(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134421
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】チオール化合物、架橋剤、硬化性組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20240926BHJP
C08G 75/045 20160101ALI20240926BHJP
C07C 323/52 20060101ALI20240926BHJP
C07C 323/12 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
C08G75/045
C07C323/52
C07C323/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044719
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古海 誓一
(72)【発明者】
【氏名】馬場 蓉
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直人
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
4J030
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB49
4H006TA04
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB49
4H048VA20
4H048VA22
4H048VA40
4J030BA03
4J030BA47
4J030BB07
4J030BB13
4J030BC33
4J030BC38
4J030BC43
4J030BF19
4J030BG23
(57)【要約】
【課題】架橋剤として使用可能であり、かつ室温で液状であるチオール化合物の提供
【解決手段】下記一般式(1)で表される構造を含むチオール化合物。一般式(1)中、R
1は、2価の連結基を表し、R
2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R
3はそれぞれ独立に、主鎖の原子数が10以上である2価の連結基を表す。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を含むチオール化合物。
【化1】
一般式(1)中、R
1は、2価の連結基を表し、R
2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R
3はそれぞれ独立に、主鎖の原子数が10以上である2価の連結基を表す。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される構造は、前記一般式(1A)で表される構造である請求項1に記載のチオール化合物。
【化2】
一般式(1A)中、R
1は、2価の連結基を表し、R
2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R
4はそれぞれ独立に、2価の連結基を表し、R
5はそれぞれ独立に、2価の連結基を表し、R
4及びR
5を構成する主鎖の原子数の合計が、一端側及び他端側にてそれぞれ独立に9以上である。
【請求項3】
前記一般式(1A)において、R4を構成する主鎖の原子数が5であり、R5を構成する主鎖の原子数が、それぞれ独立に6~14である請求項2に記載のチオール化合物。
【請求項4】
下記一般式(2)で表される構造を含むチオール化合物。
【化3】
一般式(2)中、R
1Aは、2価の連結基を表し、R
2Aはそれぞれ独立に2価の連結基を表し、R
3Aはそれぞれ独立に2価の連結基を表し、R
2A及びR
3Aを構成する主鎖の原子数の合計が、一端側及び他端側にてそれぞれ独立に7以上である。
【請求項5】
前記一般式(2)において、R1Aが置換基を有していてもよいフェニレン基であり、R2Aを構成する主鎖の原子数が3であり、R3Aを構成する主鎖の原子数が、それぞれ独立に4~10である請求項4に記載のチオール化合物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のチオール化合物を含む架橋剤。
【請求項7】
請求項6に記載の架橋剤と、
前記架橋剤と反応可能な架橋性基を含む重合性化合物と、
を含む硬化性組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化性組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項9】
結合交換反応が可能な共有結合を有する自己修復性材料である請求項8に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チオール化合物、架橋剤、硬化性組成物及び硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
メルカプト基を有するチオール化合物(好ましくは多官能チオール化合物)は、不飽和基含有化合物、エポキシ化合物、その他の反応性モノマー等に対する架橋剤として使用される。例えば、チオール化合物のメルカプト基と、不飽和基含有化合物に含まれる不飽和二重結合とがエンチオール反応することにより、架橋膜等の硬化物を作製可能である。
【0003】
ボロン酸エステル骨格及び2つのメルカプト基を有する架橋剤(BDB)及びポリブタジエンを用いて架橋膜を作製する方法が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A. Breuillac, A. Kassalias, R. Nicolay, “Polybutadiene Vitrimers Based on Dioxaborolane Chemistry and Dual Networks with Static and Dynamic Cross-links”, Macromolecules 2019, 52, 7102-7113.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の非特許文献1に記載の架橋剤(BDB)は、室温(25℃)で固体の架橋剤であり、重合性化合物(特に固体の重合性化合物)の架橋剤として使用する際に溶媒を用いる必要がある。架橋剤として使用可能なチオール化合物が室温で液状である場合、架橋剤として使用する際に溶媒が不要となる、あるいは溶媒の使用量を削減することができ、硬化反応の簡略化、環境負荷の低減等に有効である。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、架橋剤として使用可能であり、かつ室温で液状であるチオール化合物、これを含む架橋剤及び硬化性組成物並びにこの硬化性組成物を硬化してなる硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記一般式(1)で表される構造を含むチオール化合物。
【0008】
【0009】
一般式(1)中、R1は、2価の連結基を表し、R2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R3はそれぞれ独立に、主鎖の原子数が10以上である2価の連結基を表す。
<2> 前記一般式(1)で表される構造は、前記一般式(1A)で表される構造である<1>に記載のチオール化合物。
【0010】
【0011】
一般式(1A)中、R1は、2価の連結基を表し、R2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R4はそれぞれ独立に、2価の連結基を表し、R5はそれぞれ独立に、2価の連結基を表し、R4及びR5を構成する主鎖の原子数の合計が、一端側及び他端側にてそれぞれ独立に9以上である。
<3> 前記一般式(1A)において、R4を構成する主鎖の原子数が5であり、R5を構成する主鎖の原子数が、それぞれ独立に6~14である<2>に記載のチオール化合物。
<4> 下記一般式(2)で表される構造を含むチオール化合物。
【0012】
【0013】
一般式(2)中、R1Aは、2価の連結基を表し、R2Aはそれぞれ独立に2価の連結基を表し、R3Aはそれぞれ独立に2価の連結基を表し、R2A及びR3Aを構成する主鎖の原子数の合計が、一端側及び他端側にてそれぞれ独立に7以上である。
<5> 前記一般式(2)において、R1Aが置換基を有していてもよいフェニレン基であり、R2Aを構成する主鎖の原子数が3であり、R3Aを構成する主鎖の原子数が、それぞれ独立に4~10である<4>に記載のチオール化合物。
<6> <1>~<5>のいずれか1つに記載のチオール化合物を含む架橋剤。
<7> <6>に記載の架橋剤と、
前記架橋剤と反応可能な架橋性基を含む重合性化合物と、
を含む硬化性組成物。
<8> <7>に記載の硬化性組成物を硬化させてなる硬化物。
<9> 結合交換反応が可能な共有結合を有する自己修復性材料である<8>に記載の硬化物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、架橋剤として使用可能であり、かつ室温で液状であるチオール化合物、これを含む架橋剤及び硬化性組成物並びにこの硬化性組成物を硬化してなる硬化物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で合成した14OSの
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1で合成した14OSの
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図3】実施例1で合成した14OSのFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図4】実施例1で合成した架橋剤2(B14OS)の
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1で合成した架橋剤2(B14OS)の
