(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133824
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】シラン架橋性樹脂組成物、シラン架橋樹脂成形体及びそれらの製造方法、並びに、成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 23/02 20060101AFI20240926BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240926BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240926BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240926BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20240926BHJP
C08L 25/10 20060101ALI20240926BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240926BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08L23/02
C08K3/26
C08K3/22
C08K3/34
C08K5/54
C08L25/10
C08L53/02
C08L91/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043805
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】西口 雅己
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE001
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB061
4J002BB071
4J002BB101
4J002BB121
4J002BB151
4J002BC051
4J002BL011
4J002DE146
4J002DE226
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002EX017
4J002FD016
4J002FD207
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】優れた耐熱性及び引張強さを維持しながらも、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性及び柔軟性をも兼備するシラン架橋樹脂成形体、及びこれを形成可能なシラン架橋性樹脂組成物、これらの製造方法、並びに、シラン架橋樹脂成形体を含む成形品を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有する特定の組成を持つベース樹脂100質量部と、金属炭酸塩10~35質量部、ベーマイト20~55質量部及びシリカ等45~90質量部を含む無機フィラー100~150質量部と、シランカップリング剤2~10質量部と、有機過酸化物0.01~0.3質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して混合物を調製する工程(1)を有する製造方法、これにより製造されるシラン架橋樹脂成形体及びシラン架橋性樹脂組成物、並びに、成形品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.3質量部と、無機フィラー100~150質量部と、シランカップリング剤2~10質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して混合物を得る工程(1)を有する、シラン架橋性樹脂組成物の製造方法であって、
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、前記ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、前記エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有し、
前記無機フィラーが、金属炭酸塩10~35質量部と、ベーマイト20~55質量部と、シリカ及び/又は焼成クレー45~90質量部とを、前記無機フィラーの前記混合量の範囲内で、含有し、
前記工程(1)を行うに当たって、下記工程(a-2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有し、一方、下記工程(a-2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋性樹脂組成物の製造方法。
工程(a-1):前記無機フィラー及び前記シランカップリング剤を混合して、混合
物を調製する工程
工程(a-2):前記混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを、前記有機過酸化
物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶
融混合して、シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触
媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マ
スターバッチとを溶融混合する工程
【請求項2】
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する、シラン架橋樹脂成形体の製造方法であって、
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.3質量
部と、無機フィラー100~150質量部と、シランカップリング剤2
~10質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、混合物を得る
工程
工程(2):前記工程(1)で得られた混合物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):前記工程(2)で得られた成形体を水と接触させて、シラン架橋樹脂成
形体を得る工程
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、前記ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、前記エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有し、
前記無機フィラーが、金属炭酸塩10~35質量部と、ベーマイト20~55質量部と、シリカ及び/又は焼成クレー45~90質量部とを、前記無機フィラーの前記混合量の範囲内で、含有し、
前記工程(1)を行うに当たって、下記工程(a-2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有し、一方、下記工程(a-2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(a-1):前記無機フィラー及び前記シランカップリング剤を混合して、混合
物を調製する工程
工程(a-2):前記混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを、前記有機過酸化
物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶
融混合して、シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触
媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マ
スターバッチとを溶融混合する工程
【請求項3】
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂50質量%以下と、エチレンゴム10~100質量%と、スチレン系エラストマー35質量%以下と、オイル40質量%以下とを含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂50質量%以下と、エチレンゴム10~100質量%と、スチレン系エラストマー35質量%以下と、オイル40質量%以下とを含有する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂20~40質量%と、エチレンゴム10~45質量%と、スチレン系エラストマー10~35質量%と、オイル20~40質量%とを含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂20~40質量%と、エチレンゴム10~45質量%と、スチレン系エラストマー10~35質量%と、オイル20~40質量%とを含有する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1、3及び5のいずれか1項に記載された製造方法により製造されたシラン架橋性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項2、4及び6のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたシラン架橋樹脂成形体。
【請求項9】
請求項8に記載のシラン架橋樹脂成形体を含む成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン架橋性樹脂組成物、シラン架橋樹脂成形体及びそれらの製造方法、並びに、成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器分野や産業分野に使用される、絶縁電線、ケーブル、コード、光ファイバー心線又は光ファイバーコード(光ファイバーケーブル)等の配線材に設けられる被覆層(絶縁体、シース等)として、また、パッキン、シート等の各種成形品として、種々の樹脂成形品又はゴム成形品が使用されている。このような成形品には、用途や使用形態に応じて種々の特性が求められており、例えば、外観特性、強度(例えば引張強さ)、更に配線材用の被覆層等については安全性や信頼性の観点から耐熱性等が求められている。
このような成形品には、無機フィラーを含有し、樹脂若しくはゴムを化学架橋させた組成物(成形体)が用いられている。樹脂若しくはゴムの架橋方法として、電子線架橋法、化学架橋法等が採用されている。化学架橋法の中でも、シラン架橋法は、架橋工程にて特殊な設備を要しないため、他の架橋方法に比べて製造上有利である。
【0003】
無機フィラーを含有し、樹脂等をシラン架橋させた成形体及びその製造方法(樹脂等のシラン架橋法)は、種々検討されており、例えば、特許文献1~3に記載された成形体及びその製造方法が挙げられる。具体的には、特許文献1及び2には、難燃剤としても機能しうる好適な無機フィラーとして、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物や炭酸カルシウム等を単独で又は併用したシラン架橋法及びシラン架橋樹脂成形体が記載されている。一方、特許文献3には、水酸化アルミニウムの問題点を解消しうる無機フィラーとしてベーマイトを単独で用いたシラン架橋法及びシラン架橋樹脂成形体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/046477号
【特許文献2】国際公開第2015/046478号
