(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133978
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240926BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240926BHJP
C12M 1/04 20060101ALI20240926BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12M1/00 E
C12M1/04
C12N1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044027
(22)【出願日】2023-03-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム「低CO2と低環境負荷を実現する微細藻バイオリファイナリーの創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】安保 貴永
(72)【発明者】
【氏名】中原 禎仁
(72)【発明者】
【氏名】山村 寛
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB04
4B029DB16
4B029DF04
4B065AA83X
4B065BC07
4B065BC14
(57)【要約】
【課題】微細藻類を肥大化できる微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置の提供。
【解決手段】本発明の微細藻類の培養方法は、微細藻類と溶存酸素とを含む培養液Sに、二酸化炭素を含むガス(G1)を供給するガス供給工程と、前記培養液S中の溶存酸素濃度が15mg/L以上を維持するように溶存酸素濃度を制御する制御工程とを有する。本発明の微細藻類の培養装置1は、微細藻類と溶存酸素とを含む培養液Sを収容する培養槽10と、前記培養液Sに、二酸化炭素を含むガス(G1)を供給するガス供給手段20と、前記培養液S中の溶存酸素濃度が15mg/L以上を維持するように溶存酸素濃度を制御する制御手段30とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類と溶存酸素とを含む培養液に、二酸化炭素を含むガス(G1)を供給するガス供給工程と、
前記培養液中の溶存酸素濃度が15mg/L以上を維持するように溶存酸素濃度を制御する制御工程と、を有する、微細藻類の培養方法。
【請求項2】
前記ガス供給工程では、前記培養液に浸漬された、二酸化炭素を透過する非多孔質膜にガス供給配管から前記ガス(G1)を供給し、前記非多孔質膜を透過した前記二酸化炭素を前記培養液に溶解させて供給する、請求項1に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項3】
前記非多孔質膜は、ガス選択透過性を有する三層複合膜である、請求項2に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項4】
前記制御工程では、前記培養液中の溶存酸素濃度を測定し、前記溶存酸素濃度の測定結果に基づき、前記ガス供給工程における前記培養液への前記ガス(G1)の供給量を調節する、請求項2又は3に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項5】
前記ガス(G1)の供給量は、前記ガス供給配管に設けられた開閉機構で調節する、請求項4に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項6】
前記微細藻類は、ユーグレナ属、コッコミクサ属、ナンノクロロプシス属又はマイクロクロロプシス属に属する微細藻類を1種以上含む、請求項1又は2に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項7】
微細藻類と溶存酸素とを含む培養液を収容する培養槽と、
前記培養液に、二酸化炭素を含むガス(G1)を供給するガス供給手段と、
前記培養液中の溶存酸素濃度が15mg/L以上を維持するように溶存酸素濃度を制御する制御手段と、を備える、微細藻類の培養装置。
【請求項8】