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1で合成した架橋剤2(B14OS)のFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図7】14COSの
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図8】14COSの
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図9】14COSのFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図10】架橋剤3(B14COS)の
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図11】架橋剤3(B14COS)の
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図12】架橋剤3(B14COS)のFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図13】14Sの
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図14】14Sの
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図15】14SのFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図16】架橋剤4(B14S)の
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図17】架橋剤4(B14S)の
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図18】架橋剤4(B14S)のFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図19】18COSの
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図20】18COSの
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図21】18COSのFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図22】架橋剤5(B18COS)の
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図23】架橋剤5(B18COS)の
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図24】架橋剤5(B18COS)のFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図25】架橋剤6(T11OS)の
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図26】架橋剤6(T11OS)の
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図27】架橋剤6(T11OS)のFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図28】実施例6で作製した架橋膜の透過スペクトルを示すグラフである。
【
図29】実施例6の架橋膜について、40℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図30】実施例6の架橋膜について、40℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図31】実施例7で作製した架橋膜の透過スペクトルを示すグラフである。
【
図32】実施例7の架橋膜について、50℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図33】実施例7の架橋膜について、50℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図34】実施例8で作製した架橋膜の透過スペクトルを示すグラフである。
【
図35】実施例8の架橋膜について、40℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図36】実施例8の架橋膜について、40℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図37】実施例9で作製した架橋膜の透過スペクトルを示すグラフである。
【
図38】実施例9の架橋膜について、50℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図39】実施例9の架橋膜について、50℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図40】実施例11の架橋膜について、100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図41】比較例2の架橋膜について、(a)は100℃~160℃におけるG(t)/G
0を示すグラフであり、(b)は100℃~160℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図42】実施例12の架橋膜について、(a)は100℃~160℃におけるG(t)/G
0を示すグラフであり、(b)は100℃~160℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図43】実施例13の架橋膜について、(a)は100℃~160℃におけるG(t)/G
0を示すグラフであり、(b)は100℃~160℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図44】実施例14の架橋膜について、(a)は100℃~160℃におけるG(t)/G
0を示すグラフであり、(b)は100℃~160℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図45】実施例15の架橋膜について、(a)は100℃~160℃におけるG(t)/G
0を示すグラフであり、(b)は100℃~160℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図46】実施例13の架橋膜について、160℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図47】実施例17で合成した14OSの
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図48】実施例17で合成した14OSの
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図49】実施例17で合成した14OSのFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図50】実施例17で合成した架橋剤2(B14OS)の
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図51】実施例17で合成した架橋剤2(B14OS)の
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図52】実施例17で合成した架橋剤2(B14OS)のFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示のチオール化合物、架橋剤、硬化性組成物及び硬化物について詳細に説明する。
【0017】
本開示において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の成分の合計量を意味する。
また、本開示では、アクリロイル基及びメタクリロイル基の双方或いはいずれかを「(メタ)アクリロイル基」と表記する場合がある。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、置換又は無置換を明記していない化合物については、本開示における効果を損なわない範囲で、任意の置換基を有していてもよい。
なお、本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。本開示において、任意の組み合わせにおいて、2つ以上の好ましい態様を組み合わせてもよい。
【0018】
<チオール化合物>
[第1実施形態]
本開示の第1実施形態のチオール化合物は、下記一般式(1)で表される構造を含む。
【0019】
【0020】
一般式(1)中、R1は、2価の連結基を表し、R2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R3はそれぞれ独立に、主鎖の原子数が10以上である2価の連結基を表す。
【0021】
本実施形態のチオール化合物は、2つのメルカプト基を含み、重合性化合物の架橋剤として使用可能である。さらに、R3はそれぞれ独立に、主鎖の原子数が10以上である2価の連結基であることで、当該チオール化合物は室温にて液状である。以上により、架橋剤として使用する際に溶媒が不要となる、あるいは溶媒の使用量を削減することができ、硬化反応の簡略化、環境負荷の低減等に有効である。
【0022】
さらに、本実施形態のチオール化合物は、架橋剤と反応可能な架橋性基を含む重合性化合物(例えば、エチレン性不飽和二重結合を有する重合性化合物)と反応させることで、結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含む分子構造を備える硬化物を作製可能である。このような分子構造を備える硬化物は、光、熱などの外部刺激により自己修復性を有する。これにより、当該硬化物に対して切断等により物理的損傷を与えた場合であっても、物理的損傷が与えられた硬化物同士を接触させた状態で光、熱などの外部刺激を与えることで物理的損傷が与えられた硬化物同士を接合させ、硬化物を修復することが可能となる。このような自己修復性を有する硬化物は、自己修復性材料として用いることができる。
