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特開2024-133938メタルハニカム体、触媒コンバータ、メタルハニカム体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133938
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】メタルハニカム体、触媒コンバータ、メタルハニカム体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/57 20240101AFI20240926BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240926BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240926BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B01J35/04 321A
B01J37/08 ZAB
B01J37/02 301C
B01J23/63 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023043969
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 康秀
(72)【発明者】
【氏名】河野 太郎
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 省吾
(72)【発明者】
【氏名】村松 啓
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA01
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA01B
4G169BA05B
4G169BA18
4G169BB06B
4G169BC42B
4G169BC43B
4G169BC72B
4G169CA03
4G169CA09
4G169DA06
4G169EA21
4G169EA24
4G169EA28
4G169EB07
4G169EB14X
4G169EB14Y
4G169EB15Y
4G169EB17Y
4G169EC22Y
4G169FA01
4G169FA04
4G169FA06
4G169FB15
4G169FB30
4G169FC02
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】ライトオフ性能、定常浄化性能及びプラグの形態維持性を阻害しない巻き芯中空部用のプラグを提供する。
【解決手段】金属箔からなる平箔及び波箔を所定軸周りに巻き回すことにより構成されたメタルハニカム体において、前記平箔及び/又は波箔には、多数の貫通孔が形成されており、該メタルハニカム体の巻き芯中空部における一端又は両端には、多孔質体からなるプラグが配設されていることを特徴とするメタルハニカム体。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔からなる平箔及び波箔を所定軸周りに巻き回すことにより構成されたメタルハニカム体において、
前記平箔及び/又は波箔には、多数の貫通孔が形成されており、
該メタルハニカム体の巻き芯中空部における一端又は両端には、多孔質体からなるプラグが配設されていることを特徴とするメタルハニカム体。
【請求項2】
前記多孔質体は、多数の金属片をロウ材で接合した構造を呈していることを特徴とする請求項1に記載のメタルハニカム体。
【請求項3】
前記多孔質体は、多数の金属片と、隣接する金属片を互いに接着する無機接着剤とから構成されることを特徴とする請求項1に記載のメタルハニカム体。
【請求項4】
前記多孔質体の空隙率は、7%以上85%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のメタルハニカム体。
【請求項5】
前記多孔質体は、該メタルハニカム体の巻き芯中空部における両端に配設されており、
前記多孔質体の空隙率は、70%以下であることを特徴とする請求項4に記載のメタルハニカム体。
【請求項6】
前記金属片は、前記金属箔と同一の素材で構成されており、
前記ロウ材は、前記平箔及び前記波箔の接合に用いられるロウ材と同一の素材で構成されていることを特徴とする請求項2に記載のメタルハニカム体。
【請求項7】
前記多孔質体の軸方向における長さは、前記巻き芯中空部の直径の1倍以上3倍以下であることを特徴とする請求項1乃至3、6のうちいずれか一つに記載のメタルハニカム体。
【請求項8】
前記多孔質体の軸方向における長さは、前記巻き芯中空部の直径の1倍以上3倍以下であることを特徴とする請求項4に記載のメタルハニカム体。
【請求項9】
前記多孔質体の軸方向における長さは、前記巻き芯中空部の直径の1倍以上3倍以下であることを特徴とする請求項5に記載のメタルハニカム体。
【請求項10】
触媒が担持された請求項1に記載のメタルハニカム体と、
前記メタルハニカム体が収容される外筒と、
を有することを特徴とする触媒コンバータ。
【請求項11】
請求項1に記載のメタルハニカム体の製造方法であって、
ロウ材及び多数の金属片を含むスラリー状母材を、前記巻き芯中空部の端部から供給する母材供給ステップと、
