(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024133997
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】延伸多孔フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20240926BHJP
B29C 67/20 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08J9/00 A CES
B29C67/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044056
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】喜多 芹奈
(72)【発明者】
【氏名】森 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】間野 滋充
(72)【発明者】
【氏名】七瀬 卓己
【テーマコード(参考)】
4F074
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA21
4F074AB05
4F074AC26
4F074BC12
4F074BC14
4F074CA02
4F074CA06
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA10
4F074DA23
4F074DA24
4F074DA38
4F074DA53
4F214AA04
4F214AB16A
4F214AG01
4F214AG20
4F214AR12
4F214AR20
4F214UA32
4F214UC02
4F214UC09
4F214UC30
4F214UF01
4F214UW02
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、薄膜であっても透気度と機械的強度のバランスに優れた延伸多孔フィルムを提供することである。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤を含む延伸多孔フィルムであって、前記ポリオレフィン系樹脂は、(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体を含み、前記無機充填剤は、(b)炭酸カルシウムを含み、前記(a)及び(b)の合計質量を100質量%としたとき、前記(b)炭酸カルシウムの含有量が、30質量%以上50質量%以下の範囲内にあり、厚みが35μm未満である、延伸多孔フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤を含む延伸多孔フィルムであって、
前記ポリオレフィン系樹脂は、(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体を含み、
前記無機充填剤は、(b)炭酸カルシウムを含み、
前記(a)及び(b)の合計質量を100質量%としたとき、前記(b)炭酸カルシウムの含有量が、30質量%以上50質量%以下であり、
厚みが35μm未満である、延伸多孔フィルム。
【請求項2】
190℃、2.16kgにおける、前記ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)が、1.0g/10min~4.0g/10minである、請求項1記載の延伸多孔フィルム。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂の密度が、0.910~0.950g/cm3である、請求項2記載の延伸多孔フィルム。
【請求項4】
190℃、2.16kgにおける、前記(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体のメルトフローレート(MFR)が、1.0g/10min~4.0g/10minである、請求項1記載の延伸多孔フィルム。
【請求項5】
前記(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体の密度が、0.910~0.950g/cm3である、請求項4記載の延伸多孔フィルム。
【請求項6】
23℃における前記延伸多孔フィルムの流れ方向(MD方向)の引張最大強度が20MPa以上である、請求項1記載の延伸多孔フィルム。
【請求項7】
突き刺し強度を厚みで除した値が0.040N/μm以上である、請求項1記載の延伸多孔フィルム。
【請求項8】
透気度が5000秒/100mL以下である、請求項1記載の延伸多孔フィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項記載の延伸多孔フィルムを備えた衛生用品。
【請求項10】
ポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤を含む樹脂組成物を用いて樹脂シートを作製し、前記樹脂シートを少なくとも一軸方向に延伸する工程を有する延伸多孔フィルムの製造方法であって、
前記ポリオレフィン系樹脂は、(a)エチレン-(1-オクテン)共重合体を含み、
前記無機充填剤は、(b)炭酸カルシウムを含み、
前記(a)及び(b)の合計質量を100質量%としたとき、前記(b)炭酸カルシウムの含有量が、30質量%以上50質量%以下であり、
前記延伸多孔フィルムの厚みが35μm未満である、延伸多孔フィルムの製造方法。
【請求項11】
190℃、2.16kgにおける、前記ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)が、1.0g/10min~4.0g/10minである、請求項10記載の延伸多孔フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記ポリオレフィン系樹脂の密度が、0.910~0.950g/cm3である、請求項11記載の延伸多孔フィルムの製造方法。
