(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024134583
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】希土類磁石粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240927BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240927BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20240927BHJP
B22F 1/142 20220101ALI20240927BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 130
H01F1/057 180
B22F9/04 E
B22F9/04 D
B22F1/142 100
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044847
(22)【出願日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】野村 俊介
(72)【発明者】
【氏名】新保 遼
(72)【発明者】
【氏名】山崎 理央
(72)【発明者】
【氏名】庄司 哲也
(72)【発明者】
【氏名】矢野 正雄
(72)【発明者】
【氏名】井手 一人
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 紀次
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB12
4K017BB13
4K017DA04
4K017EA08
4K017EA09
4K018AA27
4K018BA18
4K018BC01
4K018KA46
5E040AA04
5E040BB03
5E040CA01
5E040HB09
5E040HB11
5E040HB17
5E040NN01
5E040NN18
5E062CC05
5E062CD04
5E062CG03
5E062CG05
5E062CG07
(57)【要約】
【課題】NdおよびCeを含む希土類磁石粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、NdとCeを少なくとも含む希土類元素と遷移元素とBとが含まれる磁石原料に、吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程(HD)と、不均化工程後の磁石原料から脱水素して再結合反応を生じさせる再結合工程(DR)とを備える希土類磁石粉末の製造方法である。この製造方法は、再結合工程以降に、磁石原料を850~900℃で加熱する組織制御工程を含む。組織制御工程は、例えば、磁石原料の処理雰囲気を所定の水素圧力に制御する制御排気工程後に、処理雰囲気を真空雰囲気にする強制排気工程の少なくとも一部としてなされてもよい。組織制御工程により組織ムラが減少して、希土類磁石粉末の磁気特性が向上したと考えられる。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NdとCeを少なくとも含む希土類元素と遷移元素とBとが含まれる磁石原料に、吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程と、
該不均化工程後の磁石原料から脱水素して再結合反応を生じさせる再結合工程とを備え、
該再結合工程以降に、該磁石原料を850~900℃で加熱する組織制御工程が含まれる希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項2】
前記再結合工程の少なくとも一部が、前記組織制御工程を兼ねる請求項1に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
前記再結合工程は、前記磁石原料の処理雰囲気を低温域から高温域へ少なくとも二段階で移行し、
該高温域の少なくとも一部が、前記組織制御工程を兼ねる請求項2に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
前記再結合工程は、前記磁石原料の処理雰囲気を所定の水素圧力に制御する制御排気工程と、該制御排気工程後に該処理雰囲気を真空雰囲気にする強制排気工程とを備え、