前記母材供給ステップの後に、前記メタルハニカム体を焼成する焼成ステップと、
を有し、
前記母材供給ステップにおいて、前記スラリー状母材における、前記金属片の総含有量をX質量%、前記ロウ材の総含有量をY質量%としたとき、X質量%とY質量%の比であるX:Yは、3:7から9:1の範囲に含まれることを特徴とするメタルハニカム体の製造方法。
【請求項12】
前記母材供給ステップにおいて、前記メタルハニカム体の巻き芯中空部における両端に前記スラリー状母材を供給し、
X:Yは、3:7から7:3の範囲に含まれることを特徴とする請求項11に記載のメタルハニカム体の製造方法。
【請求項13】
前記焼成ステップの後に、前記メタルハニカム体の軸方向における端部から触媒を含むスラリーを流入させた後、乾燥及び焼成することにより触媒を担持させることを特徴とする請求項11又は12に記載のメタルハニカム体の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き芯中空部を有するメタルハニカム体などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の排ガスを浄化する浄化装置として、金属箔からなる平箔及び波箔を所定軸周りに巻き回したメタルハニカム体が知られており、平箔及び波箔を巻き回す際にメタルハニカム体の中心に中空構造の巻き芯部が形成される。巻き芯部は、浄化性能が低いことから、巻き芯部に流入する排ガスを低減することが求められている。
【0003】
特許文献1には、メタルハニカム体に用いられる金属箔に多数の貫通孔を形成することにより、浄化性能を向上させた浄化装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、金属製の平箔と波箔とを巻き回して形成してなるメタルハニカム体を用いたメタル触媒担体において、巻き芯中空部にガスの流通を阻害する金属製プラグを配設する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、金属製の平箔と波箔とを巻き回して形成してなるメタルハニカム体を用いたメタルハニカム体において、巻き芯中空部の軸方向端部における両金属箔の始端部間を拡開させた、巻き芯部における排気の流通を規制する規制部を配設する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005―535454号公報
【特許文献2】特開2006-281118号公報
【特許文献3】特開2010-201413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された金属箔には、多数の貫通孔が形成されているため、ガス導通路の圧損が大きくなる。ガス導通路の圧損が大きくなると、巻き芯中空部から排ガスが抜けやすくなり、多数の貫通孔を形成することによる効果(定常浄化性能の向上)を十分に享受することができない。
【0008】
特許文献2のメタルハニカム体では、緻密な金属製プラグが使用されているため、メタルハニカム体の熱容量が増大し、ライトオフ性能(触媒の浄化性能が発現する温度特性)が悪化する。箔に貫通孔が形成されている場合、孔面積分だけ箔材面積が小さくなり、同一体積の孔なし箔担体と比べて熱容量が抑えられライトオフ性能が向上するが、中心部に緻密材の封止プラグを挿入すると封止プラグの分だけ熱容量が増加し、箔に孔を開けたことによる熱容量低減効果が損なわれる。プラグの長さを短くすれば、熱容量を低減できるが、巻き芯中空部に対するプラグの接合長さが不足するため、プラグの耐久性を維持することができない。
【0009】
特許文献3のメタルハニカム体は、金属箔を加工して規制部を設ける方法であるため、熱容量は増大しないが、強度不足により規制部の耐久性が十分でない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るメタルハニカム体は、(1)金属箔からなる平箔及び波箔を所定軸周りに巻き回すことにより構成されたメタルハニカム体において、前記平箔及び/又は波箔には、多数の貫通孔が形成されており、該メタルハニカム体の巻き芯中空部における一端又は両端には、多孔質体からなるプラグが配設されていることを特徴とする。
【0011】
(2)前記多孔質体は、多数の金属片をロウ材で接合した構造を呈していることを特徴とする上記(1)に記載のメタルハニカム体。
【0012】
(3)前記多孔質体は、多数の金属片と、隣接する金属片を互いに接着する無機接着剤とから構成されることを特徴とする上記(1)に記載のメタルハニカム体。
【0013】
(4)前記多孔質体の空隙率は、7%以上85%以下であることを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載のメタルハニカム体。
【0014】
(5)前記多孔質体は、該メタルハニカム体の巻き芯中空部における両端に配設されており、前記多孔質体の空隙率は、70%以下であることを特徴とする上記(4)に記載のメタルハニカム体。
【0015】
(6)前記金属片は、前記金属箔と同一の素材で構成されており、前記ロウ材は、前記平箔及び前記波箔の接合に用いられるロウ材と同一の素材で構成されていることを特徴とする上記(2)に記載のメタルハニカム体。
【0016】
(7)前記多孔質体の軸方向における長さは、前記巻き芯中空部の直径の1倍以上3倍以下であることを特徴とする上記(1)乃至(3)、(6)のうちいずれか一つに記載のメタルハニカム体。
