(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133825
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物及びこれを用いた配線材
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240926BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20240926BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20240926BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20240926BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240926BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20240926BHJP
H01B 7/295 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L65/00
C08L23/06
C08L23/12
C08K3/013
H01B7/02 F
H01B7/295
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043806
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】山崎 崇範
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏来
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
【テーマコード(参考)】
4J002
5G309
5G315
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002AE001
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB071
4J002BB091
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4J002EB137
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4J002EP027
4J002EU027
4J002FD016
4J002FD137
5G309RA05
5G309RA06
5G315CA03
5G315CB02
5G315CD02
5G315CD12
(57)【要約】
【課題】優れた機械特性を維持しながらも高度な耐摩耗性及び耐熱性を示す成形体を形成可能な耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物、及びこの組成物で形成された被覆層を備えた配線材を提供する。
【解決手段】環状オレフィン樹脂を3~20質量%含むベース樹脂を含有する耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物、及びこの耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成された被覆層を導体の外周面上に有する配線材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン樹脂を3~20質量%含むベース樹脂を含有する、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項2】
前記環状オレフィン樹脂がシクロオレフィンコポリマー(COC)又はシクロオレフィンポリマー(COP)である、請求項1に記載の耐熱架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項3】
前記耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物がシラン架橋物である、請求項1に記載の耐熱架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項4】
前記ベース樹脂が高密度ポリエチレンを10~50質量%含む、請求項1に記載の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項5】
前記ベース樹脂が低密度ポリエチレン及びポリプロピレンを含む、請求項1に記載の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項6】
前記ベース樹脂100質量部に対して無機フィラーを20~120質量部含む、請求項1に記載の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項7】
前記ベース樹脂100質量部に対して難燃剤を5~40質量部含む、請求項1に記載の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項8】
導体の外周面上に被覆層を有する配線材であって、
前記被覆層が請求項1~7いずれか1項に記載の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成されている、配線材。
【請求項9】
車載用絶縁電線である、請求項8に記載の配線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物及びこれを用いた配線材に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器や車両等には、通常、電力を輸送し、若しくは情報を伝達する配線材(絶縁電線若しくはケーブル、(電気)コード、光ファイバ心線、光ファイバコード、光ケーブル等)が配設されている。このような配線材は、用途に応じて、機械特性等の要求特性を満たしながらも、他の部材若しくは他の配線材との接触や摩擦を繰り返しても被覆層の損傷(亀裂、破れ等)による導体の露出を防止する耐摩耗性が求められる。
配線材の耐摩耗性は、配線材に保護部材を設ける(装着する)ことにより改善できる。しかし、この場合、保護部材を設けるスペースが必要となって配設スペースが徐々に狭小化している近年の電気・電子機器等には必ずしも適用できない。そのため、上記要求特性を満たしながらも、配線材の被覆層自体(被覆層を形成する材料)に耐摩耗性を発現させることが望まれている。
【0003】
特許文献1には、絶縁層表面が傷付き、その傷が白く残存する現象(傷付き白化現象)の発生を抑制するため耐傷性を改善する技術として、「ポリオレフィンをベースポリマーとするノンハロゲン組成物であって、前記ポリオレフィンは、環状オレフィンコポリマー1~30質量%を含有することを特徴とする電線・ケーブル被覆用樹脂組成物」、及びこの「組成物からなる被覆を有することを特徴とする電線・ケーブル」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電気・電子機器や車両等の複雑高度化が進むにつれて、配設される配線材の本数が多くなっているうえ、配設スペースの狭小化も進行している。そのため、配線材自体の更なる細径化(軽量化)も求められている。しかも、配設された配線材は、他の部材等との接触や摩擦が頻繁に起こるうえ、特に細径化された配線材は被覆層の薄肉化に伴って耐摩耗性が低下することから、薄肉化しても十分な耐摩耗性を発現させる(材料自体が高い耐摩耗性を示す)被覆層を形成する材料の開発が求められている。
また、配線材自体の細径化に伴って、導体のサイズ(断面積)も細径化することが求められている。導体を細径化した配線材は通電時の抵抗加熱が激しくなるため、被覆層には機械特性を維持しつつ高い耐熱性を示すことも求められる。
しかし、特許文献1では、このような従来の耐摩耗性を超える高い耐摩耗性と、機械特性と、高度な耐熱性とを鼎立させる観点からは検討されていない。
【0006】
本発明は、優れた機械特性を維持しながらも高度な耐摩耗性及び耐熱性を示す成形体(被覆層)を形成可能とする耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、機械特性に優れ、かつ高度な耐摩耗性及び耐熱性を示す配線材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、配線材の被覆層を形成する材料について鋭意検討したところ、被覆層に含有される各種の添加剤よりもそのベースとなる樹脂が機械特性の維持と同時に耐摩耗性及び耐熱性の改善に大きく影響することを見出して、更に検討を進めた結果、材料のベースとなる樹脂中に環状オレフィン樹脂を3~20質量%混在させることにより、優れた機械特性を維持しつつ高い耐摩耗性と高い耐熱性を発現する成形体を形成できることを見出した。そして、環状オレフィン樹脂を3~20質量%混在させたベース樹脂が配線材の成形体(被覆層)を形成する材料として好適であることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>環状オレフィン樹脂を3~20質量%含むベース樹脂を含有する、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
<2>前記環状オレフィン樹脂がシクロオレフィンコポリマー(COC)又はシクロオレフィンポリマー(COP)である、<1>に記載の耐熱架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
<3>前記耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物がシラン架橋物である、<1>又は<2>に記載の耐熱架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
<4>前記ベース樹脂が高密度ポリエチレンを10~50質量%含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
<5>前記ベース樹脂が低密度ポリエチレン及びポリプロピレンを含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
<6>前記ベース樹脂100質量部に対して無機フィラーを20~120質量部含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
<7>前記ベース樹脂100質量部に対して難燃剤を5~40質量部含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物。
<8>導体の外周面上に被覆層を有する配線材であって、
前記被覆層が<1>~<7>のいずれか1項に記載の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成されている、配線材。
<9>車載用絶縁電線である、<8>に記載の配線材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、優れた機械特性を維持しながらも高度な耐摩耗性と高度な耐熱性とを示す成形体を形成できる。また、本発明の配線材は、本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体を被覆層として備え、機械特性に優れ、かつ高度な耐摩耗性と高度な耐熱性とを発現する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、成分の含有量、物性等について、数値範囲を示して説明する場合において、数値範囲の上限値及び下限値を別々に説明するときは、いずれかの上限値及び下限値を適宜に組み合わせて、特定の数値範囲とすることができる。一方、「~」を用いて表される数値範囲を複数設定して説明するときは、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、特定の数値範囲として「~」の前後に記載された特定の組み合わせに限定されず、各数値範囲の上限値と下限値とを適宜に組み合わせた数値範囲とすることができる。なお、本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本発明において、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタアクリルのいずれか一方又は両方を表す。例えば、「(メタ)アクリル酸アルキル」というときは、アクリル酸アルキル及びメタアクリル酸アルキルのいずれか一方又は両方を表す。
【0011】
[[耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物]]
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物はベース樹脂を含有している。このベース樹脂は、必須の樹脂成分として環状オレフィン樹脂を3~20質量%含んでおり、任意成分として、環状オレフィン樹脂以外の樹脂又はエラストマー(ゴムを含む。)等の重合体を含んでいてもよい。また、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物はベース樹脂が架橋された架橋物であり、後述するように架橋方法は特に制限されない。更に、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は後述するように非発泡組成物とされる。
【0012】
上述の組成を有するベース樹脂を含有し、ベース樹脂中の樹脂が架橋されている耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、優れた機械特性を維持しながらも高度な耐摩耗性と高度な耐熱性とを示す成形体、特に好ましくは配線材の被覆層を形成できる。そのため、例えば、被覆層を形成する材料として本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物を用いることにより、機械特性に優れ、かつ高度な耐摩耗性と高度な耐熱性とを示す配線材を実現(製造)できる。