前記組織制御工程の開始時期は、該制御排気工程の途中以降に設定される請求項2または3に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項5】
前記組織制御工程は、0.25~8時間なされる請求項1に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記再結合工程後かつ前記組織制御工程後に、前記磁石原料と拡散原料の混合原料を加熱する拡散処理工程を備える請求項1に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項7】
前記希土類元素の全量(Rt)に対するCeの原子比(Ce/Rt)が0.2~0.6である請求項1または6に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項8】
前記希土類元素は、Laをさらに含み、
該希土類元素の全量(Rt)に対するCeとLaの合計量(R1)の原子比(R1/Rt)は0.2~0.6である請求項1または6に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石等に用いられる希土類磁石粉末の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石粉末をバインダ樹脂で固めたボンド磁石は、形状自由度に優れ、高磁気特性を発揮するため、省エネルギー化や軽量化等が望まれる電化製品や自動車等の各種電磁機器に用いられる。ボンド磁石の利用拡大には、希土類磁石粉末の磁気特性の向上に加えて、希土類磁石粉末の主原料である希土類元素(源)の安定供給が必要となる。これらに関連する提案が、例えば、下記の特許文献でなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、Ndの一部をCeで代替(置換)した原料合金をHDDRして得た粉末へ、さらにNdCu合金による拡散浸透処理を施した希土類磁石粉末に関する記載がある。一般的に希土類鉱床中の存在比率が高いCeの有効利用により、希土類鉱床の偏在に伴う軽希土類元素(Nd、Pr等)や重希土類元素(Dy等)の供給不安が低減される。
【0005】
特許文献1の希土類磁石粉末は、一般的に磁気特性の向上に有効な稀少元素(Co、Ga)を含んでいるが、その磁気特性は必ずしも十分ではない。Ceを含む磁石粉末を用いたボンド磁石について、さらなる磁気特性(例えば、耐逆磁界性の指標となる角形性:Hk等)の向上が求められている。
【0006】
ちなみに、HDDR(反応/処理/工程)は、主に、吸水素による不均化反応(Hydrogenation-Disproportionation/「HD」という。)と、脱水素による再結合反応(Desorption-Recombination/「DR」という。)とからなる。本明細書では、特に断らない限り、その改良型であるd―HDDR(dynamic-Hydrogenation-Disproportionation-Desorption-Recombination)等も含めて「HDDR」という。
【0007】
本発明は、このような事情の下でなされたものであり、Ceを含みつつも高磁気特性を発現する希土類磁石粉末が得られる製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者がその課題を解決すべく鋭意研究したところ、DR工程以降で、従来の技術常識に反して高温加熱を行なうことにより、NdとCeを含む希土類磁石粉末の磁気特性をさらに向上させることに成功した。この成果に基づいて、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《希土類磁石粉末の製造方法》
(1)本発明は、NdとCeを少なくとも含む希土類元素と遷移元素とBとが含まれる磁石原料に、吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程と、該不均化工程後の磁石原料から脱水素して再結合反応を生じさせる再結合工程とを備え、該再結合工程以降に、該磁石原料を850~900℃で加熱する組織制御工程が含まれる希土類磁石粉末の製造方法である。
【0010】
(2)本発明の製造方法によれば、少なくともNdとCeを含む磁石原料を用いつつ、高磁気特性な希土類磁石粉末が得られる。この理由は必ずしも定かではないが、現状、次のように考えられる。
【0011】
