(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134579
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ウレタン樹脂の分解酵素及び分解方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/18 20060101AFI20240927BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20240927BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20240927BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C12P7/18
C12P13/00
C12N9/14
C12N15/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044843
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】大野 ふみ
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭士
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AC01
4B064AC05
4B064AE01
4B064CA02
4B064CA21
4B064CB01
4B064DA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】酵素や微生物を用いたバイオプロセスによりウレタン樹脂を分解する技術の提供。
【解決手段】酵素又は該酵素を発現する微生物とウレタン樹脂とを接触させる工程を含む、ウレタン樹脂の分解方法であって、前記酵素が特定のアミノ酸配列からなりかつウレタン樹脂に対する分解活性を有する、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素又は該酵素を発現する微生物と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂の分解方法であって、
前記酵素が、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列からなるか、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなりかつウレタン樹脂に対する分解活性を有する、方法。
【請求項2】
前記微生物が、前記酵素を発現する組換え微生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酵素又は該酵素を発現する微生物と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂分解物の製造方法であって、
前記酵素が、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列からなるか、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなりかつウレタン樹脂に対する分解活性を有する、製造方法。
【請求項4】
酵素又は該酵素を発現する微生物と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ポリオール類の製造方法であって、
前記酵素が、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列からなるか、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなりかつウレタン樹脂に対する分解活性を有する、製造方法。
【請求項5】
酵素又は該酵素を発現する微生物と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ジアミン類の製造方法であって、
前記酵素が、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列からなるか、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなりかつウレタン樹脂に対する分解活性を有する、製造方法。
【請求項6】
配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列からなるか、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなりかつウレタン樹脂に対する分解活性を有する、酵素。
【請求項7】
請求項6に記載の酵素と、ウレタン樹脂と、を含有する樹脂組成物。
【請求項8】
請求項4に記載の製造方法により得られるポリオール類及び/又は請求項5に記載の製造方法により得られるジアミン類を原料に用いる、リサイクルポリマーの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により得られる、リサイクルポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウレタン樹脂分解酵素、該酵素を発現する微生物、及びこれらを用いたウレタン樹脂の分解方法、並びに該酵素を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン樹脂は、易加工性、耐腐敗性、耐変質性、低比重等の優れた特性により、弾性体、発泡体、接着剤、塗料、繊維、合成皮革など幅広い用途を持っており、建材としても広く使用されている。主に建材として使用される発泡ウレタン樹脂は、熱硬化性樹脂であるため、マテリアルリサイクルが困難である。また、発泡ウレタン樹脂を含む製品は、燃料化または焼却により処理されているが、ハロゲン添加されている製品が多いためかつ焼却時のカロリーも高いために炉を傷める原因となる。したがって、発泡ウレタン樹脂は、廃棄物処理において忌避されている。
【0003】