前記ガス供給手段は、前記培養液に浸漬された、二酸化炭素を透過する非多孔質膜と、前記非多孔質膜に前記ガス(G1)を供給するガス供給配管とを有し、前記非多孔質膜を透過した前記二酸化炭素を前記培養液に溶解させて供給する、請求項7に記載の微細藻類の培養装置。
【請求項9】
前記非多孔質膜を透過しないガス(G2)を前記非多孔質膜から排出する排出手段をさらに有する、請求項8に記載の微細藻類の培養装置。
【請求項10】
前記非多孔質膜は、ガス選択透過性を有する三層複合膜である、請求項8又は9に記載の微細藻類の培養装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記培養液中の溶存酸素濃度を測定する測定手段と、前記溶存酸素濃度の測定結果に基づき、前記ガス供給手段における前記培養液への前記ガス(G1)の供給量を調節する調節手段とを有する、請求項8又は9に記載の微細藻類の培養装置。
【請求項12】
前記調節手段が、前記ガス供給配管に設けられた開閉機構である、請求項11に記載の微細藻類の培養装置。
【請求項13】
前記微細藻類は、ユーグレナ属、コッコミクサ属、ナンノクロロプシス属又はマイクロクロロプシス属に属する微細藻類を1種以上含む、請求項7又は8に記載の微細藻類の培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類は他の植物に比べて増殖速度が速く、生物体全体を利用できることから、近年、CO2の固定や有用物質の生産等の分野で注目されている。具体的に、光エネルギーにより二酸化炭素を固定化し、バイオ燃料に変換する能力を有する微細藻類の利用に対する期待が高まっており、微細藻類の培養について様々な研究が行われている。
例えば特許文献1には、液面浮遊培養法により実用的な規模で微細藻類の培養を行った後、培養した微細藻類を回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に微細藻類は単細胞生物であり、体長が1mmにも満たない微小な生物である。特許文献1に記載された培養方法では、微細藻類を十分に肥大化できない。体長が小さいものほど沈降しにくく、また、圧密化によりろ過しにくくなるため、微細藻類の回収が困難となり、回収率が低くなる。
本発明は、微細藻類を肥大化できる微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、二酸化炭素を培養液に供給して微細藻類を培養するに際して、ストレス環境下、具体的には溶存酸素を高濃度で含む培養液中で微細藻類を培養することで、微細藻類が肥大化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は下記の態様を有する。
[1] 微細藻類と溶存酸素とを含む培養液に、二酸化炭素を含むガス(G1)を供給するガス供給工程と、
前記培養液中の溶存酸素濃度が15mg/L以上を維持するように溶存酸素濃度を制御する制御工程と、を有する、微細藻類の培養方法。
[2] 前記ガス供給工程では、前記培養液に浸漬された、二酸化炭素を透過する非多孔質膜にガス供給配管から前記ガス(G1)を供給し、前記非多孔質膜を透過した前記二酸化炭素を前記培養液に溶解させて供給する、前記[1]の微細藻類の培養方法。
[3] 前記非多孔質膜は、ガス選択透過性を有する三層複合膜である、前記[2]の微細藻類の培養方法。
[4] 前記制御工程では、前記培養液中の溶存酸素濃度を測定し、前記溶存酸素濃度の測定結果に基づき、前記ガス供給工程における前記培養液への前記ガス(G1)の供給量を調節する、前記[2]又は[3]の微細藻類の培養方法。
[5] 前記ガス(G1)の供給量は、前記ガス供給配管に設けられた開閉機構で調節する、前記[4]の微細藻類の培養方法。
[6] 前記微細藻類は、ユーグレナ属、コッコミクサ属、ナンノクロロプシス属又はマイクロクロロプシス属に属する微細藻類を1種以上含む、前記[1]~[5]のいずれかの微細藻類の培養方法。
【0007】
[7] 微細藻類と溶存酸素とを含む培養液を収容する培養槽と、
前記培養液に、二酸化炭素を含むガス(G1)を供給するガス供給手段と、
前記培養液中の溶存酸素濃度が15mg/L以上を維持するように溶存酸素濃度を制御する制御手段と、を備える、微細藻類の培養装置。