磁石原料に含まれる希土類元素(R)が異なれば、不均化反応(HD)で生成された三相分解組織(αFe相、RH2相、Fe2B相等)から再結合反応(DR)でR2Fe14B等が生成される条件(処理雰囲気の水素圧力や温度)も異なり得る。複数の希土類元素についてR2Fe14B(水素化物を含む。)等が生成される条件を設定しても、R2Fe14B等の生成タイミングが希土類元素毎に異なり得る。なお、便宜上、遷移元素(TM)として代表的なFeを例示して説明している(以下同様)。
【0012】
このため、磁石原料に複数の希土類元素が相応に含まれる場合、DR後に得られた金属組織(磁石組織)には、希土類元素数に応じた不均一性(適宜「組織ムラ」という。)が生じ得る。このような組織ムラが、Ndの他にCe等を含む希土類磁石粉末の磁気特性を低下させる一要因であったと推察された。
【0013】
本発明のように、HD処理以降の磁石原料に高温な熱処理を施すと、上述した組織ムラの発生が抑制されたか、一旦できたムラが減少または解消したと考えられる。その結果、Ceを含むにも拘わらず、従来よりも高い磁気特性を発現する希土類磁石粉末が得られたと推測される。
【0014】
なお、従来は、磁石粒子を高温(例えば850℃以上)に加熱すると、それを構成する結晶粒が粗大化または異常粒成長して、磁気特性が低下すると一般的に考えられていた。このため現実には、Nd以外にCeを含む磁石原料でも、850℃未満(例えば840℃)で水素処理されていた。
【0015】
《希土類磁石粉末、コンパウンド、ボンド磁石》
本発明は、希土類磁石粉末としても、その希土類磁石粉末を樹脂で結着させたボンド磁石としても、さらにそのボンド磁石の製造に用いられるコンパウンドとしても把握される。コンパウンドは、粉末粒子表面にバインダである樹脂を予め付着させてなる。なお、ボンド磁石やコンパウンドに用いられる粉末は、本発明に係る希土類磁石粉末以外の粉末(NdFeB系粉末、SmFeN系粉末、フェライト系粉末等の一種以上)が混在した複合粉末でもよい。
【0016】
《その他》
(1)希土類磁石粉末は、等方性磁石粉末でも、異方性磁石粉末でもよい。異方性磁石粉末は、一方向(磁化容易軸方向、c軸方向)の磁束密度(Br)が他方向の磁束密度よりも大きい磁石粒子からなる。等方性と異方性は、磁場をc軸方向に対して平行(//)および垂直(⊥)に加えた際に得られる異方化度(DOT:Degree of Texture)=[Br(//)-Br(⊥)]/Br(//)により区別でき、DOTの値が0であれば等方性、0よりも大きければ異方性となる。
【0017】
(2)希土類元素(R)として、La、Pr、Y、Sm、Tb、Dy等が含まれてもよい。遷移(金属)元素(TM)として、3d遷移元素(Sc~Cu)や4d遷移元素(Y~Ag)がある。Rの代表例は、Nd、Ce、LaまたはPrであり、TMの代表例はFe、Co、Niである。本明細書では、適宜、遷移元素としてFeを例示しつつ説明する。なお、Bの一部はCで置換されてもよい。
【0018】
磁石原料または希土類磁石粉末は、特性改善に有効な改質元素や(不可避)不純物を含み得る。改質元素として、例えば、保磁力の向上に有効なCu、Al、Ti、V、Cr、Ni、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Sn、Hf、Ta、W、Dy、Tb、Co等がある。
【0019】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、「x~ykPa」はxkPa~ykPaを意味し、他の単位についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】第1実施例に係る希土類磁石粉末の製造工程を示す。
【
図2A】第2実施例に係る希土類磁石粉末の製造工程とd-HDDR工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の製造方法のみならず、希土類磁石粉末、コンパウンド、ボンド磁石等にも適宜該当し、方法的な構成要素であっても物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0022】
《磁石原料》
磁石原料は、希土類元素(R)と遷移元素(TM)とBを少なくとも含む磁石合金からなる。Rには、少なくともNdとCeが含まれる。磁石原料は、その形態や状態を問わず、塊状、粒子状、粉末状等のいずれでもよい。磁石原料は、例えば、鋳造合金に、均質化処理、分散処理、水素解砕、分級等を施して得られる。これらの詳細は次の通りである。
【0023】
(1)鋳造合金