既存のウレタン樹脂のケミカルリサイクル技術は、不純物の混入許容範囲が狭く、高温・高圧での反応が必要であり、環境負荷が高いという課題がある。このため、微生物や酵素を用いてウレタン樹脂をバイオ分解する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、イモチ菌マグナポルサ・グリゼア(Magnapostha grisea)70-15由来のエステラーゼを用いてウレタン樹脂等のプラスチックを分解する技術が提案されている。従来報告されているウレタン樹脂のバイオ分解技術は、ポリエステル系ウレタン樹脂を分解するものであり、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等のウレタン樹脂を分解するものはほとんど報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、酵素や微生物を用いたバイオプロセスによりウレタン樹脂を分解する技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]-[14]を提供する。
[1] 酵素又は該酵素を発現する微生物と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂の分解方法であって、前記酵素が、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列からなるか、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなりかつウレタン樹脂に対する分解活性を有する、方法。
[2] 前記微生物が、前記酵素を発現する組換え微生物である、[1]の方法。
[3] ウレタン樹脂が、分子構造中にエステル結合を有さない、[1]又は[2]の方法。
【0007】
[4] 酵素又は該酵素を発現する微生物と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂分解物の製造方法であって、
前記酵素が、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列からなるか、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなりかつウレタン樹脂に対する分解活性を有する、製造方法。
[5] 前記微生物が、前記酵素を発現する組換え微生物である、[5]の製造方法。
[6] ウレタン樹脂が、分子構造中にエステル結合を有さない、[4]又は[5]の製造方法。
【0008】
[7] 酵素又は該酵素を発現する微生物と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ポリオール類及び/又はジアミン類の製造方法であって、
前記酵素が、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列からなるか、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなりかつウレタン樹脂に対する分解活性を有する、製造方法。
[8] 前記微生物が、前記酵素を発現する組換え微生物である、[7]の製造方法。
[9] ウレタン樹脂が、分子構造中にエステル結合を有さない、[1]又は[2]の製造方法。
[10] [7]の製造方法により得られるポリオール類及び/又はジアミン類を原料に用いる、リサイクルポリマーの製造方法。
[11] [10]の製造方法により得られる、リサイクルポリマー。
【0009】
[12] 配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列からなるか、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなりかつウレタン樹脂に対する分解活性を有する、酵素。
[13] [12]の酵素と、ウレタン樹脂と、を含有する樹脂組成物。
[14] ウレタン樹脂が、分子構造中にエステル結合を有さない、[12]の酵素又は[13]の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、酵素や微生物を用いたバイオプロセスによりウレタン樹脂を分解する技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本開示の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本開示の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
[ウレタン樹脂]
ウレタン樹脂は、分子中にウレタン結合(-NHCOO-)を有する高分子化合物の総称である。本開示において、ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールとの付加重合により得られ、分子構造中にウレタン結合を有するものであればよく特に限定されない。
ポリイソシアネートとして例えばトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水添MDI、1,5-ジイソシアナトナフタレン、キシリレンジイソシアネート等が用いられている。
ポリオールはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールに大別される。
ポリエーテルポリオールとしては、例えばグリコール・グリセリン・ソルビトール等の、分子内に水酸基を2つ以上持った低分子化合物にプロピレンオキサイドやエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加重合させて作られたものが用いられており、例えばポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、例えばアジピン酸等の二塩基酸とエチレングリコール等の多価アルコールを縮合させて末端を水酸基とした化合物等が用いられている。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール等の多価アルコールとホスゲンを縮合させて末端を水酸基とした化合物等が用いられている。
【0013】