【特許文献3】特開2017-179235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成形品のなかでも、とりわけ屋外で使用される成形品、例えば屋外用配線材に設けられる被覆層は、耐熱性及び機械特性(引張強さ)に加えて、風雨等に晒されるため、高い絶縁抵抗を長期間維持する特性(長期絶縁特性ということがある。)、トラッキング現象の発生を抑制する特性(耐トラッキング性ということがある。)、耐潮解性(耐酸性ともいう。)、更に柔軟性等の特性が求められる。しかし、特許文献1~3においては、上記観点からの検討はなされていない。
【0006】
本発明は、優れた耐熱性及び引張強さを維持しながらも、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性及び柔軟性をも兼備するシラン架橋樹脂成形体、及びその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、上述の優れた特性を兼備するシラン架橋樹脂成形体を形成可能なシラン架橋性樹脂組成物及びその製造方法を提供することを課題とする。
更に、本発明は、上述の優れた特性を兼備するシラン架橋樹脂成形体を含む成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の割合で有機過酸化物を用いる特定のシラン架橋法において、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有する特定の組成を持つベース樹脂100質量部に対して、特定の割合のシランカップリング剤と、特定の割合で金属炭酸塩、ベーマイト及びシリカ等を100~150質量部の総混合量で組み合わせた無機フィラーとを用いることにより、優れた耐熱性及び引張強さを維持しながらも、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性及び柔軟性をも兼備するシラン架橋樹脂成形体を実現できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.3質量部と、無機フィラー100~150質量部と、シランカップリング剤2~10質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して混合物を得る工程(1)を有する、シラン架橋性樹脂組成物の製造方法であって、
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、前記ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、前記エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有し、
前記無機フィラーが、金属炭酸塩10~35質量部と、ベーマイト20~55質量部と、シリカ及び/又は焼成クレー45~90質量部とを、前記無機フィラーの前記混合量の範囲内で、含有し、
前記工程(1)を行うに当たって、下記工程(a-2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有し、一方、下記工程(a-2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋性樹脂組成物の製造方法。
工程(a-1):前記無機フィラー及び前記シランカップリング剤を混合して、混合
物を調製する工程
工程(a-2):前記混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを、前記有機過酸化
物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶
融混合して、シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触
媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マ
スターバッチとを溶融混合する工程
<2>下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する、シラン架橋樹脂成形体の製造方法であって、
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.3質量
部と、無機フィラー100~150質量部と、シランカップリング剤2
~10質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、混合物を得る
工程
工程(2):前記工程(1)で得られた混合物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):前記工程(2)で得られた成形体を水と接触させて、シラン架橋樹脂成
形体を得る工程
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、前記ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、前記エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有し、
前記無機フィラーが、金属炭酸塩10~35質量部と、ベーマイト20~55質量部と、シリカ及び/又は焼成クレー45~90質量部とを、前記無機フィラーの前記混合量の範囲内で、含有し、
前記工程(1)を行うに当たって、下記工程(a-2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有し、一方、下記工程(a-2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(a-1):前記無機フィラー及び前記シランカップリング剤を混合して、混合
物を調製する工程
工程(a-2):前記混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを、前記有機過酸化
物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶
融混合して、シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触
媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マ
スターバッチとを溶融混合する工程
<3>前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂50質量%以下と、エチレンゴム10~100質量%と、スチレン系エラストマー35質量%以下と、オイル40質量%以下とを含有する、<1>に記載の製造方法。
<4>前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂50質量%以下と、エチレンゴム10~100質量%と、スチレン系エラストマー35質量%以下と、オイル40質量%以下とを含有する、<2>に記載の製造方法。
<5>前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂20~40質量%と、エチレンゴム10~45質量%と、スチレン系エラストマー10~35質量%と、オイル20~40質量%とを含有する、<1>又は<3>に記載の製造方法。
<6>前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂20~40質量%と、エチレンゴム10~45質量%と、スチレン系エラストマー10~35質量%と、オイル20~40質量%とを含有する、<2>又は<4>に記載の製造方法。
<7>上記<1>、<3>及び<5>のいずれか1項に記載された製造方法により製造されたシラン架橋性樹脂組成物。
<8>上記<2>、<4>及び<6>のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたシラン架橋樹脂成形体。
<9>上記<8>に記載のシラン架橋樹脂成形体を含む成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、優れた耐熱性及び引張強さを維持しながらも、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性及び柔軟性をも兼備するシラン架橋樹脂成形体、及びその製造方法を提供できる。
また、本発明は、上述の優れた特性を兼備するシラン架橋樹脂成形体を形成可能なシラン架橋性樹脂組成物及びその製造方法を提供できる。
更に、本発明は、上述の優れた特性を兼備するシラン架橋樹脂成形体を含む成形品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、成分の含有量、物性等について、数値範囲を示して説明する場合において、数値範囲の上限値及び下限値を別々に説明するときは、いずれかの上限値及び下限値を適宜に組み合わせて、特定の数値範囲とすることができる。一方、「~」を用いて表される数値範囲を複数設定して説明するときは、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、特定の数値範囲として「~」の前後に記載された特定の組み合わせに限定されず、各数値範囲の上限値と下限値とを適宜に組み合わせた数値範囲とすることができる。なお、本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本発明において、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸及びメタアクリル酸のいずれか一方又は両方を表し、「(メタ)アクリル酸エステル」はアクリル酸エステル及びメタアクリル酸エステルのいずれか一方又は両方を表す。
【0011】
[シラン架橋性樹脂組成物]
本発明のシラン架橋性樹脂組成物の製造方法により好適に製造されるシラン架橋性樹脂組成物(便宜的に、本発明のシラン架橋性樹脂組成物ということがある。)は、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及びオイルを40質量%以下の割合で含有するベース樹脂100質量部に対して、このベース樹脂にグラフト化結合しているシランカップリング剤2~10質量部と、無機フィラー100~150質量部と、シラノール縮合触媒とを含有している。ここで、無機フィラーとしては、金属炭酸塩10~35質量部と、ベーマイト20~55質量部と、シリカ及び/又は焼成クレー45~90質量部とを、上記の無機フィラーの混合量(総混合量又は総含有量ともいう。)である100~150質量部の範囲内で、含有している。このシラン架橋性樹脂組成物は、発明のシラン架橋性樹脂組成物の製造方法以外にも、上記各成分を適宜に混合して調製することができる。
【0012】
詳細については後述するが、本発明のシラン架橋性樹脂組成物は、無機フィラーと結合若しくは解離したシランカップリング剤とベース樹脂とがグラフト化結合(グラフト化反応)したシラン架橋性樹脂を、無機フィラーとともに、含有している。
【0013】
このシラン架橋性樹脂組成物は、化学架橋管や電子線架橋機等の特別な架橋設備を不要としながらも温和な条件でシラノール縮合反応を生起して、耐熱性、引張強さ、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性及び柔軟性のいずれにも優れたシラン架橋樹脂成形体を、優れた製造性で、製造できる。また、上記優れた特性を維持しつつ外観にも優れたシラン架橋樹脂成形体をも製造できる。そのため、シラン架橋性樹脂組成物は、本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法、又は本発明のシラン架橋樹脂成形品に、好適に用いられる。
【0014】
[シラン架橋樹脂成形体]