【請求項13】
190℃、2.16kgにおける、前記(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体のメルトフローレート(MFR)が、1.0g/10min~4.0g/10minである、請求項10記載の延伸多孔フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記(a)エチレン-(1-オクテン)共重合体の密度が、0.910~0.950g/cm3である、請求項13記載の延伸多孔フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸多孔フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィンと無機充填剤を含有する樹脂組成物を延伸することにより、ポリオレフィンと無機充填剤との間で界面剥離を発生させ、多数のボイド(微多孔)を形成した多孔フィルムが知られている。特に、ポリオレフィンと無機充填剤を含有する樹脂組成物からなる延伸多孔フィルムは、内部の微多孔が連通孔を形成しているため、高い透気度・透湿度を有しながらも、液体の透過を抑制した透湿防水フィルムとして利用されている。該延伸多孔フィルムは、例えば紙おむつや女性用生理用品等の衛生材料、作業服、ジャンパー、ジャケット、医療用衣服、化学防護服等の衣服、マスク、カバー、ドレープ、シーツ及びラップ等の通気性及び透湿性と防水性が求められる用途に幅広く使用されている。例えば、特許文献1には、耐候性及び耐光性が改良されたポリエチレン系多孔質フィルムとして、ポリエチレン系樹脂100質量部に対して、無機充填剤を50~200質量部含んでなるフィルムを、少なくともフィルムの流れ方向に延伸して多孔化した多孔質フィルムであって、前記ポリエチレン系樹脂が、Z平均分子量(M)が30万以上であり、エチレンと炭素数が6以上のα-オレフィンとの共重合体よりなる線状低密度ポリエチレンを含んでなることを特徴とするポリエチレン系多孔質フィルムについて開示されている。
【0003】
ところで、無機充填剤による微多孔化においては、充填剤の含有量を増やすことで空孔率を上げて透気度を向上させられる一方、多孔質フィルムの強度が低下する。そこで、例えば特許文献2には、透気度と強度を兼ね備えている多孔質フィルムとして、重量平均分子量25万以上50万未満の高分子量ポリエチレン(a)と、重量平均分子量10万以上25万未満の高密度ポリエチレン(b)と、を(a)/(b)=10/90~90/10の組成比で混合したポリエチレン樹脂組成物及び充填剤(c)を含む樹脂組成物からなるフィルムを延伸した多孔質フィルムであって、その透気度が厚さ25μmあたり10~1000秒/100mlであることを特徴とする多孔質フィルムが提案されている。
【0004】
また、特許文献3には、突き刺し強度等の機械的物性に優れる多孔性フィルムとして、熱可塑性樹脂と充填剤とを含む熱可塑性樹脂組成物からなり、厚み25μm当たりの突き刺し強度が1N以上2.5N未満であることを特徴とする多孔性フィルムについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-161787号公報
【特許文献2】特開2007-297583号公報
【特許文献3】特開2007-112855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1においては、優れた耐候性を有する多孔質フィルムが開示されているが、多孔質フィルムの強度には着目されておらず、また、薄膜フィルムでの透気度と機械的強度のバランスについては考慮されていない。
一方、特許文献2及び3では、透気度と機械的強度を兼ね備えた多孔質フィルムが開示されているが、薄膜フィルムでの透気度と機械的強度のバランスは、必ずしも満足するものではなかった。
そこで、本発明の目的は、薄膜であっても透気度と機械的強度のバランスに優れた延伸多孔フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第1の態様は、ポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤を含む延伸多孔フィルムであり、本発明に係る第2の態様は、ポリオレフィン及び無機充填剤を含む樹脂組成物を用いて樹脂シートを作製し、次いで該樹脂シートを少なくとも一軸方向に延伸する工程を有する延伸多孔フィルムの製造方法である。
【0008】
本発明の具体的な態様の例を以下に示す。
[1] ポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤を含む延伸多孔フィルムであって、
前記ポリオレフィン系樹脂は、(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体を含み、
前記無機充填剤は、(b)炭酸カルシウムを含み、
前記(a)及び(b)の合計質量を100質量%としたとき、前記(b)炭酸カルシウムの含有量が、30質量%以上50質量%以下であり、
厚みが35μm未満である、延伸多孔フィルム。
[2] 190℃、2.16kgにおける、前記ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)が、1.0g/10min~4.0g/10minである、[1]記載の延伸多孔フィルム。
[3] 前記ポリオレフィン系樹脂の密度が、0.910~0.950g/cm3である、[1]又は[2]記載の延伸多孔フィルム。
[4] 190℃、2.16kgにおける、前記(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体のメルトフローレート(MFR)が、1.0g/10min~4.0g/10minである、[1]~[3]のいずれかに記載の延伸多孔フィルム。
[5] 前記(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体の密度が、0.910~0.950g/cm3である、[1]~[4]のいずれかに記載の延伸多孔フィルム。
