(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134434
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】プロセス推定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B24B 31/12 20060101AFI20240926BHJP
B24B 31/02 20060101ALI20240926BHJP
B24B 31/14 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
B24B31/12 Z
B24B31/02 Z
B24B31/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044739
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 聡明
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA01
3C158BA01
3C158BA02
3C158BB02
3C158BB06
3C158BB08
3C158BB09
3C158CA04
3C158CB03
(57)【要約】
【課題】バレル研磨の研磨条件を容易に推定することが可能なプロセス推定装置及び方法を提供する。
【解決手段】被処理物10をバレル研磨して処理物を得る際のプロセス推定装置1であって、少なくとも、被処理物10の状態を示す被処理物データ61、バレル研磨の研磨条件の情報を含むプロセスデータ62、及び、処理物に関する処理物データ63の関係を機械学習し、これらのデータの相関性を表す回帰モデル33を作成する回帰モデル作成処理部24と、回帰モデル作成処理部24で作成した回帰モデル33を用いて、推定対象のプロセスデータ62を推定するプロセス推定処理部25と、を備え、プロセスデータ62は、少なくとも、バレル研磨に用いるメディア12に関する情報を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物をバレル研磨して処理物を得る際のプロセス推定装置であって、
少なくとも、前記被処理物の状態を示す被処理物データ、前記バレル研磨の研磨条件の情報を含むプロセスデータ、及び、前記処理物に関する処理物データの関係を機械学習し、これらのデータの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成処理部と、
前記回帰モデル作成処理部で作成した前記回帰モデルを用いて、推定対象の前記プロセスデータを推定するプロセス推定処理部と、を備え、
前記プロセスデータは、少なくとも、前記バレル研磨に用いるメディアに関する情報を含む、
プロセス推定装置。
【請求項2】
前記プロセスデータは、前記メディアに関する情報として、前記メディアの大きさ、前記メディアの材質、前記メディアの総重量のうち少なくとも1つ以上を含む、
請求項1に記載のプロセス推定装置。
【請求項3】
前記メディアが球状であり、
前記プロセスデータは、前記メディアに関する情報として、少なくとも前記メディアの外径であるメディア径を用いる、
請求項2に記載のプロセス推定装置。
【請求項4】
前記処理物データは、前記処理物の不良率のデータを含む、
請求項1に記載のプロセス推定装置。
【請求項5】
前記回帰モデル作成処理部は、前記被処理物データ及び前記プロセスデータの各パラメータを説明変数とし、前記処理物データの所定のパラメータを目的変数として、前記説明変数と前記目的変数との相関性を表す前記回帰モデルを作成する、
請求項1に記載のプロセス推定装置。
【請求項6】
前記被処理物が、磁性材料である、
請求項1に記載のプロセス推定装置。
【請求項7】
被処理物をバレル研磨して処理物を得る際のプロセス推定方法であって、
少なくとも、前記被処理物の状態を示す被処理物データ、前記バレル研磨の研磨条件の情報を含むプロセスデータ、及び、前記処理物に関する処理物データの関係を機械学習し、これらのデータの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成工程と、
前記回帰モデル作成工程で作成した前記回帰モデルを用いて、推定対象の前記プロセスデータを推定するプロセス推定工程と、を備え、
前記プロセスデータは、少なくとも、前記バレル研磨に用いるメディアに関する情報を含む、
