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特開2024-134250リチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム、リチウムイオン電池集電体用フィルム箔及びリチウムイオン電池集電体
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  • 特開-リチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム、リチウムイオン電池集電体用フィルム箔及びリチウムイオン電池集電体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134250
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム、リチウムイオン電池集電体用フィルム箔及びリチウムイオン電池集電体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240926BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240926BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20240926BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B15/08 Q
B32B7/027
B32B27/36
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044456
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】千田 凌我
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F071AA45
4F071AA84
4F071AA88
4F071AB26
4F071AD02
4F071AD06
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AH12
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
4F100AB01
4F100AB01B
4F100AB01C
4F100AB10
4F100AB10B
4F100AB10C
4F100AB17
4F100AB17B
4F100AB17C
4F100AK41
4F100AK41B
4F100BA01
4F100BA03
4F100BA06
4F100EH66
4F100EH66B
4F100EH66C
4F100EH71
4F100EJ38
4F100EJ38A
4F100EJ42
4F100GB41
4F100JA03
4F100JA03A
(57)【要約】
【課題】溶融による短絡時電流遮断機能を向上させることで暴走反応の停止・防止に寄与でき、高温処理時の寸法安定性にも優れたリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【解決手段】示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解温度(Tm)が、258℃以下であり、120℃、5分間熱処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに0.7%以下である、リチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解温度(Tm)が、258℃以下であり、
120℃、5分間熱処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに0.7%以下である、
リチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
150℃、5分間熱処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに1.7%以下である、請求項1に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
180℃、5分間熱処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに4.0%以下である、請求項1に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
ポリエチレンナフタレート系共重合体(A)を含む、請求項1に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
ポリエステルフィルムにおける前記ポリエチレンナフタレート系共重合体(A)の含有量が、50質量%以上である、請求項4に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記ポリエチレンナフタレート系共重合体(A)が、ジカルボン酸成分(a-1)として2,6-ナフタレンジカルボン酸を含み、ジオール成分(a-2)としてビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物とエチレングリコールとを含む、請求項4に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記ジカルボン酸成分(a-1)中に、2,6-ナフタレンジカルボン酸を80モル%以上含有する、請求項6に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記ジオール成分(a-2)中に、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物を1モル%以上49モル%以下含有する、請求項6に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項9】
厚みが1μm以上12μm以下である、請求項1に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルムの両面に金属層を備える、リチウムイオン電池集電体用フィルム箔。
