(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134570
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20240927BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
E04G23/02 E
E04B2/56 643A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044824
(22)【出願日】2023-03-21
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143111
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100189876
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 将晴
(72)【発明者】
【氏名】北川 啓介
(72)【発明者】
【氏名】井戸田 秀樹
【テーマコード(参考)】
2E002
2E176
【Fターム(参考)】
2E002EB12
2E002FA03
2E002FB07
2E002FB13
2E002FB14
2E002JC01
2E002LA03
2E002LB03
2E002MA12
2E176AA09
2E176AA21
2E176BB28
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】一枚の壁構面だけに限定しても適用でき、多様な木造建築物に適用できる耐震補強構造であって、工事期間が短くでき、工事費が低減され、より適用しやすい耐震補強構造を提供すること。
【解決手段】
層厚30mm以上の均一な厚さの発泡樹脂層が、発泡樹脂パネル100と、発泡樹脂材200とを含み、発泡樹脂パネルが、一対の縦軸材20,20の間隔よりも狭く、且つ、横軸材から下方部材60までの距離より小さく形成され、発泡樹脂パネルが、垂直構面に沿って、一対の縦軸材と横軸材と下方部材に囲まれた垂直構面内空間に配され、発泡樹脂材が、注入発泡樹脂材又は吹付発泡樹脂材からなると共に筋状をなし、発泡樹脂パネルの周囲の一対の縦軸材と横軸材と下方部材との隙間に充填され、発泡樹脂層が、一対の縦軸材と横軸材と下方部材とを接着されて一体化された耐震補強構造1とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物の垂直構面に適用される耐震補強構造において、
前記垂直構面をなす両側の一対の縦軸材と、層厚30mm以上の発泡樹脂層とを含んだ耐震補強構造であって、
前記発泡樹脂層が、発泡樹脂パネルと、発泡樹脂材とを含み、
前記発泡樹脂パネルが、前記一対の縦軸材の間隔よりも狭く、且つ、前記垂直構面の高さの70%以上の高さとされ、
前記発泡樹脂パネルが、前記垂直構面に沿って、各々の縦軸材との間に筋状の隙間をあけて、前記一対の縦軸材に挟まれた垂直構面内空間に配され、
前記発泡樹脂材が、注入発泡樹脂材又は吹付発泡樹脂材からなり、
前記発泡樹脂材が、前記発泡樹脂パネルと各々の縦軸材とがなす隙間に筋状に充填され、
前記発泡樹脂パネルの左右が、前記発泡樹脂材を介して、前記一対の縦軸材に接着されて一体化されている、
ことを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
更に、各々の前記縦軸材を繋ぐ横軸材と、前記横軸材の下方に位置する下方部材とを含み、
前記発泡樹脂パネルが、前記横軸材から前記下方部材までの距離より小さい高さとされ、
前記発泡樹脂パネルが、前記垂直構面に沿って、前記横軸材と前記下方部材との間に筋状の隙間をあけて、前記横軸材と前記下方部材に挟まれた垂直構面内空間に配され、
前記発泡樹脂材が、前記発泡樹脂パネルと前記横軸材とがなす隙間と、前記発泡樹脂パネルと前記下方部材とがなす隙間とに筋状に充填され、
前記発泡樹脂パネルの周囲が、前記発泡樹脂材を介して、前記一対の縦軸材と前記横軸材と前記下方部材とに接着されて一体化されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記垂直構面内空間に、室外側に片筋かいが配され、室内側に前記発泡樹脂層が形成されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の耐震補強構造。
【請求項4】
前記垂直構面が、真壁とされ、
更に、一対の縦添着部材と、横添着部材とを含み、
各々の前記縦添着部材が、前記真壁の柱をなす各々の前記縦軸材の室内面に添着され、
前記横添着部材が、前記真壁の梁をなす前記横軸材の室内面に添着され、
前記真壁の室内面が、前記縦添着部材と前記横添着部材の各々の前記室内面から段落ちされ、
前記段落ちされた寸法が、前記発泡樹脂パネルの厚さよりも大きく、
前記段落ちされた空間の中に、前記発泡樹脂パネルが配され、