【0017】
(8)前記多孔質体の軸方向における長さは、前記巻き芯中空部の直径の1倍以上3倍以下であることを特徴とする上記(4)に記載のメタルハニカム体。
【0018】
(9)前記多孔質体の軸方向における長さは、前記巻き芯中空部の直径の1倍以上3倍以下であることを特徴とする上記(5)に記載のメタルハニカム体。
【0019】
(10)触媒が担持された上記(1)に記載のメタルハニカム体と、前記メタルハニカム体が収容される外筒と、を有することを特徴とする触媒コンバータ。
【0020】
(11)上記(1)に記載のメタルハニカム体の製造方法であって、ロウ材及び多数の金属片を含むスラリー状母材を、前記巻き芯中空部の端部から供給する母材供給ステップと、前記母材供給ステップの後に、前記メタルハニカム体を焼成する焼成ステップと、を有し、前記母材供給ステップにおいて、前記スラリー状母材における、前記金属片の総含有量をX質量%、前記ロウ材の総含有量をY質量%としたとき、X質量%とY質量%の比であるX:Yは、3:7から9:1の範囲に含まれることを特徴とするメタルハニカム体の製造方法。
【0021】
(12)前記母材供給ステップにおいて、前記メタルハニカム体の巻き芯中空部における両端に前記スラリー状母材を供給し、X:Yは、3:7から7:3の範囲に含まれることを特徴とする上記(11)に記載のメタルハニカム体の製造方法。
【0022】
(13)前記焼成ステップの後に、前記メタルハニカム体の軸方向における端部から触媒を含むスラリーを流入させた後、乾燥及び焼成することにより触媒を担持させることを特徴とする上記(11)又は(12)に記載のメタルハニカム体の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、巻き芯中空部の一端又は両端に多孔質プラグを配設することにより、巻き芯中空部から排ガスが抜けることを抑制できる。これにより、メタルハニカム体の定常浄化性能を高めることができる。
また、プラグが多孔質体によって構成されているため、緻密なプラグを使用した場合よりも、メタルハニカム体の熱容量を下げることができる。これにより、メタルハニカム体のライトオフ性能を高めることができる。
さらに、金属箔を加工して排ガスの流入規制を行う方法よりも、プラグの形態維持性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】触媒コンバータの平面図である。
図2】両端に多孔質プラグが配設された巻き芯中空部の断面図である。
図3】金属箔の展開図及び金属箔の一部における拡大図である。
図4】多孔質プラグの断面図である。
図5】巻き芯中空部内の多孔質プラグの断面写真である(X:Y=5:5)。
図6】一端に多孔質プラグが配設された巻き芯中空部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を、第1実施形態と第2実施形態に分けて説明する。第1実施形態のメタルハニカム体では、巻き芯中空部の両端に多孔質プラグを配設している。第2実施形態のメタルハニカム体では、巻き芯中空部の一端に多孔質プラグを配設している。
【0026】
(第1実施形態)
図1は本発明の一実施形態である触媒コンバータを軸方向から視た平面図である。ただし、巻き芯中空部に配設される多孔質プラグは、省略して図示する。なお、軸方向は、触媒コンバータに向かって流入する排ガスの導通方向でもある。
図2は、触媒コンバータの巻き芯中空部の断面図であり、多孔質プラグの配設位置を示している。図3は、平箔及び波箔のベースとなる金属箔の展開図及び金属箔の一部における拡大図である。
【0027】
触媒コンバータ1は、メタルハニカム体4、外筒5および触媒を含む。メタルハニカム体4は、平箔2及び波箔3を重ねて巻き回した捲回体によって構成されている。平箔2及び波箔3を重ね合わせることによって、排ガスを導通させるためのガス導通路が形成される。本実施形態の触媒コンバータ1は、車両の排ガスを浄化するための浄化装置として用いることができる。
【0028】
平箔2及び波箔3には、耐熱合金からなる金属箔を用いることができる。金属箔の箔厚は、好ましくは20μm以上100μm以下であり、より好ましくは20μm以上70μm以下である。このように箔厚の薄い金属箔を用いることにより、排ガス浄化時にメタルハニカム体4の昇温速度を上昇させて、触媒を活性化したり、触媒コンバータ1を軽量化することができる。
【0029】
平箔2及び波箔3のベースとなる金属箔には、多数の貫通孔4aが形成されている。平箔2及び波箔3に多数の貫通孔4aを形成することにより、メタルハニカム体4に流入した排ガスが乱流となり、定常浄化性能を高めることができる。また、メタルハニカム体4の熱容量が下がるため、ライトオフ性能を高めることができる。貫通孔4aの直径が過度に小さくなると、貫通孔4aが触媒によって閉塞されるおそれがある。貫通孔4aの直径が過度に大きくなると、貫通孔のないメタルハニカム体よりも定常浄化性能が低下するおそれがある。したがって、貫通孔4aの直径は、好ましくは0.2mm以上8mm以下である。貫通孔4aの開口率は、好ましくは20%以上60%以下である。かかる範囲に開口率を調整することにより、メタルハニカム体4の低熱容量化及び耐久性を両立することができる。
ただし、平箔2及び波箔3の一方だけに、多数の貫通孔4aを形成してもよい。