本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法により好適に製造されるシラン架橋樹脂成形体(便宜的に、本発明のシラン架橋樹脂成形体ということがある。)は、本発明のシラン架橋性樹脂組成物を成形後にシラン架橋(シラノール縮合反応)させて得られる架橋樹脂成形体(シラン架橋性樹脂組成物のシラノール縮合物からなる成形体)である。
【0015】
詳細については後述するが、本発明のシラン架橋樹脂成形体は、ベース樹脂がシラン架橋した架橋構造(シランカップリング剤又はそのシラノール縮合物を介した架橋構造)を有している。この架橋構造の一部には、後述するように、無機フィラーが組み込まれていると考えられる。そのため、本発明のシラン架橋樹脂成形体は、後述するように、ベース樹脂同士の(無機フィラーを介さない)架橋構造と無機フィラーを巻き込んだ架橋構造とをバランスよく構築して、耐熱性、引張強さ、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性及び柔軟性をバランスよく発現する。
本発明のシラン架橋樹脂成形体は、用途、例えば、後述する本発明の成形品の用途に応じて、適宜の形状及び寸法に成形されている。
【0016】
本発明に用いる各成分について説明する。
各成分は、それぞれ、1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
<ベース樹脂>
本発明に用いるベース樹脂は、必須成分として、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、好ましい成分として、スチレン系エラストマー及び/又はオイルを含有し、更に、任意成分として、これら以外の樹脂若しくは各種ゴムを適宜に含有していてもよい。なお、本発明において、成形体及び組成物がエチレンゴムを含有する場合においても、便宜上、樹脂成形体、樹脂組成物等と称するが、本発明の技術的範囲からゴム成形体及びゴム組成物を排斥するものではない。
ベース樹脂は、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有している。ベース樹脂が上記組成を有することにより、後述する無機フィラーと併用することによって、優れた耐熱性及び引張強さを維持しながらも、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性及び柔軟性をも兼備する(以下、単に「上記6特性を兼備する」ということがある。)シラン架橋樹脂成形体を実現できる。
【0018】
(重合体成分)
ベース樹脂に含まれうる重合体成分のうちの少なくとも1種は、有機過酸化物の存在下で、後述するシランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有するものが用いられる。グラフト化反応可能な部位としては、例えば、炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子が挙げられる。
このような重合体成分として、ポリオレフィン樹脂、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーが挙げられる。本発明においては、ベース樹脂として、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、ポリオレフィン樹脂、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーのうちいずれか2つを含有していることが好ましく、すべてを含有していることがより好ましい。
【0019】
- ポリオレフィン樹脂 -
ポリオレフィン樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物(オレフィン化合物)を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂であれば特に限定されるものではなく、各種の樹脂組成物に使用されている公知のものを使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリプロピレンとエチレン-α-オレフィン樹脂とのブロック共重合体、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体の各樹脂が挙げられる。また、これら共重合体のゴムないしはエラストマー(エチレンゴム及びスチレン系エラストマーを除く)等も挙げられ、例えばアクリルゴムが挙げられる。
【0020】
ポリエチレン樹脂(PE)は、エチレン成分を主成分とする重合体の樹脂であれば特に限定されない。例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)の各樹脂が挙げられる。中でも、直鎖型低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンの各樹脂が好ましい。
【0021】
ポリプロピレン樹脂(PP)は、プロピレン成分を主成分とする重合体の樹脂であれば特に限定されない。例えば、プロピレンの単独重合体のほか、ランダムポリプロピレン及びブロックポリプロピレンの各樹脂が挙げられる。
【0022】
エチレン-α-オレフィン共重合体としては、好ましくは、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体(なお、上記ポリエチレン及びポリプロピレンに含まれるものを除く。)が挙げられる。
【0023】
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体における酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を導く化合物としては、特に限定されず、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸化合物、並びに、酢酸ビニル及び(メタ)アクリル酸エステル等の酸エステル化合物等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に制限されないが、(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基としては、炭素数1~12のものが好ましい。酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体の樹脂(ポリエチレン樹脂に含まれるものを除く。)としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等の各樹脂が挙げられる。エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体の樹脂としては、具体的には、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体(EBA)の各樹脂が挙げられる。
【0024】
アクリルゴム(ACM)としては、特に限定されないが、構成成分として、アクリル酸エチル又はアクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルと、不飽和炭化水素又は各種官能基を有する単量体とを共重合させて得られる共重合体からなるゴム弾性体が好ましい。アクリル酸アルキルと共重合させる単量体としては、特に限定されないが、エチレン、2-クロルエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル又はブタジエン等を挙げることができる。
【0025】
ポリオレフィン樹脂としては、用途又は必要な特性に応じて、上述の各樹脂を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
- エチレンゴム -
エチレンゴムとしては、エチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して得られる共重合体からなるゴム(エラストマーを含む。)であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα-オレフィンとの共重合体、エチレンとα-オレフィンとジエンとの三元共重合体からなるゴムが挙げられる。三元共重合体は、エチレンとα-オレフィンと共役ジエンとの三元共重合体、及び、エチレンとα-オレフィンと非共役ジエンとの三元共重合体等が挙げられる。
α-オレフィンとしては、炭素数3~12の各α-オレフィンが好ましい。また、三元共重合体を構成するジエン化合物は、特に制限されず、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエン化合物、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等の非共役ジエン化合物等が挙げられ、非共役ジエン化合物が好ましい。
二元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)が好ましく、三元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が好ましい。
エチレンゴムは、共重合体中のエチレン構成成分量(エチレン含有量という)が45~75質量%が好ましい。エチレン含有量は、ASTM D3900に記載の方法に準拠して、測定される値である。ベース樹脂中のエチレンゴムの含有量が60質量部以上である場合、エチレンゴムのジエン構成成分量(ジエン含有量という)は0~7質量%が好ましい。ジエン含有量は、例えば赤外線吸収分光法(FT-IR)、プロトンNMR(1H-NMR)法等で測定できる。
【0027】
- スチレン系エラストマー -
スチレン系エラストマーは、分子内に芳香族ビニル化合物に由来する構成成分を有する重合体からなるエラストマーをいう。このようなスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、p-(t-ブチル)スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p-(t-ブチル)スチレン等が挙げられる。共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられる。
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SIS、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素化SBS、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)等からなるものを挙げることができる。
【0028】
- オイル -
ベース樹脂が含有しうるオイルは、特に限定されないが、有機油又は鉱物油が挙げられる。ベース樹脂がオイルを含有していると、ブツ(表面に突出したツブ状物)の発生を抑制して優れた外観を有するシラン架橋樹脂成形体を製造することができる。
有機油又は鉱物油としては、例えば、大豆油、パラフィンオイル、ナフテンオイル、アロマオイルが挙げられ、パラフィンオイル又はナフテンオイルが好ましく、機械強さの点でパラフィンオイルがより好ましい。
【0029】
(ベース樹脂の組成)
ベース樹脂は、ベース樹脂中の各成分の含有率の合計を100質量%としたときに、ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有する。
ベース樹脂中のポリオレフィン樹脂の含有率は、50質量%以下であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましく、22~32質量%であることが更に好ましい。ベース樹脂中のポリエチレン樹脂の含有率は、特に制限されず、上記ポリオレフィン樹脂の含有率を考慮して適宜に設定され、例えば、0~25質量%であることが好ましく、12~22質量%であることがより好ましい。同様に、ベース樹脂中のポリプロピレン樹脂の含有率は、特に制限されず、上記ポリオレフィン樹脂の含有率を考慮して適宜に設定され、例えば、25質量%以下であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。