[8] 前記ガス供給手段は、前記培養液に浸漬された、二酸化炭素を透過する非多孔質膜と、前記非多孔質膜に前記ガス(G1)を供給するガス供給配管とを有し、前記非多孔質膜を透過した前記二酸化炭素を前記培養液に溶解させて供給する、前記[7]の微細藻類の培養装置。
[9] 前記非多孔質膜を透過しないガス(G2)を前記非多孔質膜から排出する排出手段をさらに有する、前記[8]の微細藻類の培養装置。
[10] 前記非多孔質膜は、ガス選択透過性を有する三層複合膜である、前記[8]又は[9]の微細藻類の培養装置。
[11] 前記制御手段は、前記培養液中の溶存酸素濃度を測定する測定手段と、前記溶存酸素濃度の測定結果に基づき、前記ガス供給手段における前記培養液への前記ガス(G1)の供給量を調節する調節手段とを有する、前記[8]~[10]のいずれかの微細藻類の培養装置。
[12] 前記調節手段が、前記ガス供給配管に設けられた開閉機構である、前記[11]の微細藻類の培養装置。
[13] 前記微細藻類は、ユーグレナ属、コッコミクサ属、ナンノクロロプシス属又はマイクロクロロプシス属に属する微細藻類を1種以上含む、前記[7]~[12]のいずれかの微細藻類の培養装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微細藻類を肥大化できる微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の微細藻類の培養装置の一例を模式的に示す概略構成図である。
【
図2】実施例1における粒度分布の結果を示すグラフである。
【
図3】比較例1における粒度分布の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置の一実施形態を挙げ、
図1を適宜参照しながら詳述する。
なお、以下の説明で用いる各図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0011】
本発明において、微細藻類とは、光合成機能を有する単細胞生物であり、体長(細胞の長径)が100μm以下のものをいう。
本発明で培養される微細藻類としては特に制限されないが、例えばユーグレナ属、コッコミクサ属、ナンノクロロプシス属、マイクロクロロプシス属、藍藻類、原核緑藻類、紅藻類、灰色藻類、クリプト藻類、渦鞭毛藻類、黄金色藻類、珪藻類、褐藻類、黄緑藻類、ハプト藻類、ラフィド藻類(緑色鞭藻類)、クロララクニオン藻類、ミドリムシ藻類(ユーグレナ)、プラシノ藻類、緑藻類、車軸藻類が挙げられる。これらの中でも、多くの栄養素を含み、食品、化粧品等に好適に利用できる観点から、ユーグレナ属、コッコミクサ属、ナンノクロロプシス属、マイクロクロロプシス属が好ましい。
【0012】
[微細藻類の培養装置]
図1に、本発明の微細藻類の培養装置の一例を示す。
図1に示す微細藻類の培養装置1は、培養槽10と、ガス供給手段20と、制御手段30と、排出手段40と、循環手段50とを備える。
【0013】
培養槽10は、微細藻類と溶存酸素とを含む培養液Sを収容する槽である。
培養槽10としては、微細藻類の培養を閉鎖系で行う場合は閉鎖系の培養槽を用い、微細藻類の培養を開放系で行う場合は開放系の培養槽を用いればよい。
ここで、「閉鎖系」とは、培養槽内の環境が培養槽の外の環境と遮断されていることを意味する。培養液Sに供給された二酸化炭素が水面から気相へ放出されにくい点、培養槽の外の環境に微細藻類の培養が影響を受けにくい点、ゴミ等の異物混入を防止できる点では、閉鎖系の培養槽が好ましい。
【0014】
閉鎖系の培養槽としては、例えばフォトバイオリアクター型水槽が挙げられる。フォトバイオリアクター型水槽には、半密閉水槽と、密閉水槽があり、具体的には平板型水槽、チューブ型水槽、太陽光集光型水槽、内部照射型水槽が挙げられる。
開放系の培養槽としては、例えばオープンポンド型水槽が挙げられる。オープンポンド型水槽としては、具体的にはレースウェイ型水槽が挙げられる。また、培養槽10に代えて、池等で微細藻類の培養を行ってもよい。
また、培養槽10として、微細藻類の培養を開放系と密閉系の両方で行うことができる、ハイブリッド水槽を用いてもよい。
【0015】
培養槽10に収容される培養液Sとしては、培養する微細藻類の種類に応じて適宜、決定すればよい。
【0016】
ガス供給手段20は、培養液Sに二酸化炭素を含むガス(G1)を供給する手段である。