また、平箔2及び波箔3のガス入側端部から1mm以上10mm以下の領域とガス出側端部から1mm以上10mm以下の領域を、貫通孔4aのない非開口部とすることが望ましい。かかる非開口部を設けることにより、箔の強度が維持され、また多孔質プラグと箔の接合面積を十分に確保することができる。
本実施形態のプラグは多孔質であるため、プラグ全体が開口部のある領域に接合されると、接合面積が低下して、多孔質プラグの接合強度が低下するおそれがある。多孔質プラグの少なくとも一部が金属箔の非開口部に接合されることで、かかる問題を無くすことができる。
【0030】
図3に図示するように、本実施形態の貫通孔4aは、金属箔に対して千鳥状に配設されている。ここで、互いに隣接する三つの貫通孔4aの中心を線で結んだ三角形を描き、三角形の内側の面積を「全体面積」、黒塗りで示す三角形と貫通孔4aとの重なり部分の面積を「孔面積」と定義したとき、「全体面積」に対する「孔面積」の比を「開口率」とすることができる。開口率の算出方法は、技術常識であるから、上述の説明に留める。
なお、本実施形態では貫通孔4aの形状を円形としたが、他の形状(例えば、楕円、多角形など)であってもよい。また、貫通孔4aの配設形態は、千鳥状に限るものではなく、他の配設形態(例えば、格子状)であってもよい。
【0031】
金属箔の板幅は、好ましくは後述する巻き芯中空部6の直径の3倍以上500mm以下である。金属箔のサイズは、触媒コンバータ1の用途に応じて適宜変更することができる。波箔3は、金属箔を例えばコルゲート加工することによって製造することができる。
【0032】
ここで、金属箔には、例えば、合金組成にAlを含む耐熱性の各種ステンレス鋼を用いることができる。ステンレス鋼には、Cr:20質量%、Al:5質量%、残部がFe及び不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス(言い換えると、Fe-20Cr-5Al合金)を用いることができる。ただし、フェライト系以外のステンレス(例えば、Crを15-25質量%、Alを2-8質量%含有するステンレス)を用いることもできる。
【0033】
平箔2と波箔3の接合、メタルハニカム体4と外筒5の接合には、ロウ材を用いることができる。ロウ材には、例えば、耐熱性の高いNi基のロウ材を用いることができる。ロウ材は、箔ロウであってもよいし、粉末ロウであってもよい。
【0034】
触媒は、メタルハニカム体4の金属箔表面に所定のウォッシュコート液を塗布して、それを乾燥、焼成することによって、金属箔に担持させることができる。ウォッシュコート液の塗布方法については、後述する。
【0035】
外筒5には例えばSUS436LやSUS430といったCrを13~20質量%程度含有するフェライト系ステンレスを用いることができる。外筒5の肉厚は、好ましくは0.5mm以上3mm以下である。メタルハニカム体4のセル密度は、好ましくは1平方センチメートルあたり15.5セルから93セル(1平方インチあたり100セルから600セル)である。
【0036】
メタルハニカム体4の中心には、軸方向に向かって筒状に延びる巻き芯中空部6が形成されている。巻き芯中空部6の両端には、多孔質プラグ30が配設されている。図4は、多孔質プラグ30の断面を模式的に示している。
多数の金属片31とロウ材を適度な粘性をもつ液体中で混合したプラグ用スラリー液(スラリー状母材に相当する)を準備し、このプラグ用スラリー液を巻き芯中空部6の一端側及び他端側から注入させた後、乾燥及び焼成することによって、巻き芯中空部6の両端に多孔質プラグ30を配設することができる。したがって、多孔質プラグ30は、多数の金属片31がロウ材で接合された構造を呈している。多孔質プラグ30には、多数の空隙が形成されているため、従来の緻密なプラグよりも熱容量が低くなり、ライトオフ性能を高めることができる。
【0037】
空隙が形成されるメカニズムについて、本発明者等は、以下のように考えている。金属片31とロウ材を含むプラグ用スラリー液を巻き芯中空部6に注入し、その後乾燥によって液体分が抜ける。さらにその後焼成時にロウ材が溶融し、この溶融したロウ材が金属片の隙間に浸み込むことで、空隙が形成される。
【0038】
図4の点線は、多孔質プラグ30の両端の位置を示しており、これらの点線に挟まれた領域における空隙の体積割合が、多孔質プラグ30の空隙率となる。なお、図4は、一端側の多孔質プラグ30だけを図示する。
すなわち、多孔質プラグ30の上下端面に沿った面(図4の点線で示す面)と、巻き芯中空部6の内面とで囲まれた領域を定義し、当該領域の体積に対する、空隙の占める体積の比を「空隙率」とすることができる。多孔質プラグ30の上下端面とは、多孔質プラグ30の空隙を除いた固体部の、巻き芯中空部6の長手方向における両端面のことである。
例えば、複数枚のX線CT画像を撮像し、これらのCT断面画像を2値化して固体部と空隙部を分離し、空隙の面積割合を算出することにより、多孔質プラグ30の空隙率を算出することができる。具体的には、各CT断面画像の空隙の面積割合の算術平均値、中央値などを多孔質プラグ30の空隙率とすることができる。
【0039】
多孔質プラグ30の空隙率は、7%以上85%以下が好ましい。多孔質プラグ30の空隙率を7%以上に高めることによって、多孔質プラグ30の熱容量が十分に下がり、メタルハニカム体4のライトオフ性能を高めることができる。金属片31及びロウ材を原料とする場合、空隙率が過度に高くなると、ロウ材を介さない、金属片同士の固相接合が支配的になるから、多孔質プラグ30自体の強度(つまり、プラグの形態維持性)が保てなくなる。そこで、空隙率の好ましい上限値は、85%とする。
