(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134539
(43)【公開日】2024-10-03
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物、硬化物、熱伝導性シート及び複合成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240926BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240926BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240926BHJP
C08G 59/32 20060101ALI20240926BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/38
C08K3/22
C08G59/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024042017
(22)【出願日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2023043945
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 裕也
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊行
(72)【発明者】
【氏名】澤村 敏行
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002AA021
4J002CC031
4J002CC161
4J002CC181
4J002CD001
4J002CD041
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD121
4J002CF211
4J002CG001
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4J002DE147
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4J002FD010
4J002FD150
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4J002FD207
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4J002GQ05
4J036AD08
4J036AD09
4J036AD15
4J036AD21
4J036AE05
4J036AF06
4J036DC41
4J036DC42
4J036FB07
4J036HA12
4J036JA07
4J036JA08
(57)【要約】
【課題】高い熱伝導率と高い耐ハンダリフロー性を両立することができる熱硬化性組成物を提供する。
【解決手段】無機フィラー及び熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物であり、熱硬化性組成物中の固形分100質量%に対し、前記無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、該無機フィラーは2種以上のフィラーで構成され、該無機フィラーのうち、少なくとも一種が窒化ホウ素粒子であり、該窒化ホウ素粒子が凝集粒子であり、別の少なくとも一種がアルミナ粒子であり、該アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.95以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対して50個数%以上70個数%以下であり、全無機フィラーに占める全アルミナ粒子の割合が35質量%以上である、熱硬化性組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラー及び熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物であり、
熱硬化性組成物中の固形分100質量%に対し、前記無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、
該無機フィラーは2種以上のフィラーで構成され、該無機フィラーのうち、少なくとも一種が窒化ホウ素粒子であり、該窒化ホウ素粒子が凝集粒子であり、
別の少なくとも一種がアルミナ粒子であり、
該アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.95以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対して50個数%以上70個数%以下であり、
全無機フィラーに占める全アルミナ粒子の割合が35質量%以上である、熱硬化性組成物。
【請求項2】
前記アルミナ粒子の平均粒子径が0.5μm以上30μm以下である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
前記アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.90以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対して20個数%以上40個数%以下である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
前記アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定したアスペクト比が0.85より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対し50個数%以上80個数%以下である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】
前記アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定したアスペクト比が0.7より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対し15個数%以上40個数%以下である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項6】
前記アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した周囲長包絡度が0.970より大きく、0.985より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対し5個数%以上40個数%以下である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項7】
前記アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した面積包絡度が0.950より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対し5個数%以上40個数%以下である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項8】
質量平均分子量10,000以上のポリマーを含む、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項9】
前記熱硬化性組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、質量平均分子量10,000以上のポリマーを、10質量%以上30質量%未満の割合で含む、請求項8に記載の熱硬化性組成物。
【請求項10】
前記熱硬化性化合物として、一分子当たりエポキシ基を3つ以上有し、分子量650以下の多官能エポキシ化合物を含む、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項11】
前記多官能エポキシ化合物が、一分子内に4個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物である、請求項10に記載の熱硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1~11の何れか一項に記載の熱硬化性組成物を用いた硬化物。
【請求項13】
請求項12に記載の硬化物からなる熱伝導性シート。
【請求項14】
請求項1~11の何れか一項に記載の熱硬化性組成物からなる硬化物と、金属部とを有する複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性を有する熱硬化性組成物、当該熱硬化性組成物を用いてなる硬化物、熱伝導性シート、及び、複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を用いたデバイスの中で、電源などの電力の制御や変換を行うデバイスは“パワー半導体デバイス”と呼ばれている。
パワー半導体デバイスは、電力の変換や制御を行うパワー半導体デバイス(半導体装置)と電子部品とを、ヒートシンクとして機能する基盤に搭載してパワーモジュール(半導体モジュール)とした構成のものが一般的である。
近年、鉄道・自動車・産業用、一般家電用等の様々な分野で使用されているパワー半導体デバイスは、更なる小型化・低コスト化・高効率化等の為に、従来のSiパワー半導体から、SiC、AlN、GaN等を使用したパワー半導体へ移行しつつある。
【0003】
このようなパワー半導体デバイスの実用化に向けて、種々の課題が指摘されているが、そのうちの一つにデバイスからの発熱の問題がある。パワー半導体デバイスは、高温で作動させることにより高出力・高密度化が可能となる一方、デバイスのスイッチングなどに伴う発熱は、パワー半導体デバイスの信頼性を低下させることが懸念されている。
【0004】
また、近年、電気・電子分野において、集積回路の高密度化に伴う発熱も大きな問題となっており、如何に熱を放散するかが緊急の課題となっている。例えば、パソコンの中央演算装置、電気自動車のモーター等の制御に用いられる半導体装置の安定動作を行う際、放熱のためにヒートシンク、放熱フィン等が不可欠になっており、半導体装置とヒートシンク等とを結合する部材として、熱伝導性及び絶縁性を両立可能な部材が求められている。
【0005】
熱伝導性及び絶縁性を両立可能な部材として、従来から、アルミナ基板や窒化アルミニウム基板などの熱伝導性の高いセラミック基板が使用されてきた。しかし、セラミックス基板では、衝撃で割れやすい、薄膜化が困難で小型化が難しい、といった課題を抱えていた。
そこで、エポキシ化合物等の熱硬化性化合物と無機フィラーを用いた熱伝導性を備えたシートが提案されている。
【0006】
熱硬化性化合物と無機フィラーを用いたシートに関しては、例えば特許文献1において、熱硬化性化合物及び熱可塑性樹脂と共に、アルミナ粒子及び窒化ホウ素を含み、熱硬化後のシート厚み方向の熱伝導率が3W/m・K以上である封止用樹脂シートが開示されている。
また、特許文献2において、Tgが60℃以下のエポキシ化合物と窒化ホウ素を含有する放熱樹脂シートであって、窒化ホウ素の含有量が30体積%以上、60体積%以下である放熱樹脂シートが提案されている。
【0007】
窒化ホウ素(以下、「BN」とも称する)は、絶縁性のセラミックであり、熱伝導性、固体潤滑性、化学的安定性、耐熱性に優れるという特徴を有することから、近年、電気・電子材料分野で特に着目されている材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-204545号公報
【特許文献2】特開2017-036415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
エポキシ化合物等の熱硬化性樹脂と無機フィラーを含む熱伝導性シートを用いて、例えばパワー半導体デバイスを作製する際、電子部品等を、前記熱伝導性シートを備えた基板(Cu)上に配置してハンダリフローすることが行われる。ハンダリフロー時は260℃以上の高温に晒されるため、樹脂と無機フィラー間で剥離が発生し、ボイドが生じる恐れがある。これらのボイドは、絶縁性の低下や、熱伝導性シートと基板(Cu)との間の剥離の原因となる。
【0010】
本発明の目的は、高い熱伝導率と高い耐ハンダリフロー性を両立することができる熱硬化性組成物、並びに、当該熱硬化性組成物を用いてなる硬化物、熱伝導性シート、及び、複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、無機フィラー及び熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物において、前記無機フィラーを所定の窒化ホウ素粒子と所定のアルミナ粒子を組合せて構成することにより、前記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、次の構成を有する態様の熱硬化性組成物、硬化物、熱伝導性シート、及び、複合成形体を提案するものである。
【0012】
[1]本発明の第1の態様は、無機フィラー及び熱硬化性化合物を含有する熱硬化性組成物であり、
熱硬化性組成物中の固形分100質量%に対し、前記無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、
該無機フィラーは2種以上のフィラーで構成され、該無機フィラーのうち、少なくとも一種が窒化ホウ素粒子であり、該窒化ホウ素粒子が凝集粒子であり、