【請求項11】
前記金属層が、銅又はアルミニウムからなる、請求項10に記載のリチウムイオン電池集電体用フィルム箔。
【請求項12】
前記金属層が、蒸着、メッキ又はスパッタのいずれかにより設けられる、請求項10に記載のリチウムイオン電池集電体用フィルム箔。
【請求項13】
前記金属層が、二層構成である、請求項10に記載のリチウムイオン電池集電体用フィルム箔。
【請求項14】
請求項10に記載のリチウムイオン電池集電体用フィルム箔の金属層上に電極層を備える、リチウムイオン電池集電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム、リチウムイオン電池集電体用フィルム箔及びリチウムイオン電池集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルフィルムは、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、耐薬品性を有しており、包装用、電子部品用、電気絶縁用、金属ラミネート用、フレキシブルディスプレイ等のディスプレイ構成部材用、タッチパネル用、反射防止用、ガラス飛散防止用など、各種用途に用いられている。
【0003】
近年、リチウムイオン電池等の二次電池は、車両やポータブル機器などの各種製品で広く使用されている。かかる二次電池の電極は、例えば、電極活物質を含む電極活物質層が電極集電体の表面に付与されることで形成される。この電極集電体は、シート状の導電部材であり、電極活物質層から電極端子に至る導電経路の一部を形成する。
二次電池用の電極集電体には、樹脂基材の表面を金属薄膜で覆った積層構造の電極集電体から構成されることがある。かかる積層構造の電極集電体は、内部短絡などによる異常発熱が生じたときに樹脂基材が溶融変形して金属薄膜が破断する電流遮断機能を有しているため、異常発熱の進行防止に貢献できる利点を有する(特許文献1参照)。
【0004】
例えば、特許文献2には、耐熱性に優れ、薄膜化されたことにより電池容量、寿命が改良され、かつまた基材にフィルムを用いたことにより従来品より軽量化された二次電池用電極及びこれに用いるフィルムが開示されている。
また、特許文献3には、耐熱寸法安定性に優れ、電極剤基材を薄膜化したことにより電池容量が向上し、かつまたフィルムを用いることにより従来品より軽量化された二次電池用電極及びこれに用いるフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-311146号公報
【特許文献2】特開平10-40919号公報
【特許文献3】特開平10-40920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のフィルムは、高温処理時の寸法安定性について言及がなく、また、特許文献2及び3のフィルムは、溶融による短絡時電流遮断機能が不十分な場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、溶融による短絡時電流遮断機能を向上させることで暴走反応の停止・防止に寄与でき、高温処理時の寸法安定性にも優れたリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、次の構成を有することで、上記課題を解決できることを見出した。本発明は、以下の態様を有する。
【0009】
[1]示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解温度(Tm)が、258℃以下であり、120℃、5分間熱処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに0.7%以下である、リチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
[2]150℃、5分間熱処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに1.6%以下である、上記[1]に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
[3]180℃、5分間熱処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに3.7%以下である、上記[1]又は[2]に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
[4]ポリエチレンナフタレート系共重合体(A)を含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
[5]ポリエステルフィルムにおける前記ポリエチレンナフタレート系共重合体(A)の含有量が、50質量%以上である、上記[4]に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
[6]前記ポリエチレンナフタレート系共重合体(A)が、ジカルボン酸成分(a-1)として2,6-ナフタレンジカルボン酸を含み、ジオール成分(a-2)としてビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物とエチレングリコールとを含む、上記[4]又は[5]に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
[7]前記ジカルボン酸成分(a-1)中に、2,6-ナフタレンジカルボン酸を80モル%以上含有する、上記[6]に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
[8]前記ジオール成分(a-2)中に、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物を1モル%以上49モル%以下含有する、上記[6]又は[7]に記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
[9]厚みが1μm以上12μm以下である、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム。
