(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133979
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240926BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240926BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240926BHJP
C12M 1/04 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12N1/00 B
C12N1/00 D
C12M1/00 E
C12M1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044028
(22)【出願日】2023-03-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム「低CO2と低環境負荷を実現する微細藻バイオリファイナリーの創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】安保 貴永
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅人
(72)【発明者】
【氏名】中原 禎仁
(72)【発明者】
【氏名】山村 寛
(72)【発明者】
【氏名】原山 重明
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB04
4B029DF04
4B029DF10
4B065AA83X
4B065BC06
4B065BC14
4B065BC48
4B065CA13
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】簡便に微細藻類中の抗酸化物質濃度を上昇できる微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置の提供。
【解決手段】本発明の微細藻類の培養方法は、PPFDが400μmol/m
2/秒未満、かつ、微細藻類と溶存酸素とを含む培養液S中の溶存酸素濃度が10mg/L未満の条件で微細藻類を培養する工程(1)と、PPFDが400~5000μmol/m
2/秒となるように培養液Sに光を照射する工程、及び、培養液S中の溶存酸素濃度を10mg/L以上に維持する工程の少なくとも一方を含む工程(2)とを順に含み、工程(2)での培養液SのpHの変動範囲が、工程(1)から1未満である。微細藻類の培養装置1は、培養液Sを収容する培養槽10と、培養液S中の溶存酸素濃度を制御する溶存酸素制御手段30とを備え、培養液S中の溶存酸素濃度が10mg/L未満の条件で微細藻類を培養した後に、溶存酸素濃度を10mg/L以上にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成光量子束密度が400μmol/m2/秒未満、かつ、微細藻類と溶存酸素とを含む培養液中の溶存酸素濃度が10mg/L未満の条件で前記微細藻類を培養する工程(1)と、
光合成光量子束密度が400~5000μmol/m2/秒となるように前記培養液に光を照射する工程(2-1)、及び、前記培養液中の溶存酸素濃度を10mg/L以上に維持する工程(2-2)の少なくとも一方を含む工程(2)と、を順に含み、
前記工程(2)における前記培養液のpHの変動範囲が、前記工程(1)における前記培養液のpHから1未満である、微細藻類の培養方法。
【請求項2】
前記工程(1)における光合成光量子束密度が50μmol/m2/秒以上400μmol/m2/秒未満である、請求項1に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項3】
前記工程(2)を1時間以上行う、請求項1又は2に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項4】
前記微細藻類はエイコサペンタエン酸を含む、請求項1又は2に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項5】
前記微細藻類は、ナンノクロロプシス属又はマイクロクロロプシス属に属する微細藻類を1種以上含む、請求項1又は2に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項6】
微細藻類と溶存酸素とを含む培養液を収容する培養槽と、
前記培養液中の溶存酸素濃度が10mg/L以上となるように溶存酸素濃度を制御する溶存酸素制御手段と、を備え、
前記培養液中の溶存酸素濃度が10mg/L未満の条件で前記微細藻類を培養した後に、前記培養液中の溶存酸素濃度を10mg/L以上にする、微細藻類の培養装置。
【請求項7】
前記培養液へ照射される光の光合成光量子束密度を制御する光照射制御手段をさらに備える、請求項6に記載の微細藻類の培養装置。
【請求項8】
前記光照射制御手段により、光合成光量子束密度が400μmol/m2/秒未満の条件で前記微細藻類を培養した後に、光合成光量子束密度が400~5000μmol/m2/秒となるように、光合成光量子束密度を制御する、請求項7に記載の微細藻類の培養装置。
【請求項9】
前記微細藻類はエイコサペンタエン酸を含む、請求項6又は7に記載の微細藻類の培養装置。
【請求項10】