鋳造合金は、R-TM-B系合金溶湯を鋳型に注湯し、凝固させて得られたインゴット合金でも、その溶湯を急冷凝固させて得られた急冷凝固合金でもよい。急冷凝固合金は、例えば、ストリップキャスト法(SC)等により得られる。
【0024】
拡散処理されるとき、拡散原料との混合量も考慮して、鋳造合金の成分組成が調整されてもよい。鋳造合金は、例えば、その全体を100at%としたとき、Rを11~15at%さらには12~13at%、Bを5~9at%さらには6~7at%含む。その残部は遷移元素(例えばFe)や改質元素(例えばNb、Ga等)である。
【0025】
(2)均質化処理
鋳造合金は、水素解砕前に均質化処理(溶体化処理)がなされてもよい。均質化処理により、微細な結晶粒からなる均質的な組織(例えば、粒径:50~250μm)が得られ易くなる。特に、インゴット合金に均質化処理を行うと、軟磁性なαFe相の消失や偏析解消等を図れる。
【0026】
均質化処理は、例えば、鋳造合金を1000~1200℃さらには1050~1150℃で加熱してなされる。処理時間は、例えば、3~70時間、15~60時間さらには30~50時間である。加熱雰囲気は、例えば、不活性雰囲気(Ar等の不活性ガス雰囲気または真空雰囲気)である。
【0027】
(3)分散処理
鋳造合金は、均質化処理後または後述の水素解砕前に分散処理がなされてもよい。分散処理により、鋳造合金の結晶粒界にRリッチ(例えばNdリッチ)な粒界相が均一的に形成される。これにより、分散処理後の鋳造合金に水素解砕処理を行うと、結晶粒界における破断(分離)が優先的に生じ、粒内クラックの発生が抑制される。
【0028】
分散処理は、水素解砕温度より高温または均質化処理温度より低温に加熱してなされる。その温度は、例えば、650~1000℃、650~900℃さらには680~750℃である。その処理時間は、例えば、10分~5時間さらには0.5~3時間である。加熱雰囲気は、例えば、不活性雰囲気である。
【0029】
(4)水素解砕
水素解砕は、例えば、350~585℃、400~575℃さらには425~550℃の水素雰囲気に鋳造合金を曝してなされる。水素分圧は、例えば、1kPa~250kPaさらには5kPa~150kPaである。処理時間(雰囲気温度が目標温度に到達してからの経過時間)は、例えば、0.1~10時間さらには0.5~5時間である。処理炉への水素導入は、雰囲気温度(または鋳造合金の温度)の設定温度への到達後に行うとよい。
【0030】
水素雰囲気に曝された鋳造合金は、水素吸収により、自ら崩壊するか軽く解砕する程度で最大長が数cmから数mm程度の粒や塊となる。このような粒や塊をそのまま磁石原料としてもよいし、さらに解砕や粉砕を加えて粒度調整(例えば粒サイズの最大長が100μm~1mm程度)したものを磁石原料としてもよい。水素解砕された磁石原料は、水素を吸収したままでもよいし、脱水素されたものでもよい。
【0031】
本明細書でいう「水素解砕(工程/処理)」は、鋳造合金のマクロ的な解砕や粉砕が目的ではなく、鋳造合金を構成する結晶粒(単結晶粒)へクラックをできるだけ生じさせないためになされる。水素解砕中、水素は結晶粒内へほとんど侵入せず、粒界相(Rリッチ相/Ndリッチ相)へ主に侵入し、粒界相の体積膨張により結晶粒間でクラックが優先的に生じる。その結果、鋳造合金は結晶粒間で分離され、割れやクラックが少ない結晶粒からなる解砕原料(磁石原料)が得られる。このような水素解砕の作用効果や機序等については、WO2020/017529で詳述されており、その記載内容(全文)が本願に適宜組み込まれるものとする。
【0032】
(5)粒度調整(分級)
磁石原料は、粒度調整がされたものでもよい。例えば、解砕原料に含まれる微細粒子(粒サイズが小さい側に属する粒子)を部分的に除去したものを磁石原料としてもよい。このような粒度調整(分級)は、例えば、篩い分けにより行なわれる。
【0033】
粒サイズは、例えば、粒度(d)で指標される。例えば、粒度がα(μm)未満(d<α)の粒子は、公称目開き(メッシュサイズ)がαである篩いを通過する粒子である。また、粒度がβ(μm)超(β<d)の粒子は、メッシュサイズがβである篩いを通過しない粒子である。磁石原料の粒度は問わないが、例えば、d<500μm、d<250μmまたはd<212μm、または53μμm<d、106μm<dまたは150μm<dとしてもよい。
【0034】
《HDDR》
HDDR(水素処理)により、微細なR2TM14B1型結晶(平均結晶粒径:0.05~2μm)が集合した多結晶体(磁石粒子)からなる磁石粉末が得られる。HDDR(d-HDDRを含む。)は、大別すると、不均化工程(HD)と再結合工程(DR)からなる。これらの詳細は次の通りである。
