(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134438
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】中空シリカ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20240926BHJP
【FI】
C01B33/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044744
(22)【出願日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】392012331
【氏名又は名称】豊田化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】藤 正督
(72)【発明者】
【氏名】野尻 凌平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 生弥
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072BB16
4G072CC13
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH21
4G072JJ30
4G072KK01
4G072LL06
4G072LL11
4G072MM03
4G072QQ20
4G072RR12
4G072TT30
4G072UU09
(57)【要約】
【課題】炭酸カルシウムをテンプレートとし、シリカ源としてケイ酸ナトリウムを用いて中空シリカ粒子を製造することが可能な中空シリカ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の中空シリカ粒子の製造方法は、水と、水に可溶であって比誘電率が該水より小さい有機溶媒と、炭酸カルシウムと、ケイ酸ナトリウム水溶液とを所定の割合で混合する混合工程S1と、前記混合溶液から固相を分離する分離工程S2と、分離した前記固相を酸処理して炭酸カルシウムを溶解する溶解工程S3と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、水に可溶であって比誘電率が水より小さい有機溶媒と、炭酸カルシウムと、ケイ酸ナトリウム水溶液とを所定の割合で混合する混合工程と、
前記混合溶液から固相を分離する分離工程と、
分離した前記固相を酸処理して炭酸カルシウムを溶解する溶解工程と、
を備える中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記混合溶液の比誘電率は50~75である請求項1に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムはアンモニアが吸着されている請求項1又は2に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒は炭素数が3以下のアルキルアルコールである請求項1又は2
に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記アルキルアルコールはエタノールである請求項4に記載の中空シリカ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空シリカ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空無機粒子は中実無機粒子と比較して高比表面積、低密度、低熱伝導率といった特性を有するため、これらの特性を利用した機能性材料として断熱材等に用いられている。
【0003】
中空シリカ粒子の製造方法としては、炭酸カルシウムの分散液中でシリコンアルコキシドを加水分解させることにより、炭酸カルシウム表面にシリカ皮膜を形成させた後、酸によって炭酸カルシウムを溶解して中空シリカ粒子とするテンプレート法が知られている(特許文献1、2)。
【0004】
例えば、特許文献1では、炭酸カルシウムの分散液中でシリコンアルコキシドをアンモニア触媒によって加水分解反応を促進させ、緻密なシリカ殻を有するナノサイズのシリカ中空粒子を得ている。
【0005】
さらに、特許文献2では、特許文献1の方法におけるアンモニア触媒の代わりに炭酸ナトリウムを用い、臭気及び毒性の少ないナノ中空シリカ粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-263550号公報
【特許文献2】特開2008-222459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の炭酸カルシウムをテンプレートとして用いた中空シリカ粒子の製造方法では、シリカ源として高価な材料であるシリコンアルコキシドを用いているため、製造コストの高騰化を招来していた。また、シリコンアルコキシドは毒性が強いため、製造工程における作業環境に十分な注意が必要となっていた。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、炭酸カルシウムをテンプレートとして用いた中空シリカ粒子の製造方法において、シリコンアルコキシドを用いることなく、安価で毒性も少ないケイ酸ナトリウムを用いて中空シリカ粒子を製造することが可能な製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、炭酸カルシウムをテンプレートとして用いた中空シリカ粒子の製造方法において、シリカ原料として従来用いられていたシリコンアルコキシドの替わりに、安価なケイ酸ナトリウムを用いることを検討した。しかし、ケイ酸ナトリウム水溶液は水和によってケイ酸イオンが安定化しており、脱水縮合反応が進み難く、炭酸カルシウムを核としたシリカ殻を形成させることは困難であることが分かった。