別の少なくとも一種がアルミナ粒子であり、
該アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.95以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対して50個数%以上70個数%以下であり、
全無機フィラーに占める全アルミナ粒子の割合が35質量%以上である、熱硬化性組成物である。
【0013】
[2]本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、前記アルミナ粒子の平均粒子径が0.5μm以上30μm以下である、熱硬化性組成物である。
[3]本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様において、前記アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.90以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対して20個数%以上40個数%以下である、熱硬化性組成物である。
[4]本発明の第4の態様は、前記第1~3のいずれか一の態様において、前記アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定したアスペクト比が0.85より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対し50個数%以上80個数%以下である、熱硬化性組成物である。
【0014】
[5]本発明の第5の態様は、前記第1~4のいずれか一の態様において、前記アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定したアスペクト比が0.7より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対し15個数%以上40個数%以下である、熱硬化性組成物である。
[6]本発明の第6の態様は、前記第1~5のいずれか一の態様において、前記アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した周囲長包絡度が0.970より大きく、0.985より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対し5個数%以上40個数%以下である、熱硬化性組成物である。
[7]本発明の第7の態様は、前記第1~6のいずれか一の態様において、前記アルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した面積包絡度が0.950より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対し5個数%以上40個数%以下である、熱硬化性組成物である。
【0015】
[8]本発明の第8の態様は、前記第1~7のいずれか一の態様において、質量平均分子量10,000以上のポリマーを含む、熱硬化性組成物である。
[9]本発明の第9の態様は、前記第8の態様において、前記熱硬化性組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、質量平均分子量10,000以上のポリマーを10質量%以上30質量%未満の割合で含む、熱硬化性組成物である。
【0016】
[10]本発明の第10の態様は、前記第1~9のいずれか一の態様において、前記熱硬化性化合物として、一分子当たりエポキシ基を3つ以上有し、分子量650以下の多官能エポキシ化合物を含む、熱硬化性組成物である。
[11]本発明の第11の態様は、前記第10の態様において、前記多官能エポキシ化合物が、一分子内に4個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物である、熱硬化性組成物である。
【0017】
[12]本発明の第12の態様は、前記第1~11のいずれか一の態様の熱硬化性組成物を用いた硬化物である。
[13]本発明の第13の態様は、前記第12の態様の硬化物からなる熱伝導性シートである。
[14]本発明の第14の態様は、前記第1~11のいずれか一の態様の熱硬化性組成物からなる硬化物と、金属部とを有する複合成形体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明が提案する熱硬化性組成物は、無機フィラーとして、所定の窒化ホウ素粒子と所定のアルミナ粒子とを組合せて含むことにより、シート状の硬化物とした際、無機フィラー間の接触面積が増大し、接合強度が増し、その結果、高い熱伝導率と高い耐ハンダリフロー性を両立することができる。
よって、本発明が提案する熱硬化性組成物を硬化させた硬化物及び熱伝導性シートを用いて複合成形体を形成することにより、例えば放熱性回路基板、半導体装置、パワーモジュールなどを好適に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】カードハウス構造を有する凝集窒化ホウ素粒子の一例に係る粒子断面図の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0021】
<<本組成物>>
本発明の実施の形態の一例に係る組成物(「本組成物」と称する)は、熱硬化性化合物と、無機フィラーとを含有する熱硬化性組成物である。
【0022】
本発明において「熱硬化性組成物」とは、熱により硬化する性質を有する化合物乃至樹脂を含有する組成物の意味である。すなわち、熱により硬化する余地が残された硬化性を有する組成物であればよく、硬化する余地が残された状態に既に硬化(「仮硬化」とも称する)されたものであってもよいし、未だ何ら硬化されていない(「未硬化」と称する)状態のものであってもよい。
本組成物は、粉末状、スラリー状、液状、固形状、或いは、シート状などに成形された成形体のいずれであってもよい。
【0023】
本組成物を加熱することにより硬化物(「本硬化物」とも称する)とすることができる。
また、本組成物をシート状に成形することによりシート状熱硬化性組成物(「熱硬化性シート」とも称する)とすることができ、この熱硬化性シートを硬化させることにより、熱伝導性を備えたシート(「本熱伝導性シート」と称する)を形成することができる。すなわち、本熱伝導性シートは前記熱硬化性シートの硬化物である。
【0024】
<熱硬化性化合物>
本組成物が含有する熱硬化性化合物としては、例えばエポキシ化合物、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ベンゾオキサジン化合物等を挙げることができる。
【0025】
熱硬化性化合物を含む樹脂成分、例えば熱硬化性化合物(高分子量エポキシ樹脂含む)、硬化剤及び硬化促進剤を含む成分の含有量は、本組成物中の揮発成分すなわち溶剤及び溶媒を除いた成分(「固形分」と称する)100質量%に対し、5質量%以上40質量%以下であるのが好ましい。
前記樹脂成分の含有量が5質量%以上であれば、成形性が良好となるから好ましく、他方、40質量%以下であれば、他の成分の含有量を確保することができ、熱伝導性を高めることができるから好ましい。
かかる観点から、前記樹脂成分の含有量は、本組成物中の固形分100質量%に対し、5質量%以上であるのが好ましく、中でも10質量%以上、中でも15質量%以上であるのがさらに好ましい一方、40質量%以下であることがさらに好ましく、中でも35質量%以下、その中でも30質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
(エポキシ化合物)
本組成物は、熱硬化性化合物として、エポキシ化合物を含むのが好ましい。
【0027】
本組成物に含まれる熱硬化性化合物のうち、30質量%以上100質量%以下をエポキシ化合物が占めるのが好ましく、中でも40質量%以上、その中でも50質量%以上、その中でも60質量%以上、その中でも70質量%以上をエポキシ化合物が占めるのがさらに好ましい。
なお、この際のエポキシ化合物には、後述する高分子量エポキシ樹脂も包含される。
【0028】
本組成物に含まれる熱硬化性化合物としてのエポキシ化合物は、一分子内に1個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物であればよい。
【0029】
エポキシ化合物に含まれるオキシラン環(エポキシ基)は、脂環式エポキシ基、グリシジル基のどちらでも構わない。反応速度もしくは耐熱性の観点から、グリシジル基であることがより好ましい。
【0030】
エポキシ化合物としては、例えば、エポキシ基含有ケイ素化合物、脂肪族型エポキシ化合物、ビスフェノールA又はF型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、多官能型エポキシ化合物、高分子型エポキシ化合物等を挙げることができる。
【0031】
前記エポキシ化合物は、芳香族オキシラン環(エポキシ基)含有化合物であってもよい。その具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラフルオロビスフェノールAなどのビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ化合物、ビフェニル型のエポキシ化合物、ジヒドロキシナフタレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの2価のフェノール類をグリシジル化したエポキシ化合物、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタンなどのトリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ化合物、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタンなどのテトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ化合物、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラックなどのノボラック類をグリシジル化したノボラック型エポキシ化合物などを挙げることができる。
【0032】
[多官能エポキシ化合物]
本組成物は、次に説明する多官能エポキシ化合物を含むことが好ましい。
【0033】
多官能エポキシ化合物とは、一分子内に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有し、質量平均分子量10,000未満のエポキシ化合物をいう。
このような多官能エポキシ化合物を含むことにより、極性の高いオキシラン環(エポキシ基)を高密度で導入することが可能であり、それにより、ファンデルワールス力や水素結合といった物理的相互作用の効果が増し、例えば、本組成物から形成した本熱伝導性シートと導電体との密着性を向上させることができる。また、多官能エポキシ化合物を含有することにより、本熱伝導性シートの貯蔵弾性率を高くすることができ、それにより被着体である導電体表面の凹凸に本組成物の硬化物が入り込んだ後、強固なアンカー効果を発現し、本熱伝導性シートと導電体との密着性を向上させることができる。
一方で、多官能エポキシ化合物を含むことにより、本組成物の吸湿性が高くなる傾向にあるが、オキシラン環(エポキシ基)の反応性を向上させることで、反応途中の水酸基量を減らし、吸湿性の増加を抑制することができる。
また、前述した高分子量エポキシ樹脂と多官能エポキシ化合物を組み合わせて本組成物を製造することにより、本熱伝導性シートの高弾性化と低吸湿化を両立することが可能となる。
【0034】
前記多官能エポキシ化合物としては、熱硬化後の硬化物の貯蔵弾性率を高くする、特にパワー半導体など発熱量の多い場合に重要になる高温時の貯蔵弾性率を高くする観点から、一分子内に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有するエポキシ化合物であればよく、中でも、一分子内に3個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有するエポキシ化合物が好ましく、さらに一分子内に4個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物がより一層好ましい。一分子内に複数のオキシラン環(エポキシ基)、特にグリシジル基を有することで、硬化物の架橋密度が向上し、得られる硬化物である本熱伝導性シートがより高強度となる。それにより、吸湿リフロー試験において本熱伝導性シートに内部応力が発生した際に、本熱伝導性シートが変形したり、破壊したりせずに、形態を保持することで、本熱伝導性シート内にボイド等の空隙が発生するのを抑制することができる。
【0035】
また、熱硬化後の放熱シートの貯蔵弾性率を高くするという観点から、多官能エポキシ化合物の分子量は650以下であることが好ましく、特に100以上或いは630以下、中でも200以上或いは600以下であることがさらに好ましい。また、シートのハンドリング性をよくするためには25℃で液状であるものを含むことが好ましい。また、より低吸湿及び高架橋を達成する観点から、窒素原子を含有するようなアミン系もしくはアミド系の構造を含まない方が好ましい。
【0036】
多官能エポキシ化合物の具体例としては、例えば一分子当たりエポキシ基を3つ以上有し、分子量650以下の多官能エポキシ化合物が好ましい。すなわち、熱硬化性化合物として、一分子当たりエポキシ基を3つ以上有し、分子量650以下の多官能エポキシ化合物を含むことが好ましい。例えばナガセケムテックス社製の、EX321L、DLC301、DLC402等を用いることができる。