ベース樹脂中のエチレンゴムの含有率は、10~100質量%であることが好ましく、10~45質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることが更に好ましい。
ベース樹脂中のスチレン系エラストマーの含有率は、特に引張強さの点で35質量%以下であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることが更に好ましい。
ベース樹脂中のオイルの含有率は、特に引張強さの点で40質量%以下であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましく、22~32質量%であることが更に好ましい。
ベース樹脂中の組成(各成分の含有率の組み合わせ)は、上述の各成分について、適宜の含有率(数値範囲)を組み合わせて、決定することができる。例えば、ベース樹脂の組成は、ポリオレフィン樹脂を50質量%以下、エチレンゴムを10~100質量%、スチレン系エラストマーを35質量%以下及びオイルを40質量%以下とすることが好ましく、ポリオレフィン樹脂を20~40質量%、エチレンゴムを10~45質量%、スチレン系エラストマーを10~35質量%及びオイルを20~40質量%とすることが更に好ましい。
ベース樹脂の組成を上記通りにすることにより、上記6特性をバランスよく兼備することができる。
【0030】
なお、ベース樹脂は、他の成分、例えば、後述する各種添加剤、溶媒等を含有していてもよい。
【0031】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、熱分解によってラジカルを発生することにより、シランカップリング剤とベース樹脂とのグラフト化反応(シランカップリング剤のグラフト化反応部位とベース樹脂のグラフト化反応可能な部位との共有結合形成反応であって、(ラジカル)付加反応ともいう。)を生起、促進させる機能を有する。有機過酸化物としては、特に制限はなく、例えば、一般式:R1-OO-R2、R3-OO-C(=O)R4、R5C(=O)-OO(C=O)R6で表される化合物が好ましい。ここで、R1~R6は各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR1~R6のうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0032】
有機過酸化物の分解温度は、特開2016-121203号公報に記載の方法で測定した分解温度として、80~195℃であるのが好ましく、125~180℃であるのが特に好ましい。
このような有機過酸化物としては、例えば、特開2016-121203号公報の段落[0036]に記載の有機過酸化物が挙げられ、この記載はここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。なかでも、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25B)、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
【0033】
<無機フィラー>
本発明に用いる無機フィラーとしては、金属炭酸塩と、ベーマイトと、シリカ及び/又は焼成クレーとを含み、更にこれら以外の無機フィラーを含んでもよい。上述の3種又は4種の無機フィラーを、上記ベース樹脂と併用することにより、優れた耐熱性及び引張強さを維持しながらも、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性及び柔軟性をも兼備するシラン架橋樹脂成形体を実現できる。
無機フィラーとしては、耐熱性、引張強さ、長期絶縁特性、耐トラッキング性及び耐潮解性を維持しながら柔軟性を高度に高めることができる点で、シリカを金属炭酸塩及びベーマイトと併用することが好ましい。
【0034】
- 金属炭酸塩 -
金属炭酸塩は、金属の炭酸塩であれば特に制限なく用いることができ、例えば、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩等が挙げられ、アルカリ土類金属の炭酸塩が好ましい。アルカリ土類金属の炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等が挙げられ、炭酸カルシウムが好ましい。金属炭酸塩は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
金属炭酸塩の平均粒径は、0.2~10μmが好ましく、0.3~8μmがより好ましく、0.4~5μmが更に好ましく、0.4~3μmが特に好ましい。平均粒径が小さすぎると、シランカップリング剤との混合時に2次凝集を引き起こして、成形体の外観が低下し、又はブツを生じるおそれがある。一方、大きすぎると、外観が低下したり、シランカップリング剤の保持効果が低下し、架橋に問題が生じたりするおそれがある。平均粒径は、金属炭酸塩をアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0035】
- ベーマイト -
ベーマイトとは、酸化アルミニウム水和物(Al2O3・H2O)のことをいう。ベーマイトは、その表面に、シランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位と水素結合若しくは共有結合等又は分子間結合により化学結合しうる部位を有している。このような化学結合しうる部位としては、特に制限されないが、OH基(水酸基、含水若しくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
本発明において、ベーマイトは、シランカップリング剤を保持し、フィラー又は難燃剤として作用する。ベーマイトは表面未処理で使用することが好ましい。
ベーマイトの平均2次粒径は、特に限定されないが、0.3~5μmが好ましく、0.4~2μmがより好ましい。平均2次粒径が0.3~5μmであると、例えば伸びと強度を損なうことなく、難燃性を付与することができる。また、外観に優れたものとなる。平均2次粒径は、ベーマイトをアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
ベーマイトの形状は、特に限定されず、粒状、板状、針状などのものを使用することができ、板状のものが好ましい。板状である場合、アスペクト比は、1~60が好ましく、強度と柔軟性のバランスの観点から、1~3が好ましい。
ベーマイトのBET比表面積は、特に限定されないが、引張強さ又は柔軟性の点で、0.8~30m2/gが好ましく、1.2~25m2/gがより好ましい。BET比表面積は、JIS Z 8830:2013の「キャリアガス法」に準拠して、吸着質として窒素ガスを用いて、測定される値である。例えば、比表面積・細孔分布測定装置「フローソーブ」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0036】
- シリカ -
シリカとしては、特に限定されず、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、また、溶融法で製造されたシリカ、湿式法で製造されたシリカ、乾式法で製造されたシリカ、更には高純度の天然石英を破砕して生成したシリカ粉末等のいずれも用いることができる。シリカとしては、結晶性シリカ、高純度の天然石英を破砕して生成したシリカ粉末が好ましい。シリカは、その表面に、シランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位と化学結合しうる部位を有している。
シリカの平均粒径(測定方法は金属炭酸塩と同じ。以下、同様。)は、5μm以下であることが好ましい。シリカの平均粒径が5μm以下であると、特に機械特性、押出外観に優れる。より好ましくは3μm以下、更に好ましくは2μm以下である。一方、シリカの平均粒径の下限値は、特に限定されるものではないが、機械特性や耐トラッキング性に優れるなどの観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1.0μm以上である。
シリカのBET比表面積(m2/g)は、特に限定されず、例えば、2~400m2/gが好ましく、2~300m2/gがより好ましく、3~100m2/gが更に好ましく、5~50m2/gが更に好ましい。シリカのBET比表面積(m2/g)は、JIS Z 8830:2013の「キャリアガス法」に準拠して、吸着質として窒素ガスを用いて、測定される値である。例えば、比表面積・細孔分布測定装置「フローソーブ」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0037】
- 焼成クレー -
焼成クレーとしては、特に制限されず、公知のものを用いることができる。
焼成クレーの平均粒径は、シリカの平均粒径と同様の理由から、5μm以下であることが好ましい。
【0038】
- その他の無機フィラー -
本発明に用いる無機フィラーは、金属炭酸塩、ベーマイト、シリカ及び焼成クレーのいずれにも該当しない無機フィラー(その他の無機フィラーという。)を含むことができる。
その他の無機フィラーとしては、樹脂組成物に通常用いられるものが挙げられ、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、タルク等の水酸基若しくは結晶水を有する化合物のような金属水和物が挙げられる。また、窒化ほう素、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、シリコーン化合物、石英、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛等が挙げられる。
【0039】
(無機フィラーの組成)
無機フィラーは、後述する無機フィラーの総含有量の範囲内において、金属炭酸塩10~35質量部と、ベーマイト20~55質量部と、シリカ及び/又は焼成クレー45~90質量部とを含有している。
金属炭酸塩の含有量は、例えば柔軟性と長期絶縁抵抗とを両立させることができ、ひいては上記6特性をバランスよく兼備する点で、上記ベース樹脂100質量部に対して、10~35質量部であることが好ましく、12~32質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることが更に好ましい。
ベーマイトの含有量は、例えば耐トラッキング性と長期絶縁抵抗及び柔軟性とを両立させることができ、ひいては上記6特性をバランスよく兼備する点で、上記ベース樹脂100質量部に対して、20~55質量部であることが好ましく、25~45質量%であることがより好ましく、28~40質量%であることが更に好ましい。
シリカ及び焼成クレーの合計含有量は、例えば絶縁抵抗(短期若しくは長期の絶縁抵抗)と柔軟性及び耐熱性とを両立させることができ、ひいては上記6特性をバランスよく兼備する点で、上記ベース樹脂100質量部に対して、45~90質量部であることが好ましく、50~80質量%であることがより好ましく、55~70質量%であることが更に好ましい。
シリカ単独の含有量は、上記合計含有量を考慮して適宜に設定することができ、例えば、上記ベース樹脂100質量部に対して、45~90質量部であることが好ましく、55~70質量%であることがより好ましい。また、焼成クレー単独の含有量は、上記合計含有量を考慮して適宜に設定することができ、例えば、上記ベース樹脂100質量部に対して、45~75質量部であることが好ましく、50~65質量%であることがより好ましい。
その他の無機フィラーの含有量は、後述する無機フィラーの総含有量の範囲内において、適宜に設定され、例えば、上記ベース樹脂100質量部に対して、1~20質量部とすることができる。
