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特開2024-133861研削加工システム、及び、機械学習装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133861
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】研削加工システム、及び、機械学習装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/12 20060101AFI20240926BHJP
   B24B 9/00 20060101ALI20240926BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B24B49/12
B24B9/00 601H
H01L21/304 601B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043858
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】津留 太良
【テーマコード(参考)】
3C034
3C049
5F057
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034AA19
3C034BB73
3C034BB93
3C034CA05
3C034CA22
3C034CA26
3C034CB11
3C034CB18
3C034DD10
3C034DD20
3C049AA03
3C049AA18
3C049AC02
3C049BA01
3C049BA09
3C049BB02
3C049BB06
3C049BB08
3C049BB09
3C049BC01
3C049BC02
3C049CB01
3C049CB03
5F057AA12
5F057AA19
5F057CA09
5F057GA13
5F057GB02
5F057GB12
5F057GB20
(57)【要約】
【課題】 砥石の切れ味が刻々変化しても、高品質の加工済みウェーハを製造できる、研削加工システムの提供。
【解決手段】 回転する砥石55とウェーハとを接触させて、加工条件に基づきウェーハを研削加工する加工装置10と、ウェーハの端部形状、及び、砥石の研削面形状を測定する第1測定装置65と、砥石の砥粒状態を測定する第2測定装置66と、情報処理装置60と、を備え、情報処理装置60は、加工条件、並びに、研削加工前の端部形状、研削面形状、及び、砥粒状態に対して、加工目標の達成状況のラベル付けがなされた訓練データセットにより機械学習された学習済みモデルにより、加工目標を達成するよう加工装置を制御する加工条件を算出する算出部を備え、達成状況には、ラマン分光法により取得される研削後のウェーハの端部の二次元スペクトル画像の評価結果が含まれる、研削加工システム。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する砥石とウェーハとを接触させて、加工条件に基づき前記ウェーハを研削加工する加工装置と、
前記ウェーハの端部形状、及び、前記砥石の研削面形状を測定する第1測定装置と、
前記砥石の砥粒状態を測定する第2測定装置と、
情報処理装置と、を備え、
前記情報処理装置は、前記加工条件、並びに、研削加工前の前記端部形状、前記研削面形状、及び、前記砥粒状態に対して、加工目標の達成状況のラベル付けがなされた訓練データセットにより機械学習された学習済みモデルにより、前記加工目標を達成するよう前記加工装置を制御する前記加工条件を算出する算出部を備え、
前記達成状況には、ラマン分光法により取得される研削後の前記ウェーハの端部の二次元スペクトル画像の評価結果が含まれる、研削加工システム。
【請求項2】
前記第2測定装置は、
前記砥石の表面形状を測定する光を出力する光源と、前記光を前記砥石の表面に照射して、前記表面の画像を取得する撮像部と、を少なくとも有する光学部を備える、請求項1に記載の研削加工システム。
【請求項3】
前記第1測定装置は、更に、ラマン分光法により前記ウェーハの端部の二次元スペクトル画像を取得する、請求項1に記載の研削加工システム。
【請求項4】
前記算出部は、研削加工後に得られる前記ウェーハと前記加工目標との類似度の予測値が所定の基準を満たす前記加工条件を算出する、請求項1に記載の研削加工システム。
【請求項5】
前記算出部は、前記加工条件ごとに、前記砥石の摩耗の程度を表す消耗度の予測値を算出する、請求項4に記載の研削加工システム。
【請求項6】
前記算出部は、前記基準を満たす複数の前記加工条件が得られる場合、前記類似度の予測値が最も高いもの、又は、前記消耗度の予測値が最も低いものを選択する、請求項5に記載の研削加工システム。
【請求項7】
前記算出部は、前記基準を満たす複数の前記加工条件が得られる場合、前記類似度の予測値、及び、前記消耗度の予測値の優先度を指定する優先データに従って、最も有利な前記加工条件を選択する、請求項5に記載の研削加工システム。
【請求項8】
前記研削加工の際の加工負荷を含む加工データを測定するセンサを更に含む、請求項1に記載の研削加工システム。
【請求項9】
回転する砥石とウェーハとを接触させて、加工条件に基づき、前記ウェーハを研削加工する加工装置における、加工目標と前記加工条件とを取得する第3取得部と、
前記ウェーハの端部形状、及び、前記砥石の研削面形状の測定結果、並びに、ラマン分光法により取得される前記ウェーハの端部の二次元スペクトル画像を取得する第1取得部と、
前記砥石の砥粒状態の測定結果を取得する第2取得部と、
研削加工後に得られる前記ウェーハの前記加工目標の達成状況を取得する評価部と、
学習部と、を備え、
前記達成状況には、ラマン分光法により取得される研削後の前記ウェーハの端部の二次元スペクトル画像の評価結果が含まれ、
前記学習部は、
前記加工条件、並びに、研削加工前の前記端部形状、前記研削面形状、及び、前記砥粒状態に対して、加工目標の達成状況のラベル付けがなされた訓練データセットを用いた機械学習により、
前記加工条件に対する、
研削加工前の前記端部形状、前記研削面形状、及び、前記砥粒状態、並びに、前記達成状況の関係を学習する、機械学習装置。
【請求項10】
訓練データセットは、前記砥石の摩耗の程度を表す消耗度を更に含み、
前記消耗度は、研削加工前後の前記端部形状の比較、及び、研削加工前後の前記砥粒状態の比較からなる群より選択される少なくとも一方により算出される、請求項9に記載の機械学習装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削加工システム、及び、機械学習装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置、及び、電子部品等の素材となるシリコンウェーハの製造工程には、面取り加工がある。面取り加工は、インゴットからワイヤーソー等のスライシング装置で切り出されたウェーハの外周部に施される。面取り加工によりウェーハの周縁の割れ、及び、欠け等が抑制される。
【0003】
面取り加工には、面取り装置と呼ばれる加工装置が用いられる。面取り装置には、各種の砥石が複数取り付けられている。ウェーハの外周部、ノッチ部等は、この砥石で研削加工される。
砥石による研削加工は、主に、砥石の表面(研削面)に固定された砥粒の切れ刃により行われる。研削加工により、砥石の表面の状態は変化する。例えば、砥粒が脱落したり、割れたり、又は、切りくず(加工粉)により目詰まりしたりする。これにより、砥石の切れ味は、研削加工中にも徐々に変化していく。
【0004】
砥石の切れ味の変化は、研削加工により得られるウェーハの品質に影響を及ぼす。影響は、例えば、形状、及び、表面粗さ等に現れる。刻々変化する砥石の切れ味を管理する方法として、特許文献1には、「研削作用面に固定砥粒を有する砥石を用いて、研削液を供給しながら、シリコンからなる被研削物を研削した際に発生するシリコンスラッジに含まれるシリコン粉の表面積を求め、該シリコン粉の表面積から前記砥石の品質を管理する研削加工中の砥石の品質管理方法。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-230232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は、シリコン粉の表面積から砥石の品質を管理する方法であるため、必ずしも砥粒の状態が直接反映されているとはいえなかった。近年、ウェーハ等の研削加工に求められる品質はますます高くなっている。砥石の砥粒状態が刻々変化したとしても、それに順応しつつ、高精度及び高効率の研削(コストパフォーマンスの高い研削)を実現し、高品質のウェーハを大量生産するためには、特許文献1のような方法では、不十分であった。
【0007】
そこで、本発明は、砥石の砥粒状態に応じた高精度及び高効率な研削が可能な研削加工システムの提供を課題とする。また、本発明は、機械学習装置の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決することができることを見出した。
【0009】