ガス(G1)としては、二酸化炭素を99.9体積%以上含む高純度ガス(高純度二酸化炭素ガス)、二酸化炭素と二酸化炭素以外のガス(以下、「他のガス」ともいう。)とを含む混合ガス等が挙げられる。
他のガスとしては、酸素、窒素、水素、亜硫酸ガス、亜硝酸ガス、硝酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
混合ガスとして、石炭火力発電所、ごみ焼却場、セメント工場、製鉄所等の化石燃料を使用する施設等から排出される排ガスを用いてもよい。排ガスを用いれば、温室効果ガスの排出を軽減できる。
【0017】
この例のガス供給手段20は、二酸化炭素を透過する非多孔質膜(図示略)を備えた膜モジュール21と、非多孔質膜にガス(G1)を供給するガス供給配管22とを有する。
この例のガス供給手段20では、非多孔質膜を透過した二酸化炭素を培養液Sに溶解させて供給する。
【0018】
非多孔質膜は、膜モジュール21の状態で培養液Sに浸漬している。
膜モジュール21の形態としては特に制限されないが、例えば、複数の非多孔質膜同士が一定間隔離れて配置されたシート状物と、このシート状物を支持する一対のハウジングとを備えたものが挙げられる。なお、非多孔質膜が複数束ねられて非多孔質膜束を形成し、複数の非多孔質膜束同士が一定間隔離れて配置されてシート状物を形成していてもよい。
【0019】
非多孔質膜は、ガス(G1)から二酸化炭素を分離しつつ、ガス(G1)から分離した二酸化炭素を培養液S中に溶存させつつ供給するものである。
非多孔質膜としては、二酸化炭素を透過できるものであれば特に制限されない。また、高分子膜であってもよいし、セラミックス、金属等の無機系材料からなる膜であってもよいが、加工性とコストの観点で高分子膜が好ましく、高分子材料、例えばポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂及びシリコーン系樹脂から選ばれる1種以上を含む材料からなる高分子膜がより好ましい。
非多孔質膜には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、難燃化剤等の添加物が添加されていてもよい。
【0020】
非多孔質膜の平均膜厚は、0.5~1.3μmが好ましく、0.7~1.2μmがより好ましい。
なお、本明細書において「平均膜厚」とは、非多孔質膜等の測定サンプルの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、この画像を解析して測定サンプルの膜厚を複数箇所(5箇所以上)で測定し、その平均値を求めたものである。
【0021】
非多孔質膜の形態としては特に制限されず、中空糸膜、平膜等、用途に応じた形状とすることができる。中でも、高比表面積を有する中空糸膜が好ましい。
また、非多孔質膜は、単層構造であってもよいし、複層構造であってもよい。複層構造の具体例としては、多孔質である支持層(多孔質層)と非多孔質である均質層(非多孔質層)を有する複合膜が挙げられる。この複合膜は、均質層と支持層との二層複合膜でもよく、均質層が2つの支持層で挟まれた三層複合膜でもよい。また、均質層及び支持層の数は前記のものには限定されず、それらの合計が4層以上の複合膜であってもよい。
非多孔質膜としては、ガス選択透過性を有する、具体的には二酸化炭素を透過する三層複合膜が好ましい。
【0022】
均質層は、非多孔質であり、二酸化炭素を透過する層である。
均質層を構成するポリマーとしては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン重合体等をハードセグメントとし、ブタジエン重合体、エチレン-ブチレン共重合体、イソプレン重合体又はエチレン-プロピレン共重合体等をソフトセグメントとするブロック共重合体;スチレンと、ブタジエン、エチレン-ブチレン、イソプレン又はエチレン-プロピレンとのランダム共重合体が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンのみを用いて得られるポリマーでもよく、オレフィンと他のモノマーとのコポリマーでもよい。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン等が挙げられる。