[10]上記[1]~[9]のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルムの両面に金属層を備える、リチウムイオン電池集電体用フィルム箔。
[11]前記金属層が、銅又はアルミニウムからなる、上記[10]に記載のリチウムイオン電池集電体用フィルム箔。
[12]前記金属層が、蒸着、メッキ又はスパッタのいずれかにより設けられる、上記[10]又は[11]に記載のリチウムイオン電池集電体用フィルム箔。
[13]前記金属層が、二層構成である、上記[10]~[12]のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池集電体用フィルム箔。
[14]上記[10]~[13]のいずれかに記載のリチウムイオン電池集電体用フィルム箔の金属層上に電極層を備える、リチウムイオン電池集電体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶融による短絡時電流遮断機能を向上させることで暴走反応の停止・防止に寄与でき、高温処理時の寸法安定性にも優れたリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るフィルム箔の構造を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る金属層が二層構成である場合を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る金属層が二層構成である場合のフィルム箔の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。ただし、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<<ポリエステルフィルム>>
本発明のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルム(以下、「本フィルム」とも称する)は、示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解温度(Tm)が258℃以下であり、120℃、5分間熱処理したときの収縮率が長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに0.7%以下である。
【0014】
なお、フィルムの長手方向(MD)とは、フィルムの製造工程でフィルムが進行する方向、すなわちフィルムロールの巻き方向をいい、機械方向や縦方向とも称する。
フィルムの幅方向(TD)とは、フィルム面に平行かつ長手方向と直交する方向をいい、すなわち、フィルムロール状としたときロールの中心軸と平行な方向をいい、横方向とも称する。
【0015】
本フィルムは、上述の要件を満たすものであれば、特に限定されず、本フィルムは単層構造であっても積層(多層)構造であってもよい。本フィルムが積層構造の場合、本フィルムは2層構造、3層構造などでもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層又はそれ以上の多層であってもよい。積層する層数は、特に限定されないが、10層以下であることが好ましい。10層以下であれば、各層の厚みが十分となるため、製膜時の積層性が十分となり、フローマーク等が発生しにくくなり、フィルムの品質が十分保たれる。
なお、本フィルムが2層以上の積層構造である場合、2種3層、3種3層が好ましく、2種3層であることがより好ましい。
【0016】
また、本フィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された延伸フィルムであることが好ましい。その中でも、力学特性のバランスや平面性に優れる点で、二軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0017】
本フィルムは、ポリエステルを主成分樹脂とすることが好ましい。また、本フィルムが積層構造の場合にあっては、各層の主成分樹脂がポリエステルであることが好ましい。
なお、「主成分樹脂」とは、各層を構成する樹脂のうち最も含有割合の多い樹脂を意味し、例えば各層を構成する樹脂のうち50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上(100質量%を含む)を占める樹脂である。
【0018】
<ポリエステル>
本フィルムの原料であるポリエステルは、特に限定されず、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。具体的には、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合してなるポリエステルが挙げられる。
【0019】
上記ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0020】
上記ジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ダイマージオール、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF若しくはビスフェノールS等のビスフェノール化合物若しくはその誘導体又はそれらのエチレンオキサイド付加物)等が挙げられる。
【0021】
代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等が例示される。
【0022】
共重合ポリエステルとしては、ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の主成分となる化合物、及び、ジオール成分の主成分となる化合物以外の第3成分を共重合成分として含む、共重合ポリエステルを挙げることができる。
【0023】
中でも、本フィルムは、上記結晶融解温度(Tm)及び上記収縮率を所望の値へと調整しやすい観点から、ポリエステルとしてポリエチレンナフタレート(以下、「PEN」とも称する)系共重合体(A)を含むことが好ましい。
本フィルムにおける前記PEN系共重合体(A)の含有量は、本フィルムを構成する樹脂中、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%、さらに好ましくは90質量%以上(100質量%を含む)である。