ウレタン樹脂は、分子構造中にエステル結合を有さないものであってよい。このようなウレタン樹脂としては、例えば、ポリオールとしてポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールを用いたウレタン樹脂が挙げられる。
【0014】
ウレタン樹脂の形態は、特に限定されず、粉末、フィルム、ペレット、フォーム、及びエマルジョンなどであってよい。
また、ウレタン樹脂は、他の樹脂との混合物であってもよい。
さらに、ウレタン樹脂は、製品に組み込まれたものであってもよい。具体的には、ウレタン樹脂を用いて製造された各種製品またはその廃棄物(以下に「ウレタン樹脂含有廃棄物」ともいう)、あるいは当該製品および廃棄物を前処理した処理物を挙げることができる。製品としては、例えば、建築向け断熱材などを挙げることができる。廃棄物としては、容器包装リサイクル法におけるプラスチック製容器包装などを挙げることができる。
【0015】
[酵素]
酵素は、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列を含んでなる(comprising of)タンパク質または当該アミノ酸配列からなる(consisting of)タンパク質とできる。
また、本発明に係る酵素は、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるか、及び/又は、配列番号1-5のいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも70%、75%、好ましくは80%、85%、より好ましくは90%、95%、さらに好ましくは96%、97%、特に好ましくは98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ウレタン樹脂に対する分解活性を有するタンパク質とできる。
ここで、「数個」とは、2-40個、2-30個、好ましくは2-20個、2-10個、より好ましくは2-5個、2-4個、特に好ましくは3個、2個をいう。アミノ酸配列に欠失等を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社)等を用いることができる。あるいは、欠失等を含む配列を有する遺伝子全体を人工合成してもよい。
「配列同一性」とは、比較すべき2つのアミノ酸配列の残基ができるだけ多く一致するように両配列を整列させ、一致した残基数を、全残基数で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方または双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTALW等の周知のプログラムを用いて行なうことができる。ギャップが挿入される場合、上記全残基数は、1つのギャップを1つの残基として数えた残基数となる。このようにして数えた全残基数が比較する2つの配列間で異なる場合には、長い方の配列の全残基数で一致した残基数を除して同一性(%)を算出する。
【0016】
さらに、本発明に係る酵素は、配列番号7-11のいずれかの塩基配列からなるDNAにコードされるアミノ酸配列を含んでなる(comprising of)タンパク質または当該アミノ酸配列からなる(consisting of)タンパク質として定義することもできる。
そして、本発明に係る酵素は、配列番号7-11のいずれかの塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ウレタン樹脂に対する分解活性を有するタンパク質であってもよい。
ストリンジェントな条件としては、例えば、DNAを固定したナイロン膜を、6×SSC(1×SSCは塩化ナトリウム8.76g、クエン酸ナトリウム4.41gを1リットルの水に溶かしたもの)、1%SDS、100μg/mlサケ精子DNA、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコールを含む溶液中で65℃にて20時間プローブとともに保温してハイブリダイゼーションを行う条件を挙げることができるが、これに限定されるわけではない。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、ハイブリダイゼーションの条件を設定することができる。ハイブリダイゼーション後の洗浄条件として、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば、「1×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」等の条件を挙げることができる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)))、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons(1987-1997))等を参照することができる。
【0017】
酵素は、従来公知の分子生物学的手法を用いて無細胞合成できる。また、酵素は、天然の微生物から単離・精製してもよく、従来公知の分子生物学的手法を用いて組換え微生物により発現させ、精製することもできる。
【0018】
[組換え微生物]
組換え微生物の作製は、酵素をコードする核酸を一般的な宿主ベクター系に導入し、該ベクター系で微生物を形質転換することより行われる。宿主としては、細菌では大腸菌、Rhodococcus属、Pseudomonas属、Corynebacterium属、Bacillus属、Streptococcus属、Streptomyces属などが挙げられ、酵母ではSaccharomyces属、Candida属、Shizosaccharomyces属、Pichia属、糸状菌ではAspergillus属などが挙げられる。これらの中で、特に大腸菌を用いることが簡便であり、効率もよく好ましい。
【0019】
ウレタン樹脂分解酵素は、組換え微生物の細胞内外の任意の部位で発現されてよい。ウレタン樹脂分解酵素の発現は、例えば、細胞質での発現、細胞表層への提示、細胞外への分泌等であってよく、さらに宿主細胞がグラム陰性細菌である場合は、ペリプラズムでの発現であってよい。
【0020】
[菌体処理物]