このように、本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、配線材の被覆層を形成する材料として好適であり、例えば自動車用絶縁電線、上述の優れた特性を利用可能な、薄肉電線の薄肉化被覆層の形成材料として特に好適である。
【0013】
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、ベース樹脂中の樹脂等が架橋された架橋物であり、架橋法は、特に制限されず、公知の樹脂架橋法、例えばポリオレフィン等の架橋反応を適用できる。例えば、電子線架橋法、有機過酸化物架橋法、シラン架橋法が挙げられ、機械特性及び耐熱性を維持しながら耐摩耗性を更に高い水準に改善できる点、更に特殊な設備を要せずに高い生産性で架橋反応処理可能となる点で、シラン架橋法が好ましい。
本発明において、電子線架橋法とは、架橋性重合体組成物に電子線を照射して樹脂、エラストマー等の重合体を架橋させる方法をいう。一方、有機過酸化物架橋法とは、化学架橋法の1つであり、架橋触媒として有機過酸化物を含有する架橋性重合体組成物を有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱して有機過酸化物から生じるラジカルによって重合体同士を直接架橋反応させる方法をいう。また、有機過酸化物架橋法とは別の化学架橋法であるシラン架橋法とは、架橋剤としてのシランカップリング剤がグラフト化反応したシラングラフト重合体、更に好ましくはシラノール縮合触媒を含有する架橋性重合体組成物と、水分とを接触させることにより、シランカップリング剤をシラノール縮合反応させてシランカップリング剤を介して重合体を架橋させる方法をいう。
【0014】
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を架橋反応処理して調製された架橋物である。この耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、少なくともベース樹脂(を構成する(共)重合体等)が直接又は架橋剤等を介して架橋した架橋構造を有しており、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性を高い水準で鼎立する。架橋構造は、架橋反応(架橋法)の種類によって異なり、明確かつ一概に規定できるものではない。なお、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物中に含有するベース樹脂の含有量は、架橋前のベース樹脂の含有量に換算した値、すなわち架橋性ポリオレフィン樹脂組成物中のベース樹脂の含有量とする。
本発明において、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物(架橋物)について、電子線架橋法による架橋物を電子線架橋物、有機過酸化物架橋法による架橋物を有機過酸化物架橋物、シラン架橋法による架橋物をシラン架橋物又は耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂組成物という。なお、架橋性のポリオレフィン樹脂組成物であって架橋前の樹脂組成物を架橋性ポリオレフィン樹脂組成物といい、特にシラン架橋性のポリオレフィン樹脂組成物をシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物という。
【0015】
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、耐摩耗性の点で、非発泡組成物とされる。本発明において、非発泡組成物(非発泡成形体)とは、組成物中に気泡等の空隙を有さない組成物、換言すると中実な組成物をいうが、不可避的な空隙を有する組成物を排除するものではない。
【0016】
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、形状のない(成形されていない)バルク状態であってもよく、成形した状態(成形体)であってもよい。
【0017】
以下に、本発明に用いる各成分について説明する。
各成分は、それぞれ、1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
[ベース樹脂]
ベース樹脂は、必須の樹脂成分として環状オレフィン樹脂を3~20質量%含んでおり、任意成分として環状オレフィン樹脂以外の重合体を含んでいてもよい。ベース樹脂は架橋可能な部位を有し、後述する架橋法によって架橋している。特に架橋方法としてシラン架橋法を採用する場合、ベース樹脂は、有機過酸化物から発生するラジカルによって、後述するシランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有するものが好ましい。架橋可能な部位及びグラフト化反応可能な部位としては、例えば、炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子が挙げられる。
本発明において、重合体の密度は、日本産業規格(JIS) K 7112(1999)に規定の「A法(水中置換法)」に準拠して測定された値とする。
本発明において、重合体は、単独重合体及び共重合体を包含し、特に断らない限り、樹脂を意味するが、エラストマー及びゴムをも包含する。
なお、本発明において、ベース樹脂がエラストマー(ゴムを含む)を含有する場合においても、便宜上、樹脂組成物、樹脂成形体等と称するが、本発明の技術的範囲からエラストマー組成物及びエラストマー成形体を排斥するものではない。
【0019】
<環状オレフィン樹脂>
環状オレフィン樹脂は、環状オレフィン成分を重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含むポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されない。ここで、環状オレフィン成分は、環状オレフィンが付加重合してなる成分と、環状オレフィンが開環重合してなる成分とを包含する。
環状オレフィン樹脂としては、例えば下記(1)~(4)に示す各樹脂が挙げられる。
本発明においては、環状オレフィンの共重合体若しくはその水素添加物の樹脂、例えば、下記(2)、(3)及びこれらと不飽和化合物を共重合した共重合体の樹脂を「シクロオレフィンコポリマー(COC)」と称し、環状オレフィンの重合体若しくはその水素添加物の樹脂、例えば、下記(1)、(3)及びこれらと不飽和化合物を共重合した重合体の樹脂を「シクロオレフィンポリマー(COP)」と称する。
(1)環状オレフィンの付加重合体若しくはその水素添加物の樹脂
(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体若しくはその水素添加物の樹脂
(3)環状オレフィンの開環(共)重合体もしくはその水素添加物の樹脂
(4)上記(1)~(3)の重合体若しくは水素添加物に、更に極性基を有する不飽和化合物を共重合(グラフト重合を含む。)した重合体又はその水素添加物の樹脂
【0020】
上記環状オレフィン樹脂(1)~(4)における環状オレフィン(化合物)としては、特に制限されず、例えば、後述する(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体若しくはその水素添加物の樹脂で説明する化合物が挙げられ、下記式(A1)で表される化合物が好ましく、後述する2環の環状オレフィン及び4環の環状オレフィンがより好ましい。
また、上記環状オレフィン樹脂(1)~(4)における水素添加物における水素添加量は、特に限定されず、適宜に設定できる。
【0021】
本発明において、環状オレフィン樹脂としては、シクロオレフィンコポリマー(COC)よりもシクロオレフィンポリマー(COP)が好ましい。
環状オレフィン樹脂としては、(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体若しくはその水素添加物の樹脂又は(3)環状オレフィンの開環(共)重合体若しくはその水素添加物の樹脂が好ましく、(3)環状オレフィンの開環(共)重合体若しくはその水素添加物の樹脂がより好ましい。
【0022】
(1)環状オレフィンの付加重合体若しくはその水素添加物の樹脂において、環状オレフィンは上述の通りであり、環状オレフィンの付加重合体は、適宜に他の共重合可能な不飽和単量体に由来する構成成分を有していてもよい。不飽和単量体成分、重合方法及び重合条件は、後述する(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体若しくはその水素添加物の樹脂におけるものを同じである。
【0023】
(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体の樹脂としては、特に限定されず、下記式(A1)で示される環状オレフィンに由来する構成成分と、炭素数2~20のα-オレフィンに由来する構成成分とを含む共重合体を好適に挙げることができる。
【0024】
上記炭素数2~20のα-オレフィンとしては、特に制限されないが、炭素数2~12のα-オレフィンが好ましく、炭素数2~6のα-オレフィンがより好ましく、炭素数2又は3のα-オレフィンが更に好ましい。炭素数2~20のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-へキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-へキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等を挙げることができる。α-オレフィンは1種を使用しても2種以上を使用してもよい。これらの中ではエチレンの単独使用が最も好ましい。
【0025】
環状オレフィンは、不飽和結合を含む環状構造を有する化合物であれば特に制限されず、例えば、下記式(A1)で示される環状オレフィン(化合物)が好ましい。
【化1】
【0026】
式(A1)において、R1~R12はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基を示す。ただし、R9とR10、R11とR12は一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R9又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。また、nは0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R5~R8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0027】
R1~R8としてとりうるハロゲン原子としては、特に制限されず、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
R1~R8としてとりうる炭化水素基としては、特に制限されず、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級(炭素数1~6)アルキル基を挙げることができる。また、R1~R8としてとりうる炭化水素基として、R9~R12のとしてとりうる芳香族炭化水素基及びアラルキル基等も挙げることができる。R1~R8としてとりうる炭化水素基はそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
R9~R12としてとりうるハロゲン原子としては、特に制限されず、R1~R8としてとりうるハロゲン原子と同じである。
R9~R12のとしてとりうる炭化水素基としては、特に制限されず、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができる。R9~R12のとしてとりうる炭化水素基はそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
R9とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合、2価の炭化水素基としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。また、R9又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。ただし、形成される環はノルボルナン環ではなく、更にノルボルネン環でもないことが好ましい。これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
nは、0~2であることが好ましく、0又は1が好ましい。
【0028】
上記式(A1)で表される環状オレフィンとしては、特に制限されず、例えば、2環の環状オレフィン、3環の環状オレフィン、4環の環状オレフィン、多環の環状オレフィンを挙げることができる。
【0029】
以下に、本発明に用いる環状オレフィンの具体例を説明するが、本発明ではこれらに限定されない。
本発明に用いる環状オレフィンのうち2環の環状オレフィンとしては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名:ノルボルネン)、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-オクタデシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等が挙げられる。
【0030】
本発明に用いる環状オレフィンのうち3環の環状オレフィンとしては、例えば、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン;トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,7-ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3,8-ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ-3-エン;5-シクロペンチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンが挙げられる。