[1] 回転する砥石とウェーハとを接触させて、加工条件に基づき上記ウェーハを研削加工する加工装置と、上記ウェーハの端部形状、及び、上記砥石の研削面形状を測定する第1測定装置と、上記砥石の砥粒状態を測定する第2測定装置と、情報処理装置と、を備え、上記情報処理装置は、上記加工条件、並びに、研削加工前の上記端部形状、上記研削面形状、及び、上記砥粒状態に対して、加工目標の達成状況のラベル付けがなされた訓練データセットにより機械学習された学習済みモデルにより、上記加工目標を達成するよう上記加工装置を制御する上記加工条件を算出する算出部を備え、上記達成状況には、ラマン分光法により取得される研削後の上記ウェーハの端部の二次元スペクトル画像の評価結果が含まれる、研削加工システム。
[2] 上記第2測定装置は、上記砥石の表面形状を測定する光を出力する光源と、上記光を上記砥石の表面に照射して、上記表面の画像を取得する撮像部と、を少なくとも有する光学部を備える、[1]に記載の研削加工システム。
[3] 上記第1測定装置は、更に、ラマン分光法により上記ウェーハの端部の二次元スペクトル画像を取得する、[1]に記載の研削加工システム。
[4] 上記算出部は、研削加工後に得られる上記ウェーハと上記加工目標との類似度の予測値が所定の基準を満たす上記加工条件を算出する、[1]に記載の研削加工システム。
[5] 上記算出部は、上記加工条件ごとに、上記砥石の摩耗の程度を表す消耗度の予測値を算出する、[4]に記載の研削加工システム。
[6] 上記算出部は、上記基準を満たす複数の上記加工条件が得られる場合、上記類似度の予測値が最も高いもの、又は、上記消耗度の予測値が最も低いものを選択する、[5]に記載の研削加工システム。
[7] 上記算出部は、上記基準を満たす複数の上記加工条件が得られる場合、上記類似度の予測値、及び、上記消耗度の予測値の優先度を指定する優先データに従って、最も有利な上記加工条件を選択する、[5]に記載の研削加工システム。
[8] 上記研削加工の際の加工負荷を含む加工データを測定するセンサを更に含む、[1]に記載の研削加工システム。
[9] 回転する砥石とウェーハとを接触させて、加工条件に基づき、上記ウェーハを研削加工する加工装置における、加工目標と上記加工条件とを取得する第3取得部と、上記ウェーハの端部形状、及び、上記砥石の研削面形状の測定結果、並びに、ラマン分光法により取得される上記ウェーハの端部の二次元スペクトル画像を取得する第1取得部と、上記砥石の砥粒状態の測定結果を取得する第2取得部と、研削加工後に得られる上記ウェーハの上記加工目標の達成状況を取得する評価部と、学習部と、を備え、前記達成状況には、ラマン分光法により取得される研削後の前記ウェーハの端部の二次元スペクトル画像の評価結果が含まれ、上記学習部は、上記加工条件、並びに、研削加工前の上記端部形状、上記研削面形状、及び、上記砥粒状態に対して、加工目標の達成状況のラベル付けがなされた訓練データセットを用いた機械学習により、上記加工条件に対する、研削加工前の上記端部形状、上記研削面形状、及び、上記砥粒状態、並びに、上記達成状況の関係を学習する、機械学習装置。
[10] 訓練データセットは、上記砥石の摩耗の程度を表す消耗度を更に含み、上記消耗度は、研削加工前後の上記端部形状の比較、及び、研削加工前後の上記砥粒状態の比較からなる群より選択される少なくとも一方により算出される、[9]に記載の機械学習装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、砥石の砥粒状態に応じた高精度及び高効率な研削が可能な研削加工システムが提供される。また、本発明によれば、機械学習装置も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の研削加工システムの実施例のハードウェア構成図である。
図2】加工装置の主要部を示す正面図である。
図3】研削加工システムの機能ブロック図である。
図4】研削加工システムの動作フローである。
図5】研削加工システムの動作フローの変形例である。
図6】本発明の機械学習装置の実施例のハードウェア構成図である。
図7】機械学習装置の機能ブロック図である。
図8】機械学習装置の動作フローである。
図9】第1測定装置の光学部の基本構成図である。
図10】第1測定装置の光学部の基本構成図である。
図11】ウェーハWの端面のラマン分光法による二次元スペクトル画像の取得方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化した一例であって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、及び、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なる場合があり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なることがある。
【0014】
[研削加工システム]
図1は、実施例1の研削加工システムのハードウェア構成図である。研削加工システム100は、加工装置10、第1測定装置65、第2測定装置66、及び、情報処理装置60を備える。加工装置10は、研削砥石55(以下、単に「砥石55」ともいう)、及び、センサ67を備える。各部は情報処理装置60によって制御され、互いにデータを通信可能に構成される。研削加工システム100は、図1に記載された以外のハードウェアを備えてもよい。例えば、加工装置10はツルアーを備えてもよい。
【0015】
・加工装置
まず、加工装置10について説明する。
図2は、加工装置10の主要部を示す正面図である。加工装置10は、ウェーハ面取り装置である。なお、加工装置は、ウェーハ面取り装置に限られるものではなく、回転する砥石を、回転してもよいワーク(被加工物)に接触させて加工を行う装置であれば、どのようなものであってもよい。
【0016】
加工装置10は、ウェーハ送りユニット20、砥石回転ユニット50、図示しないウェーハ供給/収納部、ウェーハ洗浄/乾燥部、及び、ウェーハ搬送手段を備える。また、加工装置10は、情報処理装置60によって制御される。言い換えれば、情報処理装置60は、加工装置10のコントローラとしても機能する。
【0017】
ウェーハ送りユニット20は、Xテーブル24を備える。Xテーブル24は、X軸駆動機構25によって図のX方向に移動され得る。X軸駆動機構25は、本体ベース11上に載置されたX軸ベース21、2本のX軸ガイドレール22、4個のX軸リニアガイド23、ボールスクリュー、及び、ステッピングモータから構成される。
【0018】
Xテーブル24には、Yテーブル28が組み込まれる。Yテーブル28は、Y軸駆動機構によって図のY方向に移動され得る。Y軸駆動機構は、2本のY軸ガイドレール26、4個のY軸リニアガイド27、図示しないボールスクリュー、及び、ステッピングモータから構成される。
【0019】
Yテーブル28には、Zテーブル31が組み込まれる。Zテーブル31は、Z軸駆動機構30によって図2のZ方向に移動され得る。Z軸駆動機構30は、ボールスクリュー、及び、ステッピングモータからなる。Z軸駆動機構30は、2本のZ軸ガイドレール29と図示しない4個のZ軸リニアガイドとによって案内される。
【0020】
Zテーブル31には、θ軸モータ32、θスピンドル33が組み込まれる。
θスピンドル33にはウェーハW(板状材)を吸着載置するウェーハテーブル34が取り付けられる。ウェーハテーブル34はウェーハテーブル回転軸心CWを中心として図のθ方向に回転され得る。
【0021】
ウェーハ送りユニット20によって、ウェーハW、及び、ツルアー41は図のθ方向に回転され得る。また、ウェーハ送りユニット20によって、ウェーハW、及び、ツルアー41はX、Y、及びZ方向に移動され得る。
【0022】
砥石回転ユニット50は、外周砥石スピンドル51、外周精研スピンドル54、及び、外周精研モータ56を備える。
外周砥石スピンドル51には、外周粗研削砥石52が取り付けられる。外周砥石スピンドル51は、図示しない外周砥石モータによって軸心を中心に回転駆動される。
外周精研スピンドル54はターンテーブル53に取り付けられる。ターンテーブル53は、外周砥石スピンドル51の上方に取り付けられる。
【0023】
外周精研スピンドル54には、砥石55が取り付けられる。砥石55は、ウェーハWの外周を仕上げ研削する面取り用砥石である。
外周精研スピンドル54は、ウェーハWの回転軸に対して回転軸が3~15°、望ましくは6~10°傾斜される。外周精研スピンドル54は、傾斜された状態でウェーハWの外周面取りの仕上げ加工を行う。
ウェーハWの回転軸に対して回転軸が傾いた状態で実施される研削を、ヘリカル研削と称する。ヘリカル研削には、ウェーハWの面取り部の表面粗さを改善する効果がある。
【0024】
ウェーハWの加工は、インゴットのスライス、面取り、ラップ、エッチング、ドナーキラー、面取りの順で行われる。これらの工程間には、汚れを取り除くための洗浄工程が更に含まれることがある。
ウェーハWの材質の1つであるシリコンは固くてもろい。従って、ウェーハの端面がスライシング時の鋭利なままでは、これに続く処理工程(搬送、位置合わせ等)において割れ、欠けが生ずるおそれがある。割れ、欠けが生ずると、断片が当該ウェーハ、及び/又は、他のウェーハの表面を傷つけたり、汚染したりする。
これを防ぐため、面取り工程では、ダイヤモンドでコートされた面取り砥石を使用して、切り出されたウェーハの端面が面取りされる。
【0025】