【0040】
本発明において、金属炭酸塩の含有量、ベーマイトの含有量、並びに、シリカ及び焼成クレーの合計含有量の質量比は、用途や使用形態に応じて適宜に設定される。
例えば、金属炭酸塩の含有量に対するベーマイトの含有量の質量比[ベーマイトの含有量/金属炭酸塩の含有量]は、0.5~6であることが好ましく、0.7~4であることがより好ましい。また、金属炭酸塩の含有量に対するシリカ及び焼成クレーの合計含有量の質量比[シリカ及び焼成クレーの合計含有量/金属炭酸塩の含有量]は、1.2~9であることが好ましく、1.5~6であることがより好ましい。更に、ベーマイトの含有量に対するシリカ及び焼成クレーの合計含有量の質量比[シリカ及び焼成クレーの合計含有量/ベーマイトの含有量]は、0.8~5であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。
【0041】
無機フィラーは、上記6特性をバランスよく兼備したシラン架橋樹脂成形体を製造できる点で、その他の無機フィラーを含まないこと、すなわち、金属炭酸塩と、ベーマイトと、シリカ及び/又は焼成クレーとの3種又は4種の無機フィラーからなることが好ましい。本発明において、その他の無機フィラーを含まないとは、その他の無機フィラーの含有量が上記ベース樹脂100質量部に対して0質量部である態様に加えて、その他の無機フィラーが不可避的に混入した態様(例えば、その他の無機フィラーの含有量が上記ベース樹脂100質量部に対して8質量部以下である態様)を含む。
【0042】
<シランカップリング剤>
シラン架橋性樹脂組成物は、ベース樹脂にグラフト化結合したシランカップリング剤を含有している。シランカップリング剤がグラフト化結合したベース樹脂は、後述する工程(1)で、シランカップリング剤とベース樹脂とがグラフト化反応することによって調製されることが好ましい。
本発明に用いる(グラフト化反応前の)シランカップリング剤は、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下でベース樹脂のグラフト化反応可能な部位にグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又はエチレン性不飽和基等の官能基)を有している。また、シラノール縮合可能な反応部位として、加水分解性シリル基を有しており、無機フィラーの化学結合しうる部位と反応しうることが好ましい。このようなシランカップリング剤として、従来のシラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。
シランカップリング剤としては、エチレン性不飽和基及び加水分解性シリル基を有するシランカップリング剤が好適に挙げられ、具体的には、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリエトキシラン、ビニルトリブトキシラン、ビニルジメトキシエトキシラン、ビニルジメトキシブトキシラン、ビニルジエトキシブトキシラン、アリルトリメトキシラン、アリルトリエトキシラン、ビニルトリアセトキシラン等のビニルアルコキシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシラン等の(メタ)アクリロキシアルコキシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシラン又はビニルトリエトキシランが特に好ましい。
シランカップリング剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、そのままで用いても、溶媒等で希釈して用いてもよい。
【0043】
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒は、ベース樹脂にグラフトしたシランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位を水(水分)の存在下で縮合反応(促進)させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介してベース樹脂が架橋される。
このようなシラノール縮合触媒としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。
【0044】
<キャリア樹脂>
シラノール縮合触媒は、所望により樹脂又はゴムに混合されて、用いられる。このような樹脂又はゴム(キャリア樹脂ともいう。)としては、特に限定されないが、ベース樹脂で説明した成分を用いることができる。キャリア樹脂は、ベース樹脂との相溶性の点で、ベース樹脂を構成する成分の少なくとも1種であることが好ましく、ベース樹脂と同じ成分を含むことが好ましい。
【0045】
<添加剤>
本発明において、電線、電気ケーブル、電気コード等の各種配線材、シート、発泡体、チューブ、パイプの各種樹脂成形体において、一般的に使用されている各種の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。このような添加剤として、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤等が挙げられる。
【0046】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又は硫黄酸化防止剤等が挙げられる。アミン酸化防止剤としては、例えば、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等が挙げられる。フェノール酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。硫黄酸化防止剤としては、例えば、ビス(2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-tert-ブチルフェニル)スルフィド、2-メルカプトベンズイミダゾール及びその亜鉛塩、ペンタエリスリトール-テトラキス(3-ラウリル-チオプロピオネート)等が挙げられる。酸化防止剤は、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~15.0質量部、更に好ましくは0.1~10質量部で加えることができる。
難燃剤としては、特に制限されないが、例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、三酸化アンチモン等が挙げられる、難燃剤の含有量は本発明の効果を損なわない範囲で適宜に設定される。
【0047】
(シラン架橋性樹脂組成物の組成)
シラン架橋性樹脂組成物中における、ベース樹脂にグラフト化結合しているシランカップリング剤の含有量(ベース樹脂とグラフト化反応する前の質量で換算した含有量)は、架橋ゲル等に起因する突起状の凝集塊(ゲルブツ)の生成、及びシランカップリング剤の揮発等を抑えて、外観に優れ、十分な架橋構造を形成できる点、更に、上記6特性をバランスよく兼ね備えたシラン架橋樹脂成形体を製造できる点で、ベース樹脂100質量部に対して、2~10質量部である。シランカップリング剤の含有量は、上記6特性を高い水準でバランスよく兼ね備えたシラン架橋樹脂成形体を製造できる点で、2.2~6質量部であることが好ましく、2.5~4.5質量部であることがより好ましい。
【0048】
シラン架橋性樹脂組成物中における、無機フィラーの含有量(総含有量)は、耐トラッキングと柔軟性、引張強さ及び長期絶縁抵抗とを両立させることができ、ひいては上記6特性をバランスよく兼ね備えたシラン架橋樹脂成形体を製造できる点で、ベース樹脂100質量部に対して、100~150質量部である。無機フィラーの総含有量は、上記6特性を高い水準でバランスよく兼ね備えたシラン架橋樹脂成形体を製造できる点で、105~140質量部であることが好ましく、108~135質量部であることが好ましい。
【0049】
シラン架橋性樹脂組成物中における、シラノール縮合触媒の含有量は、特に限定されず適宜に設定することができる。例えば、シラン架橋樹脂成形体の外観、耐熱性及び引張強さをバランスよく改善できる点で、ベース樹脂100質量部に対して、0.01~0.5質量部であることが好ましく、0.03~0.3質量部であることがより好ましく、0.05~0.15質量部であることが更に好ましい。
【0050】
シラン架橋性樹脂組成物中における、ベース樹脂の組成、及び無機フィラーの組成は上述の通りである。なお、有機過酸化物はシランカップリング剤とベース樹脂とのグラフト化反応時に通常分解している。
シラン架橋性樹脂組成物中における、添加剤の総含有量は、特に制限されず、本発明の作用効果を損なわない範囲で、適宜に設定できる。
【0051】
(シラン架橋樹脂成形体の組成)
シラン架橋樹脂成形体は、シラン架橋性樹脂組成物を成形した後に、水と接触させることによりシラノール縮合反応させて形成されるため、この成形体中の上記各成分の含有量は、通常、シラン架橋性樹脂組成物中における含有量と同じとなる。ただし、シラン架橋樹脂成形体においては、シランカップリング剤及びベース樹脂は、それぞれ、グラフト化反応及びシラノール縮合反応する前の含有量とする。
【0052】
[シラン架橋性樹脂組成物及びシラン架橋樹脂成形体の製造方法]
以下、本発明のシラン架橋性樹脂組成物の製造方法及び本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法を説明する。
本発明のシラン架橋性樹脂組成物は下記工程(1)を行うことにより製造され、本発明のシラン架橋樹脂成形体は下記工程(1)~(3)を行うことにより製造される。
本発明の、シラン架橋樹脂成形体の製造方法及びシラン架橋性樹脂組成物の製造方法を併せて、本発明の製造方法ということがある。
【0053】
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.3質量部と
、無機フィラー100~150質量部と、シランカップリング剤2~10質
量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、混合物を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた混合物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた成形体を水と接触させて、シラン架橋樹脂成形体を得
る工程
上記工程(1)は、下記工程(a-2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有し、一方、下記工程(a-2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する。
工程(a-1):無機フィラー及びシランカップリング剤を混合して、混合物を調製
する工程
工程(a-2):得られた混合物とベース樹脂の全部又は一部とを、有機過酸化物の
存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶融混合し
て、シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):ベース樹脂の残部及びシラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスタ
ーバッチを調製する工程
工程(c):シランマスターバッチと、シラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチ
とを溶融混合する工程
【0054】
本発明の製造方法において、ベース樹脂として用いる各成分の混合量は、それぞれ、ベース樹脂の組成として説明した上記含有率と同じとする。また、シランカップリング剤、無機フィラー、シラノール縮合触媒、添加剤の混合量は、それぞれ、上述のシラン架橋性樹脂組成物中の対応する成分の含有量と同じとする。
【0055】
