(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133982
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】透光性を有する透光性積層体の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C25D 11/16 20060101AFI20240926BHJP
C25D 11/00 20060101ALI20240926BHJP
C25D 11/04 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C25D11/16
C25D11/00 306
C25D11/04 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044031
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】桑原 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】村田 貴朗
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、製造時の透光性積層体の表面へのダメージが抑制され、透光性に優れ、より広く抗菌効果を発揮できる透光性積層体を高い生産性で製造できる透光性積層体の製造方法および製造装置を提供することにある。
【解決手段】透光性を有する基材101上に、バルブ金属層102が陽極酸化された金属酸化物層を有する透光性積層体の製造方法であって、基材101上にバルブ金属層102を有する積層体103におけるバルブ金属層102の表面を親水化する親水化工程と、親水化されたバルブ金属層102が電解液120に接触した状態で積層体103を連続的に移動させながらバルブ金属層102を陽極酸化する陽極酸化工程と、を含む、透光性を有する透光性積層体の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基材上に、バルブ金属層が陽極酸化された金属酸化物層を有する透光性積層体の製造方法であって、
前記基材上に前記バルブ金属層を有する積層体における前記バルブ金属層の表面を親水化する親水化工程と、親水化された前記バルブ金属層が電解液に接触した状態で前記積層体を連続的に移動させながら前記バルブ金属層を陽極酸化する陽極酸化工程と、を含む、透光性を有する透光性積層体の製造方法。
【請求項2】
前記陽極酸化工程において、前記電解液に接触した状態且つ、前記バルブ金属層と接触しない状態の陰極板と、前記電解液に接触しない状態且つ、前記バルブ金属層に接触した状態の陽極端子との間に電圧を印可する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
親水化された前記バルブ金属層の表面の水接触角と、陽極酸化後の前記金属酸化物層の表面の水接触角との差が45°以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記親水化工程が、紫外線を用いて前記バルブ金属層の表面を親水化することを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記親水化工程が、オゾンを用いて前記バルブ金属層の表面を親水化することを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記親水化工程を、前記積層体を移動させながら連続的に行うことを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の製造方法に用いる製造装置であって、
前記バルブ金属層の表面を親水化する親水化手段と、前記バルブ金属層を陽極酸化する陽極酸化手段と、を備え、
親水化された前記バルブ金属層が電解液に接触した状態で前記積層体を連続的に移動させながら前記バルブ金属層を陽極酸化する、透光性を有する透光性積層体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性を有する透光性積層体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生剤は、人や家畜の疾病治療、農畜水産物の生産性の向上、食品の保存等の目的で、医薬品、動物用医薬品、農薬、飼料添加物、食品添加物等として広く用いられてきた。近年、複数種類の抗生剤に対して抵抗性を有し、抗生剤が効かない、または効きにくくなった耐性菌の出現が問題になっている。
【0003】