前記微細藻類は、ナンノクロロプシス属又はマイクロクロロプシス属に属する微細藻類を1種以上含む、請求項6又は7に記載の微細藻類の培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エイコサペンタエン酸(EPA)は多価不飽和脂肪酸(PUFA)の一種であり、抗酸化物質として生体内では特に心臓の健康維持において非常に重要な役割を果たしていると言われている。
近年、EPAを含有する微細藻類を用いて健康食品を製造する方法や、EPAを含有する微細藻類の培養方法が提案されている。
【0003】
EPAを含有する微細藻類の培養方法として、例えば特許文献1には、pH7~pH9のpHからpH5~pH6へのpH低下、その後のpH7~pH9へのpH上昇、及び、光照射量の増加を含む刺激に微細藻類の培養物を曝露するステップを含む微細藻類の培養方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法によれば、pHを中性から酸性に低下させた後、再度、pHを上昇させつつ、光照射量を増加させることで微細藻類に刺激を与えているが、pHの変動を制御することは困難である。特に、大規模で培養した場合、培養槽中の培養液のpHを均一に変動させることが極めて困難であり、pHの制御が煩雑となる。
本発明は、簡便に微細藻類中の抗酸化物質濃度を上昇できる微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、光量又は培養液中の溶存酸素濃度を上昇させるストレスを微細藻類に付与することで、微細藻類中の抗酸化物質濃度が上昇することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記の態様を有する。
[1] 光合成光量子束密度が400μmol/m2/秒未満、かつ、微細藻類と溶存酸素とを含む培養液中の溶存酸素濃度が10mg/L未満の条件で前記微細藻類を培養する工程(1)と、
光合成光量子束密度が400~5000μmol/m2/秒となるように前記培養液に光を照射する工程(2-1)、及び、前記培養液中の溶存酸素濃度を10mg/L以上に維持する工程(2-2)の少なくとも一方を含む工程(2)と、を順に含み、
前記工程(2)における前記培養液のpHの変動範囲が、前記工程(1)における前記培養液のpHから1未満である、微細藻類の培養方法。
[2] 前記工程(1)における光合成光量子束密度が50μmol/m2/秒以上400μmol/m2/秒未満である、前記[1]の微細藻類の培養方法。
[3] 前記工程(2)を1時間以上行う、前記[1]又は[2]の微細藻類の培養方法。
[4] 前記微細藻類はエイコサペンタエン酸を含む、前記[1]~[3]のいずれかの微細藻類の培養方法。
[5] 前記微細藻類は、ナンノクロロプシス属又はマイクロクロロプシス属に属する微細藻類を1種以上含む、前記[1]~[4]のいずれかの微細藻類の培養方法。
【0008】
[6] 微細藻類と溶存酸素とを含む培養液を収容する培養槽と、
前記培養液中の溶存酸素濃度が10mg/L以上となるように溶存酸素濃度を制御する溶存酸素制御手段と、を備え、
前記培養液中の溶存酸素濃度が10mg/L未満の条件で前記微細藻類を培養した後に、前記培養液中の溶存酸素濃度を10mg/L以上にする、微細藻類の培養装置。
[7] 前記培養液へ照射される光の光合成光量子束密度を制御する光照射制御手段をさらに備える、前記[6]の微細藻類の培養装置。
[8] 前記光照射制御手段により、光合成光量子束密度が400μmol/m2/秒未満の条件で前記微細藻類を培養した後に、光合成光量子束密度が400~5000μmol/m2/秒となるように、光合成光量子束密度を制御する、前記[7]の微細藻類の培養装置。
[9] 前記微細藻類はエイコサペンタエン酸を含む、前記[6]~[8]のいずれかの微細藻類の培養装置。
[10] 前記微細藻類は、ナンノクロロプシス属又はマイクロクロロプシス属に属する微細藻類を1種以上含む、前記[6]~[9]のいずれかの微細藻類の培養装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便に微細藻類中の抗酸化物質濃度を上昇できる微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の微細藻類の培養装置の一例を模式的に示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置の一実施形態を挙げ、
図1を適宜参照しながら詳述する。
なお、以下の説明で用いる各図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0012】
本発明において、微細藻類とは、光合成機能を有する単細胞生物であり、体長(細胞の長径)が100μm以下のものをいう。
本発明で培養される微細藻類としては特に制限されないが、本発明はエイコサペンタエン酸を含む微細藻類の培養に特に適している。エイコサペンタエン酸を含む微細藻類としては、例えばナンノクロロプシス属、マイクロクロロプシス属、藍藻類、原核緑藻類、紅藻類、灰色藻類、クリプト藻類、渦鞭毛藻類、黄金色藻類、珪藻類、褐藻類、黄緑藻類、ハプト藻類、ラフィド藻類(緑色鞭藻類)、クロララクニオン藻類、ミドリムシ藻類(ユーグレナ)、プラシノ藻類、緑藻類、車軸藻類、ラビリンチュラが挙げられる。これらの中でも、特にEPAの蓄積量が多い点で、ナンノクロロプシス属、マイクロクロロプシス属が好ましい。
【0013】
[微細藻類の培養装置]
図1に、本発明の微細藻類の培養装置の一例を示す。
図1に示す微細藻類の培養装置1は、培養槽10と、ガス供給手段20と、溶存酸素制御手段30と、排出手段40と、循環手段50と、光照射制御手段60とを備える。