【0023】
以下、一般式(1)で表される構造を含むチオール化合物の好ましい形態について説明する。
【0024】
一般式(1)中、R1における2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、これらの2つ以上の組み合わせ等が挙げられる。中でも、アルキレン基、アリーレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0025】
一般式(1)中、R2における3価の連結基としては、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに5員環を構成する基であることが好ましい。
2つのR2は、同じであっても異なっていてもよい。
【0026】
一般式(1)中、R3における2価の連結基としては、主鎖の原子数が10以上であればよく、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、スルフィド結合、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、これらの内の2つ以上を組み合わせた基等が挙げられる。
2つのR3は、同じであっても異なっていてもよい。
【0027】
R3における主鎖の原子数は、10~22であってもよく、12~20であってもよく、14~18であってもよい。
【0028】
一般式(1)で表される構造は、下記一般式(1A)で表される構造であってもよい。一般式(1)におけるR3が一般式(1A)におけるR5-S-R4であってもよい。
【0029】
【0030】
一般式(1A)中、R1は、2価の連結基を表し、R2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R4はそれぞれ独立に、2価の連結基を表し、R5はそれぞれ独立に、2価の連結基を表し、R4及びR5を構成する主鎖の原子数の合計が、一端側及び他端側にてそれぞれ独立に9以上である。
【0031】
一般式(1A)中、R1及びR2の好ましい態様は、一般式(1)中のR1及びR2の好ましい態様と同様である。
【0032】
一般式(1A)中、R4における2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、スルフィド結合、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、これらの内の2つ以上を組み合わせた基等が挙げられる。
2つのR4は、同じであっても異なっていてもよい。
【0033】
R4を構成する主鎖の原子数は、3~7であってもよく、4~6であってもよく、5であってもよい。
R4における2価の連結基は、アルキレンオキシ基の酸素原子にアルキレン基が結合したアルキレンオキシアルキレン基であってもよく、*1-(CH2)3-O-CH2-*2(*1は、Sとの結合位置を表し、*2は、R2との結合位置を表す)であってもよい。
【0034】
一般式(1A)中、R5における2価の連結基としては、R4及びR5を構成する主鎖の原子数の合計が9以上となればよく、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、スルフィド結合、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、これらの内の2つ以上を組み合わせた基等が挙げられる。
2つのR5は、同じであっても異なっていてもよい。
【0035】
R5を構成する主鎖の原子数は、6~14であってもよく、7~13であってもよく、8~12であってもよい。
R5における2価の連結基は、
(1)炭素数6~14のアルキレン基、
(2)*3-(RO)n-R-*4(Rは、炭素数1~3のアルキレン基を表し、nは1以上の整数を表し、*3は、メルカプト基との結合位置を表し、*4は、R2側の硫黄原子との結合位置を表す)、又は
(3)*3-Rx-C(=O)O-RY-O(O=)C-Rx-*4(RX及びRYは、それぞれ独立にアルキレン基を表し、*3は、メルカプト基との結合位置を表し、*4は、R2側の硫黄原子との結合位置を表す)、
であってもよい。
【0036】
上記(2)*3-(RO)n-R-*4について、Rは、炭素数2のアルキレン基、すなわち、エチレン基であることが好ましい。
上記(3)*3-Rx-C(=O)O-RY-O(O=)C-Rx-*4について、RXは炭素数1~3のアルキレン基であることが好ましく、RYは炭素数1~5のアルキレン基であることが好ましい。
【0037】
一般式(1A)で表される化合物は、例えば、以下のようにして合成することができる。
(1)両末端にメルカプト基をそれぞれ有するジチオール化合物(例えば、1,8-オクタンジチオール、エチレンビス(チオグリコラート)、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールなど)と、エチレン性不飽和二重結合及びヒドロキシ基を2つ有するジオール化合物(例えば、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール)とをエンチオール反応させて、末端メルカプト基と、ヒドロキシ基を2つ有する中間化合物を得る。中間化合物の合成は、加熱により行ってもよく、紫外線等の活性エネルギー線の照射により行ってもよい。
(2)前述の中間化合物に対して2当量のジボロン酸(例えば、ベンゼン-1,4-ジボロン酸)を反応させて一般式(1A)で表される化合物を得る。一般式(1A)で表される化合物の合成は、遮光した状態で室温(例えば、10℃~30℃)で行ってもよい。
【0038】
[第2実施形態]
本開示の第2実施形態のチオール化合物は、下記一般式(2)で表される構造を含む。
【0039】
【0040】
一般式(2)中、R1Aは、2価の連結基を表し、R2Aはそれぞれ独立に2価の連結基を表し、R3Aはそれぞれ独立に2価の連結基を表し、R2A及びR3Aを構成する主鎖の原子数の合計が、一端側及び他端側にてそれぞれ独立に7以上である。
【0041】
本実施形態のチオール化合物は、2つのメルカプト基を含み、重合性化合物の架橋剤として使用可能である。さらに、R3Aはそれぞれ独立に、主鎖の原子数が7以上である2価の連結基であることで、当該チオール化合物は室温にて液状である。以上により、架橋剤として使用する際に溶媒が不要となる、あるいは溶媒の使用量を削減することができ、硬化反応の簡略化、環境負荷の低減等に有効である。
【0042】
以下、一般式(2)で表される構造を含むチオール化合物の好ましい形態について説明する。
【0043】
一般式(2)中、R1Aにおける2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、これらの2つ以上の組み合わせ等が挙げられる。中でも、アルキレン基、アリーレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0044】
一般式(2)中、R2Aにおける2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、スルフィド結合、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、これらの内の2つ以上を組み合わせた基等が挙げられる。
2つのR2Aは、同じであっても異なっていてもよい。
【0045】
R2Aを構成する主鎖の原子数は、1~5であってもよく、2~4であってもよく、3であってもよい。
【0046】
一般式(2)中、R3Aにおける2価の連結基としては、R2A及びR3Aを構成する主鎖の原子数の合計が7以上となればよく、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、スルフィド結合、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、これらの内の2つ以上を組み合わせた基等が挙げられる。
2つのR3Aは、同じであっても異なっていてもよい。
【0047】
R3Aを構成する主鎖の原子数は、4~10であってもよく、6~10であってもよく、8であってもよい。
R3Aにおける2価の連結基は、
(1)炭素数4~10のアルキレン基、又は
(2)*3-(RO)n-R-*4(Rは、炭素数1~3のアルキレン基を表し、nは1以上の整数を表し、*3は、メルカプト基との結合位置を表し、*4は、R2A側の硫黄原子との結合位置を表す)
であってもよい。
【0048】
一般式(2)で表される化合物は、例えば、以下のようにして合成することができる。
両末端にメルカプト基をそれぞれ有するジチオール化合物(例えば、1,8-オクタンジチオール、エチレンビス(チオグリコラート)、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールなど)と、2つのエチレン性不飽和二重結合及び2つのエステル結合を有する不飽和化合物(例えば、ジアリルテレフタル酸)とをエンチオール反応させて、2つの末端メルカプト基及び2つのエステル結合を有する一般式(2)で表される化合物を得る。
【0049】
<架橋剤>
本開示の架橋剤は、前述の第1実施形態のチオール化合物及び前述の第2実施形態のチオール化合物の少なくとも一方(以下、「特定のチオール化合物」とも称する。)を含む。
本開示の架橋剤は、不飽和基含有化合物、エポキシ化合物、その他の反応性モノマー等の重合性化合物の架橋反応に用いられるものであってもよく、不飽和基含有化合物とのエンチオール反応に用いられるものであってもよい。
【0050】
本開示の架橋剤は、特定のチオール化合物のみからなるものであってもよく、特定のチオール化合物以外の成分、例えば、特定のチオール化合物以外の架橋剤(以下、「その他の架橋剤」とも称する。)を含むものであってもよい。
【0051】
本開示の架橋剤に含まれる特定のチオール化合物の含有率は、架橋剤全量に対し、50質量%~100質量%であってもよく、80質量%~100質量%であってもよく、90質量%~100質量%であってもよい。
