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特開2024-133756ポリビニルアルコール系偏光子および偏光板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133756
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系偏光子および偏光板
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043708
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】任 大均
(72)【発明者】
【氏名】萱場 裕貴
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AB12
2H149AB13
2H149BA02
2H149FA02X
2H149FA03W
2H149FA52W
2H149FA53W
2H149FD21
2H149FD22
(57)【要約】
【課題】高温高湿度の過酷な環境条件下でもコントラストと鮮明度にバランスよく優れる
ディスプレイを得ることができる偏光板に用いることが可能なポリビニルアルコール系偏
光子を提供すること。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂を含む偏光子であり、下記式(1)で計算され
るポリビニルアルコール系樹脂の水酸基とホウ酸が形成するエステル化率が60%以上で
あることを特徴とするポリビニルアルコール系偏光子。
式(1):エステル化率(単位%)=100×(1-a)/((1-a)+b)
(ここで、式中aおよびbは、重ジメチルスルホキシドを媒体として4mmHRMASプ
ローブを用いた偏光子のNMR測定において、重ジメチルスルホキシドのメチルを2.5
ppmとして2.2~1.9ppmの主鎖メチレン(CH)の積分値を2.00とした
場合に、5.0~4.2ppmの積分値をa、7.5~6.8ppmの積分値をbとした
ものである。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂を含む偏光子であり、下記式(1)で計算されるポリビニ
ルアルコール系樹脂の水酸基とホウ酸が形成するエステル化率が60%以上であることを
特徴とするポリビニルアルコール系偏光子。
式(1):エステル化率(単位%)=100×(1-a)/((1-a)+b)
(ここで、式中aおよびbは、重ジメチルスルホキシドを媒体として4mmHRMASプ
ローブを用いた偏光子のNMR測定において、重ジメチルスルホキシドのメチルを2.5
ppmとして2.2~1.9ppmの主鎖メチレン(CH)の積分値を2.00とした
場合に、5.0~4.2ppmの積分値をa、7.5~6.8ppmの積分値をbとした
ものである。)
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量が100,000~300,000であ
ることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系偏光子。
【請求項3】
請求項1または2記載のポリビニルアルコール系偏光子を含むことを特徴とする偏光板
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系偏光子及び偏光板に関し、偏光板とした際に高温高
湿度下等の過酷な環境下に晒されても光学性能の変化量が少ない偏光板が得られるポリビ
ニルアルコール系偏光子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアルコール系フィルムは、透明性に優れたフィルムとして多くの用途
に利用されており、その有用な用途の一つに偏光子が挙げられる。かかる偏光子は偏光板
を構成する部材として液晶ディスプレイの基本構成要素として用いられており、近年では
高品位で高信頼性の要求される機器へとその使用が拡大されている。
【0003】
このような中、液晶テレビや多機能携帯端末などのディスプレイに用いられる偏光板に
は高輝度化、高精細化、大面積化、薄型化に対応することが求められており、更には高温
高湿度下等の過酷な環境下においても光学性能の変化率が少なく耐久性の高いものである
ことが要求されていた。
【0004】
このような耐久性に優れた偏光板として、染料系の偏光フィルムを用いて製造された偏
光板(特許文献1および2参照)が用いられたり、透過率の低い偏光子を用いることで偏
光板とした際に過酷な条件下で使用されても高偏光度を維持させる手法が用いられたりし
ていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-57909号公報
【特許文献2】特開2021-101237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および2に開示技術では、作製された偏光板は高温下や
高湿度下での耐久性には優れるものの偏光度が低くディスプレイとした際に高輝度化がで
きないという問題があった。また、透過率の低い偏光子を用いた偏光板は、高温下や高湿
度下での耐久性には優れるもののディスプレイとした際のコントラストと鮮明さに劣るも
のであった。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景下において、高温高湿度の過酷な環境条件下でもコ
ントラストと鮮明度にバランスよく優れるディスプレイを得ることができる偏光板に用い
ることが可能なポリビニルアルコール系偏光子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに本発明者等は、ポリビニルアルコール系偏光子中のポリビニルアルコール系樹