【0010】
このため、更に鋭意研究を重ねた結果、水より比誘電率が小さな有機溶媒を混合すれば、ケイ酸イオンからの脱水縮合反応が迅速に進み、炭酸カルシウム表面にシリカ殻を形成することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の中空シリカ粒子の製造方法は、
水と、水に可溶であって比誘電率が水より小さい有機溶媒と、炭酸カルシウムと、ケイ酸ナトリウム水溶液とを所定の割合で混合する混合工程と、
前記混合溶液から固相を分離する分離工程と、
分離した前記固相を酸処理して炭酸カルシウムを溶解する溶解工程と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の中空シリカ粒子の製造方法では、混合工程における混合液の比誘電率が水より小さくなるため、ケイ酸ナトリウムの脱水縮合が迅速に行われる。すなわち、ケイ酸ナトリウムへの水和によってケイ酸イオンが迅速に生成し、ケイ酸イオンが炭酸カルシウムの表面に吸着し、脱水縮合してシリカ殻が形成される。そして、分離工程においてシリカ殻が表面に形成された炭酸カルシウムを分離する。最後に、酸処理によって炭酸カルシウムを溶解し、中空シリカ粒子を得ることができる。
【0013】
水と、有機溶媒と、炭酸カルシウムと、ケイ酸ナトリウム水溶液の混合割合は、混合工程S1においてシリカ殻で覆われた炭酸カルシウムが形成されために好適であって、中実シリカ粒子が形成され難い条件とすることが好ましい。このような好適な混合割合は、あらかじめ試験によって求めておくことが好ましい。
【0014】
また、混合溶液の比誘電率は50~75であることが好ましい。混合溶液の比誘電率が50~75の範囲であれば、ケイ酸ナトリウムの脱水縮合が迅速に行われ、且つ、炭酸カルシウム表面にシリカ殻を形成することができる。混合溶液の比誘電率が75を超えると、ケイ酸ナトリウムの脱水反応及び縮合反応が遅くなり、シリカが形成され難くなる。また、混合溶液の比誘電率が50未満ではケイ酸ナトリウムの脱水反応及び縮合反応が速くなりすぎて、混合溶液中で中実シリカ粒子が形成されてしまい、炭酸カルシウム表面でのシリカ殻が形成され難くなる。さらに好ましいのは混合溶液の比誘電率が57~64の範囲である。
【0015】
また、炭酸カルシウムはアンモニアが吸着されていることが好ましい。アンモニアが吸着した炭酸カルシウムを用いることにより、シリカ前駆体(
図2参照)が炭酸カルシウムに吸着しやすくなるため、炭酸カルシウムの表面にシリカ殻が迅速に形成され、目的としない中実シリカ粒子の生成が抑制されるからである。
【0016】
有機溶媒は炭素数が3以下のアルキルアルコールとすることができる。特に好ましいのは炭素数が2以下のアルキルアルコールであるエタノール及びメタノールである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】ケイ酸ナトリウムがシリカ前駆体を経てシリカとなる過程を示した模式図である。
【
図3】炭酸カルシウムへのシリカ前駆体の吸着過程を示す模式図である。
【
図4】シリカ前駆体が迅速に脱水・縮合反応によってシリカ粒子となり、炭酸カルシウム表面に吸着しないことを示した模式図である。
【
図6】炭酸カルシウム粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【
図7】エタノールの添加量(X)と水の添加量(Y)とした場合の生成物の評価をプロットしたグラフである。
【
図8】Line A上の条件で合成した粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【
図9】Line B上の条件で合成した粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【
図10】シリカ殻が成長する際に、複数の炭酸カルシウムがシリカ殻で繋がった塊状物となる過程を示した模式図である。
【
図11】Region C,D,E,Fの条件で合成された粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【
図12】炭酸カルシウムのCaサイトとシリカ前駆体のシラノール基の固体酸塩基反応により、シリカ殻の一層目が形成されることを示す模式図である。
【
図13】エタノールの添加量(X)と水の添加量(Y)とした場合の生成物の評価のプロットにおいて、中空シリカ粒子の合成が可能領域を示、及び、その領域の重心を示したグラフである。
【
図14】2次元図における中空シリカ粒子の合成可能領域の重心の組成で合成された中空シリカ粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【
図15】3次元図における中空シリカ粒子の合成可能領域を示す図である。
【
図16】
図15の3次元図における合成可能領域の重心の組成で合成された中空シリカ粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【
図18】実施例1及び実施例2で得られた中空シリカ粒子についての走査電子顕微鏡写真である。
【
図20】炭酸カルシウムに対するアンモニアの吸着等温線である。
【
図21】アンモニアを吸着させた炭酸カルシウムを用いて中空シリカ粒子の合成方法を示す工程図である。
【
図22】実施例3-1、実施例3-2、及び実施例3-3の中空シリカ粒子の走査電子顕微鏡写真である。
【
図23】炭酸カルシウム粒子へのシリカ殻形成過程を示す模式図である。
【
図24】実施例3-1、実施例3-2、及び実施例3-3におけるt-plotである。
【