【0052】
その他の架橋剤としては、外部刺激によって可逆的な結合交換反応を生じる架橋構造を重合性化合物と形成する架橋剤(例えば、非特許文献1に記載のBDB)であってもよく、外部刺激によって可逆的な結合交換反応を生じない架橋構造を重合性化合物と形成する架橋剤(その他の架橋剤1)であってもよい。
その他の架橋剤1としては、特に限定されず、1,6-ヘキサンジチオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、3,7-ジチア-1,9-ノナンジチオール等が挙げられる。
【0053】
<硬化性組成物>
本開示の硬化性組成物は、前述の本開示の架橋剤と、前記架橋剤と反応可能な架橋性基を含む重合性化合物と、を含む。
【0054】
(重合性化合物)
重合性化合物は、架橋剤(特に架橋剤のメルカプト基)と反応可能な架橋性基を含む化合物であれば特に限定されない。例えば、不飽和基含有化合物、エポキシ化合物、その他の反応性モノマー等が挙げられる。
【0055】
不飽和基含有化合物としては、例えば、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー、ポリマー等が挙げられ、アリル基、(メタ)アクリロイル基等を有するモノマー、ポリマー等が挙げられる。
【0056】
エチレン性不飽和二重結合を有するポリマーとしては、ポリマー鎖に対して分岐上のエチレン性不飽和二重結合が直接又は2価の連結基を介して結合したポリマーが挙げられ、例えば、1,2-ポリブタジエン、(メタ)アクリロイル基、アリル基等が導入されたセルロース誘導体などが挙げられる。
【0057】
前述のセルロース誘導体は、例えば、ヒドロキシアルキルセルロース(好ましくはヒドロキシプロピルセルロース)に由来するセルロース誘導体骨格を含んでいてもよい。ヒドロキシアルキルセルロースに由来するセルロース誘導体骨格としては、例えば、下記一般式(3)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0058】
【0059】
一般式(3)中、X11、X12及びX13は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基又は-(R14-O)h-(R14はアルキレン基を表し、hは1以上10以下の整数を表す)を表し、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はエチレン性不飽和二重結合を有する基を含む。但し、X11、X12及びX13の少なくとも1つはアルキレン基又は-(R14-O)h-(R14はアルキレン基を表し、hは1以上10以下の整数を表す)であり、R11、R12及びR13の少なくとも1つはエチレン性不飽和二重結合を有する基を含む。
【0060】
一般式(3)において、X11、X12及びX13で表されるアルキレン基としては特に制限されず、例えば、直鎖又は分岐の炭素数1~18(好ましくは1~12、より好ましくは1~4)のアルキレン基、環状の炭素数3~18(好ましくは3~12)のシクロアルキレン基が挙げられる。直鎖又は分岐のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペンチレン基、イソペンチレン基等が挙げられる。環状のアルキレン基としては、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。
【0061】
一般式(3)において、X11、X12及びX13で表される-(R14-O)h-は、アルキレンオキシ基(アルキレンエーテル基)又はポリアルキレンオキシ基(ポリアルキレンエーテル基)である。-(R14-O)h-で表される基におけるアルキレン基
(-R14-)としては、前述で例示したアルキレン基(X11、X12及びX13で表されるアルキレン基)と同様のものが挙げられる。-(R14-O)h-としては、例えば、エチレンオキシ基、ポリエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基等が挙げられる。
一般式(3)において、hとしては、架橋によって適度な弾性を有する硬化物を得る観点から、好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上4以下、さらに好ましくは1以上3以下であり、特に好ましくは1である。
【0062】
なお、上述のアルキレン基及び-(R14-O)h-は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数6~12のアリル基、ハロゲン原子が挙げられる。なお、置換基が2以上ある場合には、それぞれの置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0063】
一般式(3)において、R11、R12及びR13で表されるアルキル基としては、炭素数3~10のアルキル基であってもよく、炭素数4~8のアルキル基であってもよく、炭素数4~6のアルキル基であってもよい。アルキル基の炭素数を変更することで、硬化物の緩和時間を調整することができる。R11、R12及びR13で表されるアルキル基としては、直鎖であってもよく、分岐であってもよい。
【0064】
一般式(3)において、エチレン性不飽和二重結合を有する基は、アリル基又は(メタ)アクリロイル基を含む基が好ましい。
【0065】
重合性化合物に含まれる架橋性基のモル数に対する架橋剤に含まれるメルカプト基のモル数の比率(架橋性基/メルカプト基)は、特に限定されず、0.5~2であってもよい。
【0066】
(重合開始剤)
例えば、硬化性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。
重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができ、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤が挙げられる。中でも、紫外線照射等の光照射により架橋構造を形成する観点から、光重合開始剤が好ましい。
【0067】
光重合開始剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(HMPP)、アセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HHEMPP)、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジフルオロ-3
-(1-ヒドロピロール-1-イル)フェニル)チタノセン等が挙げられる。
【0068】
重合開始剤の含有量は、硬化性組成物の全質量に対して、0.1質量%~5質量%の範囲が好ましく、0.5質量%~4質量%の範囲がより好ましい。
【0069】
(他の成分)
本開示の硬化性組成物は、本開示の効果を著しく損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、重合性モノマー、架橋剤、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤(剥離剤)、耐光剤、耐候剤、改質剤、帯電防止剤、加水分解防止剤等が挙げられる。
【0070】
本開示の硬化性組成物は、自己修復性材料、液晶膜等の形成に用いられるものであってもよい。
【0071】
<硬化物>
本開示の硬化物は、本開示の硬化性組成物を硬化させてなる。硬化物は、硬化性組成物に含まれる架橋剤と重合性化合物とをエネルギー線照射、加熱等により架橋反応させることで形成される。
【0072】
本開示の硬化物は、結合交換反応が可能な共有結合を有する自己修復性材料であることが好ましい。例えば、本開示の架橋剤が前述の第1実施形態のチオール化合物を含むことで自己修復性を有する硬化物を好適に得ることができる。
【0073】
本開示の硬化物は、架橋膜等であってもよい。
本開示の硬化性組成物が前述のセルロース誘導体を含む場合、架橋膜は液晶膜であってもよく、コレステリック液晶膜であってもよい。
【0074】
本開示の架橋膜の製造方法は特に限定されず、前述の本開示の硬化性組成物を架橋により硬化させたものであればよく、例えば、基板上に本開示の硬化性組成物を付与し、基板上に付与された硬化性組成物を架橋により硬化させたものであってもよい。
【0075】
基板としては特に制限されず、目的に応じて通常用いられるものから適宜選択することができる。基板としては、例えば、ガラス基板、プラスチック基板(例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリカーボネート(PC)基板、ポリイミド(PI)基板等)、アルミ基板、ステンレス基板等の金属基板、シリコン基板等の半導体基板等を用いることができる。
基板の厚さ、形状は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することが好ましい。
基板上への硬化性組成物の付与方法としては、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法等の塗布法;インクジェット法;スクリーン印刷法;減圧注入法等の注入法;等が挙げられる。
【0076】
架橋膜が液晶膜である場合、基板の硬化性組成物が付与される面には配向膜が形成されていてもよい。配向膜にラビング処理が施されていてもよい。
例えば、配向膜が形成された第1の基板及び配向膜が形成された第2の基板を準備し、第1の基板及び第2の基板の配向膜同士を対面させた状態で第1の基板及び第2の基板の間に液晶膜を配置してもよい。あるいは、第1の基板及び第2の基板の配向膜同士を対面させた状態で第1の基板及び第2の基板の間に、スペーサーを介して、硬化性組成物を注入し、次いで架橋させて液晶膜を形成してもよい。
【実施例0077】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0078】
[比較例1]
(架橋剤1の合成)