脂の水酸基とホウ酸が形成するエステル化率に着目し、かかる値が従来よりも高い特定範
囲にある場合に、上記課題を解決し偏光板として用いられた際に、コントラストと鮮明度
にバランスよく優れるディスプレイが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] ポリビニルアルコール系樹脂を含む偏光子であり、下記式(1)で計算されるポ
リビニルアルコール系樹脂の水酸基とホウ酸が形成するエステル化率が60%以上である
ことを特徴とするポリビニルアルコール系偏光子。
式(1):エステル化率(単位%)=100×(1-a)/((1-a)+b)
(ここで、式中aおよびbは、重ジメチルスルホキシドを媒体として4mmHRMASプ
ローブを用いた偏光子のNMR測定において、重ジメチルスルホキシドのメチルを2.5
ppmとして2.2~1.9ppmの主鎖メチレン(CH)の積分値を2.00とした
場合に、5.0~4.2ppmの積分値をa、7.5~6.8ppmの積分値をbとした
ものである)
[2] ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量が100,000~300,00
0であることを特徴とする[1]に記載のポリビニルアルコール系偏光子。
[3] [1]または[2]に記載のポリビニルアルコール系偏光子を含むことを特徴と
する偏光板。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリビニルアルコール系偏光子は、高温高湿度下での耐久性能に優れる偏光板
を得ることが可能な偏光子であって、偏光板としてディスプレイに用いられた際に、コン
トラストと鮮明度にバランスよく優れるディスプレイを得ることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリビニルアルコール系偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂を含む偏光子
であり、「下記式(1)で計算されるポリビニルアルコール系樹脂の水酸基とホウ酸が形
成するエステル化率」(以下、単に「エステル化率」と記載することがある。)が60%
以上であることを特徴とする。
式(1):エステル化率(単位%)=100×(1-a)/((1-a)+b)
(ここで、式中aおよびbは、重ジメチルスルホキシドを媒体として4mmHRMASプ
ローブを用いた偏光子のNMR測定において、重ジメチルスルホキシドのメチルを2.5
ppmとして2.2~1.9ppmの主鎖メチレン(CH)の積分値を2.00とした
場合に、5.0~4.2ppmの積分値をa、7.5~6.8ppmの積分値をbとした
ものである)
【0012】
本発明のポリビニルアルコール系偏光子のエステル化率は60%以上であることが必要
であり、好ましくは62%以上、特に好ましくは65%以上である。
かかるエステル化率が60%以上とすることにより、偏光板とした際に60℃/90R
H%の高温高湿条件下における波長700nmの直交透過率と波長430nmの直交透過
率の変化量が少ない偏光板が得られ、赤光と青光の両方の抜けを少なくすることが可能と
なる。
【0013】
上記エステル化率を所定の範囲に制御する手法としては、例えば、ポリビニルアルコー
ル系樹脂として、重量平均分子量が150,000以上のものを用いる手法、ポリビニル
アルコール系樹脂を用いてポリビニルアルコール系偏光子を製造する際にキャストドラム
剥離時のフィルム水分率を10%以下とする手法、キャスト型上での水分の蒸発速度を1
.6%/秒以上とする手法、偏光子製造時の偏光子乾燥温度を85℃以上とする手法等が
挙げられるが、これらの中でも、偏光子のエステル化率を向上させて、高温高湿度の過酷
な環境条件下でもコントラストと鮮明度にバランスよく優れるディスプレイを得ることが
できる偏光板を作製する点で、偏光子製造時の偏光子乾燥温度を85℃以上とする手法と
、キャスト型上での水分の蒸発速度も1.6%/秒以上とする手法を組み合わせることが
特に好ましい。
【0014】
本発明のポリビニルアルコール系偏光子は、まず原反となるポリビニルアルコール系フ
ィルムを製造したのち、該原反フィルムを用いてが製造されものである。
先に原反のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法について、各工程順に、より詳
しく説明するが、本発明のポリビニルアルコール系フィルムはこれらの実施形態に限定さ
れるものではない。
【0015】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、下記工程(A)~(C)を経て製造する
ことが好ましく、必要に応じて工程(D)も経ることが好ましい。
工程(A)ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調液する工程。
工程(B)ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液をキャスト型に流延して製膜する工程。
工程(C)製膜されたフィルムを複数の熱ロールと接触させることにより加熱して乾燥す
る工程。
工程(D)得られたフィルムを熱風を用いて熱処理する工程。
【0016】
<工程(A)>
工程(A)ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調液する工程である。
まず、上記ポリビニルアルコール系フィルムの材料であるポリビニルアルコール系樹脂
、およびポリビニルアルコール系樹脂水溶液に関して説明する。
本発明において、ポリビニルアルコール系フィルムを構成するポリビニルアルコール系
樹脂としては、通常、未変性のポリビニルアルコール系樹脂、すなわち、酢酸ビニルを重
合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられる。必要に応じて