プロセス推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス推定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、面取りや研磨のために、バレル研磨が用いられている(例えば、特許文献1参照)。バレル研磨では、バレルの中に、処理対象となる被処理物(ワーク)をメディア(研磨材、研磨石)と共に投入し、バレルを回転させたり振動させたりすることで、被処理物とメディアとを擦り合わせ、被処理物の面取りや研磨を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的に、バレル研磨においては、研磨条件が適切でないと、処理物同士が衝突することにより欠けが発生してしまったり、衝突の頻度が上がり欠けの発生が増えたり面取り量が不十分又は過剰となってしまったりする。そのため、研磨条件を適切に設定する必要があるが、適切な研磨条件は被処理物ごとに変わり、様々なパラメータを調整する必要があるため、研磨条件の検討に非常に時間がかかってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、バレル研磨の研磨条件を容易に推定することが可能なプロセス推定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、被処理物をバレル研磨して処理物を得る際のプロセス推定装置であって、少なくとも、前記被処理物の状態を示す被処理物データ、前記バレル研磨の研磨条件の情報を含むプロセスデータ、及び、前記処理物に関する処理物データの関係を機械学習し、これらのデータの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成処理部と、前記回帰モデル作成処理部で作成した前記回帰モデルを用いて、推定対象の前記プロセスデータを推定するプロセス推定処理部と、を備え、前記プロセスデータは、少なくとも、前記バレル研磨に用いるメディアに関する情報を含む、プロセス推定装置を提供する。
【0007】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、被処理物をバレル研磨して処理物を得る際のプロセス推定方法であって、少なくとも、前記被処理物の状態を示す被処理物データ、前記バレル研磨の研磨条件の情報を含むプロセスデータ、及び、前記処理物に関する処理物データの関係を機械学習し、これらのデータの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成工程と、前記回帰モデル作成工程で作成した前記回帰モデルを用いて、推定対象の前記プロセスデータを推定するプロセス推定工程と、を備え、前記プロセスデータは、少なくとも、前記バレル研磨に用いるメディアに関する情報を含む、プロセス推定方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バレル研磨の研磨条件を容易に推定することが可能なプロセス推定装置及び方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るプロセス推定装置の概略構成図である。
【
図3】(a)は学習用データ抽出処理、(b)は回帰モデル作成処理、(c)はプロセス推定処理を説明する図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係るプロセス推定方法のフロー図である。
【
図6】(a)は回帰モデル作成処理、(b)はプロセス推定処理のフロー図である。
【
図7】(a)は変数設定画面の一例、(b)は評価値表示画面の一例を示す図である。
【
図8】(a)は推定元データ入力画面の一例、(b)は推定結果表示画面の一例を示す図である。
【
図9】本発明による実施例と、本発明の比較対象となる比較例について、推定精度の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態に係るプロセス推定装置1の概略構成図である。
図1に示すように、プロセス推定装置1は、バレル研磨におけるプロセスを推定する装置である。
図1では、プロセス推定装置1に加えて、バレル研磨を行うバレル研磨装置100と、後述する被処理物10や処理物の分析を行う分析エリア110も併せて示している。
【0012】
(バレル研磨装置100)