微生物は、培養液をそのまま用いるか、または、該培養液から遠心分離等の集菌操作によって得られる菌体またはその処理物等を用いることができる。菌体処理物としては、アセトンおよびトルエン等で処理した菌体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、並びにこれらから酵素を抽出した粗酵素または精製酵素等が挙げられる。
【0021】
[ウレタン樹脂・ウレタン樹脂含有廃棄物の処理方法]
ウレタン樹脂の分解方法及びウレタン樹脂含有廃棄物の処理方法においては、ウレタン樹脂またはウレタン樹脂含有廃棄物(以下「ウレタン樹脂等」ともいう)とウレタン樹脂分解微生物、組換え微生物、またはそれらの菌体処理物あるいは培養上清(以下、「分解微生物等」ともいう)とを接触させる前に、分解処理に適するようにウレタン樹脂等を前処理することが好ましい。例えば、シュレッダー等による粉砕、加熱、加熱・加湿処理、乳化処理等を挙げることができる。
【0022】
分解微生物等とウレタン樹脂等とを接触させることにより、ウレタン樹脂をポリオールとポリアミンとに分解させることができる。微生物は、酵素を発現する、天然の微生物又は組換え微生物であってよい。
「接触」とは、ウレタン樹脂等と共にウレタン樹脂分解微生物または組換え微生物を培養すること、ウレタン樹脂等と分解微生物等とを混合すること、ウレタン樹脂等に分解微生物等を塗布すること、分解微生物等を不織布等に接種したものをウレタン樹脂等に静置することなどを指す。
【0023】
分解微生物等とウレタン樹脂等とを接触させる工程は、適当な溶媒中で行ってもよい。例えば、ウレタン樹脂等とウレタン樹脂分解微生物または組換え微生物との培養や、ウレタン樹脂等と分解微生物等との混合は、溶媒中での実施が好適である。溶媒には、通常、緩衝液等の水性溶媒が用いられる。
【0024】
反応の時間や温度、pH、ウレタン樹脂分解微生物等の添加量は、特に制限されず、適宜調整され得る。
反応温度及び時間は、通常10-60℃で1時間~1週間とされ、好ましくは20-50℃で1日以上であり、より好ましくは30-40℃で3日以上である。
反応のpH条件も、例えばpH4~10の範囲、好ましくはpH5.0~9.0である。
反応pHを一定に保ちウレタン樹脂等の分解を効率的に行うために、中和液を反応中に添加してもよい。添加する中和液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、及びアンモニア水等が挙げられる。
ウレタン樹脂分解微生物等の添加量は、例えば酵素の場合ウレタン樹脂に対して0.001-20%(w/w)、好ましくは0.01-10%(w/w)、より好ましくは0.1-5%(w/w)である。
【0025】
ウレタン樹脂等の分解は、ウレタン樹脂等を分解微生物等と接触させて反応させ、ウレタン樹脂の分解を目視で確認することによって行うことができる。また、分解反応前後のウレタン樹脂等の重量又は分子量分布の測定によっても行うことができる。
【0026】
ウレタン樹脂等の分解終了後は、適切な分離装置(例えば振動篩、膜、ベルトプレスまたは遠心分離装置等)を用いて、分解処理済みのウレタン樹脂分解物等から分解微生物等を分離することができる。
あるいは、分解処理済みのウレタン樹脂等は、分解微生物等の分離を行わずにさらなる処理に供してもよい。このとき、ウレタン樹脂分解微生物又は組換え微生物には、事前に動物試験等により安全性を確認されたものを用いるか、あるいは安全性を徹底するために使用後に殺菌処理を行うことが好ましい。分解処理済みのウレタン樹脂等のさらなる処理としては、例えば水洗浄および油化処理等が挙げられる。
回収したウレタン樹脂分解微生物または組換え微生物は、新しくウレタン樹脂分解微生物または組換え微生物を培養する際の植菌源として利用することができる。
ウレタン樹脂の分解によって生成するアルコール類とアミン類は、ウレタン樹脂の再合成のために回収し利用してもよい。
【0027】
[ポリオール類の製造方法]
上記ウレタン樹脂の分解方法は、ウレタン樹脂の分解産物としてポリオール類を生成させる。したがって、本開示は、分解微生物等と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ポリオール類の製造方法をも提供するものである。
【0028】
ポリオール類の製造方法の具体的な工程は、ウレタン樹脂の分解方法の工程に同じである。
ウレタン樹脂の分解により生成するポリオール類は、ウレタン樹脂の種類に応じて定まるが、例えば1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール等の多価アルコールとホスゲンを縮合させて末端を水酸基とした化合物、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール等の多価アルコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0029】
[アミン類の製造方法]
上記ウレタン樹脂の分解方法は、ウレタン樹脂の分解産物としてジアミン類を生成させる。したがって、本開示は、分解微生物等と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ジアミン類の製造方法をも提供するものである。
【0030】
ジアミン類の製造方法の具体的な工程は、ウレタン樹脂の分解方法の工程に同じである。
ウレタン樹脂の分解により生成するジアミン類は、ウレタン樹脂の種類に応じて定まるが、例えばトリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、水添ジフェニルメタンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0031】
[リサイクルポリマー]
上記ウレタン樹脂の分解方法、あるいは、ポリオール類又はアミン類の製造方法によって生成するポリオール類とジアミン類は、樹脂の再合成のために回収し利用してもよい。再合成される樹脂は、ジオール類及び/又はジアミン類を含む樹脂であれば特に限定されない。例えば、リサイクルウレタン樹脂は、ジアミン類をホスゲンとの反応によりジイソシアネートとしたのちジオール類と反応させて得ることができる。
【0032】
[樹脂組成物]
酵素とウレタン樹脂とを含有する樹脂組成物は、優れた生分解性を示す。樹脂組成物は、通常、海水中、淡水中、汽水中、土壌中又はコンポスト中の少なくとも何れかの環境で生分解される。