【0040】
また、多孔質プラグ30の空隙率が85%以下に抑えられていれば、巻き芯中空部6から排ガスが抜けることを効果的に防止できる。すなわち、本実施形態の金属箔(平箔2及び波箔3)には多数の貫通孔4aが形成されており、メタルハニカム体4の圧損が大きくなるため、巻き芯中空部6から排ガスが抜け易い。特に、排ガスの流量が高流量である場合には、かかる傾向が顕著となる。本実施形態では、巻き芯中空部6の両端が多孔質プラグ30によって閉塞されているため、巻き芯中空部6から排ガスが抜けることを、効果的に防止できる。これにより、メタルハニカム体4の定常触媒浄化性能を高めることができる。
【0041】
巻き芯中空部6の直径をDと定義したとき、多孔質プラグ30の軸方向長さは、好ましくはD以上3D以下である。多孔質プラグ30の軸方向長さを3D以下に設定することによって、多孔質プラグ30による熱容量の低減効果を、より効果的に発現させることができる。多孔質プラグ30の軸方向長さをD以上に設定することによって、多孔質プラグ30の巻き芯中空部6に対する接合面積が十分に確保されるため、巻き芯中空部6から多孔質プラグ30が脱落することを防止できる。
【0042】
多孔質プラグ30のロウ材には、平箔2及び波箔3の接合に用いられたロウ材と同一のロウ材を用いることが望ましい。例えば、平箔2及び波箔3の接合材としてNi基のロウ材を用いた場合には、同じNi基のロウ材を多孔質プラグ30のロウ材として用いることが望ましい。これにより、平箔2及び波箔3の接合箇所と、金属片31の接合箇所との耐熱性、熱膨張性を等しくすることができる。Ni基のロウ材には、例えば、「JISZ 3265」に規定されたBNi‐1~BNi‐7、AWS(American Welding Society:アメリカ溶接協会)から公表されているBNi‐5a,BNi‐8,BNi‐9,BNi‐10,BNi‐11,BNi‐12,BNi‐13などを用いることができる。ただし、ロウ材の熱膨張率が比較的近ければ、ロウ材の種類が異なっていてもよい。
【0043】
金属片31には、平箔2及び波箔3と同一の金属を用いることが望ましい。これにより、金属片31、平箔2及び波箔3の耐熱性、熱膨張性を等しくすることができる。ただし、熱膨張率が比較的近ければ、金属の種類は異なっていてもよい。
【0044】
金属片31の形状は特に限定しないが、例えば、円板形状、球体形状、三角錐形状、立方体形状等であってもよい。また、形状が異なる金属片31を混合して、多孔質プラグ30を形成してもよい。ただし、金属片31を円板形状に形成すると、アスペクト比が大きくなり、空隙ができやすい。したがって、円板形状の金属片31を用いることが好ましい。
【0045】
次に、多孔質プラグ30を巻き芯中空部6に配設する方法について、具体的に説明する。多数の金属片31とロウ材を適度な粘性を持つ液体中で混合したプラグ用スラリー液を準備する。プラグ用スラリー液における金属片31の総含有量をX質量%、ロウ材の総含有量をY質量%としたとき、X質量%とY質量%との比であるX:Yは、3:7から9:1の範囲に含まれる。この配合比の条件を分数で表記すると、X/Yは、3/7以上9/1以下である。
X/Yが過度に小さくなると、プラグとしての形状を維持できなくなる。言い換えると、ロウ材が過度に多くなると、焼成時にロウ材が流れ落ちてしまうため、プラグ形状の焼成体を得ることができない。
【0046】
X/Yが過度に大きくなると、多孔質プラグ30自体の強度が低下する。言い換えると、ロウ材が不足して、ロウ材を介さない、金属片同士の固相接合が支配的になり、隣接する金属片31どうしのロウ付け強度が低下するため、プラグ形態を維持することができない。
【0047】
X:Yの好ましい下限値は、4:6である。言い換えると、X/Yの好ましい下限値は、4/6である。X/Yを4/6以上に設定することによって、多孔質プラグ30の空隙率が高まり、触媒コンバータ1のライトオフ性能が向上する。すなわち、空隙を埋めるロウ材の量が減るため、多孔質プラグ30の空隙率を高めることができる。
X:Yの好ましい上限値は、7:3である。言い換えると、X/Yの好ましい上限値は、7/3である。X/Yを7/3以下に設定することによって、隣接する金属片31のロウ付け強度が向上して、より確実にプラグ形態を維持することができる。
【0048】
ここで、図5はX:Yを5:5としたときの多孔質プラグの写真であり、この写真から明らかなように、プラグ形態が維持されている。
【0049】
巻き芯中空部6の内部に、準備したプラグ用スラリー液を所定量巻き芯中空部6の両端側から注入して、乾燥させる。
【0050】
プラグ用スラリー液の注入、乾燥後、メタルハニカム体4を真空雰囲気下において、1200℃程度の温度で焼成する。メタルハニカム体4を焼成すると、溶融したロウ材によって、隣接する金属片31どうしがロウ付けされる。また、溶融したロウ材は巻き芯中空部6の内面にも付着するため、多孔質プラグ30を巻き芯中空部6の両端における配設予定位置に、ホールドすることができる。
なお、メタルハニカム体4及び外筒5の接合予定位置にロウ材を塗布しておくことによって、上述の焼成時にメタルハニカム体4及び外筒5を接合することができる。この際、予め塗布されたロウ材により、平箔2及び波箔3も接合される。
【0051】
次に、触媒の担持方法について、詳細に説明する。
多孔質プラグ30の配設後に、メタルハニカム体4に触媒を担持させる。触媒の担持方法には、例えば、浸漬法、吸引法を用いることができる。