【0031】
本発明に用いる環状オレフィンのうち4環の環状オレフィンとしては、例えば、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-ビニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-プロペニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンが挙げられる。
【0032】
本発明に用いる環状オレフィンのうち多環の環状オレフィンとしては、例えば、8-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキシル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-シクロヘキセニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-フェニル-シクロペンチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン;テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ-4,9,11,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ-5,10,12,14-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-へキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]-4-ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]-14-エイコセン;シクロペンタジエンが挙げられる。
【0033】
本発明に用いる環状オレフィンとしては、上記の化合物以外にも下記化合物が挙げられる。
例えば、2環の環状オレフィンとしては、例えば、6-メチルノルボルネン、6-エチルノルボルネン、6-n-ブチルノルボルネン、5-プロピルノルボルネン、1-メチルノルボルネン、7-メチルノルボルネン、5,6-ジメチルノルボルネン、5-フェニルノルボルネン、5-ベンジルノルボルネン等が挙げられる。
また、4環の環状オレフィンとしては、例えば、8-ヘキシルテトラシクロ-3-ドデセン、2,10-ジメチルテトラシクロ-3-ドデセン、5,10-ジメチルテトラシクロ-3-ドデセン等が挙げられる。
【0034】
環状オレフィンは、1種単独でも、また2種以上を使用してもよい。環状オレフィンとしては、上述の中でも、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、テトラシクロドデセンが好ましい。
【0035】
(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体の重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。付加共重合体は、ランダム共重合であってもブロック共重合であってもよいが、ランダム共重合であることが好ましい。
また、重合方法に用いる重合触媒についても、特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒が挙げられる。(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物は、メタロセン系触媒やチーグラー・ナッタ系触媒を用いて製造されることが好ましい。メタセシス触媒としては、シクロオレフィンの開環重合用触媒として公知のモリブデン又はタングステン系メタセシス触媒(例えば、特開昭58-127728号公報、同58-129013号公報等に記載)が挙げられる。また、メタセシス触媒で得られる重合体は無機担体担持遷移金属触媒等を用い、主鎖の二重結合を90%以上、側鎖の芳香環中の炭素-炭素二重結合の98%以上を水素添加することが好ましい。
【0036】
(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体の樹脂は、上記α-オレフィン及び式(A1)で示される環状オレフィンの両化合物に由来する構成成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体に由来する構成成分を含有していてもよい。任意に共重合されていてもよい不飽和単量体としては、特に限定されるものではなく、例えば、炭素-炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体等を挙げることができる。
【0037】
(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体の樹脂としては、ノルボルネン若しくはその誘導体と、上記α-オレフィンとを付加重合させて得られる下記式(A2)で表される共重合体の樹脂が好ましい。
【0038】
【0039】
式(A2)中、R21、R22及びR23は、水素原子又はアルキル基を示す。R21又はR22としてとりうるアルキル基としては、上記式(A1)のR1としてとりうるアルキル基と同じである。R23としてとりうるアルキル基としては、上記α-オレフィンに由来する基が挙げられ、例えば、炭素数1~10のアルキル基が挙げられ、炭素数1~4のアルキル基が好ましい。アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。また、m1及びn1は正の整数であり、適宜に設定される。
上記式(A2)で表される環状オレフィン樹脂としては、R21、R22及びR23がいずれも水素原子であるものが好ましく、2-ノルボルネンとエチレンとをメタロセン系触媒により付加重合させたものがより好ましい。
【0040】
(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体の樹脂としては、テトラシクロドデセン若しくはその誘導体とα-オレフィンとを付加重合させて得られる環状オレフィン樹脂も好ましく、テトラシクロドデセン若しくはその誘導体とエチレンとを付加重合させて得られる下記式(A3)で表されるものがより好ましい。
【0041】
【0042】
式(A3)中、R31及びR32は、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を示す。R1及びR2としては水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。R31及びR32としてとりうるアルキル基としては、上記式(A1)のR1としてとりうるアルキル基と同じである。
式(A3)中、m2及びn2は正の整数であり、適宜に設定される。
テトラシクロドデセン若しくはその誘導体とα-オレフィンとを付加重合させて得られる環状オレフィン樹脂としては、上記式(A3)中のテトラシクロドデセン若しくはその誘導を上記4環の環状オレフィンに変更したものも好ましい環状オレフィン樹脂として挙げられる。
【0043】
(3)環状オレフィンの開環(共)重合体若しくはその水素添加物において、環状オレフィンは上述の通りであり、環状オレフィンの開環(共)付加重合体は適宜に他の共重合可能な不飽和単量体に由来する構成成分を有していてもよい。不飽和単量体成分は、上述の(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体若しくはその水素添加物におけるものを同じである。
(3)環状オレフィンの開環(共)重合体の樹脂としては、ノルボルネン若しくはテトラシクロドデセン又はそれらの誘導体を開環重合して得られる環状オレフィン樹脂が好ましく、ノルボルネン若しくはその誘導体を開環重合させて得られる下記式(A4)で表されるものがより好ましい。
【0044】
【0045】
式(A4)中、R41及びR42は、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を示す。R41及びR42としては水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。R41及びR42としてとりうるアルキル基としては、上記式(A1)のR1としてとりうるアルキル基と同じである。
式(A4)中、n3は重合度を示し、正の整数を採り、適宜の値に設定される。
【0046】
(4)上記(1)~(3)の重合体若しくは水素添加物に更に極性基を有する不飽和化合物を共重合した重合体又はその水素添加物において、環状オレフィンは上述の通りであり、重合体は適宜に他の共重合可能な不飽和単量体に由来する構成成分を有していてもよい。不飽和単量体は、上述の(2)環状オレフィンとα-オレフィンの付加共重合体若しくはその水素添加物におけるものを同じである。
環状オレフィン樹脂(4)における不飽和化合物が有する極性基としては、特に制限されず、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができる。このような極性基を有する不飽和化合物としては、特に制限されず、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1~10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1~10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0047】
本発明において、環状オレフィン樹脂は1種又は2種以上を用いることができる。
環状オレフィンを共重合成分として含む環状オレフィン樹脂としては、市販の樹脂を用いることもできる。市販されている環状オレフィン樹脂としては、例えば、TOPAS(登録商標)(TOPAS ADVANCED POLYMER社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0048】
<環状オレフィン樹脂以外の樹脂又はエラストマー>
環状オレフィン樹脂以外の樹脂又はエラストマー(その他の樹脂等ともいう。)としては、特に制限されず、例えば、環状オレフィン樹脂以外のポリオレフィン樹脂(便宜的に、非環状ポリオレフィン樹脂ということがある。)、酸変性共重合体樹脂、エチレンゴム、スチレン系エラストマー、アクリルゴム、フッ素ゴム、有機鉱物油等が挙げられる。
なかでも、非環状ポリオレフィン樹脂を環状オレフィン樹脂と併用することが、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性の点で、好ましい。
【0049】
(非環状ポリオレフィン樹脂)
非環状ポリオレフィン樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物(オレフィン化合物)を重合又は共重合して得られる重合体からなる樹脂(環状オレフィン樹脂を除く。)であれば特に限定されるものではなく、各種の樹脂組成物に使用されている公知のものを使用することができる。例えば、直鎖又は分岐鎖の非環状オレフィンを重合又は共重合して得られる重合体からなる非環状ポリオレフィン樹脂が挙げられる。非環状ポリオレフィン樹脂としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリプロピレンとエチレン-α-オレフィン樹脂とのブロック共重合体、酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体、酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体の各樹脂が挙げられる。また、これら共重合体のゴムないしはエラストマー(エチレンゴム及びスチレン系エラストマーを除く)等も挙げられる。
【0050】
(ポリエチレン樹脂)
ポリエチレン樹脂(PE)は、エチレン成分を主成分とする重合体の樹脂であれば特に限定されない。例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)を含む)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)の各樹脂が挙げられる。なかでも、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性をバランスよく鼎立できる点で、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0051】
- 高密度ポリエチレン(HDPE) -
高密度ポリエチレンは、密度が0.940g/cm3以上のポリエチレンであり、結晶性の硬質ポリエチレンともいう。このHDPEは、エチレンの単独重合体(ホモポリエチレン)、エチレンとエチレン以外のα-オレフィン等との共重合体を包含する。α-オレフィンとしては、特に限定されないが、炭素数3~12のα-オレフィンが挙げられる。高密度ポリエチレンの密度及び分子量は、特に制限されず、適宜に設定される。
【0052】
- 低密度ポリエチレン(LDPE) -
低密度ポリエチレンは、0.910~0.925g/cm3のポリエチレンであり、通常、エチレンとエチレン以外のα-オレフィン等との共重合体をいう。α-オレフィンとしては、高密度ポリエチレンのα-オレフィンと同様のものが挙げられる。低密度ポリエチレンのなかでも、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性をバランスよく鼎立できる点で、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましい。
低密度ポリエチレンの密度及び分子量は、特に制限されず、適宜に設定される。
【0053】
- ポリプロピレン樹脂 -