工程(1)において、有機過酸化物の混合量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.01~0.3質量部とする。上記含有量で有機過酸化物を混合すると、シランカップリング剤とベース樹脂とを効果的にグラフト化反応させることができ、上記6特性を兼備したシラン架橋樹脂成形体を製造することができる。また、未反応のシランカップリング剤の縮合を抑えて、ゲル状のブツ(凝集塊)も発生することなく、押出性に優れた組成物及び外観にも優れた成形体を得ることができる。有機過酸化物の混合量は、0.05~0.2質量部が好ましい。
【0056】
本発明の製造方法において、ベース樹脂とは、シラン架橋樹脂成形体又はシラン架橋性樹脂組成物を形成するための樹脂である。したがって、本発明の製造方法においては、工程(1)で得られる混合物に100質量部のベース樹脂が含有されていればよい。例えば、工程(a-2)において、ベース樹脂の全量(100質量部)が混合される態様と、ベース樹脂の一部が混合される態様とを含む。
【0057】
工程(a-2)でベース樹脂の一部を混合する場合、混合する成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
本発明の製造方法において、工程(a-2)で混合するベース樹脂は、上記成分のうち、6特性をバランスよく兼備できる点で、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましく、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムを含むことがより好ましく、ポリオレフィン樹脂、エチレンゴム、スチレン系エラストマー及びオイルを含むことが更に好ましい。また、工程(b)で混合するベース樹脂の残部(キャリア樹脂)は、上述の通りであり、ポリオレフィン樹脂、エチレンゴム、スチレン系エラストマー及びオイルを含むことが更に好ましい。
【0058】
工程(a-2)で混合するベース樹脂の割合は、工程(a-2)と工程(b)で混合するベース樹脂100質量%のうち、60~95質量%であることが好ましく、十分な架橋構造を構築して耐熱性及び機械特性をより高い水準で両立できる点で、70~95質量%であることがより好ましい。工程(b)で混合するベース樹脂の残部(キャリア樹脂)は、工程(a-2)で混合するベース樹脂の一部に応じて適宜に決定される。
【0059】
無機フィラーは、その一部を工程(a-1)以外の工程、例えば工程(b)で用いることもできるが、ベース樹脂同士の(無機フィラーを介さない)架橋構造と無機フィラーを巻き込んだ架橋構造とをバランスよく構築して6特性を高い水準で発現させることができる点で、上記3種又は4種の無機フィラーを工程(a-1)で混合することが好ましく、上記3種又は4種の無機フィラー全量を工程(a-1)で混合することがより好ましい。工程(a-1)以外の工程で無機フィラーを用いる場合、その使用量は、特に制限されず、適宜に決定される。
【0060】
酸化防止剤は、工程(c)の実施に際して含有されていればよく、いずれの工程で混合してもよい。シランカップリング剤とベース樹脂とのグラフト化反応を阻害せず効率よく生起、進行させることができる点で、酸化防止剤は工程(b)で混合することが好ましい。なお、工程(a-1)又は工程(a-2)で混合する場合、酸化防止剤の混合量は、ベース樹脂100質量部に対して0.5質量部以下とすることが好ましい。
【0061】
各種の添加剤は、工程(a-1)、工程(a―2)及び工程(b)のいずれの工程で混合されてもよい。
【0062】
<工程(1)>
本発明の製造方法は、ベース樹脂とシランカップリング剤とを無機フィラーの共存下でグラフト化反応させて、ベース樹脂にシランカップリング剤がグラフト化結合したシラン架橋性樹脂を含むシランマスターバッチ(シランMB)を調製する工程(1)を行う。
本工程では、ベース樹脂は、有機過酸化物の存在下、無機フィラー及びシランカップリング剤と、有機過酸化物の分解温度以上で、溶融混合される。これにより、溶融混合物としてシランMBが得られる。
工程(1)、すなわち、ベース樹脂の全部又は一部、有機過酸化物、無機フィラー、シランカップリング剤及びシラノール縮合触媒の溶融混合は、下記工程順で、行われる。
【0063】
(工程(a-1))
本発明においては、まず、無機フィラー及びシランカップリング剤を混合して、混合物を調製する(工程(a-1))。
無機フィラー及びシランカップリング剤を前混合することにより、無機フィラーに弱い結合で結合若しくは吸着したシランカップリング剤と、無機フィラーに強い結合で結合若しくは吸着したシランカップリング剤とをバランスよく形成することができる。これにより、工程(a-2)での溶融混合時に、シランカップリング剤の揮発、更には未吸着のシランカップリング剤同士の縮合反応を、効果的に防止できる。その結果、より優れた外観を示しながらも、上記6特性を兼備したシラン架橋樹脂成形体を製造できる。ここで、無機フィラーとの弱い結合としては、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷もしくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が挙げられる。また、無機フィラーとの強い結合としては、無機フィラー表面の化学結合しうる部位との化学結合等が挙げられる。
【0064】
工程(a-1)の混合方法及び混合条件は、特に制限されないが、公知の混合機、混練機等を用いて、通常、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは10~60℃、より好ましくは室温近傍(20~25℃)で、数分~数時間程度、乾式又は湿式により、混合する方法及び条件が挙げられる。中でも、有機過酸化物の分解温度未満の温度で乾式混合(ドライブレンド)することが好ましい。乾式混合のその他の条件は適宜に決定される。
【0065】
工程(a-1)においては、上記分解温度未満の温度が保持されている限り、ベース樹脂を混合することもできる。
有機過酸化物は、工程(a-2)の溶融混合の際に存在していればよく、工程(a-2)で混合されてもよいが、工程(a-1)で混合されることが好ましい。この場合、有機過酸化物は、シランカップリング剤と混合した後に無機フィラーと混合されてもよいし、シランカップリング剤と分けて別々に無機フィラーに混合されてもよい。
【0066】
(工程(a-2))
本発明の製造方法においては、次いで、工程(a-1)で得られた混合物と、ベース樹脂の全部又は一部と、工程(a-1)で混合されていない残余の成分とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上に加熱することにより溶融混合して、シランMBを調製する(工程(a-2))。本工程における溶融混合においては、上述のシランカップリング剤の揮発、自己縮合を抑えながら、ベース樹脂同士の過剰な架橋反応(ゲルブツの発生)を防止することができる。
【0067】
工程(a-2)において、上記成分を溶融混合(溶融混練、混練りともいう。)する温度(混合温度ともいう。)は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25~110)℃の温度であり、より好ましくは150~230℃であり、更に好ましくは175~210℃である。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解、作用して必要なグラフト化反応が進行する。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。例えば、混合時間は1~25分とすることができ、好ましくは3~20分である。
【0068】
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混合装置としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
ベース樹脂の混合方法も特に限定されない。例えば、予めベース樹脂を調製して用いてもよく、各成分をそれぞれ別々に用いてもよい。
【0069】
工程(a-1)及び工程(a-2)、特に工程(a-2)においては、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を溶融混合することが好ましい。これにより、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることができ、溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずとは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a-2)において、シラノール縮合触媒は、ベース樹脂100質量部に対して0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
【0070】
工程(1)、特に工程(a-1)及び工程(a-2)において、架橋助剤は実質的に混合されないことが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、溶融混合中にベース樹脂同士の架橋が生じにくく、シラン架橋樹脂成形体の外観、更には耐熱性が優れる。
【0071】
このようにして、工程(a-1)及び工程(a-2)を行って、シランMBが調製される。このシランMBは、ベース樹脂、無機フィラー及びシランカップリング剤の反応混合物を含有しており、後述の工程(2)により成形可能な程度にシランカップリング剤とベース樹脂とがグラフト化反応したシラン架橋性樹脂(シラングラフトポリマー)を含有している。ベース樹脂とグラフト化結合したシランカップリング剤は、そのシラノール縮合可能な反応部位で無機フィラーに結合若しくは吸着しているものを含んでいる。
【0072】
工程(a-2)において、シランカップリング剤とベース樹脂とがグラフト化反応する態様としては、少なくとも次のものが考えられる。すなわち、無機フィラーと弱い結合で結合若しくは吸着したシランカップリング剤が無機フィラーから脱離してベース樹脂とグラフト化反応する態様である。この態様から後述する工程(3)で形成される架橋構造は無機フィラーを組み込まず、通常、シランカップリング剤同士のシラノール縮合物を介する架橋構造となる。また、無機フィラーと強い結合で結合若しくは吸着したシランカップリング剤が無機フィラーとの結合若しくは吸着を保持した状態でベース樹脂とグラフト化反応する態様である。この態様から後述する工程(3)で形成される架橋構造は無機フィラーを組み込んでおり、無機フィラーを起点としてそれに結合したシランカップリング剤を介する架橋構造となる。上記両態様における架橋構造が混在することによって、シラン架橋樹脂成形体に無機フィラーを巻き込んだ架橋構造を含む高度に発達した架橋構造を構築できる。
【0073】
(工程(b))
本発明の製造方法において、工程(a-2)とは独立に、又は工程(a-2)に次いで、工程(a-2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、ベース樹脂の残部(キャリア樹脂)とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチ(触媒MBともいう。)を調製する(工程(b))。したがって、工程(a-2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合は、工程(b)を行わなくてもよく、また他の樹脂とシラノール縮合触媒とを混合してもよい。
【0074】
キャリア樹脂とシラノール縮合触媒との混合割合は、特に限定されないが、好ましくは、工程(1)における上記混合量を満たすように、設定される。