浸漬法は、ウォッシュコート液に外筒5と接合されたメタルハニカム体4(以下、「ハニカムユニット」と言い換える場合がある)を浸漬させ、メタルハニカム体4を構成する金属箔に触媒を塗布する方法である。ウォッシュコート液には、例えば、γアルミナ粉末、ランタン酸化物、ジルコニウム酸化物、セリウム酸化物を硝酸パラジウムの水溶液内で撹拌したスラリー状の液体を用いることができる。
【0052】
ここで、本実施形態では、巻き芯中空部6の両端が多孔質プラグ30により塞がれているため、ハニカムユニットをウォッシュコート液に浸漬させたときに、ウォッシュコート液はメタルハニカム体4のガス導通路から流入し、巻き芯中空部6には流入しない。
ここで、巻き芯中空部6の一端側にだけ多孔質プラグ30を配設した場合には、巻き芯中空部6の他端側から触媒を含むウォッシュコート液が流入するため、余剰の触媒が巻き芯中空部6の内部に溜まるおそれがある。かかる問題を解消するためには、多孔質プラグ30にドリル等で貫通逃がし孔を空ける必要があるため、加工工程が増える。
【0053】
本実施形態によれば、巻き芯中空部6の両端が多孔質プラグ30によって閉塞されているため、ハニカムユニットをウォッシュコート液に浸漬させた際に、巻き芯中空部6の内側にウォッシュコート液が流入することを防止できる。これにより、触媒量が減るため、コストを削減することができる。また、多孔質プラグ30に貫通逃がし孔を形成する工程を省略することができる。
【0054】
吸引法では、触媒を含むウォッシュコート液を、メタルハニカム体4の軸方向から吸引し、メタルハニカム体4を構成する金属箔に触媒を塗布する方法である。吸引法においても、浸漬法で説明した通り、巻き芯中空部6の両端を多孔質プラグ30によって閉塞することにより、巻き芯中空部6の中にウォッシュコート液が流入することを防止できる。
ウォッシュコート液をメタルハニカム体4の金属箔に塗布した後、乾燥、焼成することによって、塗布した触媒を金属箔に担持させることができる。焼成条件は、セルの内径、メタルハニカム体4の軸方向長さ、ウォッシュコート液の種類などによって適宜設定され、例えば焼成温度は400~800℃、焼成時間は1~6時間に設定することができる。触媒の流入後に、乾燥及び焼成することによって、触媒を担持させることができる。
ここで、多孔質プラグ30の空隙率が70%以下に抑えられていれば、巻き芯中空部6に対するウォッシュコート液の流入を防止することができる。
【0055】
また、巻き芯中空部6の両端に多孔質プラグ30を配設した場合は、メタルハニカム体4の軸方向一端側を排ガス上流側に向けて配置してもよいし、軸方向他端側を排ガス上流側に向けて配置してもよい。
【0056】
(第2実施形態)
図6は、本実施形態の触媒コンバータにおける巻き芯中空部の断面図であり、多孔質プラグの配設位置を示している。本実施形態の多孔質プラグ30は、巻き芯中空部6の一端(好ましくは、ガス入側端部)のみに配設されており、巻き芯中空部6の両端に多孔質プラグ30を配設した第1実施形態と相違する。本実施形態の触媒コンバータは、多孔質プラグ30の配設位置以外の構成が第1実施形態の触媒コンバータと同じであるから、多孔質プラグ30についてだけ説明する。
【0057】
多数の金属片31とロウ材を適度な粘性をもつ液体中で混合したスラリー液を準備し、このスラリー液を巻き芯中空部6の一端に注入した後、乾燥及び焼成することによって、巻き芯中空部6の一端に多孔質プラグ30を配設することができる。
【0058】
多孔質プラグ30の空隙率は、7%以上85%以下が好ましい。かかる数値限定の理由は、第1実施形態と同様であるから、詳細な説明を省略する。巻き芯中空部6の直径をDと定義したとき、多孔質プラグ30の軸方向長さは、好ましくはD以上3D以下である。かかる数値限定の理由も、第1実施形態と同様であるから、詳細な説明を省略する。
【0059】
多孔質プラグ30の材料、金属片31の形状についても、第1実施形態と同様であるから、詳細な説明を省略する。
【0060】
ここで、ウォッシュコート液をメタルハニカム体4に塗布する際に、巻き芯中空部6にもウォッシュコート液が流入する。そこで、多孔質プラグ30に貫通逃がし孔を形成しておき、巻き芯中空部6に流入したウォッシュコート液を貫通逃がし孔から排出してもよい。これにより、巻き芯中空部6に、余剰の触媒が溜まることを防止できる。なお、貫通逃がし孔は、熱処理後の多孔質プラグ30にドリル等で穴をあけることにより形成してもよい。貫通逃がし孔については、特許文献2の段落0023などにも記載されているから、詳細な説明を省略する。なお、特許文献2の「貫通孔10」が、本明細書の「貫通逃がし孔」に相当する。
【0061】
第1実施形態では、巻き芯中空部6に対する触媒液の流入を防ぐために、好ましい条件として多孔質プラグ30の空隙率の上限を70%に設定したが、本実施形態では、多孔質プラグ30に貫通孔を形成することにより、巻き芯中空部6に流入したウォッシュコート液を排出しているから、多孔質プラグ30の空隙率は70%超であってもよい。
【0062】
多孔質プラグ30の製造に用いられるプラグ用スラリーの構成は、第1実施形態と同様であるから、詳細な説明を省略する。触媒の担持方法も、第1実施形態で説明したから詳細な説明を省略する。なお、多孔質プラグ30に予め貫通逃がし孔を形成しておき、巻き芯中空部6に流入したウォッシュコート液を貫通逃がし孔から排出してもよい。これにより、巻き芯中空部6に余剰の触媒が溜まることを、防止できる。