【0035】
(1)不均化工程(HD)
不均化工程は、処理炉に入れた磁石原料を所定の水素雰囲気に曝して保持し、吸水素した磁石原料に不均化反応を生じさせる。本工程により、磁石原料は、不均化反応(順変態反応)を生じて、三相分解組織(αFe相、RH2相、Fe2B相)となる。
【0036】
不均化工程は、例えば、水素分圧:10~300kPaまたは15~60kPa、処理温度:600℃以上~850℃未満または750~845℃、処理時間:1~6時間または2~5時間でなされる(高温水素化工程)。
【0037】
本工程前に、不均化反応を生じる温度以下(例えば、室温~300℃または室温~100℃)の水素雰囲気(水素分圧は、例えば、20~100kPa)に磁石原料を保持しておいてもよい(低温水素化工程)。なお、本明細書でいう水素雰囲気は、水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気でもよい。
【0038】
不均化工程中、水素分圧または処理温度(雰囲気温度)は終始一定でなくてもよい。例えば、反応速度が低下する工程末期に、水素分圧または温度の少なくとも一方を上昇させて反応速度を調整し、三相分解を促進させてもよい(組織安定化工程)。例えば、不均化工程の途中または後期に、処理温度を10~60℃または、30~50℃の上昇させてもよい。
【0039】
(2)再結合工程(DR)
再結合工程は、不均化工程後の磁石原料から脱水素して、その磁石原料に再結合反応を生じさせる。本工程により、高温水素化工程後の磁石原料は、脱水素に伴う再結合反応(逆変態反応)を生じる。つまり、三相分解組織は、RH2相から水素が除去されると共にFe2B相の結晶方位が転写された微細なR2TM14B1型結晶の水素化物(RFeBHX)となる。
【0040】
再結合工程は、例えば、水素分圧:0.5~10kPa、1~6kPaまたは1.5~4kPa、処理温度:600~900℃または750~890℃、処理時間:1~12時間または3~10時間でなされる。
【0041】
所定の水素分圧の水素雰囲気に不均化工程後の磁石原料を曝すことにより、再結合反応を緩やかに進行させることができる(制御排気工程)。不均化工程(組織安定化工程)と再結合反応(制御排気工程)を略同温度で行えば、水素分圧の変更のみで工程間の移行が可能となる。
【0042】
再結合工程の後期(制御排気工程後)に、真空雰囲気(例えば1Pa以下)に曝した磁石原料中から残留水素が除去され、脱水素が完了する(強制排気工程)。その処理気温度は、例えば、600~900℃または750~890℃である。
【0043】
制御排気工程と強制排気工程は、処理温度が同じでもよいが、異なってもよい。各工程の途中で処理温度が変化してもよい。例えば、再結合工程で、磁石原料の処理雰囲気が低温域から高温域へ少なくとも二段階で移行してもよい。その移行時機(時期)、高温域の温度範囲等は、後述の組織制御工程を考慮して設定されるとよい。
【0044】
制御排気工程と強制排気工程は連続的になされる必要はない。制御排気工程後に磁石原料を冷却した後、強制排気工程をバッチ処理で行なってもよい。このような強制排気工程で組織制御工程が兼用されてもよい。なお、各工程の冷却過程は、結晶粒の成長を抑止するため、不活性ガス等で急冷されてもよい。
【0045】
《組織制御工程》
組織制御工程は、少なくとも再結合工程以降において、磁石原料を特定温度(850~900℃、855~890℃または860~880℃)で加熱する。組織制御工程により、磁石粒子を構成する金属組織(磁石組織)に生じる不均一性(組織ムラ)が減少または解消され、希土類磁石粉末の磁気特性の向上が図られ得る。
【0046】
加熱温度が過小では、組織ムラが十分に解消されない。加熱温度が過大では、磁石組織を構成する結晶粒の粗大化や異常粒成長を招き、磁気特性が低下し得る。
【0047】
組織制御工程は、開始時機、期間または温度域が適切であれば、水素雰囲気でなされても、不活性雰囲気(真空雰囲気、不活性ガス雰囲気等)でなされてもよい。このため組織制御工程は、再結合工程の開始以降であれば、再結合工程(制御排気工程、強制排気工程)に従属(兼用、組込、複合化)してなされても、再結合工程後に独立してなされてもよい。再結合工程に従属して組織制御工程を行なえば、希土類磁石粉末をより効率的に生産できる。
【0048】