架橋剤1を以下のようにして合成した。まず、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(1.00 g、6.00 mmol)及び1-チオグリセロール(0.994 mL、11.5 mmol)をテトラヒドロフラン12 mLに溶解させた。次に、アルミホイルで遮光した状態で、室温(25℃)条件下でテトラヒドロフラン溶液を3.5時間攪拌した。以下の反応式に示すように、ボロン酸エステル骨格を有する架橋剤1(BDB)を得た。架橋剤1は、白色固体であり、収率は88.6%であった。さらに、架橋剤1(BDB)は、1H-NMRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0079】
【0080】
[実施例1]
(架橋剤2の合成)
架橋剤2を以下のようにして合成した。架橋剤2の中間体となる化合物(後述の14OS)を合成し、当該化合物を用いて架橋剤2(B14OS)を合成した。
まず、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール(3-APD、1.02 g、7.71 mmol)、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT、7.03 g、38.6 mmol)及び光ラジカル発生剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(11.8 mg)を溶媒であるテトラヒドロフラン(12.0 mL)に溶解させた。次に、室温(25℃)条件下で溶液に365nmの紫外線を10分間照射し、以下の反応式に示すように、メルカプト基及びヒドロキシ基を有する化合物(1-メルカプト-3,6,13-トリオキサ-9-チアヘキサデカン-15,16-ジオール、「14OS」とも称する。)を得た。14OSの収率は、60.8%であった。さらに、化合物(14OS)は、
図1~
図3に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0081】
【0082】
次に、合成した化合物(14OS、1.08 g、3.43 mmol)、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(0.301 g、1.82 mmol)及び硫酸マグネシウム(1.25 g)を脱水テトラヒドロフラン2.0 mLに溶解させた。次に、アルミホイルで遮光した状態で、室温(25℃)条件下でテトラヒドロフラン溶液を1時間攪拌した。以下の反応式に示すように、ボロン酸エステル骨格を有する架橋剤2(B14OS)を得た。架橋剤2は、室温で無色透明の液体であり、収率は66.6%であった。さらに、架橋剤2(B14OS)は、
図4~
図6に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0083】
【0084】
[実施例2]
(架橋剤3の合成)
架橋剤3を以下のようにして合成した。架橋剤3の中間体となる化合物(後述の14COS)を合成し、当該化合物を用いて架橋剤3(B14COS)を合成した。
まず、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール(3-APD、1.02 g、7.71 mmol)、エチレンビス(チオグリコラート)(8.10 g、38.5 mmol)及び光ラジカル発生剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(32.2 mg)を溶媒であるテトラヒドロフラン(12.0 mL)に溶解させた。次に、室温(25℃)条件下で溶液に365nmの紫外線を10分間照射し、以下の反応式に示すように、メルカプト基及びヒドロキシ基を有する化合物(14COS)を得た。14COSの収率は、53.4%であった。さらに、化合物(14COS)は、
図7~
図9に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0085】
【0086】
次に、合成した化合物(14COS、1.22 g、3.55 mmol)、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(0.309 g、1.86 mmol)及び硫酸マグネシウム(1.28 g)を脱水テトラヒドロフラン6.0 mLに溶解させた。次に、アルミホイルで遮光した状態で、室温(25℃)条件下でテトラヒドロフラン溶液を1時間攪拌した。以下の反応式に示すように、ボロン酸エステル骨格を有する架橋剤3(B14COS)を得た。架橋剤3は、室温で無色透明の液体であり、収率は42.3%であった。さらに、架橋剤3(B14COS)は、
図10~
図12に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0087】
【0088】
[実施例3]
(架橋剤4の合成)
架橋剤4を以下のようにして合成した。架橋剤4の中間体となる化合物(後述の14S)を合成し、当該化合物を用いて架橋剤4(B14S)を合成した。
まず、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール(3-APD、1.07 g、8.07 mmol)、1,8-オクタンジチオール(7.21 g、40.4 mmol)及び光ラジカル発生剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(35.5 mg)を溶媒であるテトラヒドロフラン(12 mL)に溶解させた。次に、室温(25℃)条件下で溶液に365nmの紫外線を10分間照射し、以下の反応式に示すように、メルカプト基及びヒドロキシ基を有する化合物(1-メルカプト-9-チアヘキサデカン-15,16-ジオール、「14S」とも称する。)を得た。14Sの収率は、50.3%であった。さらに、化合物(14S)は、
図13~
図15に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0089】
【0090】
次に、合成した化合物(14S、1.07 g、3.46 mmol)、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(0.301 g、1.82 mmol)及び硫酸マグネシウム(1.25 g)を脱水テトラヒドロフラン6.0 mLに溶解させた。次に、アルミホイルで遮光した状態で、室温(25℃)条件下でテトラヒドロフラン溶液を1時間攪拌した。以下の反応式に示すように、ボロン酸エステル骨格を有する架橋剤4(B14S)を得た。架橋剤4は、室温で無色透明の液体であり、収率は32.4%であった。さらに、架橋剤4(B14S)は、
図16~
図18に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0091】
【0092】
[実施例4]
(架橋剤5の合成)
架橋剤5を以下のようにして合成した。架橋剤5の中間体となる化合物(後述の18COS)を合成し、当該化合物を用いて架橋剤5(B18COS)を合成した。
まず、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール(3-APD、1.04 g、7.88 mmol)及び溶媒である脱水テトラヒドロフラン(脱水THF、12 mL)を混合した。次いで、混合液にカレンズMT(登録商標)BD1(1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン)、11.6 g、39.4 mmol)及び光ラジカル発生剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(36.5 mg)を加え攪拌した。次に、室温(25℃)条件下で溶液に365nmの紫外線を10分間照射した。紫外線照射後にエバポレーションで溶媒を除去した。溶媒除去後に生成物をクロロホルムに溶解し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により目的物を精製した。
以上の操作により、以下の反応式に示すように、メルカプト基及びヒドロキシ基を有する化合物(「18COS」も称する。)を得た。18COSの収率は、38.1%であった。さらに、化合物(18COS)は、
図19~
図21に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0093】
【0094】
次に、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(0.170 g、1.03 mmol)を脱水THF 4.00mLに溶解させた。合成した化合物(18COS、0.834 g、1.95 mmol)を脱水THF 2.00mLに溶解させた。次いで、ベンゼン-1,4-ジボロン酸溶液及び18COS溶液を混合した。混合溶液に硫酸マグネシウム(0.705 g、5.86 mmol)を添加した。そして、アルミホイルで遮光した状態で、室温(25℃)条件下で混合溶液を2時間攪拌した。このとき、反応の進行は薄層クロマトグラフィーにより追跡した。反応後、吸引ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、エバポレーターで濃縮後に、反応溶液にヘキサンを加えた。ヘキサンを除去後、反応溶液をクロロホルムに溶解し、HPLCにより目的物を精製した。
以上の操作により、以下の反応式に示すように、ボロン酸エステル骨格を有する架橋剤5(B18COS)を得た。架橋剤5は、室温で無色透明の液体であり、収率は39.1%であった。さらに、架橋剤5(B18COS)は、
図22~
図24に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0095】
【0096】
[実施例5]
(架橋剤6の合成)
架橋剤6を以下のようにして合成した。
まず、ジアリルテレフタル酸(0.523 g、2.12 mmol)を脱水THF 6.00 mLに溶解させ、次いで、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT、1.95 g、10.7 mmol)及び光ラジカル発生剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(17.0 mg)を順次加えて攪拌した。室温(25℃)条件下で得られた溶液に365nmの紫外線を10分間照射した。紫外線照射後の反応溶液から溶媒をエバポレーションで除去した。次いで、反応溶液をクロロホルムに溶解し、HPLCにより目的物を精製した。