[6] 23℃における前記延伸多孔フィルムの流れ方向(MD方向)の引張最大強度が20MPa以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の延伸多孔フィルム。
[7] 突き刺し強度を厚みで除した値が0.040N/μm以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の延伸多孔フィルム。
[8] 透気度が5000秒/100mL以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の延伸多孔フィルム。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の延伸多孔フィルムを備えた衛生用品。
[10] ポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤を含む樹脂組成物を用いて樹脂シートを作製し、前記樹脂シートを少なくとも一軸方向に延伸する工程を有する延伸多孔フィルムの製造方法であって、
前記ポリオレフィン系樹脂は、(a)エチレン-(1-オクテン)共重合体を含み、
前記無機充填剤は、(b)炭酸カルシウムを含み、
前記(a)及び(b)の合計質量を100質量%としたとき、前記(b)炭酸カルシウムの含有量が、30質量%以上50質量%以下であり、
前記延伸多孔フィルムの厚みが35μm未満である、延伸多孔フィルムの製造方法。
[11] 190℃、2.16kgにおける、前記ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)が、1.0g/10min~4.0g/10minである、[10]記載の延伸多孔フィルムの製造方法。
[12]
前記ポリオレフィン系樹脂の密度が、0.910~0.950g/cm3である、[10]又は[11]記載の延伸多孔フィルムの製造方法。
[13] 190℃、2.16kgにおける、前記(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体のメルトフローレート(MFR)が、1.0g/10min~4.0g/10minである、[10]~[12]のいずれかに記載の延伸多孔フィルムの製造方法。
[14] 前記(a)エチレン-(1-オクテン)共重合体の密度が、0.910~0.950g/cm3である、[10]~[13p]のいずれかに記載の延伸多孔フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、薄膜であっても透気度と機械的強度のバランスに優れた延伸多孔フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一例としての本発明の延伸多孔フィルム(以下、「本フィルム」と称す場合がある。)について説明する。
なお、本発明の範囲は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
<本明細書での用語について>
「延伸多孔フィルム」とは、少なくとも一軸方向に延伸された多孔フィルムであり、多孔フィルムとは、孔径が0.5μm以下の微細孔が複数形成されたフィルムをいう。
なお、該孔径については、バブルポイント法(JIS K3832又はASTM F316)で測定される最大孔径として評価することができ、より具体的には、パームポロメーターを用いて最大孔径を測定することができる。
【0012】
一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JISK6900)。
また、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。
しかし、フィルムとシートの境界は定かでないことから、本明細書においては両者を同一の意味を有する用語として用い、両者を統一して「フィルム」と記す。
【0013】
「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
【0014】
<延伸多孔フィルム>
本発明の延伸多孔フィルムは、少なくともポリオレフィン系樹脂及び無機充填剤を含む樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」とも称する。)から形成される。ポリオレフィン系樹脂は、(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体を含み、無機充填剤は、(b)炭酸カルシウムを含む。そして、延伸多孔フィルムの厚みは35μm未満である。
【0015】
(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体及び(b)炭酸カルシウムの合計質量を100質量%としたとき、(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体の含有量は、50質量%~70質量%であることが好ましく、50質量%~65質量%であることがより好ましく、50質量%~60質量%であることが最も好ましい。
【0016】
また、(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体及び(b)炭酸カルシウムの合計質量を100質量%としたとき、(b)炭酸カルシウムの含有量は、30質量%~50質量%であることが好ましく、35質量%~50質量%であることがより好ましく、40質量%~50質量%であることが最も好ましい。
【0017】
本発明の延伸多孔フィルムは、上記構成を有するため、薄膜であっても透気度と機械的強度のバランスに優れている。本発明の延伸多孔フィルムは、エチレン・(1-オクテン)共重合体に対する炭酸カルシウムの配合量が所定範囲に調整されていることで、炭酸カルシウムの分散性を良好に保つことができるため、薄膜のフィルムであっても透気度と機械的強度のバランスに優れている。