前記発泡樹脂材が、前記発泡樹脂パネルの周囲と、前記一対の縦軸材と前記縦添着部材と前記横軸材と前記横添着部材と前記下方部材との隙間に、筋状に充填され、
前記発泡樹脂パネルの周囲が、前記発泡樹脂材を介して、前記一対の縦軸材と前記縦添着部材と前記横軸材と前記横添着部材と前記下方部材とに接着されて一体化されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の耐震補強構造。
【請求項5】
更に、室内壁仕上板を含み、
前記室内壁仕上板が、前記縦添着部材と前記横添着部材の各々の前記室内面に固着されて、前記真壁を大壁とさせ、
前記発泡樹脂パネルと前記室内壁仕上板との間が、通気空間とされている、
ことを特徴とする請求項4に記載の耐震補強構造。
【請求項6】
前記真壁に接する前記発泡樹脂材の幅が、少なくとも10cm以上、且つ、前記発泡樹脂パネルの厚さの3倍以上の広幅とされ、
前記発泡樹脂材が、前記真壁に前記広幅の状態で接着されて一体化されている、
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の耐震補強構造。
【請求項7】
更に、発泡樹脂材漏出防止部材を含み、
前記発泡樹脂材漏出防止部材が、前記発泡樹脂材に沿って、筋状をなして前記発泡樹脂材の室外側の位置に添着されている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の耐震補強構造。
【請求項8】
前記発泡樹脂パネルが、複数の分割発泡樹脂パネルと、前記発泡樹脂材とからなり、
前記発泡樹脂材が、並べられた前記分割発泡樹脂パネルの隙間に注入されて、前記発泡樹脂パネルとされている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物において、大掛かりな工事を必要とせず、柱・梁がなす垂直構面に適用されて耐震性を向上させ、人を居住させたままでも、耐震性を向上させることができる耐震補強構造に関する。
【0002】
具体的には、柱・梁がなす垂直構面内空間に発泡樹脂層が形成され、発泡樹脂層の中央部に発泡樹脂パネルが配されると共に、発泡樹脂パネルと周囲の柱・梁・床材又は枠材(以下、柱・梁等という。)との隙間に発泡樹脂材が充填された耐震補強構造に関する。より具体的には、発泡樹脂層が、片筋かいの耐震性と同等の耐震性を有する層厚30mm以上とされて、周囲の柱・梁等とに接着され一体となっている耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0003】
耐震改修が進んでいるといわれる現在においても、耐震補強工事がされないで、耐震性が不足している在来軸組構造及び伝統構造の木造建築物が多く存在し、より簡易に工事しやすく、低いコストで耐震補強することができる耐震補強構造の提供が喫緊の課題とされている。
【0004】
木造建築物の壁に発泡樹脂層を形成させる技術として、特許文献1には、2つの垂直棒部材と2つの水平棒部材とそれらの室外側に固定された平面部材に、所定のポリマーフォームを吹付け、それにより建築基準法関係法規に規定される壁倍率に比較して、どれだけ壁倍率が向上されたかが記載されている。また、平面部材として、ポリスチレン製発泡板を外側層の平面部材とし、吹付けたポリマーフォームを内側層とする2層構造の技術が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の技術によれば、柱・梁がなす構面を耐震補強構造とすることができる可能性がある。しかし、柱と梁がなす構面の外側に添着させた平面体に、発泡樹脂の吹付けだけによって2層構造の発泡樹脂層を構成させる技術であるため、周囲に発泡樹脂の粉粒を飛散させやすく、発泡樹脂を吹付ける構面の周囲に大掛かりな養生を必要とし、既設建築物を使用しながら適用することが困難であった。
【0006】
特許文献2には、住んだまま、産業廃棄物もほとんど出さないで、既設木造建築物の気密断熱化、高耐久化等を実現するとした技術が開示されている。特許文献2に記載の技術によれば、充填断熱材を撤去しないで、外壁材と充填断熱材の間、もしくは充填断熱材と内装材の隙間に、現場発泡ポリウレタンを注入して、壁体内の気密断熱をするとされている。
【0007】
しかし、この技術によれば、仕上げ材を撤去しないで発泡ポリウレタンを注入するため、ポリウレタンの発泡の際の圧力で室内側の壁が凸凹になり、室内の見栄えが悪くなる可能性があった。更に、例えば断熱グラスウール等の断熱材を撤去しないで、発泡ポリウレタン材を注入するため、壁の内部空間内のポリウレタン層の厚さにばらつきが生じ、所望の補強効果が得られにくいという課題があった。
【0008】
特許文献3には、建築物の壁内にポリウレタン材料を塗布して発泡反応させ、塗布量に応じた厚みで、ポリウレタン層を形成させるとする技術が開示されている。この技術によっても、壁内の、断熱グラスウール、配線・配管、間柱・梁等の状況が把握できていない状態で、壁内空間にポリウレタン材料を塗布しても、発泡層の厚さが不均一な状態となり、所望の補強効果が得られにくいという課題があった。