以上の操作により、以下の反応式に示すように、メルカプト基を有する化合物(「T11OS」も称する。)を得た。T11OSの収率は、43.3%であった。さらに、化合物(T11OS)は、
図25~
図27に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0097】
【0098】
[実施例6]
(HPC誘導体1の合成)
以下の方法により架橋性基を有するHPC誘導体1を合成した。
減圧下、室温(25℃)で24時間以上乾燥したヒドロキシプロピルセルロース(HPC、重量平均分子量:4.45×104)5.0 gを、窒素充填させたフラスコ内で、N-メチルピロリドン80 mLに溶解させたのち、加熱(65℃)条件下で、水酸化ナトリウム7.6 g、アリルブロミド0.11 mL(1.27 mmol)、1-ブロモペンタン23.2 mL(0.191 mol)を加え48時間攪拌した。これにより、ヒドロキシプロピルセルロース中の水酸基の一部の水素がアリル基及び1-ペンチル基で置換されたHPC誘導体1(HPC-Al/PeEt)を合成した。透析と再沈殿の操作によって、HPC誘導体1 1.73 gを得た。
【0099】
HPC誘導体1において、1H-NMRスペクトルのピーク測定から、アリル基の置換度(モノマー単位当たりに存在する不飽和二重結合を有する基の合計個数/3)及び1-ペンチル基の置換度(モノマー単位当たりに存在する1-ペンチル基の合計個数/3)を求めた。アリル基の置換度は0.12であり、1-ペンチル基の置換度は2.88であった。
HPC誘導体1は、室温で青紫色のブラッグ反射を示した。
【0100】
(架橋膜の作製)
HPC誘導体1(HPC-Al/PeEt)及び架橋剤2(B14OS)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体1 0.216 gと、架橋剤2(B14OS)15.2 mgとを混合した溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン5.9 mgと、を混合させて光硬化性組成物1を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤2(B14OS)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物1を基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して365nmの紫外線を10分間照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、B14OSにおけるメルカプト基と、HPC誘導体1におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
実施例6で作製した架橋膜は、室温で緑色のブラッグ反射を示した。実施例6で作製した架橋膜の透過スペクトルを
図28に示す。
【0101】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した実施例6の架橋膜に対して初期ひずみγ0を与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、25℃にて応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G
0)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/G
0をプロットした。また、応力σが、σ0/eとなるまでの時間である緩和時間τを求めた。
また、40℃~100℃の10℃刻みにて上記と同様の条件で応力緩和測定を行った。40℃~100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図29に示す。
図29に示すように、40℃~100℃にて応力の緩和が確認された。
図29に示す曲線は、以下に示すKohlrausch-Williams-Watts(KWW)式に基づく曲線である。なお、実施例6の架橋膜について応力緩和測定を行った場合、短時間スケールの緩和が小さく、通常のKWW式に基づく曲線が確認された。式中、G(t)は緩和弾性率であり、τは緩和時間であり、βは緩和時間の分布である(参考文献:Hayashi, M.; Chen, L. Polym. Chem. 2020, 11 (10), 1713-1719.)。
【0102】
【0103】
さらに、以下の式に基づいて平均緩和時間<τ>を求めた。式中、βは緩和時間の分布、Γはガンマ関数を表す。
【0104】
【0105】
図30に示すように、40℃~100℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。従って、実施例6にて作製した架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0106】
[実施例7]
(HPC誘導体2の合成)
以下の方法により架橋性基を有するHPC誘導体2を合成した。
減圧下、室温(25℃)で24時間以上乾燥した実施例1にて用いたヒドロキシプロピルセルロース(HPC)5.0 gを、窒素充填させたフラスコ内で、N-メチルピロリドン80 mLに溶解させたのち、加熱(65℃)条件下で、水酸化ナトリウム7.6 g、アリルブロミド0.33 mL(3.8 mmol)、1-ブロモペンタン23.2 mL(0.191 mol)を加え48時間攪拌した。これにより、ヒドロキシプロピルセルロース中の水酸基の一部の水素がアリル基及び1-ペンチル基で置換されたHPC誘導体2(HPC-Al/PeEt)を合成した。HPC誘導体1の合成と同様の操作によって、HPC誘導体2 2.7 gを得た。
【0107】
HPC誘導体2において、1H-NMRスペクトルのピーク測定から、アリル基の置換度(モノマー単位当たりに存在する不飽和二重結合を有する基の合計個数/3)及び1-ペンチル基の置換度(モノマー単位当たりに存在する1-ペンチル基の合計個数/3)を求めた。アリル基の置換度は0.40であり、1-ペンチル基の置換度は2.60であった。
【0108】
(架橋膜の作製)
HPC誘導体2(HPC-Al/PeEt、アリル基の置換度は0.40であり、1-ペンチル基の置換度は2.60)及び架橋剤3(B14COS)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体2 0.114 gと、架橋剤3(B14COS)28.4 mgとを混合した溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン1.7 mgと、を混合させて光硬化性組成物2を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤3(B14COS)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物2を基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して365nmの紫外線を10分間照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、B14COSにおけるメルカプト基と、HPC誘導体2におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
実施例7で作製した架橋膜は、室温で緑色のブラッグ反射を示した。実施例7で作製した架橋膜の透過スペクトルを
図31に示す。
【0109】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した実施例7の架橋膜に対して初期ひずみγ0を与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、25℃にて応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G
0)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/G
0をプロットした。また、応力σが、σ0/eとなるまでの時間である緩和時間τ(前述のτ
2)を求めた。
また、50℃~100℃の10℃刻みにて上記と同様の条件で応力緩和測定を行った。50℃~100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図32に示す。
図32に示すように、50℃~100℃にて応力の緩和が確認された。
図32に示す曲線は、2項のKWW式に基づく曲線である。
【0110】
図33に示すように、50℃~100℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。従って、実施例7にて作製した架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0111】
[実施例8]
(架橋膜の作製)
HPC誘導体2(HPC-Al/PeEt、アリル基の置換度は0.40であり、1-ペンチル基の置換度は2.60)及び架橋剤4(B14S)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体2 0.158 gと、架橋剤4(B14S)37.2 mgとを混合した溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン6.7 mgと、を混合させて光硬化性組成物3を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤4(B14S)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物3を基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して365nmの紫外線を10分間照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、B14Sにおけるメルカプト基と、HPC誘導体2におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