、酢酸ビニルと、少量(通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと
共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂を用いることもできる。酢酸ビ
ニルと共重合可能な成分としては、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、塩、エステル、
アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2~30のオレフィン類(例えば、エチレン、プロ
ピレン、n-ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等があげ
られる。また、ケン化後の水酸基を化学修飾して得られる変性ポリビニルアルコール系樹
脂を用いることもできる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0017】
また、ポリビニルアルコール系樹脂として、側鎖に1,2-ジオール構造を有するポリ
ビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。かかる側鎖に1,2-ジオール構造を有
するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4-ジアセトキシ
-1-ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカー
ボネートとの共重合体をケン化および脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2-
ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソランとの共重合体をケン化および脱ケタール
化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化
する方法、等により得られる。
【0018】
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、100,000~300,000で
あることが好ましく、特に好ましくは110,000~280,000、更に好ましくは
120,000~260,000であり、殊に好ましくは150,000~260,00
0である。かかる重量平均分子量が小さすぎるとポリビニルアルコール系樹脂を光学フィ
ルムとする場合に充分な光学性能が得られにくく、高温高湿度下での耐久性能が不十分で
あり、ディスプレイとした際のコントラストと鮮明度に劣る傾向があり、大きすぎるとポ
リビニルアルコール系フィルムを用いて偏光子を製造する際に、延伸が困難となる傾向が
ある。なお、上記ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、GPC-MALS法
により測定される重量平均分子量である。
【0019】
本発明で用いるポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度は、通常98モル%以上で
あることが好ましく、特に好ましくは99モル%以上、更に好ましくは99.5モル%以
上、殊に好ましくは99.8モル%以上である。平均ケン化度が小さすぎるとポリビニル
アルコール系フィルムを偏光子とする場合に充分な光学性能が得られない傾向がある。
ここで、本発明における平均ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定されるも
のである。
【0020】
本発明に用いるポリビニルアルコール系樹脂として、変性種、変性量、重量平均分子量
、平均ケン化度等の異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0021】
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液には、ポリビニルアルコール系樹脂以外に、必要に
応じて、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、トリエチレ
ングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の一般的に使用され
る可塑剤や、ノニオン性、アニオン性、およびカチオン性の少なくとも一つの界面活性剤
を含有させることが、製膜性の点でより好ましい。これらは単独もしくは2種以上併せて
用いることができる。
【0022】
このようにして得られるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の樹脂濃度は、15~60
重量%であることが好ましく、特に好ましくは17~55重量%、更に好ましくは20~
50重量%である。かかる水溶液の樹脂濃度が低すぎると乾燥負荷が大きくなるため生産
能力が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎて均一な溶解ができにくくな
る傾向がある。
【0023】
次に、得られたポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、脱泡処理される。脱泡方法とし
ては、静置脱泡や多軸押出機による脱泡等の方法があげられる。多軸押出機としては、ベ
ントを有した多軸押出機であればよく、通常はベントを有した2軸押出機が用いられる。
【0024】
<工程(B)>
工程(B)はポリビニルアルコール系樹脂の水溶液をキャスト型に流延して製膜する工
程である。
上記脱泡処理ののち、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、一定量ずつT型スリット