近年、耐性菌の出現の抑制等を目的として抗生剤の使用が制限される傾向にあり、抗生剤を用いることなく、菌の増殖を抑制できる技術の開発が望まれている。特許文献1には、抗生剤を用いることなく抗菌効果を発揮できる技術として、透光性の樹脂基板に積層されたアルミニウム基材を完全に陽極酸化した、透明な透光性積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の透光性積層体は、食品などの包装材料、ディスプレイ全面板、パーティションなど、幅広い分野で使用できる可能性がある。しかしながら、特許文献1では、透光性積層体を効率良く大量に製造する方法が提案されているが、表面の均一性についてさらなる改良の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、製造時の透光性積層体の表面へのダメージが抑制され、透光性に優れ、より広く抗菌効果を発揮できる透光性積層体を高い生産性で製造できる透光性積層体の製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[7]を要旨とする。
[1]透光性を有する基材上に、バルブ金属層が陽極酸化された金属酸化物層を有する透光性積層体の製造方法であって、
前記基材上に前記バルブ金属層を有する積層体における前記バルブ金属層の表面を親水化する親水化工程と、親水化された前記バルブ金属層が電解液に接触した状態で前記積層体を連続的に移動させながら前記バルブ金属層を陽極酸化する陽極酸化工程と、を含む、透光性を有する透光性積層体の製造方法。
[2]前記陽極酸化工程において、前記電解液に接触した状態且つ、前記バルブ金属層と接触しない状態の陰極板と、前記電解液に接触しない状態且つ、前記バルブ金属層に接触した状態の陽極端子との間に電圧を印可する、[1]に記載の製造方法。
[3]親水化された前記バルブ金属層の表面の水接触角と、陽極酸化後の前記金属酸化物層の表面の水接触角との差が45°以下である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記親水化工程が、紫外線を用いて前記バルブ金属層の表面を親水化することを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]前記親水化工程が、オゾンを用いて前記バルブ金属層の表面を親水化することを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記親水化工程を、前記積層体を移動させながら連続的に行うことを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の製造方法に用いる製造装置であって、
前記バルブ金属層の表面を親水化する親水化手段と、前記バルブ金属層を陽極酸化する陽極酸化手段と、を備え、
親水化された前記バルブ金属層が電解液に接触した状態で前記積層体を連続的に移動させながら前記バルブ金属層を陽極酸化する、透光性を有する透光性積層体の製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造時の透光性積層体の表面へのダメージが抑制され、透光性に優れ、より広く抗菌効果を発揮できる透光性積層体を高い生産性で製造できる透光性積層体の製造方法および製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の製造装置の一態様を模式的に示す概略側面図である。
【
図2】本発明の製造装置の別の一態様を模式的に示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「~」で表される数値範囲は、その前後の数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
[透光性を有する透光性積層体の製造装置]
以下、実施形態に係る透光性を有する透光性積層体の製造方法に好ましく用い得る製造装置について説明する。
図1は、実施形態の製造方法を実施する製造装置の一態様を示す概略側面図である。
【0012】
図1に示す製造装置1は、透光性を有する基材101の表面にバルブ金属層102を有する帯状の積層体103に対し、親水化処理と陽極酸化を行い、バルブ金属層102を抗菌性が付与された金属酸化物層に変化させた透光性積層体を製造するための装置である。また、バルブ金属層102を完全に陽極酸化することで、バルブ金属層102は透光性の金属酸化物層に変化する。
【0013】
製造装置1は、積層体103のバルブ金属層102の表面を親水化する親水化手段10と、親水化されたバルブ金属層102を陽極酸化する陽極酸化手段20と、を備えている。製造装置1は、基材101とバルブ金属層102とからなる積層体103を搬送する移動手段30を備えていてもよい。
【0014】
(移動手段)
透光性積層体の製造効率の点から、移動手段30は、積層体103のバルブ金属層102の少なくとも一部が、陽極酸化に用いる電解液120に接触した状態で、積層体103を移動方向Bに沿って搬送するように構成されていることが好ましい。移動手段30には、例えば、積層体103が周囲に巻回された状態で回転し、積層体103と電解液120とを接触させた状態で搬送するガイドロール32が含まれ、積層体103の搬送方向を変えるロール31および33を備えていてもよい。ガイドロール32は、積層体103の移動方向Bに沿った方向Aに回転し、積層体103の移動速度と同じ速度で回転する。