なお、本フィルムが積層構造の場合にあっては、各層中に含まれるPEN系共重合体(A)の含有量が、いずれも上記を満たすことが好ましい。
【0024】
前記PEN系共重合体(A)とは、具体的には、ジカルボン酸成分(a-1)及びジオール成分(a-2)を含み、より具体的には、前記ジカルボン酸成分(a-1)として2,6-ナフタレンジカルボン酸、前記ジオール成分(a-2)としてエチレングリコールを含み、ジカルボン酸成分(a-1)及びジオール成分(a-2)の少なくともいずれかに共重合成分を含有する。
【0025】
前記PEN系共重合体(A)は、ジカルボン酸成分(a-1)中に、2,6-ナフタレンジカルボン酸を80モル%以上含有することが好ましく、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくはジカルボン酸成分(a-1)の全て(100モル%)が2,6-ナフタレンジカルボン酸である。
ジカルボン酸成分(a-1)中の2,6-ナフタレンジカルボン酸の含有量を80モル%以上とすることにより、上記収縮率を所望の範囲へと調整しやすくなる。
【0026】
前記PEN系共重合体(A)は、ジオール成分(a-2)中に、エチレングリコールを51モル%以上含有することが好ましく、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、とりわけ好ましくは90モル%以上である。一方、ジオール成分(a-2)中のエチレングリコールの上限値は、好ましくは99モル%以下、より好ましくは98モル%以下、さらに好ましくは97モル%以下、特に好ましくは96モル%以下、とりわけ好ましくは95モル%以下である。
ジオール成分(a-2)中のエチレングリコールの含有量をかかる範囲とすることにより、上記結晶融解温度(Tm)を所望の範囲へと調整しやすくなる。
【0027】
前記PEN系共重合体(A)は、ジカルボン酸成分(a-1)中に共重合成分を好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下含有し、さらに好ましくはジカルボン酸成分(a-1)の全てが2,6-ナフタレンジカルボン酸であり、すなわち共重合成分は0モル%である。
また、前記PEN系共重合体(A)は、ジオール成分(a-2)中に共重合成分を49モル%以下含有することが好ましく、より好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、特に好ましくは20モル%以下、とりわけ好ましくは10モル%以下含有する。一方、ジオール成分(a-2)中の共重合成分の下限値は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは2モル%以上、さらに好ましくは3モル%以上、特に好ましくは4モル%以上、とりわけ好ましくは5モル%以上である。
ジカルボン酸成分(a-1)及び/又はジオール成分(a-2)中の共重合成分の含有量をかかる範囲とすることにより、上記結晶融解温度(Tm)及び上記収縮率を所望の範囲へと調整しやすくなる。
【0028】
前記ジカルボン酸成分(a-1)に加えられる共重合成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。成形性の観点から、イソフタル酸、2,5-フランジカルボン酸、2,4-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸が好ましい。これらの共重合成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
また、前記ジオール成分(a-2)に加えられる共重合成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ダイマージオール、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF若しくはビスフェノールS等のビスフェノール化合物若しくはその誘導体又はそれらのエチレンオキサイド付加物)等が挙げられる。フィルム強度保持の観点から、ビスフェノール類がより好ましく、ビスフェノール類としては、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物を用いることが好ましい。これらの共重合成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
すなわち、前記PEN系共重合体(A)は、ジカルボン酸成分(a-1)として2,6-ナフタレンジカルボン酸を含み、ジオール成分(a-2)としてビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物とエチレングリコールとを含むことが最も好ましい。
このPEN系共重合体(A)において、ジカルボン酸成分(a-1)中に、2,6-ナフタレンジカルボン酸を好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%含有する。
また、このPEN系共重合体(A)において、ジオール成分(a-2)中に、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物を好ましくは1モル%以上49モル%以下、より好ましくは2モル%以上40モル%以下、さらに好ましくは3モル%以上30モル%以下、特に好ましくは4モル%以上20モル%以下、とりわけ好ましくは5モル%以上10モル%以下含有し、エチレングリコールを好ましくは51モル%以上99モル%以下、より好ましくは60モル%以上98モル%以下、さらに好ましくは70モル%以上97モル%以下、特に好ましくは80モル%以上96モル%以下、とりわけ好ましくは90モル%以上95モル%以下含有する。
【0031】
なお、通常、エチレングリコールを原料の1つとしてポリエステルを製造(重縮合)する場合、エチレングリコールからジエチレングリコールが副生する。本明細書においては、このジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールと称する。エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生量は、重縮合の様式等によっても異なるが、エチレングリコールのうち5モル%以下程度である。本発明においては、5モル%以下のジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールとした上で、前記副生ジエチレングリコールもエチレングリコールに包含されるものとし、共重合成分とは区別される。一方、ジエチレングリコールの含有量によっては、より具体的にはジエチレングリコールが5モル%を超えて含有されている場合には、ジエチレングリコールは副生ジエチレングリコールとしてではなく、共重合成分として扱う。