ダイに導入され、回転するキャストドラム上に吐出および流延されて、連続キャスト法に
よりフィルムに製膜される。
【0025】
T型スリットダイ出口のポリビニルアルコール系樹脂水溶液の樹脂温度は、80~10
0℃であることが好ましく、特に好ましくは85~98℃である。
かかるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の樹脂温度が低すぎると流動不良となる傾向
があり、高すぎると発泡する傾向がある。
【0026】
かかるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の粘度は、吐出時に、50~200Pa・s
であることが好ましく、70~150Pa・sであることが特に好ましい。
かかる水溶液の粘度が、高すぎると流動不良となる傾向があり、低すぎると流延製膜が
困難となる傾向がある。
【0027】
T型スリットダイからキャストドラムに吐出されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液
の吐出速度は、0.2~5m/分であることが好ましく、特に好ましくは0.4~4m/
分、更に好ましくは0.6~3m/分である。
かかる吐出速度が遅すぎると生産性が低下する傾向があり、速すぎると流延が困難とな
る傾向がある。
【0028】
かかるキャストドラムの直径は、好ましくは2~5m、特に好ましくは2.4~4.5
m、更に好ましくは2.8~4mである。
かかる直径が小さすぎるとキャストドラム上での乾燥区間が短くなることから速度が上
がりにくい傾向があり、大きすぎると輸送性が低下する傾向がある。
【0029】
かかるキャストドラムの幅は、好ましくは4m以上であり、特に好ましくは4.5m以
上、更に好ましくは5m以上、殊に好ましくは5~8mである。
キャストドラムの幅が小さすぎると生産性が低下する傾向がある。
【0030】
かかるキャストドラムの回転速度は、3~50m/分であることが好ましく、特に好ま
しくは7~40m/分、更に好ましくは10~35m/分である。
かかる回転速度が遅すぎると生産性が低下する傾向があり、速すぎると乾燥が不充分と
なる傾向がある。
【0031】
かかるキャストドラムの表面温度は、上限が100℃以下であることが乾燥時の発泡を
抑制でき、外観に優れるフィルムが得られる点で好ましく、特に好ましくは97℃以下、
更に好ましくは95℃以下、殊に好ましくは92℃以下である。
また下限が60℃以上であることが製膜して得られたフィルムをキャスト型から剥離す
る際の剥離性に優れる点で好ましく、特に好ましくは65℃以上、更に好ましくは70℃
以上、殊に好ましくは75℃以上、とりわけ好ましく80℃以上である。
【0032】
かかるキャスト型から剥離した直後のフィルムの水分率は、23%以下であることが好
ましく、21%以下が特に好ましく、20%以下が更に好ましく、10%以下が殊に好ま
しい。水分率が高すぎると、溶け残り結晶率が大きくなる傾向があり、偏光子製造時に高
張力となり、破断が発生しやすくなる傾向があるので延伸性が低く、その影響でホウ酸と
の架橋性が低下し耐久後で透過率や波長430nm透過率と波長730nm透過率の変化
が大きくなる。
ここで上記「溶け残り結晶率」とは、ポリビニルアルコール系フィルムを水に30秒浸
水した際に残存している結晶の割合をいう。
また、剥離した直後の水分率は3%以上であることが好ましく、5%以上が特に好まし
く、7%以上が更に好ましい。水分率が低すぎるとフィルムがカールしやすい傾向がある
【0033】
キャスト型上での水分の蒸発速度は、下限が1.4%/秒以上であることが好ましく、
特に好ましくは1.5%/秒以上、更に好ましくは1.6%/秒以上、殊に好ましくは1
.7%/秒以上である。
また、上限が3.0%/秒以下であることが好ましく、特に好ましくは2.7%/秒以
下、更に好ましくは2.6%/秒以下である。
キャスト型上での水分の蒸発速度が遅すぎると、溶け残り結晶率が大きくなる傾向があ
り、偏光子製造時に高張力となり、破断が発生しやすくなり、また、延伸性が低くなりホ
ウ酸との架橋性が低下し耐久後で透過率や波長430nm透過率と波長730nm透過率
の変化が大きくなる傾向があり、速すぎるとうねりなどの外観不良をまねく傾向がある。
【0034】
<工程(C)>
工程(C)は上記製膜されたフィルムを加熱して乾燥する工程である。
【0035】
キャストドラムから剥離されたフィルム(上記製膜されたフィルム)は、ニップロール
等を用いて流れ方向(MD方向)に搬送され、そのフィルムの表面と裏面とを複数の熱ロ
ールに交互に接触させることにより乾燥される。熱ロールは、例えば、表面をハードクロ
メッキ処理または鏡面処理した、直径0.2~2mのロールであり、通常2~30本、好
ましくは10~25本を用いて乾燥を行うことが好ましい。
【0036】
かかる熱ロールの表面温度は特に限定されないが、通常60~150℃、さらには70
~140℃であることが好ましい。かかる表面温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があ
り、高すぎると乾燥しすぎることとなり、うねりなどの外観不良を招く傾向がある。
【0037】
かかる熱ロール乾燥時間は、上限が60秒以下であることが好ましく、特に好ましくは
55秒以下、更に好ましくは50秒以下、殊に好ましくは45秒以下である。また下限が
20秒以上であることが好ましく、特に好ましくは25秒以上、更に好ましくは27秒以
上、殊に好ましくは30秒以上である。
熱ロール乾燥時間が長くなりすぎると偏光子製造時の染色性が低下する傾向があり、速く
なりすぎると偏光子製造時の膨潤工程でフィルムがシワや折れが発生しやすくなり、偏光
子の外観が低下する傾向がある。
【0038】
<工程(D)>