例えば、再結合工程の少なくとも一部で組織制御工程を兼ねる場合、再結合工程全体の処理温度を上述した特定温度域としてもよいし、再結合工程の途中からその処理温度をその特定温度域としてもよい。例えば、再結合工程が、磁石原料の処理雰囲気を所定の水素圧力に制御する制御排気工程と、制御排気工程後に処理雰囲気を真空雰囲気にする強制排気工程とを備える場合なら、組織制御工程の開始時期は、制御排気工程の途中以降に設定されるとよい。その開始時期は、例えば、制御排気工程の途中でも、強制排気工程の初期または途中でもよい。
【0049】
再結合工程の処理温度が低温域から高温域へ移行(変化)する場合なら、その高温域を組織制御工程の特定温度域に整合させてもよい。高温域への移行時機(時期)は、制御排気工程の途中でも、強制排気工程の初期または途中でもよい。
【0050】
組織制御工程は、R2TM14B(水素化物を含む。)の生成が略完了した後になされると効率的である。そこで組織制御工程は、例えば、磁石原料の処理雰囲気を所定の水素圧力に制御する制御排気工程後になされてもよい。例えば、その処理雰囲気を真空雰囲気にする強制排気工程の少なくとも一部で組織制御工程を兼ねるとよい。
【0051】
組織制御工程の処理時間は、長くてもよい、例えば0.25~8時間、0.4~6時間または1.5~4時間でもよい。なお、組織制御工程は再結合工程以降で有意義であるが、再結合工程前(例えば不均化工程の途中)から処理温度が上述した特定温度域に設定されてもよい。
【0052】
《拡散処理工程》
組織制御工程後の磁石原料に拡散処理工程がなされてもよい。拡散処理工程は、例えば、HDDR後および組織制御工程後の磁石原料に拡散原料を加えた混合原料を加熱してなされる。拡散処理工程は、例えば、不活性雰囲気中でなされる。拡散処理工程により、R2TM14B1型結晶の表面または結晶粒界に拡散原料が浸透して非磁性相が形成され、磁石粒子(希土類磁石粉末)の保磁力が向上し得る。
【0053】
拡散原料として、例えば、軽希土類元素の合金や化合物、重希土類元素(Dy、Tb等)またはその合金や化合物(例えばフッ化物)などがある。軽希土類元素(Nd等)-Cu-(Al)系の合金や化合物を用いれば、稀少な重希土類元素の使用を回避できる。
【0054】
《希土類磁石粉末》
(1)希土類磁石粉末(単に「磁石粉末」という。)は磁石粒子からなり、磁石粒子は正方晶化合物である微細なR2TM14B1型結晶(主相)と、その結晶粒の周囲を包囲する粒界相とからなる。主相を構成する正方晶化合物の化学量論組成は、R:11.8at%、B:5.9at%、残部がTMである。粒界相を含めて考えると、磁石粒子は、全体(100at%)に対して希土類元素の全量(Rt)が、例えば、12~18at%、12.5~16.5at%さらには13~15at%含まれる。磁石粒子全体に対してBは、例えば、5.5~8at%さらには6~7at%含まれる。RおよびB以外の残部は、遷移金属元素(Fe、Cu等)の他、典型金属元素(Al等)、典型非金属元素(C、O等)、不純物等である。
【0055】
(2)磁石粒子は、少なくともNdとCeを含む。磁石粒子はLaを含んでもよい。希土類元素の全量(Rt)に対する原子比で、Ce/RtまたはR1/Rt(R1=Ce+La)は、例えば、0.2~0.6、0.25~0.55または0.3~0.5である。磁石粒子全体(100at%)に対して、例えば、Ceは1~8at%、2~7at%さらには3~6at%、Laを0.05~2at%、0.1~1.5at%さらには0.15~1at%含まれてもよい。CeやLaが過少でも高磁気特性な磁石粉末が得られるが、Nd等の削減量が低下する。CeやLaが過多になると、磁石粉末の磁気特性が低下し得る。
【0056】
CeとLaの両方が含まれるとき、R1(=Ce+La)に対するLaの原子比(La/R1)は、例えば、0.01~0.35、0.02~0.2または0.03~0.1である。Laは必須元素ではないが、0<La/R1であると、希土類鉱物中にCeと共に含まれるLaを有効活用できる。La/R1が過大になると、磁石粉末の磁気特性が低下し得る。
【0057】
(3)Nd、CeおよびLa以外のRとして、例えば、Pr、Dy、Tb等がある。磁石粒子は、Cu、Al、Si、Ti、V、Cr、Ni、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Mn、Sn、Hf、Ta、W、Dy、Tb、Co等の改質元素を少なくとも一種含んでもよい。磁石粒子全体に対して、例えば、Cuなら0.1~3at%、0.3~2.5at%さらには0.5~2.0at%、Alなら0.2~3at%、0.5~2.5at%さらには0.8~2at%、Nbなら0.05~0.7at%、0.07~0.5at%さらには0.1~0.3at%、Gaなら0.35at%以下(0~0.35at%)、0.3at%以下、0.2at%以下さらには0.15at%以下含まれてもよい。