ポリプロピレン(PP)は、主成分としてプロピレン構成成分を含む重合体(組成物)を含むものであればよく、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン:h-PP)、ランダムプロピレン(エチレン-プロピレンランダム共重合体ともいう。r-PP)、ブロックプロピレン(エチレン-プロピレンブロック共重合体ともいう。b-PP)等を包含する。エチレン-プロピレンランダム共重合体は、エチレン成分の含有量が1~10質量%程度のものをいい、エチレン成分がプロピレン鎖中にランダムに取り込まれているものをいう。ここで、エチレン成分含有量はASTM D3900に記載の方法に準拠して測定される値である。また、エチレン-プロピレンブロック共重合体は、エチレンやエチレン-プロピレンゴム(EPR)成分の含有量が5~20質量%程度のものをいい、プロピレン成分の中にエチレンやEPR成分が独立して存在する海島構造であるものをいう。本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物がポリプロピレンを含有する場合、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性をバランスよく鼎立できる点で、ランダムプロピレンであることが好ましい。
【0054】
- エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂 -
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂としては、好ましくは、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体(なお、上記ポリエチレン及びポリプロピレンに含まれるものを除く。)の樹脂が挙げられる。
【0055】
- 酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂 -
酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂における酸共重合成分を導く化合物としては、特に限定されず、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸化合物等が挙げられる。酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂(ポリエチレン樹脂に含まれるものを除く。)としては、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の樹脂が挙げられる。
【0056】
- 酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂 -
酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂における酸エステル共重合成分を導く化合物としては、特に限定されず、酢酸ビニル及び(メタ)アクリル酸エステル等の酸エステル化合物等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に制限されないが、(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基としては、炭素数1~12のものが好ましい。酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂(ポリエチレン樹脂に含まれるものを除く。)としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等の各樹脂が挙げられる。エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体の樹脂としては、具体的には、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体(EBA)の各樹脂が挙げられる。これらの中でも、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体の各樹脂が好ましい。
【0057】
(酸変性共重合体樹脂)
酸変性共重合体樹脂は、上記各樹脂又は共重合体を、不飽和カルボン酸化合物(単に不飽和カルボン酸ともいう。)又はその無水物により変性した(共)重合体の樹脂が挙げられる。酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸による変性量は、特に限定されないが、(変性前の)樹脂に対して、0.1~2.0質量%が好ましく、0.2~1.0質量%がより好ましい。
上記不飽和カルボン酸(無水物を含む。)としては、特に制限されず、上記共重合体と反応(例えばラジカル付加反応)しうる不飽和結合を有するカルボン酸が好適に挙げられる。この不飽和カルボン酸は、カルボキシ基を1つ有するものでも2つ以上有するものでもよい。好ましい不飽和カルボン酸としては、具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、及びフマル酸、及びこれらの金属塩若しくは有機塩、更には、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸等の不飽和カルボン酸無水物等が挙げられる。上記共重合体を変性する不飽和カルボン酸は1種でも2種以上でもよい。不飽和カルボン酸としては無水マレイン酸若しくはアクリル酸が好ましい。
【0058】
(エチレンゴム)
エチレンゴムとしては、エチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して得られる共重合体からなるゴム(エラストマーを含む。)であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα-オレフィンとの二元共重合体ゴム、エチレンとα-オレフィンとジエンとの三元共重合体ゴム等が挙げられる。三元共重合体を構成するジエン化合物は、共役ジエン化合物であっても非共役ジエン化合物であってもよいが、非共役ジエン化合物が好ましい。
α-オレフィンとしては、炭素数3~12の各α-オレフィンが好ましい。共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の各化合物が挙げられ、ブタジエン化合物等が好ましい。非共役ジエン化合物の具体例としては、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等の各化合物が挙げられる。
二元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)が好ましく、三元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が好ましい。
【0059】
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマーとしては、分子内に芳香族ビニル化合物に由来する構成成分を有する重合体からなるものをいう。このようなスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。このようなスチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SIS、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素化SBS、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)等が挙げられる。
【0060】
(有機鉱物油)
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、耐熱性及び耐摩耗性の点で、有機鉱物油を必須としない(含有していない)ことが好ましい。本発明において、重合体等の成分を必須としない(含有していない)とは、当該成分を含有しない態様と、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば当該成分を含有していてもよい態様とを包含する。本発明の作用効果を損なわない範囲は、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の組成等によって一義的ではないが、例えば、ベース樹脂100質量%中、1質量%以下である。
有機鉱物油としては、樹脂組成物に通常用いられるものが挙げられ、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0061】
(樹脂の組成)
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物が含有するベース樹脂は、合計で100質量%となる割合に設定され、環状オレフィン樹脂を3~20質量%含有している。このベース樹脂により、優れた機械特性を維持しつつ高い耐摩耗性と高い耐熱性とを発現する被覆層を形成できる。そのため、配線材の被覆層を形成する材料として用いることにより、被覆層を薄肉化することができ、また配線材を配設した後に保護部材の装着を必須としない。
ベース樹脂は、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性をバランスよく鼎立できる点で、環状オレフィン樹脂と非環状ポリオレフィン樹脂とを含有していることが好ましく、環状オレフィン樹脂とポリエチレン樹脂とを含有していることがより好ましく、環状オレフィン樹脂と低密度ポリエチレン樹脂と高密度ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂とを含有していることが更に好ましく、環状オレフィン樹脂と低密度ポリエチレン樹脂と高密度ポリエチレン樹脂とポリプロピレン樹脂とを含有していることが特に好ましい。
一方、ベース樹脂は、耐摩耗性及び耐熱性の点で、超低密度ポリエチレン(VLDPE、ULDPE)、酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂を含有していないことが好ましく、超低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂及びエチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体樹脂のいずれも含有していないことがより好ましい。
【0062】
ベース樹脂100質量%中の、環状オレフィン樹脂の含有量は、耐熱性を維持しながらも機械特性と耐摩耗性とを両立できる点で、3~20質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがより好ましく、10~15質量%であることが更に好ましい。ベース樹脂中の、その他の樹脂等の総含有量は、特に制限されないが、環状オレフィン樹脂の含有量に応じて適宜に決定され、通常、残部とされる。
【0063】
ベース樹脂100質量%中の、非環状ポリオレフィン樹脂の総含有量は、特に制限されないが、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性をバランスよく鼎立できる点で、70~97質量%であることが好ましく、80~90質量%であることがより好ましく、80~85質量%であることが更に好ましい。
ベース樹脂100質量%中の、低密度ポリエチレンの含有量は、特に制限されず、非環状ポリオレフィン樹脂の上記総含有量を考慮して適宜に決定され、例えば、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性をバランスよく鼎立できる点で、20~70質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがより好ましく、40~50質量%であることが更に好ましい。
ベース樹脂100質量%中の、高密度ポリエチレンの含有量は、特に制限されず、非環状ポリオレフィン樹脂の上記総含有量を考慮して適宜に決定され、例えば、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性をバランスよく鼎立できる点で、10~70質量%であることが好ましく、優れた耐熱性を維持しながら機械特性と耐摩耗性とを高い水準で両立できる点で、10~50質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが更に好ましい。
ベース樹脂100質量%中の、ポリプロピレンの含有量は、特に制限されず、非環状ポリオレフィン樹脂の上記総含有量を考慮して適宜に決定され、例えば、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性をバランスよく鼎立できる点で、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることが更に好ましい。
【0064】
ベース樹脂100質量%中の、酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂、酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂、酸変性共重合体樹脂、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの合計含有量は、特に限定されないが、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性のずれかの特性が低下することを抑制できる点で、10質量%以下であることが好ましく、0~5質量%であることが好ましい。酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂、酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂、酸変性共重合体樹脂、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーの各含有量は、上記合計含有量を考慮して適宜に決定され、例えば、上記合計含有量と同じ範囲に設定される。
ベース樹脂100質量%中の、有機鉱物油の含有量は、特に制限されず、適宜に設定される。
【0065】
<難燃剤>