【0018】
(他の樹脂)
本樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂以外の他の樹脂を含んでいてもよく、他の樹脂としては、例えばポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合体、エチレン・酢酸ビニル系共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が挙げられる。これら他の樹脂は、1種又は2種以上使用することができる。
【0019】
本樹脂組成物中の他の樹脂の含有割合(本樹脂組成物の全質量(100質量%)に対する他の樹脂の含有割合)は、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが最も好ましい。
【0020】
(その他の添加剤)
本樹脂組成物は、その他にも、例えば可塑剤、滑剤、相容化剤、加工助剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、艶消し剤、抗菌剤、消臭剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤及び顔料等の各種添加剤を含有してもよい。
【0021】
<ポリオレフィン系樹脂>
前記ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンモノマーを主たるモノマー成分(主たるモノマー成分とは、全モノマー成分中最も含有割合の多いモノマー成分をいう。)とする樹脂であるが、本発明においては、該ポリオレフィン系樹脂として、少なくとも(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体を含む。ポリオレフィン系樹脂中における(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体の含有量(ポリオレフィン系樹脂の全質量(100質量%)に対する(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体の含有割合)は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。なお、ポリオレフィン系樹脂中における(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体の含有量は100質量%であってもよい。
【0022】
前記(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体は、エチレンを主たるモノマー成分とし、1-オクテンを他のモノマー成分とする共重合体であって、該共重合体中において、該エチレンに由来する構成単位の占める含有割合が50モル%以上であることが好ましい。
なお、この含有割合は、1H―NMR、13C―NMR等のNMR測定結果から算出することにより測定できる。より具体的には、測定装置としてBruker Advance400Mを用い、以下の条件で測定することができる。
【0023】
<測定条件>
測定温度:130℃
溶媒:ODCB+C6D6
測定法:1H、13C、DEPT135
【0024】
前記ポリオレフィン系樹脂は、(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体以外の他のポリオレフィン系樹脂を含んでいてもよく、他のポリオレフィン系樹脂としては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンや、ジエン、イソプレン、ブチレン、ブタジエン等のオレフィンモノマーによる単独重合体や、これらを2種以上共重合した多元共重合体が挙げられる。
また、他のポリオレフィン系樹脂は、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸グリシジル、ビニルアルコール、エチレングリコール、無水マレイン酸、スチレン、環状オレフィンが共重合されたものでもよい。
これらの中でも、他のポリオレフィン系樹脂は、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・(1-ブテン)共重合体、エチレン・(1-ヘキセン)共重合体、エチレン・(4-メチル-1-ペンテン)共重合体等のエチレン・(α-オレフィン)共重合体や、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・エチレングリコール共重合体、エチレン・無水マレイン酸共重合体、エチレン・スチレン共重合体、エチレン・ジエン共重合体、エチレン・環状オレフィン共重合体等のエチレン共重合体が好ましい。
【0025】
ポリオレフィン系樹脂中における(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体以外の他のポリオレフィン系樹脂の含有量(ポリオレフィン系樹脂の全質量(100質量%)に対する他のポリオレフィン系樹脂の含有割合)は、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが最も好ましい。
【0026】
<ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート>
190℃、2.16kgにおける、ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、1.0g/10min~4.0g/10minであることが好ましく、1.0g/10min~3.0g/10minであることがより好ましく、1.0g/10min~2.5g/10minであることが最も好ましい。
なお、メルトフローレートは、JIS K 7210-1:2014に準拠して測定され、より具体的には、エチレンモノマーを主たるモノマー成分とした樹脂である場合には、190℃、2.16kg荷重の条件で、プロピレンモノマーを主たるモノマー成分とした樹脂である場合は230℃、2.16kg荷重の条件で測定する。