図25】エタノール添加量の制御による、合成中空シリカ粒子構造の変化を示す模式図である。
【
図26】実施例12(水-NMP混合溶媒系)で得られた中空シリカ粒子についての走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態について説明する。
<中空シリカ粒子の製造方法>
・混合工程S1
中空シリカ粒子の製造方法の工程図を
図1に示す。まず、混合工程S1として、水と有機溶媒と炭酸カルシウムの粉末とケイ酸ナトリウム水溶液とを所定の割合で混合する。混合の順序は特に限定されないが、例えば、1)炭酸カルシウムに水-有機溶媒の混合溶液を加えてホモジナイザーによって分散液とした後、ケイ酸ナトリウム水溶液を加えて撹拌するという方法、2)水に炭酸カルシウムを加えてホモジナイザーで分散液とした後、さらにケイ酸ナトリウム水溶液を加えて撹拌しながら有機溶媒を加えるという方法、等によって行うことができる。
【0019】
有機溶媒は水と可溶であることが要件とされる。ここで、水に可溶とは水100gに対して10g以上溶解することが可能な有機溶媒をいう。例えば、メタノール、エタノール、各種プロパノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、THFやジオキサンなどのエーテル類、DMFなどのホルムアミド類、NMPなどのラクタム類を用いることができる。混合工程S1において、ケイ酸ナトリウムは水-有機混合液に溶解して混合溶液となる。一方、炭酸カルシウム粉末は混合溶液に難溶性であるため、混合溶液中に粉末が分散した状態となる。
【0020】
添加されたケイ酸ナトリウム水溶液中のケイ酸ナトリウムは、ナトリウムイオンが水素イオンに置換されてシリカ前駆体となり(
図2参照)、炭酸カルシウム粉末の表面に吸着する。そして、吸着したシリカ前駆体は、さらに脱水縮合されて難溶性のシリカとなる。炭酸カルシウムへのシリカ前駆体の吸着は、炭酸カルシウム結晶の表面エネルギーの最も高い角から始まり、辺、面の順に形成が進行していくと考えられる(
図3参照)。
【0021】
本発明の中空シリカ粒子の製造方法において、水-有機溶媒の混合溶媒を用いるのは、次の理由による(例として、有機溶媒がエタノールの場合について説明する)。
溶媒がエタノールのみからなる場合、ケイ酸ナトリウムはエタノールに不溶であり、エタノールが脱水剤として作用して脱水縮合が急激に進行してシリカとなる。このため、シリカ前駆体は炭酸カルシウム表面に吸着する前に沖合でシリカとなって沈殿し、炭酸カルシウム表面にシリカ殻が形成されることはない(
図4参照)。
一方、溶媒が水のみからなり、エタノールを含まない場合、ケイ酸ナトリウムは水に溶解するが、比誘電率が大きいため水和エネルギーによって安定化し、脱水縮合反応が遅くなり、シリカが形成されない。
【0022】
以上の理由から、炭酸カルシウム粒子の表面上にシリカ前駆体を吸着させて、シリカ殻を形成させるには、溶媒の極性の制御が必須となる。極性とは電気陰性度の違いにより生じる電荷の偏りにより決まる値であり、双極子モーメントがある物質は、極性を示す物質であると言える。誘電率も同じく、電荷の偏りにより大小が決まる値であるため、誘電率の大小により、極性の大小が決まる。このため、水と、水より小さな比誘電率の有機溶媒(例えばエタノール)を様々な比率で混合した溶媒を用いることにより、混合溶液の比誘電率(極性)を制御することができ、ひいては炭酸カルシウム表面にシリカ殻を形成させるように制御することができる。例えば水とエタノールの比誘電率(真空の誘電率に対する物質の誘電率)は、それぞれ80.4と24である。この2成分の混合溶媒の比誘電率δMixはエタノールの存在比率をαとすると、次の計算式で表すことができる。この式より、エタノールと水の混合比率を変えることによって、混合溶媒の比誘電率を制御することができ、ひいては極性の制御が可能となる。
【0023】
【0024】
発明者らの試験結果によれば、混合溶液の比誘電率を所定の範囲になるように制御することによって、中実シリカ粒子の形成が抑制され、中空シリカ粒子の歩留まりが高くなった。
【0025】
・分離工程S2
分離工程S2では、混合溶液からシリカ殻が形成された炭酸カルシウムをろ過、遠心分離等によって分離する。さらに分離した沈殿物を水や、有機溶媒や、水-有機溶媒の混合溶媒によって洗浄し、再度分離工程を行う。
【0026】
・溶解工程S3
こうして分離、精製されたシリカ殻が形成された炭酸カルシウムに酸を加え、炭酸カルシウムを溶解する。酸としては、炭酸カルシウムを溶解することが可能な塩酸、硝酸等を用いることができる。さらに、水や、有機溶媒や、水-有機溶媒の混合溶媒によって洗浄し、ろ過、遠心分離等によって分離し、乾燥させることによって、中空シリカ粒子を得る。こうして得られた中空シリカ粒子は、炭酸カルシウム粉末の形状を母型として形成されているため、形状も炭酸カルシウム粉末の形状となる。
【実施例0027】
(試験例1)
試験例1では、混合工程S1において有機溶媒としてエタノールを用い、水とエタノールの比率を変化させて、炭酸カルシウム表面にシリカ殻ができる範囲を求めた。工程図を
図5に示す。
【0028】
・混合工程S1
炭酸カルシウム粒子として、コロイド状炭酸カルシウム(FB80,合同会社F-Paln製)を用いた。この炭酸カルシウム粒子のSEM画像を
図6に示す。この画像から、平均シリカ粒子径は130nmであって、立方体形状の粒子であることが分かった。炭酸カルシウム粉体1.5gにエタノール(99.5%,和光純薬工業製)をX ml、蒸留水をY mlを加え、炭酸カルシウム粒子の分散のためにホモジナイザー(ヒスコトロン NS-52K,マイクロテック・ニチオン製)を用いて8000rpmで10分間分散させ、均一な懸濁液を作製した。
懸濁液をマグネティックスターラーにより撹拌し、そこへケイ酸ナトリウム水溶液として、水ガラス3号(SiO