【0015】
(親水化手段)
親水化手段10としては、積層体103のバルブ金属層102の表面を親水化できるものであればよく、例えば、紫外線によって親水化するUV装置、オゾンを用いて親水化するオゾン装置、紫外線とオゾンを用いて親水化するUVオゾン装置を例示できる。親水化手段10としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
(陽極酸化手段)
図2は、陽極酸化手段20における積層体103のバルブ金属層102を陽極酸化する部分を、積層体103の移動方向Bの下流側から見た正面図である。
図1および
図2に示すように、陽極酸化手段20は、透光性積層体の製造効率の点から、バルブ金属層102に接触する陽極端子21と、バルブ金属層102と接触しないように対向して配置された陰極板22と、バルブ金属層102と陰極板22との間に電解液120を保持する電解液槽23と、を備えていることが好ましい。
【0017】
陰極板22と陽極端子21とは、電源(図示されず)に接続されており、電解液120に接触しているバルブ金属層102に電圧を印加することができる。陰極板22は完全に電解液120中に浸漬されるように配置されてもよく、一部分が電解液120から露出するように配置されてもよい。均質な透光性積層体が得られる点から、陰極板22は、電解液120中においてバルブ金属層102との距離が略一定となるように、バルブ金属層102の周囲を覆うような形状であることが好ましい。
【0018】
なお、
図1および
図2に示す例は、板状の陰極板22を積層体103に対向配置した場合の例であるが、陰極板22の形状はこれに限定されず、所望の形状を採用できる。また、陰極板は一つの部材には限定されず、複数の分割された陰極板として構成されてもよい。
【0019】
陽極端子21としては、例えば、バルブ金属層102に接触通電する接触子であってもよく、通電ローラーでもよい。陽極端子21が電解液120に接触していると、電解液120を介して直接陰極板22に電流が流れるため、バルブ金属層102を陽極酸化することができない。そのため、陽極端子21は電解液120に接触しないように配置する必要がある。
【0020】
陽極酸化手段20は、電解液120の温度を一定に保つ温調装置(図示されず)を備えていてもよい。通常は、電圧が印加されたバルブ金属層102を冷却するために、温調装置としては電解液120を冷却する装置が用いられる。温調装置としては、例えば、電解液槽23を介して電解液120の温調を行うジャケットであってもよく、電解液120を直接温調して循環させる装置であってもよい。バルブ金属層102が厚い場合、陽極端子21の接触部分から電解液槽23にかけてバルブ金属層102が発熱してしまう場合がある。そのため、陽極端子21は、積層体103の移動方向Bにおいて、電解液槽23および陰極板22よりも上流側に配置されることが好ましい。陽極端子21を上流側に配置することで、発熱したバルブ金属層102を電解液120中に浸漬させて冷却することができる。
【0021】
(気液界面遮断手段)
実施形態の製造方法では、積層体103を移動させながら陽極酸化を行うため、電解液120の気液界面が乱れることがある。また、前記気液界面においては、厳密な温度管理が難しく、前記気液界面においてバルブ金属層102が急激に酸化されてしまう場合がある。このような気液界面の反応の乱れを抑制できる点から、製造装置1においては、気液界面遮断手段40を設けることが好ましい。
【0022】
気液界面遮断手段40は、陽極端子21近傍側の気液界面を遮断するように構成され、移動方向Bの上流側の気液界面を遮断するように配置されることが好ましい。気液界面遮断手段40としては、例えば、気液界面とバルブ金属層102とが接触する部位を覆うように配置されたニップロールであってもよい。また、気液界面とバルブ金属層102とが接触する部位に、陽極酸化に影響を与えない、温度制御された不活化ガスを供給する装置構成としてもよい。また、バルブ金属層102上に貼付けされた保護フィルムなどを、ニップロールに巻回させ、電解液120中で剥離するような構成としてもよい。このような気液界面遮断手段40を設けることで、バルブ金属層102の全面をより均一に陽極酸化することができる。
【0023】
[透光性を有する透光性積層体の製造方法]
実施形態に係る透光性を有する透光性積層体の製造方法は、透光性を有する基材上に、バルブ金属層が陽極酸化された金属酸化物層を有する透光性積層体の製造方法であって、以下の親水化工程および陽極酸化工程を含む。
親水化工程:前記基材上に前記バルブ金属層を有する積層体における前記バルブ金属層の表面を親水化する。
陽極酸化工程:親水化された前記バルブ金属層が電解液に接触した状態で前記積層体を連続的に移動させながら前記バルブ金属層を陽極酸化する。
以下、前記の製造装置1を用いる場合を例にして詳しく説明する。
【0024】
(親水化工程)
親水化工程では、積層体103におけるバルブ金属層102の表面を親水化する。