【0033】
樹脂組成物において、ウレタン樹脂は、1種類を単独で用いても、2種類以上の樹脂を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
【0034】
樹脂組成物中におけるウレタン樹脂に対する酵素の配合量は、特に限定されないが、例えば0.001-20%(w/w)、好ましくは0.01-10%(w/w)、より好ましくは0.1-5%(w/w)である。
【0035】
酵素は、そのまま樹脂組成物中に配合され得る。また、酵素は、樹脂に付着固定した状態や、樹脂に結合固定した状態で樹脂組成物中に配合され得る。さらには、酵素は、形状任意の担体に付着結合または結合固定された状態や、立体格子形の担体の格子空間内に内包された状態、あるいは水溶性のカプセル形の担体内に内包された状態で樹脂組成物中に配合され得る。担体としては、ポリエチレングリコール(PEG)やポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド、および光硬化性樹脂等の合成高分子や、セルロース、カラギーナン、およびアルギン酸ナトリウム等の天然高分子からなるゲル担体、ポリエチレン、ウレタン樹脂、ポリポロピレン、ポリエステル、ポリオレフィン、およびレーヨン等からなる担体が挙げられる。また、活性炭やアンスラサイト等の無機物主成分の担体を用いることも可能である。これらの担体には、いわゆるマイクロスフィアと称されるものも利用できる。
【実施例0036】
1.酵素の調製
ポリマーに対する加水分解活性を有するタンパク質に注目し、活性中心領域の配列相同性、基質ポリマーとの結合可能性、予測される立体構造の安定性等を指標にウレタン樹脂分解酵素の候補遺伝子を6個同定した。候補酵素1-6のアミノ酸配列を配列番号1-6に、ヌクレオチド配列を7-12に示す。候補遺伝子のヌクレオチド配列を、それぞれ終始コドン配列を除いてNdeI-XhoIサイトに挿入した発現ベクターpET22bまたはpET26bを用いて大腸菌BL21 (DE3) 株またはRosetta2 (DE3) 株を形質転換した。
【0037】
酵素1-3の精製を以下のとおり行った。
各組換え大腸菌BL21 (DE3) を1 Lずつ培養した。50 μg/mLカルベニシリン含有2-YT培地250 mLを含む1 L容バッフル付き三角フラスコを4本 (1 L培養液) 用意した。30℃で一晩前培養した菌を2.5 mL (1%) ずつ本培養培地に添加し、30℃、160 rpmで6時間、回転振盪培養した。培養温度を25℃に下げて、IPTGを添加せずにさらに18時間培養した。
培養終了後、4,150 gで20分間遠心分離し、菌体を回収した。菌体を100 mLのオスモティックショック溶液 (20% sucrose, 20 mM Tris-HCl, pH 8.0, 1 mM EDTA) に懸濁し、氷中で10分間静置後、15,000 gで10分間遠心分離し、上清を菌体外画分とした。沈殿を水100 mLに懸濁し、氷中で10分間静置後、15,000 gで10分間遠心分離し、上清をペリプラズム画分とした。
ペリプラズム画分と菌体外画分のそれぞれ5 μlを終濃度0.5 mMのp-Nitrophenyl-butyrateを含む20 mM Tris-HCl (pH8.0) 195 μlと混和して405 nmの吸光度の変化を測定することにより分解活性を確認した。活性が確認された画分を0.2 μmマイクロフィルターで無菌濾過後、金属キレートカラム (HisTrap HP) にアプライし、イミダゾールの直線濃度勾配により組換えタンパク質をカラムから溶出させた。各フラクションに対して活性確認を行い、活性が認められたフラクションを回収してAmicon Ultra-15 (MWCO: 10K) を用いた限外濾過により、20 mM Tris-HCl, pH 8.0にバッファー置換して精製酵素溶液とした。
【0038】
酵素4-6の精製は以下のとおり行った。
各組換え大腸菌Rosetta2 (DE3) を1 Lずつ培養した。50 μg/mLカナマイシン、34 μg/mLクロラムフェニコール含有2-YT培地250 mLを含む1 L容バッフル付き三角フラスコを4本 (1 L培養液) 用意した。30℃で一晩前培養した菌を2.5 mL (1%) ずつ本培養培地に添加し、30℃で5時間培養した。培養温度を16℃に下げてから終濃度1 mM IPTGを添加し、16℃で18時間、160 rpmで回転振盪培養した。
培養終了後、4,150 gで20分間遠心分離し、上清を0.2 μmで無菌濾過した。菌体をオスモティックショック溶液 (20% sucrose, 20 mM Tris-HCl, pH 8.0, 1 mM EDTA) に懸濁し、氷中で10分間静置後、15,000 gで10分間遠心分離し、上清を菌体外画分とした。沈殿を水100 mLに懸濁し、氷中で10分間静置後、15,000 gで10分間遠心分離し、上清をペリプラズム画分とした。
ペリプラズム画分と菌体外画分をそれぞれ金属キレートカラム (HisTrap HP) にアプライして、イミダゾールの直線濃度勾配により組換えタンパク質をカラムから溶出させた。各フラクションに対して活性確認を行い、活性が認められたフラクションを回収してAmicon Ultra-15 (MWCO: 10K) を用いた限外濾過により、20 mM Tris-HCl, pH 8.0にバッファー置換して精製酵素溶液とした。
【0039】
2.ウレタン樹脂分解活性の評価
2 mlマイクロチューブに50 mM Tris-硫酸緩衝液 (pH7.5) を980 μl分注し、ウレタン樹脂(ポリカーボネート系、分子量約200,000)のペレット約35 mg、精製酵素溶液20 μlを加えてよく混和したのち、30℃で35日間上下を返しながら反応させた。精製酵素の代わりに50 mM Tris-硫酸緩衝液 (pH7.5) を20 μl加えたブランクも同時に反応させた。反応35日後、ペレットを回収して60℃で6時間以上乾燥させたのち、重量を測定するとともにペレット重量減少量を試験開始時 (0日目) 重量で除して重量減少率を算出した。
【0040】
結果を表1に示す。酵素6(比較例)およびブランクに比して酵素1-5ではウレタン樹脂ペレットの重量の減少率が優位となったことから、酵素1-5はウレタン樹脂を分解する活性を有することが示された。
【0041】