これらの多官能エポキシ化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
多官能エポキシ化合物の含有量は、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、5質量%以上80質量%以下であるのが好ましい。多官能エポキシ化合物の含有量が5質量%以上であれば、熱硬化性組成物の硬化物の弾性率を保持できることから好ましく、80質量%以下であれば、吸水率が高くなり過ぎないことから好ましい。
また、特に一分子当たりエポキシ基を3つ以上有し、分子量650以下の多官能エポキシについては、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、5質量%以上75質量%以下であるのが好ましく、中でも10質量%以上或いは70質量%以下、その中でも15質量%以上或いは50質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
後述するように、高分子量エポキシ樹脂及び多官能エポキシ化合物を併用する場合、シートの成膜性とシート硬化物の弾性率の観点から、高分子量エポキシ樹脂の含有量100質量%に対し、多官能エポキシ化合物の含有量は20質量%以上500質量%以下であるのが好ましく、中でも30質量%以上或いは400質量%以下、その中でも40質量%以上或いは350質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0039】
<無機フィラー>
本組成物が含有する無機フィラーは、2種以上のフィラーで構成されており、該無機フィラーのうち、少なくとも一種が窒化ホウ素粒子であり、別の少なくとも一種がアルミナ粒子である。
【0040】
(窒化ホウ素粒子)
本組成物は、無機フィラーとして、窒化ホウ素粒子を含むため、硬化することにより、熱伝導性に優れた本硬化物及び本熱伝導性シートを提供することができる。
【0041】
窒化ホウ素粒子は、凝集粒子(「凝集窒化ホウ素粒子」とも称する)であるのが好ましい。
本発明において「凝集粒子」とは、窒化ホウ素一次粒子が凝集したもの、好ましくは鱗片状の窒化ホウ素一次粒子が凝集したものである。
本組成物が凝集窒化ホウ素粒子を含むことにより、本硬化物及び本熱伝導性シートの熱伝導率をより高めることができる。特に、例えば本熱伝導性シートのシート厚み方向の熱伝導性をより高めることができる。さらに、凝集窒化ホウ素粒子と後述する所定のアルミナ粒子とを組み合わせることにより、無機フィラー間の接触面積をより一層増大させることができ、接合強度を高めることができ、熱伝導率をより一層高めることができるばかりか、リフロー処理時のボイドの発生を抑えて、本熱伝導性シートと基板(銅)との剥離を防ぐことができる。
【0042】
凝集窒化ホウ素粒子の凝集構造は、熱伝導率を向上させる観点から、カードハウス構造であるのが好ましい。よって、窒化ホウ素粒子は、カードハウス構造を有する凝集窒化ホウ素粒子を含むのが好ましい。但し、窒化ホウ素粒子の凝集構造は、カードハウス構造以外の構造であってもよい。
凝集窒化ホウ素粒子の凝集構造は、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。
【0043】
カードハウス構造とは、板状粒子が配向せず複雑に積層されたものであり、「セラミックス・43・No.2」(2008年、日本セラミックス協会発行)に記載されている。より具体的には、凝集粒子を形成する一次粒子の平面部と、該凝集粒子内に存在する他の一次粒子の端面部が接触している構造をいう。カードハウス構造の模式図を
図1に示す。
該カードハウス構造の凝集粒子は、その構造上破壊強度が非常に高く、本熱伝導性シートのシート成形時に行われる加圧工程でも圧壊しない。そのため、通常本熱伝導性シートの長手方向に配向してしまう一次粒子を、ランダムな方向に存在させることができる。したがって、カードハウス構造の凝集粒子を用いると、本熱伝導性シートの厚み方向に一次粒子のab面が配向する割合をより高めることができるので、該シートの厚み方向に効果的に熱伝導を行うことができ、厚み方向の熱伝導率を一層高めることができる。
【0044】
なお、カードハウス構造を有する凝集窒化ホウ素粒子は、例えば国際公開第2015/119198号に記載される方法で製造することができる。
【0045】
カードハウス構造を有する凝集窒化ホウ素粒子は、表面処理剤により表面処理が施されていてもよい。
当該表面処理剤としては、例えば、シランカップリング処理などの公知の表面処理剤を用いることができる。一般的に、無機フィラーと熱硬化性化合物との間には直接的な親和性や密着性は認められない場合が多く、これは無機フィラーとしてカードハウス構造を有する窒化ホウ素粒子を用いた場合も同様である。無機フィラーと熱硬化性化合物等のマトリクス樹脂との界面の密着性を化学的処理により高めることで、界面での熱伝導性減衰をより低減できると考えられる。
【0046】
凝集窒化ホウ素粒子の形状は、熱硬化性組成物中の凝集窒化ホウ素粒子の充填率を高める観点から、
図1に示されるように、球状であることが好ましい。
【0047】
凝集窒化ホウ素粒子の粒径に関しては、無機フィラーの粒径を大きくすることによって、熱伝導率の低い熱硬化性化合物を介した無機フィラー間の伝熱経路を少なくでき、従って、厚み方向の伝熱経路中での熱抵抗増大を低減できる。
上記の観点から、凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径の下限は、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは30μm以上であり、さらに好ましくは40μm以上である。一方、前記最大粒子径の上限は、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは200μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下であり、よりさらに好ましくは90μm以下である。
【0048】
また、凝集窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、特に限定されない。中でも、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、特に15μm以上がさらに好ましい。また、100μm以下が好ましく、90μm以下がより好ましい。凝集窒化ホウ素粒子の平均粒子径が5μm以上であることで、熱硬化性組成物及び熱硬化性組成物を用いた硬化物内において相対的に粒子数が少なくなるため、粒子間界面が少なくなることにより熱抵抗が小さくなり、本熱伝導性シートが高熱伝導率になる場合がある。また、前記平均粒子径が100μm以下であることで、本熱伝導性シートの表面平滑性が得られる傾向にある。
【0049】
凝集窒化ホウ素粒子の平均粒子径又は最大粒子径が上記上限以下であることにより、熱硬化性化合物すなわちマトリクス樹脂中に凝集窒化ホウ素粒子を含有させた場合に、表面荒れなどのない良質な膜を形成できる。平均粒子径又は最大粒子径が上記下限以上であることにより、マトリクス樹脂と凝集窒化ホウ素粒子の界面が減少する結果、熱抵抗が小さくなり、高熱伝導化を達成できるとともに、パワー半導体デバイスに求められる無機フィラーとしての十分な熱伝導性向上効果を得ることができる。
【0050】
また、本熱伝導性シートの厚みに対してマトリクス樹脂と凝集窒化ホウ素粒子の界面の熱抵抗の影響が顕著になるのは、本熱伝導性シートの厚みに対する凝集窒化ホウ素粒子の大きさが1/10以下の場合であると考えられる。特に、パワー半導体デバイス向けの場合、厚みが100μm~300μmの本熱伝導性シートが適用されるケースが多いため、熱伝導性の観点からも、凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径は上記下限より大きいことが好ましい。
また、凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径が上記下限以上であることにより、凝集窒化ホウ素粒子とマトリクス樹脂との界面によりもたらされる熱抵抗の増大が抑制されるだけでなく、必要となる粒子間の熱伝導パス数が減少して、本熱伝導性シートの厚み方向に一方の面から他方の面まで繋がる確率が大きくなる。
一方で、凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径が上記上限以下であることにより、本熱伝導性シートの表面への凝集窒化ホウ素粒子の突出が抑えられ、表面荒れのない良好な表面形状が得られるため、銅基板と貼り合わせたシートを作製する際に、十分な密着性を有し、優れた耐電圧特性を得ることができる。
【0051】
本熱伝導性シートの厚みに対する、凝集窒化ホウ素粒子の大きさ(最大粒子径)の比率(最大粒子径/厚さ)は0.2以上1.0以下であるのが好ましく、中でも0.3以上或いは0.95以下、その中でも0.3以上或いは0.9以下であるのがさらに好ましい。
【0052】
なお、凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径及び平均粒子径は、例えば以下の方法で測定することができる。
原料として用いる凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径及び平均粒子径は、凝集窒化ホウ素粒子を溶剤に分散させた試料、具体的には、分散安定剤を含有する純水媒体中に凝集窒化ホウ素粒子を分散させた試料に対して、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて粒度分布を測定し、得られた粒度分布から凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径Dmax及び平均粒子径D50として求めることができる。
ここで、Dmax及びD50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布における最大粒子径及び累積体積50%粒子径である。
また、モフォロギ4(マルバーン社製)等の乾式の粒度分布測定装置で最大粒子径及び平均粒子径を求めることもできる。
【0053】
他方、本組成物或いは本熱伝導性シート中の凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径及び平均粒子径についても、溶媒(加熱溶媒を含む)中で熱硬化性化合物などの有機成分を溶解除去、或いは、膨潤させて凝集窒化ホウ素粒子との付着強度を低減せしめた後に物理的に除去し、さらには有機成分を大気下で加熱し灰化させて除去することで、上記と同様の方法で最大粒子径Dmax及び平均粒子径D50を測定することが可能である。
本組成物或いは本熱伝導性シート中の凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径及び平均粒子径については、本組成物或いは本熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、顕微ラマン分光器、原子間力顕微鏡などにより、10個以上の任意の凝集窒化ホウ素粒子を直接観察し、粒子の粒子径を計測して最大粒子径及び平均粒子径を求めることも可能である。
この際、粒子が非球形の場合は、最長径と最短径を測定し、その平均値を当該粒子の粒子径とする。
【0054】
(アルミナ粒子)
本組成物が含有するアルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.95以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の50個数%以上70個数%以下であるのが好ましい。
画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.95以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の50個数%以上であれば、フィラー間の接触面積が大きくなるため、接触熱抵抗が低下するため、好ましい。他方、70個数%以下であれば、アルミナ粒子の充填率がよくなり、ボイドが生じづらいため、好ましい。
かかる観点から、画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.95以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の50個数%以上であるのが好ましく、中でも55個数%以上、その中でも60個数%以上であるのがさらに好ましい。他方、70個数%以下であるのが好ましく、中でも68個数%以下、その中でも65個数%以下であるのがさらに好ましい。
【0055】
本組成物が含有するアルミナ粒子は、画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.90以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の20個数%以上40個数%以下であるのが好ましい。
画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.90以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の20個数%以上であれば、フィラー間の接触面積が大きくなるため、接触熱抵抗が低下するため、好ましい。他方、40個数%以下であれば、アルミナ粒子の充填率がよくなり、ボイドが生じづらいため、好ましい。