バレル研磨に用いるバレル研磨装置100では、バレル11内に、被処理物10(ワーク)とメディア12(研磨材、研磨石)とを投入し、バレル11を回転させることで、被処理物10の面取りや研磨を行う。被処理物10にバレル研磨を行うことにより、処理物が得られる。ここでは、被処理物10(及び処理物)として磁性材料を用いた。ただし、被処理物10は、磁性材料に限定されず、種々の材料に適用可能である。また、バレル研磨装置100は回転式のものに限定されず、例えば振動を加える方式のものであってもよい。
【0013】
(分析エリア110)
分析エリア110は、バレル研磨前の被処理物10、及びバレル研磨後の処理物の分析を行うエリアである。
図1の例では、分析エリア110には、被処理物10及び処理物の各部の寸法を測定する寸法測定装置111や、被処理物10及び処理物の重量(質量)を測定する重量測定装置112等が設けられている。分析エリア110で得られた被処理物10の状態を示すデータである被処理物データ61、及び処理物の状態を示すデータである処理物データ63は、適宜な方法によりプロセス推定装置1に入力される。例えば、分析エリア110にデータ保存用のパーソナルコンピュータ等の演算装置を設けておき、当該演算装置からプロセス推定装置1に、被処理物データ61及び処理物データ63を送信するように構成してもよい。また、例えば、USBメモリ等の記憶メディアを介して、被処理物データ61及び処理物データ63をプロセス推定装置1に入力してもよいし、後述する入力装置5により直接入力してもよい。なお、分析エリア110の「エリア」は特定の場所を表すわけではなく、分析用の装置等をまとめた概念上の領域である。つまり、分析用の各装置は一か所にまとめて配置される必要はない。
【0014】
(各種データの詳細、及び全体データベース31の説明)
ここで、プロセス推定に用いる各種データの詳細について説明する。本実施の形態では、少なくとも、被処理物データ61、プロセスデータ62、及び処理物データ63の関係を機械学習し、その学習結果を基にプロセス推定を行う。以下、これらデータの詳細について説明する。
【0015】
図2は、プロセス推定に用いる全体データベース31の一例を示す図である。なお、
図2は全体データベース31の概念を示すものであり、実際の実験データを記載したものではない。
図2に示すように、全体データベース31は、収集したデータを一括して管理するデータベースであり、少なくとも、被処理物データ61、プロセスデータ62、及び処理物データ63を含んでいる。図示の例では、全体データベース31には、これらデータの他、製品情報データ60としてロット番号の情報が含まれている。なお、全体データベース31には、必要に応じて、その他データが含まれていてもよく、機械学習に用いないデータが含まれていてもよい。
【0016】
被処理物データ61は、被処理物10の状態を示すデータである。
図2に示される通り、被処理物データ61は、例えば、被処理物10の形状等の種別の番号を表す「製品種別」、1つの被処理物10の重さ(質量)を表す「製品単重」、被処理物10の各部の大きさや長さを表す「製品寸法1」及び「製品寸法2」、被処理物10の材質の番号を表す「製品材質」等のパラメータを有している。「製品寸法1」及び「製品寸法2」は、予め設定された製品の全体あるいは所定部分の寸法であり、例えば、製品が角柱形状であれば高さ、長さ、奥行き等であり、製品が円柱形状であれば外径や長さ等であり、製品が中空円筒形状であれば外径、内径、長さ等である。なお、被処理物データ61は、図示以外のパラメータを含んでいてもよい。
【0017】
プロセスデータ62は、バレル研磨の研磨条件の情報を含むデータである。本実施の形態では、プロセスデータ62は、少なくとも、バレル研磨に用いる「メディア12に関する情報」を含んでいる。「メディア12に関する情報」としては、メディア12の大きさ、メディア12の材質、メディア12の総重量のうち少なくとも1つ以上の情報を含むとよい。本実施の形態では、球状のメディア12を用いたため、「メディア12に関する情報」におけるメディア12の大きさの情報として、少なくともメディア12の外径であるメディア径を用いている。
【0018】
より具体的には、本実施の形態では、
図2に示される通り、プロセスデータ62は、「メディア12に関する情報」として、メディア12の材質の番号を示す「材質」、メディア径を示す「径」、バレル11に投入するメディア12の総重量を示す「総重量」を含んでいる。