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、好ましくは、難燃剤を含有する。耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物が含有する難燃剤としては、特に制限されず、難燃性樹脂組成物等に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。このような難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤が挙げられる。ハロゲン系難燃剤は後述する難燃助剤との併用によって高い難燃作用を効果的に発現させることができ、その含有量を低減できる。そのため、ハロゲン系難燃剤の含有による耐摩耗性の低下を効果的に抑えることができる。ハロゲン系難燃剤としては、ハロゲン原子を有する難燃剤であれば特に限定されないが、塩素原子を含有する塩素系難燃剤、臭素原子を含有する臭素系難燃剤等が好ましく挙げられ、後述する難燃助剤による難燃性増強効果が高い臭素系難燃剤が好ましい。
臭素系難燃剤としては、特に制限されず、難燃性組成物に通常用いられるものを特に制限されずに用いることができる。臭素化エチレンビスフタルイミド化合物、ビス臭素化フェニルテレフタルアミド化合物、臭素化ビスフェノール(例えばテトラブロモビスフェノールA)化合物、1,2-ビス(ブロモフェニル)エタン化合物、ポリブロモジフェニルエーテル(例えばデカブロモジフェニルエーテル)化合物、ポリブロモビフェニル(例えばトリブロモフェニル)化合物、ヘキサブロモシクロドデカン、臭素化ポリスチレン、ヘキサブロモベンゼン等が挙げられる。これ以外にも、例えば、特開2014-132530号公報の段落[0020]に記載されたものが挙げられる。臭素系難燃剤については、特開2014-132530号公報に記載された内容を適宜参照することができ、その内容はそのまま本明細書の記載の一部として取り込まれる。
塩素系難燃剤としては、特に制限されず、難燃性組成物に通常用いられるものを特に制限されずに用いることができる。例えば、デカクロロドデカヒドロジメタノシクロオクテン化合物、1,6,7,8,9,14,15,16,17,17,18,18-ドデカクロロペンタシクロ[12.2.1.16,9.02,13.05,10]オクタデカ-7,15-ジエン(例えば、ハイケム社製のデクロランプラス(商品名))等が挙げられる。
【0066】
<難燃助剤>
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤を含有する場合、好ましくは、ハロゲン系難燃剤の難燃助剤を含有する。この難燃助剤としては、ハロゲン系難燃剤と併用することによる相乗効果によって、ハロゲン系難燃剤が単独で示す難燃作用を超える高い難燃作用を発揮させるものを用いる。このような難燃助剤は、難燃性組成物に通常用いられるものを特に制限されずに用いることができ、ハロゲン系難燃剤に応じて適宜に選択される。例えば、三酸化アンチモン等の酸化アンチモンが好適に挙げられる。三酸化アンチモンはハロゲン系難燃剤と段階的に反応して高い難燃作用を発現させることができる。
【0067】
<難燃剤等の組成>
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物において、難燃剤の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性を損なうことなく、高い難燃性を発現する点で、0~40質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることが更に好ましい。
難燃助剤の含有量は、(ハロゲン系)難燃剤の難燃作用を増強して、更に難燃性を高めることができる点で、ベース樹脂100質量部に対して、5~30質量部であることが好ましく、5~25質量部であることがより好ましく、5~20質量部であることが更に好ましい。
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物において、難燃剤及び難燃助剤を含有する場合、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性を損なうことなく、高い難燃性を発現する点で、ベース樹脂100質量部に対して、合計で15~60質量部であることが好ましく、30~60質量部であることが好ましく、30~50質量部であることがより好ましい。
難燃剤、特にハロゲン系難燃剤の含有量と難燃助剤の含有量との質量比[難燃剤の含有量/難燃助剤の含有量]は、通常、難燃剤及び難燃助剤の難燃性増強作用(例えば上記反応)を考慮して、適宜に決定される。質量比[難燃剤の含有量/難燃助剤の含有量]は、例えば、1~3であることが好ましく、1.5~2.5であることがより好ましい。
【0068】
<無機フィラー>
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、好ましくは、無機フィラーを含有する。特にシラン架橋物である場合には、機械特性、耐摩耗性及び難燃性の点で、無機フィラーを含有することが好ましく、シランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位と水素結合若しくは共有結合等又は分子間結合により化学結合しうる部位を表面に有する無機フィラーを含有することがより好ましい。このような化学結合しうる部位としては、特に制限されないが、OH基(水酸基、含水若しくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
【0069】
無機フィラーとしては、樹脂組成物にフィラーとして通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ベーマイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、タルク等の水酸基若しくは結晶水を有する化合物のような金属水和物が挙げられる。また、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボンブラック、クレー(焼成クレー)、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、シリコーン化合物、石英、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛等も挙げられる。なお、上記した化合物の中には充填作用に加えて難燃作用を示すものも含まれるが、本発明においては無機フィラーに分類する。
無機フィラーは、上記した中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物が好ましく、燃焼時に殻を形成する能力が高く、高度な難燃性を発揮する点で水酸化マグネシウムが好ましい。
【0070】
無機フィラーは、シランカップリング剤等で表面処理したものを用いることができる。例えば、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、水酸化マグネシウム、協和化学工業社製等)が挙げられる。シランカップリング剤による無機フィラーの表面処理量は、特に限定されないが、例えば3質量%以下であることが好ましい。
無機フィラーは、通常、粉体若しくは粒子として含有される。このときの平均粒径は、特に制限されないが、0.2~10μmが好ましい。平均粒径が上記範囲内にあると、2次凝集を抑制できる。平均粒径は、無機フィラーをアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0071】
耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物中の、無機フィラーの含有量は、特に制限されず、適宜に決定される。無機フィラーの含有量は、機械特性、耐摩耗性及び難燃性を高い水準でバランスよく鼎立できる点で、ベース樹脂100質量部に対して、0~130質量部であることが好ましく、優れた耐熱性を維持しながら機械特性と耐摩耗性とを高い水準で両立できる点で、20~120質量部であることがより好ましく、40~80質量部であることが更に好ましい。
【0072】
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、無機フィラー及び難燃剤の少なくとも一方を含有していれば、優れた、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性を維持しながら難燃性を高めることができる。高度な難燃性を発現するためには、難燃剤を含有することが好ましく、難燃剤と無機フィラー又は難燃助剤とを含有することがより好ましい。
【0073】
<その他の成分>
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、ベース樹脂、難燃剤、難燃助剤及び無機フィラーに加えて、本発明の目的を損なわない範囲において、樹脂組成物に一般的に使用される添加剤等の各種成分(その他の成分という。)等を含有することができる。その他の成分としては、例えば、老化防止剤(酸化防止剤)、滑剤、架橋剤、架橋助剤等を挙げることができる。
なお、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物を調製するための架橋性ポリオレフィン樹脂組成物については、適用する架橋反応の種類等により、更に、架橋剤、架橋助剤、架橋触媒、架橋促進剤等を適宜含有することが好ましく、これら成分についても併せて説明する。
耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物が含有してもよいその他の成分はそれぞれ1種でも2種以上でもよい。
【0074】
(老化防止剤)
老化防止剤(酸化防止剤)としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤、硫黄酸化防止剤等が挙げられ、フェノール酸化防止剤が好ましい。老化防止剤の、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲に設定され、例えば、ベース樹脂100質量部に対して0.5~15質量部とすることができる。
【0075】
(滑剤)
滑剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン化合物、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミドが挙げられ、シリコーン化合物が好ましい。滑剤の、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲に設定され、例えば、ベース樹脂100質量部に対して0~5質量部とすることができる。
【0076】
(シランカップリング剤)
本発明において、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を電子線架橋法又はシラン架橋法により架橋させる場合、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は架橋剤としてシランカップリング剤を1種又は2種以上含有する。シランカップリング剤は、電子線の照射若しくは有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下でベース樹脂のグラフト化反応可能な部位等にグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又はエチレン性不飽和基等の官能基)を有している。シラン架橋法に用いるシランカップリング剤は、更にシラノール縮合可能な反応部位として加水分解性シリル基(例えばアルコキシシリル基)を有しており、このシラノール縮合可能な反応部位は上記無機フィラーの化学結合しうる部位と反応しうることが好ましい。
【0077】
シランカップリング剤としては、特に制限されず、従来、電子線架橋法又はシラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルアルコキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルコキシシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシラン又はビニルトリエトキシランが特に好ましい。
シランカップリング剤の、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量(耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物においてはシラン架橋(グラフト化反応及びシラノール縮合反応)する前の含有量に換算)は、ベース樹脂100質量部に対して、2~15質量部が好ましく、2.5~12質量部がより好ましく、3~10質量部が更に好ましい。
【0078】
(有機過酸化物)
架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を有機過酸化物架橋法又はシラン架橋法により架橋させる場合、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は有機過酸化物を1種又は2種以上含有することが好ましい。有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、樹脂同士の架橋反応、又はシランカップリング剤と樹脂とのラジカル反応によるグラフト化反応を生起、促進させる働きをする。
有機過酸化物としては、特に制限はなく、ラジカル重合反応又は従来のシラン架橋法に用いられるものを特に制限されずに用いることができる。このような有機過酸化物としては、例えば、一般式:R1-OO-R2、R3-OO-C(=O)R4、R5C(=O)-OO(C=O)R6で表される化合物が好ましい。ここで、R1~R6は各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR1~R6のうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。具体的には、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド(DCP)、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン又は2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3が挙げられる。