工程(D)は得られたフィルムを熱風を用いて熱処理する工程である。
上記工程(C)を経たフィルムを、例えばフローティングドライヤー等で熱処理を行な
えばよい。
かかる熱処理の温度は、上限が140℃以下であることが好ましく、特に好ましくは1
37℃以下、更に好ましくは135℃以下、殊に好ましくは130℃以下である。また下
限が100℃以上であることが好ましく、特に好ましくは103℃以上、更に好ましくは
105℃以上、殊に好ましくは110℃以上である。
熱処理温度が高すぎると偏光子製造時の染色性が低下する傾向があり、低くすぎると偏
光子製造時の膨潤工程でフィルムがシワや折れが発生しやすくなり、偏光子の外観が低下
する傾向がある。
また、熱処理時間は20~100秒間であることが好ましく、特に好ましくは40~7
0秒間である。
【0039】
〔ポリビニルアルコール系フィルム〕
かくして上記工程(A)~(D)を経てポリビニルアルコール系フィルムが得られ、最
終的にロールに巻き取られて製品となる。
【0040】
かくして得られるポリビニルアルコール系フィルムの厚みは、下限が10μm以上であ
ることが偏光子の生産安定性の点で好ましく、特に好ましくは15μm以上、更に好まし
くは20μm以上、殊に好ましくは25μm以上である。また上限が70μm以下である
ことがポリビニルアルコール系フィルムから製造した偏光子を用いた液晶ディスプレイの
反り低減の点で好ましく、特に好ましくは60μm以下、更に好ましくは50μm以下、
殊に好ましくは45μm以下である。
【0041】
ポリビニルアルコール系フィルムの長さは、偏光子の大面積化の点から4km以上であ
ることが好ましく、特に好ましくは輸送重量の点から5~50kmである。
【0042】
ポリビニルアルコール系フィルムの幅は、偏光子の幅広化の点で4m以上であることが
好ましく、特に好ましくは5m以上、更に好ましくは、偏光子製造時の破断回避の点から
5~6mである。
上記製造方法により得られたポリビニルアルコール系フィルムは、光学用として有用で
ある。特に、偏光子の原反フィルムとして非常に有用であり、以下、該ポリビニルアルコ
ール系フィルムからなる偏光子、および偏光板の製造方法について説明する。
【0043】
〔ポリビニルアルコール系偏光子の製造方法〕
本発明のポリビニルアルコール系偏光子は、上記製造方法により得られたポリビニルア
ルコール系フィルムを、ロールから繰り出して水平方向に移送し、膨潤、染色、ホウ酸架
橋、延伸、洗浄、乾燥等の工程を経て製造される。
【0044】
膨潤工程は、染色工程の前に施される。膨潤工程により、ポリビニルアルコール系フィ
ルム表面の汚れを洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤
させることで染色ムラ等を防止する効果もある。膨潤工程において、処理液としては、通
常、水が用いられる。当該処理液は、主成分が水であれば、ヨウ化化合物、界面活性剤等
の添加物、アルコール等が入っていてもよい。膨潤浴の温度は、通常10~45℃程度で
あり、膨潤浴への浸漬時間は、通常0.1~10分間程度である。
【0045】
染色工程は、フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによ
って行なわれる。通常は、ヨウ素-ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は
0.1~2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は1~100g/Lが適当である。染色時間は
30~500秒間程度が実用的である。処理浴の温度は5~50℃が好ましい。水溶液に
は、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させてもよい。
【0046】
ホウ酸架橋工程は、ホウ酸やホウ砂等のホウ素化合物を使用して行われる。ホウ素化合
物は水溶液または水-有機溶媒混合液の形で濃度10~100g/L程度で用いられ、液
中にはヨウ化カリウムを共存させるのが、偏光性能の安定化の点で好ましい。処理時の温
度は30~70℃程度、処理時間は0.1~20分間程度が好ましく、また必要に応じて
処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0047】
延伸工程は、フィルムを一軸方向に3~10倍、好ましくは3.5~7倍延伸すること
が好ましい。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度
、またはそれ以上の延伸)を行なっても差し支えない。延伸時の温度は、40~170℃
が好ましい。さらに、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は1段
階のみならず、製造工程において複数回実施してもよい。
【0048】
洗浄工程は、例えば、水やヨウ化カリウム等のヨウ化物水溶液にフィルムを浸漬するこ
とにより行われ、フィルムの表面に発生する析出物を除去することができる。ヨウ化カリ
ウム水溶液を用いる場合のヨウ化カリウム濃度は10~1000g/L程度でよい。洗浄
処理時の温度は、通常、5~50℃、好ましくは10~45℃である。処理時間は、通常
、1~300秒間、好ましくは10~240秒間である。なお、水洗浄とヨウ化カリウム
水溶液による洗浄は、適宜組み合わせて行ってもよい。
【0049】
乾燥工程は、例えば、乾燥機を用いて通常40~100℃で0.1~10分間乾燥する
ことが行われる。かかる乾燥温度としては、70℃以上であることが好ましく、更に好ま
しくは75℃以上、特に好ましくは80℃以上、殊に好ましくは85℃以上である。
【0050】
かくして偏光子が得られるが、かかる偏光子の偏光度は、好ましくは99.90%以上
、より好ましくは99.99%以上である。偏光度が低すぎると液晶ディスプレイにおけ