【0032】
なお、本フィルムが多層構造である場合には、いずれかの層、好ましくは各層中に含まれるPEN系共重合体(A)を構成する共重合成分の種類と含有量は、上記と同様であればよく、各層を構成する樹脂や各層中のPEN系共重合体(A)は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
<重合触媒>
ポリエステルを重縮合する際の重縮合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えばチタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物等が挙げられる。
【0034】
<粒子>
本フィルム中には、粒子を含有させることも可能である。ポリエステルフィルムは、粒子を含有することで、易滑性が付与され、かつ各工程での傷発生を防止して、取扱い性が良好となる。
本フィルム中に含有させる粒子の種類は、易滑性を付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子の他、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子等の架橋高分子、シュウ酸カルシウム及びイオン交換樹脂等の有機粒子を挙げることができる。
さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0035】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。
また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0036】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.01~5μm以下、好ましくは0.03~4μm、より好ましくは0.05~3μmの範囲である。平均粒径がかかる範囲であれば、本フィルムの取り扱い性と透明性を両立させることができる。
なお、粒子の平均粒径は、粒子が粉体の場合には、遠心沈降式粒度分布測定装置(例えば株式会社島津製作所製、「SA-CP3型」)を用いて粉体を測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径(d50)を平均粒径とすることができる。フィルム、層又は樹脂中の粒子の平均粒径については、10個以上の粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)観察して粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、非球状粒子の場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
【0037】
本フィルムに粒子を含有させる場合、例えば、表層と中間層を設けて、表層に粒子を含有させることが好ましい。また、3種3層構造などにより表裏異設計とする場合は、少なくとも一方の表層のみに粒子を含有させることも可能である。
粒子の含有量は、平均粒径にも依存するが、粒子を含有する層において、0.0003質量%以上5質量%以下が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上3質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下である。かかる範囲であれば、本フィルムの滑り性と透明性を良好なものとすることができる。
【0038】
本フィルム中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化又はエステル交換反応終了後、添加するのが好ましい。
【0039】
<その他>
オリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えばポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
また、本フィルムを3層以上の構成とし、本フィルムの表層を、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステル原料を用いた層とすることで、オリゴマー成分の析出量を抑えてもよい。
また、ポリエステルは、エステル化又はエステル交換反応をした後に、さらに反応温度を高くして減圧下で溶融重縮合して得てもよい。
【0040】
なお、本フィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0041】
本フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲において、ポリエステル以外のその他の樹脂を含むことができる。
その他の樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、及び、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0042】
本フィルムの厚みは、1μm以上12μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以上10μm以下、さらに好ましくは2μm以上8μm以下、特に好ましくは2μm以上6μm以下である。
当該厚みを1μm以上とすることで、フィルム強度が実用範囲内に保たれる。一方、当該厚みを12μm以下とすることで、リチウムイオン電池集電体用フィルム箔としたときに、フィルム箔、ひいてはリチウムイオン電池集電体の薄膜化・軽量化に寄与できる。当該厚みは、製膜条件によって調整することができる。