【0014】
培養槽10は、微細藻類と溶存酸素とを含む培養液Sを収容する槽である。
培養槽10としては、微細藻類の培養を閉鎖系で行う場合は閉鎖系の培養槽を用い、微細藻類の培養を開放系で行う場合は開放系の培養槽を用いればよい。
ここで、「閉鎖系」とは、培養槽内の環境が培養槽の外の環境と遮断されていることを意味する。培養液Sに供給された二酸化炭素が水面から気相へ放出されにくい点、培養槽の外の環境に微細藻類の培養が影響を受けにくい点、ゴミ等の異物混入を防止できる点では、閉鎖系の培養槽が好ましい。
【0015】
閉鎖系の培養槽としては、例えばフォトバイオリアクター型水槽が挙げられる。フォトバイオリアクター型水槽には、半密閉水槽と、密閉水槽があり、具体的には平板型水槽、チューブ型水槽、太陽光集光型水槽、内部照射型水槽が挙げられる。
開放系の培養槽としては、例えばオープンポンド型水槽が挙げられる。オープンポンド型水槽としては、具体的にはレースウェイ型水槽が挙げられる。また、培養槽10に代えて、池等で微細藻類の培養を行ってもよい。
また、培養槽10として、微細藻類の培養を開放系と密閉系の両方で行うことができる、ハイブリッド水槽を用いてもよい。
【0016】
培養槽10に収容される培養液Sとしては、培養する微細藻類の種類に応じて適宜、決定すればよい。
【0017】
ガス供給手段20は、培養液Sに二酸化炭素を含むガス(G1)を供給する手段である。
ガス(G1)としては、二酸化炭素を99.9体積%以上含む高純度ガス(高純度二酸化炭素ガス)、二酸化炭素と二酸化炭素以外のガス(以下、「他のガス」ともいう。)とを含む混合ガス等が挙げられる。
他のガスとしては、空気、酸素、窒素、水素、亜硫酸ガス、亜硝酸ガス、硝酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
混合ガスとして、石炭火力発電所、ごみ焼却場、セメント工場、製鉄所等の化石燃料を使用する施設等から排出される排ガスを用いてもよい。排ガスを用いれば、温室効果ガスの排出を軽減できる。
【0018】
この例のガス供給手段20は、二酸化炭素を透過する非多孔質膜(図示略)を備えた膜モジュール21と、非多孔質膜にガス(G1)を供給するガス供給配管22とを有する。
この例のガス供給手段20では、非多孔質膜を透過した二酸化炭素を培養液Sに溶解させて供給する。
【0019】
非多孔質膜は、膜モジュール21の状態で培養液Sに浸漬している。
膜モジュール21の形態としては特に制限されないが、例えば、複数の非多孔質膜同士が一定間隔離れて配置されたシート状物と、このシート状物を支持する一対のハウジングとを備えたものが挙げられる。なお、非多孔質膜が複数束ねられて非多孔質膜束を形成し、複数の非多孔質膜束同士が一定間隔離れて配置されてシート状物を形成していてもよい。
【0020】
非多孔質膜は、ガス(G1)から二酸化炭素を分離しつつ、ガス(G1)から分離した二酸化炭素を培養液S中に溶存させつつ供給するものである。
非多孔質膜としては、二酸化炭素を透過できるものであれば特に制限されない。また、高分子膜であってもよいし、セラミックス、金属等の無機系材料からなる膜であってもよいが、加工性とコストの観点で高分子膜が好ましく、高分子材料、例えばポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂及びシリコーン系樹脂から選ばれる1種以上を含む材料からなる高分子膜がより好ましい。
非多孔質膜には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、難燃化剤等の添加物が添加されていてもよい。
【0021】
非多孔質膜の平均膜厚は、0.5~1.3μmが好ましく、0.7~1.2μmがより好ましい。
なお、本明細書において「平均膜厚」とは、非多孔質膜等の測定サンプルの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、この画像を解析して測定サンプルの膜厚を複数箇所(5箇所以上)で測定し、その平均値を求めたものである。
【0022】
非多孔質膜の形態としては特に制限されず、中空糸膜、平膜等、用途に応じた形状とすることができる。中でも、高比表面積を有する中空糸膜が好ましい。
また、非多孔質膜は、単層構造であってもよいし、複層構造であってもよい。複層構造の具体例としては、多孔質である支持層(多孔質層)と非多孔質である均質層(非多孔質層)を有する複合膜が挙げられる。この複合膜は、均質層と支持層との二層複合膜でもよく、均質層が2つの支持層で挟まれた三層複合膜でもよい。また、均質層及び支持層の数は前記のものには限定されず、それらの合計が4層以上の複合膜であってもよい。
非多孔質膜としては、ガス選択透過性を有する、具体的には二酸化炭素を透過する三層複合膜が好ましい。
【0023】
均質層は、非多孔質であり、二酸化炭素を透過する層である。
均質層を構成するポリマーとしては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン重合体等をハードセグメントとし、ブタジエン重合体、エチレン-ブチレン共重合体、イソプレン重合体又はエチレン-プロピレン共重合体等をソフトセグメントとするブロック共重合体;スチレンと、ブタジエン、エチレン-ブチレン、イソプレン又はエチレン-プロピレンとのランダム共重合体が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンのみを用いて得られるポリマーでもよく、オレフィンと他のモノマーとのコポリマーでもよい。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン等が挙げられる。