【0058】
《用途》
希土類磁石粉末は、種々の用途に利用され得る。その代表例はボンド磁石である。ボンド磁石は、主に希土類磁石粉末とバインダ樹脂からなる。バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもよい。またボンド磁石は、圧縮成形されたものでも、射出成形されたものでもよい。希土類異方性磁石粉末を用いたボンド磁石は、配向磁場中で成形されるとよい。
【実施例0059】
NdおよびCeを含む希土類磁石粉末を製造し、その磁気特性を評価した。このような実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0060】
[第1実施例]
組織制御工程自体による磁石粉末の磁気特性への直接的な影響を明確にするため、
図1A~
図1Cに示す工程により、
図1Dに示す試料10~13の製作と評価を行なった。具体的には次の通りである。
【0061】
《試料の製造》
(1)鋳造
図1Aに示す合金組成(R:12.5at%、B:6.5at%、Nb:0.2at%、Fe:残部)からなる鋳塊(原料/母材)を、ストリップキャスト(SC)法により得た。
【0062】
希土類元素(R)の原子組成は、Nd0.6(La0.05Ce0.95)0.4 、つまりNd0.6La0.02Ce0.38とした。鋳造合金全体に対していえば、Nd:7.5at%、Ce:4.75at%、La:0.25at%となる。その全量(Rt)に対するCeとLaの合計量(R1)の原子比(R1/Rt)は0.4となる。
【0063】
(2)均質化処理
その鋳塊をArガスフロー中で1100℃×40時間加熱した。
【0064】
(3)分散処理
均質化処理後の鋳塊(以下「鋳造合金」という。)を、真空雰囲気(Vac:10-2Pa以下)の処理炉内で700℃×1時間保持した。
【0065】
(4)水素解砕
分散処理に続けて、真空状態のまま処理炉内にある鋳造合金を500℃に加熱した後、その処理炉内へ水素を導入した。水素分圧:100kPaにした処理炉内で、鋳造合金を500℃×1時間保持した。処理温度(処理炉内の雰囲気温度)は、鋳造合金に接触させた熱電対により測定した(他工程の処理温度も同様)。水素分圧は処理炉内に設置した圧力計により測定した。水素解砕は、適宜、WO2020/017529(特許文献1)の記載内容を参考にした。
【0066】
(5)粉砕・分級
処理炉内への水素導入を止めて、鋳造合金を室温まで炉冷した。処理炉内の水素を不活性ガス(大気圧のAr)で置換した後、鋳造合金を処理炉内から取り出し、軽く解砕して粉末状の解砕原料を得た。
【0067】
解砕原料を篩い分けにより分級した粉末(d<212μm)を、d-HDDRに供する磁石原料とした。分級は、JIS Z 8801に規定されている試験用篩いを用いて行った。解砕(粉砕)や分級は、不活性ガス雰囲気中で行った。
【0068】
(6)d-HDDR
分級された各試料の磁石原料(12.5g)を入れた処理炉内を真空排気した後、
図1Bに示すチャートに沿って、処理炉内の水素分圧と温度を制御した。具体的には次の通りである。
【0069】
先ず、(高温)水素化工程(20kPa×800℃×2時間)と、これに続く組織安定化工程(20kPa×840℃×2時間)を行なった。これらにより、磁石原料に不均化反応(順変態反応)を生じさせた(HD:不均化工程)。
【0070】
次に、処理炉内から水素を連続的に排気する制御排気工程(2.5kPa×840℃×6時間)と、これに続く強制排気工程(10-2Pa×840℃×0.5時間)とを行った。こうして磁石原料へ再結合反応(逆変態反応)を生じさせた(DR:再結合工程)。この真空状態のまま炉冷して、処理炉内の水素処理物をArガス中で軽く解砕した。
【0071】
(7)組織制御
解砕した水素処理物を入れた処理炉内を再び真空排気し、
図1Cに示すチャートに沿って、その水素処理物を熱処理(10
-2Pa×875℃)した。処理時間は試料毎に変更した(試料11:1時間、試料12:2時間、試料13:3時間)。試料10は組織制御工程を施さなかった。
【0072】
(8)拡散処理
各試料の水素処理物へ拡散原料を加えた混合原料を、真空雰囲気(10-1Pa)中で875℃×3時間加熱した。拡散原料には、原子組成がNd51Cu15Al34である合金粉末(平均粒経:約6μm(D50))を用いた。混合原料全体に対する拡散原料の割合は3.5質量%(wt%)とした。