なお、本フィルムの厚みについては、1/1000mmのダイヤルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定しその平均を厚みとした。
【0043】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
次に、本フィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
例えば二軸延伸フィルムを製造する場合、先に述べたポリエステルの乾燥したペレットを、押出機などの溶融押出装置を用いてダイから溶融シートとして押し出し、回転冷却ドラムなどの冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。ここで、冷却は、例えばポリマーのガラス転移点以下の温度となるように行い、実質的に非晶状態の未配向シート(未延伸シート)を得るとよい。また、シートの平面性を向上させるためシートと冷却ロールとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法及び/又は液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0044】
次に、得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロール又はテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7.0倍、好ましくは3.0~6.0倍である。
【0045】
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7.0倍、好ましくは3.5~6.0倍である。
【0046】
そして、引き続き、通常180~270℃の温度で、緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸延伸フィルムを得る。この熱処理は、熱固定工程とも呼ばれる。熱処理は、温度の異なる2段以上の工程で行ってもよい。
また、熱処理の後に冷却ゾーンにて冷却を行ってもよい。冷却温度は、フィルムを構成するポリエステルのガラス転移温度(Tg)より高い温度であることが好ましく、より具体的には、100~160℃の範囲であることが好ましい。この冷却は、温度の異なる2段以上の工程で行ってもよい。
上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0047】
また、本フィルムの製造に同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で機械方向(縦方向)及び幅方向(横方向)に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で好ましくは4~50倍、より好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。
そして、引き続き、通常170~250℃の温度で、緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式及びリニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0048】
<ポリエステルフィルムの物性>
本フィルムの示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解温度(Tm)は、258℃以下である。当該結晶融解温度(Tm)が258℃を超える場合、後述する電池に用いた際の短絡時の溶融絶縁の開始温度が高くなるため、短絡による暴走反応の停止・防止の開始が遅くなる場合がある。すなわち、短絡時の溶融絶縁の開始温度を低くすることで、溶融による短絡時電流遮断機能を向上させることができる。
かかる観点から、当該結晶融解温度(Tm)は、256℃以下であることが好ましく、より好ましくは254℃以下、さらに好ましくは252℃以下である。
一方、高温処理時の成形性及び強度保持の観点から、当該結晶融解温度(Tm)は、200℃以上であることが好ましく、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上である。
【0049】
当該結晶融解温度(Tm)は、本フィルムを構成するポリエステルの種類や含有量等によって調整することができる。
なお、当該結晶融解温度(Tm)は、実施例に記載の方法によって測定できる。
【0050】
また、本フィルムの120℃、5分間熱処理したときの収縮率は、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに0.7%以下である。当該収縮率(120℃、5分)が0.7%を超える場合、高温処理時の寸法安定性が不十分な場合がある。高温処理としては、後述する金属層を設ける処理が挙げられ、金属層を設ける際の収縮が小さければ、金属層との密着性低下やフィルムの変形を抑制することができる。
かかる観点から、当該収縮率(120℃、5分)は、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに0.6%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以下である。当該収縮率(120℃、5分)の下限値は、特に制限されないが、通常-0.5%程度である。
【0051】
高温処理時の寸法安定性を向上させる観点から、本フィルムの150℃、5分間熱処理したときの収縮率は、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに1.7%以下であることが好ましく、より好ましくは1.6%以下である。当該収縮率(150℃、5分)の下限値は、特に制限されないが、通常-0.5%程度である。
また、同様の観点から、本フィルムの180℃、5分間熱処理したときの収縮率は、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに4.0%以下であることが好ましく、より好ましくは3.5%以下、さらに好ましくは3.0%以下、特に好ましくは2.5%以下である。当該収縮率(180℃、5分)の下限値は、特に制限されないが、通常-0.5%程度である。
【0052】