均質層を構成するポリマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂とをブレンドした重合体が好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂との質量比は、スチレン系熱可塑性エラストマー:ポリオレフィン系樹脂=5:95~99:1が好ましく、50:50~99:1がより好ましく、70:30~95:5がさらに好ましい。
【0023】
均質層には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、難燃化剤等の添加物が添加されていてもよい。
均質層の平均膜厚は、0.5~1.3μmが好ましく、0.7~1.2μmがより好ましい。
【0024】
支持層は、多孔質であり、均質層を支持する層であり、かつ、二酸化炭素を透過する層である。
支持層を構成するポリマーとしては、例えばポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンのみを用いて得られるポリマーでもよく、オレフィンと他のモノマーとのコポリマーでもよい。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、高密度ポリエチレン、高立体規則性ポリプロピレンが挙げられる。
【0025】
支持層には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、難燃化剤等の添加物が添加されていてもよい。
支持層の平均膜厚は、10~200μmが好ましく、15~100μmがより好ましい。
支持層の空孔率は、支持層全体(100体積%)に対して、30~80体積%が好ましく、20~60体積%がより好ましい。
支持層の細孔の大きさは特に限定されず、十分な二酸化炭素の透過性と機械的強度が満足される大きさであればよい。
【0026】
ガス供給配管22は、非多孔質膜にガス(G1)を供給する配管である。
ガス供給配管22は、膜モジュール21の一方のハウジング(図示略)に接続されている。ガス(G1)はハウジングを介して非多孔質膜に供給される。ガス(G1)に含まれる二酸化炭素は、非多孔質膜にてガス(G1)から分離され、非多孔質膜を透過して培養液S中に拡散される。非多孔質膜は培養槽10に収容された培養液Sに浸漬しているので、非多孔質膜を透過した二酸化炭素は直接、培養液S中に拡散される。その際、気泡が発生しにくいので、気体状の二酸化炭素が培養液Sに溶解しやすい。すなわち、二酸化炭素は溶存二酸化炭素として培養液Sに供給される。
【0027】
制御手段30は、培養液S中の溶存酸素濃度が15mg/L以上を維持するように溶存酸素濃度を制御する手段である。
この例の制御手段30は、培養液S中の溶存酸素濃度を測定する測定手段31と、溶存酸素濃度の測定結果に基づき、ガス供給手段20における培養液Sへのガス(G1)の供給量を調節する調節手段32とを有する。
なお、本明細書において、ガス(G1)の供給量を調節する調節手段32を「第一の調節手段」ともいう。
【0028】
測定手段31としては、培養液S中の溶存酸素濃度を測定できるものであれば特に限定されないが、例えば溶存酸素計(DO計)が挙げられる。
調節手段32としては、例えばガス供給配管22に設けられた、配管の開閉を行う開閉機構が挙げられる。開閉機構としては、例えば電磁弁、電動弁、エアー駆動弁、手動弁等の弁が挙げられる。
【0029】
排出手段40は、非多孔質膜に供給されたガス(G1)のうち、ガス(G1)から分離されない、すなわち、非多孔質膜を透過しないガス(G2)を非多孔質膜から排出する手段である。
ガス(G1)が混合ガスの場合、ガス(G2)としては、例えば窒素、酸素が挙げられる。
また、高純度ガスや混合ガスに不純物が含まれている場合、不純物もガス(G2)と共に非多孔質膜から排出される。
さらに、非多孔質膜に供給されるガス(G1)に含まれる水分が、非多孔質膜中で凝縮した凝縮水もガス(G2)と共に非多孔質膜から排出される。
【0030】
排出手段40は、ガス排出配管41を備える。
ガス排出配管41は、非多孔質膜からガス(G2)を排出する配管である。
ガス排出配管41は、膜モジュール21の他方のハウジング(図示略)に接続されている。ガス(G2)はハウジングを介して非多孔質膜から排出される。
ガス排出配管41には、配管の開閉によりガス(G2)の排出量を調節する調節手段42が設けられていてもよい。調節手段42としては、例えば、配管の開閉を行う開閉機構が挙げられ、具体的には、電磁弁、電動弁、エアー駆動弁、手動弁等の弁が挙げられる。