工程(b)における溶融混合方法及び条件は、特に制限されず、上記工程(a-2)の溶融混合方法及び条件を適用できる。例えば、混合温度は、120~200℃とすることができ、130~180℃であることが好ましい。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。例えば、混合時間は1~25分とすることができ、好ましくは3~20分である。
【0075】
工程(b)において、ベース樹脂の残部に代えて、又は、加えて他の樹脂をキャリア樹脂として用いることができる。キャリア樹脂が他の樹脂である場合、工程(a-2)においてグラフト化反応を促進させることができるうえ、成形中にブツが生じにくい。他の樹脂の混合量は、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは1~60質量部、より好ましくは2~50質量部、更に好ましくは2~40質量部である。
【0076】
(工程(c))
本発明の製造方法において、次いで、シランMBと、シラノール縮合触媒又は触媒MBとを混合して、混合物を得る(工程(c))。
混合方法は、上述のように均一な混合物を得ることができれば、どのような混合方法でもよい。工程(c)における混合は、工程(a-2)の溶融混合と基本的に同様であり、少なくともベース樹脂が溶融する温度で混合する。工程(c)における混合条件は、特に制限されず、上記工程(a-2)の混合条件を適用できる。溶融温度は、ベース樹脂又はキャリア樹脂の溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~240℃である。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。ただし、工程(c)において、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
工程(c)においては、シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとを溶融混合する前に、ドライブレンドすることが好ましい。ドライブレンドの方法及び条件は、特に限定されず、例えば、工程(a-1)での乾式混合及びその条件が挙げられる。
【0077】
このようにして、工程(a-1)~(c)(工程(1))を行って、シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒MBとの溶融混合物として、本発明のシラン架橋性樹脂組成物が製造される。
シラン架橋性樹脂組成物は、上述のシラン架橋性樹脂、無機フィラー、シラノール縮合触媒等を含有している。このシラン架橋性樹脂において、シランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位は、無機フィラーと結合又は吸着していてもよいが、後述するようにシラノール縮合していない。したがって、シラン架橋性樹脂は、無機フィラーと結合又は吸着したシランカップリング剤がベース樹脂にグラフト化結合したシラン架橋性樹脂と、無機フィラーと結合又は吸着していないシランカップリング剤がベース樹脂にグラフト化結合したシラン架橋性樹脂とを少なくとも含んでいる。
上記のように、シラン架橋性樹脂は、シランカップリング剤がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(c)で溶融混合されると、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、得られるシラン架橋性樹脂組成物について、少なくとも工程(2)での成形における成形性が保持されたものとする。
【0078】
<工程(2)>
本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法は、次いで、工程(1)で得られた混合物(シラン架橋性樹脂組成物)を成形して、成形体を得る工程(2)を行う。
工程(2)は、混合物を成形できればよく、本発明の成形品の形態に応じて、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。例えば、成形方法は、プレス成形、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。配線材を製造する場合、押出成形法が生産性、更には導体と共押出できる点等で好ましい。
【0079】
この工程(2)は、工程(c)と同時に又は連続して、行うことができる。例えば、シランMBとシラノール縮合触媒若しくは触媒MBとを被覆装置(押出機)の直前でドライブレンド等により混合した後に被覆装置内で溶融混合(工程(c))して、又はシランMBとシラノール縮合触媒若しくは触媒MBとを別々に被覆装置に投入後に溶融混合(工程(c))して、成形(工程(2))する一連の工程を採用できる。
【0080】
成形条件(溶融混合条件)は、本発明のシラン架橋性樹脂組成物を成形することができ、かつシラノール縮合反応を生起しない条件であれば特に限定されず、例えば、工程(a-2)の溶融混合方法及び条件を適用できる。
押出成形機を用いる場合、押出成形機の温度は、ベース樹脂の種類、導体等の引取り速度の諸条件にもよるが、シリンダー部で120~180℃、クロスヘッド部で約160~200℃程度にすることが好ましい。押出成形における成形速度(線速)は、特に限定されず、押出機の特性若しくは性能、押出量(被覆量)等に応じて適宜に設定することができる。線速は、通常、1~20m/minとすることができる。
【0081】
このようにして、シラン架橋性樹脂組成物の成形体(未架橋成形体)が得られる。この成形体はシラン架橋性樹脂組成物と同様に、シラン架橋性樹脂の一部架橋は避けられないが、工程(2)で成形可能な成形性を保持する部分架橋状態にある。したがって、この発明のシラン架橋樹脂成形体は、工程(3)を実施することによって、架橋又は最終架橋された成形体とされる。
【0082】
<工程(3)>
本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法においては、次いで、工程(2)で得られた成形体と水とを接触させて、シラン架橋樹脂成形体を製造する工程(3)を行う。工程(2)で得られた成形体は、シラン架橋樹脂が未架橋体であるため、本工程により、ベース樹脂にグラフト化結合しているシランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位についてシラノール縮合反応(脱水縮合反応)を生起、進行(促進)させて、最終的にシラン架橋させる。こうして、シランカップリング剤がシラノール縮合して架橋したシラン架橋樹脂成形体を得ることができる。
未架橋成形体と水との接触は、通常の方法によって行うことができる。シラノール縮合反応は、水分存在下であれば常温、例えば20~25℃程度の温度環境下で放置するだけでも進行するため、水と積極的に接触させる必要はない。シラノール縮合反応(架橋反応)を促進させる観点からは、未架橋成形体と水とを積極的に接触させることが好ましく、接触方法としては、例えば、常圧環境下において接触させる方法が挙げられ、具体的には、飽和水蒸気雰囲気への暴露、高湿度環境への暴露、常温水若しくは温水(例えば、50~90℃)への浸漬、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等が挙げられる。また、接触の際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0083】
このようにして、本発明のシラン架橋樹脂成形体が製造される。
このシラン架橋樹脂成形体は、ベース樹脂(シラン架橋性樹脂)がシロキサン結合を介して縮合した架橋樹脂を含んでいる。また、シラン架橋樹脂成形体は無機フィラーを含有しており、この無機フィラーは架橋したベース樹脂のシランカップリング剤に結合していてもよい。したがって、シラン架橋樹脂は、複数のベース樹脂がシランカップリング剤により無機フィラーに結合又は吸着して、無機フィラー及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)した架橋樹脂と、ベース樹脂にグラフト化結合しているシランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、(無機フィラーを介することなく)シランカップリング剤(シロキサン結合)を介して架橋した架橋樹脂とを少なくとも含む。
【0084】
本発明の製造方法は、上述のように、工程(1)において、特定の組成を有するベース樹脂と、炭酸金属塩、ベーマイト並びにシリカ及び/又は焼成クレーを特定の割合で含む特定量の無機フィラーと、特定量のシランカップリング剤とを溶融混合するから、架橋構造中に少なくともベーマイト、シリカ及び/又は焼成クレーを組み込むことができ、これらの無機フィラーを巻き込んだ架橋構造と無機フィラーを介しない架橋構造とをバランスよく構築することができると考えられ、その結果、上記6特性を兼備し、好ましくは外観にも優れたシラン架橋樹脂形成体を製造することができる。
【0085】
[成形品]
本発明の成形品は、本発明のシラン架橋樹脂成形体を含む製品(半製品、部品、部材も含む。)であり、各種の樹脂成形品として用いることができ、好ましくは従来の樹脂成形品の代替品として用いることができる。本発明の成形品は、その一部(樹脂成形部)に本発明のシラン架橋樹脂成形体を含む成形品であってもよく、本発明のシラン架橋樹脂成形体のみからなる成形品であってもよい。
本発明の成形品の用途としては、例えば、絶縁電線、ケーブル又は光ファイバーケーブル等の配線材の被覆材料、ゴム代替電線・ケーブルの材料、その他、電子レンジ又はガスレンジ用耐熱部品、耐熱電線部品、耐熱シート、耐熱フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、耐熱パッキン、クッション材、防震材、電気・電子機器の内部配線及び外部配線に使用される配線材、特に電線や光ファイバーケーブルが挙げられる。
本発明のシラン架橋樹脂成形体は上述の優れた特性を有しており、風雨に晒され、振動が繰り返される状態であっても、優れた柔軟性により損傷を防止できる。しかも、耐熱性及び引張強さに加えて、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性等の屋外用成形品に求められる特性を兼備している。そのため、本発明の成形品は、上記優れた特性を利用して、例えば、長期にわたって雨風に曝される屋外用途に利用可能な成形品(屋外用成形品)として好適であり、長期間にわたって安定した特性を示す。屋外用成形品としては、具体的には、屋外用配線材、屋外用産業電線(例えばジャンパー線、キャブタイヤケーブル)、充電ケーブル、碍子材料等が好適に挙げられる。
【0086】
本発明の成形品を配線材として適用する場合、通常、導体の被覆材料(絶縁体、シース)として本発明の成形品を用いる。
配線材としては、導体の外周に被覆層(シース)を有する配線材であって、この被覆層を、本発明のシラン架橋性樹脂組成物を管状の層に成形、架橋して、本発明のシラン架橋樹脂成形体で形成した配線材が挙げられる。ここで、配線材の被覆層が複数層で構成されている場合、そのうちの少なくとも1層が本発明のシラン架橋樹脂成形体で形成されていればよい。
配線材は、被覆層が本発明のシラン架橋樹脂成形体で形成されていること以外は、各種の電気・電子機器分野や産業分野に使用される通常のものと同じである。本発明のシラン架橋樹脂成形体で形成される被覆層は、導体の外周面に直接又は他の層を介して設けられ、配線材の種類、用途、要求特性等に応じて、他の層の有無、材料等が適宜に決定される。導体としては、通常のものを用いることができ、例えば、軟銅、銅合金若しくはアルミニウムの単線若しくは撚り線(抗張力繊維を縦添え若しくは撚り合わせたもの)等が挙げられる。また、裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いることもできる。一般的に、アルミニウム導体を有する配線材は、屈強や湾曲等によって折れやすい(断線しやすい)が、本発明の成形品としての配線材は、上記6特性、特に優れた柔軟性を示すシラン架橋樹脂成形体からなる被覆層を有しているから、導体としてアルミニウムを好適に適用することができる。本発明のシラン架橋樹脂成形体で形成される被覆層の厚さは、特に限定されないが、通常、0.15~5mm程度である。