上記収縮率(120℃、5分)、収縮率(150℃、5分)及び収縮率(180℃、5分)は、本フィルムを構成するポリエステルの種類や含有量、本フィルムの製膜条件等によって調整することができる。
なお、これらの収縮率は、実施例に記載の方法によって測定できる。
【0053】
<<フィルム箔>>
本発明のリチウムイオン電池集電体用フィルム箔(以下、「本フィルム箔」とも称する)は、本フィルムの両面に金属層を備えることが好ましい。
すなわち、図1に示したとおり、本フィルム箔1は、ポリエステルフィルム11の両面に金属層12を備えることが好ましい。
【0054】
<金属層>
前記金属層を形成する金属としては、導電性を有する金属であれば特に限定されず、例えばアルミニウム、ニッケル、金、銀、銅、カドミウム、チタンなどが挙げられる。中でも、リチウムイオン電池の正極に使用する電極集電体(正極集電体)や負極に使用する電極集電体(負極集電体)として汎用的に用いられている観点から、前記金属層は、銅又はアルミニウムからなることが好ましい。ここで、「からなる」とは、銅又はアルミニウムを主成分として含有していることを意味する。
なお、前記金属層は、導電性を有する金属以外の元素を含有していてもよい。
【0055】
前記金属層は、蒸着、メッキ又はスパッタのいずれかにより設けられることが好ましく、より具体的には、真空蒸着法、エレクトロプレーティング法、スパッタリング法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0056】
中でも、前記金属層は二層構成であることが好ましい。
かかる態様の一例として、金属層12は、蒸着又はスパッタにより設けられた金属層21と、メッキにより設けられた金属層22との二層構成が挙げられる(図2参照)。かかる場合、本フィルム箔1は、ポリエステルフィルム11の両面に、蒸着又はスパッタにより設けられた金属層21と、メッキにより設けられた金属層22をこの順に備えることとなる(図3参照)。
このような二層構成とすることで、従来の性能を保ちながら、従来の金属箔よりもさらに薄膜化・軽量化することができたり、従来の金属箔に比べてコストを削減したりすることができる。
【0057】
<<リチウムイオン電池集電体>>
本発明のリチウムイオン電池集電体(以下、「本集電体」とも称する)は、前記金属層上に電極層を備えることが好ましい。
前記電極層は、前記金属層表面に、従来公知の電極剤を積層することにより形成され、リチウムイオン電池用電極とすることができる。
さらに、本集電体を用い、従来から知られている方法で、リチウムイオン電池を製造することができる。
【0058】
<<用途>>
本フィルム及び本フィルム箔は、リチウムイオン電池集電体用に用いることができる。
したがって、本集電体は、正極集電体としては電極層(正極)/金属層/ポリエステルフィルム/金属層/電極層(正極)、負極集電体としては電極層(負極)/金属層/ポリエステルフィルム/金属層/電極層(負極)で例示される構成を備えることが好ましい。
本集電体が、かかる構成を備えることで、従来の金属箔を使用したリチウムイオン電池集電体、より具体的には電極層(正極)/金属層/電極層(正極)や電極層(負極)/金属層/電極層(負極)に比べて、短絡による暴走反応の停止・防止が可能となり、それでいて薄膜化・軽量化やコスト削減に寄与できる利点を有する。
【0059】
本フィルム、本フィルム箔及び本集電体が、短絡による暴走反応の停止・防止の寄与に貢献できる理由は、短絡部位の電流遮断機能を有するためである。電流遮断は、異常発熱時にフィルムが溶融変形して金属薄膜(金属層)が破断することにより、あるいはフィルム基材(ポリエステルフィルム)が溶融して短絡部位を絶縁することにより、その機能が発揮される。特に、本発明では、ポリエステルフィルムの結晶融解温度(Tm)が特定範囲であることにより、短絡時の溶融絶縁の開始温度を低くすることができ、溶融絶縁による暴走反応の停止・防止に対してより早い段階から寄与することができる。
また、本フィルム、本フィルム箔及び本集電体が、薄膜化・軽量化やコスト削減に寄与できる理由は、上述のとおり、金属層の一部をポリエステルフィルムに置き換えることにより、金属の使用を削減することができるためである。
【0060】
<<語句の説明>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0061】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
ただし、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
<評価方法>
(1)固有粘度(IV)
ポリエステルに非相溶な成分を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mLを加えて溶解させ、粘度測定装置「VMS-022UPC・F10」(株式会社離合社製)を用いて、30℃で測定した。
【0063】
(2)粒子の平均粒径
株式会社島津製作所製の遠心沈降式粒度分布測定装置(SA-CP3型)を用いて測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径を平均粒径d50とした。
【0064】
(3)結晶融解温度(Tm)
株式会社パーキンエルマー製の示差走査熱量測定装置(DSC 8500)を用いてJIS K7121(2012年)に準じて25℃から300℃まで分速10℃にて昇温した際に現れる結晶融解温度(Tm)を測定した。最大吸熱ピークの極値を結晶融解温度(Tm)とした。内蔵ソフトにおける「解析」メニュー内の「ピーク面積」から該当最大吸熱ピーク範囲を選択して解析を行った。
【0065】
(4)収縮率
1.5cm×15cmの試料フィルムを無張力状態で所定の温度(120℃、150℃、180℃)に保った熱風式オーブン中、5分間熱処理を施し、その前後の試料フィルムの長さを測定して下記式にて算出した。なお、フィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)のそれぞれについて測定した。
収縮率(%)={(熱処理前のサンプル長)-(熱処理後のサンプル長)}÷(熱処理前のサンプル長)×100
【0066】
<使用した材料>
原料A:ジカルボン酸成分(a-1):2,6-ナフタレンジカルボン酸=100モル%、ジオール成分(a-2):エチレングリコール=95モル%、ビスフェノールA-エチレンオキサイド付加物=5モル%のポリエチレンナフタレート系共重合体(A)(固有粘度=0.62dL/g)