バルブ金属層102の表面を親水化することにより、積層体を移動させながら陽極酸化を行う陽極酸化工程においてバルブ金属層102の陽極酸化が十分に進行し、外観に優れた透光性積層体が得られる。
【0025】
積層体103に付着した菌が抗菌性に悪影響を与えることを防ぎやすい点では、紫外線を用いてバルブ金属層102の表面を親水化することが好ましい。積層体103に付着した有機物を除去しやすい点では、オゾンを用いてバルブ金属層102の表面を親水化することが好ましい。
また、生産性が向上することから、親水化工程では積層体103を移動させながら連続的に親水化処理を行うことが好ましい。
【0026】
親水化されたバルブ金属層102の表面の水接触角は、60°以下が好ましく、45°以下がより好ましく、25°以下がさらに好ましい。前記水接触角が前記上限値以下であれば、積層体を搬送したときに電解液との間でできるメニスカスが小さくなり、液面が揺れにくくなる。
【0027】
(陽極酸化工程)
陽極酸化工程は、親水化されたバルブ金属層102が電解液120に接触した状態で積層体103を連続的に移動させながらバルブ金属層102を陽極酸化する。これにより、バルブ金属層102は抗菌性が付与された金属酸化物層に変化する。また、バルブ金属層102を完全に陽極酸化することで、バルブ金属層102は透光性の金属酸化物層に変化する。
【0028】
積層体103のバルブ金属層102に効率良く通電できる点から、陽極酸化工程では、電解液120に接触した状態且つ、バルブ金属層102と接触しない状態の陰極板22と、電解液120に接触しない状態且つ、バルブ金属層102に接触した状態の陽極端子21との間に電圧を印可することが好ましい。
【0029】
陽極酸化の際の印加電圧は、5~100Vが好ましく、10~60Vがより好ましく、20~30Vがさらに好ましい。前記印加電圧が前記範囲内であれば、陽極酸化中に発生した熱により基材101がダメージを受けにくく、基材101が破断しにくい。
【0030】
陽極酸化の際の電解液120の温度は、0~30℃が好ましく、0~20℃がより好ましい。電解液120の温度が前記範囲内であれば、陽極酸化中に発生した熱により基材101がダメージを受けにくく、基材101が破断しにくい。
【0031】
従来技術では陽極酸化前後の水接触角の差が大きかったのに対し、実施形態に係る製造方法では、陽極酸化の前にバルブ金属層102の表面を親水化することにより、陽極酸化後の水接触角との差が小さくなる。これにより、電解液120の気液界面でメニスカスが小さくなり、液が波打つのを抑制することができる。その結果、透光性積層体が電流によるダメージを受けることを抑制しやすく、ヘーズが低くて破損しにくい透光性積層体を製造することができる。
【0032】
陽極酸化前後の水接触角の差、すなわち親水化されたバルブ金属層102の表面の水接触角と陽極酸化後の金属酸化物層の表面の水接触角との差は、45°以下が好ましく、40°以下がより好ましく、30°以下がさらに好ましい。
なお、水接触角は、液滴法で自動接触角計DM-300(協和界面科学(株)社製)を用いて測定される。
【0033】
電解液120としては、例えば、硫酸、シュウ酸、リン酸水溶液およびホウ酸アンモニウム水溶液のうちの1種以上を用いることができ、陽極酸化速度が速い点から、硫酸が好ましい。
電解液として硫酸を用いる場合、硫酸の濃度は、0.3M以上が好ましく、3M以上がより好ましく、5M以上がさらに好ましい。硫酸の濃度が前記下限値以上であれば、強い抗菌性を呈する透光性積層体を製造しやすい。硫酸の濃度は、15M以下が好ましく、12M以下がより好ましい。硫酸の濃度が前記上限値以下であれば、陽極酸化の際に安定してバルブ金属層102に通電しやすく、均質な透光性積層体を連続的に製造することが容易になる。
【0034】
(積層体)
実施形態に係る透光性積層体の製造方法に用いる積層体103は、透光性の基材101上にバルブ金属層102が積層されている。
基材101は、単層基材であってもよく、複層基材であってもよい。
基材101の材質としては、透光性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ガラス、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ナイロンが挙げられる。基材101の材質は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0035】
バルブ金属層102としては、加工性が良く、悪影響が少なく、安価であることから、アルミニウム層が好ましい。
バルブ金属層102におけるバルブ金属の純度は、95質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上がさらに好ましく、99.99質量%以上が特に好ましい。バルブ金属の純度が前記下限値以上であれば、陽極酸化の際に異種金属が脱落し、表面にマクロな欠陥が発生することを抑制しやすい。
【0036】