また、2種以上のポリオレフィン系樹脂を使用する場合には、190℃、2.16kgにおける混合樹脂のメルトフローレートが上記範囲内にあることが好ましい。
【0027】
また、190℃、2.16kgにおける、(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体のメルトフローレート(MFR)が、1.0g/10min~4.0g/10minであることが好ましく、1.0g/10min~2.5g/10minであることがより好ましく、1.0g/10min~2.3g/10minであることが最も好ましい。(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体のメルトフローレートが上記範囲であることで、多孔性フィルムの成形性及び延伸性が良好となり、薄膜であっても透気度と機械的強度を兼ね備えることができる。メルトフローレートが1.0g/10min以上であることにより多孔性フィルムの成形性が向上し、また、メルトフローレートが4.0g/10min以下であることにより、多孔性フィルムの成形性・延伸性の向上に加えて、機械的強度を高めることができる。
なお、メルトフローレートは、JIS K 7210-1:2014に準拠して、190℃、2.16kg荷重の条件で測定する。
【0028】
<ポリオレフィン系樹脂の密度>
ポリオレフィン系樹脂の密度は、0.880~0.950g/cm3であることが好ましく、0.890~0.950g/cm3であることがより好ましく、0.910~0.950g/cm3であることがさらに好ましく、0.910~0.945g/cm3であることが最も好ましい。密度を上記上限値以下とすることで、多孔性フィルムの延伸性が良好となり、高い柔軟性と良好な透気度を有する延伸ムラの無い薄膜の多孔性フィルムを得ることができる。
なお、密度は、JIS K 7112:1999 B法に準拠して、ピクノメーター法の条件で測定され、2種以上のポリオレフィン系樹脂を使用する場合には、各々のポリオレフィン系樹脂の密度が、上記範囲内にあることが好ましい。
【0029】
(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体の密度は、0.880~0.950g/cm3であることが好ましく、0.890~0.950g/cm3であることがより好ましく、0.910~0.950g/cm3であることがさらに好ましく、0.910~0.945g/cm3であることが最も好ましい。密度を上記上限値以下とすることで、多孔性フィルムの延伸性が良好となり、高い柔軟性と良好な透気度を有する延伸ムラの無い薄膜の多孔性フィルムを得ることができる。
なお、密度は、JIS K 7112:1999 B法に準拠して、ピクノメーター法の条件で測定される。
【0030】
<無機充填剤>
本フィルムは、無機充填剤として、少なくとも(b)炭酸カルシウムを含む。
前記(a)エチレン・(1-オクテン)共重合体及び前記(b)炭酸カルシウムの合計質量100質量%中において、前記(b)炭酸カルシウムの含有量は、30質量%~50質量%の範囲内にあることが好ましく、35質量%~50質量%であることがより好ましく、40質量%~50質量%であることが最も好ましい。エチレン・(1-オクテン)共重合体に対する前記炭酸カルシウムの含有量が上記の範囲内にあることで、エチレン・(1-オクテン)共重合体に対する炭酸カルシウムの分散性が良好となり、薄膜フィルムであっても透気度と機械的強度のバランスに優れる延伸多孔フィルムが得られると考えられる。
なお、炭酸カルシウム以外の無機充填剤を使用することもでき、具体的には、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、タルク、クレイ、カオリナイト、モンモリロナイト等の微粒子や鉱物が挙げられる。
【0031】
<本フィルムの厚み>
本フィルムの厚みは35μm未満であり、とりわけ、5μm以上であることが好ましく、5μm~30μmであることがより好ましく、5μm~25μmであることが最も好ましい。本フィルムによれば、上記の厚み範囲、すなわち、薄膜領域であって透気度と機械的強度のバランスに優れる。
【0032】
<本フィルムの物性(1);空孔率>
本フィルムは、少なくとも一軸方向に延伸された多孔フィルムであり、多孔フィルムとは、孔径が0.5μm以下の微細孔が複数形成されたフィルムである。本フィルムの空孔率は、本フィルムの比重(W1)及び本樹脂組成物の比重(W0)から、以下の式により算出される。本フィルムの空孔率は10%~50%が好ましく、10%~45%がより好ましく、10%~40%が最も好ましい。
空孔率(%)= 100 ×[ 1-(W1/W0)]
【0033】
本フィルムと本樹脂組成物の比重は以下のようにして測定できる。まず、本フィルムを、縦方向(MD):50mm、横方向(TD):50mmの大きさに切り出し、本フィルムの比重(W1)を測定する。次に、本フィルムを構成する本樹脂組成物(Z)の比重(W0)の測定を行う。本樹脂組成物(Z)の比重(W0)の測定においては、本フィルムの未延伸フィルムを、縦方向(MD):50mm、横方向(TD):50mmの大きさに切り出し、比重測定を行えばよい。
また、未延伸シートの採取が困難な場合は、本フィルムを融点以上に加熱することにより本フィルムを融解し、空孔を消失させた後、プレスサンプルを作製し、該プレスサンプルより、縦方向(MD):50mm、横方向(TD):50mmの大きさに切り出し、比重測定を行えばよい。
かくして、得られた本フィルムの比重(W1)及び本樹脂組成物(Z)の比重(W0)から、上記の式より空孔率を算出する。
【0034】
<本フィルムの物性(2);坪量>
本フィルムにおける坪量は、5g/m2~30g/m2が好ましく、より好ましくは5g/m2~20g/m2である。坪量が5g/m2以上であることにより、機械的強度と耐水性を十分確保しやすい。