かかる観点から、画像式粒度分布測定装置で測定した面積円形度が0.90以下のアルミナ粒子の割合は、全アルミナ粒子の20個数%以上であるのが好ましく、中でも25個数%以上、その中でも27個数%以上であるのがさらに好ましい。他方、40個数%以下であるのが好ましく、中でも39個数%以下、その中でも38個数%以下であるのがさらに好ましい。
【0056】
アルミナ粒子の面積円形度は、以下の方法で測定することができる。
原料として用いるアルミナ粒子の面積円形度は、画像式粒度分布測定装置(例えばマルバーン・パナリティカル社製のモフォロギ4)を用いて円面積及び実測粒子周囲長を計測し、円面積/実測粒子周囲長の2乗の計算式で算出することができる。
本組成物或いは本熱伝導性シート中のアルミナ粒子の面積円形度は、本組成物或いは本熱伝導性シートの有機成分を高温で除去し、残った無機成分の中から比重差を利用して遠心分離によりアルミナを分離し、分離したアルミナ粒子について、画像式粒度分布測定装置により円面積及び実測粒子周囲長を計測し、円面積/実測粒子周囲長の2乗の計算式で算出することができる。
また、本組成物或いは本熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、顕微ラマン分光器、原子間力顕微鏡などにより、10個以上の任意のアルミナ粒子を直接観察し、円面積及び実測粒子周囲長を計測し、円面積/実測粒子周囲長の2乗の計算式で算出することも可能である。
【0057】
所定の面積円形度を有するアルミナ粒子が、全アルミナ粒子に占める割合(個数%)は、得られたデータの中から周囲長包絡度0.97未満の粒子画像を排除し、周囲長包絡度が0.97以上の粒子を全アルミナ粒子数とし、「所定の面積円形度を有するアルミナ粒子の個数/全アルミナ粒子の個数」より求めることができる。ここで、周囲長包絡度0.97未満は、凝集粒子と判別できるため、当該粒子画像を排除する。
なお、この時に測定するアルミナ粒子数は1000個以上が好ましく、中でも3000個数以上、その中でも5000個以上、その中でも10000個以上であるのがさらに好ましい。
【0058】
本組成物が含有するアルミナ粒子は、平均アスペクト比が0.60以上0.82以下であるのが好ましい。
アルミナ粒子の平均アスペクト比が0.82以下であれば、フィラー間の接触面積が大きくなり、接触熱抵抗を抑えることができる。他方、0.60以上であれば、充填率を高めることができ、ボイドの発生を抑制することができる。
かかる観点から、本組成物が含有するアルミナ粒子の平均アスペクト比は0.82以下であるのが好ましく、中でも0.81以下、その中でも0.80以下であるのがさらに好ましい。他方、0.60以上であるのが好ましく、中でも0.65以上、その中でも0.70以上であるのがさらに好ましい。
【0059】
アルミナ粒子のアスペクト比は、以下の方法で測定することができる。
原料として用いるアルミナ粒子のアスペクト比は、画像式粒度分布測定装置(例えばマルバーン・パナリティカル社製のモフォロギ4)を用いて、短径(最大長に対する最大垂直長)及び最大長を計測し、アスペクト比=短径/最大長の計算式で算出することができる。
本組成物或いは本熱伝導性シート中のアルミナ粒子のアスペクト比は、本組成物或いは本熱伝導性シートの有機成分を高温で除去し、残った無機成分の中から比重差を利用して遠心分離によりアルミナを分離し、分離したアルミナ粒子を画像式粒度分布測定装置により、短径(最大長に対する最大垂直長)及び最大長を計測し、アスペクト比=短径/最大長の計算式で算出することができる。
また、本組成物或いは本熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、顕微ラマン分光器、原子間力顕微鏡などにより、10個以上の任意のアルミナ粒子を直接観察し、短径(最大長に対する最大垂直長)及び最大長を計測し、アスペクト比=短径/最大長の計算式で算出することも可能である。
【0060】
本組成物が含有するアルミナ粒子は、アスペクト比が0.85より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の50個数%以上80個数%以下であるのが好ましい。
アスペクト比が0.85より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の50個数%以上であれば、フィラー間の接触面積が大きくなり、接触熱抵抗を抑えることができるため、好ましい。他方、80個数%以下であれば、充填率を高めることができ、ボイドの発生を抑制できるため、好ましい。
かかる観点から、アスペクト比が0.85より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の50個数%以上であるのが好ましく、中でも60個数%以上、その中でも65個数%以上であるのがさらに好ましい。他方、充填率を高めることができ、ボイドの発生を抑制できるため、80個数%以下であるのが好ましく、中でも75個数%以下、その中でも70個数%以下であるのがさらに好ましい。
【0061】
本組成物が含有するアルミナ粒子は、アスペクト比が0.7より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の15個数%以上40個数%以下であるのが好ましい。
アスペクト比が0.7より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の15個数%以上であれば、フィラー間の接触面積が大きくなり、接触熱抵抗を抑えることができるため、好ましい。他方、40個数%以下であれば、充填率を高めることができ、ボイドの発生を抑制できるため、好ましい。
かかる観点から、アスペクト比が0.7より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の15個数%以上であるのが好ましく、中でも20個数%以上、その中でも25個数%以上であるのがさらに好ましい。他方、40個数%以下であるのが好ましく、中でも35個数%以下、その中でも31個数%以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
所定のアスペクト比を有するアルミナ粒子が、全アルミナ粒子に占める割合(個数%)は、得られたデータの中から周囲長包絡度0.97未満の粒子画像を排除し、周囲長包絡度が0.97以上の粒子を全アルミナ粒子数とし、「所定のアスペクト比を有するアルミナ粒子の個数/全アルミナ粒子の個数」より求めることができる。ここで、周囲長包絡度0.97未満は、凝集粒子と判別できるため、当該粒子画像を排除する。
なお、この時に測定するアルミナ粒子数は1000個以上が好ましく、中でも3000個数以上、その中でも5000個以上、その中でも10000個以上であるのがさらに好ましい。
【0063】
本組成物が含有するアルミナ粒子は、周囲長包絡度が0.970より大きく、0.985より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の5個数%以上40個数%以下であるのが好ましい。
周囲長包絡度が0.970より大きく、0.985より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の5個数%以上であれば、フィラー間の接触面積が大きくなり、接触熱抵抗を抑えることができるため、好ましい。他方、40個数%以下であれば、充填率を高めることができ、ボイドの発生を抑制できるため、好ましい。
かかる観点から、周囲長包絡度が0.970より大きく、0.985より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の5個数%以上であるのが好ましく、中でも7個数%以上、中でも10個数%以上、その中でも13個数%以上であるのがさらに好ましい。他方、40個数%以下であるのが好ましく、中でも30個数%以下、その中でも25個数%以下であるのがさらに好ましい。
【0064】
なお、アルミナ粒子の「周囲長包絡度」とは、端面接触で測定される粒子周囲長と実測周囲長の比率(粒子周囲長(端面接触)/実測粒子周囲長)である。
原料として用いるアルミナ粒子の周囲長包絡度は、画像式粒度分布測定装置(例えばマルバーン・パナリティカル社製のモフォロギ4)を用いて、端面接触による粒子周囲長及び実測周囲長を計測し、周囲長包絡度=粒子周囲長(端面接触)/実測粒子周囲長の計算式で算出することができる。
他方、本組成物或いは本熱伝導性シート中のアルミナ粒子の周囲長包絡度は、本組成物或いは本熱伝導性シートの有機成分を高温で除去し、残った無機成分の中から比重差を利用して遠心分離によりアルミナを分離し、分離したアルミナ粒子を画像式粒度分布測定装置により、端面接触による粒子周囲長及び実測周囲長を計測し、周囲長包絡度=粒子周囲長(端面接触)/実測粒子周囲長の計算式で算出することができる。
また、本組成物或いは本熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、顕微ラマン分光器、原子間力顕微鏡などにより、10個以上の任意のアルミナ粒子を直接観察し、端面接触による粒子周囲長及び実測周囲長を計測し、周囲長包絡度=粒子周囲長(端面接触)/実測粒子周囲長の計算式で周囲長包絡度を算出することも可能である。
【0065】
所定の周囲長包絡度を有するアルミナ粒子が、全アルミナ粒子に占める割合(個数%)は、得られたデータの中から周囲長包絡度0.97未満の粒子画像を排除し、周囲長包絡度が0.97以上の粒子を全アルミナ粒子数とし、「所定の周囲長包絡度を有するアルミナ粒子の個数/全アルミナ粒子の個数」より求めることができる。ここで、周囲長包絡度0.97未満は、凝集粒子と判別できるため、当該粒子画像を排除する。
なお、この時に測定するアルミナ粒子数は1000個以上が好ましく、中でも3000個数以上、その中でも5000個以上、その中でも10000個以上であるのがさらに好ましい。
【0066】
本組成物が含有するアルミナ粒子は、面積包絡度が0.950より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の5個数%以上40個数%以下であるのが好ましい。
面積包絡度が0.950より小さいアルミナ粒子が、全アルミナ粒子の5個数%以上であれば、フィラー間の接触面積が大きくなり、接触熱抵抗を抑えることができるため、好ましい。他方、40個数%以下であれば、充填率を高めることができ、ボイドの発生を抑制できるため、好ましい。
かかる観点から、面積包絡度が0.950より小さいアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子の5個数%以上であるのが好ましく、中でも7個数%以上、中でも9個数%以上、その中でも11個数%以上であるのがさらに好ましい。他方、40個数%以下であるのが好ましく、中でも35個数%以下、その中でも30個数%以下であるのがさらに好ましい。
【0067】
なお、アルミナ粒子の「面積包絡度」とは、画像式粒度分布測定装置(例えばマルバーン・パナリティカル社製のモフォロギ4)で計測される端面接触での包絡面積に対する、実際に粒子面積を測定した実測面積の比率である。
原料として用いるアルミナ粒子の面積包絡度は、画像式粒度分布測定装置(例えばマルバーン・パナリティカル社製のモフォロギ4)を用いて、実測粒子面積及び粒子面積(端面接触)を計測し、面積包絡度=実測粒子面積/粒子面積(端面接触)の計算式で算出することができる。
本組成物或いは本熱伝導性シート中のアルミナ粒子の面積包絡度は、本組成物或いは本熱伝導性シートの有機成分を高温で除去し、残った無機成分の中から比重差を利用して遠心分離によりアルミナを分離し、分離したアルミナ粒子を画像式粒度分布測定装置により、実測粒子面積及び粒子面積(端面接触)を計測し、面積包絡度=実測粒子面積/粒子面積(端面接触)の計算式で算出することができる。
また、本組成物或いは本熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、顕微ラマン分光器、原子間力顕微鏡などにより、10個以上の任意のアルミナ粒子を直接観察し、そのうちの面積包絡度を測定することも可能である。
【0068】
所定の面積包絡度を有するアルミナ粒子が、全アルミナ粒子に占める割合(個数%)は、得られたデータの中から周囲長包絡度0.97未満の粒子画像を排除し、周囲長包絡度が0.97以上の粒子を全アルミナ粒子数とし、「所定の面積包絡度を有するアルミナ粒子の個数/全アルミナ粒子の個数」より求めることができる。ここで、周囲長包絡度0.97未満は、凝集粒子と判別できるため、当該粒子画像を排除する。
なお、この時に測定するアルミナ粒子数は1000個以上が好ましく、中でも3000個数以上、その中でも5000個以上、その中でも10000個以上であるのがさらに好ましい。
【0069】
本組成物が含有するアルミナ粒子は、平均粒子径が0.5μm以上30μm以下であるのが好ましい。
アルミナ粒子の平均粒子径が0.5μm以上であれば、無機フィラー間の接触回数を高めて、接触熱抵抗を低下させ、熱伝導率を高めることができる。他方、30μm以下であれば、充填率を高めてボイドの発生を抑制することができる。
かかる観点から、アルミナ粒子の平均粒子径は0.5μm以上であるのが好ましく、中でも0.8μm以上、その中でも1.0μm以上であるのがさらに好ましい。他方、30μm以下であるのが好ましく、中でも28μm以下、その中でも25μm以下であるのがさらに好ましい。
【0070】
アルミナ粒子の平均粒子径は、例えば以下の方法で測定することができる。