また、第2実施形態においても、メタルハニカム体4の多孔質プラグ30を配設された側を排ガス上流側に向けて配置してもよいし、されていない側を排ガス上流側に向けて配置してもよい。
【0063】
次に、実施例を示しながら、本発明について具体的に説明する。
(第1実施例)
金属片及びロウ材の配合比率が互いに異なる複数の試料を準備し、プラグの形態維持性、ライトオフ性能、触媒流入防止効果及び定常浄化性能を評価した。
波箔及び平箔を重ねた状態で巻き回し、巻き芯中空部を備えたメタルハニカム体を製造した。波箔及び平箔の金属箔(箔厚:50μm)には、Cr:20質量%、Al:5質量%、残部がFe及び不可避的不純物からなるフェライト系ステンレスを使用した。多数の貫通孔が形成された金属箔を使用した。貫通孔は、直径が0.9mmの円形とした。貫通孔の配置は、千鳥状とした。開口率は、40%とした。なお、開口率は、実施形態に記載に方法により算出した。またガス入側とガス出側の端部に5mm幅の非開口部を設けた。
メタルハニカム体の直径、長さ、セル密度及び巻き芯中空部の直径はそれぞれ、33mm、60mm、300cpsi及び5mmとした。波箔及び平箔の接合材(ロウ材)には、BNi-5(JISZ 3265参照)を使用した。触媒には、γアルミナ粉末、ランタン酸化物、ジルコニウム酸化物、セリウム酸化物を硝酸パラジウムの水溶液内で撹拌したスラリー状の液体を使用し、浸漬法により金属箔に塗布した。
【0064】
多孔質プラグに使用される金属片には、波箔及び平箔と同一組成の金属を使用した。ロウ材には、波箔及び平箔の接合に用いられたロウ材と同一組成のロウ材を使用した。金属片は、直径が0.9mm、厚みが0.05mmの円板形状とした。金属片及びロウ材を含むプラグ用スラリー液をメタルハニカム体の巻き芯中空部の両端から注入し、その後乾燥した。メタルハニカム体の外周面に、SUS436Lからなる厚さ1.5mm、長さ60mmの外筒を配設して、焼成することによって、軸方向長さが10mmの多孔質プラグを巻き芯中空部の両端に配設した。なお、上述の通り、巻き芯中空部の直径が5mmであるから、多孔質プラグの直径も5mmである。
【0065】
金属片及びロウ材の配合比率(X:Y)は、実施例1が5:5、実施例2が3:7、実施例3が4:6、実施例4が7:3、実施例5が9:1、比較例1が1:9、比較例2が9.5:0.5とした。
実施例1~5、比較例1はそれぞれ、3つの試料を準備し、空隙率を測定した。ただし、比較例1は、金属片の配合率が低すぎて、いずれの試料もプラグ形態にならなかったため、空隙率を測定しなかった。空隙率は、実施形態で記載したように、多孔質プラグのX線CT画像を10枚取得し、それぞれのX線CT画像を2値化して画像解析することによって求めた空隙率の平均値とした。なお、本実施例では、一端側に配設された多孔質プラグの空隙率だけを測定した。
【0066】
比較例3では、多孔質プラグに代えて緻密なプラグ(以下、Nプラグともいう)を配設した。Nプラグには、多孔質プラグの金属片と同じ材料を使用した。Nプラグの軸方向長さは、実施例の多孔質プラグと同様に、10mmとした。比較例4では、多孔質プラグもNプラグも配設しなかった。比較例5では、巻き芯中空部に延出した平箔及び波箔の重ね合わせ部分に円錐状の治具を押し込み拡開させることによって排ガスの流入を規制する規制部を設けた(つまり、特許文献3の中心形状加工)。
【0067】
プラグの形態維持性は、一端側に配設された多孔質プラグ30を上端面からロッドで押し込み、除荷した後のプラグ形状の変化により評価した。ロッドのサイズはφ4mmとし、ロッドの押し込み距離は20mmとし、ロッドの押し込み速度は1.0mm/secとした。ここで、多孔質プラグを構成する金属片がロウ材により強固に接合されている場合、多孔質プラグは、荷重を加えても変形せず元の形状を維持できる。その一方で金属片同士の接合が弱い多孔質プラグは、荷重により形状が変化する。形状変化は、多孔質プラグの封止範囲に影響する。金属片同士の接合が弱い場合、メタルハニカム体の使用時に多孔質プラグがバラバラになる。バラバラになると、巻き芯中空部に対するガスの流入を抑制する(言い換えると、ガス抜けを防止する)プラグ本来の機能が失われる。
【0068】
そこで、本実施例では、荷重試験後の形状が元の形状と変わらないものは、形態維持性が大変良好であるとしてAAAで評価し、軸方向の減少代が1mm以内のものは、形態維持性が良好であるとしてAAで評価し、減少代が1mmを超えるが、金属片同士の接合が確保され封止個所の封止ができていると評価できるものは、形態維持性がやや良好であるとしてAで評価し、形状変化が大きく、封止個所の封止が適切にできでいないと判断したものは、形態維持性が不良であるとしてBで評価した。
【0069】
メタルハニカム体を巻き芯中空部の配設位置で軸方向に沿って切断し、触媒の浸み込みの程度を目視で確認することによって、触媒流入防止効果を評価した。多孔質プラグ内に触媒が浸み込んでいない場合には、触媒流入防止効果が大変良好であるとしてAAAで評価した。多孔質プラグに対する触媒の浸み込みが途中で止まっている場合には、流入防止効果が良好であるとしてAAで評価した。試験した試料の中で一部の試料だけに巻き芯中空部に対する触媒の浸み込みが確認された場合には、触媒流入防止効果がやや良好であるとしてAで評価した。試験した試料の全ての試料において、巻き芯中空部に対する触媒の浸み込みが確認された場合には、触媒流入防止効果が不良であるとしてBで評価した。