均質層を構成するポリマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂とをブレンドした重合体が好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーとポリオレフィン系樹脂との質量比は、スチレン系熱可塑性エラストマー:ポリオレフィン系樹脂=5:95~99:1が好ましく、50:50~99:1がより好ましく、70:30~95:5がさらに好ましい。
【0024】
均質層には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、難燃化剤等の添加物が添加されていてもよい。
均質層の平均膜厚は、0.5~1.3μmが好ましく、0.7~1.2μmがより好ましい。
【0025】
支持層は、多孔質であり、均質層を支持する層であり、かつ、二酸化炭素を透過する層である。
支持層を構成するポリマーとしては、例えばポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンのみを用いて得られるポリマーでもよく、オレフィンと他のモノマーとのコポリマーでもよい。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、高密度ポリエチレン、高立体規則性ポリプロピレンが挙げられる。
【0026】
支持層には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、難燃化剤等の添加物が添加されていてもよい。
支持層の平均膜厚は、10~200μmが好ましく、15~100μmがより好ましい。
支持層の空孔率は、支持層全体(100体積%)に対して、30~80体積%が好ましく、20~60体積%がより好ましい。
支持層の細孔の大きさは特に限定されず、十分な二酸化炭素の透過性と機械的強度が満足される大きさであればよい。
【0027】
ガス供給配管22は、非多孔質膜にガス(G1)を供給する配管である。
ガス供給配管22は、膜モジュール21の一方のハウジング(図示略)に接続されている。ガス(G1)はハウジングを介して非多孔質膜に供給される。ガス(G1)に含まれる二酸化炭素は、非多孔質膜にてガス(G1)から分離され、非多孔質膜を透過して培養液S中に拡散される。非多孔質膜は培養槽10に収容された培養液Sに浸漬しているので、非多孔質膜を透過した二酸化炭素は直接、培養液S中に拡散される。その際、気泡が発生しにくいので、気体状の二酸化炭素が培養液Sに溶解しやすい。すなわち、二酸化炭素は溶存二酸化炭素として培養液Sに供給される。
【0028】
溶存酸素制御手段30は、培養液S中の溶存酸素濃度が10mg/L以上となるように溶存酸素濃度を制御する手段である。
溶存酸素制御手段30により、培養液S中の溶存酸素濃度が10mg/L未満の条件で微細藻類を培養した後に、培養液S中の溶存酸素濃度を10mg/L以上にする。
この例の溶存酸素制御手段30は、培養液S中の溶存酸素濃度を測定する測定手段31と、溶存酸素濃度の測定結果に基づき、ガス供給手段20における培養液Sへのガス(G1)の供給量を調節する調節手段32とを有する。
なお、本明細書において、ガス(G1)の供給量を調節する調節手段32を「第一の調節手段」ともいう。
【0029】
測定手段31としては、培養液S中の溶存酸素濃度を測定できるものであれば特に限定されないが、例えば溶存酸素計(DO計)が挙げられる。
調節手段32としては、例えばガス供給配管22に設けられた、配管の開閉を行う開閉機構が挙げられる。開閉機構としては、例えば電磁弁、電動弁、エアー駆動弁、手動弁等の弁が挙げられる。
【0030】
排出手段40は、非多孔質膜に供給されたガス(G1)のうち、ガス(G1)から分離されない、すなわち、非多孔質膜を透過しないガス(G2)を非多孔質膜から排出する手段である。
ガス(G1)が混合ガスの場合、ガス(G2)としては、例えば窒素、酸素が挙げられる。
また、高純度ガスや混合ガスに不純物が含まれている場合、不純物もガス(G2)と共に非多孔質膜から排出される。
さらに、非多孔質膜に供給されるガス(G1)に含まれる水分が、非多孔質膜中で凝縮した凝縮水もガス(G2)と共に非多孔質膜から排出される。
【0031】
排出手段40は、ガス排出配管41を備える。
ガス排出配管41は、非多孔質膜からガス(G2)を排出する配管である。
ガス排出配管41は、膜モジュール21の他方のハウジング(図示略)に接続されている。ガス(G2)はハウジングを介して非多孔質膜から排出される。
ガス排出配管41には、配管の開閉によりガス(G2)の排出量を調節する調節手段42が設けられていてもよい。調節手段42としては、例えば、配管の開閉を行う開閉機構が挙げられ、具体的には、電磁弁、電動弁、エアー駆動弁、手動弁等の弁が挙げられる。
なお、本明細書において、ガス(G2)の排出量を調節する調節手段42を「第二の調節手段」ともいう。
【0032】
循環手段50は、培養液Sの一部を培養槽10から抜き出し、抜き出した培養液Sを再度、培養槽10へ供給する手段である。
循環手段50により、培養槽10中の培養液Sが循環する。培養液Sが循環する際に生じる水流により、培養液Sは撹拌される。培養液Sを循環させて撹拌する方法は、外部から力を加えて培養液Sを撹拌する方法、例えば撹拌翼を用いて培養液Sを撹拌する方法に比べて、培養液S中の溶存酸素が大気へ拡散されるのを抑制できる。
【0033】
循環手段50は、循環配管51と、ポンプ52とを備える。