実施例8で作製した架橋膜は、室温で赤色のブラッグ反射を示した。実施例8で作製した架橋膜の透過スペクトルを
図34に示す。
【0112】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した実施例8の架橋膜に対して初期ひずみγ0を与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、25℃にて応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G
0)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/G
0をプロットした。また、応力σが、σ0/eとなるまでの時間である緩和時間τを求めた。
また、40℃~100℃の10℃刻みにて上記と同様の条件で応力緩和測定を行った。40℃~100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図35に示す。
図35に示すように、40℃~100℃にて応力の緩和が確認された。
図35に示す曲線は、実施例6と同様に通常のKWW式に基づく曲線である。
【0113】
図36に示すように、40℃~100℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。従って、実施例8にて作製した架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0114】
[実施例9]
(架橋膜の作製)
HPC誘導体2(HPC-Al/PeEt、アリル基の置換度は0.40であり、1-ペンチル基の置換度は2.60)及び架橋剤2(B14OS)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体2 0.221 gと、架橋剤2(B14OS)51.2 mgとを混合した溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン2.8 mgと、を混合させて光硬化性組成物4を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤2(B14OS)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物4を基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して365nmの紫外線を10分間照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、B14OSにおけるメルカプト基と、HPC誘導体2におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
実施例9で作製した架橋膜は、室温で青色のブラッグ反射を示した。実施例9で作製した架橋膜の透過スペクトルを
図37に示す。実施例6と比較すると、アリル基の置換度が増加すると、架橋膜のブラッグ反射が短波長化する傾向が確認された。
【0115】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した実施例9の架橋膜に対して初期ひずみγ0を与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、25℃にて応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G
0)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/G
0をプロットした。また、応力σが、σ0/eとなるまでの時間である緩和時間τ(前述のτ
2)を求めた。
また、50℃~100℃の10℃刻みにて上記と同様の条件で応力緩和測定を行った。50℃~100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図38に示す。
図38に示すように、50℃~100℃にて応力の緩和が確認された。
図38に示す曲線は、2項のKWW式に基づく曲線である。
【0116】
図39に示すように、50℃~100℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。従って、実施例9にて作製した架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0117】
[実施例10]
(架橋膜の作製)
HPC誘導体2(HPC-Al/PeEt、アリル基の置換度は0.40であり、1-ペンチル基の置換度は2.60)及び架橋剤5(B18COS)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体2 0.135 gと、架橋剤5(B18COS)41.1 mgとを混合した溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン7.4 mgと、を混合させて光硬化性組成物5を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤5(B18COS)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物5を基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して365nmの紫外線を10分間照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、B18COSにおけるメルカプト基と、HPC誘導体2におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
実施例10で作製した架橋膜は、室温で緑色のブラッグ反射を示した。
【0118】
[実施例11]
(架橋膜の作製)
HPC誘導体2(HPC-Al/PeEt、アリル基の置換度は0.40であり、1-ペンチル基の置換度は2.60)及び架橋剤6(T11OS)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体2 0.221 gと、架橋剤6(T11OS)28.2 mgとを混合した溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン5.1 mgと、を混合させて光硬化性組成物6を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤6(T11OS)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物6を基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して365nmの紫外線を10分間照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、T11OSにおけるメルカプト基と、HPC誘導体2におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
実施例11で作製した架橋膜は、室温で緑色のブラッグ反射を示した。
【0119】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した実施例11の架橋膜に対して初期ひずみγ0を与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、25℃にて応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G
0)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/G
0をプロットした。また、応力σが、σ0/eとなるまでの時間である緩和時間τ(前述のτ
2)を求めた。
100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図40に示す。
図40に示すように、応力は緩和しているが、緩和時間が10
5~10
6秒オーダーであり、T11OSは化学構造内にボロン酸エステル結合を持たないことから、T11OSは永久架橋剤として機能していることが推測される。
【0120】
合成した架橋剤1(BDB)は室温で固体であった一方、合成した架橋剤2~6(B14OS、B14COS、B14S、B18COS及びT11OS)は、いずれも室温で液体であり、溶媒を使用せずともHPC誘導体と相溶可能であった。
【0121】
(ポリブタジエンの準備)
前述の合成した架橋剤1~6と、ポリブタジエン(PB)とを用いて後述のように架橋膜を形成した。ポリブタジエン(PB)については、日本曹達株式会社の液状ポリブタジエン(NISSO PB)のB-3000シリーズを使用した。使用したポリブタジエンについて、1H-NMR測定及びFT-IR測定を行った。1H-NMR測定の結果からポリブタジエン分子鎖中のビニル基含有率が97.3mol%であることを算出した。
【0122】
[比較例2]
非特許文献1を参考に架橋剤1(BDB)及びポリブタジエンを用いた架橋膜の作製を以下のようにして行った。なお、ポリブタジエン分子鎖中のビニル基含有率を、90mol%と仮定して架橋剤1(BDB)の添加量を決定した。
78.8 mg(ビニル基:1.31mmol)のポリブタジエンに3Åのモレキュラーシーブスで一晩脱水したアニソール(脱水アニソール)316.4 μLを加えた。次に、架橋剤1(BDB)23.4 mg(0.0753 mmol)を脱水アニソール200 μLに溶解させた。架橋剤溶液をポリブタジエン溶液に加えた後、窒素バブリングを行った。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を混合溶液に少量(マイクロスパチュラ1/2杯)加え、アルミビーズバスを用いて100℃で加熱した。2時間加熱した後、溶液をスクリュー管に移し、油回転ポンプで30分間減圧した。反応溶液がゲル化した後、500 μmのスペーサーを用いてゲル化物をガラスセルに挟み、アルミビーズバスを用いて150℃で加熱した。30分加熱した後、少し白濁した架橋膜が得られた。