なお、本明細書において、ガス(G2)の排出量を調節する調節手段42を「第二の調節手段」ともいう。
【0031】
循環手段50は、培養液Sの一部を培養槽10から抜き出し、抜き出した培養液Sを再度、培養槽10へ供給する手段である。
循環手段50により、培養槽10中の培養液Sが循環する。培養液Sが循環する際に生じる水流により、培養液Sは撹拌される。培養液Sを循環させて撹拌する方法は、外部から力を加えて培養液Sを撹拌する方法、例えば撹拌翼を用いて培養液Sを撹拌する方法に比べて、培養液S中の溶存酸素が大気へ拡散されるのを抑制できる。
【0032】
循環手段50は、循環配管51と、ポンプ52とを備える。
循環配管51は、培養液Sを循環させる配管である。
この例の循環配管51は、一端が培養槽10の壁に設けられた排出口11に接続され、他端が培養槽10の壁に設けられた供給口12に接続されており、培養液Sは排出口11から供給口12まで循環する。
ポンプ52は、循環配管51の途中に設けられている。
【0033】
[微細藻類の培養方法]
以下、本発明の第一の態様の微細藻類の培養方法の一例について説明する。なお、以下に説明する微細藻類の培養方法は、
図1に示す微細藻類の培養装置1を用いた微細藻類の培養方法の一例である。
本実施形態の微細藻類の培養方法は、以下に示すガス供給工程と、制御工程と、ガス排出工程と、循環工程とを有する。
【0034】
ガス供給工程は、微細藻類と溶存酸素とを含む培養液Sに、二酸化炭素を含むガス(G1)を供給する工程である。
ガス供給工程では、培養液Sに浸漬された、膜モジュール21に備わる非多孔質膜にガス供給配管22から前記ガス(G1)を供給し、非多孔質膜を透過した二酸化炭素を培養液Sに溶解させて供給することが好ましい。非多孔質膜は培養槽10に収容された培養液Sに浸漬しているので、非多孔質膜を透過した二酸化炭素は直接、培養液S中に拡散される。その際、気泡が発生しにくいので、気体状の二酸化炭素が培養液Sに溶解しやすい。加えて、気泡が発生しにくいので、培養液S中の溶存酸素が大気へ拡散されるのを抑制でき、培養液S中の溶存酸素濃度を一定以上に維持しやすい。
【0035】
制御工程は、培養液S中の溶存酸素濃度が15mg/L以上を維持するように溶存酸素濃度を制御する工程である。
培養液S中の溶存酸素濃度は、18mg/L以上が好ましく、20mg/L以上がより好ましい。また、培養液S中の溶存酸素濃度は、35mg/L以下が好ましく、30mg/L以下がより好ましく、25mg/L以下がさらに好ましい。培養液S中の溶存酸素濃度が上記下限値以上であれば、溶存酸素を高濃度で含む培養液中で微細藻類を培養することになる。溶存酸素を高濃度で含む培養液中での培養は、微細藻類にとってストレス(酸化ストレス)であり、ストレスを与えられた微細藻類は肥大化する。培養液S中の溶存酸素濃度が上記上限値以下であれば、飽和溶存酸素濃度以下であるため、培養液S中の溶存酸素濃度を制御しやすい。
【0036】
制御工程では、測定手段31にて培養液S中の溶存酸素濃度を測定し、溶存酸素濃度の測定結果に基づき、調節手段32である、ガス供給配管22に設けられた開閉機構にて、ガス供給工程における培養液Sへのガス(G1)の供給量を調節することが好ましい。
具体的には、測定手段31にて測定した培養液S中の溶存酸素濃度が15mg/L未満であれば、調節手段32により培養液Sへのガス(G1)の供給量を減らす。ガス(G1)の供給量を減らすことで、培養液S中の溶存酸素の大気拡散を抑制できる。一方、測定手段31にて測定した培養液S中の溶存酸素濃度が高すぎる場合、例えば上述した上限値を超えるような場合は、調節手段32により培養液Sへのガス(G1)の供給量を増やす。ガス(G1)の供給量を増やすことで、培養液S中の溶存酸素の大気拡散が促進され、溶存酸素濃度の上昇を抑制できる。なお、ガス(G1)の供給量の増加に伴い光合成が促進されて溶存酸素濃度が高まったとしても、過飽和となるため、培養液S中の溶存酸素は大気へ拡散される。
【0037】
ガス排出工程は、非多孔質膜を透過しないガス(G2)を非多孔質膜から排出する工程である。
高純度ガスや混合ガスに不純物が含まれている場合、不純物もガス(G2)と共に非多孔質膜から排出される。