【0009】
本発明者らは、伝統構造の多くに使用されている真壁については、真壁の室内面とその周囲の柱・梁の軸組の室内面に、発泡樹脂層を吹付けて被覆層とし、被覆層を柱と梁と真壁とに一体に接着させた耐震補強構造の技術を、特許文献4に開示している。
【0010】
在来軸組構造の木造建築物においては、真壁だけでなく大壁も採用されている。大壁であっても、柱・梁がなす構面に、層厚30mm以上の発泡樹脂層を形成させることにより、耐震性が向上され、あわせて断熱性も向上される。そこで、柱・梁等がなす構面内に、均一な層厚の発泡樹脂層をより容易に形成することができる耐震補強構造の提供を鋭意検討した。
【0011】
木造住宅の大壁の内部には、配線・配管等だけでなく、構造要素をなす筋かい、嵩張る断熱グラスウール等が配置されている。また枠組壁構造をなす枠体内に、充填された断熱グラスウールについても、内部結露により断熱機能が低下している場合もある。そこで、枠組壁構造も適用の対象とし、構造上有効な筋かいは残したままとし、均一な層厚の発泡樹脂層の形成に干渉する、嵩張る断熱グラスウールを撤去させても、同等の機能以上の耐震性と断熱性が確保できる耐震補強構造を検討した。
【0012】
しかし、大壁の室内側の壁板や断熱グラスウールを撤去した後の壁内空間又は枠組のなかに、全面的に発泡樹脂材を吹付けることにすると、飛び散った発泡樹脂材の粉粒により室内を汚損させやすい。室内を汚損させないためには、周囲を広く養生することが必要になり、工事が大掛かりになる。また、壁内空間又は枠組のなかに、全面的に発泡樹脂材を注入すると、手間がかかり、工事期間が長くなるとともに工事費も高額になるという課題があった。
【0013】
工事費を低額に抑えるために、非特許文献1には、木造住宅の天井から床までの高さにおいて構造用合板による耐震補強をする技術が開示されている。東海地震に係る地震防災対策強化地域内で、少しでも耐震対策を展開するために、産学官の連携のもと、愛知建築地震災害軽減システム研究協議会(以下、減災協という。)が耐震補強効果を定量的に評価している。木造住宅の天井から床までの高さにおいて構造用合板による耐震補強をした場合でも、梁から土台までを構造用合板により補強した場合と比べて、低いコストで約8割程度の耐震補強効果を評価できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2018-172895号公報
【特許文献2】特開2011-6896号公報
【特許文献3】特開平8-27915公報
【特許文献4】特願2023-029143公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】http://www.aichi-gensai.jp/koho_hyoka.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本願の発明者らは、工事対象を限定することができ、工事の際の周囲の養生が軽微であり、工事期間が短くでき、工事費が低減され、耐震性が低い木造住宅に適用しやすく、新築の木造建築物には高い断熱性と耐震性を確保できる耐震補強構造を提供することを課題とした。特に、断熱性もあわせて向上させる壁又は枠組に適した耐震補強構造を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明においては、市場に流通している、所定の厚さ以上の発泡樹脂パネルを、予め、主として柱をなす縦軸材と、縦軸材を繋ぐ横軸材と、下方部材とがなす垂直構面の広さよりも小さく裁断させておく。そして、垂直構面内空間のなかで周囲に隙間があく位置に配された発泡樹脂パネルと、前記隙間に充填された筋状の発泡樹脂材とを発泡樹脂層として、均一な厚さの発泡樹脂層が周囲の縦軸材、横軸材、下方部材のうちの少なくとも縦軸材に発泡樹脂材により接着され一体化された耐震補強構造とした。
【0018】
本発明の第1の発明は、木造建築物の垂直構面に適用される耐震補強構造において、前記垂直構面をなす両側の一対の縦軸材と、層厚30mm以上の発泡樹脂層とを含んだ耐震補強構造であって、前記発泡樹脂層が、発泡樹脂パネルと、発泡樹脂材とを含み、前記発泡樹脂パネルが、前記一対の縦軸材の間隔よりも狭く、且つ、前記垂直構面の高さの70%以上の高さとされ、前記発泡樹脂パネルが、前記垂直構面に沿って、各々の縦軸材との間に筋状の隙間をあけて、前記一対の縦軸材に挟まれた垂直構面内空間に配され、前記発泡樹脂材が、注入発泡樹脂材又は吹付発泡樹脂材からなり、前記発泡樹脂材が、前記発泡樹脂パネルと各々の縦軸材とがなす隙間に筋状に充填され、前記発泡樹脂パネルの左右が、前記発泡樹脂材を介して、前記一対の縦軸材に接着されて一体化されていることを特徴としている。
【0019】