【0123】
以下の実施例12~16では、架橋剤2~6及びポリブタジエンを用いた架橋膜の作製を以下のようにして行った。なお、ポリブタジエン分子鎖中のビニル基含有率を、前述のように算出した97.3mol%として架橋剤2~6の添加量を決定した。
【0124】
[実施例12]
架橋剤2(B14OS)及びポリブタジエンを用いた架橋膜の作製を以下のようにして行った。
103 mg(ビニル基:1.85 mmol)のポリブタジエンに架橋剤2(B14OS)76.3 mg(0.107 mmol)を加えた。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を溶液に少量(マイクロスパチュラ1/2杯)加え、10分間混合した。アルミビーズバスを用いて混合溶液を100℃で1時間程度加熱した。反応溶液がゲル化した後、500 μmのスペーサーを用いてゲル化物をガラスセルに挟み、アルミビーズバスを用いて150℃で加熱した。1時間程度加熱した後、黄色の架橋膜が得られた。
【0125】
[実施例13]
架橋剤3(B14COS)及びポリブタジエンを用いた架橋膜の作製を以下のようにして行った。
104 mg(ビニル基:1.87 mmol)のポリブタジエンに架橋剤3(B14COS)72.2 mg(0.108 mmol)を加えた。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を溶液に少量(マイクロスパチュラ1/2杯)加え、10分間混合した。アルミビーズバスを用いて混合溶液を100℃で1時間程度加熱した。反応溶液がゲル化した後、500 μmのスペーサーを用いてゲル化物をガラスセルに挟み、アルミビーズバスを用いて150℃で加熱した。1時間程度加熱した後、無色透明の架橋膜が得られた。
【0126】
[実施例14]
架橋剤4(B14S)及びポリブタジエンを用いた架橋膜の作製を以下のようにして行った。
97.9 mg(ビニル基:1.76 mmol)のポリブタジエンに架橋剤4(B14S)72.2 mg(0.101 mmol)を加えた。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を溶液に少量(マイクロスパチュラ1/2杯)加え、10分間混合した。アルミビーズバスを用いて混合溶液を100℃で1時間程度加熱した。反応溶液がゲル化した後、500 μmのスペーサーを用いてゲル化物をガラスセルに挟み、アルミビーズバスを用いて150℃で加熱した。1時間程度加熱した後、無色透明の架橋膜が得られた。
【0127】
[実施例15]
架橋剤5(B18COS)及びポリブタジエンを用いた架橋膜の作製を以下のようにして行った。
118 mg(ビニル基:2.13 mmol)のポリブタジエンに架橋剤5(B18COS)95.0 mg(0.100 mmol)を加えた。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を溶液に少量(マイクロスパチュラ1/2杯)加え、10分間混合した。アルミビーズバスを用いて混合溶液を100℃で1時間程度加熱した。反応溶液がゲル化した後、500 μmのスペーサーを用いてゲル化物をガラスセルに挟み、アルミビーズバスを用いて150℃で加熱した。1時間程度加熱した後、無色透明の架橋膜が得られた。
【0128】
[実施例16]
架橋剤6(T11OS)及びポリブタジエンを用いた架橋膜の作製を以下のようにして行った。
102 mg(ビニル基:1.84 mmol)のポリブタジエンに架橋剤6(T11OS)65.1 mg(0.107 mmol)を加えた。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を溶液に少量(マイクロスパチュラ1/2杯)加え、10分間混合した。500 μmのスペーサーを用いて混合物をガラスセルに挟み、アルミビーズバスを用いてスペーサーで挟んだ混合物を100℃で1時間程度加熱した。次いで、アルミビーズバスを用いて150℃で1時間程度加熱した後、無色透明の架橋膜が得られた。
【0129】
比較例2及び実施例12~16の架橋膜について、実施例6の架橋膜と同様にして応力緩和測定を行った。比較例2及び実施例12~16の架橋膜について、応力緩和測定の結果を
図41~
図46に示す。
比較例2及び実施例12~15の架橋膜では、時間経過に伴う応力の緩和が見られた。また、前述のKWW式により応力緩和曲線をフィッティングすることで緩和時間を算出した。また、比較例2及び実施例12~15の架橋膜では、実施例6と同様にして各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。従って、比較例2及び実施例12~15の架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0130】
比較例2で使用した架橋剤1(BDB)は室温で固体であるため、ポリブタジエンとの混合に溶媒が必要であった。
一方、実施例12~16で使用した架橋剤2~6(B14OS、B14COS、B14S、B18COS及びT11OS)は、いずれも室温で液体であるため、ポリブタジエンとの混合に溶媒が不要であり、溶媒の削減が可能であり、かつ架橋膜の作製を簡略化することが可能であった。
【0131】
さらに、実施例12~15の架橋膜(架橋剤2~5を用いて作製した架橋膜)では、HPC誘導体を用いた場合と同様に架橋膜が自己修復性を有する、と推測された。この結果から、HPC誘導体以外の重合性化合物を用いた場合であっても自己修復性材料を作製可能であることが確認できた。
より詳細には、架橋剤2又は5を用いた実施例12及び15の架橋膜は、非常に塑性的であった。緩和曲線の形状に着目すると、HPC誘導体を用いた架橋膜のような数秒オーダーの短時間の緩和は見られなかった。このことから、HPC誘導体を用いた架橋膜の短時間緩和はHPC誘導体由来の緩和であると推測される。
図46に示す実施例16の架橋膜の応力緩和測定の結果では、応力の緩和は観測されなかった。これは、実施例16の架橋膜は、ボロン酸エステル結合を含まないため、結合交換反応を起こさないことが理由と推測される。
【0132】
最後に、架橋剤2(B14OS)の融点を調べる目的で、降温下におけるPOM像の観察を行った。架橋剤2(B14OS)は室温で液体であり、暗視野であった。温度を-45℃まで降温したが、暗視野のままであり、結晶化による明視野への変化は観測されなかった。さらに、架橋剤2(B14OS)をミクロチューブに少量とり、液体窒素で急冷したところ、結晶化した。そのため、架橋剤2(B14OS)の融点は-45℃未満と推測される。
【0133】
[実施例17]
(架橋剤2の合成)
架橋剤2を以下のようにして合成した。架橋剤2の中間体となる化合物(14OS)を合成し、当該化合物を用いて架橋剤2(B14OS)を合成した。14OSの合成にて紫外線照射の替わりに加熱を行った点で実施例1と相違する。
まず、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール(3-APD、2.00 g、15.1 mmol)を50 mLナスフラスコに加えた。次に、ナスフラスコに脱水THF 5.0 mLを加えて3-APDを溶解させた後、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(13.8 g、75.7 mmol)とアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)10.0 mgを加えて溶液を攪拌した。溶液を60℃のオイルバスに移し、1時間攪拌した。加熱後にエバポレーションで溶媒を除去した。溶媒除去後に生成物をクロロホルムに溶解し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により目的物を精製した。
以上の操作により、メルカプト基及びヒドロキシ基を有する化合物(14OS)を得た。さらに、実施例17で得られた化合物(14OS)は、
図47~
図49に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、実施例1の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0134】
次に、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(0.157 g、0.946 mmol)を脱水THF2.0 mLに溶解させた溶液と、合成した化合物(14OS、0.563 g、1.79 mmol)を脱水THF1.0 mLに溶解させた溶液とを混合した。混合溶液に硫酸マグネシウム(0.651 g、5.41 mmol)を加えた。次に、アルミホイルで遮光した状態で、室温(25℃)条件下で混合溶液を1.5時間攪拌した。このとき、反応の進行は薄層クロマトグラフィーにより追跡した。反応後、吸引ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、エバポレーターで濃縮後に、反応溶液にヘキサンを加えた。ヘキサンを除去後、反応溶液をクロロホルムに溶解し、HPLCにより目的物を精製した。
以上の操作により、架橋剤2(B14OS)を得た。さらに、実施例17で得られた架橋剤2(B14OS)は、
図50~
図52に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、実施例1の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0135】
実施例1及び実施例17に示すように、紫外線照射又は加熱を行うことで架橋剤2の中間体となる化合物(14OS)が合成可能であることが分かった。また、熱反応の利点としては、合成操作が簡便であり、一度の操作で多量の化合物が合成可能であることが挙げられる。