砥石55は、ボンドと砥粒とにより構成される。砥粒は、Fe(鉄)、Cr(クロム)、及び、Cu(銅)等の金属粉を主成分とし、これとダイヤモンド砥粒との混合物が使用されることが多い。
一方、ボンドは、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、及び、ポリエチレン樹脂等のレジンが使用されることが多い。
【0026】
砥石55の具体例としては、直径50mmのダイヤモンド砥粒のレジンボンド砥石が挙げられる。粒度としては、例えば、#3000が挙げられる。外周精研スピンドル54は、エアーベアリングを用いたビルトインモータ駆動のスピンドルで、例えば、回転速度35000rpmで回転される。
【0027】
研削対象物であるウェーハの材質は、例えば、半導体、ガラス、サファイア(Al)、アルミナセラミック等のセラミックであってよい。また、ウェーハの材質は、石英、ジルコニア、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、ポリカーボネート、及び、光学結晶材料等であってよい。
より具体的には、ウェーハの材質は、炭化珪素(SiC)、珪素(Si)、ガリウム砒素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化インジウム(InAs)、リン化インジウム(InP)、窒化珪素(SiN)、タンタル酸リチウム(LT)、ニオブ酸リチウム(LN)、窒化アルミニウム(AlN)、及び、酸化珪素(SiO)等であってよい。なかでも、珪素(Si)が好ましい。
また、ウェーハは、単結晶、多結晶、及び、ガラスのいずれであってもよい。
【0028】
また、加工装置10はツルアー41を備える。砥石55は溝を有する。この溝は、面取り加工に使用され、ツルアー41によって形成される。円盤状のツルアー41は、ウェーハテーブル34の下部にウェーハテーブル回転軸心と同芯で取付けられる。ツルアー41は、ウェーハテーブル34で回転される。ツルアー41の形状は、予めマスター砥石で調整される。ツルアー41の外周部には、マスター溝の断面形状が転写される。
【0029】
ツルアー41は、例えば、炭化珪素からなる砥粒を、必要に応じて充填剤等も加えてフェノール樹脂で結合し、これを円盤状に成形したものが好ましい。
また、ツルアー41は、加工されるウェーハWと同等以下の外径であり、同厚の円盤状GC(Green silicon carbide)砥石、及び、WA(White fused alumina)砥石等でもよい。この場合、砥石の粒度は#320程度が好ましい。
【0030】
・センサ
研削加工システム100が有するセンサ67は、研削加工の際の加工装置10の装置の状態を表す種々の加工データを取得する。加工データは、加工負荷を含む。加工データは上記以外の情報を含んでもよく、例えば、加工振動、温度、及び、ウェーハWに対する曲げ応力等が挙げられる。
加工データは、それぞれセンサ67によって直接測定されてもよいし、測定された値から計算されてもよい。
【0031】
加工負荷は、応力センサ、トルクセンサ、及び、(加)速度センサ等により取得され得る。加工振動は、振動センサにより取得され得る。
同じ加工条件で研削加工された場合でも、ウェーハの形状、砥石の形状、砥粒状態、及び、装置各部の劣化・摩耗等によって、加工済みウェーハの品質が異なることを本発明は知見している。
【0032】
なかでも、加工負荷、及び、加工振動には、ウェーハの形状、砥石の形状、及び、砥粒の状態が反映されやすい。従って、これらの情報を学習済みモデルの入力に含めると、より適した加工条件を出力できる。また、学習済みモデルの訓練データセットに含めると、より適した加工条件を出力できる学習済みモデルが得られる。なお、これらは相乗的に効果を発揮する。
【0033】
加工データは、上記以外にも、モータの回転数、ウェーハ近傍の温度、及び、雰囲気温湿度等を含んでもよい。これらの加工データは、公知のセンサ67を用いて測定でき、センサ67は、その測定項目に応じて、加工装置10の所定の箇所に(図示しない)に配置される。なお、加工装置10は、センサ67を備えていなくてもよい。
【0034】
・第1測定装置
研削加工システム100が有する第1測定装置65は、ウェーハWの端部形状(端面形状)、及び、研削砥石55の研削面形状(砥石形状、溝形状)を測定する。端部形状、及び、研削面形状は、厚み方向のプロファイル、すなわち、厚み方向の断面形状として測定され得る。ウェーハWの断面形状はエッジプロファイルと呼ばれることもある。
【0035】
端部形状、研削面形状の非破壊検査方法として、対象部分(例えばウェーハのエッジ)に平行光束を照射し、エッジの影をスクリーンに投影し、又は、撮像する方法が挙げられる。この方法により撮像される投影像の輪郭は、断面形状(厚み方向に切断した断面形状)となる。また、上記以外にも、例えば、特開2007-256257号公報、特開2017-204609号公報、及び、特開2009-025079号公報に記載の装置等が使用できる。
【0036】
第1測定装置65は、研削加工前のウェーハWの端部形状、及び、砥石55の研削面形状を測定する。研削加工前の端部形状、及び、研削面形状は、情報処理装置60のメモリ62に記憶され、加工条件の算出のための入力データとされる。
また、第1測定装置65は、研削加工後のウェーハWの端部形状、及び、砥石55の研削面形状を測定してもよい。
研削加工後のウェーハWの端部形状は、目標形状とのマッチング(後述する)に利用され得る。
【0037】
第1測定装置65は、更に、ラマン分光法によるウェーハWの端部の二次元スペクトルを取得するための装置を含んでもよい。このような装置としては例えば、顕微ラマン分光装置が挙げられる。
図11は、ウェーハWの端面のラマン分光法による二次元スペクトル画像の取得方法の説明図である。図11(A)は、ウェーハWの模式図である。図11(B)は、ウェーハWの端部のラマンスペクトルの模式図である。横軸は励起光からの波数シフト量であるラマンシフト(cm-1)を表す。図11(C)は、端部のラマンイメージング分析例(二次元スペクトル画像)を表すヒートマップである。
【0038】
図11(B)のラマンスペクトルの模式図において、横軸は励起光からの波数シフト量であるラマンシフト(cm-1)を表す。一方、縦軸は、散乱光強度を表す。
スペクトルsp1~sp3は、ウェーハWの端部WEの異なる箇所から得られたラマンスペクトルを表し、スペクトルAveはこれらの平均値である。これらのスペクトルのピーク位置(a)、(b)、(c)、(d)は、研削加工により生じ加工変質層の状態を反映する。すなわち、ピーク位置のシフト量、及び、その符号が、加工変質層の量、及び、研削加工時に受けた加工応力の種類(引張/圧縮)等に関連付けられる。
従って、標準状態からの波数シフト量・符号を測定することによって、励起光の照射位置における加工変質層の状態が評価できる。
【0039】
図11(C)の二次元スペクトル画像(ヒートマップ)は、図面からは判別することはできないが、実際には、シフト量の大きさ、符号を基に色分けされて表示されており、加工変質層の状態が定量化されている。
【0040】
ウェーハWの端部(外縁)を研削すると、研削後の表面には、加工変質層(結晶欠陥、転移、残留応力(歪み)が生成される。一般に、この加工変質層は、後工程のエッチング等で除去される。加工変質層が薄く、均一であるほど、後工程のエッチングの負加(浸漬時間低減)や処理後の表面の品質が向上する。
【0041】
加工変質層の生成に影響を与えている要因の一つとして「加工応力」があることが知られている。加工変質層は表面のラマン分光観察で分布、厚さ、応力(ひずみ)が定量化され視覚化(ヒートマップ等)される。
この二次元スペクトル画像を、研削後のウェーハWの加工目標の達成状況の指標の一つとすることで、後工程における負担がより低減し、また、結果としてより高品質なウェーハWが得られる。
【0042】
・第2測定装置
第2測定装置66は、砥石55の砥粒状態を測定する。具体的には、砥石55の表面における砥粒の分布、それによる表面の粗さ、砥粒の(ボンド面からの)高さ、及び、切れ刃の形状等を含む。
第2測定装置66は、砥石の表面形状を測定する光を出力する光源と、光を砥石の表面に照射して、表面の画像を取得する撮像部とを少なくとも有する光学部とを備えることが好ましい。砥粒状態は、上記光学部によって取得される画像(撮像)データであることが好ましい。
【0043】
砥石の研削面(作用面)には、大別して、砥粒部分とボンド部分とが存在する。典型的には、ボンドからなるマトリクスに砥粒が分散された形態となっている。砥石が消耗、摩耗すると、砥粒が脱落したり、欠けたりして、砥粒の分布、及び、砥粒の形状等が変化していく。従って、砥石の消耗状況によっては、砥石の表面状態(砥粒状態)は、均一でないこともある。例えば、砥粒が脱落したり、欠けたりして、研削面が局所的に平坦になっている領域もある。
一方で、砥粒がそれぞれ鋭く突出し、凹凸が保たれた領域もある。また、砥粒についていえば、摩耗したり、欠けたりして、異なる結晶面を露出し、機械的特性が異なる砥粒群が研削面に突出している場合もあり得る。
【0044】
このような砥粒状態を観察するための光学部としては、例えば、白色干渉顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、及び、照度差ステレオ法を利用した表面状態測定装置等が使用できる。