耐震補強構造が形成される建築物は、木造建築物であればよく、伝統構造、在来軸組構造、枠組壁構造のいずれであってもよい。枠組壁構造に適用される場合には、一つの枠組壁を単位として適用されればよい。発泡樹脂層を室内側に形成されるようにすれば、木造建築物の新築時だけでなく、改修時にも工事が容易である。例えば、壁内漏水により一つの壁の断熱グラスウールが機能しない場合には、その壁を対象として、断熱グラスウールを撤去しつつ、発泡樹脂層により断熱性を回復する改修工事をしつつ、耐震性を向上させることができる。
【0020】
発泡樹脂パネルは、市場に流通している厚さ30mm以上の発泡樹脂パネルを、垂直構面の広さよりも小さく裁断させておく。発泡樹脂パネルの大きさは、垂直構面の幅に近い大きさとすれば好適であるが、縦方向隙間の幅を適宜調整して、発泡樹脂パネルの廃棄が少なくなるように裁断すればよい。ここで縦軸材とは、柱に限定されず、間柱であってもよく、枠組壁の中に発泡樹脂層を形成させる場合には、縦方向枠であればよい。
【0021】
発泡樹脂パネル、発泡樹脂材をなす樹脂材は限定されず、連続気泡をなしてもよく、独立気泡をなす発泡樹脂材であってもよい。連続気泡をなす発泡樹脂パネル又は発泡樹脂材が使用される場合には、発泡樹脂層の室内側に不透湿シートを添着させておくとよい。また、発泡樹脂層の室外側には、熱線反射アルミシートを添着させておくと、外壁への直射日光による熱貫流を抑えることができる。
【0022】
発泡樹脂パネルは、その側面から間隔維持ピンを挿し込んで、垂直構面の周囲から離間させて、縦方向隙間をあけた状態で、既設天井および既設床との間に支えればよい。縦方向隙間の幅が広い場合には、吹付けノズルの先端に発泡樹脂粒の飛散防止用治具をつけて縦方向隙間に集中的に、発泡樹脂材を吹き込めばよい。縦方向隙間の幅が狭い場合には、発泡樹脂チューブを使って、縦方向隙間の奥から順に発泡樹脂材を注入させるとよい。
【0023】
第1の発明によれば、発泡樹脂層の中央部に市場品である発泡樹脂パネルを使用するため、発泡樹脂材を吹付け又は注入する工事にあたっての養生を軽微にすることができる。木造建築物、特に耐震補強が必要な木造住宅の垂直構面は、天井内の梁および床下の土台に固定されているが、垂直構面内の70%以上を占める天井面と床面との間を工事の対象とすればよく、工事対象を限定することができる。
【0024】
これにより、工事対象を限定し、更に発泡樹脂パネルを使って容易に耐震補強構造を垂直構面内空間に構築することができ、工事費、工事期間を抑制できるだけでなく、構造用合板を柱面に取付けなくてもよいため部屋が狭くならず、容易に耐震性を向上させることができるという従来にない有利な効果を奏する。
【0025】
本発明の第2の発明は、第1の発明の耐震補強構造において、更に、各々の前記縦軸材を繋ぐ横軸材と、前記横軸材の下方に位置する下方部材とを含み、前記発泡樹脂パネルが、前記横軸材から前記下方部材までの距離より小さい高さとされ、前記発泡樹脂パネルが、前記垂直構面に沿って、前記横軸材と前記下方部材との間に筋状の隙間をあけて、前記横軸材と前記下方部材に挟まれた垂直構面内空間に配され、前記発泡樹脂材が、前記発泡樹脂パネルと前記横軸材とがなす隙間と、前記発泡樹脂パネルと前記下方部材とがなす隙間とに筋状に充填され、前記発泡樹脂パネルの周囲が、前記発泡樹脂材を介して、前記一対の縦軸材と前記横軸材と前記下方部材とに接着されて一体化されていることを特徴としている。
【0026】
ここで横軸材とは、梁であればよいが、枠組壁の中に発泡樹脂層を形成させる場合には、縦方向枠の頂部を繋ぐ横方向枠材であればよい。垂直構面が上下に分割されている場合には、上の垂直構面については、下方部材は中間に位置する横方向部材とすればよい。下方部材とは、垂直構面の下縁に位置する土台であってもよく、土台に固定された木質床であってもよい。土台に固定された木質床は、壁の直下から周辺に面状に広がっているため、土台と同程度の発泡樹脂層の固定効果が見込まれる。
【0027】
発泡樹脂パネルは、パネルの上面および下面にも間隔維持ピンを挿し込んで、垂直構面の周囲から離間させて、縦方向隙間だけでなく、横方向隙間(以下、隙間という。)をあければよい。隙間の幅に応じて、縦方向隙間に発泡樹脂材を充填する方法と同様にして、発泡樹脂材を吹込み又は注入させればよい。
【0028】
第2の発明によれば、発泡樹脂層をなす発泡樹脂材が垂直構面の上方の横軸材および下方部材に充填され、発泡樹脂層が周囲に一体に支持されているため、耐震補強効果がより向上すると共に、その垂直構面の断熱効果が向上するという効果を奏する。特に狭小空間であり、結露が発生しやすい押入空間の周囲の壁への適用に適するが、適用対象が限定されないのは勿論のことである。
【0029】
本発明の第3の発明は、第2の発明の耐震補強構造であって、前記垂直構面内空間に、室外側に片筋かいが配され、室内側に前記発泡樹脂層が形成されていることを特徴としている。
【0030】