2 28-30wt%, Na
2O 9-10wt%、キシダ化学社製)1mlを蒸留水10mlで希釈し、10分間マグネティックスターラーによって撹拌した溶液を加え、180分撹拌した。
【0029】
・分離工程S2
その後、遠心分離機を用いて15000rpmで10分間超遠心を行い、固相を分離した。未反応の水ガラスの除去のため、分離した粒子に蒸留水を加えて分散した後再度遠心分離機によって固相を分離した。蒸留水による洗浄操作は2回行った。
【0030】
・溶解工程S3
得られた固相を水溶媒へ再分散させ、3mol/Lに調製した塩酸(和光純薬製)を添加し、pHを約3まで低下させ、コア粒子である炭酸カルシウムを溶解させた。その粒子を再度、遠心分離機により15000rpmで10分間超遠心を行い、固液分離した。分離した固相を水により2回、エタノールにより1回、分散・遠心分離機による固相分離を繰り返し、不純物を取り除いた後、80℃の乾燥機を用いて乾燥させて粒子を得た。
【0031】
<評 価>
以上のようにして得られた粒子について、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:JSM-7600F, 日本電子株式会社製)を用いて二次電子モード(SEI)及び透過電子モード(TED)によって観察した。観察用の試料作製方法としては、試料をエタノール中に超音波分散させた懸濁液をマイクログリッド(カーボン支持膜Cuグリッド,グリッドピッチ:200μm,EM Japan株式会社製)に滴下し、そのグリッドを180℃の真空乾燥機で12時間乾燥して作製した。観察の際の加速電圧は15kV、照射電流は0.2nAとした。試料の帯電を防ぐため、オスミウムコーター(OSMIUMPLASMA COATER OPC60A,Filgen社製)を用いて四酸化オスミウム(OsO4)をコーティングした。
【0032】
走査電子顕微鏡観察において、以下に示す3種類の区分によって評価を行った。
○:中空粒子のみ、又は、大部分が中空粒子で少量の中実粒子が観察された。
△;中空粒子が少量で、大多数が中実粒子として観察された。
×:中実粒子、又は、シェル殻の破片が多数観察された。
そして、横軸をエタノールの添加量(X)、縦軸を水の添加量(Y)とし、エタノール/水混合溶媒の各混合量(X, Y)において合成した粒子を走査電子顕微鏡により観察し、横軸をX、縦軸をY+10(水ガラスを希釈した蒸留水10mlを加算)とするグラフに○、△及び×の評価をプロットした。結果を
図7に示す。
【0033】
その結果、1)中空粒子のみ、または大部分が中空粒子で少量の中実粒子が観察された○印の領域として、Line.A(α=0.25)とLine.B(α=0.4)とに挟まれた領域、2)中空粒子が少量で大多数が中実粒子として観察された△の領域であるRegion C及びRegion F、3)中実粒子または破れたシェルが多数観察された主として×の領域であるRegion D及びRegion E、の各領域に分類することができた。
以下にそれぞれの領域の特徴と、それらの領域が形成された理由とを述べる。
【0034】
・Line.AとLine.Bとに挟まれた領域
この領域は、混合溶媒中のエタノールの体積比率αが0.25であるLine.Aと、αが0.4であるLine.Bとに挟まれた領域である。
Line.A上の条件で合成された粒子のSEMによる観察を行ったところ、
図8に示すように、粒子は薄いシリカ殻を有しており、中実粒子の存在は確認できず、中空粒子のみが確認された。また、破れたシリカ殻も確認された。
一方、Line.B上の条件で合成された粒子は、
図9に示すように、Line, A上の条件で合成した粒子よりもシリカ殻が厚いことが分かった。また、破れたシリカ殻は確認されず、わずかに中実粒子も生成していることが確認された。
【0035】
Line. AとLine. Bにおけるエタノール存在比率αは、それぞれ0.25,0.4である。また、式(1)から、Line. A上の混合溶媒の比誘電率δAは66.3、Line. B上の混合溶媒の比誘電率δBは57.8と算出される。したがって、混合溶媒の比誘電率57.8~66.3の範囲が、中空粒子が合成可能な領域であることが分かった。
混合溶媒の比誘電率δMixが57.8に近づくと、中空粒子のシリカ殻が厚くなり、中実粒子が生成しやすい条件となる。その理由は、炭酸カルシウム粒子表面へのシリカ殻の形成が、溶媒の極性の低下にしたがって速くなるからである。すなわち、極性の低下によりシリカ前駆体への脱水・縮合反応が迅速に進み、多くのシリカが炭酸カルシウム表面に吸着し、シリカ殻が厚くなる。しかしながら、炭酸カルシウム表面への吸着だけでなく、沖合でのシリカ粒子の成長も速くなるため、中実粒子も生成し易くなる。
以上の理由により、水の割合が高くて比誘電率が大きなLine. A,上では、炭酸カルシウム表面でのシリカ殻の形成速度が遅くなる。そのため、薄く、破れやすいシリカ殻が生成する。また、比誘電率がLine. A上よりも小さくなると、混合溶媒中の極性は低下し、シリカ殻の形成速度は速くなり、厚いシリカ殻が生成する。
一方、Line. B上では、炭酸カルシウム表面へのシリカの吸着に加え、沖合においてもシリカ粒子が生成・成長し、炭酸カルシウム表面へ吸着する前に、沖合で中実粒子が生成する。
したがって、中空シリカ粒子の製造するためには、Line. AとLine. Bに挟まれた領域であること(すなわち、混合溶媒中のエタノールの体積比率αが0.25以上であって0.40以下であること)が中空シリカ粒子の形成の条件とされる。
【0036】
・Region. C