循環配管51は、培養液Sを循環させる配管である。
この例の循環配管51は、一端が培養槽10の壁に設けられた排出口11に接続され、他端が培養槽10の壁に設けられた供給口12に接続されており、培養液Sは排出口11から供給口12まで循環する。
ポンプ52は、循環配管51の途中に設けられている。
【0034】
光照射制御手段60は、培養液Sへ照射される光の光合成光量子束密度を制御する手段である。
光照射制御手段60により、光合成光量子束密度が400μmol/m2/秒未満の条件で微細藻類を培養した後に、光合成光量子束密度が400~5000μmol/m2/秒となるように、光合成光量子束密度を制御する。
【0035】
光照射制御手段60としては、寒冷紗、遮光ネット、遮光フィルム等の遮光部材;太陽光を効率的に集める装置(太陽光採光装置)等が挙げられる。
【0036】
[微細藻類の培養方法]
以下、本発明の第一の態様の微細藻類の培養方法の一例について説明する。なお、以下に説明する微細藻類の培養方法は、
図1に示す微細藻類の培養装置1を用いた微細藻類の培養方法の一例である。
本実施形態の微細藻類の培養方法は、以下に示す工程(1)と工程(2)とを順に有する。工程(1)と工程(2)の回数は、それぞれ1回ずつでもよいし、工程(1)と工程(2)とを交互にそれぞれ2回以上行ってもよい。
【0037】
微細藻類の培養は、閉鎖系で行ってもよいし、開放系で行ってもよい。培養液Sに供給された二酸化炭素が水面から気相へ放出されにくい点、培養槽10の外の環境に微細藻類の培養が影響を受けにくい点、ゴミ等の異物混入を防止できる点では、微細藻類の培養を閉鎖系で行うことが好ましい。
微細藻類の培養は、ガス(G1)を培養液Sへ供給して行う。
培養温度は4~40℃が好ましく、15~35℃がより好ましい。
微細藻類に照射する光は太陽光でもよいし、人工光でもよいし、これらを併用してもよい。
【0038】
<工程(1)>
工程(1)は、光合成光量子束密度(PPFD)が400μmol/m2/秒未満、かつ、微細藻類と溶存酸素とを含む培養液S中の溶存酸素濃度が10mg/L未満の条件で微細藻類を培養する工程である。
工程(1)は、微細藻類にストレスを付与することなく、又はストレスが軽減された状態で微細藻類を培養する工程である。よって、本発明において工程(1)を「通常培養工程」ともいう。
【0039】
工程(1)における光合成光量子束密度は、400μmol/m2/秒未満であり、50μmol/m2/秒以上400μmol/m2/秒未満であることが好ましく、80~300μmol/m2/秒であることがより好ましい。光合成光量子束密度が上記上限値未満であれば、微細藻類へのストレスが十分に軽減される。光合成光量子束密度が上記下限値以上であれば、光合成を促進でき、効率よく微細藻類を培養できる。
工程(1)を行う間の光合成光量子束密度は、400μmol/m2/秒未満であれば、一定の値であってもよいし、徐々に増加又は低下する等変動してもよい。
【0040】
微細藻類を培養する際の光源として太陽光を利用する場合、光合成光量子束密度は、例えばPPFD計を用い、培養液Sの水面における光合成光量子束密度を測定すればよい。光合成光量子束密度が400μmol/m2/秒以上となる場合は、光照射制御手段60により光合成光量子束密度が400μmol/m2/秒未満を維持するように制御する。例えば、光合成光量子束密度が高い場合は、光照射制御手段60として寒冷紗等の遮光部材を用いて、培養槽10に遮光部材を被せて光合成光量子束密度が400μmol/m2/秒未満となるように制御する。
光源として人工光を使用する場合、光合成光量子束密度が400μmol/m2/秒未満を維持するように光量を制御すればよい。
【0041】
工程(1)における培養液S中の溶存酸素濃度は10mg/L未満であり、1mg/L以上10mg/L未満であることが好ましい。溶存酸素濃度が上記上限値未満であれば、微細藻類へのストレスが十分に軽減される。
工程(1)を行う間の培養液S中の溶存酸素濃度は、10mg/L未満であれば、一定の値であってもよいし、徐々に増加又は低下する等変動してもよい。
【0042】
培養液S中の溶存酸素濃度は、溶存酸素制御手段30により制御する。具体的には、測定手段31にて培養液S中の溶存酸素濃度を測定し、溶存酸素濃度の測定結果に基づき、調節手段32である、ガス供給配管22に設けられた開閉機構にて、培養液Sへのガス(G1)の供給量を調節することが好ましい。
測定手段31にて測定した培養液S中の溶存酸素濃度が10mg/L以上となる場合は、調節手段32により培養液Sへのガス(G1)の供給量を増やす。ガス(G1)の供給量を増やすことで、培養液S中の溶存酸素の大気拡散が促進され、溶存酸素濃度の上昇を抑制できる。なお、ガス(G1)の供給量の増加に伴い光合成が促進されて溶存酸素濃度が高まったとしても、過飽和となるため、培養液S中の溶存酸素は大気へ拡散される。
【0043】
培養液Sへのガス(G1)の供給は、以下のようにして行うことが好ましい。
すなわち、培養液Sに浸漬された、膜モジュール21に備わる非多孔質膜にガス供給配管22からガス(G1)を供給し、非多孔質膜を透過した二酸化炭素を培養液Sに溶解させて供給することが好ましい。非多孔質膜は培養槽10に収容された培養液Sに浸漬しているので、非多孔質膜を透過した二酸化炭素は直接、培養液S中に拡散される。その際、気泡が発生しにくいので、気体状の二酸化炭素が培養液Sに溶解しやすい。加えて、気泡が発生しにくいので、培養液S中の溶存酸素が大気へ拡散されるのを抑制でき、培養液S中の溶存酸素濃度を所望の値に維持しやすい。
【0044】
非多孔質膜を透過しないガス(G2)は、排出手段40により非多孔質膜から排出される。