また、坪量が30g/m2以下であることにより、紙おむつ、女性用生理用品などのバックシート、防水フィルムなどの衛生材料に使用しても非常に薄く軽量であるため、快適な装着感が得られる。
なお、坪量は、サンプル(縦方向(MD):50mm、横方向(TD):50mm)の質量(g)を電子天秤で測定し、その数値を400倍した値を坪量とする。
【0035】
<本フィルムの物性(3);透気度>
本フィルムの透気度は、5000秒/100mL以下であることが好ましく、3000秒/100mL~100秒/100mLであることがより好ましく、1000秒/100mL~200秒/100mLであることが最も好ましい。透気度が100秒/100mL以上であることによって、耐水性及び耐透液性を十分確保しやすく、また、透気度が5000秒/100mL以下であることによって、十分な連通孔を有することを示唆している。
なお、透気度はJISP8117:2009(ガーレー試験機法)に規定される方法に準じて測定される100mLの空気が紙片を通過する秒数であり、例えば透気度測定装置(旭精工製王研式透気度測定機EGO1-55型)を用いて測定することができる。本発明においては、サンプルを無作為に3点測定し、その算術平均値を透気度とする。
【0036】
<本フィルムの物性(4):透湿度>
本フィルムの透湿度は、7000g/m2・24h~2000g/m2・24hが好ましく、より好ましくは、6000g/m2・24h~3000g/m2・24hである。本フィルムの透湿度が、6000g/m2・24h以下であることによって、耐水性を有することを示唆している。
また、透湿度が3000g/m2・24h以上であることによって、空孔が十分な連通性を有することが示唆される。
なお、本フィルムの透湿度は、JIS Z0208:1976(防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法))に準拠し、吸湿剤として塩化カルシウムを15g用い、温度40℃、相対湿度90%の恒温恒湿環境下の条件で測定する。サンプルは無作為に2点測定し、その算術平均値を求める。
【0037】
<本フィルムの物性(5);引張最大強度>
23℃における本フィルムの流れ方向(MD方向)の引張最大強度は、20MPa以上であることが好ましく、25MPa以上であることがより好ましく、30MPa以上であることが最も好ましい。本フィルムの流れ方向(MD方向)の引張最大強度が前記範囲であることにより、実用上十分な機械強度と柔軟性を確保できる。
上記流れ方向(MD方向)とは、後述する本フィルムの製造工程において、フィルムが搬送される方向(流れ方向)をいう。
なお、引張最大強度は、JIS K7161-1:2014に準拠し、機械流れ方向(MD)100mm×垂直方向(TD)10mmに切り出したサンプルを3点、測定温度23℃、測定相対湿度50%、引張速度200m/min、チャック間距離50mmの条件で測定される。
また、引張最大強度の上限値は、通常、200MPa以下である。
上記引張最大強度は、エチレン・(1-オクテン)共重合体に対する炭酸カルシウムの含有量を調整する他、ポリオレフィン系樹脂(特にエチレン・(1-オクテン)共重合体)の密度やMFRを上述した範囲に調整したり、多孔性フィルムの延伸倍率を下述する範囲に調整したり、厚みを上述した範囲に調整したりすることにより、上記範囲内とすることができる。
【0038】
<本フィルムの物性(6);突刺強度>
本フィルムの突刺強度は、0.6N以上であることが好ましく、0.65N以上であることがより好ましく、0.7N以上であることが最も好ましい。突刺強度を上記範囲とすれば、実用上十分な機械強度が得られやすい。
なお、突刺強度は、JIS Z1707:2019に準拠して測定した値であり、試験片をジグで固定し、測定温度23±2℃、相対湿度50±10%の環境下で、直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を試験速度300mm/分で突き刺し、針が貫通するまでの最大力(N)である。
また、本フィルムの突刺強度を厚みで除した値は、0.04N/μm以上であることが好ましく、0.05N/μm以上であることがより好ましく、0.06N/μm以上であることが最も好ましい。突刺強度を厚みで除した値を上記範囲とすれば、十分な機械的強度が得られ、フィルムの損傷とそれに伴う耐水圧低下を防止できる。
さらに、同様の理由から、本フィルムの突刺強度を坪量で除した値は、0.03N/(g/m2)以上であることが好ましく、0.035N/(g/m2)以上であることがより好ましく、0.04N/(g/m2)以上であることが最も好ましい。
なお、それぞれの上限値は、通常、0.20N/μm以下又は0.19N/(g/m2)以下である。
上記突刺強度や突刺強度を厚み又は坪量で除した値は、エチレン・(1-オクテン)共重合体に対する炭酸カルシウムの含有量を調整する他、ポリオレフィン系樹脂(特にエチレン・(1-オクテン)共重合体)の密度やMFRを上述した範囲に調整したり、多孔性フィルムの延伸倍率を下述する範囲に調整したり、厚みを上述した範囲に調整したりすることにより、上記範囲内とすることができる。
【0039】
<本フィルムの製造方法>
本フィルムは、従来公知の方法によって製造することができるが、本樹脂組成物を用いて樹脂シートを作製し、次いで該樹脂シートを少なくとも一軸方向に延伸する工程を有する方法により製造されることが好ましい。本フィルムの製造方法によれば、従来の簡便かつ低コストの製造方法によって、薄膜のフィルムであっても透気度と機械的強度のバランスに優れた延伸多孔フィルムを得ることができる。
【0040】
フィルムとしては、平面状、チューブ状のいずれであってもよいが、生産性(原反シートの幅方向に製品として数丁取りが可能)や内面に印刷が可能という観点から、平面状が好ましい。平面状のフィルムの製造方法としては、例えば押出機を用いて本樹脂組成物を溶融し、ダイからフィルム状に押出し、冷却ロールや空冷、水冷にて冷却固化して得られるフィルム(未延伸フィルム)を、少なくとも一軸方向に延伸した後、巻取機にて巻き取ることによりフィルムを得る方法が例示できる。