Region. Cでは、エタノールと水の両溶媒が少なく、全溶媒量が少ない条件(換言すれば、炭酸カルシウム及びケイ酸ナトリウムの濃度が高い条件)である。このため、シリカ前駆体どうしの距離が近く、脱水縮合しやすい状態といえる。また、分散液中で形成したシリカ前駆体と炭酸カルシウム粒子との距離も近い状態であるため、シリカ前駆体が炭酸カルシウム表面に吸着しやすい条件である。しかし、炭酸カルシウムどうしの距離も近いため、シリカ殻が成長する際に、複数の炭酸カルシウムがシリカ殻で繋がった塊状物となる。また、炭酸カルシウム粒子の沖合でシリカ前駆体の脱水・縮合が迅速に進行することから、沖合でシリカからなる中実粒子が形成されやすくなるが、炭酸カルシウムの近くで生成したシリカ前駆体は炭酸カルシウムに吸着してシリカ殻となる(
図10参照)。以上の理由からRegion. Cで生成した粒子は、少量の中空シリカ粒子と中実シリカ粒子、さらには複数の炭酸カルシウムがシリカ殻で繋がった塊状物が混合した状態となる(
図11参照)。
【0037】
・Region. D
Region. Dは、混合溶媒中のエタノールの存在比率よりも水の存在比率の方がはるかに大きい条件である。このため、シリカ前駆体の脱水・縮合反応が進行しにくい条件である。
図11におけるRegion. Dの写真に示すように、この条件で合成された粒子は、少量の中空粒子と微小な非球形の中実シリカ粒子の凝集体となり、中空シリカ粒子の形成は確認できなかった。
【0038】
・Region. E
Region. Eでは、Region. Cとは逆にエタノール及び水の両溶媒ともに多く、全溶媒量が多い条件である。換言すれば炭酸カルシウム及びケイ酸ナトリウムの濃度が低い条件であり、炭酸カルシウム粒子とシリカ前駆体の距離が長くなる。このため、シリカ前駆体の脱水・縮合によって生成したシリカ粒子は炭酸カルシウム粒子へ吸着する前に、他のシリカ粒子との凝集する確率が高くなると推定される。一方、十分に粒成長したシリカ粒子は、炭酸カルシウム粒子表面付近へ到達した時点では、粒子径の増大により自由エネルギーが低下し、安定状態となるため、炭酸カルシウム表面に吸着し難くなると考えられる(
図4参照)。
図11のRegion. Eに示すように、この領域で合成した粒子は中実粒子が多く生成する条件であることが分かる。
【0039】
・Region. F
Region. Fでは、Region. Dとは逆の条件であり、混合溶媒中の水の存在比率よりもエタノールの存在比率の方がはるかに高い条件である。そのため、混合溶媒の極性はエタノールが支配的であり、重合反応が急激に進行する。このため、生成したシリカ粒子は
図11のRegion. Fに示すように、破れたシリカ殻を有する中空粒子が得られる。以上の結果から、極性が著しく低い、または混合溶媒中に水の存在比率が著しく低い条件では、中空シリカ粒子は形成され難いことが分かった。
【0040】
Region. D, Region. E,及びRegion. Fの領域で、中空シリカ粒子が形成されない理由は、炭酸カルシウム表面にシリカの第一層目が形成されないからであると推定される。シリカ殻の一層目は、炭酸カルシウムのCaサイトとシリカ前駆体のシラノール基の固体酸塩基反応により、強固な結合を形成すると考えられる(
図12参照)。そして、この一層目がシリカの成長・析出の場となり、シリカ粒子が成長する。混合溶媒の極性が低い条件や、溶媒量が多い条件では、一層目の形成が困難となり、そのため選択的な粒成長が起こり難いか、又は一層目が形成する前に炭酸カルシウム表面に関係なく、粒生成・粒成長が起きてしまうため、中空シリカ粒子が形成されず、中実シリカ粒子が形成されると推定される。
【0041】
・試験1における中空シリカ粒子合成のための最適条件
試験1において、エタノールの容量:水の容量のグラフでの中空粒子合成可能領域を作製し、さらにその領域の重心を求めることにより、中空粒子合成におけるエタノール/水の混合溶媒の最適な混合比率を見積もった。
【0042】
図7に示すように、試験1における中空シリカ粒子の合成可能領域はエタノール/水混合溶媒の溶媒量が60~150ml、エタノールの存在比率0.25~0.40の条件で成立する。これらの結果を用いて、エタノールの容量:水の容量のグラフに中空粒子合成可能領域を示し、さらに、その領域の重心を求めて、最適溶媒混合比率を決定した。
図13にその領域と領域の重心を示す。点線で囲まれた領域が合成可能領域である。この合成可能領域の重心の座標は(34, 71)となった。この値より、本研究におけるケイ酸ナトリウムを出発原料として用いた中空シリカ粒子の最適合成条件は、炭酸カルシウム1.5gをエタノール34ml,蒸留水61mlの混合溶媒へ1mlの水ガラスを10mlの蒸留水で希釈した前駆体溶液を添加するという条件であった。さらに、この条件によって中空シリカ粒子を合成して走査電子顕微鏡による観察を行った。その結果、
図14に示すように、中実シリカ粒子は観察されず、際立ったシリカ殻の破れも観察されず、薄いシリカ殻を有する中空シリカ粒子が形成され、中空シリカ粒子合成に最も適した条件であることが分かった。
【0043】
<水-エタノール-ケイ酸ナトリウム濃度をパラメータとした3次元グラフ>
図7はケイ酸ナトリウムの添加量を一定とした場合のグラフであるが、さらに、このグラフを基に、水-エタノール-ケイ酸ナトリウムの濃度の3つの変数をパラメータとした3次元グラフを以下の方法によって導いた。
試験1で用いた合成可能領域の算出に用いた条件は次の1)2)である。
1)全溶媒量:Ethanol + Waterが60~150ml
2)エタノールの存在比率α:Ethanol / (Ethanol + Water)が0.25~0.40
上記1)は、混合溶媒量に関する条件であり、換言すれば混合溶媒中のケイ酸ナトリウムの濃度に関する条件であるといえる。また、試験1におけるケイ酸ナトリウム水溶液の添加量は1mlであるため、ケイ酸ナトリウムの濃度は1/(エタノールの容量 + 水の容量)と表すことができる。これより、1)の条件を、ケイ酸ナトリウムの濃度に換算すると、ケイ酸ナトリウムの濃度は0.67vol.%~1.67vol.%となる(1´)。