第2測定装置66は、少なくとも1つの光学部を備えればよい。一方で、第2測定装置66が異なる測定原理の複数の光学部を含む場合、種々の表面状態をより正確に測定できる点で好ましい。これにより、より適した加工条件が提案され得る。
【0045】
図9(a)は、第2測定装置66の光学部1つである、白色干渉顕微鏡120の基本構成図である。白色干渉顕微鏡120は、研削面に凹凸が多く存在する場合(また、そのような領域の画像を取得する場合)、より正確な画像を取得できる。研削面に凹凸が多く存在する場合、クイル90により支持される砥石55の表面に照射された光は拡散反射されることが多い。例えば、砥粒が適切に突出した領域では、拡散反射がより支配的となっている場合がある。このような場合、光学部が白色干渉顕微鏡である場合、より正確、及び、より効率的に画像取得できる。
なお、図9(a)の白色干渉顕微鏡120は、砥粒状態の測定に使用される状態を表している。しかし、第2測定装置66は、ウェーハWの表面状態を測定してもよく、その場合、光は砥石55に代えて、ウェーハWのエッジに照射される。以下の説明において同様である。
【0046】
光学部である白色干渉顕微鏡120は、光源121と、光源からの光を砥石の表面に照射して、表面の画像を取得するカメラである撮像部127と、を備える。
ガウシアンのビームプロファイルを有した光源121(レーザ又はLED)からの光は、発散する光を平行にするコリメート光学系122(例えば、ビームエキスパンダ等)、ビームスプリッタ123、対物レンズ124を通過して砥石55の表面へと照射される。なお、光源121は平行光源であってもよく、その場合、コリメート光学系122を有していなくてもよい。
【0047】
カメラである撮像部127は、砥石55から反射して対物レンズ124、ビームスプリッタ123、集光光学系126(例えば、集光レンズ等)を通過した光、及び、参照ミラー125で反射され、同一光路に戻った光を撮像する。
砥石55から反射した光と参照ミラー125で反射された光は、重なり合うと、空間干渉パターン(干渉縞)が得られる。そして、干渉縞は両者の光路差の情報を持っており、垂直方向に対物レンズ124をスキャンした際に現れる干渉縞のコントラスト変化や位相変化を解析することにより、研削面の凹凸形状データを取得できる。
砥石55を回転させたり、光学系を移動させたりして、砥石55と白色干渉顕微鏡120との相対位置を変化させることで、砥石55の研削面全体を撮像する。
【0048】
一方、砥石55の表面における砥粒の結晶面(結晶方位)の分布が異なる場合、表面の反射特性(照射された光を直接反射する/拡散反射する)が局所的に異なっている(併存している)ことがある。
このような場合、表面画像をより正確、より効率的に取得するためには、光学部は、共焦点顕微鏡を含むことが好ましい。
【0049】
図9(b)は、光学部である共焦点顕微鏡130の基本構成図である。共焦点顕微鏡130は、焦点深度を浅くして光学系にピンホール共焦点方式を使用した光学顕微鏡で3次元像を取得する。
光源121からの光は、発散する光を平行にするコリメート光学系122、ビームスプリッタ123、対物レンズ124を通過して砥石55の表面へと照射される。
ピンホール128は、光源121とカメラである撮像部127との前に配置される。撮像部127は、砥石55から反射して対物レンズ124、ビームスプリッタ123、集光光学系126、ピンホール128を通過した光を撮像する。
【0050】
これによりピントの合っていない像は、ピンホール128により遮られ、強い信号が取得されない。その結果、ピントの合った合焦点像だけが取得される。3次元測定を行う場合は、面で捉えるために、水平方向のビーム走査を行い、次に垂直方向への走査を行う。合焦点像は、予め設定された垂直方向のステップ間隔に従い、高さごとの面の画像として取得される。光検出強度のピーク位置が砥石55の表面の高さとなり、これにより3次元表面形状データが生成され得る。
【0051】
また、砥石の表面(又はその一部の領域)が何らかの理由で平坦化している場合、直接反射が支配的となる。このような場合、表面画像をより正確、より効率的に取得するためには、偏光板を利用した照度差ステレオ法による画像の取得用の光学部を用いることが好ましい。
【0052】
図10は、照度差ステレオ法による画像の取得用の光学部の基本構成図である。照度差ステレオ法は、光源121の位置を変化させ撮影した複数枚の画像から,砥石55の表面の3次元形状情報である法線ベクトルを計測する。
砥石55の表面が平坦(例えば鏡面)であると、直接反射が支配的になる。このとき、照度差ステレオ法を用いた上で光沢による輝度の高い部分であるハイライトを除去することが好ましい。
【0053】
光源121からの光は、偏光板129、コリメート光学系122、ビームスプリッタ123、対物レンズ124を通過して砥石55の表面へ照射される。撮像部127は、砥石55から反射して対物レンズ124、ビームスプリッタ123、偏光板131、集光光学系126を通過した光を撮像する。偏光板129と偏光板131とは、偏光軸を90°に直交させ配置(クロスニコル配置)される。
【0054】
この光学配置により、砥石55での正反射光(直線偏光)による光源121の映り込みは除かれ、拡散反射光(非偏光)のみ撮像部127に到達する。これにより、光源121の映り込みによる有害な「光沢(グレア)」、又は、「てかり」は、除去・軽減される。
【0055】
なお、第2測定装置66は、研削加工前後、特に、研削後のウェーハWの表面状態の測定にも併用されることが好ましい。光学部が白色干渉顕微鏡を含む場合、ウェーハWの表面の研削痕の有無等がより反映されやすい。また、光学部が共焦点顕微鏡を含む場合、ウェーハW表面における結晶方位の分布等がより反映されやすい。また、光学部が照度差ステレオ法による画像の取得用である場合、鏡面部分の影響がより反映されやすい。
【0056】
第2測定装置66の光学部は、X線トポグラフィにより、表面状態を測定する機能を更に有していてもよい。X線トポグラフィによれば、結晶内の欠陥等が反映された2次元マッピング画像が得られる。
上記光学部により、ウェーハWの表面状態、及び/又は、砥石の砥粒状態がより精緻に測定され得る。これにより、算出される加工条件はより適したものになりやすい。
【0057】
・情報処理装置60
情報処理装置60は、プロセッサ61と、メモリ62と、入出力I/F(インターフェース)63と、通信I/F64を有する。情報処理装置60は、典型的にはコンピュータである。
【0058】
プロセッサ61は、例えば、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application-specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)、及び、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)等である。
【0059】
メモリ62は、各種プログラム、及び、データを一時的に、及び/又は、非一時的に記憶する機能を有し、プロセッサの作業エリアを提供する。
メモリ62は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等である。
【0060】
入出力I/F63には、各種入出力デバイス等が接続される。また、第1測定装置65、及び、加工装置10もまた、入出力I/F63を介して接続されてもよい。
入出力I/F63を介して情報処理装置60と接続される(図示しない)入力デバイスは、研削加工システム100への各種情報入力、及び、指示の入力のためのデバイスである。入力デバイスは、キーボード、マウス、スキャナ、及び、タッチパネル等でよい。
【0061】
また、入出力I/F63を介して情報処理装置60と接続される(図示しない)出力デバイスは、研削加工システム100のステータス、及び、各種結果等を出力するためのデバイスである。出力デバイスは、液晶ディスプレイ、及び、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等でよい。
また、出力デバイスは、入力デバイスと一体として構成されていてもよい。この場合、出力デバイスがタッチパネルディスプレイであって、GUI(Graphical User Interface)を提供する形態が挙げられる。
【0062】
情報処理装置60は、通信I/F64を介してインターネット、ワイド・エリア・ネットワーク、及び、ローカル・エリア・ネットワーク等のコンピュータネットワークと接続される。第1測定装置65、第2測定装置66、加工装置10、及び、センサ67は、通信I/F64を介して、言い換えれば、コンピュータネットワークを介して、情報処理装置60と接続されていてもよい。
また、情報処理装置60は、入力デバイス、及び/又は、出力デバイスの有無にかかわらず、通信I/F64を介して、言い換えれば、コンピュータネットワークを介して、各種情報の入力データを受け付け、及び/又は、出力データを送信してもよい。
【0063】
次に、各部の機能等について説明する。図3は、研削加工システムの機能ブロック図である。研削加工システム100は、第1測定装置65と、第2測定装置66と、制御部70と、記憶部76と、出力部75と、加工部77とを有する。また、制御部70は、第3取得部71と、第1取得部72と、第2取得部73と、算出部74とを有する。
【0064】