【0019】
なお、「メディア12に関する情報」は図示の例に限らず、他の情報を含んでいてもよい。例えば、メディア径や材質が同じであっても、異なる製造メーカのメディア12を用いると研磨結果が異なってくる場合がある。このようなことを考慮し、メディア12を製造するメーカの情報(番号など)を「メディア12に関する情報」として含んでもよい。
【0020】
また、球状でないメディア12を用いる場合も考えられる。このような場合に対応するため、メディア12の形状の情報(番号など)を「メディア12に関する情報」に含んでもよい。また、球状でないメディア12を用いる場合、「メディア12に関する情報」におけるメディア12の大きさの情報として、メディア径に代えて、メディア12の体積を用いてもよい。また、メディア径として、体積が等しい球の直径(球相当径)を用いることもできる。
【0021】
また、プロセスデータ62は、「メディア12に関する情報」の他に、バレル11に投入する被処理物10の総重量を示す「製品投入重量」、バレル11に投入する被処理物10の数量を示す「製品投入数量」、バレル11の回転時間、バレル11の回転数等のパラメータを含んでいる。なお、プロセスデータ62は、図示以外のパラメータを適宜含んでいてもよい。
【0022】
処理物データ63は、処理物に関するデータであり、バレル研磨の評価の指標となるパラメータを含んでいる。
図2に示される通り、処理物データ63は、処理物の面取り量や不良率のパラメータを含んでいる。なお、処理物データ63は、図示以外のパラメータを適宜含んでいてもよく、例えば、不良率に替えて、合格率を用いてもよい。また、不良率については、再度のバレル研磨で合格品となる処理物を不良に含めずに不良率を求めるようにしてもよい。
【0023】
なお、ここでいう「不良」とは、出荷時の外観検査で、製品ごとに設けられた欠けとヒビの基準を満たさないことを意味している。出荷時の外観検査では、バレル研磨以外の工程(加工や素材成形、塗装などの工程)に起因する不良も含まれるが、その数は少なく、バレル研磨に起因する不良が多くを占めている。そのため、出荷時の外観検査で十分にバレル研磨に関連する不良を判断することが可能である。詳細は後述するが、本発明による実施例の予測精度が高い(
図9参照)ことからも、出荷時の外観検査で十分にバレル研磨に関連する不良を判断できることが分かる。外観検査時の合格数量と不良数量とは、ロットごとに得られるため、本実施の形態では、得られた外観検査時の合格数量と不良数量とに基づき、ロットごとに不良率を計算した。そして、計算したデータをクレンジングし、小数点第二位までを不良率のデータとして保持するようにした。なお、これに限らず、予め設定した製造数量毎に計算してもよい。
【0024】
図1に戻り、プロセス推定装置1は、少なくとも、制御部2と、記憶部3と、図示しない通信部とを有している。制御部2は、プロセス推定装置1の全体を統括的に制御しており、記憶部3は、制御部2による後述する各種処理に必要な情報等を記憶する。プロセス推定装置1は、例えば、サーバ装置等のコンピュータであり、CPU等の演算素子、RAMやROM等のメモリ、ハードディスク等の記憶装置、LANカード等の通信デバイスである通信インターフェースを備えている。
【0025】
制御部2は、設定処理部21、データ取得処理部22、学習用データ抽出処理部23、回帰モデル作成処理部24、プロセス推定処理部25、及び推定データ提示処理部26を有している。各部の詳細については後述する。
【0026】
記憶部3は、メモリや記憶装置の所定の記憶領域により実現されている。また、プロセス推定装置1は、表示器4と、入力装置5と、を有している。表示器4は、例えば液晶ディスプレイ等であり、入力装置5は、例えばキーボードやマウス等である。なお、表示器4をタッチパネルで構成し、表示器4が入力装置5を兼ねる構成としてもよい。また、表示器4や入力装置5は、プロセス推定装置1と別体に構成され、無線通信等によりプロセス推定装置1と相互に通信可能に構成されていてもよい。この場合、表示器4または入力装置5は、タブレットやスマートフォン等の携帯端末で構成されていてもよい。
【0027】
(設定処理部21)
設定処理部21は、プロセス推定装置1の各種設定を行うための設定処理を行うものである。設定処理部21では、例えば、データ取得処理部22によるデータ取得の方法やデータ取得日時の設定等、各種制御に係る情報の設定を行うことができる。また、設定処理部21では、記憶部3に記憶する各種情報の登録・更新・削除等が可能である。各種情報の入力等には、入力装置5等を用いることができる。