高純度ガスや混合ガスに不純物が含まれている場合、不純物もガス(G2)と共に非多孔質膜から排出される。
また、非多孔質膜に供給されるガス(G1)に含まれる水分が、非多孔質膜中で凝縮した凝縮水もガス(G2)と共に非多孔質膜から排出される。
これらガス(G2)、不純物、凝縮水は、排出手段40のガス排出配管41を通過して培養槽10の系外へと排出される。このとき、調節手段42によりガス(G2)等の排出量を調節してもよい。
【0045】
培養液Sへのガス(G1)の供給する際、及び培養液S中の溶存酸素濃度を測定する際は、循環手段50を用いて培養液Sを循環させることが好ましい。具体的には、ポンプ52を稼働させて、培養槽10の壁に設けられた排出口11から培養液Sの一部を抜き出し、抜き出した培養液Sを再度、培養槽10へ供給し、培養液Sを循環させることが好ましい。培養液Sが循環する際に生じる水流により、培養液Sは撹拌される。培養液Sが撹拌されることで、培養液Sに供給された二酸化炭素を培養液S中により均一に行きわたらせることができる。加えて、培養液Sを循環させながら、培養液S中の溶存酸素濃度を測定することで、培養液S中の溶存酸素濃度が均一化されるので、より正確に溶存酸素濃度を測定できる。
【0046】
工程(1)を行う期間は、工程(2)を経る前であれば、3週間以下が好ましく、1日~2週間がより好ましく、5日間~2週間がさらに好ましい。
工程(1)を行う期間は、工程(2)を経た後であれば、1週間以下が好ましく、6時間~3日間がより好ましく、9時間~2日間がより好ましく、12~24時間がさらに好ましい。
【0047】
<工程(2)>
工程(2)は、下記工程(2-1)及び下記工程(2-2)の少なくとも一方を含む工程である。工程(2)は、工程(2-1)及び工程(2-2)の両方を含むことが好ましい。
工程(2-1)は、光合成光量子束密度が400~5000μmol/m2/秒となるように、培養液Sに光を照射する工程である。
工程(2-2)は、培養液S中の溶存酸素濃度を10mg/L以上に維持する工程である。
工程(2)は、工程(1)である通常培養工程よりも、光合成光量子束密度が高い状態、又は培養液S中の溶存酸素濃度が高い状態で微細藻類を培養する工程である。光合成光量子束密度が高い状態、又は培養液S中の溶存酸素濃度が高い状態での培養は、微細藻類にとってストレスであり、ストレス環境下で微細藻類を培養することを意味する。よって、本発明において工程(2)を「ストレス付与工程」ともいう。
【0048】
工程(2-1)における光合成光量子束密度は、400~5000μmol/m2/秒であり、500~2000μmol/m2/秒であることが好ましく、700~1500μmol/m2/秒であることがより好ましい。光合成光量子束密度が上記下限値以上であれば、高い光量で微細藻類を培養することになる。高い光量での培養は、微細藻類にとってストレスである。微細藻類にストレスが付与されると、微細藻類中のエイコサペンタエン酸等の抗酸化物質濃度が上昇する。光合成光量子束密度が上記上限値以下であれば、微細藻類が受ける光阻害の影響は小さい。
工程(2)を行う間の光合成光量子束密度は、400~5000μmol/m2/秒の範囲内であれば、一定の値であってもよいし、徐々に増加又は低下する等変動してもよい。
【0049】
微細藻類を培養する際の光源として太陽光を利用する場合、光合成光量子束密度は、例えばPPFD計を用い、培養液Sの水面における光合成光量子束密度を測定すればよい。光合成光量子束密度が400μmol/m2/秒未満又は5000μmol/m2/秒超となる場合は、光照射制御手段60により光合成光量子束密度が400~5000μmol/m2/秒を維持するように制御する。例えば、光合成光量子束密度が高い場合は、光照射制御手段60として寒冷紗等の遮光部材を用いて、培養槽10に遮光部材を被せて光合成光量子束密度が5000μmol/m2/秒以下となるように制御する。光合成光量子束密度が低い場合は、遮光部材を外したり、太陽光採光装置を利用したり、人工光を併用したりすればよい。
光源として人工光を使用する場合、光合成光量子束密度が400~5000μmol/m2/秒を維持するように光量を制御すればよい。
【0050】
工程(2-2)における培養液S中の溶存酸素濃度は10mg/L以上であり、10~35mg/Lが好ましく、12~34mg/Lがより好ましく、15~33mg/Lがさらに好ましい。培養液S中の溶存酸素濃度が上記下限値以上であれば、溶存酸素を高濃度で含む培養液中で微細藻類を培養することになる。溶存酸素を高濃度で含む培養液中での培養は、微細藻類にとってストレス(酸化ストレス)である。微細藻類にストレスが付与されると、微細藻類中のエイコサペンタエン酸等の抗酸化物質濃度が上昇する。培養液S中の溶存酸素濃度が上記上限値以下であれば、培養液S中の溶存酸素濃度を制御しやすい。
工程(2)を行う間の培養液S中の溶存酸素濃度は、10mg/L以上であれば、一定の値であってもよいし、徐々に増加又は低下する等変動してもよい。
【0051】
培養液S中の溶存酸素濃度は、溶存酸素制御手段30により制御する。具体的には、測定手段31にて培養液S中の溶存酸素濃度を測定し、溶存酸素濃度の測定結果に基づき、調節手段32である、ガス供給配管22に設けられた開閉機構にて、培養液Sへのガス(G1)の供給量を調節することが好ましい。