制御部70は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行することで実現される機能である。制御部70は、研削加工システム100の各部を制御し、その機能を実現させる。
【0065】
加工部77は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行して、センサ67を含む加工装置10を制御することにより実現される機能である。加工部77は、加工目標を満たすように算出される加工条件に従い、研削砥石55を含む砥石群によってウェーハWを研削加工する。
更に、加工部77は、研削砥石55でウェーハWを研削加工する際の加工データをセンサ67により測定されてもよい。
この場合、制御部70は、図示しない加工データ取得部を有していてもよい。加工データ取得部は、センサ67により取得される加工データを取得し、記憶部76に格納する。
【0066】
第1測定装置65は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行することで制御される。第1測定装置65は、端部形状、及び、研削面形状(いずれも研削加工前)を測定する。
なお、第1測定装置65は、研削加工後の端部形状、及び、研削加工後の研削面形状を測定してもよい。
また、第1測定装置65は、ラマン分光法により研削加工後のウェーハの端部の二次元スペクトル画像を取得してもよい。更に、研削加工前の同画像を取得してもよい。
【0067】
第2測定装置66は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行することで制御される。第2測定装置66は、少なくとも研削加工前の砥石の砥粒状態を測定する。また、第2測定装置66を用いて、ウェーハWの表面状態を測定してもよい。また、第2測定装置66は、研削加工後のウェーハWの表面状態、及び、研削加工後の砥粒状態を測定してもよい。
【0068】
記憶部76は、入出力I/F63、及び、通信I/F64を介して取得されたデータ;加工部77、第1測定装置65、及び、第2測定装置66から得られたデータ;プログラム;等を一時的又は非一時的に記憶する機能である。記憶部76は、ハードウェアとしてはメモリ62を含んで構成される。
【0069】
出力部75は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行して、入出力I/F63に接続される出力デバイス等が制御されて実現するか、又は、通信I/F64が接続されるコンピュータネットワークを介して実現される機能である。出力部75は、算出部74が算出する加工条件の候補やアラートを出力する。
【0070】
第3取得部71は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行して実現される機能である。第3取得部71は、入出力I/F63、及び/又は、通信I/F64を介して外部acpt1から入力される加工目標を取得し、記憶部76に格納する。
加工目標は、目標形状、及び、ラマン分光法により取得されるウェーハの端部の二次元スペクトル画像を含むデータ一式である。
【0071】
加工目標は、一般に、オペレータ(ユーザ)等により研削加工システムに入力され得る。第3取得部71はこれを取得する。加工目標は、予め記憶部76に記憶された1つ又は複数のパターンから選択されてもよい。その場合、第3取得部71は、ユーザ等から与えられるその選択指示を取得する。
【0072】
第1取得部72は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行して実現される機能である。第1取得部72は第1測定装置65により測定された端部形状、及び、研削面形状(測定結果)を取得し、記憶部76に格納する。また、第1測定装置65がラマンイメージング機能を備える場合には、第1測定装置65により測定された二次元スペクトル画像を取得し、併せて記憶部76に格納する。
【0073】
また、第2取得部73は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行して実現される機能である。第2取得部73は第2測定装置66により測定された砥粒状態、及び、ウェーハWの表面状態(測定結果)を取得し、記憶部76に格納する。
なお、第1測定装置65、及び、第2測定装置66により測定される画像データは、それぞれ第1取得部72、及び、第2取得部73によって、所定の処理が施され、特徴量が抽出される。典型的には、記憶部76には特徴量ベクトルが格納される。データ処理については後述する。
【0074】
算出部74は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行して実現される機能である。算出部74は、加工目標を達成するための加工条件の候補を算出し、最適な加工条件を選択する(最適化する)。加工条件は、
・第3取得部71により取得された加工目標
・第1取得部72により取得された、端部形状、研削面形状
・第2取得部73により取得された、砥粒状態
等から算出される。
換言すれば、算出部74は、研削加工前の端部形状、研削面形状、砥石状態を前提に、加工目標に沿うように(を満たすように)、加工条件を最適化する。
【0075】
加工条件は、加工パラメータを少なくとも含む。また、加工パラメータ以外に、ウェーハの材質、形状、及び、種類等のウェーハ基本情報を含んでもよい。また、砥石55の材質、番手、及び、種類等の砥石基本情報を含んでもよい。
加工パラメータとは、加工装置10の制御に必要なパラメータであり、加工装置10の各部の取り得る制御パラメータの組合せである。制御パラメータとしては、例えば、切込み量、切込みパス、研削スピード、及び、切込み深さ等が挙げられる。一形態として、加工条件はベクトル、又は、行列として表される。算出部74は、与えられた諸条件を基に、加工条件の候補を算出し、これを最適化する。
算出部74は、与えられた諸条件による加工実績があって、良品が製造された場合、その加工条件を提示する。一方、加工実績がない(ほとんどの場合、全くの同一条件で研削加工が行われることはない)場合、良品を製造できる可能性が高い加工条件を候補として生成(算出)する。
【0076】
加工条件の候補は、所定の訓練データセットにより予め機械学習された学習済みモデルにより算出される。算出部74は、この学習済みモデルを含む。
訓練データセットには、複数のレコード(エントリー)が含まれる。それぞれのレコードには、少なくとも、加工条件、並びに、研削加工前の端部形状・研削面形状・砥粒状態に対して、その加工条件で加工されたウェーハWの加工目標の達成状況のラベル(評価結果)が含まれる。
本発明の特徴点の一つとして、上記ラベルに、ラマン分光法により取得される研削後のウェーハWの端部の二次元スペクトル画像が含まれる点が挙げられる。
【0077】
すでに説明したとおり、端部の二次元スペクトル画像は、研削加工により生じた加工変質層を反映する。達成状況として、目標とする二次元スペクトル画像と、研削加工後のウェーハWの端部の二次元スペクトル画像との比較の結果(類似度)が含まれることで、より高品質なウェーハWを得るための加工条件が算出されやすくなる。
【0078】
なお、本明細書において、訓練データセットのなかに、ある情報が含まれるといった場合、その情報そのものが含まれてもよいし、その情報に対して所定の処理(例えば低次元化処理、次元削減処理)が施されたものであってもよい。
低次元化処理とは、元のベクトルの情報をできるだけ損なわないようにしつつ、元のベクトルよりも低次元のベクトルに変化する方法である。低次元化(次元削減)は公知の方法により実施できる。例えば、PCA(主成分分析)、t-SNE(t-distributed Stochastic Neighbor Embedding)、UMAP(Uniform Manifold Approximation and Projection)等の方法が適用できる。
すなわち、訓練データセットが、所定の項目を含むと表現する場合、入力ベクトルが上記所定の項目を含んでいればよく、この入力ベクトルをもとに、次元削減された後のデータにより代えることもできる。以下では、訓練データセットを構成する各レコードに含まれる情報について詳述する。
【0079】
(端部形状、研削面形状、二次元スペクトル画像)
端部形状、研削面形状は、第1測定装置65により取得された端部、研削面の画像、又は、この画像に対して、所定の処理が施されたものを意味する。処理としては、例えば、画像の位置合わせ、画素値の正規化、二値化、輪郭抽出等の前処理、及び、特徴量の抽出が挙げられる。特徴量の抽出は、公知のアルゴリズム(例えば、勾配方向ヒストグラム、スピードアップロバスト特性、局所2値パターン、Haarウェーブレット、及び、カラーヒストグラム等)により行われ得る。また、更に、次元削減処理が実施されてもよい。
【0080】
第1測定装置65がラマンイメージング機能を有する場合、二次元スペクトル画像も端部形状、研削面形状と同様に取得、処理され得る。一方で、第1測定装置65がラマンイメージング機能を有さない場合、研削加工システム100外の顕微ラマン装置等により、研削加工後のウェーハWの二次元スペクトル画像を測定し、これを第1取得部72により取得させる形態であってもよい。
【0081】
(砥粒状態)