また、非多孔質膜に供給されるガス(G1)に含まれる水分が、非多孔質膜中で凝縮した凝縮水もガス(G2)と共に非多孔質膜から排出される。
これらガス(G2)、不純物、凝縮水は、排出手段40のガス排出配管41を通過して培養槽10の系外へと排出される。このとき、調節手段42によりガス(G2)等の排出量を調節してもよい。
【0038】
循環工程は、培養液Sの一部を培養槽10から抜き出し、抜き出した培養液Sを再度、培養槽10へ供給する工程である。
循環工程では、ポンプ52を稼働させて、培養槽10の壁に設けられた排出口11から培養液Sの一部を抜き出し、抜き出した培養液Sを再度、培養槽10へ供給し、培養液Sを循環させる。培養液Sが循環する際に生じる水流により、培養液Sは撹拌される。培養液Sが撹拌されることで、培養液Sに供給された二酸化炭素を培養液S中により均一に行きわたらせることができる。
【0039】
上述した制御工程において、培養液S中の溶存酸素濃度を測定する際には、循環工程を行うことが好ましい。すなわち、培養液Sを循環させながら、培養液S中の溶存酸素濃度を測定することが好ましい。培養液Sを循環させながら、培養液S中の溶存酸素濃度を測定することで、培養液S中の溶存酸素濃度が均一化されるので、より正確に溶存酸素濃度を測定できる。
【0040】
微細藻類の培養は、閉鎖系で行ってもよいし、開放系で行ってもよい。培養液Sに供給された二酸化炭素が水面から気相へ放出されにくい点、培養槽10の外の環境に微細藻類の培養が影響を受けにくい点、ゴミ等の異物混入を防止できる点では、微細藻類の培養を閉鎖系で行うことが好ましい。
培養温度は4~40℃が好ましく、15~35℃がより好ましい。
微細藻類に照射する光は太陽光でもよいし、人工光でもよいし、これらを併用してもよい。
【0041】
[作用効果]
以上説明した、本発明の微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置では、ストレス環境下である、溶存酸素を高濃度で含む培養液中で微細藻類を培養するので、微細藻類を肥大化できる。よって、培養後の微細藻類を高い回収率で容易に回収できる。
本発明により培養された微細藻類は、例えば食品、化粧品、バイオ燃料等に利用される。
【0042】
なお、本発明の微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置は、上述した実施形態に限定されない。
図示例の微細藻類の培養装置1は、1つの培養槽10を備えているが、複数の培養槽を設置して微細藻類を同時に培養してもよい。
複数の培養槽を設置する場合、各培養槽では、同じ種類の微細藻類を培養してもよいし、異なる種類の微細藻類を培養してもよい。また、少なくとも1つの培養槽では培養を閉鎖系で行い、残りの培養槽では培養を開放系で行ってもよい。
また、図示例の微細藻類の培養装置1では、1つの培養槽10に、1つの膜モジュール21が浸漬しているが、培養槽10の大きさに応じて、複数の膜モジュール21を浸漬させてもよい。
【0043】
また、上述した実施形態では、非多孔質膜を用いて培養液Sに二酸化炭素を供給しているが、二酸化炭素を曝気して培養液Sへ供給してもよい。曝気に用いる二酸化炭素は、高純度ガスが好ましい。曝気により培養液Sへ二酸化炭素を供給する場合は、培養液S中の溶存酸素が大気へ拡散しない程度の曝気量とすることが好ましい。
さらに、加圧溶解による方法で気体状の二酸化炭素を培養液Sに溶解させてもよい。具体的には、培養槽10の気相部に二酸化炭素を充填して培養槽10を密閉し、培養槽10内を加圧することで気体状の二酸化炭素を培養液Sに溶解させてもよい。
【0044】
また、ガス(G1)として高純度ガスを用いる場合等、非多孔質膜を透過しないガス(G2)が殆ど生じない場合は、微細藻類の培養装置1は排出手段40を有していなくてもよい。
【0045】
また、上述した実施形態では、循環手段50を用いて培養液Sを循環させ、そのときに発生する水流で培養液Sを撹拌しているが、培養液Sに刺激を与えにくく、培養液S中の溶存二酸化炭素及び溶存酸素が大気へ拡散しにくい程度であれば、循環手段50に代えてスターラー等の撹拌手段を用いて培養液Sを撹拌してもよい。
【0046】
さらに、微細藻類の培養装置は、培養液へ照射される光の光合成光量子束密度を制御する光照射制御手段を備えていてもよい。光照射制御手段としては、寒冷紗、遮光ネット、遮光フィルム;太陽光を効率的に集める装置(太陽光採光装置)等が挙げられる。
