布Mw/Mnは1
.32であった。
【0051】
<比較例1>
撹拌機、温度計、還流冷却管、試料投入口を備えた反応器に酢酸ビニル195質量部、
iPrBEX0.086質量部(酢酸ビニルに対して0.0157mol%)を添加した
。反応器を水浴に浸漬して水浴を加熱して内液が沸騰するまで加熱した。このときの反応
器内液温度は72℃であった。沸騰開始から15分後に重合開始剤として2,2’-アゾ
ビスイソブチロニトリル0.006質量部(酢酸ビニルに対して0.00157mol%
)を酢酸ビニル5質量部に溶解させて添加して重合を開始した。3.25時間重合させた
のちに加熱を停止して重合停止剤としてm-ジニトロベンゼンを0.002質量部とメタ
ノール100質量部を添加して重合を停止した。このとき重合率は56%であった。
得られたポリ酢酸ビニルの数平均分子量(Mn)は167,000、重量平均分子量(
Mw)は304,000、分散度(Mw/Mn)は1.82であった。
【0052】
上記実施例、比較例について、表1に纏めて示す。
【0053】
【表1】
【0054】
比較例1に比べて、実施例1では重合温度を40℃としたことで数平均分子量が高いに
もかかわらず分子量分布の狭い(Mw/Mnの小さい)ポリ酢酸ビニルが得られた。さら
に実施例2では重合温度を30℃とすることでより分子量分布の狭いポリ酢酸ビニルを得
ることができた。