既設の大壁又は枠組壁の垂直構面内空間には、室外側に片筋かい、又は、室内外に夫々1本ずつのタスキがけ筋かいが設けられている場合がある。第3の発明によれば、壁内空間の室外側に設けられている筋かいは残して活かし、室内側の片筋かいを撤去し発泡樹脂層を形成させ、断熱性を付与すると共に、より耐震性を向上させる耐震補強構造とすることができ、既設の木造住宅に適用しやすいという効果を有する。
【0031】
本発明の第4の発明は、第2の発明の耐震補強構造であって、前記垂直構面が、真壁とされ、更に、一対の縦添着部材と、横添着部材とを含み、各々の前記縦添着部材が、前記真壁の柱をなす各々の前記縦軸材の室内面に添着され、前記横添着部材が、前記真壁の梁をなす前記横軸材の室内面に添着され、前記真壁の室内面が、前記縦添着部材と前記横添着部材の各々の前記室内面から段落ちされ、前記段落ちされた寸法が、前記発泡樹脂パネルの厚さよりも大きく、前記段落ちされた空間の中に、前記発泡樹脂パネルが配され、前記発泡樹脂材が、前記発泡樹脂パネルの周囲と、前記一対の縦軸材と前記縦添着部材と前記横軸材と前記横添着部材と前記下方部材との隙間に、筋状に充填され、前記発泡樹脂パネルの周囲が、前記発泡樹脂材を介して、前記一対の縦軸材と前記縦添着部材と前記横軸材と前記横添着部材と前記下方部材とに接着されて一体化されていることを特徴としている。
【0032】
和風意匠の真壁の場合には、柱の室内面から真壁の室内面までの段落ち寸法が約20mm以内とされている。20mm以内の段落ち空間には、30mm以上の厚さが必要である耐震補強構造をなす発泡樹脂層を設けることができない。しかし第4の発明によれば、柱の室内面に添着部材、例えば10mmの厚さの付柱を添着させ、段落ち空間の寸法を30mm以上に大きくさせることができる。これにより、既設の柱を表す和風意匠の真壁のまま、耐震補強構造を設けることができるという有利な効果を奏する。
【0033】
本発明の第5の発明は、第4の発明の耐震補強構造であって、更に、室内壁仕上板を含み、前記室内壁仕上板が、前記縦添着部材と前記横添着部材の各々の前記室内面に固着されて、前記真壁を大壁とさせ、前記発泡樹脂パネルと前記室内壁仕上板との間が、通気空間とされていることを特徴としている。
【0034】
第5の発明によれば、真壁であった壁を大壁とすることができ、改修設計の自由度が確保できる。また、大壁内の室内側に通気空間を確保でき、壁内結露を防止することができる。第5の発明によれば、改修工事に適用する場合であっても、壁の意匠の選択の幅が広がると共に、室内を常時冷暖房する高機能住宅であっても壁内結露が防止しやすいという効果を奏する。
【0035】
本発明の第6の発明は、第4又は第5の発明の耐震補強構造であって、前記真壁に接する前記発泡樹脂材の幅が、少なくとも10cm以上、且つ、前記発泡樹脂パネルの厚さの3倍以上の広幅とされ、前記発泡樹脂材が、前記真壁に前記広幅の状態で接着されて一体化されていることを特徴としている。
【0036】
伝統構造の木造建築物は、経年中の被災した地震により、木造建築物の真壁をなす壁が土壁である場合には、土壁と柱との境界に隙間があき、壁が脱落しやすい状態になっている。第6の発明によれば、発泡樹脂パネルの周囲の筋状をなす発泡樹脂材と、真壁とが接着する幅が、少なくとも10cm以上の幅とされるため、柱・梁等と土壁とを一体にさせ、地震の被災時にも土壁を脱落させにくいという効果を奏する。
【0037】
本発明の第7の発明は、第1から第5の発明の耐震補強構造であって、更に、発泡樹脂材漏出防止部材を含み、前記発泡樹脂材漏出防止部材が、前記発泡樹脂材に沿って、筋状をなして前記発泡樹脂材の室外側の位置に添着されていることを特徴としている。
【0038】
発泡樹脂材漏出防止部材は、平板、シート体であってもよく、柔軟なゴム筒体であってもよく限定されず、隙間を塞ぎ、隙間から固まる前の発泡樹脂材が漏出しないように漏出防止機能を有すればよい。第7の発明によれば、発泡樹脂材を無駄にせず、発泡樹脂層と外壁との隙間を配管・配線スペースとして確保しておくことができるという効果を奏する。
【0039】
本発明の第8の発明は、第1から第5の発明の耐震補強構造であって、前記発泡樹脂パネルが、複数の分割発泡樹脂パネルと、前記発泡樹脂材とからなり、前記発泡樹脂材が、並べられた前記分割発泡樹脂パネルの隙間に注入されて、前記発泡樹脂パネルとされていることを特徴としている。
【0040】
複数の分割発泡樹脂パネルを並べて、隙間に発泡樹脂が注入されて発泡樹脂パネルが形成されているため、熱伝導率が大きい部分がなく、全体として断熱性が確保できる。第8の発明によれば、裁断した発泡樹脂パネルを無駄にしにくく廃棄材を抑制できるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0041】
・第1の発明によれば、工事対象を限定し、更に発泡樹脂パネルを使って容易に耐震補強構造を垂直構面内空間に構築することができ、工事費、工事期間を抑制できるだけでなく、構造用合板を柱面に取付けなくてもよいため部屋が狭くならず、容易に耐震性を向上させることができるという従来にない有利な効果を奏する。