原料として用いるアルミナ粒子の平均粒子径は、アルミナ粒子を溶剤に分散させた試料、具体的には、分散安定剤を含有する純水媒体中にアルミナ粒子を分散させた試料に対して、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて粒度分布を測定し、得られた粒度分布からアルミナ粒子の平均粒子径D50として求めることができる。
ここで、D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布における累積体積50%粒子径である。
また、モフォロギ4(マルバーン社製)等の乾式の粒度分布測定装置で平均粒子径を求めることもできる。
本組成物或いは本熱伝導性シート中のアルミナ粒子の平均粒子径についても、溶媒(加熱溶媒を含む)中で熱硬化性化合物などの有機成分を溶解除去、或いは、膨潤させてアルミナ粒子との付着強度を低減せしめた後に物理的に除去し、さらには有機成分を大気下で加熱し灰化させて除去することで、上記と同様の方法で平均粒子径D50を測定することが可能である。
また、本組成物或いは本熱伝導性シート中のアルミナ粒子の平均粒子径については、本組成物或いは本熱伝導性シートの断面を、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、顕微ラマン分光器、原子間力顕微鏡などにより、10個以上の任意のアルミナ粒子を直接観察し、粒子の径の算術平均値によって求めることも可能である。この際、粒子が非球形の場合は、最長径と最短径を測定し、その平均値を当該粒子の粒子径とする。
【0071】
(その他の無機フィラー)
本組成物は、上記凝集窒化ホウ素粒子及びアルミナ粒子以外の無機フィラー(「その他の無機フィラー」とも称する)を含んでもよい。
【0072】
本組成物に含まれるその他の無機フィラーは、熱伝導率が2.0W/m・K以上であるものが好ましく、特に3.0W/m・K以上、特に5.0W/m・K以上、特に10.0W/m・K以上であるものがさらに好ましい。
【0073】
かかる無機フィラーとしては、炭素のみからなる電気絶縁性であるフィラー、金属炭化物又は半金属炭化物、金属酸化物又は半金属酸化物、及び金属窒化物又は半金属窒化物等からなるフィラーを挙げることができる。
【0074】
前記炭素のみからなる電気絶縁性フィラーとしては、例えばダイヤモンド(熱伝導率:約2000W/m・K)等を挙げることができる。
前記金属炭化物又は半金属炭化物としては、例えば炭化ケイ素(熱伝導率:約60~270W/m・K)、炭化チタン(熱伝導率:約21W/m・K)、炭化タングステン(熱伝導率:約120W/m・K)等を挙げることができる。
【0075】
前記金属酸化物又は半金属酸化物の例としては、酸化マグネシウム(熱伝導率:約40W/m・K)、酸化亜鉛(熱伝導率:約54W/m・K)、酸化イットリウム(熱伝導率:約27W/m・K)、酸化ジルコニウム(熱伝導率:約3W/m・K)、酸化イッテルビウム(熱伝導率:約38.5W/m・K)、酸化ベリリウム(熱伝導率:約250W/m・K)、「サイアロン」(ケイ素、アルミニウム、酸素、窒素からなるセラミックス、熱伝導率:約21W/m・K)等を挙げることができる。
前記金属窒化物又は半金属窒化物の例としては、窒化ホウ素(六方晶窒化ホウ素(h-BN)の板状粒子の面方向の熱伝導率:約200~500W/m・K)、窒化アルミニウム(熱伝導率:約160~285W/m・K)、窒化ケイ素(熱伝導率:約30~80W/m・K)等を挙げることができる。
【0076】
これらのその他の無機フィラーは、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0077】
これらその他の無機フィラーの形状は、不定形粒子状、球状、ウィスカー状、繊維状、板状、又はそれらの凝集体、混合体であってもよい。
なお、これらその他の無機フィラーが、面積円形度、アスペクト比、周囲長包絡度、面積包絡度及び平均粒子径(D50)に関して、前述したアルミナ粒子と同様であれば、前述したアルミナ粒子と同様の効果を期待することができる。
【0078】
(無機フィラーの含有量)
前記無機フィラーの含有量は、本組成物中の固形分100質量%に対し、60質量%以上であるのが好ましい。
前記無機フィラーの含有量が、本組成物中の固形分100質量%に対し、60質量%以上であれば、絶縁性と熱伝導性を高めることができる。かかる観点から、前記無機フィラーの含有量は、本組成物中の固形分100質量%に対し、60質量%以上であるのが好ましく、中でも65質量%以上、その中でも70質量%以上であるのがさらに好ましい。
他方、前記無機フィラーの含有量が85質量%以下であれば、ハンドリング性及び製膜性を維持する観点から、好ましい。よって、かかる観点から、前記無機フィラーの含有量が、83質量%以下であるのがより好ましく、中でも81質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0079】
前記凝集窒化ホウ素粒子の含有量は、全無機フィラー100質量%に対して、15質量%以上65質量%以下であるのが好ましい。
前記凝集窒化ホウ素粒子の含有量が、全無機フィラー100質量%に対して、15質量%以上であれば、絶縁性と熱伝導性を高めることができる。他方、65質量%以下であれば、ハンドリング性及び製膜性を維持することができる。
かかる観点から、前記凝集窒化ホウ素粒子の含有量は、全無機フィラー100質量%に対して、15質量%以上であるのが好ましく、中でも20質量%以上、その中でも25質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、65質量%以下であるのが好ましく、中でも50質量%以下、その中でも45質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0080】
前記アルミナ粒子の含有量は、全無機フィラー100質量%に対して35質量%以上であるのが好ましい。
前記アルミナ粒子の含有量が35質量%未満であると、本組成物をスラリーとした際に分散安定性が悪くなり、無機フィラーが沈降しやすくなり、塗布膜の均一性が損なわれるため、好ましくない。
よって、前記アルミナ粒子の含有量は、全無機フィラー100質量%に対して35質量%以上であるのが好ましく、中でも40質量%以上、その中でも45質量%以上、その中でも55質量%以上であるのがさらに好ましい。
他方、絶縁性と熱伝導性を高める観点から、85質量%以下であるのが好ましく、中でも81質量%以下、その中でも77質量%以下、その中でも74質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0081】
また、前記アルミナ粒子の含有量は、凝集窒化ホウ素粒子の含有量100質量部に対して120質量部以上280質量部以下であるのが好ましい。
前記アルミナ粒子の含有量が、凝集窒化ホウ素粒子の含有量100質量部に対して120質量部以上であれば、絶縁性と熱伝導性を高めることができるから好ましい。他方、280質量部以下であれば、スラリーとした際に分散安定性が良くなり、無機フィラーが沈降しづらく、塗布膜の均一性が保たれるから好ましい。
かかる観点から、前記アルミナ粒子の含有量は、凝集窒化ホウ素粒子の含有量100質量部に対して120質量部以上であるのが好ましく、中でも130質量部以上、その中でも150質量部以上であるのがさらに好ましい。他方280質量部以下であるのが好ましく、中でも270質量部以下、その中でも260質量部以下、その中でも250質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0082】
<分子量10,000以上のポリマー>
本組成物は、質量平均分子量10,000以上のポリマーを含有するのが好ましい。
本組成物が質量平均分子量10,000以上のポリマーを含有することにより、無機フィラー、特に凝集窒化ホウ素粒子の含有割合を高めたとしても、ハンドリング性が向上し、製膜性を高めることができる。
【0083】
前記ポリマーとしては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性化合物等のいずれであってもよい。
当該熱可塑性樹脂及び熱硬化性化合物としては、例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン又はポリエーテルケトン等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。また、上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性化合物として、熱可塑性ポリイミド、熱硬化性ポリイミド、ベンゾオキサジン、ポリベンゾオキサゾールとベンゾオキサジンとの反応物などのスーパーエンプラと呼ばれている耐熱性樹脂群等を使用することもできる。また、スチレン、アルキルスチレンなどのスチレン系重合体、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどの(メタ)アクリル系重合体、スチレン-メタクリル酸グリシジルなどのスチレン系-(メタ)アクリル系共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルベンザール、ポリビニルアセタールなどのポリビニルアルコール誘導体、ノルボルネン化合物を含有するノルボルネン系ポリマー、フェノキシ樹脂等も使用することができる。中でも、耐熱性と熱硬化性化合物との相溶性の点で、フェノキシ樹脂が好適である。
上記熱可塑性樹脂及び上記熱硬化性化合物はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。熱可塑性樹脂及び熱硬化性化合物の内のいずれか一方が用いられてもよく、熱可塑性樹脂と熱硬化性化合物とが併用されてもよい。
【0084】
前記ポリマーは、上記の中でも、耐熱性を向上させる観点から、前記エポキシ化合物と反応する官能基を有するものが好ましい。
ここで、前記エポキシ化合物と反応する官能基としては、例えば、エポキシ基と反応する官能基として、フェノール性水酸基、エポキシ基、カルボン酸基、無水カルボン酸基、活性エステルなどを挙げることができる。
このようなポリマーの好ましい例として、他の樹脂成分への溶解性の観点から、次に説明する高分子量エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0085】
(高分子量エポキシ樹脂)
本組成物は、熱硬化性組成物の塗布性の観点から、質量平均分子量10,000以上のポリマーとして、質量平均分子量10,000以上のエポキシ樹脂(「高分子量エポキシ樹脂」と称する)を含むのが好ましい。
高分子量エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有するフェノキシ樹脂を挙げることができる。
【0086】
前記高分子量エポキシ樹脂としては、例えば、下記式(1)で表される構造(以下、「構造(1)」とも称する)及び下記式(2)で表される構造(以下、「構造(2)」とも称する)から選ばれる少なくとも一つの構造を有するエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0087】
【0088】
式(1)中、R1及びR2はそれぞれ有機基を表し、少なくとも一方は分子量16以上の有機基であり、式(2)中、R3は2価の環状有機基を表す。
【0089】
なお、「有機基」とは、炭素原子を含む基であれば如何なる基でも含むものであり、具体的に例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられ、それらはハロゲン原子や、ヘテロ原子を有する基や、他の炭化水素基で置換されていても構わない。以下においても同様である。
【0090】
また、高分子量エポキシ樹脂として、下記式(3)で表される構造(以下、「構造(3)」とも称する)を有するエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0091】
【0092】
式(3)中、R4、R5、R6、R7は、それぞれ分子量15以上の有機基を表す。
【0093】
上記式(1)において、R1及びR2のうちの少なくとも一方は、分子量が16以上、好ましくは分子量16~1000の有機基を表し、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基やフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、フルオレニル基等のアリール基を挙げることができる。R1及びR2は共に分子量16以上の有機基であってもよく、一方が分子量16以上の有機基で、他方が分子量15以下の有機基又は水素原子であってもよい。好ましくは、一方が分子量16以上の有機基で他方が分子量15以下の有機基であり、特にいずれか一方がメチル基で、他方がフェニル基であることが、樹脂粘度等の取扱い性の制御が容易になることや、硬化物の強度の観点から好ましい。
【0094】
上記式(2)において、R3は2価の環状有機基であり、ベンゼン環構造、ナフタレン環構造、フルオレン環構造等の芳香族環構造であってもよいし、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂肪族環構造であってもよい。また、それらは独立に、炭化水素基、又はハロゲン原子等の置換基を有していても構わない。2価の結合部は、単一の炭素原子にある2価基であっても構わないし、異なる炭素原子にある2価基であっても構わない。好ましくは、炭素数6~100の2価の芳香族基、シクロプロパンやシクロヘキサンのような炭素数2~100のシクロアルカンに由来する基を挙げることができる。特に、下記式(4)で表される3,3,5-トリメチル-1,1-シクロへキシレン基(以下、「構造(4)」とも称する)が、樹脂粘度等の取扱い性の制御や硬化物の強度の観点から好ましい。