【0041】
また、前記未延伸フィルムを得る方法としては、本フィルムを構成する本樹脂組成物(Z)を混合した後、溶融混練させることが好ましい。具体的には、タンブラーミキサー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、リボンブレンダ―、スーパーミキサー等の混合機で適当な時間混合した後、異方向二軸押出機、同方向二軸押出機等の押出機を使用し、本樹脂組成物の均一な分散分配を促す。得られた本樹脂組成物は、押出機の先端にTダイや丸ダイ等の口金を接続し、フィルム状に成型することができる。
また、混練機の先端にストランドダイを接続し、ストランドカット、ダイカット等の方法により一旦ペレット化した後、(場合によっては追加する組成物とともに)得られたペレットを単軸押出機等に導入し、押出機の先端にTダイや丸ダイ等の口金を接続し、フィルム状に成形することもできる。フィルム状に成形するにあたり、インフレーション成形、チューブラー成形、Tダイ成形等のフィルム成形方法が好ましい。押出温度は、180~260℃程度が好ましく、より好ましくは190~250℃である。押出温度やせん断の状態を最適化することにより、材料の分散状態を制御することも、上述したフィルムの種々の物理的特性、機械的特性を所望の値にするのに有効である。
【0042】
本フィルムは、前記未延伸フィルムを延伸することによって製造することができる。例えば、押出機を用いて樹脂を溶融し、Tダイや丸ダイから押出し、冷却ロールで冷却固化し、縦方向(フィルムの流れ方向、MD)へのロール延伸や、横方向(フィルムの流れ方向に対して垂直方向、TD)へのテンター延伸等により、少なくとも一軸方向に延伸される。
また、縦方向に延伸した後、横方向に延伸してもよく、横方向に延伸した後、縦方向に延伸してもよい。さらには、同じ方向に2回以上延伸してもよく、縦方向に延伸した後、横方向に延伸し、さらに縦方向に延伸してもよい。
また、同時二軸延伸機により縦方向、横方向に同時に延伸されてもよい。
また、チューブラー成形により内圧によってチューブ状の未延伸フィルムを放射状に延伸されてもよい。さらには、インフレーション成形により得られたチューブ状の未延伸フィルムを折り畳んだ状態で延伸した後、折り畳まれたチューブ状の延伸多孔フィルムの耳を裁断し、2枚に分けてそれぞれ巻取を行ってもよく、折り畳んだ未延伸フィルムの耳を切断し、2枚の未延伸フィルムに分けた後、それぞれ延伸し、それぞれ巻取を行ってもよい。
【0043】
本発明においては、少なくとも縦方向に1回延伸を行うことが好ましく、また、延伸ムラや通気性との兼ね合いにより、縦方向に2回以上延伸を行ってもよい。すなわち、本フィルムは一軸延伸多孔フィルムであることが好ましい。延伸温度は0℃~120℃が好ましく、20℃~90℃がより好ましい。
また、延伸倍率は、合計1.2倍~6.0倍が好ましく、1.5倍~5.5倍がより好ましい。延伸倍率が合計1.2倍以上とすることで、均一に延伸されて優れた外観を有する延伸多孔フィルムが得られる。
一方、延伸倍率が合計6.0倍以下とすることで、フィルムの破断を抑制できる。
【0044】
必要に応じて、諸物性の改良等を目的として、延伸後に50℃以上120℃以下の温度で熱処理や弛緩処理を行うことができる。ロール延伸により延伸を行う場合、延伸工程と巻取工程の間で、延伸後のフィルムを加熱したロール(アニールロール)に接触させることで熱処理を行うことができる。
また、アニールロールにより加熱しながら、次に接触するロールの速度をアニールロール速度よりも遅くすることで、弛緩処理を行うことができる。
また、これらの熱処理や弛緩処理は、未延伸フィルムの延伸を延伸し、延伸多孔フィルムを巻き取った後、別工程にて行うこともできる。熱処理や弛緩処理の温度が低すぎるとフィルムの収縮率が低減されにくく、また、温度が高すぎるとロールに巻き付いたり、形成された微多孔が閉塞したりするおそれがある。そのため、50℃以上120℃以下の温度で熱処理や弛緩処理を行うことが好ましい。これらの熱処理、弛緩処理は複数回分割して実施されてもよい。
【0045】
また、本フィルムは、必要に応じて、スリット、コロナ処理、印刷、粘着剤の塗布、コーティング、蒸着等の表面処理や表面加工等を施すことができる。
【0046】
<用途>
本フィルムは、表裏を貫通する微細な孔が多数形成され、優れた通気性を有している。従って、紙おむつ、女性用生理用品等の衛生用品;作業服、ジャンパー、ジャケット、医療用衣服、化学防護服等の衣服;さらには、マスク、カバー、ドレープ、シーツ、ラップ等の通気性や透湿性を求められる用途に好適に利用することができる。
【0047】
上記紙おむつ、女性用生理用品等の衛生用品は、通常、綿状パルプ、吸収紙等からなる、体液を吸収して保持する吸収体が、その下面及び側面に配置されるバックシート材と、その表面(使用時に肌に接する側)に載置されるトップシート材(フェーシング材)とで内包される構造を有する。
【0048】
上記吸収体には、通常、角や突起があるため、上記バックシート材やトップシート材として、本フィルムを使用すれば、薄膜でありながら優れた強度と透気度を有することから、吸収体の角や突起により、本フィルムが破れて体液が漏れる等の虞がない。
【実施例0049】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例に示す測定値及び評価は、以下のようにして行った。
また、実施例及び比較例では、フィルムの流れ方向を「縦」方向(又は、MD)、その直角方向を「横」方向(又は、TD)と記載する。
【0050】
(1)延伸多孔フィルムの空孔率
実施例及び比較例の延伸多孔フィルムの空孔率は、上述した測定方法により測定した。結果は表2に示した。
【0051】
(2)延伸多孔フィルムの坪量
実施例及び比較例の延伸多孔フィルムの坪量は、上述した測定方法により測定した。結果は表2に示した。
【0052】
(3)延伸多孔フィルムの透気度
実施例及び比較例の延伸多孔フィルムの透気度は、上述した測定方法により測定した。結果は表2に示した。
【0053】