・第2の発明によれば、発泡樹脂層をなす発泡樹脂材が垂直構面の上方の横軸材および下方部材に充填され、発泡樹脂層が周囲に一体に支持されているため、耐震補強効果がより向上すると共に、その垂直構面の断熱効果が向上するという効果を奏する。
【0042】
・第3の発明によれば、断熱性を付与すると共に、より耐震性を向上させる耐震補強構造とすることができ、既設の木造住宅に適用しやすいという効果を有する。
・第4の発明によれば、既設の柱を表す和風意匠の真壁のまま、耐震補強構造を設けることができるという有利な効果を奏する。
・第5の発明によれば、改修工事に適用する場合であっても、壁意匠の選択の幅が広がると共に、室内を常時冷暖房する高機能住宅であっても壁内結露が防止しやすいという効果を奏する。
【0043】
・第6の発明によれば、真壁が土壁であって柱との境界に隙間があいていても、発泡樹脂材が土壁に接着して、柱・梁等と土壁とを一体にさせるため、地震の被災時にも土壁を脱落させにくい。
・第7の発明によれば、発泡樹脂材を無駄にせず、発泡樹脂層と外壁との隙間を配管・配線スペースとして確保しておくことができるという効果を奏する。
・第8の発明によれば、裁断した発泡樹脂パネルを無駄にしにくく廃棄材を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図2】耐震補強構造の構築の工程説明図(実施例1)。
【
図4】上下があいた耐震補強構造の説明図(実施例2)。
【
図5】在来軸組構造の真壁の耐震補強構造の説明図(実施例3)。
【
図6】伝統構造の真壁の耐震補強構造の説明図(実施例4)。
【
図7】伝統構造の真壁を大壁に変更する耐震補強構造の説明図(実施例5)。
【
図8】在来軸組構造の真壁を大壁に変更する耐震補強構造の説明図(実施例6)。
【発明を実施するための形態】
【0045】
工事対象を限定することができ、工事の際の周囲の養生が軽微であり、工事期間が短くでき、工事費を低減するという目的を、柱・梁等がなす垂直構面内空間に発泡樹脂パネルを配して実現した。そして発泡樹脂パネルとその周囲の柱・梁等との隙間に、発泡樹脂材を注入又は吹付けにより充填させ、柱・梁等と発泡樹脂パネルとを発泡樹脂材により接着させ、柱・梁等と発泡樹脂層を一体化させた耐震補強構造として実現した。
【実施例0046】
実施例1では、大壁の室内側に発泡樹脂層を形成させた耐震補強構造1を、
図1と
図2を参照して説明する。
図1(A)図は、耐震補強構造1の水平断面図を示し、
図1(B)図は、耐震補強構造1の切り欠き斜視図を示している。
図2は耐震補強工事の際の耐震補強構造1の構築の工程説明図を示している。耐震補強構造1は新築の際に構築させてもよく、耐震改修時の際に構築させてもよいが、理解を容易にするために、耐震改修工事の際の構築の工程と併せて説明する。
【0047】
耐震補強構造1は、片筋かい10が設けられた既設壁の垂直構面内空間に構築される。既設壁は、左右一対の柱20と、間柱30と、室外側壁板40と、室内側壁板50と、片筋かい10と、図視していない断熱グラスウールとからなっている。片筋交い10は、間柱30の中央部を斜めに切り欠いて、柱の頂部が接合された梁から、間柱の中央部を経て、柱の脚部が接合された土台60に至るように、斜めに固定されている。片筋かい10は、土台60、梁、柱20に、固定金物11にビス止めされ、外れないように固定されている。
【0048】
耐震補強構造1は、室外側に配された片筋かい10に沿って、垂直構面内空間の室内側に構築される。耐震補強構造1は、発泡樹脂パネル100と筋状の発泡樹脂材200とからなる。発泡樹脂パネル100は、柱と間柱に囲まれた垂直構面内空間の内法高さ・内法幅よりも、小さい高さ・幅とされ、発泡樹脂パネル100と、柱20、間柱30、土台60、梁との間に隙間があく大きさとされている。
【0049】
発泡樹脂パネルは、日本産業規格(JIS-A-9521)に定められている押出法ポリスチレンフォーム断熱材が好適であるが、限定されないのは勿論のことである。市場品として、密度約30kg/m3で、厚さ30mmから5mm間隔で、発泡樹脂パネルの規格品が提供されている。耐震補強構造1では、密度約30kg/m3とし、厚さ30mm以上とし、片筋かいの室内面から室内壁板の内法寸法以内の厚さの発泡樹脂パネルが選択されればよい。
【0050】
発泡樹脂パネルの周囲の隙間の幅は、発泡樹脂材の充填状況を視認できるように、20mm以上とするとよい。隙間の幅の上限は、市場に提供されている規格品の大きさから廃棄材を少なくするように決定させればよいが、100mm以内としておくとよい。隙間の幅が100mmに近い場合には、発泡樹脂材を吹込みにより吹付充填させ、隙間の幅が20mmに近い場合には発泡樹脂チューブから注入するように充填させればよい。
【0051】
発泡樹脂材は、建築物断熱用吹付け硬質ポリウレタンフォーム(JIS-A-9526)に基づいた、ポリイソシアネート成分及びポリオール成分を主成分とした硬質発泡プラスチックとされればよいが、限定されない。