【0095】
【0096】
上記式(3)において、R4、R5、R6、R7は、それぞれ分子量15以上の有機基である。好ましくは分子量15~1000のアルキル基であり、特にR4、R5、R6、R7のすべてがメチル基であることが、樹脂粘度等の取扱い性の制御や硬化物の強度の観点から好ましい。
【0097】
高分子量エポキシ樹脂は、特に構造(1)及び構造(2)のいずれか一方と、構造(3)とを含むエポキシ樹脂であることが、本硬化物及び本熱伝導性シートの吸湿性の低減と強度保持の性能の両立の観点から好ましい。
【0098】
このような高分子量エポキシ樹脂は、一般的なビスフェノールA、ビスフェノールF骨格を有するエポキシ樹脂と比較して、疎水性の炭化水素及び芳香族構造を多く含むため、高分子量エポキシ樹脂を配合することにより、得られる硬化物である本熱伝導性シートの吸湿量を低減することができる。
また、吸湿量を低減するという観点から、高分子量エポキシ樹脂は疎水性構造である構造(1)、(2)、(3)を多く含むものが好ましく、具体的には質量平均分子量が20,000以上のエポキシ樹脂であることがより好ましく、さらに質量平均分子量が30,000以上、例えば30,000~80,000のエポキシ樹脂であることがより一層好ましい。
【0099】
また、高分子量エポキシ樹脂はより疎水性であることが好ましく、かかる観点から、エポキシ成分のエポキシ当量は大きい方がよく、具体的には5,000g/当量以上が好ましく、7,000g/当量以上、例えば8,000~15,000g/当量がより好ましい。
【0100】
なお、エポキシ樹脂の質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算の値である。
また、エポキシ当量とは、「1当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂の質量」と定義され、JIS K7236に準じて測定することができる。
【0101】
このような高分子量エポキシ樹脂は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
(含有量)
質量平均分子量10,000以上のポリマーの含有量は、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、10質量%以上30質量%未満の割合であるのが好ましい。
前記ポリマーを、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、10質量%以上含有することで、無機フィラーの保持力と成膜性を保つことができるから、好ましい。他方、30質量%未満の割合で含有することで、硬化時の強度を保つことができるから、好ましい。
かかる観点から、前記ポリマーの含有量は、本組成物から無機フィラーを除いた固形分100質量%に対し、10質量%以上であるのが好ましく、中でも15質量%以上、その中でも20質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、30質量%未満であるのが好ましく、中でも29質量%以下であるのがさらに好ましい。
高分子量エポキシ樹脂の含有量についても、質量平均分子量10,000以上のポリマーの含有量と同様である。
【0103】
<硬化剤>
本組成物は、必要に応じて、硬化剤を含有するのが好ましい。
硬化剤としては、例えば、フェノール樹脂、窒素原子を含有する複素環構造を有する化合物(以下、「窒素含有複素環化合物」とも称する)、芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物などを挙げることができる。硬化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの好ましい硬化剤の使用により、耐熱性、耐湿性及び電気物性のバランスに優れた本硬化物を得ることができる。
【0104】
前記フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、t-ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、ポリパラビニルフェノール、ビスフェノールA型ノボラック、キシリレン変性ノボラック、デカリン変性ノボラック、ポリ(ジ-o-ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ-m-ヒドロキシフェニル)メタン、又はポリ(ジ-p-ヒドロキシフェニル)メタン等を挙げることができる。中でも、本組成物、本硬化物及び本熱伝導性シートの柔軟性及び難燃性をより一層の向上、硬化物の力学物性及び耐熱性向上のためには剛直な主鎖骨格を持つノボラック型フェノール樹脂やトリアジン骨格を有するフェノール樹脂が好ましい。また、未硬化の熱硬化性組成物の柔軟性及び樹脂硬化物の靭性向上のためには、アリル基を有するフェノール樹脂が好ましい。
【0105】
前記窒素含有複素環化合物の有する複素環構造としては、例えば、イミダゾール、トリアジン、トリアゾール、ピリミジン、ピラジン、ピリジン、アゾールから誘導される構造などを挙げることができる。本硬化物の絶縁性、金属との密着性の向上の観点から、イミダゾール系化合物やトリアジン系化合物が好ましい。
好ましいイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物としては、例えば2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物等を挙げることができる。
【0106】
これらの中でも、樹脂相溶性が高く、かつ反応活性化温度が高いことで、硬化速度や硬化後の物性を容易に調整することができ、これにより、本組成物の保存安定性向上や加熱成形後の接着強度の更なる向上を実現できることから、特にイミダゾールから誘導される構造を有するもの、トリアジンから誘導される構造を有するものが好ましく、とりわけトリアジンから誘導される構造を有するものが好ましい。
窒素含有複素環化合物の有する複素環構造としては、1,3,5-トリアジンから誘導される構造が特に好ましい。また、これらの例示された構造部分を複数有するものであっても構わない。
【0107】
なお、窒素含有複素環化合物には、構造によっては後述する熱硬化性触媒が含まれる場合があり、従って、本組成物は熱硬化性触媒として窒素含有複素環化合物を含むことができる。
窒素含有複素環化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、1分子中に複数の復素環構造を同時に有していても構わない。
前記窒素含有複素環化合物の分子量は1,000以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。
【0108】
前記芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物は、特に限定されない。
【0109】
前記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物は、多脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物、又はテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られる脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物であることが好ましい。
【0110】
硬化剤は、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%中に0質量%以上70質量%以下、特に0質量%以上55質量%以下含まれることが好ましい。硬化剤の含有量が上記下限以上であると、十分な硬化性能を得ることができ、上記上限以下であれば反応が効果的に進行し、架橋密度を向上させ、強度を増すことができ、さらに製膜性が向上する。
【0111】
<硬化促進剤>
本組成物は、必要に応じて、硬化速度や硬化物の物性などを調整するために、硬化促進剤として熱硬化性触媒を含有することができる。
【0112】
熱硬化性触媒は、熱硬化性化合物や硬化剤の種類に応じて適宜に選択するのが好ましい。
熱硬化性触媒の具体例としては、鎖状又は環状の3級アミン、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類又は有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類等、イミダゾール類を挙げることができる。また、有機金属化合物類、4級アンモニウム塩類又は金属ハロゲン化物等を用いることもできる。上記有機金属化合物類としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫又はアルミニウムアセチルアセトン錯体等を挙げることができる。
また、前述において、硬化剤として説明した窒素含有複素環化合物は、熱硬化性触媒としても作用するため、熱硬化性触媒として配合してもよい。
【0113】
中でも、特に保存安定性、耐熱性、硬化速度の観点から、イミダゾールを有する化合物(「イミダゾール系化合物」と称する)が好ましい。
好ましいイミダゾール系化合物としては、例えば2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等を挙げることができる。
特に融点が100℃以上、さらに好ましくは200℃以上のイミダゾール系化合物を用いることで、保存安定性、密着性に優れた本硬化物を得ることができる。さらに前述のイミダゾール環以外の窒素含有複素環化合物を含むものが接着性の観点からより好ましい。
なお、熱硬化性触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0114】
熱硬化性触媒は、本組成物中の固形分から無機フィラーを除いた固形分100質量%中に0.1質量%以上10質量%以下、特に0.1質量%以上5質量%以下含まれることが好ましい。熱硬化性触媒の含有量が前記下限以上であると、硬化反応の進行を十分に促進して良好に硬化させることができ、前記上限以下であると、硬化速度が速すぎることがなく、従って、本組成物の保存安定性を良好なものとすることができる。
【0115】
<有機溶剤>
本組成物は、必要に応じて、例えば、塗布工程を経てシート状硬化物を成形する際の塗布性の向上のために、有機溶剤を含有してもよい。
本組成物が含有し得る有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。これらの有機溶剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0116】
本組成物が有機溶剤を含有する場合、その含有量は、本熱伝導性シート作製時の取り扱い性等に応じて適宜決定される。通常、有機溶剤は、本組成物中の固形分(溶剤以外の成分の合計)濃度が10質量%以上90質量%以下、特に40質量%以上或いは80質量%以下となるように用いることが好ましい。
また、シート状に形成した場合には、有機溶剤は、本組成物中の固形分(溶剤以外の成分の合計)濃度が95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上となるように用いることが好ましい。
【0117】
<その他の成分>
本組成物は、上記成分以外に、他の成分を含有してもよい。
当該他の成分としては、例えば、分散剤、熱可塑性樹脂、有機フィラー、無機フィラー、無機フィラーと樹脂成分との界面接着強度を改善するシランカップリング剤などの添加剤、樹脂シートと金属板状材との密着強度を高める効果を期待できる添加剤、還元剤等の絶縁性炭素成分、粘度調整剤、チキソ性付与剤、難燃剤、着色剤、リン系、フェノール系他の各種酸化防止剤、フェノールアクリレート系他のプロセス安定剤、熱安定剤、ヒンダードアミン系ラジカル補足剤(HAAS)、衝撃改良剤、加工助剤、金属不活化剤、銅害防止剤、帯電防止剤、増量剤等を挙げることができる。これらの添加剤を使用する場合の添加量は、通常、これらの目的に使用される量の範囲であればよい。
【0118】
<<本組成物の用途>>
本組成物は、加熱することにより本硬化物とすることができ、シート状の硬化物とすることにより、本伝導性シートとすることができる。
本組成物の用途として、例えば、本硬化物と、金属部とを有する複合成形体を挙げることができる。具体的には例えば、後述する放熱積層体、放熱性回路基板、半導体装置、パワーモジュールなどを挙げることができる。
【0119】
<熱伝導性シート>
本発明の実施形態の一例に係る本熱伝導性シートは、本組成物の硬化物から形成された熱伝導性シートであればよい。
【0120】
本熱伝導性シートの25℃における厚み方向の熱伝導率は、8W/m・K以上であることが好ましく、特に8.2W/m・K以上であることがより好ましい。厚み方向の熱伝導率が上記下限値以上であることにより、高温で作動させるパワー半導体デバイス等にも好適に用いることができる。
当該熱伝導率は、熱硬化性化合物の種類及び溶融粘度等の物性値、無機フィラーの種類及び含有量、熱硬化性化合物と無機フィラーとの混合方法、後述する加熱混練工程における条件等によって調整することができる。
【0121】
なお、本熱伝導性シートの厚み方向の熱伝導率は、次の方法により測定できる。
例えば、熱抵抗測定装置(株式会社メンターグラフィックス製、製品名「T3ster」)を用いて、熱抵抗値を厚さに対してプロットしたグラフの傾きから、熱伝導率を求めることができる。