砥粒状態は、第2測定装置66により取得された画像、又は、この画像に対して、所定の処理が施されたものを意味する。処理の方法は、端部形状等と同様の方法が適用できる。ただし、処理の方式は同一でも異なってもよい。
【0082】
(加工目標、評価結果)
加工目標は、少なくとも研削加工後のウェーハWの端部形状(目標形状)、及び、端部の二次元スペクトル画像(又は、これらを処理して得られる特徴量ベクトル)を含む。目標形状はウェーハWの端部形状と同様の方法で取得され、同様の前処理が実施された情報であることが好ましい。目標形状と加工後の端部形状との比較により、加工の正確性が評価され得る。
また、端部の二次元スペクトル画像は、第1測定装置65、又は、装置外の顕微ラマン装置等により測定され、同様の前処理が実施された情報であることが好ましい。二次元スペクトル画像を加工目標と比較することで、加工変質層の状態が評価できる。
また、加工目標は、加工後のウェーハWの表面状態を含むことが好ましい。加工後のウェーハWの表面状態は、第2測定装置66により取得される画像、又は、この画像に対して、所定の処理が施されたものであってよい。
【0083】
評価結果は、研削加工後のウェーハWの端部形状と、目標形状とのマッチング、研削加工後のウェーハの二次元スペクトル画像と、目標とされる二次元スペクトル画像とのマッチングにより算出される類似度を含み得る。類似度は、目標形状、目標とされる二次元スペクトル画像を参照パターンとしたマッチングにより、研削加工後のウェーハWの端部形状、二次元スペクトル画像との比較により算出される。類似度は達成状況を表すラベルとして訓練データセットに組み込まれ、目的変数の一つとされ得る。
【0084】
マッチングの方法は特に限定されない。例えば、画像として取得される目標形状(画像)、及び、研削加工後のウェーハWの画像に対して所定の前処理を行い、ここから、特徴量ベクトルを抽出して、照合すればよい。また、画像が安定して取得され得る場合、テンプレートマッチングを活用してもよい。特徴量ベースのマッチングは、一般に、計算量が多くなることがあるものの、ロバスト性が高い。一方で、テンプレートベースのマッチングは、参照画像との差が大きく評価されやすいものの、計算が高速化しやすい特徴がある。
類似度は、例えば、目標画像を基準とする指数で表されてもよい。例えば、目標画像を100としたとき、研削加工後の画像が100以下の数で表され、これが100に近いほど目標画像との類似性が高いようにすることができる。
【0085】
また、目標の達成状況(評価結果)は、類似度に加えて消耗度を含んでもよい。消耗度は、砥石の摩耗(言い換えれば、砥石の研削面形状、表面状態の変化)の程度を表す数値である。消耗度は、研削加工前後の砥石の研削面形状、及び/又は、研削加工前後の砥粒状態の比較により計算され得る。研削面形状、砥粒状態の両者を含めて計算される消耗度は、砥石の状態をより正確に反映し得る。以下では、研削面形状、及び、砥粒状態の両方を用いて、消耗度を計算する方法について説明する。
【0086】
消耗度は、類似度と同様の方法で計算され得る。すなわち、研削加工前後の研削面形状、及び、砥粒状態のそれぞれの類似性をマッチングにより算出すればよい。マッチングの方法は、上述の類似度の算出と同様である。このようにして算出される消耗度は、加工前の砥石の状態を100としたとき、研削加工後の砥石の状態が100以下の数で表されるように構成してもよい。これが100に近いほど砥石の状態の変化が少ない(消耗が少ない)と判断できる。消耗度も、目的変数の一つとして訓練データセットに含まれてよい。
【0087】
また、評価結果は、予め定められた優先度を定義する優先データに従って類似度と消耗度との関係から算出されるスコアを含んでもよい。優先データ、及び、スコアの算出方法の一形態としては、類似度をA(0~100)、消耗度Bを(0~100)とし、その合計値Cをスコアとする方法が挙げられる。例えば、C=aA-bBと定義される。(a,b)は優先データであり、任意の数である。類似度と消耗度とのいずれが重視されるかによって(1,0):類似度重視、(1,1):同等、(1,2):消耗度重視、等と予め定義され得る。係数(a,b)の選択により、スコアが変化し得る。また、評価結果は、上記以外に、ユーザによる適否判断結果を含んでもよい。
【0088】
(その他の情報)
レコードには、上記以外にも加工データが含まれてもよい。加工データは、当該レコードに含まれる加工条件にてウェーハWが加工された場合に、センサにより取得されたデータに基づく。加工データは少なくとも加工負荷を含むことが好ましい。得られた加工負荷は、必要に応じて規格化、次元削減等の処理を経てもよい。
また、加工負荷から、予め定められた値(加工負荷の最大値、最大値が得られたタイミング、及び、加工負荷の積分値等)を抽出して、これを特徴量としてもよい。予め定められた値を特徴量とする場合、計算量がより減少し、処理が高速化される点で好ましい。
また、加工負荷を構成する種々のデータの経時変化を行列データとして整理し、非負値行列因子分解(NMF)によって、低ランク近似して用いてもよい。
【0089】
上記のような情報を含むエントリーの複数から構成される訓練データセットにより得られる学習済みモデルは、例えば、研削加工前の端部形状、研削加工前の研削面形状、研削加工前の砥粒状態、加工目標、及び、加工条件を説明変数(x)とし、評価結果(少なくとも類似度)を目的変数(y)とし、これを予測する回帰モデルy=f(x)として生成されてもよい。
回帰モデルとしては、例えば線形回帰、リッジ回帰、サポートベクタマシン、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、及び、これらを組み合わせたものが使用できる。ニューラルネットワークのように1つ以上の目的変数を持つことができる場合は、目的変数として類似度以外に、消耗度、及び、スコア等が選択されてもよい。
【0090】
算出部74は、加工目標、研削加工の前の端部形状、研削加工前の研削面形状、及び、研削加工前の砥粒状態が与えられると、回帰モデル(学習済みモデル)によって、加工条件の候補を算出する。算出部74は更に、算出された候補を少なくとも類似度の予測値に基づいて最適化する。
最適化は、勾配法、疑似アニーリング法、遺伝的アルゴリズム、ベイズ最適化、及び、グリッドリサーチ法等により実施できる。
【0091】
加工条件の候補の算出方法の一形態としては、例えば、加工条件のうち、加工パラメータの組合せの全部を算出し、算出された組合せのそれぞれについて、学習済みモデルを用いて類似度(加工目標の達成度)の予測値を得る方法が挙げられる。
全パラメータは、加工装置10のパラメータの最大値と最小値とを予め設定しておき、設定分解能を刻み幅とすれば生成できる。
【0092】
算出された加工条件ごとの類似度の予測値を降順ソートすることにより、最も類似度の予測値が高い加工条件が最適条件として算出される。
このとき、算出された類似度の予測値が、予め定められた基準値を満たさない場合、算出部74はアラートを生成する。
【0093】
回帰モデルの目的変数として、消耗度、及び/又は、上述のスコアが含まれる場合、算出部74は、類似度の予測値が基準値を満たす加工条件の候補を、出力部75に表示させる。このとき、加工条件の候補の各々には、類似度の予測値に加えて、消耗度の予測値、及び/又は、スコアの予測値の情報が含まれるようにする。ユーザは、類似度の予測値が基準値を満たす加工条件から、消耗度の予測値、及び/又は、スコアの予測値に応じて、適当な加工条件を選択できる。
【0094】
算出部74により、選択されるべき加工条件の候補と、その加工条件により研削した場合の砥石の消耗度の予測値が得られると、ユーザは、その目的に応じて加工条件を選択できる。例えば、砥石の摩耗に関わらず、得られるウェーハWの品質を優先するために、消耗度の予測値を無視して、類似度の予測値の最も高い加工条件を選択することもできる。一方で、類似度の予測値が所定の水準に達しているもののうち、最も砥石の消耗度の予測値が低い加工条件を選択することもできる。
【0095】
なお、上記選択条件が予め定義されて記憶部76に格納される場合、算出部74は、選択条件に沿って、最適な加工条件を選択してもよい。例えば、類似度の予測値、及び、消耗度の予測値の優先度を指定する優先データが記憶部76に格納されていてもよい。この場合、優先データを反映するスコア(C)を計算し、この最も高いもの(有利なもの)を最適条件として選択する構成でもよい。一例として、C=aA-bB、d≦Aと定義し、(a,b)は優先度、dを類似度の基準値、Aを類似度の予測値、Bを消耗度の予測値とすることができる。
(a,b)は任意の数であり、類似度の予測値Aと消耗度の予測値Bとのいずれを重視するかによって(1,0):類似度重視、(1,1):同等、(1,2):消耗度重視、等と予め定義される。係数(a,b)の選択により、最も有利と判断される加工条件が変化し得る。また、dは類似度の基準値であり、最低限、これを満たす加工条件の候補が表示されることとなる。
上記のようにして決定された加工条件は、加工部77の制御に利用され、これに従ってウェーハWが研削加工される。
【0096】
(動作フロー)
次に、図4に示された、研削加工システム100の動作フローについて説明する。
まず、ステップS11として、第3取得部71により加工目標が取得される。これは、外部acpt1から入出力I/F63、又は、通信I/F64を介して入力(又は受信)されたものである。
