(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013447
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ロケットエンジン用のドライモータポンプ装置、およびそのようなドライモータポンプ装置を用いて推進剤をロケットエンジンに移送する方法
(51)【国際特許分類】
F04D 7/02 20060101AFI20240125BHJP
F02K 9/46 20060101ALI20240125BHJP
F04D 29/08 20060101ALI20240125BHJP
F04D 29/10 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F04D7/02
F02K9/46
F04D29/08 F
F04D29/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115533
(22)【出願日】2022-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】向江 洋人
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 英樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 竜司
(72)【発明者】
【氏名】ロカレ テジャス
(72)【発明者】
【氏名】有吉 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】真武 幸三
(72)【発明者】
【氏名】高田 仁志
(72)【発明者】
【氏名】島垣 満
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA06
3H130AB22
3H130AB46
3H130AB62
3H130AB65
3H130AB69
3H130AC17
3H130BA51F
3H130DC11X
3H130DD01X
(57)【要約】
【課題】ロケットエンジンに使用される酸化剤または燃料などの推進剤のポンプから電動機への侵入を防ぎ、小型で高出力を実現できるドライモータポンプ装置を提供する。
【解決手段】ロケットエンジンの推進剤としての液化ガスを移送するためのドライモータポンプ装置は、液化ガスを圧送するための羽根車3を有するポンプ1と、羽根車3を回転させるための電動機5と、羽根車3と電動機5のロータ20とを連結する回転軸7と、ポンプ1と電動機5との間に配置された軸封装置30と、モータ室27内にパージガスを供給するパージガス供給システム50を備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロケットエンジンの推進剤としての液化ガスを移送するためのドライモータポンプ装置であって、
前記液化ガスを圧送するための羽根車を有するポンプと、
前記羽根車を回転させるための電動機と、
前記羽根車と前記電動機のロータとを連結する回転軸と、
前記ポンプと前記電動機との間に配置された軸封装置と、
前記ロータが配置される前記電動機のモータ室内にパージガスを供給するパージガス供給システムを備えている、ドライモータポンプ装置。
【請求項2】
前記ポンプは、複数の羽根車を有する多段ポンプである、請求項1に記載のドライモータポンプ装置。
【請求項3】
前記複数の羽根車は、前記電動機の両側に配置されている、請求項2に記載のドライモータポンプ装置。
【請求項4】
ロケットエンジンの推進剤としての液化ガスを移送するためのドライモータポンプ装置であって、
前記液化ガスを圧送するための羽根車を有するポンプと、
前記羽根車を回転させるための電動機と、
前記羽根車と前記電動機のロータとを連結する回転軸と、
前記ポンプと前記電動機との間に配置された軸封装置と、
前記軸封装置と前記電動機の前記ロータとの間に配置されたシールガスノズルを備えたガスシールシステムを備えている、ドライモータポンプ装置。
【請求項5】
前記シールガスノズルは、前記回転軸の外周面を囲む内周面と、前記内周面に形成されているシールガス供給口を有している、請求項4に記載のドライモータポンプ装置。
【請求項6】
前記ドライモータポンプ装置は、前記軸封装置と前記シールガスノズルを収容するシールハウジングをさらに備えており、
前記軸封装置と前記シールガスノズルとの間には、シール室が形成されており、
前記シールハウジングは、前記シール室に連通するガス排出口を有している、請求項5に記載のドライモータポンプ装置。
【請求項7】
前記ポンプは、複数の羽根車を有する多段ポンプである、請求項4に記載のドライモータポンプ装置。
【請求項8】
前記複数の羽根車は、前記電動機の両側に配置されている、請求項7に記載のドライモータポンプ装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のドライモータポンプ装置により、推進剤としての液化ガスをロケットエンジンに移送する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロケットなどの宇宙航行機のロケットエンジン用のポンプ装置に関し、特に推進剤としての酸化剤および燃料をロケットエンジンに移送するためのドライモータポンプ装置に関する。また、本発明は、そのようなドライモータポンプ装置を用いて推進剤をロケットエンジンに移送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、ロケットや宇宙船などの宇宙航行機に搭載される、一般的なロケットエンジンシステムの一例を示す模式図である。