【0122】
本熱伝導性シートの厚みの下限値は、50μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましく、70μm以上がさらに好ましい。他方、厚みの上限値は、400μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、250μm以下がさらに好ましい。
本熱伝導性シートの厚みを50μm以上とすることで、十分な耐電圧特性を確保できる。一方、400μm以下とすることで、特に熱伝導性シートをパワー半導体デバイス等に用いる場合、小型化や薄型化が達成可能であり、また、セラミックス材料による絶縁性熱伝導性層に比較して、薄膜化による厚み方向の熱抵抗低減の効果を得ることができる。
【0123】
<熱伝導性シートの製造方法>
以下、本熱伝導性シートの製造方法の一例について説明する。
【0124】
本熱伝導性シートは、本組成物をシート状に製膜し(この工程を「製膜工程」と称する)、必要に応じて乾燥し(この工程を「乾燥工程」と称する)、さらに必要に応じて加圧する(この工程を「加圧工程」と称する)。そして、こうして得たシート状樹脂組成物を硬化させてシート状硬化物としての本熱伝導性シートを作製することができる(この工程を「硬化工程」と称する)。
【0125】
(製膜工程)
例えばスラリー状の本組成物をブレード法などの塗布法、溶剤キャスト法又は押し出し成膜法等の方法でシート状に成形することができる。
【0126】
上記塗布法によりシート状に製膜する場合は、先ず基材の表面に、スラリー状の本組成物を塗布して塗膜を形成する。即ち、スラリー状の本組成物を用いて、ディップ法、スピンコート法、スプレーコート法、ブレード法、その他の任意の方法で基材上に塗膜を形成する。
スラリー状の本組成物の塗布には、スピンコーター、スリットコーター、ダイコーター、ブレードコーターなどの塗布装置を用いることができる。このような塗布装置により、基材上に所定の膜厚の塗膜を均一に形成することが可能である。
なお、基材としては、後述の銅板乃至銅箔やPETフィルムが一般的に用いられるが、何ら限定されるものではない。
【0127】
(乾燥工程)
上記のようにシート状に製膜した本組成物は、溶剤や低分子成分の除去のために、通常10℃以上150℃以下、好ましくは25℃以上或いは120℃以下、より好ましくは30℃以上或いは110℃以下の温度で乾燥する。
乾燥温度が上記上限値以下であることで、本組成物中の樹脂の硬化が抑制され、その後の加圧工程でシート状の熱硬化性組成物中の樹脂が流動してボイドを除去しやすくなる傾向がある。乾燥温度が上記下限値以上であることで、効果的に溶剤を取り除くことができ生産性が向上する傾向にある。
乾燥時間は、特に限定されず、本組成物の状態、乾燥環境等によって適宜調整することができる。乾燥時間は、好ましくは1分以上であり、より好ましくは2分以上、さらに好ましくは5分以上である。乾燥時間は、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは10時間以下であり、さらに好ましくは4時間以下であり、特に好ましくは2時間以下である。
乾燥時間が上記下限値以上であることで、十分に溶剤が除去でき、残留溶剤が樹脂硬化物内のボイドとなることを抑制できる傾向にある。乾燥時間が上記上限値以下であることで、生産性が向上し、製造コストを抑制できる傾向にある。
【0128】
(加圧工程)
乾燥工程の後には、無機フィラー同士を接合させ熱伝導パスを形成する目的、シート内のボイドや空隙をなくす目的、基材との密着性を向上させる目的等から、得られたシート状の本組成物に加圧を行うことが望ましい。但し、目的によっては、加圧しなくてもよい。
【0129】
加圧工程では、基材上のシート状の本組成物に2MPa以上の加重をかけて実施することが望ましい。
加重は、好ましくは5MPa以上であり、より好ましくは7MPa以上であり、さらに好ましくは9MPa以上である。また、加重は、好ましくは1500MPa以下であり、より好ましくは1000MPa以下であり、さらに好ましくは800MPa以下である。
加圧時の加重を上記上限値以下とすることにより、凝集窒化ホウ素粒子の二次粒子が破壊することなく、シート状の本組成物中に空隙などがない高い熱伝導性を有するシートを得ることができる。加重を上記下限値以上とすることにより、無機フィラー間の接触が良好となり、熱伝導パスを形成しやすくなるため、高い熱伝導性を有する本硬化物を得ることができる。
【0130】
加圧工程における基板上のシート状の本組成物の加熱温度は特に限定されない。加熱温度は、好ましくは10℃以上であり、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上である。加熱温度は、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下、よりさらに好ましくは100℃以下、特に好ましくは90℃以下である。
この温度範囲で加圧工程を行うことにより、シート状の本組成物中の樹脂の溶融粘度を低下させることができ、本硬化物内のボイドや空隙をより低減することができる。また、上記上限値以下で加熱することで、シート状の本組成物及び本硬化物中の有機成分の分解、残留溶剤により発生するボイドを抑制できる傾向にある。
【0131】
加圧工程の時間は、特に限定されない。加圧工程の時間は、好ましくは30秒以上であり、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上である。加圧工程の時間は、好ましくは1時間以下であり、より好ましくは30分以下、さらに好ましくは20分以下である。
加圧時間が上記上限値以下であることで、本硬化物の製造時間が抑制でき、生産コストを短縮できる傾向にある。加圧時間が上記下限値以上であることで、本硬化物内の空隙やボイドを十分に取り除くことができ、熱伝達性能や耐電圧特性を向上できる傾向にある。
【0132】
(硬化工程)
本組成物は加熱することで硬化させることができる。
この際、加熱温度は30℃以上400℃以下であるのが好ましく、中でも50℃以上であるのが好ましく、その中でも90℃以上であるのがさらに好ましい。他方、中でも300℃以下であるのが好ましく、その中でも250℃以下であるのがさらに好ましい。
【0133】
本組成物を完全に硬化反応を行わせる硬化工程は、加圧下で行ってもよく、無加圧で行ってもよい。加圧する場合は、上記と同様の理由から、上記の加圧工程と同様の条件で行うことが望ましい。なお、加圧工程と硬化工程を同時に行っても構わない。
特に加圧工程と硬化工程を経るシート化工程においては、上記の範囲の加重をかけて、加圧、硬化を行うことが好ましい。
【0134】
加圧工程と硬化工程を同時に行う場合の加重は特に限定されない。この場合、基材上のシート状の本組成物に5MPa以上の加重をかけて実施することが好ましく、加重はより好ましくは7MPa以上であり、さらに好ましくは9MPa以上であり、特に好ましくは20MPa以上である。また、加重は好ましくは2000MPa以下であり、より好ましくは1500MPa以下である。
加圧工程と硬化工程を同時に行う場合の加重を上記上限値以下とすることにより、凝集窒化ホウ素粒子の二次粒子が破壊することなく、シート状の本組成物中に空隙などがない高い熱伝導性を有するシート状硬化物を得ることができる。また、加重を上記下限値以上とすることにより、無機フィラー間の接触が良好となり、熱伝導パスを形成しやすくなるため、高い熱伝導性を有する本硬化物を得ることができる。
【0135】
加圧工程と硬化工程を同時に行う場合の加圧時間は特に限定されない。加圧時間は好ましくは30秒以上であり、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上である。また、加圧時間は好ましくは3時間以下であり、より好ましくは2時間45分以下、さらに好ましくは2時間30分以下である。
加圧時間が上記上限値以下であることで、シート状の樹脂硬化物の製造時間が抑制でき、生産コストを短縮できる傾向にある。加圧時間が上記下限値以上であることで、シート状の本硬化物すなわち本熱伝導性シート内の空隙やボイドを十分に取り除くことができ、熱伝達性能や耐電圧特性を向上できる傾向にある。
【0136】
<<複合成形体>>
本発明の実施形態の一例に係る複合成形体(「本複合成形体」と称する)は、本組成物からなる硬化物と、金属部とを有する複合成形体である。
次に、本複合成形体の例として、放熱積層体、放熱性回路基板、半導体デバイスについて説明する。但し、本複合成形体がこれらに限定されるものではない。
【0137】
<<放熱積層体>>
本発明の実施形態の一例に係る放熱積層体(「本放熱積層体」と称する)は、本熱伝導性シートを備えた積層体であればよい。
【0138】
本放熱積層体の一例として、本熱伝導性シートの一方の表面に、放熱性材料を含む放熱用金属層を積層したものを挙げることができる。
【0139】
当該放熱性材料は、熱伝導性の良好な材質から成るものであれば特段限定されない。中でも、積層構成での熱伝導性を高くするために、放熱用金属材料を用いることが好ましく、中でも平板状の金属材料を用いることがより好ましい。
金属材料の材質は、特に限定されない。中でも、熱伝導性が良く、かつ比較的廉価である点から、銅板、アルミニウム板、アルミニウム合金板等が好ましい。
【0140】
本熱伝導性シートと放熱用金属層との積層一体化に関しては、バッチプロセスであるプレス成形を好ましく用いることができる。この場合のプレス設備やプレス条件等は、前述の熱伝導性シートを得るためのプレス成形条件の範囲と同一である。
【0141】
<<放熱性回路基板>>
本発明の実施形態の一例に係る放熱性回路基板(「本放熱性回路基板」と称する)は、本熱伝導性シートを備えたものであればよい。
本放熱性回路基板の一例として、本熱伝導性シートの一方の表面に、上記放熱用金属層を積層し、前記本熱伝導性シートの放熱用金属層とは他方の表面に、例えばエッチング処理等により回路基板を形成してなる構成を有するものを挙げることができる。具体的には、「放熱用金属層/本熱伝導性シート/導電回路」で一体化されたものがより好ましい。回路エッチング前の状態としては、例えば「放熱用金属層/本熱伝導性シート/導電回路形成用金属層」の一体化構成で、導電回路形成用金属層が平板状であり、本熱伝導性シートの片面側全表面に形成されたものや、一部面積で形成されたものが挙げられる。
【0142】
導電回路形成用金属層の材料は、特に限定されない。中でも、一般的には電気伝導性やエッチング性の良さ、コスト面などの観点から、厚み0.05mm以上1.2mm以下の銅の薄板により形成されることが好ましい。
【0143】
<<半導体装置>>
本発明の実施形態の一例に係る半導体装置(「本半導体装置」と称する)は、本放熱性回路基板を備えたものであればよい。
本半導体装置の一例として、本放熱性回路基板上に、予め個片化された半導体チップが搭載されたシリコンウエハー又は再配線層を形成してなる構成を備えたものを挙げることができる。
【0144】
<<パワーモジュール>>
本発明の実施形態の一例に係るパワーモジュール(「本パワーモジュール」と称する)は、本熱伝導性シートを備えたものであればよい。
本パワーモジュールの一例として、本熱伝導性シートを本放熱性回路基板としてパワー半導体デバイス装置に実装したものを挙げることができる。
このパワー半導体デバイス装置において、本熱伝導性シート又は本放熱積層体以外のアルミ配線、封止材、パッケージ材、ヒートシンク、サーマルペースト、はんだというような部材は従来公知の部材を適宜採用できる。
【0145】
<<語句の説明>>
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
本発明において「シート」とは、シート、フィルム、テープを概念的に包含するものである。
また、本明細書において「好ましい」の表現は、「必ずしも必須ではないが、必須とするのがより良い」という意味を包含する。
また、本明細書において「乃至」の表現は、「及び/又は」の意味である。
【実施例0146】
以下、実施例により本発明を更に詳説する。但し、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0147】
<使用材料>
実施例及び比較例における使用材料は以下の通りである。
【0148】
(無機フィラー)
・無機フィラーA:国際公開第2015/119198号に基づいて製造されたカードハウス構造を有する球状の凝集窒化ホウ素粒子(平均粒子径(D50):45μm、最大粒子径(Dmax):90μm)
【0149】
・無機フィラーB-1:日本軽金属社製、アルミナ粒子、平均粒子径(D50):4.0μm、最大粒子径(Dmax):18.3μm、面積円形度、アスペクト比、平均アスペクト比、周囲長包絡度及び面積包絡度に関しては表1に記載。
・無機フィラーB-2:レゾナック社製、アルミナ粒子、平均粒子径(D50):22.4μm、最大粒子径(Dmax):61.4μm、面積円形度、アスペクト比、平均アスペクト比、周囲長包絡度及び面積包絡度に関しては表1に記載。
・無機フィラーB-3:アドマテックス社製、球状アルミナ粒子、平均粒子径(D50):11.7μm、最大粒子径(Dmax):30.8μm、面積円形度、アスペクト比、平均アスペクト比、周囲長包絡度及び面積包絡度に関しては表1に記載。
【0150】
なお、本発明において「球状粒子」とは、面積円形度が0.95以上である粒子を50個数%以上含有する粒子を意味する。
【0151】
[平均粒子径(D50)及び最大粒子径(Dmax)]