るコントラストが低下する傾向がある。
なお、偏光度は、一般的に2枚の偏光子を、その配向方向が同一方向になるように重ね
合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H11)と、2枚の偏光子を、配
向方向が互いに直交する方向になる様に重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光
線透過率(H)より、下記式(1)にしたがって算出される。
偏光度=〔(H11-H)/(H11+H)〕1/2 ・・・(1)
【0051】
さらに、本発明の偏光子の単体透過率は、好ましくは42%以上である。かかる単体透
過率が低すぎると液晶ディスプレイの高輝度化を達成できなくなる傾向がある。
単体透過率は、分光光度計を用いて偏光子単体の光線透過率を測定して得られる値であ
る。
【0052】
次に、本発明の偏光子を用いた、本発明の偏光板の製造方法について説明する。
本発明の偏光子は、色ムラが少なく、偏光性能に優れた偏光板を製造するのに好適であ
る。
【0053】
〔偏光板の製造方法〕
本発明の偏光板は、本発明の偏光子の片面または両面に、接着剤を介して、光学的に等
方性な樹脂フィルムを保護フィルムとして貼合することにより、作製される。保護フィル
ムとしては、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなアセチル
セルロース系樹脂からなるフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタ
レート及びポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂からなるフィルム、
ポリカーボネート系樹脂フィルム、シクロオレフィン系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フ
ィルム、ポリプロピレン系樹脂の鎖状オレフィン系樹脂からなるフィルムがあげられる。
【0054】
貼合方法は、公知の手法で行われるが、例えば、液状の接着剤組成物を、偏光子、保護
フィルム、あるいはその両方に、均一に塗布した後、両者を貼り合わせて圧着し、加熱や
活性エネルギー線を照射することで行われる。
【0055】
なお、偏光子の片面または両面に、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂等の
硬化性樹脂を塗布し、硬化して硬化層を形成し、偏光板とすることもできる。このように
すると、上記硬化層が上記保護フィルムの代わりとなり、薄膜化を図ることができる。
【0056】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光子および偏光板は、偏
光性能に優れており、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ
、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フ
ォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サング
ラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、フォルダブルディスプレイ
、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパー等)用反射防止層、光通信機器、
医療機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。
【実施例0057】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えな
い限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0058】
<測定条件>
<ポリビニルアルコール系偏光子のエステル化率>
NMR測定は偏光子を2mm×2mmに裁断して、20mg秤量し重DMSO(DMSO-d
6)を添加して90℃10分間加熱した後、Bruker社製AVANCE NEO40
0分光計を用いて、4mmMASプローブを装着して、23℃で90°パルス幅5μs、
シングルパルス、パルス間隔10秒、積算回数64回に設定し、10000Hzの高速マ
ジックアングルスピニング下で測定した。
得られたNMR測定結果について、重ジメチルスルホキシドのメチルを2.5ppmと
して2.2~1.9ppmの主鎖メチレン(CH)の積分値を2.00とした場合に、
5.0~4.2ppmの積分値をa、7.5~6.8ppmの積分値をbとし、下記式(
1)よりエステル化率を求めた。
式(1):エステル化率(単位%)=100×(1-a)/((1-a)+b)
【0059】
<高温高湿度下の耐久性能>
作製した偏光板を3cm×3cmで切り出した後、偏光板とGlassを両面粘着フィ
ルムで貼り付けた試験片を作製したのち初期の直交透過率を測定した。次いで試験片を6
0℃90%RHに設定した恒温恒湿機で500Hr耐久試験にかけた後、1時間24℃/5
0%RH条件で保管後の直交透過率を測定した。上記測定値を用いて、耐久試験前後の波
長700nmおよび430nmにおける直交透過率の変化量(耐久試験後直交透過率-初
期直交透過率)をそれぞれ求めた。
<初期透過率44%の偏光板>
(評価)
〇:TC430nmとTC700nmでの直交透過率変化量がいずれも3以下である。
×:TC430nmとTC700nmでの直交透過率変化量の両方もしくは一方が3よ
り大きい。
<初期透過率42.5%の偏光板>
(評価)
〇:TC430nmとTC700nmでの直交透過率変化量がいずれも0.2以下であ
る。
×:TC430nmとTC700nmでの直交透過率変化量の両方もしくは一方が0.