有機過酸化物の、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、特に制限されないが、通常、架橋時に分解する。架橋性ポリオレフィン樹脂組成物中における有機過酸化物の含有量は、架橋法に応じて適宜に決定することができる。例えば、ベース樹脂100質量部に対して、0.003~3質量部とすることができる。シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物中における有機過酸化物の含有量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.003~0.5質量部が好ましく、0.005~0.5質量部がより好ましく、0.005~0.2質量部が更に好ましい。
【0079】
(シラノール縮合触媒)
架橋性ポリオレフィン樹脂組成物をシラン架橋法により架橋させる場合、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物はシラノール縮合触媒を1種又は2種以上含有することが好ましい。シラノール縮合触媒は、樹脂にグラフトしたシランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位を水分の存在下で縮合反応を促進させる働きがある。この縮合反応により、シランカップリング剤、適宜に無機フィラーを介して樹脂が架橋される。
このようなシラノール縮合触媒としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられ、有機スズ化合物が好ましい。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。
シラノール縮合触媒の、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、特に制限されないが、通常、架橋時に分解する。シラノール縮合触媒の、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物中の含有量は、特に限定されず、適宜に決定される。シラノール縮合触媒の含有量は、例えば、ベース樹脂100質量部に対して、0.0001~0.5質量部が好ましく、0.001~0.2質量部がより好ましい。
【0080】
(架橋助剤)
架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を電子線架橋法又は有機過酸化物架橋法により架橋させる場合、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は架橋助剤を1種又は2種以上含有していてもよい。架橋助剤としては、電子線架橋法に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。通常、多官能性化合物が挙げられ、例えば、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の(メタ)アタクリレート系多官能性化合物、トリアリルシアヌレート等のアリル系多官能性化合物、マレイミド系多官能性化合物、ジビニル系多官能性化合物が挙げられる。
耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物中の架橋助剤の含有量(架橋反応する前の含有量に換算)、及び架橋性ポリオレフィン樹脂組成物中の架橋助剤の含有量は、適宜に設定され、例えば、ベース樹脂100質量部に対して、1~8質量部に設定することができる。
【0081】
(発泡剤)
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物を形成する架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は、発泡を形成するための発泡剤を含有しないことが好ましい。
【0082】
[[耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の調製]]
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、適宜の方法で調整でき、例えば、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を調製し、これを架橋させることで、調製できる。
(架橋性ポリオレフィン樹脂組成物の調製)
架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は、(未架橋の)ベース樹脂、好ましくは、難燃剤、難燃助剤、無機フィラー、適宜にその他の成分、更に架橋法に応じた成分を混合又は溶融混合して、調製することができる。
混合方法としては、ゴム若しくは樹脂組成物の調製に通常採用される方法であれば、特に限定されない。例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、各種のニーダー等の各種混合装置を用いて混合することができる。溶融混合(混練ともいう。)の温度や時間などの混合条件は、特に限定されず、ベース樹脂の溶融温度以上の温度範囲内で適宜に設定できる。混合温度は、例えば、後述する工程(1)の溶融混合条件とすることが好ましい。各成分の混合順は、特に制限されず、上記各成分を一度に(溶融)混合することもできるし、適宜の順で各成分を順次混合することもできる。こうして、各成分が分散(混合)された、架橋性(未架橋)ポリオレフィン樹脂組成物を調製することができる。
なお、シラン架橋法に適用する架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は、上記調製方法に関わらず、後述する工程(1)により調製することが好ましい。
【0083】
架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は、適宜の形状に成形することもできる。架橋性ポリオレフィン樹脂組成物の調製に際しては、架橋処理前(調製中又は調製後)に成形することが好ましい。成形方法及び成形条件は、成形後の形状や形態に応じて、適宜の方法及び条件が選択される。例えば、成形方法としては、押出成形機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。押出成形は、配線材の被覆層を形成する場合に、生産性、更には導体と共押出できる点等で、好ましい。
【0084】
(耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の調製)
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、上述の架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を上述した架橋反応処理して調製することができる。架橋性ポリオレフィン樹脂組成物は、未成形の状態で架橋処理されてもよいが、例えば上述の成形法により成形した後に架橋処理されることが好ましい。
なお、本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物が非発泡樹脂組成物である場合、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法において発泡工程(ガス発泡工程、発泡剤の分解発泡工程等)を有さない。
【0085】
架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を電子線架橋法で架橋反応処理する場合、上記のようにして調製した架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を、好ましくは適宜の形状に成形した後に、電子線を照射する。電子線の照射条件は、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物(樹脂)を架橋反応させることができる限り特に制限されない。例えば、電子線の照射量は1~30Mradとすることでき、照射時の加速電圧は500~750keVとすることができる。
【0086】
架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を有機過酸化物架橋法で架橋反応処理する場合、上記のようにして調製した架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を、好ましくは適宜の形状に成形した後に、有機過酸化物の分解温度以上に加熱する。加熱条件は、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物が含有する有機過酸化物の分解温度以上であればよく、加熱時間も特に限定されない。加熱条件としては、例えば、後述する工程(1)の溶融混合条件を適用できる。
【0087】
架橋性ポリオレフィン樹脂組成物をシラン架橋法で架橋反応処理する場合、シランカップリング剤がグラフト化反応したベース樹脂を含有するシラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を、好ましくは適宜の形状に成形した後に、水分と接触させる方法が好ましい。
シラン架橋法による架橋物としての耐熱性シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体の製造方法としては、下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する製造方法が好ましい。
【0088】
工程(1):環状オレフィン樹脂を3~20質量%含むベース樹脂と、シランカップリ
ング剤と、有機過酸化物と、シラノール縮合触媒と、好ましくは無機フィ
ラー、難燃剤及び難燃助剤の少なくとも1種とを溶融混合して、溶融混合
物(シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物)を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた溶融混合物を成形して成形体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた成形体と水とを接触させて耐熱性架橋ポリオレフィ
ン樹脂組成物(シラン架橋物)の成形体を得る工程
【0089】
上記工程(1)を行うに際して、下記工程(a)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には工程(a)及び工程(c)を有し、下記工程(a)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する。
工程(a):ベース樹脂の全部又は一部と、シランカップリング剤と、有機過酸化物と
、好ましくは無機フィラー、難燃剤及び難燃助剤の少なくとも1種とを、
有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合して、シランマスターバッ
チ(シランMB)を調製する工程
工程(b):ベース樹脂の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスター
バッチ(触媒MB)を調製する工程
工程(c):シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒MBとを溶融混合する工程
工程(b)でベース樹脂の残部をキャリア樹脂として溶融混合する場合、ベース樹脂は、工程(a)において、好ましくは80~99質量部、より好ましくは94~98質量部を溶融混合し、工程(b)において、好ましくは1~20質量部、より好ましくは2~6質量部を溶融混合する。
工程(a)で混合するベース樹脂は環状オレフィン樹脂を含むことが好ましく、工程(b)で混合するベース樹脂の残部(キャリア樹脂)はその他の樹脂等のうちポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。
【0090】
工程(1)において溶融混合する各成分の含有量は、上述の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物又は架橋性ポリオレフィン樹脂組成物における含有量と同じである。
【0091】
工程(1)及び工程(a)における溶融混合は、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法を適宜に選択して行うことができ、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の各種混合装置を用いて混合する方法が挙げられる。溶融混合する温度(混合温度ともいう。)は、有機過酸化物の分解温度以上であり、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(1~80)℃の温度である。溶融混合の温度は、一義的に定めることは難しいが、一例を挙げると、80~250℃が好ましく、100~240℃がより好ましい。その他の条件は適宜設定することができる。混合時間は、特に制限されず、例えば、混合時間は1~25分とすることができ、好ましくは3~20分である。なお、工程(a)においては、上述の各成分をシラノール縮合触媒の非存在下(例えばベース樹脂100質量部に対して0.01質量部以下の割合)で溶融混合して、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることが好ましい。