無機フィラーAの平均粒子径(D50)及び最大粒子径(Dmax)は、分散安定剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを含有する純水媒体中に無機フィラーAを分散させ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-300(堀場製作所社製)にて体積基準粒度分布を測定し、得られた粒度分布から、累積体積50%粒子径(平均粒子径D50)及び最大粒子径Dmaxを求めた。
無機フィラーB-1、B-2及びB-3の平均粒子径(D50)及び最大粒子径(Dmax)は、画像式粒度分布測定装置(マルバーン・パナリティカル社製のモフォロギ4)にて、サンプル量5mm3、気流分散圧が4.0barr(Injection Pressure)、対物レンズ倍率:20倍で体積基準粒度分布を測定し、凝集していると考えられる周囲長包絡度が0.97未満である粒子を除き、得られた粒度分布から、累積体積50%粒子径(平均粒子径D50)及び最大粒子径Dmaxを求めた。なお、非球形の粒径は円相当面積で算出した。この際、周囲長包絡度が0.97未満である粒子を除いた粒子数は10000個以上であった。
【0152】
[面積円形度]
無機フィラーB-1、B-2及びB-3の面積円形度は、画像式粒度分布測定装置(マルバーン・パナリティカル社製のモフォロギ4)にて、サンプル量5mm3、気流分散圧が4.0bar(Injection Pressure)、対物レンズ倍率:20倍で、円面積及び実測粒子周囲長を計測し、円面積/実測粒子周囲長の2乗の計算式で算出した。
また、所定の面積円形度を有するアルミナ粒子が、全アルミナ粒子に占める割合(個数%)は、得られたデータの中から周囲長包絡度0.97未満の粒子画像を排除し、周囲長包絡度が0.97以上の粒子を全アルミナ粒子数とし、「所定の面積円形度を有するアルミナ粒子の個数/全アルミナ粒子の個数」の計算式により算出した。この際、周囲長包絡度が0.97未満である粒子を除いた粒子数は10000個以上であった。
そして、面積円形度が0.95以下のアルミナ粒子の、全アルミナ粒子に対する個数割合(個数%)を、「面積円形度0.95以下/全アルミナ」として表1に示し、面積円形度が0.90以下のアルミナ粒子の、全アルミナ粒子に対する個数割合(個数%)を、「面積円形度0.90以下/全アルミナ」として表1に示した。
【0153】
[アスペクト比及び平均アスペクト比]
無機フィラーB-1、B-2及びB-3のアスペクト比は、画像式粒度分布測定装置(マルバーン・パナリティカル社製のモフォロギ4)にて、サンプル量5mm3、気流分散圧が4.0bar(Injection Pressure)、対物レンズ倍率:20倍で、短径(最大長に対する最大垂直長)及び最大長を計測し、アスペクト比を測定した。アスペクト比は、短径(最大長に対する最大垂直長)/最大長の計算式で算出した。
また、所定のアスペクト比を有するアルミナ粒子が、全アルミナ粒子に占める割合(個数%)は、得られたデータの中から周囲長包絡度0.97未満の粒子画像を排除し、周囲長包絡度が0.97以上の粒子を全アルミナ粒子数とし、「所定のアスペクト比を有するアルミナ粒子の個数/全アルミナ粒子の個数」の計算式により算出した。この際、周囲長包絡度が0.97未満である粒子を除いた粒子数は10000個以上であった。
そして、アスペクト比が0.85より小さいアルミナ粒子の、全アルミナ粒子に対する個数割合(個数%)を、「アスペクト比0.85未満/全アルミナ」として表1に示し、アスペクト比が0.7より小さいアルミナ粒子の、全アルミナ粒子に対する個数割合(個数%)を、「アスペクト比0.7未満/全アルミナ」として表1に示した。
また、得られたデータの中から凝集粒子だと判別できる周囲長包絡度0.97未満の粒子画像を排除し、周囲長包絡度が0.97以上の粒子を全アルミナ粒子数とし、これらのアスペクト値の平均値を「平均アスペクト比」とした。
【0154】
[周囲長包絡度及び面積包絡度]
無機フィラーB-1、B-2及びB-3の周囲長包絡度及び面積包絡度は、画像式粒度分布測定装置(マルバーン・パナリティカル社製のモフォロギ4)にて、サンプル量5mm3、気流分散圧が4.0bar(Injection Pressure)、対物レンズ倍率:20倍の条件で、粒子の端面接触から得られる包絡面積及び包絡周囲長を計測する一方、実測周囲長及び実測面積を計測し、「面積包絡度=実測面積/包絡面積」、「周囲長包絡度=包絡周囲長(端面接触)/実測周囲長」の計算式から、算出した。
また、所定の面積包絡度又は周囲長包絡度を有するアルミナ粒子が、全アルミナ粒子に占める割合(個数%)は、得られたデータの中から周囲長包絡度0.97未満の粒子画像を排除し、周囲長包絡度が0.97以上の粒子を全アルミナ粒子数とし、「所定の周囲長包絡度又は面積包絡度を有するアルミナ粒子の個数/全アルミナ粒子の個数」の計算式により算出した。この際、周囲長包絡度が0.97未満である粒子を除いた粒子数は10000個以上であった。
そして、周囲長包絡度が0.970より大きく0.985より小さいアルミナ粒子の、全アルミナ粒子に占める割合(個数%)を「0.970<周囲長包絡度<0.985」として表1に示し、面積包絡度が0.950より小さいアルミナ粒子の、全アルミナ粒子に占める割合(個数%)を「面積包絡度<0.950」として表1に示した。
【0155】
【0156】
(熱硬化性化合物)
・高分子量エポキシ樹脂C:特開2020-63438号公報の実施例において樹脂成分1として開示されている二官能エポキシ樹脂、ポリスチレン換算の質量平均分子量:30,000、エポキシ当量:9,000g/当量。上記式(2)(3)及び(4)で表される構造を有する。
・芳香族エポキシ化合物D:2官能の芳香族骨格エポキシ化合物、分子量約400。
・多官能エポキシ化合物E:一分子当たりにグリシジル基を4個以上含有する構造の多官能エポキシ化合物(分子量500以下)、窒素原子を含有するようなアミン系もしくはアミド系の構造を含まない。
【0157】
(その他の成分)
・硬化剤F:フェノール樹脂系硬化剤「MEH-8000H」(明和化成社製)
・熱硬化性触媒G:2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン。イミダゾールから誘導される構造トリアジンから誘導される構造の両方を一分子中に有する(四国化成社製「キュアゾール 2E4MZ-A」)
・熱硬化性触媒H:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成社製「キュアゾール 2PHZ-PW」)
・有機溶剤:メチルエチルケトンとシクロヘキサノンの混合溶剤
【0158】
<実施例1、2、3及び比較例1、2>
自転公転式撹拌装置を用いて、無機フィラーA、無機フィラーB、高分子量エポキシ樹脂C、芳香族エポキシ化合物D、多官能エポキシ化合物E、硬化剤F、熱硬化性触媒G及び熱硬化性触媒Hを、表2に示す質量比で秤量し、これらを、メチルエチルケトンとシクロヘキサノンからなる有機溶剤に加えて混合し、塗布スラリーとしての熱硬化性組成物を調製した。この際、固形分濃度が80質量%となるようにメチルエチルケトンとシクロヘキサノンを用いた。
【0159】
得られたスラリー状の熱硬化性組成物を、ドクターブレード法でPET製基材に塗布し、60℃で120分間加熱乾燥を行い、熱硬化性組成物からなる厚さ150μmのシート状成形体(未硬化)を得た。シート状成形体中のメチルエチルケトン及びシクロヘキサノンの合計の含有量は1質量%以下であった。
【0160】
<シート状成形体の評価>
上記実施例・比較例で得られたシート状成形体を次のように評価した。
【0161】
(硬化後のシート状成形体の厚さ方向の熱伝導率の測定)
実施例・比較例で得たシート状成形体を、表2に記載の圧力で加圧しながら120℃に加熱して硬化を行い、硬化物からなる厚み150μmの評価サンプルシートを得た。
また、実施例・比較例で得たシート状成形体を2枚重ね、3枚重ね、4枚重ね、5枚重ねて、上記同様に加圧及び加熱することで、厚みの異なる5種類の評価サンプルシートを得た。
【0162】
これら厚みの異なる5種類の評価サンプルシートの厚み、面積、熱抵抗値を下記(1)~(3)のように測定し、下記(4)に示すように、シートの厚みに対する熱抵抗値で表される傾きから、定常法でのシート厚み方向の熱伝導率(25℃)を求めた(ASTMD5470準拠)。
(1) 厚み:Mentor Graphics社製 T3Ster-DynTIMを用いて、プレス圧力3400kPaでプレスしたときの厚み(μm)
(2) 測定面積:Mentor Graphics社製 T3Ster-DynTIMを用いて測定する際の、熱を伝達する部分の面積(cm2)
(3) 熱抵抗値:Mentor Graphics社製 T3Ster-DynTIMを用いて、プレス圧力3400kPaでプレスしたときの熱抵抗値(K/W)
(4) 熱伝導率:厚みの異なる5種類のシートの熱抵抗値を測定し、下記の式から熱伝導率(W/m・K)を算出する。
式:熱伝導率(W/m・K)=1/((傾き(熱抵抗値/厚み):K/(W・μm))×(面積:cm2))×10-2
【0163】
測定された熱伝導率が8W/m・K以上である場合「〇(good)」、8W/m・K未満である場合は「×(poor)」と判定した。
【0164】
<耐ハンダリフロー試験>
厚さ500μm、厚さ2,000μmの銅板各1枚の表面を、#120サンドペーパーにより100回ずつ表面を粗化処理した。
これら銅板の間に、実施例・比較例で得たシート状成形体を挟み、熱プレス機を用いて、120℃で30分間、表2に示した圧を加えてプレスを行い、続いて昇温し、175℃で30分間、表2に示した圧を加えてプレスを行い、続いてさらに昇温し、200℃で30分間、表2に示した圧を加えてプレスを行い、複合成形体を得た。
得られた複合成形体を、2,000μm厚みの銅を保護して、500μm厚みの銅をエッチング処理することで、500μmの銅板をパターニングして、耐ハンダリフロー試験用サンプルを作製した。この際、パターンはφ25mmの円状パターンが2カ所残存するようにした。
【0165】
このようにして作製した耐ハンダリフロー試験用サンプルを、恒温恒湿機SH-221(エスペック社製)を用いて85℃、85%RHの環境に3日間保管した。次に、窒素雰囲気下において、室温から290℃まで12分で昇温し、290℃で10分保持した後、室温まで冷却した(耐ハンダリフロー試験)。その後、超音波映像装置FineSAT(FS300III)(日立パワーソリューションズ製)により、銅板とシート状成形体の接合界面を観察した。測定には周波数50MHzのプローブを用い、ゲイン30dB、ピッチ0.2mmとし、試料を水中に置いて実施した。
【0166】
耐ハンダリフロー試験により界面剥離が発生しない場合を「○(good)」、耐ハンダリフロー試験で界面剥離が発生した場合を「×(poor)」と判定した。
なお、界面剥離が発生しない場合とは、接合面積がパターニング面積に対して99.5%以上である場合である。
【0167】
【0168】
表2において、「熱硬化性組成物全体量」とは、実施例及び比較例で調製した「熱硬化性組成物」のうちの有機溶剤を除いた成分量(:固形分量)、すなわち、無機フィラー、熱硬化性化合物、硬化剤及び熱硬化性触媒の合計質量部である。
「樹脂成分全体の質量比」とは、熱硬化性組成物全体量100質量%に対する、熱硬化性化合物、硬化剤及び熱硬化性触媒の合計質量部の比率(質量%)である。
「熱硬化性組成物に対する無機フィラー成分量」とは、熱硬化性組成物全体量100質量%に対する、無機フィラーA及び無機フィラーBの合計質量割合(質量%)である。
「無機フィラーに対するアルミナ成分量」とは、無機フィラーA及び無機フィラーBの合計質量100質量%に対する、アルミナ成分すなわち無機フィラーBの質量割合(質量%)である。
【0169】
(考察)
上記実施例並びにこれまで本発明者らが行ってきた試験結果から、凝集窒化ホウ素粒子と、面積円形度が0.95以下のアルミナ粒子の割合が、全アルミナ粒子100個数%に対して50個数%以上70個数%以下であるアルミナ粒子(「非球状アルミナ粒子」と称する)とを含み、当該アルミナ粒子が無機フィラーの35質量%以上を占める熱硬化性組成物を用いて硬化物、具体的には熱伝導性シートを形成することで、熱伝導率と耐ハンダリフロー性を両立できることが分かった。
この理由については、凝集窒化ホウ素粒子と非球状アルミナ粒子の平面間が会合しやすくなり、両者の接触面積が大きくなり、接触熱抵抗が低減されるため熱伝導率が向上したものと推定することができる。また、凝集窒化ホウ素粒子と非球状アルミナ粒子との接触面積が大きくなり、両者の接合強度が向上することにより、耐ハンダリフロー試験時にボイドが生じづらくなるため、熱伝導性シートと基板(Cu)との間の剥離を防ぐことができるものと推定できる。
このような作用機序を考慮すれば、上記実施例におけるアルミナ粒子の代わりに、同様の面積円形度を有する粒子を同様の割合で有する他の無機フィラーを用いた場合も、同様の効果を得ることができるものと推察される。
【0170】
なお、上記実施例並びにこれまで本発明者らが行ってきた試験結果から、凝集窒化ホウ素粒子ではなく、鱗片状の窒化ホウ素粒子を用いた場合、成型時にその厚み方向に対して鱗片状窒化ホウ素粒子鱗片が横向きに配向してしまう。これに対して、凝集窒化ホウ素粒子、特に球状の凝集窒化ホウ素粒子を用いた場合には、所定の方向に配向することがないため、成型時の厚み方向、例えばシートの厚み方向の熱伝導率をより一層高めることができることが分かった。
また、前記非球状アルミナ粒子ではなく、球状アルミナ粒子を用いた場合、凝集窒化ホウ素粒子と組み合わせても、両粒子間の会合状態が面接触ではなく点接触となり、接触熱抵抗が増加し、熱伝導率を高めることができない。また、ハンダリフロー時に、樹脂とフィラー間で剥離が発生し、ボイドが生じるため、熱伝導性シートと基板(銅)とが剥離してしまうことが分かった。