バルブ金属層102を完全に陽極酸化するために必要な時間を短縮できる点から、バルブ金属層102は薄膜であることが好ましい。具体的には、バルブ金属層102の厚みは、20nm~1μmであることが好ましく、30nm~300nmであることがより好ましい。
【0037】
基材101上にバルブ金属層102を形成する方法としては、例えば、蒸着法、スパッタリング法、金属箔を接着する等の従来公知の方法を用いることができる。
バルブ金属層102と基材101との密着性を向上させる点から、バルブ金属層102と基材101との間には、厚みが数nmの各種金属薄膜(図示されず)を設けてもよい。
【0038】
(透光性積層体)
本発明の製造方法により製造される透光性積層体は、透光性を有する基材と、バルブ金属層から形成された金属酸化物層とを有する、透光性を有する積層体である。バルブ金属層を陽極酸化してアニオンをドープすることにより、金属酸化物層が強い抗菌性を発揮する。
なお、透光性積層体は、未酸化のバルブ金属層を、透光性を損なわない程度の薄膜として含んでいてもよい。
【0039】
透光性積層体における金属酸化物層の全光線透過率は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。金属酸化物層の全光線透過率が前記下限値以上であれば、中のものを視認する必要のある透明性が求められる用途に透光性積層体を好適に用いることができる。金属酸化物層の全光線透過率の上限は、95%以下が好ましいが、限定はされない。
なお、金属酸化物層の全光線透過率は、JIS K 7136:2000「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」に記載の方法で測定される。
【0040】
透光性積層体のヘーズは、0%以上70%以下が好ましい。透光性積層体のヘーズが70%以下であれば、基材へのダメージを抑制し、加工する際に透光性積層体が破断することを防止しやすい。
なお、透光性積層体のヘーズは、JIS K 7136:2000「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」に記載の方法で測定される。
【実施例0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0042】
[水接触角]
液適法で協和界面科学(株)社製の自動接触角計DM-300を用いて水接触角を測定した。
【0043】
[外観評価]
各例で得た透光性積層体を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
<評価基準>
○:アルミニウム層の陽極酸化が十分に進行し、透光性に優れている。
×:陽極酸化が十分に進行せず、金属光沢を有している。
【0044】
[生産性評価]
各例における透光性積層体の製造における生産性を以下の基準で評価した。
<評価基準>
○:積層体を移動させながら連続的に陽極酸化を行うため生産性が優れている。
×:陽極酸化時の積層体が静止状態であるため生産性が劣る。
【0045】
[実施例1]
厚さ100μmのPETフィルム上に、厚さ50nmで純度99.99%のアルミニウム層が成膜された積層体を、5cm幅に切断して帯状の積層体とし、そのアルミニウム層表面に対してテクノビジョン社のUVオゾン装置を用いて親水化処理を行った。前記積層体におけるアルミニウム層表面の親水化処理前の水接触角は73°だったのに対し、親水化処理後の水接触角は15°であった。
得られた親水化後の積層体を陽極酸化処理装置にセットした。前記積層体を40mm/分の搬送速度で電解液中を陰極板に対向した状態で移動させながら、アルミニウム層に接触する陽極端子から直流25Vで電圧を印加し、アルミニウム層を陽極酸化して透光性積層体を得た。なお、電解液としては、温度0℃に温調された濃度12mol/Lの硫酸を用いた。得られた透光性積層体について金属酸化物層表面の水接触角を測定したところ、25°であった。
【0046】
[比較例1]
陽極酸化の前に親水化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様に透光性積層体を作製した。
【0047】
[比較例2]
陽極酸化の前に親水化処理を行わず、積層体を静止状態としてアルミニウム層を陽極酸化した以外は、実施例1と同様に透光性積層体を作製した。
【0048】
各例の製造条件と評価結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
陽極酸化前にアルミニウム層の表面を親水化し、積層体を移動させながら陽極酸化した実施例1では、アルミニウム層の陽極酸化が十分に進行して透光性に優れた金属酸化物層が形成され、外観が良好な透光性積層体を高い生産性で製造できた。
一方、陽極酸化前にアルミニウム層の表面を親水化しなかった比較例1では、得られた透光性積層体のアルミニウム層が完全には陽極酸化されておらず、金属光沢を有する外観であった。なお、比較例1は、均一に陽極処理がされていないため、陽極酸化前後の
水接触角の差の正確な値を測定できなかった。また、陽極酸化時の積層体が静止状態の比較例2は生産性が悪かった。