図11に示すように、酸化剤および燃料は、二系統のポンプシステム500によってロケットエンジンに供給される。各ポンプシステム500は、酸化剤または燃料を圧送するためのポンプ501と、ポンプ501の羽根車502を回転させるための電動機503を備えている。酸化剤用のポンプ501と、燃料用のポンプ501は、それぞれ独立に駆動され、酸化剤および燃料はロケットエンジン510の燃焼室に供給される。
【0003】
ロケットエンジン510用の上記ポンプシステム500には、その使用環境および移送対象液体の特殊性のため、以下のような要求がある。
・ロケットの打ち上げ時に大きな推力を得るために、一般的な産業用ポンプに比べて、小型で高出力が求められる。
・支燃性の高い酸化剤(液体酸素)を取り扱うために、爆発の危険性が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化剤および燃料(以下、これらを総称して推進剤ということがある)をポンプ501で加圧するとき、推進剤がポンプ501から電動機503に侵入することがある。そのような場合、電動機503のロータは推進剤に接触することになる。液体である推進剤と電動機503のロータとの間には摩擦が発生し、要求された出力を発揮するためには電動機503に投入される電力を増大させなければならない。特に、上述したように、ロケットエンジン510用の上記ポンプシステム500には、小型で高出力が求められるため、電動機503のロータは非常に高速で回転する。このため、電動機503のロータの摩擦損失は非常に大きく、ロケットに搭載される蓄電池の重量増加が顕著となる。このような蓄電池の重量増加は、ロケットにとっては不利である。
【0006】
酸化剤に使用される酸素は支燃性が高い物質である。このため、酸化剤が電動機503に侵入すると、電動機503の電線の絶縁不良によるスパークが生じた場合には、発火を引き起こすおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、ロケットエンジンに使用される酸化剤または燃料などの推進剤のポンプから電動機への侵入を防ぎ、小型で高出力を実現できるドライモータポンプ装置を提供する。また本発明は、そのようなドライモータポンプ装置を用いて酸化剤または燃料などの推進剤をロケットエンジンに供給する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、ロケットエンジンの推進剤としての液化ガスを移送するためのドライモータポンプ装置であって、前記液化ガスを圧送するための羽根車を有するポンプと、前記羽根車を回転させるための電動機と、前記羽根車と前記電動機のロータとを連結する回転軸と、前記ポンプと前記電動機との間に配置された軸封装置と、前記ロータが配置される前記電動機のモータ室内にパージガスを供給するパージガス供給システムを備えている、ドライモータポンプ装置が提供される。
【0009】
一態様では、前記ポンプは、複数の羽根車を有する多段ポンプである。
一態様では、前記複数の羽根車は、前記電動機の両側に配置されている。
【0010】
一態様では、ロケットエンジンの推進剤としての液化ガスを移送するためのドライモータポンプ装置であって、前記液化ガスを圧送するための羽根車を有するポンプと、前記羽根車を回転させるための電動機と、前記羽根車と前記電動機のロータとを連結する回転軸と、前記ポンプと前記電動機との間に配置された軸封装置と、前記軸封装置と前記電動機の前記ロータとの間に配置されたシールガスノズルを備えたガスシールシステムを備えている、ドライモータポンプ装置が提供される。
【0011】
一態様では、前記シールガスノズルは、前記回転軸の外周面を囲む内周面と、前記内周面に形成されているシールガス供給口を有している。
一態様では、前記ドライモータポンプ装置は、前記軸封装置と前記シールガスノズルを収容するシールハウジングをさらに備えており、前記軸封装置と前記シールガスノズルとの間には、シール室が形成されており、前記シールハウジングは、前記シール室に連通するガス排出口を有している。
一態様では、前記ポンプは、複数の羽根車を有する多段ポンプである。
一態様では、前記複数の羽根車は、前記電動機の両側に配置されている。
【0012】
一態様では、上記ドライモータポンプ装置により、推進剤としての液化ガスをロケットエンジンに移送する方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モータ室内には、液化ガスは存在せず、モータ室はドライ状態に保たれる。結果として、電動機のロータには液化ガスとの接触による摩擦抵抗は加わらず、電動機はより少ない電力で高速で回転することができる。また、所要電力が小さくなるので、蓄電池の容量も小さくできる。さらには、燃料用ポンプとして使用される場合には、モータ室内には微量の気化した燃料のみが存在するので、発火のおそれが著しく低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ドライモータポンプ装置の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】ドライモータポンプ装置の他の実施形態を示す断面図である。