【0073】
得られた拡散処理物を真空状態を保持した炉内で室温付近まで冷却してから取り出した。こうして各試料の磁石粉末を得た。
【0074】
《成分組成》
試料10の磁石粉末の成分組成をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置により分析した。その磁石粉末全体(100at%)に対して、Nd:8.5at%、Ce:4.6at%、La:0.3at%、B:6.3at%、Nb:0.2at%、Cu:0.4at%、Al:0.8at%、Fe:残部であった。希土類元素の合計量Rt(Nd+Ce+La):13.4at%に対するCeとLaの合計量(R1)の原子比(R1/Rt)は0.37となった。
【0075】
《磁気特性》
各磁石粉末の磁気特性をパルスBHトレーサー(OP電子工業株式会社製)を用いて常温で測定した。その結果を
図1Dにまとめて示した。
図1D中に示した角形性(Hk)は、磁石粒子の耐逆磁界性の指標であり、磁化ポテンシャルの指標である残留磁束密度(Br)を10%低下させる逆磁界の大きさである。
【0076】
《評価》
図1Dから明らかなように、組織制御工程を行なうと、その処理時間に応じて、磁石粉末の磁気特性(特にHk)が大幅に向上した。本実施例の結果から、組織制御工程が磁気特性の向上に寄与することが明らかとなった。
【0077】
[第2実施例]
(1)第1実施例の結果を踏まえて、組織制御工程を再結合工程の一部(強制排気工程)として行なって製作した試料21と試料22も用意した。各工程とd-HDDRのチャートを
図2Aに、各試料の磁気特性を
図2Bにそれぞれまとめて示した。なお、比較のため、既述した試料10の磁気特性も
図2Bに併せて示した。
【0078】
(2)
図2Bから明らかなように、組織制御工程を強制排気工程(875℃×3時間)に重畳させた試料22は、その強制排気工程後に独立して組織制御工程(875℃×3時間)を行なった試料13よりも、さらに高い磁気特性を示した。
【0079】
本実施例の結果から、再結合工程の一部(強制排気工程)を組織制御工程としても兼用することにより、高磁気特性な磁石粉末がより効率的に得られることが明らかとなった。
【0080】
[第3実施例]
(1)第2実施例の結果を踏まえてさらに、再結合工程の全部と、制御排気工程の一部(後半3時間分)および強制排気工程とにそれぞれ、組織制御工程を重畳させた試料31と試料32も製作した。d-HDDRを除いて、各工程は第2実施例の場合と同様である(
図2A参照)。本実施例に係るd-HDDRのチャートを
図3Aに、各試料の磁気特性を
図3Bにそれぞれまとめて示した。比較のため、既述した試料10の磁気特性も併せて
図3Bに示した。
【0081】
(2)
図3Bから明らかなように、いずれの試料でも、組織制御工程を行なわない試料13よりも高い磁気特性を発揮した。試料31、試料32および既述した試料22の比較から、制御排気工程の途中以降さらには制御排気工程の完了後に、組織制御工程を併合する方が、より高い磁気特性の磁石粉末が得られることもわかった。
【0082】
[補足]
(1)組織制御工程
試料13に対して、組織制御工程の処理雰囲気を真空雰囲気から水素雰囲気(2.5kPa×875℃×2.5時間)へ変更した試料41も製作した。なお、その処理後は、処理炉内を真空排気(10-2Pa×875℃×0.5時間)した。
【0083】
試料41の磁気特性は、(BH)max:33.0MGOe、Br:12.2kG、iHc:14.7kOe、Hk:7.3kOeであった。組織制御工程を施さなかった試料10と比較すると、水素雰囲気で組織制御工程を行なった試料41でも、磁気特性が十分に向上することが確認された。
【0084】
(2)拡散処理工程
試料31に対して、拡散処理工程を同じ真空雰囲気中で、低温・短時間(800℃×1時間)で行なった試料42も製作した。試料42の磁気特性は、(BH)max:34.0MGOe、Br:12.4kG、iHc:13.6kOe、Hk:6.7kOeであった。
【0085】
試料10と比較すると、拡散処理工程を低温・短時間にしても、組織制御工程を行なうことで、磁気特性が向上した。また、試料31と試料42の比較から、拡散処理工程は、例えば、840~900℃または850~890℃で、1~5時間または2~4時間行なう方が、磁気特性がより向上することもわかった。
【0086】
以上から、本発明によれば、Ndの他にCeを含む希土類磁石粉末でも、磁気特性をさらに向上させられることが確認された。