(4)延伸多孔フィルムの透湿度
実施例及び比較例の延伸多孔フィルムの透湿度は、上述した測定方法により測定した。結果は表2に示した。
【0054】
(5)延伸多孔フィルムの引張最大強度(MD方向)
実施例及び比較例の延伸多孔フィルムの引張最大強度(MD方向)は、上述した測定方法により測定した。結果は表2に示した。
【0055】
(6)延伸多孔フィルムの突刺強度等
実施例及び比較例の延伸多孔フィルムの突刺強度は、上述した測定方法により測定し、また、当該突刺強度を厚み又は坪量で除した値も計算した。結果は表2に示した。
【0056】
(7)延伸多孔フィルムの延伸性評価
実施例及び比較例の延伸多孔フィルムの延伸性評価は、巻き出し長さ3mの多孔性フィルム上に残った未延伸部分(延伸ムラ)の有無を目視で確認し、未延伸部分がない場合はA、未延伸部分がある場合はBとすることにより行った。結果は表2に示した。
【0057】
(8)延伸多孔フィルムの最大孔径
実施例及び比較例の延伸多孔フィルムのバブルポイント法による最大孔径は、上述した測定方法により測定した。結果は表2に示した。
【0058】
実施例及び比較例で使用した原材料は、表1のとおりである。原材料の諸物性については、上述した測定方法により測定される値である。
なお、使用した無機充填剤の詳細は、備北粉化工業(株)社製の重質炭酸カルシウム「ライトンBS-0」(平均粒子径1.1μm、ステアリン酸表面処理品)である。
【0059】
【0060】
<実施例1>
表1に示す原材料を表2に示す組成比率にて計量した後、ヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合、分散させて、同方向二軸押出機を用いて、設定温度220℃にて溶融混練した後、同方向二軸押出機の先端に接続したTダイにて、樹脂組成物を押出し、35℃に設定したキャスティングロールにて引き取り、冷却固化させて厚さ38μmの未延伸フィルムを得た。その後、得られた未延伸フィルムを、70℃に設定したロール(S)と70℃に設定したロール(T)間において、(S)-(T)ドロー比300%を掛けてMDに4.0倍延伸を行い、厚さ10μmの延伸多孔フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムに関して、各種評価を行った。結果を表2に纏めた。
【0061】
<実施例2>
表1に示す原材料を表2に示す組成比率に変更し、厚さ42μmの未延伸フィルムを得て、延伸ロール温度を75℃にし、(S)-(T)ロール間ドロー比を250%にして、MDに3.5倍延伸を行った以外は、実施例1と同様の手法により、厚さ15μmの延伸多孔フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムに関して、各種評価を行った。結果を表2に纏めた。
【0062】
<実施例3>
表1に示す原材料を表2に示す組成比率に変更し、厚さ35μmの未延伸フィルムを得て、(S)-(T)ロール間ドロー比を400%にして、MDに5.0倍延伸を行った以外は、実施例1と同様の手法により、厚さ8μmの延伸多孔フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムに関して、各種評価を行った。結果を表2に纏めた。
【0063】
<実施例4>
表1に示す原材料を表2に示す組成比率に変更し、厚さ35μmの未延伸フィルムを得て、(S)-(T)ロール間ドロー比を350%にして、MDに4.5倍延伸を行った以外は、実施例1と同様の手法により、厚さ9μmの延伸多孔フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムに関して、各種評価を行った。結果を表2に纏めた。
【0064】
<比較例1>
表1に示す原材料を表2に示す組成比率に変更し、厚さ41μmの未延伸フィルムを得て、延伸ロール温度を110℃にし、(S)-(T)ロール間ドロー比を150%にして、MDに2.5倍延伸を行った以外は、実施例1と同様の手法により、厚さ18μmの延伸多孔フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムに関して、各種評価を行った。結果を表2に纏めた。
【0065】
<比較例2>
表1に示す原材料を表2に示す組成比率に変更し、厚さ42μmの未延伸フィルムを得、延伸ロール温度を80℃にし、(S)-(T)ロール間ドロー比を150%にして、MDに2.5倍延伸を行った以外は、実施例1と同様の手法により、厚さ18μmの延伸多孔フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムに関して、各種評価を行った。結果を表2に纏めた。
【0066】
【0067】
実施例1~4で得られた多孔性フィルムは、ムラなく均一に延伸された薄膜フィルムであり、透気特性や透湿特性に優れるとともに、良好なフィルム流れ方向(MD方向)の引張最大強度、突刺強度を持つフィルムであった。
これらの結果は、実施例1~4の樹脂組成物中に含まれるエチレン・(1-オクテン)共重合体に対する炭酸カルシウムの含有量が所定の範囲にあることで、エチレン・(1-オクテン)に対する炭酸カルシウムの分散性が良好となったことで、好適な透気特性を有しながら、薄膜であっても良好な機械的強度を発揮すると考えられる。
一方、比較例1は、樹脂組成物中にエチレン・(1-オクテン)共重合体を含まないことから、比較例2は、樹脂組成物中のエチレン・(1-オクテン)共重合体に対する炭酸カルシウムの含有量が所定の範囲にないことから、延伸ムラのある多孔性フィルムが得られ、突刺強度やフィルム流れ方向(MD方向)の引張最大強度が低い値となった。
本発明の延伸多孔フィルムは、薄膜であっても透気度と機械的強度のバランスに優れる。従って、紙おむつ、女性用生理用品等の衛生用品;作業服、ジャンパー、ジャケット、医療用衣服、化学防護服等の衣服;さらには、マスク、カバー、ドレープ、シーツ、ラップ等の通気性や透湿性を求められる用途に用いる物品(部材シート)として好適に利用することができる。