一方、2)はエタノール存在比率αに関する条件であるため、この条件を前述した式(1)に代入すると、比誘電率が57.8から66.3の間の値であるという条件に置き変えることができる(2´)。
1´)ケイ酸ナトリウムの濃度:Waterglass/(Ethanol + Water)は0.67~1.67vol.%
2´)混合溶媒の比誘電率(δ
Mix)は57.8~66.3
【0044】
1´)の条件より合成可能領域におけるケイ酸ナトリウムの濃度は0.67~1.67 vol.%である。次に、δMixが57.8の場合におけるケイ酸ナトリウムの濃度の上限値と下限値を求める。
【0045】
A) (15, 45)の上限・下限値
エタノール15ml,水45mlの条件では、合成可能領域における溶媒量の下限値(60ml)であることより、ケイ酸ナトリウム添加量が1mlでケイ酸ナトリウム濃度が上限値(1.67%)である。また、ケイ酸ナトリウム濃度の下限値である0.67%は、ケイ酸ナトリウム添加量が0.4mlであることが計算より求められる。これにより、(15, 45)の条件では、ケイ酸ナトリウム添加量の上限値が1mlで、下限値が0.4mlである。
【0046】
B) (37.5, 112.5)の上限・下限値
エタノール37.5ml,水112.5mlの条件では、合成可能領域における溶媒量の上限値(150ml)であることより、ケイ酸ナトリウム添加量が1mlでケイ酸ナトリウム濃度が下限値(0.67%)であると言える。また、ケイ酸ナトリウム濃度の上限値である1.67%は、ケイ酸ナトリウム添加量が2.5mlであることが計算より分かる。これにより、(37.5,112.5)の条件では、ケイ酸ナトリウム添加量の上限値が2.5mlで、下限値が1mlである。
【0047】
次に、δMixが66.3の条件における、ケイ酸ナトリウム添加量の上限値と下限値について求める。
【0048】
C) (24, 36)の上限・下限値
エタノール24ml,水36mlの条件では、合成可能領域における溶媒量の下限値(60ml)であることより、ケイ酸ナトリウム添加量の上限値が1ml、下限値が0.4mlである。
【0049】
D) (60, 90)の上限・下限値
エタノール60ml,水90mlの条件では、合成可能領域における溶媒量の上限値(150ml)であることより、ケイ酸ナトリウム添加量の上限値が2.5ml、下限値が1mlである。
以上の結果を用いて、エタノール、水、ケイ酸ナトリウムの混合量を変化させた際の3次元での合成可能領域を決定した。
表1にA)~D)の条件により決定したケイ酸ナトリウム添加量の上限・下限値を示す。
【0050】
【0051】
また、この座標により構成された合成可能領域の3次元図を
図15に示す。この3次元図より、八面体からなる合成可能領域が求められた。また、その八面体の重心は(34, 71, 1.225)となり、この重心の座標が、中空シリカ粒子合成の最適条件であると推定された。
【0052】
このため、この重心の座標の条件で中空シリカ粒子を合成し、走査電子顕微鏡による観察を行った。その結果、
図16に示すように、中実シリカ粒子は生成せず、中空シリカ粒子のみが生成していることが分かった。また、2次元図で算出された最適条件で合成した中空粒子のSEM画像である
図14と比べて、シリカ殻が厚くて強固な中空シリカ粒子が形成された。
以上の結果から、エタノール,水,ケイ酸ナトリウムの添加量を変化させた3変数における最適条件では、2変数における最適条件よりも強固なシリカ殻を有する中空シリカ粒子を得るための最適条件であることが示された。
【0053】
(実施例1及び実施例2)
実施例1及び実施例2では、混合工程S1における各薬剤の混合順序を変えて行った。
・実施例1
実施例1では、混合工程S1における各薬剤の混合順序を試験例1と同様とした。すなわち、炭酸カルシウム1.5gにエタノール40mlと水60mlとの混合液を加えてホモジナイザーにて分散液とした後、ケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス3号(SiO
2 28-30wt%, Na
2O 9-10wt%、キシダ化学社製)1mlを加えて撹拌した(
図5参照)。
・実施例2
実施例2では、混合工程S1における各薬剤の混合順序を、
図17に示す方法で行った。すなわち、コロイド状炭酸カルシウムを1.5g秤量し、蒸留水60mlへ添加し、ホモジナイザーにより8000rpmで10分間分散させた。そこへケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス3号(SiO
2 28-30wt%, Na
2O 9-10wt%、キシダ化学社製)1mlを加え、1時間撹拌した。その後、エタノールを40ml加え、3時間撹拌した。
そして、分離工程S2として、遠心分離機を用いて15000rpmで10分間超遠心を行い、固相を沈降させた。未反応のケイ酸ナトリウムの除去のため、分離した粒子を蒸留水によって2回洗浄した。
さらに、溶解工程S3として、固相分離して得られた粒子を水溶媒へ再分散させ、3mol/Lに調製した塩酸を添加し、pHを約3まで低下させ、炭酸カルシウムを溶解させた。さらに再度、遠心分離機により15000rpmで10分間超遠心を行い、固液分離した。分離した固相を水により2回、エタノールにより1回洗浄を行い、80℃で乾燥させ、実施例2の中空シリカ粒子を得た。
【0054】
<評 価>
実施例1及び実施例2で得られた中空シリカ粒子について、走査電子顕微鏡の二次電子(SEI)モードと透過電子(TED)モードによる形状観察を行った。その結果、