また、微細藻類の培養装置は、培養液のpHを測定するpH計をさらに備えていてもよい。
また、微細藻類の培養装置は、培養液へ酸素を含むガス(G3)を供給する曝気手段を備えていてもよい。ガス(G3)としては、空気、酸素を99.9体積%以上含む高純度ガス(高純度酸素ガス)等が挙げられる。曝気により培養液へガス(G3)を供給する場合は、培養液中の溶存二酸化炭素及び溶存酸素が大気へ拡散しない程度の曝気量とすることが好ましい。
【実施例0047】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0048】
[実施例1]
図1に示す微細藻類の培養装置1を用意した。ただし、循環手段50の代わりに、培養液Sを撹拌するスターラーを用いた。
培養槽10としては、密閉水槽を用いた。
膜モジュール21としては、非多孔質膜として三層複合膜(三菱ケミカル株式会社製、製品名「三層複合中空糸膜」)を備えたものを用いた。
光源としては、LEDを用いた。
培養液Sとしては、表1に示すCM培地(Cramer and Myers培地)を用いた。
【0049】
【0050】
培養槽10に培養液Sを収容し、以下のようにして微細藻類(Euglena gracilis)を培養した。
ガス供給手段20により、ガス(G1)として高純度二酸化炭素ガスを膜モジュール21の非多孔質膜に供給した。このとき、培養液S中の溶存酸素濃度が20mg/L以上を維持するように溶存酸素濃度を制御した。具体的には、測定手段31にて培養液S中の溶存酸素濃度を測定し、溶存酸素濃度が20mg/L以上となるように、調節手段32である、ガス供給配管22に設けられた開閉機構にて培養液Sへのガス(G1)の供給量を調節した。より具体的には、培養液S中の溶存二酸化炭素の濃度が30mg/Lとなるように、ガス(G1)を供給した。
非多孔質膜を透過しなかったガス(G2)は、排出手段40より非多孔質膜から排出した。
なお、培養中は、光合成光量子束密度(PPFD)が850μmol/m2/秒となるように、培養液SにLEDの光を照射した。また、培養液Sの温度は29℃、pHは3.5に調整した。また、培養液Sをスターラーで撹拌した。
培養中の培養液S中の溶存酸素濃度は20mg/L以上を維持し、かつ平均溶存酸素濃度は24mg/Lであった。
【0051】
培養開始前を培養0日目とし、培養開始前の微細藻類の粒度分布を測定した。また、培養1日目、3日目、6日目、11日目について、培養液Sの一部を採取し、微細藻類の粒度分布をそれぞれ測定した。結果を
図2に示す。
なお、微細藻類の粒度分布は、粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、「精密粒度分布測定装置Multisizer 4e」)を用い、サンプル100倍希釈、50μmアパチャー、1μm~30μmの粒子径範囲、測定時間10秒、一回の分析量20μLの条件で測定した。
【0052】
図2に示すように、培養液中の溶存酸素濃度が15mg/L以上を維持するように溶存酸素濃度を制御して微細藻類を培養した実施例1の場合、粒度分布は培養日数と共に粒子直径が大きい方にシフトした。これは、培養期間が長くなるに連れて微細藻類が肥大化したことを意味する。
このように、実施例1の場合、培養期間中に微細藻類を肥大化ができた。
【0053】
[比較例1]
培養中の培養液S中の溶存酸素濃度が10~14mg/Lであり、かつ平均溶存酸素濃度が13mg/Lとなるように、培養液Sへのガス(G1)の供給量を調節した。具体的には、ガス(G1)として、培養液S中の溶存二酸化炭素の濃度が30mg/Lとなるように曝気によって空気と二酸化炭素の混合ガス(空気99体積%、二酸化炭素1体積%)を供給した以外は、実施例1と同様にして微細藻類の培養を行った。
培養開始前を培養0日目とし、培養開始前の微細藻類の粒度分布を測定した。また、培養2日目、4日目、7日目について、培養液Sの一部を採取し、微細藻類の粒度分布をそれぞれ測定した。結果を
図3に示す。
なお、粒度分布の測定は、実施例1と同様にして行った。
【0054】
図3に示すように、培養液中の溶存酸素濃度を15mg/L以上に維持せずに微細藻類を培養した比較例1の場合、培養期間中、0日目、2日目、4日目と7日目の粒度分布は殆ど変化せず、微細藻類は肥大化しにくかった。