測定手段31にて測定した培養液S中の溶存酸素濃度が10mg/L未満となる場合は、調節手段32により培養液Sへのガス(G1)の供給量を減らす。ガス(G1)の供給量を減らすことで、培養液S中の溶存酸素の大気拡散を抑制できる。一方、測定手段31にて測定した培養液S中の溶存酸素濃度が高すぎる場合、例えば上述した上限値を超えるような場合は、調節手段32により培養液Sへのガス(G1)の供給量を増やす。ガス(G1)の供給量を増やすことで、培養液S中の溶存酸素の大気拡散が促進され、溶存酸素濃度の上昇を抑制できる。なお、ガス(G1)の供給量の増加に伴い光合成が促進されて溶存酸素濃度が高まったとしても、過飽和となるため、培養液S中の溶存酸素は大気へ拡散される。
【0052】
培養液Sへのガス(G1)の供給方法は、工程(1)と同様である。
非多孔質膜を透過しないガス(G2)は、排出手段40により非多孔質膜から排出される。ガス(G2)の排出方法は、工程(1)と同様である。
高純度ガスや混合ガスに不純物が含まれている場合、不純物もガス(G2)と共に非多孔質膜から排出される。
また、非多孔質膜に供給されるガス(G1)に含まれる水分が、非多孔質膜中で凝縮した凝縮水もガス(G2)と共に非多孔質膜から排出される。
培養液Sへのガス(G1)の供給する際、及び培養液S中の溶存酸素濃度を測定する際は、循環手段50を用いて培養液Sを循環させることが好ましい。培養液Sの循環方法は、工程(1)と同様である。
【0053】
工程(2)における培養液SのpHの変動範囲は、工程(1)における培養液SのpHから1未満である。pHの変動範囲が1未満であることは、工程(1)及び工程(2)において、意図的には培養液SのpHを変動させない、すなわち、pH調整剤等の薬剤を用いた積極的なpHの調整は行わないことを意味する。
なお、工程(1)及び工程(2)において、培養液S中の溶存酸素濃度を制御する目的でガス(G1)の供給量を調節することがある。ガス(G1)の供給量により培養液S中の二酸化炭素の濃度は変化し、二酸化炭素の濃度に応じてpHは僅かに変動するものの、二酸化炭素は微細藻類が光合成する際に消費される。そのため、所望の溶存酸素濃度に制御する程度のガス(G1)の供給量の増減では、培養液SのpHは影響されにくく、変動しにくい。
【0054】
工程(2)を行う期間は、1時間以上が好ましく、1時間~3日間がより好ましく、12~36時間がさらに好ましく、18~30時間が特に好ましい。工程(2)を1時間以上行うことで、微細藻類に十分なストレスを付与でき、微細藻類中のエイコサペンタエン酸等の抗酸化物質濃度がより上昇する。
【0055】
工程(1)から工程(2)への切り替えは、24時間以内に行われることが好ましく、より好ましくは1時間以内であり、さらに好ましくは10分以内であり、特に好ましくは1分以内である。切り替えに要する時間が短いほど、微細藻類がストレスを感じやすい傾向にある。
【0056】
[作用効果]
以上説明した、本発明の微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置では、上述した工程(1)の後に工程(2)を行う。すなわち、ストレスを付与することなく、又はストレスが軽減された状態(通常培養)で微細藻類を培養した後に、ストレス環境下で微細藻類をさらに培養する。ストレスを微細藻類に付与することで、微細藻類中の抗酸化物質濃度が上昇する。よって、本発明の微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置であれば、意図的に培養液のpHを調整する必要がなく、大規模で微細藻類を培養する場合であっても、簡便に微細藻類中の抗酸化物質濃度を上昇できる。
【0057】
なお、本発明の微細藻類の培養方法及び微細藻類の培養装置は、上述した実施形態に限定されない。
図示例の微細藻類の培養装置1は、1つの培養槽10を備えているが、複数の培養槽を設置して微細藻類を同時に培養してもよい。
複数の培養槽を設置する場合、各培養槽では、同じ種類の微細藻類を培養してもよいし、異なる種類の微細藻類を培養してもよい。また、少なくとも1つの培養槽では培養を閉鎖系で行い、残りの培養槽では培養を開放系で行ってもよい。
また、図示例の微細藻類の培養装置1では、1つの培養槽10に、1つの膜モジュール21が浸漬しているが、培養槽10の大きさに応じて、複数の膜モジュール21を浸漬させてもよい。
【0058】
また、上述した実施形態では、非多孔質膜を用いて培養液Sに二酸化炭素を供給しているが、二酸化炭素を曝気して培養液Sへ供給してもよい。曝気に用いる二酸化炭素は、高純度ガスが好ましい。特に、工程(2)において曝気により培養液Sへ二酸化炭素を供給する場合は、培養液S中の溶存酸素が大気へ拡散しない程度の曝気量とすることが好ましい。
さらに、加圧溶解による方法で気体状の二酸化炭素を培養液Sに溶解させてもよい。具体的には、培養槽10の気相部に二酸化炭素を充填して培養槽10を密閉し、培養槽10内を加圧することで気体状の二酸化炭素を培養液Sに溶解させてもよい。
【0059】
また、ガス(G1)として高純度ガスを用いる場合等、非多孔質膜を透過しないガス(G2)が殆ど生じない場合は、微細藻類の培養装置1は排出手段40を有していなくてもよい。
【0060】
また、上述した実施形態では、循環手段50を用いて培養液Sを循環させ、そのときに発生する水流で培養液Sを撹拌しているが、培養液Sに刺激を与えにくく、培養液S中の溶存二酸化炭素及び溶存酸素が大気へ拡散しにくい程度であれば、循環手段50に代えて撹拌翼等の撹拌手段を用いて培養液Sを撹拌してもよい。
【0061】
さらに、微細藻類の培養装置は、培養液のpHを測定するpH計をさらに備えていてもよい。