【0028】
(データ取得処理部22)
データ取得処理部22は、各種データ60~63を取得するデータ取得処理(
図5参照)を行うものである。データ取得処理部22は、取得した各データ60~63を、全体データベース31として記憶部3に記憶する。
【0029】
(学習用データ抽出処理部23)
学習用データ抽出処理部23は、全体データベース31から、機械学習に用いるデータのみを学習用データ32として抽出する学習用データ抽出処理を行う。
図3(a)に示すように、学習用データ抽出処理では、全体データベース31に含まれるデータから説明変数となる説明変数データ71と目的変数となる目的変数データ72とを抽出する。本実施の形態では、説明変数データ71として、被処理物データ61とプロセスデータ62とを用い、目的変数データ72として、処理物データ63を用いる。抽出された学習用データ32は、記憶部3に記憶される。
【0030】
(回帰モデル作成処理部24)
図3(b)に示すように、回帰モデル作成処理部24は、抽出された学習用データ32を用いて機械学習を行い、説明変数データ71の各パラメータと目的変数データ72の各パラメータとの相関を示す回帰モデル33を作成する回帰モデル作成処理を行う(
図6(a)参照)。本実施の形態では、回帰モデル作成処理部24は、少なくとも、被処理物データ61、プロセスデータ62、及び処理物データ63の関係を機械学習し、これらデータの相関性を表す回帰モデル33を作成する。より詳細には、回帰モデル作成処理部24は、被処理物データ61及びプロセスデータ62の各パラメータを説明変数とし、処理物データ63の所定のパラメータ(例えば、不良率)を目的変数として、説明変数と目的変数との相関性を表す回帰モデル33を作成する。
【0031】
回帰モデル作成処理部24は、入力された説明変数データ71の各パラメータに対する目的変数データ72のパラメータの相関性を、機械学習により自ら学習するための学習アルゴリズム等のソフトウェアを含んでいる。学習アルゴリズムは特に限定されず、公知の学習アルゴリズムを用いることができ、例えば、3層以上の層をなすニューラルネットワークを用いた所謂ディープラーニング等を用いることができる。回帰モデル作成処理部24が学習するものは、説明変数データ71と、目的変数データ72との相関性を表すモデル構造に相当する。
【0032】
より具体的には、回帰モデル作成処理部24は、入力された学習用データ32を基に、説明変数データ71と目的変数データ72とを含むデータ集合に基づく学習を反復実行し、両者の相関性を自動的に解釈する。なお、学習の開始時には相関性は未知の状態であるが、学習を進めるに従って説明変数データ71に対する目的変数データ72の相関性を徐々に解釈し、その結果として得られた学習済みモデルである回帰モデル33を用いることで、説明変数データ71に対する目的変数データ72の相関性を解釈可能になる。
【0033】
回帰モデル作成処理部24は、作成した回帰モデル33を記憶部3に記憶する。本実施の形態では、回帰モデル作成処理部24は、全体データベース31が更新される度に、回帰モデル33を更新する。ただし、これに限らず、例えば後述するプロセス推定処理を実行する際に、データ更新分をまとめて学習し、回帰モデル33を更新するようにしてもよい。
【0034】
(プロセス推定処理部25)
プロセス推定処理部25は、回帰モデル作成処理部24が作成した回帰モデル33を用いて、推定対象のプロセスデータ62を推定するプロセス推定処理を行う(
図6(b)参照)。
図3(c)に示すように、プロセス推定処理部25は、回帰モデル作成処理部24が作成した回帰モデル33と、推定元のデータである推定元データ34とを基に、推定データ35を求める。求めた推定データ35は、記憶部3に記憶される。本実施の形態では、プロセスの推定を行うために、推定データ35はプロセスデータ62となる。推定元データ34は、機械学習に用いたパラメータのうち、推定するプロセスデータ62のパラメータ以外のパラメータのデータとなる。推定元データ34は、例えば、入力装置5により入力される。ここで得られた推定データ35(プロセスデータ62)は、推定元データ34として入力された被処理物10の状態等を考慮して、所望の処理物の状態とすることが可能なプロセス条件の設定値を表している。
【0035】
(推定データ提示処理部26)