【0052】
ここで耐震改修工事において耐震補強構造1を構築させる工程を、
図2を参照して説明する。
図2は、耐震改修工事の工程説明図を示している。まず、耐震改修の対象の壁は大壁(
図2(A)図参照)とされ、垂直構面をなす柱20・間柱30・梁・土台60(
図1(B)図参照)と、片筋かい10,10が、室外側壁板40と壁紙51が貼られた室内側壁板50との間の垂直構面内空間に配されている。
【0053】
まず、耐震補強構造1を構築させる垂直構面の室内側壁板50を壁紙51とともに撤去し、垂直構面内空間を露出させる(
図2(B)図参照)。仮に、室内側にも片筋かい10又は断熱グラスウールがあった場合には、それらを撤去し、垂直構面内空間70に発泡樹脂パネル100を配する空間を確保し、発泡樹脂パネル100を、垂直構面内空間において柱・梁等との間に隙間があく大きさに裁断しておく。
【0054】
裁断した発泡樹脂パネル100の側面周囲に、間隔維持ピン101,101,・・を挿し込んで、柱20等との隙間の幅を均一に維持するように支える(
図2(C)図参照)。発泡樹脂材との接着性を確保するために、隙間80内の埃をブラシ・掃除機等で除去する。そして、隙間80の奥部から順に手前へと数層に分けて、発泡樹脂チューブ81から発泡樹脂材90を注入し(
図2(D)図参照)、発泡樹脂パネル100の周囲の隙間80の全てに発泡樹脂材90を充填する(
図2(E)図参照)。
【0055】
発泡樹脂材90は、数分で固まるが、まだ固まっていない注入されたばかりの発泡樹脂材は接着性が高いため、柱20等の木質材と先に注入された発泡樹脂材90と発泡樹脂パネル100と接着し、発泡樹脂パネルと周囲の発泡樹脂材と柱・梁等とが一体とされた耐震補強構造1が構築される。室内側に膨らみ出た発泡樹脂材90は削ぎ落して、柱面と均一な面とする。そして、室内側から、室内壁板50と壁紙51とを復旧又は改装すればよい(
図2(F)図参照)。
【0056】
耐震補強構造1は、
図1(B)図に示すように、室外側の既設の片筋かい10をも組み込み、室内側には耐震性と断熱性を有する発泡樹脂層を、柱・梁等に囲まれるように構築させているため、単に耐震補強効果だけでなく断熱性も向上される。一つの垂直構面に設置した例を示しているが、例えば寝室の周囲の壁に適用すれば、就寝中の安全が確保されるだけでなく快適性も向上することになる。
【0057】
ここで発泡ポリウレタン層の耐震補強要素としての有効性を確認した試験結果を示す。枠体の1スパンを幅91cm高さ242cmとし、連続した2スパンの枠体で壁をなすように、枠体の外周を一辺10.5cmの木質角材で囲い、片面にパーティクルボードを6本の釘で固定し、2スパン長さの枠体を模擬壁とし、以下に示す3種類の試験体により短期基準せん断力と荷重変形関係を試験した。
【0058】
試験体1(T0)は、枠体の各内隅部を、コーナ金物(シナーコーナー:登録商標)で固定し、パーティクルボードを釘打ち固定しただけとした。試験体2(T30)は、同様に固定したパーティクルボードにポリウレタン樹脂を厚さ1cm吹付け、その上にラスの周囲をタッカーで枠体に固定し、更に同様にして、厚さ1cmのポリウレタン樹脂を2層吹付け、計3cmの層厚の発泡ポリウレタン層を形成させた。試験体3(T105)は、試験体2の1層のポリウレタン厚を3.5cmに変更し、計10.5cmの層厚の発泡ポリウレタン層をパーティクルボードに形成させた。
【0059】
枠体の面外方向への変形を拘束させた状態で、3種類の試験体の頂部に、同一の条件で正負方向に油圧ジャッキで水平力を負担させ、変形角が1/200rad(以下の単位も同じ),1/100,1/75,1/50の順に正負交番を1回負荷した。その後は、負方向への油圧ジャッキのストロークが制約されたため、正方向へ1/30,負方向へ1/50,正方向へ1/15,負方向へ1/50,正方向へ1/10の順に荷重を負荷した。更に、破壊まで、又は破壊しない場合は油圧ジャッキのストロークが限界に達するまで引ききった。
【0060】
その試験結果を、
図3を参照して説明する。
図3は、実験結果の説明図を示している。
図3(A)図は、3種類の試験体についての荷重変形履歴曲線を示している。
図3(B)図は、各試験体と、一般的に使用される耐力壁の荷重変形関係を示している。
図3(A)図は、発泡ポリウレタン層を形成させていない試験体1(
図3(A)図の破線T0参照)と、壁体内に3cm厚の発泡ポリウレタン層を形成させた試験体2(
図3(A)図の実線T30参照)と、壁体内に10.5cm厚の発泡ポリウレタン層を形成させた試験体3(
図3(A)図の一点鎖線T105参照)の荷重変形履歴曲線を示している。
【0061】
試験体1(T0)は、背面のパーティクルボードを周囲の枠体に6本の釘だけで固定していただけであり、ほとんど耐力は発現しなかった。一方、試験体2(T30)は十分な初期剛性とともに耐力が立ち上がり、負荷荷重が10kNを超えてから剛性の低下が観察され、0.02(1/50)radで最大耐力17kNとなった。その後、発泡ポリウレタン層の隅角部の圧壊が進み、徐々に耐力が低下したがその耐力低下は緩やかであり、0.1(1/10rad)という極めて大きな変形時にも、まだ最大耐力の50%程度の復元力を示した。試験体3(T105)は、0.025radで最大耐力24kNに達した。