また、微細藻類の培養装置は、培養液へ酸素を含むガス(G3)を供給する曝気手段を備えていてもよく、ガス(G3)を培養液へ供給することで、培養液中の溶存酸素濃度、特に工程(2)における培養液中の溶存酸素濃度を制御してもよい。特に、工程(2)において曝気により培養液へガス(G3)を供給する場合は、培養液中の溶存二酸化炭素及び溶存酸素が大気へ拡散しない程度の曝気量とすることが好ましい。
ガス(G3)としては、空気、酸素を99.9体積%以上含む高純度ガス(高純度酸素ガス)等が挙げられる。
【実施例0062】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0063】
[微細藻類の選定]
NITEより藻株を入手後、エイコサペンタエン酸(EPA)高生産株として、マイクロクロロプシス属するNannochloropsis salinaを選定した。
【0064】
[ガス(G1-1)の調製]
酸素吸収剤として、濃度20質量%のピロガロール水溶液と濃度28.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、公知の方法により空気中の酸素を除去した。
空気から酸素を除去した後の気体0.4L/分と、高純度二酸化炭素ガス0.01L/分とを混合してガス(G1-1)として用いた。
【0065】
[ガス(G1-2)の調製]
高純度二酸化炭素ガス0.01L/分と、高純度酸素ガス0.2L/分とを混合してガス(G1-2)として用いた。
【0066】
[微細藻類の通常培養(工程(1))]
培養槽に微細藻類と培地を収容し、ガス(G1-1)を供給しながら、閉鎖系で6日間、培養を行った(工程(1))。
培地としては、人工海水で調製したBG-11培地を用いた。
光源としては、植物育成用のLED光源を用いた。
工程(1)中の光合成光量子束密度(PPFD)が100μmol/m2/秒となるように、光源の光量を制御した。また、培養液中の溶存酸素濃度が10mg/L未満を維持するように、ガス(G1-1)の供給量を制御した。
培養開始から6日間経過した後の微細藻類の乾燥重量(藻乾燥重量)と、藻乾燥重量あたりのEPA含量を求めた。結果を表1に示す。
なお、藻乾燥重量は、ガラス繊維ろ紙法(JIS K 0102)により求めた。
EPA含量は、ナンノクロロプシスからBligh & Dyer法で油脂抽出後、脂肪酸メチル化キット(ナカライテスク株式会社製、製品番号:06482)でメチル化し、ガスクロマトグラフィーにより求めた。
具体的な測定条件は以下である。
・カラム:SP-2560,100m×0.25mm I.D.,0.2μm film thickness
・キャリアガス:H2(1.65mL/min)
・気化温度:200℃
・注入量:0.8μL
・パージ割合:20:1
・温度プログラム:100℃(Hold 3min) → 3℃/min to 200℃(Hold 3min) → 3℃/min to 240℃(6min)
・検出器:FID(250℃)
【0067】
[実施例1]
工程(1)の後、ガス(G1-1)を供給しながら、閉鎖系で培養を行った(工程(2))。ただし、工程(2)では、光合成光量子束密度(PPFD)が800μmol/m2/秒となるように、光源の光量を制御した。また、培養液中の溶存酸素濃度が10mg/L未満を維持するように、ガス(G1-1)の供給量を制御した。
工程(2)の開始から24時間及び48時間経過した後の微細藻類の乾燥重量(藻乾燥重量)と、藻乾燥重量あたりのEPA含量を求めた。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例2]
工程(1)の後、ガス(G1-2)を供給しながら、閉鎖系で培養を行った(工程(2))。ただし、工程(2)では、光合成光量子束密度(PPFD)が100μmol/m2/秒となるように、光源の光量を制御した。また、培養液中の溶存酸素濃度が30mg/L超を維持するように、ガス(G1-2)の供給量を制御した。
工程(2)の開始から24時間及び48時間経過した後の微細藻類の乾燥重量(藻乾燥重量)と、藻乾燥重量あたりのEPA含量を求めた。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例3]
工程(1)の後、ガス(G1-2)を供給しながら、閉鎖系で培養を行った(工程(2))。ただし、工程(2)では、光合成光量子束密度(PPFD)が800μmol/m2/秒となるように、光源の光量を制御した。また、培養液中の溶存酸素濃度が30mg/L超を維持するように、ガス(G1-2)の供給量を制御した。
工程(2)の開始から24時間及び48時間経過した後の微細藻類の乾燥重量(藻乾燥重量)と、藻乾燥重量あたりのEPA含量を求めた。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例1]
工程(1)の後、ガス(G1-1)を供給しながら、閉鎖系で培養を行った(工程(2))。ただし、工程(2)では、光合成光量子束密度(PPFD)が100μmol/m2/秒となるように、光源の光量を制御した。また、培養液中の溶存酸素濃度が10mg/L未満を維持するように、ガス(G1-1)の供給量を制御した。
工程(2)の開始から24時間及び48時間経過した後の微細藻類の乾燥重量(藻乾燥重量)と、藻乾燥重量あたりのEPA含量を求めた。結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
表1の結果より、通常培養の後にストレス環境下で微細藻類をさらに培養した実施例1~3の場合、ストレスを付与せずに培養を続けた比較例1に比べて、藻乾燥重量あたりのEPA含量が上昇した。
なお、実施例1~3及び比較例1においては、工程(2)における培養液SのpHの変動範囲は、工程(1)における培養液SのpHから1未満であった。