推定データ提示処理部26は、推定データ35を提示する推定データ提示処理を行う。推定データ提示処理では、例えば、推定データ35を表示器4に表示する。なお、推定データ提示処理では、推定データ35以外のデータ、例えば、説明変数データ71や目的変数データ72として用いたパラメータ等もあわせて提示するように構成されていてもよい。
【0036】
(プロセス推定方法)
(メインルーチン)
図4は、本実施の形態に係るプロセス推定方法のフロー図である。なお、
図4において、実線で示す矢印は、制御の流れを表しており、破線で示す矢印は、信号やデータの入出力を表している。
【0037】
図4に示すように、まず、入力装置5等から各種データ60~63が入力される(ステップS10)。プロセス推定装置1は、ステップS1にて、各種データ60~63が入力されたかを判定する。ステップS1にてNO(N)と判定された場合、ステップS5に進む。ステップS1でYES(Y)と判定された場合、ステップS2に進み、データ取得処理を行う。
【0038】
ステップS2のデータ取得処理では、
図5に示すように、ステップS21にて、データ取得処理部22が、各種データ60~63を受信する。そして、ステップS22にて、データ取得処理部22が、受信した各種データ60~63を全体データベース31に登録し記憶部3に記憶する。この際、既存の全体データベース31にデータを追加するのか、あるいは新たに全体データベース31を作成するのかを選択可能としてもよい。その後、リターンし、
図4のステップS3に進み、学習用データ抽出処理を行う。
【0039】
ステップS3の学習用データ抽出処理では、学習用データ抽出処理部23が、全体データベース31から、説明変数データ71と目的変数データ72を抽出して、学習用データ32として記憶部3に記憶する。どのデータを説明変数データ71や目的変数データ72として使用するかは、使用者が設定画面等にて設定するとよい。この点についての詳細は後述する。本実施の形態では、説明変数データ71として、少なくとも、プロセスデータ62のうちメディア12に関する情報が選択されることになる。
【0040】
その後、ステップS4にて、回帰モデル作成処理を行う。回帰モデル作成処理では、
図6(a)に示すように、まず、ステップS41にて、回帰モデル作成処理部24が、学習用データ32(ステップS3で抽出された説明変数データ71及び目的変数データ72)を機械学習に用いて、回帰モデル33の作成を行う。なお、ステップS41は、回帰モデル33が作成済みである場合には、回帰モデル33が更新される。その後、ステップS42にて、作成(あるいは更新)した回帰モデル33を記憶部3に記憶し、リターンする。
【0041】
プロセスの推定を行う際には、入力装置5等により、推定元データ34を入力する(ステップS11)。なお、予め推定元データ34となるデータをプロセス推定装置1に入力しておき、入力装置5により推定元データ34として用いるデータを選択するよう構成してもよい。
【0042】
ステップS5では、制御部2が、推定元データ34が入力されたかを判定する。ステップS5でNO(N)と判定された場合、リターンする(ステップS1に戻る)。ステップS5でYES(Y)と判定された場合、ステップS6に進む。
【0043】
ステップS6では、プロセス推定処理を行う。プロセス推定処理では、
図6(b)に示すように、まず、ステップS61にて、プロセス推定処理部25が、回帰モデル33を用いて、推定元データ34に対応するプロセスデータ62を推定し、推定データ35とする。その後、ステップS62にて、得られた推定データ35を記憶部3に記憶する。その後、リターンし、
図4のステップS7に進む。
【0044】
ステップS7では、推定データ提示処理を行う。推定データ提示処理では、例えば、推定データ提示処理部26が、ステップS6で推定した推定データ35を表示器4に表示する等して、推定データ35を提示する。その後、リターンする(ステップS1に戻る)。
【0045】
(各種画面の説明)
ここで、表示器4に表示される各種画面について説明する。
図7(a)は、回帰モデル33の作成に際して表示される変数設定画面41の一例を示す図である。