【
図3】ドライモータポンプ装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図4】ドライモータポンプ装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図5】ドライモータポンプ装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図6】ドライモータポンプ装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図7】ドライモータポンプ装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図8】ドライモータポンプ装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図9】ドライモータポンプ装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図10】ドライモータポンプ装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【
図11】一般的なロケットエンジンシステムの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
以下に説明するドライモータポンプ装置は、酸化剤または燃料などの推進剤を、ロケットなどの宇宙航行機のロケットエンジンに移送するためのポンプ装置である。酸化剤の例としては、液体酸素が挙げられる。燃料の例としては、液体水素、液化天然ガス、液化メタンなどが挙げられる。以下の説明では、酸化剤および燃料を、総称して推進剤という。すなわち、本明細書において、特に説明がない限り、推進剤は、ロケットエンジン用の酸化剤または燃料のことを意味する。以下の実施形態で使用される推進剤は、大気圏内の常温では気体として存在し、0℃よりも低い温度では液体として存在する液化ガスである。
【0016】
図1は、ドライモータポンプ装置の一実施形態を示す断面図である。ドライモータポンプ装置は、液化ガスを圧送するための羽根車3を有するポンプ1と、羽根車3を回転させるための電動機5と、羽根車3と電動機5のロータ20とを連結する回転軸7と、回転軸7を回転可能に支持する軸受8,9を備えている。ポンプ1は、羽根車3を収容する羽根車ケーシング11と、羽根車3と、羽根車3と一体に回転可能なインデューサ12を備えている。インデューサ12は、羽根車3の上流に位置しており、羽根車3に流入する液化ガスを昇圧するために設けられている。インデューサ12は、省略されることもある。羽根車ケーシング11は、その内部にポンプ室15を有しており、羽根車3はポンプ室15内に回転可能に配置されている。
【0017】
羽根車ケーシング11は、吸込み口16と吐出し口(図示せず)を有している。羽根車3およびインデューサ12は、回転軸7によって電動機5に連結されている。電動機5により羽根車3およびインデューサ12が回転されると、推進剤(ロケットエンジン用の酸化剤または燃料)としての液化ガスは、吸込み口16を通じてポンプ室15内に流入し、羽根車3の回転により昇圧され、吐出し口(図示せず)を通じてポンプ1から吐出される。昇圧された液化ガスは、ロケットエンジンの燃焼室に移送される(
図11参照)。
【0018】
電動機5は、回転軸7に固定されたロータ20と、ロータ20に対向して配置されたステータ21と、ロータ20およびステータ21を収容するモータハウジング22を備えている。ロータ20は、複数の永久磁石(図示せず)を有している。ステータ21は、ロータ20の周囲に配置された複数のコイル24を有している。コイル24は、電源としての蓄電池(図示せず)に電気的に接続されている。蓄電池からコイル24に電流が供給されると、ステータ21は回転磁界を発生し、ロータ20は回転磁界により回転される。ロータ20の回転は回転軸7を通じて羽根車3およびインデューサ12を回転させる。このようにして、ポンプ1は電動機5により駆動(回転)される。
【0019】
ドライモータポンプ装置は、ポンプ1と電動機5との間に配置された軸封装置30を備えている。本実施形態では、軸封装置30は、接触式軸封装置の一例であるメカニカルシールである。軸封装置30としてのメカニカルシールは、回転軸7と一体に回転する回転側要素(メイティングリング)31と、回転しない静止側要素(メカニカルシール)32と、静止側要素32を回転側要素31に対して押し付けるばね(図示せず)を備えている。静止側要素32は、羽根車ケーシング11とモータハウジング22との間に位置するシールハウジング35の内側に取り付けられている。
【0020】
他の実施形態では、軸封装置30は、フローティングリングシールなどの他のタイプの軸封装置であってもよい。羽根車ケーシング11、モータハウジング22、およびシールハウジング35は、一体構造物であってもよく、あるいは別体として構成されてもよい。モータハウジング22は、その内部にモータ室27を有しており、ロータ20およびステータ21はモータ室27内に配置されている。軸封装置30は、ポンプ室15とモータ室27との間に位置しており、ポンプ室15とモータ室27の両方に面している。すなわち、軸封装置30は、ポンプ室15とモータ室27とを仕切っている。
【0021】