【0087】
本発明の成形品としての配線材は、上記工程(2)における各種の成形法、例えば、押出機若しくは射出成形機により成形した後に、水と接触させて、製造できる。好ましくは、導体の外周に本発明のシラン架橋性樹脂組成物を管状に成形(配置)した後に架橋反応(シラノール縮合反応)させることにより、製造できる。例えば、上述の、本発明のシラン架橋樹脂成形体の製造方法において、工程(2)を、汎用の被覆装置(押出機)を用いてシラン架橋性樹脂組成物を導体の外周に共押出成形する工程とすることにより、製造できる。
【実施例0088】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0089】
実施例及び比較例に用いた化合物を以下に示す。
<ベース樹脂>
LLDPE:エボリューSP0540(商品名、プライムポリマー社製、直鎖型低密度ポリエチレンの樹脂)
PP:PB222A(商品名、サンアロマー社製、ランダムポリプロピレン樹脂)
EPDM:EPT3092PM(商品名、三井化学社製、エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネンゴム、エチレン含有量65質量%、ジエン含有量4.6質量%)
スチレン系エラストマー:タフテックN504(商品名、旭化成社製、SEBS)
オイル:コスモニュートラル500(商品名、コスモ石油ルブリカンツ社製、パラフィンオイル)
<無機フィラー>
炭酸カルシウム:ソフトン2200(商品名、備北粉化工業社製、平均粒径1μm)
ベーマイト:ベーマイトFKB-104(商品名、神島化学工業社製、平均2次粒径1.2μm、BET表面積比6m2/g)
シリカ:クリスタライト5X(商品名、瀧森社製、BET表面積比12m2/g、平均粒径1.2μm)
焼成クレー:SATINTONE SP33(商品名、BASF社製、平均粒径1.3μm)
タルク:ミクロエースK-1(商品名、日本タルク社製)
水酸化マグネシウム:マグシーズFK621(商品名、神島化学工業社製)
<シランカップリング剤>
シランカップリング剤:KBM-1003(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
<有機過酸化物>
有機過酸化物:パーヘキサ25B(商品名、日油社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、分解温度179℃)
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒:アデカスタブOT-1(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウレート)
<酸化防止剤>
酸化防止剤:イルガノックス1076(商品名、BASF社製、ヒンダードフェノール酸化防止剤)
【0090】
(実施例1~13及び比較例1~13)
実施例1~13及び比較例1~13は、表1~表4に示す成分を用いて、それぞれ実施した。
各実施例及び比較例において、ベース樹脂の一部(具体的には表1~表4の「触媒MB」欄の「ベース樹脂」欄に示す成分)を同欄に示す質量割合で、触媒MBのキャリア樹脂として用いた。
なお、表1~表4において、各例の混合量(含有量)に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の混合量が0質量部であることを意味する。なお、表1~表4の「シラン架橋性樹脂組成物」欄に示す各成分の含有量は、シラン架橋性樹脂組成物(シランMB及び触媒MBの溶融混同物)中の各成分の合計含有量を示す。
【0091】
まず、無機フィラーとシランカップリング剤と有機過酸化物とを、表1~表4のシランMB欄に示す質量比で、回転刃式ミキサー(マゼラーPM:商品名、マゼラー社製)に投入して、室温(25℃)下、回転数10rpmで1分間攪拌(前混合)した(工程(a-1))。こうして上記各成分を乾式混合して粉体混合物を得た。
次いで、粉体混合物と、表1~表4の「シランMB」欄に示すベース樹脂及び酸化防止剤とを、同欄に示す質量比で、予め100℃に昇温したニーダー(容量75L)に投入し、回転数40rpmで5分間混合した後、更に回転数30rpmで3分間仕上げ混練(溶融混合)を行った。混合物の温度が有機過酸化物の分解温度以上である180~200℃に達したことを確認した後、フィーダー・ルーダーを用いて、シランMBを得た(工程(a-2))。
【0092】
一方、表1~表4の「触媒MB」欄に示す、ベース樹脂、シラノール縮合触媒及び酸化防止剤を、同欄に示す質量比で、予め80℃に昇温したニーダー(容量75L)に順次投入し、回転数30rpmで5分間混合した後、回転数25rpmで3分間仕上げ混練(溶融混合)を行った。混合物の温度が180℃程度に達し、キャリア樹脂が十分に溶融したことを確認した後、フィーダー・ルーダーを用いて、触媒MBを得た(工程(b))。
【0093】
次いで、シランMBと触媒MBとを表1~表4の「シランMB」欄及び「触媒MB」欄に示す質量比で、押出成形直前に、タンブラーミキサーにより、室温(25℃)下で2分間ドライブレンドして、ドライブレンド物を得た(工程(c)のドライブレンド工程)。
次いで、得られたドライブレンド物を、L/D=25、スクリュー直径25mmのスクリューを備えた押出機(シリンダー部温度130℃、クロスヘッド部温度180℃)に導入した。上記押出機内でドライブレンド物を溶融混合しながら(工程(c))、線速10m/分で、直径0.8mmの銅導体の外周面上にシラン架橋性樹脂組成物を肉厚0.8mmで押出被覆し、外径2.4mm(被覆厚さ0.8m)の被覆導体を得た(工程(2))。
この被覆導体を温度60℃、湿度95%の雰囲気に24時間放置して、水と接触させた(工程(3))。
このようにして、上記導体の外周面上に、シラン架橋樹脂成形体で構成された被覆層を有する絶縁電線をそれぞれ製造した。
【0094】
製造した各絶縁電線について、下記試験をし、その結果を表1~表4に示した。
【0095】
<試験1:押出外観試験>
製造した各絶縁電線の外観を観察した。本試験は参考試験である。
絶縁電線として、表面がきれいでゲルブツが観察されず、外観が優れていた場合を「A(高度なもの)」、表面にゲルブツが1m当たりに1~5個程度見られるが絶縁電線としての外観に問題のない場合を「B(良好なもの)」、表面に多量のゲルブツや荒れが見られ絶縁電線の外観として不良である場合を「D」(不合格)とした。
【0096】
<試験2:機械特性試験>
製造した各絶縁電線から導体を抜き取った被覆層(管状片)について引張試験を行った。
この引張試験は、JIS C 3005に準じて、標線間25mm、引張速度200mm/分の条件で、引張強さ(MPa)、100%モジュラス(MPa)及び引張伸び(%)を測定した。
本試験において、引張強さが14MPa以上を「A(優れたもの)」、12MPa以上14MPa未満を「B(良好なもの)」、10MPa以上12MPa未満を「C(許容できるもの)」、10MPa未満を「D(不合格)」とした。
100%モジュラスは、柔軟性を評価する指標の1つであり、本試験において、5MPa以下であったものを「A(優れたもの」、5MPaを超え6MPa以下であったものを「B(良好なもの)」、6MPaを超え7MPa以下であったものを「C(許容できるもの)」、7MPaを超えたものを「D(不合格)」とした。
本試験において、引張伸びは、400%以上であったものを「A(優れたもの)」、350%以上400%未満であったものを「B(良好なもの)」、300%以上350%未満であったものを「C(許容できるもの)」、300未満であったものを「D(不合格)」とした。
【0097】
<試験3:加熱変形試験>
製造した各絶縁電線から導体を抜き取った被覆層(管状片)に対して、JIS C 3005に準拠して、加熱変形試験を行い、被覆層の、加熱後の厚さと加熱前の厚さとから、加熱変形率(減少率)を求めた。なお、加熱温度は120℃、負荷荷重は5Nとした。
本試験の結果(加熱変形率)は、耐熱性を評価する指標となるものであり、20%未満であったものを「A(優れたもの)」、20%以上30%未満であったものを「B(良好なもの)」、30%以上40%未満であったものを「C(許容できるもの)」、40%以上であったものを「D(不合格)」とした。
【0098】
<試験4:耐トラッキング性試験>
各絶縁電線と同一材料を用いて成形した丸棒(φ10mm)を試験片とした。
JIS C 3005に準じて、電極間距離を100mmとり、4kVの電圧を印加し、0.2%食塩水(導電度3,000μS/cm)を10秒間噴霧後20秒間休止のサイクルで、定期的に噴霧した。
本試験においては、噴霧サイクルについて上記規格での設定値101回を500回に変更して行った後に、0.5A以上の電流が流れないか、又は燃焼等の異常がない場合を「A(合格)」とし、異常があった場合を「D(不合格)」とした。
【0099】
<試験5:耐酸性試験>
試験片として、製造した各絶縁電線から導体を抜き取った被覆層(管状片)を用いた。
上記試験片5gを量り取り、下記4種の酸液50mLそれぞれに、50℃で168時間浸漬させた。その後、試験片を取出し、その質量WA(g)を測定した。各酸液について、試験片の、浸漬前後の質量変化率(%)を下記式から求めた。
酸液:10質量%硫酸、10質量%硝酸、10質量%塩酸及び10質量%酢酸
式:質量変化率(%)=[WA(g)-5(g)]/5(g)×100
本試験において、すべての酸液において浸漬前後の質量変化率が5%以内であったものを「A(合格)」、1つ以上の酸液において5%を超えたものを「D(不合格)」とした。
【0100】
<試験6:絶縁抵抗試験>
JIS C 3005に準拠して、製造した各絶縁電線10mを試験片として、この試験片を20℃の水槽に24時間浸漬させ、絶縁抵抗値を測定した。測定電圧、荷電時間、測定時間は、それぞれ、500V、10秒、50秒で行った。測定は、水中浸漬後、1時間後及び28日後に実施した。
1時間浸漬後の絶縁抵抗値の結果は短期絶縁抵抗を評価する指標となり、28日浸漬後の絶縁抵抗値の結果は長期絶縁抵抗を評価する指標となる。
本試験において、1時間浸漬後の絶縁抵抗値及び28日浸漬後の絶縁抵抗値が、それぞれ、10,000MΩ・km以上であるものを「A(優れたもの)」、6,000MΩ・km以上10,000MΩ・km未満のものを「B(良好なもの)」、3,000MΩ・km以上6,000MΩ・km未満のものを「C(許容できるもの)」、3,000MΩ・km未満を「D(不合格)」とした。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
表1~表4の結果から、以下のことが分かる。
工程(1)において、ベース樹脂、有機過酸化物、シランカップリング剤及び無機フィラーのいずれかの混合量を満たさない比較例1~13は、いずれも、耐熱性、引張強さ、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性及び柔軟性のいずれかの特性が劣り、これら特性を兼備するシラン架橋樹脂成形体を実現できない。
これに対して、有機過酸化物0.01~0.3質量部を用いる特定のシラン架橋法において、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有するベース樹脂100質量部に対して、特定の割合のシランカップリング剤と、特定の割合で金属炭酸塩、ベーマイト及びシリカ等を100~150質量部の総含有量で組み合わせた無機フィラーとを混合した実施例1~13は、いずれも、いずれも、耐熱性、引張強さ、長期絶縁特性、耐トラッキング性、耐潮解性及び柔軟性に優れ、これら特性を兼備するシラン架橋樹脂成形体を実現できる。