図7(a)に示すように、変数設定画面41では、画面左側に目的変数を選択するための目的変数選択エリア41aを有すると共に、画面右側に説明変数を選択するための説明変数選択エリア41bを有している。使用者は、目的変数選択エリア41aでチェックボックス41cにチェックを入れることで、目的変数を選択し、選択完了ボタン41dを押す(クリックする、タッチする)。すると、説明変数選択エリア41bに、選択した目的変数に応じて適切な説明変数が既にチェックされた状態で表示される。使用者は、説明変数選択エリア41bにおいてチェックボックス41cにチェックを追加したりチェックを外したりして、使用する説明変数を決定し、OKボタン41eを押す。すると、選択結果に基づいて、上記の学習用データ抽出処理と、回帰モデル作成処理が行われ、回帰モデル33の作成が行われることになる。
【0046】
上では言及しなかったが、例えば使用する説明変数が多すぎたりすると、過学習により回帰モデル33の推定精度が低下するおそれがある。そこで、本実施の形態では、学習用データ32のうち一部(例えば7割)を使用して回帰モデル33を作成し、残りの学習用データ32(例えば3割)を用いてテストを行い、その評価値を表示器4に表示するように制御部2を構成した。
図7(b)は、評価値を表示する評価値表示画面42の一例を示す図である。
図7(b)に示すように、評価値表示画面42では、その画面中央部に評価値を表示する評価値表示エリア42aを有し、評価値が表示されている。なお、どの評価値を用いるかは適宜変更可能である。評価値表示画面42の下部には、「これでよろしいですか?」といった確認を促すメッセージが表示されており、はいボタン42bを押すと、例えば推定元データ34を入力する推定元データ入力画面43(
図8(a)参照)に移行する。いいえボタン42cを押すと、
図7(a)の変数設定画面41に戻り、改めて、使用する目的変数や説明変数の設定を行うことになる。使用する目的変数や説明変数の選択、評価を繰り返すことで、適切な目的変数及び説明変数の選択が可能になり、推定精度の向上が図れる。
【0047】
図8(a)は、推定元データ入力画面43の一例を示す図である。
図8(a)に示すように、推定元データ入力画面43では、製品を選択するための製品選択エリア43aと、推定元データ34のデータ入力を行うための入力エリア43bと、を有している。例えば、使用者が製品選択エリア43aで製品を選択すると、入力エリア43bに製品に対応する値が自動で入力されるようにしてもよい。また、図示例では、入力エリア43bで最小値と最大値を入力するようにしたが、1つの値(代表値)のみを入力するよう構成してもよい。入力エリア43bへの入力が終了し、推定開始ボタン43cを押すと、上記のプロセス推定処理が行われることになる。
【0048】
図8(b)は、プロセス推定処理の推定結果を表示する推定結果表示画面44の一例を示す図である。
図8(b)に示すように、推定結果表示画面44では、項目毎に狙い値(設定値)が表示される。この狙い値が、プロセス推定処理により推定した推定データ35である。ここでは、狙い値と管理幅を表示しているが、例えば管理幅を省略してもよい。また、管理幅については、プラスとマイナスとで違う値が設定されてもよい。推定結果表示画面44では、上部にタブ44aを有しており、「要求特性等」のタブ44aを押すことで、
図8(a)の推定元データ入力画面43に戻り、入力データの変更等を行うことができる。
【0049】
なお、
図7,8に示した各画面はあくまで一例であり、表示レイアウトや表示項目、表示形式等は適宜変更可能である。
【0050】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るプロセス推定装置1では、少なくとも、被処理物10の状態を示す被処理物データ61、バレル研磨の研磨条件の情報を含むプロセスデータ62、及び、処理物に関する処理物データ63の関係を機械学習し、これらのデータの相関性を表す回帰モデル33を作成する回帰モデル作成処理部24と、回帰モデル作成処理部24で作成した回帰モデル33を用いて、推定対象のプロセスデータ62を推定するプロセス推定処理部25と、を備え、プロセスデータ62は、少なくとも、バレル研磨に用いるメディア12に関する情報を含んでいる。
【0051】
バレル研磨の研磨条件は、1つの条件を変更すると他の複数の最適条件が変化してしまい、適切な研磨条件を検討することが容易ではなかった。本実施の形態のように、機械学習を用いることで、バレル研磨の研磨条件をより容易に推定することが可能になる。さらに、メディア径などのメディア12に関する情報を機械学習に用いることで、推定精度の向上を図ることが可能になる。
【0052】
(推定精度の検討)