工程(1)及び工程(a)において、溶融混合する際の各成分の混合順は、特に限定されず、上記各成分を一度に溶融混合することができるが、無機フィラーを用いる場合、シランカップリング剤はベース樹脂と溶融混合される前に無機フィラー、更に適宜に有機過酸化物と混合されることが好ましい。この前混合(予備混合)は、公知の混合機、混練機等を用いて、通常、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは10~60℃、より好ましくは室温近傍(20~35℃)で、数分~数時間程度、乾式又は湿式により、混合する方法及び条件が挙げられる。好ましくは、有機過酸化物の分解温度未満の温度でドライブレンドする。前混合により、無機フィラーと強く結合するシランカップリング剤と、無機フィラーと弱く結合するシランカップリング剤とをバランスよく形成できる。前混合する混合方法においては、次いで、得られた混合物とベース樹脂の全部又は一部と残余の成分とを例えば上記溶融混合条件で溶融混練する。
【0092】
工程(b)及び工程(c)における溶融混合は、それぞれ、上記行程(a)の溶融混合と同様に行うことができる。ただし、工程(c)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。なお、工程(c)においては、溶融混合に先立って、樹脂の非溶融下、例えば上記前混合の条件で、混合(例えばドライブレンド)することができる。
【0093】
工程(1)において、工程(a)~(c)は同時に又は連続して行うことができる。
工程(1)により、溶融混合物として架橋性ポリオレフィン樹脂組成物(未成形体)が調製される。
【0094】
次いで、得られた溶融混合物を成形して成形体を得る工程(2)を行う。工程(2)の成形は、溶融混合物を成形できればよく、成形体の形態に応じて、適宜の成形方法及び成形条件が選択される。成形方法については上述の通りである。この工程(2)は、例えば押出成形機を用いて、上記工程(c)と同時に又は連続して、行うことができる。成形条件としては、例えば工程(a)の溶融混合方法及び条件を適用できる。
こうして得られた、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物の成形体と水とを接触させる工程(3)を行い、シランカップリング剤をシラノール縮合反応(架橋反応)させる。この工程(3)は通常の方法によって行うことができ、上記架橋反応は常温、例えば20~25℃程度の温度環境下で放置するだけでも進行するが、架橋反応を促進させるために成形体と水分とを積極的に接触させることもできる。
こうして、シランカップリング剤を介して架橋されたベース樹脂を含有する耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物(成形体)を調製できる。
【0095】
上記シラン架橋法については、用いるベース樹脂や難燃剤等の成分以外の成分(シランカップリング剤、有機過酸化物、シラノール縮合触媒等)、上記製造方法における各工程(1)~(3)、更にはシラン架橋法における反応及び得られる縮合硬化物の形態については、例えば、国際公開第2016/140253、又は特開2017-145370号公報の記載を適宜に適用でき、これらの公報に記載の内容はそのまま本明細書の記載の一部として取り込まれる。
【0096】
<耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の用途>
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物は、上述の優れた特性を示すため、配線材、特に配線材の被覆層を形成する材料として、好適に用いることができる。また、一般的な成形品(シール材、パッキン等)にも適用することができる。特に、上述の優れた特性を活かして、極めて高い耐摩耗性が求められる用途に好適であり、例えば、配線材の中でも、自動車用絶縁電線、特に後述する(極)薄肉電線の被覆層を形成する材料として好適である。
【0097】
[配線材]
以下に、本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成した管状成形体を被覆層として用いた配線材について説明する。
本発明の配線材は、導体の外周面上に、本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成された被覆層(絶縁層、シース等を含む。)を有している。この配線材は、機械特性及び耐熱性に優れ、顕著な耐摩耗性を発現する。好ましくは難燃性にも優れる。
本発明の配線材は、導体の外周面に本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物からなる被覆層を少なくとも1層有していればよく、それ以外の構成は配線材の通常の構成と同様とすることができる。例えば、導体の外周面に少なくとも1層の被覆層を有する絶縁電線、このような絶縁電線若しくはこれら絶縁電線を複数束ねた電線束の外周面に被覆層としてのシースを形成したケーブル等が挙げられる。また、本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物からなる被覆層は、導体の外周面上に直接設けられても、接着層等の他の層を介して間接的に設けられてもよい。被覆層は単層でも複層でもよく、複層である場合少なくとも1層が本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成されていればよい。また、ケーブルのシースを本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物で形成してもよい。
【0098】
配線材としては、例えば、絶縁電線若しくはケーブル、(電気)コード、光ファイバ心線、光ファイバコード、光ケーブル等が挙げられる。これらは、電気・電子機器の内部配線若しくは外部配線に使用される配線材、屋内に配設される配線材、屋外に配設される配線材を含む。本発明の配線材は、好ましくは、車両(自動車若しくは鉄道車両等の車載)用絶縁電線若しくはケーブル、通信用電線若しくはケーブル、通信用光ファイバ若しくは光ケーブル、又は、電力用電線若しくは電力ケーブルとして用いることができる。その中でも、車載用絶縁電線、特に(極)薄肉電線(例えばAESSXクラス)として好適である。
【0099】
導体としては、配線材に応じた適宜の導体を用いることができる。例えば、適宜に、単線の導体、撚線の導体(抗張力繊維を縦添え若しくは撚り合わせた撚線を含む。)を用いることができる。例えば、絶縁電線等に用いる導体としては、裸線でも錫メッキ若しくはエナメル被覆したものでもよい。導体を形成する金属材料としては軟銅、銅合金、アルミニウム等が挙げられる。導体の外径等は用途等に応じて適宜に決定され、各用途に用いられる通常の配線材と同様に設定できる。例えば0.5~4.0mmとすることができる。一方、光ファイバ心線、光ファイバケーブルに用いる導体としては、石英ガラスや各種プラスチック等からなる導体が挙げられる。
被覆層の厚さ(肉厚)は、用途等に応じて適宜に決定されるが、各用途に用いられる通常の配線材と同様の厚さに設定でき、例えば、絶縁電線等では、通常、0.15~10mm程度(極薄肉電線では0.4mm以下)に設定され、光ファイバケーブル等では、通常、0.1~10mm程度に設定される。
【0100】
<配線材の製造方法>
本発明の配線材は、適宜の方法により製造することができるが、本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物を導体の外周面上に配置(管状に成形)し、適宜に架橋反応処理して、製造することが好ましい。
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物を導体の外周面上に配置する方法は、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物で導体を被覆できる方法であればよく、適宜の成形方法、例えば上述の成形方法が挙げられる。本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物を導体の外周面上に配置する方法(耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の配置)は、押出成形機を用いて、本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の調製方法(押出成形機内での耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の調製)と連続して一連の工程として(一挙に)に行うこともできる。次いで、導体の外周面上に配置した架橋性ポリオレフィン樹脂組成物を架橋反応処理する。この架橋反応処理は、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物に適した各架橋法に通常適用される方法、条件を特に制限されることなく適用でき、具体的には上述の通りである。
本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物をシラン架橋法で架橋させる場合、その製造方法は上述の製造方法において、工程(1)で得られた溶融混合物を、例えば押出成形機を用いて、導体の外周面上に成形すること以外は上述の製造方法と同じである。
【0101】
このようにして、本発明の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物を用いて、機械特性に優れ、かつ高度な耐摩耗性及び耐熱性を示し、好ましくは難燃性にも優れた、被覆層を備えた配線材を製造することができる。
【実施例0102】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0103】
実施例及び比較例に用いた各化合物の詳細を以下に示す。
<ベース樹脂>
(環状オレフィン樹脂)
COP1:ZEONOR 1420R(商品名、シクロオレフィンポリマー(テトラシクロドデセン誘導体の開環重合体)COP、日本ゼオン社製)
COP2:ZEONOR 1060R(商品名、シクロオレフィンポリマー(テトラシクロドデセン誘導体の開環重合体)COP、日本ゼオン社製)
COC1:APEL 6011T(商品名、シクロオレフィンコポリマー(ノルボルネン誘導体とエチレンとの付加重合体)COC、三井化学社製)
COC2:APEL 6015T(商品名、シクロオレフィンコポリマー(ノルボルネン誘導体とエチレンとの付加重合体)COC、三井化学社製)
COC3:TOPAS 6013M-07(商品名、シクロオレフィンコポリマー(ノルボルネン誘導体とエチレンとの付加重合体)COC、ADVANCED POLYMER社製)
【0104】
(その他の樹脂又はエラストマー)
LLDPE:エボリュー(登録商標)1540(商品名、直鎖型低密度ポリエチレン、密度0.91g/cm3、プライムポリマー社製)
HDPE:Evolue(登録商標)-H SP5505(商品名、メタロセン触媒を用いて重合した高密度ポリエチレン、密度0.951g/cm3、プライムポリマー社製)
r-PP:サンアロマーPB222A(商品名、ランダムポリプロピレン、サンアロマー社製)
【0105】
<難燃剤>
臭素系難燃剤:サイテックス8010(商品名、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、アルベマール社製)
塩素系難燃剤:デクロランプラス(商品名、1,6,7,8,9,14,15,16,17,17,18,18-ドデカクロロペンタシクロ[12.2.1.16,9.02,13.05,10]オクタデカ-7,15-ジエン、ハイケム社製)
<難燃助剤>
三酸化アンチモン:三酸化アンチモン(日本精鉱社製)
<無機フィラー>
水酸化マグネシウム:マグシーズFK-621(商品名、神島化学工業社製)
<その他の成分>
シランカップリング剤:KBM-1003(商品名、トリメトキシビニルシラン、信越シリコーン社製)
有機過酸化物:パーヘキサ25B(商品名、2,5-ジメチル-2,5-ジ-tert-ブチルパーオキシ-ヘキサン、分解温度154℃、日油社製)
シラノール縮合触媒:アデカスタブOT-1(商品名、ジオクチルスズジラウレート、ADEKA社製)
架橋助剤:オグモントT200(商品名、トリメチロールプロパントリメタクリレート、新中村化学社製)
老化防止剤:イルガノックス1010(商品名、Pentaerythritol tetrakis(3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propionate)、BASF社製)
滑剤:X-22-2125H(商品名、シリコーン混合物、信越シリコーン社製)
【0106】
[実施例1~24及び比較例1~4]
実施例1~24及び比較例1~4は、表1及び表2に示す成分を用いて、それぞれ実施した。具体的には、下記製造方法により、表1及び表2に示す組成の耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物をそれぞれ調製し、これらを導体の外周面上に押出成形(押出被覆)して形成した被覆層を有する絶縁電線(日本自動車技術会規格(JASO) D 625準拠、AESSX-0.3SQf)を製造した。
表1及び表2において、各例の混合量(含有量)に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の混合量が0質量部であることを意味する。
【0107】
実施例及び比較例において、架橋法に応じて、下記のその他の成分を用いた。
なお、表1及び表2において、その他の成分、及びそれらの混合量の記載を省略し、これらをまとめて「その他の成分」欄に合計含有量を記載した。
<シラン架橋法>
シランカップリング剤2.8質量部、有機過酸化物0.1質量部、シラノール縮合触媒0.1質量部、老化防止剤1質量部及び滑剤1質量部(合計5質量部)
<電子線架橋法(実施例9)>
架橋助剤としてメタクリレート系多官能性化合物3質量部、老化防止剤1質量部及び滑剤1質量部(合計5質量部)
<有機過酸化物架橋法(実施例10)>
架橋剤として有機過酸化物1質量部、老化防止剤1質量部及び滑剤1質量部(合計3質量部)
<非架橋(比較例1)>
老化防止剤1質量部及び滑剤1質量部(合計2質量部)