【0070】
ライトオフ性能は、SV(空間速度):100,000h-1の条件にて模擬ガスをメタルハニカム体に流し、ガス温度を常温から徐々に昇温して、各温度におけるHC転化率(%)を測定するとともに、転化率-温度曲線から転化率が50%に到達したときの時間(τ50)により評価した。τ50が9秒以下をAAA、11秒以下をAA、13秒以下をA、13秒を超えた場合をBとして評価した。また、転化率-温度曲線から転化率が80%に到達したときの温度(T80)により、T80が230℃以下の場合をAA、240℃以下をA,240℃超をBとして定常浄化性能を評価した。模擬ガスには、HC(プロパン、C):550ppm(1650ppmC)、NO:500ppm、CO:0.5%、O:1.5%、HO:10%、残部がNの模擬ガス(ディーゼル排ガスの模擬ガス)を使用した。
【表1】
【0071】
実施例1~5は、規制手段として中心形状加工を採用した比較例5よりも、プラグの形態維持性が向上した。比較例2は、ロウ材が過少であるため、プラグの形態維持性の評価がBであった。また、X:Yを7:3以下、換言すると、X/Yを7/3以下に設定することによって、所望の接合強度が得られ、プラグの形態維持性が高められることがわかった。実施例1~5は、Nプラグを採用した比較例3よりも、ライトオフ性能が向上した。X:Yを4:6以上、換言すると、X/Yを4/6以上に設定することによって、多孔質プラグ30の空隙率が高まり、ライトオフ性能が更に向上することがわかった。
X:Yを7:3以下、換言すると、X/Yを7/3以下に設定することによって、触媒流入防止効果が得られることがわかった。
また、実施例1~5は、比較例4よりも定常浄化性能が優れており、プラグ本来の目的(巻き芯中空部に対する排ガス流入規制を行い、浄化性能を向上させる)も維持できていた。
【0072】
(第2実施例)
軸方向長さが10mmの多孔質プラグを巻き芯中空部の一端側(ガス入側)だけに配設して、第1実施例と同様に、プラグ形態維持性、ライトオフ性能及び定常浄化性能を評価した。評価方法は、第1実施例と同じにした。なお、触媒の流入防止効果については、評価しなかった。多孔質プラグ以外の条件は、第1実施例と同じにした。
ただし、比較例7では、貫通孔のない金属箔を使用し、かつ、巻き芯中空部を封止しなかった。
【0073】
金属片及びロウ材の配合比率(X:Y)は、実施例6が5:5、実施例7が3:7、実施例8が4:6、実施例9が7:3、実施例10が9:1とした。
【0074】
比較例6では、比較例3のNプラグを巻き芯中空部の一端側(ガス入側)だけに配設した。
【表2】
【0075】
実施例6~10は、規制手段として中心形状加工を採用した比較例5(表1参照)よりも、プラグの形態維持性が向上した。また、X:Yを7:3以下、換言すると、X/Yを7/3以下に設定することによって、所望の接合強度が得られ、プラグの形態維持性が高められることがわかった。実施例6~10は、Nプラグを採用した比較例6よりも、ライトオフ性能が向上した。X:Yを4:6以上、換言すると、X/Yを4/6以上に設定することによって、多孔質プラグ30の空隙率が高まり、ライトオフ性能が更に向上することがわかった。
また、実施例6~10は、比較例4(表1参照)よりも定常浄化性能が優れており、プラグ本来の目的(巻き芯中空部に対する排ガス流入規制を行い、浄化性能を向上させる)も維持できていた。
さらに、実施例6~10は、比較例7(貫通孔無、封止無)よりも定常浄化性能が優れており、ライトオフ性能も同等以上であった。したがって、金属箔に多数の貫通孔を形成することにより懸念される課題(巻き芯中空部にガスが集中することによる定常浄化性能の低下)を、多孔質プラグによって解決できることがわかった。また、巻き芯中空部にプラグを配設することにより懸念される課題(ライトオフ性能の低下)を、プラグ形態を多孔質とすることによって解決できることがわかった。
【0076】
本発明者等は、金属箔の貫通孔の直径を8mmとしたメタルハニカム体の軸芯中空部に実施例8の多孔質プラグを配設するとともに、開口率を変化させながら、定常浄化性能を調べる試験も別途行った。開口率が20%、30%、40%、50%、60%いずれの場合においても、定常浄化性能の評価はA又はAAであった。
また、開口率を20%としたメタルハニカム体の軸芯中空部に実施例8の多孔質プラグを配設するとともに、貫通孔の直径を変化させながら、定常浄化性能を調べる試験も別途行った。貫通孔の直径が0.5mm、2mm、4mmいずれの場合においても、定常浄化性能の評価はAAであった。
【0077】
(変形例)
上述の実施形態では、多孔質プラグ30の製造原料として金属片31及びロウ材を使用したが、本発明はこれに限るものではなく、ロウ材に代えて、無機接着剤を用いることもできる。この場合、隣接する金属片31を無機接着剤で接着した多孔質プラグ30を予め準備しておき、この多孔質プラグ30を巻き芯中空部6の両端に配設して、無機接着剤で巻き芯中空部6の内面に接着すればよい。無機接着剤には、例えば、主成分にアルミナを含む無機接着剤(例えば、東亜合成株式会社製のアロンセラミックD)を用いることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 触媒コンバータ
2 平箔
3 波箔
4 メタルハニカム体
4a 貫通孔
5 外筒
6 巻き芯中空部
30 多孔質プラグ
31 金属片

図1
図2
図3
図4
図5
図6