【0062】
表1に、各試験体の特性値と短期基準せん断力を示す。試験体1(T0)と、試験体2(T30)又は試験体3(T105)との最大耐力の差が、発泡ポリウレタン層による耐力上昇であり、試験体2(T30)は約14.9kN、試験体3(T105)は21.7kNの耐力上昇が認められた。耐力上昇が発泡ポリウレタン層の厚みに比例しなかったのは、発泡ポリウレタン層の層厚に拘わらず2枚のラスが添着されていることと、背面のパーティクルボードとの摩擦せん断抵抗によると判断されるが、いずれにしても発泡ポリウレタン層を形成させたことによる短期基準せん断力の向上が確認された。
【0063】
【0064】
図3(B)図は、耐震補強要素としての荷重変形関係の包絡線を、3種類の試験体と、一般的に使用される耐力壁である、厚さ9mmの構造用合板による耐力壁(
図3(B)図の細実線(G1)参照)と、片筋かい(45mm×90mm)による耐力壁(
図3(B)図の二点鎖線(G2)参照)と比較した図である。発泡ポリウレタン層30mmを吹付けた試験体2(
図3(B)図の実線(T30)参照)は、片筋かい(45mm×90mm)による耐力壁(G2)と同等以上の性能を示しており、短期基準せん断力も7.45kNを確保している。
【0065】
発泡ポリウレタン層10.5cmを形成させた試験体3(
図3(B)図の一点鎖線(T105)参照)は、厚さ9mmの構造用合板による耐力壁(G1)を超える耐力を発生させており、短期基準せん断力も11.78kNであり、在来の木造用の耐震補強構造の補強要素に十分匹敵する性能を有していた。この試験により、厚さ3cm以上の吹付けによる発泡ポリウレタン層が耐震補強要素として、有効であることが裏付けられた。吹付け発泡ポリウレタンと、密度が同様な条件であれば、発泡樹脂パネルを組み込んだ発泡樹脂層であっても、同等の耐震性を有すると認められる。
【0066】
天井と床を残して、その間の壁を補強することによっても、耐震性の向上が認められる。その耐震性の向上の評価値を、減災協による「木造住宅の耐震改修工法評価について(非特許文献1)」から抜粋し、表2に示している。実験により検証された多くの工法が評価され、評価値は、3階建の在来軸組構造の木造住宅用途で、幅60cmから100cmまでの垂直構面に適用可能とされている。
【0067】
工事範囲を限定し、工事費を安価にし、耐震改修が広まることを目的として、天井と床を残して、その間の壁の部分だけを補強の対象とした評価値が示されている。具体的には、天井から床までを対象として、大壁又は真壁のいずれか、中間間柱の有無、上下横枠の有無、構造用合板の厚さ、横枠の太さに応じた複数例の壁基準耐力が示されている。その壁基準耐力を表2に示す。
【0068】
【0069】
表2には、天井から床までの範囲を工事対象とし、最右列の基準大壁の上限とされている壁基準耐力5.2kN/mに対して、各工法の壁基準耐力が評価されている。天井近くと床近くに横枠があれば、横枠の太さに拘わらず、構造用合板12mmを釘打ちした場合には、間柱がなくても基準大壁と同等の評価とされている。構造用合板12mmを釘打ちした場合には、間柱と横枠ともがない場合でも、基準大壁に対して、大壁で7割、真壁で8割の壁基準耐力が評価されている。また間柱があれば、構造用合板9mmでも、大壁で8割の壁基準耐力が評価されている。
【0070】
上記評価によれば、構造用合板に代替できる層厚の発泡樹脂層が垂直構面に形成されていれば、天井から床面までに発泡樹脂層を形成させるだけの場合であっても、発泡樹脂層の厚さに応じた耐震性の向上が評価できるということができる。
耐震補強構造2は、一対の柱20,20と間柱30と、それらの間に挟まれた発泡樹脂パネル100と、筋状をなす発泡樹脂材90とからなっている。発泡樹脂パネル100の平面の大きさは、市場の規格品が910mm×1820mmであるため、長手方向に3列に裁断し、300mm幅の発泡樹脂パネルとし、そのうちの1枚の長手方向を二分割し、500mmの長さを2枚としている。柱20から柱の間に間柱30を挟んだ垂直構面内空間70に、床から高さ1820mmの発泡樹脂パネルの上に隙間をあけて、高さ500mmの発泡樹脂パネルを積み重ねて、2列配している。
発泡樹脂パネル100の厚さは80mmとし、上下に分割された発泡樹脂パネル100,100の間の隙間80は約4cmとされている。発泡樹脂パネルと、左右の柱、間柱との隙間80の幅も約4cmであるため、耐震補強構造2の場合には、隙間80には発泡樹脂材90を吹込み又は注入のいずれで充填してもよい。耐震補強構造2では、1枚の発泡樹脂パネルを裁断し、1枚の垂直構面に発泡樹脂パネル100,100,・・を配しているため、発泡樹脂パネルの廃棄材が少ない。