図18に示すように、実施例1、実施例2とも、中空シリカ粒子と、粒径の大きな中実シリカ粒子とが観察された。ただし、実施例1における中実シリカ粒子は、実施例2における中実シリカ粒子よりも粒径が大きかった。
【0055】
この評価結果は、次のように説明をすることができる。
実施例1では、炭酸カルシウム粒子が分散したエタノール/水混合溶媒へケイ酸ナトリウム水溶液を添加すると、シリカ前駆体が液中で均一に生成する。こうして生成したシリカ前駆体どうしが炭酸カルシウム表面に吸着される前に液中で凝集し、粒径の大きな中実シリカ粒子が生成したと考えられる(
図18実施例1参照)。
【0056】
一方、実施例2では、炭酸カルシウム粒子が分散した水溶媒へケイ酸ナトリウム水溶液が添加されるため、ケイ酸ナトリウム水溶液が希釈される。また、溶媒は水のみであってエタノールは混合されていないため、脱水・縮合反応は遅くなり、中実シリカ粒子が液中で生成する前に、炭酸カルシウムへ吸着する。その後、エタノールが添加され、炭酸カルシウムに吸着していたシリカ前駆体どうしが脱水・縮合してシリカ殻が成長する。このため、炭酸カルシウム表面で選択的にシリカ殻が成長する。その結果、液中での中実シリカ粒子の形成はされ難くなり、中実シリカ粒子は小さな粒径となったと考えられる(
図18実施例2参照)。
【0057】
(実施例3-1、実施例3-2、及び実施例3-3)
Jeorenらは、アミノ基や両性イオン(NH3
+とCO-)で修飾したポリスチレン粒子にケイ酸ナトリウム水溶液を添加し、シリカ殻を有するポリスチレン粒子の作製に成功している(下記論文参照)。
Jeroen J. L. M. Cornelissen, Eric. F. Connor, Ho-Cheol Kim, Victor Y. Lee, Teddie Magibitang, Philip M. Rice, Willi Volksen, Linda K. Sundberg and Robert D. Miller, “Versatile synthesis of nanometer sized hollow silica spheres”, CHEM. COMMUN. , 1010-1011, (2003)
そこで、実施例3-1、実施例3-2、及び実施例3-3では、アンモニアを吸着させた炭酸カルシウムを用いて中空シリカ粒子を合成し、シリカ殻形成におけるアンモニア吸着の効果を調べた。
【0058】
・炭酸カルシウムへのアンモニアの吸着実験
まず、炭酸カルシウムへのアンモニア吸着の吸着等温線を求めた。炭酸カルシウムへのアンモニア分子の吸着量の測定は、元のアンモニア水溶液中の物質量から吸着後の物質量を引き、差分を吸着したアンモニア分子の物質量として求めた。吸着後のアンモニア水溶液のモル濃度を測定するために、アンモニア水溶液に所定の濃度の酸性溶液を加えた後、塩基性溶液で中和滴定を行った。この逆滴定法による炭酸カルシウムへのアンモニア分子の吸着量の測定の工程図を
図19に示す。以下、詳細を説明する。
【0059】
炭酸カルシウムP[g]を28wt.%アンモニア水溶液(和光純薬製)に蒸留水を加え、所定の濃度Q[mol/L]に調製した溶液50mlへ添加し、12時間撹拌した。その後、15000rpmで10分間遠心分離を行い、固液分離をした。分離された上澄み溶液を10ml採取し、そこへ、1.0mol/Lに調製した塩酸をR[ml]加え、上澄み溶液を酸性とした。その溶液と1.0mol/Lに調製した水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定を行い、次の計算式(1)によってアンモニア吸着量V[mol]を算出した。
【数2】
【0060】
また、この吸着量を得るための炭酸カルシウムの単位質量当たりのアンモニア水溶液の平衡濃度C[mol/L/g]を次の計算式(2)から算出した。
【数3】
【0061】
こうして求めた吸着量Vと平衡濃度Cをプロットし、吸着等温線を作製した。
逆滴定により算出したアンモニア水溶液の平衡濃度に対するアンモニア吸着量の関係を表した吸着等温線を
図20に示す。このグラフより、平衡濃度がある値になるまで吸着量は増加するが、その後は吸着量が飽和することが分かった。吸着現象は、濃度勾配を駆動力として用いた化学的な吸着であり、吸着担体へ吸着物質は単層として吸着が起きる。このため、吸着層が一層形成されると吸着現象は起こらなくなる。この飽和吸着における平衡濃度は6.058mol/Lであり、吸着量は0.166mol/gであった。
【0062】
・アンモニアを吸着させた炭酸カルシウムを用いた中空シリカ粒子の合成
合成方法を
図21に示す。以下、詳述する
炭酸カルシウム1.5gへ28wt.%アンモニア水溶液と蒸留水により9.087mol/L(6.058mol/L×1.5g)に調製した希釈アンモニア水溶液75mlを加え、ホモジナイザーにより8000rpmで10分間、撹拌を行い、均一な懸濁液を作製した。その懸濁液を密閉空間でマグネティックスターラーにより12時間撹拌し、アンモニアを飽和吸着させた炭酸カルシウムの懸濁液を作製した。その後、1mlの水ガラスを10mlの蒸留水で希釈したシリカ前駆体溶液を懸濁液へ添加し、シリカ前駆体を炭酸カルシウムへ吸着させた。これらの工程によりシリカ前駆体が炭酸カルシウム表面付近に存在する状態の懸濁液へ溶媒量に対して所定量のエタノール(実施例3-1では21ml、実施例3-2では38ml、実施例3-3では51ml)を添加し、3時間撹拌し、シリカ殻の形成を行い、シリカ殻付き炭酸カルシウム粒子を合成した。固液分離のために遠心分離機を用いて15000rpmで10分間超遠心を行い、シリカ殻付き炭酸カルシウム粒子を沈降させた。未反応のケイ酸ナトリウム除去のため、分離した粒子を蒸留水によって2回洗浄した。こうして得られたシリカ殻付き炭酸カルシウム粒子を水溶媒へ再分散させ、3mol/Lに調製した塩酸を添加し、pHを約3まで低下させ、コア粒子である炭酸カルシウムを溶解させた。そして、遠心分離機により15000rpmで10分間超遠心を行い、固液分離した。分離した固相を水により2回、エタノールにより1回洗浄を行い、不純物を取り除いた。洗浄後の粒子を80℃の乾燥機により乾燥させ、中空シリカ粒子を得た。希釈したアンモニア水溶液中の水/アンモニア水溶液の混合量とエタノール添加量を表2に示す。