<非架橋(比較例2)>
老化防止剤1質量部及び滑剤1質量部(合計2質量部)
【0108】
<実施例1~8、11~15、18~21及び比較例3、4>
下記シラン架橋法により、絶縁電線を製造した。
実施例及び比較例において、ベース樹脂の一部を工程(a)で用い、ベース樹脂の残部(LLDPE5質量部)を工程(b)で触媒MBのキャリア樹脂として用いた。
【0109】
具体的には、ベース樹脂100質量部に対して、表1及び表2に示す質量部の無機フィラーと、シランカップリング剤2.8質量部と、有機過酸化物0.1質量部とを、室温(25℃)下で、乾式混合した。得られた混合物と、ベース樹脂の一部と、難燃剤と、難燃助剤と、老化防止剤1質量部と、滑剤1質量部とを、表1及び表2に示す含有量で、2Lバンバリーミキサー(日本ロール社製)を用いて、有機過酸化物の分解温度以上の温度(200℃)において5分間にわたり溶融混合した後、材料排出温度130℃で排出し、ペレット化してシランMBを得た(工程(a))。
また、ベース樹脂の残部とシラノール縮合触媒0.1質量部とを150℃でバンバリーミキサー(日本ロール社製)にて溶融混合し、材料排出温度130℃で排出して、触媒MBを得た(工程(b))。
次いで、工程(a)で得たシランMBと工程(b)で得た触媒MBを押出成形機(スクリュー径:25mm、L/D(スクリュー有効長Lと径Dとの比):25)の直上で、25℃で約1分間にわたり、ドライブレンドして、ドライブレンド物を得た。得られたドライブレンド物を、上記押出成形機に投入して、下記押出温度条件により、直径0.16mmの軟銅素線を19本同芯撚りした撚線導体(外径0.80mm)の外周に仕上がり外径1.20mm(厚さ0.20mm)となるように、線速100m/分(スクリュー回転数40rpm)で、押出被覆して(工程(2))、電線前駆体を製造した。
このとき、押出成形機内で上記ドライブレンド物が押出成形前に溶融混合される(工程(c))ことにより、シラン架橋性ポリオレフィン樹脂組成物が調製される。押出温度条件は、押出成形機のシリンダー部分における温度制御をフィーダー側からダイス側に向けて3ゾーンC1、C2、C3に分け、C1ゾーンを150℃、C2ゾーンを170℃、C3ゾーンを190℃に設定し、更にダイス温度(成形温度)を200℃に設定した。
このようにして得られた電線前駆体を25℃、50%RH環境に24時間放置することにより(工程(3))、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体と水とを接触させてシラノール縮合反応を行い、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体を被覆層として有する絶縁電線を製造した。
【0110】
<実施例16、17及び22~24>
下記シラン架橋法により、絶縁電線を製造した。
本実施例においては、ベース樹脂の全部を工程(a)で用いた。
具体的には、ベース樹脂100質量部と、シランカップリング剤2.8質量部と、有機過酸化物0.1質量部と、表1及び表2に示す質量比の難燃剤及び難燃助剤と、老化防止剤1質量部と、滑剤1質量部とを、2Lバンバリーミキサー(日本ロール社製)を用いて、有機過酸化物の分解温度以上の温度(200℃)において5分間にわたり溶融混合した後、材料排出温度130℃で排出し、ペレット化してシランMBを得た(工程(a))。
次いで、工程(a)で得たシランMBとシラノール縮合触媒0.1質量部を押出成形機(スクリュー径:25mm、L/D(スクリュー有効長Lと径Dとの比):25)の直上で、25℃で約1分間にわたり、ドライブレンドして、ドライブレンド物を得た。得られたドライブレンド物を、上記押出成形機に投入して、下記押出温度条件により、直径0.16mmの軟銅素線を19本同芯撚りした撚線導体(外径0.80mm)の外周に仕上がり外径1.20mm(厚さ0.20mm)となるように、線速100m/分(スクリュー回転数40rpm)で、押出被覆して(工程(2))、電線前駆体を製造した。
このとき、押出成形機内で上記ドライブレンド物が押出成形前に溶融混合される(工程(c))ことにより、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物が調製される。押出温度条件は、押出成形機のシリンダー部分における温度制御をフィーダー側からダイス側に向けて3ゾーンC1、C2、C3に分け、C1ゾーンを150℃、C2ゾーンを170℃、C3ゾーンを190℃に設定し、更にダイス温度(成形温度)を200℃に設定した。
このようにして得られた電線前駆体を25℃、50%RH環境に24時間放置することにより(工程(3))、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体と水とを接触させてシラノール縮合反応を行い、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体を被覆層として有する絶縁電線を製造した。
【0111】
<実施例9>
下記電子線架橋法により、絶縁電線を製造した。
表1に示す配合量で表1に示す各成分と、架橋助剤3質量部と、老化防止剤1質量部と、滑剤1質量部とを、バンバリーミキサーに投入して120~200℃で10分溶融混合した後、材料排出温度200℃で排出し、フィーダールーダーを通して、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて次のようにして絶縁被覆を形成して、電線前駆体を製造した。すなわち、得られたペレットを、直径が25mmのスクリューを備えた押出成形機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D=25、圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入した。この押出成形機内にてペレットを溶融しつつ、直径0.16mmの軟銅素線を19本同芯撚りした撚線導体(外径0.80mm)の外周に仕上がり外径1.20mm(厚さ0.20mm)となるように、線速100m/分(スクリュー回転数40rpm)で、押出被覆して、電線前駆体を製造した。
次いで、導体の外周面に配置した架橋性ポリオレフィン樹脂組成物に、加速電圧500kVの電子線を照射量10Mradとなるように照射した。
こうして、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体を被覆層として有する絶縁電線を製造した。
【0112】
<実施例10>
下記有機過酸化物架橋法により、絶縁電線を製造した。
表1に示す配合量で表1に示す各成分と、老化防止剤1質量部と、滑剤1質量部とを、バンバリーミキサーに投入して120~200℃で10分溶融混合した後、材料排出温度200℃で排出し、フィーダールーダーを通して、溶融混合物のペレットを得た。次いで、溶融混合物のペレット全量に有機過酸化物1質量部を含浸させて、架橋性ポリオレフィン樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて次のようにして絶縁被覆を形成して、電線前駆体を製造した。すなわち、得られたペレットを、直径が25mmのスクリューを備えた押出成形機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D=25、圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入した。この押出成形機内にてペレットを溶融しつつ、直径0.16mmの軟銅素線を19本同芯撚りした撚線導体(外径0.80mm)の外周に仕上がり外径1.20mm(厚さ0.20mm)となるように、線速100m/分(スクリュー回転数40rpm)で、押出被覆して、電線前駆体を製造した。
次いで、電線前駆体を、210℃に設定した化学架橋管に15分保持した。
こうして、耐熱性架橋ポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体を被覆層として有する絶縁電線を製造した。
【0113】
<比較例1及び2>
非架橋のポリオレフィン樹脂組成物で形成した被覆層を備えた絶縁電線を製造した。
具体的には、表2に示す配合量で表2に示す各成分と、上述の質量割合で各比較例に用いるその他の成分とを、バンバリーミキサーに投入して120~200℃で10分溶融混合した後、材料排出温度200℃で排出し、フィーダールーダーを通して、非架橋性ポリオレフィン樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて次のようにして絶縁被覆を形成して、電線前駆体を製造した。すなわち、得られたペレットを、直径が25mmのスクリューを備えた押出成形機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D=25、圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入した。この押出成形機内にてペレットを溶融しつつ、直径0.16mmの軟銅素線を19本同芯撚りした撚線導体(外径0.80mm)の外周に仕上がり外径1.20mm(厚さ0.20mm)となるように、線速100m/分(スクリュー回転数40rpm)で、押出被覆した。
こうして、非架橋のポリオレフィン樹脂組成物の管状成形体を被覆層として有する絶縁電線を製造した。
【0114】
製造した各絶縁電線について、下記試験をして、その結果を表1及び表2に示した。
【0115】
<評価1:耐摩耗性試験>
日本自動車技術会規格(JASO) D 625に準拠して、直径0.45mmのステンレス鋼(SUS)線を、製造した各絶縁電線の表面に7Nの荷重をかけて往復移動させるスクレープ摩耗試験を行った。試験は、絶縁電線の表面について中心角90°となる4点を試験対象として、被覆層が剥がれて導体と導通した時点での往復摩耗回数を記録し、4回のうち最小の往復摩耗回数を絶縁電線の摩耗回数とした。
摩耗回数が200回以上であったものを「〇」(合格)、100回以上200回未満であったものを「△」(合格)、100回未満であったものを「×」(不合格)とした。
なお、比較例1で製造した絶縁電線の摩耗回数は約20回であった。
【0116】
<評価2:耐熱性試験>
JASO D 625に準拠して、外径1.20mm(絶縁電線の自己径)の棒に製造した各絶縁電線を巻き付けて、200℃で30分間加熱した。その後、絶縁電線の被覆層について、溶融、表面割れの有無を目視にて確認し、被覆層に溶融及び表面割れが確認できなかったものを「〇」(合格)とし、被覆層に溶融又は表面割れが確認できたものを「×」(不合格)とした。
【0117】
<評価3:機械特性試験>
製造した各絶縁電線から導体を抜き取った被覆層(管状片)について、JASO D 625に準拠して、引張試験を行った。引張試験の条件を、標線間50mm、引張速度200mm/分に設定して、被覆層の引張伸び(%)を測定した。
本試験において、引張伸びが、200%以上であったものを「〇」(合格)、150%以上200%未満であったものを「△」(合格)、150%未満であったものを「×」(不合格)とした。
【0118】
<評価4:難燃性試験>
製造した各絶縁電線について、JASO D 625に準拠して、下記45度傾斜燃焼試験及び下記水平燃焼試験を行った。本発明において難燃性試験は参考試験である。
(水平燃焼試験)
製造した各絶縁電線を水平に固定して、外炎長を20mmに調整したバーナーの炎を5秒接炎した。こうして試験片を燃焼させて、接炎開始から消炎するまでの時間(消炎時間)を計測した。消炎時間が30秒以内であったものを「〇」(合格)とし、30秒を超えたものを「×」(不合格)とした。結果を表1及び表2の「難燃性試験1」欄に示す。
(45度傾斜燃焼試験)
作製した絶縁電線を垂直方向に対して45°傾斜した状態に固定して、外炎長を20mmに調整したバーナーの炎を15秒接炎した。こうして試験片を燃焼させて、接炎開始から消炎するまでの時間(残炎時間)を計測した。残炎時間が10秒未満であったものを「〇」(合格)とし、10秒以上70秒未満であったものを「△」(合格)、70秒以上であったものを「×」(不合格)とした。結果を表1及び表2の「難燃性試験2」欄に示す。
【0119】
【0120】
【0121】
表1及び表2において、「架橋法」欄の、「シラン」はシラン架橋法を、「電子線」は電子線架橋法を、「化学」は有機過酸化物架橋法を、「なし」は架橋していない(非架橋)あることを示す。
表1及び表2中の「その他の成分」としては、架橋法に応じて選択され、具体的には上述の通りである。
【0122】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、環状オレフィン樹脂を3~20質量%含むベース樹脂を含有していても非架橋のポリオレフィン樹脂組成物(比較例1及び2)、更に環状オレフィン樹脂の含有量を満たさないベース樹脂を含有する架橋ポリオレフィン樹脂組成物(比較例3及び4)は、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性のいずれかに劣り、これら3特性を鼎立することができないことが分かる。
これに対して、環状オレフィン樹脂を3~20質量%含むベース樹脂を含有する架橋ポリオレフィン樹脂組成物(実施例1~24)は、架橋方法に関わらず、優れた機械特性を維持しながらも高度な耐摩耗性と高度な耐熱性とを示している。特に、架橋ポリオレフィン樹脂組成物が難燃剤を含有していると高度な難燃性を発現する。
表1及び表2に示す結果から明らかなように、環状オレフィン樹脂を3~20質量%含むベース樹脂を含有していても非架橋のポリオレフィン樹脂組成物(比較例1及び2)、更に環状オレフィン樹脂の含有量を満たさないベース樹脂を含有する架橋ポリオレフィン樹脂組成物(比較例3及び4)は、機械特性、耐摩耗性及び耐熱性のいずれかに劣り、これら3特性を鼎立することができないことが分かる。
これに対して、環状オレフィン樹脂を3~20質量%含むベース樹脂を含有する架橋ポリオレフィン樹脂組成物(実施例1~23)は、架橋方法に関わらず、優れた機械特性を維持しながらも高度な耐摩耗性と高度な耐熱性とを示している。特に、架橋ポリオレフィン樹脂組成物が難燃剤を含有していると高度な難燃性を発現する。