軸受8,9は、電動機5の両側に配置されている。より具体的には、軸受8は、羽根車3と軸封装置30との間に配置され、他方の軸受9は、回転軸7の端部に配置されている。一実施形態では、軸受8は、軸封装置30と電動機5との間に配置されてもよい。軸受8,9は、流体の通過を許容するように構成されている。軸受8,9のタイプは、特に限定されない。軸受8,9の例としては、転がり軸受(玉軸受、コロ軸受など)、滑り軸受などが挙げられる。
【0022】
羽根車3の回転によって昇圧された液化ガスの一部は、ポンプ室15から軸封装置30に到達する。軸封装置30は、実質的に液化ガスの通過を許容しないが、微量の液化ガスは、回転側要素31と静止側要素32との間の微小な隙間を通過して、モータ室27内に移動する。微量な液化ガスが軸封装置30を通過するとき、回転側要素31と静止側要素32との摩擦熱により液化ガスは気化する。この気化した推進剤(酸化剤または燃料)は、モータ室27内に流入し、モータハウジング22に形成されたガス排出口38を通ってモータ室27から排出される。ガス排出口38は、モータ室27に連通している。
【0023】
このように、モータ室27内には、液化ガスは存在せず、モータ室27はドライ状態に保たれる。結果として、電動機5のロータ20には液化ガスとの接触による摩擦抵抗は加わらず、電動機5はより少ない電力で高速で回転することができる。また、所要電力が小さくなるので、蓄電池の容量も小さくできる。さらには、燃料用ポンプとして使用される場合には、モータ室27内には微量の気化した燃料のみが存在するので、発火のおそれが著しく低減できる。
【0024】
図2および
図3は、ドライモータポンプ装置の他の実施形態を示す断面図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
図2に示す実施形態では、ポンプ1は、複数の羽根車3A,3Bを有する多段ポンプである。第1羽根車3Aと第2羽根車3Bは、同じ方向を向いている。第1羽根車3Aは、第2羽根車3Bの上流側に配置され、インデューサ12は、第1羽根車3Aの上流側に配置されている。第1羽根車3Aと第2羽根車3Bとの間には戻り流路40が設けられている。第1羽根車3Aの回転によって昇圧された液化ガスは、戻り流路40を通って第2羽根車3B内に流入し、第2羽根車3Bの回転によってさらに昇圧される。
【0025】
図2に示す実施形態では、2つの羽根車が設けられているが、3つまたはそれよりも多い羽根車が設けられてもよい。
【0026】
図3に示す実施形態でも、ドライモータポンプ装置は、複数の羽根車3A,3Bを有する多段ポンプを有するが、複数の羽根車3A,3Bが互いに反対方向を向いている点で、
図2に示す実施形態と異なっている。このよう配置とすることで、軸受8,9に加わる液化ガスのスラスト力をキャンセルすることができる。第1羽根車3Aと第2羽根車3Bは、電動機5の両側に配置されている。ドライモータポンプ装置は、第1羽根車3Aおよび第1羽根車ケーシング11Aを有する第1ポンプ1Aと、第2羽根車3Bおよび第2羽根車ケーシング11Bを有する第2ポンプ1Bを有する。
【0027】
第1ポンプ1Aの流体出口(図示せず)は、第2ポンプ1Bの吸込み口16に流体通路45を通じて連通している。第1羽根車3Aの回転によって昇圧された液化ガスは、流体流路45を通って第2羽根車3B内に流入し、第2羽根車3Bの回転によってさらに昇圧される。
【0028】
第1ポンプ1Aと電動機5との間には、第1軸封装置30Aが設けられており、第2ポンプ1Bと電動機5との間には、第2軸封装置30Bが設けられている。第1軸封装置30Aおよび第2軸封装置30Bは、第1羽根車3Aおよび第2羽根車3Bの回転によって昇圧された液化ガスが電動機5のモータ室27内に侵入することを防止し、モータ室27内をドライ状態に維持することができる。
図3の実施形態でも、
図1の実施形態と同様に、モータハウジング22はガス排出口38を備えている。したがって、第1軸封装置30Aおよび第2軸封装置30Bを通過した微量の気化した推進剤(酸化剤または燃料)は、ガス排出口38を通ってモータ室27から排出される。
【0029】
図4は、ドライモータポンプ装置の他の実施形態を示す断面図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
図4に示す実施形態では、ドライモータポンプ装置は、パージガスをモータ室27内に供給するパージガス供給システム50を備えている。パージガス供給システム50は、モータハウジング22に連結されたパージガス供給ライン51と、パージガス供給ライン51に連結されたパージガス供給源52を備えている。パージガス供給ライン51は、モータ室27内に連通している。
【0030】
パージガス供給源52は、パージガスをパージガス供給ライン51を通じてモータ室27内に供給するように構成されている。パージガス供給ライン51は、軸封装置30から離れた電動機側の位置で、モータハウジング22に連結されている。
図4に示す実施形態では、パージガス供給ライン51は、軸封装置30とロータ20との間の位置で、モータハウジング22に連結されている。ポンプ室15とモータ室27は軸封装置30により仕切られているので、パージガス供給ライン51から供給されたパージガスは、ポンプ室15には流れずに、モータ室27を満たす。
【0031】