2より大きい。
【0060】
<実施例1>
(ポリビニルアルコール系フィルムの作製)
500Lの溶解缶に、重量平均分子量123000、ケン化度99.8モル%のポリビ
ニルアルコール系樹脂100kg、水300kg、可塑剤としてグリセリン11.5kg
、及び界面活性剤としてドデシルスルホン酸ナトリウム0.03kgを入れ、撹拌しなが
ら150℃まで昇温して加圧溶解を行い、樹脂濃度29.0質量%のポリビニルアルコー
ル系樹脂水溶液を得た。
次に該ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、ベントを有する2軸押出機に供給して脱
泡した後、水溶液温度を95℃にし、T型スリットダイ吐出口より、回転するキャスト型
温度84℃に吐出及び流延し、水分の蒸発速度は1.8%/sで製膜した。得られたフィ
ルムをキャスト型から剥離した直後のフィルムの水分率は10質量%であった。次に、フ
ィルムの表面と裏面とを合計10本の熱ロールに交互に接触させながら乾燥を行い、さら
に、フィルム両面から121℃の熱風を吹き付けて熱処理を行った後、最後にスリットし
て巻き取り、ロール状のポリビニルアルコール系フィルムを得た(フィルム厚30μm、
幅0.6m、長さ1km)。
(ポリビニルアルコール系偏光子の作製)
得られたポリビニルアルコール系フィルムをロールから繰り出し、水平方向に搬送しな
がら、水温25℃の水槽に浸漬して膨潤させながら流れ方向(MD)に元の原反を基準と
して1.6倍に延伸した。かかる膨潤工程で、フィルムに折れや皺は発生しなかった。次
に、最終的に得られる偏光子の単体透過率が43.6%となるようにヨウ素量を調整し、
ヨウ化カリウム30g/Lを含む組成の水溶液(28℃)中に浸漬して染色しながら流れ方
向(MD方向)に元の原反を基準として2.3倍になるように延伸し、ついでホウ酸30
g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(57℃)に浸漬してホウ酸架橋しな
がら流れ方向(MD方向)に元の原反を基準として6.00倍まで一軸延伸した。最後に
、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄を行い、80℃で乾燥してポリビニルアルコール系偏光子
を得た。偏光子の偏光性能は表1に示される通りであった。
(偏光版の作製)
得られたポリビニルアルコール系偏光子に上側と下側に水系接着剤を塗工した後、保護
フィルムとして40μmのTACを貼合させた後、80℃の乾燥機で乾燥させて、単体透
過化率が44%の偏光板を取得した。得られた偏光板を用いて耐久性評価を行なった。結
果は表2に示される通りであった。
【0061】
<実施例2>
(ポリビニルアルコール系フィルムの作製)
500Lの溶解缶に、重量平均分子量156,000、ケン化度99.8モル%のポリ
ビニルアルコール系樹脂100kg、水300kg、可塑剤としてグリセリン11.5k
g、及び界面活性剤としてドデシルスルホン酸ナトリウム0.03kgを入れ、撹拌しな
がら150℃まで昇温して加圧溶解を行い、樹脂濃度26.0質量%のポリビニルアルコ
ール系樹脂水溶液を得た。
次に該ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、ベントを有する2軸押出機に供給して脱
泡した後、水溶液温度を95℃にし、T型スリットダイ吐出口より、回転するキャスト型
温度69℃に吐出及び流延し、水分の蒸発速度は1.6%/sで製膜した。得られたフィ
ルムをキャスト型から剥離した直後のフィルムの水分率は20質量%であった。次に、フ
ィルムの表面と裏面とを合計10本の熱ロールに交互に接触させながら乾燥を行い、さら
に、フィルム両面から127℃の熱風を吹き付けて熱処理を行った後、最後にスリットし
て巻き取り、ロール状のポリビニルアルコール系フィルムを得た(フィルム厚30μm、
幅0.6m、長さ1km)。
(偏光子の作製)
得られたポリビニルアルコール系フィルムをロールから繰り出し、水平方向に搬送しな
がら、水温25℃の水槽に浸漬して膨潤させながら流れ方向(MD)に元の原反を基準と
して1.6倍に延伸した。かかる膨潤工程で、フィルムに折れや皺は発生しなかった。次
に、最終的に得られる偏光子の単体透過率が43.6%となるようにヨウ素量を調整し、
ヨウ化カリウム30g/Lを含む組成の水溶液(28℃)中に浸漬して染色しながら流れ方
向(MD方向)に元の原反を基準として2.3倍になるように延伸し、ついでホウ酸30
g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(61℃)に浸漬してホウ酸架橋しな
がら流れ方向(MD方向)に元の原反を基準として5.70倍まで一軸延伸した。最後に
、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄を行い、80℃で乾燥して偏光子を得た。偏光子の偏光性
能は表1に示される通りであった。
(偏光版の作製)
得られた偏光子に上側と下側に水系接着剤を塗工した後、保護フィルムとして40μm
TACを貼合させた後、80℃の乾燥機で乾燥させて、単体透過化率が44%の偏光板を
取得した。得られた偏光板を用いて耐久性評価を行なった。結果は表2に示される通りで
あった。
【0062】
<比較例1>
(ポリビニルアルコール系フィルムの作製)
500Lの溶解缶に、重量平均分子量123000、ケン化度99.8モル%のポリビ