図2に示した被処理物データ61、プロセスデータ62の各パラメータを説明変数とし、目的変数を不良率として、推定精度の評価を行った。回帰モデル33の種類はランダムフォレストとし、学習用データ32の一部を回帰モデル33の作成に用い、他部をテストデータとして用いることで、実施例の決定係数R
2を求めた。また、説明変数にメディア径を用いない以外は同様の説明変数、目的変数を用いた比較例についても、決定係数R
2を求めた。結果をまとめて
図9に示す。
【0053】
図9に示すように、説明変数にメディア径を用いた実施例は、説明変数にメディア径を用いない比較例よりも決定係数R
2が大きくなっており、メディア径を用いることで、推定精度の向上を図れることが確認できた。
【0054】
(変形例)
上記実施の形態では言及しなかったが、作成した回帰モデル33を用いて、プロセスデータ62以外のデータを推定することも可能である。例えば、回帰モデル33を用いて不良率を推定し、推定した不良率が小さくなるように研磨条件を見直す、といった使用法も可能である。
【0055】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0056】
[1]被処理物(10)をバレル研磨して処理物を得る際のプロセス推定装置(1)であって、少なくとも、前記被処理物(10)の状態を示す被処理物データ(61)、前記バレル研磨の研磨条件の情報を含むプロセスデータ(62)、及び、前記処理物に関する処理物データ(63)の関係を機械学習し、これらのデータの相関性を表す回帰モデル(33)を作成する回帰モデル作成処理部(24)と、前記回帰モデル作成処理部(24)で作成した前記回帰モデル(33)を用いて、推定対象の前記プロセスデータ(62)を推定するプロセス推定処理部(25)と、を備え、前記プロセスデータ(62)は、少なくとも、前記バレル研磨に用いるメディア(12)に関する情報を含む、プロセス推定装置(1)。
【0057】
[2]前記プロセスデータ(62)は、前記メディア(12)に関する情報として、前記メディア(12)の大きさ、前記メディア(12)の材質、前記メディア(12)の総重量のうち少なくとも1つ以上を含む、[1]に記載のプロセス推定装置(1)。
【0058】
[3]前記メディア(12)が球状であり、前記プロセスデータ(62)は、前記メディア(12)に関する情報として、少なくとも前記メディア(12)の外径であるメディア径を用いる、[2]に記載のプロセス推定装置(1)。
【0059】
[4]前記処理物データ(63)は、前記処理物の不良率のデータを含む、[1]乃至[3]の何れか1項に記載のプロセス推定装置(1)。
【0060】
[5]前記回帰モデル作成処理部(24)は、前記被処理物データ(61)及び前記プロセスデータ(62)の各パラメータを説明変数とし、前記処理物データ(63)の所定のパラメータを目的変数として、前記説明変数と前記目的変数との相関性を表す前記回帰モデル(33)を作成する、[1]乃至[4]の何れか1項に記載のプロセス推定装置(1)。
【0061】
[6]前記被処理物(10)が、磁性材料である、[1]乃至[5]の何れか1項に記載のプロセス推定装置(1)。
【0062】
[7]被処理物(10)をバレル研磨して処理物を得る際のプロセス推定方法であって、少なくとも、前記被処理物(10)の状態を示す被処理物データ(61)、前記バレル研磨の研磨条件の情報を含むプロセスデータ(62)、及び、前記処理物に関する処理物データ(63)の関係を機械学習し、これらのデータの相関性を表す回帰モデル(33)を作成する回帰モデル作成工程と、前記回帰モデル作成工程で作成した前記回帰モデル(33)を用いて、推定対象の前記プロセスデータ(62)を推定するプロセス推定工程と、を備え、前記プロセスデータ(62)は、少なくとも、前記バレル研磨に用いるメディア(12)に関する情報を含む、プロセス推定方法。
【0063】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…プロセス推定装置
2…制御部
21…設定処理部
22…データ取得処理部
23…学習用データ抽出処理部
24…回帰モデル作成処理部
25…プロセス推定処理部
26…推定データ提示処理部
3…記憶部
31…全体データベース
32…学習用データ
33…回帰モデル
34…推定元データ
35…推定データ
4…表示器
5…入力装置
60…製品情報データ
61…被処理物データ
62…プロセスデータ
63…処理物データ
71…説明変数データ
72…目的変数データ
10…被処理物
11…バレル
12…メディア