使用されるパージガスの例としては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスが挙げられる。軸封装置30を通過するときに気化した推進剤(酸化剤または燃料)は、モータ室27内に供給されたパージガスによって希釈される。さらに、気化した推進剤は、パージガスの流れによって運ばれ、パージガスとともにガス排出口38を通ってモータ室27から排出される。
【0032】
図5は、上記パージガス供給システム50を、
図2に示す実施形態に適用した例を示す断面図であり、
図6は、上記パージガス供給システム50を、
図3に示す実施形態に適用した例を示す断面図である。
図5および
図6に示すように、パージガス供給システム50は、
図2および
図3に示す実施形態にも同様に適用することができる。
【0033】
図7は、ドライモータポンプ装置の他の実施形態を示す断面図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、
図1を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
図7に示す実施形態では、ドライモータポンプ装置は、軸封装置30に加えて、ガスシールシステム60をさらに備えている。このガスシールシステム60は、軸封装置30と電動機5のロータ20との間に配置されたシールガスノズル61と、シールガスノズル61に連結されたシールガス供給ライン62と、シールガス供給ライン62に連結されたシールガス供給源63を備えている。
【0034】
シールガスノズル61は、回転軸7の外周面を囲む内周面65を有しており、回転軸7の外周面とシールガスノズル61の内周面65との間には微小な隙間が存在している。シールガスノズル61は、その内周面65に複数のシールガス供給口67を有している。これらシールガス供給口67は、シールガス供給ライン62に連通している。一実施形態では、単一のシールガス供給口67が設けられてもよい。例えば、単一のシールガス供給口67は、シールガスノズル61の内周面65に沿って延びる環状の形状を有してもよい。
【0035】
シールガス供給源63は、シールガス供給口67を通じてシールガスを、回転軸7の外周面とシールガスノズル61の内周面65との間の隙間に供給するように構成されている。使用されるシールガスの例としては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスが挙げられる。
【0036】
軸封装置30およびシールガスノズル61は、シールハウジング35内に配置されている。軸封装置30とシールガスノズル61との間には、シール室69が形成されている。このシール室69は、羽根車3が収容されるポンプ室15と、ロータ20およびステータ21が収容されるモータ室27との間に位置している。シールハウジング35は、シール室69に連通するガス排出口70を有している。上述した実施形態と同様に、モータハウジング22は、モータ室27に連通するガス排出口38を有している。
【0037】
シールガスは、シールガス供給口67からシールガスノズル61の内周面65と回転軸7の外周面との間の隙間に供給され、この隙間を満たす。シールガスは、分岐してシール室69とモータ室27に流入する。シール室69に流入したシールガスは、軸封装置30を通過するときに気化した推進剤(酸化剤または燃料)と混合して混合ガスを形成する。この混合ガスは、シールハウジング35のガス排出口70を通じてシール室69から排出される。モータ室27に流入したシールガスは、モータハウジング22のガス排出口38を通じてモータ室27から排出される。
【0038】
本実施形態によれば、気化した推進剤(酸化剤または燃料)は、シールガスによってシールガスノズル61の通過が妨げられ、モータ室27内に流入することがない。したがって、気化した推進剤は、電動機5のコイル24に接触せず、引火が防止される。本実施形態は、特に、支燃性が高い酸化剤を移送する場合に有効である。
【0039】
図8は、上記ガスシールシステム60を、
図2に示す実施形態に適用した例を示す断面図であり、
図9は、上記ガスシールシステム60を、
図3に示す実施形態に適用した例を示す断面図である。
図9に示す例では、シールガスノズル61およびシール室69は、電動機5の両側に設けられる。
【0040】
今まで説明したそれぞれの実施形態では、電動機5のステータ21は、ロータ20の半径方向外側に配置されているが、
図10に示すように、電動機5のステータ21は、軸方向においてロータ20と対向するように配置されてもよい。図示しないが、
図10に示すロータ20とステータ21の軸方向の配置は、
図2乃至
図9に示す実施形態にも同様に適用可能である。
【0041】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0042】
1 ポンプ
3 羽根車
5 電動機
7 回転軸
8,9 軸受
11 羽根車ケーシング
12 インデューサ
15 ポンプ室
16 吸込み口
20 ロータ
21 ステータ
22 モータハウジング
24 コイル
27 モータ室
30 軸封装置
31 回転側要素
32 静止側要素
35 シールハウジング
38 ガス排出口
40 戻り流路
45 流体通路
50 パージガス供給システム
51 パージガス供給ライン
52 パージガス供給源
60 ガスシールシステム
61 シールガスノズル
62 シールガス供給ライン
63 シールガス供給源
65 内周面
67 シールガス供給口
69 シール室
70 ガス排出口