【0097】
次に、ステップS12として、第1取得部72により、研削加工前の、ウェーハWの端部形状、及び、砥石の研削面形状が取得される。このとき、併せて研削加工前のウェーハWの端部の二次元スペクトル画像が取得されてもよい。
次に、ステップS13として、第2取得部73により、研削加工前の砥粒状態が取得される。このとき、併せて、研削加工前のウェーハの表面状態が取得されてよい。算出部74の学習済みモデルが、ウェーハの表面状態を含む訓練データセットにより生成されたものである場合、ウェーハWの表面状態も取得されることが好ましい。これにより、より適した加工条件が提案され得る。
【0098】
次に、ステップS14として、算出部74により、加工条件の候補が算出される。算出部74は、算出された各候補によりウェーハWが加工された場合の類似度(予測値)が、所定の基準(基準値d)を満たすかを確認する(ステップS15)。
このとき、算出された加工条件のいずれもが、所定の基準を満たさない場合(ステップS15:NO)、算出部74はアラートを生成する(ステップS16)。アラートは、出力部75により表示される。
このアラートは、現在の(加工前の)ウェーハW、砥石の状態では、加工目標に対して所定の基準を満たす加工が行えない(加工目標に沿った研削加工が実施できない)ことを知らせるものである。このアラートには、砥石55のツルーイングを促す情報が含まれてもよい。
【0099】
一方、算出された加工条件の候補のうち、得られる類似度(予測値)が所定の基準(値)を満たすものが少なくとも1つある場合(ステップS15:YES)、そのうち、最適な加工条件が選択され、決定された加工条件でウェーハが研削される(ステップS18)。
【0100】
複数の加工条件が算出される場合、それらを出力部75に出力し、ユーザによる選択を受け付けてもよい。一方で、予め定められた選択条件により、選択されてもよい。図5は、類似度の予測値が基準を満たす加工条件の候補が複数にある場合に、予め定められた(記憶部76に記憶された)選択条件に基づき、加工条件が選択される場合のフローを表す図である。
図5(a)では、ステップS15(YES)に続く、ステップS17として、予め定められた選択条件である「消耗度(予測値)が最も低い加工条件」が選択される。なお、消耗度(予測値)は、算出部74によって、類似度(予測値)と共に算出される。続いて、ステップS18として、その加工条件でウェーハが研削される。
【0101】
図5(b)では、ステップS15(YES)に続く、ステップS19として、優先データの入力を受け付ける。なお、ステップS19は、任意のタイミングで実施可能である。すなわち、後段のステップS20よりも前の段階であれば、どの段階で実施されてもよい。また、優先データが予め記憶部76に格納される場合、本ステップは不要である。
【0102】
次に、優先データに沿って、加工条件が選択される(ステップS20)。次に、選択された加工条件によりウェーハWが研削される(ステップS18)。
図5に記載された各変形例では、予め定められた選択条件により加工条件が選択されため、研削加工の目的(類似度重視、消耗度重視等)に応じて、研削加工システムを制御できる点で好ましい。
【0103】
[機械学習装置]
次に、算出部74が備える学習済みモデルの機械学習を実施するための機械学習装置について説明する。
図6は、機械学習装置200のハードウェア構成図である。機械学習装置200は、プロセッサ61と、メモリ62と、入出力I/F(インターフェース)63と、通信I/F64を有する。機械学習装置200は、典型的にはコンピュータである。機械学習装置200の各部は、ハードウェアの構成としては情報処理装置60と同様であるため、説明を省略する。
【0104】
機械学習装置200は、通信I/F64を介してコンピュータネットワークNTに接続される。また、このコンピュータネットワークNTには、クライアント装置69も接続される。
クライアント装置69は、コンピュータであるコントローラ68、第1測定装置65、第2測定装置66、及び、加工装置10を備える。加工装置10は、研削砥石55、及び、センサ67を備える。クライアント装置69は、ハードウェアの構成としては、研削加工システム100と同様である。
【0105】
機械学習装置200は、コンピュータネットワークNTを介して、クライアント装置69との間で、各種データを送受信できる。
なお、機械学習装置200と、クライアント装置69とは、コンピュータネットワークNT以外の方法で接続されてもよい。例えば、入出力I/F63、又は、通信I/F64を介した有線、又は、無線の接続方法が挙げられる。
【0106】
コンピュータネットワークNTには、クライアント装置69が複数台接続されてもよい。具体的には、コンピュータネットワークNTに対して、1つの製造拠点に設置された複数のクライアント装置69が接続されたり、複数の拠点に設置された、それぞれ1つ又は複数のクライアント装置69が接続されたりしてもよい。
複数台のクライアント装置69からのデータを、機械学習装置200が集約する場合、後述する訓練データセットの構築に必要なデータの収集がより容易になる。
また、クライアント装置69に代えて、研削加工システム100を用いてもよい。
【0107】
次に、機械学習装置200の各部の機能について説明する。図7は、機械学習装置200の機能ブロック図である。
機械学習装置200は、制御部70と、第3取得部71と、第1取得部72と、第2取得部73と、第4取得部79と、評価部80と、学習部81と、記憶部76と、出力部75とを有する。
なお、図中には、加工部77、第1測定装置65、及び、第2測定装置66が記載されているが、これらは機械学習装置200を構成しない。これらは、コンピュータネットワークNTに接続されるクライアント装置69(又は、研削加工システム100)側の機能である。
【0108】
制御部70は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行することで実現される機能である。制御部70は、機械学習装置200の各部を制御し、その機能を実現させる。
【0109】
第3取得部71は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行することで実現される。第3取得部71は、クライアント装置69のコントローラ68に入力されたデータを、コンピュータネットワークNTを介して取得する。
第3取得部71が取得するデータは、クライアント装置69のコントローラ68に外部acpt1から(典型的にはユーザによって)入力される加工目標、及び、加工条件である。取得された加工目標、及び、加工条件は、記憶部76に格納される。加工目標、及び、加工条件は、後述する訓練データセット82の一部とされる。
【0110】
第1取得部72は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行することで実現される。第1取得部72は、クライアント装置69の第1測定装置65の測定データ(画像)を取得して、前処理を行った上で、このデータを記憶部76に格納する。格納されたデータは、後述する訓練データセット82の一部とされる。
取得されるデータ(画像)は、研削加工前後の端部形状、及び、研削加工前の研削面形状であり、端部の二次元スペクトル画像を含んでもよい。更に、研削加工後の研削面形状を含むことが好ましい。
取得された画像から得られる処理済みデータ(典型的には特徴量ベクトル)は、記憶部76に格納され、後述する訓練データセット82の一部とされる。
【0111】
第1取得部72は、第1測定装置65が取得した画像に対して、位置合わせ、画素値の正規化、二値化、及び、輪郭抽出等の前処理を行う。次に、公知のアルゴリズムにより特徴量ベクトルを抽出し、これを記憶部76に格納する。また、公知の方法により次元削減を行ってもよい。取得画像(又はこれらに基づく処理済みデータ)は、訓練データセット82の一部とされる。
【0112】
第1取得部72は、第1測定装置65により撮像された研削加工後のウェーハWの端面の画像(端部形状)も取得する。また、研削加工後のウェーハWの端部の二次元スペクトル画像を更に取得してもよい。研削加工後の端部形状は、目標形状とのマッチングに利用される。マッチングは、評価部80により実施される。
【0113】
第1取得部72は、クライアント装置69の第1測定装置65により撮像される、研削加工後の砥石55の研削面形状を取得することが好ましい。
研削加工により、砥石55の研削面形状は変化する。砥石55のように、溝形状をウェーハWに転写する形式の砥石の場合は、研削面である溝形状が変化する。
溝形状がウェーハWに転写されることにより、所望の形状に研削する砥石の場合、当初の溝形状は、目標形状に合わせて設計される。しかし、ウェーハWの研削によって砥石55が摩耗すると、その形状は崩れていく。砥石の形状が崩れると、同じ加工条件で研削加工を実施しても、同じ結果が得られにくくなる。
このような砥石の摩耗は、研削加工前後の研削面形状のマッチングにより計算される、研削加工による砥石の消耗度により評価される。消耗度は評価部80により算出される。
【0114】
第2取得部73は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行することで実現される。第2取得部73は、クライアント装置69の第2測定装置66の測定データを取得して、必要に応じて前処理を行った上で、このデータを記憶部76に格納する。格納されたデータは、後述する訓練データセット82の一部とされる。