原料B:ホモポリエチレンナフタレート(固有粘度=0.62dL/g)
原料C:ホモポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.65dL/g)
原料D:ホモポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.85dL/g)
原料E:ホモポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.59dL/g)
原料F:ホモポリエチレンテレフタレートに、平均粒径3.5μmのシリカ粒子を1.0質量%配合したマスターバッチ(固有粘度=0.70dL/g)
【0067】
(実施例1)
原料Aを二軸スクリュー押出機に投入し、300℃で押出をして、静電印加密着法を用いて50℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させることで、未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートをロール延伸機で長手方向(MD)に130℃で3.8倍に延伸した。さらに、テンター内にて120℃で予熱した後、幅方向(TD)に130℃で4.7倍に延伸した。最後に230℃で熱固定処理を施し、厚み4μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2)
原料Aを二軸スクリュー押出機に投入し、300℃で押出をして、静電印加密着法を用いて50℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させることで、未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートをロール延伸機で長手方向(MD)に125℃で3.7倍に延伸した。さらに、テンター内にて120℃で予熱した後、幅方向(TD)に130℃で4.7倍に延伸した。最後に230℃で熱固定処理を施し、厚み4μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0069】
(比較例1)
原料Bを二軸スクリュー押出機に投入し、300℃で押出をして、静電印加密着法を用いて50℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させることで、未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートをロール延伸機で長手方向(MD)に130℃で3.8倍に延伸した。さらに、テンター内にて120℃で予熱した後、幅方向(TD)に130℃で4.7倍に延伸した。最後に230℃で熱固定処理を施し、厚み4μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0070】
(比較例2)
原料C、原料D、及び原料Fをそれぞれ65質量%、15質量%、20質量%の割合で混合した混合原料を二軸スクリュー押出機に投入し、280℃で押出をして、静電印加密着法を用いて30℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させることで未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートをロール延伸機で長手方向(MD)に83℃で3.9倍に延伸した。さらに、テンター内にて85℃で予熱した後、幅方向(TD)に100℃で4.8倍に延伸した。最後に230℃で熱固定処理を施し、厚み5μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0071】
(比較例3)
原料C、原料D、原料E、及び原料Fをそれぞれ20質量%、23質量%、48質量%、9質量%の割合で混合した混合原料を二軸スクリュー押出機に投入し、280℃で押出をして、静電印加密着法を用いて28℃に設定した冷却ロール上で冷却固化させることで未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートをロール延伸機で長手方向(MD)に83℃で2.7倍に延伸し、続けて長手方向(MD)に83℃で1.7倍に延伸した。さらに、テンター内にて78℃で予熱した後、幅方向(TD)に95℃で4.0倍に延伸した。最後に225℃で熱固定処理を施し、厚み5μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1の結果から分かるように、実施例のポリエステルフィルムは、示差走査熱量測定(DSC)による結晶融解温度(Tm)が258℃以下であり、120℃、5分間熱処理したときの収縮率が長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに0.7%以下であることから、溶融による短絡時電流遮断機能を向上させることで暴走反応の停止・防止に寄与でき、高温処理時の寸法安定性にも優れるフィルムである。したがって、本発明のポリエステルフィルムは、リチウムイオン電池集電体用として好適に使用できる。
【0074】
一方、比較例1のポリエステルフィルムは、結晶融解温度(Tm)が所定の範囲を超え、比較例2及び3のポリエステルフィルムは、120℃、5分間熱処理したときの収縮率が所定の範囲を超えるフィルムであった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のリチウムイオン電池集電体用ポリエステルフィルムは、溶融による短絡時電流遮断機能を向上させることで暴走反応の停止・防止に寄与でき、高温処理時の寸法安定性にも優れたものである。
また、本発明のリチウムイオン電池集電体は、本発明のリチウムイオン電池集電体用フィルム箔を備えることで、従来の金属箔を使用したリチウムイオン電池集電体に比べて、短絡による暴走反応の停止・防止が可能となり、それでいて薄膜化・軽量化やコスト削減に寄与できる利点を有するため、その工業的価値は高い。
【符号の説明】
【0076】
1 フィルム箔
11 ポリエステルフィルム
12 金属層
21 金属層(蒸着又はスパッタ)
22 金属層(メッキ)
図1
図2
図3