【0063】
【0064】
<評 価>
以上のようにして調製した実施例3-1、実施例3-2、及び実施例3-3の中空シリカ粒子について走査電子顕微鏡による観察を行った。評価方法については、試験例1の場合と同様であり、説明を省略する。
また、シリカ殻の構造推定のため、窒素吸着測定を自動比表面積測定装置(Belsorp-mini II,Microtrac BEL)を用いて、真密度測定をピクノメータ(ULTRAPYCNOMETER, Quantachrome社製)を用いて測定し、シリカ殻内の細孔径の算出を行った。
【0065】
・走査電子顕微鏡(SEM)による形状観察
図22に実施例3-1、実施例3-2、及び実施例3-3の中空シリカ粒子の走査電子顕微鏡写真を示す。実施例3-1(エタノール添加率25vol%)では、透過電子像(TED)において黒い球形が観察された。この粒子は電子線が透過しない粒子であることからシリカ中実粒子であることが分かる。この粒子は、二次電子像(SEI)からも中実粒子であることが分かる。
これに対して、実施例3-2(エタノール添加率45vol%)では、透過電子像(TED)において黒い球形は観察されなかった。このことから、シリカ中実粒子は存在せず、中空シリカ粒子が生成していることが分かった。なお、透過電子像(TED)において黒い影の部分が観測されたが、これは中空シリカ粒子のシリカ殻の重なっている部分と考えられる。
また、実施例3-3(エタノール添加率60vol%)では、実施例3-2と同様、中実シリカ粒子は観測されなかったが、粒子表面に凹凸が観測された。
【0066】
実施例3-3において粒子表面に認められた凹凸は、中空シリカ粒子のシリカ殻を構成する一次粒子が露出している状態であると考えられる。また、凹凸が形成された理由は、次のように推定される。すなわち、実施例3-1、実施例3-2、及び実施例3-3では、アンモニアを吸着させた炭酸カルシウムを用いて中空シリカ粒子を合成しているため、アンモニアがシリカ前駆体の縮合の触媒となり、炭酸カルシウム表面での選択的にシリカが形成される。このため、シリカ殻の第一層目の形成が容易となる。そして、この一層目が存在することにより、シリカの成長が促され、シェル殻が形成される。このため、実施例3-3では、混合液中における中実シリカ粒子の形成が抑制される。このため、シリカ殻を構成する一次粒子の粒子径が大きくなり、
図23の模式図に示すように、一次粒子形状が露出するようなシェル殻が形成される。
一方で、エタノール添加量が低い条件である実施例3-1及び3-2において、中実粒子が認められたのは、エタノールが少ない溶媒では、比誘電率が高いことにより極性が高いため、シリカ前駆体から中実シリカ粒子に成長できたからである。
【0067】
・窒素吸着測定、及び真密度測定
シリカ殻内の細孔径を算出するために、窒素吸着測定、及び真密度測定を行った。
窒素吸着測定により得た吸着等温線にt法を適用し、マイクロ孔径を算出した。t法は、マイクロ孔への窒素分子の充填(マイクロポアフィリング)現象を用いた細孔径,細孔容積の評価方法である。細孔半径をtとすると、次の計算式(3)から細孔半径を算出することができる。このとき、Vaは吸着量、Vmは単分子吸着量である。この測定には、標準等温線としてマイクロ孔がない中実シリカ粒子を用いた。
【数4】
【0068】
図24にt-plotを示す。横軸は、吸着層厚tであり、2tがマイクロ孔径に当たる。縦軸は吸着量であり、これによりマイクロ孔容積が分かる。t-plotでは、マイクロポアフィリングにより直線の傾きが変わる前後のプロットにより成立する直線の交点の吸着層の厚みが細孔半径である。傾きが変化した後のプロットから成立する直線の切片の値よりマイクロ孔容積を算出した(
図24中の表参照)。その結果、エタノール添加率の増加によりマイクロ孔径が増大することが分かった。これは、シリカ一次粒子径が増大したからであると考えられる(
図25参照)。以上の結果から、エタノール添加割合を制御することによって、一次粒子径を制御することが可能であることが示された。
【0069】
<エタノール以外の有機溶媒を用いた中空シリカ粒子の合成>
上述した実施例1、実施例2、実施例3-1、実施例3-2、及び実施例3-3では、誘電率を調整するための有機溶媒としてエタノールを用いたが、実施例4~12では表3に示す溶媒について中空シリカ粒子の合成実験を行った。
【0070】
【0071】
各有機溶媒は、次の計算式(4)に基づき水との混合溶媒の誘電率εmixが62となる混合比で混合した。その他の手順については実施例1と同様に行った。
【数5】
【0072】
水-NMP混合溶媒系で合成した実施例12についての電子顕微鏡写真を
図26に示す。この写真から、水とNMPの混合溶媒の誘電率εmixが62となるように混合比を調整すれば、中空シリカ粒子が形成されることが分かった。また、他の有機溶媒と水との混合溶媒系で合成した実施例4~11についても同様に中空シリカ粒子が形成された。以上の結果から、水と有機溶媒の混合によって誘電率εmixを62に調整することにより、中空シリカ粒子を形成できることが分かった。
【0073】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
中空シリカ粒子は中実シリカ粒子と比較して、高比表面積、低密度、低熱伝導率といった特性を有する。このため、これらの特性を利用した機能性材料として触媒担体、光散乱用材料、断熱材等として用いることができる。