取得されるデータは、研削加工前の砥粒状態である。更に、取得されるデータは、研削加工後の砥石状態、研削加工前後のウェーハ表面状態を含むことが好ましい。
【0115】
第2取得部73は、第2測定装置66が取得した画像に対して、位置合わせ、及び、画素値の正規化等の前処理を行う。次に、処理後の画像から、特徴量ベクトルを抽出し、これを記憶部76に格納する。また、公知の方法により次元削減を行ってもよい。
研削加工前の砥粒状態は、上記格納されたデータが訓練データセット82の一部とされる。
【0116】
第2取得部73は、クライアント装置69の第2測定装置66により測定される、研削加工後の砥粒状態を取得してもよい。研削加工後の砥粒状態は、砥石の消耗度の算出に使用され得る。研削加工前後の砥粒状態(画像)のマッチングによって、消耗度が算出される。
第1取得部72により取得される研削加工前後の研削面形状と、第2取得部73により取得される研削加工前後の砥粒状態とを併せて算出された消耗度には、砥石の状態がより反映されやすい。なお、消耗度の算出は、評価部80により実施される。
【0117】
また、第2取得部73は、クライアント装置69の第2測定装置66により測定される、研削加工前後におけるウェーハの表面状態を取得してもよい。研削加工前のウェーハの表面状態は、所定の処理(特徴量ベクトルの抽出等)を実施して訓練データセット82に組み込まれ得る。研削加工前のウェーハの表面状態が訓練データセット82に組み込まれることにより、得られる学習済みモデルの精度がより向上する。
研削加工後におけるウェーハの表面状態は、類似度の算出に使用され得る。加工目標が、ウェーハの表面状態を含む場合、これと比較することで、類似度が算出される。
【0118】
第4取得部79は、加工条件に従ってクライアント装置69の加工部77がウェーハWを研削加工した際の加工データを取得する。加工データは、センサ67により測定される。加工データは少なくとも加工負荷を含む。得られた加工負荷は、規格化、次元削減等の処理を経て、記憶部76に格納され、後述する訓練データセット82の一部とされる。
【0119】
評価部80は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行することで実現される。評価部80は、第3取得部71により取得される加工目標、及び、第1取得部72により取得されるウェーハの端部形状、二次元スペクトル画像(研削加工後)から、類似度を計算する。類似度の計算方法は、上述のとおりである。
加工目標が、研削加工後のウェーハの表面状態を含む場合、第2取得部73により取得される研削加工後のウェーハの表面状態も、類似度の計算に使用され得る。
【0120】
また、評価部80は、第1測定装置65により取得される研削加工前後の研削面形状、及び/又は、第2測定装置66により取得される研削加工前後の砥粒状態から、消耗度を計算することが好ましい。更に、外部acpt2から取得される(又は記憶部76に予め格納される)優先データに基づき、スコアを計算することが好ましい。
計算された類似度、消耗度、及び、スコアは、記憶部76に格納され、訓練データセット82の一部とされる。
【0121】
また、評価部80は、外部acpt2から、ユーザによる研削結果の評価(適/否)を取得してもよい。適/否の評価は、記憶部76に格納され、訓練データセット82の一部とされてよい。
訓練データセット82が、ユーザによる適/否の評価結果を含む場合、類似度等との関係から、基準値dを算出できる。なお、基準値dの算出は学習部81により実施される。
【0122】
学習部81は、メモリ62に記憶されたプログラムをプロセッサ61が実行して実現される機能である。
学習部81は、訓練データセットを用いた機械学習を実施して、学習済みモデルを生成する。学習済みモデル、及び、訓練データセットはすでに説明したとおりである。
【0123】
次に、機械学習装置200を用いて、訓練データセット82を構成するレコードを取得する方法について説明する。図8は、機械学習装置200を用いて訓練データセット82を構成するレコードを取得する方法のフロー図である。
まず、ステップS30として、第3取得部71により加工目標、及び、加工条件が取得される。第3取得部71の動作は、加工条件を併せて取得すること以外は、図4の研削加工システム100の動作フローにおける対応するステップと同様である。第3取得部71は、クライアント装置69の入出力I/F、又は、通信I/Fを介して、外部acpt1からユーザ等により入力される上記情報を受け付ける。
【0124】
次に、ステップS31として、研削加工前の端部形状・研削面形状が、第1取得部72により取得される。上記各形状は、クライアント装置69が有する第1測定装置65により測定される。第1取得部72は、測定された情報(画像)を、コンピュータネットワークNT経由で受信する。なお、取得されるデータは、図4の研削加工システム100の動作フローにおける対応するステップ(ステップS12)と同様である。
第1取得部72は、画像データに所定の前処理を施し、特徴量を抽出する。得られたデータ(特徴量ベクトル)は、記憶部76に格納される。
【0125】
次に、ステップS32として、研削加工前の砥粒状態が、第2取得部73により取得される。砥粒状態は、クライアント装置69が有する第2測定装置66により測定される。第2取得部73は、測定された情報(画像)を、ネットワークNT経由で受信する。なお、取得されるデータは、図4の研削加工システム100の動作フローにおける対応するステップ(ステップS13)と同様である。
第2取得部73は、画像データに所定の前処理を施し、特徴量を抽出する。得られたデータ(特徴量ベクトル)は、記憶部76に格納される。
なお、このとき、併せて、加工前のウェーハの表面状態が取得されてもよい。
【0126】
次に、ステップS33として、取得された加工条件に従って、ウェーハWが研削加工される。ウェーハWの加工は、クライアント装置69により実施される。具体的には、加工条件に従って、コントローラ68により制御された加工装置10により実施される。
次に、ステップS34として、第4取得部79により、加工データが取得される。加工データは、クライアント装置69の加工装置10が備えるセンサ67によって測定される。第4取得部79は、測定された情報を、ネットワークNT経由で受信する。なお、取得されるデータは、加工負荷を含み、これ以外に、加工振動、及び、温度等を含んでもよい。
なお、訓練データセット82が加工データを含まない場合、本ステップは省略されてもよい。
【0127】
次に、ステップS35として、第1取得部72によって、研削加工後のウェーハWの端部形状、研削加工後の砥石の研削面形状、及び、研削加工後のウェーハWの端部の二次元スペクトル画像が取得される。データの取得の方法、取得されるデータ、及び、その処理方法は、ステップS31と同様である。異なるのは、研削加工後のデータである点である。得られた特徴量ベクトルは、記憶部76に格納される。
【0128】
次に、ステップS36として、第2取得部73によって、研削加工後の砥粒状態が取得される。データの取得の方法、取得されるデータ、及び、その処理方法は、ステップS32と同様である。異なるのは、研削加工後のデータである点である。得られた特徴量ベクトルは、記憶部76に格納される。
【0129】
次に、ステップS37として、評価部80により、研削加工後のウェーハWの評価結果が取得される。
評価部80は、少なくとも類似度を算出する。また、消耗度、及び、スコアを算出することが好ましい。また、併せて、ユーザによって入力される適/否の評価を取得してもよい。類似度、消耗度、及び、スコアの算出方法は上述のとおりである。得られた評価結果は、記憶部76に格納される。
【0130】
このようにして、加工目標、加工条件、研削加工前後の端部形状・研削面形状・端部の二次元スペクトル画像、研削加工前後の砥粒状態、加工データ、及び、評価結果(加工目標の達成状況)が取得される。1回のウェーハの加工から得られた上記各データは、1つのレコードとして、訓練データセット82の一部をなす。
上記各ステップにより取得された情報は、組み合わせて1個のレコードとされる。これらのレコードが集約されて、訓練データセット82得られる。記憶部76に格納された訓練データセット82は、学習部81による機械学習に使用される。
【符号の説明】
【0131】
10 加工装置、55 研削砥石、60 情報処理装置、61 プロセッサ、62 メモリ、65 第1測定装置、66 第2測定装置、67 センサ、68 コントローラ、69 クライアント装置、70 制御部、71 第3取得部、72 第1取得部、73 第2取得部、74 算出部、75 出力部、76 記憶部、77 加工部、79 第4取得部、80 評価部、81 学習部、82 訓練データセット、100 研削加工システム、120 白色干渉顕微鏡、121 光源、122 コリメート光学系、123 ビームスプリッタ、124 対物レンズ、125 参照ミラー、126 集光光学系、127 撮像部、128 ピンホール、129 偏光板、130 共焦点顕微鏡、131 偏光板、200 機械学習装置
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