ニルアルコール系樹脂100kg、水300kg、可塑剤としてグリセリン11.5kg
、及び界面活性剤としてドデシルスルホン酸ナトリウム0.03kgを入れ、撹拌しなが
ら150℃まで昇温して加圧溶解を行い、樹脂濃度29.0質量%のポリビニルアルコー
ル系樹脂水溶液を得た。
次に該ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、ベントを有する2軸押出機に供給して脱
泡した後、水溶液温度を95℃にし、T型スリットダイ吐出口より、回転するキャスト型
温度65℃に吐出及び流延し、水分の蒸発速度は1.5%/sで製膜した。得られたフィ
ルムをキャスト型から剥離した直後のフィルムの水分率は21質量%であった。次に、フ
ィルムの表面と裏面とを合計10本の熱ロールに交互に接触させながら乾燥を行い、さら
に、フィルム両面から127℃の熱風を吹き付けて熱処理を行った後、最後にスリットし
て巻き取り、ロール状のポリビニルアルコール系フィルムを得た(フィルム厚30μm、
幅0.6m、長さ1km)。
(偏光子の作製)
得られたポリビニルアルコール系フィルムをロールから繰り出し、水平方向に搬送しな
がら、水温25℃の水槽に浸漬して膨潤させながら流れ方向(MD)に元の原反を基準と
して1.6倍に延伸した。かかる膨潤工程で、フィルムに折れや皺は発生しなかった。次
に、最終的に得られる偏光子の単体透過率が43.6%となるようにヨウ素量を調整し、
ヨウ化カリウム30g/Lを含む組成の水溶液(28℃)中に浸漬して染色しながら流れ方
向(MD方向)に元の原反を基準として2.3倍になるように延伸し、ついでホウ酸30
g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(57℃)に浸漬してホウ酸架橋しな
がら流れ方向(MD方向)に元の原反を基準として5.70倍まで一軸延伸した。最後に
、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄を行い、80℃で乾燥して偏光子を得た。偏光子の偏光性
能は表1に示される通りであった。
(偏光版の作製)
得られた偏光子に上側と下側に水系接着剤を塗工した後、保護フィルムとして40μm
TACを貼合させた後、80℃の乾燥機で乾燥させて、単体透過化率が44%の偏光板を
取得した。得られた偏光板を用いて耐久性評価を行なった。結果は表2に示される通りで
あった。
【0063】
<実施例3>
偏光子作製時の延伸倍率を5.85倍、乾燥温度を90℃に変更し、また偏光板の透過
率を42.5%で作製した以外には比較例1と同様にして、ポリビニルアルコール系偏光
子および偏光板を得た。得られた偏光子の偏光性能は表1に示される通りであり、得られ
た偏光板を用いて耐久性評価を行なった結果は表2に示される通りであった。
【0064】
<比較例2>
偏光子作製時の乾燥温度を80℃に変更した以外には実施例3と同様にして、ポリビニ
ルアルコール系偏光子および偏光板を得た。得られた偏光子の偏光性能は表1に示される
通りであり、得られた偏光板を用いて耐久性評価を行なった結果は表2に示される通りで
あった。
【0065】
<比較例3>
偏光子作製時の延伸温度58.5℃、延伸倍率6.0倍、乾燥温度80℃に変更した以
外には実施例3と同様にして、ポリビニルアルコール系偏光子および偏光板を得た。得ら
れた偏光子の偏光性能は表1に示される通りであり、得られた偏光板を用いて耐久性評価
を行なった結果は表2に示される通りであった。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
偏光板の初期透過率が44%である実施例1、2と比較例1との対比より、エステル化
率が本願規定の範囲内である実施例1および2のポリビニルアルコール系偏光子を用いる
と、高温高湿度の過酷な環境条件下でも波長430nm透過率と波長700nm透過率の
変化が少なくコントラストと鮮明度にバランスよく優れるディスプレイを得ることができ
る偏光板が得られることがわかる。
同様に、偏光板の初期透過率が42.5%である実施例3と比較例2,3との対比のい
ても、エステル化率が本願規定の範囲内である実施例3のポリビニルアルコール系偏光子
を用いると、高温高湿度の過酷な環境条件下でも波長430nm透過率と波長700nm
透過率の変化が少なくコントラストと鮮明度にバランスよく優れるディスプレイを得るこ
とができる偏光板が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明ポリビニルアルコール系偏光子およびそれを用いてなる偏光板は、偏光性能に優
れており、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上
計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバ
ム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防眩
メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、フォルダブルディスプレイ、ローラブ
ルテレビ、ローラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパ
ー等)用反射防止膜、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。